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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】冷却服
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/002 20060101AFI20241010BHJP
   A41D 13/005 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A41D13/002 105
A41D13/005 103
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021058418
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155082
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2021-04-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知弘
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘生
(72)【発明者】
【氏名】古市 謙次
(72)【発明者】
【氏名】板倉 大輔
【合議体】
【審判長】金丸 治之
【審判官】木原 裕二
【審判官】神山 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/070814(WO,A1)
【文献】特開2006-132040(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108720122(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/002,A41D13/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風装置が取付け可能であり、前記送風装置によって内部に供給された空気が着用者の身体との間で流れるように構成された冷却服であって、
後身頃に形成され前記送風装置から供給される空気が通る供給口と、
前記供給口から供給された空気が外に出るのを妨げるように、着用者の首に密着する首周り部と、
前身頃において上下方向の中央より上側でかつ左右方向の中央部の範囲内のみに形成され前記供給口から供給された空気を外に出す前側排気口と、
着用者の腕を覆う一対の袖と、
を備え、
前記一対の袖の各々の袖口部は、前記供給口から供給された空気が外に出るのを妨げるように着用者の手首に密着するように構成されており、
前記各袖は、前記袖口部と肩部との間の部分に形成され、前記供給口から供給された空気を外に出す腕側排気口を有し
腕側排気口の開口面積は、前記前側排気口の開口面積よりも大きい、
冷却服。
【請求項2】
前記一対の袖のうちの一の袖に形成された前記腕側排気口の開口面積は、前記前側排気口の開口面積の4倍以上である、
請求項1に記載の冷却服。
【請求項3】
前記腕側排気口は複数の貫通穴を有し、
前記腕側排気口の貫通穴及び前記前側排気口の貫通穴は、いずれも、直径20mm以下である、
請求項1または2に記載の冷却服。
【請求項4】
前記前側排気口は、着用者の胸に対向する位置に形成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の冷却服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却服に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の衣服が記載されている。特許文献1記載の衣服は、衣服本体と、衣服本体に空気を導入する空気導入部とを備える。空気導入部は、ファンを有しており、ファンによって衣服本体内に空気を供給することができる。
【0003】
衣服本体は、通気性のないシート状素材で構成されている。衣服本体は、空気導入部から空気が導入されると、衣服本体の内部が陽圧になり、衣服本体が大きく膨らむ。
【0004】
