(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】自動二輪車の運転者に警告するための方法、ならびにそのような方法を実行するための運転補助制御装置及び自動二輪車
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241010BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241010BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20241010BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20241010BHJP
F16H 61/21 20060101ALI20241010BHJP
B60W 50/16 20200101ALI20241010BHJP
B62L 3/08 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60T7/12 B
B60T8/171 Z
B60T8/172 Z
F16H61/21
B60W50/16
B62L3/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020072827
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-03-30
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】押田 裕樹
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/133397(WO,A1)
【文献】特開2018-154273(JP,A)
【文献】特開2018-197071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60T 7/12
B60T 8/171
B60T 8/172
F16H 61/21
B60W 50/16
B62L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車(1)の運転者に警告するための方法であって、
少なくとも1つのセンサ(17)からの信号に基づいて交通状況を監視し、前記少なくとも1つのセンサ(17)からの前記信号に基づいて危険な交通状況を検出
し、かつ、前記運転者の特定の反応を検出することに基づいて前記運転者が前記危険な交通状況を認識していないと判定されると、前記自動二輪車(1)に加速変化を誘発することによって前記運転者に警告することを含み、前記自動二輪車(1)の
直立状態を0°とした場合の現在の
前記自動二輪車(1)の傾斜角度を監視し、前記自動二輪車(1)の前記現在の傾斜角度を考慮して前記自動二輪車(1)へどのように、及び/又はどの程度の前記加速変化を誘発するかを設定し、
前記現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値未満の場合に、前記自動二輪車(1)の前輪ブレーキ(9)を少なくとも作動させることによって前記加速変化を誘発し、
前記現在の傾斜角度が前記所定の第1の傾斜角度値よりも大きく、かつ前記第1の傾斜角度値より大きい所定の第2の傾斜角度値よりも小さい場合に、前記自動二輪車(1)の後輪ブレーキ(13)を作動させること、前記自動二輪車(1)のエンジン(5)によって生成される加速トルクを減少させること、
および前記自動二輪車(1)の自動変速機(7)を一時的に低速ギヤにシフトさせることのうちの
少なくとも1
つによって排他的に前記加速変化を誘発し、
前記現在の傾斜角度が前記所定の第2の傾斜角度よりも大きい場合には、加速変化を誘発しない、方法。
【請求項2】
