(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241010BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20241010BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20241010BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241010BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20241010BHJP
【FI】
B01D39/20 D
F01N3/28 301Z
F01N3/022 C
C04B38/00 303Z
B01D46/00 302
(21)【出願番号】P 2021103264
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇志
(72)【発明者】
【氏名】古田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】本田 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 晃司
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049428(JP,A)
【文献】特開2001-334114(JP,A)
【文献】特表2019-522139(JP,A)
【文献】特開2012-254441(JP,A)
【文献】特開2015-174038(JP,A)
【文献】特開2012-200649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20、46/00、53/85-94
B01J 35/57
C04B 38/00
F01N 3/00-38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる複数のセルを取り囲むように配設された多孔質の隔壁を有する、柱状のハニカム基材と、
前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部と、を備え、
前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの形状が六角形であり、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記隔壁は、前記流入セルと前記流出セルとの間に配設された第一隔壁と、前記流入セル同士の間に配設された第二隔壁と、からなり、
前記第一隔壁は、その表面に排ガス中の粒子状物質を捕集するための多孔質の捕集層を有し、且つ、前記第二隔壁は、その表面に前記捕集層を有していない又は前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層よりも厚さの薄い捕集層を有する、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
1つの前記流出セルの周囲を複数個の前記流入セルが取り囲むセル構造を有する、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT1に対して、前記第二隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT2の比率が、14%以下である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT1が、10~70μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記隔壁の厚さが、152~305μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記隔壁の気孔率が、41~65%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記捕集層が、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカからなる群から少なくとも1つ以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記捕集層の平均細孔径が、0.1~10μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。更に詳しくは、排ガス中の粒子状物質に対する捕集性に優れるとともに、使用時における圧力損失の上昇を有効に抑制することが可能なハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業において、動力源として内燃機関が用いられている。一方で、内燃機関が燃料の燃焼時に排出する排ガスには、窒素酸化物等の有毒ガスと共に、ススや灰等の粒子状物質が含まれている。以下、粒子状物質を、「PM」ということがある。「PM」とは、「Particulate Matter」の略である。近年、ディーゼルエンジンから排出されるPMの除去に関する規制は世界的に厳しくなっており、PMを除去するためのフィルタとして、例えば、ハニカム構造を有するウォールフロー(Wall flow)型のフィルタが用いられている。
