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特許7569738溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造およびこれを備えた溶接トーチユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造およびこれを備えた溶接トーチユニット
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/133 20060101AFI20241010BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20241010BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20241010BHJP
   H02K 9/16 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B23K9/133 501Z
B23K9/29 E
H02K5/20
H02K9/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021064076
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2021164960
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020068077
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】土井 和徳
(72)【発明者】
【氏名】宮原 寿朗
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-000863(JP,A)
【文献】特開2016-129465(JP,A)
【文献】特開昭54-056049(JP,A)
【文献】特開平8-149757(JP,A)
【文献】特開2008-253024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0207378(US,A1)
【文献】特開昭57-25135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/133
B23K 9/29
H02K 5/20
H02K 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤ送給用モータを備えたワイヤ送給装置におけるモータの冷却構造であって、
上記溶接ワイヤ送給用モータは、ハウジングおよびこのハウジングの主面に対して垂直に延びるシャフトを有し、
上記ハウジングと間隔を隔てて配置され、かつ上記ハウジングの少なくとも一部を覆う板状の冷却カバーと、
上記ハウジングと上記冷却カバーとの間に介在し、かつ上記ハウジングおよび上記冷却カバーの双方に密着するシール材と、を備え、
上記ハウジング、上記冷却カバーおよび上記シール材で囲まれた空間により冷却ガスを流すための冷却ガス流路が形成されている、溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項2】
上記冷却ガス流路が上記ハウジングに接する面積は、上記冷却カバーの面積の50%以上である、請求項1に記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項3】
上記シール材は、上記冷却カバーの周縁部に密着する周縁シール部と、上記冷却カバーの上記周縁部を除いた部位に密着する仕切り部と、を有し、
上記冷却ガス流路は、上記仕切り部を挟んだ両側の領域においてガスの流れ方向が異なる、請求項1または2に記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項4】
上記冷却カバーには、冷却ガスを上記冷却ガス流路に流入させるためのガス流入口が形成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項5】
上記ワイヤ送給装置は、上記溶接ワイヤ送給用モータの上記シャフトを囲むように配置される環状の絶縁部材と、上記シャフトの回転に伴い回転させられる送給ローラと、を含み、
上記溶接ワイヤ送給用モータおよび上記絶縁部材で囲まれた空間によりガス通路が形成されており、
上記ガス通路は上記冷却ガス流路と連通しており、上記絶縁部材には、上記ガス通路に通じ、かつ上記送給ローラ側に向けて開放するガス流出口が形成されている、請求項4に記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項6】
上記ガス流出口は、上記シャフトを囲む環状である、請求項5に記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造。
【請求項7】
上記ワイヤ送給装置と、
