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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】熱スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01H 37/32 20060101AFI20241010BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241010BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241010BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241010BHJP
   H01H 37/48 20060101ALI20241010BHJP
   H01M 10/658 20140101ALN20241010BHJP
   H01M 10/613 20140101ALN20241010BHJP
   H01M 10/651 20140101ALN20241010BHJP
   H01M 10/653 20140101ALN20241010BHJP
   H01M 10/625 20140101ALN20241010BHJP
   H01H 37/74 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
H01H37/32 Z
C08L21/00
C08K3/013
C08L101/00
H01H37/48 A
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/651
H01M10/653
H01M10/625
H01H37/74 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021034883
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135221
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
(72)【発明者】
【氏名】片山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/163316(WO,A1)
【文献】特開2008-258199(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/00 - 37/56
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
H01M 10/52 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基材と、第二基材と、該第一基材と該第二基材との間に介在され、所定の温度条件下で膨張することにより、該第一基材および該第二基材とを接続し、該第一基材と第二基材の間の熱伝達経路を構成する弾性熱膨張部材と、を備える熱スイッチであって、
該弾性熱膨張部材は、熱硬化性エラストマーと、該熱硬化性エラストマー中に分散された熱伝導性フィラーと、を含み、
該弾性熱膨張部材は、0~100℃の平均線熱膨張係数が1×10-4/K~10×10-4/Kであり、
該熱伝導性フィラーは、該弾性熱膨張部材中を該第一基材から該第二基材に沿って該熱伝達経路を形成するように配向されてなることを特徴とする熱スイッチ。
【請求項2】
前記熱硬化性エラストマーは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン等の架橋性を有するエラストマーの中から選択される請求項1に記載の熱スイッチ。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーの熱伝導率は20W/m・K以上である請求項1または請求項2に記載の熱スイッチ。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーは前記熱硬化性エラストマー100質量部に対し、20~350質量部である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の熱スイッチ。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーは熱伝導異方性粒子、磁性粒子及びバインダーからなる複合粒子である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の熱スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度によって熱伝導性が変化する熱スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、複数のバッテリーセルを収容したバッテリーパックが搭載される。バッテリーパックでは、温度が低くなると内部抵抗が高くなることから、低温時には熱の上昇を促すため、断熱性が求められる。また、温度が高くなりすぎると電池の破損が懸念されるため、高温時には放熱性が求められる。
