(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】植生基盤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E02B 5/02 20060101AFI20241010BHJP
A01G 20/20 20180101ALI20241010BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20241010BHJP
A01G 24/44 20180101ALI20241010BHJP
【FI】
E02B5/02 Z
A01G20/20
A01G24/30
A01G24/44
(21)【出願番号】P 2021015726
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】三浦 玄太
(72)【発明者】
【氏名】長幡 逸佳
(72)【発明者】
【氏名】稲邉 裕司
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047307(JP,A)
【文献】特開平06-257162(JP,A)
【文献】特開2001-199776(JP,A)
【文献】特開2003-238224(JP,A)
【文献】特開2000-092978(JP,A)
【文献】特開2007-092474(JP,A)
【文献】特開2004-218283(JP,A)
【文献】特開2004-035355(JP,A)
【文献】特開平01-045752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/02
A01G 20/20
A01G 24/30
A01G 24/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂利、砕石、細砂の骨材によって集合体を形成
し、これら骨材の相互間に間隙が設けられた透水性基盤の前記間隙に、
保水性付与のためのビニロン繊維が担持された植生基盤であって、
前記ビニロン繊維は、前記透水性基盤の表面から流し込まれて、所定の深さ範囲まで達した樹脂系接着剤によって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂系接着剤の外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されていることを特徴とする植生基盤。
【請求項2】
砂利、砕石、細砂の骨材によって集合体を形成
し、これら骨材の相互間に間隙が設けられた透水性基盤の前記間隙に、
保水性付与のためのビニロン繊維が担持された植生基盤であって、
前記ビニロン繊維は、前記透水性基盤の全体に亘って、前記骨材相互間を固めるのに用いられる樹脂バインダーによって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂バインダーの外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されていることを特徴とする植生基盤。
【請求項3】
前記透水性基盤は、空隙率40%以上、透水係数1.3cm/s以上である請求項1、2いずれかに記載の植生基盤。
【請求項4】
上記請求項1記載の植生基盤を製造する方法であって、
前記透水性基盤の表面に、前記ビニロン繊維を混合した前記樹脂系接着剤を流し込むことを特徴とする植生基盤の製造方法。
【請求項5】
上記請求項2記載の植生基盤を製造する方法であって、
前記骨材と前記ビニロン繊維とを混合した後、前記樹脂バインダーで固めて成型することを特徴とする植生基盤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路壁面等の通水性と保水性を両立させた植生基盤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な生物の成育場所とされてきた水田や水路、ため池などが圃場の大規模開発やコンクリート化などにより、生物の成育が困難な場所へと変化してきている。生物の成育場所としての役割を維持するためには、生物の生育環境に配慮した施工を行うことが重要になる。
【0003】
これまでにも、下記特許文献1などに開示されるように、発泡セラミックスを利用した水路壁面等の緑化技術が提案され、一定の効果があることが確認されているが、発泡セラミックスは製作コストが高いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-92978号公報