前記加速変化を達成するための前記方法が、所定の時間にわたって適用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホイールブレーキの前記作動及び前記加速トルクの前記低減が、所定の時間にわたって適用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記自動二輪車の自動変速機を、より低速ギヤへ前記シフトすることは、所定の時間内に元の高速ギヤに戻してシフトすることによって補正されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記時間は、0.1秒から2秒の間で選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記誘発された加速変化の強度は、前記現在の傾斜角度が小さくなるにつれ高く設定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の第1の傾斜角度値は、20°未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の第2の傾斜角度値は、35°未満であることを特徴する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法の実施及び制御のいずれか一方を行うように構成される自動二輪車(1)用の運転補助制御装置(3)。
【請求項10】
請求項9に記載の運転補助制御装置(3)と、前記自動二輪車(1)の前記現在の傾斜角度を判定するための加速センサ(25)を備えた自動二輪車(1)。
【請求項11】
プログラム可能な運転補助制御装置(3)のプロセッサ(27)で実行されると、前記プロセッサ(27)に請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法を実施及び制御するように命令するコンピュータ可読命令を包含するコンピュータプログラム製品。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラム製品を記憶したコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の運転者に警告するための方法に関する。さらに、本発明は、自動二輪車の運転補助制御装置に関し、当該制御装置を備える自動二輪車と、提案された方法を実施し制御するためのコンピュータプログラム製品と、当該コンピュータプログラム製品を備えるコンピュータ可読媒体とに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を運転すると、危険な、又は危険となり得る交通状況が発生し得る。現代の車両には、そのような危険な状況を示すパラメータを感知することができるセンサが設けられている場合もある。これにより、センサ信号に基づいて、車両の運転者に警告を与えることができる。
【0003】
補助制御装置は、自動車、即ち四輪車両のために開発されており、危険な状況が検出された場合に、自動車のブレーキを一時的に作動させることによって運転者に警告することができる。
【0004】
しかしながら、今日まで、自動警告ブレーキ機能の手法は、自動二輪車、即ち二輪車両において使用することができなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的背景を考慮して、本発明の実施形態は、自動二輪車の運転者に警告するための方法と、運転補助制御装置と、自動警告ブレーキ機能の意図を自動二輪車に適用し利用できる当該運転補助制御装置を備える自動二輪車について記載する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態は、自動二輪車の現在の運転状態を考慮して自動二輪車に作用する加速を一時的に変化させることによって、自動二輪車の運転者に対して有利な方法で警告することが可能になる。これにより、とりわけ、運転者に警告するプロセスを、より確実に行うことができる。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、自動二輪車の運転者に警告するための方法が提案される。
前記方法は、
少なくとも1つのセンサからの信号に基づいて交通状況を監視し、前記少なくとも1つのセンサからの前記信号に基づいて危険な交通状況を検出すると、前記自動二輪車に加速変化を誘発することによって前記運転者に警告することを含み、
前記自動二輪車の現在の傾斜角度を監視し、前記自動二輪車の前記現在の傾斜角度を考慮して前記自動二輪車へのどのように、及び/又はどの程度の加速変化を誘発するかを設定し、
前記現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値未満の場合に、前記自動二輪車の前輪ブレーキを少なくとも作動させることによって前記加速変化を誘発し、
