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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】評価方法、評価装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20241010BHJP
   G21C 3/62 20060101ALI20241010BHJP
   G21C 5/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
G21C17/00 230
G21C3/62 225
G21C5/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021032704
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022039916
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020143971
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】浅野 耕司
(72)【発明者】
【氏名】村上 望
(72)【発明者】
【氏名】坪田 忍
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-236677(JP,A)
【文献】KHERADMAND SOROUCH, et al.,Optimized Gadolinia Repartition(OGR) fuel assembly design concept for stable cycle management in PWRs,Proceedings of ICAPP 2011,2011年05月,p.1616-1625
【文献】原子炉運転期間の設定の妥当性確認に関する評価の基本的考え方,日本,安全評価ワーキンググループ(長期サイクル炉心評価),2009年10月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
G21C 3/00-3/64
G21C 5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定するステップと、
前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、
前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップと、
前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、
を含む各ステップを反復して実行する、評価方法。
【請求項2】
前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップと、前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップとは、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップにおいて、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価が、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の評価よりも良好であると判定された場合に行う、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記燃料棒の主蒸気管判断事故時における評価を行うステップでは、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時におけるDNBR評価を行い、
前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップでは、前記燃料棒のPCI評価及び腐食評価を行う、
請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記上部領域及び前記下部領域の領域長を設定するステップでは、前記上部領域の領域長を前記下部領域の領域長以上の長さに設定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記上部領域のガドリニウム濃度と、前記下部領域のガドリニウム濃度とは、同じである、
請求項1から4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記上部領域及び前記下部領域の領域長を設定するステップでは、前記上部領域及び前記下部領域の領域長を、それぞれ、燃料ペレットの高さに比例し設定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記主蒸気管破断事故における評価と、前記燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足する前記燃料棒に対して、キセノン振動解析を実行するステップと、
前記燃料棒と燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒のキセノン振動解析の解析結果と比較するステップと、更に含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定する領域設定部と、
前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定する濃度設定部と、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行う第1評価部と、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較する第1比較部と、
前記燃料棒の燃料健全性評価を行う第2評価部と、
前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較する第2比較部と、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認する基準判断部と、
を備え、
前記領域設定部と、前記濃度設定部と、前記第1評価部と、前記第1比較部と、前記第2評価部と、前記第2比較部と、前記基準判断部とは、反復して処理を実行する、評価装置。
【請求項9】
原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定するステップと、
前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、
