(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241010BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20241010BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241010BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20241010BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20241010BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
B01J35/57 E
B01J35/57 Z
B01J35/60 F
B01J23/44 A
B01D53/94 241
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
F01N3/10 A
(21)【出願番号】P 2021055958
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 文彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 沙智子
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196656(JP,A)
【文献】特開2009-220029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20、46/00、53/85-94
B01J 23/40-46、35/57、60
C04B 38/00
F01N 3/00-38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配設された多孔質の隔壁を有するハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部と、を備え、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記ハニカム構造体は、前記ハニカム構造体の前記セルの延びる方向において、前記ハニカム構造体の前記流入端面を起点とし
た流入側領域と、前記ハニカム構造体の前記流出端面を起点とした流出側領域と、を有し、前記流入端面を起点とした前記流入側領域の前記セルの延びる方向の長さL2は、前記ハニカム構造体の全長L1に対して30~60%の範囲であり、且つ、前記流出端面を起点とした前記流出側領域の前記セルの延びる方向の長さL3は、前記ハニカム構造体の全長L1に対して20~40%の範囲であり、
前記流入側領域における前記隔壁の平均細孔径が15~20μmであり、且つ、前記流出側領域における前記隔壁の平均細孔径が9~14μmである、ハニカムフィルタ
であって、
前記ハニカム構造体を構成する前記隔壁に担持された排ガス浄化用触媒を更に備え、
前記排ガス浄化用触媒は、前記ハニカム構造体の前記流入側領域において、少なくとも前記隔壁に形成された細孔の内部に担持され、且つ、前記ハニカム構造体の前記流出側領域において、少なくとも前記隔壁の表面上に担持されている、ハニカムフィルタ。
。
【請求項2】
前記隔壁の気孔率が、50~65%であり、前記隔壁の厚さが、0.19~0.31mmである、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記ハニカム構造体のセル密度が、30~50個/cm
2である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記排ガス浄化用触媒が、白金族元素含有触媒を含む、請求項
1~3のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記白金族元素含有触媒が、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含む、請求項
4に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記ハニカム構造体の単位体積当たりの前記排ガス浄化用触媒の担持量が、50g/L以上である、請求項
1~
5のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。更に詳しくは、排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集する捕集性能に優れるとともに、排ガス中に含まれる有害成分を浄化する浄化性能に優れたハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンから排出される排ガス中に含まれる粒子状物質の除去に関する規制は世界的に厳しくなっており、粒子状物質を除去するためのフィルタとして、ハニカム構造を有するハニカムフィルタが用いられている。以下、粒子状物質を、「PM」ということがある。PMは、「Particulate Matter」の略である。
【0003】
例えば、ハニカムフィルタとしては、複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造体と、セルのいずれか一方の端部を目封止する目封止部と、を備えたものを挙げることができる。このようなハニカムフィルタは、多孔質の隔壁がPMを除去するフィルタの役目を果たす構造となっている。具体的には、PMを含有する排ガスを、ハニカムフィルタの流入端面から流入させ、多孔質の隔壁でPMを捕集することによって濾過した後に、浄化された排ガスを、ハニカムフィルタの流出端面から排出する。このようにして排ガス中のPMを除去することができる。
【0004】
