(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】MEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20241010BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20241010BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B81B3/00
G02B26/08 E
G02B26/10 104Z
(21)【出願番号】P 2020068527
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】倉品 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋夫
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-208251(JP,A)
【文献】特開2017-181951(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0018948(US,A1)
【文献】特開2017-129661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
G02B 26/08
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングと一致させる、MEMSアクチュエータ。
【請求項2】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす、MEMSアクチュエータ。
【請求項3】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記閾値は、前記電流信号がゼロである場合に相当する値である、MEMSアクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動電圧の前記立ち上がりに起因する前記容量微分信号の変動期間を短縮するクランプ回路及び/又はソフトリミッタ回路を更に備える、請求項1
~3のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項5】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記第2可動櫛歯電極と前記可動部との距離は、前記第1可動櫛歯電極と前記可動部との距離よりも短い、MEMSアクチュエータ。
【請求項6】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングと一致させる、MEMSアクチュエータ。
【請求項7】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす、MEMSアクチュエータ。
【請求項8】
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、
0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、
を備え、
前記駆動回路は、前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記閾値は、前記電流信号がゼロである場合に相当する値である、MEMSアクチュエータ。
【請求項9】
前記駆動電圧の前記時間波形は、前記立ち上がり及び前記立ち下がりを有する矩形波を周期的に含み、
前記駆動電圧のデューティ比が20%以上50%未満である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項10】
前記タイミング検出回路は、前記容量微分信号と前記閾値とを比較するコンパレータを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項11】
前記タイミング検出回路は、前記電流信号を前記電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプを含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項12】
前記容量微分信号の時間積分を行う積分回路を更に備える、請求項1~
11のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項13】
上下振動方式の前記可動部を備える、請求項1~
12のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項14】
スライド方式の前記可動部を備える、請求項1~
12のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータの前記駆動回路を制御するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記タイミング検出回路において検出された前記タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御しつつ、前記駆動回路から出力される前記駆動電圧の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを制御する、MEMSアクチュエータ制御プログラム。
【請求項16】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記駆動ステップにおいて、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングと一致させる、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項17】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記駆動ステップにおいて、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項18】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、前記立ち上がり後かつ前記立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記固定櫛歯電極又は前記可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記閾値を、前記電流信号がゼロである場合に相当する値とする、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項19】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記駆動ステップにおいて、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングと一致させる、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項20】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記駆動ステップにおいて、前記立ち下がりのタイミングを、前記容量微分信号が前記閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項21】
MEMSアクチュエータの駆動方法であって、前記MEMSアクチュエータは、
基部及び前記基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、
複数の第1櫛歯を含み、前記基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、
前記複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、前記第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって前記可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、
複数の第3櫛歯を含み、前記基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、
前記複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、
を備え、
当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を前記第1固定櫛歯電極と前記第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含み、
前記駆動ステップでは、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間に印加し、前記第2固定櫛歯電極と前記第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して前記期間内に前記第2固定櫛歯電極又は前記第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して前記容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御
し、
前記閾値を、前記電流信号がゼロである場合に相当する値とする、MEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項22】
前記駆動電圧の前記時間波形を、前記立ち上がり及び前記立ち下がりを有する矩形波を周期的に含むものとし、
前記駆動電圧のデューティ比を20%以上50%未満とする、請求項
16~
21のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項23】
前記駆動ステップにおいて、前記容量微分信号と前記閾値との比較をコンパレータを用いて行う、請求項
16~
22のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項24】
前記駆動ステップにおいて、トランスインピーダンスアンプを用いて前記電流信号を前記電圧信号に変換する、請求項
16~
23のいずれか1項に記載のMEMSアクチュエータの駆動方法。
【請求項25】
請求項
16~
24のいずれか1項に記載の駆動方法における前記駆動ステップを実現するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記容量微分信号が閾値に到達するタイミングと前記立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御しつつ、前記駆動電圧の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを制御する、MEMSアクチュエータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、MEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動ミラー、及び振動ミラーの振れ角制御方法に関する技術が開示されている。この文献に記載された振動ミラーは、マイクロマシニング技術を応用した微小光学系であって、微小なミラー基板を、ねじり梁を回転軸として往復振動させることにより光ビームを偏向させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微小な可動部を周期的に変位させる、例えば振動ミラーなどの分野において、微小電気機械システム(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)によるアクチュエータが用いられている。このような技術分野において、可動部を周期的に変位させる際には、MEMSアクチュエータの櫛歯電極に対し、変位の周期と同期して駆動電圧を周期的に印加する。そして、駆動電圧の周波数を可動部の共振周波数と一致させることにより、可動部を最大振幅にて変位させることができる。
【0005】
しかしながら、MEMSアクチュエータにおける可動部の共振周波数は、温度変化及び湿度変化等により変動する。可動部の共振周波数の変動に起因して、駆動電圧の周波数が可動部の共振周波数からずれると、可動部の最大振幅での動作が損なわれてしまう。特に、可動部を弾性的に支える部分の弾性係数が小さい等、可動部の最大振幅が大きくなるような構成をMEMSアクチュエータが有する場合には、周波数に対する振幅の非線形性が大きくなり、駆動電圧の周波数が可動部の共振周波数からわずかにずれただけで振幅が大幅に減少してしまう。
【0006】
なお、従来より、MEMSアクチュエータの温度を一定に制御することによって可動部の共振周波数を一定に保つ技術が存在する。しかし、そのような技術では、温度制御のための構成を追加する必要があり、MEMSアクチュエータの小型化を妨げてしまう。また、湿度変化による共振周波数の変動を抑制することはできない。
【0007】
そこで、本開示は、可動部の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧の周波数を該共振周波数に近づけることができるMEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るMEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する可動櫛歯電極と、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、立ち上がり後かつ立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、を備える。駆動回路は、タイミング検出回路において検出されたタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0009】
別の実施形態に係るMEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、複数の第3櫛歯を含み、基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を第1固定櫛歯電極と第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加し、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、を備える。駆動回路は、タイミング検出回路において検出されたタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0010】
一実施形態に係るMEMSアクチュエータの駆動方法は、MEMSアクチュエータの駆動方法であって、MEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する可動櫛歯電極と、を備える。当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、立ち上がり後かつ立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含む。駆動ステップでは、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0011】
別の実施形態に係るMEMSアクチュエータの駆動方法は、MEMSアクチュエータの駆動方法であって、MEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、複数の第3櫛歯を含み、基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、を備える。当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を第1固定櫛歯電極と第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含む。駆動ステップでは、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加し、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、可動部の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧の周波数を該共振周波数に近づけることができるMEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】MEMSアクチュエータを備える光学モジュール1Aの構成を示す平面図である。
【
図3】
図1に示されるミラーデバイス7の模式的な断面図である。
【
図4】
図1に示されるミラーデバイス7の拡大平面図である。
【
図5】駆動部12の回路構成を概略的に示す図である。
【
図6】アクチュエータ駆動回路121から出力される駆動電圧について説明する為の図である。
【
図7】電流電圧変換回路123の具体的構成例を示す回路図である。
【
図8】一実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。
【
図9】別の実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。
【
図10】更に別の実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。