【0003】
ウォールフロー型のフィルタとしては、多孔質の隔壁によって流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム基材と、複数のセルのいずれか一方の開口部に配設された目封止部と、を備えたハニカムフィルタが種々提案されている。このようなハニカムフィルタにおいては、例えば、流出端面側に目封止部が配設された流入セルと、流入端面側に目封止部が配設された流出セルとが、隔壁を隔てて配置され、流入セルと流出セルとを仕切る多孔質の隔壁が、PMを除去する濾過体となっている。
【0004】
従来、スス発生量の多いディーゼルエンジン用のハニカムフィルタとして、例えば、ハニカムフィルタのセルの延びる方向に直交する断面にて、流入セル同士が隣接するセルの配列を含むセル構造のハニカムフィルタも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなセル構造のハニカムフィルタは、セルの延びる方向に直交する断面において、流入セルと流出セルを区画する隔壁(以下、「IN-OUT隔壁」ともいう)と、流入セル同士を区画する隔壁(以下、「IN-IN隔壁」ともいう)とが存在することとなる。このようなIN-IN隔壁を有するハニカムフィルタは、使用初期段階の圧力損失の上昇を抑えつつ、灰(アッシュ)等の粒子状物質が隔壁上に堆積した際の圧力損失を大幅に低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車等のエンジン用のハニカムフィルタについては、今後、排ガス規制の強化から更なる捕集性能と低圧力損失が求められている。そのため、ハニカムフィルタに対しては、流入セルによって構成されるInletチャンネルの容量が多く、エンジンから排出される粒子状物質を多く溜められるHEX構造を適用することが検討されている。ここで、「HEX構造」とは、セルの延びる方向に直交する断面におけるセル形状が六角形となるように構成された構造のことをいう。このようなHEX構造のハニカムフィルタとすることで、同じフィルタサイズの場合、粒子状物質が堆積した時に、四角セルのハニカムフィルタに比べ有効フィルタ体積を多く維持することができる。このため、HEX構造のハニカムフィルタは、圧力損失の上昇を抑制することができる。一方で、Inletチャンネルの容量を多くしたHEX構造のハニカムフィルタは、上述したIN-IN隔壁を有しているため、粒子状物質が少ない状態ではIN-IN隔壁をガスが通過しにくくなり十分な性能が発揮できていなかった。IN-IN隔壁をガス流路として利用されるためには、IN-OUT隔壁に対してある程度のススが堆積し、IN-OUT隔壁の透過抵抗を高くする必要がある。即ち、IN-OUT隔壁の透過抵抗が低いままだと、流入セル内の排ガスはIN-OUT隔壁を優先的に透過してしまう。このため、上記したようなIN-OUT隔壁の透過抵抗がある程度高くなるまでは、IN-IN隔壁をガス流路として十分に利用できない。
【0007】
また、IN-IN隔壁をガス流路として利用する場合、IN-IN隔壁内を通過するガスは、隔壁表面に対して水平方向に隔壁内を移動するため、IN-IN隔壁をガス流路として有効利用するためには、IN-IN隔壁の透過抵抗を低減することが必要となる。例えば、IN-IN隔壁の気孔率を高くしたり細孔径を大きくしたりすることで、IN-IN隔壁の透過抵抗を低減することができる。しかしながら、ハニカムフィルタは、IN-IN隔壁とIN-OUT隔壁とが押出一体成形により作製されているため、IN-IN隔壁の気孔率等の細孔特性のみを変更することは困難である。例えば、IN-OUT隔壁の細孔特性をIN-IN隔壁と同様にしてしまうと、ススが堆積して透過抵抗が高くなるまではIN-OUT隔壁にガスが集中し、透過抵抗の低い細孔特性によってPMの捕集効率が著しく低下してしまうこととなる。
【0008】
また、従来、ハニカムフィルタの隔壁の表面にPMを捕集するための捕集層を配設する技術も提案されている。例えば、捕集層は、隔壁の平均細孔径よりも平均細孔径の小さい多孔質膜によって構成されている。しかしながら、このような捕集層は、捕集層を作製するための原材料や作製時間を要するため、上述したようなハニカムフィルタに対して適用したとしても、費用対効果などの面において十分な効果を得ることが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、排ガス中の粒子状物質に対する捕集性に優れるとともに、使用初期の圧力損失を低減し且つ灰堆積後の圧力損失の上昇を有効に抑制することが可能なハニカムフィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示すハニカムフィルタが提供される。
【0011】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる複数のセルを取り囲むように配設された多孔質の隔壁を有する、柱状のハニカム基材と、
前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側のいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部と、を備え、
