(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】認知症診断用のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241010BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C07K16/18
(21)【出願番号】P 2021012620
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-11-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国家課題対応型研究開発推進事業(脳科学研究戦略推進プログラム)「レビー小体病の早期診断技術と根本治療薬の開発」委託研究開発 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 浩司
(72)【発明者】
【氏名】川畑 伊知郎
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506086(JP,A)
【文献】特開2014-071016(JP,A)
【文献】特開2015-004664(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065323(WO,A1)
【文献】特開2013-092538(JP,A)
【文献】国際公開第2017/171053(WO,A1)
【文献】COLOGNA, S. M. et al.,Quantitative Proteomic Analysis of Niemann-Pick Disease, Type C1 Cerebellum Identifies Protein Biomarkers and Provides Pathological Insight,PLOS ONE,2012年10月,Vol.7, No.10,pp.1-13
【文献】DAVID, C. et al.,Differential role of CSF fatty acid binding protein 3, α-synuclein, and Alzheimer's disease core bi,Alzheimer's Research & Therapy,2017年,Vol.9, No.52,pp.1-12
【文献】古橋眞人,脂肪酸結合タンパクファミリー,肥満研究,2013年,Vol.19, No.3,pp.167-174
【文献】MAEKAWA, M. et al.,Polymorphism screening of brain-expressed FABP7, 5 and 3 genes and association studies in autism and schizophrenia in Japanese subjects,Journal of human genetics,2010年01月08日,Vol.55,pp.127-130
【文献】WANG, Y. et al.,Epidermal Fatty Acid-Binding Protein 5 (FABP5) Involvement in Alpha-Synuclein-Induced Mitochondrial,biomedicines,2021年01月22日,Vol.9, No.110,pp.1-15
【文献】PAN, Y. et al.,Reduced blood-brain barrier expression of fatty acid-binding protein 5 is associated with increased vulnerability of APP/PS1 mice to cognitive deficits from low omega-3 fatty acid diets,Journal of Neurochemistry,2018年,Vol.144,pp.81-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者における軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症からなる群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患
を検出
するための方法であって、
被検者の血漿又は血清である生物試料中のFABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルを測定すること、
前記FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び
前記被検者の評価値と健常者の評価値とを比較することを含み、
前記被検者の評価値が健常者の評価値よりも大きい場合に、前記被検者は前記神経変性疾患に罹患している可能性が高いことを示す、方法。
【請求項2】
被検者における軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症からなる群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患
を検出
するための方法であって、
被検者の血漿又は血清である生物試料中のFABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルを測定すること、
前記FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び
前記被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較することを含み、
前記被検者の評価値と前記4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に前記被検者が罹患している可能性が高いことを示す、方法。
【請求項3】
前記被検者の評価値が健常者の評価値よりも大きい場合に、
前記被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較することをさらに含み、
前記被検者の評価値と前記4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に前記被検者が罹患している可能性が高いことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モデルが、
SCORE=(a+Z
FABP3)/(a+Z
FABP5) (1)
(式中、
Z
FABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
Z
FABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数である)
であり、前記SCOREが前記評価値または基準値に使用される請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
被検者の生物試料中のTau、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lから成る群から選択される少なくとも1種類以上のバイオマーカーのレベルをさらに測定することを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記評価値を生成することは、前記FABP3及びFABP5の2種類バイオマーカーに加え、さらにTau、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lから成る群から選択される少なくとも1種類以上のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被検者の評価値が軽度認知障害の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者は軽度認知障害に罹患している可能性が高いことを示し、
前記被検者の評価値がアルツハイマー病の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はアルツハイマー病に罹患している可能性が高いことを示し、
前記被検者の評価値がパーキンソン病の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はパーキンソン病に罹患している可能性が高いことを示し、又は
前記被検者の評価値がレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いことを示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記被検者の評価値が軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症の患者の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記方法はさらに、
前記被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較することをさらに含み、
前記被検者の評価値と前記4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に前記被検者が罹患している可能性が高いことを示す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モデルが、
SCORE=(a+Z
FABP3)(a+Z
Tau)
x(a+Z
NF-L)
y(a+Z
GFAP)
z/{(a+Z
FABP5)×(a+Z
a-syn)
m×(a+Z
Aβ-42)
n}×a
(m+n-x-y-z) (2)(式中、
Z
FABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
Z
Tauは(被検者の生物試料中のTau濃度-健常者の生物試料中のTau平均濃度)/(健常者の生物試料中のTau濃度の標準偏差)、
