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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ブレーキ力発生器および作動方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20241010BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 13/16 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20241010BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/171 Z
B60T8/1755 Z
B60T8/1761
B60T8/40 C
B60T13/16
B60T17/18
B60T13/122 C
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020067293
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2020183221
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】10 2019 204 904.4
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】シュン・ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ドロトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・フォレルト
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102014200071(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/171
B60T 8/1755
B60T 8/1761
B60T 8/40
B60T 13/16
B60T 17/18
B60T 13/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のブレーキシステム(31)のために油圧ブレーキ圧を自動的に生成するためのブレーキ力発生器(13)であって
油圧液を収容し、加圧するための少なくとも1つのチャンバ(15)を有するプランジャシステム(14)と、
プランジャシステム(14)の少なくとも1つのチャンバ(15)の容積を変化させ、これにより圧力上昇を引き起こすように構成されたブレーキ駆動装置(17)と、
少なくとも1つのチャンバ(15)に配置しており、少なくとも1つのチャンバ(15)内の圧力上昇を測定し、圧力値信号を送出するための少なくとも1つの圧力センサ(18)と、
電子ブレーキ要求(1)に応答して、および圧力センサ(18)が測定した実際圧力(2)に応答して、圧力を上昇させるようにブレーキ駆動装置(17)を制御するように構成した制御装置(19)と、
を備えるブレーキ力発生器(13)において、
制御装置(19)は、ブレーキ駆動装置(17)を制御するために、
a)電子ブレーキ要求(1)を受けるステップと、
b)プランジャシステム(14)の少なくとも1つのチャンバ(15)内の圧力を監視する少なくとも1つの圧力センサ(18)から実際圧力(2)を受けるステップであって、実際圧力(2)に加えて、経時的な実際の実際圧力(2)の勾配も受けるまたは測定するステップと、
c)電子ブレーキ要求(1)および実際圧力(2)を考慮して、ブレーキ力発生器(13)のブレーキ駆動装置(17)を制御するための制御信号(33)を計算するステップであって、経時的な実際圧力(2)の勾配のための上限が設定されるように制御信号(33)を計算するステップと、
d)チャンバ(15)内のブレーキ圧を調整するためにブレーキ駆動装置(17)に制御信号を出力するステップと、
を実行する、
ブレーキ力発生器(13)
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ力発生器(13)において、
前記圧力センサ(18)が、1ms[ミリ秒]未満の時間分解能を有する、ブレーキ力発生器(13)。
【請求項3】
請求項に記載のブレーキ力発生器(13)において、