前記現在の傾斜角度が前記所定の第1の傾斜角度値よりも大きく、かつ前記第1の傾斜角度値より大きい所定の第2の傾斜角度値よりも小さい場合に、前記自動二輪車の後輪ブレーキを作動させること、前記自動二輪車のエンジンによって生成される加速トルクを減少させること、前記自動二輪車の自動変速機を一時的に低速ギヤにシフトさせることのうちの1つ以上によって前記加速変化を排他的に誘発し、
前記現在の傾斜角度が前記所定の第2の傾斜角度よりも大きい場合、加速変化が誘発されないことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、自動二輪車のための運転補助制御装置が提案され、前記制御装置は、本発明の第1の態様の実施形態による方法の実施と制御のうちの一方に適合する。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の実施形態による運転補助制御装置と、前記自動二輪車の前記現在の傾斜角度を判定するための加速センサと、を備える自動二輪車が提案される。
【0010】
本発明の第4の態様によれば、プログラム可能な運転補助制御装置のプロセッサ上で実行されると、本発明の第1の態様の実施形態による方法を実施及び制御するようにプロセッサに命令する、コンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品が提案される。
【0011】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第4の態様の実施形態によるコンピュータプログラム製品を記憶させるコンピュータ可読媒体が提案される。
【0012】
本発明の実施形態の根底にある概念は、とりわけ、以下の意図及び認識に基づくものとして解釈できる。
【0013】
さらに上述したように、自動警告ブレーキ機能の概念は、自動車に対して既に提案されている。しかしながら、この概念は、単純に自動二輪車に移行できない場合もあることが判明している。特に、自動二輪車のブレーキを自動的に作動させることは、特定の条件において、自動二輪車の運転者を著しく妨害するか、又は自動二輪車の運転状態に対し、危険な、又は危険となり得る影響をもたらすことがあることが判明している。
【0014】
特に、自動二輪車の動力学は、4つの車輪とは異なり、自動二輪車は車輪を2つしか有していないことから、自動車の動力学と著しく異なることが判明している。自動二輪車は単線車両であるため、自動二輪車は、例えば、旋回時に、垂直方向から傾斜角度分だけ傾斜、即ち、逸脱してもよい。
【0015】
自動二輪車が直立している、即ち、傾斜角度が0°であるとき、その動力学は、駆動方向における自動二輪車の負の加速、即ち減速度を生じるという点で、ブレーキを作動する自動車の場合と同様である。しかし、自動二輪車が傾斜している、即ち、傾斜角度が0°より大きい場合、加速変化に加えて、自動二輪車にはジャイロスコープの力が概して誘発される。例えば、減速すると、傾斜した自動二輪車は、その傾斜角度が変わる傾向があり、それによって、その先の走行軌道も変わる可能性がある。こうした自動二輪車への影響は、運転者の妨げとなり、又は危険な状況をもたらす可能性さえある。
【0016】
そこで、自動二輪車の特性が自動車の特性とは異なることを具体的に考慮した運転者への警告方法が提案されている。
【0017】
特に、危険な交通状況が発生したか否かのみを検出し、その後、例えば自動二輪車のブレーキを作動させて自動二輪車の加速変化を誘発する。代わりに、自動二輪車の現在の傾斜角度を監視して、どのように、及び/又はどの程度の加速変化を誘発するかを設定するときに考慮に入れるようにする。
【0018】
言い換えれば、危険な交通状況を示すセンサ信号に加えて、自動二輪車に加速変化を誘発することによって自動二輪車の運転者に警告するか否か、及び/又は、どのように及び/又はどの程度の加速変化を誘発すべきかを決定するとき、自動二輪車の現在の傾斜角度を示す、さらなるパラメータを考慮に入れる。
【0019】
これにより、自動警告ブレーキ機能を開始する前、又は開始するときに、現在の運転状況、特に自動二輪車の現在の傾斜角度が考慮されるように、運転者へ警告するための提案された方法は、次のような構成としてもよい。
前記現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値よりも小さい場合に、前記自動二輪車の前輪ブレーキを少なくとも作動させることによって前記加速変化を誘発する。
