(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
G01W1/10 R
(21)【出願番号】P 2023206403
(22)【出願日】2023-12-06
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397039919
【氏名又は名称】一般財団法人日本気象協会
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小越 久美
(72)【発明者】
【氏名】植田 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 はるか
(72)【発明者】
【氏名】須長 智洋
(72)【発明者】
【氏名】小池 崇子
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-076416(JP,A)
【文献】特開2023-085902(JP,A)
【文献】特開2020-134300(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112580899(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115113303(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0091714(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0348448(US,A1)
【文献】Yuhei Takaya et al.,Skilful predictions of the Asian summer monsoon one year ahead,nature communications,2021年,Vol.12,aticle id 2094,pp.1-8,https://doi.org/10.1038/s41467-021-22299-6
【文献】小坂 優,テレコネクションが形作る大規模な気候の共変動,日本地球惑星科学連合ニュースレータ誌(JGL),2022年11月01日,Vol.18,No.4,pp.1-3
【文献】研究会「長期予報と大気大循環」の報告 熱帯海洋変動と大気循環~新たな展開~,天気,Vol.56,No.2,pp.35-38
【文献】生駒 栄司 他,大規模地球環境データアーカイブシステムにおけるデータマイニングツールの構築,第15回データ工学ワークショップ(DEWS2004)論文集,日本,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会,2004年,6-A-05
【文献】NATHAN J.L. LENSSEN et al.,Seasonal Forecast Skill of ENSO Teleconnection Maps,Weather and Forecasting,2020年,Vol.35,pp.2387-2406,https://doi.org/10.1175/WAF-D-19-0235.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する計算手段から、当該遠隔領域の当該指標を取得する指標取得手段と、
前記遠隔領域の前記指標に基づいて、前記予測領域における長期気象予測を行う気象予測手段と、
過去の数値予報モデルによる所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標のシミュレーションデータと、前記予測領域の実際の気象観測データとの関係を所定の機械学習により分析することで、前記遠隔領域の前記指標によって前記予測領域の前記長期気象観測の結果を説明するモデルを生成する学習手段と、
を備え、
前記指標取得手段は、新しい数値予報モデルによる前記所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標の予想を取得し、
前記気象予測手段は、取得された前記遠隔領域の前記指標の予想を前記モデルに入力し、前記予測領域の前記長期気象予測として当該モデルの出力を用いる、
情報処理装置。
【請求項2】
前記遠隔領域の前記指標は、前記遠隔領域の海における対流活動と海面水温のうち少なくとも一方である、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
情報処理装置が実行する情報処理方法において、
予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する計算手段から、当該遠隔領域の当該指標を取得する指標取得ステップと、
前記遠隔領域の前記指標に基づいて、前記予測領域における長期気象予測を行う気象予測ステップと、
過去の数値予報モデルによる所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標のシミュレーションデータと、前記予測領域の実際の気象観測データとの関係を所定の機械学習により分析することで、前記遠隔領域の前記指標によって前記予測領域の前記長期気象観測の結果を説明するモデルを生成する学習ステップと、
を含み、
前記指標取得ステップは、新しい数値予報モデルによる前記所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標の予想を取得するステップを含み、
前記気象予測ステップは、取得された前記遠隔領域の前記指標の予想を前記モデルに入力し、前記予測領域の前記長期気象予測として当該モデルの出力を用いるステップを含む、
情報処理方法。
【請求項4】
コンピュータに、
予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する計算手段から、当該遠隔領域の当該指標を取得する指標取得ステップと、
