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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ミックス粉用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20241010BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20241010BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20241010BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20241010BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/14
A21D10/02
A21D13/60
A23L35/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020149950
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044365
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】野上 文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美緒
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/150951(WO,A1)
【文献】特開2014-093968(JP,A)
【文献】特開2009-232738(JP,A)
【文献】特開昭60-078530(JP,A)
【文献】特開2019-162069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水素添加油脂であるパーム系油脂を主体として含む油脂組成物であって、PPO/POP(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)の質量比が0.3以下であり、PPO含有量は油脂組成物全質量に対し、7質量%以下であり、かつUUUトリグリセリド含有量(U:不飽和脂肪酸)が油脂組成物全質量に対し、10質量%以上であただし、ラウリン系油脂、豚脂系油脂、牛脂系油脂、ランダムエステル交換油脂を含まない、油ちょう菓子類、焼菓子類及びパン類からなる群より選択される食品の製造のためのミックス粉用油脂組成物。
【請求項2】
部分水素添加油脂を含まない、請求項1記載のミックス粉用油脂組成物。
【請求項3】
20℃におけるSFCが30%以下である、請求項1又は2記載のミックス粉用油脂組成物。
【請求項4】
非水素添加油脂であるパーム系油脂が非エステル交換油脂であり、前記非エステル交換油脂を60~93質量%の範囲で含む、請求項1~3のいずれか一項記載のミックス粉用油脂組成物。
【請求項5】
液体油を7質量%以上含む、請求項1~4のいずれか一項記載のミックス粉用油脂組成物。
【請求項6】
乳化剤を含まない、請求項1~5のいずれか一項記載のミックス粉用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項記載のミックス粉用油脂組成物を含むミックス粉。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項記載のミックス粉用油脂組成物を、ミックス粉全質量中に1~20質量%の範囲で含むミックス粉。
【請求項9】
請求項7又は8記載のミックス粉から製造してなる、油ちょう菓子類焼菓子類及びパン類からなる群より選択される食品の製造のための生地。
【請求項10】
請求項9記載の生地を油ちょうあるいは焼成してなる、油ちょう菓子類、焼菓子類及びパン類からなる群より選択される食品。
【請求項11】
油ちょう菓子類焼菓子類及びパン類からなる群より選択される食品の製造のための、請求項7又は8記載のミックス粉の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツやマフィンあるいはたこ焼きなどの小麦粉を含む穀粉を主体とした原材料から製造される生地を焼成あるいは油ちょうしてなる食品を製造するためのミックス粉に用いるための油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーナツ等の油ちょう菓子類、クッキー等の焼菓子類、パン類、あるいはお好み焼きやたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類等の小麦粉を含む穀粉を用いた食品の製造に用いる原材料のうち、小麦粉あるいは他の穀粉、糖類、脱脂粉乳、ベーキングパウダー、油脂、その他粉状の調味料等の粉体原料(液体原料以外の原材料)を予め混合した「ミックス粉」と称される混合物が多用されている。ミックス粉を用いることにより、複雑なレシピの食品の製造を簡便かつ再現性よく行うことができるため、家庭用及び業務用として多用されている。
しかしながら、用いる油脂組成により油脂のミックス粉への分散が悪くなり、ミックス粉がダマになることがある。ダマが発生すると、ミックス粉全体が不均一となり、得られる最終製品の外観や味、食感に影響があるため好ましくない。