Z
NF-Lは(被検者の生物試料中のNF-L濃度-健常者の生物試料中のNF-L平均濃度)/(健常者の生物試料中のNF-L濃度の標準偏差)、
Z
GFAPは(被検者の生物試料中のGFAP濃度-健常者の生物試料中のGFAP平均濃度)/(健常者の生物試料中のGFAP濃度の標準偏差)、
Z
FABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
Z
a-synは(被検者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度-健常者の生物試料中のα-シヌクレイン平均濃度)/(健常者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度の標準偏差)、
Z
Aβ-42は(被検者の生物試料中のAβ-42濃度-健常者の生物試料中のAβ-42平均濃度)/(健常者の生物試料中のAβ-42濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数であり、
x, y, z, m, nは独立して、式(2)においてこれらの乗数の底において関連付けられているTau、GFAP、α-Synuclein、Aβ-42及びNF-Lのバイオマーカーの評価値が計算される場合は1であり、計算されない場合は0である。)
であり、前記SCOREが前記評価値または基準値に使用される請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
被検者の血漿又は血清である生物試料中の下記(i)~(v)のいずれかの、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検査のためのバイオマーカーとしての使用。
(i) FABP3及びFABP5からなる2種の組み合わせ、
(ii) FABP3、FABP5、Tau及びNF-Lからなる4種の組み合わせ、
(iii)FABP3、FABP5、α-Synuclein、及びAβ-42からなる4種の組み合わせ、
(iv)FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、及びGFAPからなる5種の組み合わせ、
(v)FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lからなる6種の組み合わせ
【請求項11】
前記検査は、被験者が、健常者と軽度認知障害、健常者とパーキンソン病、健常者とレビー小体型認知症、軽度認知障害とアルツハイマー病、軽度認知障害とパーキンソン病、軽度認知障害とレビー小体型認知症、アルツハイマー病とパーキンソン病、又はパーキンソン病とレビー小体型認知症の、前者及び後者のいずれである可能性が高いかの検査である請求項10に記載の使用。
【請求項12】
被検者の血漿又は血清である生物試料を用いて軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患を検査するための検査用キットであって、下記(i)~(v)のいずれかを備えたキット。
(i)FABP3及びFABP5からなる2種のタンパク質の各々に対する抗体、
(ii)FABP3、FABP5、Tau及びNF-Lからなる4種のタンパク質の各々に対する抗体、
(iii)FABP3、FABP5、α-Synuclein、及びAβ-42からなる4種のタンパク質の各々に対する抗体、
(iv) ABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、及びGFAPからなる5種のタンパク質の各々に対する抗体、若しくは
(v)FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lからなる6種のタンパク質の各々に対する抗体
【請求項13】
前記検査は、被験者が、健常者と軽度認知障害、健常者とパーキンソン病、健常者とレビー小体型認知症、軽度認知障害とアルツハイマー病、軽度認知障害とパーキンソン病、軽度認知障害とレビー小体型認知症、アルツハイマー病とパーキンソン病、又はパーキンソン病とレビー小体型認知症の、前者及び後者のいずれである可能性が高いかの検査である請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患用のバイオマーカーに関し、より詳細には脂肪酸結合タンパク質(FABP)ファミリーを指標として用いた神経変性疾患の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸結合タンパク質(FABP)はアラキドン酸、ドコサヘキサエン酸などの多価不飽和脂肪酸の細胞内輸送に関わる。脳内では3種のFABP(FABP3、FABP5、FABP7)が発現している。神経変性疾患におけるFABPの機能は不明であった。
発明者らは最近、FABP3がパーキンソン病の原因となる細胞内封入体を形成するαシヌクレインと結合すること、両者を神経細胞に共発現すると凝集体を形成することを見出した(非特許文献1)。また、パーキンソン病を発現する神経毒である1-Metyl-1,2,3,6-tetrahydropiridine(MPTP)をFABP3欠損マウスに投与してもパーキンソン病様症状は見られず、及びパーキンソン病モデル細胞及び動物において、αシヌクレイン細胞での発現と凝集を抑制することを確認した(非特許文献2)。
また、アルツハイマー型認知症及びパーキンソン病といった神経変性疾患患者における血清中FABP7濃度に上昇が認められたという報告がある(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shioda N, et al. J Biol Chem. 2014 Jul 4;289(27):18957-65
【文献】上原記念生命科学財団研究報告集, 31(2017)
【文献】Teunissen,C.E., et al. European journal of neurology 18, 865-871 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術文献は、FABP3やFABP7が神経変性疾患のバイオマーカーとなる可能性を示しているが、発明者らが認知症患者の生体試料中のFABP3濃度を調べたところ、FABP3のみでは各種神経変性疾患で健常者に比べて増加が認められるものの、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、及びレビー小体型認知症(DLB)の4種の神経疾患を個別に区別することができない(MCI vs. AD N.S., MCI vs. PD N.S., AD vs. PD N.S., PD vs. DLB N.S., N.S. : 有意差無し)。
【0005】
他方、FABP5と神経変性疾患の関連性については検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題解決のため鋭意検討した結果、FABP3とFABP5を組み合わせてバイオマーカーとして使用すると、被検者が、健常者か、軽度認知障害を含む神経変性疾患に罹患している可能性が高い患者であるかを区別できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらには、FABP3及びFABP5の2つのバイオマーカーに加えて、追加の1又は2種以上バイオマーカーを使用すると、MCI、AD、PD及びDLBの各疾患を個別に区別できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
【0008】
項1.被検者における神経変性疾患の検出方法であって、
被検者の生物試料中のFABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルを測定することを含む方法。
【0009】
項2.前記FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び
被検者における評価値と基準値との比較により、前記被検者が神経変性疾患に罹患している可能性が高いか否かを決定すること
をさらに含む、項1に記載の方法。
【0010】
項3.前記決定することは、前記被検者の評価値が健常者の評価値よりも大きい場合に、前記被検者が神経変性疾患に罹患している可能性が高いと決定することを含む、項2に記載の方法。
【0011】
項4.前記被検者が前記軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定された場合に、前記方法はさらに、
前記被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較すること、及び
前記被検者の評価値と前記4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に前記被検者が罹患している可能性が高いと決定すること、を含む項3に記載の方法。
【0012】
項5.前記モデルが、
SCORE=(a+ZFABP3)/(a+ZFABP5) (1)
(式中、
ZFABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
ZFABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数である)
であり、前記SCOREが前記評価値または基準値に使用される項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【0013】
項6.被検者の生物試料中のTau、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lから成る群から選択される少なくとも1種類以上のバイオマーカーのレベルをさらに測定することを含む項1に記載の方法。
【0014】
項7.前記FABP3及びFABP5の2種類バイオマーカーに加え、さらにTau、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lから成る群から選択される少なくとも1種類以上のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び