前記圧力センサ(18)が、0.2ms未満の時間分解能を有する、ブレーキ力発生器(13)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のブレーキ力発生器(13)において、
少なくとも2つのチャンバ(15)を備え、それぞれのチャンバ(15)に少なくとも1つの圧力センサ(18)を配置した、ブレーキ力発生器(13)。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のブレーキ力発生器(13)において、
少なくとも2つのチャンバ(15)を有し、1つのチャンバ(15)にのみ圧力センサ(18)を配置した、ブレーキ力発生器(13)。
【請求項6】
自動車のブレーキシステム(31)のためのブレーキ圧を自動的に生成するためのブレーキ力発生器(13)を作動する方法であって、
a)電子ブレーキ要求(1)を受けるステップ
b)プランジャシステム(14)の少なくとも1つのチャンバ(15)内の圧力を監視する少なくとも1つの圧力センサ(18)から実際圧力(2)を受けるステップであって、実際圧力(2)に加えて、経時的な実際の実際圧力(2)の勾配も受けるまたは測定するステップと
c)電子ブレーキ要求(1)および実際圧力(2)を考慮して、ブレーキ力発生器(13)のブレーキ駆動装置(17)を制御するための制御信号(33)を計算するステップであって、経時的な実際圧力(2)の勾配のための上限が設定されるように制御信号(33)を計算するステップ
d)チャンバ(15)内のブレーキ圧を調整するためにブレーキ駆動装置(17)に制御信号を出力するステップ
を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキ力発生器(13)を作動する方法において、
ステップc)において、実際圧力(2)の上限が設定されるように制御信号(33)を計算する、方法。
【請求項8】
請求項1~5までのいずれか項に記載のブレーキ力発生器(13)を備える、自動車のためのブレーキシステム(31)。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本文で説明する装置と本文で説明する方法は、ペダルを分離した、またはペダルなしの冗長的なブレーキシステムにおけるハードウェア保護対策を含む。この本文で説明する装置と本文で説明する方法は、特にいわゆる「バイワイヤ」ブレーキシステムに関連する。この方法および装置は、特に、ハードウェア保護手段を表し、このハードウェア保護手段は圧力制御によって達成する。
【0002】
ますます多くの人々が、車両を自身で制御する必要なしに運転することに関心を持っている。ユーザの観点から、自律的な乗客輸送は、バスおよび列車よりも遥かに高い柔軟性を可能にする。同時に、自律的な乗客輸送は、タクシーと比較して著しいコスト削減の可能性を約束する。
【0003】
しかしながら、自律的な乗客輸送は、ブレーキシステムの設計に関して自動車製造業者に新たな課題を提起する。今日の自動車ブレーキシステムは、車両運転者がブレーキ力生成のために車輪に絶えず油圧を加えることによって制御されるよう設計されている。ただし、ブレーキシステムが故障した場合には、運転者が、ブレーキペダルを操作することによって、車両の車輪に依然として十分なブレーキ力を加えることができることを確保している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動ブレーキシステムまたは自律ブレーキシステムもしくは半自律ブレーキシステムを設計する場合、また電気的にのみ制御されるブレーキシステム(「バイワイヤ」)の場合にも、これらのブレーキシステムが、通常、一般ユーザの観点から非常に不自然なブレーキ特性を有することが多いことが課題である。このようなブレーキ特性は、特に、自動ブレーキシステムが、通常とは異なり、もしくは通常のブレーキシステムと異なり、ブレーキ圧の不意の上昇に全く対応できないことにより生じる。ブレーキ圧の不意の上昇は、例えば、ブレーキ圧を要求した(ブレーキ要求)結果としてブレーキ圧が過剰に上昇することも意味する。例えば、ブレーキペダルを用いてユーザが操作できる手動ブレーキの場合、ブレーキ圧の予期せぬ上昇もしくは予期せぬ強い上昇に対する直接の反応は、通常、ユーザが全く無意識にブレーキペダルをわずかに解放することによって達成される。このような無意識的行為は、通常、自動または自律のブレーキシステムでは実現不可能であるか、または実現に労力を要する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような背景に対して、特に有利な自動ブレーキ力発生器およびブレーキシステムのための特に有利な作動方法を本文で説明する。