前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの形状が六角形であり、
前記流出端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流入端面側が開口した前記セルを、流入セルとし、
前記流入端面側の端部に前記目封止部が配設され、前記流出端面側が開口した前記セルを、流出セルとし、
前記隔壁は、前記流入セルと前記流出セルとの間に配設された第一隔壁と、前記流入セル同士の間に配設された第二隔壁と、からなり、
前記第一隔壁は、その表面に排ガス中の粒子状物質を捕集するための多孔質の捕集層を有し、且つ、前記第二隔壁は、その表面に前記捕集層を有していない又は前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層よりも厚さの薄い捕集層を有する、ハニカムフィルタ。
【0012】
[2] 1つの前記流出セルの周囲を複数個の前記流入セルが取り囲むセル構造を有する、前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0013】
[3] 前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT1に対して、前記第二隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT2の比率が、14%以下である、前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0014】
[4] 前記第一隔壁の表面に配設された前記捕集層の厚さT1が、10~70μmである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0015】
[5] 前記隔壁の厚さが、152~305μmである、前記[1]~[4]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0016】
[6] 前記隔壁の気孔率が、41~65%である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0017】
[7] 前記捕集層が、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカからなる群から少なくとも1つ以上を含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0018】
[8] 前記捕集層の平均細孔径が、0.1~10μmである、前記[1]~[7]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハニカムフィルタは、排ガス中の粒子状物質に対する捕集性に優れるとともに、使用初期の圧力損失を低減し且つ灰堆積後の圧力損失の上昇を有効に抑制することができるという効果を奏する。
【0020】
即ち、本発明のハニカムフィルタは、ハニカム基材を構成する隔壁が、流入セルと流出セルとの間に配設された第一隔壁(即ち、IN-OUT隔壁)と、流入セル同士の間に配設された第二隔壁(即ち、IN-IN隔壁)と、からなる。そして、第一隔壁は、その表面に排ガス中の粒子状物質を捕集するための多孔質の捕集層を有するものである。第二隔壁は、その表面に捕集層を有していない又は第一隔壁の表面に配設された捕集層よりも厚さの薄い捕集層を有するものである。このように構成されたハニカムフィルタは、第一隔壁に配設した捕集層の表面上にPMを堆積させることができるため、灰堆積後において、隔壁の細孔内にPMが詰まり難くなり、隔壁の細孔内にPMが詰まることによる圧力損失の急上昇を有効に抑制することができる。当然、第一隔壁に対して捕集層を設けることにより、PMを捕集する際の捕集効率も向上させることができる。更に、第一隔壁の表面に対して優先的に捕集層を設けることにより、第一隔壁の透過抵抗を相対的に高くし、スス等の粒子状物質が堆積する前の使用初期状態においても、第二隔壁をガス流路として有効に利用することができる。これにより、ハニカムフィルタの使用初期の圧力損失も有効に低減することができる。例えば、PMを捕集するための捕集層に関しては、従来、最初に言及したような、隔壁の細孔内のPMの詰まりによる圧力損失の急上昇抑制効果は知られていたが、第二隔壁(IN-IN隔壁)における捕集層の厚さを相対的に薄くすることで、使用初期の圧力損失についても低減することが可能となる。第二隔壁(IN-IN隔壁)における捕集層の厚さを相対的に薄くすることで、捕集層を作製するための原材料や作製時間を削減することができ、費用対効果などの面においても極めて優れた効果を得ることができる。例えば、第二隔壁(IN-IN隔壁)に対して捕集層を配設しない場合は、捕集層を作製するための原材料が半分で済むのに対して、捕集層による圧力損失の低減効果については、全隔壁に対して均等厚さの捕集層を設けた場合と同程度の効果を得ることができる。即ち、本発明のハニカムフィルタは、捕集層を作製するための原材料の低減量などを遥かに超える高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す流入端面側から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示すハニカムフィルタの流入端面を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図2に示す流入端面の一部を拡大した拡大平面図である。