請求項5または6に記載の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造と、
上記ワイヤ送給装置による溶接ワイヤの送給方向の前方に配置された溶接トーチと、を備え、
上記ワイヤ送給装置は、上記送給ローラを収容するカバーを有し、
上記カバーは、上記シャフトが延びる方向の前方で、かつ上記シャフトよりも上記送給方向の前方に位置する排出口を有する、溶接トーチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤ送給用モータを備えたワイヤ送給装置におけるモータの冷却構造およびこれを備えた溶接トーチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば消耗電極ガスシールドアーク溶接等の自動溶接の分野において、溶接トーチに溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給装置として溶接トーチの近傍に溶接ワイヤ送給用モータが配置された構成が知られている。溶接ワイヤ送給用モータにおいては、当該モータの駆動により生じた熱の排熱が必要となる。特許文献1には、溶接ワイヤ送給用モータのハウジングにヒートシンクが密着して取り付けられた構成が開示されている。同文献に開示されたヒートシンクは、たとえばアルミニウムなどの金属材料からなる。当該ヒートシンクには冷媒流路が形成されており、当該冷媒流路に冷却ガスが流される。また、特許文献1では、冷媒流路(ヒートシンクの内部表面)の表面積が大きくなるように当該冷媒流路が込み入った複雑な形状とされており、ヒートシンクにおける排熱効率の向上が図られている。
【0003】
しかしながら、上記従来のヒートシンクを用いた冷却構造では、複雑な形状の冷媒流路を形成するために加工工数の増加や3Dプリンタによる作製が必要であった。その結果、ヒートシンク製造のコスト上昇を招き、ヒートシンクを含めたモータ冷却構造のサイズが大きくなるとともに、重量が嵩む傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-129465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、製造コストを削減するとともに、小型化および軽量化を図るのに適した溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造は、溶接ワイヤ送給用モータを備えたワイヤ送給装置におけるモータの冷却構造であって、上記溶接ワイヤ送給用モータは、ハウジングおよびこのハウジングの主面に対して垂直に延びるシャフトを有し、上記ハウジングと間隔を隔てて配置され、かつ上記ハウジングの少なくとも一部を覆う板状の冷却カバーと、上記ハウジングと上記冷却カバーとの間に介在し、かつ上記ハウジングおよび上記冷却カバーの双方に密着するシール材と、を備え、上記ハウジング、上記冷却カバーおよび上記シール材で囲まれた空間により冷却ガスを流すための冷却ガス流路が形成されている。
【0008】
好ましい実施の形態においては、上記冷却ガス流路が上記ハウジングに接する面積は、上記冷却カバーの面積の50%以上である。
【0009】
好ましい実施の形態においては、上記シール材は、上記冷却カバーの周縁部に密着する周縁シール部と、上記冷却カバーの上記周縁部を除いた部位に密着する仕切り部と、を有し、上記冷却ガス流路は、上記仕切り部を挟んだ両側の領域においてガスの流れ方向が異なる。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記シール材は弾性部材からなり、上記ハウジングと上記冷却カバーとの間には、上記ハウジングおよび上記冷却カバーの双方に当接し、非弾性部材からなるスペーサ部材が配置されており、上記冷却カバーがねじ締結によって上記ハウジング側に押圧されることで、上記スペーサ部材は上記ハウジングおよび上記冷却カバーの双方に当接し、上記シール材は自然状態から圧縮された状態で上記ハウジングおよび上記冷却カバーの双方に密着する。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記冷却カバーには、冷却ガスを上記冷却ガス流路に流入させるためのガス流入口が形成されている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記ワイヤ送給装置は、上記溶接ワイヤ送給用モータの上記シャフトを囲むように配置される環状の絶縁部材と、上記シャフトの回転に伴い回転させられる送給ローラと、を含み、上記溶接ワイヤ送給用モータおよび上記絶縁部材で囲まれた空間によりガス通路が形成されており、上記ガス通路は上記冷却ガス流路と連通しており、上記絶縁部材には、上記ガス通路に通じ、かつ上記送給ローラ側に向けて開放するガス流出口が形成されている。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記ガス流出口は、上記シャフトを囲む環状である。
【0014】