【0003】
このような技術としては、第1保護層と第2保護層と熱膨張部材とが、接触する接続状態と接触しない非接続状態で、熱伝導性が異なる熱スイッチが開示されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/156991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、熱膨張部材にセラミックスを使用しており、熱伝導率が高いことから、接続状態での放熱性は良いものの、平均線熱膨張係数が低いため、間隙の精度が要求されたり、温度変化による膨張変化が少ないため、温度変化に対して熱スイッチとしての応答性が良くなかったりする。また、間隙が0.1~100μmではセル自体の膨張収縮を吸収できない場合や非接続状態において十分な断熱がされない場合がある。更に、熱膨張部材と保護層が硬いことから、接続状態が不安定であるとともに熱膨張時に熱膨張部材がセルを破壊する可能性があるといった問題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、温度変化に伴いその体積が可逆的に変化する熱膨張部材の材料を改良することにより、放熱性と保温性の切り替えが優れた熱スイッチを提供することを課題とする。また、当該熱スイッチを有するバッテリーパックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の熱スイッチは熱膨張部材の材質を柔軟で平均線熱膨張係数の大きいエラストマーと熱伝導性フィラーとを有することで、上記課題を解決することができる。
【0008】
第一基材と、第二基材と、該第一基材と該第二基材との間に介在され、所定の温度条件下で膨張することにより、該第一基材および該第二基材とを接続し、該第一基材と第二基材の間の熱伝達経路を構成する弾性熱膨張部材と、を備える熱スイッチであって、
該弾性熱膨張部材は、熱硬化性エラストマーと、該熱硬化性エラストマー中に分散された熱伝導性フィラーと、を含み、
該弾性熱膨張部材は、0~100℃の平均線熱膨張係数が1×10-4/K~10×10-4/Kであることを特徴とする熱スイッチ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱スイッチは、常温時や低温時には弾性熱膨張部材が非接続状態となるため保温効果を有し、高温時には熱膨張によって弾性熱膨張部材が接続状態となるため、弾性熱膨張部材から伝熱し、放熱効果を有する熱スイッチとして作用する。
【0010】
このように、弾性熱膨張部材に平均線熱膨張係数の大きな熱硬化性エラストマーと熱伝導性フィラーを使用することにより、本発明の熱スイッチは、温度変化に対する膨張変化が大きいため、温度変化に対する熱スイッチとしての応答性が高い。また、弾性熱膨張部材が柔軟であることから、相手材との接続状態が安定し、熱膨張時に相手材などを破壊することもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の熱スイッチの実施形態1を示す模式的断面図である。
図2】本発明の熱スイッチの実施形態2を示す模式的断面図である。
図3】本発明の熱スイッチの実施形態3を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の熱スイッチの実施の形態について説明する。なお、本発明の熱スイッチは、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0013】
<第一実施形態>