【
図11】(a)部、(b)部および(c)部は、一実施例として、それぞれ駆動電圧Vin(t)、容量微分信号Vout(t)、及びコンパレータ124からの出力電圧Vcom(t)の時間波形の実測データを示すグラフである。
【
図12】容量微分信号Vout(t)が0Vとなるタイミングと立ち下がりPDのタイミングとの時間差と、駆動電圧Vin(t)の周波数との関係を実測した結果を示すグラフである。
【
図13】駆動電圧に重畳されるリップルRiを概念的に示す図である。
【
図14】第1変形例に係る電流電圧変換回路123Aの構成を示す回路図である。
【
図15】第1実施形態において容量C
aが変化しない場合の、駆動電圧Vin(t)、電流信号J1、増幅器123aの反転入力端子電圧Va、帰還電流J2、及び容量微分信号Vout(t)の時間波形を示す図である。
【
図16】第1変形例において容量C
aが変化しない場合の、駆動電圧Vin(t)、電流信号J1、増幅器123aの反転入力端子電圧Va、電流J3及びJ4、帰還電流J2、及び容量微分信号Vout(t)の時間波形を示す図である。
【
図17】(a)部は本変形例のクランプ回路125を示す回路図であり、(b)部はオペアンプに設けられる一般的な保護回路126を示す回路図である。
【
図18】第2変形例に係る電流電圧変換回路123Bの構成を示す回路図である。
【
図19】第2変形例の動作を説明する図である。(a)部は、
図18に示された電流電圧変換回路123Bを簡略化して示している。(b)部は、電流信号J1と容量微分信号Voutとの相関を示すグラフである。
【
図20】第2変形例の動作を説明する図である。(a)部は、
図18に示された電流電圧変換回路123Bを簡略化して示している。(b)部は、電流信号J1と容量微分信号Voutとの相関を示すグラフである。
【
図21】第2変形例の動作を説明する図である。(a)部は、
図18に示された電流電圧変換回路123Bを簡略化して示している。(b)部は、電流信号J1と容量微分信号Voutとの相関を示すグラフである。
【
図22】第1変形例及び第2変形例のシミュレーション結果に関するグラフである。
【
図23】第3変形例に係る駆動部12Aの構成を示すブロック図である。
【
図24】第3変形例における各信号の時間変化を示すグラフである。
【
図25】第4変形例のミラーデバイスが備えるタイミング検出回路122Aの構成を概略的に示す図である。
【
図26】第2実施形態としてMEMSアクチュエータ1Bの構成を示すブロック図である。
【
図27】梁91が一方の振動端に位置するときの梁91の変形状態を模式的に示す図である。
【
図28】(a)部は、第1の固定櫛歯電極83と可動櫛歯電極82との間に生じる容量C1、及び第2の固定櫛歯電極84と可動櫛歯電極82との間に生じる容量C2を模式的に示す図である。(b)部は、容量C1,C2に接続される電流電圧変換回路123を示す回路図である。
【
図29】一実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。
【
図30】(a)部は、第1実施形態における(V
H)
2と容量C
aの変動幅ΔCとの関係を示すグラフである。(b)部は、第2実施形態における(V
H)
2と容量C1,C2の変動幅ΔCとの関係を示すグラフである。
【
図31】第1実施形態の固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)とを模式的に示す図である。
【
図32】比較例として、可動ミラー5の変位量の極大及び/又は極小を検出する回路を示す図である。
【
図33】包絡線検波器の典型例を示す回路図である。
【
図34】
図33に示された包絡線検波器への入力信号Vi及び出力信号Voの例を示すグラフである。
【
図35】包絡線検波器からの出力信号Voが、入力信号Viの実際の包絡線Hに追従できなくなる様子を示すグラフである。
【
図36】
図32に示した比較例の回路において、演算回路204から出力される信号Sbを実測した例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態に係る第1のMEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する可動櫛歯電極と、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、立ち上がり後かつ立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、を備える。駆動回路は、タイミング検出回路において検出されたタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0015】
また、一実施形態に係る第1のMEMSアクチュエータの駆動方法は、MEMSアクチュエータの駆動方法であって、MEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する可動櫛歯電極と、を備える。当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返し、立ち上がり後かつ立ち下がり前に定電圧となる期間を含む時間波形を有する駆動電圧を固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含む。駆動ステップでは、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0016】
このMEMSアクチュエータ及び駆動方法では、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する。したがって、駆動電圧の周波数を可動部の共振周波数に近づけることにより、可動部の振幅を最大振幅に近づけることができる。その際、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して、固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から電流信号が出力される。駆動電圧の時間波形が定電圧(但し0Vを除く)となる期間を含む場合、当該期間内における電流信号は、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間の容量の微分値を示す。例えば、可動部が振幅の中心を通過するとき容量が極大となり、この電流信号の電流値は瞬間的にゼロとなる。
【0017】
上記のMEMSアクチュエータ及び駆動方法では、駆動電圧の時間波形が、立ち上がり後かつ立ち下がり前に定電圧となる期間を含む。そして、当該期間内に固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して、容量の微分値を示す容量微分信号を生成する。更に、この容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。これにより、駆動電圧の立ち下がり時の可動部の位置を一定にすることができるので、可動部の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧の周波数を該共振周波数に近づけることができる。
【0018】
上記第1のMEMSアクチュエータは、駆動電圧の立ち上がりに起因する容量微分信号の変動期間を短縮するクランプ回路及び/又はソフトリミッタ回路を更に備えてもよい。この場合、駆動電圧の立ち上がり時における容量微分信号の変動期間を短縮して、閾値への容量微分信号の到達タイミングの検出が該変動により阻害されることを抑制できる。
【0019】
別の実施形態に係る第2のMEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、複数の第3櫛歯を含み、基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を第1固定櫛歯電極と第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動回路と、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加し、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出するタイミング検出回路と、を備える。駆動回路は、タイミング検出回路において検出されたタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0020】
また、別の実施形態に係る第2のMEMSアクチュエータの駆動方法は、MEMSアクチュエータの駆動方法であって、MEMSアクチュエータは、基部及び基部に対して弾性的に変位可能に支持された可動部と、複数の第1櫛歯を含み、基部に設けられた第1固定櫛歯電極と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯を含み、第1固定櫛歯電極との間に生じる静電気力によって可動部を駆動する第1可動櫛歯電極と、複数の第3櫛歯を含み、基部に設けられた第2固定櫛歯電極と、複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯を含む第2可動櫛歯電極と、を備える。当該駆動方法は、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を第1固定櫛歯電極と第1可動櫛歯電極との間に印加する駆動ステップを含む。駆動ステップでは、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加し、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して上記期間内に第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して容量の微分値を示す容量微分信号を生成し、容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。
【0021】
このMEMSアクチュエータ及び駆動方法では、立ち上がりと立ち下がりとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧を第1固定櫛歯電極と第1可動櫛歯電極との間に印加する。したがって、駆動電圧の周波数を可動部の共振周波数に近づけることにより、可動部の振幅を最大振幅に近づけることができる。その際、第2可動櫛歯電極もまた可動部と共に変位するので、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の変化に起因して、第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から電流信号が出力される。0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加すると、当該期間内における電流信号は、第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間の容量の微分値を示す。例えば、可動部が振幅の中心を通過するとき容量が極大となり、この電流信号の電流値は瞬間的にゼロとなる。
【0022】
上記のMEMSアクチュエータ及び駆動方法では、0Vを除く定電圧となる期間を含む電圧を第2固定櫛歯電極と第2可動櫛歯電極との間に印加する。そして、当該期間内に第2固定櫛歯電極又は第2可動櫛歯電極から出力される電流信号を電圧信号に変換して、容量の微分値を示す容量微分信号を生成する。更に、この容量微分信号が閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御する。これにより、駆動電圧の立ち下がり時の可動部の位置を一定にすることができるので、可動部の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧の周波数を該共振周波数に近づけることができる。
【0023】
上記第2のMEMSアクチュエータにおいて、第2可動櫛歯電極と可動部との距離は、第1可動櫛歯電極と可動部との距離よりも短くてもよい。この場合、第2可動櫛歯電極の振幅をより大きくすることができ、閾値への容量微分信号の到達タイミングの検出精度を高めることができる。
【0024】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、駆動回路は、立ち下がりのタイミングを、容量微分信号が閾値に到達するタイミングと一致させてもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法の駆動ステップにおいて、立ち下がりのタイミングを、容量微分信号が閾値に到達するタイミングと一致させてもよい。例えばこれらにより、容量微分信号が閾値に到達するタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御することができる。
【0025】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、駆動回路は、立ち下がりのタイミングを、容量微分信号が閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらしてもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法の駆動ステップにおいて、立ち下がりのタイミングを、容量微分信号が閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらしてもよい。例えばこれらにより、容量微分信号が閾値に到達するタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御することができる。また、駆動電圧が立ち下がる(すなわち容量微分信号が消失する)前に容量微分信号が閾値に到達したことを確認できるので、容量微分信号が閾値に到達するタイミングをより確実に検出することができる。
【0026】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、閾値は、電流信号がゼロである場合に相当する値であってもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法において、閾値を、電流信号がゼロである場合に相当する値としてもよい。この場合、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極とが最も近接するタイミング(一実施例では、駆動電圧の立ち下がりに適したタイミング)を精度良く検出することができる。
【0027】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、駆動電圧の時間波形は、立ち上がり及び立ち下がりを有する矩形波を周期的に含み、駆動電圧のデューティ比が20%以上50%未満であってもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法において、駆動電圧の時間波形を、立ち上がり及び立ち下がりを有する矩形波を周期的に含むものとし、駆動電圧のデューティ比を20%以上50%未満としてもよい。仮に駆動電圧のデューティ比を50%とすると、制御誤差等に起因して、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極とが互いに離れる方向に移動するタイミングで静電引力を与える虞があり、可動部の振幅の低下に繋がる。駆動電圧のデューティ比を50%未満とすることによって、そのような虞を低減できる。また、駆動電圧のデューティ比を20%以上とすることによって、十分な静電引力を可動櫛歯電極と固定櫛歯電極との間に作用させることができる。
【0028】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、タイミング検出回路は、容量微分信号と閾値とを比較するコンパレータを含んでもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法の駆動ステップにおいて、容量微分信号と閾値との比較をコンパレータを用いて行ってもよい。この場合、閾値への容量微分信号の到達タイミングの検出を、簡易な回路によって行うことができるので、MEMSアクチュエータの小型化及び低コスト化に寄与できる。
【0029】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータにおいて、タイミング検出回路は、電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプを含んでもよい。同様に、上記第1及び第2の駆動方法の駆動ステップにおいて、トランスインピーダンスアンプを用いて電流信号を電圧信号に変換してもよい。この場合、例えば固定櫛歯電極又は可動櫛歯電極と直列に抵抗(シャント抵抗)を接続し、該抵抗における電圧降下を利用して電流信号を電圧信号に変換する場合と比較して、櫛歯電極間の電圧の変動を低減し、櫛歯電極間に所望の電圧を精度良く印加することができる。
【0030】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータは、容量微分信号の時間積分を行う積分回路を更に備えてもよい。容量微分信号の時間積分を行うことにより、或る期間における可動部の変位量を容易に検出することができる。