被検者の評価値と神経変性疾患患者の評価値である基準値との比較により、神経変性疾患に罹患している可能性が高いか否かを決定する、項6に記載の方法。
【0015】
項8.前記神経変性疾患が、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症から成る群から選択される少なくとも一つであり、
前記決定することは、
前記被検者の評価値が軽度認知障害の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者は軽度認知障害に罹患している可能性が高いと決定すること、
前記被検者の評価値がアルツハイマー病の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はアルツハイマー病に罹患している可能性が高いと決定すること、
前記被検者の評価値がパーキンソン病の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はパーキンソン病に罹患している可能性が高いと決定すること、及又は
前記被検者の評価値がレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、前記被検者はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定すること
を含む、項7に記載の方法。
【0016】
項9.前記被検者が前記軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定された場合に、前記方法はさらに、
前記被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較すること、及び
前記被検者の評価値と前記4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に前記被検者が罹患している可能性が高いと決定すること、
を含む、項8に記載の方法。
【0017】
項10.前記モデルが、
SCORE=(a+ZFABP3)(a+ZTau)x(a+ZNF-L)y(a+ZGFAP)z/{(a+ZFABP5)×(a+Za-syn)m×(a+ZAβ-42)n}×a(m+n-x-y-z) (2)
(式中、
ZFABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
ZTauは(被検者の生物試料中のTau濃度-健常者の生物試料中のTau平均濃度)/(健常者の生物試料中のTau濃度の標準偏差)、
ZNF-Lは(被検者の生物試料中のNF-L濃度-健常者の生物試料中のNF-L平均濃度)/(健常者の生物試料中のNF-L濃度の標準偏差)、
ZGFAPは(被検者の生物試料中のGFAP濃度-健常者の生物試料中のGFAP平均濃度)/(健常者の生物試料中のGFAP濃度の標準偏差)、
ZFABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
Za-synは(被検者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度-健常者の生物試料中のα-シヌクレイン平均濃度)/(健常者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度の標準偏差)、
ZAβ-42は(被検者の生物試料中のAβ-42濃度-健常者の生物試料中のAβ-42平均濃度)/(健常者の生物試料中のAβ-42濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数であり、
x, y, z, m, nは独立して、式(2)においてこれらの乗数の底において関連付けられているTau、GFAP、α-Synuclein、Aβ-42及びNF-Lのバイオマーカーの評価値が計算される場合は1であり、計算されない場合は0である。)
であり、前記SCOREが前記評価値または基準値に使用される項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
項11.FABP3及びFABP5からなる2種の組み合わせ、
FABP3、FABP5、Tau及びNF-Lからなる4種の組み合わせ、
FABP3、FABP5、α-Synuclein、及びAβ-42からなる4種の組み合わせ、
FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、及びGFAPからなる5種の組み合わせ、若しくは
FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lからなる6種の組み合わせの、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検査のためのバイオマーカーとしての使用。
【0019】
項12.軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患を検査するための検査用キットであって、
FABP3及びFABP5からなる2種のタンパク質の各々に対する抗体、
FABP3、FABP5、Tau及びNF-Lからなる4種のタンパク質の各々に対する抗体、
FABP3、FABP5、α-Synuclein、及びAβ-42からなる4種のタンパク質の各々に対する抗体、
FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、及びGFAPからなる5種のタンパク質の各々に対する抗体、若しくは
FABP3、FABP5、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lからなる6種のタンパク質の各々に対する抗体、を備えた検査用キット。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被検者の神経変性疾患、特には軽度認知障害への罹患可能性を高精度に検査することができる。さらには、FABP3及びFABP5の2つのバイオマーカーに加えて追加の1又は2種以上のバイオマーカーを使用することにより、MCI、AD、PD及びDLBの個別の検査又は個別化診断も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】FABP3をマーカーとして用いた場合の対照群と各神経変性疾患群のSCOREの比較。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、4群のいずれもCNに対して有意差なし(Welch's t-test)。
【
図2】(A)-(D)FABP3をマーカーとして用いた場合の種々の2群のROC曲線の比較。縦軸:感度、横軸:偽陽性率(1-特異度)。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。
【
図3】(A)-(D)FABP3及びFABP5をマーカーとして用いた場合の対照群と各神経変性疾患群のSCOREの比較。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。* p < 0.05、**** p < 0.0001。いずれもCNに対して (Welch's t-test)。
【
図4】(A)-(
I)FABP3及びFABP5をマーカーとして用いた場合の種々の2群のROC曲線の比較。縦軸:感度、横軸:偽陽性率(1-特異度)。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。
【
図5】(A)-(D)FABP3、FABP5、α-synuclein、及びAβ-42をマーカーとして用いた場合の対照群と各神経変性疾患群のSCOREの比較。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。* p < 0.05、**** p < 0.0001、いずれもCNに対して (Welch's t-test)。
【
図6】(A)-(H)FABP3、FABP5、α-synuclein、及びAβ-42をマーカーとして用いた場合の種々の2群のROC曲線の比較。縦軸:感度、横軸:偽陽性率(1-特異度)。CN:健常対照、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。
【
図7】(A)-(D)FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPをマーカーとして用いた場合の対照群と各神経変性疾患群のSCOREの比較。CN:健常対照群、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。**** p < 0.0001、いずれもCNに対して (Welch's t-test)。
【
図8】(A)-(H
)FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPをマーカーとして用いた場合の種々の2群のROC曲線の比較。縦軸:感度、横軸:偽陽性率(1-特異度)。CN:健常対照群、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。
【
図9】(A)-(D)FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP及びNF-Lをマーカーとして用いた場合の対照群と各神経変性疾患群のSCOREの比較。CN:健常対照群、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。* p < 0.05、**** p < 0.0001、いずれもCNに対して (Welch's t-test)。
【