【0006】
自動車のブレーキシステムのために油圧ブレーキ圧を自動的に生成するためのここに説明するブレーキ力発生器は、油圧液を収容し、加圧するための少なくとも1つのチャンバを有するプランジャシステムとブレーキドライブとを備えている。関連する二次構成要素を含む構成ユニットは、ここでは「ブレーキ力発生器」と呼ぶ。「プランジャシステム」という用語は、主としてブレーキ力発生器の油圧構成要素を指す。ブレーキ駆動装置は、プランジャシステムの少なくとも1つのチャンバの容積を変化させ、それによって圧力上昇を引き起こすように構成している。ブレーキ圧発生器は、少なくとも1つのチャンバ内の圧力上昇を測定し、圧力値信号を発信するために、少なくとも1つのチャンバに配置した少なくとも1つの圧力センサをさらに有する。さらに、ブレーキ圧発生器は、電子ブレーキ要求に応答して、および圧力センサで測定した実際の圧力に応答して、圧力を上昇させるためにブレーキ駆動装置を制御するように構成された制御装置を有する。
【0007】
いわゆる「連結されたブレーキシステム」または「補助ブレーキシステム」が知られている。分離されたブレーキシステムまたはパワーブレーキシステムも知られている。補助ブレーキシステムでは、ブレーキのために必要とされるクランプ力は、ブレーキブースタにより支援された運転者の足の力によって車輪ブレーキに加えられる。パワーブレーキシステムでは、必要なクランプ力が、貯蔵された圧縮空気によって車輪ブレーキに加えられ、貯蔵された圧縮空気は圧縮機によって、または油圧によって生成される。このようなパワーブレーキシステムは、例えばトラック(LKW)に広く使用されている。
【0008】
パワーブレーキシステムは、規則的に切り離されるように構成されている。これは、ブレーキペダルが実際のブレーキから切り離され、ブレーキペダルから車輪ブレーキへの直接的な(特に機械的な)動力伝達がないことを意味する。分離して構成されたブレーキシステムは、「バイワイヤ」構成のブレーキシステムとも呼ぶ。「バイワイヤ」は「電信」または「有線」を意味する。これにより、ブレーキシステムが分離されている場合に、ブレーキをかけることが望ましいという情報が、ブレーキ力から分離された状態でブレーキペダルから車輪ブレーキに伝達される。ブレーキ力はこの情報に基づいて生成される。
【0009】
このような分離ブレーキシステムでは、いわゆる「ペダル感覚シミュレータ」が規則的に使用され、ペダル感覚シミュレータはブレーキペダルに対する実際のペダル感覚をシミュレートし、ユーザは、生成されたブレーキ作用に関するフィードバックを通常の形式で得る。ブレーキシステムが分離されている場合には、ただ1つのペダル感覚シミュレータを有する変形例、および複数のペダル感覚シミュレータを有する変形例が可能であり、一般的である。
【0010】
しかしながら、特に広く知られている設計の変形例では、分離ブレーキシステム(上述のように「バイワイヤ」ブレーキシステムとも呼ぶ)も実施され、依然として油圧作用が予備的に提供される。システム故障の場合、このような実施形態では、従来のペダル結合ブレーキシステムのように動作する。こうした理由から、このようなブレーキシステムでは、分離/「バイワイヤ」構成要素の冗長性がしばしば省かれる。
【0011】
したがって、このような広く知られているブレーキシステムは、従来の補助ブレーキシステムの機能形式による付加的な安全機能が、高度にまたは完全に自律的な運転では作動しないので、高度に自律的な車両および完全に自律的な車両(高度に自動化された車両)で使用するためには、限定的にしか適していない。したがって、高度にまたは完全に自律的な機能を有する今日の車両では、さらなる油圧ブレーキユニットを組み込む必要がある場合が多い。
【0012】
高い自動化レベルを有する車両(すなわち、高度に自動化された自律車両)のいくつかの変形例では、運転者は、緊急時(車両の自律運転機能が故障または部分的に故障している場合)に、少なくともある程度の反応時間で手動でブレーキをかけることを考慮することができる。これは、例えば、運転者が常に反応準備ができている必要があり、非常ブレーキをかけることもできるよう、車両の自動化レベルが設定されている場合に当てはまる。自動化レベルが高すぎ、特に、運転者が介入するのに必要な反応時間が短か過ぎるので、運転者がもはや非常ブレーキをかけることを考慮しない場合には、全ての安全関連システム(例えば、ブレーキ、ステアリングなど)を(すなわち、作用チェーン全体にわたって)冗長的に実行することができる。このことは、(ブレーキ)システムの個々の故障時に車両を常に安全な状態に移行しなければならないので重要である。