【0031】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータは、上下振動方式の可動部を備えてもよい。上下振動方式において可動部に可動櫛歯電極を設ける場合、可動部のいずれの位置に可動櫛歯電極を設けても、増加する慣性モーメントは一定であり、共振周波数の低下量も一定である。したがって、櫛歯の数を多くすることができ、大きな容量値を得ることができる。また、上下振動方式では、容量値が最も大きくなるタイミング(容量微分値がゼロであるタイミング)において可動部の速度が最も速くなるので、容量微分値の時間的変化も大きくなる。以上のことから、上下振動方式では、高いタイミング検出精度が得られ、可動部が所定の位置を通過するタイミングと駆動信号の立ち下がりタイミングとを比較的容易に合致させることができる。
【0032】
上記第1及び第2のMEMSアクチュエータは、スライド方式の可動部を備えてもよい。その場合であっても、前述した第1及び第2のMEMSアクチュエータによる効果を好適に奏することができる。
【0033】
一実施形態に係る第1のMEMSアクチュエータ制御プログラムは、上記いずれかのMEMSアクチュエータの駆動回路を制御するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、タイミング検出回路において検出されたタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御しつつ、駆動回路から出力される駆動電圧の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを制御する。また、一実施形態に係る第2のMEMSアクチュエータ制御プログラムは、上記いずれかの駆動方法における駆動ステップを実現するための処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、容量微分信号が閾値に到達するタイミングと立ち下がりのタイミングとの関係を一定に制御しつつ、駆動電圧の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを制御する。
【0034】
以下、本開示のMEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラムの具体例を図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、MEMSアクチュエータを備える光学モジュール1Aの構成を示す平面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。光学モジュール1Aは、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectrometer)などの光学装置に用いられ得る。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の光学モジュール1Aは、ミラーユニット2と、ミラーユニット2を収容するパッケージ3とを備えている。パッケージ3は、支持体31を有する。ミラーユニット2は、Z軸方向における支持体31の一方の側に配置されており、例えば接着剤によって、支持体31に取り付けられている。支持体31は、例えば銅タングステンによって形成されており、例えば矩形板状を呈している。ミラーユニット2は、Z軸方向に沿って移動する可動ミラー5と、位置が固定された固定ミラー6と、を含む。光学モジュール1Aでは、図示しないビームスプリッタユニットと、可動ミラー5及び固定ミラー6とによって、干渉光学系が構成され得る。干渉光学系は、例えばマイケルソン干渉光学系である。
【0036】
ミラーユニット2は、固定ミラー6、ミラーデバイス7、光学機能部材8、及び応力緩和基板9を有する。ミラーデバイス7は、本実施形態におけるMEMSアクチュエータの例であって、ベース11(基部)、可動ミラー5(可動部)、及び駆動部12を含む。
【0037】
ベース11は、主面11a、及び主面11aとは反対側の裏面11bを有する。ベース11は、例えば矩形板状を呈しており、その平面形状の大きさは例えば短手方向10mm、長手方向15mmである。ベース11の厚さは例えば0.35mmである。可動ミラー5は、ミラー面5aと、ミラー面5aが配置されたミラー支持部5bとを有する。可動ミラー5は、上下振動方式による可動部であって、主面11aに垂直なZ軸方向に沿って変位可能となるようにベース11に対して弾性的に支持されている。駆動部12は、Z軸方向に沿って可動ミラー5を変位させるための駆動力を発生する。
【0038】
ミラーデバイス7には、一対の光通過部7a,7bが設けられている。一対の光通過部7a,7bは、X軸方向における可動ミラー5の両側に配置されている。
【0039】
ここで、ミラーデバイス7の構成について、
図2、
図3及び
図4を参照して詳細に説明する。
図3は、
図1に示されるミラーデバイス7の模式的な断面図である。
図3には、Z軸方向における寸法が実際よりも拡大された状態でミラーデバイス7が模式的に示されている。
図4は、
図1に示されるミラーデバイス7の拡大平面図である。
【0040】
ベース11、可動ミラー5のミラー支持部5b、及び駆動部12は、SOI(Silicon On Insulator)基板20によって構成されている。ミラーデバイス7は、例えば、矩形板状に形成されている。SOI基板20は、支持層21、デバイス層22及び中間層23を有する。支持層21及びデバイス層22は、シリコン層である。中間層23は、支持層21とデバイス層22との間に配置された絶縁層である。SOI基板20は、支持層21、中間層23及びデバイス層22を、Z軸方向における一方の側からこの順に有する。
【0041】
ベース11は、支持層21、デバイス層22及び中間層23の一部によって構成されている。ベース11の主面11aは、支持層21における中間層23とは反対側の表面である。ベース11の裏面11bは、デバイス層22における中間層23とは反対側の表面である。ベース11を構成する支持層21は、ベース11を構成するデバイス層22よりも厚い。ベース11を構成する支持層21の厚さは、例えば、ベース11を構成するデバイス層22の厚さの4倍程度である。ミラーユニット2では、
図2に示すように、ベース11の裏面11bと光学機能部材8の表面8aとが互いに接合されている。
【0042】
可動ミラー5は、軸線R1と軸線R2との交点を中心位置(重心位置)として配置されている。軸線R1は、X軸方向に延在する直線である。軸線R2は、Y軸方向に延在する直線である。Z軸方向から見て、ミラーデバイス7は、軸線R1及び軸線R2の各々に関してほぼ線対称な形状を呈している。可動ミラー5のミラー支持部5bは、配置部51、枠部52、一対の連結部53、及び梁部54を有する。配置部51、枠部52及び一対の連結部53は、デバイス層22の一部によって構成されている。配置部51は、Z軸方向から見て円形状を呈している。配置部51におけるZ軸方向の一方の側の表面51a上には金属膜が設けられ、この金属膜の表面がミラー面5aとされる。ミラー面5aは、Z軸方向に垂直に延在し、円形状を呈している。配置部51の表面51aは、デバイス層22における中間層23側の表面である。
【0043】
枠部52は、Z軸方向から見て円環状に延在し、配置部51から間隔をあけて配置部51を囲んでいる。一対の連結部53の各々は、配置部51と枠部52とを互いに連結している。一対の連結部53は、Y軸方向における配置部51の両側に配置されている。
【0044】
梁部54は、デバイス層22上に配置された支持層21及び中間層23によって構成されている。梁部54は、内側梁部54a、外側梁部54b及び一対の連結梁部54cを有する。内側梁部54aは、配置部51におけるZ軸方向の一方の側の表面上に配置されている。内側梁部54aは、Z軸方向から見てミラー面5aを囲んでいる。外側梁部54bは、枠部52におけるZ軸方向の一方の側の表面上に配置されている。外側梁部54bは、Z軸方向から見て内側梁部54aを囲んでおり、ひいてはミラー面5aを囲んでいる。一対の連結梁部54cは、一対の連結部53におけるZ軸方向の一方の側の表面上にそれぞれ配置されている。各連結梁部54cは、内側梁部54aと外側梁部54bとを互いに連結している。
【0045】
駆動部12は、第1弾性支持部13、第2弾性支持部14及びアクチュエータ部15を有する。第1弾性支持部13、第2弾性支持部14及びアクチュエータ部15は、デバイス層22の一部によって構成されている。
【0046】
第1弾性支持部13及び第2弾性支持部14の各々は、ベース11と可動ミラー5との間に接続されている。第1弾性支持部13及び第2弾性支持部14は、可動ミラー5(ミラー支持部5b)がZ軸方向(ミラー面5aと交差する方向)に沿って変位可能となるように可動ミラー5を弾性的に支持している。
【0047】
第1弾性支持部13は、一対のレバー131、第1リンク部材132、第2リンク部材133、中間部材134、一対の第1トーションバー135、一対の第2トーションバー136、一対の非線形性緩和バネ137、及び複数の電極支持部138を有する。
【0048】
一対のレバー131は、Y軸方向における光通過部7aの両側に配置され、Y軸方向において互いに向かい合っている。各レバー131は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈している。第1リンク部材132は、一対のレバー131における可動ミラー5とは反対側の端部間に掛け渡されている。第1リンク部材132は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。第2リンク部材133は、一対のレバー131における可動ミラー5側の端部間に掛け渡されている。第2リンク部材133は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。
【0049】
一対のレバー131、第1リンク部材132、及び第2リンク部材133は、光通過部7aを画定している。光通過部7aは、例えば空洞(孔)である。或いは、光通過部7a内には、光透過性を有する材料が配置されてもよい。
【0050】
中間部材134は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。中間部材134は、可動ミラー5と第2リンク部材133との間(換言すれば、可動ミラー5と光通過部7aとの間)に配置されている。中間部材134は、後述するように、非線形性緩和バネ137を介して可動ミラー5に接続されている。
【0051】
一対の第1トーションバー135は、それぞれ、一方のレバー131の一方の端部とベース11との間、及び、他方のレバー131の一方の端部とベース11との間に掛け渡されている。つまり、一対の第1トーションバー135は、一対のレバー131とベース11との間にそれぞれ接続されている。各第1トーションバー135は、Y軸方向に沿って延在している。一対の第1トーションバー135は、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置している。
【0052】
一対の第2トーションバー136は、それぞれ、一方のレバー131の他方の端部と中間部材134の一端との間、及び、他方のレバー131の他方の端部と中間部材134の他端との間に掛け渡されている。つまり、一対の第2トーションバー136は、一対のレバー131と可動ミラー5との間にそれぞれ接続されている。各第2トーションバー136は、Y軸方向に沿って延在している。一対の第2トーションバー136は、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。
【0053】
一対の非線形性緩和バネ137は、可動ミラー5と中間部材134との間に接続されている。つまり、一対の非線形性緩和バネ137は、可動ミラー5と第2トーションバー136との間に接続されている。各非線形性緩和バネ137は、Z軸方向から見て、蛇行して延在している。各非線形性緩和バネ137の一端は中間部材134に接続され、各非線形性緩和バネ137の他端は枠部52に接続されている。非線形性緩和バネ137は、可動ミラー5がZ軸方向に変位した状態において、Y軸方向周りにおける非線形性緩和バネ137の変形量がY軸方向周りにおける第1トーションバー135及び第2トーションバー136の各々の変形量よりも小さくなり、且つ、X軸方向における非線形性緩和バネ137の変形量がX軸方向における第1トーションバー135及び第2トーションバー136の各々の変形量よりも大きくなるように、構成されている。これにより、第1トーションバー135及び第2トーションバー136の捩れ変形における非線形性を抑制することができ、当該非線形性に起因する可動ミラー5の制御特性の低下を抑制することができる。
【0054】
複数の電極支持部138は、一対の第1電極支持部138a、一対の第2電極支持部138b、及び一対の第3電極支持部138cを含む。各電極支持部138a,138b,138cは、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。各電極支持部138a,138b,138cは、レバー131から、光通過部7aとは反対側に向かって延びている。一対の第1電極支持部138aは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。一対の第2電極支持部138bは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。一対の第3電極支持部138cは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。X軸方向において、第1電極支持部138a、第2電極支持部138b及び第3電極支持部138cは、可動ミラー5側からこの順に並んで配置されている。
【0055】
第2弾性支持部14は、一対のレバー141、第1リンク部材142、第2リンク部材143、中間部材144、一対の第1トーションバー145、一対の第2トーションバー146、一対の非線形性緩和バネ147、及び複数の電極支持部148を有する。
【0056】
一対のレバー141は、Y軸方向における光通過部7bの両側に配置され、Y軸方向において互いに向かい合っている。各レバー141は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈している。第1リンク部材142は、一対のレバー141における可動ミラー5とは反対側の端部間に掛け渡されている。第1リンク部材142は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。第2リンク部材143は、一対のレバー141における可動ミラー5側の端部間に掛け渡されている。第2リンク部材143は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。
【0057】
一対のレバー141、第1リンク部材142、及び第2リンク部材143は、光通過部7bを画定している。光通過部7bは、例えば空洞(孔)である。或いは、光通過部7b内には、光透過性を有する材料が配置されてもよい。
【0058】
中間部材144は、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。中間部材144は、可動ミラー5と第2リンク部材143との間(換言すれば、可動ミラー5と光通過部7bとの間)に配置されている。中間部材144は、後述するように、非線形性緩和バネ147を介して可動ミラー5に接続されている。
【0059】
一対の第1トーションバー145は、それぞれ、一方のレバー141の一方の端部とベース11との間、及び、他方のレバー141の一方の端部とベース11との間に掛け渡されている。つまり、一対の第1トーションバー145は、一対のレバー141とベース11との間にそれぞれ接続されている。各第1トーションバー145は、Y軸方向に沿って延在している。一対の第1トーションバー145は、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置している。
【0060】
一対の第2トーションバー146は、それぞれ、一方のレバー141の他方の端部と中間部材144の一端との間、及び、他方のレバー141の他方の端部と中間部材144の他端との間に掛け渡されている。つまり、一対の第2トーションバー146は、一対のレバー141と可動ミラー5との間にそれぞれ接続されている。各第2トーションバー146は、Y軸方向に沿って延在している。一対の第2トーションバー146は、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。
【0061】
一対の非線形性緩和バネ147は、可動ミラー5と中間部材144との間に接続されている。つまり、一対の非線形性緩和バネ147は、可動ミラー5と第2トーションバー146との間に接続されている。各非線形性緩和バネ147は、Z軸方向から見て、蛇行して延在している。各非線形性緩和バネ147の一端は中間部材144に接続され、各非線形性緩和バネ147の他端は枠部52に接続されている。非線形性緩和バネ147は、可動ミラー5がZ軸方向に変位した状態において、Y軸方向周りにおける非線形性緩和バネ147の変形量がY軸方向周りにおける第1トーションバー145及び第2トーションバー146の各々の変形量よりも小さくなり、且つ、X軸方向における非線形性緩和バネ147の変形量がX軸方向における第1トーションバー145及び第2トーションバー146の各々の変形量よりも大きくなるように、構成されている。これにより、第1トーションバー145及び第2トーションバー146の捩れ変形における非線形性を抑制することができ、当該非線形性に起因する可動ミラー5の制御特性の低下を抑制することができる。
【0062】