このようなハニカムフィルタの浄化性能を向上させることを目的として、多孔質の隔壁に、排ガス浄化用触媒を担持することが行われている(例えば、特許文献1参照)。排ガス浄化用触媒としては、例えば、白金族元素を含有する排ガス浄化用触媒によって構成された白金族元素含有触媒を挙げることができる。以下、白金族元素含有触媒を、「PGM触媒」ということがある。「PGM」とは、「Platinum Group Metal」の略である。PGMには、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上述したような排ガス浄化用触媒(以下、単に「触媒」ともいう)を多孔質の隔壁に担持したハニカムフィルタについて、排ガス浄化性能をより向上させるための更なる対策が求められている。このような対策として、例えば、多孔質の隔壁により多くの触媒を担持することが検討されているが、隔壁により多くの触媒を担持すると、ハニカムフィルタの捕集性能が低下したり、ハニカムフィルタの圧力損失が上昇したりするという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明によれば、排ガス中に含まれるPMを捕集する捕集性能に優れるとともに、排ガス中に含まれる有害成分を浄化する浄化性能に優れたハニカムフィルタが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、ハニカムフィルタが提供される。
【0009】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配設された多孔質の隔壁を有するハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部と、を備え、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記ハニカム構造体は、前記ハニカム構造体の前記セルの延びる方向において、前記ハニカム構造体の前記流入端面を起点とした流入側領域と、前記ハニカム構造体の前記流出端面を起点とした流出側領域と、を有し、前記流入端面を起点とした前記流入側領域の前記セルの延びる方向の長さL2は、前記ハニカム構造体の全長L1に対して30~60%の範囲であり、且つ、前記流出端面を起点とした前記流出側領域の前記セルの延びる方向の長さL3は、前記ハニカム構造体の全長L1に対して20~40%の範囲であり、
前記流入側領域における前記隔壁の平均細孔径が15~20μmであり、且つ、前記流出側領域における前記隔壁の平均細孔径が9~14μmである、ハニカムフィルタであって、
前記ハニカム構造体を構成する前記隔壁に担持された排ガス浄化用触媒を更に備え、
前記排ガス浄化用触媒は、前記ハニカム構造体の前記流入側領域において、少なくとも前記隔壁に形成された細孔の内部に担持され、且つ、前記ハニカム構造体の前記流出側領域において、少なくとも前記隔壁の表面上に担持されている、ハニカムフィルタ。
【0010】
[2] 前記隔壁の気孔率が、50~65%であり、前記隔壁の厚さが、0.19~0.31mmである、前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0011】
[3] 前記ハニカム構造体のセル密度が、30~50個/cm2である、前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0013】
[4] 前記排ガス浄化用触媒が、白金族元素含有触媒を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0014】
[5] 前記白金族元素含有触媒が、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含む、前記[4]に記載のハニカムフィルタ。
【0015】
[6] 前記ハニカム構造体の単位体積当たりの前記排ガス浄化用触媒の担持量が、50g/L以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハニカムフィルタは、多孔質の隔壁に排ガス浄化用触媒を担持して用いた際に、排ガス中に含まれるPMを捕集する捕集性能に優れるとともに、排ガス中に含まれる有害成分を浄化する浄化性能に優れるという効果を奏するものである。更に、本発明のハニカムフィルタは、多孔質の隔壁に排ガス浄化用触媒を担持して用い、当該隔壁にてPMを捕集した際の圧力損失の上昇を有効に抑制することができる。
【0017】
即ち、本発明のハニカムフィルタは、ハニカム構造体のセルの延びる方向において、ハニカム構造体の流入端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して少なくとも30%の範囲に、平均細孔径が15~20μmの流入側領域を有している。このため、多孔質の隔壁に排ガス浄化用触媒を担持して用いた際に、上記した流入側領域において、排ガス浄化用触媒が隔壁に形成された細孔の内部に優先的に担持される。以下、「隔壁に形成された細孔」のことを、単に「隔壁の細孔」ともいう。一方で、本発明のハニカムフィルタは、ハニカム構造体のセルの延びる方向において、ハニカム構造体の流出端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して少なくとも20%の範囲に、平均細孔径が9~14μmの流出側領域を有している。このような流出側領域においては、排ガス浄化用触媒が隔壁の表面上に優先的に担持され、隔壁の表面には排ガス浄化用触媒が堆積した触媒層が形成される。そして、このような触媒層が排ガスの流れが多い流出側領域に優先的に形成されると、この流出側領域にて排ガスと触媒の接触が多くなり、排ガス浄化性能を向上させることができる。また、流出側領域に形成された触媒層によって、排ガス中のPMを有効に捕集することができ、PMを捕集する捕集性能も向上させることができる。更に、流出側領域においては、触媒層の表面にてPMが捕集されるため、PMによって隔壁の細孔が閉塞し難くなり、PM捕集時における圧力損失の上昇を極めて有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のハニカムフィルタの第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側の平面図である。
【
図3】
図1に示すハニカムフィルタの流出端面側の平面図である。
【
図4】
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
(1)ハニカムフィルタ:
本発明のハニカムフィルタの第一実施形態は、
図1~
図4に示すようなハニカムフィルタ100である。ここで、
図1は、本発明のハニカムフィルタの第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカムフィルタの流入端面側の平面図である。
図3は、
図1に示すハニカムフィルタの流出端面側の平面図である。
図4は、
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【0021】