【文献】特開2020-186557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、コスト面を考慮した上で、発泡セラミックスに代わる植生基盤の開発が必要となる。水路壁面等に設置する際の植生基盤に要求される条件としては、(1)内部が植物の根張りの妨げにならないこと、(2)水路壁面に設置した際の水流への耐久性が高いこと、などが挙げられる。かかる条件に適合する部材として、上記特許文献2に開示されるように、集合体を形成している骨材の相互間隙間が水通路として作用する透水性基盤が例示できる。この透水性基盤は、骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められることにより、集合体を形成している骨材の相互間に無機繊維を混合した樹脂バインダーが介在して骨材同士が3次元立体構造を形作って固定されるため、骨材の相互間に広い隙間が形成されてより高い排水性能が発揮されるようになるというものである。かかる透水性基盤は、従来のステンレス製グレーチングに代わる排水蓋などとして使用されるものであり、骨材間の空隙率が40%以上、透水係数が1.3cm/s以上の物性を備えるものである。
【0006】
上述の透水性基盤は、その高い空隙率から植物の根張りを妨げず、植生基盤としての機能が期待できるが、空隙率が高いことによる透水性の高さ故に保水性に乏しく、植物の生育において不安を抱えている。
【0007】
また、水路壁面に設置した際、水に浸っている下部はよいが、水に浸っていない上部は、その空隙率の高さ故に毛細管現象による水の供給も期待できず、植物が生育できない状況であった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、植物の根張りのための空隙を確保しつつ、植物の育成のための水分供給が可能な植生基盤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、砂利、砕石、細砂の骨材によって集合体を形成し、これら骨材の相互間に間隙が設けられた透水性基盤の前記間隙に、保水性付与のためのビニロン繊維が担持された植生基盤であって、
前記ビニロン繊維は、前記透水性基盤の表面から流し込まれて、所定の深さ範囲まで達した樹脂系接着剤によって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂系接着剤の外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されていることを特徴とする植生基盤が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明は、透水性基盤にビニロン繊維を担持する第1の形態例であり、前記ビニロン繊維が、前記透水性基盤の表面から流し込まれて、所定の深さ範囲まで達した樹脂系接着剤によって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂系接着剤の外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されている。このため、前記樹脂系接着剤が骨材への定着に寄与し、ビニロン繊維が透水性基盤から漏出するのが防止できるとともに、前記樹脂系接着剤によって骨材に担持されたビニロン繊維が保水性を担保するようになる。特に、本第1形態例では、透水性基盤の表面から所定の深さ範囲の間隙部にビニロン繊維が担持されているため、表層部に根張りした植物の根に充分に水分が供給できるようになる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、砂利、砕石、細砂の骨材によって集合体を形成し、これら骨材の相互間に間隙が設けられた透水性基盤の前記間隙に、保水性付与のためのビニロン繊維が担持された植生基盤であって、
前記ビニロン繊維は、前記透水性基盤の全体に亘って、前記骨材相互間を固めるのに用いられる樹脂バインダーによって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂バインダーの外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されていることを特徴とする植生基盤が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明は、透水性基盤にビニロン繊維を担持する第2の形態例であり、前記ビニロン繊維が、前記透水性基盤の全体に亘って、骨材相互間を固めるのに用いられる樹脂バインダーによって前記骨材に担持されるとともに、前記樹脂バインダーの外部に、該ビニロン繊維の一部が突出した状態で配置されている。本第2形態例では、特に、透水性基盤の全体に亘ってビニロン繊維が担持されているため、植生基盤の内部深くまで伸びた根にも充分に水分が供給できる。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記透水性基盤は、空隙率40%以上、透水係数1.3cm/s以上である請求項1、2いずれかに記載の植生基盤が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明では、前記透水性基盤の物性として、空隙率40%以上、透水係数1.3cm/s以上とすることにより、植物の根が内部に侵入しやすくなり、内部に侵入した根まで充分に水分が供給される。