【
図4】
図1に示すハニカムフィルタの流出端面を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明のハニカムフィルタの他の実施形態の流入端面を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図6に示す流入端面の一部を拡大した拡大平面図である。
【
図8】
図6のB-B’断面を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図5に示す隔壁及び捕集層の一部を拡大した拡大断面図である。
【
図10】
図9に示す捕集層の一部を更に拡大した拡大断面図である。
【
図11】隔壁表面に垂直な方向の位置と走査型電子顕微鏡(SEM)写真内接円直径の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。
【0023】
(1)ハニカムフィルタ:
図1~
図5を参照して、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態について説明する。ここで、
図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す流入端面側から見た斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカムフィルタの流入端面を模式的に示す平面図である。
図3は、
図2に示す流入端面の一部を拡大した拡大平面図である。
図4は、
図1に示すハニカムフィルタの流出端面を模式的に示す平面図である。
図5は、
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【0024】
図1~
図5に示すように、ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4と、目封止部5を備えたものである。ハニカム基材4は、流入端面11及び流出端面12を有する柱状を呈するものである。ハニカム基材4は、流入端面11から流出端面12まで延びる複数のセル2を取り囲むように配設された、多孔質の隔壁1を有する。
図1等に示すハニカム基材4においては、隔壁1を囲繞するように配設された外周壁3を更に有している。なお、本発明において、セル2とは、隔壁1によって取り囲まれた空間のことを意味する。複数のセル2は、流体の流路となる。
【0025】
目封止部5は、ハニカム基材4に形成されたセル2の流入端面11側又は流出端面12側のいずれか一方の端部に配設され、セル2の開口部を封止するものである。以下、流出端面12側の端部に目封止部5が配設されたセル2を「流入セル2a」という。流入端面11側の端部に目封止部5が配設されたセル2を「流出セル2b」という。
【0026】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4のセル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の形状が六角形である。そして、ハニカムフィルタ100は、一の流入セル2aと他の流入セル2aとが隔壁1を挟んで隣接するセル構造を有する。ここで、セル構造とは、多孔質の隔壁1によって区画形成された複数のセル2の配列パターンのことを意味する。即ち、ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4の上記断面におけるセル2の配列パターンにおいて、流入セル2a同士が隔壁1を挟んで隣接するような配列パターンを有している。特に、ハニカムフィルタ100は、セル2の形状が六角形であるため、1つの流出セル2bの周囲を複数個(例えば、6個)の流入セル2aが取り囲むセル構造を有することが好ましい。
【0027】
ハニカム基材4を構成する隔壁1は、流入セル2aと流出セル2bとの間に配設された第一隔壁1aと、流入セル2a同士の間に配設された第二隔壁1bとからなる。即ち、上述したような流入セル2a同士が隣接するセル構造では、流入セル2aと流出セル2bとを区画する第一隔壁1a以外に、流入セル2a同士を区画する隔壁1として上記したような第二隔壁1bが存在する。以下、流入セル2a同士を区画する第二隔壁1bを「IN-IN隔壁」ということがあり、また、流入セル2aと流出セル2bとを区画する第一隔壁1aを「IN-OUT隔壁」ということがある。
【0028】
本実施形態のハニカムフィルタ100において、第一隔壁1a(即ち、IN-OUT隔壁)は、その表面に排ガス中の粒子状物質を捕集するための多孔質の捕集層6を有する。一方で、第二隔壁1b(IN-IN隔壁)は、その表面に捕集層6を有していない又は第一隔壁1aの表面に配設された捕集層6よりも厚さの薄い捕集層6を有する。
【0029】
例えば、
図1~
図5に示すハニカムフィルタ100において、第二隔壁1b(IN-IN隔壁)は、第一隔壁1aの表面に配設された捕集層6(IN-OUT捕集層6a)よりも厚さの薄い捕集層6(IN-IN捕集層6b)を有している。
