(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ワイヤストレートナ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
B23K9/12 311
(21)【出願番号】P 2020138039
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】脇田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】清水 康隆
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-150669(JP,A)
【文献】特開2001-030077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の第1矯正ロールと、
第2矯正ロールと、
2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる移動機構と、
2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとの間を通過した溶接ワイヤを案内する筒状のガイドに配置され、
全周にわたって前記ガイドの内側に露出する
筒状の電極と、
前記溶接ワイヤが前記電極に接触した場合、前記移動機構に両者を近づけさせる制御を行う制御部と、
を備えているワイヤストレートナ。
【請求項2】
前記制御部は、前記溶接ワイヤが前記電極に接触した状態が所定時間以上継続したときに、前記移動機構に両者を近づけさせ、その後、前記溶接ワイヤが前記電極に接触しなくなったときに、前記移動機構を停止させる、
請求項1に記載のワイヤストレートナ。
【請求項3】
前記移動機構は、
加圧調整ネジと、
前記第2矯正ロールを支持し、前記加圧調整ネジに螺合して、前記加圧調整ネジの回転に応じて移動する移動部と、
前記制御部からの指令に応じて回転駆動するモータと、
前記モータの回転力を必要なトルクに変換しながら前記加圧調整ネジに伝達するギヤと、
を備えている、
請求項1または2に記載のワイヤストレートナ。
【請求項4】
2個の第3矯正ロールと、
第4矯正ロールと、
2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる第2の移動機構と、
前記溶接ワイヤが前記電極に接触した場合、前記第2の移動機構に両者を近づけさせる制御を行う第2制御部と、
をさらに備え、
前記溶接ワイヤは、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとの間を通過し、
前記移動機構が移動させる方向と、前記第2の移動機構が移動させる方向とがなす角度は90度である、
請求項1ないし3のいずれかに記載のワイヤストレートナ。
【請求項5】
ワイヤ送給装置の入口に取り付けられ、
前記電極は、前記ワイヤ送給装置のアウトレットガイドに配置されている、
請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤストレートナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの巻き癖を矯正するワイヤストレートナに関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極型の溶接システムにおいて、ワイヤ送給装置は、例えばワイヤリールに巻回された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する。溶接ワイヤに巻き癖がついたままだと、ワイヤ送給装置から溶接トーチに溶接ワイヤを案内するコンジットケーブルなどの内壁に溶接ワイヤが接触しやすく、溶接ワイヤの送給抵抗が大きくなる。また、溶接トーチの先端から突出する溶接ワイヤWの先端部分が湾曲して、アークが不安定になる。これらを抑制するために、溶接ワイヤの巻き癖を矯正するワイヤストレートナが、ワイヤ送給装置の入口側に配置される。特許文献1には、ワイヤストレートナの一例が開示されている。
【0003】
当該ワイヤストレートナは、回転可能に支持された2個の固定矯正ロールと、2個の固定矯正ロールの下方に回転可能かつ上下動可能に配置された可動矯正ロールとの間を通過させることで、溶接ワイヤの矯正を行う。溶接ワイヤを適切に矯正するためには、溶接ワイヤの材質および直径によって、2個の固定矯正ロールと可動矯正ロールとによる溶接ワイヤへの加圧を調整する必要がある。作業者は、加圧調整ハンドルを回して、溶接ワイヤの材質および直径に対応した位置まで可動矯正ロールを移動させることで、溶接ワイヤへの加圧を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業者は、使用する溶接ワイヤを交換するたびに、溶接ワイヤの材質および直径に対応した位置まで可動矯正ロールを移動させるために、加圧調整ハンドルを手動で回す必要がある。可動矯正ロールの位置は、目盛りをみて調整するので、ワイヤストレートナBの設置場所によっては、溶接ワイヤの交換時の作業性がよくない場合がある。また、作業者が溶接ワイヤの材質および直径に対応した位置を間違えて、可動矯正ロールの位置を調整した場合、溶接ワイヤが適切に矯正されない状態で、溶接トーチに送給される。