(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド、およびサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101H
(21)【出願番号】P 2020216414
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-240876(JP,A)
【文献】特開平08-039852(JP,A)
【文献】特開2019-166824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263141(US,A1)
【文献】米国特許第04968996(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面につながる第1端面と、
前記裏面につながる第2端面と、を有する基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面の上に少なくとも一部が形成された抵抗体層と、
前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して形成された配線層と、を備え、
前記第1端面および前記第2端面の各々は、前記厚さ方向において前記主面と前記裏面との間に位置しており、
前記第1端面は、前記厚さ方向
に視て前記裏面に重な
っており、
前記第2端面は、前記厚さ方向に対して直交する方向において前記第1端面に対して前記主面とは反対側に位置しており、
前記第1端面は、前記厚さ方向に対して直交する方向において前記第2端面が位置する側に前記主面に対して傾斜しており、
前記主面に対する前記第1端面の傾斜角は、前記裏面に対する前記第2端面の傾斜角よりも小であり、
前記基板は、前記厚さ方向を向き、かつ前記第1端面および前記第2端面につながる中間面を有し、
前記厚さ方向に視て、前記第1端面、前記第2端面および前記中間面の各々は、前記抵抗体層および前記配線層から離れている、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記主面は、前記主走査方向に延び、かつ前記抵抗体層から最も近くに位置する第1縁と、副走査方向に延びる第2縁と、を含み、
前記第1端面は、前記第1縁につながる第1領域と、前記第2縁につながる第2領域と、を含む、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記基板は、前記第1領域と前記第2領域との境界をなす稜線を有し、
前記稜線は、前記主面に対して傾斜している、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記主面に対する前記稜線の傾斜角は、前記主面に対する前記第1端面の傾斜角よりも小である、請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記基板は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記基板は、前記主面から前記厚さ方向に突出する凸部を有し、
前記複数の発熱部は、前記凸部の上に形成されている、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記主面を覆う絶縁層をさらに備え、
前記絶縁層は、前記基板と前記抵抗体層との間に位置しており、
前記厚さ方向に視て、前記絶縁層の全体は、前記主面に重なっている、請求項
5または6に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に導通しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に個別に導通している、請求項
7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記複数の発熱部、および前記配線層を覆う保護層をさらに備え、
前記厚さ方向に視て、前記保護層の全体は、前記主面に重なっている、請求項
7または8に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記保護層は、前記厚さ方向において直交する方向を向く端面を有し、
前記厚さ方向に視て、前記端面は、前記絶縁層の周縁から前記配線層が位置する側に離れている、請求項9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
放熱部材をさらに備え、
前記裏面は、前記放熱部材に接合されている、請求項
1ないし10のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
厚さ方向の一方側を向く主面を有する基材において、前記主面の上に主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、
前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、
前記主面から凹み、かつ前記厚さ方向に対して直交する方向に沿って延びるとともに、前記抵抗体層および前記配線層の各々から離れた溝部を前記基材に形成する工程と、
前記基材を前記厚さ方向に切断する工程と、を備え、
前記溝部は、前記主面につながり、かつ前記主面に対して傾斜した傾斜面と、前記厚さ方向において前記主面と同じ側を向き、かつ前記厚さ方向に対して直交する方向において前記傾斜面に対して前記主面とは反対側に位置する底面と、を有し、
前記溝部を形成する工程では、第1ブレードを用いて前記溝部が形成され、
前記第1ブレードは、基部と、前記基部から前記第1ブレードの径方向に延び、かつ前記第1ブレードの周方向において前記基部を囲む刃先部と、を有し、
前記刃先部の厚さは、前記基部から前記径方向に離れるほど小となり、
前記刃先部は、前記径方向を向く端面を有し、
前記基材を切断する工程では、第2ブレードを用いて前記基材が切断され、
前記第2ブレードの厚さは、前記径方向に対して直交する方向における前記端面の寸法よりも小であり、
前記基材を切断する工程では、前記第2ブレードを前記傾斜面から離しつつ、前記底面に前記第2ブレードを接触させる、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ケイ素(シリコン)を含む材料からなる基板を備えるサーマルプリントヘッドが開示されている。当該サーマルプリントヘッドの基板は、主面と、主走査方向に延び、かつ主面から突出する凸部とを有する。特許文献1の
図6などに示すように、複数の発熱部は、凸部の上において主走査方向に配列されている。このような構成によれば、複数の発熱部が配置された凸部に印刷媒体を的確に接触させることができるため、印字品質の向上が期待できる。さらに、当該サーマルプリントヘッドの基板は、比較的熱伝導率が高く、かつ窒化アルミニウムを含む材料からなる基板よりもコストが安いという利点を有する。しかし、当該サーマルプリントヘッドの製造において、基板を切断する際に当該基板の主面の周縁に欠損が発生すると、当該基板の結晶構造の影響により欠損が主面に拡がるおそれがある。これにより、基板の主面の上に形成された配線層の損傷を招くことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は上述の事情に鑑み、製造時に発生する基板の欠損に起因した配線層の損傷を防ぐことが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面につながる第1端面と、を有する基板と、主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面の上に少なくとも一部が形成された抵抗体層と、前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して形成された配線層と、を備え、前記第1端面は、前記厚さ方向に沿って視て前記裏面に重なり、かつ前記厚さ方向において前記裏面が位置する側に前記主面に対して傾斜しており、前記抵抗体層および前記配線層から前記第1端面が露出している。