図10】(A)-(H)FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP及びNF-Lをマーカーとして用いた場合の種々の2群のROC曲線の比較。縦軸:感度、横軸:偽陽性率(1-特異度)。CN:健常対照群、MCI:軽度認知障害、AD:アルツハイマー病、PD:パーキンソン病、DLB:レビー小体型認知症。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「被検者」はヒト、マウス、ラット、さらにウシやウマ等の家畜、イヌやネコ等のペットをはじめとする哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0023】
本明細書において、被検者の「生物試料」は、被検者由来の生体試料は特に限定されないが、被検者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液、汗など生体から容易に採取できるものや、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液、リンパ液など比較的容易に採取されるもの、ならびに組織生検などの組織試料が挙げられる。いくつかの実施形態では、生物試料が血液(全血)、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、汗、眼房水、硝子体液及びリンパ液からなる群より選択される体液からなる。血液や血清を用いる場合、常法に従って被検者から採血し、前処理を施さず直接、又は液性成分を分離することにより分析にかける被検試料を調製することができる。検出対象である本発明のペプチドは必要に応じて、抗体カラム、その他の吸着剤カラム、又はスピンカラムなどを用いて、予め高分子量の蛋白質画分などを分離除去しておくこともできる。
【0024】
本明細書における神経変性疾患は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、及びレビー小体型認知症(DLB)から成る群から選択される少なくとも一つを含む。好ましい実施形態では、神経変性疾患は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、及びレビー小体型認知症(DLB)から成る群から選択される少なくとも一つである。
【0025】
本明細書において、神経変性疾患の「検出」には、神経変性疾患の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定(コンパニオン診断法)、神経変性疾患の予防効果の判定、神経変性疾患の治療効果の判定、神経変性疾患の診断(特には早期診断)のための検査方法、及び神経変性疾患の治療(特には早期治療)のための検査方法が含まれる。神経変性疾患の「判定」には、神経変性疾患の有無を判定することのみならず、予防的に神経変性疾患の罹患可能性を判定することや、治療後の神経変性疾患の予後を予測すること、及び神経変性疾患の治療薬の治療効果を判定することが含まれる。物質のスクリーニング方法には、神経変性疾患の「検出」、「判定」及び「治療」に有用な物質のスクリーニング方法が含まれる。
【0026】
本明細書において、「罹患」には「発症」が含まれる。
【0027】
本明細書において、「治療」とは、疾患もしくは症状の治癒又は改善、或いは症状の抑制を意味し「予防」を含む。「予防」とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味する。
【0028】
本明細書において、FABP3は脂肪酸結合タンパク質3を指す。例えばヒトの場合、FABP3は、Uniprotアクセッション番号P05413のタンパク質を含む。マウスの場合、FABP3は、Uniprotアクセッション番号P11404のタンパク質を含む。ラットの場合、FABP3は、Uniprotアクセッション番号P07483のタンパク質を含む。
【0029】
本明細書において、FABP5は脂肪酸結合タンパク質5を指す。例えばヒトの場合、FABP5は、Uniprotアクセッション番号Q01469のタンパク質を含む。マウスの場合、FABP5は、Uniprotアクセッション番号Q05816のタンパク質を含む。ラットの場合、FABP5は、Uniprotアクセッション番号P55053のタンパク質を含む。
【0030】
本発明の一態様において、被検者における神経変性疾患の検出方法であって、被検者の生物試料中のFABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルを測定することを含む方法が提供される。
【0031】
被検者には、神経変性疾患に罹患していると疑われる患者が含まれ、「神経変性疾患に罹患していると疑われる患者」は、被検者本人が主観的に疑いを抱く者(何らかの自覚症状がある者に限らず、単に予防検診の受診を希望する者を含む)であってもよいし、何らかの客観的な根拠に基づいて神経変性疾患と判定又は診断された者(例えば、従来公知の認知機能テスト(例、ミニ・メンタルステート試験(MMSE)や長谷川式認知症スケール(HDS-R))及び/又は診察の結果、神経変性疾患の合理的な罹患可能性があると医師が判断した者)であってもよい。
【0032】
「FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルを測定する」とはFABP3及びFABP5のそれぞれのタンパク質の濃度、量、又はシグナル強度を測定することを指す。 FABP3及びFABP5の蛍光シグナル又は吸光度シグナルの強度を測定することにより、定性的な測定のみならず、定量的な測定も行うことができる。
【0033】
生体試料中の、2つのバイオマーカータンパク質の検出は、質量分析、タンパク質アレイ技術(例えば、タンパク質チップ) 、ゲル電気泳動、及び、2つのバイオマーカータンパク質の各々に対する抗体を用いた方法(例えば、免疫蛍光、放射性標識、免疫組織化学、免疫沈降、ウエスタンブロット分析、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA) 、蛍光細胞選別(FACS 、免疫ブロット法、化学発光など)が挙げられるがこれに限定されない。
【0034】
FABP3及びFABP5の各々に対する抗体は、各タンパク質中の抗原性または免疫原性を有する部分アミノ酸領域(抗原決定基)であるエピトープとして、当該技術分野において周知の方法により作製することができるし、市販品のFABP3及びFABP5の各々に対する抗体を利用してもよい。本発明のペプチド又はその親タンパク質に対する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、及びminibody等が挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態において、生体試料中のバイオマーカーの検出/ 定量化は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて達成される。ELISAは、例えば、比色、化学発光、及び/又は蛍光に基づくことができる。本発明の方法において使用するのに適するELISAは、抗体及びその誘導体、並びにタンパク質リガンドなどを含む、任意の適切な捕捉試薬及び検出試薬を使用することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、生体試料中のバイオマーカーの検出/ 定量化は、ウェスタンブロッティングを使用して達成される。ウエスタンブロット法は、当業者に周知である。簡単に説明すると、所与のバイオマーカーに対する結合親和性を有する抗体を用いて、ゲル電気泳動によってサイズに基づいて分離されたタンパク質の混合物中でバイオマーカーを定量化することができる。例えば、ニトロセルロース、又はポリフッ化ビニリデン(PVDFから作られた膜を、生体試料からのタンパク質混合物を含むゲルの隣に配置し、ゲルから該膜へタンパク質を移行させるために電流が印加する。次いで膜を、目的のバイオマーカーに対して特異性を有する抗体と接触させ、二次抗体及び/ 又は検出試薬を用いて可視化することができる。
【0037】
いくつかの実施形態において、生体試料中のバイオマーカーの検出/ 定量化は、多重タンパク質アッセイ( 例えば、平面アッセイ又はビーズベースのアッセイ) を用いて達成される。多数の多重タンパク質アッセイ形式が市販されている。
【0038】
他の実施形態において、生体試料中のバイオマーカーの検出/ 定量化は、流体の流れに懸濁した標的実体( 例えば、細胞及びタンパク質) を計数、調査及び選別するための技術であるフローサイトメトリーにより達成される。
【0039】
いくつかの実施形態において、生体試料中のバイオマーカーの検出/ 定量化は、組織又は細胞内の抗原に対する結合特異性を有する抗体又はタンパク質結合剤を用いて、組織切片又は細胞にタンパク質を局在化するプロセスである免疫組織化学又は免疫細胞化学によって達成される。色( 例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ) 又は蛍光(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はフィコエリトリン(PE))を生成する標識で、抗体/ 薬剤をタグ付けすることによって視覚化することができる。
【0040】
FABP3は神経変性疾患の患者では健常者よりも増大し、FABP5は神経変性疾患の患者では健常者よりも減少する傾向にあるが、FABP3及びFABP5はそれぞれ単独でバイオマーカーとして使用するには検出精度が低い。
【0041】
本発明の方法によれば、FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーを用いて、健常者と、神経変性疾患の患者とを区別することができる。より詳細には、この方法によれば、被検者が軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いか否かを判定することができる。このため、被検者が軽度認知障害に罹患している可能性があるか否かを簡易に区別することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーを用いて算出された、後述の神経変性疾患の検出のための指標である評価値に基づき、被検者の評価値と、健常者の評価値である基準値とを比較し、被検者の評価値が、健常者の評価値である基準値と同じかそれより低い場合、当該被検者は神経変性疾患に罹患している可能性が低く、よって軽度認知障害に罹患している可能性も低いと判定することができる。