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、溶接ワイヤを適切に矯正できるように自動調整を行うワイヤストレートナを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供されるワイヤストレートナは、2個の第1矯正ロールと、第2矯正ロールと、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる移動機構と、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとの間を通過した溶接ワイヤを案内する筒状のガイドに配置され、少なくとも一部が前記ガイドの内側に露出する電極と、前記溶接ワイヤが前記電極に接触した場合、前記移動機構に両者を近づけさせる制御を行う制御部とを備えている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御部は、前記溶接ワイヤが前記電極に接触した状態が所定時間以上継続したときに、前記移動機構に両者を近づけさせ、その後、前記溶接ワイヤが前記電極に接触しなくなったときに、前記移動機構を停止させる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記移動機構は、加圧調整ネジと、前記第2矯正ロールを支持し、前記加圧調整ネジに螺合して、前記加圧調整ネジの回転に応じて移動する移動部と、前記制御部からの指令に応じて回転駆動するモータと、前記モータの回転力を必要なトルクに変換しながら前記加圧調整ネジに伝達するギヤとを備えている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、2個の第3矯正ロールと、第4矯正ロールと、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる第2の移動機構と、前記溶接ワイヤが前記電極に接触した場合、前記第2の移動機構に両者を近づけさせる制御を行う第2制御部とをさらに備え、前記溶接ワイヤは、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとの間を通過し、前記移動機構が移動させる方向と、前記第2の移動機構が移動させる方向とがなす角度は90度である。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、ワイヤ送給装置の入口に取り付けられ、前記電極は、前記ワイヤ送給装置のアウトレットガイドに配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、制御部は、溶接ワイヤが電極に接触した場合、移動機構に両者を近づけさせる。溶接ワイヤの矯正が不十分な場合、溶接ワイヤに巻き癖が残っているので、溶接ワイヤがガイドを通過する際に電極に接触する。この場合、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとが自動的に近づけられることで、溶接ワイヤへの加圧が増加され、溶接ワイヤの巻き癖はより矯正される。これにより、溶接ワイヤは、ガイドの電極に接触しない程度に、巻き癖が矯正される。したがって、作業者は、加圧の調整を手動で行う必要がない。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係るワイヤストレートナを説明するための図であり、(a)はワイヤストレートナを備える溶接システムを示す全体構成図であり、(b)はアウトレットガイド31を示す断面図である。
【
図2】(a)は第1実施形態に係るワイヤストレートナを示す正面図であり、(b)は底面図である。
【
図3】モータ制御部が行うモータの駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係るワイヤストレートナの変形例を示す図であり、(a)はワイヤストレートナの第1変形例を示す部分断面図であり、(b)はワイヤストレートナの第2変形例を示す正面図である。
【
図5】第2実施形態に係るワイヤストレートナを説明するための図であり、当該ワイヤストレートナを備える溶接システムを示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1および
図2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1を説明するための図である。
図1(a)は、ワイヤストレートナB1を備える溶接システムを示す全体構成図である。
図1(b)は、アウトレットガイド31を示す断面図である。
図2(a)は、ワイヤストレートナB1を示す正面図である。
図2(b)は、ワイヤストレートナB1を示す底面図である。
【0018】
図1(a)に示すように、消耗電極型の溶接システムは、ワイヤ送給装置A1、ワイヤストレートナB1、ワイヤリール4、および溶接トーチ5を備えている。なお、実際には、溶接システムは、溶接トーチ5に電力を供給する溶接電源装置や、溶接トーチ5にシールドガスを供給するガスタンクなども備えているが、
図1(a)では記載を省略している。以下では、溶接ワイヤWが進行する方向に合わせて、ワイヤリール4側を上流側(