まず、本実施形態の熱スイッチ1の構成を説明する。図1の左側の図は熱硬化性エラストマー製の弾性熱膨張部材10の非接続状態にある熱スイッチ1を、図1の右側の図は熱硬化性エラストマー製の弾性熱膨張部材10の接続状態にある熱スイッチ1を示す。図1に示す通り、所定の温度未満においては、弾性熱膨張部材10と第二基材12とは、接触することなく間隙を有した状態である(非接続状態)。一方で、熱源により所定の温度以上に周辺温度が上昇すると、弾性熱膨張部材10と第二基材12とが、接続し、熱伝達経路を形成する(接続状態)。弾性熱膨張部材10は温度変化に伴いその体積が可逆的に変化する材料により形成されているため、周辺温度が所定温度未満に下がると、弾性熱膨張部材10の収縮により、弾性熱膨張部材10と第二基材12とが非接続状態になり、再度間隙を生じる。また、周辺温度を上昇させる熱源は第一基材側にあってもよいし、第二基材側にあってもよく、第一基材側および第二基材側双方にあってもよい。
【0014】
間隙の大きさは、弾性熱膨張部材10と、第一基材11および第二基材12が、弾性熱膨張部材10の熱膨張によって接続し熱伝導が可能になるように、弾性熱膨張部材10の材料特性と使用環境との関連に応じて定められている。上記の要件を満たす範囲である限り、間隙の大きさは特に限定されるものではない。具体的には所定の温度が100℃で弾性熱膨張部材10の線熱膨張係数が4×10-4/Kで、弾性熱膨張部材の厚みが10mmである場合、常温(23℃)では弾性熱膨張部材10と、第二基材12との最短距離が0.3mm以下であると、100℃で弾性熱膨張部材10と第二基材12が接触し、放熱効果が作用する。また、弾性熱膨張部材10は第一基材11および第二基材12に沿った方向ばかりでなく、第一基材11および第2基材12に沿った方向に対して垂直方向にも周辺温度が上昇すると膨張する。そこで、弾性熱膨張部材10の第一基材11と第二基材12に接する面以外の四つの面に、熱膨張を規制する線熱膨張係数が小さい図示しない規制部材を設けることにより、第一基材11および第二基材12に沿った方向の弾性熱膨張部材10の熱膨張が、規制部材を設けない場合と比較して大きくなるため好ましい。
【0015】
<第二実施形態>
図2は、本発明の熱スイッチ1の第二実施形態を示す模式的な横断面図である。第一実施形態の熱スイッチ1との相違点は、弾性熱膨張部材10が連結部材13に固定され、弾性熱膨張部材10と、第一基材11及び第二基材12が所定温度未満では接触せず、連結部材13の一部または全部に断熱部材14を備える点である。この場合、所定の温度で弾性熱膨張部材10と、第一基材11及び第二基材とが接触する。また、断熱部材14を設けることによって、所定温度未満において第一基材11と第二基材12を確実に断熱する。ここでは所定温度未満では弾性熱膨張部材10と、第一基材11及び第二基材と接触しない例を挙げたが、所定温度未満で弾性熱膨張部材10と第一基材11と接触し、第二基材12と非接触であってもよいし、弾性熱膨張部材10と第二基材12と接触し、第一基材11と非接触であってもよい。
【0016】
<第三実施形態>
図3は、本発明の熱スイッチ1の第三実施形態を示す模式的な横断面図である。第一実施形態の熱スイッチ1との相違点は、第一実施形態の弾性熱膨張部材10が第一基材11と第二基材12の間に介在されていたが、本実施形態では弾性熱膨張部材10が第一基材11と第二基材12との側面に接触するように配置されている。このように第一基材11と第二基材12が対向する空間以外に弾性熱膨張部材10が配置されている場合であっても、接続状態では弾性熱膨張部材10が第一基材11と第二基材12との間の熱伝達経路を形成することになり、このような実施形態も、第一基材と第二基材との間に弾性熱膨張部材が介在されているという表現に含まれるものとする。
【0017】
弾性熱膨張部材は、温度変化に伴いその体積が可逆的に変化する材料であって、温度上昇が100℃変化した場合に、その寸法が1%以上増加する材料から形成されることが好ましい。寸法が1%未満であると、弾性熱膨張部材が実使用上スイッチとして機能しない可能性があり、温度変化に対する応答性が悪くなる。
弾性熱膨張部材が0℃から100℃に温度変化した場合の平均線熱膨張係数が、1×10-4/K~10×10-4/Kの範囲であることがより好ましい。0℃から100℃に温度変化した場合の平均線熱膨張係数が1×10-4/K未満であると、弾性熱膨張部材の寸法変化が小さすぎて、弾性熱膨張部材と、第一基材および第二基材との間の間隙を精度良くする必要があり、温度変化に対する応答性も悪くなる可能性がある。また、0℃から100℃に温度変化した場合の平均線熱膨張係数が10×10-4/Kより大きいと弾性熱膨張部材が膨張しすぎて、膨張分を見込んだ間隙にすると、熱伝導性フィラーの効果が小さくなることから、熱伝導率が下がり、放熱性が悪化する可能性があるため好ましくない。
【0018】
