(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20241010BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241010BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
H01L21/304 622Q
(21)【出願番号】P 2020171483
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三浦 穣史
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212874(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098197(WO,A1)
【文献】特開2007-095713(JP,A)
【文献】特開2018-006538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 3/00 -39/06
H01L21/304-21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分A、下記成分B、及び下記成分Dを含有し、
成分Aの含有量に対する成分Dの含有量の質量比D/Aは0.01以上0.2以下であり、
pHが8.5超14以下である、
単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板の研磨に用いるための、シリコン基板用研磨液組成物。
成分A:シリカ粒子
成分B:窒素含有基を有するカチオン性水溶性高分子(ただし、ポリアルキレンイミンを除く)
成分D:分子内にアルキレンオキサイド基又は水酸基を有し、重量平均分子量2,000以上50万未満であるノニオン性水溶性高分子
【請求項2】
成分Bは、少なくとも主鎖及び側鎖に、アリルアミノ基、ジアリルアミノ基、第4級アンモニウム基、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の窒素含有基を有するカチオン性高分子である、請求項1記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Bは、アリルアミン、ジアリルアミン、ジメチルアリルアミン、メチルジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルメチルエチルアンモニウム及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構成単位を含む、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Dは、ポリグリセリン、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリンアルキルエステル、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリヒドロキシエチルアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
成分Dの含有量に対する成分Bの含有量の質量比B/Dは、0.2以上2以下である、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
成分B及び成分D以外の、重量平均分子量2,000未満のアルキレンオキサイド基を有する水溶性高分子(成分E)をさらに含有する、請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項7】
pHが10超である、請求項1から6のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含む、シリコン基板の研磨方法。
【請求項9】
請求項1から
7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、
研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物、並びにこれを用いた研磨方法、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体メモリの高記録容量化に対する要求の高まりから半導体装置のデザインルールは微細化が進んでいる。このため半導体装置の製造過程で行われるフォトリソグラフィーにおいて焦点深度は浅くなり、シリコン基板(ベアウェーハ)の表面欠陥(LPD:Light Point Defects、LPD-N:Light Point Defect Non-cleanable)や表面粗さ(ヘイズ)の低減に対する要求はますます厳しくなっている。ここで、LPD及びLPD-Nは、一般的にパーティクルと呼ばれる異物を示す。
【0003】
シリコン基板の品質を向上する目的で、シリコン基板の研磨は多段階で行われている。特に研磨の最終段階で行われる仕上げ研磨は、ヘイズの低減とパーティクルやスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減とを目的として行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、シリカ粒子と、含窒素塩基性化合物と、水酸基由来の酸素原子数とポリオキシアルキレン由来の酸素原子数の比が0.8~10の水溶性高分子と、を含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献2では、砥粒、塩基性化合物、及び2種以上の水溶性高分子を含み、前記水溶性高分子は、窒素含有基を含むカチオン性水溶性高分子を含む、半導体研磨用組成物が提案されている。同文献の実施例には、コロイダルシリカ、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、重量平均分子量80万のヒドロキシエチルセルロース、及びポリエチレンイミンを含む半導体研磨用組成物が記載されている。
特許文献3では、表面改質したシリカ及び非イオン性水溶性高分子を含む、半導体ウエハ研磨用組成物が提案されている(請求項10)。同文献には、非イオン性水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられており、非イオン性水溶性高分子の好ましい濃度は酸化珪素に対して0.025~0.3重量%であることが記載されている(段落[0053])。同文献の実施例には、表面改質したシリカ、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びジアリルジメチルアンモニウムマレイン酸共重合体を含む研磨用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-109423号公報
【文献】特開2006-352042号公報
