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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】エンジンの吸気装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20241010BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
F02D9/02 361A
F02D9/02 361J
F02D11/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021055519
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152668
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】桜井 洋太
(72)【発明者】
【氏名】久野 篤志
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-216036(JP,A)
【文献】特開平02-259247(JP,A)
【文献】特開平03-050345(JP,A)
【文献】特開平08-049782(JP,A)
【文献】特開平08-049783(JP,A)
【文献】特開2004-197650(JP,A)
【文献】特開2013-204512(JP,A)
【文献】特開2013-204528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/02
F02D 11/10
F02D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒エンジンに吸気を供給する吸気装置であって、
気筒毎に吸気通路と、この吸気通路に設けられた制御弁とを備え、
各制御弁は、共通の駆動源により制御され、前記吸気通路の開度を調節する弁体と、前記弁体を回動させる弁軸とを有し、
さらに、一方側の弁軸が他方側の弁軸に対して動力伝達する動力伝達状態と、他方側の弁軸に対して動力遮断される動力遮断状態とを切り替える弁軸連結機構を備え、
前記弁軸連結機構は、大気圧に対する制御弁下流側の圧力差に応じて動力を発生する圧力駆動部を備えるエンジンの吸気装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの吸気装置において、前記弁軸連結機構は、前記弁軸の軸心方向にスライドすることにより前記動力伝達状態となるスライド片を有するエンジンの吸気装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの吸気装置において、前記スライド片は、他方側の弁軸に対し一方側の弁軸が回動するのを阻止する回り止め構造を有し、
前記スライド片が一方側の弁軸に回り止めされる係合位置に達するまで前記スライド片を回動方向に案内する案内部が形成されているエンジンの吸気装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジンの吸気装置において、前記圧力駆動部は、エンジンの負荷が所定値以下のときに前記弁体が開く低負荷用の吸気通路の負圧により駆動されるエンジンの吸気装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジンの吸気装置において、前記圧力駆動部は、エンジンの負荷が所定値を超えたときに前記弁体が開く高負荷用の吸気通路の負圧により駆動されるエンジンの吸気装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジンの吸気装置において、前記弁軸連結機構は、前記圧力駆動部と高負荷用の前記吸気通路とを接続する連通路と、前記連通路に設けられて大気と高負荷用の前記吸気通路とを切り替える流路切替部材とを有するエンジンの吸気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒エンジンに吸気を供給する吸気装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車のような車両に用いられるエンジンにおいて、スロットル装置によりエンジンに供給する吸気量を増減させて、駆動力を制御するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-105240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多気筒エンジンにおいては、燃費および排ガス浄化性能が求められる低負荷運転領域において、各気筒の空気量が極小となることがある。燃費の向上および排ガス浄化性能の向上のためには、より安定した燃焼の確保が必要である。