図1~
図5に示すハニカムフィルタ100は、第二隔壁1bの表面に相対的に厚さの薄い捕集層6を有している場合の例を示しているが、例えば、
図6~
図8に示すハニカムフィルタ100Aのように、第二隔壁1bは、その表面に捕集層6を有していないものであってもよい。ここで、
図6は、本発明のハニカムフィルタの他の実施形態の流入端面を模式的に示す平面図である。
図7は、
図6に示す流入端面の一部を拡大した拡大平面図である。
図8は、
図6のB-B’断面を模式的に示す断面図である。
【0030】
以下、
図1~
図5を参照してハニカムフィルタ100の説明を行う場合に、第二隔壁1bの表面における相対的に厚さの薄い捕集層6(IN-IN捕集層6b)は、
図6~
図8のような第二隔壁1bの表面に捕集層6を有していない態様を包含するものとする。即ち、
図3に示すように、第一隔壁1aの表面に配設されたIN-OUT捕集層6aの厚さを厚さT1(μm)とし、第二隔壁1bの表面に配設されたIN-IN捕集層6bの厚さを厚さT2(μm)とした場合、ハニカムフィルタ100は、以下のように構成されていればよい。まず、IN-IN捕集層6bが実質的に存在する場合には、IN-IN捕集層6bの厚さT2(μm)は、IN-OUT捕集層6aの厚さT1(μm)よりも小である必要がある。但し、IN-IN捕集層6bは実質的に存在しない態様を包含するため、IN-IN捕集層6bの厚さT2(μm)の最小値は、IN-IN捕集層6bが存在しない場合の0μmとなる。
【0031】
ハニカムフィルタ100は、第一隔壁1aに配設した捕集層6の表面上にPMを堆積させることができるため、灰堆積後において、第一隔壁1aの細孔内にPMが詰まり難くなる。このため、第一隔壁1aの細孔内にPMが詰まることによる圧力損失の急上昇を有効に抑制することができる。当然、第一隔壁1aに対して捕集層6を設けることにより、PMを捕集する際の捕集効率も向上させることができる。更に、第一隔壁1aの表面に対して優先的に捕集層6を設けることにより、第一隔壁1aの透過抵抗を相対的に高くし、スス等の粒子状物質が堆積する前の使用初期状態においても、第二隔壁1bをガス流路として有効に利用することができる。これにより、ハニカムフィルタ100の使用初期の圧力損失も有効に低減することができる。例えば、PMを捕集するための捕集層6に関しては、従来、隔壁1の細孔内のPMの詰まりによる圧力損失の急上昇抑制効果は知られていたが、第二隔壁1b(即ち、IN-IN隔壁)における捕集層6bの厚さを相対的に薄くすることで、使用初期の圧力損失についても低減することが可能となる。第二隔壁1bにおける捕集層6bの厚さを相対的に薄くすることで、捕集層6を作製するための原材料や作製時間を削減することができ、費用対効果などの面においても極めて優れた効果を得ることができる。例えば、第二隔壁1bに対して捕集層6を配設しない場合は、捕集層6を作製するための原材料が半分で済むのに対して、捕集層6(特に、IN-OUT捕集層6a)による圧力損失の低減効果については、全隔壁1に対して均等厚さの捕集層6を設けた場合と同程度の効果を得ることができる。即ち、ハニカムフィルタ100は、捕集層6を作製するための原材料の低減量などを遥かに超える高い効果を得ることができる。
【0032】
捕集層6は、排ガスに含まれるPMを捕集・除去する層であり、隔壁1の表面上に配設されている。捕集層6は、隔壁1の平均細孔径よりも小さい平均粒径で構成された粒子群により隔壁1上に形成されていることが好ましい。このように構成することによって、捕集層6の平均細孔径を、隔壁1の平均細孔径よりも小さくすることができ、捕集層6にて、PMを良好に捕集することができる。捕集層6を構成する原料粒子の平均粒径は、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。例えば、平均粒径を0.1μm以上とすることで、捕集層6を構成する粒子の粒子間の空間のサイズを十分に確保することでき、捕集層6の透過性を維持しつつ、ハニカムフィルタ100の急激な圧力損失の上昇を抑制することができる。平均粒径を10μm以下とすることで、粒子同士の接触点を十分に確保することができ、粒子間の結合強度が高くなり、隔壁1からの捕集層6の剥離を有効に抑制することができる。
【0033】
捕集層6の材料については特に制限はないが、例えば、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカからなる群より選択される1以上の無機材料を含むものを挙げることができる。捕集層6は、隔壁1と同種の材料によって形成されていてもよし、異なる材料によって形成されていてもよい。また、捕集層6は、セラミック又は金属の無機繊維を含有するものであってもよい。例えば、捕集層6が、セラミック又は金属の無機繊維を70質量%以上含有するものであってもよい。このように構成することによって、繊維質によりPMをより捕集し易くなる。原料粒子における平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として原料粒子を測定したメディアン径(D50)をいうものとする。
【0034】