前記遠隔領域の前記指標に基づいて、前記予測領域における長期気象予測を行う気象予測ステップと、
過去の数値予報モデルによる所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標のシミュレーションデータと、前記予測領域の実際の気象観測データとの関係を所定の機械学習により分析することで、前記遠隔領域の前記指標によって前記予測領域の前記長期気象観測の結果を説明するモデルを生成する学習ステップと、
を含む制御処理を実行させ、
前記指標取得ステップとして、新しい数値予報モデルによる前記所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標の予想を取得するステップを含む制御処理を実行させ、
前記気象予測ステップとして、取得された前記遠隔領域の前記指標の予想を前記モデルに入力し、前記予測領域の前記長期気象予測として当該モデルの出力を用いるステップを含む制御処理を実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
1ケ月以上先の長期気象予報(例えば特許文献1参照)は、様々な分野からニーズが高く、例えば特許文献1にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長期気象予測には物理的限界があり、数値予報モデルによる中高緯度の気象予測は精度が低く、1か月以上先の極端な高温や低温、大雨、及び渇水は予測することができない状況である。よって、日本国の気象庁でも使われているような、数値予報モデルにおける予測対象エリアの直上格子点値を補正することで予報作業を支援するガイダンスは、1か月以上先の精度が低い状況である。また、このような数値予報モデルの直上格子点値のみを用いたガイダンスでは、経済に影響の大きい梅雨明け時期や台風の接近数などを表現することができない状況である。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、1か月以上先の極端な高温や低温、大雨、及び渇水並びに梅雨明け時期や台風の接近数等も含め長期気象予測を精度良く行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の情報処理装置は、
予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する計算手段から、当該遠隔領域の当該指標を取得する指標取得手段と、
前記遠隔領域の前記指標に基づいて、前記予測領域における長期気象予測を行う気象予測手段と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1か月以上先の極端な高温や低温、大雨、及び渇水並びに梅雨明け時期や台風の接近数等も含め長期気象予測を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の情報処理装置の一実施形態としての気象予測装置を含む情報処理システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1の情報処理システムのうち気象予測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図2の気象予測装置の機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体的な第1事例を示す図である。
【
図5】
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体的な第2事例を示す図である。
【
図6】
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体的な第3事例を示す図である。
【
図7】
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体的な第4事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の情報処理装置の一実施形態としての気象予測装置を含む情報処理システムの構成例を示す図である。
【0010】
図1に示す情報処理システムは、気象予測装置1と、数値予報モデルによる指数演算装置2と、予測対象の気象観測データ提供装置3とが、インターネット等の所定のネットワークを介して相互に接続されることで構成される。
【0011】
数値予報モデルによる指数演算装置2は、予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する情報処理装置である。
気象予測装置1は、本発明が適用される情報処理装置の一実施形態であって、数値予報モデルによる指数演算装置2により演算された遠隔領域の指標に基づいて、予測領域における長期気象予測を行う情報処理装置である。
【0012】
ここで、長期気象予測とは、1ケ月以上先の所定期間における気象予測を意味し、一態様としては2ケ月以上先であってもよく、また一態様としては3ケ月以上先であってもよい。
予測領域とは、長期気象予測を行う領域であって、例えば、日本国の他、アメリカやヨーロッパ等が想定される。
遠隔領域とは、予測領域に対して、同一時間帯の気象自体は関連性を有しない程度に距離が離間した領域である。例えば、予測領域が日本国であれば、亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近が遠隔領域となる。また例えば、予測領域がアメリカであれば、エルニーニョ監視海域が遠隔領域である。
【0013】
具体的には例えば、数値予報モデルによる指数演算装置2は、インド洋やフィリピン付近の対流活動の強さを指標として演算する。気象予測装置1は、当該指標に基づいて、所定時点よりも1ケ月以上先の所定月(例えば3月時点に対する7月)の日本国の日照時間を予想する。