また、衣服は、衣服本体の内部の空気排出部として、襟の開口部と、袖口とを備える。衣服は、空気導入部から空気が導入されると、衣服本体の内部に沿って移動し、襟の開口部及び袖口から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-186515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1記載の衣服では、襟部の開口部から空気が排出される。このため、衣服の着用者は、排出された空気が直接的に顔に吹き当たり、不快であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、冷却服から排出された空気が、着用者の顔に当たるのを抑制できる冷却服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の冷却服は、送風装置が取付け可能であり、前記送風装置によって内部に供給された空気が着用者の身体との間で流れるように構成された冷却服であって、後頃に形成され前記送風装置から供給される空気が通る供給口と、前記供給口から供給された空気が外に出るのを妨げるように、着用者の首に密着する首周り部と、前頃に形成され前記供給口から供給された空気を外に出す前側排気口と、を備える。
【0009】
また、本発明に係る冷却服は、上記態様において、着用者の腕を覆う一対の袖を更に備え、前記一対の袖の各々の袖口部は、前記供給口から供給された空気が外に出るのを妨げるように着用者の手首に密着するように構成されており、前記各袖は、前記袖口部と肩部との間の部分に形成され、前記供給口から供給された空気を外に出す腕側排気口を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る冷却服は、上記態様において、前記一対の袖のうちの一の袖に形成された前記腕側排気口の開口面積は、前記前側排気口の開口面積よりも大きいことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る冷却服は、上記態様において、前記一対の袖のうちの一の袖に形成された前記腕側排気口の開口面積は、前記前側排気口の開口面積の4倍以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る冷却服は、上記態様において、前記腕側排気口は複数の貫通穴を有し、前記前側排気口は複数の貫通穴を有し、前記腕側排気口の貫通穴及び前記前側排気口の貫通穴は、いずれも、直径20mm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る冷却服は、上記態様において、前記前側排気口は、着用者の胸に対向する位置に形成されている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記態様の冷却服は、冷却服から排出された空気が、着用者の顔に当たるのを抑制できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る身体冷却装置を装着した着用者の背面図である。
図2図2は、同上の身体冷却装置の冷却服の正面図である。
図3図3は、同上の身体冷却装置の冷却服の背面図である。
図4図4(A)は、着用者の腕側排気口を説明する図である。図4(B)は、図4(A)のA-A線断面図である。
図5図5は、冷却服に対して外力が加わった際の状態を説明するための縦断面図である。
図6図6は、同上の冷却服が有するクッション材の斜視図である。
図7図7は、同上の送風装置の中心線に沿う面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
(1)全体
本実施形態に係る身体冷却装置1は、図1に示すように、冷却服2と、冷却服2の内部に空気を供給する送風装置3と、を備える。身体冷却装置1によれば、送風装置3から冷却服2の内部に供給された空気が、着用者の身体と冷却服2との間を流れることで、着用者の身体を広い範囲で冷やすことができる。
【0017】
ここでいう「着用者」とは、冷却服2を着用する者を意味する。着用者は、冷却服2を着用した状態で作業を行うことができる。着用者が行う作業としては、特に制限はないが、例えば、現場での作業、試験・研究、日曜大工のほか、スポーツ、アウトドアアクティビティ等が挙げられる。「現場」としては、特に制限はないが、例えば、感染症に対応する医療機関、アスベスト除去に対応する解体現場、化学薬品を扱う工場・研究所、農薬散布を行う農業地、工事現場、建築現場、溶接工場等が挙げられる。ここでは、医療機関で使用することを一例に説明する。
【0018】