前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップと、
前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、
前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、
を含む各ステップを反復してコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、評価装置、プログラム、および燃料棒に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の運転時において、余剰反応を抑制するため、ガドリニウムを含有した燃料棒が用いられている。例えば、特許文献1には、軸方向に亘って熱出力を均一化し、運転サイクルを長くすることのできる燃料棒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-154861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、燃料棒における可燃性毒物の含有率を、軸方向の両端部から中央部へ向けて高くすることで、熱出力を均一化している。しかしながら、可燃性の毒物の含有率と、両端部および中央部の領域長などの組み合わせは、無数に存在するため良好な組み合わせを決定することは容易でない。
【0005】
本開示は、燃料棒におけるガドリニウム濃度と上部領域及び下部領域の領域長とを良好に設定することのできる評価方法、評価装置、およびプログラムを提供することを目的とする。
【0006】
また、本開示は、ガドリニウム濃度と上部領域及び下部領域の領域長とが良好に設定された燃料棒を提供することを目的とする。
【0007】
本開示の一態様に係る評価方法は、原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定するステップと、前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップと、前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、を含む。
【0008】
本開示の一態様に係る評価装置は、原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定する領域設定部と、前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定する濃度設定部と、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行う第1評価部と、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較する第1比較部と、前記燃料棒の燃料健全性評価を行う第2評価部と、前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較する第2比較部と、前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認する基準確認部と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係るプログラムは、原子炉に装荷される燃料棒の燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域の領域長を設定するステップと、前記燃料領域の軸方向における上部領域及び下部領域のガドリニウム濃度を、中央部領域のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、前記燃料棒の燃料健全性評価を行うステップと、前記燃料棒の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0010】
本開示の一態様に係る燃料棒は、燃料棒であって、軸方向における燃料領域の中央部領域と、前記中央部領域よりもガドリニウム濃度の低い前記燃料領域の上部領域及び下部領域と、を有し、主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果が、それぞれ、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果とに比べて良好であり、かつ前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足する。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、燃料棒におけるガドリニウム濃度と上部領域及び下部領域の領域長とを良好に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る燃料集合体を模式的に示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係る燃料集合体を、燃料棒の軸方向に直交する方向で切ったときの断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る燃料棒の一部を破断して示した図である。
図4図4は、第1実施形態に係る燃料棒の燃料領域を説明するための図である。
図5図5は、第1実施形態に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。
図6図6は、第1実施形態と比較例のDNBRの比較結果を説明するための図である。
図7図7は、第1実施形態と比較例のDNBRの比較結果の詳細を説明するための図である。
図8図8は、燃料棒の軸方向における出力分布を説明するための図である。
図9図9は、原子炉の過渡変化が起こった後の局所出力を示すグラフである。
図10図10は、原子炉の過渡変化が起こる前後の局所出力の差を示すグラフである。
図11図11は、燃料棒の軸方向上部の局所出力の相対値を示すグラフである。
図12図12は、燃料棒の軸方向上部の腐食厚さの相対値を示すグラフである。
図13図13は、第1実施形態に係る燃料棒と、比較例との比較結果を示す表である。
図14図14は、第1実施形態に係る燃料棒の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図15図15は、第2実施形態に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。
図16図16は、第2実施形態に係る燃料棒の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0013】