【0013】
高い自動化レベルを有する車両用ブレーキシステムは、このようなブレーキシステムに極めて高い圧力および高い圧力勾配が生じるという特別な課題を設計者に課すことが多い。高い圧力および高い圧力勾配は、ブレーキシステムに対する高い負荷を意味する。
【0014】
これらの高い負荷は、一般に、ブレーキシステムの自律的な操作のための弁の自動操作によってブレーキシステムの剛性が著しくに高まることによって生じる。この課題は、ここに記載するブレーキ圧力発生器によって解決される。
【0015】
ブレーキシステムの剛性が高まるという問題は、ペダルに結合されたブレーキシステムにおけるABSシステム(アンチロックブレーキシステム)およびESPシステム(エレクトリックスタビリティコントロールのためのシステム)の領域においても既に同様に生じているが、しかしながら軽減されている。なぜならば、そのようなシステムは一般に電子的なブレーキ作用も実施し、この場合に弁を著しい遅延なしに切り換え、したがって、ブレーキシステムの剛性に急激な変化も生じるからである。結果として生じる圧力上昇/変化は、関係する運転者によってほとんど無意識に調整され、運転者は、一定のペダル力で対応して操作をわずかに減少/適合させる。
【0016】
それら弁の切換により増大した剛性は、特に、ABS制御中に貯蔵チャンバ内に排出された容積が再びプランジャチャンバの方向に戻されるという事実に関連して影響を及ぼす。
【0017】
この状況では、ABS/ESPがそれら弁を閉じたことをプランジャは把握していないので、ブレーキ圧発生器のプランジャの不適切な調整および質量慣性は、プランジャがさらに前方に押されるように作用する。このことに関連する情報はABS/ESPによって提供することができるが、しかしながら、バスシステムを介した伝送に起因する待ち時間に基づいて時間遅延を伴ってしかプランジャシステムに提供されず、したがって、最適な調整のために使用することができない。
【0018】
ここで説明するブレーキ圧発生器は、特に油圧ユニットに接続されるモジュールであり、その油圧ユニットは、ブレーキ力発生器によって個別に操作される車輪ブレーキに動力を送る。ブレーキ力発生器は、ブレーキ圧発生器または圧力発生器とも呼ぶ。ブレーキ力発生器(既に表現されているように)自動車を運転するための自律システムまたは「バイワイヤ」システムに組み込むことができる、自動化されたもしくは自律的なブレーキ力発生器である。
【0019】
少なくとも1つのチャンバを有するプランジャシステムは、一般に、チャンバの容積を増減するためにピストンをチャンバ内で移動させることができるピストンシステムである。複数のチャンバを軸に沿って前後に配置し、プランジャシステム内で一緒に操作する(特に押圧する)ことができる。プランジャシステムは、一般に、少なくともいずれか1つのチャンバを通って延在するプッシュロッドを有する。この場合、好ましくは、複数のチャンバを互いに制限する少なくとも1つのチャンバ隔壁が存在し、プッシュロッドは、移動可能にチャンバ隔壁内で密封されている。プッシュロッドが通過するチャンバは、「プッシュロッドチャンバ」と呼ぶこともできる。このようなチャンバに接続されたブレーキシステムの圧力回路は、「プッシュロッド回路」と呼ぶこともできる。
【0020】
ブレーキ駆動装置は、好ましくは電気駆動モータであり、電気駆動モータは一般に回転運動を発生させ、スピンドル駆動装置を介して回転運動を直線運動に変換する。
【0021】
制御装置は、上位の制御器またはペダルからブレーキ要求を受け、圧力センサによって記録された実際の圧力を考慮して、ブレーキ駆動のための特に適切な制御信号を生成する一種の制御器である。ブレーキ要求は、(電子的な)制動信号の形式で提供することができる。
【0022】
ブレーキ力発生器は、圧力センサが1ms[ミリ秒]未満、好ましくは0.2ms未満、特に好ましくは0.1ms未満の時間分解能を有する場合に特に有利である。
【0023】
極めて微細な時間分解能を有するこのような圧力センサを用いて、制御装置によって特に迅速な調整が可能である。制御装置は、好ましくは、圧力センサからの対応する信号を、対応して高速で処理することもできるように構成する。
