(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】使い捨ておむつ
(51)【国際特許分類】
A61F 13/494 20060101AFI20241010BHJP
A61F 13/475 20060101ALI20241010BHJP
A61F 13/532 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A61F13/494 111
A61F13/475 111
A61F13/475 112
A61F13/532 200
A61F13/532 210
(21)【出願番号】P 2020196341
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2019214437
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 昂平
(72)【発明者】
【氏名】川口 宏子
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117349(JP,A)
【文献】特開2013-081600(JP,A)
【文献】特開2019-063229(JP,A)
【文献】特開2013-005879(JP,A)
【文献】特開2012-055544(JP,A)
【文献】特開2011-167412(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123663(WO,A1)
【文献】特開2001-245927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の前後方向に対応する長手方向と前記長手方向に直交する幅方向とを有し、着用時に、着用者の腹側に配される腹側部、背側に配される背側部、及び前記腹側部と前記背側部との間に位置する股下部を有し、液透過性の表面シート及び吸収体を含む縦長の吸収性本体と、前記吸収性本体の前記長手方向の両側に前記長手方向に沿って配された一対の
第1防漏カフと
、一対の第1防漏カフそれぞれよりも前記幅方向外方に位置する一対の第2防漏カフとを有する使い捨ておむつであって、
第1防漏カフ及び第2防漏カフは、相対向する2枚の不織布を含んで構成され、前記幅方向の両端のうち、一方の端に自由端及び他方の端に固定端を有し、前記長手方向の両端近傍に前記吸収性本体に固定された端部固定部を有しており、且つ前記自由端の近傍に、前記2枚の不織布の間に接着剤を介して弾性部材が固定された自由端伸縮部を有しており、
第1防漏カフ及び第2防漏カフは、前記自由端伸縮部と前記固定端との間に、前記2枚の不織布が接合されていないズレ可能域を有しており、前記ズレ可能域は、前記2枚の不織布の対向面どうしの摩擦係数が0.275以下であり、前記長手方向に沿う長さが前記幅方向に沿う長さよりも長く、且つ前記幅方向に沿う長さが、前記自由端伸縮部の前記幅方向に沿う長さの3倍以上であり、
第1防漏カフ及び第2防漏カフは、前記使い捨ておむつの展開且つ伸長状態において、該第1防漏カフ及び該第2防漏カフを構成する前記2枚の不織布のうち、肌対向面側に位置する該不織布の肌対向面どうしの間の摩擦係数が0.275以下であり、
前記2枚の不織布それぞれの構成繊維が一体化したエンボス部を有し、一面が他面よりも起伏が大きいエンボス面となっており、前記2枚の不織布は、前記ズレ可能域において前記エンボス面どうしが相対向している、使い捨ておむつ。
【請求項2】
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、それぞれ、前記幅方向の圧縮荷重値が5cN以下である、請求項1に記載の使い捨ておむつ。
【請求項3】
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、それぞれ、そのバルクソフトネスが8cN以下である、請求項1又は2に記載の使い捨ておむつ。
【請求項4】
第1防漏カフ及び第2防漏カフは、1kPa圧縮時の変形量が1mm以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の使い捨ておむつ。
【請求項5】
前記吸収性本体は、着用状態において、前記長手方向に沿う側部領域が起立するようになされている、請求項1~4の何れか1項に記載の使い捨ておむつ。
【請求項6】
前記吸収体は、吸収性コアを有し、少なくとも股下部における前記吸収性コアの両側縁
それぞれから離間した内方位置に、長手方向に延びる一対のスリット又は低坪量部からなる可撓部を有しており、前記側部領域は、前記吸収性本体における前記可撓部から幅方向外方に位置する部分である、請求項5に記載の使い捨ておむつ。
【請求項7】
第1防漏カフ及び第2防漏カフの前記不織布と前記表面シートとの間の摩擦係数が0.275以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の使い捨ておむつ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にパンツ型使い捨ておむつにおいては排泄物の漏れを防止する目的で、吸収体の長手方向に沿う両側部に防漏カフが設けられている。例えば特許文献1には、その防漏カフを自由端近傍に配した弾性部材を収縮させて立ち上がらせるようにした吸収性物品が記載されており、またその防漏カフの自由端側に柔軟化エンボス加工を施すことが開示されている。
【0003】
また本出願人は、内部が空洞となっている防漏壁を有する吸収性物品を開示した(特許文献2)。特許文献2に記載の吸収性物品によれば、防漏壁の起立安定性が高く、高い漏れ防止性を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-023782号公報
【文献】特開2009-207599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
着用状態において着用者が身体を動かすと、肌と防漏カフとが擦れ、その結果、肌にあかみ等の肌トラブルを引き起こす場合がある。特許文献1に記載の防漏カフは、先端側に柔軟化エンボス加工が施されているものの、防漏カフにより着用者の肌が擦られることを防止することができず、肌トラブルを引き起こす虞がある。特許文献2に記載の防漏壁は内部を空洞にするため構造が複雑である。また特許文献2に記載の吸収性物品は、自由端に弾性部材が配された防漏カフと肌との間の擦れを防止する点について特段の検討はなされていなかった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、防漏カフにより着用者の肌が擦られることを防止し、結果として肌トラブルの発生を抑制できる使い捨ておむつを提供することに関する。
【0007】
本発明は、着用者の前後方向に対応する長手方向と前記長手方向に直交する幅方向とを有し、着用時に、着用者の腹側に配される腹側部、背側に配される背側部、及び前記腹側部と前記背側部との間に位置する股下部を有し、液透過性の表面シート及び吸収体を含む縦長の吸収性本体と、前記吸収性本体の前記長手方向の両側に前記長手方向に沿って配された一対の防漏カフとを有する使い捨ておむつに関する。