【文献】特開2016-20294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、シリコンウェーハ等のシリコン基板の表面品質に対する要求はますます厳しくなっており、研磨速度の向上とともに、シリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)の低減及び表面欠陥(LPD及び/又はLPD-N)の低減が可能な研磨液組成物が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、研磨速度の向上とシリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD及び/又はLPD-N)低減とを達成できる研磨液組成物、並びに、これを用いた研磨方法、及び半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、下記成分A、下記成分B、及び下記成分Dを含有し、成分Aの含有量に対する成分Dの含有量の質量比D/Aは0.01以上0.2以下であり、pHが8.5超14以下である、シリコン基板用研磨液組成物に関する。
成分A:シリカ粒子
成分B:窒素含有基を有するカチオン性水溶性高分子(ただし、ポリアルキレンイミンを除く)
成分D:分子内にアルキレンオキサイド基又は水酸基を有し、重量平均分子量が2,000以上50万未満であるノニオン性水溶性高分子
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含む、シリコン基板の研磨方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、研磨速度の向上とシリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD及び/又はLPD-N)低減とを達成できる研磨液組成物、及び該研磨液組成物を用いた研磨方法、並びに半導体基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、シリカ粒子及び含窒素塩基性化合物を含む研磨液組成物に、カチオン性基及び特定の疎水基を有する水溶性高分子を含有させることにより、研磨速度の向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD及び/又はLPD-N)低減とを達成できるという知見に基づく。
【0013】
すなわち、本開示は、一態様において、下記成分A、下記成分B、及び下記成分Dを含有し、成分Aの含有量に対する成分Dの含有量の質量比D/Aは0.01以上0.2以下であり、pHが8.5超14以下である、シリコン基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
成分A:シリカ粒子
成分B:窒素含有基を有するカチオン性水溶性高分子(ただし、ポリアルキレンイミンを除く)
成分D:分子内にアルキレンオキサイド基又は水酸基を有し、重量平均分子量が2,000以上50万未満であるノニオン性水溶性高分子
【0014】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上とシリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成できる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を大きく損なうことなく、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥を低減できる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を向上でき、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥を抑制できる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を向上でき、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥の低減を低減できる。
【0015】
本開示の効果発現機構の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
本開示では、カチオン性水溶性高分子(成分B)がシリカ粒子(成分A)に吸着することで、シリカ粒子(成分A)の被研磨シリコン基板への接触頻度を増やすことができ、研磨速度の向上に寄与すると考えられる。
また、カチオン性水溶性高分子(成分B)は、所定量の特定のノニオン性水溶性高分子(成分D)と併用することにより、被研磨シリコン基板表面に2種類の水溶性高分子が厚く吸着することで、シリコン基板表面の腐食が抑制され、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD、LPD-N)を低減できると考えられる。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨材としてシリカ粒子(以下、「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、粉砕シリカ、及びそれらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0017】
成分Aの使用形態としては、操作性の観点から、スラリー状が好ましい。本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aがコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコン基板の汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、従来から公知の方法によって作製できる。
【0018】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均一次粒子径は、10nm以上40nm以下が好ましく、15nm以上35nm以下がより好ましく、15nm以上30nm以下が更に好ましく、20nm以上30nm以下が更に好ましい。特に、成分Aとしてコロイダルシリカを用いた場合、成分Aの平均一次粒子径は、同様の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。
【0019】
本開示において、成分Aの平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。比表面積は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0020】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましく、そして、80nm以下が好ましく、75nm以下がより好ましく、70nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均二次粒子径は、20nm以上80nm以下が好ましく、30nm以上75nm以下がより好ましく、40nm以上70nm以下が更に好ましい。本開示において、平均二次粒子径は、動的光散乱(DLS)法によって測定される値であり、例えば、実施例に記載の装置を用いて測定できる。
【0021】
成分Aの会合度は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。成分Aがコロイダルシリカである場合、その会合度は、同様の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0022】