【0006】
本開示の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、厚さ方向を向く主面を有する基材において、前記主面の上に主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、前記基材を前記厚さ方向に切断する工程と、を備え、前記配線層を形成する工程と、前記基材を切断する工程と、の間に、前記主面から凹み、かつ前記厚さ方向に対して直交する方向に沿って延びる溝部を前記基材に形成する工程をさらに備え、前記溝部は、前記主面につながり、かつ前記主面に対して傾斜した傾斜面を有し、前記基材を切断する工程では、前記基材の切断線が前記溝部を通過する。
【発明の効果】
【0007】
本開示にかかるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法によれば、製造時に発生する基板の欠損に起因した配線層の損傷を防ぐことが可能となる。
【0008】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの平面図であり、保護層を透過している。
【
図2】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の平面図である。
【
図5】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【
図8】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図9】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図10】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図11】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図12】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図13】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図14】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図15】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図16】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図17】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図18】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図19】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図20】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図21】
図1に示すサーマルプリントヘッドの第1変形例の部分拡大断面図である。
【
図22】
図1に示すサーマルプリントヘッドの第2変形例の部分拡大断面図である。
【
図23】
図1に示すサーマルプリントヘッドの第2変形例の部分拡大断面図である。
【
図24】本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの要部の部分拡大平面図であり、保護層を透過している。
【
図27】
図24のXXVII-XXVII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0011】
〔第1実施形態〕
図1~
図7に基づき、本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA10について説明する。サーマルプリントヘッドA10は、後述するサーマルプリンタB10の主要部をなす。サーマルプリントヘッドA10は、要部および付随部により構成される。サーマルプリントヘッドA10の要部は、基板1、絶縁層2、抵抗体層3、配線層4および保護層5を備える。サーマルプリントヘッドA10の付随部は、配線基板71、放熱部材72、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、封止樹脂76およびコネクタ77を備える。ここで、
図1においては、理解の便宜上、保護層5を透過し、かつ複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、および封止樹脂76の図示を省略している。
図2および
図3においては、理解の便宜上、保護層5を透過している。
【0012】
ここで、説明の便宜上、サーマルプリントヘッドA10の主走査方向を「x方向」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の副走査方向を「y方向」と呼ぶ。基板1の厚さ方向を「z方向」と呼ぶ。z方向は、x方向およびy方向の双方に対して直交している。以下の説明において、「z方向に沿って視て」とは、「厚さ方向に沿って視て」を指す。
【0013】
サーマルプリントヘッドA10においては、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10の要部をなす基板1は、放熱部材72に接合されている。さらに、配線基板71は、y方向において基板1の隣に位置する。配線基板71は、基板1と同じく放熱部材72に固定されている。基板1の上には、抵抗体層3の一部をなし、かつx方向に配列された複数の発熱部31(詳細は後述)が形成されている。複数の発熱部31は、配線基板71に搭載された複数の駆動素子73により選択的に発熱する。複数の駆動素子73は、コネクタ77を介して外部から送信される印字信号にしたがって駆動する。
【0014】
さらに、本開示にかかるサーマルプリンタB10は、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10と、プラテンローラ79とを備える。サーマルプリンタB10において、プラテンローラ79は、感熱紙などの記録媒体を送り出すローラ状の機構である。プラテンローラ79が記録媒体を複数の発熱部31に押し当てることにより、当該複数の発熱部31が当該記録媒体に印字を行う。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79に代えて、ローラ状ではない機構を採用できる。当該機構は、平坦な面を有する。ここで、平坦な面には、小さい曲率を有する曲面が含まれる。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79のようなローラ状の機構と、当該機構とを含めて「プラテン」と呼ぶ。ここで、説明の便宜上、