前記現在の傾斜角度が前記所定の第1の傾斜角度値よりも大きく、かつ前記第1の傾斜角度値より大きい所定の第2の傾斜角度値よりも小さい場合に、前記自動二輪車の後輪ブレーキを作動させること、前記自動二輪車のエンジンによって生成される加速トルクを減少させること、前記自動二輪車の自動変速機を一時的に低速ギヤにシフトさせることのうちの1つ以上によって、前記加速変化を排他的に誘発する。
前記現在の傾斜角度が前記所定の第2の傾斜角度よりも大きい場合は、加速変化を誘発しない。
【0020】
これにより、運転者が妨害されないように、及び/又は加速変化自体が自動二輪車を危険な運転モードにしないように、どのように、及び/又はどの程度の加速変化を誘発するかを設定することができる。これにより、自動二輪車の自動警告ブレーキ機能の安全性及び/又は有効性を向上させることができる。したがって、ホイールブレーキの作動及び加速トルクの低減が、所定の時間にわたって適用される。また、自動二輪車の自動変速機を、より低速ギヤへシフトしたとしても、所定の時間内に元の高速ギヤに戻してシフトすることによって補正される。
【0021】
一実施形態では、時間は0.1秒から2秒の間で選択する。
【0022】
例えば、一実施形態によれば、誘発加速変化の強さは、現在の傾斜角度が小さいほど高く設定してもよい。
【0023】
言い換えれば、自動二輪車が直立しているか、又は僅かにしか傾斜していない場合、自動二輪車が著しく傾斜しているときより、強い加速変化を誘発してもよい。例えば、自動二輪車が15°を超える傾斜角度である場合、誘発加速変化は、0°の傾斜角度で誘発される加速変化より著しく小さい、即ち、±5°の公差を含んで80%未満、又は50%未満とすることができる。
【0024】
例えば、誘発加速変化は、自動二輪車の現在の傾斜角度に対して線形又は非線形に変化してもよい。例えば、誘発加速変化は、0°の傾斜角度で最大であってもよく、例えば30°などの所定の最大傾斜角度値では最小、又は0であってもよい。
【0025】
加速変化は、自動二輪車の前輪ブレーキを作動させること、自動二輪車の後輪ブレーキを作動させること、自動二輪車のエンジンによって生成される加速トルクを低減させること、及び/又は自動二輪車の自動変速機を低速ギヤにシフトさせることによって誘発してもよい。
【0026】
別の言い方をすれば、駆動自動二輪車への加速変化を誘発する方法は様々である。特定の駆動条件に対して選択する選択肢は、自動二輪車の現在の傾斜角度を考慮に入れて決定してもよい。恐らく、加速変化を誘発するための選択肢を設定する際に、自動二輪車のセンサからの信号及び/又は他の影響に基づいて決定した危険な交通状況の種類も考慮に入れることができる。
【0027】
加速変化をもたらすための1つの選択肢としては、自動二輪車のホイールブレーキのうちの1つを作動させることである。ここで、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキは、それらの制動の有効性、並びに自動二輪車の運転動力学に対する影響に関して特性が異なることを考慮してもよい。例えば、自動二輪車の前輪ブレーキを作動させることにより、最も効果的に自動二輪車を減速させるが、前輪に過剰な力が誘発された場合に、前輪がそのトラクションを失うなど、非常に危険な運転状況が生じることがある。一方、自動二輪車の後輪ブレーキを作動させることにより、減速度が小さくなるが、例えば、後輪をブロックするほうが、前輪をブロックするより概してはるかに危険性が低くなる。
【0028】
これにより、自動二輪車のいずれかのホイールブレーキを作動すべきか、自動二輪車のいずれのホイールブレーキを作動すべきか、及び/又はどの程度、ホイールブレーキの一方又は両方を作動するべきかを決定する際に、自動二輪車の現在の傾斜角度を考慮に入れることによって、自動二輪車を制動動作によって一時的に減速して、危険な交通状況が検出されたら運転者に対して効果的に警告することができる。
【0029】
あるいは、自動二輪車のエンジンが発生する加速トルクを低減することで、自動二輪車への加速変化を誘発してもよい。これは、つまり、任意のホイールブレーキを作動させる代わりに、又はそれに加えて、自動二輪車のエンジンによって生成される動力を絞ることによって、自動二輪車に作用する加速を一時的に変化させてもよいということを意味する。運転者は、この動力の低減を直感的に感じることができ、それを警告として解釈することができる。さらに、一般的にエンジンが生成する動力を一時的に減少させることにより、エンジンによって生成されるノイズも低減することによって、警告信号をさらに強調することもできる。