【0024】
ブレーキ力発生器が少なくとも2つのチャンバを有し、それぞれのチャンバに少なくとも1つの圧力センサを配置している場合にも有利である。
【0025】
別の有利な実施形態では、ブレーキ力発生器は少なくとも2つのチャンバを有し、これらのチャンバのうち1つのチャンバにのみ圧力センサを配置している。
【0026】
2つ以上のチャンバのために1つの圧力センサしか設けられていない場合、チャンバは、チャンバ間で圧力補正を行い、1つの圧力センサのみによって検出した値を使用して、両方のチャンバを表す圧力信号を得ることができるように、互いに接続されていることが好ましい。
【0027】
自動車のブレーキシステムのためのブレーキ圧を自動的に生成するためのブレーキ力発生器を作動する方法は、
a)ブレーキ要求を受けるステップ、
b)プランジャシステムの少なくとも1つのチャンバ内の圧力を監視する少なくとも1つの圧力センサから実際の圧力を受けるステップ、
c)ブレーキ要求および実際の圧力を考慮して、ブレーキ力発生器のブレーキ駆動装置を制御するための制御信号を計算するステップ、および
d)チャンバ内のブレーキ圧を調整するためにブレーキ駆動装置に制御信号を出力するステップ、
を含む。
【0028】
既に上述したように、ステップa)におけるブレーキ要求は、好ましくは、上位のユニット(上位の制御器および/またはブレーキペダル)が受ける。実際の圧力は、ステップb)において、既に上述した圧力センサが受ける。
【0029】
この方法は、ステップb)で、実際の圧力に加えて、経時的な実際の圧力の勾配も受けるまたは決定する場合には特に有利である。
【0030】
そのような実際の圧力の勾配は、制御器(および必要に応じて制御器の上流側のユニット)において実際の圧力の経時変化から計算することができる。
【0031】
この方法は、ステップc)において、経時的な実際の圧力の勾配のための上限が設定されるように制御信号を計算する場合にも特に有利である。
【0032】
このような上限値の設定は、特に技術的な理由を有する。なぜならば、通常、ブレーキ駆動装置のための制御装置によって、許容レベルを超える実際の圧力の変化を引き起こすように制御信号を設定することは意味をなさないからである。
【0033】
さらに、この方法は、計算した制御信号をステップc)において、実際の圧力の上限が設定されるように計算する場合にも特に有利である。
【0034】
閾値を超える実際の圧力は必然的に車輪ブレーキの遮断をもたらすので、通常、可能ではないか、または有意義ではない。好ましくは、システムは、この種の実際の圧力が全く要求されないように、すなわち、このような実際の圧力を要求することができる制御信号がステップc)で決定されないように設計している。
【0035】
この方法は、好ましくは、上述のようなブレーキ力発生器を使用して実施する。
【0036】
ここで、特に好ましくは、上記ブレーキ力発生器を有するブレーキシステムも示す。
【0037】
ここで説明したブレーキ力発生器、このブレーキ力発生器によって可能な制御策およびこれに対応して設定されたブレーキシステムは、サンプリング頻度の大きい圧力センサによって、ESPからのデータとは無関係に臨界荷重変化を認識し、さらなる圧力変動を防ぐために電気機械アクチュエータを圧力に基づいて調整することを可能にする。これにより、ハードウェアに負荷を与える大きな振動を回避することができ、ABSシステムのための圧力調整をより調和的に行うことができる。これにより、制動距離への悪影響を防止することができる。
【0038】
上記方法および上記ブレーキ力発生器を用いて、ESPシステムからのデータとは無関係に、臨界荷重変化を早期に検出することが可能である。電気機械式アクチュエータの圧力に基づいた調整によって、ハードウェアに負荷を加える大きな振動振幅を回避し、より良好なABS圧力制御を保証する。
【0039】
上記ブレーキ力発生器、上記方法および上記ブレーキシステムは、高度に自動化されたブレーキシステムまたは純粋に自律的なブレーキシステムに特に適している。このようなブレーキシステムは、好ましくは、完全にユーザによるブレーキペダルの操作なしで済む。しかしながら、上記ブレーキ力発生器および上記方法は、「バイワイヤ」方式によって接続されたブレーキペダル、すなわち、ユーザによって操作されるが、ペダルからブレーキ力発生器への電子的な「バイワイヤ」方式の信号伝送を行うブレーキシステムによって操作することもできる。ブレーキ力発生器、方法、および制動システムは、手動または従来の(例えば、ブレーキペダルを介した)操作を可能にする制動システムの一部でもよい。圧力発生器、方法、およびブレーキシステムは、特に、高度に自動化されたまたは自律的な運転にも適している。