複数の電極支持部148は、一対の第1電極支持部148a、一対の第2電極支持部148b、及び一対の第3電極支持部148cを含む。各電極支持部148a,148b,148cは、Z軸方向に垂直な平面に沿って延在する板状を呈し、Y軸方向に沿って延在している。各電極支持部148a,148b,148cは、レバー141から、光通過部7bとは反対側に向かって延びている。一対の第1電極支持部148aは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。一対の第2電極支持部148bは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。一対の第3電極支持部148cは、Y軸方向に平行な同一の中心線上に配置されている。X軸方向において、第1電極支持部148a、第2電極支持部148b及び第3電極支持部148cは、可動ミラー5側からこの順に並んで配置されている。
【0063】
アクチュエータ部15は、Z軸方向に沿って可動ミラー5を変位させるための駆動力を発生する。アクチュエータ部15は、固定櫛歯電極16及び18、並びに可動櫛歯電極17及び19を有する。固定櫛歯電極16,18はベース11に設けられ、固定櫛歯電極16,18の位置はベース11により固定されている。可動櫛歯電極17,19はそれぞれ電極支持部138,148に接続され、それぞれ固定櫛歯電極16,18に対して相対的にZ方向に変位可能に設けられている。
【0064】
より詳細には、固定櫛歯電極16は、ベース11のデバイス層22における電極支持部138と向かい合う表面の一部に設けられている。固定櫛歯電極16は、Y軸方向に垂直な平面に沿って延在する複数の固定櫛歯(第1櫛歯)16aを有する。これらの固定櫛歯16aは、Y軸方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。可動櫛歯電極17は、各電極支持部138における可動ミラー5側の表面に設けられている。可動櫛歯電極17は、Y軸方向に垂直な平面に沿って延在する複数の可動櫛歯(第2櫛歯)17aを有する。これらの可動櫛歯17aは、Y軸方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0065】
固定櫛歯電極16及び可動櫛歯電極17においては、複数の固定櫛歯16aと複数の可動櫛歯17aとが交互に配置されている。つまり、固定櫛歯電極16の各固定櫛歯16aが可動櫛歯電極17の可動櫛歯17a間に位置している。隣り合う固定櫛歯16aと可動櫛歯17aとは、Y軸方向において互いに向かい合っている。隣り合う固定櫛歯16aと可動櫛歯17aとの間の距離は、例えば数μm程度である。
【0066】
固定櫛歯電極18は、ベース11のデバイス層22における電極支持部148と向かい合う表面の一部に設けられている。固定櫛歯電極18は、Y軸方向に垂直な平面に沿って延在する複数の固定櫛歯(第1櫛歯)18aを有する。これらの固定櫛歯18aは、Y軸方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。可動櫛歯電極19は、各電極支持部148における可動ミラー5側の表面に設けられている。可動櫛歯電極19は、Y軸方向に垂直な平面に沿って延在する複数の可動櫛歯(第2櫛歯)19aを有する。これらの可動櫛歯19aは、Y軸方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0067】
固定櫛歯電極18及び可動櫛歯電極19においては、複数の固定櫛歯18aと複数の可動櫛歯19aとが交互に配置されている。つまり、固定櫛歯電極18の各固定櫛歯18aが可動櫛歯電極19の可動櫛歯19a間に位置している。隣り合う固定櫛歯18aと可動櫛歯19aとは、Y軸方向において互いに向かい合っている。隣り合う固定櫛歯18aと可動櫛歯19aとの間の距離は、例えば数μm程度である。
【0068】
図1に示すように、ベース11には、複数の電極パッド71が設けられている。各電極パッド71は、デバイス層22に至るようにベース11の主面11aに形成された開口内において、デバイス層22の表面上に配置されている。複数の電極パッド71のうちの幾つかは、デバイス層22を介して、固定櫛歯電極16又は固定櫛歯電極18と電気的に接続されている。複数の電極パッド71のうちの他の幾つかは、第1弾性支持部13又は第2弾性支持部14を介して、可動櫛歯電極17又は可動櫛歯電極19と電気的に接続されている。また、ベース11には、グランド電極として用いられる一対の電極パッド72が設けられている。一対の電極パッド72は、Y軸方向における可動ミラー5の両側に位置するように、主面11a上に配置されている。
【0069】
以上の構成を備えるミラーデバイス7では、Z軸方向に沿って可動ミラー5を変位させるための駆動電圧が、リードピン33を介して駆動部12に入力される。これにより、例えば、Z軸方向における一方の側に可動ミラー5が変位するように、互いに向かい合う固定櫛歯電極16と可動櫛歯電極17との間、及び、互いに向かい合う固定櫛歯電極18と可動櫛歯電極19との間に静電気力が生じる。このとき、第1弾性支持部13及び第2弾性支持部14において第1トーションバー135,145、第2トーションバー136,146が捩れて、第1弾性支持部13及び第2弾性支持部14に弾性力が生じる。ミラーデバイス7では、駆動部12に周期的な駆動電圧を付与することにより、Z軸方向に沿って可動ミラー5をその共振周波数で往復動するように駆動させる。このように、駆動部12は、静電アクチュエータとして機能する。
【0070】
再び
図2を参照する。光学機能部材8は、ベース11の裏面11bと対向する表面8a、及び表面8aとは反対側の裏面8bを有する。光学機能部材8は、光透過性を有する材料によって一体的に形成されている。光学機能部材8は、例えばガラスによって矩形板状に形成されており、例えば幅15mm、長さ20mm、厚さ4mm程度のサイズを有する。なお、光学機能部材8の材料は、例えば、光学モジュール1Aの感度波長が近赤外領域である場合にはガラス、光学モジュール1Aの感度波長が中赤外領域である場合にはシリコンというように、光学モジュール1Aの感度波長によって選択される。光学機能部材8は、可動ミラー5に対して入出射する光と、固定ミラー6に対して入出射する光との間に生じる光路差を補正する。光学機能部材8の表面8aは、ダイレクトボンディング(例えば、プラズマ活性化接合、表面活性化接合、原子拡散接合、陽極接合、フュージョンボンディング、親水化接合等)によってベース11の裏面11bと接合されている。
【0071】
固定ミラー6は、光学機能部材8に対してミラーデバイス7とは反対側に配置されており、ミラーデバイス7のベース11に対する固定ミラー6の位置は固定されている。固定ミラー6は、例えば蒸着によって、光学機能部材8の裏面8bに形成されている。固定ミラー6は、Z軸方向に垂直なミラー面6aを有する。本実施形態では、可動ミラー5のミラー面5a及び固定ミラー6のミラー面6aが、Z軸方向における一方の側に向いている。固定ミラー6は、光学機能部材8を透過する光を反射する。
【0072】
応力緩和基板9は、固定ミラー6を介して光学機能部材8の裏面8bに取り付けられている。応力緩和基板9は、例えば接着剤によって、固定ミラー6に取り付けられている。応力緩和基板9の熱膨張係数は、光学機能部材8の熱膨張係数よりもベース11の熱膨張係数(より具体的には、支持層21の熱膨張係数)に近い。また、応力緩和基板9の厚さは、光学機能部材8の厚さよりもベース11の厚さに近い。応力緩和基板9は、例えばシリコンによって矩形板状に形成されており、例えば幅16mm、長さ21mm、厚さ0.65mm程度のサイズを有する。
【0073】
図1及び
図2に示されるように、パッケージ3は、支持体31、複数のリードピン33、枠体34、及び光透過部材35を有する。枠体34は、Z軸方向から見てミラーユニット2を包囲するように形成されており、例えば銀ロウ等の接着剤によって、支持体31の表面31aに取り付けられている。枠体34は、例えばセラミックによって形成されており、例えば矩形枠状を呈している。枠体34における支持体31とは反対側の端面34aは、ベース11の主面11aを含む架空平面に関して支持体31とは反対側に位置している。
【0074】
光透過部材35は、枠体34の開口を塞ぐように形成されており、例えば接着剤によって、枠体34の端面34aに取り付けられている。光透過部材35は、光透過性を有する材料によって形成されており、例えば矩形板状を呈している。ここで、枠体34の端面34aは、ベース11の主面11aを含む架空平面に関し支持体31とは反対側に位置しているので、光透過部材35は、ミラーデバイス7から離れることになる。これにより、光学モジュール1Aでは、可動ミラー5がZ軸方向に沿って往復移動する際に、可動ミラー5及び駆動部12が光透過部材35に接触することが防止されている。
【0075】
各リードピン33は、一端部33aが枠体34の内側に位置し且つ他端部(図示省略)が枠体34の外側に位置するように、枠体34に設けられている。リードピン33の一端部33aは、ミラーデバイス7において当該リードピン33に対応する電極パッド71,72とワイヤ(図示省略)を介して電気的に接続される。光学モジュール1Aでは、Z軸方向に沿って可動ミラー5を変位させるための駆動電圧が、複数のリードピン33を介して駆動部12に入力される。本実施形態では、Y軸方向における光学機能部材8の両側においてX軸方向に延在する段差面34bが枠体34に形成されており、各リードピン33の一端部33aは、段差面34bに配置されている。各リードピン33は、Y軸方向における支持体31の両側においてZ軸方向に延在しており、各リードピン33の他端部は、支持体31よりもZ軸方向における下側に位置している。
【0076】
続いて、駆動部12について更に説明する。
図5は、駆動部12の回路構成を概略的に示す図である。同図に示されるように、駆動部12は、アクチュエータ駆動回路121と、タイミング検出回路122とを有する。なお、
図5において、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量が可変容量記号により擬似的に示されている。
【0077】
アクチュエータ駆動回路121は、本実施形態における駆動回路の例である。アクチュエータ駆動回路121は、上述した固定櫛歯電極16と可動櫛歯電極17との間、及び固定櫛歯電極18と可動櫛歯電極19との間に駆動電圧を印加する。アクチュエータ駆動回路121は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)等の集積回路を含む信号処理部と、該信号処理部と電気的に接続されたEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性メモリを含む記憶部と、該信号処理部と電気的に接続された高電圧発生回路とを有する。信号処理部は、駆動電圧の基となる駆動信号を生成する。高電圧発生回路は、信号処理部からの駆動信号に基づいて、駆動電圧を生成する。高電圧発生回路は、例えばHVIC(High Voltage IC)である。
【0078】
図6は、アクチュエータ駆動回路121から出力される駆動電圧について説明する為の図である。
図6には、可動ミラー5の位置の時間変化を示すグラフG1と、駆動電圧の時間波形を示すグラフG2とが示されている。グラフG1,G2の横軸は時間を表す。グラフG1の縦軸はZ方向における可動ミラー5の位置を表し、グラフG2の縦軸は電圧の大きさを表す。更に、
図6には、複数のタイミングT1~T4における固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との相対位置関係を示す
図A~
図Dが併せて示されている。アクチュエータ駆動回路121は、
図6に示されるように、可動ミラー5の共振周波数の2倍の値の周波数を有する駆動電圧を生成する。駆動電圧は、一定周期で立ち上がり及び立ち下がりを繰り返す連続パルス信号であり、本実施形態では、例えばデューティ比20%以上50%未満の矩形波である。
【0079】
駆動電圧の立ち上がりのタイミングは、可動ミラー5の位置の時間変化における折り返し点に相当する極大点及び極小点となるタイミングと一致するか、やや遅れるように制御される。また、駆動電圧の立ち下がりのタイミングは、可動ミラー5の極大点と極小点との中点のタイミングと一致するか、やや遅れるように制御される。なお、
図6において、実線の矢印は、可動ミラー5の移動の向きであり、破線の矢印は、可動ミラー5に与えられる駆動力の向きである。また、ハッチングが施されている固定櫛歯電極16(18)は、電圧が印加されている状態を示し、ハッチングが施されていない固定櫛歯電極16(18)は、電圧が印加されていない状態を示す。
【0080】
なお、駆動電圧の周波数と可動ミラー5の振幅との関係は、実際にミラーデバイス7を動作させることで取得可能である。或いは、駆動電圧の周波数と可動ミラー5の振幅との関係を、例えばルンゲクッタ法等の数値解析によって予測してもよい。
【0081】
再び
図5を参照する。タイミング検出回路122は、可動ミラー5の位置の時間変化(
図6のグラフG1)において、可動ミラー5の変位がゼロとなる(すなわち、可動ミラー5の位置が極大点と極小点との中点となる)タイミングを検出するために設けられる。なお、可動ミラー5の変位がゼロとなるとき、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)とが最も近接する。アクチュエータ駆動回路121は、タイミング検出回路122において検出されたタイミングと、駆動電圧の立ち下がりタイミングとの関係を一定に制御することにより、駆動電圧の周波数を、可動ミラー5の共振周波数に近づける(好ましくは一致させる)。
【0082】
タイミング検出回路122は、固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)のうち一方と電気的に接続されている。タイミング検出回路122は、電流電圧変換回路123及びコンパレータ124を有する。電流電圧変換回路123は、固定櫛歯電極16(18)又は可動櫛歯電極17(19)から出力される電流信号を電圧信号に変換する。電流電圧変換回路123の信号出力端は、コンパレータ124の信号入力端と電気的に接続されている。コンパレータ124は、電流電圧変換回路123から出力された電圧信号と所定の閾値(図では0V)とを比較して、その比較結果を示す信号を出力する。
【0083】
コンパレータ124の信号出力端は、アクチュエータ駆動回路121と電気的に接続されている。アクチュエータ駆動回路121は、コンパレータ124からの出力信号に基づいて、可動ミラー5の変位がゼロとなるタイミングと、駆動電圧の立ち下がりタイミングとの関係を一定に制御する。
【0084】
アクチュエータ駆動回路121の制御は、例えば光学モジュール1Aの外部に設けられたコンピュータによって行われる。このコンピュータは、中央演算処理装置(CPU)と、揮発性メモリ(RAM)と、不揮発性メモリ(ROM)とを有し、ROMに予め記憶されたプログラムを実行することによりアクチュエータ駆動回路121の制御を行う。プログラムは、タイミング検出回路122において検出された可動ミラー5の変位がゼロとなるタイミングと、駆動電圧の立ち下がりタイミングとの関係を一定に制御しつつ、アクチュエータ駆動回路121から出力される駆動電圧の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを制御する。
【0085】
図7は、電流電圧変換回路123の具体的構成例を示す回路図である。
図7に示されるように、電流電圧変換回路123は、例えば増幅器123a及び帰還抵抗123bを含むトランスインピーダンスアンプ(TIA)により構成される。そして、固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)のうち一方は、増幅器123aの負側端子と電気的に接続される。
【0086】
可動ミラー5が変位すると、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量(キャパシタンス)が変化する。そして、この変化に起因して、固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)から電流信号J1が出力される。駆動電圧の時間波形が定電圧(但し0Vを除く)となる期間を含む場合、当該期間内における電流信号J1は、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量の微分値を示す。例えば、可動ミラー5が振幅の中心を通過するとき、この電流信号J1の大きさ(電流値)は瞬間的にゼロとなる。このことを用いて、可動ミラー5が極大点と極小点との中点を通過するタイミングを好適に検出することができる。
【0087】
より具体的に説明する。いま、立ち上がりと立ち下がりとの間に電圧一定の期間を有する駆動電圧(例えば
図6に示された矩形波)を、固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)のうち他方に入力したとする。すなわち、駆動電圧Vin(t)は以下の式(1)にて表される。V
Lは矩形波における低電圧側の電圧値、V
Hは矩形波における高電圧側の電圧値、tは時間である。
【数1】
また、固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)のうち一方から出力される電流信号J1は、下記の式(2)のように表される。Qは、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量に蓄えられる電荷量である。C
aは、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量値である。