【0043】
別の実施形態では、FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーを用いて算出された、後述の神経変性疾患の検出のための指標である評価値に基づき、被検者の評価値と、健常者の評価値である基準値とを比較し、被検者の評価値が、健常者の評価値である基準値よりも大きい場合、当該被検者は神経変性疾患(軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、又はこれらの組み合わせ)に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0044】
別の実施形態では、被検者の評価値と、神経変性疾患(軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、又はこれらの組み合わせ)の患者の評価値である基準値とを比較し、被検者の評価値が、神経変性疾患患者の評価値である基準値と同じかそれより大きい場合に、当該被検者は神経変性疾患に罹患している可能性が高く、よって軽度認知障害に罹患している可能性があると判定することができる。
【0045】
さらなる実施形態では、被検者の評価値と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値とを比較し、4ついずれかの神経変性疾患患者の評価値である基準値と同じかそれより大きい場合に、当該被検者はその神経変性疾患に罹患している可能性が高いと判定することができる。このように、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の個々の神経変性疾患に罹患している可能性を個別に判定することもできる。
【0046】
別のさらなる実施形態では、被検者が軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定された場合に、本発明の方法はさらに、被検者の評価値と、軽度認知障害の患者の評価値である基準値、アルツハイマー病の患者の評価値である基準値、パーキンソン病の患者の評価値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値である基準値の各々とを比較すること、及び被検者の評価値と4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に被検者が罹患している可能性が高いと決定することを含む。例えば、被検者の評価値が、4種の疾患の基準値のうちの軽度認知障害の患者の評価値である基準値ともっとも差が小さい場合、被検者は軽度認知障害に罹患している可能性が高いと決定することができる。
【0047】
なお、本明細書において、健常者の評価値は、健常者であることの指標となる値であれば特に限定されず、複数の健常者の評価値の平均値、複数の健常者の評価値の中央値などであってよく、好ましくは複数の健常者の評価値の平均値である。神経変性疾患(軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症)の患者の評価値は、神経変性疾患の患者であることの指標となる値であれば特に限定されず、複数の神経変性疾患患者の評価値の平均値、複数の神経変性疾患患者の評価値の中央値などであってよく、好ましくは複数の神経変性疾患患者の評価値の平均値である。例えば、軽度認知障害の患者の評価値は、軽度認知障害の患者であることの指標となる値であれば特に限定されず、複数の軽度認知障害の評価値の平均値、複数の軽度認知障害の評価値の中央値などであってよく、アルツハイマー病の患者の評価値、パーキンソン病の患者の評価値、及びレビー小体型認知症の患者の評価値も同様に定義される。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法は、FABP3及びFABP5からなる2種のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び被検者における評価値と基準値との比較により、前記被検者が神経変性疾患に罹患している可能性が高いか否かを決定することを含む。
【0049】
基準値は健常者の評価値、軽度認知障害の患者の評価値、アルツハイマー病の患者の評価値、パーキンソン病の患者の評価値、又はレビー小体型認知症の患者の評価値であり得る。判定方法については上述した通りである。
【0050】
モデルは計算式を指し、FABP3及びFABP5のうちの一方と定数の和が分母、FABP3及びFABP5のうちの他方と前記定数の和が分子に来る分数を含む方程式であることが好ましい。変換は、バイオマーカーのレベルの数値の変換を指し、例えば指数関数、べき乗関数、及び/又はルート関数の使用が挙げられる。
【0051】
一つの例として、本発明者らは、被検者を区別するための以下の式(1)で表されるモデルを開発した:
SCORE=(a+ZFABP3)/(a+ZFABP5) (1)
式中、
ZFABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
ZFABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数すなわち正の数であり、好ましくはaは正の整数又は正の小数であり、より好ましくはaは1から10までの範囲の数である。例えば、aは1から10までのいずれかの整数であり得る)。
【0052】
上記SCOREが、神経変性疾患の検出のための指標である評価値または基準値に使用される。
【0053】
式(1)において、健常者ではSCOREの値が1であるが、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の患者群ではいずれもSCOREの平均値が1よりも大きい。式(1)にFABP3及びFABP5の2つのバイオマーカーのレベルを代入した場合、SCOREの値は、健常者群の平均値と軽度認知障害の患者群の平均値、健常者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、健常者とパーキンソン病患者群の平均値、健常者群の平均値とレビー小体型認知症の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とパーキンソン病患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、アルツハイマー病の患者群の平均値とパーキンソン病患者群の平均値、パーキンソン病患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値の間でそれぞれ有意差があり、前者よりも後者は有意に大きい。
【0054】
このため、式(1)で求められたSCOREの値を指標として、被検者がこれらのいずれかの神経変性疾患に罹患しているか否かを決定することができる。
【0055】
例えば、式(1)の被検者のSCOREの値と、健常者のSCOREの値の平均値である基準値すなわち1とを比較し、被検者のSCOREの値が、1と同じかそれより低い場合、当該被検者は神経変性疾患に罹患している可能性が低く、よって軽度認知障害に罹患している可能性も低いと判定することができる。
【0056】
式(1)の被検者のSCOREの値と、神経変性疾患(軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、又はこれらの組み合わせ)の患者のSCOREの値の平均値である基準値とを比較し、被検者のSCOREの値が、神経変性疾患患者のSCOREの値の平均値である基準値と同じかそれより大きい場合に、当該被検者は神経変性疾患に罹患している可能性が高く、よって軽度認知障害に罹患している可能性があると判定することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、式(1)の被検者のSCOREの値と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症の患者のSCOREの値の平均値である基準値とを比較し、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の個々の神経変性疾患に罹患している可能性を個別に判定することもできる。例えば、被検者のSCOREの値が軽度認知障害の患者のSCOREの値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、被検者は軽度認知障害に罹患している可能性が高いと決定することができる。被検者のSCOREの値がアルツハイマー病の患者のSCOREの値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、被検者はアルツハイマー病に罹患している可能性が高いと決定することができる。被検者のSCOREの値がパーキンソン病の患者のSCOREの値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、被検者はパーキンソン病に罹患している可能性が高いと決定することができる。被検者のSCOREの値がレビー小体型認知症の患者のSCOREの値である基準値と同じかそれよりも大きい場合に、被検者はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定することができる。
【0058】