弾性熱膨張部材は、熱硬化性エラストマーと熱硬化性エラストマーに分散された熱伝導性フィラーを有する。ここで、熱硬化性エラストマーは加硫剤又は架橋剤により加硫または架橋されたエラストマーである。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン等などが挙げられる。また、熱硬化性エラストマーはソリッド体でも、発泡体でもよい。
【0019】
弾性熱膨張部材の熱伝導率は、0.25W/m・K以上である。好適な熱伝導率は、0.4W/m・K以上、さらには0.5W/m・K以上が好ましい。弾性熱膨張部材の熱伝導率を大きくするという観点から、弾性熱膨張部材は、熱伝導率が比較的大きい熱伝導性フィラーを有することが望ましい。弾性熱膨張部材の熱伝導率を大きくするために用いられる熱伝導性フィラーの好適な熱伝導率は、20W/m・K以上である。熱伝導率が比較的大きい熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、金属粉、黒鉛、酸化グラフェン、フェライト等 などが挙げられる。特にバッテリー等に使用する場合、漏電の可能性を考慮すると絶縁性を有する熱伝導性フィラーが好ましい。絶縁性を有する熱伝導性フィラーとしては酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
【0020】
弾性熱膨張部材の熱伝導性フィラーの含有量はエラストマー100質量部に対して熱伝導性フィラーは20~350質量部であり、好ましくは50~300質量部、更に好ましくは100~250質量部である。熱伝導性フィラーが20質量部以下であると弾性熱膨張部材の熱伝導率が0.25W/m・K未満となり、放熱性が悪化する可能性がある。また、熱伝導性フィラーが350質量部以上であると熱伝導性フィラーの熱線膨張率が下がり、熱スイッチとしての応答性が悪化する可能性がある。弾性熱膨張部材の熱伝導率を維持したまま、熱線膨張率を大きくするために熱伝導性フィラーを配向させてもよい。熱伝導性フィラーを配向させる方法としては、アスペクト比の大きな熱伝導性フィラーとエラストマーを押し出し成型したり、熱伝導異方性粒子とエラストマーに磁性粒子を加えて、磁場により配向させてもよい。
【0021】
[磁場による配向]
弾性熱膨張部材において熱伝導性フィラーを減らす一実施例として、磁場による配向について説明する。磁場により配向される熱伝導性フィラーとしては、熱伝導異方性粒子、磁性粒子及びバインダーからなる複合粒子を用いる。熱伝導異方性粒子は、熱伝導に異方性を有する粒子、すなわち、熱伝導率が方向により異なる粒子であり、結晶面の方向に大きい熱伝導率を有する。熱伝導異方性粒子の結晶面の方向の熱伝導率は、150W/m・K以上であることが望ましい。熱伝導異方性粒子の形状は、鱗片状が望ましい。熱伝導異方性粒子は、非磁性体の粒子であってもよい。熱伝導異方性粒子としては、例えば、窒化ホウ素粒子、黒鉛粒子などが挙げられる。
【0022】
磁性粒子は、磁化特性に優れたものであればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼、マグネタイト、マグヘマイト、マンガン亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、などの強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAsなどの反強磁性体、およびこれらを用いた合金類の粒子が好適である。微細な粒子として入手しやすく、飽和磁化が高いという観点から、鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらのフェライト系合金の粉末を用いるとよい。
【0023】
磁性粒子は、熱伝導異方性粒子の表面に付着しており、熱伝導異方性粒子を配向させる役割を果たす。磁性粒子は、熱伝導異方性粒子の表面の一部のみに付着していてもよく、表面全体を被覆するように付着していてもよい。
【0024】
熱伝導異方性粒子と磁性粒子を接着させるバインダーとしては、成形性への影響が少なく、環境にも優しいという理由から、水溶性のバインダーが好適である。例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0025】
窒化ホウ素粒子は電気的に絶縁性を有するため、熱伝導異方性粒子として窒化ホウ素粒子を使用すると、絶縁性が要求される用途に対して有利である。ただし表面に付着あるいは被覆する磁性粒子として導電性の粒子を使用すると、弾性熱膨張部材の絶縁性が低下する。したがって、バッテリーや電子部品の放熱用途など、弾性熱膨張部材に絶縁性が要求される場合には、磁性粒子においても絶縁性の粒子を採用することが望ましい。電気的に絶縁性の粒子としては、粒子そのものが絶縁性を有する酸化鉄粒子、マンガンフェライト粒子などが好適である。