図1~
図4に示すように、本実施形態のハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4と、目封止部5と、を備えたものである。ハニカム構造体4は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配設された多孔質の隔壁1を有するものである。
図1~
図4に示すハニカム構造体4は、流入端面11及び流出端面12を両端面とする円柱形状に構成され、その外周側面に、外周壁3を更に有している。即ち、外周壁3は、格子状に配設された隔壁1を囲繞するように配設されている。
【0022】
目封止部5は、セル2の流入端面11側又は流出端面12側のいずれか一方の端部を封止するように配置されたものである。以下、複数のセル2のうち、流出端面12側の端部に目封止部5が配設され、流入端面11側が開口したセル2を、「流入セル2a」とする。また、複数のセル2のうち、流入端面11側の端部に目封止部5が配設され、流出端面12側が開口したセル2を、「流出セル2b」とする。本実施形態のハニカムフィルタ100において、流入セル2aと流出セル2bは、隔壁1を挟んで交互に配置されていることが好ましい。
【0023】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4が、以下のように構成されている点に特徴を有する。ハニカム構造体4は、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向において、ハニカム構造体4の流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも30%までの範囲を含む流入側領域15を有する。また、ハニカム構造体4は、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向において、ハニカム構造体4の流出端面12を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも20%までの範囲を含む流出側領域16を有する。即ち、
図4に示すように、ハニカム構造体4において、流入側領域15のセル2の延びる方向の長さL2は、ハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも30%であり、流出側領域16のセル2の延びる方向の長さL3は、ハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも20%となる。
【0024】
以下、ハニカム構造体4の全長L1に対する、ハニカム構造体4の流入端面11を起点とした流入側領域15の長さの比率(%)を、「流入側領域15の流入端面11からの長さ範囲(%)」ということがある。また、ハニカム構造体4の全長L1に対する、ハニカム構造体4の流出端面12を起点とした流出側領域16の長さの比率(%)を、「流出側領域16の流出端面12からの長さ範囲(%)」ということがある。
【0025】
本実施形態のハニカムフィルタ100は、流入側領域15における隔壁1の平均細孔径が15~20μmであり、且つ、流出側領域16における隔壁1の平均細孔径が9~14μmである。即ち、ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4の流入側領域15において、隔壁1の平均細孔径が相対的に大きなっており、一方で、ハニカム構造体4の流出側領域16において、隔壁1の平均細孔径が相対的に小さくなっている。ハニカム構造体4の流入側領域15及び流出側領域16における隔壁1の平均細孔径は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の平均細孔径は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定することができる。
【0026】
ハニカムフィルタ100は、多孔質の隔壁1に排ガス浄化用触媒を担持して用いた際に、排ガス中に含まれるPMを捕集する捕集性能に優れるとともに、排ガス中に含まれる有害成分を浄化する浄化性能にも優れる。更に、ハニカムフィルタ100は、多孔質の隔壁1に排ガス浄化用触媒を担持して用いた際に、圧力損失の上昇を有効に抑制することができる。
【0027】
即ち、ハニカムフィルタ100は、多孔質の隔壁1に排ガス浄化用触媒を担持して用いた際に、隔壁1の平均細孔径が15~20μmとなる流入側領域15において、排ガス浄化用触媒が隔壁1の細孔の内部に優先的に担持される。一方で、隔壁1の平均細孔径が9~14μmとなる流出側領域16においては、排ガス浄化用触媒が隔壁1の表面上に優先的に担持され、隔壁1の表面には排ガス浄化用触媒が堆積した触媒層が形成されることとなる。そして、このような触媒層が、排ガスの流れが多い流出側領域16に優先的に形成されると、流出側領域16にて排ガスと触媒の接触が多くなり、排ガス浄化性能を向上させることができる。また、流出側領域16に形成された触媒層によって、排ガス中のPMを有効に捕集することができ、PMを捕集する捕集性能も向上させることができる。更に、流出側領域16においては、上記した触媒層の表面にてPMが捕集されるため、PMによって隔壁1の細孔が閉塞し難くなり、PM捕集時における圧力損失の上昇を極めて有効に抑制することができる。
【0028】
ハニカム構造体4の流入側領域15及び流出側領域16の確認方法、及び流入側領域15及び流出側領域16における隔壁1の各平均細孔径の測定方法は、以下の通りである。まず、流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して、1%刻みに、5点の測定点を決める。そして、上記した各測定点から、ハニカム構造体4の隔壁1の一部を切り出して、平均細孔径を測定するための測定用の試料片をそれぞれ切り出す。測定用の試料片としては、例えば、縦、横、高さのそれぞれの長さが、約10mm、約10mm、約10mmの直方体とする。そして、それぞれの測定用の試料片について、水銀圧入法によって、それぞれの平均細孔径(すなわち、流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して1%刻みの平均細孔径)を測定する。
【0029】