以下、添付図面を参照して、本開示に係る実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含む。また、以下の実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0014】
[第1実施形態]
図1と、図2と、図3とを用いて、第1実施形態に係る燃料集合体について説明する。図1は、第1実施形態に係る燃料集合体を模式的に示す図である。図2は、第1実施形態に係る燃料集合体を、燃料棒の軸方向に直交する方向で切ったときの断面図である。図3は、第1実施形態に係る燃料棒の一部を破断して示した図である。
【0015】
燃料集合体1は、図示しない加圧水型原子炉に装荷されており、原子炉内は減速材で満たされている。燃料集合体1は、17×17のセル10で構成されており、264本の燃料棒15と、制御棒60が挿入される24本の制御棒案内菅と、炉内計装用検出器70が挿入される1本の炉内計装用案内菅と、燃料棒15と、制御棒案内菅と、炉内計装用案内菅とを束ねるグリッド18とを有する。燃料集合体1は、燃料棒15の軸方向上側に設けられた上部ノズル19と、軸方向下側に設けられた下部ノズル20とを有する。上部ノズル19および下部ノズル20は、それぞれ、燃料棒15、制御棒案内菅、および炉内計装用案内菅の軸方向の上端部および下端部を固定している。
【0016】
燃料棒15は、複数の燃料ペレット25で構成された燃料領域30と、複数の燃料ペレット25が装填される円筒の被覆管26とを有する。燃料ペレット25は、核燃料としてウラン235を所定の濃縮度にし、二酸化ウランとして焼き固め、ペレット状に形成したものである。核燃料としてウラン235を用いたが、これに限らず、例えば、プルトニウムなどの核分裂物質を用いてもよい。そして、被覆管26に所定数の燃料ペレット25が充填され、上部にスプリング27が装着されることで燃料ペレット25を位置規制するとともに、上端部および下端部に、それぞれ、端栓28および端栓29が装着されることで、燃料棒15が構成される。複数の燃料ペレット25の高さは、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
燃料集合体1を加圧水型原子炉に装荷して、加圧水型原子炉の運転が開始されると、燃料集合体1は、制御棒60により核反応が制御されながら、発生した熱エネルギーにより減速材を加熱する。このとき、原子炉の内部は加圧されるため、減速材は、燃料集合体1の軸方向の全長に亘って液相状態となる。
【0018】
加圧水型原子炉の運転サイクルの後期になると、燃料集合体1は、軸方向の両端部における熱出力が大きくなる一方で、軸方向の中央部における熱出力が小さくなり、軸方向における出力分布の歪みが大きくなる。図2に示すように、燃料棒15は、燃料棒40と、燃料棒50とを含む。燃料棒40は、ガドリニウムを含有しない従来の燃料棒である。燃料棒50は、ガドリニウムを含有する燃料棒である。第1実施形態では、燃料棒50の軸方向に対してガドリニウムを分布するように含有させ、燃料集合体1に装荷している。
【0019】
[燃料棒]
図4は、第1実施形態に係る燃料棒の燃料領域を説明するための図である。図4に示すように、燃料棒50の燃料領域30は、軸方向において、上部領域31と、下部領域32と、中央部領域33とを有する。燃料領域30の軸方向の長さLは、例えば、360cmである。上部領域31の軸方向の長さは、L1である。下部領域32の軸方向の長さは、L2である。上部領域31と、下部領域32のガドリニウム濃度は、同じである。上部領域31と、下部領域32のガドリニウム濃度は、異なっていてもよい。中央部領域33のガドリニウム濃度は、例えば、10wt%である。上部領域31及び下部領域32と、中央部領域33とのガドリニウム濃度は異なっている。第1実施形態では、上部領域31の領域長L1と、下部領域32の領域長L2と、上部領域31のガドリニウム濃度と、下部領域32のガドリニウム濃度とを最適に設定することで、燃料棒50の軸方向の亘る出力を均一化する。
【0020】
[評価装置]
図5は、第1実施形態に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。評価装置100は、燃料棒における主蒸気管破断事故時のDNBR(Departure from Nucleate Boiling Ratio)評価、PCI(Pellet-Clad interaction)評価、および腐食評価の3つの評価を実行する。評価装置100は、燃料棒の軸方向における出力分布を評価する装置である。評価装置100は、コンピュータで実現され得る。評価装置100は、例えば、原子力発電所に備えられる。評価装置100は、例えば、原子力発電所とは異なる施設に備えられてよい。
【0021】
図5に示すように、評価装置100は、入力部110と、出力部120、記憶部130と、通信部140と、制御部150とを備える。
【0022】
入力部110は、評価装置100に対する各種の入力を受け付ける。入力部110は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイスで実現される。
【0023】
出力部120は、評価装置100による評価結果を含む各種の情報を出力する。出力部120は、ディスプレイおよびスピーカなどの出力デバイスで実現される。
【0024】
記憶部130は、各種の情報を記憶する。記憶部130は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置によって実現される。
【0025】
通信部140は、外部の装置との間で情報の送受信を行う。通信部140は、例えば、通信モジュールなどによって実現される。
【0026】
制御部150は、評価装置100の各部の動作を制御する。制御部150は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、図示しない記憶部に記憶されたプログラムがRAM等を作業領域として実行されることにより実現される。制御部150は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。制御部150は、ハードウェアと、ソフトウェアとの組み合わせで実現されてもよい。
【0027】
制御部150は、領域設定部151と、濃度設定部152と、第1評価部153と、第1比較部154と、第2評価部155と、第2比較部156と、基準確認部157と、を備える。
【0028】