【0040】
圧力センサを有する上述のブレーキ力発生器および上述の方法は、特にESPシステムまたはABSシステムからのデータとは無関係に、制動時のブレーキ圧力と実際の圧力とがずれている時点で、油圧システムの臨界(および不都合な)負荷変化を検出するために使用することができる。ESPシステムまたはABSシステムからのデータは、主に、ブレーキの効果、すなわち、ESPシステムの場合には、通常、車両の正または負の加速度(例えば、ヨーレート)、またはABSシステムの場合には、車両の車輪のロックを考慮する。制御をさらに加速するために、さらなる加速が必要な場合には、ずれをより早期に検出するために、利用可能な最近の測定値から圧力勾配を外挿することができる。このことは、上記方法の範囲内で達成することもできる。
【0041】
ここで説明したブレーキ力発生器およびここで説明した方法は、ABS制御の場合に生じるような増大した要求に特に適している。ここで、(油圧システム全体の)ブレーキシステムの剛性は、弁の切換によって急激に増大し、プランジャシステムチャンバ内の圧力ピークもしくは目標圧力からの極めて急速な著しいずれをもたらし、これは、圧力センサによって迅速に検出する。
【0042】
次に図面を参照して圧力発生器、ブレーキシステム、および方法をより詳細に説明する。図面は、好ましい例示的な実施形態のみを示しており、本開示は、この好ましい例示的な実施形態に限定されないことを指摘しておく。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】従来のブレーキシステムを示す図である。
図2】完全に自律的なブレーキシステムを示す図である。
図3】複合ブレーキシステムを示す図である。
図4】一般的なブレーキ圧曲線を示す図である。
図5】制御策を示す図である。
図6】説明した方法によって改善したブレーキ圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1図2および図3は、異なるブレーキシステム31を示しており、これらのブレーキシステムは、共通の構成要素を有する範囲についてはここで一緒に説明する。個々の図に示すブレーキシステム31の間の相違点はそれぞれの場合に指摘する。
【0045】
ブレーキシステム31はそれぞれブレーキ力発生器12、13を有し、これらのブレーキ力発生器は初期ブレーキ力を発生させるための役割を果たし、これらのブレーキ力発生器を介してブレーキプロセスを最終的にトリガすることができる。初期ブレーキ力は圧力として油圧ラインに供給し、個々の車輪ブレーキ9に伝達する。このために必要とされる油圧液は、ブレーキシステム31のための油圧液のリザーバを保持する流体供給容器11から供給される。
【0046】
ここに示すブレーキシステム31を備える従来の自動車では、4つの車輪ブレーキ9(それぞれの車輪に対して1つの車輪ブレーキ9)が設けられており、これらの車輪ブレーキはそれぞれ対で油圧ユニット22に接続されており、好ましくは対角線方向に対向する車輪の車輪ブレーキ9が1つの油圧ユニット22に接続されている。油圧ユニット22はそれぞれ、車輪ブレーキ9に流れる油圧流体を制御することができる高圧切換弁26と、油圧流体を車輪ブレーキ9から流出させることができる圧力制御弁27とを含む。高圧切換弁26およびポンプ29により、車輪ブレーキ9の圧力を上昇させることができる。圧力制御弁27により、車輪ブレーキ9の圧力を調整し、再び下降させることができる。油圧ユニット22と車輪ブレーキ9との間には、個々の車輪ブレーキ9のための制御可能な入口弁24および出口弁25がそれぞれ配置されている。入口弁24を用いて、個々の車輪ブレーキ9における圧力を個別に制限し、システム圧力まで再び増大させることができる。出口弁25により、個々の車輪ブレーキ9の圧力を個々に減少させることができる。入口弁24および出口弁25は、例えば、ESP操作またはABS操作のために個々の車輪ブレーキ9を個別に制御すること可能にする。油圧ユニット22は、車輪ブレーキ9から吐出された油圧液を一時的に貯留可能な低圧アキュムレータ23をそれぞれ備えている。低圧アキュムレータ23からの油圧液は、ポンプ駆動装置30によって駆動されるポンプ29によって再び加圧し、次いで、車輪ブレーキ9でブレーキ圧を形成するために油圧ユニット22に再び供給することができる。