図1においては左側)とし、溶接トーチ5側(
図1においては右側)を下流側として説明する。
【0019】
ワイヤ送給装置A1は、上流側に配置されたワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを、下流側に配置された溶接トーチ5まで送給する。
図1(a)に示すように、本実施形態では、ワイヤ送給装置A1は、4ロール型のワイヤ送給装置であり、送給ロール21,23、加圧ロール22,24、センタガイド32、およびアウトレットガイド31を備えている。なお、ワイヤ送給装置A1は、4ロール型に限定されず、例えば2ロール型のワイヤ送給装置であってもよい。
【0020】
送給ロール21,23は、図示しない駆動モータの回転力を図示しないギヤによって伝達されて回転する。加圧ロール22(24)は、送給ロール21(23)の鉛直方向上側の位置に配置され、送給ロール21(23)との間で溶接ワイヤWを挟持するように加圧する。溶接ワイヤWは、送給ロール21と加圧ロール22とで挟持され、また、送給ロール23と加圧ロール24とで挟持され、送給ロール21,23が回転することで送給される。
【0021】
センタガイド32およびアウトレットガイド31は、それぞれ、円筒形状をなし、溶接ワイヤWを案内する部材である。センタガイド32は、送給ロール21によって送り出された溶接ワイヤWを送給ロール23まで案内する。アウトレットガイド31は、送給ロール23によって送り出された溶接ワイヤWをワイヤ送給装置A1の外部に案内する。アウトレットガイド31の先端には、図示しないアダプタに接続されたコンジットケーブル52が取り付けられており、コンジットケーブル52は溶接トーチ5まで溶接ワイヤWを案内する。
【0022】
溶接トーチ5は、ワイヤ送給装置A1から溶接ワイヤWを送給されて、先端から溶接ワイヤWの先端を突出させる。溶接ワイヤWは、溶接トーチ5の内部で、図示しない溶接電源装置に接続された給電チップ51に接触して給電される。溶接電源装置は、溶接ワイヤWの先端と母材との間に電圧を印加してアークを発生させる。溶接トーチ5は、当該アークの熱で母材の溶接を行う。
【0023】
ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1に供給される溶接ワイヤWの巻き癖を矯正する装置であり、ワイヤ送給装置A1の上流側に配置されている。本実施形態では、ワイヤストレートナB1は、インレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられており、ワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを、巻き癖を矯正しつつ、ワイヤ送給装置A1の送給ロール21まで案内する。なお、ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1に取り付けられるのではなく、ワイヤ送給装置A1から離れて配置されてもよい。
【0024】
ワイヤストレートナB1は、
図2に示すように、本体11、インレットガイド111、アウトレットガイド112、固定矯正ロール121,122、可動矯正ロール13、加圧調整ハンドル14、加圧調整ネジ151、移動部152、モータ16、モータ制御部17、ギヤ181,182、電極191、および接続線192を備えている。
【0025】
本体11は、ワイヤストレートナB1の本体であり、固定矯正ロール121,122および可動矯正ロール13が配置されている。インレットガイド111は、本体11に取り付けられており、ワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを固定矯正ロール121まで案内するガイド部材である。アウトレットガイド112は、本体11に取り付けられており、溶接ワイヤWを固定矯正ロール122からワイヤ送給装置A1の内部の送給ロール21まで案内するガイド部材である。溶接ワイヤWは、インレットガイド111の上流側の開口から挿入され、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通過して、アウトレットガイド112の下流側の開口から送出される。
【0026】
固定矯正ロール121,122および可動矯正ロール13は、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通過する溶接ワイヤWに加圧することで、溶接ワイヤWの巻き癖を矯正する。固定矯正ロール121および固定矯正ロール122は、溶接ワイヤWが送給される方向に平行に並んで配置されており、それぞれ、本体11に対して回転可能に支持されている。固定矯正ロール121は、固定矯正ロール122の上流側に配置されている。なお、以下では、固定矯正ロール121と固定矯正ロール122とを区別しない場合は、固定矯正ロール12と記載する場合がある。可動矯正ロール13は、溶接ワイヤWに対して固定矯正ロール121および固定矯正ロール122とは反対側に、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122に対して近づく方向(