前記防漏カフは、相対向する2枚の不織布を含んで構成され、前記幅方向の両端のうち、一方の端に自由端及び他方の端に固定端を有し、前記長手方向の両端近傍に前記吸収性本体に固定された端部固定部を有しており、且つ前記自由端の近傍に、前記2枚の不織布の間に接着剤を介して弾性部材が固定された自由端伸縮部を有していることが好ましい。
前記自由端伸縮部と前記固定端との間に、前記2枚の不織布が接合されていないズレ可能域を有しており、前記ズレ可能域は、前記2枚の不織布の対向面どうしの摩擦係数が0.275以下であり、前記長手方向に沿う長さが前記幅方向に沿う長さよりも長く、且つ前記幅方向に沿う長さが、前記自由端伸縮部の前記幅方向に沿う長さの3倍以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の使い捨ておむつによれば、防漏カフにより着用者の肌が擦られることを防止し、結果として肌トラブルの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の使い捨ておむつの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すおむつを展開し且つ最大に伸長させた伸長状態における肌対向面側(内面側)を模式的に示す展開平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すIII-III線断面を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す防漏カフの断面を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2には、本発明の一実施形態であるパンツ型使い捨ておむつ1が示されている。
図1及び
図2に示すように、おむつ1は、その着用時に着用者の腹側に配される腹側部Fと、着用者の背側に配される背側部Rと、それらの間に位置する股下部Mと有する。腹側部F及び背側部Rは、環状に連結されており、おむつ1の着用時に着用者の胴周りに配される胴周り部を形成している。おむつ1は、着用者の前後方向、即ち腹側部Fから股下部Mを介して背側部Rに延びる方向に対応する長手方向Xと、これに直交する幅方向Yとを有している。おむつ1は、吸収性本体2と、吸収性本体2の非肌対向面側に配された外装体3とを備えている。
【0011】
本明細書において、「肌対向面」は、使い捨ておむつ又はその構成部材(例えば吸収性本体)に着目したときに、おむつの着用時に着用者の肌側に向けられる面、即ち相対的に着用者の肌に近い側に位置する面であり、「非肌対向面」は、使い捨ておむつ又はその構成部材における、使い捨ておむつの着用時に肌側とは反対側に向けられる面、即ち相対的に着用者の肌から遠い側に位置する面である。尚、ここでいう「着用時」は、通常の適正な着用状態、即ち当該使い捨ておむつの正しい着用状態が維持されている状態を意味する。
【0012】
おむつ1は、外装体3における腹側部Fの両側部と背側部Rの両側部とが、接着剤、ヒートシール、超音波シール等の接合手段によって互いに接合されている。
図1に示すように、おむつ1はパンツ型使い捨ておむつである。おむつ1には、一対のサイドシール部S,S、着用者の胴が通されるウエスト開口部WH、及び着用者の下肢が通される一対のレッグ開口部LH,LHが形成されている。
【0013】
腹側部F、背側部R及び股下部Mは、
図2に示すように、おむつ1の展開且つ伸長状態において、おむつ1をその長手方向Xの全長を3等分して3領域としたときの各領域である。
図2に示す状態のおむつ1において、吸収性本体2は長手方向Xに長い略長方形形状である。吸収性本体2は外装体3における腹側部Fから背側部Rまでの領域に配されている。おむつ1のようにパンツ型使い捨ておむつにおける「展開且つ伸長状態」とは、おむつ1をサイドシール部Sで切り離して展開状態とし、その展開状態のおむつ1を各部の弾性部材を伸長させて設計寸法(弾性部材の影響を一切排除した状態で平面状に広げたときの寸法と同じ)となるまで拡げた状態をいう。おむつが展開型の使い捨ておむつである場合には、各部の弾性部材を伸長させて設計寸法となるまでおむつを拡げた状態をいう。吸収性本体2は、外装体3における幅方向Yの中央部に配置されている。吸収性本体2は、接着剤等の接合手段によって外装体3に接合されている。
【0014】
吸収性本体2は、
図2に示すように、液保持性の吸収体4と、おむつ1の肌対向面を形成する液透過性の表面シート5とを備えている。
図3に示すように、表面シート5は、吸収体4の全域を覆い、吸収体4の長手方向Xの側縁から外方に延出している。吸収体4と表面シート5とは、接着剤等の公知の接合手段によって接合されている。吸収体4は、吸収性本体2と同様に、おむつ1の長手方向Xに長い形状を有している。
【0015】
吸収体4は、
図2及び
図3に示すように、吸収性コア40と、吸収性コア40を被覆するコアラップシート41とを具備する。吸収性コア40は、繊維集合体又はこれに吸水性ポリマーを保持させたものからなる。コアラップシート41は、ティッシュペーパーや透水性の不織布からなる。コアラップシート41は、好ましくは、吸収性コア40の肌対向面側及び非肌対向面側の全体を被覆している。
【0016】
吸収性コア40は、
図3に示すように、単層となっている。吸収性コア40は、幅方向Yの内方に可撓部を備えていてもよいし、備えていなくてもよい。可撓部としては、吸収性コア40を貫通するスリット又は坪量の低い低坪量部等が挙げられる。可撓部を備えていると、着用状態において、該可撓部を軸として、吸収性本体2の長手方向Xに沿う側部領域43が立ち上がり易くなり、尿等の排泄物が幅方向Y外方へ流出することを阻止できる。
図3に示す実施形態では、可撓部として、長手方向Xに延びる一対のスリット44,44を有している。スリット44は、少なくとも股下部Mにおける吸収性コア40の長手方向Xに沿う両側縁それぞれから離間した内方位置に配されている。吸収性本体2の側部領域43は吸収性本体2におけるスリット44対応位置から幅方向Y外方に位置する部分である。側部領域43を起立させ易くする観点から、側部領域43の坪量は、一対のスリット44,44どうしで挟まれた中央領域42の坪量よりも小さいことが好ましい。スリット44の代わりに低坪量部を備えるときには、該低坪量部の坪量は、好ましくは0g/m
2以上300g/m
2以下、より好ましくは0g/m
2超300g/m
2以下、更に好ましくは80g/m
2以上120g/m
2以下である。なお吸収性コア40は多層となっていてもよい。
【0017】
吸収性本体2は、
図3に示すように、その非肌対向面側が、樹脂フィルムからなる液不透過性の防漏シート7によって覆われている。防漏シート7に関し液不透過性とは、液難透過性も含む概念である。防漏シート7は、吸収体4の非肌対向面の全域を覆うように配されている。外装体3の肌対向面側には、防漏シート7、防漏カフ6を構成する不織布60及び吸収性本体2が、ホットメルト型接着剤等の接着剤によって順次接合されている。
【0018】
おむつ1の外装体3は、
図3に示すように、2枚の外装体形成用シート31,32と、これら2枚のシート間に伸長状態で固定された各部の弾性部材とからなる。2枚の外装体形成用シート31,32の間には、
