(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】脚部制振構造および同構造に用いる拘束金物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241010BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241010BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241010BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241010BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04B1/24 R
E04B1/58 511H
F16F15/04 A
F16F15/08 X
(21)【出願番号】P 2021028119
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020053125
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592090555
【氏名又は名称】パシフィックコンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智
(72)【発明者】
【氏名】高木 康秀
(72)【発明者】
【氏名】角地 俊行
(72)【発明者】
【氏名】成田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴文
(72)【発明者】
【氏名】北島 達広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義隆
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 二郎
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-77661(JP,A)
【文献】特開2010-174938(JP,A)
【文献】特開2010-112389(JP,A)
【文献】特開平7-286362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04B 1/24
E04B 1/58
F16F 15/04
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物、機器類のベースプレートをその下方から立ち上げたアンカーボルトとナットとで固定してなる構造物、機器類の脚部制振構造であって、
前記ベースプレートと、前記ベースプレートの上面及び/又は下面に設けた制振部材とが前記アンカーボルトで串刺し状に貫通された状態で、前記制振部材の変形を抑制する拘束金物の水平部を介在させてナットで固定されていること、
前記拘束金物は、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と前記水平部を支持する立ち上がり部とを備えていることを特徴とする、脚部制振構造。
【請求項2】
前記制振部材は、ゴム材またはバネ材であることを特徴とする、請求項1に記載した脚部制振構造。
【請求項3】
下部拘束プレートの上面に構築されることを特徴とする、請求項1又は2に記載した脚部制振構造。
【請求項4】
前記拘束金物は、前記立ち上がり部を接地させたとき、前記水平部の下面が前記ベースプレート又は前記制振部材と接するか又は下方へ押さえつけるように配置される構成であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載した脚部制振構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の脚部制振構造に用いる拘束金物であって、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と、前記ベースプレートの外側から立ち上がり前記水平部を支持する立ち上がり部とからなることを特徴とする、拘束金物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の脚部制振構造に用いる拘束金物であって、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と、前記ベースプレートを貫通して立ち上がり前記貫通孔と連通する筒状の立ち上がり部とからなる段付きワッシャであることを特徴とする、拘束金物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、照明柱、標識柱、信号柱等の柱状構造物、建物等の建築構造物(以下纏めて、構造物と略す場合がある。)、又は機器類のベースプレートをその下方の基礎等から立ち上げたアンカーボルトとナットとで固定してなる、構造物、機器類の脚部制振構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来から構造物の脚部(柱脚部)を構成するベースプレートにゴム材等の制振部材を取りつけて振動の吸収効果を得る技術は、種々開示されている(例えば、特許文献1~4を参照)。前記ゴム材等の制振部材は、前記特許文献1~4に示したように、アンカーボルトを介して挟み付ける構成が構造上シンプルで、機械的に実施できることから近年でもよく採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-286362号公報