図2(a)矢印参照)に移動可能、かつ回転可能に配置されている。本実施形態では、溶接ワイヤWが水平方向に進行するようにワイヤストレートナB1が配置される。この状態において、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122は、水平方向に並んで配置され、可動矯正ロール13は、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122の鉛直方向下方に、上下動可能に配置されている。なお、溶接ワイヤWに対する、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との配置は反対であってもよい。本実施形態では、固定矯正ロール121,122は本発明の「第1矯正ロール」に相当し、可動矯正ロール13は本発明の「第2矯正ロール」に相当する。
【0027】
加圧調整ネジ151は、軸方向(
図2(a)においては上下方向)を中心として回転可能に、本体11に配置されている。移動部152は、加圧調整ネジ151に螺合して、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。可動矯正ロール13は、移動部152に対して回転可能に支持されており、移動部152とともに移動する。したがって、可動矯正ロール13は、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。
【0028】
加圧調整ハンドル14は、加圧調整ネジ151の一方の端部に固定されており、作業者が操作するためのものである。作業者は、加圧調整ハンドル14を回転させることで加圧調整ネジ151を回転させ、可動矯正ロール13を移動させて、溶接ワイヤWへの加圧を調整する。溶接ワイヤWを適切に矯正するためには、溶接ワイヤWの材質および直径によって溶接ワイヤWへの加圧を調整する必要がある。作業者は、溶接ワイヤWの材質および直径に対応した目盛りの位置まで可動矯正ロール13を移動させるように、加圧調整ハンドル14を回転操作する。ワイヤストレートナB1は、作業者による加圧調整ハンドル14の操作を省略可能とするために、溶接ワイヤWへの加圧を自動調整する機構を備えている。
【0029】
モータ16は、例えばギヤードモータであり、モータ制御部17からの指令に応じて回転駆動する。モータ16の回転力は、ギヤ181,182によって、加圧に必要なトルクが発生する速度に減速されつつ、加圧調整ネジ151に伝達される。これにより、モータ16の回転駆動に応じて加圧調整ネジ151が回転し、移動部152の移動に伴って可動矯正ロール13が移動する。加圧調整ネジ151、移動部152、およびモータ16が、本発明の「移動機構」に相当する。なお、可動矯正ロール13を移動させるための移動機構は限定されない。例えば、モータ16の回転駆動に応じて、加圧調整ネジ151が螺進し、加圧調整ネジ151の先端(またはこれに当接するリンク部材)が当接することで移動部152が移動する構造であってもよい。
【0030】
電極191は、例えば銅などの導電体からなり、溶接ワイヤWが接触したことを検出する。
図1に示すように、電極191は、アウトレットガイド31の軸方向(
図1においては左右方向)の途中の位置に配置されている。本実施形態では、電極191の形状は、外径および内径がアウトレットガイド31と同じである円筒形状である。アウトレットガイド31は、2個の円筒形状の絶縁部材の間に電極191を配置して形成されている。なお、アウトレットガイド31は、2個の円筒形状の金属部材の間に電極191を配置し、各金属部材と電極191との間にそれぞれ絶縁部材を配置した構造であってもよい。また、電極191は、アウトレットガイド31の内側に挿入されて内周面に配置されてもよい。電極191は、アウトレットガイド31の内側を通過する溶接ワイヤWが接触可能なように、アウトレットガイド31の内側に露出していればよい。溶接作業中、溶接ワイヤWは、溶接トーチ5の給電チップ51を介して、溶接電源装置から電圧を印加されている。溶接ワイヤWが電極191に接触した場合、電極191の電位は溶接ワイヤWと同電位になるので、接触していない場合と比較して電位が変化する。
【0031】
モータ制御部17は、接続線192を介して入力される電極191の電位に基づいて、モータ16の駆動を制御する。モータ制御部17は、電極191の電位が、溶接ワイヤWが電極191に接触していることを示す電位である場合、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけるように、モータ16を駆動させる。この場合、可動矯正ロール13が固定矯正ロール121,122に近づくことで、溶接ワイヤWへの加圧が増加し、溶接ワイヤWの巻き癖がより矯正される。一方、モータ制御部17は、電極191の電位が、溶接ワイヤWが電極191に接触していないことを示す電位である場合、溶接ワイヤWの矯正が適切なので、モータ16を停止させる。モータ制御部17は、例えば、電極191と母材との間の電圧が、所定の閾値電圧以上であるか否かで、溶接ワイヤWと電極191との接触を判別する。また、本実施形態では、モータ制御部17は、溶接ワイヤWと電極191との瞬間的な接触を排除するために、接触した状態が所定時間以上継続したときに、モータ16の駆動を開始させる。モータ制御部17は、例えばマイクロコンピュータなどによってデジタル回路として実現されてもよいし、オペアンプなどを用いたアナログ回路として実現されてもよい。また、モータ制御部17は、本体11の内部に配置されてもよいし、本体11の外部に制御装置として配置されてもよい。