また例えば、数値予報モデルによる指数演算装置2は、エルニーニョ監視海域の海面水温の変化を指標として演算する。気象予測装置1は、当該指標に基づいて、所定時点よりも1ケ月以上先の所定月(例えば3月時点に対する7月)のアメリカの降水量を予想する。
なお、このような遠隔領域の指標を用いた予測領域の長期気象予測の具体例については、
図4乃至
図7を参照して後述する。
【0014】
ここで、本実施形態の気象予測装置1は、所定の機械学習の結果得られるモデル(例えば後述の
図3の予測式の回帰係数61)を用いて、予測領域の長期気象予測を行うことができる。
予測対象の気象観測データ提供装置3は、このような所定の機械学習によりモデルが生成又は更新される際に、学習用データの一部として予測領域の実際の気象観測データを提供する。
なお、所定の機械学習の詳細については、
図3の予測式の回帰係数61の説明として後述する。
なお、ここでいう予測式の回帰係数は算出する手法を問わない。
【0015】
図2は、
図1に示す情報処理システムのうち気象予測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部18からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0017】
CPU11、ROM12及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。このバス14にはまた、入出力インターフェース15も接続されている。入出力インターフェース15には、入力部16、出力部17、記憶部18、通信部19及びドライブ20が接続されている。
【0018】
入力部16は、例えばキーボード等により構成され、各種情報を入力する。
出力部17は、液晶等のディスプレイやスピーカ等により構成され、各種情報を画像や音声として出力する。
記憶部18は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各種データを記憶する。
通信部19は、インターネットを含むネットワークNを介して他の装置(例えば
図1の数値予報モデルによる指数演算装置2及び予測対象の気象観測データ提供装置3)との間で通信を行う。
【0019】
ドライブ20には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア30が適宜装着される。ドライブ20によってリムーバブルメディア30から読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部18にインストールされる。
また、リムーバブルメディア30は、記憶部18に記憶されている各種データも、記憶部18と同様に記憶することができる。
【0020】
なお、図示はしないが、
図1の数値予報モデルによる指数演算装置2及び予測対象の気象観測データ提供装置3も、
図2に示すハードウェア構成と基本的に同様の構成を有することができる。したがって、数値予報モデルによる指数演算装置2及び予測対象の気象観測データ提供装置3のハードウェア構成についての説明は省略する。
【0021】
このような
図2の気象予測装置1を含む
図1の情報処理システムを構成する各種ハードウェアと各種ソフトウェアとの協働により、予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標に基づいて当該予測領域における長期気象予測を実行することができる。
【0022】
図3は、
図1の情報処理システムにおける
図2の気象予測装置1の機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0023】
図3に示すように、気象予測装置1のCPU11においては、指標取得部51と、気象予測部52と、気象観測データ取得部53と、学習部54とが機能する。
記憶部18の一領域には、予測式の回帰係数61が配置されている。
【0024】
指標取得部51は、予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を演算する数値予報モデルによる指数演算装置2から、当該遠隔領域の当該指標を予測用データ(指標)として取得して、気象予測部52に提供する。
気象予測部52は、遠隔領域の指標(予測用データ)に基づいて、予測領域における長期気象予測を行う。
【0025】
本実施形態の気象予測部52は、所定の機械学習の結果得られる予測式の回帰係数61を用いて、予測領域の長期気象予測を行う。予測式は、Y=F(X,a)、Y:予測対象とする気象観測データ、X:数値予報モデルの指数、a:回帰係数によって表される。
この予測式の回帰係数61は、学習部54により生成又は更新される。
そこで、以下、学習フェーズにおける機能的構成について説明する。
【0026】
指標取得部51は、過去の数値予報モデルによる所定期間後までの遠隔領域の指標のシミュレーションデータを、学習用データ(指標)として、数値予報モデルによる指数演算装置2から取得して学習部54に提供する。
具体的には例えば、指標取得部51は、過去の数値予報モデルによる7ヶ月先までの遠隔領域の海面水温や対流活動のシミュレーションデータを、学習用データ(指標)として、数値予報モデルによる指数演算装置2から取得して学習部54に提供する。
【0027】
気象観測データ取得部53は、予測領域の実際の気象観測データを、学習用データとして、予測対象の気象観測データ提供装置3から取得して学習部54に提供する。
【0028】
学習部54は、指標取得部51により取得された学習用データ(指標)と、気象観測データ取得部53により取得された学習用データ(実際の気象観測データ)との関係を所定の機械学習により分析することで、遠隔領域の指標によって予測領域の長期気象観測の結果を説明する関係式としての予測式の回帰係数61を生成又は更新する。
【0029】
