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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】磁気コア、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/22 20060101AFI20241010BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20241010BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20241010BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241010BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20241010BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20241010BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/26
H01F27/255
B22F9/08 A
B22F3/00 B
C22C38/00 303S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020141722
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037533
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2022-05-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095988(JP,A)
【文献】特開2017-107935(JP,A)
【文献】特開2016-012671(JP,A)
【文献】特開2017-224851(JP,A)
【文献】特開2018-018851(JP,A)
【文献】特開2018-078269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 27/24-27/26
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末を含む磁気コアであって、
前記磁気コアの断面における前記磁性粉末の粒子の合計面積割合が75%以上90%以下であり、
前記磁気コアの断面において粒子径が大きい方から順に前記磁性粉末の粒子を抽出し、抽出された粒子の合計面積割合が前記磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る最小の面積割合である場合における前記抽出された粒子を大径粒子として、前記大径粒子の平均円形度が0.80以上0.98以下であり、
前記磁気コアの断面において、前記磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が0.90以上である磁気コア。
【請求項2】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子の粒子径が5μm以上50μm以下である請求項1に記載の磁気コア。
【請求項3】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子は非晶質構造を有している請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項4】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子は結晶粒径が0.3nm以上5nm未満である微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有している請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項5】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子は結晶粒径が5nm以上50nm以下であるナノ結晶からなる構造を有している請求項1または2に記載の磁気コア。
【請求項6】
さらに樹脂を含む請求項1~のいずれかに記載の磁気コア。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の磁気コアを含む磁性部品。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の磁気コアを含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気コア、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄系の結晶質合金磁性粉と鉄系の非晶質合金磁性粉とを混合してなる混合磁性粉に絶縁性結着材をさらに混合した複合磁性材料を用いたコアが記載されている。
【0003】
特許文献2には、硬質な非晶質合金磁粉にFe-Ni系合金磁粉を混合して得られる混合磁性粉に含まれるそれぞれの粒子を熱硬化性樹脂で被覆した複合磁性材料を用いたインダクタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-197218号公報
【文献】特開2004-363466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高透磁率かつ高耐電圧であり、耐電圧のばらつきが小さい磁気コアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の磁気コアは、
磁性粉末を含む磁気コアであって、
前記磁気コアの断面における前記磁性粉末の粒子の合計面積割合が75%以上90%以下であり、
前記磁気コアの断面において粒子径が大きい方から順に前記磁性粉末の粒子を抽出し、抽出された粒子の合計面積割合が前記磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る最小の面積割合である場合における前記抽出された粒子を大径粒子として、前記大径粒子の平均円形度が0.70以上である。
【0007】
本発明の磁気コアは、上記の特徴を有することにより、高透磁率かつ高耐電圧であり、耐電圧のばらつきが小さい磁気コアとなる。
【0008】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子の平均円形度が0.80以上であってもよい。