【0032】
図3は、モータ制御部17が行うモータ16の駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0033】
まず、溶接ワイヤWと電極191との接触が検出されたか否かが判別される(S1)。具体的は、モータ制御部17は、接続線192により検出される母材との間の電圧が閾値電圧以上であるか否かを判別する。接触が検出されなかった場合(S1:NO)、ステップS1に戻って、ステップS1の判別が繰り返される。一方、接触が検出された場合(S1:YES)、溶接ワイヤWと電極191とが接触している時間tの計時が開始される(S2)。次に、溶接ワイヤWと電極191との接触が検出されているか否かが判別される(S3)。接触が検出されている場合(S3:YES)、時間tがあらかじめ設定された所定時間t0以上であるか否かが判別される(S4)。時間tが所定時間t0未満である場合(S4:NO)、ステップS3に戻って、ステップS3,S4の判別が繰り返される。
【0034】
ステップS3において、接触が検出されなくなった場合(S3:NO)、接触した状態が所定時間以上継続しなかったので、ステップS1に戻って、ステップS1の判別が繰り返される。ステップS4において、時間tが所定時間t0以上になった場合(S4:YES)、接触した状態が所定時間以上継続したので、溶接ワイヤWの矯正が不十分であると判断され、時間tの計時が終了されて(S5)、モータ16が駆動される(S6)。具体的には、モータ制御部17は、モータ16に駆動電力を供給する。
【0035】
次に、溶接ワイヤWと電極191との接触が検出されたか否かが判別される(S7)。接触が検出されている場合(S7:YES)、ステップS7に戻って、ステップS7の判別が繰り返される。この間、モータ16の駆動が継続するので、加圧調整ネジ151が回転し、移動部152の移動に伴って可動矯正ロール13が、固定矯正ロール121,122に近づくように移動する。可動矯正ロール13が固定矯正ロール121,122に近づくことで、溶接ワイヤWへの加圧が増加し、溶接ワイヤWの巻き癖がより矯正される。
【0036】
ステップS7において、接触が検出されなくなった場合(S7:NO)、溶接ワイヤWの矯正が適切になったと判断され、モータ16の駆動が停止されて(S8)、ステップS1に戻る。ステップS7で接触が検出されなくなって、溶接ワイヤWの矯正が適切になった後でも、再度、溶接ワイヤWの矯正が不十分になる場合がある。例えば、ワイヤリール4に巻回されている溶接ワイヤWは、巻き始めの部分は巻き終わりの部分より曲率半径が小さいので、溶接ワイヤWの送給開始時に適切に矯正できるように調整されても、溶接ワイヤWの送給がすすむと、巻き癖がより強くなって、矯正が不十分になる場合がある。このような場合には、溶接ワイヤWと電極191との接触が検出されるので、ステップS1~S4の判別結果に応じて、再度、溶接ワイヤWの巻き癖の矯正がより強化される。なお、
図3のフローチャートに示す処理は一例であって、モータ制御部17が行う駆動制御処理は上述したものに限定されない。
【0037】
溶接ワイヤWは、巻き癖が強く、曲率半径が小さすぎると、コンジットケーブル52などの内壁に接触して送給抵抗が大きくなる。また、溶接トーチ5の先端から突出する溶接ワイヤWの先端部分が湾曲して、アークが不安定になる。一方、溶接ワイヤWは、巻き癖が矯正されすぎて、曲率半径が大きくなりすぎると、溶接トーチ5の給電チップ51に接触しにくくなり、適切に給電できなくなる。したがって、溶接ワイヤWは、適切な曲率半径の範囲内にあるのが望ましい。溶接ワイヤWは、曲率半径が小さい場合、電極191に接触する。この場合、モータ制御部17は、モータ16を駆動させて、溶接ワイヤWの巻き癖の矯正を強化する。そして、モータ制御部17は、溶接ワイヤWが電極191に接触しない程度に矯正されるようになったところで、矯正の強化を停止する。したがって、溶接ワイヤWは、巻き癖が矯正されすぎることが防止される。円筒形状の電極191の内径D(
図1(b)参照)が小さいほど、また、電極191の軸方向の寸法L(
図1(b)参照)が大きいほど、溶接ワイヤWは電極191に接触しやすくなるので、より矯正が強化されて、曲率半径が大きくなるように矯正される。したがって、電極191の内径Dおよび寸法Lを適切に設計することで、溶接ワイヤWの曲率半径を所望の範囲に制御することができる。
【0038】
作業者は、溶接開始前に、溶接ワイヤWをワイヤ送給装置A1にセットアップする。まず、作業者は、ワイヤリール4に巻回されている溶接ワイヤWの先端を、ワイヤストレートナB1のインレットガイド111から挿入して、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間に通す。このとき、可動矯正ロール13は、固定矯正ロール121,122との間隔が十分広くなる初期位置に移動されている。初期位置への移動は、モータ16の逆回転によって行われる。なお、作業者が手動で加圧調整ハンドル14を反対方向に回転させることで、可動矯正ロール13を初期位置に移動させてもよい。固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通された溶接ワイヤWは、アウトレットガイド112およびワイヤ送給装置A1に通される。そして、ワイヤ送給装置A1のインチング操作によって、溶接ワイヤWは、溶接トーチ5の先端から突出するまで送給される。