【数2】
Vin(t)の大きさが一定値である期間においては、Vin(t)の時間微分値はゼロなので、
【数3】
となる。ここで、TIAにおける帰還電流J2と、出力電圧Vout(t)との関係は下記の式(4)のとおりである。R
fは、帰還抵抗123bの抵抗値である。
【数4】
また、増幅器123aの入力端子においては、下記の条件が成り立つ。
【数5】
したがって、TIAからの出力電圧Vout(t)は、下記の式(6)として表される。
【数6】
すなわち、駆動電圧Vin(t)がゼロではない一定値であれば、出力電圧Vout(t)がゼロであるとき、dC
a(t)/dtがゼロとなり、C
a(t)が極値(極大値又は極小値)を取る。すなわち、可動ミラー5が極大点と極小点との中点を通過するタイミングを好適に検出することができる。なお、例えば
図6に示すグラフG2のようにV
L=0である場合、駆動電圧Vin(t)がV
Hである期間においてのみ上記タイミングを検出することができる。駆動電圧Vin(t)がV
L(=0)である期間においては、出力電圧Vout(t)は、上記式(6)に示されるように、dC
a(t)/dtにかかわらず0Vとなる。
【0088】
なお、一実施例では、可動ミラー5の共振周波数は500Hzである。その場合、駆動電圧Vin(t)の周波数は1kHzとなり、駆動電圧Vin(t)の周期は1msとなる。この時間を上記のdtとし、dCaを例えば10pF、VHを例えば100Vとすると、J1=1μAと算出される。出力電圧Vout(t)のレンジを1Vとするとき、必要とされる帰還抵抗123bの抵抗値Rfは1MΩとなる。
【0089】
図8は、一実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。同図には、上から順に、駆動電圧Vin(t)、可動ミラー5の変位量Z(t)、容量C
a(t)、出力電圧Vout(t)、及びコンパレータ124からの出力電圧波形Vcom(t)を示す。なお、各グラフの縦軸は電圧又は容量を表し、各グラフの横軸は時間を表す。
【0090】
前述したように、駆動電圧Vin(t)は、一定周期で立ち上がりPU及び立ち下がりPDを交互に繰り返す時間波形を有する。
図8に示す例では、デューティ比は50%であり、立ち上がりPUから立ち下がりPDまでの期間(電圧値V
H)の長さと、立ち下がりPDから立ち上がりPUまでの期間(電圧値V
L)の長さとは互いに等しい。そして、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPUのタイミングは、可動ミラー5の変位量Z(t)が往復動の折り返し点である極大点ZA又は極小点ZBとなるタイミングと一致するように、アクチュエータ駆動回路121によって制御されている。また、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミングは、可動ミラー5が極大点ZAと極小点ZBとの中点ZCを通過するタイミングと一致するように、アクチュエータ駆動回路121によって制御されている。
【0091】
固定櫛歯電極16(18)及び可動櫛歯電極17(19)との間の容量Ca(t)は、可動ミラー5の変位量Z(t)に応じて変化し、変位量Z(t)が極大点ZA又は極小点ZBとなるタイミングにおいて極小となり、変位量Z(t)が極大点ZAと極小点ZBとの中点ZCを通過するタイミングにおいて極大となる。また、電流電圧変換回路123からの出力電圧Vout(t)は、前述したように、駆動電圧Vin(t)がVL(=0V)である期間では0Vとなるが、駆動電圧Vin(t)が0を除く一定値VHである期間では、容量Ca(t)の時間微分を示す値を有する。コンパレータ124は、この例では出力電圧Vout(t)と0V(より正確には、電流信号J1がゼロである場合に相当する所定の閾値)とを比較し、出力電圧Vout(t)が0Vに到達したタイミング(ゼロクロスタイミング)で立ち上がるパルスPCを含む出力電圧波形Vcom(t)を、アクチュエータ駆動回路121に提供する。
【0092】
アクチュエータ駆動回路121は、このパルスPCの立ち上がりタイミングを利用して、上述した駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミング制御を行う。すなわち、アクチュエータ駆動回路121は、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミングを、出力電圧Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと一致させる。
【0093】
図9は、別の実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。この実施例では、デューティ比は
図8の実施例と同じ50%であるものの、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPUのタイミングを、可動ミラー5の変位量Z(t)が往復動の折り返し点である極大点ZA又は極小点ZBとなるタイミングから僅かに遅れるように、アクチュエータ駆動回路121によって制御している。また、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミングを、可動ミラー5が極大点ZAと極小点ZBとの中点ZCを通過するタイミングから僅かに遅れるように(図中の矢印参照)、アクチュエータ駆動回路121によって制御している。すなわち、アクチュエータ駆動回路121は、立ち下がりPDのタイミングを、出力電圧Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす。例えば、この一定時間は駆動電圧Vin(t)の周期の0.1%以上であり、15%以下である。
【0094】
この実施例では、容量Ca(t)の極大タイミングを過ぎても、暫くの間、駆動電圧Vin(t)が一定値VHを維持する。したがって、電流電圧変換回路123からの出力電圧Vout(t)は、0Vに到達したのち、駆動電圧Vin(t)が立ち下がるまで正の値を維持する。故に、コンパレータ124からの出力電圧波形Vcom(t)に含まれる各パルスPCの時間幅は、立ち下がりPDのタイミングの遅れに応じて大きくなる。言い換えると、出力電圧波形Vcom(t)の立ち上がりから立ち下がりまでの時間は、立ち下がりPDのタイミングの遅れ時間を表す。
【0095】
図10は、更に別の実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。この実施例では、デューティ比を50%未満(例えば45%)とし、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPUのタイミングを、可動ミラー5の変位量Z(t)が極大点ZA又は極小点ZBとなるタイミングから僅かに遅れるように(図中の矢印参照)、アクチュエータ駆動回路121によって制御している。なお、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミングは、
図8と同様に、可動ミラー5が中点ZCを通過するタイミングと一致するように制御している。
【0096】
ここで、本実施形態に係るミラーデバイス7の駆動方法について纏めると、次の通りである。すなわち、本実施形態の駆動方法は、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間に駆動電圧Vin(t)を印加する駆動ステップを含む。駆動電圧Vin(t)の時間波形は、立ち上がりPUと立ち下がりPDとを周期的に繰り返し、立ち上がりPU後かつ立ち下がりPD前に定電圧V
Hとなる期間を含む。駆動ステップにおいて、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量C
aの変化に起因して、上記期間内に固定櫛歯電極16,18又は可動櫛歯電極17,19から出力される電流信号J1を電圧信号に変換することにより、容量C
aの時間微分値に比例する容量微分信号Vout(t)を生成する。そして、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御する。その際、立ち下がりPDのタイミングを、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと一致させるか(
図8,
図10を参照)、又は、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらす(
図9を参照)。また、所定の閾値を、電流信号J1がゼロである場合に相当する値(例えば0V)とする。更に、駆動電圧Vin(t)の時間波形を、立ち上がりPU及び立ち下がりPDを有する矩形波を周期的に含むものとし、駆動電圧Vin(t)のデューティ比を20%以上50%未満とする。駆動ステップにおいて、TIAを用いて電流信号J1を電圧信号である容量微分信号Vout(t)に変換し、容量微分信号Vout(t)と所定の閾値との比較をコンパレータ124を用いて行う。
【0097】
また、上記の駆動方法において、駆動ステップは、例えば光学モジュール1Aの外部に設けられたコンピュータがプログラムを実行することにより実現される。プログラムは、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと、立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御しつつ、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPUのタイミング及び立ち下がりPDのタイミングを制御する。
【0098】
以上に説明した本実施形態のミラーデバイス7及びミラーデバイス7の駆動方法によって得られる効果について、従来の課題とともに説明する。通常、可動ミラー5の共振周波数は、温度変化及び湿度変化等により変動する。可動ミラー5の共振周波数の変動に起因して、駆動電圧Vin(t)の周波数が可動ミラー5の共振周波数からずれると、可動ミラー5の最大振幅での動作が損なわれてしまう。特に、可動ミラー5を弾性的に支える部分(具体的には、レバー131,141、第1トーションバー135,145、及び第2トーションバー136,146)の弾性係数が小さい等、可動ミラー5の最大振幅が大きくなる場合には、周波数に対する振幅の非線形性が大きくなり、駆動電圧Vin(t)の周波数が可動ミラー5の共振周波数からわずかにずれただけで振幅が大幅に減少してしまう。
【0099】
この問題点に対し、本実施形態では、立ち上がりPUと立ち下がりPDとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧Vin(t)を固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間に印加する。したがって、駆動電圧Vin(t)の周波数を可動ミラー5の共振周波数に近づけ、それにより可動ミラー5の振幅を最大振幅に近づけることができる。その際、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量Caの変化に起因して、固定櫛歯電極16,18又は可動櫛歯電極17,19から電流信号J1が出力される。駆動電圧Vin(t)の時間波形が定電圧(但し0Vを除く)となる期間を含む場合、当該期間内における電流信号J1は、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量Caの微分値を示す。例えば、可動ミラー5が振幅の中心を通過するとき、容量Caが極大となるので、この電流信号J1の電流値は瞬間的にゼロとなる。
【0100】
本実施形態では、駆動電圧Vin(t)の時間波形が、立ち上がりPU後かつ立ち下がりPD前に定電圧VHとなる期間を含む。そして、当該期間内に固定櫛歯電極16,18又は可動櫛歯電極17,19から出力される電流信号J1を電圧信号に変換して、容量Caの微分値を示す容量微分信号Vout(t)を生成する。更に、この容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御する。これにより、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPD時の可動ミラー5の位置を一定にすることができるので、可動ミラー5の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧Vin(t)の周波数を該共振周波数に近づけることができる。
【0101】
図11の(a)部、(b)部および(c)部は、一実施例として、それぞれ駆動電圧Vin(t)、容量微分信号Vout(t)、及びコンパレータ124からの出力電圧Vcom(t)の時間波形の実測データを示すグラフである。なお、この例では、駆動電圧Vin(t)のパルス高さを75Vpp、駆動電圧Vin(t)の周波数を537Hz、駆動電圧Vin(t)のデューティ比を45%、TIAの帰還抵抗123bの抵抗値を3.3MΩとした。これらの図から明らかなように、本実施形態によれば、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値(この例では0V)となるタイミングに対して、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPDのタイミングを一定の関係に制御することができる。
【0102】
また、
図12は、容量微分信号Vout(t)が0Vとなるタイミング(すなわち固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19とが最も近接するタイミング)と立ち下がりPDのタイミングとの時間差と、駆動電圧Vin(t)の周波数との関係を実測した結果を示すグラフである。なお、当該時間差は駆動電圧Vin(t)の周期に対する比率(以下、ピークシフト率と称する)として示している。この実測では、駆動電圧Vin(t)のパルス高さを75Vpp、駆動電圧Vin(t)のデューティ比を45%とした。また、駆動電圧Vin(t)の周波数を0.1Hz単位で変化させ、上記時間差を約0.1%の精度で検出した。
図12から明らかなように、
図11におけるVcom(t)の出力信号が立ち下がりPDの直前で発生する場合には、駆動電圧Vin(t)の周波数が大きくなるほど、ピークシフト率が低下することがわかる。
【0103】
図8及び
図10に示したように、アクチュエータ駆動回路121は(駆動ステップにおいて)、立ち下がりPDのタイミングを、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと一致させてもよい。例えばこのような構成により、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御することができる。
【0104】
或いは、
図9に示したように、アクチュエータ駆動回路121は(駆動ステップにおいて)、立ち下がりPDのタイミングを、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらしてもよい。このような構成であっても、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御することができる。また、駆動電圧が立ち下がる(すなわち容量微分信号Vout(t)が消失する)前に容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達したことを確認できるので、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングをより確実に検出することができる。
【0105】
本実施形態のように、所定の閾値は、電流信号J1がゼロである場合に相当する値(一例では0V)であってもよい。この場合、可動櫛歯電極17,19と固定櫛歯電極16,18とが最も近接するタイミング(一実施例では、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりに適したタイミング)を精度良く検出することができる。
【0106】
本実施形態のように、駆動電圧Vin(t)の時間波形は、立ち上がりPU及び立ち下がりPDを有する矩形波を周期的に含み、駆動電圧Vin(t)のデューティ比が20%以上50%未満であってもよい。仮に駆動電圧Vin(t)のデューティ比を50%とすると、制御誤差等に起因して、可動櫛歯電極17,19と固定櫛歯電極16,18とが互いに離れる方向に移動するタイミングで静電引力を与える虞があり、可動ミラー5の振幅の低下に繋がる。駆動電圧Vin(t)のデューティ比を50%未満とすることによって、そのような虞を低減できる。また、駆動電圧Vin(t)のデューティ比を20%以上とすることによって、十分な静電引力を可動櫛歯電極17,19と固定櫛歯電極16,18との間に作用させることができる。
【0107】
本実施形態のように、タイミング検出回路122は、容量微分信号Vout(t)と所定の閾値とを比較するコンパレータ124を含んでもよい。言い換えると、駆動ステップにおいて、容量微分信号Vout(t)と所定の閾値との比較をコンパレータ124を用いて行ってもよい。この場合、所定の閾値への容量微分信号Vout(t)の到達タイミングの検出を、簡易な回路によって行うことができるので、ミラーデバイス7の小型化及び低コスト化に寄与できる。また、例えばソフトウェアを用いて容量微分信号Vout(t)と所定の閾値とを比較する構成と比べて、該比較を回路基板上のみにおいて行うことができ、この点においても構成の簡易化に寄与できる。また、コンピュータに組み込まれたソフトウェアを用いて上記の比較を行う場合、負側から正側へ閾値を跨ぐタイミングと、正側から負側へ閾値を跨ぐタイミングとを区別することが難しい。これに対し、コンパレータ124は、駆動電圧Vin(t)が一定値VHである期間のみ動作するので、負側から正側へ閾値を跨ぐタイミングのみが出力され、上記の比較を容易に行うことができる。なお、このことは、容量微分信号Vout(t)と所定の閾値との比較のために、コンパレータ124に代えて、コンピュータに組み込まれたソフトウェアを用いることを妨げない。