【文献】特開平10-025759号公報
【文献】特開平10-299081号公報
【文献】特開2006-233488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記アンカーボルトを介して挟み付ける構成は、前記特許文献1の
図1を例に説明すると、前記制振部材4がナット5の締め付け力(アンカーボルト3の軸力)により経時的に劣化、損傷する等して制振効果が小さくなるという解決するべき課題があった。
【0005】
また、例えば橋や道路に設置される照明柱、標識柱、信号柱等の柱状構造物においては、橋梁や道路を車両が通行することによって生じる振動(交通振動)が前記柱状構造物のベースプレートから伝わり疲労破壊に繋がる虞があった。風等の水平力を受けると(カルマン)渦が発生するが、この渦の周期と柱状構造物の固有周期とが一致すると共振現象、ひいては渦励振が起こる。この渦励振が柱状構造物に作用すると疲労破壊に繋がる虞もあった。
【0006】
本発明は、上記した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、前記ナットの締め付け力(前記アンカーボルトの軸力)を制御可能な拘束金物を用いることにより、前記制振部材の制振効果をより長く保持できる、構造物、機器類の脚部制振構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る脚部制振構造は、構造物、機器類のベースプレートをその下方から立ち上げたアンカーボルトとナットとで固定してなる構造物、機器類の脚部制振構造であって、
前記ベースプレートと、前記ベースプレートの上面及び/又は下面に設けた制振部材とが前記アンカーボルトで串刺し状に貫通された状態で、前記制振部材の変形を抑制する拘束金物の水平部を介在させてナットで固定されていること、
前記拘束金物は、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と前記水平部を支持する立ち上がり部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した脚部制振構造において、前記制振部材は、ゴム材またはバネ材であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した脚部制振構造において、下部拘束プレートの上面に構築されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載した脚部制振構造において、前記拘束金物は、前記立ち上がり部を接地させたとき、前記水平部の下面が前記ベースプレート又は前記制振部材と接するか又は下方へ押さえつけるように配置される構成であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載した発明に係る拘束金物は、請求項1~4のいずれかに記載の脚部制振構造に用いる拘束金物であって、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と、前記ベースプレートの外側から立ち上がり前記水平部を支持する立ち上がり部とからなることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載した発明に係る拘束金物は、請求項1~4のいずれかに記載の脚部制振構造に用いる拘束金物であって、前記アンカーボルトが挿通される貫通孔を有する水平部と、前記ベースプレートを貫通して立ち上がり前記貫通孔と連通する筒状の立ち上がり部とからなる段付きワッシャであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(1)基礎等に反力を得てナットの締め付け力(アンカーボルトの軸力)に抵抗可能な立ち上がり部を備えた拘束金物を用いて実施するので、前記立ち上がり部の内側高さを設計変更することにより、ナットの締め付け力(アンカーボルトの軸力)を自在に制御できる。よって、制振部材を過剰(過度)に圧縮しないように実施できる等、従来技術と比し、
制振部材の制振効果をより長く保持することができる。これに伴い、ベースプレートに設けた制振部材が適度に変形して(過剰に変形しないで)振動エネルギーを吸収することで振動の振幅を小さくして疲労破壊を防ぐ等、柱状構造物の交通振動対策や渦励振対策としても好適な脚部制振構造を実現することができる。
(2)もとより、照明柱、標識柱、信号柱等の柱状構造物の柱に飛来物や車両の衝突があった際に、制振部材が変形して振動エネルギーを吸収することで当該柱の損傷を緩和することもできる。
(3)制振部材の制振効果をより長く保持できることに伴い、メンテナンスフィーを軽減できる等、経済性に優れている。機械的な作業で確実に構築できるので、熟練工を必要としない等、施工性にも優れている。
(4)制振部材の大部分を拘束金物で覆って実施できるので、紫外線による制振部材の劣化・損傷の防止に寄与できる。また、アンカーボルトが挿通される貫通孔を広げてアンカーボルトへの接触面積を広くすることで制振部材の劣化・損傷を緩和することもできる。
(5)その他、使用する制振部材の厚み、ベースプレートの板厚を実測してから拘束金物の高さを決定し、製造することで板厚公差を吸収できる等、所望の制振効果を確実に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Aは、本発明に係る脚部制振構造の実施例1を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図2】A、Bはそれぞれ、