【0039】
溶接が開始されると、ワイヤ送給装置A1は、溶接ワイヤWを溶接トーチ5に送給する。溶接開始時には、可動矯正ロール13が初期位置に位置するので、ワイヤストレートナB1は、溶接ワイヤWを矯正していない。したがって、溶接ワイヤWは、巻き癖がついたまま送給されるので、アウトレットガイド31に配置された電極191に接触する。これにより、モータ16が駆動され、可動矯正ロール13が固定矯正ロール121,122に近づくように移動し、溶接ワイヤWが加圧されて矯正される。溶接ワイヤWが電極191に接触しない適切な曲率半径になるまで矯正が強化される。このように、ワイヤストレートナB1は、作業者が手動で操作することなく、溶接ワイヤWを適切に矯正できるように自動調整を行う。なお、溶接開始前に溶接ワイヤWをセットアップした後、作業者は、加圧調整ハンドル14を手動で操作して、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122にある程度(加圧しすぎない程度に)近づけておいてもよい。この場合、溶接開始から溶接ワイヤWが適切な曲率半径になるまでの時間を短縮できる。
【0040】
次に、本実施形態に係るワイヤストレートナB1の作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態によると、モータ制御部17は、溶接ワイヤWがアウトレットガイド31に配置された電極191に接触した場合、モータ16を駆動させて、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけさせる。溶接ワイヤWの矯正が不十分な場合、溶接ワイヤWに巻き癖が残っているので、溶接ワイヤWがアウトレットガイド31を通過する際に電極191に接触する。この場合、可動矯正ロール13が固定矯正ロール121,122に自動的に近づけられることで、溶接ワイヤWへの加圧が増加され、溶接ワイヤWの巻き癖はより矯正される。これにより、溶接ワイヤWは、電極191に接触しない程度に、巻き癖が矯正される。したがって、作業者は、加圧の調整を手動で行う必要がない。
【0042】
また、本実施形態によると、モータ制御部17は、溶接ワイヤWが電極191に接触した状態が所定時間以上継続したときに、モータ16の駆動を開始させる。これにより、溶接ワイヤWと電極191とが瞬間的に接触した場合に溶接ワイヤWへの加圧が増加されることを防止できる。また、モータ制御部17は、溶接ワイヤWが適切に矯正されて電極191に接触しなくなったときに、モータ16の駆動を停止させて、溶接ワイヤWへの加圧の増加を停止させる。これにより、溶接ワイヤWは、巻き癖が矯正されすぎることを防止される。
【0043】
また、本実施形態によると、加圧調整ネジ151は、ギヤ181,182を介して、加圧に必要なトルクが発生する速度に減速されて伝達されたモータ16の回転力によって回転する。可動矯正ロール13を支持する移動部152は、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。これにより、モータ制御部17は、モータ16を駆動させることで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけるように移動させることができ、溶接ワイヤWへの加圧を増加させることができる。
【0044】
また、本実施形態によると、ワイヤストレートナB1は、インレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられている。これにより、ワイヤストレートナB1は、溶接ワイヤWの巻き癖を矯正しつつ、ワイヤ送給装置A1の送給ロール21まで溶接ワイヤWを案内できる。また、電極191は、アウトレットガイド31に配置されている。したがって、モータ制御部17は、ワイヤ送給装置A1から送出されるときの溶接ワイヤWの矯正状態を検出できる。
【0045】
なお、本実施形態では、電極191は、アウトレットガイド31の内周面の周方向の全体にわたって露出している場合について説明したが、これに限られない。電極191は、周方向の一部のみで露出してもよい。例えば、
図1(a)に示すように、溶接ワイヤWが正面視においてワイヤリール4に反時計回りで巻回されている場合、溶接ワイヤWは、
図1(b)に示すように、下側に膨らむような巻き癖がついている。この場合、電極191は、
図4(a)に示すように、アウトレットガイド31の下側にのみ配置されていてもよい。電極191は、アウトレットガイド31の内周面の、巻き癖がついた溶接ワイヤWが接触しうる位置に露出していればよい。
【0046】
また、本実施形態では、電極191がワイヤ送給装置A1のアウトレットガイド31に配置されている場合について説明したが、これに限られない。電極191は、例えばワイヤ送給装置A1のセンタガイド32に配置されてもよいし、
