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特許7569545直流給電システムを構成する電力変換器の制御系の設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】直流給電システムを構成する電力変換器の制御系の設計方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020109481
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022006906
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-06-15
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】502090415
【氏名又は名称】加藤 利次
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利次
(72)【発明者】
【氏名】井上 馨
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-193494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0268917(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109742748(CN,A)
【文献】特開2010-279087(JP,A)
【文献】特開2007-272641(JP,A)
【文献】特開2013-059141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00 - 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタを介して直流電源から供給される直流電力を所定の直流電力に変換して負荷に供給する電力変換器を制御するための、フィードバック制御系およびフィードフォワード制御系を含む制御系を設計する方法であって、
前記フィードバック制御系に含まれる積分補償器の、前記電力変換器が前記負荷に供給する前記所定の直流電力の電圧を目標値に一致させるための伝達関数Gを式“ke/(z-1)”(ただし、keは制御ゲイン、zは遅れ演算子)として、前記制御ゲインkeを決定する第1ステップと、
前記フィードフォワード制御系の伝達関数Hを“1”としたときの、前記フィードフォワード制御系による前記電力変換器の入力アドミタンスYffの周波数特性を求める第2ステップと、
前記第2ステップで求めた前記入力アドミタンスYffに基づいて、前記電力変換器が受動的となるように前記伝達関数Hを決定することにより前記フィードフォワード制御系を構築する第3ステップと、
前記伝達関数Gを式“ke/(z-kc)”(ただし、kcは1未満の定数)に置き換えることにより前記積分補償器による積分補償を緩和するとともに、当該緩和により生じる、記電と前記目標値との間のずれを修正するための補正項を追加することにより前記フィードバック制御系を再構築する第4ステップと、
前記第3ステップで構築した前記フィードフォワード制御系と前記第4ステップで再構築した前記フィードバック制御系とにより、前記電力変換器が受動的となっているか否かを評価する第5ステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいて、前記制御ゲインkeを最適制御法により決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3ステップにおいて、前記伝達関数Hをあてはめにより決定する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記定数kが、0.9以上0.99以下である
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記伝達関数Hが、式“H^・F”(ただし、H^は二次以下の主特性部、Fは主特性部により伝達される信号の帯域を制限するフィルタ特性部)で表される
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流給電システムを構成する電力変換器であって、特に、フィルタを介して直流電源から供給される直流電力を所定の直流電力に変換して負荷に供給する電力変換器の制御系の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器、電気自動車、家電、産業用ロボット等の様々な分野において、直流バスを通じて負荷に直流電力を供給する直流給電システムが用いられている。直流給電システムは、通常、負荷に応じた直流電力を供給するために、負荷の直近に配置された電力変換器(例えば、コンバータまたはインバータ)を備えている。