領域設定部151は、燃料領域30において上部領域31及び下部領域32の領域長を設定する。領域設定部151は、上部領域31の領域長L1を下部領域32の領域長L2以上の長さに設定する。領域設定部151は、図3に示すような、燃料領域30を構成する燃料ペレット25の整数倍の高さとなるように、上部領域31及び下部領域32の領域長を設定してもよい。
【0029】
領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を24cm、下部領域32の領域長L2を12cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を24cm、下部領域32の領域長L2を24cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を36cm、下部領域32の領域長L2を24cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を48cm、下部領域32の領域長L2を36cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を60cm、下部領域32の領域長L2を36cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を72cm、下部領域32の領域長L2を36cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を84cm、下部領域32の領域長L2を36cmに設定する。領域設定部151は、例えば、上部領域31の領域長L1を96cm、下部領域32の領域長L2を60cmに設定する。領域設定部151は、上部領域31の領域長L1を下部領域32の領域長L2以上に設定するのであれば、その他の値に調整してもよい。
【0030】
濃度設定部152は、燃料領域30において上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を設定する。濃度設定部152は、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を同じ濃度に設定する。濃度設定部152は、例えば、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を2wt%に設定する。濃度設定部152は、例えば、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を4wt%に設定する。濃度設定部152は、例えば、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を6wt%に設定する。濃度設定部152は、例えば、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を8wt%に設定する。濃度設定部152は、例えば、中央部領域33のガドリニウム濃度が10wt%である場合には、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を1wt%、3wt%、5wt%、7wt%、および9wt%に設定してもよい。すなわち、濃度設定部152は、中央部領域33のガドリニウム濃度よりも低い濃度であれば、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を、任意に設定してよい。
【0031】
第1評価部153は、燃料棒50の主蒸気管破断時における評価を行う。具体的には、第1評価部153は、燃料棒50における主蒸気管破断時のDNBRを評価する。DNBRは、限界熱流束比(Departure from Nucleate Boiling Ratio)のことであり、伝熱効率のよい核沸騰から、加熱面が蒸気膜で覆われた膜沸騰への突然の遷移が起こる際の熱流束、すなわち限界熱流束(Departure from Nucleate Boiling)に関する比の値で表されるパラメータである。具体的には、DNBRは、限界熱流束と、実際の熱流束との比で表される。
【0032】
第1評価部153は、燃料棒50の燃料領域30において領域設定部151で設定される上部領域31及び下部領域32の領域長と、濃度設定部152で設定される上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度の各組み合わせでDNBRの評価を行う。第1評価部153は、例えば、13カ月以上の長サイクルにおける主蒸気管破断時のDNBRを評価する。第1評価部153は、例えば、約15カ月、約17カ月、及び19カ月のサイクルにおける主蒸気管破断時におけるDNBRを評価する。
【0033】
第1比較部154は、DNBRの評価結果を比較する。具体的には、第1比較部154は、軸方向において燃料領域のガドリニウム濃度が一様(例えば、一様に10wt%)な燃料棒(以下、比較例と呼ぶ)のDNBRの評価結果と、第1評価部153による燃料棒50のDNBRの評価結果とを比較する。
【0034】
図6は、第1実施形態と比較例のDNBRの比較結果を説明するための図である。評価データ81において、「上部領域及び下部領域の領域長」は、燃料領域30において上部領域31及び下部領域32のそれぞれの領域長を示す。「ガドリニウム濃度」は、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を示す。評価結果は、「改善」、「悪化」、「変化無」のいずれかで示す。「改善」は、燃料棒50のDNBRの評価結果が比較例と比べて改善したことを示す。「悪化」は、燃料棒50のDNBRの評価結果が比較例と比べて悪化したことを示す。「変化無」は、燃料棒50のDNBRの評価結果が比較例と比べて差異が無いことを示す。
【0035】
例えば、上部領域31の領域長が24cm、下部領域32の領域長が12cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度が2wt%の燃料棒50のDNBRの評価結果は、比較例と比べて、改善している。例えば、上部領域31の領域長が24cm、下部領域32の領域長が12cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度が4wt%の燃料棒50のDNBRの評価結果は、比較例と比べて、変わらない。例えば、上部領域31の領域長が48cm、下部領域32の領域長が36cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度が2wt%の燃料棒50のDNBRの評価結果は、悪化している。
【0036】