着用者は、冷却服2が最も外側に位置するようにして着用することもできるが、外衣の中に着用することもできる。外衣は、着用者が最も外側に着用する衣を意味する。外衣は、上半身を覆う上衣と下半身を覆う下衣とが繋がったワンピース型であってもよいし、上衣と下衣とが分離したツーピース型であってもよい。外衣としては、例えば、作業服、防護服、化学防護服、防塵衣、耐火服、耐蜂服、レーシングドライバー用衣類、ジャンパー(ブルゾン)、ユニフォーム、合羽等が挙げられる。中衣としての冷却服2が非通気性であるため、外衣としては、非通気性であってもよいし、通気性を有していてもよい。本実施形態に係る冷却服2は、外衣としての化学防護服の中に着用されるが、図面では、外衣を省略している。
【0019】
(2)冷却服(中衣)
冷却服2は、着用者に着用される衣であり、送風装置3から供給される空気によって着用者の身体を冷却する。冷却服2は、上述したように、外衣の中に着用されるが、外衣を着用することなく、用いられてもよい。
【0020】
冷却服2は、非通気性である。本明細書でいう「非通気性」とは、通気しにくい性質を意味し、例えば、空気を完全に通さない性質だけでなく、僅かに空気を通す性質も含む。例えば、通気度が、0cm/cm・s以上20cm/cm・s以下の生地は「非通気性」の生地の範疇である。非通気性である生地としては、通気度が0cm/cm・s以上10cm/cm・sであることが好ましい。なお、ここでいう「通気度」は、JIS L 1096 A法フラジール形法に準拠した方法で測定される。
【0021】
冷却服2の表地は、編物からなる非通気性の生地で構成されている。編物は、糸で編んだ生地のことであり、伸縮性を有している。表地をなす生地は、例えば、編物からなる素材に樹脂をコーティング又はラミネートしたり、編物からなる素材に樹脂フィルムを積層したり、編物からなる生地に対して樹脂フィルムをプレスするカレンダー加工したりすることで、非通気性の生地とすることができる。
【0022】
編物を構成する繊維としては、化学繊維若しくは天然繊維、又はこれらの合成繊維が用いられる。化学繊維としては、特に制限はないが、例えば、ウレタン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。天然繊維としては、特に制限はないが、例えば、綿、麻、絹、レーヨン、羊毛等が挙げられる。本実施形態に係る編物は、伸縮性を向上させる観点から、ナイロン繊維(100%)からなる編物で構成される。
【0023】
編物の編成方法は、特に制限はなく、例えば、平編(天竺編)、ゴム編(フライス編)、パール編、タック編、移し編、片あぜ編、両あぜ編、両面編、振り編、ペレリン編、レース編、浮き編、パイル編、添え糸編等が挙げられるが、このなかでも、伸縮性を向上する観点から、ゴム編(フライス編)が好ましい。
【0024】
本実施形態に係る冷却服2の表地の生地は、ナイロン繊維で形成された編物からなる素材に対して、ポリウレタンフィルムがラミネートされて構成されている。具体的には、例えば、ニューレイド(登録商標)が好ましく用いられる。要するに、冷却服2は、非通気性でかつ伸縮性を有している。なお、ポリウレタンフィルムは、編物の素材に対し、外側に積層しても、内側に積層してもよく、特に制限はないが、編物の素材に対して内側に積層することで、外観のよい冷却服2を実現しやすい。
【0025】
本明細書でいう「伸縮性を有する」とは、たて:40%以上、かつ、よこ:60%以上の伸び率を有することを意味する。冷却服2に伸縮性を向上させる観点から、伸び率は、たて:80%以上、かつ、よこ:100%以上であることが好ましく、より好ましくは、たて:90%以上、かつ、よこ:120%以上であり、さらに好ましくは、たて:100%以上、かつ、よこ:140%以上である。本実施形態に係る冷却服2の表地の伸び率は、たて:100%、かつ、よこ:143%である。なお、ここでいう「伸び率」は、JIS L 1096 ストリップ法に準拠した方法で測定される。なお、ここでいう「たて」、「よこ」は、生地の状態でのたて、よこを指す。
【0026】
冷却服2は、送風装置3から空気が供給されると、着用者の身体との間に、所定寸法以下の空隙が形成されるように設定されている。この「所定寸法以下の空隙」とは、身体の表面と冷却服2の内面との間の空隙の寸法が、10mm以下、好ましくは、5mm以下、さらに好ましくは3mm以下である。着用者の身体との間にできる空隙を、所定以下の寸法に制限すると、後述の実施例における「(1)試験1」で説明するように、着用者の体温を効果的に下げることができる。
【0027】