【0030】
さらなる代替として、自動二輪車の自動変速機を低速ギヤにシフトして、加速変化を誘発してもよい。このように低速ギヤへシフトすると、自動二輪車のエンジンは、一般的に、より高速で回転しなければならなくなる。これにより、一般的には、自動二輪車に作用する加速変化が誘発される。さらに、回転速度がより高くなると、概して、発生するノイズがより大きくなる、及び/又は異なる周波数のノイズが発生する。両方の効果が、運転者の注意を引き付け、ひいては、運転者に警告することができる。
【0031】
特定の実施形態では、現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値未満の場合にのみ、自動二輪車の前輪ブレーキを作動させて加速変化を誘発する。
【0032】
言い換えれば、加速変化は、判定された現在の傾斜角度が十分に小さい場合にのみ、自動二輪車の前輪ブレーキを作動させることによって誘発して、前輪の制動動作が自動二輪車の運転動力学に対していかなる不都合な影響をも与えないように、又は、前輪のトラクションの損失を引き起こさないようにする。現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値よりも大きい場合、意図した加速変化を生成するために、前輪ブレーキの作動ができないこともある。例えば、現在の傾斜角度が所定の第1の傾斜角度値を超えると検出された場合、加速変化を生成するためには、後輪ブレーキの作動、自動二輪車のエンジンが生成する加速トルクの減少、及び/又は自動二輪車の自動変速機を低速ギヤへシフトするなど、他の選択肢のみが適用できる。
【0033】
例えば、所定の第1の傾斜角度値は、20°未満であってもよい。特に、第1の傾斜角度値は、10°から20°の範囲であってもよい。例えば、第1の傾斜角度値は15°であってもよい。
【0034】
任意で、第1の傾斜角度値は、自動二輪車の特定のタイプ及びその動力学に応じて設定してもよい。例えば、第1の傾斜角度値は、道路又はレース用自動二輪車のような低重心の自動二輪車に対して、例えば、17°より大きな値に設定してもよく、一方、第1の傾斜角度値は、例えば、オフロード自動二輪車などのような重心が高い自動二輪車に対して、例えば13°未満の値に設定してもよい。
【0035】
また、所定の第1の傾斜角度値を固定して設定してもよい。あるいは、所定の第1の傾斜角度値は、例えば、運転者の好み及び/又は運転技能に応じて、例えば、運転者が調整できるようにしてもよい。
【0036】
加速変化は、現在の傾斜角度が所定の第2の傾斜角度値未満のときに排他的に誘発される。
【0037】
言い換えれば、現在の傾斜角度が、所定の第2の傾斜角度値を超えると検出された場合には、加速変化の誘発がもはや許容されないこともある。これは、自動二輪車が許容可能な最大傾斜角度を超えて傾斜している状況で運転するためには、加速変化の誘発はすべて防止されることを意味している。これにより、そのような運転状況では、運転者には、いかなる加速変化が起きても任意の危険な交通状況の警告は発せられないであろう。しかしながら、これは、加速変化を誘発すると、そのような傾斜した運転状況にある運転者をさらに混乱させる可能性があり、及び/又は、傾斜した車両に加速力がさらに加わるために自動二輪車の運転の不安定性を誘発する可能性があるので、好ましいと言える。
【0038】
例えば、所定の第2の傾斜角度値は、35°未満であってもよい。特に、所定の第2の傾斜角度値は、25°から35°の範囲内であってもよい。例えば、所定の傾斜角度値は、30°であってもよい。
【0039】
第1の傾斜角度値と同様に、第2の傾斜角度値も、自動二輪車の特定のタイプ及びその動力学に応じて設定してもよい。例えば、第2の傾斜角度値は、低重心の自動二輪車に対しては、例えば、33°より大きな値に設定してもよく、一方、第1の傾斜角度値は、重心が高い自動二輪車に対しては、例えば、27°の未満の値に設定してもよい。
【0040】
また、所定の第2の傾斜角度値を固定して設定してもよい。あるいは、所定の第2の傾斜角度値は、例えば、運転者の好み及び/又は運転技能に応じて運転者が調整できるようにしてもよい。