図4において記録媒体の供給元の側(
図4における右側)を「上流側」と呼ぶ。
図4において記録媒体の排出先の側(
図4における左側)を「下流側」と呼ぶ。
【0015】
基板1は、
図1に示すように、z方向に沿って視てx方向に延びる矩形状である。したがって、x方向が基板1の長辺方向に相当する。y方向が基板1の短辺方向に相当する。基板1は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素(Si)を組成とする単結晶材料を含む。
【0016】
図5に示すように、基板1は、z方向において互いに反対側を向く主面11および裏面12を有する。基板1の結晶構造に基づく主面11および裏面12の面方位は、ともに(100)面である。
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、主面11がプラテンローラ79に対向し、かつ裏面12が配線基板71に対向する。主面11は、第1縁11Aおよび第2縁11Bを含む。第1縁11Aおよび第2縁11Bは、主面11の周縁に相当する。第1縁11Aは、x方向に延び、かつ抵抗体層3から最も近くに位置する。第2縁11Bは、y方向に延びている。サーマルプリントヘッドA10においては、第2縁11Bは、第1縁11Aにつながり、かつx方向において互いに離れて位置する2つの区間を含む。
【0017】
図5に示すように、基板1は、凸部19を有する。凸部19は、主面11からz方向に突出している。
図1および
図2に示すように、凸部19は、x方向に延びている。
【0018】
図5および
図6に示すように、凸部19は、頂面191、および一対の傾斜面192を有する。頂面191は、z方向において主面11から離れて位置し、かつ主面11に対して平行である。一対の傾斜面192は、y方向において互いに離れて位置する。一対の傾斜面192は、頂面191および主面11につながっている。一対の傾斜面192は、主面11から頂面191にかけて互いに近づくように主面11に対して傾斜している。主面11に対する一対の傾斜面192の各々の傾斜角αは、互いに等しい。
【0019】
図2、
図5および
図7に示すように、基板1は、第1端面13、第2端面14および中間面15を有する。第1端面13は、主面11につながっている。サーマルプリントヘッドA10においては、第1端面13は、主面11の第1縁11Aにつながっている。第1端面13は、z方向に沿って視て裏面12に重なり、かつz方向において裏面12が位置する側に主面11に対して傾斜角β1で傾斜している。第2端面14は、裏面12につながっている。第2端面14は、z方向に対して直交する方向(サーマルプリントヘッドA10ではy方向)において第1端面13に対して主面11とは反対側に位置する。第2端面14は、第2端面14に対して傾斜角β2で傾斜している。傾斜角β1は、傾斜角β2よりも小である。中間面15は、z方向を向き、かつ第1端面13および第2端面14につながっている。z方向において、中間面15は、主面11と裏面12との間に位置する。抵抗体層3および配線層4から、第1端面13、第2端面14および中間面15が露出している。
【0020】
絶縁層2は、
図5および
図6に示すように、基板1の主面11および凸部19を覆っている。絶縁層2により、基板1は、抵抗体層3および配線層4に対して電気絶縁されている。絶縁層2は、たとえば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原材料とした二酸化ケイ素(SiO
2)からなる。絶縁層2の厚さの例は、1μm以上15μm以下である。
【0021】
抵抗体層3は、
図5および
図6に示すように、基板1の主面11および凸部19の上に形成されている。抵抗体層3は、絶縁層2に接している。これにより、サーマルプリントヘッドA10において、絶縁層2は、基板1と抵抗体層3との間に挟まれた構成となっている。抵抗体層3は、たとえば窒化タンタル(TaN)からなる。抵抗体層3の厚さの例は、0.02μm以上0.1μm以下である。
【0022】
図2、
図3および
図6に示すように、抵抗体層3は、複数の発熱部31を含む。抵抗体層3において、複数の発熱部31は、配線層4から露出する部分である。複数の発熱部31に対して配線層4から選択的に通電されることによって、複数の発熱部31は、記録媒体を局所的に加熱する。複数の発熱部31は、x方向に配列されている。複数の発熱部31のうち、x方向において隣り合う2つの当該発熱部31は、互いに離れて位置する。複数の発熱部31は、絶縁層2に接して形成されている。サーマルプリントヘッドA10においては、複数の発熱部31は、基板1の凸部19の頂面191の上に形成されている。複数の発熱部31は、頂面191のy方向の中央に位置する。
図4に示すように、サーマルプリンタB10において、複数の発熱部31は、プラテンローラ79に対向している。
【0023】
配線層4は、
図5および
図6に示すように、抵抗体層3に接して形成されている。配線層4は、抵抗体層3の複数の発熱部31に通電するための導電経路をなしている。配線層4の電気抵抗率は、抵抗体層3の電気抵抗率よりも小である。配線層4は、たとえば銅(Cu)からなる金属層である。配線層4の厚さの例は、0.3μm以上2.0μm以下である。この他、配線層4は、抵抗体層3の上に積層されたチタン(Ti)層と、当該チタン層の上に積層された銅層との2つの金属層からなる構成でもよい。この場合のチタン層の厚さの例は、0.1μm以上0.2μm以下である。
図1に示すように、配線層4は、基板1の主面11の第1縁11Aおよび第2縁11Bから離れて位置する。
【0024】
図2に示すように、配線層4は、共通配線41、および複数の個別配線42を含む。共通配線41は、抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。複数の個別配線42は、複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
図3に示すように、z方向に沿って視て、共通配線41と複数の個別配線42とに挟まれた抵抗体層3の複数の領域が、複数の発熱部31である。
【0025】
図2および
図3に示すように、共通配線41は、基部411、および複数の延出部412を有する。y方向において、基部411は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。基部411は、z方向に沿って視てx方向に延びる帯状である。複数の延出部412は、y方向において基板1の凸部19に対向する基部411の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の延出部412は、x方向に沿って配列されている。複数の延出部412の各々の一部は、凸部19の一対の傾斜面192のうち、基部411に対向する傾斜面192の上に形成されている。したがって、共通配線41の一部は、一対の傾斜面192のいずれかの上に形成されている。共通配線41においては、基部411から複数の延出部412を介して複数の発熱部31に電流が流れる。
【0026】