上述した平均細孔径の測定において、流入端面11を起点として隔壁1の平均細孔径が15~20μmの範囲が「流入側領域15」となる。また、ハニカム構造体4の全長L1に対する、流入端面11を起点として隔壁1の平均細孔径が15~20μmの範囲(即ち、流入側領域15)の長さの比率が、「流入側領域15の流入端面11からの長さ範囲(%)」となる。
【0030】
同様に、上述した平均細孔径の測定において、流出端面12を起点として隔壁1の平均細孔径が9~14μmの範囲が「流出側領域16」となる。また、ハニカム構造体4の全長L1に対する、流出端面12を起点として隔壁1の平均細孔径が9~14μmの範囲(即ち、流出側領域16)の長さの比率が、「流出側領域16の流出端面12からの長さ範囲(%)」となる。
【0031】
本実施形態のハニカムフィルタ100において、流入側領域15は、流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも30%までの範囲である。一方、流出側領域16は、流出端面12を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも20%までの範囲である。このため、ハニカム構造体4は、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向において、流入端面11を起点とした場合に、ハニカム構造体4の全長L1方向における30~80%の範囲の一部に、流入側領域15及び流出側領域16以外の「中間領域17」を更に有していてもよい。中間領域17は、流入側領域15及び流出側領域16における隔壁1の平均細孔径の各数値範囲を満たしておらず、いずれの領域にも含まれない領域となる。勿論、ハニカム構造体4は、上記したような中間領域17を有しておらず、流入端面11を起点として所定の長さ範囲が流入側領域15となり、残余の長さ範囲が全て流出側領域16となるものであってもよい。
【0032】
ハニカム構造体4の中間領域17は、当該中間領域17における隔壁1の平均細孔径が14μmを超え、15μm未満であることが好ましい。例えば、ハニカム構造体4の平均細孔径が、流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して50%の範囲が15~20μmで、50%から70%の範囲が14~15μmの場合、上記50%の範囲が流入側領域15となり、50%から70%の範囲が中間領域17となる。そして、例えば、流入端面11を起点としてハニカム構造体4の全長L1に対して残余の70~100%の範囲の平均細孔径が9~14μmの場合は、この残余の範囲(70~100%の範囲)が流出側領域16となる。
【0033】
図4に示すように、ハニカム構造体4において、流入側領域15のセル2の延びる方向の長さL2は、ハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも30%であり、ハニカム構造体4の全長L1に対して最大で80%となる。流入側領域15のセル2の延びる方向の長さL2は、特に限定されることはないが、例えば、ハニカム構造体4の全長L1に対して30~60%であることが好ましく、30~50%であることが更に好ましい。
【0034】
また、ハニカム構造体4において、流出側領域16のセル2の延びる方向の長さL3は、ハニカム構造体4の全長L1に対して少なくとも20%であり、ハニカム構造体4の全長L1に対して最大で70%となる。流出側領域16のセル2の延びる方向の長さL3は、特に限定されることはないが、例えば、ハニカム構造体4の全長L1に対して20~40%であることが好ましく、20~30%であることが更に好ましい。
【0035】
ハニカム構造体4において、中間領域17は上述したように任意の構成要素であり、中間領域17のセル2の延びる方向の長さL4は、ハニカム構造体4の全長L1に対して最大で50%となる。中間領域17のセル2の延びる方向の長さL4は、これまでに説明した流入側領域15のセル2の延びる方向の長さL2及び流出側領域16のセル2の延びる方向の長さL3に応じて適宜設定することができる。
【0036】
流入側領域15における隔壁1の平均細孔径は15~20μmであるが、好ましくは16~20μmであり、更に好ましくは17~20μmである。また、流出側領域16における隔壁1の平均細孔径は9~14μmであるが、好ましく9~13μmであり、更に好ましくは9~12μmである。
【0037】
ハニカム構造体4の隔壁1の気孔率は、50~65%であることが好ましく、53~65%であることが更に好ましく、55~65%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率は、水銀圧入法によって測定した値である。隔壁1の気孔率は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定することができる。隔壁1の気孔率が、50%未満であると、隔壁透過抵抗が上昇し、圧力損失が上昇する点で好ましくない。隔壁1の気孔率が、65%を超えると、強度が著しく低下する点で好ましくない。
【0038】
ハニカム構造体4は、隔壁1の厚さが、0.19~0.31mmであることが好ましく、0.22~0.31mmであることが更に好ましく、0.22~0.28mmであることが特に好ましい。隔壁1の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さが0.19mm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。一方、隔壁1の厚さが0.31mmを超えると、隔壁1に触媒を担持した際に、圧力損失が増大することがある。
【0039】
ハニカム構造体4に形成されているセル2の形状については特に制限はない。例えば、セル2の延びる方向に直交する断面における、セル2の形状としては、多角形、円形、楕円形等を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。なお、セル2の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形であることが好ましい。また、セル2の形状については、全てのセル2の形状が同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、図示は省略するが、四角形のセルと、八角形のセルとが混在したものであってもよい。また、セル2の大きさについては、全てのセル2の大きさが同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、図示は省略するが、複数のセルのうち、一部のセルの大きさを大きくし、他のセルの大きさを相対的に小さくしてもよい。なお、本発明において、セルとは、隔壁によって取り囲まれた空間のことを意味する。