【0003】
直流給電システムの電力変換器は、一定の直流電力を供給するように制御されているときに、直流バス側からは定電力負荷のように見え、その動作点近傍において負性の入力インピーダンスを持つ。このことは、直流給電システムを不安定化させるおそれがある。特に、EMC対策のためのフィルタを介して電力変換器に直流電力が供給される場合は、電力変換器の入力インピーダンスとフィルタの相互作用により、直流給電システムは不安定化しやすい。
【0004】
ここで、本発明者らは、特許文献1,2において、商用電力系統に対する電力供給源として動作する少なくとも1つのインバータを備えた系統連系インバータシステムの不安定化を防ぐことが可能な、フィードバック制御系およびフィードフォワード制御系を含む制御系の設計方法を提案している。しかしながら、直流給電システムを構成する電力変換器の制御系に関しては、本発明者らの知る限り、十分な効果が得られる提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-131096号公報
【文献】特開2019-193494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、直流給電システムを構成する電力変換器の制御系の設計方法であって、当該直流給電システムの不安定化を防ぐことが可能なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る設計方法は、フィルタを介して直流電源から供給される直流電力を所定の直流電力に変換して負荷に供給する電力変換器を制御するための、フィードバック制御系およびフィードフォワード制御系を含む制御系を設計する方法であって、(1)フィードバック制御系に含まれる積分補償器の伝達関数Gを式“ke/(z-1)”(ただし、keは制御ゲイン、zは遅れ演算子)として、制御ゲインkeを決定する第1ステップと、(2)フィードフォワード制御系の伝達関数Hを“1”としたときの、フィードフォワード制御系による電力変換器の入力アドミタンスYffの周波数特性を求める第2ステップと、(3)第2ステップで求めた入力アドミタンスYffに基づいて、電力変換器が受動的となるように伝達関数Hを決定することによりフィードフォワード制御系を構築する第3ステップと、(4)伝達関数Gを式“ke/(z-kc)”(ただし、kcは1未満の定数)に置き換えるとともに、電力変換器が負荷に供給する直流電力の電圧を目標値に一致させるための補正項を追加することによりフィードバック制御系を再構築する第4ステップと、(5)第3ステップで構築したフィードフォワード制御系と第4ステップで再構築したフィードバック制御系とにより、電力変換器が受動的となっているか否かを評価する第5ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記設計方法は、第1ステップにおいて、制御ゲインkeを最適制御法によって決定してもよい。
【0009】
上記設計方法は、第3ステップにおいて、伝達関数Hをあてはめによって決定してもよい。
【0010】
上記設計方法では、定数kが、0.9以上0.99以下であることが好ましい。
【0011】
上記設計方法では、伝達関数Hが、式“H^・F”(ただし、H^は二次以下の主特性部、Fは主特性部により伝達される信号の帯域を制限するフィルタ特性部)で表されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、直流給電システムを構成する電力変換器の制御系の設計方法であって、当該直流給電システムの不安定化を防ぐことが可能なものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】直流給電システムの概略構成図である。
図2】直流給電システムの一実施形態を示す回路図である。
図3】(A)は、図2に示した直流給電システムの等価回路図であり、(B)は、入力アドミタンスYinの内訳を示す図である。
図4図2に示した電力変換器の平均化原回路図である。
図5図2に示した電力変換器の小信号摂動回路図である。
図6】本発明に係る設計方法によって設計された制御系のブロック図である。
図7】本発明に係る設計方法のフロー図である。
図8】本発明に係る設計方法で設計された制御系による入力アドミタンスのシミュレーション結果(周波数特性)を示すグラフである。