図2および
図3に示すように、複数の個別配線42の各々は、基部421および延出部422を有する。y方向において、基部421は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。複数の個別配線42の基部421は、x方向に対して千鳥配置となるように等間隔で配列されている。
【0027】
図2および
図3に示すように、延出部422は、y方向において基板1の凸部19に対向する基部421の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の個別配線42の延出部422は、x方向に沿って配列されている。複数の個別配線42の各々の延出部422は、基板1の一対の傾斜面192のうち、複数の個別配線42の基部421に対向する傾斜面192の上に形成されている。したがって、複数の個別配線42の各々の一部は、一対の傾斜面192のいずれかの上に形成されている。複数の個別配線42の各々においては、複数の発熱部31のいずれかから延出部422を介して基部421に電流が流れる。z方向に沿って視て、複数の発熱部31の各々は、複数の個別配線42の延出部422のいずれかと、共通配線41の複数の延出部412のいずれかとに挟まれている。
図2および
図3に示す配線層4、および複数の発熱部31の構成は一例である。本開示における配線層4、および複数の発熱部31の構成は、
図2および
図3に示す構成に限定されない。
【0028】
保護層5は、
図5に示すように、基板1の主面11の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4とを覆っている。保護層5は、電気絶縁性を有する。保護層5は、ケイ素をその組成に含む。保護層5は、たとえば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素(Si
3N
4)および炭化ケイ素(SiC)のいずれからなる。あるいは、保護層5は、これらの物質のうち複数種類からなる積層体でもよい。保護層5の厚さの例は、1.0μm以上10μm以下である。サーマルプリンタB10において、記録媒体は、
図4に示すプラテンローラ79により複数の発熱部31を覆う保護層5の領域に押し当てられる。
【0029】
図5に示すように、保護層5は、配線開口51および端面52を有する。配線開口51は、z方向に保護層5を貫通している。配線開口51から、複数の個別配線42の基部421と、複数の個別配線42の延出部422の各々の一部とが露出している。
図5および
図7に示すように、端面52は、基板1の第1端面13と同じ向きを向く。端面52は、基板1の主面11に対して傾斜している。主面11に対する端面52の傾斜方向は、主面11に対する第1端面13の傾斜方向に等しい。
【0030】
配線基板71は、
図4に示すように、y方向において基板1の隣に位置する。
図1に示すように、z方向に沿って視て、複数の個別配線42は、y方向において抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線基板71との間に位置する。z方向に沿って視て、配線基板71の面積は、基板1の面積よりも大である。さらに、z方向に沿って視て、配線基板71は、x方向を長手方向とする矩形状である。配線基板71は、たとえばPCB基板である。配線基板71には、複数の駆動素子73、およびコネクタ77が搭載されている。
【0031】
放熱部材72は、
図4に示すように、基板1の裏面12と対向している。裏面12は、放熱部材72に接合されている。配線基板71は、ねじなどの締結部材により放熱部材72に固定されている。サーマルプリントヘッドA10の使用時において、抵抗体層3の複数の発熱部31から発生した熱の一部は、基板1を介して放熱部材72に伝導される。放熱部材72に伝導された熱は、外部へと放熱される。放熱部材72は、たとえばアルミニウム(Al)からなる。
【0032】
複数の駆動素子73は、
図1および
図4に示すように、電気絶縁性を有するダイボンディング材(図示略)を介して配線基板71の上に搭載されている。複数の駆動素子73の各々は、種々の回路が構成された半導体素子である。複数の駆動素子73の各々には、複数の第1ワイヤ74の各々の一端と、複数の第2ワイヤ75の各々の一端とが接合されている。複数の第1ワイヤ74の他端は、複数の個別配線42の基部421に対して個別に接合されている。複数の第2ワイヤ75の各々の他端は、配線基板71に設けられ、かつコネクタ77に導通する配線(図示略)に接合されている。これにより、印字信号、制御信号、および抵抗体層3の複数の発熱部31に供給される電圧が、外部からコネクタ77を介して複数の駆動素子73に入力される。複数の駆動素子73は、これらの電気信号に基づき、複数の個別配線42に電圧を選択的に印加させる。これにより、複数の発熱部31が選択的に発熱する。
【0033】
封止樹脂76は、
図4に示すように、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75と、基板1および配線基板71の各々の一部とを覆っている。封止樹脂76は、電気絶縁性を有する。封止樹脂76は、たとえばアンダーフィルに用いられる黒色かつ軟質の合成樹脂である。この他、封止樹脂76は、黒色かつ硬質の合成樹脂でもよい。
【0034】
コネクタ77は、
図1および
図4に示すように、配線基板71のy方向の一端に搭載されている。コネクタ77は、サーマルプリンタB10に接続される。コネクタ77は、複数のピン(図示略)を有する。当該複数のピンの一部は、配線基板71において、複数の第2ワイヤ75が接合された配線(図示略)に導通している。さらに、当該複数のピンの別の一部は、配線基板71において、共通配線41の基部411に導通する配線(図示略)に導通している。
【0035】
次に、
図8~
図20に基づき、サーマルプリントヘッドA10の製造方法の一例について説明する。ここで、
図8~
図16、および
図19の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0036】
最初に、
図8および
図9に示すように、基材81に凸部19を形成する。
【0037】
まず、
図8に示すように、基材81を覆う第1マスク層891と、第1マスク層891の一部を覆う第2マスク層892とを形成する。基材81は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。基材81は、シリコンウエハである。z方向に対して直交する方向において、複数の基板1にそれぞれ相当する領域が複数個連なったものが、基材81に相当する。基材81は、第1面81Aおよび第2面81Bを有する。第1面81Aおよび第2面81Bは、z方向において互いに反対側を向く。基材81の結晶構造に基づく第1面81Aおよび第2面81Bの面方位は、ともに(100)面である。第1マスク層891は、第1面81Aおよび第2面81Bを覆うように形成される。第1マスク層891は、二酸化ケイ素からなる。第2マスク層892は、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆うように形成される。第2マスク層892は、窒化ケイ素からなる。第1面81Aを覆う第1マスク層891と、当該第1マスク層891を覆う第2マスク層892から、第1面81Aの一部が露出している。
【0038】