【0009】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子の粒子径が5μm以上50μm以下であってもよい。
【0010】
前記磁気コアの断面において、前記磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が0.90以上であってもよい。
【0011】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子が非晶質構造を有していてもよい。
【0012】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子が結晶粒径0.3nm以上5nm未満である微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していてもよい。
【0013】
前記磁気コアの断面において、前記大径粒子が結晶粒径5nm以上50nm以下であるナノ結晶からなる構造を有していてもよい。
【0014】
前記磁気コアはさらに樹脂を含んでもよい。
【0015】
本発明の磁性部品は上記の磁気コアを含む。
【0016】
本発明の電子機器は上記の磁気コアを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はワイブルプロットの概略図である。
図2図2はX線結晶構造解析により得られるチャートの一例である。
図3図3図2のチャートをプロファイルフィッティングすることにより得られるパターンの一例である。
図4A図4Aはアトマイズ装置の模式図である。
図4B図4B図4Aの要部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る磁気コアについて説明する。
【0019】
磁気コアは磁性体として磁性粉末を含む。また、磁性粉末として後述する鉄系軟磁性合金粉末を含んでもよい。
【0020】
さらに、磁気コアは樹脂を含んでもよい。樹脂の種類および含有量には特に制限はない。樹脂の種類としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。樹脂の含有量は磁性粉末に対して1質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0021】
磁気コアの断面における磁性粉末の粒子の合計面積割合が75%以上90%以下である。そして、磁気コアの断面において粒子径が大きい方から順に磁性粉末の粒子を抽出し、抽出された粒子の合計面積割合が磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る最小の面積割合である場合における抽出された粒子を大径粒子として、大径粒子の平均円形度が0.70以上である。大径粒子の平均円形度は0.80以上であってもよく、0.90以上であってもよく、0.95以上であってもよい。
【0022】
磁性粉末の粒子の合計面積割合が大きいほど比透磁率が向上しやすくなる。磁性粉末の粒子の合計面積割合が小さいほど磁性粉末の粒子同士の距離が長くなり、樹脂が磁性粉末の粒子同士の間に充填され樹脂層となる。そのため、磁性粉末の粒子の合計面積割合が小さいほど耐電圧が向上しやすくなる。そこで、耐電圧と比透磁率とを総合的に評価するために耐電圧×比透磁率で評価すればよいことを見出した。耐電圧×比透磁率が高いほど、耐電圧と比透磁率との両方がバランスよく優れている。特に、磁性粉末の粒子の合計面積割合が略同一であり磁性粉末の粒子の形状が互いに異なる磁気コアについて磁性粉末の粒子の形状の違いによる影響を評価するために、耐電圧×比透磁率が好適に用いられる。
【0023】
本発明者らは、磁性粉末を用いた磁気コアの比透磁率と耐電圧との両方をさらに高くし、耐電圧×比透磁率も高くし、かつ、耐電圧のばらつきも小さくする方法を見出した。具体的には、上記の大径粒子の平均円形度を制御することが、磁性粉末の粒子全体の平均円形度を制御することよりも重要であることを見出した。
【0024】
上記の特徴を有する磁気コアは、磁性粉末の粒子の合計面積割合が略同一であるが上記の特徴を有さない磁気コアと比較して、比透磁率と耐電圧との両方が高くなり、耐電圧×比透磁率も高くなり、かつ、耐電圧のばらつきも小さくなる。
【0025】
磁気コアに含まれる磁性粉末の粒度分布は、SEM観察により測定することができる。具体的には、磁気コアの任意の断面に含まれる磁性粉末の粒子1個1個についてSEM画像から粒子径(Heywood径)を算出する。SEM観察の倍率には特に制限はなく、磁性粉末の粒子の粒子径が測定できればよい。また、SEM観察の観察範囲の大きさには特に制限はないが、少なくとも500個以上、好ましくは1000個以上の磁性粉末の粒子が含まれる大きさとする。
【0026】
そして、磁気コアの断面に設定した上記の観察範囲において、粒子径が大きい方から順に磁性粉末の粒子を抽出し、抽出された粒子の合計面積割合が磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る最小の面積割合である場合における抽出された粒子を大径粒子とする。言いかえれば、磁気コアの断面に設定した上記の観察範囲に含まれる磁性粉末の粒子を抽出し、粒子径が大きい方から順に磁性粉末の粒子を並べ、粒子径が大きい磁性粉末の粒子から順に面積を積算し、合計面積割合が上記の観察範囲における磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る粒子までを大径粒子とする。
【0027】
大径粒子の定義について、仮想事例を用いてさらに説明する。仮想事例では、それぞれの磁性粉末の粒子の面積割合が大きい方から順に10%、7%、5%、4%であり、その他の磁性粉末の粒子の面積割合が全て3%以下であるとする。この場合において、粒子径が大きい方から順に磁性粉末の粒子を抽出する場合には、10%の粒子、7%の粒子、5%の粒子という順番に抽出する。そして、抽出された粒子の合計面積割合は、7%の粒子まで抽出した場合には17%であり20%を上回らない。さらに5%の粒子まで抽出した場合には22%であり20%を上回る。さらに4%以下の粒子を抽出すれば抽出された粒子の合計面積割合はさらに大きくなる。したがって、5%の粒子まで抽出した場合の合計面積割合は20%を上回る最小の面積割合である22%となる。この場合に抽出された粒子、すなわち10%の粒子、7%の粒子および5%の粒子が大径粒子となる。
【0028】
なお、大径粒子の粒子径には特に制限はない。例えば1μm以上150μm以下であってもよい。3μm以上100μm以下であってもよく、5μm以上50μm以下であってもよい。
【0029】