図2に示すように、ウエスト開口部WHの周縁部にウエストギャザーを形成するウエスト部弾性部材33,レッグ開口部LHの周縁部にレッグギャザーを形成するレッグ部弾性部材34,及び胴回り部に胴回りギャザーを形成する胴回り弾性部材35が配されている。該胴回り部とは、ウエスト開口部WHの周縁端から下方に20mm離間した位置からレッグ開口部LHの上端までの領域のことである。弾性部材33,34,35は、それぞれ伸長状態で、ホットメルト型接着剤等の任意の接合手段によりシート31,32間に接合固定されている。
【0019】
図2に示すように、吸収性本体2には、肌対向面における長手方向Xに沿う両側部に、一対の防漏カフ6,6が設けられている。防漏カフ6は、相対向する2枚の不織布60,60を含んで構成されている。2枚の不織布は、別々の不織布であってもよく、1枚の不織布を折り返したものであってもよい。
図3に示す実施形態においては、防漏カフ6は、1枚の不織布60を幅方向Yに折り返し、2枚の不織布60,60を相対向するように配して構成されている。
【0020】
図3に示す防漏カフ6について説明する。本実施形態のおむつ1は、防漏カフ6として、一対の第1防漏カフ6A,6Aと、一対の第1防漏カフ6A,6Aそれぞれよりも幅方向Yの外方に位置する一対の第2防漏カフ6B,6Bとを有している。不織布60は、吸収体4の上方で幅方向Yに折り返されており、吸収体4の長手方向Xに沿う側縁から外方に位置する部分で幅方向Yに折り返されている。このように折られた不織布60は、表面シート5又は防漏シート7に接合されている。この接合によって形成された接合部68は、長手方向Xに沿って延びている。接合部68は、吸収体4の長手方向Xに沿う側縁に沿って配され、該側縁よりも外方に配されている。第1防漏カフ6Aは、不織布60における吸収体4の上方で折り返された部分で形成され、且つ、接合部68よりも幅方向Yの内方側に形成されている。一方、第2防漏カフ6Bは、不織布60における吸収体4の側縁から外方で折り返された部分で形成され、且つ、接合部68よりも幅方向Yの外方側に形成されている。接合部68の形成には、ヒートシール、超音波シール、ホットメルト型の接着剤等の公知の接合方法を用いることができる。
【0021】
第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bは、それぞれ、幅方向Yの両端に自由端61と固定端62とを有している。自由端61の近傍には、2枚の不織布60,60の間に一本以上の弾性部材63が接着剤により固定されている。弾性部材63が長手方向Xに伸長状態で固定されていることに起因して、防漏カフ6A,6Bは自由端61の近傍、すなわち自由端61から弾性部材63が接着剤により固定されている範囲に亘る部分に自由端伸縮部64を共に有するようになる。
図3に示すように、接合部68のうち、最も自由端61側の位置が固定端62となる。第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの固定端62は、何れも、吸収体4の側縁から幅方向Yの外方に形成されており、吸収性本体2の側縁2sに沿って延びている。
【0022】
自由端伸縮部64の長手方向Xへの伸縮性の観点から、自由端伸縮部64に配されている弾性部材63の本数が2本以上であることが好ましい。同様の観点から、弾性部材63は、その太さが、300dtex以上であることが好ましく、700dtex以上であることが更に好ましく、そして900dtex以下であることが好ましく、800dtex以下であることが更に好ましい。
【0023】
図2に示すように、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bは、それぞれ、長手方向Xの両端近傍、すなわち腹側部Fまたは背側部Rに、吸収性本体2上に固定された端部固定部65,65を有している。腹側部Fの端部及び背側部Rの端部において、第1防漏カフ6Aの端部固定部65は、表面シート5における吸収体4に重なる部分に形成される。第2防漏カフ6Bの端部固定部65は、防漏シート7における吸収体4の側縁から外方に位置する部分に形成される。防漏カフ6A,6Bは、伸長状態で配された弾性部材63がおむつ1の着用時に収縮することによって少なくとも股下部Mで起立するようになされている。防漏カフ6A,6Bが起立すれば尿等の排泄物が幅方向Y外方へ流出することを阻止できる。
【0024】
第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bは、それぞれ、
図3に示すように、自由端伸縮部64と固定端62との間に、2枚の不織布60,60間が接合されていないズレ可能域66を有している。ズレ可能域66は、自由端伸縮部64における幅方向Yの内方端と、固定端62とで挟まれる領域である。該内方端とは、自由端伸縮部64を構成する弾性部材63を固定している接着剤の位置であり、自由端61から固定端62に向かって延在し且つ弾性部材63を固定している接着剤の塗工部のうち、最も固定端62に近い位置である。該内方端が判断できないときには、自由端伸縮部64を構成する弾性部材63と、固定端62とで挟まれる領域である。ズレ可能域66は、長手方向Xに沿う長さが幅方向Yに沿う長さよりも長く形成されている。ズレ可能域66は腹側部Fと背側部Rとの間に亘って延びている。
【0025】
ズレ可能域66を構成する2枚の不織布60,60は、対向面となる内面どうしを接触させ且つせん断力を加えたときの摩擦係数が0.275以下となっている。ズレ可能域66の2枚の不織布60,60における対向面どうしの摩擦係数は、以下の方法で測定される。
【0026】
〔ズレ可能域の2枚の不織布における対向面どうしの摩擦係数の測定法〕
先ず製品から該当する部位の不織布を切り出す。具体的には防漏カフ6からズレ可能域66に該当する部位を構成する2枚の不織布60,60を切り出す。この時、ズレ可能域にホットメルト等の付着が無いことを確認する。次に、切り出した2枚の不織布のうち、一方の不織布を皺が無いように伸ばして、凹凸のない水平な板に張り付ける。そして他方の不織布を摩擦測定用のジグの接触面に張り付ける。接触面は、防漏カフ6の幅方向Yに10mm×防漏カフ6の長手方向Xに20mmのサイズとする。ズレ可能域66を構成していた2枚の不織布60,60の対向面どうしが対向するように、水平な板に張り付けた一方の不織布の上に、ジグに張り付けた他方の不織布を重ねて設置する。上記の寸法である幅方向Y10mm×長手方向X20mmに切り出すことが難しい場合は、所定の大きさに変更して切り出してもよい。次に、他方の不織布を張り付けたジグに1.96Nの垂直抗力(N)をかけた状態で、防漏カフの長手方向Xに沿って300~400mm/minの速度でジグを20mm移動させ、その際の最大の荷重を摩擦力(F)として求める。そして、不織布どうしの摩擦係数=摩擦力(F)/垂直抗力(N)として摩擦係数を算出する。摩擦力(F)の測定には、アイコーエンジニアリング株式会社製のRZ-1シリーズなどのフォースゲージを使用する。異なる部分でN=15測定し、平均した値を不織布どうしの摩擦係数とする。
【0027】
展開且つ伸長状態において、