【0040】
隔壁1によって区画形成されるセル2のセル密度が、30~50個/cm2であることが好ましく、35~50個/cm2であることが更に好ましい。このように構成することによって、自動車等のエンジンから排出される排ガス中のPMを捕集するためのフィルタとして好適に利用することができる。
【0041】
ハニカム構造体4の外周壁3は、隔壁1と一体的に構成されたものであってもよいし、隔壁1を囲繞するように外周コート材を塗工することによって形成した外周コート層であってもよい。図示は省略するが、外周コート層は、製造時において、隔壁と外周壁とを一体的に形成した後、形成された外周壁を、研削加工等の公知の方法によって除去した後、隔壁の外周側に設けることができる。
【0042】
ハニカム構造体4の形状については特に制限はない。ハニカム構造体4の形状としては、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0043】
ハニカム構造体4の大きさ、例えば、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向の長さ(以下、「全長L1」ともいう)や、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさ(以下、「断面積」ともいう)については、特に制限はない。ハニカムフィルタ100の使用時に最適な浄化性能が得るように、各大きさを適宜選択すればよい。ハニカム構造体4の全長L1は、90~160mmであることが好ましく、120~140mmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造体4の断面積は、8000~16000mm2であることが好ましく、10000~14000mm2であることが更に好ましい。
【0044】
隔壁1の材料が、コージェライト、炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素-コージェライト系複合材料から構成される群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。隔壁1を構成する材料は、上記群に列挙された材料を、30質量%以上含む材料であることが好ましく、40質量%以上含む材料であることが更に好ましく、50質量%以上含む材料であることが特に好ましい。本実施形態のハニカムフィルタ100において、隔壁1を構成する材料は、特に、コージェライトが好ましい。
【0045】
ハニカム構造体4は、上述した隔壁1を構成する材料からなる一体成形品であることが好ましい。即ち、ハニカムフィルタ100におけるハニカム構造体4は、流入側領域15と流出側領域16とが別々に作製されたものを連結して作製されたものではなく、所定の成形材料を用いて一体的に成形された一体成形品であることが好ましい。
【0046】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4を構成する隔壁1に担持された排ガス浄化用触媒(図示せず)を更に備えたものであってもよい。そして、排ガス浄化用触媒は、ハニカム構造体4の流入側領域15において、少なくとも隔壁1に形成された細孔の内部に担持されていることが好ましい。ここで、「隔壁1の細孔の内部に担持」とは、隔壁1の厚さ方向において、隔壁1の流入セル2a側の隔壁1表面から隔壁1の厚さ方向に0.1T(但し、Tは、隔壁1の厚さを示す)を起点として0.9Tまでの間の少なくともどこかに、排ガス浄化用触媒が存在することを意味する。また、「少なくとも隔壁1に形成された細孔の内部に担持されている」とは、排ガス浄化用触媒が、隔壁1の細孔の内部のみに担持されていてもよいし、隔壁1の表面上及び細孔の内部に担持されていてもよい。一方で、排ガス浄化用触媒は、ハニカム構造体4の流出側領域16において、少なくとも隔壁1の表面上に担持されていることが好ましい。「少なくとも隔壁1の表面上に担持されている」とは、排ガス浄化用触媒が、隔壁1の表面上のみに担持されていてもよいし、隔壁1の表面上及び細孔の内部に担持されていてもよい。「隔壁1の表面上のみに担持」とは、隔壁1の表面に触媒が存在し、且つ隔壁1の厚さ方向において、隔壁1の流入セル2a側の隔壁1表面から隔壁1の厚さ方向に0.1T(但し、Tは、隔壁1の厚さを示す)を起点として1.0Tまでの間に、排ガス浄化用触媒が存在しないことを意味する。「隔壁1の表面上及び細孔の内部に担持」とは、隔壁1の表面に触媒が存在し、且つ隔壁1の厚さ方向において、隔壁1の流入セル2a側の隔壁1表面から隔壁1の厚さ方向に0.1T(但し、Tは、隔壁1の厚さを示す)を起点として0.9Tまでの間の少なくともどこかに、排ガス浄化用触媒が存在することを意味する。このように構成することによって、流出側領域16においては、隔壁1の表面に排ガス浄化用触媒が堆積した触媒層が形成されることとなる。このような触媒層が、排ガスの流れが多い流出側領域16に優先的に形成されると、当該流出側領域16にて排ガスと触媒の接触が多くなり、排ガス浄化性能を有効に向上させることができる。また、流出側領域16に形成された触媒層によって、排ガス中のPMを有効に捕集することができ、PMを捕集する捕集性能も向上させることができる。更に、流出側領域16においては、上記した触媒層の表面にてPMが捕集されるため、PMによって隔壁1の細孔が閉塞し難くなり、PM捕集時における圧力損失の上昇を極めて有効に抑制することができる。
【0047】
排ガス浄化用触媒を更に備えたハニカムフィルタ100は、上述したように、平均細孔径の大きさが異なる流入側領域15と流出側領域16とで触媒の担持形態を異ならせることが好ましい。ハニカムフィルタ100は、流入側領域15と流出側領域16の2つの領域において隔壁1の平均細孔径が異なるため、例えば、1種類の触媒担持用スラリー(例えば、触媒液)を用いて、それぞれの領域に対して触媒の担持形態を変化させることができる。特に、1回の触媒の担持工程によって所望の領域に対する触媒の担持形態を簡便に変化させることができる。このため、本実施形態のハニカムフィルタ100によれば、上述したような排ガス浄化用触媒を更に備えたハニカムフィルタ100を極めて簡便に製造することができる。
【0048】