また、磁気コアの断面における個数基準での粒度分布における磁性粉末の粒子のD50にも特に制限はない。例えばD50が0.1μm以上100μm以下であってもよく、0.5μm以上50μm以下であってもよく、0.5μm以上20μm以下あってもよい。なお、D50とは、磁性粉末の粒子の粒子径の積算値が50%のときの粒子径のことである。
【0030】
磁性粉末を用いた磁気コアにおける大径粒子の平均円形度は、主に磁性粉末の製造方法を制御することによって変化させることができる。
【0031】
磁気コアに含まれる大径粒子の円形度は、断面における大径粒子の面積をS、大径粒子の周囲の長さをLとして、2×(π×S)1/2/Lで表される。
【0032】
大径粒子の平均円形度は、上記の方法により特定した大径粒子の円形度をそれぞれ算出し、平均することにより得られる。
【0033】
また、磁気コアに含まれる磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が0.90以上であることが好ましく、0.95以上であることがさらに好ましい。磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が高いほど耐電圧が向上しやすく、かつ、耐電圧のばらつきも小さくなりやすい。
【0034】
磁性粉末の粒子の楕円円形度は、断面における磁性粉末の粒子の面積をS、長軸の長さをl、短軸の長さをsとして、4×S/(l×s×π)で表される。
【0035】
一般的に、粒子が偏平している場合には円形度が低い。しかし、粒子が偏平している場合でも楕円円形度が高い。一方、粒子が窪んだ形状や歪んだ形状をしている場合でも円形度が低くない場合がある。しかし、粒子が窪んだ形状や歪んだ形状をしている場合には楕円円形度が低い。なお、粒子が大きな凹凸を有する形状をしている場合には、円形度、楕円円形度ともに低い。すなわち、粒子が真円から見て偏平以外の変形をしているか否か、例えば、粒子が窪みや歪みや凹凸を有するか否かを評価するためには、楕円円形度を用いるほうが好ましい場合がある。
【0036】
ここで、磁気コアに含まれる粒子が偏平しているか否かは耐電圧特性に影響しにくい。これに対し、粒子が偏平以外の変形をしているか否か、例えば、磁気コアに含まれる粒子が窪んだ形状をしているか否か、歪んだ形状をしているか否か、大きな凹凸を有するか否かは耐電圧特性に影響しやすい。これは、磁気コアの耐電圧特性は電圧印加時に電界が集中する箇所が少ないほど向上するところ、電界が集中する箇所の数は粒子が偏平しているか否かに依存しにくく、粒子が偏平以外の変形をしているか否かに依存しやすいためである。
【0037】
耐電圧のばらつきの評価方法には特に制限はない。以下、耐電圧のばらつきの評価方法の一例として、ワイブル分布による評価方法について説明する。
【0038】
ワイブル分布によれば、時間tに対する故障率λ(t)は次式(I)で表される。ここで、mはワイブル係数、αは尺度パラメータと呼ばれる。
【0039】
λ(t)=(m/α)×tm-1 ・・・式(I)
【0040】
ここで、m<1の場合には、式(I)は時間とともに故障率が小さくなる性質を表す。m=1の場合には、式(I)は時間に対して故障率が一定となる性質を表す。m>1の場合には、式(I)は時間とともに故障率が大きくなる性質を表す。以下、ワイブル係数mの算出方法について説明する。
【0041】
上記の故障率λ(t)を有する製品の信頼度(故障しない確率)R(t)は次式(II)で表される。
【0042】
R(t)=exp{-(t/α)} ・・・式(II)
【0043】
そして、不信頼度(累積故障率)F(t)は次式(III)で表される。
【0044】
F(t)=1-R(t)=1-exp{-(t/α)} ・・・式(III)
【0045】
ここで、式(III)を変形すると次式(IV)のようになる。
【0046】
ln[ln{1/(1-F(t))}]=mlnt-mlnα ・・・式(IV)
【0047】
ここで、y=ln[ln{1/(1-F(t))}]、x=lntとすると次式(V)のようになる。
【0048】
y=mx-mlnα ・・・式(V)
【0049】
すなわち、x=lntに対してy=ln[ln{1/(1-F(t))}]をプロットすると直線になり、その傾きからワイブル係数mを算出することができる。この手法をワイブルプロットという。
【0050】
m>1の場合には、ワイブル係数mが大きいほど、ある時間tの近辺で不信頼度(累積故障率)F(t)が急激に上昇することになる。すなわち、ワイブル係数mが大きいほど、個々の製品が故障するまでの時間のバラツキが小さくなる。
【0051】
ワイブルプロットの概略図を図1に例示する。図1において、m=3の場合にはm=1.5の場合と比較して、ある時間tの近辺で急激にF(t)が増加する。すなわち、mが大きい場合には、ある時間tの近辺で多数の製品が一斉に故障しており、個々の製品が故障するまでの時間のバラツキが小さい。なお、ワイブルプロットにおいて、直線が右に移動するほど、個々の製品が故障するまでの時間が長くなる。
【0052】
複数の磁気コアの耐電圧を測定し、測定結果をワイブルプロットすることでワイブル係数mを求めることができる。磁気コアに電圧を印加して所定の大きさの電流が流れたときの印加電圧が耐電圧である。そして、上記の「時間t」を「単位長さあたりの印加電圧V」とし、上記の「故障」を「所定の大きさの電流が流れること」にしてワイブルプロットすることができる。ワイブルプロットの方法には特に制限はない。ワイブル確率紙に試験結果をプロットしてmを算出する方法の他、近年では、試験結果を入力すると自動的にワイブルプロットを行い、ワイブル係数mを算出するコンピュータプログラムも広く用いられている。
【0053】
以上より、耐電圧のばらつきをワイブル分布により評価する場合には、ワイブル係数mが大きいほど、耐電圧のばらつきが小さくなる。
【0054】
磁性粉末の組成には特に制限はない。磁性粉末として軟磁性合金粉末を用いてもよい。また、後述するように互いに粒径の異なる2種類以上の磁性粉末を混合してもよい。
【0055】
磁気コアは、原子数比で組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β(1-(a+b+c+d+e+f))Siからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0≦e≦0.200
0≦f≦0.0200
0.100≦a+b+c+d+e≦0.300
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
である鉄系軟磁性合金粉末を磁性粉末として含有してもよい。
【0056】
磁気コアの断面において、磁性粉末の粒子の合計面積割合に対する鉄系軟磁性合金粉末の粒子の合計面積割合が50%以上であってもよい。
【0057】