図3に示すように、一対の第1防漏カフ6A,6Aそれぞれにおけるズレ可能域66の幅方向Yに沿う長さL1は、自由端伸縮部64の幅方向Yに沿う長さL2の3倍以上となっている。同様に、一対の第2防漏カフ6B,6Bそれぞれについても、そのズレ可能域66の長さL1が自由端伸縮部64の長さL2の3倍以上となっている。長さL1,L2とは、おむつ1が第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bを備えているときには、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの何れか一方において、長さL1が長さL2の3倍以上であるとの条件を満たすことが好ましく、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの平均値において、長さL1が長さL2の3倍以上であるとの条件を満たすことが更に好ましい。
【0028】
本実施形態のおむつ1によれば、2枚の不織布どうし60,60の対向面どうしの摩擦係数が0.275以下であるズレ可能域66を有する防漏カフ6を備えているので、着用状態において着用者が身体を動かし、防漏カフ6に接触した状態で肌と防漏カフ6との間の相対位置にずれが生じたときに、肌と防漏カフ6との間は接触状態を維持しつつ、ズレ可能域66において相対向する不織布60,60間がずれ易い。しかもズレ可能域66の幅方向Yの長さL1が、自由端伸縮部64の長さL2に対して3倍以上あることから、肌に追従して、防漏カフ6はその幅方向Yの広い範囲において、相対向する不織布60,60間がずれ易く、ズレ可能域66の肌に当接する面が幅方向Yへ十分に動き易くなっている。更にズレ可能域66の長手方向Xの長さが、幅方向Yの長さL1よりも長いことから、肌に追従して、ズレ可能域66が長手方向Xの広い範囲において幅方向Yに動き易くなっている。その結果、防漏カフ6により着用者の肌が擦られることを防止し、肌に対してあかみ等の肌トラブルの発生を抑制できる。
【0029】
本実施形態のおむつ1においては、吸収性コア40は、
図3に示すように、可撓部となる一対のスリット44,44を有しているので、着用状態において、スリット44を起点に吸収性本体2の側部領域43が変形し易い。着用状態においては、防漏カフ6のズレ可能域66において不織布60,60間がずれ易く、それに加えて、スリット44を起点に側部領域43がずれて変形し易いので、防漏カフ6による肌の擦れを一層防ぐことができる。
【0030】
防漏カフ6によって着用者の肌が擦られることを防止する観点から、ズレ可能域66は、少なくとも股下部Mに存在することが好ましく、より好ましくは股下部Mから背側部Rに亘って存在することが好ましく、更に好ましくは腹側部Fから背側部Rに亘って存在することが好ましい。
【0031】
着用状態におけるズレ可能域66の肌への追従性を良好とし、防漏カフ6により肌が擦られることを防止する観点から、ズレ可能域66の2枚の不織布60,60における対向面どうしの摩擦係数は、0.275以下であることが好ましく、0.260以下であることが更に好ましい。前記の摩擦係数の下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、0.220以上であれば、ズレ可能域66に十分な肌追従性を付与できる。
【0032】
着用状態におけるズレ可能域66の肌への追従性を良好とし、防漏カフ6により肌が擦られることを防止する観点から、自由端伸縮部64の長さL2に対する、ズレ可能域66の長さL1は、3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることが更に好ましく、また10倍以下であることが好ましく、8倍以下であることが更に好ましく、そして3倍以上10倍以下であることが好ましく、5倍以上8倍以下であることが更に好ましい。おむつ1が第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bを備えているときには、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの何れか一方において、長さL1及び長さL2の前記の条件を満たすことが好ましく、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの平均値において、長さL1及び長さL2の前記の条件を満たすことが更に好ましい。第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bについて、それぞれ詳述すると、第1防漏カフ6Aにおける自由端伸縮部64の幅方向Yに沿う長さに対する、第1防漏カフ6Aにおけるズレ可能域66の幅方向Yに沿う長さは、3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることが更に好ましく、また10倍以下であることが好ましく、8倍以下であることが更に好ましく、そして3倍以上10倍以下であることが好ましく、5倍以上8倍以下であることが更に好ましい。第2防漏カフ6Bにおける自由端伸縮部64の幅方向Yに沿う長さに対する、第2防漏カフ6Bにおけるズレ可能域66の幅方向Yに沿う長さは、2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることが更に好ましく、また12倍以下であることが好ましく、10倍以下であることが更に好ましく、そして2倍以上12倍以下であることが好ましく、3倍以上10倍以下であることが更に好ましい。
【0033】
第1防漏カフ6Aにおけるズレ可能域66の幅方向Yに沿う長さは、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることが更に好ましく、また35mm以下であることが好ましく、30mm以下であることが更に好ましい。第2防漏カフ6Bにおけるズレ可能域66の幅方向Yに沿う長さは、20mm以上であることが好ましく、30mm以上であることが更に好ましく、また50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることが更に好ましい。
第1防漏カフ6Aにおける自由端伸縮部64の幅方向Yに沿う長さは、2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることが更に好ましく、また15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることが更に好ましい。第2防漏カフ6Bにおける自由端伸縮部64の幅方向Yに沿う長さは、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることが更に好ましく、また20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることが更に好ましい。
【0034】
図3に示す実施形態では、ズレ可能域66を有する防漏カフ6が、第1防漏カフ6Aと第2防漏カフ6Bとの2つを備えているので、肌に追従して、ズレ可能域66が幅方向Yへ更に十分に動き易くなっている。その結果、防漏カフ6により着用者の肌が擦られることを更に防止し、肌に対してあかみ等の肌トラブルの発生を更に抑制できる。
【0035】