【0041】
提案された方法の実施形態は、自動二輪車の運転補助制御装置によって実施又は制御してもよい。
【0042】
その中で、運転補助制御装置は、交通状況を監視するための少なくとも1つのセンサを備えてもよい。代替的に、運転補助制御装置自体は、そのようなセンサを備えていないが、当該センサは、自動二輪車に含まれ、運転補助制御装置は、当該外部センサと通信するためのインターフェース及び/又は信号線を備える。交通状況を監視するためのセンサは、自動二輪車の環境の状態、及び/又は、自動二輪車自体に作用する状態を検知するように構成してもよい。例えば、センサは、レーダセンサ、カメラのような光学センサ、超音波センサなどのうちの1つであってもよい。交通状況を監視するために、複数の及び/又は多様なセンサを使用することも可能である。また、速度センサ、操舵角センサ、加速センサなどの自動二輪車自身の走行特性を検出するセンサのセンサ信号に基づいて、交通状況を監視してもよい。
【0043】
さらに、運転補助制御装置は、自動二輪車の現在の傾斜角度を判定するための加速センサを備えてもよい。あるいは、当該加速センサは、運転補助制御装置自体に含まれていないが、自動二輪車に含まれており、運転補助制御装置は、インターフェース及び/又は信号線を介して当該加速センサと通信してもよい。
【0044】
本明細書で提案される方法の実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの組合せで実装してもよい。特に、提案された運転補助制御装置は、プログラム可能であってもよく、又は他の目的のために自動二輪車に適用されるプログラム可能な制御装置の一部であってもよい。当該プログラム可能なデバイスは、本発明の第4の態様によるコンピュータプログラム製品の実施形態を使用してプログラムしてもよい。当該コンピュータプログラム製品は、プロセッサ上で実行されるとき、プロセッサが提案された方法の方法ステップを実装又は制御するような、任意のコンピュータ言語のコンピュータ可読命令によって形成してもよい。コンピュータプログラム製品は、フラッシュメモリ、光学メモリ、磁気メモリ、CD、DVDなどの任意のタイプのコンピュータ可読媒体に記憶してもよい。さらに、コンピュータプログラム製品は、コンピュータ、サーバ、又はインターネットなどのネットワークを介してダウンロードできるデータクラウド上に記憶してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。しかしながら、図面も説明も本発明を限定するものではない。
【
図1】本発明の実施形態に係る、運転者に警告する方法を制御する運転補助制御装置を備えた自動二輪車を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る方法の方法ステップを示すフローチャートである。
【0046】
図面は、概略的なものにすぎず、縮尺通りではない。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、本発明の一実施形態に係る運転補助制御装置3を備えた自動二輪車1を示す。
【0048】
自動二輪車1は、エンジン5及び自動変速機7を備え、その動作は、とりわけ、運転補助制御装置3で制御してもよい。さらに、自動二輪車1は、前輪11の前輪ブレーキ9と、後輪15の後輪ブレーキ13とを備え、その動作は、とりわけ、運転補助制御装置3で制御してもよい。
【0049】
運転補助制御装置3は、レーダセンサ19、カメラ21、及び/又は超音波センサ23などのセンサ17からの信号を受信及び分析してもよい。これらの信号に基づいて、危険な交通状況を検出してもよい。例えば、センサの信号は、接近する他の車両、道路上の障害物、赤信号などを知らせることができる。
【0050】
さらに、運転補助制御装置3は、自動二輪車1の現在の傾斜角度を示す加速センサ25からの信号を受信し、分析してもよい。加速センサ25は、好ましくは、異なる方向に沿った加速を感知することができる。例えば、加速センサ25は、互いに直交する3方向の加速を検出してもよい。これにより、自動二輪車の上下方向と、当該自動二輪車が側方に傾斜している平面との角度を示す自動二輪車の現在の傾斜角度を高精度に測定することができる。現在の傾斜角度は、自動二輪車の現在の全体的な姿勢の一部であってもよい。
【0051】