磁気コアは上記の組成を有する鉄系軟磁性合金粉末の粒子を上記の範囲内で含むことにより、磁気コアの保磁力HcJが低下し、磁気コアの比透磁率がさらに向上しやすくなる。
【0058】
鉄系軟磁性合金粉末の粒子の合計面積割合が70%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
【0059】
鉄系軟磁性合金粉末の粒子は上記以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。例えば、鉄系軟磁性合金粉末の粒子100質量%に対して0.1質量%以下、含んでいてもよい。
【0060】
本実施形態に係る磁気コアに含まれる鉄系軟磁性合金粉末の粒子は、結晶粒径が5nm以上50nm以下であり結晶構造がbccであるナノ結晶を含むことが好ましい。鉄系軟磁性合金粉末の粒子が上記のナノ結晶を含むことにより、磁気コアのHcJがさらに低下しやすくなり比透磁率が向上しやすくなる。
【0061】
以下、本実施形態に係る磁気コアの製造方法について説明する。
【0062】
まず、磁気コアに含まれる磁性粉末を作製する。磁性粉末の製造方法には特に限定はない。例えばアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法の種類も任意であり、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法などが挙げられる。以下、磁性粉末として鉄系軟磁性合金粉末を含む磁気コアの製造方法について説明する。
【0063】
アトマイズ法により得られた鉄系軟磁性合金粉末が非晶質からなる構造を有する場合に、熱処理を行うことで、結晶粒径が5nm以上50nm以下である結晶構造がbccであるナノ結晶を析出させることができる。そして、ナノ結晶からなる構造を有する鉄系軟磁性合金粉末が得られる。熱処理の条件は例えば350℃以上800℃以下で0.1分以上120分以下である。なお、一つの鉄系軟磁性合金粉末の粒子には、多数のナノ結晶が含まれることが通常である。すなわち、鉄系軟磁性合金粉末の粒子の粒子径とナノ結晶の結晶粒径とは異なる。また、鉄系軟磁性合金粉末の結晶構造はXRDや透過型電子顕微鏡により確認することができる。磁気コアにおいて鉄系軟磁性合金粉末の微細構造を評価する際は透過型電子顕微鏡を用いた明視野法および制限視野回折法により確認することが可能である。鉄系軟磁性合金粉末がナノ結晶を含む場合には、最終的に得られる磁気コアのHcJが低くなりやすくなり、比透磁率が高くなりやすくなる。また、鉄系軟磁性合金粉末の微細構造と鉄系軟磁性合金粉末の粒子の微細構造とは同一であるとしてよい。
【0064】
以下、鉄系軟磁性合金粉末の微細構造について説明する。
【0065】
鉄系軟磁性合金粉末がナノ結晶を含むようにするためには、非晶質からなる構造を有する鉄系軟磁性合金粉末に対して熱処理を行い、ナノ結晶を析出させることが一般的に行われている。ここで、非晶質からなる構造とは、下記式(1)に示す非晶質化率Xが85%以上である構造を指す。そして、結晶からなる構造とは、非晶質化率Xが85%未満である構造を指す。
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0066】
非晶質化率Xは、鉄系軟磁性合金粉末に対してXRDによりX線結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶質性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。以下、算出方法をさらに具体的に説明する。
【0067】
鉄系軟磁性合金粉末についてXRDによりX線結晶構造解析を行い、図2に示すようなチャートを得る。これを、下記式(2)のローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行い、図3に示すような結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターンα、非晶質性散乱積分強度を示す非晶成分パターンα、およびそれらを合わせたパターンαc+aを得る。得られたパターンの結晶性散乱積分強度および非晶質性散乱積分強度から、上記式(1)により非晶質化率Xを求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θ=30°~60°の範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出した積分強度との誤差が1%以内になるようにする。
【0068】
【数1】
【0069】
一般的には、鉄系軟磁性合金粉末の非晶質化率Xが高いほど保磁力が低くなりやすい。さらに、熱処理後の鉄系軟磁性合金粉末がナノ結晶からなる構造を有することで、鉄系軟磁性合金粉末が非晶質からなる構造を有する場合よりも磁気コアの飽和磁束密度が高くなりやすく、保磁力が低くなりやすい傾向にある。保磁力が低い鉄系軟磁性合金粉末を用いて磁気コアを作製する場合には、磁気コアの透磁率が向上する傾向にある。
【0070】
以下、ガスアトマイズ法による鉄系軟磁性合金粉末の製造方法について記載する。
【0071】
本発明者らは、アトマイズ装置として、図4Aおよび図4Bに示すアトマイズ装置を用いる場合には、粒子径が大きな鉄系軟磁性合金粉末を作製しやすく、さらに非晶質からなる構造を有する鉄系軟磁性金属粉末を得やすくなる。
【0072】
図4Aに示すように、アトマイズ装置10は、溶融金属供給部20と、金属供給部20の鉛直方向の下方に配置してある冷却部30とを有する。図面において、鉛直方向は、Z軸に沿う方向である。
【0073】
溶融金属供給部20は、溶融金属21を収容する耐熱性容器22を有する。耐熱性容器22において、最終的に得られる軟磁性合金粉末の組成となるように秤量された各金属元素の原料が、加熱用コイル24により溶解され、溶融金属21となる。溶解時の温度、すなわち溶融金属21の温度は、各金属元素の原料の融点を考慮して決定すればよいが、たとえば1200~1600℃とすることができる。
【0074】
溶融金属21は、吐出口23から冷却部30に向けて、滴下溶融金属21aとして吐出される。吐出された滴下溶融金属21aに向けて、ガス噴射ノズル26から高圧ガスが噴射され、滴下溶融金属21aは、多数の溶滴となり、ガスの流れに沿って筒体32の内面に向けて運ばれる。
【0075】
ガス噴射ノズル26から噴射されるガスとしては、不活性ガスまたは還元性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。還元性ガスとしては、例えば、アンモニア分解ガスなどを用いることができる。しかし、溶融金属21が酸化しにくい金属である場合には、ガス噴射ノズル26から噴射されるガスが空気であってもよい。
【0076】
