(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20241010BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241010BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 501A
B23K9/12 305
(21)【出願番号】P 2021043503
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237153(JP,A)
【文献】特開2012-110911(JP,A)
【文献】特開2016-179503(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/095
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記溶接ワイヤと母材との間が短絡期間にあることを判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記短絡判別信号を入力として前記短絡期間の開始時点から基準時間が経過すると電流減少信号を出力する電流減少タイマ部と、
前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電圧及び溶接電流を供給して前記短絡期間とアーク期間とを繰り返すと共に、前記短絡期間中に前記電流減少信号が入力されると前記溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させる電力制御部と、
を備えたアーク溶接装置において、
前記短絡判別信号を入力として
3~10周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部と、
種々の溶接条件及び溶接中に短絡が発生するごとに刻々と変化する前記平均短絡時間算出信号に基づいて前記基準時間を
自動的に設定する基準時間設定部と、
をさらに備えたことを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
前記基準時間設定部は、前記平均短絡時間算出信号の値から所定時間を減算した値を前記基準時間として設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
前記送給モータは、前記溶接ワイヤを前記アーク期間中は正送し、前記短絡期間中は逆送する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給し、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質を向上させるために、短絡期間中に溶滴のくびれを検出すると溶接電流を低レベル電流値まで減少させてアークを再発生させるくびれ検出制御が慣用されている。くびれ検出制御は、スパッタの発生を大幅に削減することができるので、高品質の溶接結果を得ることができる。このくびれ検出制御を行うためには、溶滴のくびれの状態をアーク発生部の電圧から正確に検出する必要がある。このために、アーク発生部の電圧を検出するために、母材と溶接トーチとに専用の検出線を配線している。しかし、この検出線を配線するには手間がかかる。さらに、溶接トーチは溶接中に移動するので、検出線が断線してトラブルになることがある。さらに、大型構造物を溶接する場合には、アーク発生部の電圧を検出することが困難である。
【0004】
上記の問題を解決するために、特許文献1の発明では、短絡開始時点から予め定めた基準時間が経過すると、溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと推定して溶接電流を減少させている。このようにすると、アーク発生部の電圧を検出する必要がないために、検出線を配線する必要もない。しかし、この制御においては、基準時間をどのような値に設定するかが問題となる。溶滴のくびれの形成状態は、溶接ワイヤの材質、シールドガスの種類、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、溶接姿勢、ワイヤ突き出し長さ等の種々の溶接条件によって変動するために、適正な基準時間を予め実験によって設定することは困難である。基準時間が適正値よりも短い場合には、溶滴の形成状態がまだ十分でない時点で溶接電流が減少するために、アークの再発生タイミングが遅くなり、溶接状態が不安定になる。逆に、基準時間が適正値よりも長い場合には、溶接電流が十分に減少しないタイミングでアークが再発生することになり、スパッタが多く発生することになる。したがって、従来技術においては、基準時間を適正値に設定することが過大となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、アーク発生部の電圧を検出することなく、種々の溶接条件において、スパッタの発生の少ない高品質の溶接を行うことができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記溶接ワイヤと母材との間が短絡期間にあることを判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記短絡判別信号を入力として前記短絡期間の開始時点から基準時間が経過すると電流減少信号を出力する電流減少タイマ部と、
前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電圧及び溶接電流を供給して前記短絡期間とアーク期間とを繰り返すと共に、前記短絡期間中に前記電流減少信号が入力されると前記溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させる電力制御部と、
を備えたアーク溶接装置において、
前記短絡判別信号を入力として3~10周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部と、
種々の溶接条件及び溶接中に短絡が発生するごとに刻々と変化する前記平均短絡時間算出信号に基づいて前記基準時間を自動的に設定する基準時間設定部と、
をさらに備えたことを特徴とするアーク溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記基準時間設定部は、前記平均短絡時間算出信号の値から所定時間を減算した値を前記基準時間として設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記送給モータは、前記溶接ワイヤを前記アーク期間中は正送し、前記短絡期間中は逆送する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアーク溶接装置によれば、アーク発生部の電圧を検出することなく、種々の溶接条件において、スパッタの発生の少ない高品質の溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。
【
図2】
図1のアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電力制御部PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力することによって、溶接ワイヤ1と母材2との間に出力端子間電圧Vw及び溶接電流Iwを供給する。この電力制御部PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0015】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0016】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。正送とは溶接ワイヤを母材に近づく方向に前進送給することであり、逆送とは母材から離れる方向に後退送給することである。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0017】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には出力端子間電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出される。
【0018】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0019】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0020】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、溶接電源の出力端子間電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0021】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0022】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0023】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0024】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0025】