冷却服2は、その内面が、着用者の身体に対して所定寸法以下の空隙が形成されるサイズに設定されている。例えば、冷却服2は、その冷却服2の着用を想定する着用者の基準サイズの身体の仮想表面に対し、冷却服2内が陽圧になった際、所定寸法の空隙が形成されるサイズに合わせて構成される。したがって、冷却服2は、想定する着用者の基準サイズに応じて、複数種類形成されることが好ましい。
【0028】
ところで、仮に、上記サイズの冷却服2が非伸縮性の生地で構成された場合には、基準サイズに適合した着用者であっても、着用するのは困難である。しかしながら、本実施形態に係る冷却服2は、上述したように、非通気性でかつ伸縮性を有する生地で構成されているため、着用者の体温を効果的に下げることができるサイズを採用しながらも、着用者が容易に着用することができる。
【0029】
冷却服2の裏地は、表地の伸縮性を妨げない生地で構成されている。裏地を構成する生地は、通気性を有する。裏地は、例えば、合成繊維からなるメッシュ生地で構成されている。ここでいう「合成繊維」としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン等が挙げられる。
【0030】
冷却服2は、図2,3に示すように、前頃22と、後頃21と、一対の袖23と、首周り部26と、を備える。前頃22、及び後頃21が、上述の表地及び裏地で構成されている。また、一対の袖23が、上述の表地で構成されている。
【0031】
頃21は、着用者の上半身の後面を覆う。後頃21には、図3に示すように、送風装置3が取り付けられる供給口211が形成されている。供給口211は、後頃21を貫通している。送風装置3から供給された空気は、供給口211を通り、冷却服2の内部に入る。
【0032】
頃22は、着用者の上半身の前面を覆う。前頃22は、図2に示すように、左右方向の中央に形成された接続部221を有する。接続部221は、前頃22を左右方向に分離したり、接続したりすることができる。接続部221は、例えば、ボタン、線ファスナ、面ファスナ等が挙げられるが、冷却服2内の気密性を確保する観点から、線ファスナが好ましい。本実施形態では線ファスナが用いられている。
【0033】
頃22には、冷却服2の内部の空気を排出するための前側排気口222が形成されている。前側排気口222は、前頃22を貫通する複数(ここでは二つ)の貫通穴24で構成されている。各貫通穴24は、前頃22に取り付けられた鳩目によって構成されているが、例えば、スリット、スロット穴等によって構成されてもよい。また、前側排気口222は、貫通穴24でなくてもよく、例えば、メッシュ加工部、通気性を有する生地等によって構成されてもよい。
【0034】
複数の貫通穴24は、上下方向において、冷却服2の中央よりも上側でかつ首周り部26よりも下側の範囲に形成されており、言い換えると、着用者の胸に対向する位置に形成されている。貫通穴24は、上下方向において、供給口211よりも上側に位置している。より詳細に説明すると、貫通穴24は、前頃22において、冷却服2の上下方向の中央よりも上側で、かつ左右方向の中央部(左右方向を3等分したときの真ん中の領域)の範囲内に形成されている。ここでいう「着用者の胸」とは、着用者の鎖骨と腹部との間の部分を意味し、例えば、みぞおちも含む。
【0035】
前側排気口222は、着用者の鎖骨の位置よりも下方に位置することが好ましい。鎖骨以上の位置に前側排気口222があると、前側排気口222から排出された空気が、着用者の顔に直接吹き当たる可能が高くなる。
【0036】
袖23は、着用者の肩部から手首までを覆い、すなわち、着用者の腕を覆う。袖23の先端には袖口部231が形成されている。袖口部231は、袖口の周方向に収縮し得るように伸縮可能に構成されている。したがって、袖口部231は、着用者の手首に密着して、冷却服2の内部の空気が袖口から外に出るのを妨げる。袖口部231は、ゴムが縫い付けられることで伸縮可能に構成されているが、例えば、リブ編み、紐によって締める構造、袖口の周方向の一端部と他端部とを重ねて面ファスナ又はボタンによって留める構造等を採用することもできる。
【0037】
ここで、本明細書でいう「密着」とは、着用者の肌又は着衣に対し、ぴったりと押さえ付ける態様を意味する。したがって、直接的に手首に密着する場合だけでなく、例えば、冷却服2を着用者の上衣の外に着用した際、袖口部231が上衣の袖23を押さえ付ける場合も、ここでいう「手首に密着する」ことに含まれる。
【0038】