【0108】
本実施形態のように、タイミング検出回路122は、電流信号J1を電圧信号Vout(t)に変換するTIAを含んでもよい。言い換えると、駆動ステップにおいて、TIAを用いて電流信号J1を電圧信号Vout(t)に変換してもよい。この場合、例えば固定櫛歯電極16,18又は可動櫛歯電極17,19と直列に抵抗(シャント抵抗)を接続し、該抵抗における電圧降下を利用して電流信号J1を電圧信号Vout(t)に変換する場合と比較して、櫛歯電極間の電圧変動を低減し、櫛歯電極間に所望の電圧を精度良く印加することができる。
【0109】
ここで、駆動電圧Vin(t)の周波数を該共振周波数に近づける他の方式として、可動ミラー5の変位量を連続的に検出し、可動ミラー5の変位量の極大及び/又は極小に合わせて、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDのタイミングを制御することが考えられる。
図32は、比較例として、可動ミラー5の変位量の極大及び/又は極小を検出する回路を示す図である。この回路では、正弦波生成回路201からの正弦波信号Saを、アクチュエータ駆動回路からの駆動電圧に重畳して、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に印加する。なお、
図32において、これらの固定櫛歯電極及び可動櫛歯電極は可変容量202として示されている。正弦波信号Saの周波数は、可動ミラー5の共振周波数よりも十分に大きい。一方、正弦波生成回路201からの正弦波信号Saの位相を180°ずらした信号を、基準となる固定容量203に印加する。そして、可変容量202及び固定容量203から出力される電流を加算し、加算後の電流を、オペアンプ204aを含む演算回路204に入力する。この場合、演算回路204から出力される信号Sbは、下記の式(7)によって表される。なお、Vsa(t)は正弦波信号Saの電圧波形を表し、Vsb(t)は信号Sbの電圧波形を表し、Cは可変容量202の容量値であり、C
refは固定容量203の容量値であり、C
0は演算回路204の帰還容量204bの容量値である。
【数7】
【0110】
この信号Sbの包絡線Hは、可変容量202の容量値すなわち可動ミラー5の変位量を示す。その後、信号Sbの包絡線Hを包絡線検波器205によって検出し、検出後の包絡線Hをアンプ206によって増幅する。そして、増幅後の信号Scをローパスフィルタ207に入力して、該信号Scから正弦波信号Saの周波数成分を除去する。ローパスフィルタ207通過後の信号Scをアナログ-ディジタル変換器208に入力し、アナログ-ディジタル変換器208において信号Scをディジタル信号に変換する。その後、図示しないディジタル回路によって、信号Scの極大タイミング及び/又は極小タイミング(すなわち可動ミラー5の変位の極大タイミング及び/又は極小タイミング)が検出される。
【0111】
しかしながら、
図32に示される方式は、回路規模が大きくなり且つ回路が複雑になるという問題を有する。これに対し、本実施形態の方式によれば、可動ミラー5が所定位置を通過するタイミング(固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19とが最も近づくタイミング)の検出、すなわち櫛歯電極間の静電容量の変化の検出のみに機能を絞ることによって、
図5に示されるように、格段に簡易な回路構成によって同様の機能を実現することができる。また、
図32に示される方式のように可変容量202の容量値をそのまま扱う場合、容量値のピーク付近において時間波形が急峻となり、ノイズが集中し易い。このため、容量値のピークに対して駆動電圧の立ち下がりタイミングを精度よく合わせることが難しい。これに対し、本実施形態の方式によれば、容量C
aの値がピークとなるタイミング付近においても電流信号J1のS/N比を高く保つことが容易であり、容量C
aのピークに対して駆動電圧Vin(t)の立ち下がりタイミングを精度よく合わせることができる。
【0112】
また、
図32に示される方式は、次に述べる問題も有する。
図33は、包絡線検波器の典型例を示す回路図である。また、
図34は、
図33に示された包絡線検波器への入力信号Vi及び出力信号Voの例を示すグラフである。
図34に示すように、包絡線検波器からの出力信号Voは、実際の包絡線Hとは異なり、入力信号Viの周波数に応じたリップルを含む。このことは、可動ミラー5の変位量の検出精度、ひいては可動ミラー5の変位の極大タイミング及び/又は極小タイミングの検出精度を低下させる要因となる。なお、
図33に示された容量211の容量値と、抵抗212の抵抗値との積の値を大きくすれば、出力信号Voに含まれるリップルが低減される。しかし、その場合、
図35に示されるように、包絡線検波器からの出力信号Voが、入力信号Viの実際の包絡線Hに追従できなくなってしまう。
【0113】
これに対し、本実施形態では、一定電圧VHを印加した際に固定櫛歯電極16,18(又は可動櫛歯電極17,19)から出力される電流信号J1を電流-電圧変換してなる容量微分信号Vout(t)に基づいて、可動ミラー5が所定位置を通過するタイミングを検出するので、包絡線検波器を必要とせず、リップルに関する上記課題も生じない。したがって、可動ミラー5が所定位置を通過するタイミングの検出精度を高めることができる。
【0114】
また、
図32に示される方式は、更に次に述べる問題も有する。通常、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に十分に大きな静電気力を発生させるためには、駆動電圧Vin(t)として数十~百ボルトといった高電圧を印加する必要がある。このような高電圧は、一般的にDC-DCコンバータなどの昇圧回路を用いて生成される。そして、スイッチング方式の昇圧回路においては、スイッチングに起因するリップルの発生は避けられない。
図13は、駆動電圧に重畳されるリップルRiを概念的に示す図である。同図に示されるように、リップルRiはスイッチング周波数と同じ周波数を有する周期的な波であり、駆動電圧を中心として振動する。振幅ΔVのリップルRiが駆動電圧に重畳している場合、前述した式(7)は、下記のように修正される。
【数8】
この場合、Vsa(t)が1V、ΔVが0.1Vとすると、最大で10%の出力誤差が発生することとなる。
【0115】
これに対し、本実施形態において振幅ΔVのリップルRiが一定電圧V
Hに重畳している場合、前述した式(6)は下記のように修正される。
【数9】
一定電圧V
Hの大きさは少なくとも10Vなので、ΔVが0.1Vであっても、出力誤差は1%以下となる。すなわち、本実施形態によれば、駆動電圧に含まれるリップルRiの影響を低減して、高い検出精度を得ることができる。
【0116】
(第1変形例)
図14は、上記実施形態の第1変形例に係る電流電圧変換回路123Aの構成を示す回路図である。同図に示すように、この電流電圧変換回路123Aは、増幅器123a、帰還抵抗123b、及びキャパシタ123eを含んで構成されている。帰還抵抗123bは、増幅器123aの反転入力端子と出力端子との間において直列に接続されている。キャパシタ123eは、増幅器123aの反転入力端子と出力端子との間において、帰還抵抗123bと並列に接続されている。増幅器123aの非反転入力端子は、基準電位線GNDに接続されている。この回路において、キャパシタ123eは電流電圧変換回路123Aのカットオフ周波数fcを調整するために用いられる。帰還抵抗123bの抵抗値をRf、キャパシタ123eの容量値をCfとすると、電流電圧変換回路123Aのカットオフ周波数fcは、fc=1/(2π・Rf・Cf)として与えられる。このカットオフ周波数fcを適切に調整することによって、容量微分信号Vout(t)に含まれる、アクチュエータ動作とは無関係の高周波成分を除去することができる。
【0117】
電流電圧変換回路123Aは、更に、クランプ回路125を含む。クランプ回路125は、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動期間を短縮するために設けられる。この例では、クランプ回路125は、スイッチングダイオード(以下、単にダイオードという)125a及び125bを有する。ダイオード125a,125bは、固定櫛歯電極16,18(又は可動櫛歯電極17,19)と増幅器123aの反転入力端子との間のノードN2と、基準電位線GNDとの間において互いに並列に接続されている。ダイオード125aはノードN2から基準電位線GNDへの向きを順方向として接続され、ダイオード125bは基準電位線GNDからノードN2への向きを順方向として接続されている。言い換えると、ノードN2と基準電位線GNDとの間において、2つのダイオード125a,125bが互いに逆向きでもって並列に接続されている。
【0118】
ダイオード125aは、ノードN2の電位が或る閾値(>0)を超えた場合にオンし、ノードN2から基準電位線GNDへ電流を流す。また、ダイオード125bは、ノードN2の電位が或る閾値(<0)を下回った場合にオンし、基準電位線GNDからノードN2へ電流を流す。
【0119】
ここで、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動について説明する。
図15は、上記実施形態において容量C
aが変化しない(すなわち可動ミラー5のZ方向位置が一定である)場合の、駆動電圧Vin(t)、電流信号J1、増幅器123aの反転入力端子電圧Va、帰還電流J2、及び容量微分信号Vout(t)の時間波形を示す図である。ここでは、駆動電圧Vin(t)は時刻t0において立ち上がり、時刻t0’において立ち下がるものとする。
【0120】
時刻t0において駆動電圧Vin(t)が立ち上がると、電圧VHと容量Caとの積(Ca・VH)に相当する電荷が固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量に瞬間的に流入し、電流信号J1に正のパルス波J1aが生じる。このとき、J1+J2=0を満たすため帰還電流J2において負のパルス波J2aが生じる。そして、負のパルス波J2aが生じた結果、増幅器123aから出力される電圧信号(容量微分信号)Vout(t)は、負側に飽和する(波形PA)。この飽和波形PAは、パルス波J1aの高さに応じた或る期間にわたって続き、時刻t1に収束する。なお、電圧信号Vout(t)が負側に飽和すると、増幅器123aの反転入力端子が仮想接地を維持できなくなり、帰還電流J2を減少させるために増幅器123aの反転入力端子電圧Vaが瞬間的に上昇する(波形Vaa)。
【0121】
また、時刻t0’において駆動電圧Vin(t)が立ち下がると、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量に蓄えられていた電荷が瞬間的に流出し、電流信号J1に負のパルス波J1bが生じる。このとき、J1+J2=0を満たすため帰還電流J2において正のパルス波J2bが生じる。そして、正のパルス波J2bが生じた結果、増幅器123aから出力される電圧信号(容量微分信号)Vout(t)は、正側に飽和する(波形PB)。この飽和波形PBは、パルス波J1bの高さに応じた或る期間にわたって続き、時刻t1’に収束する。なお、電圧信号Vout(t)が正側に飽和すると、増幅器123aの反転入力端子が仮想接地を維持できなくなり、帰還電流J2を増大させるために増幅器123aの反転入力端子電圧Vaが瞬間的に下降する(波形Vab)。
【0122】
上記の動作は、前述した式(2)においても説明される。すなわち、式(2)は、駆動電圧Vin(t)の時間微分値dVin(t)/dtを含む。dVin(t)/dtは、駆動電圧Vin(t)が一定である限りにおいて無視できるが、駆動電圧Vin(t)が立ち上がり及び立ち下がりにおいては無視できず、むしろ過大な影響を容量微分信号Vout(t)に及ぼす。例えば、容量C
aが10pF、dVin(t)が100V、立ち上がり(又は立ち下がり)時間dtが100nsである場合、式(2)の右辺第2項は
【数10】
と計算できる。帰還抵抗123bの抵抗値R
fが例えば前述した1MΩである場合、増幅器123aの出力電圧Vout(t)は計算上1000Vとなり、出力電圧Vout(t)が飽和することは容易に理解できる。
【0123】
したがって、時刻t0から時刻t1までの期間、及び時刻t0’から時刻t1’までの期間においては、可動ミラー5の移動に起因して固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量Caが変化しても、その変化が容量微分信号Vout(t)に現れず、その変化を検知することはできない。
【0124】
なお、
図36は、
図32に示した比較例の回路において、演算回路204から出力される信号Sbを実測した例を示すグラフである。なお、同図において、グラフG3は駆動電圧Vin(t)を示し、グラフG4は信号Sbを示す。
図36の部分Eを参照すると、駆動電圧Vin(t)の立ち上がり及び立ち下がりのタイミングにおいて、信号Sbが振り切れて飽和していることがわかる。このように、
図32に示した比較例の方式においても、上記と同様の課題が生じる。
【0125】
上記の課題に対し、本変形例では、クランプ回路125が設けられている。
図16は、本変形例において容量C
aが変化しない場合の、駆動電圧Vin(t)、電流信号J1、増幅器123aの反転入力端子電圧Va、電流J3及びJ4、帰還電流J2、及び容量微分信号Vout(t)の時間波形を示す図である。同図においても、駆動電圧Vin(t)は時刻t0において立ち上がり、時刻t0’において立ち下がるものとする。また、比較のため、
図15に示された時間波形を破線で示している。
【0126】
時刻t0において駆動電圧Vin(t)が立ち上がると、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量に電荷が瞬間的に流入し、電流信号J1に正のパルス波J1aが生じる。このとき、ダイオード125aがオンして電流J3が流れるので、パルス波J1aの高さが抑制される。故に、J1+J2=0を満たすため帰還電流J2において生じる負のパルス波J2aもまた、その高さが抑制される。したがって、容量微分信号Vout(t)の負側への飽和波形PAは短時間で収束する。
【0127】
また、時刻t0’において駆動電圧Vin(t)が立ち下がると、固定櫛歯電極16,18と可動櫛歯電極17,19との間の容量に蓄えられていた電荷が瞬間的に流出し、電流信号J1に負のパルス波J1bが生じる。このとき、ダイオード125bがオンして電流J4が流れるので、パルス波J1bの高さが抑制される。故に、J1+J2=0を満たすため帰還電流J2において生じる正のパルス波J2bもまた、その高さが抑制される。したがって、容量微分信号Vout(t)の正側への飽和波形PBもまた、短時間で収束する。
【0128】
このように、本変形例によれば、クランプ回路125を設けることによって、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動期間を短縮することができる。故に、所定の閾値への容量微分信号Vout(t)の到達タイミングの検出が、該変動により阻害されることを抑制できる。
【0129】
なお、
図17の(a)部は本変形例のクランプ回路125を示す回路図であり、
図17の(b)部はオペアンプに設けられる一般的な保護回路126を示す回路図である。
図17の(a)部に示すように、本変形例のクランプ回路125では、互いに向きが異なるダイオード125a,125bが互いに並列に、ノードN2と基準電位線GNDとの間に接続されている。これに対し、
図17の(b)部に示すように、一般的な保護回路126では、一方のダイオード126aのアノードがノードN2に接続され、カソードが正の定電位線V+に接続されている。また、他方のダイオード126bのアノードが負の定電位線V-に接続され、カソードがノードN2に接続されている。言い換えると、定電位線V-と定電位線V+との間にダイオード126a,126bが同方向でもって直列に接続され、ダイオード126aとダイオード126bとの間のノードN2が増幅器123aの反転入力端子に接続されている。したがって、本変形例のクランプ回路125の構成は、オペアンプに設けられる一般的な保護回路126の構成とは全く異なる。
【0130】
(第2変形例)
図18は、上記実施形態の第2変形例に係る電流電圧変換回路123Bの構成を示す回路図である。同図に示すように、この電流電圧変換回路123Bは、増幅器123a、帰還抵抗123b、及びキャパシタ123eを含んで構成されている。これらの構成は、前述した第1変形例と同様なので、説明を省略する。
【0131】
電流電圧変換回路123Bは、更に、ソフトリミッタ回路127及び128を含む。ソフトリミッタ回路127及び128は、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動期間を短縮するために設けられる。この例では、ソフトリミッタ回路127は、スイッチングダイオード(以下、単にダイオードという)127aと、抵抗127b,127cとを有する。ダイオード127a及び抵抗127bは、ノードN2と増幅器123aの出力端子との間において互いに直列に接続されている。より詳細には、ダイオード127aのアノードはノードN2に接続され、ダイオード127aのカソードは抵抗127bを介して増幅器123aの出力端子に接続されている。そして、ダイオード127aと抵抗127bとの間のノードN3は、抵抗127cを介して正の定電位線V+と接続されている。