筒体32の内面に向けて運ばれた滴下溶融金属21aは、筒体32の内部で逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に衝突し、さらに分断され微細化されるとともに冷却固化され、固体状の合金粉末となる。筒体32の軸心Oは、鉛直線Zに対して所定角度θ1で傾斜してある。所定角度θ1としては、特に限定されないが、好ましくは、0~45度である。このような角度範囲とすることで、吐出口23からの滴下溶融金属21aを、筒体32の内部で逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に向けて吐出させ易くなる。
【0077】
筒体32の軸心Oに沿って下方には、排出部34が設けられ、冷却液流れ50に含まれる合金粉末を冷却液と共に、外部に排出可能になっている。冷却液と共に排出された合金粉末は、外部の貯留槽などで、冷却液と分離されて取り出される。なお、冷却液としては、特に限定されないが、冷却水が用いられる。
【0078】
本実施形態では、滴下溶融金属21aが逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に衝突するので、冷却液流れが筒体32の内面33に沿っている場合に比べて、滴下溶融金属21aの溶滴の飛行時間が短縮される。飛行時間が短縮されると、急冷効果が促進され、得られる鉄系軟磁性合金粉末の非晶質化率Xが向上する。また、飛行時間が短縮されると、滴下溶融金属21aの溶滴が酸化されにくいので、得られる鉄系軟磁性合金粉末の微細化も促進されると共に鉄系軟磁性合金粉末の品質も向上する。
【0079】
本実施形態では、筒体32の内部で、冷却液流れを逆円錐状に形成するために、冷却液を筒体32の内部に導入するための冷却液導入部(冷却液導出部)36における冷却液の流れを制御している。図4Bに、冷却液導入部36の構成を示す。
【0080】
図4Bに示すように、枠体38により、筒体32の径方向の外側に位置する外側部(外側空間部)44と、筒体32の径方向の内側に位置する内側部(内側空間部)46とが規定される。外側部44と内側部46とは、仕切部40で仕切られ、仕切部40の軸芯O方向の上部に形成してある通路部42で、外側部44と内側部46とは、連絡しており、冷却液が流通可能になっている。
【0081】
外側部44には、単一または複数のノズル37が接続してあり、ノズル37から冷却液が外側部44に入り込むようになっている。また、内側部46の軸芯O方向の下方には、冷却液吐出部52が形成してあり、そこから内側部46内の冷却液が筒体32の内部に吐出(導出)されるようになっている。
【0082】
枠体38の外周面は、内側部46内の冷却液の流れを案内する流路内周面38bとなっており、枠体38の下端38aには、枠体38の流路内周面38bから連続し、半径方向の外側に突出している外方凸部38a1が形成してある。したがって、外方凸部38a1の先端と筒体32の内面33との間のリング状の隙間が冷却液吐出部52となる。外方凸部38a1の流路側上面には、流路偏向面62が形成してある。
【0083】
図4Bに示すように、外方凸部38a1により、冷却液吐出部52の径方向幅D1は、内側部46の主要部における径方向幅D2よりも狭くなっている。D1がD2よりも狭いことにより、内側部46の内部を流路内周面38bに沿って軸芯Oの下方に下る冷却液は、次に、枠体38の流路偏向面62に沿って流れて筒体32の内面33に衝突して反射する。その結果、図4Aに示すように、冷却液は、冷却液吐出部52から筒体32の内部に逆円錐状に吐出され、冷却液流れ50を形成する。なお、D1=D2である場合には、冷却液吐出部52から吐出される冷却液は、筒体32の内面33に沿って冷却液流れを形成する。
【0084】
D1/D2は、好ましくは2/3以下であり、さらに好ましくは1/2以下である。また、D1/D2は、好ましくは1/10以上である。なお、D1/D2を小さくするほど急冷効果が促進され、得られる鉄系軟磁性合金粉末の非晶質化率Xが大きくなる傾向にある。しかし、D1/D2を小さくするほど得られる鉄系軟磁性合金粉末の円形度が低下する傾向にある。すなわち、急冷効果(鉄系軟磁性合金粉末の高い非晶質化率X)および鉄系軟磁性合金粉末の円形度を両立させるためにはD1/D2を適宜、調整することが必要となる。
【0085】
なお、冷却液吐出部52から流出する冷却液流れ50は、冷却液吐出部52から軸芯Oに向けて直進する逆円錐流れであるが、渦巻き状の逆円錐流れであってもよい。
【0086】
また、溶融金属の噴出量、ガス噴射圧、筒体32内の圧力、冷却液吐出圧、D1/D2等は、目的とする軟磁性合金粉末の粒子径により適宜設定すればよい。溶融金属の噴出量は、例えば1kg/min以上20kg/min以下であってもよい。ガス噴射圧は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。筒体32内の圧力は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。冷却液吐出圧(ポンプ圧)は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。
【0087】
溶融金属の噴出量が少ないほど粒子径が小さくなり、非晶質からなる構造を有する鉄系軟磁性合金粉末を作製しやすい傾向がある。なお、非晶質からなる構造には、結晶を含まず非晶質のみからなる非晶質構造、および、微結晶(結晶粒径が0.3nm以上5nm未満である結晶)が非晶質中に存在するナノヘテロ構造が含まれる。鉄系軟磁性合金粉末が非晶質構造を有するか否か、および、ナノヘテロ構造を有するか否かは透過型電子顕微鏡による明視野観察法および制限視野回折法で確認することが可能である。鉄系軟磁性合金粉末が非晶質からなる構造を有する場合には、熱処理によりナノ結晶を析出させやすくなる。
【0088】
ガス噴射圧、筒体32内の圧力、および、冷却液吐出圧が高いほど粒子径が小さくなり粒子の円形度も小さくなる傾向にある。
【0089】
そして、上記の熱処理により非晶質からなる構造を有する鉄系軟磁性合金粉末にナノ結晶を析出させ、ナノ結晶からなる構造を有する鉄系軟磁性合金粉末を得てもよい。
【0090】
鉄系軟磁性合金粉末の粒子径については、上記したアトマイズの条件を変化させることで粒子径を調整することが可能である。また、乾式分級や湿式分級により粒度を調整することで粒子径を調整することも可能である。乾式分級方法として、例えば、乾式篩を用いる篩分級、および、気流分級の分級方法があげられる。湿式分級方法として、例えば、湿式フィルター濾過による分級や遠心分離による分級等の分級方法があげられる。つまり、上記したアトマイズ法で作製された鉄系軟磁性合金粉末においてアトマイズでの粉末作製条件および分級方法を調整することで、磁気コア断面における大径粉末の粒度を調整すること、および、大径粉末の平均円形度を制御することが可能である。