捕集層6の平均細孔径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~3.5μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集層6にて、PMを良好に捕集することができる。
【0035】
捕集層6の気孔率は、50~90%であることが好ましく、60%~90%であることが特に好ましい。捕集層6の気孔率が50%未満であると、圧力損失が上昇することがある。一方、捕集層6の気孔率が90%を超えると、捕集効率が悪化することがある。
【0036】
捕集層6の気孔率及び平均細孔径は、以下の方法で測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、捕集層6の断面部分を観察して、そのSEM画像を取得する。なお、SEM画像は200倍に拡大して観測するものとする。次に、取得したSEM画像を画像解析することにより、捕集層6の実体部分と、捕集層6中の空隙部分とを二値化する。そして、捕集層6の実体部分と空隙部分との合計面積に対する、捕集層6中の空隙部分の比の百分率を算出し、その値を、捕集層6の気孔率とする。また、別途、SEM画像中の各粒子間の空隙を二値化して、その大きさを、直接、スケール(scale)にて測定し、測定した値から、捕集層6中の細孔径を算出する。算出した細孔径の平均値を、捕集層6の平均細孔径とする。
【0037】
捕集層6の厚さは、第一隔壁1aの表面に配設されたIN-OUT捕集層6aの厚さT1が、第二隔壁1bの表面に配設されたIN-IN捕集層6bの厚さT2よりも大であればよい。IN-OUT捕集層6a及びIN-IN捕集層6bのそれぞれの厚さについては特に制限はないが、例えば、IN-OUT捕集層6aの厚さT1に対して、IN-IN捕集層6bの厚さT2の比率が、14%以下であることが好ましく、10%以下であることが更に好ましい。ハニカムフィルタ100において、IN-IN捕集層6bは任意の構成要素であるため、上記した比率の下限値は、IN-IN捕集層6bが存在しない場合の0%となる。
【0038】
上述したように、IN-OUT捕集層6aの厚さT1の具体的な厚さについては特に制限はないが、例えば、10~70μmであることが好ましく、10~40μmであることが特に好ましい。IN-OUT捕集層6aの厚さT1を10μm以上とすることで、高流量で排ガスが透過した場合のPMの捕集性能を有効に高めることができる。一方で、IN-OUT捕集層6aの厚さT1を70μm以下とすることで、PMを捕集した状態での圧力損失の上昇をより有効に抑制することができる。
【0039】
捕集層6(IN-OUT捕集層6a及びIN-IN捕集層6b)の厚さは、以下のようにして測定することができる。まず、ハニカムフィルタ100をセル2の延びる方向に平行な面で切断し、
図5に示すようなハニカムフィルタ100の断面を露出させる。次に、ハニカムフィルタ100の断面について研磨を行い、隔壁1及び捕集層6の研磨面についての観察を行う。研磨面の観察は、隔壁1及び捕集層6の断面(研磨面)のうち、捕集層6と隔壁1の両者を含む視野(例えば、
図9中の「P」で示す領域)をSEMで撮影する。そして、撮影したSEM写真について、固体部分と空隙部分の輝度の差により二値化処理を行う。ここで、
図9は、
図5に示す隔壁及び捕集層の一部を拡大した拡大断面図である。
【0040】
次に、
図10に示すように、固体部分17と空隙部分19の境界に内接する円(内接円21)を想定する。そして、これらの内接円21の直径と位置を、捕集層6(
図9参照)側から隔壁1(
図9参照)側に向かって(
図9に示すX方向に向かって)プロットする。このようにして、
図11に示すようなグラフにおける散布図を作成する。
【0041】
そして、
図11に示すようなグラフにおける散布図に対して、最小二乗近似により3次曲線Kを求める。次に、この最小二乗近似3次曲線Kと二値化処理画像内の内接円21(
図10参照)の最大直径(MAX)と最小直径(MIN)の平均のラインが交差する深さ(捕集層深さL)を20視野以上について測定する。そして、測定した捕集層深さLの平均値を算出し、算出した平均値を捕集層6(
図9参照)の厚さとする。ここで、
図10は、
図9に示す捕集層の一部を更に拡大した拡大断面図である。
図10においては、固体部分17と空隙部分19の境界に内接する円(内接円21)を描いた状態を示している。
図11は、隔壁表面に垂直な方向の位置と走査型電子顕微鏡(SEM)写真内接円直径の関係を示すグラフである。「隔壁表面に垂直な方向」とは、例えば、隔壁の厚さ方向(
図9に示すX方向)のことである。「走査型電子顕微鏡(SEM)写真内接円直径」とは、走査型電子顕微鏡写真の二値化処理画像における内接円の直径のことである。
【0042】
以上のようにして、捕集層6(IN-OUT捕集層6a及びIN-IN捕集層6b)の厚さを求めることができる。捕集層6と隔壁1の境界は、
図11に示すようなグラフの最小二乗近似3次曲線が内接円21(
図10参照)の最大直径と最小直径の平均値のラインと交差する深さ(位置)となる。したがって、捕集層6は、セル2を構成する捕集層6の表面から上記境界までの領域となる。
図11に示すようなグラフは、これまでに説明したように、ハニカムフィルタの断面のSEM写真を輝度の差により二値化処理した後、固体部分と空隙部分の境界に内接する内接円の直径をプロットし、その最小二乗近似3次曲線を算出することによって作図できる。