図7は、第1実施形態と比較例のDNBRの比較結果の詳細を説明するための図である。詳細データ82は、約15カ月、約17カ月、及び19カ月のサイクルにおける主蒸気管破断時におけるDNBRを評価したデータである。図7に示す第1実施形態の燃料棒50の燃料領域30は、上部領域31の領域長が36cm、下部領域32の領域長が24cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度が2wt%に設定されている。
【0037】
図7に示すように、約15カ月のサイクルにおける主蒸気管破断時のDNBRは、比較例が1.40であり、第1実施形態が1.50である。約17カ月のサイクルにおけるDNBRは、比較例が1.34であり、第1実施形態が1.54である。約19カ月のサイクルにおけるDNBRは、比較例が1.44であり、第1実施形態が1.66である。
【0038】
すなわち、第1実施形態は、比較例と比較すると、DNBRが0.1から0.2程度改善している。第1実施形態は、燃料領域30に上部領域31及び下部領域32を設け、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を、中央部領域33よりも低くすることにより、DNBRを緩和している。
【0039】
図5に戻る。第2評価部155は、燃料棒50の燃料健全性評価を行う。第2評価部155は、例えば、燃料棒50のPCI評価と、燃料棒50の腐食評価を行う。
【0040】
第2評価部155は、燃料棒50の燃料領域30において領域設定部151で設定される上部領域31及び下部領域32の領域長と、濃度設定部152で設定される上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度の各組み合わせでPCI評価及び腐食評価行う。具体的には、第2評価部155は、第1比較部154の比較結果のうち、DNBRの評価結果が比較例よりも良好であった燃料領域30の条件のみのPCI評価及び腐食評価を行ってもよい。
【0041】
第2比較部156は、PCI評価及び腐食評価の評価結果を比較する。具体的には、第2比較部156は、比較例のPCI評価及び腐食評価の評価結果と、第2評価部155による燃料棒50のPCI評価及び腐食評価の評価結果を比較する。第2比較部156は、比較結果のうち、比較例よりもPCI評価及び腐食評価の評価結果が優れている燃料領域30の条件を抽出する。
【0042】
PCI評価について説明する前に、燃料棒の軸方向における出力分布について説明する。図8は、燃料棒の軸方向における出力分布を説明するための図である。図8は、サイクルの初期と、サイクルの中期と、サイクルの末期の燃料棒の軸方向における出力分布を示す。図8の横軸は相対出力を示し、縦軸は軸方向の位置を示す。比較例は、燃料領域のガドリニウム濃度が軸方向において一様に10wt%の燃料棒である。第1条件は、燃料領域30において、上部領域31の領域長L1が36cm、下部領域32の領域長L2が24cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度が2wt%の燃料棒50である。第2条件は、燃料領域30において、上部領域31の領域長L1が72cm、下部領域32の領域長L2が36cm、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度は6wt%である。
【0043】
図8において、横軸は相対出力を示し、縦軸は軸方向の高さ(cm)を示す。図8に示すように、サイクルの初期では、比較例、第1条件、および第2条件のいずれにおいても、軸方向の中央部の出力が最も高く、上端部及び下端部に向かうにつれて出力が低くなる特性を有している。サイクルの中期では、第1条件、および第2条件では、ガドリニウム濃度の低い上部領域31が燃え尽きるので、上部領域31における出力が大きくなり、出力分布が歪む。具体的には、第2条件の方が、第1条件よりも上部領域31における出力が大きくなり、歪みも大きくなる。サイクルの末期では、第1条件、および第2条件では、出力の歪みが緩和され、中央部領域33の出力分布が平坦となる。サイクルの末期では、比較例の出力分布は、上部および下部で出力が大きくなり、中央部の出力が弱くなる出力分布となる。
【0044】
図9と、図10とを用いて、第1実施形態に係るPCI評価について説明する。図9は、原子炉の過渡変化が起こった後の局所出力を示すグラフである。図10は、原子炉の過渡変化が起こる前後の局所出力の差を示すグラフである。図9において、横軸は局所燃焼度(GWd/t)を示し、縦軸は局所出力(P)(KW/m)を示す。図10において、横軸は局所燃焼度(GWd/t)を示し、縦軸は過渡変化が起こる前後の局所出力の差(ΔP)(KW/m)を示す。図9において、「白丸(〇)」は比較例の燃料棒の局所出力を示し、「白三角(△)」は第2条件の燃料棒の局所出力を示す。図10において、白丸は比較例の燃料棒の過渡変化が起こる前後の局所出力の差を示し、白三角は第2条件の燃料棒の過渡変化が起こる前後の局所出力の差を示す。図9および図10は、サイクル長が19カ月における局所出力を示している。
【0045】
図9には、現行閾値線TL1と、新閾値線TL2とが示されている。図10には、現行閾値線TL3と、新閾値線TL4とが示されている。現行の基準では、同一の局所燃焼度で、局所出力が現行閾値線TL1および現行閾値線TL3の両方を超えると、燃料棒がPCI破損する可能性が発生する。新しい基準では、同一の局所燃焼度で、局所出力が新閾値線TL2および新閾値線TL4の両方を超えると、燃料棒がPCI破損する可能性が発生する。現行閾値線は、サイクル長が現行の13カ月における閾値を示し、新閾値線は、サイクル長を19カ月とした場合の閾値を示す。
【0046】
図9に示すとおり、比較例において、局所燃焼度がPの場合の局所出力は、現行閾値線TL1および新閾値線TL2の両方を超えている。図10に示すとおり、比較例において、局所燃焼度がPの場合の局所出力は、局所出力が新閾値線TL4を若干下回っているが、現行閾値線TL3を超えている。
【0047】
図9に示すとおり、第2条件において、局所燃焼度がPの場合の局所出力は、現行閾値線TL1および新閾値線TL2の両方を超えている。図10に示すとおり、第2条件において、局所燃焼度がPの場合の局所出力は、現行閾値線TL3および新閾値線TL4の両方を下回っている。すなわち、第2条件は、比較例と比べて、PCI評価の評価結果が改善されている。この場合、第2比較部156は、第2条件は、比較例よりもPCI評価の評価結果が優れていると判定する。言い換えれば、第2比較部156は、比較例よりもPCI評価の評価結果が優れている燃料棒の条件として、第2条件を抽出する。
【0048】
図11と、図12とを用いて、第1実施形態に係る腐食評価について説明する。図11は、燃料棒の軸方向上部の局所出力の相対値を示すグラフである。図12は、燃料棒の軸方向上部の腐食厚さの相対値を示すグラフである。
【0049】