第1マスク層891および第2マスク層892の形成にあたっては、まず、熱酸化法により第1面81Aおよび第2面81Bを覆う二酸化ケイ素の薄膜を形成する。次いで、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)により、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆う窒化ケイ素の薄膜を形成する。最後に、リソグラフィパターニングと、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)とにより、第1面81Aを覆う二酸化ケイ素の薄膜の領域の一部と、当該領域を覆う窒化ケイ素の薄膜の一部とを除去する。これにより、第1マスク層891および第2マスク層892が形成される。
【0039】
次いで、
図9に示すように、基材81に主面11および凸部19を形成する。主面11および凸部19は、
図8に示す第1マスク層891および第2マスク層892から露出した第1面81Aの領域に対して、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより形成される。当該エッチングは、異方性である。最後に、フッ化水素酸(HF)を用いたウエットエッチングにより第1マスク層891および第2マスク層892を除去する。以上により、主面11および凸部19が基材81に形成される。さらに、基材81の第2面81Bは、裏面12となる。凸部19は、主面11につながり、かつ主面11からz方向に膨出している。凸部19は、主面11からz方向に膨出し、かつx方向に沿って延びている。凸部19は、凸部19を含む。第1マスク層891および第2マスク層892に覆われていた第1面81Aの領域が、凸部19の頂面191となる。さらに、主面11に対する凸部19の一対の傾斜面192の各々の傾斜角αは、ともに同一である。これは、凸部19が異方性エッチングにより形成されることに起因している。
【0040】
図9に示す工程では、基材81に主面11および凸部19を形成した後、主面11を覆う二酸化ケイ素の薄膜を熱酸化法により形成してもよい。複数の第1ワイヤ74が個別に接合される複数の個別配線42の基部421には、金属層がめっきにより積層されることがある。当該二酸化ケイ素の薄膜は、めっきにより金属層を積層する際、当該金属層の異常成長を抑制する効果がある。
【0041】
次いで、
図10に示すように、基材81の主面11および凸部19を覆う絶縁層2を形成する。絶縁層2は、プラズマCVDによりオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原料ガスとして形成された二酸化ケイ素の薄膜を複数回にわたって積層させることによって形成される。
【0042】
次いで、
図11~
図13に示すように、抵抗体層3および配線層4を形成する。抵抗体層3は、x方向に配列された複数の発熱部31を含む。配線層4は、複数の発熱部31に導通する。さらに、配線層4を形成する工程では、共通配線41、および複数の個別配線42を形成する工程を含む。基材81において、共通配線41は、
図13に示す抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。基材81において、複数の個別配線42は、
図13に示す複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
【0043】
まず、
図11に示すように、基材81の主面11および凸部19の上に抵抗体膜82を形成する。抵抗体膜82は、絶縁層2の全面を覆うように形成される。抵抗体膜82は、スパッタリング法により窒化タンタルの薄膜を絶縁層2に積層させることによって形成される。
【0044】
次いで、
図12に示すように、抵抗体膜82の全面を覆う導電層83を形成する。導電層83は、スパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって抵抗体膜82に積層させることによって形成される。この他、導電層83の形成にあたっては、スパッタリング法によりチタンの薄膜を抵抗体膜82に積層させた後、当該チタンの薄膜に対してスパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって積層させる手法を採ってもよい。
【0045】
次いで、
図13に示すように、導電層83に対してリソグラフィパターニングを施した後、導電層83の一部を除去する。当該除去は、硫酸(H
2SO
4)および過酸化水素(H
2O
2)の混合溶液を用いたウエットエッチングにより行われる。これにより、共通配線41、および複数の個別配線42が、抵抗体膜82に接して形成される。あわせて、基材81の凸部19の頂面191の上に形成された抵抗体膜82の領域が配線層4から露出する。その後、抵抗体膜82および配線層4に対してリソグラフィパターニングを施した後、抵抗体膜82の一部を除去する。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、抵抗体層3が、基材81の主面11および凸部19の上に形成される。基材81の頂面191の上には、複数の発熱部31が現れる。
【0046】
次いで、
図14に示すように、基材81の主面11の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4を覆う保護層5を形成する。保護層5は、プラズマCVDにより窒化ケイ素の薄膜を積層させることによって形成される。
【0047】
次いで、
図15に示すように、z方向に貫通する配線開口51を保護層5に形成する。配線開口51は、保護層5に対してリソグラフィパターニングを施した後、保護層5の一部を除去することにより形成される。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、配線開口51から複数の個別配線42の一部(
図5に示す複数の個別配線42の基部421、および複数の個別配線42の延出部422の各々の一部)が露出する。複数の個別配線42の各々の一部であり、かつ配線開口51から露出する部分は、たとえばワイヤボンディングにより複数の第1ワイヤ74が個別に接合される基部421をなす。配線開口51から露出する複数の個別配線42の各々の部分(基部421を含む)には、めっきにより金などの金属層を積層してもよい。
【0048】
次いで、
図16に示すように、主面11から凹み、かつz方向に対して直交する方向(サーマルプリントヘッドA10ではx方向)に延びる溝部811を基材81に形成する。溝部811は、底面811A、および一対の傾斜面811Bを有する。底面811Aは、z方向において主面11と裏面12との間に位置する。一対の傾斜面811Bは、サーマルプリントヘッドA10においてはy方向に互いに離れて位置し、かつ底面811Aおよび主面11につながっている。一対の傾斜面811Bは、z方向において主面11から底面811Aに向かうほど互いに近づくように傾斜している。
【0049】
図16に示すように、基材81の溝部811は、第1ブレード87を用いて形成される。
図17に示すように、第1ブレード87は、基部871および刃先部872を有する。刃先部872は、基部871から第1ブレード87の径方向に延び、かつ第1ブレード87の周方向において基部871を囲んでいる。第1ブレード87をy方向の周りに回転させ、かつ刃先部872を基材81に接触させることによって、基材81に溝部811が形成される。刃先部872の厚さt2は、基部871から第1ブレード87の径方向に離れるほど徐々に小である。したがって、刃先部872には、テーパが付されている。