本発明の第2の側面よって提供される溶接トーチユニットは、上記ワイヤ送給装置と、本発明の第1の側面に係る溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造と、上記ワイヤ送給装置による溶接ワイヤの送給方向の前方に配置された溶接トーチと、を備え、上記ワイヤ送給装置は、上記送給ローラを収容するカバーを有し、上記カバーは、上記シャフトが延びる方向の前方で、かつ上記シャフトよりも上記送給方向の前方に位置する排出口を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造によれば、冷却ガス流路に冷却ガスを流すことで、冷却ガス流路が接するハウジングの表面から冷却ガスが溶接ワイヤ送給用モータで発生した熱を奪って排熱される。本発明の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造においては、溶接ワイヤ送給用モータのハウジングに冷却カバーおよびシール材を取り付けることで、ハウジングとの協働によって冷却ガス流路が形成される。このような構成によれば、冷却ガス流路を形成するために必要な冷却カバーおよびシール材の作製コストを抑制することができる。また、冷却カバーおよびシール材の双方を薄板状に形成することが可能であり、溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造の小型化および軽量化を図ることが可能である。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るモータの冷却構造を備えた溶接トーチユニットの一例を示す斜視図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図2の分解斜視図である。
図6】冷却カバーを平面状に展開した状態を示す図である。
図7図1に示した溶接トーチユニットを正面側から見た部分拡大図である。
図8図1に示した溶接トーチユニットを正面側から見た部分拡大図であり、ワイヤ送給装置の内部を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造を備えた溶接トーチユニットの一例を示す斜視図である。溶接トーチユニットA1は、溶接トーチ1と、この溶接トーチ1に溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給装置2と、を備えている。詳細な図示説明は省略するが、溶接トーチ1は、たとえば複数のアームからなる多関節型ロボットとして構成されたマニピュレータの手首部に取り付けられ、消耗電極ガスシールドアーク溶接等の自動溶接を行うのに用いられる。ワイヤ送給装置2は、上記マニピュレータと溶接トーチ1との間に介在しており、溶接トーチ1は、ワイヤ送給装置2による溶接ワイヤの送給方向の前方に配置されている。ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤ送給用ケーブル9を介して供給される溶接ワイヤを溶接トーチ1の先端側内部に設けられた給電チップ(図示せず)に向けて送給する。当該溶接ワイヤは、溶接トーチ1先端の開口から外部に送り出される。また、溶接トーチ1には、電力およびシールドガスが供給される。たとえば電源装置から溶接ワイヤ送給用ケーブル9内に挿通するパワーケーブル(図示せず)を介して電力が供給され、この電力は、溶接トーチ1内部の上記給電チップを介して溶接ワイヤに供給される。シールドガスは、ガスボンベから供給され、たとえば溶接ワイヤ送給用ケーブル9内に挿通するガスホースを介して溶接トーチ1内を流れ、溶接トーチ1の先端の開口から外部に噴出される。
【0020】
図3に示すように、本実施形態のワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤ送給用モータ3、絶縁部材4、送給ローラ35および加圧ローラ36等を含んで構成される。溶接ワイヤ送給用モータ3は、内部の機構部品(図示略)を包囲するハウジング31と、ハウジング31の主面310に対して垂直に延びるシャフト32とを有する。溶接ワイヤ送給用モータ3は、主面310側が絶縁部材4に対向する状態で当該絶縁部材4に取り付けられている。本実施形態において、シャフト32には、送給ローラ35が固定されている。送給ローラ35は、シャフト32の回転に伴い回転させられる。図3図8に示すように、加圧ローラ36は、送給ローラ35に隣接して配置されており、当該加圧ローラ36と送給ローラ35との間に溶接ワイヤ(図示略)が挟まれる(図3においては加圧ローラ36を仮想線で表す)。上記送給ローラ35が回転させられると、溶接ワイヤが溶接トーチ1側に送給される。本実施形態において、図1図7図8に示すように、ワイヤ送給装置2は、フィーダハウジング24およびカバー25(図1においてはカバー25を仮想線で表す)を有する。フィーダハウジング24は、送給ローラ35および加圧ローラ36を囲うように配置される。カバー25は、送給ローラ35、加圧ローラ36等を内部に収容している。本実施形態では、カバー25は、フィーダハウジング24、溶接ワイヤ送給用モータ3、送給ローラ35、加圧ローラ36および絶縁部材4を覆っている。図7に示すように、カバー25は、開閉蓋251を有しており、メンテンンス時には開閉蓋251を開くことが可能である。図8においては、開閉蓋251を省略している。また、カバー25は、排出口252を有する。本実施形態において、カバー25は、一対の排出口252を有する。排出口252の意義については後述する。