図11および図12において、横軸は時間を示し、縦軸は腐食厚さの相対比を示している。図11および図12では、比較例の腐食厚さを1と相対化している。図11に示すように、第1条件および第2条件は、それぞれ、サイクルの末期において局所出力が比較例と比べて出力値が低くなっている。図12に示すように、サイクルの末期において、腐食厚さの相対値が低くなっている。すなわち、減肉量が減っている。例えば、サイクル長が19カ月における減肉量は、比較例は9.4%、第1条件は8.9%、第2条件は9.2%となる。すなわち、第1実施形態では、サイクルの末期における、燃料棒の軸方向の局所出力を小さくすることで、燃料棒の腐食による減肉量を少なくすることができる。
【0050】
図5に戻る。基準確認部157は、主蒸気管破断事故時における評価の結果と、燃料棒の燃料健全性評価との評価の結果とが、予め定められた判断基準となる制限値を満足しているか否かを確認する。予め定められた判断基準とは、燃料棒を安全に使用することができる基準を満たしているか否かを確認する。
【0051】
図13は、第1実施形態に係る燃料棒と、比較例との比較結果を示す表である。図13において、「改善」は、燃料棒の主蒸気管破断事時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価との両方が比較例よりも優れていることを示す。「変化無」は、燃料棒の主蒸気管判断事故時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価との両方が比較例と差がないことを示す。「悪化」は、燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価とのうちの少なくとも一方が比較例よりも悪化したことを示す。
【0052】
図13に示すように、評価装置100は、上部領域31及び下部領域32の領域長と、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度との各組み合わせについて網羅的に燃料棒の主蒸気管破断事時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価とを行う。評価装置100は、網羅的に燃料棒の主蒸気管破断事時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価とを行うことで、比較例と比べて優れた条件の燃料棒の条件を抽出する。また、評価装置100は、比較例と比べて優れた条件の燃料棒うち、主蒸気管破断事故時における評価と、燃料棒の燃料健全性評価との評価の結果とが、予め定められた判断基準となる制限値を満足している、燃料棒を抽出することができる。
【0053】
これにより、第1実施形態は、燃料領域30の軸方向における中央部領域33と、中央部領域33よりもガドリニウム濃度の低い上部領域31及び下部領域32と、を有する燃料棒50を得ることができる。第1実施形態の燃料棒50は、主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果が、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果とに比べて良好である。第1実施形態の燃料棒50は、主蒸気管判断事故時における評価の結果と、燃料健全性評価の結果とが、予め定められた判断基準を満足している。
【0054】
[評価方法]
図14を用いて、第1実施形態に係る燃料棒の評価方法について説明する。図14は、第1実施形態に係る燃料棒の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0055】
まず、領域設定部151は、燃料棒50の燃料領域30において上部領域31及び下部領域32の領域長を設定する(ステップS10)。次いで、濃度設定部152は、上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を設定する(ステップS11)。次いで、第1評価部153は、ステップS10及びステップS11で設定された条件で、主蒸気管破断事故時における評価を行う(ステップS12)。具体的には、第1評価部153は、DNBR評価を行う。
【0056】
第1比較部154は、主蒸気管破断事故時における評価結果が良好であるか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、第1比較部154は、主蒸気管判断事故時における評価結果が比較例の評価結果と比べて改善されているか否かを判定する。評価結果が良好であると判定された場合(ステップS13;Yes)、ステップS14に進む。評価結果が良好でないと判定された場合(ステップS13;No)、ステップS16に進む。
【0057】
ステップS13でYesと判定された場合、第2評価部155は、燃料健全性評価を行う(ステップS14)。具体的には、第2評価部155は、主蒸気管破断事故時における評価結果が良好であった燃料棒50に対してPCI評価及び腐食評価を行う。
【0058】
第2比較部156は、燃料健全性評価の評価結果が良好であるか否かを判定する(ステップS15)。具体的には、第2比較部156は、燃料健全性評価の評価結果が比較例の評価結果と比べて改善されているか否かを判定する。評価結果が良好であると判定された場合(ステップS15;Yes)、ステップS17に進む。評価結果が良好でないと判定された場合(ステップS15;No)、ステップS19に進む。
【0059】
ステップS13でNoと判定された場合、第1比較部154は、特性が比較例と比べて悪化した旨を示す評価結果を出力する(ステップS16)。そして、ステップS20に進む。
【0060】
ステップS15でYesと判定された場合、第2比較部156は、特性が比較例と比べて改善した旨を示す評価結果を出力する(ステップS17)。そして、ステップS18に進む。
【0061】
基準確認部157は、評価結果が制限値を満たすか否かを確認する(ステップS18)。具体的には、基準確認部157は、主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認する。そして、ステップS20に進む。
【0062】
ステップS15でNoと判定された場合、第2比較部156は、特性が比較例と比べて悪化したまたは特性が変わらない旨を示す比較結果を出力する(ステップS19)。そして、ステップS20に進む。
【0063】
制御部150は、評価方法の処理を終了するか否かを判定する(ステップS20)。具体的には、制御部150は、評価方法の処理を終了する操作を受け付けた場合や、上部領域31及び下部領域32の領域長及び濃度の全ての条件の組み合わせについて評価した場合に、評価方法の処理を終了すると判定する。評価方法の処理を終了すると判定された場合(ステップS20;Yes)、図14の処理を終了する。評価方法の処理を終了しないと判定された場合(ステップS20;No)、ステップS10に進む。