本開示において、成分Aの会合度とは、シリカ粒子の形状を表す係数であり、下記式により算出される。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0023】
成分Aの会合度の調整方法としては、例えば、特開平6-254383号公報、特開平11-214338号公報、特開平11-60232号公報、特開2005-060217号公報、特開2005-060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0024】
成分Aの形状は、いわゆる球型及び/又はいわゆるマユ型であることが好ましい。
【0025】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、SiO2換算で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.07質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、2.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0.3質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、SiO2換算で、0.01質量%以上2.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.07質量%以上0.8質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せの場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0026】
[カチオン性水溶性高分子(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、窒素含有基を有するカチオン性水溶性高分子(以下、「成分B」ともいう)を含有する。成分Bは、一又は複数の実施形態において、ポリアルキレンイミンを含まない。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0027】
成分Bの窒素含有基は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点から、アミノ基、第4級アンモニウム基及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の基が好ましく、アリルアミノ基、ジアリルアミノ基、第4級アンモニウム基及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0028】
成分Bは、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点から、少なくとも主鎖及び側鎖に、アリルアミノ基、ジアリルアミノ基、第4級アンモニウム基及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の窒素含有基を有するカチオン性高分子であることが好ましく、アリルアミン、ジアリルアミン、ジメチルアリルアミン、メチルジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルメチルエチルアンモニウム及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0029】
成分Bとしては、一又は複数の実施形態において、アリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩共重合体、メチルジアリルアミン重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、ジアリルアミンアミド硫酸塩・マレイン酸共重合体、メチルジアリルアミン・マレイン酸共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドマレイン酸共重合体、及びマレイン酸・ジアリルジメチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
成分Bの重量平均分子量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点から、800以上が好ましく、1,000以上がより好ましく2,000以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、20万以下が好ましく、10万以下がより好ましく、6万以下が更に好ましい。成分Bの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定できる。
【0031】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、10質量ppm以上が好ましく、20質量ppm以上がより好ましく、30質量ppm以上が更に好ましく、50質量ppm以上が更に好ましく、そして、研磨液の分散性及び表面粗さ(ヘイズ)低減の観点から、500質量ppm以下が好ましく、200質量ppm以下がより好ましく、150質量ppm以下が更に好ましく、120質量ppm以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、10質量ppm以上500質量ppm以下が好ましく、20質量ppm以上200質量ppm以下がより好ましく、30質量ppm以上150質量ppm以下が更に好ましく、50質量ppm以上120質量ppm以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せの場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。なお、本開示において、1質量%は10,000質量ppmである(以下同じ)。
【0032】
本開示の研磨液組成物中における、成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の比B/A(質量比B/A)は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上が更に好ましく、そして、0.2以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.1以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中における質量比B/Aは、0.005以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.15以下がより好ましく、0.02以上0.1以下が更に好ましい。
【0033】
本開示の研磨液組成物中における、成分Dの含有量に対する成分Bの含有量の比B/D(質量比B/D)は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、そして、2以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、0.9以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中における質量比C/Dは、0.1以上2以下が好ましく、0.2以上2以下がより好ましく、0.2以上1.2以下が更に好ましく、0.3以上0.9以下が更に好ましい。