別のさらなる実施形態では、被検者が軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はレビー小体型認知症に罹患している可能性が高いと決定された場合に、本発明の方法はさらに、式(1)の被検者のSCOREの値と、軽度認知障害の患者のSCOREの値である基準値、アルツハイマー病の患者のSCOREの値である基準値、パーキンソン病の患者のSCOREの値である基準値、及びレビー小体型認知症の患者のSCOREの値である基準値の各々とを比較すること、及び被検者のSCOREの値と4種の疾患の基準値の各々との数値の差が一番小さい疾患に被検者が罹患している可能性が高いと決定することを含む。
【0059】
本願では、バイオマーカータンパク質の式(1)、後述の式(2)、ならびに後述の式(3)で表される多変量モデルを構築したところ、受信者操作特性(ROC)分析の曲線下面積(AUC)が高い(0.8を超える)極めて信頼性の高い神経変性疾患の検出又は判定が可能であることを見出した。ROC分析は非限定的な分析例であり、適切な参照物質の基準に基づく真の分類と各試験患者の分類とを比較することを含み得る。このような方法での複数の患者の分類は、感度及び特異性の測定の導出を可能にし得る。感度は、一般的に、真に陽性であるものの全ての中での正確に分類された患者の割合であり、特異性は、真に陰性であるものの全ての中での正確に分類された症例の割合である。一般的に、トレードオフは、陽性分類を決定するために選択された閾値に応じて、感度と特異性の間に存在し得る。低い閾値は、一般的に、高感度だが、比較的低い特異性を有し得る。対照的に、高い閾値は、一般的に、低感度だが、比較的高い特異性を有し得る。ROC曲線は、感度対特異性のプロットを水平に反転することによって作成することができる。得られた反転横軸は、偽陽性画分であり、1から差し引いた特異性に等しい。ROC曲線下面積(AUC)は、可能性のある特異性の全範囲にわたる平均感度、又は可能性のある感度の全範囲にわたる平均特異性として解釈することができる。AUCは、全体の精度の尺度を表し、全ての可能な解釈の閾値を網羅する精度の尺度も表す。
【0060】
バイオマーカータンパク質の数を増やすとAUCが0.9以上となり、より1に近づきうる。一つのバイオマーカーではAUCが0.8以下であっても、複数のバイオマーカータンパク質を組み合わせる等して、AUCが0.8を超え、好ましくは0.9を超える神経変性疾患の検出又は判定に使用できる限り、神経変性疾患の検出又は判定のためのバイオマーカーとして有効である。
【0061】
本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法には、FABP3及びFABP5に加えて、1又は2種以上のバイオマーカーを使用してもよい。一般に、使用するバイオマーカーの数が多いほど、感度(有病正診率)及び特異度(無病正診率)をより高めることができ、検出精度は増大する。
【0062】
いくつかの実施形態において、本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法は、FABP3及びFABP5の2種類バイオマーカーに加え、さらにTau、NF-L、α-Synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lから成る群から選択される少なくとも1種類以上のバイオマーカーのレベルをモデルに適用及び/ 又は変換し、神経変性疾患の検出のための指標である評価値を生成すること、及び被検者の評価値と基準値との比較により、神経変性疾患に罹患している可能性が高いか否かを決定することをさらに含む。
【0063】
基準値は健常者の評価値、軽度認知障害の患者の評価値、アルツハイマー病の患者の評価値、パーキンソン病の患者の評価値、又はレビー小体型認知症の患者の評価値であり得る。判定方法については上述した通りである。 Microtubule-associated protein tau (Tau, Uniprot アクセッション番号: P10636)、Alpha-synuclein (α-Synuclein, Uniprot アクセッション番号: P37840)、Amyloid beta protein (Aβ-42, Uniprot アクセッション番号: Q9BYY9)、Glial fibrillary acidic protein (GFAP, Uniprot アクセッション番号: P14136)、及びNeurofilament light polypeptide (NF-L, Uniprot アクセッション番号: P07196)はそれぞれ単独でバイオマーカーとして使用するには検出精度が低いが、Tau、NF-L、GFAPは神経変性疾患の患者では健常者よりも増大し、α-Synuclein、Aβ-42は神経変性疾患の患者では健常者よりも減少する傾向にある。
【0064】
一つの例として、被検者と神経変性疾患患者、又は神経変性疾患患者同士を区別するためのモデルは以下の式(2)で表される:
SCORE=(a+ZFABP3)(a+ZTau)x(a+ZNF-L)y(a+ZGFAP)z/{(a+ZFABP5)×(a+Za-syn)m×(a+ZAβ-42)n}×a(m+n-x-y-z) (2)
(式中、
ZFABP3は(被検者の生物試料中のFABP3濃度-健常者の生物試料中のFABP3平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP3濃度の標準偏差)、
ZTauは(被検者の生物試料中のTau濃度-健常者の生物試料中のTau平均濃度)/(健常者の生物試料中のTau濃度の標準偏差)、
ZNF-Lは(被検者の生物試料中のNF-L濃度-健常者の生物試料中のNF-L平均濃度)/(健常者の生物試料中のNF-L濃度の標準偏差)、
ZGFAPは(被検者の生物試料中のGFAP濃度-健常者の生物試料中のGFAP平均濃度)/(健常者の生物試料中のGFAP濃度の標準偏差)、
ZFABP5は(被検者の生物試料中のFABP5濃度-健常者の生物試料中のFABP5平均濃度)/(健常者の生物試料中のFABP5濃度の標準偏差)、
Za-synは(被検者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度-健常者の生物試料中のα-シヌクレイン平均濃度)/(健常者の生物試料中のα-シヌクレイン濃度の標準偏差)、
ZAβ-42は(被検者の生物試料中のAβ-42濃度-健常者の生物試料中のAβ-42平均濃度)/(健常者の生物試料中のAβ-42濃度の標準偏差)、
aはゼロよりも大きい数すなわち正の数であり、好ましくはaは正の整数又は正の小数であり、より好ましくはaは1から10までの範囲の数である。例えば、aは1から10までのいずれかの整数であり得る。
x, y, z, m, nは独立して、式(2)においてこれらの乗数の底において関連付けられているTau、NF-L、GFAP、α-Synuclein、及びAβ-42のバイオマーカーの評価値が計算される場合は1であり、計算されない場合は0である。
【0065】
上記SCOREが、神経変性疾患の検出のための指標である評価値または基準値に使用される。
【0066】
式(2)において、健常者ではSCOREの値が1であるが、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の患者ではいずれもSCOREの平均値が1よりも大きい。
【0067】
いくつかの実施形態では、本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法において、被検者の生物試料中のFABP3、FABP5、α-synuclein及びAβ-42の4つのバイオマーカーのレベルを測定する。式(2)にFABP3、FABP5、α-synuclein及びAβ-42の4つのバイオマーカーのレベルを代入した場合、SCOREの値は、健常者群の平均値と軽度認知障害の患者群の平均値、健常者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、健常者とパーキンソン病の患者群の平均値、健常者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、アルツハイマー病の患者群の平均値とパーキンソン病の患者群の平均値、アルツハイマー病の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、パーキンソン病の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値の間でそれぞれ有意差があり、前者よりも後者は有意に大きい。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法において、被検者の生物試料中のFABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPの5つのバイオマーカーのレベルを測定する。式(2)にFABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPの5つのバイオマーカーのレベルを代入した場合、SCOREの値は、健常者群の平均値と軽度認知障害の患者群の平均値、健常者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、健常者群の平均値とパーキンソン病患者群の平均値、健常者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、アルツハイマー病の患者群の平均値とパーキンソン病患者群の平均値、パーキンソン病患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値の間でそれぞれ有意差があり、前者よりも後者は有意に大きい。
【0069】