【0091】
篩分級では、粉末を乾式篩により分級する。湿式フィルター濾過による分級では、粉末を分散媒に分散させ、粉末が分散した分散媒をフィルターにより濾過することで分級する。一般的に、乾式篩により分級するほうが磁気コア断面における大径粉末の平均円形度が小さくなりやすい。すなわち、乾式篩による分級では、形状が異形である粉末粒子が比較的、除去されにくい。
【0092】
また、篩分級では、例えば1回あたりの粉末仕込み量、分級時間および/またはメッシュサイズを変化させることでも鉄系軟磁性合金粉末の粒度調整が可能である。また、粉末をメッシュに通過させる回数を増加させることで形状が異形である粉末粒子が除去しやすくなる。
【0093】
さらに、互いに粒度分布および/または円形度の異なる複数の種類の鉄系軟磁性合金粉末を配合することにより、粒度調整を行ってもよく、平均円形度、特に磁気コア断面における大径粉末の平均円形度を調整してもよい。例えば、乾式篩により分級した鉄系軟磁性合金粉末と湿式フィルター濾過により分級した鉄系軟磁性合金粉末とを配合してもよい。
【0094】
次に、磁性粉末を作製する。上記の鉄系軟磁性合金粉末をそのまま磁性粉末としてもよく、上記の鉄系軟磁性合金粉末に別の粉末を配合して磁性粉末を作製してもよい。配合する粉末の組成には特に制限はない。例えば、純鉄粉、カルボニル鉄粉、パーマロイ粉末、Fe-Si系軟磁性合金粉末、Fe-Si-Cr系軟磁性合金粉末、Fe-Co系軟磁性合金粉末等を配合してもよい。また、組成の異なる鉄系軟磁性合金粉末を配合してもよい。配合する各種磁性粉末の粒度分布を制御することで最終的に得られる磁気コアにおける磁性粉末の充填率を制御することができる。また、各種磁性粉末に絶縁コーティングを形成してもよい。
【0095】
鉄系軟磁性合金粉末に別の粉末を配合して磁性粉末を作製する場合において、磁性粉末に占める鉄系軟磁性合金粉末の割合は50質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0096】
成形前の磁性粉末の個数基準での粒度分布等について、モフォロギG3(マルバーン・パナティカル社)を用いて確認してもよい。モフォロギG3はエアーにより粉末を分散させ、個々の粒子形状を投影し、評価することができる装置である。光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡で粒子径が概ね0.5μm~数mmの範囲内である粒子形状を確認することができる。
【0097】
モフォロギG3は多数の粒子の投影図を一度に作製し評価することができるため、短時間で多数の粒子の形状を評価することができる。したがって、成形前の軟磁性合金粉末について、粒度分布等を評価するのに適している。例えば約20000個の軟磁性合金粉末粒子について投影図を作製し、個々の粒子の粒子径および円形度を自動的に算出し、粒子径が特定の範囲内である粒子の平均円形度を算出することが可能である。
【0098】
モフォロギG3により確認される磁性粉末の個数基準での粒度分布と、最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の粒子の個数基準での粒度分布と、では一致しない。最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の粒子のD50、D90がモフォロギG3により確認される磁性粉末の個数基準でのD50、D90よりもある程度、小さくなる。磁気コアを切断する際に磁性粉末の粒子の任意の場所を切断しているためである。つまり、大きい粒子であっても切断場所によっては小さい粒子として観察される可能性があるためである。
【0099】
しかし、モフォロギG3により確認される磁性粉末の個数基準での粒度分布および円形度と、最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の粒子の個数基準での粒度分布および円形度と、の間には相関関係がある。したがって、磁性粉末の粒度分布および円形度をモフォロギG3で確認することで、最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の粒子の粒度分布をある程度、予測することができる。すなわち、成形前の磁性粉末の個数基準での粒度分布および円形度を制御して最終的に得られる磁気コアの断面における磁性粉末の個数基準での粒度分布および円形度を制御することが容易である。
【0100】
そして、得られた磁性粉末を成形することにより磁気コアを得ることができる。成形方法には特に限定はない。一例として加圧成形により磁気コアを得る方法について説明する。
【0101】
まず、磁性粉末と樹脂とを混合する。樹脂を混合させることで成形により強度の高い成形体を得やすくなる。樹脂の種類には特に制限はない。例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。樹脂の添加量にも特に制限はない。樹脂を添加する場合には、磁性粉末に対して1質量%以上5質量%以下、添加してもよい。
【0102】
磁性粉末と樹脂との混合物を造粒して造粒粉を得る。造粒方法には特に制限はない。例えば、撹拌機を用いて造粒してもよい。造粒粉の粒径には特に制限はない。
【0103】
得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る。成形圧には特に制限はない。例えば、面圧1ton/cm以上10ton/cm以下であってもよい。成形圧を高くするほど比透磁率が高くなりやすいが、磁性粉末の粒度分布がブロードである場合には、成形圧を通常の加圧成形よりも低くしても比透磁率を高くすることができる。得られる磁気コアが緻密化しやすいためである。
【0104】
そして、成形体に含まれる樹脂を硬化させて磁気コアを得ることができる。硬化方法には特に制限はなく、用いた樹脂を硬化させることができる条件で熱処理を行ってもよい。
【0105】
磁気コアの用途には特に制限はない。例えば、インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁気コアとして好適に用いることができる。さらに、磁気コアとコイルとを一体成形したインダクタにも好適に用いることができる。
【0106】
さらに、上記の磁気コアや上記の磁気コアを用いた磁性部品は電子機器に好適に用いることができる。
【0107】
特に、上記の磁気コアは高透磁率かつ高耐電圧であり、耐電圧のばらつきが小さいことから、小型化、軽量化および高信頼性化が求められる分野に好適に用いられる。例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車に搭載される磁気コア、磁性部品および電子機器に好適に用いることができる。