特許文献1には、積層状ケーキミックスにおけるダマの発生を、20℃及び30℃における固体脂指数を調整し、さらにある特定の温度の融点の油脂を特定量用いることにより抑制したことが報告されている。しかしながら、特許文献1では固体脂指数の調整のためパームあるいはヤシの硬化油等の部分水素添加油脂を用いており、トランス脂肪酸量の低減の観点から好ましくない。
【0003】
特許文献2~5には、パンや焼菓子を製造するための作業性が良好な油脂組成物が開示されている。
例えば特許文献2には、食感の経日変化を抑制するという課題に対し、パルミチン酸を多く含む飽和脂肪酸組成とオレイン酸を多く含む不飽和脂肪酸組成の油脂組成物を用い、さらに特定の冷却条件を採用することにより解決したことが開示されている。実施例ではこのような油脂組成を達成するためパーム分別硬化油あるいはパーム硬化油等を主体とした油脂組成物を用いたことが開示されている。
特許文献3には、特定のPOP量(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)とラウリン酸量を用いることにより、作業性がよく、口どけのよい焼菓子類を製造できたことが報告されている。特許文献3ではラウリン酸量を一定にするためヤシ油を原料油脂として用いている。
特許文献4には、パーム分別軟部油のエステル交換油脂を含む製パン練り込み用油脂組成物が開示されており、これによりパン生地へ均質にすばやく練り込むことができること、得られたパンはソフトでしっとりとした食感であることが報告されている。
特許文献5には、製菓製パン生地中への分散性が良好であり、べたつきが少なく練り込み時の作業性に優れる生地が得られる油脂組成物として、SSU、SUS及びSSS型トリグリセリド(S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸)の合計含有量が所定量である油脂と、特定の乳化剤と、増粘多糖類とを含んでなる油脂組成物が開示されている。特許文献5ではかかる組成を達成するため、パーム分別軟質油を主として用いている。
しかし、特許文献2~5にはミックス粉におけるダマの抑制に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-78530号公報
【文献】特開2006-141370号公報
【文献】特開2010-4806号公報
【文献】特開2018-78811号公報
【文献】特開2015-82986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ミックス粉への分散性が良好でかつトランス脂肪酸量を抑制しうる油脂組成物を得るため、パーム油由来のエステル交換油脂を用いたところ、ミックス粉への分散性が不十分であり、さらに最終製品としたときの口どけが不良であることがわかった。
本発明の課題は、ミックス粉への分散性が良好であり、トランス脂肪酸量が抑制されており、さらに最終製品としたときの口どけが良好なミックス粉用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで発明者らは鋭意検討したところ、非水素添加油脂であるパーム系油脂を主体として含む油脂組成物であって、PPO/POP(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)の質量比が0.7以下であり、かつUUUトリグリセリド含有量(U:不飽和脂肪酸)が油脂組成物全質量に対し、10質量%以上である油脂組成物により、ミックス粉への分散性が良好でありかつ最終製品の口どけが良好なミックス粉用油脂組成物を得ることができることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
本発明は以下を提供する。
<1>
非水素添加油脂であるパーム系油脂を主体として含む油脂組成物であって、PPO/POP(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)の質量比が0.7以下であり、かつUUUトリグリセリド含有量(U:不飽和脂肪酸)が油脂組成物全質量に対し、10質量%以上である、ミックス粉用油脂組成物。
<2>
部分水素添加油脂を含まない、<1>記載のミックス粉用油脂組成物。
<3>
20℃におけるSFCが30%以下である、<1>又は<2>記載のミックス粉用油脂組成物。
<4>
非水素添加油脂であるパーム系油脂が非エステル交換油脂であり、前記非エステル交換油脂を60~93質量%の範囲で含む、<1>~<3>のいずれかに記載のミックス粉用油脂組成物。
<5>
液体油を7質量%以上含む、<1>~<4>のいずれかに記載のミックス粉用油脂組成物。
<6>
乳化剤を含まない、<1>~<5>のいずれかに記載のミックス粉用油脂組成物。
<7>
ミックス粉が、油ちょう菓子類、焼菓子類、パン類、お好み焼き及びたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類からなる群より選択される食品の製造のためのミックス粉である、<1>~<6>のいずれかに記載のミックス粉用油脂組成物。
<8>
<1>~<7>のいずれかに記載のミックス粉用油脂組成物を含むミックス粉。
<9>
<8>記載のミックス粉から製造してなる、油ちょう菓子類、焼菓子類、パン類、お好み焼き及びたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類からなる群より選択される食品の製造のための生地。
<10>