【0064】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第1実施形態において、比較例と比べて主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が改善した条件の燃料棒に対して、運転性の解析を行う。これにより、第2実施形態は、運転性が改善する燃料棒の条件を抽出する。
【0065】
具体的には、原子炉内に制御棒が挿入されることなどにより外乱が生じると、燃料棒50において軸方向の出力分布が揺らいでしまう、キセノン振動と呼ばれる現象が発生し得る。第2実施形態では、比較例と比べて主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が改善した燃料棒のうち、更に、キセノン振動の発生が抑制される燃料棒の条件を抽出する。
【0066】
図15を用いて、第2実施形態に係る評価装置の構成例について説明する。図15は、第2実施形態に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。
【0067】
図15に示すように、評価装置100Aは、制御部150Aが振動解析部158と、第3比較部159とを備える点で、図5に示す評価装置100とは異なる。
【0068】
振動解析部158は、燃料棒50の運転性の評価を行う。振動解析部158は、運転性の評価として、キセノン振動を解析する。振動解析部158は、例えば、主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が比較例と比べて改善した条件の燃料棒50に対して、キセノン振動を解析する。振動解析部158は、例えば、2次元多群燃料集合体輸送計算コードおよび3次元2群拡散計算コートなどを用いて、キセノン振動の解析を行う。2次元多群燃料集合体輸送計算コードとしては、PHOENIX-Pが例示されるが、これに限定されない。3次元2群拡散計算コードとしては、ANCが例示されるが、これに限定されない。
【0069】
第3比較部159は、キセノン振動の解析結果を比較する。具体的には、第3比較部159は、比較例に係る燃料棒のキセノン振動の解析結果と、主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が比較例と比べて改善した条件の燃料棒50に対するキセノン振動の解析結果とを比較する。第3比較部159は、比較例と比べてキセノン振動の発散性が改善した燃料棒50の条件を抽出する。言い換えれば、第3比較部159は、比較例と比べて、キセノン振動が抑制される燃料棒50の条件を抽出する。
【0070】
[評価方法]
図16を用いて、第2実施形態に係る燃料棒の評価方法について説明する。図16は、第2実施形態に係る燃料棒の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0071】
ステップS30からステップS38の処理は、図14に示すステップS10からステップS18の処理と同一なので、説明を省略する。
【0072】
ステップS38の後、制御部150Aは、キセノン振動の解析を行う(ステップS39)。具体的には、振動解析部158は、主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が比較例と比べて改善した条件の燃料棒50に対して、キセノン振動を解析する。そして、ステップS40に進む。
【0073】
制御部150Aは、キセノン振動の発散性は改善したか否かを判定する(ステップS40)。具体的には、第3比較部159は、比較例に係る燃料棒のキセノン振動の解析結果と、ステップS39の解析結果とを比較することで、キセノン振動の発散性は改善したか否かを判定する。キセノン振動の発散性が改善したと判定された場合(ステップS40;Yes)、ステップS41に進む。キセノン振動の発散性が改善したと判定されない場合(ステップS40;No)、ステップS43に進む。
【0074】
ステップS40でYesと判定された場合、制御部150Aは、キセノン振動の発散性が改善した燃料棒の条件を出力する(ステップS41)。具体的には、第3比較部159は、比較例と比べてキセノン振動の発散性が改善した燃料棒50の上部領域31及び下部領域32の領域長と、ガドリニウム濃度の条件を出力する。言い換えれば、第3比較部159は、比較例と比べて運転性が向上した燃料棒50の条件を抽出する。そして、ステップS43に進む。
【0075】
ステップS42およびステップS43の処理は、図14に示すステップS19およびステップS20の処理と同一なので、説明を省略する。
【0076】
図16に示すように、第2実施形態では、主蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が比較例と比べて改善した条件の燃料棒50に対して、キセノン解析を行うことで運転性の評価を行う。これにより、第2実施形態では、比較例と比べて、蒸気管破断事故における評価および燃料健全性評価が改善し、かつ運転性が改善する燃料棒50の条件を抽出することができる。
【0077】
各実施形態に記載の評価方法、評価装置、燃料棒、およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0078】
第1の態様の評価方法は、原子炉に装荷される燃料棒50の燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32の領域長を設定するステップと、燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を、中央部領域33のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、燃料棒50の燃料健全性評価を行うステップと、燃料棒50の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、を含む。
【0079】
この構成によれば、燃料棒50において、上部領域31及び下部領域32の領域長およびガドリニウム濃度を設定し、主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価とを行うことができる。これにより、燃料棒50における各評価結果と、燃料領域のガドリニウム濃度が軸方向において一様な燃料棒の評価結果とを比較することができるので、上部領域31及び下部領域32の領域長及びガドリニウム濃度を良好に設定することができる。