これにより、予測・運用フェーズでは、上述したように指標取得部51及び気象予測部52が機能することになる。
具体的には例えば、指標取得部51は、新しい数値予報モデルによる7ヶ月先までの遠隔領域の海面水温や対流活動の予想を、予測用データ(指標)として取得した場合、それを気象予測部52に提供する。
気象予測部52は、遠隔領域の指標(予測用データ)を予測式の回帰係数61(関係式)に取り込み、予測領域における長期気象予測を行う。
【0030】
次に、
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体例として幾つかの事例について説明する。
図4乃至
図7は、
図3の機能的構成を有する気象予測装置により行われた長期気象予測の具体的な第1事例乃至第4事例の夫々を示す図である。
【0031】
図4において、本実施形態が適用された第1事例の長期気象予測の結果101(以下、「本実施形態第1事例結果101」と呼ぶ)は、日本国のうち西日本太平洋側を予測領域として、各年(1993年乃至2016年)の1月時点で予測した7月の降水量(平年比%)を示している。
本実施形態第1事例結果101において、遠隔地の指標としては、数値予報モデルによる亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動の予測が採用されている。
本実施形態第1事例結果101において、濃い実線は、観測(実際の気象観測データの値)を示している。薄い実線は、予測(長期気象予測の結果)を示している。破線は、70%予測区間を示している。
【0032】
図4には、本実施形態第1事例結果101と比較するために、従来手法(数値予測モデルの直上の格子点値の降水量を指標とした予測)の長期気象予測の結果102(以下、「従来手法結果102」と呼ぶ)が示されている。
【0033】
従来手法結果102では、半年前時点で極端な多雨や少雨を予測することができなかったところ、本実施形態第1事例結果101では、極端な多雨や少雨を予測できるケースが増えたことがわかる。また、本実施形態第1事例結果101では、予測区間により、想定される誤差の範囲も把握できるようなったこともわかる。
【0034】
図5において、本実施形態が適用された第2事例の長期気象予測の結果103(以下、「本実施形態第2事例結果103」と呼ぶ)は、日本国のうち関東甲信越を予測領域として、各年(1993年乃至2022年)の1月時点で予測した梅雨明け日(平年差)を示している。
本実施形態第2事例結果103において、遠隔地の指標としては、数値予報モデルによる亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動の予測が採用されている。
本実施形態第3事例結果103において、濃い実線は、観測(実際の気象観測データの値)を示している。薄い実線は、予測(長期気象予測の結果)を示している。破線は、70%予測区間を示している。
【0035】
図5には図示はしないが、従来手法(数値予測モデルの直上の格子点値指標とした手法)のガイダンスでは、梅雨明け日という「時期」は表現できなかったのに対して、本実施形態第2事例結果103に示すように、本実施形態の気象予測装置1を適用することで、梅雨明け日等の時期の予測も可能となったことがわかる。
【0036】
図6において、本実施形態が適用された第3事例の長期気象予測の結果104(以下、「本実施形態第3事例結果104」と呼ぶ)は、日本国を予測領域として、各年(1993年乃至2023年)の6月時点で予測した9月の台風発生数を示している。
本実施形態が適用された第3事例の長期気象予測の結果105(以下、「本実施形態第3事例結果105」と呼ぶ)は、日本国を予測領域として、各年(1993年乃至2023年)の6月時点で予測した9月の本土への台風接近数を示している。ここで、本土とは、北海道、本州、四国、及び九州を意味している。
本実施形態第3事例結果104及び105において、遠隔地の指標としては、数値予報モデルによる亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動の予測が採用されている。
本実施形態第3事例結果104及び105において、濃い実線は、観測(実際の気象観測データの値)を示している。薄い実線は、予測(長期気象予測の結果)を示している。破線は、70%予測区間を示している。
【0037】
本実施形態第3事例結果104及び105に示すように、本実施形態の気象予測装置1を適用することで、台風の発生数や接近数も、多い又は少ないといった傾向が予測できるようになったことがわかる。
【0038】
図7において、第4事例の対比のために示す実績106(以下、「第4事例実績106」と呼ぶ)は、日本国を予測領域として、各年(2019年乃至2022年)の7月の日照時間を示している。
本実施形態が適用された第4事例の長期気象予測の結果107(以下、「本実施形態第4事例結果107」と呼ぶ)は、日本国を予測領域として、各年(2019年乃至2022年)の4月時点で予測した7月の日照時間を示している。
本実施形態第4事例結果107において、遠隔地の指標としては、数値予報モデルによる亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動の予測が採用されている。
【0039】
第4事例実績106と本実施形態第4事例結果107とを比較するに、本実施形態の気象予測装置1を適用することで、多照及び寡照の地域傾向を概ね捉えることができるようになったことがわかる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものとみなす。
【0041】
例えば、
図4乃至
図7に示す事例では、予測領域は日本国が採用され、遠隔領域の指標は亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動が採用されたが、特にこれに限定されない。