【0034】
[ノニオン性水溶性高分子(成分D)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、分子内にアルキレンオキサイド基又は水酸基を有し、重量平均分子量が2,000以上50万未満であるノニオン性水溶性高分子(以下、「成分D」ともいう)を含有する。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。
【0035】
成分Dが分子内にアルキレンオキサイド基を有する場合、アルキレンオキサイド基としては、例えば、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基等が挙げられる。
【0036】
成分Dとしては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、ポリグリセリン、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリンアルキルエステル、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリヒドロキシエチルアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリグリセリン又はヒドロキシアルキルセルロースがより好ましく、ポリグリセリンが更に好ましい。
前記ポリグリセリンアルキルエーテルのアルキル基は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点、及び、研磨液の泡立ち抑制の観点から、炭素数3以上22以下のアルキル基が好ましく、炭素数5以上16以下のアルキル基がより好ましく、炭素数7以上12以下のアルキル基が更に好ましい。前記アルキル基は、直鎖アルキル基でもよいし、分岐鎖アルキル基でもよい。前記ポリグリセリンアルキルエーテルのグリセリン単位の平均重合度は、濡れ性向上の観点から、5以上であり、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、18以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、100以下であり、60以下が好ましく、45以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。前記ポリグリセリンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリグリセリンラウリルエーテル、ポリグリセリンデシルエーテル、ポリグリセリンミリスチルエーテル等が挙げられる。
前記ポリグリセリンアルキルエステルのアルキル基は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点、及び、研磨液の泡立ち抑制の観点から、炭素数3以上22以下のアルキル基が好ましく、炭素数5以上16以下のアルキル基がより好ましく、炭素数7以上12以下のアルキル基が更に好ましい。前記アルキル基は、直鎖アルキル基でもよいし、分岐鎖アルキル基でもよい。前記ポリグリセリンアルキルエステルのグリセリン単位の平均重合度は、濡れ性の向上の観点から、5以上であり、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、18以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減の両立の観点から、100以下であり、60以下が好ましく、45以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。前記ポリグリセリンアルキルエステルとしては、例えば、ポリグリセリンラウリルエステル、ポリグリセリンデシルエステル、ポリグリセリンミリスチルエステル等が挙げられる。
前記ヒドロキシアルキルセルロースは、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、好ましくはヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」ともいう)、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロースから選ばれる少なくとも1種が好ましく、HECがより好ましい。
これらの中でも、成分Dは、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール(PVA)、及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
成分Dの重量平均分子量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、2,000以上が好ましく、2,500以上がより好ましく、2,800以上が更に好ましく、そして、同様の観点及び研磨液の濾過性のから、50万未満が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下が更に好ましい。
成分Dがポリグリセリンである場合、成分Cの重量平均分子量は、同様の観点から、2,000以上が好ましく、2,500以上がより好ましく、2,800以上が更に好ましく、そして、10,000以下が好ましく、8,000以下がより好ましく、6,000以下が更に好ましい。
成分DがPVAである場合、成分Dの重量平均分子量は、同様の観点から、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、20,000以上が更に好ましく、そして、15万以下が好ましく、12万以下がより好ましく、10万以下が更に好ましい。
成分DがHECである場合、成分Dの重量平均分子量は、同様の観点から、5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、15万以上が更に好ましく、そして、50万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下が更に好ましい。
成分Dの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定できる。
【0038】
本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、10質量ppm以上が好ましく、30質量ppm以上がより好ましく、50質量ppm以上が更に好ましく、そして、1,000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、300質量ppm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Dの含有量は、10質量ppm以上1,000質量ppm以下が好ましく、30質量ppm以上500質量ppm以下がより好ましく、50質量ppm以上300質量ppm以下が更に好ましい。成分Dが2種以上の組合せの場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0039】