<9>記載の生地を油ちょうあるいは焼成してなる、油ちょう菓子類、焼菓子類、パン類、お好み焼き及びたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類からなる群より選択される食品。
<11>
油ちょう菓子類、焼菓子類、パン類、お好み焼き及びたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類からなる群より選択される食品の製造のための、<8>記載のミックス粉の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ミックス粉への分散性が良好であり、ミックス粉から製造した最終製品の喫食時の口どけが良好なミックス粉用油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のミックス粉用油脂組成物は、非水素添加油脂であるパーム系油脂を主体として含む油脂組成物であって、PPO/POP(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)の質量比が0.7以下であり、かつUUUトリグリセリド含有量(U:不飽和脂肪酸)が油脂組成物全質量に対し、10質量%以上であることを特徴とする。
【0010】
ミックス粉とは、一般に、小麦粉を含む穀粉を用いた食品の製造に用いる原材料のうち、小麦粉あるいは他の穀類の粉やデンプン類、糖類、油脂、粉乳、卵粉、膨張剤(ベーキングパウダー)、塩、香料その他粉状の調味料等の粉体原料(液体原料以外の原材料)を予め混合したものである。
本明細書において「ミックス粉」は、少なくともいずれかの種類の穀粉と本発明の油脂組成物とを含むものである。ミックス粉に含まれる穀粉には、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大豆粉等が挙げられ、さらにそれらの全粒粉も挙げられる。ミックス粉に含まれるその他の粉体材料としては、砂糖、ブドウ糖、粉末水飴等の糖類、脱脂粉乳等の粉乳、ベーキングパウダー等の膨張剤、その他粉状の調味料(例えば食塩、香辛料)が挙げられる。
【0011】
本発明の「ミックス粉」から製造される食品としては、ケーキドーナツやイーストドーナツ等を含むドーナツ等の油ちょう菓子類、クッキー等の焼菓子類、パン類、あるいはお好み焼き及びたこ焼き等の穀粉を主体とする惣菜類が挙げられる。
本発明の「ミックス粉」から製造される「生地」は、製造する食品に応じたその他の原材料(粉体原料及び液体原料)を混合して通常の方法により製造されるものである。
【0012】
本発明のミックス粉用油脂組成物は、非水素添加油脂であるパーム系油脂を主体として含む油脂組成物である。
本発明における「パーム系油脂」は、パーム油及びその分別油から選択される油脂を含む油脂を意味する。「非水素添加油脂である」は、水素添加油脂ではないこと、あるいは水素添加油脂を含まないことを意味する。非水素添加油脂であるパーム系油脂を「主体として含む」とは、油脂組成物全質量に対して、非水素添加油脂であるパーム系油脂の合計量が50質量%以上であることを意味する。本発明において非水素添加油脂であるパーム系油脂は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましい。また、93質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明において、非水素添加油脂であるパーム系油脂としては、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション、が挙げられる。パームオレイン、パームダブルオレインは、パーム油を分別して得られる低融点画分の油脂であり、ヨウ素価は、通常50を超える(例えば、55以上の)範囲から選択される。パームステアリンとは、パーム油を分別して得られる高融点画分の油脂であり、ヨウ素価は、通常40未満(例えば、10~40)の範囲から選択される。パームミッドフラクションは、パームオレインを更に分別して得られる高融点画分の油脂であり、ヨウ素価は通常30~50の範囲から選択される。本発明における「非水素添加油脂であるパーム系油脂」は、好ましくは、パーム油、パームミッドフラクション、及びパームステアリンから選択される油脂を含むことが好ましい。
非水素添加油脂であるパーム系油脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上のパーム系油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の油脂組成物中のPPO/POP(P:パルミチン酸、O:オレイン酸)の質量比は0.7以下であり、かつUUUトリグリセリド含有量(U:不飽和脂肪酸)は油脂組成物全質量に対し、10質量%以上である。
なお、本明細書において、油脂組成物中のトリグリセリド組成の分析は液体クロマトグラフィー質量分析法により行った。
PPO/POPの質量比が0.7以下であることにより、ミックス粉への分散性が良好でかつ口どけの良い最終製品を得ることができる。
PPO/POPの質量比は0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
また、PPOトリグリセリド含有量は10%質量以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることがよりさらに好ましい。ミックス粉への分散性が良好でかつ最終製品の口どけが良好であるという理由からである。