袖23には、袖口部231と肩部との間の部分に腕側排気口232が形成されている。腕側排気口232は、冷却服2の内部の空気を外に出す口である。本実施形態に係る腕側排気口232は、図4(B)に示すように、袖23を貫通する複数(ここでは五つ)の貫通穴24で構成されている。各貫通穴24は、前側排気口222と同様、鳩目によって構成されているが、例えば、スリット、スロット穴等によって構成されてもよい。また、腕側排気口232は、貫通穴24でなくてもよく、例えば、メッシュ加工部、通気性を有する生地等によって構成されてもよい。
【0039】
各貫通穴24は、図4(A)に示すように、袖23の長手方向において、袖口から一定寸法以上、肩側に位置する部位に形成されている。このため、仮に、手袋を使用するような場合でも、冷却服2から出た空気が袖口から出て手袋に入るのを防ぐことができる。ここでいう「一定寸法以上」とは、袖23の袖口部231が手袋で覆われた際に、貫通穴24が手袋で覆われない程度の寸法を意味する。本実施形態では、一定寸法L1は、例えば、15cmであり、好ましくは20cmである。なお、袖23の長手方向の中央よりも肩側に位置すると、着用者の腕の冷却効果が低下するため、袖23の長手方向の中央よりも袖口側に位置することが好ましい。
【0040】
前側排気口222及び腕側排気口232を構成する各貫通穴24の直径は、いずれも、20mm以下であることが好ましく、より好ましくは、15mm以下である。貫通穴24の直径が20mmを超えると、表地の強度が低下したり、衣服内圧が低下したりすることが懸念される。本実施形態に係る貫通穴24は、内径5mmの鳩目によって構成されており、鳩目が取り付けられる部分には、伸張抑制布が重ねられて補強されている。伸張抑制布は、表地の伸び率よりも小さい伸び率の布で構成されており、例えば、織布、不織布等により構成される。
【0041】
ここで、本実施形態に係る冷却服2は、上述した通り、前側排気口222と、一対の腕側排気口232と、を備えるが、各々の腕側排気口232の開口面積は、前側排気口222の開口面積よりも大きく形成されている。ここでいう「腕側排気口232の開口面積」「前側排気口222の開口面積」とは、貫通穴24の開口面積の合計を意味する。
【0042】
各腕側排気口232の開口面積は、前側排気口222の開口面積の4倍以上に設定されることが好ましい。本実施形態に係る冷却服2では、各腕側排気口232が五つの貫通穴24で構成され、前側排気口222が二つの貫通穴24で構成されている。このため、各腕側排気口232の開口面積は、前側排気口222の開口面積の4.5倍である。
【0043】
各々の腕側排気口232の開口面積を前側排気口222の開口面積よりも大きくすると、後述の実施例における「(2)試験2」で説明するように、着用者の体温を効果的に下げることができる。特に、各腕側排気口232の開口面積を、前側排気口222の開口面積の4倍以上に設定すると、着用者の体温をより効果的に下げることができる。
【0044】
冷却服2の裾部25(すなわち、前頃22及び後頃21の下端部)は、裾の開口の周方向に収縮するように伸縮可能に構成されている。したがって、裾部25は、着用者の胴部に密着することができる。裾部25は、例えば、リブ編み、ゴム、紐によって締める構造、袖口の周方向の一端部と他端部とを重ねて面ファスナ又はボタンによって留める構造等を採用することができる。本実施形態では、紐を締めることによって、裾部25を胴部に対して密着させることができる。
【0045】
首周り部26は、着用者の首に密着する部分である。首周り部26は、着用者の首に密着し、供給口211から供給された空気が外に出るのを妨げる。首周り部26は、リブ襟261と、リブ襟261を外側から押える帯体262と、を備える。
【0046】
リブ襟261は、着用者の首に対向する部分である。リブ襟261は、首周りの周方向に収縮し得るように、伸縮可能に構成されている。リブ襟261は、リブ編みによって構成されている。帯体262は、収縮可能なゴムバンドで構成されており、帯体262の先端部を、帯体262の長手方向の任意の位置で固定することができる。ゴムバンドの固定は、例えば、面ファスナによって実現されており、締める強さを無段階で調節することができる。
【0047】
帯体262は、面ファスナによって、締める強さを無段階で調節することができるが、例えば、首周りの周方向において、一定の間隔で複数のボタンを固定し、帯体262を複数のボタンのうちの一つに固定することで、締める強さを段階的に調節可能としてもよい。また、帯体262は、必ずしも、伸縮可能である必要はない。
【0048】