【0050】
図17に示すように、第1ブレード87の周方向に対する刃先部872の横断面形状は、台形状である。この他、
図18に示すように、刃先部872の当該横断面形状は、三角形状でもよい。
【0051】
図16に示す基材81に溝部811を形成する工程では、第1ブレード87を用いる方法の他に、絶縁層2および保護層5の一部を除去した後に、
図9に示す異方性エッチングにより溝部811を形成してもよい。
【0052】
次いで、
図19に示すように、x方向およびy方向に沿って基材81を厚さ方向に切断する。これにより得られた個片が、基板1を含むサーマルプリントヘッドA10の要部となる。本工程では、第2ブレード88を用いて基材81が切断される。
図20に示すように、第2ブレード88の厚さt3は、
図17および
図18に示す第1ブレード87の基部871の厚さt1よりも小である。本工程のうち基材81をx方向に沿って切断する工程では、
図20に示すように、基材81の切断線CLが溝部811を通過するように設定する。さらに基材81をx方向に沿って切断する工程では、溝部811の底面811Aに第2ブレード88を接触させ、かつ溝部811の傾斜面811Bから第2ブレード88を離すようにする。
【0053】
次いで、配線基板71に複数の駆動素子73、およびコネクタ77を搭載する。次いで、基板1の裏面12、および配線基板71を放熱部材72に接合させる。次いで、配線基板71に対して複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75の接合を行う。最後に、基板1および配線基板71に対して、駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75を覆う封止樹脂76の形成を行う。以上の工程を経ることによって、サーマルプリントヘッドA10が得られる。
【0054】
<第1変形例>
次に、
図21に基づき、サーマルプリントヘッドA10の変形例であるサーマルプリントヘッドA11について説明する。ここで、
図21の断面位置は、
図7の断面位置と同一である。
【0055】
図21に示すように、サーマルプリントヘッドA11においては、基板1の構成がサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。基板1の第2端面14は、基板1の第1端面13につながっている。したがって、サーマルプリントヘッドA11の基板1は、中間面15を有さない構成となっている。本構成は、
図19に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、第2ブレード88が溝部811の底面811Aおよび傾斜面811Bに接触するように、第2ブレード88の厚さt3を設定することにより得られる。
【0056】
<第2変形例>
次に、
図22に基づき、サーマルプリントヘッドA10の変形例であるサーマルプリントヘッドA12について説明する。ここで、
図22の断面位置は、
図7の断面位置と同一である。
【0057】
図22に示すように、サーマルプリントヘッドA12においては、基板1の構成がサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。基板1の第1端面13は、基板1の裏面12につながっている。したがって、サーマルプリントヘッドA12の基板1は、第2端面14および中間面15を有さない構成となっている。本構成は、
図16に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、第1ブレード87を用いてz方向に貫通する溝部811を基材81に形成することにより得られる。
【0058】
<第3変形例>
次に、
図23に基づき、サーマルプリントヘッドA10の変形例であるサーマルプリントヘッドA13について説明する。ここで、
図23の断面位置は、
図7の断面位置と同一である。
【0059】
図23に示すように、サーマルプリントヘッドA13においては、保護層5の構成がサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。保護層5の端面52は、基板1の主面11に対して直交している。z方向に沿って視て、端面52は、絶縁層2の周縁よりも配線層4が位置する側に寄って位置する。本構成は、
図15に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、z方向に沿って視て
図16に示す基材81の溝部811に重なる開口を保護層5に形成することにより得られる。当該開口は、配線開口51と同時に形成される。
【0060】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作用効果について説明する。
【0061】
サーマルプリントヘッドA10は、z方向において互いに反対側を向く主面11および裏面12と、主面11につながる第1端面13とを有する基板1を備える。第1端面13は、z方向に沿って視て裏面12に重なり、かつz方向において裏面12が位置する側に主面11に対して傾斜している。抵抗体層3および配線層4から第1端面13が露出している。これにより、サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうち基材81(基板1)をz方向に切断する工程(
図19参照)では、基材81は、少なくとも主面11から離れた位置で切断されることとなる。このため、主面11の周縁(サーマルプリントヘッドA10では第1縁11A)に欠損が発生しなくなる。したがって、サーマルプリントヘッドA10によれば、サーマルプリントヘッドA10の製造時に発生する基板1の欠損に起因した配線層4の損傷を防ぐことが可能となる。
【0062】
サーマルプリントヘッドA10の製造においては、
図16に示す基材81に溝部811を形成する工程を経た後に、
図19に示す基材81をz方向に切断する工程がなされる。溝部811は、主面11に対して傾斜した傾斜面811Bを有する。これにより、溝部811を形成する際に主面11の周縁に作用するz方向の外力が低減されるため、欠損が発生することなく基材81に溝部811を形成することができる。さらに基材81をz方向に切断する工程において、
図20に示すように溝部811を通過するように基材81の切断線CLを設定することによって、主面11の周縁に欠損が発生することなく基材81を切断することができる。
【0063】
サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうち基材81に溝部811を形成する工程(
図16参照)では、第1ブレード87を用いて溝部811が形成される。第1ブレード87は、基部871および刃先部872を有する。刃先部872の厚さt2は、基部871から第1ブレード87の径方向に離れるほど徐々に小である。これにより、傾斜面811Bを有する溝部811を基材81に形成することができる。
【0064】
サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうち基材81をz方向に切断する工程(