図9】本発明に係る設計方法で設計された制御系による入力アドミタンスの実測結果(周波数特性)を示すグラフである。
図10】本発明に係る設計方法で設計された制御系により制御された電力変換器の出力電圧のシミュレーション結果(過渡応答特性)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、添付図面を参照しながら、本発明に係る電力変換器の制御系の設計方法に取り入れた要素技術について説明する。
【0015】
[直流給電システムの安定性]
図1に、一般的な直流給電システム1を示す。同図に示すように、直流給電システム1は、直流電圧Eを出力する直流電源10と、EMC対策のためのフィルタ20と、入力端子30,30においてフィルタ20に接続された電力変換器40とを備えている。電力変換器40は、フィルタ20を介して供給された直流電力を所定の直流電力に変換して負荷2(例えば、抵抗Rを有する抵抗負荷)に供給する。
【0016】
sは、入力端子30,30から見たフィルタ20のインピーダンス(以下、「フィルタインピーダンス」という)である。また、Zinは、入力端子30,30から見た電力変換器40の入力インピーダンスである。
【0017】
図2に示すように、フィルタ20の一実施形態は、インダクタ21およびキャパシタ22で構成されたLCフィルタである。インダクタ21のインダクタンスはLfであり、キャパシタ22のキャパシタンスはCfである。また、電力変換器40の一実施形態は、スイッチ41、ダイオード42、インダクタ43およびキャパシタ44で構成されたチョッパ型のDC-DCコンバータである。インダクタ43のインダクタンスはLであり、キャパシタ44のキャパシタンスはCである。
【0018】
inは、電力変換器40の入力電圧の時間関数であり、voは、電力変換器40の出力電圧の時間関数である。また、iinは、電力変換器40の入力電流の時間関数であり、iLは、インダクタ43を流れるインダクタ電流の時間関数である。
【0019】
直流給電システム1は、周波数領域において図3(A)に示す等価回路で表すことができる。すなわち、直流給電システム1の入力端子30,30よりも負荷2側は、等価電流源Ic(s)と入力アドミタンスYin(s)=1/Zin(s)のノートンの回路で表すことができる。また、直流給電システム1の入力端子30,30よりも直流電源10側は、電圧源EとフィルタインピーダンスZsのテブナンの回路で表すことができる。ここで、sは微分演算子(s=jω)であり、ωは角周波数である。
【0020】
周波数領域における電力変換器40の入力電圧をVin(s)と表記すると、この等価回路では、周波数領域において式(1)が成立する。
【数1】
そして、これを整理すると、式(2)が得られる。
【数2】
【0021】
式(2)の右辺の分母にナイキストの安定判別法を適用すると、直流給電システム1が不安定となる必要条件「フィルタインピーダンスZs(s)と入力アドミタンスYin(s)との位相差が180°となる周波数が存在し、かつ当該周波数における|Zs(s)Yin(s)|が1よりも大きいこと」を導き出すことができる。逆に言うと、フィルタインピーダンスZs(s)と入力アドミタンスYin(s)との位相差が180°となる周波数が存在しない場合、および位相差が180°となる周波数が存在したとしても、当該周波数における|Zs(s)Yin(s)|が1以下である場合は、直流給電システム1は安定であると言える。
【0022】
上記ナイキストの安定判別法は、Zs(s)Yin(s)の実軸の負側のクロス点が-1を超えているか否かに基づいている。フィルタインピーダンスZs(s)は受動的であり、その位相は±90°の範囲内にあるので、電力変換器40の入力アドミタンスYin(s)の位相を±90°の範囲内に抑えることができれば、そもそも実軸の負側のクロス点が存在しないことになるので、直流給電システム1を確実に安定化させることができる。つまり、次式に示すように、入力アドミタンスYin(s)の実部が正となるように電力変換器40を制御すれば、電力変換器40は受動的となり、直流給電システム1は安定する。
【数3】
【0023】
上記のように電力変換器40を制御するために、本発明では、特許文献2において提案した技術を応用して、フィードバック制御系と、フィードバック制御系の弱点である「受動性が考慮されない」をカバーするフィードフォワード制御系とで制御系を構築する。このため、本発明では、次式および図3(B)に示すように、フィードバック制御系による入力アドミタンスYfb(s)とフィードフォワード制御系による入力アドミタンスYff(s)との和で入力アドミタンスYin(s)を表現することができる。
【数4】
【0024】
[直流給電システムを構成する電力変換器の状態方程式]