【0005】
本発明は、燃費の向上および排ガス浄化性能の向上を実現できるエンジンの吸気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のエンジンの吸気装置は、多気筒エンジンに吸気を供給する吸気装置であって、気筒毎に吸気通路と、この吸気通路に設けられた制御弁とを備えている。各制御弁は、共通の駆動源により制御され、前記吸気通路の開度を調節する弁体と、前記弁体を回動させる弁軸とを有している。エンジンの吸気装置は、さらに、一方側の弁軸が他方側の弁軸に対して動力伝達する動力伝達状態と、他方側の弁軸に対して動力遮断される動力遮断状態とを切り替える弁軸連結機構を備えている。
【0007】
この構成によれば、弁軸連結機構により動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替えることにより、気筒毎に吸気量を調整できる。具体的には、動力伝達状態では一方側と他方側の両方の弁軸に設けられた弁体が駆動源により開閉制御される。一方、動力遮断状態では一方側の弁体のみが駆動源により開閉制御され、他方側の弁体は制御されず閉止状態が維持される。つまり、一方側の気筒にのみ吸気が供給され、他方側の気筒には吸気が供給されない。このように、特定の気筒にのみ吸気を供給することで、低負荷運転領域においても、吸気量が極小となるのを回避することができ、安定した燃焼を確保できる。その結果、燃費の向上および排ガス浄化性能の向上を実現できる。
【0008】
本発明において、前記弁軸連結機構は、前記弁軸の軸心方向にスライドすることにより前記動力伝達状態となるスライド片を有していてもよい。この構成によれば、弁軸連結機構の運動方向が弁軸軸線方向のみに限定されるので、構成が簡単になる。
【0009】
この場合、前記スライド片は、他方側の弁軸に対し一方側の弁軸が回動するのを阻止する回り止め構造を有し、前記スライド片が一方側の弁軸に回り止めされる係合位置に達するまで前記スライド片を回動方向に案内する案内部が形成されていてもよい。この構成によれば、スライド片が係合位置に達した状態で、他方側の弁軸を回動させることができ、係合時に他方側の制御弁の回動量を所定範囲に設定しやすい。また、一方側と他方側の制御弁が同時に全開になる。これにより、気筒間の最大吸気量を均一化させることができ、気筒ごとの出力のばらつきを抑えやすい。
【0010】
本発明において、前記弁軸連結機構は、大気圧に対する制御弁下流側の圧力差に応じて動力を発生する圧力駆動部を備えていてもよい。この構成によれば、モータ、アクチュエータ等の駆動源を別途設ける必要がないので、構成が簡単になる。
【0011】
この場合、前記圧力駆動部は、エンジンの負荷が前記所定値以下のときに前記弁体が開く低負荷用の吸気通路の負圧により駆動されてもよい。エンジンの負荷が所定値以下のときに低負荷用(一方側)の吸気通路が開き、エンジンの負荷が所定値を超えると高負荷用(他方側)の吸気通路が開く。つまり、エンジンの負荷が所定値を超えるまでは高負荷用の吸気通路は閉じた状態を維持する。このように、稼働する必要のない気筒には吸気を送らないので、燃費や排ガス浄化性能が向上する。
【0012】
また、これに代えて、前記圧力駆動部は、エンジンの負荷が前記所定値を超えたときに前記弁体が開く高負荷用の吸気通路の負圧により駆動されてもよい。高負荷用の吸気通路は、エンジンの負荷が所定値を超えるまでは負圧であるから、制御が安定する。
【0013】
この場合、前記弁軸連結機構は、前記圧力駆動部と高負荷用の前記吸気通路とを接続する連通路と、前記連通路に設けられて大気と高負荷用の前記吸気通路とを切り替える流路切替部材とを有していてもよい。この構成によれば、高負荷の吸気通路は、動力遮断状態では、大気圧よりも低い圧力を有することから、一方の制御弁の状態にかかわらずに、流路切替部材の切替タイミングに応じて動力接続状態とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンの吸気装置によれば、気筒毎に吸気量を調整できるので、特定の気筒にのみ吸気を供給できる。その結果、吸気量が少ない場合でも、燃費の向上および排ガス浄化性能の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る吸気装置を備えたエンジンを示す側面図である。
図2】同吸気装置の低負荷時の概略構成図である。
図3】同吸気装置の中~高負荷時の概略構成図である。
図4】同吸気装置の低負荷用の弁軸の先端を示す斜視図である。
図5】同吸気装置のガイド片の先端を示す斜視図である。
図6】(A)は両方の弁体が全閉状態の同吸気装置の連結構造を示す断面図で、(B)は一方の弁体が開状態の同連結構造を示す断面図で、(C)は両方の弁体が開状態の同連結構造を示す断面図である。