図1に係る制振部材を示した斜視図である。
【
図3】Aは、
図1に係る拘束金物を示した正面図であり、Bは、同左側面図であり、Cは、同底面図であり、Dは、同斜視図である。
【
図4】Aは、
図1に係る拘束金物を示した正面図であり、Bは、同右側面図であり、Cは、同底面図であり、Dは、同斜視図である。
【
図5】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例2を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図6】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例3を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図7】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例4を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図8】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例5を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図9】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例6を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図10】Aは、本発明に係る脚部制振構造の異なる実施例7を示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図11】Aは、
図10に係る拘束金物を示した正面図であり、Bは、同平面図である。
【
図12】Aは、実施例1のバリエーションを示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図13】Aは、
図12に係る拘束金物を示した平面図であり、Bは、同正面図であり、Cは、同右側面図であり、Dは、同斜視図である。
【
図14】Aは、実施例1のバリエーションを示した立面図であり、Bは、同平面図である。
【
図15】Aは、
図14に係る拘束金物を示した平面図であり、Bは、同正面図であり、Cは、同右側面図であり、Dは、同斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る脚部制振構造および同構造に用いる拘束金物の実施例を図面に基づいて説明する。なお、実施例1~実施例7(
図1~
図15)では、照明柱、標識柱、信号柱等の柱状構造物に本発明を適用した場合について説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明に係る柱状構造物の脚部制振構造は、
図1~
図4に示したように、照明柱等の柱状構造物1のベースプレート11をその下方の基礎10から立ち上げたアンカーボルト2とナット3とで固定してなる。
前記ベースプレート11と、前記ベースプレート11の上面(及び/又は下面)に設けた制振部材4とが前記アンカーボルト2で串刺し状に貫通された状態で、前記制振部材4の変形を抑制する拘束金物5の水平部52を介在させてナット3で固定されている。
前記拘束金物5は、前記アンカーボルト2が挿通される貫通孔52aを有する水平部52と前記水平部52を支持する立ち上がり部51とを備えている。
ちなみに、図中の符号12は補強リブであり、前記ベースプレート11の上面に、前記ベースプレート11と前記柱状構造物1の脚部とのいずれにも直角となる方向に溶接によりバランスよく複数枚(図示例では四方に1枚ずつ計4枚)設けられている。
【0017】
前記基礎10は、一例として、道路脇のコンクリート基礎を示している。
前記アンカーボルト2は、下端部が基礎10に埋設され、上端部が基礎10の天端から略鉛直に立ち上がる構成で、平面視で略正方形の頂点に相当する配置に計4本立設されている。図示例に係る前記4本のアンカーボルト2は、前記ベースプレート11の各コーナー部近傍位置に穿設された計4つの貫通孔11aを貫通可能な配置に立設されている。
【0018】
前記ベースプレート11は、前記柱状構造物1の脚部の下端と溶接等の接合手段で一体化されている。このベースプレート11は、本実施例では板厚34mmの平面視略正方形状で実施され、前記4本のアンカーボルト2の上端部に対し、前記4つの貫通孔11aをそれぞれ位置合わせして挿入することにより前記基礎10の上面に略水平に載置されている。
【0019】
また、前記ベースプレート11の各コーナー部の上面には、前記制振部材4が、略中央部に設けた貫通孔4aに前記アンカーボルト2の上端部を挿通させた状態で載置されている。図示例に係る制振部材4は、前記ベースプレート2のコーナー部に納まりやすく、かつ、使用する拘束金物5に覆われるほどに小さい平面視多角形状で、均等厚(一例として8mm)に成形した所望の減衰効果を発揮するフラット型のゴム材で実施されている。
【0020】
前記拘束金物5は、制振部材4の変形を抑制(拘束)するための金属製の金物であり、
前記4つの制振部材4の上方にそれぞれ、やはり前記アンカーボルト2により串刺し状に貫通されて位置決めされている。
前記拘束金物5は、
図3、