いくつかの実施形態では、本発明の被検者における神経変性疾患の検出方法において、被検者の生物試料中のFABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lの6つのバイオマーカーのレベルを測定する。式(2)にFABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lの6つのバイオマーカーのレベルを代入した場合、SCOREの値は、健常者群の平均値と軽度認知障害の患者群の平均値、健常者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、健常者とパーキンソン病患者群の平均値、健常者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とアルツハイマー病の患者群の平均値、軽度認知障害の患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値、アルツハイマー病の患者群の平均値とパーキンソン病患者群の平均値、パーキンソン病患者群の平均値とレビー小体型認知症の患者群の平均値の間でそれぞれ有意差があり、前者よりも後者は有意に大きい。
【0070】
このように、FABP3、FABP5にさらにTau、 GFAP、α-Synuclein、Aβ-42、及びNF-Lのバイオマーカーのうちの1種又は2種以上を組み合わせると、神経変性疾患軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、及びレビー小体型認知症(DLB)の4つの型を個別に区別することができる。
【0071】
このため、本発明の検出方法では、まず第1段階としてFABP3及びFABP5を用いて、軽度認知障害を含む神経変性疾患の罹患可能性を検査又は判定し、第1段階の結果が陽性の場合に、FABP3及びFABP5に加えてTau、GFAP、α-Synuclein、Aβ-42、及びNF-Lのバイオマーカーのうちの1種又は2種以上の追加のバイオマーカーのレベルを調べて、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、及びレビー小体型認知症(DLB)の4つの型を個別に区別したり、軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、又はレビー小体型認知症(DLB)への進行の可能性を検査又は判定することができる。
【0072】
本発明の検出方法は、従来の神経変性疾患の診断方法に代わりに、又は従来の神経変性疾患の診断方法と組み合わせて、神経変性疾患の検出若しくは診断に、又は神経変性疾患の検出若しくは診断の補助に適用可能である。
【0073】
本発明の検出方法は、患者から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のペプチドの発現の経時変化を調べることにより行うこともできる。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、患者の生活の質(QOL)を損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血漿もしくは血清を試料として用いる場合、約1日~約1年の間で採血を行うことが好ましい。
【0074】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる神経変性疾患の検出方法は、前回サンプリングと当回サンプリングとの間に、被検者である患者に対して該疾患の治療措置が講じられた場合に、当該措置による治療効果を評価するのに用いることができる。即ち、治療の前後にサンプリングした試料について、治療後の状態が治療前の状態と比較してFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質の低下又は上昇(病態の改善)が認められると判定された場合に、当該治療の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較してFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質の低下又は上昇(病態の改善)が認められない、あるいはさらに悪化していると判定された場合には、当該治療の効果がなかったと評価することができる。
【0075】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる神経変性疾患の検出のための検査方法は、健康食品等の摂取、禁煙、運動療法、有害環境からの隔離等、神経変性疾患の罹患リスク低減措置後の予防効果を評価するのに用いることができる。即ち、罹患リスクの低減措置の施行の前後にサンプリングした試料について、施行後の状態が施行前の状態と比較してFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質の低下又は上昇(病態の発症もしくは進行)が認められないと判定された場合に、当該措置の施行の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較してFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質の上昇又は低下(病態の改善)が認められない、あるいはさらに病態が悪化していると判定された場合には、当該措置の施行の効果がなかったと評価することができる。
【0076】
従って、本発明のFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質ならびに方法は、神経変性疾患を診断又は検出するマーカーのみならず、神経変性疾患の予後を予測するマーカー、ならびに治療効果判定のマーカーともなり得る。すなわち、本発明のFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質ならびに方法は、神経変性疾患の治療の創薬標的分子のスクリーニングに、及び/又は患者(リスポンダー)の選別もしくは治療薬の投与量(用量)の調節のためのコンパニオン診断薬として使用することができる。
【0077】
特筆すべきは、後述の実施例にて示すように、本発明によれば、現在の認知機能テストでは不可能であった、治療薬投与後の極めて早い時期での治療薬の選択とリスポンダーの選択が可能となる。
【0078】
また、本発明のFABP3及びFABP5、並びに任意選択のその他のバイオマーカータンパク質ならびに方法は、物質のスクリーニング方法に使用できる。この場合の物質には、神経変性疾患を未病段階で防止する健康食品やトクホ製品などの食品類、神経変性疾患を診断又は検出するマーカー類、及び罹患後の神経変性疾患を治療する治療薬等の医薬品類が含まれる。
【0079】
本発明は、FABP3タンパク質及びFABP5タンパク質に対する抗体を用いた神経変性疾患の検出又は判定方法を含む。かかる方法は、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、上記質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度にバイオマーカータンパク質を検出することができる点で、特に有用である。具体的には、FABP3及びFABP5を用いた検査でMCI, AD, PD, DLBの可能性が明らかとなり、推定疾患を推定可能である。その後、FABP3、FABP5と、Tau、GFAP、α-Synuclein、Aβ-42、及びNF-Lのバイオマーカーのうちの1種又は2種以上を用いた検査で、疾患の特定を試みることが期待される。
【0080】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein及びAβ-42のそれぞれに対する抗体を含む、被検者が以下の(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(6)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、(7)アルツハイマー病の患者とレビー小体型認知症の患者、又は(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者、のいずれであるかを区別するための検出又は判定剤のセットが提供される。
当該検出又は判定剤のセットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPのそれぞれに対する抗体を含む、被検者が以下の(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とアルツハイマー病の患者、(6)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(7)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、又は(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者のいずれであるかを区別するための検出又は判定剤のセットが提供される。当該検出又は判定剤のセットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lのそれぞれに対する抗体を含む、(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とアルツハイマー病の患者、(6)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(7)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者、のいずれであるかを区別するための検出又は判定剤のセットが提供される。当該検出又は判定剤のセットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein及びAβ-42のそれぞれに対する抗体を含む、被検者が以下の(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(6)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、(7)アルツハイマー病の患者とレビー小体型認知症の患者、又は(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者、のいずれであるかを区別するための検出又は判定キットが提供される。