(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】自動運転車両のアクセル制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/13 20120101AFI20241010BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241010BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20241010BHJP
B60W 30/18 20120101ALI20241010BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241010BHJP
【FI】
B60W40/13
B60W40/107
B60W40/076
B60W30/18
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2021000359
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】相馬 史典
(72)【発明者】
【氏名】椋本 博学
(72)【発明者】
【氏名】番場 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 正実
(72)【発明者】
【氏名】籾山 冨士男
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117206(JP,A)
【文献】特開2020-011555(JP,A)
【文献】特開2018-199357(JP,A)
【文献】特開2009-083542(JP,A)
【文献】特開2004-046439(JP,A)
【文献】特開平07-019939(JP,A)
【文献】米国特許第5406862(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
G08G 1/00 ~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要求加速度に対するアクセル開度を計算する自動運転車両のアクセル制御システムであって、このアクセル制御システムは、
車輪速と加速度計からの前後加速度を読み込んで道路勾配を検出する計算式と、アクセル開度に依存してエンジンが発する牽引力(F)、空気抵抗係数(a
d
)、車速(x)、ころがり抵抗(b)、勾配抵抗(c)及び加速抵抗(d)から積載比(n)を求める下記の式(13)と、求めた積載比(n)と空車時の車両総重量から積載時の車両総重量(W)を検出し、検出した積載時の車両総重量と要求加速度からアクセル開度を算出する計算式とが自動運転ECUに記憶され、算出したアクセル開度に応じてアクセルを制御することを特徴とする自動運転車両のアクセル制御システム。
【数1】
ここに、aは空気抵抗、a
dは空気抵抗係数、bはころがり抵抗、cは勾配抵抗、dは加速抵抗、xは車速、Fはa+b+c+d
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転車両の制御応答に直接影響する車両総重量の変化を、特別な装備を要せず、自動運転中のアクセル応答によって検出する自動運転車両のアクセル制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車種・車重の異なる車両が混在する交通流に乗って整然と走行するアクセル制御は、先行する車両との車間変化を抑制する制御になる。そのためには、自重の変化、道路勾配の変化に適応して必要な加速度を発揮するアクセル制御式が必要である。車間距離を狭めての隊列走行においては、その必要は、一層高い。
【0003】
自動車には、その車両の動力性能を表現する走行性能線図が備えられている。動力性能とは、自動車の走行抵抗に打ち勝って、エンジンの動力によって自動車が発揮する走行性能のことであり、その走行性能は、横軸に車速(km/h)、縦軸に駆動力(kgf)と走行抵抗(kgf)をとった走行性能線図で示される。この線図がアクセル制御の拠りどころになる。
【0004】
走行抵抗とは、自動車の進行方向とは逆向きに作用するすべての力を言う。走行抵抗を発生原因別に分類すると次の4つからなる。
・ 空気抵抗
・ ころがり抵抗
・ 勾配抵抗
・ 加速抵抗
【0005】
水平な路面を一定速度で走行する場合はaとbが走行抵抗として作用する。登り坂ではcが新たに加わり、加速走行する場合にはdが加わる。従って登り坂を加速走行する場合にはa、b、c、dの全部が作用することになる。
【0006】
aの「空気抵抗」は、車体の前面面積に空力抗力係数を乗じた車速の二乗に比例して増加する抵抗力、bの「ころがり抵抗」は、車両総重量にころがり抵抗係数を乗じた抵抗力、cの「勾配抵抗」は、車両総重量に勾配(θ%)の正弦(sinθ)を乗じた抵抗力、dの「加速抵抗」は、速度変化(加速)に抵抗する抵抗力である。
【0007】
即ち、アクセル開度に依存してエンジンが発する牽引力(F)は、aの車速の二乗に関係する空気抵抗と、bの車両総重量×ころがり抵抗係数のころがり抵抗と、cの車両総重量×道路勾配(θ)の正弦(sinθ)成分の勾配抵抗と、dの車両総重量を重力加速度(9.81m/s2)で割り算した車両質量に現在生じている加速度を掛け算した慣性力の和に等しいとの関係式になる。
【0008】
【0009】
非特許文献1は、自動車力学の教科書であり、動力性能の章で走行性能線図についての説明がされているが、そこから車両総重量を求める方法、要求加速度を求める方法についての記述はない。
【0010】