図4にも示したように、2種類成形され、ともに前記水平部52と、前記ベースプレート11の外側から立ち上がり前記水平部52を支持する立ち上がり部51とからなる。より詳しく説明すると、図示例に係る拘束金物5は、前記ベースプレート11のコーナー部の外側に沿うように平面視直角2方向から立ち上がる2つの立ち上がり部51、51と、前記立ち上がり部51、51と連設されて前記ベースプレート11のコーナー部を覆うように折り曲げ成形される水平部52とからなる自立可能な構成で実施されている。そして、前記水平部52の略中央部に穿設した貫通孔52aに前記アンカーボルト2の上端部を貫通させた状態で、前記水平部52が前記制振部材4の直上に位置決めされる。
ちなみに前記拘束金物5の大きさは、一例として、
図3、
図4の符号S1が41.5mm、S2が47.5mm、S3が152mm、S4が127mmで実施されている。板厚は6mmで折り曲げ成形されている。
【0021】
すなわち、本実施例では、前記ベースプレート11の板厚が34mm、前記制振部材4の厚みが8mm、の合わせて42mmであるのに対し、前記拘束金物5の内側高さ(S1)が41.5mmである。よって、
図1Bに示したように、前記拘束金物5の立ち上がり部51を前記基礎10の上面に接地させると、同時に、前記制振部材4の直上に位置する前記拘束金物5の水平部52が前記制振部材4を下方へ0.5mmほど押さえつけることになる。
この状態で、前記ナット3の締め付け作業を前記拘束金物5の水平部52の上面に当接するまで行うことにより、また、前記アンカーボルト2の本数に応じて繰り返し行うことにより、前記アンカーボルト2に順に串刺し状に貫通されたベースプレート11、制振部材4、および拘束金物5(の水平部52)が基礎10の上面に整列された状態で固定される。
【0022】
なお、本実施例では、前記拘束金物5の水平部52が前記制振部材4を下方へ0.5mmほど押さえつける構成で実施しているが、この数値は所望の制振効果(減衰効果)等を勘案した構造設計に応じて適宜設計変更可能である。押さえつけず、単に接する構成で実施することもできる。
また、前記ベースプレート11、制振部材4、又は拘束金物5の大きさは、もちろん前記に限定されず適宜設計変更可能である。前記拘束金物5の水平部52の平面形状は、前記制振部材4の平面形状よりも一回り大きい相似形状(矩形状の角部を適宜直線状に切除した多角形状)で実施しているが、適宜設計変更可能である。
例えば、
図12、
図13および
図14、
図15に係る脚部制振構造は、拘束金物8、8’を一体成型品(鋳物)で実施している。この一体成型品である拘束金物8、8’は、折り曲げ成形品である前記拘束金物5と比し、より緻密な構造を呈する。
具体的に、
図12、
図13に係る拘束金物8は、水平部82の縁を下向きに僅かにカーブさせてベースプレート11の上面に当接可能な垂下部82bを備えるほか、ナット3の位置決めを容易ならしめる凹部82cも備えている。前記垂下部82bの突出量は、制振部材4の厚さ未満に設定される。すなわち、前記垂下部82bの先端が、ナット3を締め付けたときベースプレート11に接しない構成とされる。ちなみに図中の符号81は立ち上がり部、符号82aは貫通孔、符号82dは前記凹部82cに雨水等が溜まることを防ぐ水切り溝を示している。
図14、
図15の拘束金物8’は、寸法等の形態は若干相違するものの前記拘束金物8の垂下部82bに相当する垂下部82b’や凹部82cに相当する凹部82c’を備えている。加えて、水平部82’の下面における貫通孔82a’周りにリング状の突出部82d’を形成している。前記突出部82d’の突出量は、制振部材4の厚さ未満に設定され、前記垂下部82b’の突出量は、前記突出部82d’の突出量以下に設定される。すなわち、前記突出部82d’および前記垂下部82b’の先端が、ナット3を締め付けたときベースプレート11に接しない構成とされる。ちなみに図中の符号81’は立ち上がり部、符号82e’は前記凹部82c’に雨水等が溜まることを防ぐ水切り溝を示している。
以下に説明する実施例2~7についても、折り曲げ成形品である拘束部材5に代えて一体成型品である拘束金物8、8’で実施できる。
【0023】
したがって、この実施例1に係る柱状構造物の脚部制振構造によれば、以下の効果を奏する。
(1)基礎10に反力を得てナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)に抵抗可能な立ち上がり部51を備えた拘束金物5を用いて実施するので、前記立ち上がり部51の内側高さ(S1)を調整することにより、ナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)を自在に制御できる。
よって、制振部材4を過剰(過度)に圧縮しないように実施できる等、従来技術と比し、制振部材4の制振効果をより長く保持することができる。これに伴い、ベースプレートに設けた制振部材が適度に変形して(過剰に変形しないで)振動エネルギーを吸収することで振動の振幅を小さくして疲労破壊を防ぐ等、柱状構造物の交通振動対策や渦励振対策としても好適な脚部制振構造を実現することができる。
(2)もとより、照明柱、標識柱、信号柱等の柱状構造物の柱に飛来物や車両の衝突があった際に、制振部材4が変形して振動エネルギーを吸収することで当該柱の損傷を緩和することもできる。
(3)制振部材4の制振効果をより長く保持できることに伴い、メンテナンスフィーを軽減できる等、経済性に優れている。機械的な作業で確実に構築できるので、熟練工を必要としない等、施工性にも優れている。