図7】同吸気装置の弁体の開度を示すグラフである。
図8】本発明の第2実施形態に係る吸気装置の低負荷時の概略構成図である。
図9】同吸気装置の中~高負荷時の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る吸気装置を備えたエンジンEを示す側面図である。以下の説明において、「上流」、「下流」とは、吸気の流れ方向の上流、下流をいう。
【0017】
本実施形態のエンジンEは、例えば、自動二輪車のような車両の駆動源として用いられる多気筒エンジンである。詳細には、エンジンEは、エンジン回転軸であるクランクシャフト2と、これを回転自在に支持するクランクケース4と、クランクケース4からシリンダ軸心方向D1に突出するシリンダ6と、シリンダ6の先端部(突出端部)に連結されたシリンダヘッド8とを有している。以下の説明において、クランクシャフト2の軸心方向D2をエンジン幅方向D2とし、シリンダ軸心方向D1とエンジン幅方向D2の両方に直交する方向を前後方向D3とする。シリンダ6およびシリンダヘッド8は前方(図1の右側)に傾斜している。
【0018】
本実施形態の多気筒エンジンEは、複数の気筒がエンジン幅方向D2に並んで配置されている。エンジンEは、例えば、2気筒エンジン、4気筒エンジンであるが、多気筒エンジン(2気筒以上)であればよく、気筒の数は問わない。
【0019】
シリンダヘッド8の前後方向の一端面(図1の左側面)に吸気ポート8aが形成され、吸気ポート8aに吸気装置10が接続されている。一方、シリンダヘッド8の前後方向の他端面(図1の右側面)に排気ポート8bが形成され、排気ポート8bに排気管12が接続されている。吸気装置10からの吸気が、吸気ポート8aを介してエンジンE内部の燃焼室14に導入され、燃焼室14内で燃焼された後、排気ポート8bを介して排気管12から外部に排出される。
【0020】
吸気ポート8aおよび排気ポート8bは気筒毎に設けられており、各ポート8a,8bに吸気装置10および排気管12が接続されている。つまり、吸気装置10は、気筒と同じ数だけ設けられている。
【0021】
図2~6を用いて、第1実施形態の吸気装置10を詳細に説明する。図2,3では、2気筒エンジンの例を説明する。図2の吸気装置10は、気筒毎に吸気通路16と、吸気通路16に設けられた制御弁18とを備えている。各吸気通路16の上流端は共通の空気タンク15に接続され、下流端は対応する気筒の吸気ポート8aに接続されている。空気タンク15は、例えば、エアクーリーナ、サージタンク等である。
【0022】
ここで、図2,3の右側の吸気通路16aは、エンジンEの負荷が所定値以下であっても吸気が流れる低負荷用の吸気通路16aである。一方、左側の吸気通路16bは、エンジンEの負荷が所定値よりも大きくなったときに吸気が流れる高負荷用の吸気通路16bである。
【0023】
各制御弁18は、吸気通路16の開度を調節する弁体22と、弁体22を回動させる弁軸24とを有しており、共通の駆動源20により制御される。本実施形態では、駆動源20として電動モータが用いられているが、駆動源20は電動モータに限定されない。また、弁体22は、例えば、バタフライ弁である。ただし、弁体22は、これに限定されない。駆動源20は、例えば、運転者の開度操作信号に応じて弁軸24を回動させて、弁体22の開度を調節する。ここで、低負荷用の吸気通路16aの開度を調整する弁体を低負荷用の弁体22aとし、高負荷用の吸気通路16bの開度を調整する弁体を高負荷用の弁体22bとする。
【0024】
弁軸24は、エンジン幅方向D2に延びており、低負荷用の吸気通路16aを開閉する低負荷用の弁体22aが設けられる一方側の弁軸24aと、高負荷用の吸気通路16bを開閉する高負荷用の弁体22bが設けられる他方側の弁軸24bとを有している。一方側の弁軸24aは、その一端部24aa(図2の右端部)で駆動源20に連結されている。他方側の弁軸24bは、一方側の弁軸24aの他端部24ab(図2の左端部)に連結されている。つまり、他方側の弁軸24bは、一方側の弁軸24aを介して駆動源20に連結されている。
【0025】
各弁軸24a,24bは、弁軸連結機構25により着脱可能に連結されている。弁軸連結機構25は、一方側の弁軸24aが他方側の弁軸24bに対して動力伝達する動力伝達状態(図3の状態)と、他方側の弁軸24bに対して動力遮断される動力遮断状態(図2の状態)とを切り替える。詳細には、弁軸連結機構25は、エンジンEの負荷が所定値よりも大きくなったときに動力伝達状態とし、所定値以下になったときに動力遮断状態とする。図3の動力伝達状態では駆動源20により両方の弁軸24a,24bが回転し、図2の動力遮断状態では駆動源20により一方側の弁軸24aのみが回転し、他方側の弁軸24bは回転しない。
【0026】