本開示の研磨液組成物中における、成分Aの含有量に対する成分Dの含有量の比D/A(質量比D/A)は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、0.01以上であって、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.04以上が更に好ましく、0.05以上が更に好ましく、0.06以上が更に好ましく、0.07以上が更に好ましく、そして、0.2以下であって、0.19以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.17以下が更に好ましく、0.16以下が更に好ましい。同様の観点から、質量比D/Aは、0.01以上0.2以下であって、0.02以上0.19以下が好ましく、0.03以上0.18以下が更に好ましい。
【0040】
[水]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含んでいてもよい。水としては、例えば、イオン交換水や超純水等の水が挙げられ、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点から、超純水が好ましい。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、例えば、成分A、成分B、成分D及び後述するその他の成分の残余とすることができる。
【0041】
[含窒素塩基性化合物(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、含窒素塩基性化合物(以下、「成分C」ともいう)を含有することができる。成分Cとしては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、水溶性の含窒素塩基性化合物であることが好ましい。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。本開示において、「水溶性の含窒素塩基性」とは、水に溶解したときに塩基性を示す含窒素化合物をいう。成分Cは、一又は複数の実施形態において、窒素含有基を有するカチオン性水溶性高分子(成分B)を含まない。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0042】
成分Cとしては、一又は複数の実施形態において、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。成分Cとしては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N一メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N一ジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びヒドロキシアミンから選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。なかでも、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、成分Cとしては、アンモニア、又は、アンモニアとヒドロキシアミンの混合物が好ましく、アンモニアがより好ましい。
【0043】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、5質量ppm以上が好ましく、10質量ppm以上がより好ましく、20質量ppm以上が更に好ましく、そして、500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく100質量ppm以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は5質量ppm以上500質量ppm以下が好ましく10質量ppm以上300質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以上100質量ppm以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せの場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0044】
本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比C/A(質量比C/A)は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、0.002以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.025以上が更に好ましく、そして、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.1以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中における質量比C/Aは、0.002以上1以下が好ましく、0.01以上0.5以下がより好ましく、0.025以上0.1以下が更に好ましい。
【0045】
[アルキレンオキサイド基を有する水溶性高分子(成分E)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、表面粗さ(ヘイズ)低減及び、表面欠陥(LPD、LPD-N)低減の観点から、成分B及び成分D以外の重量平均分子量2,000未満のアルキレンオキサイド基を有する水溶性高分子(以下、単に「成分E」ともいう)を含有することができる。アルキレンオキシド基としては、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基等が挙げられる。成分Eとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド・ポリプロピレンオキシドランダム共重合体、ポリエチレンオキシド・ポリプロピレンオキシドブロック共重合体等が挙げられる。成分Eは、1種であってもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0046】
成分Eの重量平均分子量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、200以上が好ましく、400以上がより好ましく、800以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、1,800以下が好ましく、1,600以下がより好ましく、1,500以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Eの重量平均分子量は200以上1,800以下が好ましく、400以上1,600以下がより好ましく、800以上1,500以下が更に好ましい。成分Eの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定できる。
【0047】