【0047】
図1に示す実施形態は、手動ブレーキ力発生器12を備えた従来のブレーキシステム31を概略的に示す。ブレーキ圧は、ここでは例としてプランジャシステム14のチャンバ15内に示したブレーキペダル16によって生成される。ブレーキ要求1(これは、特定のブレーキ力の設定を意味する)は、ブレーキペダルに直接に作用する。
【0048】
図2に示す実施形態は、自動的に、または自動化されて作動されるブレーキシステム31を概略的に示しており、このシステムでは、ブレーキ力は、自動ブレーキ力発生器13を用いて形成される。この自動ブレーキ力発生器13は、同様に、ブレーキ圧を形成するために、少なくとも1つのチャンバ15、好ましくは複数のチャンバ15(特に好ましくは2つのチャンバ15)を備えるプランジャシステム14を有する。しかしながら、ブレーキ圧はブレーキペダル16を用いてではなく、制御信号33によって制御されるブレーキ駆動装置17を用いて生成する。ここで説明する実施形態によれば、ブレーキ駆動装置17を図1に示したブレーキペダル16と同様に制御した場合に一般的であるように、制御信号33はブレーキ要求1に直接に対応するのではなく、制御信号33は、特別な制御装置19またはより高いレベルのシステムによって生成する。ブレーキ要求1は、まず制御装置19に伝送する。制御装置19は制御信号33を生成するためにこのブレーキ要求1に加えて、自動ブレーキ力発生器13のプランジャシステム14のチャンバ15内の圧力を記録する圧力センサ18が決定する実際の圧力2も受け取る。図3に示すブレーキシステム31は、特に、ブレーキペダルからブレーキシステム31へのいかなる手動介入ももはや行わず、むしろブレーキ要求1は信号として「のみ」伝送し、機械的には伝送されない、完全に自動化したまたは完全に自律的な車両で使用するために構成している。図2に示したブレーキシステムは、1つのチャンバ15しか存在しないという点で典型的ではない。ここで、冗長さを得るために、さらなるブレーキ力発生器を有しない自動車の場合には、一般に2つのチャンバ15を有するプランジャシステム14が必要とされる。
【0049】
図3は、図1に示すような手動ブレーキ力発生器12と、図2に示すような自動ブレーキ力発生器13との両方を組み合わせた複合ブレーキシステム31を示す。両方のブレーキ力発生器12、13は、それぞれ接続弁28を介して油圧ユニット22に接続することができ、また油圧ユニット22から分離することができる。これにより、手動ブレーキ力発生器12によってブレーキ力を発生させることが望ましいのか、または自動ブレーキ力発生装置13によってブレーキ力を発生させることが望ましいのかを決定することができる。このようなブレーキシステム31を有する自動車のユーザに対して、ブレーキ力をシミュレートするために使用できるブレーキ圧シミュレータ21を、さらに一例としてここに示している。このようなブレーキ圧シミュレータ21は、ブレーキペダル16に接続することができ、ブレーキ圧が信号として「のみ」伝達されるのでブレーキペダルと生成されたブレーキ圧との間に直接の機械的相互作用がない場合には、ユーザに現実的なブレーキ感覚を与える役割を果たす。
【0050】
本発明の実施形態は、特に高度に自動化した、または自律的な車両のための、運転者による機械的および/または油圧的介入を伴わない油圧的に閉じた複数回路のブレーキシステム、および対応する作動方法を提供し、油圧回路に直列に配置して使用する圧力発生器が、油圧ユニットを介して車両の全ての車輪ブレーキに作用する。
【0051】
図2および図3に示すブレーキ駆動装置17は、一般にモータである。モータ電流およびモータ回転速度は、このモータを制御するための関連する変数である。特に非常ブレーキを操作する場合には、ブレーキ駆動装置17は極めて高い動力特性を有している必要がある。このことは、ブレーキ駆動装置17はブレーキ力要求に極めて迅速に反応できる状態にある必要があることを意味する。したがって、圧力センサ18からの実際の圧力2に関する圧力センサ信号は、好ましくは高頻度で読み込み、制御装置19において高頻度で評価する。
【0052】
図4は、上述のブレーキ力発生器および上述の作動方法が関連する通常発生する状況を示す。この図では、通常、ユーザ(または自律/自動運転のためのシステム)によって設定されるブレーキ要求1を、時間軸4に対して圧力軸3にプロットしている。(例えば、所定の閾値によって定めている)第1のずれ34まで、ブレーキ要求1に正確に追従する実際の圧力2も示している。この閾値から、実際圧力2は、通常、ブレーキ圧1に対して過度に上昇する。