当該検出又は判定キットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、及びGFAPのそれぞれに対する抗体を含む、被検者が以下の(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とアルツハイマー病の患者、(6)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(7)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、又は(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者のいずれであるかを区別するための検出又は判定キットが提供される。当該検出又は判定キットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP、及びNF-Lのそれぞれに対する抗体を含む、(1)~(8)のいずれかの中の2つの選択肢:(1)健常者と軽度認知障害の患者、(2)健常者とアルツハイマー病の患者、(3)健常者とパーキンソン病の患者、(4)健常者とレビー小体型認知症の患者、(5)軽度認知障害の患者とアルツハイマー病の患者、(6)軽度認知障害の患者とレビー小体型認知症の患者、(7)アルツハイマー病の患者とパーキンソン病の患者、(8)パーキンソン病の患者とレビー小体型認知症の患者、のいずれであるかを区別するための検出又は判定キットが提供される。当該検出又は判定キットを用いた検出又は判定は、被検者の生物試料を用いて、例えば式(2)を用いた上述の神経変性疾患の検出方法により行うことができる。
【0086】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0088】
1.被検者及び血液採取
国立病院機構仙台西多賀病院にて、健常者30名、MCI患者110名、AD患者146名、PD患者85名、DLB患者46名ら、3mLの血液を採取した。採取した血液を、0.5~1.0hr静置した後、3,000rpmで10分間室温にて遠心分離し、血清を得た。上清を使用するまで-80℃で分けて保存した。
【0089】
MCIの診断基準にはNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA/AA)を採用した。ADの診断基準にはThe National Institute of Neurologic, Communicative Disorders and Stroke AD and Related Disorders Association (NINCDS-ADRDA) を採用した。PDの診断基準にはMovement Disorders Societyを採用し、ALS患者の診断基準にはEl Escorial基準を採用した。またDLBの診断基準にはDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)基準を採用した。
【0090】
2.抗体を用いた分析
血漿中における各バイオマーカーの測定には、超高感度オートELISA Simoa HD-X システム(Quanterix社)を用いた。まず捕捉抗体をSimoa磁気ビーズの表面にコートし、一方の検出用抗体をビオチン化した。次にこれらの捕捉抗体及び検出抗体を用い、各標品タンパク質を用い検量線を作成、血漿中のバイオマーカー濃度を算出した。また血漿検体はボルテックス後、14,000 x g で遠心した上清を5倍から20倍に希釈し、測定を行った。
【0091】
3.統計解析
統計解析にはPrismソフトウェアを用いた。構築したモデルの診断能の評価のためにROC分析を実施した。Rのパッケージである”Epi パッケージ“(A package for statistical analysis in epidemiology、Version 1.149、http://cran.r-project.org/web/packages/Epi/index.html)を用いた。AUCはROC曲線から計算した。診断のための最適カットオフ値は、Cancer 1950;3:32-5のYouden’s indexに従って決定した。
【0092】
4.バイオマーカータンパク質の同定
血漿中における各バイオマーカーの測定には、超高感度オートELISA Simoa HD-X システム(Quanterix社)を用いた。
【0093】
5.各種神経変性疾患におけるバイオマーカータンパク質の診断性能
神経変性疾患患者における健常者に対するROC曲線の作成及びAUC値の算出はPrismソフトウェアを用いた。
【0094】
6.結果
まず、血漿中のFABP3の1つのバイオマーカータンパク質のみの濃度を測定し、統計解析を行った。
【0095】
その結果、図1に示されるように、健常対照群と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の各々の群の間には血漿FABP3濃度に有意差がなかった。
【0096】
図2(A)-(D)及び表1によっても、健常者と、軽度認知障害の患者群、アルツハイマー病の患者群、パーキンソン病の患者群、及びレビー小体
型認知症の患者群の各々とを区別することはできなかった。
【0097】
【0098】
次に、FABP3及びFABP5の2つのバイオマーカータンパク質に対する抗体を用いて、式(1)で表されるモデルを用いて統計解析を行った。
【0099】
その結果、
図3(A)-(D)に示されるように、SCORE値により健常対照群(SCORE=1)と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の各々の群のSCORE値(SCORE>1)に有意差があり、健常対照群と、4つの神経変性疾患群とを区別することができた。
【0100】
また
図4(A)-(I)及び表2によると、(1)健常者群と軽度認知障害の患者群、(2)健常者群とアルツハイマー病の患者群、(3)健常者群とパーキンソン病の患者群、(4)健常者群とレビー小体
型認知症の患者群、(5)軽度認知障害の患者群とアルツハイマー病の患者群、(6)軽度認知障害の患者群とパーキンソン病の患者群、(7)軽度認知障害の患者群とレビー小体
型認知症の患者群、(8)アルツハイマー病の患者群とパーキンソン病の患者群、及び(9)パーキンソン病の患者群とレビー小体
型認知症の患者群をそれぞれ区別することができた。
【0101】
【0102】
次に、FABP3、FABP5、α-synuclein及びAβ-42の4つのバイオマーカーのそれぞれに対する抗体を用いて、式(2)で表されるモデルを用いて統計解析を行った。
【0103】
その結果、
図5(A)-(D)に示されるように、SCORE値により健常対照群(SCORE=1)と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の各々の群のSCORE値(SCORE>1)に有意差があり、健常対照群と、4つの神経変性疾患群とを区別することができた。
【0104】
また
図6(A)-(
H)及び表3によると、(1)健常者群と軽度認知障害の患者群、(2)健常者群とアルツハイマー病の患者群、(3)健常者群とパーキンソン病の患者群、(4)健常者群とレビー小体
型認知症の患者群、(5)軽度認知障害の患者群とレビー小体
型認知症の患者群、(6)アルツハイマー病の患者群とパーキンソン病の患者群、(7)アルツハイマー病の患者群とレビー小体
型認知症の患者群、及び(8)パーキンソン病の患者群とレビー小体
型認知症の患者群をそれぞれ区別することができた。
【0105】
【0106】
次に、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAPの5つのバイオマーカーのそれぞれに対する抗体を用いて、式(2)で表されるモデルを用いて統計解析を行った。
【0107】
その結果、
図7(A)-(D)に示されるように、SCORE値により健常対照群(SCORE=1)と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の各々の群のSCORE値(SCORE>1)に有意差があり、健常対照群と、4つの神経変性疾患群とを区別することができた。
【0108】
また
図8(A)-(
H)及び表4によると、(1)健常者群と軽度認知障害の患者群、(2)健常者群とアルツハイマー病の患者群、(3)健常者群とパーキンソン病の患者群、(4)健常者群とレビー小体
型認知症の患者群、(5)軽度認知障害の患者群とアルツハイマー病の患者群、(6)軽度認知障害の患者群とレビー小体
型認知症の患者群、(7)アルツハイマー病の患者群とパーキンソン病の患者群、及び(8)パーキンソン病の患者群とレビー小体
型認知症の患者群をそれぞれ区別することができた。
【0109】
【0110】
次に、FABP3、FABP5、α-synuclein、Aβ-42、GFAP、NF-Lの6つのバイオマーカーのそれぞれに対する抗体を用いて、式(2)で表されるモデルを用いて統計解析を行った。
【0111】
その結果、
図9(A)-(D)に示されるように、SCORE値により健常対照群(SCORE=1)と、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びレビー小体型認知症の各々の群のSCORE値(SCORE>1)に有意差があり、健常対照群と、4つの神経変性疾患群とを区別することができた。
【0112】
また
図10(A)-(
H)及び表5によると、(1)健常者群と軽度認知障害の患者群、(2)健常者群とアルツハイマー病の患者群、(3)健常者群とパーキンソン病の患者群、(4)健常者群とレビー小体
型認知症の患者群、(5)軽度認知障害の患者群とアルツハイマー病の患者群、(6)軽度認知障害の患者群とレビー小体
型認知症の患者群、(7)アルツハイマー病の患者群とパーキンソン病の患者群、及び(8)パーキンソン病の患者群とレビー小体
型認知症の患者群をそれぞれ区別することができた。
【0113】
【0114】
以上の結果から、これらのバイオマーカーの血中濃度から多変量回帰モデルで得られた予測値が、神経変性疾患の判定又は早期診断のための検査方法に有用であることが示唆された。