(4)制振部材4の大部分を拘束金物5で覆って実施できるので、紫外線による制振部材4の劣化・損傷の防止に寄与する。また、アンカーボルト2が挿通される貫通孔4aを広げてアンカーボルト2への接触面積を広くすることで制振部材4の劣化・損傷を緩和することもできる。
(5)その他、使用する制振部材の厚み、ベースプレートの板厚を実測してから拘束金物の高さを決定し、製造することで板厚公差を吸収できる等、所望の制振効果を確実に実現できる。
(6)前記拘束金物5の代わりに前記拘束金物8で実施すると、前記垂下部82の下向きの突出効果により、より確実に制振部材4を過剰に圧縮しないように実施できる。具体的には、柱状構造物1に風荷重等が載荷されることによりベースプレート11にモーメントが生じ、ベースプレート11上の制振部材4に過度の圧縮荷重が生じた場合、当該圧縮荷重を前記垂下部82が負担することで、制振部材4の劣化、損傷を未然に防止できる。また、より確実に制振部材4を覆うことができるので、紫外線による制振部材4の劣化・損傷の防止に更に寄与できる。
また、前記拘束金物5の代わりに前記拘束金物8’で実施すると、前記垂下部82’よりも突出寸法が長い前記リング状の突出部82d’の下向きの突出効果により、より確実に制振部材4を過剰に圧縮しないように実施できる。具体的には、柱状構造物1に風荷重等が載荷されることによりベースプレート11にモーメントが生じ、ベースプレート11上の制振部材4に過度の圧縮荷重が生じた場合、当該圧縮荷重を前記リング状の突出部82d’が負担することで、制振部材4の劣化、損傷を未然に防止できる。また、前記垂下部82’が制振部材4を覆うことができるので、紫外線による制振部材4の劣化・損傷の防止に更に寄与できる。この拘束金物8’によれば、圧縮荷重を受ける部位が、ナット3締め付け部近傍のリング状の突出部82d’であるため、垂下部82で受ける拘束金物8と比し、応力集中が起こりにくく、より効果的に圧縮荷重を負担できる利点がある。
【実施例2】
【0024】
図5は、実施例2に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例2に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と比し、前記制振部材4、及び前記拘束金物5の平面形状が異なる点が相違する(
図1Bと
図5Bとを対比して参照)。
よって、この実施例2に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と同様に、基礎10に反力を得てナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)に抵抗可能な立ち上がり部51を備えた拘束金物5を用いて実施することに何ら変わりはない。
したがって、上記実施例1と同様の作用効果を奏する(前記段落[0023]参照)。
【実施例3】
【0025】
図6は、実施例3に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例3に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と比し、前記ベースプレート11、制振部材4、及び前記拘束金物5の平面形状が異なる点が相違する(
図1Bと
図6Bとを対比して参照)。
【0026】
よって、この実施例3に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と同様に、基礎10に反力を得てナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)に抵抗可能な立ち上がり部51を備えた拘束金物5を用いて実施することに何ら変わりはない。
したがって、上記実施例1と同様の作用効果を奏する(前記段落[0023]参照)。
【実施例4】
【0027】
図7は、実施例4に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例4に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1の構成に加え、さらに、前記ベースプレート11の下面に、前記ベースプレート11と略同じ面積を有する制振部材(ゴム材)6を付設している点が相違する(
図1Aと
図7Aとを対比して参照)。これに伴い、前記拘束金物5の立ち上がり部51の高さを前記制振部材6の厚み分だけ高く設定している。ちなみに、この制振部材6にもアンカーボルト2を貫通させるための挿通孔が4箇所穿設されている。
【0028】
よって、この実施例4に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と同様に、基礎10に反力を得てナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)に抵抗可能な立ち上がり部51を備えた拘束金物5を用いて実施することに何ら変わりはない。したがって、上記実施例1と同様の作用効果を奏する(前記段落[0023]参照)。加えて、前記制振部材6を追加した効果により、上記実施例1よりも高い減衰効果を発揮することができる。
【実施例5】
【0029】
図8は、実施例5に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例5に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例4の構成に加え、さらに、前記制振部材6の下面に、前記制振部材6よりも一回り広い面積を有する下部拘束プレート7を付設している点が相違する(