図4に、スイッチ41およびダイオード42の動作を平均化した電力変換器40の平均化等価回路を示す。インダクタ電流iLおよび出力電圧(キャパシタ電圧)voを要素とする連続系状態変数ベクトルをx(t)とすると、入力u(t)(スイッチ41のデューティ比)に対する連続系状態方程式、および出力y(t)に対する連続系出力方程式は、以下の通りとなる。
【数5】
ただし、連続系システム行列Ac、連続系入力ベクトルbcおよびキャパシタ電圧に対する出力ベクトルcvは、次式の通りである。
【数6】
【0025】
式(5)をサンプリング周期T[s]で離散化すると、次式に示す時刻t=iT(ただし、iは整数)における離散系状態方程式が得られる。
【数7】
ただし、x[i]、u[i]およびy[i]は、それぞれ時刻t=iTにおける離散系状態変数ベクトル、離散系入力および離散系出力である。また、離散系システム行列Aおよび離散系入力ベクトルbは、次式の通りである。
【数8】
【0026】
[制御系の構成]
図6に、本発明に係る設計方法によって設計される制御系のブロック図を示す。同図に示すように、この制御系は、ディジタル制御部とアナログ制御部とで構成されているとも言えるし、伝達関数G(または、後述するG’)の積分補償器を含むフィードバック制御系と伝達関数Hのフィードフォワード制御系とで構成されているとも言える。
【0027】
伝達関数Gは、次式の通りである。ただし、keは制御ゲインであり、zは遅れ演算子である。
【数9】
伝達関数Hについては、後で詳細に説明する。
【0028】
積分補償器における積分の補助変数をw[i]とし、かつ状態フィードバックの制御ゲインをki,kvとして、電力変換器40の出力電圧が目標値Voとなるように制御するとき、入力u[i]および補助変数w[i]の制御則は、次式の通りとなる。
【数10】
ただし、状態フィードバック係数ベクトルkは、次式の通りである。
【数11】
なお、式(10)は、伝達関数Gを用いて次式のように書き換えることができる。
【数12】
【0029】
[小信号摂動モデル]
図5に、入力アドミタンスYin(s)の周波数特性を求めるために利用する、電力変換器40の小信号摂動回路を示す。この回路は、図4に示した平均化回路において、入力電圧vinに摂動を意味する小信号vin~を付加して線形化したものである。このため、この回路では、入力u、インダクタ電流iLおよび出力電圧voが、それぞれu+u~、iL+iL~、vo+vo~となっている。
【0030】
この場合、連続系状態方程式および制御則は、次式の通りとなる。
【数13】
【数14】
ただし、連続系摂動状態変数ベクトルx~および連続系外乱ベクトルhcは、以下の通りである。
【数15】
【0031】
[積分補償の緩和]
式(9)に示した伝達関数Gを用いてフィードバック制御系を構築すると、直流においてゲインが無限大となってしまい、電力変換器40に受動性を持たせることが困難となる。このため、本発明では、次式で表される伝達関数G’を用いてフィードバック制御系を構築し、積分補償を緩和する。
【数16】
ただし、kcは、1未満の定数である。
【0032】
一方で、上記伝達関数G’を用いて積分補償を緩和すると、電力変換器40の実際の出力電圧と目標値Voとの間にずれが生じ得る。そこで、本発明では、このずれを修正するための補正項を付与した、次式で表される制御則を用いる。
【数17】
右辺の最終項が、インダクタ電流iLに依存する補正項である。
【0033】
補正項は、式(18)に示すような代数的非線形関数であってもよいし、式(19)に示すような一次関数に近似したものであってもよい。
【数18】
【数19】
ただし、ciは次式で表される電流出力ベクトルであり、kf、f0は定数である。
【数20】
【0034】
どちらの補正項を使用するかは演算処理能力等に基づいて決定すればよいが、より実用的なのは式(19)に示した補正項である。式(18)に示した補正項を使用する場合は、予めテーブル化しておくことが好ましい。
【0035】
式(19)に示した補正項を使用する場合、制御則は次式の通りとなる。
【数21】
ただし、状態フィードバック係数ベクトルk’は、次式の通りである。
【数22】
【0036】
[入力アドミタンスの計算]
式(13)および式(21)を変換すると、周波数領域における状態方程式である次式が得られる。なお、式(23)では、時間領域から周波数領域への変換に伴って、変数等の表記が小文字から大文字に変化している。例えば、X~(s)は、時間領域における状態変数ベクトルであるx~(t)を周波数領域における状態変数ベクトルに変換したものである。
【数23】
ただし、Smは、Tをサンプル時間としたサンプル・0次ホールド関数であり、次式で表すことができる。