【0053】
この現象には、図5に示す制御策によって対応する。図5の上部には、ブレーキ要求1を設定するABSコントローラ35を含むブレーキ圧設定部20を示しており、通常、ブレーキ圧モデル圧力40(電子モデルによって決定する理想的なブレーキ圧)を設定し、このブレーキ圧モデル圧力40からブレーキ要求1を決定する。この制動要求1は、図の下部に示す制御装置19に伝送する。制御装置19は、ここに同様に概略的に示すブレーキ駆動装置17を制御する役割を果たす。制御装置の核となる要素は、加算部39であり、加算部では、制御装置19がブレーキ駆動装置17を制御するために使用することができる制御差41を決定するために、圧力センサ18によって測定した実際圧力2とブレーキ要求1とを互いに加算(もしくは互いに減算)することができる。制御装置19は、(ブレーキ駆動装置17の現在位置をチェックするための)サブモジュールである位置制御装置36と、(ブレーキ駆動装置17の現在の速度をチェックするための)速度チェック装置37と、(ブレーキ駆動装置17に供給される現在の駆動電流をチェックするための)電流チェック装置38とを備えることが好ましい。これらの3つのユニットはそれぞれ制動駆動装置17から(さらなる)入力変数を受け取ることができ、これにより実際圧力2が制動要求1にできるだけ正確に追従するように駆動装置17の理想的な制御を達成する。
【0054】
通常の部分ブレーキの場合、圧力センサ値(圧力センサ18が測定する実際圧力2)は、公称運転者ブレーキ要求(図4に示すずれ35の前の波形)に追従する。
【0055】
図6は、ABS制御を行う場合に上述したブレーキ力発生器と上述した方法とによって生じる状況を示している。図6に示す例は、ESP制御の場合にも当てはまる。
【0056】
図6は、ここで述べた方法とここで述べたブレーキ力発生器を用いて、ABS操作時の制御変数である目標圧力43の決定を示す。図6には、説明したブレーキ力発生器を有するABSブレーキプロセスの3つのフェーズA、B、およびCを例示している。フェーズAの開始時に圧力を監視し、圧力センサによって測定した実際圧力2がブレーキ要求に対応する。このことは、図の上部に時間軸4に対する圧力軸3にプロットしている。
【0057】
フェーズAからフェーズBへの移行時もしくはこの移行の直前の時点で、上述の制御装置は、上述の圧力センサによってずれ34を検出する。このようなずれ34は、例えば、ブレーキシステムの吸気弁、排気弁、高圧切換弁、または圧力調整弁によって引き起こされる場合がある。このような弁を閉じることにより油圧システムの剛性が急激に変化する。
【0058】
この時点から、車輪ブレーキが高いブレーキ力を加える傾向が特に生じ、車輪はロックする傾向がある。ESPまたはABS制御器における制動特性を監視するための通常のセンサは、自動車の加速特性またはブレーキの制動作用に対して既に制動の効果が生じている場合に初めて信号を供給する、という事実に基づいている。このことは、ESPもしくはABSのための制御器が、フェーズBからフェーズCへの移行時にようやく使用可能な信号を受信する理由である。この時点からようやく、ESP制御ループもしくはABS制御ループを閉じる。なぜならば、ABSおよびESPは、ここで説明した制御装置と比較しても、ここで述べた方法と比較してもはるかに緩やかに応答するからである。フェーズBにおいて、実際圧力は、運転者のブレーキ要求にしたがって、所定の(最大)勾配でさらに増加する。しかしながら、これは、定められた(例えば、最大180barの)上限までしか起こらない。所定の(最大)勾配および定められた上限は、ここで説明した方法のための制御装置に永続的に格納されている。
【0059】
フェーズBからフェーズCへの移行時点からブレーキ圧の典型的な繰り返し変動が生じる。この変動は、ESP制御器またはABS制御器による制御作用によって引き起こされる。対応する目標圧力43と、ESP制御ユニットもしくはABS制御ユニットによって設定されたブレーキ圧モデル圧力とを、図6の中央部分に時間軸4に対してプロットしている。図6の下部には、制動によって設定されるピストン位置を示しており、このピストンの位置は、プランジャシステム内のチャンバの容積を設定するか、もしくは容積に影響を及ぼす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6