弁軸連結機構25は、弁軸24の軸心方向D2にスライドするスライド片26を有している。一方側の弁軸24aは中実のシャフト部材からなり、その外周面に低負荷用の弁体22aが設けられている。他方側の弁軸24bは、中空のシャフト部材からなり、その外周面に高負荷用の弁体22bが設けられている。
【0027】
スライド片26は、他方側の弁軸24bの中空孔に軸心方向D2に移動自在に挿通されている。スライド片26と他方側の弁軸24bは、キー機構により、相対回転不能で且つ軸心方向D2に移動可能に連結されている。詳細には、他方側の弁軸24bの内周面にキー溝24baが形成され、スライド片26の外周面にキー26aが設けられており、キー26aがキー溝24baに係合している。
【0028】
スライド片26が、弁軸24の軸心方向D2にスライドすることで、図2の動力遮断状態と図3の動力伝達状態とが切り替えられる。詳細には、弁軸連結機構25は、さらに、駆動ユニット28を有しており、この駆動ユニット28の駆動力によりスライド片26が軸心方向D2にスライドする。スライド片26が軸心方向D2に移動することで、一方側の弁軸24aと他方側の弁軸24bが結合され、あるいは、切り離される。
【0029】
スライド片26の一端部26b(図2の右端部)に、一方側の弁軸24aに対して着脱可能な連結構造30が形成されている。つまり、スライド片26は、連結構造30を介して一方側の弁軸24aの他端部24abに結合され、あるいは、切り離される。連結構造30の詳細は後述する。一方、スライド片26の他端部26c(図2の左端部)は、駆動ユニット28に連結されている。
【0030】
駆動ユニット28は、大気圧と吸気通路16との圧力差により駆動力を発生させる圧力駆動部32を有している。圧力駆動部32は、ケース体34と、ピストン36と、ばね体38と、コントロールシャフト40とを有している。ケース体34は、例えば、円柱形であり、内部に、ピストン36およびばね体38と、コントロールシャフト40の一部が収納されている。
【0031】
ピストン36は、ケース体34の内側の収納室35に収納されて、ケース体34の内周面に沿って弁軸24の軸心方向D2に摺動する。ばね体38は、一端部38a(図2の右端部)がピストン36に係止され、他端部38b(図2の左端部)がケース体34の底部に支持されており、ピストン36に軸心方向D2の圧縮ばね力を付与する。コントロールシャフト40は、円柱形状の軸体であり、一端部40a(図2の右端部)がスライド片26の他端部26cに連結され、他端部40b(図2の左端部)がピストン36に固定されている。
【0032】
コントロールシャフト40は、ケース体34の内部におけるピストン36を挟んで、ばね体38の反対側に配置されている。詳細には、ピストン36の一端側(図2の右側)にコントロールシャフト40が設けられ、ピストン36の他端側(図2の左側)にばね体38が配置されている。
【0033】
ケース体34の一端部(図2の右端部)に大気開放通路41が設けられており、その先端開口41aが大気に開口している。つまり、ケース体34におけるピストン36よりも一端側の領域は大気圧になっている。
【0034】
ケース体34の他端部(図2の左端部)に負圧通路42が接続されている。負圧通路42は、低負荷用の吸気通路16aにおける低負荷用の弁体22aよりも下流側に接続されている。したがって、ケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域は、低負荷用の吸気通路16aにおける弁体22aよりも下流側の領域と同じ圧力になる。具体的には、制御弁18が全閉時(エンジン低負荷時)は負圧であり、制御弁18が開くにつれて(エンジン中~高負荷時)正圧に近づく。
【0035】
本実施形態の駆動ユニット28の動作を説明する。図2に示すエンジン始動直後の低負荷時、低負荷用および高負荷用の弁体22a,22bは閉じられており、低負荷用の吸気通路16aにおける弁体22aよりも下流側は負圧となっている。ケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域は、負圧通路42を介して低負荷用の吸気通路16aにおける弁体22aよりも下流側の領域に連通しているので、負圧となる。
【0036】
ケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域が負圧になると、ここに収納されたばね体38が縮む。これにより、ピストン36が他端側(図2の左側)に引っ張られる。その結果、コントロールシャフト40を介してスライド片26が他端側に移動し、他方側の弁軸24bが一方側の弁軸24aから切り離される。つまり、駆動源20により低負荷用の吸気通路16aの弁体22aのみが制御され、高負荷用の吸気通路16bの弁体22bは閉じたままで制御されない。
【0037】