【0021】
本実施形態では、溶接ワイヤ送給用モータ3のハウジング31は、外観において概略四角柱状とされており、このハウジング31の少なくとも一部を覆うように冷却カバー5が取り付けられている。図3図4に示すように、ハウジング31は、シャフト32が延びる方向と直角である方向を向く4つの側面311,312,313,314を有する。冷却カバー5は、ハウジング31と間隔を隔てて配置されている。本実施形態において、冷却カバー5は、ハウジング31の3つの側面311,312,313を覆うように配置されている。冷却カバー5は、側面311,312,313それぞれを覆う3つの平板部51,52,53を有し、これら平板部51~53がつながった形態を有する。冷却カバー5は、たとえばアルミニウムの薄板を折り曲げて形成されたものである。冷却カバー5の厚さは、たとえば1~2mm程度である。
【0022】
図3図5に示すように、ハウジング31と冷却カバー5との間には、シール材6が介在している。図3図4等に表れているように、シール材6は、ハウジング31および冷却カバー5の双方に密着している。本実施形態では、ハウジング31、冷却カバー5およびシール材6で囲まれた空間によって、冷却ガス流路71が形成されている。冷却ガス流路71は、冷却ガスを流すための空間である。冷却ガス流路71は、ハウジング31のうち冷却カバー5によって覆われた3つの側面311~313に接する。上記の冷却カバー5およびシール材6は、本発明の溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造を構成するものである。
【0023】
本実施形態においては、図4に示すように、冷却カバー5(平板部51)の適所にはガス流入口54が形成されている。ガス流入口54は、冷却ガスを冷却ガス流路71に流入させるための開口である。ガス流入口54の形成部位にはエルボ継手55が取り付けられており、このエルボ継手55に冷却ガスを供給するためのガスホース(図示せず)が接続される。
【0024】
シール材6は、周縁シール部61および仕切り部62を有する。図3図4等に表れているように周縁シール部61は、冷却カバー5の周縁部に密着する部分である。本実施形態においては、図5から理解されるように、周縁シール部61は、冷却カバー5の外周部の一部(同図においてクロスハンチングを付した領域)を除いた略全域に配置されている。
【0025】
仕切り部62は、冷却カバー5の周縁部を除いた部位に密着する部分である。仕切り部62は、冷却ガス流路71における冷却ガスの流れ方向を規定する。図6は、冷却カバー5を平面状に展開した状態を示しており、冷却カバー5の装着時における冷却ガスの流れ方向を矢印で表す。本実施形態では、仕切り部62は、ガス流入口54と、冷却カバー5の外周部において周縁シール部61が配置されていない一部領域(同図においてクロスハンチングを付した領域)との間において、冷却ガス流路71を分離するように同図中左右に所定長さ延びている。この仕切り部62の先端(同図中の左端)にて、冷却ガス流路71におけるガスの流れ方向が折り返す構成とされる。このようなことから理解されるように、冷却ガス流路71は、仕切り部62を挟んだ両側の領域(図6において仕切り部62の上側の領域および下側の領域)において、ガスの流れ方向が異なる。なお、図6において、周縁シール部61には右下がりのハッチングを付しており、仕切り部62には右上がりのハッチングを付している。
【0026】
冷却カバー5およびシール材6の各部の寸法の一例を挙げると、図6に示した冷却カバー5の左右方向の寸法が150mm程度であり、上下方向の寸法が90mm程度である。シール材6(周縁シール部61および仕切り部62)の厚さは、たとえば2~3mm程度である。また、周縁シール部61および仕切り部62の各部の幅寸法は、たとえば10mm程度である。これにより、冷却ガス流路71のうち、仕切り部62を挟んだ両側の領域(図6において仕切り部62の上側および下側の各領域)の幅寸法は、30mm程度である。
【0027】
図6等から理解されるように、冷却カバー5の厚さ方向に見て、シール材6が配置されていない領域に冷却ガス流路71が形成される。溶接ワイヤ送給用モータ3への取付け時には、冷却カバー5のうちシール材6が配置されていない領域がハウジング31(側面311~313のいずれか)に接する。冷却ガス流路71がハウジング31に接する面積は、好ましくは冷却カバー5の面積(図6に示した厚さ方向に見た面積)の50%以上である。図6に示した態様で上記寸法例の場合、冷却ガス流路71がハウジング31に接する面積は、冷却カバー5の面積の約56%である。
【0028】