なお、流入側領域15においては、上述したように、少なくとも隔壁1に形成された細孔の内部に触媒が担持されていれば、一部の触媒が隔壁1の表面上に担持されていてもよい。同様に、流出側領域16においては、上述したように、少なくとも隔壁1の表面上に触媒が担持されていれば、一部の触媒が隔壁1に形成された細孔の内部に担持されていてもよい。但し、流入側領域15と流出側領域16の各領域の触媒の担持形態を比較した場合に、流入側領域15においては、隔壁1に形成された細孔の内部に、相対的により多くの触媒が担持されていることが好ましい。一方で、流出側領域16においては、隔壁1の表面上に、相対的により多くの触媒が担持されていることが好ましい。
【0049】
ハニカム構造体4を構成する隔壁1に担持された排ガス浄化用触媒は、白金族元素含有触媒を含むことが好ましい。白金族元素含有触媒とは、白金族元素を含有する排ガス浄化用触媒のことである。また、白金族元素とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金のことである。以下、白金族元素のことを「PGM」ということがある。排ガス浄化用触媒が白金族元素含有触媒を含むことにより、排ガス中に含まれる有害成分を浄化する浄化性能に優れるという効果を奏する。本実施形態のハニカムフィルタ100において、隔壁1に担持された排ガス浄化用触媒は、実質的に白金族元素含有触媒であることが好ましい。
【0050】
白金族元素含有触媒は、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含むことが好ましい。なお、このような酸化物を含む触媒は、当該触媒の総質量に対して、1~3質量%の白金族元素を含むことが好ましい。白金族元素含有触媒の組成は、例えば、蛍光X線分析(XRF;X-ray Fluorescence)によって測定することができる。具体的には、試料にX線を照射することにより発生する、各元素に固有な蛍光X線を検出することで、白金族元素含有触媒の組成分析を行うことができる。
【0051】
ハニカム構造体4の単位体積当たりの排ガス浄化用触媒の担持量については特に制限はないが、例えば、50g/L以上であることが好ましく、50~100g/Lであることが更に好ましく、70~100g/Lであることが特に好ましい。なお、排ガス浄化用触媒の担持量は、ハニカム構造体4の容積1L当たりに担持される触媒の質量(g)である。排ガス浄化用触媒の担持方法としては、例えば、ハニカム構造体4に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。
【0052】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
本発明のハニカムフィルタを製造する方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法を挙げることができる。
【0053】
まず、ハニカム構造体の隔壁を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造体の隔壁を作製するための坏土は、前述の隔壁の好適な材料を作製するための原料粉末に、適宜、バインダ等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。原料粉末としては、例えば、アルミナ、タルク、カオリン、シリカの粉末を用いることができる。バインダとしては、例えば、メチルセルロース(Methylcellulose)や、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methylcellulose)等を挙げることができる。また、添加剤としては、界面活性剤等を挙げることができる。
【0054】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を作製する。次に、得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥する。
【0055】
次に、乾燥したハニカム成形体に、目封止部を形成する。目封止部を形成する方法については、従来公知のハニカムフィルタの製造方法に準じて行うことができる。例えば、まず、ハニカム成形体の流入端面に、流入セルが覆われるようにマスクを施す。その後、マスクの施されたハニカム成形体の端部を、目封止スラリーに浸漬し、マスクが施されていない流出セルの開口部に目封止スラリーを充填する。その後、ハニカム成形体の流出端面についても、上記と同様の方法で、流入セルの開口部に目封止スラリーを充填する。その後、目封止部を形成したハニカム成形体を、更に、熱風乾燥機で乾燥する。
【0056】
次に、目封止部を形成したハニカム成形体を焼成して、ハニカム構造体と、セルのいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部と、を備えたハニカムフィルタを製造する。ハニカム成形体を焼成する際の、焼成温度及び焼成雰囲気については、ハニカム成形体を作製する原料によって異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【0057】
ここで、本発明のハニカムフィルタを製造する際には、以下のような工程により、得られるハニカム構造体の隔壁の平均細孔径を調節する。即ち、得られるハニカム構造体の流入側領域における隔壁の平均細孔径を15~20μmとし、流出側領域における隔壁の平均細孔径を9~14μmとする。具体的には、ハニカム成形体を焼成してハニカムフィルタを作製する際に、流入端面側のフィルタ内温度と流出端面側のフィルタ内温度の差を10℃以上とする。このように、焼成時において流入端面側と流出端面側とでハニカム成形体内に所定温度以上の差を設けることにより、ハニカムフィルタを構成する隔壁の平均細孔径の大きさを調節することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
まず、ハニカム構造体の隔壁を作製するためのアルミナ、タルク、カオリン、シリカ原料を用意した。用意したアルミナ、タルク、カオリン、シリカ原料に、分散媒を2質量部、有機バインダを7質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒としては、水を使用した。有機バインダとしては、メチルセルロースを使用した。分散剤としては、界面活性剤を使用した。
【0060】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形状のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。