図4(b)に示すように、ワイヤストレートナB1のアウトレットガイド112に配置されてもよい。また、ワイヤストレートナB1がワイヤ送給装置A1から離れて配置されており、ワイヤ送給装置A1にインレットガイドが取り付けられている場合、電極191は、当該インレットガイドに配置されてもよい。電極191は、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通過した溶接ワイヤWを案内する筒状のガイドのいずれかに配置される。
【0047】
また、本実施形態では、ワイヤストレートナB1が2個の固定矯正ロール12と1個の可動矯正ロール13とを備える場合について説明したが、固定矯正ロール12および可動矯正ロール13の数は限定されない。例えば、ワイヤストレートナB1は、さらに可動矯正ロール13を備えてもよいし、さらに固定矯正ロール12を備えてもよい。また、ワイヤストレートナB1は、1個の固定矯正ロール12と2個の可動矯正ロール13とを備えてもよい。この場合、固定矯正ロール12が本発明の「第2矯正ロール」に相当し、可動矯正ロール13が本発明の「第1矯正ロール」に相当する。
【0048】
また、本実施形態では、溶接システムがワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを使用する場合について説明したが、これに限られない。溶接ワイヤWは、例えばペールパック などの他のワイヤ供給源から供給されてもよい。
【0049】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係るワイヤストレートナB2を説明するための図である。同図は、ワイヤストレートナB2を備える溶接システムを示す全体構成図であり、
図1(a)に対応する図である。
図5において、第1実施形態に係る溶接システム(
図1(a)参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図5においては、ワイヤ送給装置A1の大部分および溶接トーチ5の記載を省略している。本実施形態に係るワイヤストレートナB2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1と構成が異なる。
【0050】
本実施形態に係る溶接システムは、ワイヤ供給源として、ワイヤリール4の代わりに、ペールパック45を備えている。ペールパック45は、溶接ワイヤWがコイル状に巻かれた状態でコイル面が鉛直方向を向くようにして収容されており、溶接ワイヤWは、ペールパックの上方から排出される。したがって、ペールパック45の溶接ワイヤWは、巻き癖の向きが一定しない状態で供給される。
【0051】
ワイヤストレートナB2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1と、ワイヤストレートナB1と同様のワイヤストレートナB1’とを組み合わせたものである。ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1のインレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられている。ワイヤストレートナB1’は、ワイヤストレートナB1の上流側に配置され、アウトレットガイド112の代わりに、ワイヤストレートナB1のインレットガイド111が、出口に取り付けられている。ワイヤストレートナB1’は、溶接ワイヤWの送給軸(溶接ワイヤWが送給される方向に延びる軸)を中心軸として、ワイヤストレートナB1を90度回転させた姿勢になっている。したがって、ワイヤストレートナB1の可動矯正ロール13が移動する方向と、ワイヤストレートナB1’の可動矯正ロール13が移動する方向とがなす角度は、90度である。
【0052】
ワイヤストレートナB1’の接続線192は、ワイヤストレートナB1の電極191に接続されている。溶接ワイヤWが電極191に接触した場合、ワイヤストレートナB1およびワイヤストレートナB1’が、それぞれ、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけることで、溶接ワイヤWに加圧して、矯正を行う。
【0053】
本実施形態においても、ワイヤストレートナB2は、溶接ワイヤWを適切に矯正できるように自動調整を行う。ワイヤストレートナB2のうちワイヤストレートナB1の部分は溶接ワイヤWの送給方向(
図5における左右方向(水平方向))に直交する第1方向(
図5における上下方向(鉛直方向))の巻き癖を矯正し、ワイヤストレートナB1’の部分は溶接ワイヤWの送給方向および第1方向に直交する第2方向(
図5における紙面の前後方向(水平方向))の巻き癖を矯正する。したがって、ワイヤストレートナB2は、ペールパック45から巻き癖の向きが一定しない状態で供給される溶接ワイヤWを、適切に矯正できる。
【0054】
本発明に係るワイヤストレートナは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るワイヤストレートナの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0055】
A1:ワイヤ送給装置、31:アウトレットガイド、B1,B1’,B2:ワイヤストレートナ、121,122:固定矯正ロール、13:可動矯正ロール、151:加圧調整ネジ、152:移動部16:モータ、17:モータ制御部、181,182:ギヤ、191:電極