【数24】
【0037】
式(23)から状態変数ベクトルX~(s)を解析的に導出すると、次式が得られる。
【数25】
ただし、行列A^cは、次式の通りである。
【数26】
【0038】
一方、式(27)で表される入力電流Iinを動作点近傍で線形化すると、式(28)が得られる。
【数27】
【数28】
また、式(25)を式(23)に代入すると式(29)が得られ、さらに、この式(29)を式(28)に代入すると式(30)が得られる。
【数29】
【数30】
【0039】
入力アドミタンスYin(s)は式(31)の通りなので、結局、フィードバック制御系による電力変換器40の入力アドミタンスYfb(s)およびフィードフォワード制御系による電力変換器40の入力アドミタンスYff(s)は、式(32)の通りとなる。
【数31】
【数32】
また、伝達関数Hを1としたときの単位応答Yff1(s)は、次式の通りである。
【数33】
【0040】
[フィードフォワード制御系の構築]
前述した通り、フィードフォワード制御系は、フィードバック制御系の弱点である「受動性が考慮されない」をカバーするために追加されたものであり、本発明では、その伝達関数H[z]を、電力変換器40の入力アドミタンスYin(s)が全体域において正のコンダクタンス成分を持つように決定する。すなわち、本発明では、次式が成立するように伝達関数H[z]を決定する。
【数34】
【0041】
伝達関数H[z]は、次式に示す通り、二次以下の主特性部H^[z]と、主特性部H^[z]により伝達される信号の帯域を制限する二次以下のフィルタ特性部F[z]との積により構成されている。
【数35】
【0042】
ここで、主特性部H^[z]は、例えば、式(36)または式(37)のような形式を有している。ただし、ah0、ah1、ah2、bh1、bh2は、あてはめにより決定される係数である。
【数36】
【数37】
【0043】
また、フィルタ特性部F[z]は、例えば、次式のような形式を有した一次のローパスフィルタまたは一次のハイパスフィルタである。ただし、af0、af1、bf1は、あてはめにより決定される係数である。
【数38】
フィルタ特性部F[z]は、式(38)の形式を有した一次のローパスフィルタFL[z]と式(38)の形式を有した一次のハイパスフィルタFH[z]との積で表される二次のバンドパスフィルタFL[z]・FH[z]であってもよい。
【0044】
[本発明に係る設計方法]
続いて、図7を参照しながら、これまでに説明してきた要素技術を取り入れた、本発明に係る設計方法の一実施形態について説明する。
【0045】
第1ステップS1では、フィードバック制御系に含まれる積分補償器の伝達関数G(式(9)参照)を最適制御法等の既知の手法により決定する。より詳しくは、第1ステップS1では、最適制御法等の既知の手法により制御ゲインki,kv、および伝達関数Gを構成する制御ゲインkeを決定する(式(12),(11)参照)。
【0046】
第2ステップS2では、フィードフォワード制御系の伝達関数Hを1としたときの、フィードフォワード制御系による電力変換器40の入力アドミタンスYff1の周波数特性を式(33)に基づいて求める。
【0047】
第3ステップS3では、第2ステップS2で求めた入力アドミタンスYff1の周波数特性に基づいて、電力変換器40が受動的となるように伝達関数Hを決定することによりフィードフォワード制御系を構築する。より詳しくは、第3ステップS3では、電力変換器40が受動的となるような入力アドミタンスYffを決定し、式(32)の下式がこれに一致するように伝達関数Hの係数をあてはめにより決定する。このとき、主特性部H^のみからなる伝達関数Hで目的が達成される場合は、フィルタ特性部Fを1としてもよい。すなわち、主特性部H^のみからなる伝達関数Hでは電力変換器40の受動性が達成できない場合に限って、フィルタ特性部Fの係数をあてはめにより決定すればよい。
【0048】
第4ステップS4では、伝達関数Gを伝達関数G’(式(16)参照)に置き換えた制御則で電力変換器40を実際に動作させ、電力変換器40の実際の出力電圧と目標値Voとの間のずれを計測するとともに、このずれを修正するための補正項f(iL)の係数kf,f0を決定する(式(17)参照)。すなわち、第4ステップS4では、伝達関数G’と補正項f(iL)を含むように、フィードバック制御系を再構築する。例えば、補正項f(iL)の係数kfは、複数の動作点より決定することができる。また例えば、f0は、オートチューニングによって決定することができる。
【0049】
第5ステップS5では、式(32)に基づいて、第3ステップS3で構築したフィードフォワード制御系による入力アドミタンスYffの周波数特性、および第4ステップS4で再構築したフィードバック制御系による入力アドミタンスYfbの周波数特性を求める。