非特許文献2には、大型トラックの前後運動の同定とそのモデル化手法が報告されているが、車両総重量を求める方法、要求加速度を求める方法についての記述はない。
【0011】
特許文献1には、自重を推定し、アクセル開度を求める3次元計算図表が示されているが、図表を辿る手続きを要し改良の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】景山克三、景山一郎著;自動車力学、理工図書、ISBN 4-8446-03536-6
【文献】籾山冨士男ほか, “大型トラックの前後運動の同定とそのモデル化手法”自動車技術開論文集, Vol.43, No.2, March 2012, No.20124209, pp.211-216
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した先行文献には、走行中の車両総重量の変化を求めることができない。その結果、隊列走行を含む自動運転におけるアクセル制御を精度よく行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る自動運転車両のアクセル制御システムは、車両の前後運動(動力性能および制動性能)、横運動(操縦安定性)に影響する車両総重量の変化をアクセル応答によって検出する計算式(図表)を備える。車両の運動は、力が作用して、加速度が生じて、速度が決まり、変位(距離)が決まるので、「加速度の制御性が要」になる。また本発明に係る自動運転車両のアクセル制御システムは、前後運動の加速度を決めるアクセル開度の計算式(図表)を備える。
【0016】
具体的には、アクセル開度25%、50%、75%、100%一定に保持しての加速走行試験を空車で実施して、車速に対する加速度を計測して、横軸車速に対する縦軸加速度の「車速-加速度線図」を作成する。次に、高速域から変速機を中立にして、アクセルを放して惰行減速走行して、車速に対する減速度を計測して、横軸車速に対する縦軸減速度の「惰行-減速度線図」を作成する。「惰行-減速度線図は、y=ax2+bの二次曲線になる。得られた「a」は空力抗力係数であり、「b」はころがり抵抗である。
【0017】
惰行減速度線図の符号を「負」から「正」に変更して、先のアクセル開度25%、50%、75%、100%「加速-加速度線図」に加算して重ね合わせると、アクセル開度25%、50%、75%、100%を指標とする横軸車速に対する縦軸加速度の「全-速度線図」が得られる。
【0018】
得られた「全-加速度線図」の25%、50%、75%、100%の線図は、横軸の車速を“x”とし、縦軸の加速度を“y”とすると、“xy=axy”或いは”y= axy/x”の双曲線を描く。ここに、“axy”は、双曲線定数である。この“axy”をアクセル開度“%”依存で取得して、“axy%”とすると、式(6)になる。
【0019】
【0020】
前記式(1)におけるF、a、b、c、dは、全て、単位(N)ないし(kgf)の“力”であるが、“力”の代替として“加速度”で捉えると、“特別な装備を必要とせず捉えることが可能”になり都合がよい。加速度で捉えた時の式(1)は、その予備実験実施の際の車両重量(例えば、空車重量)が前提になるから、空車重量のn倍の積車状態に展開すると式(1)は式(7)になる。
【0021】
【0022】
式(10)を式(11)(12)の様に書き改めると、後述する
図5の中央に示す図表を描くことができ、この図表から要求加速度に対するアクセル開度、及び、空車に対する積載比(n)を求めることが出来る。
【0023】
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、自動運転車両の前後及び横運動の制御のために必要な制御諸元である車両総重量の変化を、特別な装備を要せず、自動運転中のアクセル応答によって検出することができ、目標加速度をえるためのアクセル開度を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】加速実験から取得する加速度表現での加速抵抗の事例説明図である。
【
図3】惰行実験から取得する加速度表現での空気抵抗ところがり抵抗の事例説明図である。
【
図4】実測加速抵抗と実測惰行抵抗を合算して、その合算値が双曲線になることを検証し双曲線定数を求めた事例説明図である。
【
図5】自重推定式及びアクセル制御式の事例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る自車の車両総重量の変化を推定し、目標加速度を生じさせるアクセル制御の方法は、エンジン制御入力としてのアクセル開度とその結果としての前後加速度、更に、前後加速度の結果としての車速を検出する手段、更に道路勾配を検出する手段を備えることも可能である。
【0027】
以下
図1により装備の形態から、課題とする自重を検出する方法と目標加速度を出力するアクセル制御法について説明する。
図1は、車両それぞれの制御装置(ECU)に備えられる走行性能線図である。ここでは、GVW25トンの大型4軸トラックの事例を用いて説明する。横軸に車速をとり、左縦軸に牽引力及び走行抵抗を単位ニュートンで示し、右縦軸にエンジン回転速度を示す。I,II,III,IV.・・・IX,X,XI,XIIは各ギヤにおけるエンジン回転と車速の関係を示す。図の左上から右下に並ぶ山形の線は、エンジントルク曲線にギヤ比を乗じて得られるギヤ各段の牽引力を示す。この各段牽引力を包絡する線は双曲線(xy=a
xy)になる。0%,3%,5%,・・・40%,45%の若干右上がりの曲線は道路勾配を示す。
【0028】