この状態で、運転者の操作指令により駆動源20が作動し、低負荷用の吸気通路16aの弁体22aが開く。これにより、空気タンク15内の空気は、低負荷用の吸気通路16aのみを流れる。つまり、低負荷時は、低負荷用の吸気通路16aが接続された気筒のみが運転(燃焼)し、高負荷用の吸気通路16bが接続された気筒は休止する。具体的には、高負荷用の吸気通路16bが接続された気筒には、空気および燃料は供給されず、点火もされない。
【0038】
エンジンの負荷が増加して、低負荷用の吸気通路16aの弁体22aの開度が大きくなると、図3に示す中~高負荷状態になる。具体的には、低負荷用の吸気通路16aの弁体22aが開くにつれて、低負荷用の吸気通路16aにおける弁体22aよりも下流側の領域が正圧に近づく。すると、これに連通するケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域も正圧となる、あるいは正圧に近づく。
【0039】
ケース体34の収納室35におけるピストン36よりも他端側の領域が正圧に近づくにつれ、ここに収納されたばね体38が伸びる。これにより、ピストン36が一端側(図3の右側)に押される。その結果、コントロールシャフト40を介してスライド片26が一端側に移動し、他方側の弁軸24bが一方側の弁軸24aに連結される。つまり、駆動源20により低負荷用と高負荷用の吸気通路16a,16bの弁体22a,22bの両方が制御される。
【0040】
この状態で、運転者の操作指令に応じて駆動源20が作動し、低負荷用と高負荷用の吸気通路16a,16bの弁体22a,22bが開閉される。これにより、空気タンク15内の空気は、低負荷用と高負荷用の吸気通路16a,16bの両方を流れる。つまり、中~高負荷時は、すべての気筒が運転(燃焼)する。
【0041】
つぎに、図4~7を用いて連結構造30の詳細を説明する。図4は一方側の弁軸24aの他端部24ab(図3の左端部)の斜視図で、図5はガイド片26の一端部26b(図2の右端部)の斜視図である。
【0042】
図4に示すように、一方側の弁軸24aの他端面に、弁軸24aの軸心方向D2に突出する突起部44が形成されている。本実施形態の突起部44は、弁軸24aの軸心方向D2と平行な軸心を有する円柱形状である。突起部44は、一方側の弁軸24aの他端面における径方向外側部に設けられている。本実施形態では、突起部44は、周方向に180°離間して2つ設けられている。突起部44の先端面44aにフリーボールベアリング45が設けられている。
【0043】
連結構造30は、図5に示すガイド片26が回転しながら一方側の弁軸24a(図4)に連結され、高負荷用の制御弁18(図2の左側)が低負荷用の制御弁18(図2の右側)に同期するように構成されている。具体的には、低負荷用の制御弁18は低負荷時から開き始め、高負荷用の制御弁18は中~高負荷時から開き始めるから、高負荷用の制御弁18が開き始めた時点で両者18,18の開度は異なるが、両者18,18が同時に全開となるように構成されている。
【0044】
ガイド片26の一端面に、傾斜部46が形成されている。傾斜部46は、ガイド片26の一端面における径方向外側部に軸心方向D2に突出するように設けられており、周方向(図5の矢印AR1の方向)に向かって突出量が小さくなるように傾斜している。換言すれば、傾斜部46は、最大突出部46aから周方向(図5の矢印AR1の方向)に向かって突出量が徐々に小さくなりガイド片26の一端面に繋がる(突出量が0になる)。本実施形態では、傾斜部46は、ガイド片26の中心点P1に対して点対称に2つ設けられている。
【0045】
ガイド片26の一端面に、回り止め板48が設けられている。回り止め板48は、例えば、矩形の板材からなり、ガイド片26の一端面における径方向外側部に軸心方向D2に突出するように設けられている。回り止め板48は、周方向に180°離間して2つ設けられている。詳細には、回り止め板48は、ガイド片26の一端面の径方向外側部における傾斜部46の間に設けられている。
【0046】
図6,7を用いて、本実施形態の連結構造30の動作を説明する。低負荷用の制御弁18の開度をα、高負荷用の制御弁18の開度をβとした場合、図6および図7における(A)は、低負荷用および高負荷用の制御弁18,18の両方が全閉の状態(α=β=0)を示す。図6および図7における(B)は、低負荷用の制御弁18が開いており、高負荷用の制御弁18が全閉の状態(α>0、β=0)のもので、(C)は、低負荷用および高負荷用の制御弁18,18の両方が開いており、その開度が等しい状態(α=β>0)のものである。
【0047】
図6(A)の状態では、ガイド片26と一方側の弁軸24aが切り離され、どちらの部材26,24aも回転していない。エンジンEが始動すると、運転者の操作により駆動源20(図2)が作動し、図6(B)に示すように、一方側の弁軸24aが回転して低負荷用の弁体22aが開く(図2の低負荷状態)。