【0026】
弾性熱膨張部材における熱伝導異方性粒子の含有量は、熱伝導異方性粒子の種類に応じて適宜決定すればよい。熱伝導異方性粒子の含有量が少なすぎると熱の伝達経路が充分に形成されない。このため熱伝導性の向上効果を得るためには、熱伝導異方性粒子の含有量は熱硬化性エラストマーの質量を100質量部としたとき20質量部以上であることが望ましい。一方で成形性や物性の影響を少なくし、コスト高を防ぐという観点から、熱伝導異方性粒子の含有量は、熱硬化性エラストマーの質量を100質量部としたとき300質量部以下であることが望ましい。
【0027】
本発明の磁場による熱伝導異方性粒子のエラストマーへの配向に関する製造方法は、複合粒子の製造工程、混合原料調整工程と成形工程を有する。
【0028】
まず、複合粒子は、それぞれの粉末を攪拌造粒機を用いて攪拌して製造する。
【0029】
エラストマー原料は、エラストマー成分の他、必要に応じて、遅延剤、可塑剤、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤などを含む。混合原料は、熱伝導性粒子とエラストマー原料とを、インターミキサー、攪拌羽根などを用いて攪拌、混合して調整すればよい。
【0030】
成形工程では、先の工程において調整した混合原料を成形型に配置して、磁場中で混合原料を成形する工程である。
【0031】
成形型は、密閉型でも開放型でもよい。磁場は、熱伝導異方性粒子を配向させる方向に形成すればよい。例えば、熱伝導異方性粒子を直線状に配向させる場合、混合原料の一端から他端に向かって、磁力線を作用させることが望ましい。このような磁場を形成するためには、混合原料を挟むように磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。
【0032】
本工程においては、磁束密度が略均一な磁場を、混合原料に作用させることが望ましい。具体的には、混合原料における磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。混合原料に一様な磁場を作用させることにより、熱伝導異方性粒子の偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。また、成型は、150mT以上1200mT以下の磁束密度を行うとよい。こうすることで、混合原料中の熱伝導異方性粒子を、確実に配向させることができる。本工程にて成形が終了した後、脱型・架橋して、本発明の弾性熱膨張部材を得る。
【0033】
本発明の熱スイッチにおいて、連結部材、第一基材および第二基材に弾性熱膨張部材を固定する方法としては金属部材などで、カシメて固定してもよいし、接着剤により固定してもよい。
【0034】
[弾性熱膨張部材以外の部材]
第一基材および第二基材は、熱伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、材料の熱伝導性は高いほうが好ましい。具体的には、第一基材および第二基材は、1~500W/mKの熱伝導率を有する材料によって形成されることが好ましい。材料の熱伝導率が高いほど、熱スイッチの接続状態及び非接続状態での見かけ上の熱伝導率の差が大きいため、断熱と放熱が効率的に作用する。第一基材および第二基材を形成する材料は金属或いは合金が好ましい。
【0035】
連結部材は断熱性を有すれば、形成する材料は特に限定されるものではない。連結部材の材料としては熱変化に対して比較的熱膨張の少ないものがよく、また、樹脂、エラストマーなど熱伝導性が低いものであればよい。また、保温性を向上させるために連結部材の一部に断熱部材を設けてもよい。
【0036】
断熱部材は熱を断熱すればよく、その熱伝導率は0.2W/m・K以下が好ましい。また、平均線熱膨張係数が大きくないほうが好ましく、0℃から100℃に温度変化した場合の平均線熱膨張係数が、1×10-6/K~5×10-4/Kの範囲であることが好ましい。
【0037】
断熱部材は特に限定されないが、断熱性の観点から樹脂、エラストマーが好ましい。樹脂及びエラストマーとしては、アクリル、ウレタン、シリコーン、ポリスチレン、ラテックス、合成ゴム、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフルオロカーボン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド及びポリイミドからなる群から選ばれるいずれか1種であるのがよい。