運転補助制御装置3は、センサ17からの信号及び加速センサ25からの信号を処理するためのプロセッサ27を有する。運転補助制御装置3は、プログラム可能であってもよい。
【0052】
運転補助制御装置3によれば、自動警告ブレーキ機能が実装され、自動警告ブレーキ機能は、例えば、ブレーキ9、13のうちの一方を一時的に作動させることによって、例えば、危険となり得る状況を自動二輪車の運転者が認識できるようになる。危険となり得る状況は、例えば、センサ17のうちの1つの信号に基づいて周囲の感知から得られた情報を使用して認識してもよい。
【0053】
ここで、自動警告ブレーキ機能は乗用車に知られているが、既知のシステムは、乗用車と自動二輪車の間で車両の動力学が完全に異なることから、自動二輪車には単純に転送されないことがあることに留意されたい。安全で効果的な警告ブレーキ機能を実装するために、自動二輪車固有の考慮事項を考慮に入れる必要がある。特に、自動二輪車では、自動ブレーキ作動が大きな姿勢変化を発生させ、モータサイクルを不安定にする可能性がある。しかしながら、警告ブレーキの目的として、危険となり得る状況を運転者に知らせるのに十分な大きさであるべきである。従って、一般的に、自動二輪車の現在の姿勢に応じて、前後ブレーキを適切に制御して、機能を有効にする必要がある。
【0054】
本明細書に記載の方法及び運転補助制御装置3の実施形態では、自動二輪車の自動警告ブレーキの安全性及び有効性は、傾斜角度、ピッチ角、及びジョーレートなどの姿勢情報を使用することによって、自動二輪車の前後輪の加速力を制御することによって改善してもよい。自動二輪車では、例えば、駆動トルク制御、変速、回生ブレーキ、油圧ブレーキの各構成要素を適用してブレーキ力を発生させることができる。これらの構成要素の組合せも、現在の状況に応じて考慮してもよい。
【0055】
自動二輪車の自動警告ブレーキシステムは、一例として、センサ17、車両姿勢検出用の慣性センサ、駆動トルク制御用のエンジントルク制御システム、ギヤ段制御用の自動変速システム、メインブレーキとしての油圧ブレーキユニット、光警告用のディスプレイとして、レーダとカメラとから構成してもよい。次いで、システムは、周囲の情報と車両姿勢情報を統合し、エンジントルク、ギヤシフト、及び/又は油圧ブレーキを制御して長手方向の動きを生むことによって、必要な制動力を計算してもよい。駆動系として、ほとんどの自動二輪車は、燃焼エンジンを有するリアアクスルドライブを搭載しているが、例えば、インホイールモータを有するフロントアクスルドライブ及びリアアクスルドライブの両方を搭載することができるようにしてもよい。前後輪のブレーキ力を適切に制御することによって、システムは、警告ブレーキの安全性及び有効性を向上させることができる。
【0056】
したがって、センサ17からの信号に基づいて危険な交通状況を検出すると、自動二輪車1に加速変化を誘発することによって運転者に警告することができる。ここで、加速センサ25を使って自動二輪車1の現在の傾斜角度を監視し、現在の傾斜角度を考慮して前記自動二輪車1へどのように、及び/又はどの程度の加速変化を誘発するかを設定する。
【0057】
例えば、傾斜角度LAと警告ブレーキ加速との関係は、以下のように考えることができる。
状況A:0°<LA<15°:高度なブレーキ加速が可能である。
状況B:15°<LA<30°:低度なブレーキ加速のみ可能である。
状況C:LA>30°:ブレーキ加速は不可能である。
【0058】
状況Bでは、自動二輪車は、横に大きく傾斜しているので、運転者に警告するためのブレーキ誘発加速が状況Aと比較してより低く制限される。ブレーキの誘発加速の抑制は、必要なロール角に依存し得る。
【0059】
状況Cでは、自動二輪車は、任意の追加的に誘発されるブレーキ加速が危険となり得る程度の側に傾斜している。このような状況では、警告ブレーキ機能が必要とされることがないように、運転者は、自身が危険となり得る状況を認識すべきである。
【0060】
上記の考察から、警告ブレーキ機能の制御は、自動二輪車に対する加速変化を生成するための以下の方法を組合せることによって実施してもよい。
【0061】
i)前輪ブレーキ9の作動
前輪11を制動することによって、高い制動力が発生して、高い負の加速変化を誘発することができる。概して、前輪ブレーキ9の作動は、警告ブレーキをかける最も効果的な方法である。しかしながら、強力な制動力による不安定性から、前輪ブレーキ9の作動は、上述の状況Aに制限してもよい。