POPトリグリセリド含有量は14質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、30質量%以下であることが好ましい。
【0014】
UUUトリグリセリド含有量が油脂組成物全質量に対し、10質量%以上であることにより、ミックス粉への分散がよく、また最終製品の口どけもよい。
UUUトリグリセリド含有量が油脂組成物全質量に対し、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の油脂組成物中の脂肪酸組成としては、油脂組成物質量に対してパルミチン酸(P)を30~50質量%含むことが好ましく、またオレイン酸(O)を30~50質量%含むことが好ましい。
またラウリン酸が3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明の非水素添加油脂であるパーム系油脂は、非エステル交換油脂(エステル交換されていない油脂)であることが好ましい。
本発明の油脂組成物は、非水素添加油脂であるパーム系油脂の非エステル交換油脂を60~93質量%含むことが好ましく、70~93質量%含むことがより好ましく、75~90質量%含むことがさらに好ましい。
本発明の油脂組成物は、トランス脂肪酸の健康への影響が懸念されるため、部分水素添加油脂を含まないことが好ましい。
本発明の油脂組成物中の脂肪酸組成として、トランス脂肪酸は出来うる限り低下させることが望ましく、油脂組成物質量に対して1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の油脂組成物は、非水素添加油脂であるパーム系油脂の他に、液体油、極度硬化油脂を含むことができる。液体油は、室温において液状の油脂であり、極度硬化油脂は、原料油脂を極度硬化処理して得られた油脂である。ミックス粉への分散性が向上し、また最終製品の口どけが良好となるため液体油を含むことが好ましく、液体油を7質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましい。液体油は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
好ましい液体油としては、これらに限定されないが、コーン油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、綿実油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックナタネ油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油又はこれらの混合油あるいはこれらの加工油脂などが挙げられる。
好ましい極度硬化油脂としては、パーム油、ハイエルシン菜種油、菜種油、大豆油、牛脂、豚脂、魚油などを原料油脂としてこれを極度硬化処理して得られた油脂である。より好ましくは、パーム油、ハイエルシン菜種油、菜種油、大豆油から選択される原料油脂の極度硬化油であり、さらに好ましくはパーム油の極度硬化油である。またさらに好ましくは融点が50℃以上の極度硬化油脂である。
本発明の油脂組成物は、ミックス粉への分散性を良くする観点からラウリン系油脂の含有量が5質量%以下であることが好ましい。ここで、ラウリン系油脂とは、油脂におけるラウリン酸残基の構成割合が30%以上の油脂をいう。ラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、またはそれらを分別、硬化、エステル交換等を行った油脂が挙げられる。
【0018】
本発明の油脂組成物の20℃におけるSFCは30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。ショートニングの作業性に優れるという理由からである。30℃におけるSFCは4%以上20%以下であることが好ましく、5%以上17%以下であることがより好ましく、6%以上15%以下であることがさらに好ましい。ミックス粉への分散性がよいという理由からである。
35℃におけるSFCは8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。最終製品の口どけが良好であるという理由からである。
なお、本明細書においてSFC(単位:%)の測定は基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定することができる。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、0℃で30分保持して固化させる。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃に30分保持する。その後、各SFCの測定温度で30分保持した後、SFCを測定する。
【0019】
本発明の油脂組成物は、最終製品中の食品添加物低減の観点から、乳化剤を含まないことが好ましい。同様に、増粘剤も含まないことが好ましい。
【0020】
本発明の油脂組成物は、油脂組成物混合後のミックス粉全質量中に1~30質量%の範囲で含まれることが好ましく、2~20質量%の範囲がより好ましく、3~10質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の油脂組成物は、通常の方法で製造することができる。例えば、油脂を混合、溶解させ、急冷捏和装置で急冷して捏和して製造することができる。本発明の油脂組成物は、例えば、特許文献2(特開2006-141370号公報)に記載されるような、最終製品に対して特定の冷却条件を採用する必要がない。