【0050】
第6ステップS6および第7ステップS7では、第5ステップS5で求めた周波数特性および式(34)に基づいて、電力変換器40が受動的であるか否かを判定する。判定の結果が受動的であれば、制御系の設計は終了する。一方、判定の結果が非受動的であれば、第8ステップS8を実行する。
【0051】
第8ステップS8では、第5ステップS5で求めた入力アドミタンスYffの周波数特性に基づいて、電力変換器40が受動的となるように伝達関数Hを修正することによりフィードフォワード制御系を再構築する。より詳しくは、第8ステップS8では、電力変換器40が受動的となるような入力アドミタンスYffを決定し、式(32)の下式がこれに一致するように伝達関数Hの係数をあてはめにより決定する。第8ステップS8では、第3ステップS3の段階では1としたフィルタ特性部Fの係数をあてはめにより決定してもよい。また、第8ステップS8では、第3ステップS3の段階ではローパスフィルタFL[z]のみで構成されていたフィルタ特性部FをローパスフィルタFL[z]とハイパスフィルタFH[z]の積で構成してもよい。
【0052】
第8ステップS8の実行が完了すると、2巡目の第4ステップS4を実行する。
【0053】
そして、その次に実行する2巡目の第5ステップS5では、式(32)に基づいて、第8ステップS8で再構築したフィードフォワード制御系による入力アドミタンスYffの周波数特性、および直前(2巡目)の第4ステップS4で再構築したフィードバック制御系による入力アドミタンスYfbの周波数特性を求める。
【0054】
第6ステップS6以降は、1巡目と同じである。
【0055】
第4ステップS4~第8ステップS8は、第7ステップS7において受動的であるとの判定がなされるまで繰り返し実行される。
【0056】
[本発明に係る設計方法で設計された制御系の検証]
続いて、本発明に係る設計方法で設計された制御系の検証結果について説明する。本検証では、回路パラメータ(図2図4参照)を表1の通りとした。また、本検証では、伝達関数G’の定数kcを0.95とした。
【表1】
【0057】
表2に、本発明に係る設計方法で決定された制御ゲイン等のパラメータを示す。なお、本検証では、式(37)の形式を有する主特性部H^のみで伝達関数Hを構成した。すなわち、本検証では、フィルタ特性部Fは不要であった。
【表2】
【0058】
図8に、上記のパラメータを有する制御系による電力変換器40の入力アドミタンスYin(s),Yfb(s),Yff(s)のシミュレーション結果(周波数特性)を示す。入力アドミタンスYfb(s)の位相は±90°の範囲内に収まっていないが、入力アドミタンスYfb(s)とYff(s)の和である入力アドミタンスYin(s)の位相は±90°の範囲内に収まっている。このことは、電力変換器40が受動的であること、ひいては直流給電システム1が安定であることを示している。
【0059】
図9に、上記のパラメータを有する制御系に電力変換器40を実際に制御させることにより得られた、入力アドミタンスYin(s),Yfb(s)の実測結果(周波数特性)を示す。図8に示したシミュレーション結果と同様、この実測結果も、直流給電システム1が安定であることを示している。
【0060】
図10に、上記のパラメータを有する制御系によって電力変換器40を制御している際に、負荷2の抵抗成分Rを時刻10msで1.1Ωから2.2Ωに変化させ、時刻20msで1.1Ωに戻し、時刻30msで0.55Ωに変化させ、時刻40msで1.1Ωに戻したときの、出力電圧のシミュレーション結果(過渡応答特性)を示す。定格出力電圧Vは1.5Vである(表1参照)。この結果は、補正項f(iL)の作用により、負荷2が変動しても出力電圧が目標値である1.5Vに維持されることを示している。
【0061】
以上、本発明に係る設計方法の一実施形態について説明してきたが、本発明の構成はこれに限定されない。例えば、本発明では、定数kcを1未満の任意の値とすることができる。ただし、定数kcが1に近すぎると、定数kcを導入して積分補償を緩和した意味がなくなる。逆に、定数kcが小さすぎると、補正項f(iL)を導入しても出力電圧を補正しきれなくなる。このような観点から、定数kcは、0.9以上0.99以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 直流給電システム
2 負荷
10 直流電源
20 フィルタ
30 入力端子
40 電力変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10