第1防漏カフ6Aと第2防漏カフ6Bとの間のずれ易さをより向上させる観点からは、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの互いに近い面どうしの摩擦係数が、0.275以下となっていることが好ましく、0.260以下であることが更に好ましい。前記の摩擦係数の下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、0.220以上であれば、第1防漏カフ6Aと第2防漏カフ6Bとの間でのずれを十分に発生させることができる。互いに近い面とは、
図3に示す展開且つ伸長状態において、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bを構成する2枚の不織布60,60のうち、肌対向面側に位置する不織布60の肌対向面である。第1防漏カフ6Aと第2防漏カフ6Bとの間の摩擦係数は、上述したズレ可能域66の2枚の不織布60,60における対向面どうしの摩擦係数の測定法と同様の方法で測定される。
【0036】
ズレ可能域66が長手方向Xへ十分に動き易くなる観点から、展開且つ伸長状態において、幅方向Yに沿う長さL1(
図3参照)に対する、長手方向Xに沿う長さL3(
図2参照)は、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましく、また50倍以下であることが好ましく、20倍以下であることが更に好ましく、そして5倍以上50倍以下であることが好ましく、10倍以上20倍以下であることが更に好ましい。
同様な観点から、展開且つ伸長状態において、
図2に示すように、防漏カフ6の長手方向Xに沿う長さL4(
図3参照)に対して、ズレ可能域66の長手方向Xに沿う長さL3(
図2参照)は、60%以上であることが好ましく、75%以上であることが更に好ましく、また95%以下であることが好ましく、85%以下であることが更に好ましい。
ズレ可能域66の長さL3は、200mm以上であることが好ましく、280mm以上であることが更に好ましく、また500mm以下であることが好ましく、360mm以下であることが更に好ましい。
防漏カフ6の長さL4は、240mm以上であることが好ましく、330mm以上であることが更に好ましく、また600mm以下であることが好ましく、500mm以下であることが更に好ましい。
【0037】
肌に追従してズレ可能域66のずれ易さをより向上させる観点から、2枚の不織布どうし60,60は、ズレ可能域66において相対向する内面それぞれの摩擦係数の平均偏差(MMD)が、0.012以下であることが好ましく、0.01以下であることが更に好ましく、0.008以下であることが更に好ましい。平均偏差MMDの下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、0.003以上であれば、防漏カフ6のズレ可能域66に肌への追従性能を付与できる。
【0038】
摩擦係数の平均偏差MMDは、以下の書籍に記載の方法に従い、カトーテック株式会社製のKESFB4-AUTO-A(商品名)を用いて以下の方法で測定される。
川端季雄著、「風合い評価の標準化と解析」、第2版、社団法人日本繊維機会学会風合い計量と規格化研究委員会、昭和55年7月10日発行
【0039】
〔摩擦係数の平均偏差MMDの測定法〕
防漏カフのズレ可能域を構成している不織布、又は防漏カフに使用した不織布から20cm×20cmの試験片を取り出す。このサイズの試験片が取り出せないときには、適宜試験片のサイズを変更してもよい。試験片を、平滑な金属平面の試験台に取りつける。その際、接触子に接触させる面がズレ可能域の不織布の内面となるように取り付ける。接触子を49cNの力で接触面を試験片に圧着し、試験片を0.1cm/secの一定速度で水平に2cm移動させる。試験片には7.3cN/cmの一軸張力が与えられる。接触子は、表面粗さの測定に用いた接触子と同じ0.5mm径のピアノ線を20本並べ幅10mmでU字状に曲げたものである。接触子は、重錘によって49cNの力で接触面を試験片に圧着させている。摩擦係数の平均偏差の測定値はMMD値で表される。この測定をMD方向及びCD方向ともに行いMMDMD及びMMDCDを求め、下記式(1)から平均値を出し、これを摩擦係数の平均偏差MMDとする。本測定におけるMD方向は、長手方向X及び幅方向Yの何れか一方の方向であり、CD方向は該MD方向に直交する方向である。MD方向、CD方向どちらか片方しかサンプルの試験片が取り出せない場合は、片方のみの値を表面粗の平均偏差MMDとする。
摩擦係数の平均偏差MMD
={(MMDMD
2+MMDCD
2)/2}1/2・・・(1)
【0040】
ズレ可能域66の不織布60の外面を肌に密着させ易くするとともに、ズレ可能域66の内面どうしのずれ易さをより向上させる観点からは、不織布60における外面の摩擦係数の平均偏差MMDが、内面の摩擦係数の平均偏差MMDよりも大きいことが好ましい。前記外面の摩擦係数の平均偏差MMDは、内面の摩擦係数の平均偏差MMDに対して、1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましく、また3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることが更に好ましい。外面の摩擦係数の平均偏差MMDは、0.012より小さいことが好ましく、0.010以下であることが更に好ましく、また0.005以上であることが更に好ましい。外面の摩擦係数の平均偏差MMDは、上述した摩擦係数の平均偏差MMDの測定法と同様にして測定する。なお試験片を試験台に取りつける際、接触子に接触させる面がズレ可能域の不織布の外面となるように取り付けることに留意する。
【0041】
防漏カフ6と表面シート5との間のずれ易さをより向上させ、その結果、防漏カフ6により着用者の肌が擦られることを防止する観点からは、防漏カフ6の不織布60と表面シート5とが相対向する面それぞれの摩擦係数の平均偏差MMDが、0.012以下であることが好ましく、0.010以下であることが更に好ましい。平均偏差MMDの下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、0.005以上であれば、着用者の肌と防漏カフ6とが十分に擦れ難くなる。なお、不織布60における表面シート5と相対向する面とは、不織布60の外面のことである。不織布60及び表面シート5の対向面における摩擦係数の平均偏差MMDは、上述した摩擦係数の平均偏差MMDの測定法と同様にして測定する。なお試験片を試験台に取りつける際、接触子に接触させる面が前記対向面となるように取り付けることに留意する。
【0042】
防漏カフ6と表面シート5との間のずれ易さをより向上させる観点からは、防漏カフ6の不織布60と表面シート5との間の摩擦係数が、0.275以下となっていることが好ましく、0.260以下であることが更に好ましい。前記の摩擦係数の下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、0.220以上であれば、防漏カフ6と表面シート5との間でのずれを十分に発生させることができる。防漏カフ6の不織布60と表面シート5との間の摩擦係数は、上述したズレ可能域66の2枚の不織布60,60における対向面どうしの摩擦係数の測定法と同様の方法で測定される。
【0043】