【0062】
ii)後輪ブレーキ13の作動
後輪ブレーキ13の作動は、概して前輪ブレーキ9の作動よりも効果的ではないが、上述の状況Bのように傾斜角度が大きい状況で、前輪ブレーキ9の使用が推奨できない時には依然として警告ブレーキとして有用である。
【0063】
iii)エンジントルクダウン
自動二輪車1のエンジン5の出力をトルクダウンすること、即ち、エンジン5によって生成される加速トルクを低減することにより、比較的低い制動力を生成することができる。概して、加速変化は、運転者が自動二輪車1を加速しているときにのみ誘発してもよい。言い換えれば、エンジントルクダウンは、運転者が特定のエンジントルクを要求する場合のみ可能であるが、制動力を発生させるための有効な方法である。この選択肢は、好ましくは、前輪ブレーキ作動及び後輪ブレーキ作動のうちの少なくとも一方と組み合わせて使用してもよい。
【0064】
iv)変速機のシフトダウン
自動二輪車1の自動変速機7を低速ギヤにシフトさせることでも、比較的低い制動力を発生させることができる。さらに、当該選択肢は、現在のギヤが少なくともセカンドギヤ以上である場合にのみ適用可能とすることができる。言い換えれば、自動二輪車1が自動変速機システムを有する場合、ギヤをシフトダウンすることも、ブレーキ力を発生させる方法である。これはまた、エンジン5によって生成されるノイズの増加に起因して音響警告効果を有することがある。この選択肢は、好ましくは、前輪ブレーキ作動及び/又は後輪ブレーキ作動のうちの少なくとも一方、及び/又はエンジントルクダウンと組み合わせて使用してもよい。
【0065】
図2のフローチャートは、自動二輪車1の運転者に警告するために提案された方法の実行中に行われる方法ステップを視覚化したものである。
【0066】
手順を開始した後(ステップS1)、危険な交通状況が発生したか否かに関して決定(“?1”)を行う必要がある(ステップS2)。この決定は、センサ17からの信号を連続的に又は反復的に分析することに基づいて行われてもよい。危険な交通状況が決定されない場合、アクション(“na”)を開始する必要はない(ステップS3)。
【0067】
危険な交通状況が判定された場合、運転者が危険な状況を認識しているかどうかに関して、さらなる決定(“?2”)を行う必要がある(ステップS4)。この決定は、例えば、ブレーキを手動で作動させること、及び/又は操舵角を変更することのような、運転者の特定の反応を検出することに基づいて行ってもよい。危険な交通状況を運転者が認識した場合は、さらなるアクションを取らなくてもよい(ステップS5)。
【0068】
しかしながら、運転者が危険な交通状況を認識しなかった場合、運転者に警告するために自動二輪車1への加速変化を誘発する方法及び/又は程度に関して、さらなる決定(“?3”)を行う必要がある。ここで、上記の状況A、B、Cは、自動二輪車の現在の傾斜角度を連続的に又は反復的に測定することに基づいて区別してもよい。
【0069】
状況A、即ち、現在の傾斜角度が、例えば15°の所定の第1の傾斜角度値よりも小さいことを検出した場合、アクションA(“aA”)を開始する(ステップS7)。アクションAでは、自動二輪車1への加速変化を誘発するために前輪ブレーキ9を作動させる。
任意で、後輪ブレーキ13を作動させる、エンジン5が生成する加速トルクを低減する、及び/又は自動変速機7を低速ギヤにシフトさせるなどのさらなる手段を適用してもよい。
【0070】
状況B、即ち、現在の傾斜角度が、第1の傾斜角度値よりも大きいが、例えば30°の所定の第2の傾斜角度値よりも小さいことが検出された場合、アクションB(“aB”)が開始される(ステップS8)。当該アクションBでは、前輪ブレーキ9を作動しない。代わりに、後輪ブレーキ13のみを作動して、自動二輪車1への加速変化を誘発する。任意で、エンジン5が生成する加速トルクを低減する、及び/又は自動変速機7を低速ギヤにシフトさせるなどのさらなる手段を適用してもよい。
【0071】
状況C、即ち、現在の傾斜角度が所定の第2の傾斜角度値よりも大きい場合、アクション(“na”)を行わない(ステップ9)、即ちあらゆる加速変化の誘発を抑制する。
【符号の説明】
【0072】
1 自動二輪車
3 運転補助制御装置
5 エンジン
7 自動変速機
9 前輪ブレーキ
13 後輪ブレーキ
17 センサ
25 加速センサ
27 プロセッサ