首周り部26によって、冷却服2内の空気が陽圧になっても、首周りから空気が外に出るのを妨げることができる。このため、例えば、外衣として化学防護服を使用する際、頭部を覆うマスクの内部に、冷却服2から排出された空気が流れ込むのを防ぐことができる。
【0049】
冷却服2は、クッション材27を備える。クッション材27は、表地と裏地との間に配置され、表地に対して固定されている。クッション材27と表地との固定は、例えば、接着、縫合、圧着、溶着等によって実現される。
【0050】
クッション材27は、通気性を有する。また、クッション材27は、弾力性を有する。クッション材27は、冷却服2において、着用者の背中、肩及び胸に対向する部位に取り付けられている。クッション材27は、冷却服2に対して外力が加わった際(外力が加わった外衣から、冷却服2に対して力が加わる場合も含む)に、当該外力を受けると共に、着用者の身体の表面に沿って流れる空気の流路を確保することができる。冷却服2に対して加わる外力としては、例えば、ハーネスやサスペンダーを装着した際の外力、冷却服2を着用した状態で荷物や装備品を背負った際の外力等が挙げられる。すなわち、本実施形態に係る冷却服2によれば、図5に示すように、外力によって身体と冷却服2との間の空隙が塞がれても、クッション材27によって空気流路を確保することができる。
【0051】
クッション材27としては、弾力性及び通気性を有していれば、特に制限はないが、例えば、熱可塑性樹脂の3次元網状構造体271、エステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維フィラメントを用いたダブルラッセル編物等が挙げられる。その中でも、外力が加わった際のクッション性、冷却服2の装着感及び加工性を考慮すると、3次元網状構造体271が好ましい。
【0052】
ここで、3次元網状構造体271は、図6に示すようなもので、熱可塑性弾性樹脂からなる多数の線条がランダムループを形成し、かつ該線条の接点同士が融着して構成されている。3次元網状構造体271を形成する熱可塑性弾性樹脂としては、例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等の熱可塑性樹脂エラストマーが挙げられる。3次元網状構造体271としては、例えば、特許第4802369号公報に記載されたものが挙げられる。
【0053】
クッション材27の厚さ寸法t1は、例えば、5mm以上70mm以下であることが好ましく、より好ましくは、10mm以上50mm以下である。クッション材27の厚さ寸法t1が5mm以上であると、冷却服2に対して外力が加わった際でも空気流路を確保することができる。クッション材27の厚さ寸法t1が、70mm以下であると、冷却服2の装着感を損なうことがなく、冷却服2の着心地を良好にすることができる。
【0054】
また、クッション材27のかさ密度は、10kg/m以上100kg/m以下であることが好ましい。クッション材27のかさ密度が10kg/m以上であると、冷却服2に対して外力が加わった際でも空気流路を確保することができる。クッション材27のかさ密度が100kg/m以下であると、冷却服2の装着感を損なうことがなく、冷却服2の着心地を良好にすることができる。
【0055】
また、クッション材27は、厚さ方向に50%圧縮した後の回復率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは、80%以上である。クッション材27を厚み方向に50%圧縮した後の回復率が70%以上であると、冷却服2に対して繰り返し外力が加わった際でも、適切に空気流路を確保することができる。
【0056】
クッション材27は、冷却服2の内面の全面ではなく、部分的に配置されることが好ましい。本実施形態では、着用者の身体の背中、肩及び胸に対向する部位に配置され、かつクッション材27の合計面積が、前頃22及び後頃21の面積の50%以下、好ましくは30%以下に設定されている。これによって、冷却服2内の空気の流れが、クッション材27によって阻害されるのを抑制することができる。
【0057】
(3)送風装置
送風装置3は、冷却服2に取り付けられ、冷却服2の供給口211から冷却服2の内部に空気を供給する。送風装置3は、外気をそのまま冷却服2に供給してもよいが、本実施形態では、外気を取り込み、処理した上で冷却服2の内部に供給することができる。送風装置3は、図7に示すように、送風治具4と、送風ホース5と、装置本体6と、を備える。
【0058】
(3.1)送風治具