【0015】
請求項4に係る本発明として、上記請求項1記載の植生基盤を製造する方法であって、
前記透水性基盤の表面に、前記ビニロン繊維を混合した前記樹脂系接着剤を流し込むことを特徴とする植生基盤の製造方法が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の発明は、植生基盤にビニロン繊維を担持する第1の方法について規定しており、前記透水性基盤の表面に、前記ビニロン繊維を混合した樹脂系接着剤を流し込むことにより、透水性基盤にビニロン繊維を担持している。前記ビニロン繊維を混合した樹脂系接着剤を、前記透水性基盤の表面に流し込むことにより、樹脂系接着剤が透水性基盤の内部に流入するとともに、その過程でビニロン繊維が骨材に担持される。
【0017】
請求項5に係る本発明として、上記請求項2記載の植生基盤を製造する方法であって、
前記骨材と前記ビニロン繊維とを混合した後、前記樹脂バインダーで固めて成型することを特徴とする植生基盤の製造方法が提供される。
【0018】
上記請求項5記載の発明は、植生基盤にビニロン繊維を担持する第2の方法について規定しており、骨材とビニロン繊維とを予め混合しておき、骨材相互間を固定する樹脂バインダーでビニロン繊維を骨材に定着させている。このため、植生基盤の全体に亘ってビニロン繊維を配置することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳説のとおり本発明によれば、植物の根張りのための空隙を確保しつつ、植物の育成のための水分供給が可能な植生基盤及びその製造方法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る植生基盤1を適用した水路2の平面図である。
【
図2】第1形態例に係る植生基盤1Aの断面図である。
【
図3】骨材4に担持されたビニロン繊維6と根張りした植物のイメージ図である。
【
図4】第2形態例に係る植生基盤1Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0022】
本発明に係る植生基盤1は、人工的な水路や河川、湖沼等の護岸面の他、法面や擁壁等、コンクリートなどからなる壁面の表面を緑化するため、これら壁面の表面に配置される植生用の基盤であり、これらの壁面における自然的景観の保全や生物多様性の向上を目的として、壁面における植物の育成を可能にするためのものである。
【0023】
図1は、前記植生基盤1を水路2の壁面3に設置したときの水路2の平面図である。この
図1に示されるように、本植生基盤1は、コンクリート製の床版部と該床版部の両側に立設された側壁部とからなる水路2に対し、前記両側壁部の内面(壁面3の表面)であって、少なくとも水面から壁面3の上端にかけて取り付けられる。
【0024】
前記植生基盤1は、
図2に示されるように、集合体を形成する骨材4、4…の相互間に間隙が設けられた透水性基盤5の前記間隙に、ビニロン繊維6、6…が担持されて成るものである。
【0025】
前記骨材4には、砂利や砕石、細砂などを適宜使用することが可能である。前記骨材4の集合体は、骨材4、4…の相互間に間隙が設けられており、この間隙を通じて通水や植物の根張りができるようになっている。
【0026】
前記骨材4の粒径(平均粒径)は適宜設定できるが、好ましくは30mm以下、特に20mm以下がより好ましい。骨材4の粒径は透水性基盤5の全体に亘ってほぼ一定としてもよいし、厚み方向に変化させてもよい。例えば、表面層の粒径を、それより外側の層の粒径と比較して小さくすることにより、植生基盤1の表面に植物の種子が着床して発芽しやすくしてもよい。
【0027】
前記透水性基盤5は、前記骨材4…の集合体からなり、前記骨材4の相互間に間隙が設けられることにより、高い通水性を備えている。この透水性基盤5の物性としては、空隙率が40%以上であり、透水係数が1.3cm/s以上であるのが好ましい。前記空隙率ρは、多孔質体における総体積Vに対する間隙の体積vの割合を百分率で表したものであり、ρ=v/V×100%から求めることができる。前記透水性基盤5が40%以上の高い空隙率を有することにより、植物の根が内部に侵入しやすく、植物の根張りを確実に行うことができる。また、前記透水係数は、水の流れやすさを示し、この値が大きければ水を通しやすく、反対に小さければ水を通しにくい。前記透水性基盤5が1.3cm/s以上の高い透水係数を有することにより、水路2を流れる水や雨水等が植生基盤1の内部まで浸透しやすくなる。
【0028】
また、前記透水性基盤5は、骨材4として、砂利や砕石、細砂などを用いているため、従来の発泡セラミックスなどからなるものと比較して製造コストを大幅に低減することができる。
【0029】