【実施例
【0108】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0109】
(実験例1)
表1に示す鉄系軟磁性合金粉末A~Fを作製した。まず、原子数比でFe0.735Nb0.0300.090Si0.135Cu0.100の組成の母合金が得られるように各種材料のインゴットを準備し、秤量した。そして、ガスアトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。
【0110】
次に、アトマイズ装置10内に配置された耐熱性容器22に母合金を収容した。続いて、筒体32内を真空引きした後、耐熱性容器22外部に設けた加熱用コイル24を用いて、耐熱性容器22を高周波誘導により加熱し、耐熱性容器22中の原料金属を溶融、混合して1500℃の溶融金属(溶湯)を得た。
【0111】
得られた溶融金属を冷却部30の筐体32内に1500℃で噴射して、アルゴンガスをガス噴射圧が表1に記載の圧力となるようにして噴射することにより、多数の溶滴とした。なお、溶融金属の噴出量および冷却水のポンプ圧が表1に記載の大きさとなるようにした。溶滴は、表1に記載のポンプ圧で供給された冷却水により形成された逆円錐状の冷却水流れに衝突して、微細な粉末となり、その後回収された。
【0112】
なお、図4A図4Bに示すアトマイズ装置10において、筒体32の内面の内径は300mm、角度θ1は20度としD1/D2は表1に記載した条件でおこなった。
【0113】
さらに、550℃で60分、熱処理を行った。そして、表1に示す方法で分級した。乾式篩による分級では、大気中で粉末を篩により分級した。湿式フィルター濾過による分級では、分散媒としてIPAを用いて粉末を分散させ、粉末が分散した分散媒をフィルターによりろ過した。
【0114】
表1に記載した条件に加えて、分級方法および篩またはフィルターの目開きを変化させることで、鉄系軟磁性合金粉末の個数基準での粒度分布およびD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度を変化させた。鉄系軟磁性合金粉末A、Bでは、D10が2.0~4.0μm、D50が7.0~12μm、D90が21~24μmとなるようにした。鉄系軟磁性合金粉末C、Dでは、D10が1.5~3.0μm、D50が4.0~6μm、D90が8~15μmとなるようにした。鉄系軟磁性合金粉末E、Fでは、D10が3.0~8.0μm、D50が15~25μm、D90が60~74μmとなるようにした。また、鉄系軟磁性合金粉末A、C、EではD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度が0.60~0.65、鉄系軟磁性合金粉末B、D、FではD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度が0.93~0.98となるようにした。各鉄系軟磁性合金粉末の個数基準での粒度分布およびD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度を上記の範囲内とすることで、後述する各表に記載されたコア断面における大径粉末の平均粒子径および平均円形度が得られる。
【0115】
なお、各鉄系軟磁性合金粉末における個数基準でのD10、D50、D90、およびD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度は、モフォロギG3(マルバーン・パナリティカル社)を用いて倍率10倍で20000個の粉末粒子の形状を観察することで測定した。具体的には、体積3cc分の粉末を1~3barの空気圧で分散させてレーザ顕微鏡による投影像を撮影した。各粉末粒子の粒子径より、個数基準でのD10、D50、D90、およびD90以上の鉄系軟磁性合金粉末の平均円形度を算出した。なお、各粉末粒子の粒子径はHeywood径とした。
【0116】
母合金の組成と鉄系軟磁性合金粉末の組成とが概ね一致していることをICP分析により確認した。
【0117】
各鉄系軟磁性合金粉末が非晶質からなるのか結晶からなるのかを確認した。XRDを用いて結晶起因のピークを確認し、非晶質であることを確認した。さらに、各鉄系軟磁性合金粉末に対し550℃で1時間熱処理を行い、再度XRDを用いて結晶起因のピークを確認し結晶粒子の結晶粒径が5nm以上50nm以下であった。すなわち、上記の各鉄系軟磁性合金粉末は全てナノ結晶を含んでいることを確認した。
【0118】
次に、上記の軟磁性合金粉末とは別に、鉄粉としてカルボニル鉄粉を準備した。カルボニル鉄粉のレーザ回折法で求められる体積分布の粒度分布は、D50が1.0μmであった。
【0119】
【表1】
【0120】
次に、上記の鉄系軟磁性合金粉末A~Fおよびカルボニル鉄粉を用いてトロイダルコアおよび円柱コアを作製した。
【0121】
表2~表4に記載された質量比で鉄系軟磁性合金粉末およびカルボニル鉄粉を混合して磁性粉末を得た。次に、磁性粉末と樹脂(フェノール樹脂)とを混合した。磁性粉末に対して樹脂量が表2に記載の量となるように混合した。次に、攪拌機として一般的なプラネタリーミキサーを用いて粒径500μm程度の造粒粉となるように造粒した。次に、得られた造粒粉を面圧4ton/cm(392MPa)~8ton/cm(784MPa)で加圧成形し表2に記載された磁性粉末の粒子の合計面積になるように調整した。加圧成形により、外形11mmφ、内径6.5mmφ、高さ6.0mmのトロイダル形状の成形体、および、直径8.0mmφ、高さ8.0mmの円柱形状の成形体を作製した。得られた成形体を150℃で硬化させ、トロイダルコアおよび円柱コアを作製した。これらのコアは後述する試験に必要な数だけ作製した。
【0122】
磁性粉末の粒子の合計面積割合
トロイダルコアを任意の断面で切断し、SEMを用いて倍率500倍で観察した。観察範囲は、少なくとも1000個の磁性粉末の粒子が観察される大きさとした。そして、磁性粉末の粒子の合計面積割合、すなわち鉄系軟磁性合金粉末の粒子の合計面積割合とカルボニル鉄粉の粒子の合計面積割合との合計面積割合を算出した。なお、上記の倍率で磁性粉末の粒子と樹脂層との判別が困難な場合には、倍率を高くして観察した。その場合には、観察範囲の合計面積が同一の面積となるようにした。例えば、倍率を1000倍に拡大して観察した場合には、500倍で観察した場合と観察範囲の合計面積が同一の面積となるように4倍の枚数の画像を用いた。
【0123】
磁性粉末の粒子の平均楕円円形度
上記の観察範囲について、全ての磁性粉末の粒子の楕円円形度を算出し、平均した。
【0124】
大径粒子の平均粒子径および平均円形度