本発明のミックス粉、生地及び最終製品はいずれも、当該技術分野において公知の材料及び方法を用いて製造することができる。
【実施例
【0022】
<各油脂の作製方法及び物性>
表1に記載される各油脂は以下のように作製されたものである。
・パーム油:パーム油(ヨウ素価52)100%の脱色、脱臭を行った。
・パームミッドフラクション:パームミッドフラクション(ヨウ素価45)100%の脱色、脱臭を行った。
・パームステアリン:パームステアリン(ヨウ素価32)100%の脱色、脱臭を行った。
・パームオレイン:パームオレイン(ヨウ素価58)100%の脱色、脱臭を行った。
・パームダブルオレインのエステル交換油:パームダブルオレイン(ヨウ素価60)100重量部を用いて、0.114重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で15分間、ランダムエステル交換反応を行った。その後得られたエステル交換油の、脱色、脱臭を行った。
・パームステアリンエステル交換油の分別軟質部:パームステアリン100重量部を用いて、0.102重量部のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で15分間、ランダムエステル交換反応を行った。その後、得られたエステル交換油を70℃に加熱して完全に溶解し、46℃で攪拌しながら24時間晶析した。そして、3.0MPaでフィルタープレスし、晶析後のエステル交換油を液状部と固体部に分けた。得られた液状部(ヨウ素価40)の脱色、脱臭を行い、パームステアリンエステル交換油の分別液状部を得た。
・パーム極度硬化油:パーム油100%の極度硬化処理(ヨウ素価1)を行い、脱色、脱臭を行った。
・ヤシ油:ヤシ油100%の脱色、脱臭を行った。
・菜種油:菜種油100%の脱色、脱臭を行った。
【0023】
<油脂組成物の作製>
(実施例1~4、比較例1~3)
表1の配合にしたがって、各油脂を混合、溶解させ、急冷捏和装置で急冷して捏和し、ミックス粉用油脂組成物を得た。
トリグリセリドの分析は、液体クロマトグラフィー法により行った。下記に分析条件の詳細を示す。
【0024】
[液体クロマトグラフィー部]
装置:Agilent 1260 Infinity バイナリ LCシステム
カラム:Cadenza CD-C18
カラム温度:20℃
【0025】
[質量分析部]
装置:Agilent 6130 Single Quadrupole LC/MSシステム
イオンソース:APCI
【0026】
表1(油脂組成、脂肪酸組成及びUUU含有量:組成物質量に対する質量%)
【0027】
<ミックス粉の作製>
(実施例5~8、比較例4~6)
表2の配合にしたがって、ミックス粉を以下の方法にて作製した。薄力粉を64.5質量部、グラニュー糖を25質量部、脱脂粉乳を3質量部、ベーキングパウダーを2質量部、及び、食塩を0.5質量部をミキサーボウルに投入し、縦型30コートミキサー(関東混合機工業株式会社製「HPI-30M」)にビーターを取り付け、低速で5分間攪拌後、30℃に温調した実施例1~4又は比較例1~3で得たミックス粉用油脂組成物5質量部を投入し、中速で25分間攪拌し、ミックス粉を作製した。
【0028】
表2(油脂組成:組成物質量に対する質量%)
【0029】
<ケーキドーナツの作製>
(実施例9~12、比較例7~9)
表3の配合にしたがって、ケーキドーナツを以下の方法にて作製した。
水11.4質量部、及び、実施例5~8又は比較例4~6で得たミックス粉をミキサーボウルに投入し、縦型30コートミキサー(関東混合機工業株式会社製「HPI-30M」)にビーターを取り付け、低速で30秒間攪拌後、全卵13.1質量部を投入し、低速で1分間、中速で3分間混合し、生地を捏ね上げ、(捏ね上げ温度22~25℃)、30分間静置した後、ドーナツカッターで60gのリング状に成型して、180±5℃に加熱したフライ用油脂(パーム油)中に押し出し、4分間フライ調理してケーキドーナツを得た。
【0030】
表3(油脂組成:組成物質量に対する質量%)
【0031】
(ミックス粉の評価)
実施例・比較例のミックス粉を作製し、20℃恒温槽内で一日静置した後、以下の評価基準に従ってミックス粉の状態を評価した。
【0032】
(ドーナツ生地の評価)
実施例・比較例で作製したドーナツ生地を室温にて50分静置後、粘度計(リオン株式会社ビスコテスタVT-04)で測定を行った。この値を基に、ドーナツ生地の作業性を以下のような基準で評価した。
【0033】
(ドーナツの外観評価)
実施例・比較例で得られたドーナツについて外観を評価した。その際の評価基準は以下の通りであった。
【0034】
(ドーナツの食感(官能評価))
実施例・比較例で得られたドーナツについて、口どけと口残りのねちゃつきを評価した。その際の評価基準は以下の通りであった。
【0035】
表1~3から明らかなとおり、本発明の油脂組成物(実施例1~4の油脂組成物)を用いた場合には、ミックス粉への分散が良好であり、ドーナツの口どけも良好であった(実施例5~8)。また、ドーナツ生地の製造においても問題がなく、外観にも問題がなかった(実施例9~12)。
一方、PPO/POP含量が0.7を超えており(比較例2及び3)またはUUU含有量が10質量%未満(比較例1)の油脂組成物を用いた場合には、ミックス粉への分散が不良(比較例4及び6)あるいはドーナツの口どけが不良であった(比較例7~9)。