本開示の研磨液組成物が成分Eを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点、及び、表面欠陥(LPD)低減の観点から、1質量ppm以上が好ましく、4質量ppm以上がより好ましく、8質量ppm以上が更に好ましい。そして、研磨速度向上の観点から、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以下が更に好ましい。成分Eが2種以上の組合せである場合、成分Eの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0048】
本開示の研磨液組成物中における、成分Dの含有量に対する成分Eの含有量の比(質量比E/D)は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、0.01以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.08以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上の観点から、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.2以下が更に好ましい。
【0049】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、成分B、D、E以外の水溶性高分子、成分B、D、E以外の界面活性剤、成分C以外のpH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤、及び酸化剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0050】
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、8.5超であり、9以上が好ましく、9.5以上が更に好ましく、10以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、14以下であり、13以下が好ましく、12.5以下がより好ましく、12以下が更に好ましく、11.5以下が更に好ましく、11以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、8.5超以上14以下であり、9以上13以下が好ましく、9.5以上12.5以下がより好ましく、9.5以上12以下が更に好ましく、9.5以上11.5以下が更に好ましく、10以上11以下が更に好ましい。本開示の研磨液組成物のpHは、成分Cや公知のpH調整剤を用いて調整できる。本開示において、上記pHは、実施例に記載する方法で測定した値である。
【0051】
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分Dと、さらに所望により任意成分(成分C、成分E、その他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A、成分B及び成分Dを配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分D及び必要に応じて任意成分(成分C、成分E、その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。上記本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0052】
本開示において、「研磨液組成物中の各成分の含有量」は、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における各成分の含有量をいう。
【0053】
本開示の研磨液組成物は、貯蔵及び輸送の観点から、濃縮物として製造され、使用時に希釈されてもよい。希釈倍率としては、製造及び輸送コストの観点、保存安定性の観点から、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは10倍以上、更に好ましくは30倍以上、更に好ましくは50倍以上であり、保存安定性の観点から、好ましくは180倍以下であり、より好ましくは140倍以下、更に好ましくは100倍以下、更に好ましくは70倍以下である。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に各成分の含有量が、上述した含有量(すなわち、使用時の含有量)となるように水(成分D)で希釈して使用することができる。本開示において研磨液組成物の濃縮物の「使用時」とは、研磨液組成物の濃縮物が希釈された状態をいう。
【0054】
[被研磨シリコン基板]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、シリコン基板用研磨組成物であり、例えば、半導体基板の製造方法における、被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程や、シリコン基板の研磨方法における、被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程に用いられうる。本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨シリコン基板としては、一又は複数の実施形態において、シリコン基板等が挙げられ、一又は複数の実施形態において、単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板が挙げられる。単結晶シリコン基板としては、例えば、単結晶100面シリコン基板、111面シリコン基板、110面シリコン基板等が挙げられる。また、前記シリコン基板の抵抗率としては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、好ましくは0.0001Ω・cm以上、より好ましくは0.001Ω・cm以上、更に好ましくは0.01Ω・cm以上、更に好ましくは0.1Ω・cm以上であり、そして、好ましくは100Ω・cm以下、より好ましくは50Ω・cm以下、更に好ましくは20Ω・cm以下である。
【0055】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するための研磨液キット(以下、「本開示のキット」と略称する場合もある。)に関する。本開示のキットによれば、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成できる研磨液組成物が得られうる。
本開示のキットとしては、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B及び成分Dを含む溶液を含有する研磨液キットが挙げられる。前記溶液には、必要に応じて上述した任意成分(成分C、成分E、その他の成分)が含まれていてもよい。前記溶液は、使用時に、必要に応じて水を用いて希釈してもよい。
本開示の研磨液キットとしては、一又は複数の実施形態において、成分A及び成分Cを含むシリカ分散液(第1a液)と、成分B、成分D及び成分Eを含む添加剤水溶液(第2a液)と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。第1a液及び第2a液には、必要に応じてその他の成分が含まれていてもよい。
本開示の研磨液キットとしては、一又は複数の実施形態において、成分A、成分C及びDを含むシリカ分散液(第1b液)と、成分Bを含む添加剤水溶液(第2b液)と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。第1b液及び第2b液には、必要に応じて成分E及びその他の成分が含まれていてもよい。