上記の観察範囲について、全ての磁性粉末の粒子の円相当径(Heywood径)を算出することで、トロイダルコアにおける磁性粉末の粒度分布を確認した。そして、磁気コアの断面に設定した上記の観察範囲において、粒子径が大きい方から順に磁性粉末の粒子を抽出し、抽出された粒子の合計面積割合が磁性粉末の粒子の合計面積割合の20%を上回る最小の面積割合である場合における抽出された粒子を大径粒子とした。そして、大径粒子の平均粒子径および平均円形度を算出した。また、全ての実験例で、全ての大径粒子が鉄系軟磁性合金粉末A~Fのいずれかの粒子であることをEDSの組成マップで確認した。
【0125】
なお、全ての実験例でトロイダルコアの断面における磁性粉末のD50を算出し、1μm以上100μm以下であることを確認した。
【0126】
比透磁率
トロイダルコアにUEW線を巻き線し、4284A PRECISION LCR METER(ヒューレットパッカード)を用いて100kHzで比透磁率を測定した。鉄系軟磁性合金粉末B、DおよびFを用いなかったために大径粒子の平均円形度が低すぎた点以外は同等の条件で実施した比較例を基準とした。そして、当該比較例の比透磁率に対して比透磁率が1.04倍以上である場合を良好とした。
【0127】
耐電圧およびm値
20個の円柱コアについて、厚み方向に垂直な二面にIn-Ga電極を形成した。次に、ソースメーター(多摩電測製THK-2011ADMPT)を用いて電圧を印加し、1mAの電流が流れたときの電圧を測定した。そして、当該電圧を円柱コアの厚みで割ることにより円柱コアの耐電圧を測定した。20個の円柱コアの耐電圧を平均した値を各実験例の耐電圧とした。さらに、20個の円柱コアの耐電圧について、ワイブルプロットを行い、各実験例のm値を算出した。m値は3.0以上を良好とした。
【0128】
また、鉄系軟磁性合金粉末B、DおよびFを用いなかったために大径粒子の平均円形度が低すぎた点以外は同等の条件で実施した比較例を基準とした。そして、当該比較例の耐電圧に対して耐電圧が1.08倍以上であるものを良好とした。
【0129】
さらに、耐電圧×比透磁率を評価するにあたって、鉄系軟磁性合金粉末B、DおよびFを用いなかったために大径粒子の平均円形度が低すぎた点以外は同等の条件で実施した比較例を基準とした。そして、当該比較例の耐電圧×比透磁率に対して1.2倍以上の耐電圧×比透磁率になっている場合を良好とした。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
表2~表4より、磁性粉末の粒子の合計面積割合が75%以上90%以下であり、大径粒子の平均円形度が0.70以上である各実施例は、大径粒子の平均円形度が0.70未満である点以外は実質的に同一な構成を有する各比較例と比較して、比透磁率および耐電圧が高く、耐電圧のばらつきが小さい結果となった。さらに、各実施例は耐電圧×比透磁率も良好であった。なお、上記の実施例では円柱コアの耐電圧を測定しているが、コロイダルコアの耐電圧を測定しても円柱コアの耐電圧と同様の結果になることを確認した。
【0134】
(実験例2)
試料番号19~24の磁性粉末に対してリン酸塩処理を行うことで磁性粉末に絶縁コーティングを形成した。軟磁性合金粉末におけるコーティング厚みは20nmとなり、カルボニル鉄粉におけるコーティング厚みは10nmとなった。実験例1と同様に評価した結果を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
表5より、絶縁コーティングを形成する場合でも絶縁コーティングを形成しない場合と同様な結果が得られた。
【0137】
(実験例3)
試料番号7について、気流分級によりカルボニル鉄粉に含まれる異形粉を除去した点以外は同条件で試料番号7a、7bを作製した。試料番号12について、気流分級によりカルボニル鉄粉に含まれる異形粉を除去した点以外は同条件で試料番号12a、12bを作製した。異形粉を除去することでカルボニル鉄粉の球形度が上昇し、磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が上昇した。結果を表6に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
表6より、異形粉を除去した場合でも異形粉を除去しない場合と同様な結果が得られた。さらに、磁性粉末の粒子の平均楕円円形度が高いほど耐電圧およびm値が高くなった。
【0140】
(実験例4)
実験例1の試料番号43について、粉末Aの熱処理条件を変化させて微細構造を変化させた点以外は同条件で試料番号67、70、72を作製した。また、実験例1の試料番号44について、粉末A、Bの熱処理条件を変化させて微細構造を変化させた点以外は同条件で試料番号68、71、73を作製した。結果を表7に示す。なお、表7の微細構造欄で非晶質と記載した粉末は非晶質構造を有する。ナノ結晶と記載した粉末はナノ結晶からなる構造を有する。ヘテロ構造と記載した粉末はナノヘテロ構造を有する。結晶と記載した粉末は結晶粒径が100nm以上である結晶からなる構造を有する。そして、軟磁性合金粉末の結晶状態が同一である実施例と比較例とを比較する。

【0141】
さらに、粉末Aについては550℃で1時間熱処理を行いナノ結晶からなる構造を有するものと、熱処理を行なわず非晶質構造を有するものとの二種類を準備し、さらに粉末Bについては熱処理を行わずに非晶質構造を有するものを準備した。そして、表8に記載された配合比で各粉末を配合して試料番号69aおよび試料番号69を作製した。結果を表8に示す。試料番号69aと試料番号69とでは、ナノ結晶からなる構造を有する軟磁性合金粉末と非晶質構造を有する軟磁性合金粉末との質量比が70:30である点が共通する。
【0142】
【表7】
【0143】
【表8】
【0144】
表7および表8より、粉末の結晶状態にかかわらず実験例1と同様な結果が得られた。さらに、粉末A、Bの微細構造がナノ結晶からなる構造である場合に最も磁気特性が優れていた。
【0145】
(実験例5)
原子数比でFe0.78475Nb0.0700.090Si0.0200.0300.0050.00025の組成の母合金が得られるように各種材料のインゴットを準備した点以外は粉末Aと同条件で粉末Gを作製し、粉末Bと同条件で粉末Hを作製した。粉末Aを粉末Gに、粉末Bを粉末Hに置き換える点以外は試料番号19~24と同条件で試料番号74~79を作製した。結果を表9に示す。
【0146】
【表9】
【0147】
表9より、粉末の組成に関わらず実験例1と同様な結果が得られた。
【符号の説明】
【0148】
1…粒子形状測定結果
10…アトマイズ装置
20…溶融金属供給部
21…溶融金属
21a…滴下溶融金属
30…冷却部
36…冷却液導入部
38a1…外方凸部
50…冷却液流れ
図1
図2
図3
図4A
図4B