【0061】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0062】
次に、乾燥したハニカム成形体に、目封止部を形成した。具体的には、まず、ハニカム成形体の流入端面に、流入セルが覆われるようにマスクを施した。その後、マスクの施されたハニカム成形体の端部を、目封止スラリーに浸漬し、マスクが施されていない流出セルの開口部に目封止スラリーを充填した。その後、ハニカム成形体の流出端面についても、上記と同様の方法で、流入セルの開口部に目封止スラリーを充填した。その後、目封止部を形成したハニカム成形体を、更に、熱風乾燥機で乾燥した。
【0063】
次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカムフィルタを作製した。なお、実施例1においては、焼成の工程において、温度分布を調整することにより、ハニカムフィルタを構成する隔壁の平均細孔径の大きさを調節した。
【0064】
次に、実施例1のハニカムフィルタの隔壁に、以下に示す方法により、白金族元素含有触媒を担持した。まず、白金族元素としてのパラジウムを担持したアルミニウム酸化物の粉末、イオン交換水、及び分散剤を含む触媒層形成用スラリーを用意した。次に、ハニカムフィルタの流入端面から触媒層形成用スラリーを流し込み、流出端面から、流し込んだ触媒層形成用スラリーを、白金族元素含有触媒層が隔壁に塗布されるように、適切な吸引量にて吸引した。その後、隔壁に塗布した白金族元素含有触媒を500℃で焼成して、実施例1のハニカムフィルタの隔壁に白金族元素含有触媒を担持した。実施例1においては、ハニカム構造体の単位体積当たりの白金族元素含有触媒の担持量が70g/Lとなるように、上記方法によって白金族元素含有触媒を担持した。白金族元素含有触媒の担持量を、表1の「触媒の担持量(g/L)」の欄に示す。
【0065】
実施例1のハニカムフィルタは、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。また、ハニカムフィルタのセルの延びる方向の長さは、127mmであった。ハニカムフィルタの端面の直径は、118mmであった。ハニカムフィルタを構成するハニカム構造体は、隔壁の厚さが、0.305mmであり、セル密度が、38.8個/cm2であった。ハニカム構造体の隔壁は、気孔率が61%であった。セル密度、隔壁の厚さ及び気孔率を、表1に示す。
【0066】
また、実施例1のハニカムフィルタは、ハニカム構造体の流入端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して40%までの範囲において、隔壁の平均細孔径が19μmであった。このため、実施例1のハニカムフィルタは、ハニカム構造体の流入端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して40%までの範囲が、隔壁の平均細孔径が15~20μmの流入側領域となっていた。また、実施例1のハニカムフィルタは、ハニカム構造体の流出端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して20%までの範囲において、隔壁の平均細孔径が14μmであった。のため、実施例1のハニカムフィルタは、ハニカム構造体の流出端面を起点としてハニカム構造体の全長に対して20%までの範囲が、隔壁の平均細孔径が9~14μmの流出側領域となっていた。各結果を、表1の「流入側領域」の「平均細孔径(μm)」及び「流入端面からの長さ範囲(%)」、並びに「流出側領域」の「平均細孔径(μm)」及び「流出端面からの長さ範囲(%)」の欄に示す。
【0067】
【0068】
実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、「捕集効率性能」、「煤付き圧力損失性能」、及び「排ガス浄化性能」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
[捕集効率性能]
まず、各実施例及び比較例のハニカムフィルタを排ガス浄化用フィルタとした排ガス浄化装置を作製した。1.2L直噴ガソリンエンジン車両のエンジン排気マニホルドの出口側に、作製した排ガス浄化装置を接続して、排ガス浄化装置の流出口から排出されるガスに含まれる煤の個数を、PN測定方法によって測定した。「PN測定方法」とは、国際連合(略称UN)の欧州経済委員会(略称ECE)における自動車基準調和世界フォーラム(略称WP29)の排出ガスエネルギー専門家会議(略称GRPE)による粒子測定プログラム(略称PMP)によって提案された測定方法のことである。なお、具体的には、煤の個数判定においては、WLTC(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)モード走行後に排出された煤の個数の累計を、判定対象となる排ガス浄化装置の煤の個数とし、捕集効率を測定した。以上のようにして測定した捕集効率について、比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合の、各実施例及び比較例のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値(%)を求めた。そして、以下の評価基準に基づいて、捕集効率性能の評価を行った。
評価「優」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値が、120%以上である場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値が、110%以上、120%未満である場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値が、100%以上、110%未満である場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の捕集効率の値が、100%未満である場合、その評価を「不可」とする。
【0070】
[煤付き圧力損失性能]