例えば、車速65km/hにおけるアクセル全開での牽引力は、14550(N)と読み取れる。その内、勾配0%の平坦路での走行抵抗が2000(N)で14%を占める。平坦路であるから、この14%はころがり抵抗(前述のb)と空気抵抗(前述のc)と解釈される。それが、3%勾配では8640(N)の59%になる。残りの41%が3%勾配における余剰牽引力になる。
【0029】
この余剰牽引力による加速度の大きさを算出すると0.229(m/S2)になる。65km/hにおいて、勾配0%では10速、11速、12速のギヤでの走行が可能であるが、3%勾配では12速では走行不可になり、5%勾配では11速、12速とも不可になり、10速へギヤを下げる必要があると読み取れる。この様に読み取って、運行経路のギヤシフト計画を組み立てる必要があるが、運行現場でのその時々の積載量、勾配、車速の変動に適応する計画が制御のため必要である。その必要を特別な装備を備えずに実行可能にするために牽引力と走行抵抗の「力」の代わりに「加速度」を用いる。加速度であれば、CANの車輪速ないしジャイロからの検出が可能であり、自動運転車両に普通に備えられている。
【0030】
図2は、牽引力と走行抵抗の「力」の代わりに「加速度」を用いるべく、実車加速実験から取得した加速抵抗の事例図である。上段左から空車アクセル100%、50%、40%、下段左から12トン積載でのアクセル100%、50%を示す。発生加速度は、アクセル開度に比例し、車両総重量に反比例する当然の結果が出ている。
【0031】
図3は、惰行実験から取得する加速度表現での空気抵抗ところがり抵抗の事例説明図である。(A)が空車、(B)が12t積載である。ころがり抵抗が積載量に依存し、車速の二乗に比例する空気抵抗が理論通り捉えられている。
図3において、上下方向の振幅が大きい線分がG計加速度を表し、中心の振幅の小さな線分が車速微分加速度を表す。
【0032】
図4は、
図3による実測加速抵抗と実測惰行抵抗を合算して、その合算値が双曲線になることを検証した図である。横軸を車速x(m/s)、縦軸を加速度y(m/s
2)、空車アクセル100%では双曲線22、アクセル50%では7.5、アクセル40%、更に、12t積載のアクセル100%では12、アクセル40%では3.5と、加速度はアクセル開度に比例し、積載量に反比例することが実証された。
【0033】
図5は、自重推定式及びアクセル制御式の事例説明図である。前記式(1)から、式(7)への展開、式(7)から式(13)への展開について、その展開の流れを図解している。
【0034】
図6は、勾配抵抗の求め方の説明図である。走行中に目標加速或いは指示加速度を生じるアクセル開度を決めるためには、その場、その場での車速と道路勾配を検出しておいて、自重検出に応える備える必要がある。3軸加速度計を備える。水平路路面で静止している時の前後加速度の読み値(G
x(static))は、勾配(θ)の坂道での静止状態では式(14)の-9.81xsineθ(m/s
2)になる。坂道で走行すると式(15)の静止加速度(G
static)に前進走行加速度が加わる。
【0035】
【0036】
図6の左下に勾配4%の坂路で、式(16)を実験検証した結果のグラフをジャイロピッチ角と比較して示す。四つのグラフは上段から車速、加速度、道路勾配、ジャイロピッチ角である。加速度のグラフは、加速度計による前後加速度(Gx)を緑色で示し、車輪速の微分値を赤色で示している。車輪速の微分値(赤色)のゼロは、一定速度で登坂していることを示している。このグラフの前後加速度と車輪速の微分値を式(16)に代入した計算結果を上段から3番目のグラフ(道路勾配)に示す。4°の勾配が検出されている。上段から4番目に比較検証のためのジャイロピッチ角を示す。初期値誤差が含まれているが、ジャイロピッチ角でも坂路勾配検出可能であることが分かる。
【0037】
図7は制御の流れの説明図である。積載量に伴って変化する車両総重量を推定することと、要求加速度に対するアクセル開度を出力することを、計算によって出力する流れと計算図表によって出力する流れを備える。図の上段に計算式の流れ図、下段に計算図表の流れを示す。
【0038】
上段の計算式の流れ図を左から右への順に説明する。CANからの車輪速と加速度計からの前後加速度を読み込んで式(16)に代入して道路勾配(θ)を検出する。平行して、GPSもしくはジャイロからのピッチ角(θ)を取り込んで、選択使用する。このθと、車輪速x(m/s)および検定加速度が式(13)に入力されて、θによってcの勾配抵抗が更新され、車速によってadx2の空気抵抗とFの車速依存の双曲線定数が更新され、検定加速度入力がdの加速抵抗に入力されて、積載比nが推定され、車両総重量が推定される。その車両総重量が式(12)に代入されて、アクセル開度が決まる。
【0039】
下段の計算図表について説明する。この図は、横軸のアクセル開度(F)と縦軸の加速度(d)の二次元で構成される。車速域を例えば、低速域、中速域、高速域と決めて使用する。空車で実施した予備実験データ(細線)を直線式で記述しておく。その直線と縦軸との交点が、空気抵抗ところがり抵抗と勾配抵抗で決まる“- adx2-(b+c)”に対応し、直線の傾きが、車両重量に対応する。実稼働において、積載されたら、アクセル開度と発生加速度を数点入力して、その数点の相関直線式を求める。求めた直線の傾きと空車直線式との傾きの比(n)になる。空車重量に求めたnを乗じることによって積載状態での車両総重量を推定することができる。また、推定した直線式によって、要求加速度(縦軸)に応答するアクセル開度を求めることができる。
【0040】
以上から、自重の変化、道路勾配の変化に適応して必要な加速度を発揮するアクセル制御式が可能になる。ここに述べた方法は、貨物運送車両や旅客輸送車両に限らず、動力源の種類に限らず全ての車両に適用できる普遍的な方法である。