図7と
図8とを対比して参照)。ちなみに、前記下部拘束プレート7は、その上面に制振部材6を安定した状態で載置することが可能な金属製のプレートであり、この下部拘束プレート7にもアンカーボルト2を貫通させるための挿通孔が4箇所穿設されている。
【0030】
よって、この実施例5に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例4と同様の作用効果を奏する(前記段落[0028]参照)ことに加え、前記下部拘束プレート7を、(レベルが出ていない)基礎10と制振部材6との間に介在させることにより、前記制振部材6を前記下部拘束プレート7上に隙間なく密着させて安定した状態で載置できるので、上記実施例4と比し、前記制振部材6、ひいては前記柱脚制振構造の制振効果をより確実に発揮させ得る構造を実現できる。例えば、レベルや建ちの調整をベースプレート11の下方にナット等を用いて行うことがあるが(図示省略)、この場合、前記ベースプレート11の下に制振部材6を安定した状態で載置するのに難渋するところ、前記制振部材6の下に下部拘束プレート7を設けることにより前記制振部材6を容易に安定した状態で載置できるので、特に効果的である。
【実施例6】
【0031】
図9は、実施例6に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例6に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例1と比し、制振部材4(又は6)の設置部位が前記ベースプレート11の上面(又は下面)である点が相違する(
図1Aと
図9Aとを対比して参照)。また、上記実施例4と比し、前記制振部材4がなく、前記ベースプレート11の下面に設けた制振部材6のみで減衰効果を図る構成とした点が相違する(
図7と
図9とを対比して参照)。その他、拘束金物5の平面形状も若干相違する。
【0032】
よって、この実施例6に係る柱状構造物の脚部制振構造は、制振部材6の設置部位が前記ベースプレート11の上面か又は下面かの違いはあるものの、上記実施例1と同様に、基礎10に反力を得てナット3の締め付け力(アンカーボルト2の軸力)に抵抗可能な立ち上がり部51を備えた拘束金物5を用いて実施することに何ら変わりはない。したがって、上記実施例1と同様の作用効果を奏する(前記段落[0023]参照)。
【実施例7】
【0033】
図10、
図11は、実施例7に係る柱状構造物の脚部制振構造を示している。
この実施例7に係る柱状構造物の脚部制振構造は、上記実施例2と比し、拘束金物5に代えて段付きワッシャタイプの拘束金物9を用いている点が相違する(
図5と
図10、
図11とを対比して参照)。その他、一回り小さい制振部材4を採用している点も相違する。
前記拘束金物9は、前記アンカーボルト2が挿通される貫通孔9aを有する水平部92と、前記ベースプレート11を貫通して立ち上がり前記貫通孔9aと連通する筒状(図示例では円筒形)の立ち上がり部91とからなる。
【0034】
この実施例7に用いるベースプレート11と制振部材4は予め、前記拘束金物9の立ち上がり部91aが挿入可能な少し大きい貫通孔11a、4aを形成しておき、前記ベースプレート11、制振部材4を順に位置決めし、前記貫通孔11a、4a内にアンカーボルト2を串刺し状に貫通させると共に前記拘束金物9の立ち上がり部91aを挿入して立設し、後は上記各実施例と同様に水平部92の上面でナット3の締め付け作業を行う要領で脚部制振構造を構築する。
【0035】
よって、この実施例7に係る柱状構造物の脚部制振構造は、拘束金物9の形態に違いはあるものの、前記拘束金物5と同様の機能を発揮する立ち上がり部91と水平部92とを備えていることに変わりはない。したがって、上記実施例2、即ち上記実施例1と同様の作用効果を奏する(前記段落[0023]参照)。
【0036】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、前記拘束金物8、8’は、一体成型品として鋳物を例に説明しているが、鋳物に限らず、3Dプリンターや削り出し加工により作製することもできる。また、前記アンカーボルト2は、4本で実施しているが勿論これに限定されず、サイズも含め適宜設計変更可能である。前記制振部材4、6はゴム材で実施しているがこれに限定されず、バネ材その他の弾性材でも同様に実施できる。
【0037】
さらに、図面(実施例1~実施例7)では、本発明を柱状構造物の脚部制振構造に適用する場合について説明したが、本発明の適用対象はこれに限定されない。柱脚構造物に代えて、ベースプレート11の上面にH形鋼等の鉄骨柱が立設される構成の建物等の建築構造物にも同様に適用できるし、又は、ベースプレート(ベース盤)11の上面に取り付けプレートや絶縁プレートを介して設けられる構成の機器類にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 柱状構造物
2 アンカーボルト
3 ナット
4 制振部材
4a 貫通孔
5 拘束金物
51 立ち上がり部
52 水平部
52a 貫通孔
6 制振部材
7 下部拘束プレート
8 拘束金物
81 立ち上がり部
82 水平部
82a 貫通孔
82b 垂下部
82c 凹部
82d 水切り溝
8’ 拘束金物
81’ 立ち上がり部
82’ 水平部
82a’貫通孔
82b’垂下部
82c’凹部
82d’突出部
82e’水切り溝
9 拘束金物
9a 貫通孔
91 立ち上がり部
92 水平部
10 基礎
11 ベースプレート
11a 貫通孔
12 補強リブ