【0132】
また、ソフトリミッタ回路128は、スイッチングダイオード(以下、単にダイオードという)128aと、抵抗128b,128cとを有する。ダイオード128a及び抵抗128bは、ノードN2と増幅器123aの出力端子との間において互いに直列に接続されている。より詳細には、ダイオード128aのアノードは抵抗128bを介して増幅器123aの出力端子に接続され、ダイオード128aのカソードはノードN2に接続されている。そして、ダイオード128aと抵抗128bとの間のノードN4は、抵抗128cを介して負の定電位線V-と接続されている。
【0133】
図19、
図20及び
図21は、本変形例の動作を説明する図である。これらの図の(a)部は、
図18に示された電流電圧変換回路123Bを簡略化して示している。これらの図の(b)部は、電流信号J1と容量微分信号Voutとの相関を示すグラフである。
図19の(b)部に示す領域F1は、電流信号J1と容量微分信号Voutとがともにゼロである点(すなわち原点)を中心とする領域であって、電流信号J1と容量微分信号Voutとは比例関係を有する。この比例関係の比例係数は、帰還抵抗123bの抵抗値R
fにより定まる。この領域F1においては、
図19の(a)部に示すように、ノードN1に向けて電流信号J1及び帰還電流J2が流入し、互いに相殺する。この領域F1では、ソフトリミッタ回路127及び128は動作しない。
【0134】
これに対し、
図20の(b)部に示す領域F2は、容量微分信号Voutが或る電圧V
L+を超えた領域であって、電流信号J1と容量微分信号Voutとは比例関係を有する。この領域F2では、容量微分信号Voutが或る電圧V
L+を超えることによってダイオード128aがオンし、ダイオード128a及び抵抗128bを介して帰還電流J5が流れる。このとき、抵抗128bの抵抗値R
gが帰還抵抗123bの抵抗値R
fよりも十分に小さいと、帰還電流J2を無視できる程度に帰還電流J5が大きくなり、電流信号J1と容量微分信号Voutとの比例係数は抵抗128bの抵抗値R
gにより定まる。故に、領域F2における比例係数は、領域F1における比例係数よりも小さくなり、傾斜が緩和される。
【0135】
同様に、
図21の(b)部に示す領域F3は、容量微分信号Voutが或る電圧V
L-を下回った領域であって、電流信号J1と容量微分信号Voutとは比例関係を有する。この領域F3では、容量微分信号Voutが或る電圧V
L-を下回ることによってダイオード127aがオンし、抵抗127b及びダイオード127aを介して帰還電流J6が流れる。このとき、抵抗127bの抵抗値R
hが帰還抵抗123bの抵抗値R
fよりも十分に小さいと、帰還電流J2を無視できる程度に帰還電流J6が大きくなり、電流信号J1と容量微分信号Voutとの比例係数は抵抗127bの抵抗値R
hにより定まる。故に、領域F3における比例係数は、領域F1における比例係数よりも小さくなり、傾斜が緩和される。なお、抵抗127bの抵抗値R
hは、抵抗128bの抵抗値R
gと等しくてもよい。その場合、領域F3における比例係数は、領域F2における比例係数と等しくなる。
【0136】
なお、電圧V
L+及び電圧V
L-は下記の式(11)及び(12)により定まる。V
Fはダイオード127a、128aの順方向電圧である。また、R
iは抵抗128cの抵抗値であり、R
jは抵抗127cの抵抗値である。
【数11】
【数12】
【0137】
本変形例においても、第1変形例と同様の作用によって、駆動電圧Vin(t)が立ち上がる際の容量微分信号Vout(t)の飽和波形PA(
図16参照)、及び、駆動電圧Vin(t)が立ち下がる際の容量微分信号Vout(t)の飽和波形PB(
図16参照)は、短時間で収束する。したがって、本変形例によれば、ソフトリミッタ回路127及び128を設けることによって、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動期間を短縮することができる。故に、所定の閾値への容量微分信号Vout(t)の到達タイミングの検出が、該変動により阻害されることを抑制できる。なお、電流電圧変換回路は、本変形例のソフトリミッタ回路127及び128と、第1変形例のクランプ回路125とを併せて備えてもよい。
【0138】
図22は、第1変形例及び第2変形例のシミュレーション結果に関するグラフである。
図22の(a)部は、駆動電圧Vin(t)の時間変化を示す。(a)部において、縦軸は電圧(単位:V)を表し、横軸は時間(単位:ミリ秒)を表す。また、
図22の(b)部は、容量微分信号Vout(t)の時間変化を示す。(b)部において、縦軸は電圧(単位:V)を表し、横軸は時間(単位:ミリ秒)を表す。また、(b)部において、グラフG5はクランプ回路及びソフトリミッタ回路のいずれも設けられない場合を示し、グラフG6はクランプ回路125が設けられた場合を示し、グラフG7はソフトリミッタ回路127及び128が設けられた場合を示し、グラフG8はクランプ回路125並びにソフトリミッタ回路127及び128が設けられた場合を示す。これらのグラフG5~G8から明らかなように、クランプ回路125とソフトリミッタ回路127,128とのうち少なくとも一方を設けることによって、駆動電圧Vin(t)の立ち上がりPU及び立ち下がりPDに起因する容量微分信号Vout(t)の変動期間を短縮することができる。特に、ソフトリミッタ回路127,128を設けた場合にその効果が顕著である。
【0139】
(第3変形例)
図23は、上記実施形態の第3変形例に係る駆動部12Aの構成を示すブロック図である。本変形例の駆動部12Aは、上記実施形態の駆動部12(
図5を参照)の構成に加えて、変位量検出部129を更に有する。変位量検出部129は、積分回路129a及び増幅器129bを含んで構成される。積分回路129aは、電流電圧変換回路(TIA)123の出力端に接続され、電流電圧変換回路123から容量微分信号Vout(t)を受ける。そして、積分回路129aは、容量微分信号Vout(t)の時間積分を行う。
【0140】
図24は、本変形例における各信号の時間変化を示すグラフである。同図には、上から順に、駆動電圧Vin(t)、可動ミラー5の変位量Z(t)、容量C
a(t)、出力電圧Vout(t)、及び積分回路129aからの出力電圧波形Vout2(t)を示す。なお、各グラフの縦軸は電圧又は容量を表し、各グラフの横軸は時間を表す。なお、積分回路129aは、駆動電圧Vin(t)がV
Lである期間内においてリセットされる。
【0141】
ここで、下記の式(13)が成り立つ。したがって、ΔC
aに相当する値を得るためには、積分結果をV
Hで除算するとよい。増幅器129bはそのために設けられ、積分回路129aからの出力信号を(1/V
H)倍のゲインで増幅する。
【数13】
【0142】
本変形例のように、容量微分信号Vout(t)の時間積分を行うことにより、或る期間における可動ミラー5の変位量を容易に検出することができる。なお、本変形例の変位量検出部129を、第1変形例又は第2変形例に設けてもよい。
【0143】
(第4変形例)
上記実施形態では、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間に駆動電圧Vin(t)を印加し、固定櫛歯電極16(18)または可動櫛歯電極17(19)から出力される電流信号J1に基づいて、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出している。本発明はこのような形態に限られず、固定櫛歯電極16(18)の一部と可動櫛歯電極17(19)の一部との間に駆動電圧Vin(t)を印加しつつ、固定櫛歯電極16(18)の残部と可動櫛歯電極17(19)の残部との間にタイミング検出用の電圧を印加し、いずれかの残部から出力される電流信号J1に基づいて、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出してもよい。
【0144】
例えば、
図4に示された構成において、第1電極支持部138a(148a)を第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)から電気的に分離するとともに、第1電極支持部138a(148a)と対向する固定櫛歯電極16(18)の部分16A(18A)を、第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)とそれぞれ対向する固定櫛歯電極16(18)の部分16B(18B)から電気的に分離する。そして、第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)と固定櫛歯電極16B(18B)との間に駆動電圧Vin(t)を印加し、可動ミラー5を駆動する。一方、第1電極支持部138a(148a)又は固定櫛歯電極16A(18A)に対して電流電圧変換回路123及びコンパレータ124を接続するとともに、第1電極支持部138a(148a)と固定櫛歯電極16A(18A)との間にタイミング検出用の電圧を印加する。そして、第1電極支持部138a(148a)又は固定櫛歯電極16A(18A)から出力される電流信号J1に基づいて、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出する。
【0145】
すなわち、本変形例のミラーデバイスは、ベース11(基部)、及びベース11に対して弾性的に変位可能に支持された可動ミラー5(可動部)と、複数の第1櫛歯(第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)と対向する複数の櫛歯16a(18a))を含み、ベース11に設けられた第1固定櫛歯電極16B(18B)と、複数の第1櫛歯と交互に配置された複数の第2櫛歯(第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)から延びる複数の櫛歯17a(19a))を含み、第1固定櫛歯電極16B(18B)との間に生じる静電気力によって可動ミラー5を駆動する第1可動櫛歯電極17B(19B)と、を備える。更に、本変形例のミラーデバイスは、複数の第3櫛歯(第1電極支持部138a(148a)と対向する複数の櫛歯16a(18a))を含み、ベース11に設けられた第2固定櫛歯電極16A(18A)と、複数の第3櫛歯と交互に配置された複数の第4櫛歯(第1電極支持部138a(148a)から延びる複数の櫛歯17a(19a))を含む第2可動櫛歯電極17A(19A)と、を備える。そして、アクチュエータ駆動回路121は、立ち上がりPUと立ち下がりPDとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧Vin(t)を、第1固定櫛歯電極16B(18B)と第1可動櫛歯電極17B(19B)との間に印加する。
【0146】
ここで、
図25は、本変形例のミラーデバイスが備えるタイミング検出回路122Aの構成を概略的に示す図である。タイミング検出回路122Aは、電圧生成回路130と、電流電圧変換回路123と、コンパレータ124とを含んで構成されている。電圧生成回路130は、0Vを除く定電圧V
Hとなる期間を含むタイミング検出用電圧を、可変容量として示される第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間に印加する。電流電圧変換回路123は、第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間の容量C
aの変化に起因して当該期間内に第2固定櫛歯電極16A(18A)又は第2可動櫛歯電極17A(19A)から出力される電流信号J1を電圧信号に変換することにより、容量微分信号Vout(t)を生成する。コンパレータ124は、容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出する。なお、電流電圧変換回路123及びコンパレータ124の詳細な構成は、上記実施形態と同様である。アクチュエータ駆動回路121は、タイミング検出回路122Aにおいて検出されたタイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係が一定になるように、駆動電圧Vin(t)を生成する。駆動電圧Vin(t)は、可変容量として示される第1固定櫛歯電極16B(18B)と第1可動櫛歯電極17B(19B)との間に印加される。なお、第1固定櫛歯電極16B(18B)及び第1可動櫛歯電極17B(19B)のうちアクチュエータ駆動回路121に接続された側とは反対側の櫛歯電極は、定電位配線151と電気的に接続されるか、またはフローティング電位とされる。
【0147】
本変形例では、立ち上がりPUと立ち下がりPDとを周期的に繰り返す時間波形を有する駆動電圧Vin(t)を第1固定櫛歯電極16B(18B)と第1可動櫛歯電極17B(19B)との間に印加する。したがって、駆動電圧Vin(t)の周波数を可動ミラー5の共振周波数に近づけることにより、可動ミラー5の振幅を最大振幅に近づけることができる。その際、第2可動櫛歯電極17A(19A)もまた可動ミラー5と共に変位するので、第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間の容量Caの変化に起因して、第2固定櫛歯電極16A(18A)又は第2可動櫛歯電極17A(19A)から電流信号J1が出力される。0Vを除く定電圧VHとなる期間を含むタイミング検出用電圧を第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間に印加すると、当該期間内における電流信号J1は、第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間の容量Caの微分値を示す。例えば、可動ミラー5が振幅の中心を通過するとき、この電流信号J1の電流値は瞬間的にゼロとなる。
【0148】
本変形例では、0Vを除く定電圧VHとなる期間を含むタイミング検出用電圧を第2固定櫛歯電極16A(18A)と第2可動櫛歯電極17A(19A)との間に印加する。そして、当該期間内に第2固定櫛歯電極16A(18A)又は第2可動櫛歯電極17A(19A)から出力される電流信号J1を電圧信号に変換して、容量Caの微分値を示す容量微分信号Vout(t)を生成する。更に、この容量微分信号Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングを検出し、該タイミングと立ち下がりPDのタイミングとの関係を一定に制御する。これにより、駆動電圧Vin(t)の立ち下がりPD時の可動ミラー5の位置を一定にすることができるので、可動ミラー5の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧Vin(t)の周波数を該共振周波数に近づけることができる。
【0149】
なお、本変形例では、第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)から延びる複数の櫛歯17a(19a)に駆動電圧Vin(t)を印加し、第1電極支持部138a(148a)から延びる複数の櫛歯17a(19a)にタイミング検出用電圧を印加している。
図4に示すように、第1電極支持部138a(148a)と可動ミラー5との距離は、第2電極支持部138b(148b)及び第3電極支持部138c(148c)と可動ミラー5との距離よりも短い。このように、タイミング検出用電圧を印加する第2可動櫛歯電極17A(19A)と可動ミラー5との距離は、駆動電圧Vin(t)を印加する第1可動櫛歯電極17B(19B)と可動ミラー5との距離よりも短くてもよい。この場合、第2可動櫛歯電極17A(19A)の振幅をより大きくし、また第2可動櫛歯電極17A(19A)をより速く移動させることができ、所定の閾値への容量微分信号Vout(t)の到達タイミングの検出精度を高めることができる。
【0150】
また、上記実施形態のように、全ての櫛歯電極に駆動電圧Vin(t)を印加する(言い換えると、駆動用の櫛歯電極とタイミング検出用の櫛歯電極とを共通にする)場合、本変形例と比較して、静電引力をより大きくし、駆動力をより高めることができる。
【0151】
また、本変形例では、上述したように、駆動電圧Vin(t)を印加する固定櫛歯電極16B(18B)及び可動櫛歯電極17B(19B)とは別の固定櫛歯電極16A(18A)及び可動櫛歯電極17A(19A)に対して、タイミング検出用の電圧を印加する。したがって、タイミング検出用の電圧は立ち上がり及び立ち下がりを周期的に繰り返す必要はなく、例えば定電圧VHを連続的に維持してもよい。
【0152】
(第2実施形態)
図26は、第2実施形態としてMEMSアクチュエータ1Bの構成を示すブロック図である。MEMSアクチュエータ1Bは、上記実施形態のミラーデバイス7とは異なり、厚さ方向すなわちZ方向に対して交差(例えば直交)する方向(本実施形態ではY方向)に振動するスライド方式の可動部を有する。具体的には、本実施形態のMEMSアクチュエータ1Bは、基板80(本実施形態における基部)の上に配置された固定櫛歯電極81と可動櫛歯電極82とを備える。本実施形態において、固定櫛歯電極81は、基板80の上に固定されている第1の固定櫛歯電極83と第2の固定櫛歯電極84とを含む。第1の固定櫛歯電極83は、複数の第1櫛歯83aを含む。複数の第1櫛歯83aは、Y方向を長手方向とする細長形状を有し、X方向に並んで配置されている。第2の固定櫛歯電極84は、複数の第1櫛歯84aを含む。複数の第1櫛歯84aは、Y方向を長手方向とする細長形状を有し、X方向に並んで配置されている。第1の固定櫛歯電極83と第2の固定櫛歯電極84とは、可動櫛歯電極82を支持する梁91(本実施形態における可動部)を挟んでY方向に対向して配置されている。複数の第1櫛歯83a及び複数の第1櫛歯84aは、それぞれ梁91に向かって伸びている。