ズレ可能域66の2枚の不織布60,60は、それぞれ、着用状態におけるズレ可能域66の肌への追従性を良好となる観点から、柔軟性の高い不織布を用いて形成されている。防漏カフ6の不織布60の柔軟性は圧縮荷重値で評価することができる。防漏カフ6の各不織布60におけるおむつ幅方向Yの圧縮荷重値は、5cN以下であることが好ましく、4cN以下であることが更に好ましい。圧縮荷重値の下限値は0cNに近ければ近いほど好ましいが、1cN以上であれば、防漏カフ6に十分な柔らかさを付与できる。不織布60のおむつ幅方向Yの圧縮荷重値は以下の方法で測定される。
【0044】
〔圧縮荷重値の測定法〕
吸収性本体2から防漏カフ6を切り取る。
ズレ可能域66において、吸収性本体2の長手方向Xに沿って80mm×幅方向Yにそって20mmの矩形状に1枚の不織布60を切り出す。この不織布を長手方向X中央部において幅方向Yに沿った線で折り畳み、更にその長手方向X中央部において幅方向Yに沿った線で折り畳み4重の測定片とする。測定片はしわを伸ばし、折りたたんだ状態の非接合部側をクリップなどにより挟むことで、端部をそろえる。
得られた4重の測定片(サンプル幅;20mm)を、圧縮試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ圧縮試験機「AG-X」)の下側のチャックに、幅方向を縦にして該縦の端部の5mmがチャック上部からはみ出るように挟み、圧縮試験機の上側に取り付けた直径30mm以上の円形圧縮プレートで、10mm/分の速度で圧縮したときに示す最大荷重を測定する。
なお、測定片の幅方向長さは、チャック上部から5mmはみ出るように試験機のチャックに挟むことができれば20mmに満たなくてもよい。
5つのサンプルについて同様の測定を行い、それらの平均値を1枚の不織布60の圧縮荷重値とする。
【0045】
防漏カフ6は、圧縮荷重値が5cN以下の2枚の不織布60,60を相対向するように配して構成されていることが好ましい。2枚の不織布は、圧縮荷重値の条件を満たす別々の不織布であってもよく、圧縮荷重値の条件を満たす1枚の不織布を二つ折りしたものであってもよい。
図2に示す実施形態においては、防漏カフ6は、1枚の不織布60を二つ折りし、2枚の不織布60,60を相対向するように配して構成されている。
【0046】
ズレ可能域66の2枚の不織布60,60は、それぞれ、そのバルクソフトネスが、8cN以下であることが好ましく、5cN以下であることが更に好ましい。このような不織布60で防漏カフ6が形成されていると、弾性部材63の収縮によって防漏カフ6が起立するときに、2枚の不織布60,60に細かな皺ができ易くなる。その結果、2枚の不織布60,60どうしが離れ易くなり、肌に追従してズレ可能域66がよりずれ易くなる。不織布60のバルクソフトネスの下限値は0に近ければ近いほど好ましいが、3cN以上であれば、2枚の不織布60,60どうしが十分に離れ易くなる。不織布60のバルクソフトネスは、以下の方法で測定される。
【0047】
〔バルクソフトネスの測定法〕
22℃65%RH環境下にて、防漏カフ6の不織布60から、その構成繊維の配向方向に沿うCD方向に150mm、CD方向に直交するMD方向に30mm切り出し、これを測定片とする。この測定片を、直径45mmのリング状になるように、ホッチキスを用いて端部を上下2箇所で止める。このときステープラーの芯はCD方向に長くなるようにする。次いで、引張試験機(例えば、オリエンテック社製テンシロン引張り試験機「RTA-100」)を用いて、試料台の上に前記リング状の測定片を筒状に立て、上方から台とほぼ平行な平板にて圧縮速度10mm/分の速度で圧縮していった際の最大荷重を測定する。この測定を、不織布60から切り出した任意の3箇所について行い、これらの平均値をバルクソフトネスとする。
【0048】
防漏カフ6は、肌触りが良好となるとともに、肌と防漏カフ6との当接に起因するカフの跡が肌に付き難くなる観点から、防漏カフ6の1kPa圧縮時の変形量は、好ましくは1mm以上、更に好ましくは1.1mm以上である。1kPa圧縮時の変形量は下記方法によって測定される。
【0049】
〔1kPa圧縮時の変形量の測定法〕
防漏カフ6をおむつ1から取り出し、防漏カフ6を伸長させた状態で自由端61から5mm幅で長手方向Xの長さ120mmの試験片を、自由端伸縮部64を含むように切り出し、該試験片を長手方向Xに70mmに伸長させた状態で測定装置の試験台に取り付ける。この時、防漏カフ6の弾性部材63が試験台の中央に位置するように配置する。測定装置としては、KES圧縮試験機(カトーテック株式会社製、KESFB3-AUTO-A)を用いて試験片(自由端伸縮部)を下記条件で圧縮し、その際の応力-ひずみから1kPa圧縮時の変形量を求める。
圧縮速度:0.02mm/s
圧縮子:2cm2円形板
【0050】
着用状態において肌が表面シート5に触れ難くなり、肌に追従してズレ可能域66のずれ易さをより向上させる観点から、
図3に示すように、展開且つ伸長状態において、一対の第1防漏カフ6A,6Aの自由端61,61間の幅方向Yに沿う距離L5に対して、一対の第1防漏カフ6A,6Aそれぞれの自由端伸縮部64,64の厚みL6が、0.4%以上であることが好ましく、0.5%以上であることが更に好ましく、また5.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが更に好ましい。自由端伸縮部64の厚みL6は、防漏カフを幅方向Yの向きに鋭利な刃物を用いて切断した断面をデジタルマイクロスコープ(Keyence製)を用いて測定する。
【0051】
肌に追従してズレ可能域66のずれ易さをより向上させる観点から、自由端伸縮部64の厚みL6は、0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることが更に好ましく、また2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることが更に好ましい。
同様な観点から、一対の第1防漏カフ6A,6Aの自由端61,61どうしの間隔である距離L5は、40mm以上であることが好ましく、50mm以上であることが更に好ましく、また150mm以下であることが好ましく、80mm以下であることが更に好ましい。
【0052】
図3に示すように、吸収体4がスリット44を有しているときには、肌に追従してズレ可能域66のずれ易さをより向上させる観点から、展開且つ伸長状態において、第1防漏カフ6Aの自由端伸縮部64は、スリット44よりも幅方向Yの
外方側に位置していることが好ましい。また第1防漏カフ6Aのズレ可能域66と、吸収性本体2の側部領域43とは、厚み方向に重なっていることが好ましい。
【0053】
ズレ可能域66における不織布60,60間のずれ易さをより向上させる観点から、
図4に示すように、2枚の不織布60,60としては、構成繊維が一体化したエンボス部80が、平面方向に相互に離間した状態に形成されたものを好ましく用いることができる。前記のずれ易さをより向上させる観点から、構成繊維の主成分がプロピレンランダムコポリマーからなる不織布を好ましく用いることができる。これらの要件を満たす不織布60としては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、又はスパンボンド層とメルトブローン層との積層不織布等が挙げられる。不織布60には、前記のずれ易さをより向上させる目的で、界面活性剤等の滑剤が添加されていてもよい。