【0038】
更に断熱性を向上させるために樹脂及びエラストマーの発泡体、樹脂及びエラストマーにチタニア、アルミナおよびジルコニア等のセラミックス粒子、シリカ、シリカエアロゲル、ガラス繊維、アラミド繊維等のエンプラ、スーパーエンプラ系繊維を混合してもよい。特に少ないスペースにおける高い断熱性の観点からシリカエアロゲル(熱伝導率:0.025W/m・K)やALCパネル(熱伝導率:0.17W/m・K)が好ましい。
【0039】
本発明の熱スイッチにおいて、間隙を所定の大きさに設ける方法としては、非接続状態において保温性が維持される構造である限り特に限定されるものではない。図2に示すように、断熱性を有する連結部材を用いて固定してもよい。
【0040】
次に、本発明の熱スイッチをバッテリーパックの周囲に備えた温度調整機能について説明する。所定の温度で放熱状態を変化させることによって、バッテリーパックは放電による熱を有効利用しつつ、その温度を調整することによって、バッテリーの機能を向上させる。具体的には、自動車の始動時には、低温であるため、電池抵抗が高く、バッテリーパック内部の熱をできるだけ放熱しないことが望ましい。一方で自動車の暖気後は、バッテリーパックの内部の温度が高くなり電解液分解による発火の恐れがあるため、バッテリーパック内部の温度を積極的に放熱することが好ましい。バッテリーパックに備えた本発明の熱スイッチは、自動車の始動時には非接続状態であるため、バッテリーパック内部の熱を放熱しにくく、熱を有効利用してバッテリーを保温し、放電効率の良い温度まで上昇することができる。一方、自動車の暖気後は、バッテリーパック内部の温度が上昇し、熱スイッチが接続状態となり、伝熱効率が急激に上昇するため、バッテリーパック内部の熱を積極的に外部に放出することができる。
【実施例
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0042】
[実施例1]
天然ゴム100質量部、熱伝導性フィラーとしての酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ社製「RF-50SC」、熱伝導率45W/m・K)200質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製酸化亜鉛二種)5質量部、ステアリン酸亜鉛(花王社製ルーナックS30)1質量部、老化防止剤A(精工化学社製オゾノン6C)1.5質量部、老化防止剤B(精工化学社製ノンフレックスRD)1質量部、加硫助剤(モノメタクリル酸亜鉛、サートマー社製PRO11542)3質量部、ワックス(大内新興化学社製サンノック)2質量部、オイル(ナフテンオイル、出光興産社製ダイアナプロセスNM-280)5質量部、加硫促進剤A(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学社製ノクセラーCZ)2質量部、加硫促進剤B(テトラメチルチウラムジスルフィド、三新化学工業社製サンセラーTT)1質量部、加硫剤(軽井沢精錬所社製硫黄)0.5質量部を混練りすることにより調整した。なお、上記混練りは、まず、加硫剤と加硫促進剤以外の材料をバンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練りし、ついで、加硫剤と加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練りした。そして、160℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、縦100mm×横100mm×厚さ10mmの天然ゴムシートを製造し、弾性熱膨張部材を得た。
【0043】
第一基材および第二基材は、100mm×100mm×1mmのアルミニウム板(熱伝導率:237W/m・K)を用いた。
【0044】
弾性熱膨張部材、第一基材および第二基材を連結部材に接着剤により貼り付け、弾性熱膨張部材と、第一基材および第二基材との間をそれぞれ0.1mmの間隙を設けて、実施例1の熱スイッチを作製した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の弾性熱膨張部材の酸化マグネシウム粉末の配合量を300質量部に変更した点以外は同様に実施例2の熱スイッチを作製した。
【0046】
[実施例3]
実施例1の弾性熱膨張部材の酸化マグネシウム粉末の配合量を50質量部に変更した点以外は同様に実施例3の熱スイッチを作製した。
【0047】
[比較例1]
実施例1の弾性熱膨張部材の酸化マグネシウム粉末の配合量を0質量部に変更した点以外は同様に比較例1の熱スイッチを作製した。