【0080】
第2の態様の評価方法は、燃料棒50の燃料健全性評価を行うステップと、燃料棒50の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップとは、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップにおいて、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価の方が良好であると判定された場合に行う。これにより、主蒸気管破断事故時における評価の評価結果が良好な燃料棒50に対してのみ燃料健全性評価を行うことができるので、より効率的に評価を行うことができる。
【0081】
第3の態様の評価方法は、燃料棒50の主蒸気管判断事故時における評価を行うステップでは、燃料棒50の主蒸気管破断事故時におけるDNBR評価を行い、燃料棒50の燃料健全性評価を行うステップでは、燃料棒50のPCI評価及び腐食評価を行う。これにより、DNBR評価、PCI評価、及び腐食評価のような、具体的な評価を行うことができる。
【0082】
第4の態様の評価方法は、上部領域31及び下部領域32の領域長を設定するステップでは、上部領域31の領域長を下部領域32の領域長以上の長さに設定する。これにより、上部領域31の領域長を、下部領域32の領域長以上にした様々な条件で評価を行うことができる。
【0083】
第5の態様の評価方法は、上部領域31のガドリニウム濃度と、下部領域32のガドリニウム濃度とは、同じである。これにより、上部領域31のガドリニウム濃度と、下部領域32のガドリニウム濃度とを同じにすることで、効率的に評価を行うことができる。
【0084】
第6の態様の評価方法は、上部領域31及び下部領域32の領域長を設定するステップでは、上部領域31及び下部領域32の領域長を、それぞれ、燃料ペレットの高さに比例し設定する。これにより、上部領域31及び下部領域32のそれぞれの領域長を燃料ペレットの高さで調整することができるので、燃料棒50の製造時における上部領域31及び下部領域32のそれぞれの領域長の設定が容易になる。
【0085】
第7の態様の評価方法は、主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足する燃料棒50に対して、キセノン振動解析を実行するステップと、燃料棒50と燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒のキセノン振動解析の解析結果と比較するステップと、更に含む。これにより、主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足する燃料棒50のうち、運転性が向上する燃料棒50の条件を抽出することができる。
【0086】
第8の態様の評価装置は、原子炉に装荷される燃料棒50の燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32の領域長を設定する領域設定部151と、燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を、中央部領域33のガドリニウム濃度よりも低く設定する濃度設定部152と、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価を行う第1評価部153と、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較する第1比較部154と、燃料棒50の燃料健全性評価を行う第2評価部155と、燃料棒50の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較する第2比較部156と、燃料棒50の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認する基準確認部157と、を備える。
【0087】
第9の態様のプログラムは、原子炉に装荷される燃料棒50の燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32の領域長を設定するステップと、燃料領域30の軸方向における上部領域31及び下部領域32のガドリニウム濃度を、中央部領域33のガドリニウム濃度よりも低く設定するステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価を行うステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価とを比較するステップと、燃料棒50の燃料健全性評価を行うステップと、燃料棒50の燃料健全性評価と、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の燃料健全性評価とを比較するステップと、燃料棒50の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足するかを確認するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0088】
第10の態様の燃料棒は、燃料棒50であって、軸方向における燃料領域30の中央部領域33と、中央部領域33よりもガドリニウム濃度の低い燃料領域30の上部領域31及び下部領域32と、を有し、主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果が、それぞれ、燃料領域のガドリニウム濃度が一様な燃料棒の主蒸気管破断事故時における評価と、燃料健全性評価との評価結果とに比べて良好であり、かつ前記燃料棒の主蒸気管破断事故における評価と、燃料健全性評価の結果とが判断基準となる制限値を満足する。
【0089】
以上、本開示の実施形態を説明したが、これら実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0090】
1 燃料集合体
10 セル
15 燃料棒
18 グリッド
19 上部ノズル
20 下部ノズル
25 燃料ペレット
26 被覆管
27 スプリング
30 燃料領域
31 上部領域
32 下部領域
33 中央部領域
40,50 燃料棒
60 制御棒
70 炉内計装用検出器
100 評価装置
110 入力部
120 出力部
130 記憶部
140 通信部
150 制御部
151 領域設定部
152 濃度設定部
153 第1評価部
154 第1比較部
155 第2評価部
156 第2比較部
157 基準確認部
158 振動解析部
159 第3比較部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16