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0026】
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0027】
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
【0028】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0029】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0030】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0031】
平均短絡時間算出回路TSAは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)である短絡時間を所定周期にわたって移動平均して、平均短絡時間算出信号Tsaを出力する。上記の所定周期は、短絡が発生する周期であり、3~10周期程度に設定される。したがって、短絡が発生するごとに、その直前の所定周期の短絡時間の平均値が算出される。
【0032】
基準時間設定回路TNRは、上記の平均短絡時間算出信号Tsaを入力として、平均短絡時間算出信号Tsaの値から所定時間を減算して、基準時間設定信号Tnrを出力する。上記の所定時間は、例えば1ms程度に設定される。短絡が終了してアークが再発生するよりも所定時間だけ前の状態において、くびれの形成状態は基準状態になっている。このタイミングで溶接電流を減少させると、アーク再発生時点において、溶接電流は所望の低レベル電流値になる。
【0033】
電流減少タイマ回路NDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の基準時間設定信号Tnrを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であり、かつ、Highレベルに変化した時点からの経過時間が基準時間設定信号Tnrによって定まる基準時間Tnに達したときは短時間Highレベルとなる電流減少信号Ndを出力する。
【0034】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0035】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記の電流減少信号Ndを入力として、電流減少信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0036】
第1アーク期間設定回路TA1Rは、予め定めた第1アーク期間設定信号Ta1rを出力する。
【0037】
第1アーク期間回路STA1は、上記の短絡判別信号Sd及び上記の第1アーク期間設定信号Ta1rを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し予め定めた遅延期間Tcが経過した時点から第1アーク期間設定信号Ta1rによって予め定めた第1アーク期間Ta1中はHighレベルとなる第1アーク期間信号Sta1を出力する。
【0038】
第1アーク電流設定回路IA1Rは、予め定めた第1アーク電流設定信号Ia1rを出力する。
【0039】
第3アーク期間回路STA3は、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間Tdが経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる第3アーク期間信号Sta3を出力する。
【0040】
第3アーク電流設定回路IA3Rは、予め定めた第3アーク電流設定信号Ia3rを出力する。
【0041】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記の電流減少信号Nd、上記の第1アーク期間信号Sta1、上記の第3アーク期間信号Sta3、上記の第1アーク電流設定信号Ia1r及び上記の第3アーク電流設定信号Ia3rを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化するまでの遅延期間中は、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)その後に、第1アーク期間信号Sta1がHighレベル(第1アーク期間)のときは、第1アーク電流設定信号Ia1rとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
3)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化した時点から第3アーク期間信号Sta3がLowレベルに変化するまでの期間(第2アーク期間及び第3アーク期間)中は、第3アーク電流設定信号Ia3rとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
4)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
5)その後に、電流減少信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0042】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0043】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の第1アーク期間信号Sta1及び上記の第3アーク期間信号Sta3を入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化し、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化するまでの第2アーク期間Ta2中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)それ以外の期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間、第1アーク期間Ta1及び第3アーク期間Ta3中は定電流特性となり、第2アーク期間Ta2中は定電圧特性となる。
【0044】
図2は、
図1のアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は出力端子間電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は第1アーク期間信号Sta1の時間変化を示し、同図(F)は第3アーク期間信号Sta3の時間変化を示し、同図(G)は電流減少信号Ndの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0045】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、
図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、
図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、
図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び
図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0046】
[時刻t1~t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1~t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0047】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2~t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0048】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1~t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、3ms程度となる。また、例えば、逆送ピーク値Wrp=-40m/minに設定される。
【0049】
同図(B)に示すように、時刻t1~t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0050】
同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0051】