【0048】
[比較例2]
実施例1の弾性熱膨張部材の酸化マグネシウム粉末の配合量を400質量部に変更した点以外は同様に比較例2の熱スイッチを作製した。
【0049】
[実施例4]
<複合粒子Aの製造>
熱伝導性フィラーを攪拌造粒法により製造した。まず、鱗片状ホウ素粒子(スリーエムジャパン社製「Flakes 70/500」、平均粒径(D50)230~280μm)と、磁性粒子として絶縁性ステンレス鋼粉末(エプソンアトミックス(株)社製「Fe-3.5%Si-4.5%Cr」の絶縁処理品、球状、平均粒子径3μm)と、バインダーのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学工業社製「TC-5」と、を準備した。
【0050】
次に鱗片状ホウ素粒子300g、絶縁性ステンレス鋼粉末150g、及びHPMC13.5gを、FMミキサ(日本コークス工業社製)の容器内へ投入し、1分間混合した。その後、水を125g添加して、さらに6分間混合して、複合粒子Aを製造した。
【0051】
<弾性熱膨張部材の製造>
複合粒子Aを用いて、弾性熱膨張部材を製造した。まず、液状シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社製「EG-3100」)100質量部と、架橋剤のハイドロゲンジメチコン(信越化学工業社製「KF9901」)0.2質量部と、遅延剤のアセチレングリコール(日信化学工業社製「サーフィノール(登録商標)61」)0.05質量部と、を混合し、シリコーンコンパウンドを製造した。
【0052】
次に、複合粒子Aの添加量104質量部を添加し、混合原料を調整した。続いて、混合原料を、予めオーブンにて130℃に加熱したアルミニウム製の成形型(キャビティは縦100mm×横100mm×厚さ10mmの直方体。)に注入し、密閉した。そして、成形型を磁気誘導成形装置に設置し、キャビティ内の磁束密度を約1000mTとし、130℃下で、10分間磁場をかけながら行った。成形が終了した後、脱型して、弾性熱膨張部材を得た。その後、実施例1と同様に熱スイッチを作成し、実施例4の熱スイッチを得た。
【0053】



【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
<タイプAデュロメータ硬さの測定>
JIS K6253-3:2012に準拠した硬度計(高分子計器社製「ASKER P1-A型」)を用いて、厚さ1mmの弾性熱膨張部材を3枚重ねてタイプAデュロメータ硬度を測定した。タイプAデュロメータ硬さとしては、押針と弾性熱膨張部材とが接触した直後の瞬間値を採用した。
【0056】
<熱伝導率の測定>
弾性熱膨張部材の熱伝導率について、JIS A1412-2:1999の熱流計法に準拠した、英弘精機社製の熱流束計「HC-074」を用いて測定を行った。
【0057】
<平均線熱膨張係数>
弾性熱膨張部材の平均線熱膨張係数について、JIS K7197-1991に基づいて、線膨張率を測定し、平均線熱膨張係数とした。
【0058】
<熱スイッチの評価>
第一基材から第二基材への熱の伝わり方を熱流束計を用いて評価した。具体的には第一基材側の温度を調節し、第一基材側の温度を23℃にした場合と150℃にした場合で、第二基材に取り付けた熱流束計で熱量を計測した。その結果、実施例3は弾性熱膨張部材の熱伝導率が低く、若干放熱性が劣る結果となったが、熱スイッチとして機能した。比較例1では弾性熱膨張部材の熱伝導率が低く、放熱性が劣った。比較例2は弾性熱膨張部材の平均線熱膨張率が低く、弾性熱膨張部材が第二基材と接触せず、熱スイッチとして機能しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の熱スイッチは、温度によって伝熱性能が変化するスイッチとして利用できる。例えば、バッテリーパックや排ガスフィルター等において、スタート時の低温状態で触媒活性が低いものでも断熱により、比較的短時間に活性温度まで昇温させることができ、逆に高温になり過ぎると、放熱性を発揮し、触媒および基材本体の熱劣化を抑制できることが期待される。本発明の熱スイッチを、バッテリーパックや排ガスフィルター等に用いた場合、放熱と保温を制御することにより、最適な温度を保ち、バッテリーの放電効果を最適にさせることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 熱スイッチ
10 弾性熱膨張部材
11 第一基材
12 第二基材
13 連結部材
14 断熱部材
15 支持部材

図1
図2
図3