【0048】
エンジンEの負荷が増えると、上述の駆動ユニット28により、図6(C)に示すように、ガイド片26と一方側の弁軸24aが連結される。このとき、ガイド片26の傾斜部46の最大突出部46aが、一方側の弁軸24aの突起部44の先端面44aに当接し、傾斜部46に沿って回転しながらガイド片26と一方側の弁軸24aが近づく。さらに、ガイド片26の回り止め板48が、傾斜部46を通過した一方側の弁軸24aの突起部44に係合する。以上により、ガイド片26と一方側の弁軸24aが連結される(図3の中~高負荷状態)。
【0049】
このとき、突起部44の先端面44aにフリーボールベアリング45が設けられているので、転がり抵抗が小さくなり、動作が安定するうえに、長寿命化を図ることができる。ただし、フリーボールベアリング45はなくてもよい。
【0050】
このように、回り止め板48は、スライド片26に対し一方側の弁軸24aが回動するのを阻止する回り止め構造を構成する。また、傾斜部46は、スライド片26が一方側の弁軸24aに周り止めされる係合位置に達するまでスライド片26を回動方向AR1に案内する案内部を構成する。
【0051】
上記構成によれば、図2に示す弁軸連結機構25により動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替えることにより、気筒毎に吸気量を調整できる。具体的には、動力伝達状態では一方側と他方側の弁軸24a、24bの両方に設けられた弁体22a,22bが駆動源20により開閉制御される。一方、動力遮断状態では一方側の弁体22aのみが駆動源20により開閉制御され、他方側の弁体22bは制御されず閉止状態が維持される。つまり、一方側の気筒にのみ吸気が供給され、他方側の気筒には吸気が供給されない。
【0052】
このように、特定の気筒にのみ吸気を供給することで、低負荷運転領域においても、吸気量が極小となるのを回避することができ、安定した燃焼を確保できる。その結果、燃費の向上および排ガス浄化性能の向上を実現できる。また、駆動源20が一つで済むので、重量およびコストの増加を抑制することができる。
【0053】
また、弁軸連結機構25は、弁軸24の軸心方向D2にスライドするスライド片26を有し、スライド片26をスライドさせることにより動力伝達状態と動力遮断状態とを切り替えている。これにより、弁軸連結機構25の運動方向が弁軸24の軸心方向D2のみに限定されるので、構成が簡単になる。
【0054】
図5に示すように、スライド片26は、他方側の弁軸24bに対し一方側の弁軸24aが回動するのを阻止する回り止め構造48を有し、スライド片26が一方側の弁軸24aに回り止めされる係合位置に達するまでスライド片26を回動方向AR1に案内する案内部46が形成されている。これにより、スライド片26が係合位置に達した状態で、他方側の弁軸24bを回動させることができ、係合時に他方側の制御弁18の回動量を所定範囲に設定しやすい。また、一方側と他方側の制御弁18,18が同時に全開になる。これにより、気筒間の最大吸気量を均一化させることができ、気筒ごとの出力のばらつきを抑えやすい。
【0055】
図2に示すように、弁軸連結機構25は、大気圧に対する制御弁18の下流側の圧力差に応じて動力を発生する圧力駆動部32を有している。これにより、モータ、アクチュエータ等の駆動源を別途設ける必要がないので、構成が簡単になる。
【0056】
圧力駆動部32は、エンジンEの負荷が所定値以下のときに弁体22aが開く低負荷用の吸気通路16aの負圧により駆動されている。エンジンEの負荷が所定値以下のときに低負荷用の吸気通路16aが開き、エンジンEの負荷が所定値を超えると高負荷用の吸気通路16bも開く。つまり、エンジンEの負荷が所定値を超えるまでは高負荷用の吸気通路16bは閉じた状態を維持する。このように、稼働する必要のない気筒には吸気を送らないので、燃費や排ガス浄化性能が向上する。
【0057】
図8,9は、第2実施形態の吸気装置10Aを示す。第2実施形態において、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0058】
第1実施形態では負圧通路42が圧力駆動部32と低負荷用の吸気通路16aとを接続していたが、第2実施形態では負圧通路42Aが圧力駆動部32と高負荷用の吸気通路16bとを接続している。つまり、第2実施形態では、圧力駆動部32は、高負荷用の吸気通路16bの負圧により駆動されている。詳細には、負圧通路42Aは、高負荷用の吸気通路16bにおける弁体22bよりも下流側の領域に接続されている。
【0059】
負圧通路42Aに、流路切替部材50が設けられている。流路切替部材50は、例えば、ソレノイドバルブである。流路切替部材50は、圧力駆動部32への連通路を大気と高負荷用の吸気通路16bとに切り替える。具体的には、エンジンEの負荷が所定値以下のときは高負荷用の吸気通路16b側に切り換え、エンジンEの負荷が所定値を超えたときに大気側に切り替える。流路切替部材50の制御は、例えば、電子制御ユニット(ECU)により行われる。その他の構成は第2実施形態と同じである。