【0056】
[シリコン基板の研磨方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)を含む、シリコン基板の研磨方法(以下、[本開示の研磨方法]ともいう)に関する。本開示の研磨方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いるため、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成できる。
【0057】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、3~20kPaの研磨圧力で被研磨シリコン基板を研磨することができる。本開示において、研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコン基板の被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。
【0058】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、15℃以上40℃以下の研磨液組成物及び研磨パッド表面温度で被研磨シリコン基板を研磨することができる。研磨液組成物の温度及び研磨パッド表面温度としては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減との両立の観点から、15℃以上又は20℃以上が好ましく、40℃以下又は30℃以下が好ましい。
【0059】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)と、を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板製造方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いることで、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成できるため、高品質の半導体基板を高収率で、生産性よく製造できる。
【0060】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、単結晶シリコンインゴットを薄円板状にスライスすることにより得られた単結晶シリコン基板を平面化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピング単結晶されたシリコン基板をエッチングした後、単結晶シリコン基板表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)低減とを達成する観点から、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0061】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、上述した本開示の研磨方法における研磨工程と同様の条件(研磨圧力、研磨液組成物及び研磨パッドの表面温度等)で研磨を行うことができる。
【0062】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記研磨工程の前に、本開示の研磨液組成物の濃縮物を希釈する希釈工程を含んでいてもよい。希釈媒には、例えば、水を用いることができる。
【0063】
本開示の半導体基板製造方法における洗浄工程では、シリコン基板表面上の残留物低減の観点から、無機物洗浄を行うことが好ましい。無機物洗浄で用いる洗浄剤としては、例えば、過酸化水素、アンモニア、塩酸、硫酸、フッ酸及びオゾン水から選ばれる少なくとも1種を含む無機物洗浄剤が挙げられる。
【0064】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記洗浄工程の後に、洗浄後のシリコン基板を水でリンスし、乾燥する工程を更に含むことができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0066】
1.研磨液組成物の調製(実施例1~16及び比較例1~5)
表1に示すシリカ粒子(成分A)、表1に示すカチオン性水溶性高分子(成分B又は非成分B)、アンモニア(成分C)、表1に示すノニオン性水溶性高分子(成分D又は非成分D)、ポリエチレングリコール(成分E)及び超純水を撹拌混合して実施例1~16及び比較例1~5の研磨液組成物を得た。表1中の各成分の含有量は、研磨液組成物の使用時における各成分の含有量(質量%又は質量ppm、有効分)である。超純水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bと成分Cと成分D又は非成分Dと成分Eとを除いた残余である。各研磨液組成物(使用時)の25℃におけるpHは10.3であった。
【0067】
各研磨液組成物の調製に用いた成分A、成分B、非成分B、成分C、成分D、非成分D及び成分Eには下記のものを用いた。
(成分A)
コロイダルシリカ[平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、会合度2.0]
コロイダルシリカ[平均一次粒子径25nm、平均二次粒子径49nm、会合度2.0]
(成分B)
B1:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体[ニットーボーメディカル PAS-A-5、重量平均分子量4,000]
B2:アリルアミン(フリー)重合体[ニットーボーメディカル PAA-03、重量平均分子量3,000]
B3:アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体[ニットーボーメディカル PAA-D19A、重量平均分子量40,000]
B4:アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩共重合体[ニットーボーメディカル PAA-1112CL、重量平均分子量1,000]
B5:ジアリルアミン重合体[ニットーボーメディカル PAS-21、重量平均分子量5,000]
B6:メチルジアリルアミン塩酸塩重合体[ニットーボーメディカル PAS-M-1、重量平均分子量20,000]
B7:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体[ニットーボーメディカル PAS-H-5L、重量平均分子量30,000]
B8:ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体[ニットーボーメディカル PAS-92、重量平均分子量5,000]
(非成分B)
B9:ポリエチレンイミン[日本触媒社製、 SP-200、 重量平均分子量10,000]
(成分C)
アンモニア[28質量%アンモニア水、キシダ化学社製、試薬特級]
(成分D)
D1:ポリグリセリン[ダイセル社製の「XPW」、重合度40、重量平均分子量2,980]
D2:HEC(ヒドロキシエチルセルロース)[ダイセル社製、SE400、重量平均分子量250,000]
(非成分D)