前記ビニロン繊維6は、ポリビニールアルコール(PVA)からなる合成繊維で、建設分野ではセメントコンクリートの補強材に用いられるなど、産業用・工業用の分野において広く使用されている。このビニロン繊維の特徴の一つに、吸水性・親水性があり、常時3~5%の水分が保持でき、温度が上昇すると最大12%程度まで吸水できるという性質を有するものである。また、ビニロン繊維は、耐アルカリ性も高いため、セメントコンクリートを多用する建設現場でも問題なく使用でき、漁網にも使用されるように強度、耐候性、耐摩耗性にも優れているため、植生基盤1に適用したとしても、長期間に亘って植生基盤としての性能が維持できる。また、ビニロン繊維の化学構造は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)からなり、燃焼させたとしてもダイオキシン等の有害ガスを発生させることもない。
【0030】
本発明に係る植生基盤1では、前記骨材4…の集合体である透水性基盤5の間隙に、所定の手段によって前記ビニロン繊維6を担持することことによって、保水性を付与し、植物の育成のための水分供給ができるようにしている。
【0031】
前記ビニロン繊維6を担持する手段としては、以下の2つの形態のいずれかを用いることができる。第1の形態例に係る植生基盤1Aでは、
図2に示されるように、前記ビニロン繊維6は、前記透水性基盤5の表面から流し込まれて、所定の深さ範囲まで達した樹脂系接着剤によって前記骨材4に担持されるとともに、前記樹脂系接着剤の外部に、該ビニロン繊維6の一部が突出した状態で配置されている。
【0032】
前記樹脂系接着剤が骨材4…の間隙間を流通する過程で、この樹脂系接着剤が、該樹脂系接着剤に混入されたビニロン繊維6を骨材4に定着させるのに寄与し、ビニロン繊維6が透水性基盤5から漏出するのを防止するとともに、該樹脂系接着剤に担持されたビニロン繊維6が保水性を担保するように作用する。このため、透水性基盤5の骨材4…相互の間隙に植物の根が伸びてしっかりと根張りができるとともに、通水性が維持され、且つ、
図3に示されるように、骨材4に定着したビニロン繊維6から植物の根に対し、育成のための充分な水分が供給されるようになる。
【0033】
特に、本第1形態例では、透水性基盤5の表面から所定の深さ範囲にビニロン繊維6が担持されているため、表層部に根張りした植物の根に充分な水分が供給できる。
【0034】
前記樹脂系接着剤が流入する深さ範囲としては、透水性基盤5の厚みに対して、10~100%、好ましくは10~50%、より好ましくは20~50%である。
【0035】
前記樹脂系接着剤としては、公知の合成系の接着剤を任意に使用することができ、その中でも、2液性のエポキシ系接着剤又はシリコン系接着剤を用いるのが好ましい。
【0036】
第1形態例に係る植生基盤1Aを製造するには、予め、樹脂系接着剤にビニロン繊維6を混合した混合液を作製しておき、透水性基盤5の表面に、この混合液を流し込む。これにより、樹脂系接着剤が透水性基盤5の骨材4…の間隙間に流入するのに伴って、ビニロン繊維6も流入し、その過程で、前記樹脂系接着剤の外部に一部が突出した状態でビニロン繊維6が骨材4に定着する。このとき、低粘度の樹脂系接着剤を用いることにより、骨材4…の間隙が接着剤によって塞がれるのが防止でき、空隙率の減少を軽微に抑えることができる。
【0037】
次いで、第2形態例に係る植生基盤1Bでは、
図4に示されるように、前記ビニロン繊維6は、前記透水性基盤5の全体に亘って、前記骨材4…相互間を固めるのに用いられる樹脂バインダーによって骨材4に担持されるとともに、前記樹脂バインダーの外部に、該ビニロン繊維6の一部が突出した状態で配置されている。
【0038】
本第2形態例に係る植生基盤1Bを製造するには、骨材4とビニロン繊維6とを混合した後、これに骨材4…相互間を固めるのに用いられる樹脂バインダーを投入し、前記樹脂バインダーで固めて成型する。これにより、樹脂バインダーの外部にビニロン繊維6の一部が突出した状態で配置されるようになる。
【0039】
特に、本第2形態例では、透水性基盤5の全体に亘ってビニロン繊維6が担持されるため、植生基盤1Bの内部深くまで伸びた根にも充分に水分が供給できるようになる。また、この場合でも、前記ビニロン繊維6を混入したことにより空隙率の減少は軽微であり、植生基盤1Bとしての機能を充分に果たすことができる。
【0040】
ところで、前記ビニロン繊維6の繊維径や長さは任意であり、樹脂系接着剤又は樹脂バインダーの外部に一部が突出した状態で配置されやすい形態であれば、どのようなものを用いても構わないが、長繊維のものを用いるのが好ましい。
【0041】
また、ビニロン繊維6の添加量についても特に制限はない。前記ビニロン繊維6は、植生基盤1の全体に亘ってほぼ均一に配置することができ、また、例えば、水路2の平均水位より上側の領域にはビニロン繊維6を多く配置するなどのように、所定の領域に多く配置してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1・1A・1B…植生基盤、2…水路、3…壁面、4…骨材、5…透水性基盤、6…ビニロン繊維