図19参照)では、第2ブレード88を用いて基材81が切断される。第2ブレード88の厚さt3は、第1ブレード87の基部871の厚さt1よりも小である。これにより、基材81の主面11の周縁に第2ブレード88が接触することなく、基材81を切断することができる。
【0065】
基板1は、裏面12につながる第2端面14を有する。第2端面14は、z方向に対して直交する方向において第1端面13に対して主面11とは反対側に位置する。抵抗体層3および配線層4から第2端面14が露出している。さらに主面11に対する第1端面13の傾斜角β1は、裏面12に対する第2端面14の傾斜角β2よりも小である。これにより、第1端面13を有する基板1の寸法の拡大を抑制することができる。
【0066】
基板1は、z方向を向き、かつ第1端面13および第2端面14につながる中間面15を有する。抵抗体層3および配線層4から中間面15が露出している。これにより、サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうち基材81をz方向に切断する工程(
図19参照)では、基材81は、主面11および第1端面13から離れた位置で切断されることとなる。したがって、主面11の周縁に欠損が発生することを、より確実に防止できる。
【0067】
基板1は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。これにより、基板1の熱伝導率を比較的大(約170W/(m・K))としつつ、基板1のコストを縮減することができる。第1端面13を有する基板1は、特にこのような材料からなる基板1の欠損を防ぐ上で有益な構成である。
【0068】
基板1は、主面11からz方向に突出する凸部19を有する。抵抗体層3の複数の発熱部31は、凸部19の上に形成されている。これにより、
図4に示す記録媒体78への印字の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体78の接触面積を最小限に抑えつつ、複数の発熱部31からの熱を記録媒体78に伝えることができる。これにより、記録媒体78への印字の品質の向上が図られる。
【0069】
サーマルプリントヘッドA10は、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4を覆う保護層5をさらに備える。これにより、複数の発熱部31、および配線層4が保護層5により保護されるとともに、サーマルプリントヘッドA10の使用の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体78の接触がより円滑になる。
【0070】
サーマルプリントヘッドA10は、放熱部材72をさらに備える。基板1の裏面12は、放熱部材72に接合されている。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、複数の発熱部31から発した熱の一部を、基板1および放熱部材72を介して速やかに外部に放出させることができる。
【0071】
〔第2実施形態〕
図24~
図27に基づき、本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA20について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図24は、理解の便宜上、保護層5を透過している。
【0072】
サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の構成が先述したサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0073】
図24に示すように、基板1の第1端面13は、第1領域131および第2領域132を含む。第1領域131は、基板1の主面11の第1縁11Aにつながっている。第2領域132は、主面11の第2縁11Bと、第1領域131とにつながっている。さらに基板1の第2端面14は、第3領域141および第4領域142を含む。第3領域141は、x方向に延びている。第4領域142は、y方向に延び、かつ第3領域141につながっている。
【0074】
図24に示すように、第1領域131は、主面11に対して傾斜角β1で傾斜している。
図25に示すように、第2領域132は、主面11に対して傾斜角β1で傾斜している。したがって、サーマルプリントヘッドA20においては、主面11に対する第2領域132の傾斜角は、主面11に対する第1領域131の傾斜角に等しい。ただし、主面11に対する第2領域132の傾斜角は、主面11に対する第1領域131の傾斜角と異なる場合でもよい。
【0075】
図24に示すように、基板1は、稜線16を有する。稜線16は、第1領域131と第2領域132との境界をなす。
図27に示すように、稜線16は、主面11に対して傾斜角γで傾斜している。傾斜角γは、
図25および
図26に示す主面11に対する第1端面13の傾斜角β1よりも小である。
【0076】
サーマルプリントヘッドA20においても、先述のサーマルプリントヘッドA11と同様に、基板1が中間面15を有さない構成(
図21参照)としてもよい。サーマルプリントヘッドA20においても、先述のサーマルプリントヘッドA12と同様に、基板1が第2端面14および中間面15を有さない構成(
図22参照)としてもよい。さらにサーマルプリントヘッドA20においても、先述のサーマルプリントヘッドA13と同様な保護層5の端面52の構成(
図23参照)としてもよい。
【0077】
次に、サーマルプリントヘッドA20の作用効果について説明する。
【0078】
サーマルプリントヘッドA20は、z方向において互いに反対側を向く主面11および裏面12と、主面11につながる第1端面13とを有する基板1を備える。第1端面13は、z方向に沿って視て裏面12に重なり、かつz方向において裏面12が位置する側に主面11に対して傾斜している。抵抗体層3および配線層4から第1端面13が露出している。したがって、サーマルプリントヘッドA20によっても、サーマルプリントヘッドA20の製造時に発生する基板1の欠損に起因した配線層4の損傷を防ぐことが可能となる。
【0079】
基板1の主面11は、x方向に延び、かつ抵抗体層3から最も近くに位置する第1縁11Aと、y方向に延びる第2縁11Bとを含む。サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の第1端面13は、第1縁11Aにつながる第1領域131と、第2縁11Bにつながる第2領域132とを含む。これにより、サーマルプリントヘッドA20の製造工程のうち基材81(基板1)をz方向に切断する工程(
図19参照)では、x方向に延びる第1縁11Aと、y方向に延びる第2縁11Bとの双方に欠損が発生することを防止できる。
【0080】
基板1は、第1領域131と第2領域132の境界をなす稜線16を有する。稜線16は、基板1の主面11に対して傾斜している。これにより、主面11の隅に位置する周縁に欠損が発生することを防止できる。この場合において、主面11に対する稜線16の傾斜角γは、主面11に対する第1端面13の傾斜角β1よりも小であることが、当該欠損の発生をより効果的に防止できる。したがって、基板1に欠損が発生することを防止する上で、本構成は最も適したものとなる。
【0081】
本開示は、先述した実施形態に限定されるものではない。本開示の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0082】