1.4L直噴ガソリンエンジンから排出される排気ガスを、各実施例及び比較例のハニカムフィルタに流入させて、ハニカムフィルタの隔壁にて、排気ガス中の煤を捕集した。煤の捕集は、ハニカムフィルタの単位体積(1L)当たりの煤の堆積量が1g/Lとなるまで行った。そして、煤の堆積量が1g/Lとなった状態で、200℃のエンジン排ガスを1.0Nm3/minの流量で流入させて、ハニカムフィルタの流入端面側と流出端面側との圧力を測定した。そして、流入端面側と流出端面側との圧力差を算出することにより、ハニカムフィルタの圧力損失(kPa)を求めた。以上のようにして測定した圧力損失について、比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の圧力損失の値を100%とした場合の、各実施例及び比較例のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置の圧力損失の値(%)を求めた。そして、以下の評価基準に基づいて、煤付き圧力損失性能の評価を行った。
評価「優」:比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタの圧力損失の値が、80%以下である場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタの圧力損失の値が、80%を超え、90%以下である場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタの圧力損失の値が、90%を超え、100%以下である場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタの圧力損失の値が、100%を超える場合、その評価を「不可」とする。
【0071】
[排ガス浄化性能]
まず、各実施例及び比較例のハニカムフィルタを排ガス浄化用フィルタとした排ガス浄化装置を作製した。1.2L直噴ガソリンエンジン車両のエンジン排気マニホルドの出口側に、作製した排ガス浄化装置を接続して、排ガス浄化装置の流出口から排出されるガスに含まれるNOx濃度を測定し、NOxの浄化率を求めた。以上のようにして測定したNOxの浄化率について、比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOxの浄化率の値を100%とした場合の、各実施例及び比較例のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOxの浄化率の値(%)を求めた。そして、以下の評価基準に基づいて、排ガス浄化性能の評価を行った。
評価「優」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値が、120%を超える場合、その評価を「優」とする。
評価「良」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値が、110%を超え、120%以下である場合、その評価を「良」とする。
評価「可」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値が、100%を超え、110%以下である場合、その評価を「可」とする。
評価「不可」:比較例1のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値を100%とした場合に、評価対象のハニカムフィルタを使用した排ガス浄化装置のNOx浄化率の値が、100%以下である場合、その評価を「不可」とする。
【0072】
【0073】
(実施例2~11)
セル密度、隔壁の厚さ及び気孔率、並びに流入側領域及び流出側領域の構成を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカムフィルタを作製した。実施例2~11において、流入側領域及び流出側領域の構成は、ハニカム成形体を焼成する際に、流入端面側のフィルタ内温度と流出端面側のフィルタ内温度の差を10℃以上とすることにより、隔壁の平均細孔径(μm)及び各端面からの長さ範囲(%)の調節を行った。そして、実施例2~11のハニカムフィルタに対して、表1の「触媒の担持量(g/L)」の欄に示す担持量となるように、実施例1と同様の方法で白金族元素含有触媒を担持した。
【0074】
(比較例1~5)
セル密度、隔壁の厚さ及び気孔率、並びに流入側領域及び流出側領域の構成を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でハニカムフィルタを作製した。比較例2~5において、流入側領域及び流出側領域の構成は、焼成の工程において、温度分布を調整することにより、隔壁の平均細孔径(μm)及び各端面からの長さ範囲(%)の調節を行った。また、比較例1においては、ハニカム成形体を焼成する際に、流入端面側のフィルタ内温度と流出端面側のフィルタ内温度の差を10℃未満とすることにより、ハニカム構造部のセルの延びる方向において、隔壁の平均細孔径がいずれの範囲においても19μmとなるようにした。そして、比較例1~5のハニカムフィルタに対して、表1の「触媒の担持量(g/L)」の欄に示す担持量となるように、実施例1と同様の方法で白金族元素含有触媒を担持した。
【0075】
実施例2~11及び比較例1~5のハニカムフィルタについて、実施例1と同様の方法で、「捕集効率性能」、「煤付き圧力損失性能」、及び「排ガス浄化性能」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
(結果)
実施例1~11のハニカムフィルタは、「捕集効率性能」、「煤付き圧力損失性能」、及び「排ガス浄化性能」の全て評価において、基準となる比較例1のハニカムフィルタの各性能を上回るものであることが確認できた。従って、実施例1~11のハニカムフィルタは、捕集性能に優れるとともに、浄化性能にも優れ、且つ、従来のハニカムフィルタに比して、隔壁にて煤を捕集した際の煤付き圧力損失の上昇を抑制することができることが分かった。一方、比較例2,4,5のハニカムフィルタは、比較例1のハニカムフィルタと比較して、隔壁にて煤を捕集した際の煤付き圧力損失が劣るものであった。比較例3のハニカムフィルタは、比較例1のハニカムフィルタと比較して、排ガス浄化性能が劣るものであった。また、比較例2のハニカムフィルタは、排ガス浄化性能について大きな向上は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のハニカムフィルタは、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム構造体、5:目封止部、11:流入端面、12:流出端面、15:流入側領域、16:流出側領域、17:中間領域、100:ハニカムフィルタ。