【0153】
可動櫛歯電極82は、弾性を有する梁91によって支持され、基板80との間に空隙を隔てており、基板80に対して相対的にY方向に変位可能とされている。本実施形態では、梁91は可動櫛歯電極82と一体的に形成されている。そして、梁91の一端部である固定部92、及び梁91の他端部である固定部93は、それぞれ基板80に固定されている。これにより、可動櫛歯電極82は両持ち梁構造を有する。
【0154】
可動櫛歯電極82は、複数の第2櫛歯82a及び複数の第2櫛歯82bを含む。複数の第2櫛歯82aは、Y方向を長手方向とする細長形状を有し、X方向に並んで配置されている。同様に、複数の第2櫛歯82bは、Y方向を長手方向とする細長形状を有し、X方向に並んで配置されている。複数の第2櫛歯82aは、梁91に対して第1の固定櫛歯電極83側に配置され、梁91から第1の固定櫛歯電極83に向けて伸びている。複数の第2櫛歯82bは、梁91に対して第2の固定櫛歯電極84側に配置され、梁91から第2の固定櫛歯電極84に向けて伸びている。可動櫛歯電極82は、固定櫛歯電極81との間に生じる静電気力によって梁91を駆動する。
【0155】
第1の固定櫛歯電極83と可動櫛歯電極82との間には、梁91の共振周波数と一致する周波数を有する駆動電圧が印加される。また、第2の固定櫛歯電極84と可動櫛歯電極82との間には、該駆動電圧とは逆相の駆動電圧が印加される。すなわち、第1の固定櫛歯電極83と可動櫛歯電極82との間に印加される駆動電圧と、第2の固定櫛歯電極84と可動櫛歯電極82との間に印加される駆動電圧とは、互いに相補的な関係を有する。これらの駆動電圧が固定櫛歯電極83,84と可動櫛歯電極82との間に印加されると、静電引力によって梁91はY方向において振動する。
図27は、梁91が一方の振動端に位置するときの梁91の変形状態を模式的に示す図である。
【0156】
本実施形態のMEMSアクチュエータ1Bは、
図5に示されたアクチュエータ駆動回路121、電流電圧変換回路123及びコンパレータ124を固定櫛歯電極83,84毎に個別に備える。或いは、本実施形態のMEMSアクチュエータ1Bは、電流電圧変換回路123に代えて、第1変形例に係る電流電圧変換回路123A、第2変形例に係る電流電圧変換回路123B、若しくはその両方を備えてもよい。また、本実施形態のMEMSアクチュエータ1Bは、第3変形例に係る変位量検出部129を更に備えてもよい。
【0157】
第1実施形態では可動部(可動ミラー5)が櫛歯電極の厚さ方向に振動する構成を例示したが、本実施形態のように、可動部(梁91)が櫛歯電極の長手方向に振動してもよい。その場合であっても、第1実施形態と同様に、可動部の共振周波数の変動にかかわらず、駆動電圧Vin(t)の周波数を該共振周波数に近づけることができる。
【0158】
図28の(a)部は、第1の固定櫛歯電極83と可動櫛歯電極82との間に生じる容量C1、及び第2の固定櫛歯電極84と可動櫛歯電極82との間に生じる容量C2を模式的に示す図である。図中の矢印は、可動櫛歯電極82の移動方向(Y方向)を表す。可動櫛歯電極82は、第1の固定櫛歯電極83及び第2の固定櫛歯電極84に対して、X方向における間隔ΔXを一定に維持しつつ、Y方向に振動する。従って、容量C1が増大すると容量C2が減少し、容量C1が減少すると容量C2が増大する。
【0159】
図28の(b)部は、容量C1,C2に接続される電流電圧変換回路123を示す回路図である。本実施形態では、第1の固定櫛歯電極83及び第2の固定櫛歯電極84に対して可動櫛歯電極82が共通で設けられているので、この回路図において、容量C1,C2の一方の電極はノードN5において短絡している。また、容量C1,C2の他方の電極(すなわち第1の固定櫛歯電極83及び第2の固定櫛歯電極84)には、それぞれ駆動電圧Vin1(t)およびVin2(t)が印加される。駆動電圧Vin1(t)と駆動電圧Vin2(t)とは、互いに相補的である。すなわち、駆動電圧Vin1(t)の電圧値がV
Hのとき駆動電圧Vin2(t)の電圧値はV
Lとなり、駆動電圧Vin1(t)の電圧値がV
Lのとき駆動電圧Vin2(t)の電圧値はV
Hとなる。
【0160】
図29は、一実施例における各信号の時間変化を示すグラフである。同図には、上から順に、駆動電圧Vin1(t)、駆動電圧Vin2(t)、梁91の変位量Y(t)、容量C1及びC2、並びに出力電圧Vout(t)を示す。なお、各グラフの縦軸は電圧又は容量を表し、各グラフの横軸は時間を表す。
【0161】
駆動電圧Vin1(t)及びVin2(t)は、一定周期で立ち上がりPU及び立ち下がりPDを交互に繰り返す時間波形を有する。
図29に示す例では、デューティ比は50%であり、駆動電圧Vin1(t)の立ち上がりPUのタイミングと駆動電圧Vin2(t)の立ち下がりPDのタイミングとは互いに一致しており、駆動電圧Vin1(t)の立ち下がりPDのタイミングと駆動電圧Vin2(t)の立ち上がりPUのタイミングとは互いに一致している。そして、駆動電圧Vin1(t)の立ち上がりPU及び駆動電圧Vin2(t)の立ち下がりPDのタイミングは、梁91の変位量Y(t)が第1の固定櫛歯電極83から最も遠い極小点YBとなるタイミングと一致するようにアクチュエータ駆動回路121によって制御されている。また、駆動電圧Vin1(t)の立ち下がりPD及び駆動電圧Vin2(t)の立ち上がりPUのタイミングは、梁91の変位量Y(t)が第2の固定櫛歯電極84から最も遠い極大点YAとなるタイミングと一致するように、アクチュエータ駆動回路121によって制御されている。
【0162】
固定櫛歯電極83,84と可動櫛歯電極82との間の容量C1(t),C2(t)は、梁91の変位量Y(t)に応じて変化する。容量C1(t)は、変位量Y(t)が極大点YAとなるタイミングにおいて極大となり、変位量Y(t)が極小点YBとなるタイミングにおいて極小となる。また、容量C2(t)は、変位量Y(t)が極大点YAとなるタイミングにおいて極小となり、変位量Y(t)が極小点YBとなるタイミングにおいて極大となる。そして、電流電圧変換回路123からの出力電圧Vout(t)は、駆動電圧Vin1(t)が0を除く一定値VHである期間においては、容量C1(t)の時間微分を示す値(実線部分)を有し、駆動電圧Vin2(t)が0を除く一定値VHである期間においては、容量C2(t)の時間微分を示す値(破線部分)を有する。
【0163】
コンパレータ124は、出力電圧Vout(t)と所定の閾値(この例では0V)とを比較し、出力電圧Vout(t)が閾値に到達したタイミングで立ち上がるパルスを含む出力電圧波形を、各アクチュエータ駆動回路121に提供する。各アクチュエータ駆動回路121は、このパルスの立ち上がりタイミングを利用して、駆動電圧Vin1(t),Vin2(t)の立ち下がりPDのタイミング制御を行う。すなわち、アクチュエータ駆動回路121は、駆動電圧Vin1(t),Vin2(t)の立ち下がりPDのタイミングを、出力電圧Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングと一致させる。なお、
図9に示された例のように、アクチュエータ駆動回路121は、立ち下がりPDのタイミングを、出力電圧Vout(t)が所定の閾値に到達するタイミングから一定時間だけ後にずらしてもよい。或いは、
図10に示された例のように、デューティ比を50%未満(例えば45%)とし、駆動電圧Vin1(t)及びVin2(t)の立ち上がりPUのタイミングを、梁91の変位量Y(t)が極大点YA又は極小点YBとなるタイミングから僅かに遅れるように、アクチュエータ駆動回路121によって制御してもよい。
【0164】
図30の(a)部は、第1実施形態における(V
H)
2と容量C
aの変動幅ΔCとの関係を示すグラフである。
図30の(b)部は、第2実施形態における(V
H)
2と容量C1,C2の変動幅ΔCとの関係を示すグラフである。これらの図において、縦軸は変動幅ΔC(単位:F)を表し、横軸は(V
H)
2(単位:V
2)を表す。
図30の(b)部に示すように、スライド方式の第2実施形態においては、変動幅ΔCと(V
H)
2との関係は直線L1にほぼ沿っており、変動幅ΔCは(V
H)
2にほぼ比例しているといえる。これに対し、上下動方式の第1実施形態においては、変動幅ΔCと(V
H)
2との関係において、2つの比例係数が存在している。すなわち、(V
H)
2が或る値未満である領域においては変動幅ΔCと(V
H)
2との関係が直線L2に沿っており、(V
H)
2が或る値より大きい領域においては変動幅ΔCと(V
H)
2との関係が直線L3に沿っている。そして、直線L2の傾きと直線L3の傾きとは互いに異なり、直線L2の傾きが直線L3の傾きよりも大きい。
【0165】
上下動方式におけるこのような特性は、次の要因によるものと考えられる。
図31は、第1実施形態の固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)とを模式的に示す図である。いま、
図31の(a)部に示すように、可動櫛歯電極17(19)が少なくとも一部において固定櫛歯電極16(18)と重なり合う範囲内で変位する場合、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量C
aには、オーバーラップ容量C
a1と、フリンジ容量C
a2とが含まれる。オーバーラップ容量C
a1は、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)とが互いに重なる部分に生じる容量である。フリンジ容量C
a2は、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)とが互いに重ならない部分に生じる容量である。この場合、容量C
aの変化は、主にオーバーラップ容量C
a1の増減によるものである。一方、
図31の(b)部に示すように、可動櫛歯電極17(19)が固定櫛歯電極16(18)と重なり合わない範囲まで変位する場合、固定櫛歯電極16(18)と可動櫛歯電極17(19)との間の容量C
aには、フリンジ容量C
a2のみが含まれる。この場合、容量C
aの変化は、主にフリンジ容量C
a2の増減によるものである。オーバーラップ容量C
a1とフリンジ容量C
a2とではその増減の程度が異なるので、
図30の(a)部に示された特性が生じると考えられる。
【0166】
本開示によるMEMSアクチュエータ、MEMSアクチュエータの駆動方法、及びMEMSアクチュエータ制御プログラムは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記各実施形態及び各変形例では、駆動電圧の時間波形として矩形波を例示したが、立ち上がり及び立ち下がりを周期的に繰り返し、且つ0を除く定電圧を含む期間を有する波形であれば、矩形波に限られない。例えば、駆動電圧の時間波形として、立ち上がり及び立ち下がりのうち少なくとも一方が傾斜した台形状の波形を適用してもよい。また、駆動電圧の立ち上がり波形に傾斜部分が含まれる場合、傾斜部分と該立ち上がり後の定電圧部分との間のタイミング、傾斜部分と該立ち上がり前の部分(上記実施形態では0V)との間のタイミング、及び立ち上がり波形における傾斜部分の途中のタイミングのいずれかを、上述した実施形態における立ち上がりタイミングと見なすことができる。同様に、駆動電圧の立ち下がり波形に傾斜部分が含まれる場合、傾斜部分と該立ち下がり前の定電圧部分との間のタイミング、傾斜部分と該立ち下がり後の部分(上記実施形態では0V)との間のタイミング、及び立ち下がり波形における傾斜部分の途中のタイミングのいずれかを、上述した実施形態における立ち下がりタイミングと見なすことができる。
【0167】
また、上記各実施形態では上下振動方式及びスライド方式の2方式について本発明を適用したが、MEMSアクチュエータの動作方式はこれらに限られず、例えば可動部が回転する方式においても本発明を適用可能である。なお、回転ミラー方式においては、弾性体により構成される回転軸を中心として可動部が回転する。この場合、可動櫛歯電極の振幅を大きくしてタイミング検出精度を高めようとすると、回転軸から離れた位置に可動櫛歯電極を設けることとなる。しかしながら、可動部の共振周波数は慣性モーメントの平方根に反比例し、慣性モーメントは回転軸からの距離の2乗に比例するので、可動櫛歯電極が回転軸から離れるほど可動櫛歯電極の重さが慣性モーメントに影響し、可動部の共振周波数が低下する。可動部の共振周波数が低下すると、回転速度が低下するので、容量の時間変化量すなわち容量微分信号が小さくなり、タイミング検出精度の向上度合いが抑制される。また、可動櫛歯電極の櫛歯数を多くするほど可動櫛歯電極が重くなるので、所望の共振周波数を達成するためには、可動櫛歯電極の櫛歯数を少なく抑えざるを得ず、大きな容量値を得ることが難しいといった問題がある。これに対し、上下振動方式において可動部に可動櫛歯電極を設ける場合、可動部のいずれの位置に可動櫛歯電極を設けても、増加する慣性モーメントは一定であり、共振周波数の低下量も一定である。したがって、可動櫛歯電極を設けることによる共振周波数の低下量は、回転ミラー方式に比べて小さくなる。そのような点から、上下振動方式では、回転ミラー方式に比べて、櫛歯の数を多くすることができ、大きな容量値を得ることができる。したがって、タイミング検出精度が高くなるので、可動部が所定の位置を通過するタイミングと駆動信号の立ち下がりタイミングとを比較的容易に合致させることができる。
【0168】
また、スライド方式では、容量値が最も大きくなるタイミング(容量微分値がゼロであるタイミング)において可動部の速度が最も遅くなる。可動部の速度が遅くなると、容量微分値の時間的変化が小さくなるので、タイミング検出精度が抑制される。これに対し、上下振動方式では、容量値が最も大きくなるタイミング(容量微分値がゼロであるタイミング)において可動部の速度が最も速くなるので、容量微分値の時間的変化も大きくなり、高いタイミング検出精度が得られる。したがって、上下振動方式では、スライド方式に比べて、可動部が所定の位置を通過するタイミングと駆動信号の立ち下がりタイミングとを比較的容易に合致させることができる。
【符号の説明】
【0169】
1A…光学モジュール、1B…MEMSアクチュエータ、2…ミラーユニット、3…パッケージ、5…可動ミラー(可動部)、5a…ミラー面、5b…ミラー支持部、6…固定ミラー、6a…ミラー面、7…ミラーデバイス、7a,7b…光通過部、8…光学機能部材、8a…表面、8b…裏面、9…応力緩和基板、11…ベース(基部)、11a…主面、11b…裏面、12,12A…駆動部、13…第1弾性支持部、14…第2弾性支持部、15…アクチュエータ部、16,16A,16B,18,18A,18B…固定櫛歯電極、16a,18a…固定櫛歯(第1櫛歯、第3櫛歯)、17,17A,17B,19,19A,19B…可動櫛歯電極、17a,19a…可動櫛歯(第2櫛歯、第4櫛歯)、20…SOI基板、21…支持層、22…デバイス層、23…中間層、31…支持体、31a…表面、33…リードピン、33a…一端部、34…枠体、34a…端面、34b…段差面、35…光透過部材、51…配置部、51a…表面、52…枠部、53…連結部、54…梁部、54a…内側梁部、54b…外側梁部、54c…連結梁部、71,72…電極パッド、80…基板(基部)、81…固定櫛歯電極、82…可動櫛歯電極、82a,82b…第2櫛歯、83,84…固定櫛歯電極、83a,84a…第1櫛歯、91…梁(可動部)、92,93…固定部、121…アクチュエータ駆動回路、122,122A…タイミング検出回路、123,123A,123B…電流電圧変換回路(TIA)、123a…増幅器、123b…帰還抵抗、123e…キャパシタ、124…コンパレータ、125…クランプ回路、125a,125b…スイッチングダイオード、126…保護回路、126a,126b…ダイオード、127,128…ソフトリミッタ回路、127a,128a…スイッチングダイオード、127b,127c,128b,128c…抵抗、129…変位量検出部、129a…積分回路、129b…増幅器、130…電圧生成回路、131,141…レバー、132,142…第1リンク部材、133,143…第2リンク部材、134,144…中間部材、135,145…第1トーションバー、136,146…第2トーションバー、137,147…非線形性緩和バネ、138,148…電極支持部、138a,148a…第1電極支持部、138b,148b…第2電極支持部、138c,148c…第3電極支持部、201…正弦波生成回路、202…可変容量、203…固定容量、204…演算回路、204a…オペアンプ、204b…帰還容量、205…包絡線検波器、206…アンプ、207…ローパスフィルタ、208…アナログ-ディジタル変換器、211…容量、212…抵抗、Ca1…オーバーラップ容量、Ca2…フリンジ容量、C1,C2…容量、F1,F2,F3…領域、GND…基準電位線、H…包絡線、J1…電流信号、J1a,J1b…パルス波、J2…帰還電流、J2a,J2b…パルス波、J3,J4…電流、J5,J6…帰還電流、L1,L2,L3…直線、N1~N5…ノード、PA,PB…飽和波形、PC…パルス、PD…立ち下がり、PU…立ち上がり、R1,R2…軸線、Ri…リップル、Sa…正弦波信号、Sb,Sc…信号、T1~T4…タイミング、V+…正の定電位線、V-…負の定電位線、VH…定電圧、Va…反転入力端子電圧、Vi…入力信号、Vin,Vin1,Vin2…駆動信号、Vo…出力信号、Vout…容量微分信号、YA,ZA…極大点、YB,ZB…極小点、ZC…中点。