具体的には例えば、上述したように、予測領域として米国を採用して、遠隔領域の指標としてエルニーニョ監視海域の海面水温を採用してもよい。
【0042】
例えば、
図2に示す気象予測装置1のハードウェア構成は、本発明の目的を達成するための例示に過ぎず、特に限定されない。
【0043】
また、
図3に示す機能ブロック図は、例示に過ぎず、特に限定されない。即ち、上述した処理を全体として実行できる機能が備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロックを用いるのかは、特に
図3の例に限定されない。
【0044】
また、機能ブロック及びデータベースの存在場所も、
図3に限定されず、任意でよい。
具体的には例えば学習部54並びに学習データ取得用の指標取得部51及び気象観測データ取得部53は、図示せぬ学習専用の情報処理装置に移譲してもよい。
また例えば、数値予報モデルによる指数演算装置2の機能と、気象予測部52との両方を図示せぬ1つの情報処理装置が有するようにしてもよい。
また例えば、予測式の回帰係数61も、図示せぬ他情報処理装置の記憶デバイスに格納されるようにしてもよい。
【0045】
また、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。
また、1つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0046】
一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。
コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。
また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えばサーバの他汎用のスマートホンやパーソナルコンピュータであってもよい。
【0047】
このようなプログラムを含む記録媒体は、ユーザにプログラムを提供するために装置本体とは別に配布される図示せぬリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される記録媒体等で構成される。
【0048】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0049】
以上をまとめると、本発明が適用される情報処理装置は、次のような構成を有していれば足り、各種各様な実施の形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される情報処理装置(例えば
図1の気象予測装置1)は、
予測領域(例えば日本国)と遠隔領域(例えば亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近)とで相関する気象現象に着目した指標(例えば亜熱帯や熱帯のインド洋やフィリピン付近の対流活動)を計算する計算手段(例えば
図1の数値予報モデルによる指数演算装置2)から、当該遠隔領域の当該指標を取得する指標取得手段(例えば
図3の指標取得部51)と、
前記遠隔領域の前記指標に基づいて、前記予測領域における長期気象予測(例えば
図4乃至
図7に示す長期気象予測)を行う気象予測手段(例えば
図3の気象予測部52)と、
を備える情報処理装置であれば足りる。
【0050】
これにより、1か月以上先の極端な高温や低温、大雨、及び渇水並びに梅雨明け時期や台風の接近数等も含め長期気象予測を精度良く行うことが可能になる。
【0051】
ここで、例えば、前記指標は、前記遠隔領域の海における対流活動と海面水温のうち少なくとも一方である、ようにすることができる。
【0052】
また、情報処理装置は、
過去の数値予報モデルによる所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標のシミュレーションデータと、当該予測領域の実際の気象観測データとの関係を所定の機械学習により分析することで、前記遠隔領域の前記指標によって前記予測領域の長期気象観測の結果を説明するモデル(例えば
図3の予測式の回帰係数61)を生成する学習手段(例えば
図3の学習部54)をさらに備え、
前記指標取得手段は、新しい数値予報モデルによる前記所定期間後までの前記遠隔領域の前記指標の予想を取得し、
前記気象予測手段は、取得された前記遠隔領域の前記指標の予想を前記モデルに入力し、前記予測領域における前記長期気象予測として当該モデルの出力を用いる、
ようにすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1・・・気象予測装置、2・・・数値予報モデルによる指数演算装置、3・・・予測対象の気象観測データ提供装置、11・・・CPU、12・・・ROM、13・・・RAM、14・・・バス、15・・・入出力インターフェース、16・・・入力部、17・・・出力部、18・・・記憶部、19・・・通信部、20・・・ドライブ、30・・リムーバブルメディア、51・・・指標取得部、52・・・気象予測部、53・・・気象観測データ取得部、54・・・学習部、61・・・予測式の回帰係数
【要約】
【課題】1か月以上先の極端な高温や低温、大雨、及び渇水並びに梅雨明け時期や台風の接近数等も含め長期気象予測を精度良く行うこと。
【解決手段】指標取得部51は、予測領域と遠隔領域とで相関する気象現象に着目した指標を計算する数値予報モデルによる指数演算装置2から、当該遠隔領域の当該指標を予測用データ(指標)として取得して、気象予測部52に提供する。気象予測部52は、遠隔領域の指標(予測用データ)に基づいて、予測領域における長期気象予測を行う。気象予測部52は、所定の機械学習の結果得られる予測式の回帰係数61を用いて、予測領域の長期気象予測を行う。この予測式の回帰係数61は、学習部54により生成又は更新される。
【選択図】
図3