送風治具4は、図7に示すように、装置本体6を冷却服2に接続する。送風治具4は、両端が開口した筒状に形成されており、一端が冷却服2に接続され、他端が装置本体6に接続される。送風治具4によって、装置本体6が冷却服2に接続されると、装置本体6の空気流路が、冷却服2の供給口211に通じる。
【0059】
送風治具4を構成する材料としては、特に制限はなく、例えば、合成樹脂、金属、カーボン、木、パルプ等が挙げられるが、コスト及び軽量性の観点で、合成樹脂であることが好ましい。
【0060】
送風治具4は、図7に示すように、略L字状に形成される。送風治具4の一端は鍔状に形成されており、後頃21の内面に当たる。送風治具4の他端には、送風ホース5が取外し可能に取り付けられる。送風治具4と送風ホース5との取付けは、例えば、ねじ込み、引っ掛け、嵌め込み等によって実現される。送風ホース5は、可とう性を有しており、ここでは蛇腹状のホースで構成されている。送風ホース5の長手方向のうち、着脱部とは反対側の端部には、装置本体6が着脱可能に取り付けられる。
【0061】
なお、送風治具4において、送風ホース5はなくてもよい。送風ホース5がない場合、例えば、着脱部に対して装置本体6が取り付けられてもよいし、送風ホース5に代えて、直管状の接続管が用いられてもよい。
【0062】
(3.2)装置本体
装置本体6は、送風装置3の主体を構成する。装置本体6は、外気に通じる空気流路を有しており、当該空気流路は、送風治具4を介して、冷却服2の内部に通じる。したがって、装置本体6は外気を取り込み、取り込んだ空気を処理して、冷却服2の内部に送風することができる。装置本体6は、ファン62と、吸湿材63と、筐体61と、を備える。
【0063】
筐体61は、ファン62及び吸湿材63を収容する。筐体61は円筒状に形成されている。筐体61の材料としては、例えば、金属、合成樹脂、カーボン、木、パルプ等が挙げられるが、強度、放熱性及び軽量性の観点から、アルミニウムからなる金属が用いられることが好ましい。筐体61の中心軸方向の一端には、外気を取り込む給気口631が形成されており、筐体61の中心軸方向の他端には、送風ホース5が取り付けられる。筐体61内には、給気口631と送風ホース5の接続口とをつなぐ空気流路が形成される。
【0064】
ファン62は、筐体61内に設けられており、空気流路に沿った流れを生成する。ファン62は、筐体61内に収容されている。ファン62は、筐体61の外に着脱可能に取り付けられたバッテリ(不図示)から電力を受けて動作する。
【0065】
吸湿材63は、容器612に収容される。吸湿材63は、空気に含まれた水蒸気を吸着する。吸湿材63としては、吸着能を向上するために、細孔を有する多数の粒状のものを用いることが好ましい。吸湿材63としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性アルミナ、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0066】
筐体61には、吸湿材63に加えて蓄熱材を収容してもよい。吸湿材63による水蒸気の吸着は発熱反応であるため、水蒸気の吸着に伴い吸湿材63には吸着熱が生じるが、この吸着熱が蓄熱材に伝達されて潜熱として蓄熱されることで、吸着熱により吸湿材63を通過した空気の温度上昇が抑制される。よって、空気流路に取り込まれた空気が水蒸気を多く含んでいても、乾燥した低温空気として供給口211に送り出すことができる。
【0067】
蓄熱材としては、例えば、温度に応じて潜熱の吸収を生じる相変化物質をカプセル等に封入してなる多数の蓄熱カプセルを用いることができる。この蓄熱カプセルは、特許第4508867号公報や特許第4861136号公報に記載されたものを用いることができる。
【0068】
<効果>
以上説明したように、本実施形態に係る冷却服2は、首周り部26が着用者の首に密着すると共に、供給口211が後頃21に形成され、かつ前側排気口222が前身頃に形成されている。このため、着用者の身体の全体を効果的に冷却することができる上に、冷却服2内からの排出される空気が、例えば、着用者の頭部を覆うマスクに流入するのを抑えることができる。
【0069】
また、冷却服2の袖23には、腕側排気口232が形成されているため、着用者の腕を含む身体の全体を、より効果的に冷却する冷却服2を提供することができる。
【0070】
また、腕側排気口232の開口面積は、前側排気口222の開口面積よりも大きいため、より効果的に、着用者を冷却する冷却服2を提供することができる。
【0071】