【0060】
第2実施形態の駆動ユニット28の動作を説明する。図8に示すエンジン始動直後の低負荷時、低負荷用および高負荷用の弁体22a,22bは閉じられている。このとき、エンジンEの負荷が所定値以下であるから、流路切替部材50は高負荷用の吸気通路16b側に切り換えられている。したがって、ケース体34内の収納室35におけるピストン36よりも他端側の領域は、負圧となる。
【0061】
ケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域が負圧になると、ここに収納されたばね体38が縮む。これにより、ピストン36が他端側(図8の左側)に引っ張られる。その結果、コントロールシャフト40を介してスライド片26が他端側に移動し、他方側の弁軸24bが一方側の弁軸24aから切り離される。つまり、駆動源20により低負荷用の吸気通路16aの弁体22aのみが制御され、高負荷用の吸気通路16bの弁体22bは制御されない。
【0062】
エンジンの負荷が増加して、低負荷用の吸気通路16aの弁体22aの開度が大きくなると、図9に示す中~高負荷状態になる。このとき、エンジンEの負荷が所定値を超えているから、流路切替部材50は大気側に切り換えられている。したがって、ケース体34内の収納室35におけるピストン36よりも他端側の領域は正圧(大気圧)となる。
【0063】
ケース体34におけるピストン36よりも他端側の領域が大気圧(正圧)になると、ここに収納されたばね体38が伸びる。これにより、ピストン36が一端側(図9の右側)に押される。その結果、コントロールシャフト40を介してスライド片26が一端側に移動し、他方側の弁軸24bが一方側の弁軸24aに連結される。つまり、駆動源20により低負荷用と高負荷用の吸気通路16a,16bの弁体22a,22bの両方が制御される。
【0064】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏する。さらに、第2実施形態によれば、圧力駆動部32が、高負荷用の吸気通路16bの負圧により駆動されている。高負荷用の吸気通路16bは、エンジンEの負荷が所定値を超えるまでは負圧であるから、制御が安定する。
【0065】
また、圧力駆動部32と高負荷用の吸気通路16bとを接続する負圧通路42Aに、流路切替部材50が設けられている。高負荷用の吸気通路16bは、動力遮断状態では大気圧よりも低い圧力を有することから、低負荷用の制御弁22aの状態にかかわらずに、流路切替部材50の切替タイミングに応じて動力接続状態とすることができる。
【0066】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、弁軸連結機構25は、吸気通路16の負圧により駆動する圧力駆動部32を有していたが、弁軸連結機構25は、油圧弁、電磁弁等で駆動されてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、2気筒エンジンについて説明したが、本発明の吸気装置は、前述のとおり、2気筒以外の多気筒エンジンにも適用できる。その場合、低負荷用の一方側の弁軸24aに設けられる弁体22aの数および高負荷用の他方側の弁軸24bに設けられる弁体22bの数は任意に設定できる。例えば、4気筒の場合、一方側の弁軸24aに2つの弁体22aを設け、高負荷用の他方側の弁軸24bに2つの弁体22bを設けてもよく、あるいは、一方側の弁軸24aに1つの弁体22aを設け、高負荷用の他方側の弁軸24bに3つの弁体22bを設けてもよい。
【0068】
さらに、連結構造30は、高負荷用の制御弁18が低負荷用の制御弁18に同期するように、すなわち、高負荷用の制御弁18が開き始めた時点で両制御弁18,18の開度が異なっていても、両制御弁18,18が同時に全開となるように構成されていればよく、上記実施形態の構造に限定されない。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
10,10A 吸気装置
16 吸気通路
16a 低負荷用の吸気通路
16b 高負荷用の吸気通路
18 制御弁
20 駆動源
22 弁体
22a 低負荷用の弁体
22b 高負荷用の弁体
24 弁軸
24a 一方側の弁軸
24b 他方側の弁軸
25 弁軸連結機構
26 スライド片
32 圧力駆動部
42,42A 負圧通路(連通路)
46 傾斜部(案内部)
48 回り止め板(回り止め構造)
50 流路切替部材
E エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9