【0054】
2枚の不織布60,60を相対向するように配して防漏カフ6を形成するとき、これら不織布60,60間のずれ易さをより向上させる観点から、
図4に示すように、2枚の不織布60,60においては、一面6fが他面6nよりも起伏が大きいエンボス面となっており、ズレ可能域66においてエンボス面である一面6fどうしが相対向していることが好ましい。即ち、一面6fのエンボス部80による凹部91の方が他面6nよりも深くなっていることが好ましい。凹部91とは、エンボス部80を底とする窪みのことである。
【0055】
上記と同様の観点から、不織布60は、一面の表面積に占める複数のエンボス部80の面積を合計した合計面積の割合であるエンボス部80の面積率が、18%以下であることが好ましく、15%以下であることが更に好ましい。該合計面積の割合の下限値としては、低ければ低いほど好ましいが、8%以上であれば、不織布60,60間のずれ易さをより向上させることができる。
【0056】
不織布60に形成されたエンボス部80の1個当たりの面積は、好ましくは0.1mm2以上、更に好ましくは0.3mm2以上、そして、好ましくは0.7mm2以下、更に好ましくは0.5mm2以下である。
【0057】
不織布60の複数のエンボス部80のうち、1つのエンボス部80と、該エンボス部80に最も近い位置にある別のエンボス部80との間の最短距離が、好ましくは0.8mm以上、更に好ましくは1.0mm以上、そして、好ましくは3.0mm以下、更に好ましくは2.0mm以下である。
【0058】
着用状態においてズレ可能域66が肌の動きに追随して動き易くなる観点からは、2枚の不織布60,60は、不織布どうしが相対向する内面が起毛されていることが好ましい。起毛した不織布としては、特開2012-092475号公報に記載のものや、特開2014-139357号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0059】
本実施形態のおむつ1の各部を構成する材料としては、当該技術分野において通常用いられているものを特に制限無く用いることができる。例えば、表面シート5としては、各種の不織布や開孔フィルム等を用いることができる。防漏シート7としては、例えば液難透過性のフィルムやスパンボンド・メルトブローン・スパンボンドの積層不織布などが挙げられる。各弾性部材としては、糸ゴム等を用いることができる。外装体形成用シート31,32としては、各種不織布を用いることができる。
【0060】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されず適宜変更可能である。例えば
図1に示す実施形態は、腹側部F、股下部M及び背側部Rに亘る外装体3を有するパンツ型使い捨ておむつ1に係るものであったが、それに代えて、本発明は、外装体が着用者の背側に配される背側シート部材と腹側に配される腹側シート部材とに分割されており、背側シート部材と腹側シート部材とが一対のサイドシール部で接合されて筒状をなしているとともに、吸収性本体が、背側シート部材と腹側シート部材との間に架け渡して固定されている外装体分割タイプのパンツ型使い捨ておむつであってもよい。また本発明は、パンツ型使い捨ておむつではなく、展開型の使い捨ておむつであってもよい。
【0061】
図3に示すおむつ1の防漏カフ6は、表面シート5との接合部68が吸収体4の長手方向Xに沿う側縁から外方に配されている。その結果、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの固定端62は、何れも、吸収体4の側縁から外方に形成されているが、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの固定端62が吸収体4の側縁から内方に形成されていてもよい。このような形態であったとしても、着用状態において着用者が身体を動かすと、肌に追従して防漏カフのズレ可能域がずれ易くなる。このような形態としては、例えば、吸収体の肌対向面の全域を覆い且つ吸収体の側縁から非肌対向面側に巻き下げるように表面シートを配置し、表面シートにおける巻き下げられた部分と、防漏カフ6の不織布60とを接合し、この接合による接合部を吸収体の側縁から内方に位置するように配置する形態が挙げられる。
【0062】
図3に示すおむつ1は、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bを備えているが、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの一方を備えていてもよい。また第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bがともにズレ可能域66を有しているが、これに代えて、第1防漏カフ6A及び第2防漏カフ6Bの一方がズレ可能域66を有していてもよい。
【0063】
前述した本発明の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0064】
<1>
着用者の前後方向に対応する長手方向と前記長手方向に直交する幅方向とを有し、着用時に、着用者の腹側に配される腹側部、背側に配される背側部、及び前記腹側部と前記背側部との間に位置する股下部を有し、液透過性の表面シート及び吸収体を含む縦長の吸収性本体と、前記吸収性本体の前記長手方向の両側に前記長手方向に沿って配された一対の防漏カフとを有する使い捨ておむつであって、
前記防漏カフは、相対向する2枚の不織布を含んで構成され、前記幅方向の両端のうち、一方の端に自由端及び他方の端に固定端を有し、前記長手方向の両端近傍に前記吸収性本体に固定された端部固定部を有しており、且つ前記自由端の近傍に、前記2枚の不織布の間に接着剤を介して弾性部材が固定された自由端伸縮部を有しており、
前記自由端伸縮部と前記固定端との間に、前記2枚の不織布が接合されていないズレ可能域を有しており、前記ズレ可能域は、前記2枚の不織布の対向面どうしの摩擦係数が0.275以下であり、前記長手方向に沿う長さが前記幅方向に沿う長さよりも長く、且つ前記幅方向に沿う長さが、前記自由端伸縮部の前記幅方向に沿う長さの3倍以上である、使い捨ておむつ。
【0065】
<2>
前記ズレ可能域を構成する前記2枚の不織布の対向面どうしの摩擦係数が0.260以下である、前記<1>に記載の使い捨ておむつ。
<3>
前記2枚の不織布は、前記ズレ可能域において相対向する内面それぞれの摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.012以下である、前記<1>又は<2>に記載の使い捨ておむつ。
<4>
前記自由端伸縮部の前記幅方向に沿う長さに対して、前記ズレ可能域の前記幅方向に沿う長さが5倍以上である、前記<1>~<3>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<5>
展開且つ伸長状態において、前記防漏カフの前記長手方向に沿う長さに対して、前記ズレ可能域の前記長手方向に沿う長さが、60%以上であり、95%以下である、前記<1>~<4>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<6>