時刻t1の短絡期間の開始時点からの経過時間が基準時間Tnに達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと推定して、時刻t31において同図(G)に示すように、電流減少信号Ndは短時間Highレベルに変化する。基準時間Tnは、
図1の基準時間設定信号Tnrによって設定される。さらに、基準時間設定信号Tnrは、
図1の平均短絡時間算出信号Tsaの値から所定時間を減算した値として設定される。平均短絡時間算出信号Tsaは、所定周期にわたって短絡時間を移動平均して算出される。例えば、時刻t1からの短絡が第m回目の短絡であり、所定周期を3とし、所定周期中の短絡時間をTs(m-3)、Ts(m-2)、Ts(m-1)とすると、第m回目の短絡期間における基準時間設定信号Tsa(m)は、以下のようにして算出される。
Tsa(m)=(Ts(m-3)+Ts(m-2)+Ts(m-1))/3
種々の溶接条件ごとに短絡時間は略一定値となる。したがって、平均短絡時間を算出すれば、現在の溶接条件における短絡時間を推定することができる。そして、この平均短絡時間から所定時間を減算して基準時間Tmを設定すれば、短絡が終了してアークが再発生するよりも所定時間だけ前の状態において、くびれの形成状態は基準状態になっていると推定することができる。例えば、平均短絡時間算出信号Tsaの値は5ms程度であり、所定時間は0.5msであり、基準時間Tnは4.5ms程度となる。上記のようにして、種々の溶接条件において、基準時間Tnを適正値に自動設定することができる。
【0052】
時刻t31において、同図(G)に示すように、電流減少信号Ndが短時間Highレベルになったことに応動して、
図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり
図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間Tcが経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、電流減少信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=180A/ms、短絡時ピーク値=400A低レベル電流値=50A、遅延期間Tc=1ms。
【0053】
[時刻t4~t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4~t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。例えば、逆送減速期間Trd=1msに設定される。
【0054】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5~t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0055】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4~t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、5ms程度となる。また、例えば、正送ピーク値Wsp=60m/minに設定される。
【0056】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から遅延期間Tcの間は低レベル電流値を継続する。これは、アークが発生した直後に電流値を上昇させると、溶接ワイヤの逆送と溶接電流による溶接ワイヤの溶融とが加算されて、アーク長が急速に長くなり、溶接状態が不安定になる場合があるためである。
【0057】
正送加速期間Tsu中の時刻t51において、遅延期間Tcが終了すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化し、時刻t51~t61の予め定めた第1アーク期間Ta1に移行する。この第1アーク期間Ta1中は引き続き定電流制御され、同図(B)に示すように、
図1の第1アーク電流設定信号Ia1rによって定まる所定の第1アーク電流Ia1が通電する。同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは電流値及びアーク負荷によってさだまる値となり、大きな値となる。例えば、遅延期間Tcは1ms程度であり、第1アーク期間Ta1は1ms程度であり、第1アーク電流Ia1は400A程度である。
【0058】
時刻t62において、アーク発生時点t4から予め定めた電流降下時間Tdが経過すると、同図(F)に示すように、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する。時刻t61~t62の期間が第2アーク期間Ta2となる。この第2アーク期間Ta2中は、定電圧制御される。同図(B)に示すように、第2アーク電流Ia2はアーク負荷によって変化するが、第1アーク電流Ia1よりも小さい値であり、かつ、第3アーク電流Ia3よりも大きな値となる。すなわち、Ia1>Ia2>Ia3となるように出力制御される。同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは定電圧制御によって所定値に制御され、第1アーク期間Ta1の電圧値と第3アーク期間Ta3の電圧値との中間値となる。第2アーク期間Ta2は所定値ではないが、4.5ms程度となる。
【0059】
第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する時刻t62から短絡が発生する時刻t7までの期間が、第3アーク期間Ta3となる。この第3アーク期間Ta3中は、定電流制御される。同図(B)に示すように、
図1の第3アーク電流設定信号Ia3rによって定まる所定の第3アーク電流Ia3が通電する。同図(C)に示すように、出力端子間電圧Vwは電流値及びアーク負荷によって定まる値となる。例えば、第3アーク電流Ia3=60Aに設定される。第3アーク期間Ta3は所定値ではないが、0.5ms程度となる。
【0060】
上述した実施の形態においては、溶接ワイヤをアーク期間中は正送し、短絡期間中は逆送する場合について説明したが、全期間中を定速送給するようにしても良い。
【0061】
上述した本実施の形態に係るアーク溶接装置によれば、短絡判別信号を入力として所定周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部と、平均短絡時間算出信号に基づいて基準時間を設定する基準時間設定部と、を備えている。本実施の形態では、くびれの形成状態が基準状態になったと推定して溶接電流を減少させるタイミングを決める基準時間を、平均短絡時間に基づいて自動設定している。このために、種々の溶接条件に応じて、基準時間を適正値に自動設定することができる。この結果、本実施の形態では、アーク発生部の電圧を検出することなく、種々の溶接条件において、スパッタの発生の少ない高品質の溶接を行うことができる。
【0062】
さらに、本実施の形態によれば、基準時間設定部は、平均短絡時間算出信号の値から所定時間を減算した値を基準時間として設定することが好ましい。このようにすると、アーク再発生時点の直前に溶接電流を低レベル電流値の状態にすることができるので、スパッタ発生量を少なくし、かつ、アーク期間への移行を円滑にすることができる。
【0063】
さらに、本実施の形態によれば、送給モータは、溶接ワイヤをアーク期間中は正送し、短絡期間中は逆送することが好ましい。溶接ワイヤの正逆送給制御を行うと、定速送給制御のときよりも、短絡時間のばらつきが小さくなる。このために、基準時間によるくびれの形成状態の推定精度が向上する。この結果、スパッタの発生量をさらに少なくすることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ia1 第1アーク電流
IA1R 第1アーク電流設定回路
Ia1r 第1アーク電流設定信号
Ia2 第2アーク電流
Ia3 第3アーク電流
IA3R 第3アーク電流設定回路
Ia3r 第3アーク電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND 電流減少タイマ回路
Nd 電流減少信号
PM 電力制御部
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STA1 第1アーク期間回路
Sta1 第1アーク期間信号
STA3 第3アーク期間回路
Sta3 第3アーク期間信号
SW 電源特性切換回路
Tc 遅延期間
TA1R 第1アーク期間設定回路
Ta1r 第1アーク期間設定信号
Td 電流降下時間
Tn 基準時間
TNR 基準時間設定回路
Tnr 基準時間設定信号
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
TSA 平均短絡時間算出回路
Tsa 平均短絡時間算出信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 出力端子間電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号