また、一の袖23に形成された腕側排気口232の開口面積は、前側排気口222の開口面積の4倍以上である。また、腕側排気口232の貫通穴24及び前記前側排気口222の貫通穴24は、いずれも、直径20mm以下である。このため、より効果的に着用者を冷却する冷却服2を提供することができる。
【0072】
また、前側排気口222は、着用者の胸に対向する位置に形成されているため、着用者の身体を全体にわたって効果的に冷却することができる冷却服2を提供することができる。
【0073】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0074】
上記実施形態に係る冷却服2は、上衣のみの形態であったが、例えば、上半身を覆う上衣と下半身を覆う下衣とが繋がったワンピース型の形態であってもよいし、袖23の無いノースリーブ型の形態であってもよい。
【0075】
上記実施形態に係る冷却服2は、前頃22が接続部221によって分離と接続とができるように構成されたが、接続部221はなくてもよい。
【0076】
上記実施形態に係る冷却服2は、表地が非通気性の生地で構成されたが、本発明では、裏地が非通気性の生地で構成されてもよい。また、冷却服2は、非通気性の表地のみで構成されてもよい。
【0077】
上記実施形態に係る冷却服2は、袖口部231が袖口から空気が外に出るのを妨げ、袖23に形成された腕側排気口232から空気が外に排出されたが、本発明では、腕側排気口232が袖口で構成されてもよい。
【0078】
上記実施形態に係る冷却服2は、首周り部26が襟リブ部と、帯体262とで構成されたが、本発明では、例えば、リブ編みがなされていない襟と、帯体262とで構成されてもよいし、リブ襟261が首に密着するのであれば、リブ襟261のみで構成されてもよい。
【0079】
上記実施形態に係る冷却服2は、着用者の身体のうち、背中、肩及び胸に対向する部位に取り付けられていたが、本発明では、例えば、背中に対向する部位及び胸に対向する部位、背中に対向する部位のみ、胸に対向する部位のみ等であってもよい。要するに、クッション材27は、着用者の身体の背中、肩及び胸のうちの少なくとも一つに対向する位置に配置されていればよい。
【0080】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0081】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0082】
<実施例>
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明に係る冷却服は、以下の実施例に限定されない。
【0083】
(1)試験1
実施例1~3に係る冷却服として、上記実施形態に係る冷却服について、3段階でサイズを異ならせた冷却服を用いた。実施例1~3の冷却服に対し、送風装置を取り付け、送風装置から200L/minで空気を供給し続けた場合の着用者の身体の平均温度についてのシミュレーションの結果を、表1に示す。
【表1】
【0084】
表1に示すように、実施例1~3を比較すると、冷却服と身体との間の空隙が、30.8mm、23.2mm、15.3mmと小さくなるにつれて、身体の平均温度が、41.33℃、40.408℃、37.922℃と低下している。このことからもわかるように、冷却服と身体との間の空隙が小さいほど、着用者の冷却効果が高いことがわかった。
【0085】
(2)試験2
実施例4~13に係る冷却服として、上記実施形態に係る冷却服について、みぞおちに対応する位置(胸位置)と、手首位置とに、直径38mmの排出口を設け、胸位置から排出される空気の流量と、手首位置から排出される空気の流量とを、表2のような比率で変化させた。各実施例に係る冷却服に対し、送風装置を取り付け、送風装置から200L/minで空気を供給し続けた場合の着用者の身体の平均温度についてのシミュレーションの結果を表2に示す。
【表2】
【0086】
表2に示すように、実施例4~13をみると、手首位置から排出される空気の流量が、胸位置から排出される空気の流量よりも大きいほど、着用者の身体の冷却効果が高いことがわかった。このことから、前側排気口の開口面積よりも腕側排気口の開口面積を大きくした方が、より効果的に、着用者の身体を冷却することができることがわかった。
【符号の説明】
【0087】
2 冷却服
21 後
211 供給口
22 前
222 前側排気口
23 袖
232 腕側排気口
24 貫通穴
26 首周り部
3 送風装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7