シール材6は、たとえばゴム材料などの適度な弾性を有する部材からなる。シール材6は、たとえば冷却カバー5に接着固定される。また、本実施形態では、冷却カバー5は、複数の取付ボルト81を用いてハウジング31に取り付けられる。ハウジング31の適所にはねじ穴が形成されており、取付ボルト81が冷却カバー5に形成されたボルト用貫通孔を通じてハウジング31の上記ねじ穴に螺合させられる。本実施形態ではさらに、ハウジング31と冷却カバー5との間には、筒状のスペーサ部材82が配置されている。スペーサ部材82は、金属材料または樹脂材料などの非弾性部材からなり、このスペーサ部材82に取付ボルト81が挿通される。ハウジング31への冷却カバー5の取付け時には、取付ボルト81の締結によって冷却カバー5がハウジング31側に押圧され、スペーサ部材82はハウジング31および冷却カバー5の双方に当接する。このとき、シール材6は自然状態から圧縮された状態でハウジング31および冷却カバー5の双方に密着する。このような構造によって、冷却ガス流路71を流れるガスが外部に漏れることは防止される。
【0029】
図3図5に示すように、絶縁部材4は、溶接ワイヤ送給用モータ3のシャフト32を囲むように配置され、環状をなす。絶縁部材4は、溶接ワイヤ送給用モータ3と溶接トーチ1との間に介在し、溶接ワイヤ送給用モータ3と溶接トーチ1とを絶縁する役割を有する。絶縁部材4は、たとえば樹脂材料からなる。
【0030】
絶縁部材4は、モータ用凹部41、溝部42、連絡凹部43およびガス流出口44を有する。モータ用凹部41は、溶接ワイヤ送給用モータ3の主面310側が嵌る部位である。図3等から理解されるように、溶接ワイヤ送給用モータ3と絶縁部材4との間には隙間が形成されており、溶接ワイヤ送給用モータ3および絶縁部材4により囲まれたこの空間がガス通路72とされる。
【0031】
図3図5図6から理解されるように、溶接ワイヤ送給用モータ3が絶縁部材4に取り付けられた状態において、冷却ガス流路71の下流側端(連通口711)と絶縁部材4の溝部42に対応するガス通路72の上流側端(連通口721)とは連通している。図3図5から理解されるように、連絡凹部43は、モータ用凹部41および溝部42の双方に通じている。図3に示すように、ガス通路72の下流側端(図中右側端)は、ガス流出口44に通じている。ガス流出口44は、シャフト32を囲む環状をなしており、送給ローラ35側に向けて開放している。冷却カバー5のガス流入口54を介して冷却ガス流路71に冷却ガスが流入すると、当該冷却ガスは冷却ガス流路71およびガス通路72を流れ、ガス流出口44から送給ローラ35に向けて放出される。なお、冷却ガス流路71に供給される冷却ガスの種類は特に限定されず、たとえば冷却ガスとして空気が用いられる。当該空気(冷却ガス)は、レギュレータによって所定圧力および流量に調整され、冷却ガス流路71に供給される。冷却ガス流路71に供給される冷却ガスの流量は、溶接トーチユニットA1の使用条件によって適宜調整すればよいが、たとえば50L/min程度である。
【0032】
図8に示すように、ワイヤ送給装置2のカバー25内部に配置されたフィーダハウジング24は、板状部241を有する。板状部241は、シャフト32よりも溶接ワイヤの送給方向の前方(図8においては図中下方)に位置する。板状部241は、略半円形状である。板状部241の外周部には、切欠き242が形成されている。本実施形態では、板状部241には一対の切欠き242が形成されている。カバー25の一対の排出口252は、一対の切欠き242に対応する位置に設けられており、カバー25の内部と外部とを連通させる開口である。一対の切欠き242および一対の排出口252は、シャフト32が延びる方向の前方(図8においては紙面手前側)に位置する。また、一対の切欠き242および一対の排出口252は、シャフト32よりも溶接ワイヤの送給方向の前方(図8においては図中下方)に位置する。
【0033】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0034】
本実施形態の溶接トーチユニットA1は、溶接ワイヤ送給用モータ3のハウジング31と間隔を隔てて配置された板状の冷却カバー5を備える。ハウジング31と冷却カバー5との間には、当該ハウジング31および冷却カバー5の双方に密着するシール材6が配置されており、ハウジング31、冷却カバー5およびシール材6で囲まれた空間により冷却ガス流路71が形成されている。このような構成によれば、冷却ガス流路71に冷却ガスを流すことで、冷却ガスが溶接ワイヤ送給用モータ3で発生した熱を冷却ガス流路71が接するハウジング31の表面(側面311~313)から奪い、排熱される。本実施形態の溶接ワイヤ送給用モータ3の冷却構造においては、溶接ワイヤ送給用モータ3のハウジング31に冷却カバー5およびシール材6を取り付けることで、ハウジング31との協働によって冷却ガス流路71が形成される。このような構成によれば、冷却ガス流路71を形成するために必要な冷却カバー5およびシール材6の作製コストを抑制することができる。また、冷却カバー5およびシール材6の双方を薄板状に形成することが可能であり、溶接ワイヤ送給用モータ3の冷却構造の小型化および軽量化を図ることが可能である。