D3:HEC(ヒドロキシエチルセルロース)[住友精化社製、CF-V、重量平均分子量800,000]
(成分E)
PEG(ポリエチレングリコール)[日油社製、PEG#1000、重量平均分子量1,000]
【0068】
2.各種パラメータの測定方法
(1)シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径の測定
成分Aの平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0069】
成分Aの比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
[前処理]
(a)スラリー状の成分Aを硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルタで濾過する。
(e)フィルタ上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルタをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルタ屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0070】
(2)シリカ粒子(成分A)の平均二次粒子径
成分Aの平均二次粒子径(nm)は、成分Aの濃度が0.25質量%となるように研磨材をイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0071】
(3)水溶性高分子(成分B、非成分B、成分D、非成分D、成分E)の重量平均分子量の測定
水溶性高分子(成分B、非成分B、成分D、非成分D、成分E)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。
<ノニオン性水溶性高分子>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
<カチオン性水溶性高分子(成分B又は非成分B)>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:α-M+α-M
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1%CH3COOH/水
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0072】
3.研磨方法等
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、下記の研磨条件で下記の被研磨シリコン基板に対して仕上げ研磨及び洗浄を行った。
<被研磨シリコン基板>
単結晶シリコン基板[直径200mmのシリコン片面鏡面基板、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満]
上記単結晶シリコン基板を市販の研磨液組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供した単結晶シリコン基板のヘイズは、2~3ppmであった。ヘイズは、KLA Tencor社製「Surfscan SP1-DLS」を用いて測定される暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値である。
【0073】
<仕上げ研磨条件>
研磨機:片面8インチ研磨機「GRIND-X SPP600s」(岡本工作製)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製、アスカー硬度:64、厚さ:1.37mm、ナップ長:450μm、開口径:60μm)
シリコン基板研磨圧力:100g/cm2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:5分
研磨液組成物の供給速度:150g/min
研磨液組成物の温度:23℃
キャリア回転速度:62rpm
【0074】
<洗浄方法>
仕上げ研磨後、シリコン基板に対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5質量%のフッ化水素アンモニウム(特級、ナカライテクス株式会社)を含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1,500rpmでシリコン基板を回転させた。
【0075】
4.評価
[研磨速度]
研磨前後の各シリコン基板の重さを精密天秤(Sartorius社製「BP-210S」)を用いて測定し、得られた重量差をシリコン基板の密度、面積及び研磨時間で除して、単位時間当たりの片面研磨速度を求めた。結果を表1に示した。なお、研磨後のシリコン基板の重さとは、上記仕上げ研磨及び洗浄を行った後のシリコン基板の重さである。
【0076】
[シリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD、LPD―N)の評価]
洗浄後のシリコン基板表面の表面粗さ(ヘイズ)の評価には、表面粗さ測定装置「Surfscan SP1-DLS」(KLA Tencor社製)を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値(DWOヘイズ)を用いた。ヘイズ(DWO)の数値は小さいほど、表面の平滑性が高いことを示す。
表面欠陥(LPD)は、ヘイズ測定時に同時に測定され、シリコン基板表面上の粒径が45nm以上のパーティクル数を測定することによって評価した。表面欠陥(LPD)の数値は小さいほど、表面欠陥が少ないことを示す。
表面欠陥(LPD―N)は、ヘイズ測定時に同時に測定され、シリコン基板表面上の粒径が80nm以上のパーティクル数を測定することによって評価した。表面欠陥(LPD―N)の数値は小さいほど、表面欠陥が少ないことを示す。
表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD、LPD―N)の測定は、各々2枚のシリコン基板に対して行い、各々平均値を求めた。結果を表1に示した。表面欠陥(LPD、LPD―N)の評価基準を下記に示す。
<表面欠陥(LPD)の評価基準>
A:表面欠陥数(LPD)が100個未満
B:表面欠陥数(LPD)が100個以上300個未満
C:表面欠陥数(LPD)が300個以上500未満
D:表面欠陥数(LPD)が500個以上
<表面欠陥(LPD―N)の評価基準>
A:表面欠陥数(LPD―N)が10個未満
B:表面欠陥数(LPD―N)が10個以上30個未満
C:表面欠陥数(LPD―N)が30個以上50未満
D:表面欠陥数(LPD―N)が50個以上
【0077】
【0078】
表1に示されるように、実施例1~16の研磨液組成物は、比較例1~5の研磨液組成物に比べて、研磨速度の向上とヘイズ低減と表面欠陥(LPD、LPD-N)とを達成できていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示の研磨液組成物を用いれば、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減とを両立できる。よって、本開示の研磨液組成物は、様々な半導体基板の製造過程で用いられる研磨液組成物として有用であり、なかでも、シリコン基板の仕上げ研磨用の研磨液組成物として有用である。