本開示によって提供されるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法の技術的構成について、以下に付記する。
[付記1]
厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面につながる第1端面と、を有する基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面の上に少なくとも一部が形成された抵抗体層と、
前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して形成された配線層と、を備え、
前記第1端面は、前記厚さ方向に沿って視て前記裏面に重なり、かつ前記厚さ方向において前記裏面が位置する側に前記主面に対して傾斜しており、
前記抵抗体層および前記配線層から前記第1端面が露出している、サーマルプリントヘッド。
[付記2]
前記主面は、前記主走査方向に延び、かつ前記抵抗体層から最も近くに位置する第1縁と、副走査方向に延びる第2縁と、を含み、
前記第1端面は、前記第1縁につながる第1領域と、前記第2縁につながる第2領域と、
を含む、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記3]
前記基板は、前記第1領域と前記第2領域との境界をなす稜線を有し、
前記稜線は、前記主面に対して傾斜している、付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記4]
前記主面に対する前記稜線の傾斜角は、前記主面に対する前記第1端面の傾斜角よりも小である、付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記5]
前記基板は、前記裏面につながる第2端面を有し、
前記第2端面は、前記厚さ方向に対して直交する方向において前記第1端面に対して前記主面とは反対側に位置しており、
前記抵抗体層および前記配線層から前記第2端面が露出している、付記1ないし4のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記6]
前記主面に対する前記第1端面の傾斜角は、前記裏面に対する前記第2端面の傾斜角よりも小である、付記5に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記7]
前記基板は、前記厚さ方向を向き、かつ前記第1端面および前記第2端面につながる中間面を有し、
前記抵抗体層および前記配線層から前記中間面が露出している、付記6に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記8]
前記第2端面は、前記第1端面につながっている、付記6に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記9]
前記基板は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、付記1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記10]
前記基板は、前記主面から前記厚さ方向に突出する凸部を有し、
前記複数の発熱部は、前記凸部の上に形成されている、付記9に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記11]
前記主面を覆う絶縁層をさらに備え、
前記絶縁層は、前記基板と前記抵抗体層との間に位置しており、
前記絶縁層から前記第1端面が露出している、付記9または10に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記12]
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に導通しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に個別に導通している、付記1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記13]
前記複数の発熱部、および前記配線層を覆う保護層をさらに備え、
前記保護層から前記第1端面が露出している、付記1ないし12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記14]
放熱部材をさらに備え、
前記裏面は、前記放熱部材に接合されている、付記1ないし13のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記15]
厚さ方向を向く主面を有する基材において、前記主面の上に主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を形成する工程と、
前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、
前記基材を前記厚さ方向に切断する工程と、を備え、
前記配線層を形成する工程と、前記基材を切断する工程と、の間に、
前記主面から凹み、かつ前記厚さ方向に対して直交する方向に沿って延びる溝部を前記基材に形成する工程をさらに備え、
前記溝部は、前記主面につながり、かつ前記主面に対して傾斜した傾斜面を有し、
前記基材を切断する工程では、前記基材の切断線が前記溝部を通過する、サーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記16]
前記溝部を形成する工程では、第1ブレードを用いて前記溝部が形成され、
前記第1ブレードは、基部と、前記基部から前記第1ブレードの径方向に延び、かつ前記第1ブレードの周方向において前記基部を囲む刃先部と、を有し、
前記刃先部の厚さは、前記基部から前記径方向に離れるほど徐々に小である、付記15に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記17]
前記基材を切断する工程では、第2ブレードを用いて前記基材が切断され、
前記第2ブレードの厚さは、前記基部の厚さよりも小である、付記16に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0083】
A10,A20,A30:サーマルプリントヘッド
B10:サーマルプリンタ
1:基板
11:主面
11A:第1縁
11B:第2縁
12:裏面
13:第1端面
131:第1領域
132:第2領域
14:第2端面
141:第3領域
142:第4領域
15:中間面
16:稜線
19:凸部
191:頂面
192:傾斜面
2:絶縁層
3:抵抗体層
31:発熱部
4:配線層
41:共通配線
411:基部
412:延出部
42:個別配線
421:基部
422:延出部
5:保護層
51:配線開口
52:端面
71:配線基板
72:放熱部材
73:駆動素子
74:第1ワイヤ
75:第2ワイヤ
76:封止樹脂
77:コネクタ
79:プラテンローラ
81:基材
81A:第1面
81B:第2面
811:溝部
811A:底面
811B:傾斜面
82:抵抗体膜
83:導電層
87:第1ブレード
871:基部
872:刃先部
88:第2ブレード
891:第1マスク層
892:第2マスク層
α,β1,β2,γ:傾斜角
t1,t2,t3:厚さ