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、それぞれ、前記幅方向の圧縮荷重値が5cN以下である、前記<1>~<5>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<7>
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、それぞれ、そのバルクソフトネスが8cN以下である、前記<1>~<6>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<8>
前記防漏カフは、1kPa圧縮時の変形量が1mm以上である、前記<1>~<7>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<9>
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、不織布どうしが相対向する内面の摩擦係数の平均偏差(MMD)よりも、外面の摩擦係数の平均偏差(MMD)が大きい、前記<1>~<8>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<10>
前記2枚の不織布それぞれに構成繊維が一体化したエンボス部が、平面方向に相互に離間した状態に形成されており、各不織布における前記エンボス部の面積率が18%以下である、前記<1>~<9>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
【0066】
<11>
前記2枚の不織布が、滑剤を含有している、前記<1>~<10>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<12>
前記ズレ可能域の前記2枚の不織布は、不織布どうしが相対向する内面が起毛されている、前記<1>~<11>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<13>
前記2枚の不織布は、構成繊維の主成分がプロピレンランダムコポリマーである、前記<1>~<12>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<14>
前記2枚の不織布それぞれの構成繊維が一体化したエンボス部を有し、一面が他面よりも起伏が大きいエンボス面となっており、前記2枚の不織布は、前記ズレ可能域において前記エンボス面どうしが相対向している、前記<1>~<13>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<15>
展開且つ伸長状態において、前記一対の防漏カフの自由端間の前記幅方向に沿う距離に対して、一対の前記防漏カフそれぞれの前記自由端伸縮部の厚みが0.4%以上であり、5.0%以下である、前記<1>~<14>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<16>
前記自由端伸縮部の厚みが0.3mm以上である、前記<15>に記載の使い捨ておむつ。
<17>
展開且つ伸長状態において、前記一対の防漏カフの自由端どうしの間隔が40mm以上である、前記<1>~<16>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<18>
前記自由端伸縮部に配されている前記弾性部材は、その太さが300dtex以上である、前記<1>~<17>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<19>
前記自由端伸縮部に配されている前記弾性部材の本数が2本以上である、前記<1>~<18>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<20>
前記吸収性本体は、着用状態において、前記長手方向に沿う側部領域が起立するようになされている、前記<1>~<19>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
【0067】
<21>
展開且つ伸長状態において、前記吸収性本体の前記側部領域と前記ズレ可能域とは、厚み方向に重なっている、前記<20>に記載の使い捨ておむつ。
<22>
前記吸収体は、吸収性コアを有し、少なくとも股下部における前記吸収性コアの両側縁それぞれから離間した内方位置に、長手方向に延びる一対のスリット又は低坪量部からなる可撓部を有しており、前記側部領域は、前記吸収性本体における前記可撓部から前記幅方向外方に位置する部分である、前記<20>又は<21>に記載の使い捨ておむつ。
<23>
展開且つ伸長状態において、前記自由端伸縮部は、前記可撓部よりも幅方向外方に位置している、前記<22>に記載の使い捨ておむつ。
<24>
前記吸収体は、前記側部領域の坪量は、一対の前記可撓部どうしで挟まれた中央領域の
坪量よりも小さい、前記<22>又は<23>に記載の使い捨ておむつ。
<25>
前記防漏カフの前記不織布と前記表面シートとの間の摩擦係数が0.275以下である、前記<1>~<24>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<26>
前記防漏カフの前記不織布及び前記表面シートにおける相対向する面それぞれの摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.012以下である、前記<1>~<25>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<27>
前記防漏カフの固定端が、前記吸収体の長手方向の側縁よりも幅方向外方に形成されている、前記<1>~<26>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<28>
前記防漏カフの固定端が、前記吸収体の長手方向の側縁よりも幅方向内方に形成されている、前記<1>~<26>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<29>
前記吸収性本体の長手方向の両側に、一対の第1防漏カフと、一対の第1防漏カフそれぞれよりも幅方向外方に位置する一対の第2防漏カフとを有しており、
第1防漏カフ及び第2防漏カフの一方又は両方が、前記ズレ可能域を有する前記防漏カフである、前記<1>~<28>の何れか1つに記載の使い捨ておむつ。
<30>
前記第1防漏カフ及び第2防漏カフの両方が、前記ズレ可能域を有する前記防漏カフであり、第1防漏カフ及び第2防漏カフの互いに近い面どうしの間の摩擦係数が0.275以下である、前記<29>に記載の使い捨ておむつ。
【符号の説明】
【0068】
1 パンツ型使い捨ておむつ(使い捨ておむつ)
F 腹側部
M 股下部
R 背側部
2 吸収性本体
5 表面シート
4 吸収体
44 スリット
6 防漏カフ
6A 第1防漏カフ
6B 第2防漏カフ
60 防漏カフを構成する不織布
61 自由端
62 固定端
63 弾性部材
64 自由端伸縮部
65 端部固定部
66 ズレ可能域
80 エンボス部
X 長手方向
Y 幅方向