【0035】
本実施形態において、冷却カバー5には、冷却ガスを冷却ガス流路71に流入させるためのガス流入口54が形成されている。このような構成によれば、冷却ガスを冷却ガス流路71に適切に供給することができる。
【0036】
本実施形態において、冷却ガス流路71がハウジング31に接する面積は、冷却カバー5の面積の50%以上である。このような構成によれば、溶接ワイヤ送給用モータ3の冷却効率を適切に高めることができる。
【0037】
本実施形態において、シール材6は、冷却カバー5の周縁部に密着する周縁シール部61と、冷却カバー5の上記周縁部を除いた部位に密着する仕切り部62と、を有する。冷却ガス流路71は、仕切り部62を挟んだ両側の領域においてガスの流れ方向が異なる。このような構成によれば、冷却ガス流路71と接するハウジング31の表面に、冷却ガスを満遍なく行き渡らせることができる。このことは、溶接ワイヤ送給用モータ3の冷却効率を高めるのに適する。
【0038】
ワイヤ送給装置2は、環状の絶縁部材4と、溶接ワイヤ送給用モータ3のシャフト32の回転に伴い回転させられる送給ローラ35と、を含む。絶縁部材4は溶接ワイヤ送給用モータ3のシャフト32を囲むように配置され、溶接ワイヤ送給用モータ3および絶縁部材4で囲まれた空間によりガス通路72が形成される。また、ガス通路72は冷却ガス流路71と連通しており、絶縁部材4には、送給ローラ35側に向けて開放するガス流出口44が形成されている。このような構成によれば、冷却ガス流路71およびガス通路72を通過したガスは、ガス流出口44から送給ローラ35に向けて放出される。これにより、送給ローラ35によって溶接ワイヤを送給する際に発生する削れ粉を吹き飛ばすことができるので、溶接トーチ1による溶接作業が安定する。さらに、ガス流出口44は、シャフト32を囲む環状である。このような構成によれば、ガス流出口44からシャフト32が延びる方向(軸方向)の前方に向けて、送給ローラ35の外周全体を囲うようガスが放出される。したがって、送給ローラ35によって溶接ワイヤを送給する際に発生する削れ粉がより的確に吹き飛ばされる。
【0039】
図7図8に示すように、カバー25は、排出口252を有する。排出口252は、シャフト32が延びる方向(軸方向)の前方であって、シャフト32よりも溶接ワイヤの送給方向の前方(図8においては下方)に位置する。このような構成によれば、ガス流出口44からカバー25の内側空間に放出されたガスは、上述のように送給ローラ35周辺の削れ粉を吹き飛ばし、カバー25の内側空間を流れて削れ粉とともに排出口252から排出される。したがって、溶接ワイヤの送給により発生した削れ粉がカバー25の内部に溜まることは防止される。また、フィーダハウジング24の板状部241には、カバー25に対応する位置に切欠き242が形成されている。このような構成によれば、カバー25の内側空間を流れるガスおよび削れ粉は、切欠き242に誘導されて排出口252からスムーズに排出される。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0041】
上記実施形態では、冷却カバー5が溶接ワイヤ送給用モータ3のハウジング31の3つの側面311~313を覆うように構成したが、これに限定されない。冷却カバー5がハウジング31の2つの側面を覆う構成、あるいは4つの側面を覆う構成にしてもよい。また、冷却カバー5が複数の部材によって構成されてもよく、冷却カバー5がハウジング31の4つの側面を覆う場合、冷却カバー5は2つの部材によって構成するのがよい。さらに、溶接ワイヤ送給用モータ3のハウジング31の外観形状が円柱状である場合、冷却カバー5は、ハウジング31の側面を覆うために曲面状に形成される。
【0042】
上記実施形態では、ガス通路72を設ける構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明に係る溶接ワイヤ送給用モータの冷却構造において、溶接ワイヤ送給用モータの冷却だけの機能を持たせるのであれば、冷却カバー5にガス流出口を設けて冷却ガス流路71を流れたガスが冷却カバー5の外部に直接流出するように構成してもよい。
【0043】
上記実施形態において、冷却カバー5がアルミニウムなどの金属材料により構成される場合について説明したが、これに限定されない。冷却カバー5については、樹脂材料などの金属材料とは異なる材料によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
A1:溶接トーチユニット、1:溶接トーチ、2:ワイヤ送給装置、25:カバー、252:排出口、3:溶接ワイヤ送給用モータ、31:ハウジング、310:主面、32:シャフト、35:送給ローラ、4:絶縁部材、44:ガス流出口、5:冷却カバー、54:ガス流入口、6:シール材、61:周縁シール部、62:仕切り部、71:冷却ガス流路、72:ガス通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8