【0043】
図1~
図5に示すハニカムフィルタ100においては、ハニカム基材4の断面において、流入セル2aの形状及び流出セル2bの形状が共に六角形となっている。以下、ハニカム基材4のセル2の延びる方向に直交する断面における「セル2の形状」を、「セル2の断面形状」、又は、単に「セル2の形状」ということがある。本明細書において、「六角形」とは、六角形、六角形の少なくとも1つの角部が曲線状に形成された形状、及び六角形の少なくとも1つの角部が直線状に面取りされた形状を含むものとする。流入セル2aの形状及び流出セル2bの形状は、正六角形であることが好ましい。
【0044】
ハニカムフィルタ100は、隔壁1の厚さが、152~305μmであることが好ましく、152~267μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、アイソスタティック強度(Isostatic strength)を維持しつつ、低圧力損失のハニカムフィルタ100とすることができる。隔壁1の厚さは、ハニカム基材4の断面において、2つのセル2を区画する隔壁1の表面に対して直交する方向の長さである。隔壁1の厚さは、例えば、マイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。マイクロスコープとしては、例えば、キーエンス社製のVHX-1000(商品名)を用いることができる。
【0045】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4の隔壁1の気孔率が、41~65%であることが好ましく、41~60%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率が低すぎると、圧力損失が増大することがあり、一方で、隔壁1の気孔率が高過ぎると、ハニカム基材4の強度が不十分となり、排ガス浄化装置に用いられる缶体内にハニカムフィルタ100を収納する際に、ハニカムフィルタ100を十分な把持力で保持することが困難になることがある。隔壁1の気孔率は、水銀ポロシメータ(Mercury porosimeter)によって計測された値とする。水銀ポロシメータとしては、例えば、Micromeritics社製のAutopore 9500(商品名)を挙げることができる。
【0046】
ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4のセル密度が、31~62個/cm2であることが好ましく、46~62個/cm2であることが更に好ましく、46~56個/cm2であることが特に好ましい。このように構成することによって、自動車等のエンジンから排出される排ガス中のPMを捕集するためのフィルタとして好適に利用することができる。
【0047】
隔壁1の平均細孔径については特に制限はないが、9~20μmであることが好ましく、9~13μmであることが更に好ましい。隔壁1の平均細孔径は、水銀ポロシメータ(Mercury porosimeter)によって計測された値とする。水銀ポロシメータとしては、例えば、Micromeritics社製のAutopore 9500(商品名)を挙げることができる。
【0048】
隔壁1の材料が、強度、耐熱性、耐久性等の観点から、主成分は酸化物又は非酸化物の各種セラミックや金属等であることが好ましい。具体的には、セラミックとしては、例えば、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素、窒化珪素、チタン酸アルミニウムから構成される材料群より選択された少なくとも1種を含む材料からなることが好ましい。金属としては、Fe-Cr-Al系金属及び金属珪素等が考えられる。これらの材料の中から選ばれた1種又は2種以上を主成分とすることが好ましい。高強度、高耐熱性等の観点から、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、コージェライト、炭化珪素、及び窒化珪素から構成される材料群より選ばれた1種又は2種以上を主成分とすることが特に好ましい。セラミック材料としては、例えば、コージェライトを結合材として炭化珪素の粒子を結合した複合材料であってもよい。高熱伝導率や高耐熱性等の観点からは、炭化珪素又は珪素-炭化珪素複合材料が特に適している。ここで、「主成分」とは、その成分中に、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上存在する成分のことを意味する。
【0049】
目封止部の材料については特に制限はないが、上記した隔壁の材料として挙げたものを好適に用いることができる。
【0050】
ハニカムフィルタ100の全体形状については特に制限はない。ハニカムフィルタ100の全体形状は、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、又は楕円形であることが好ましく、特に、円形であることが好ましい。ハニカムフィルタ100の大きさ、例えば、ハニカム基材4の流入端面11から流出端面12までの長さや、ハニカム基材4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。ハニカムフィルタ100を、排ガス浄化用のフィルタとして用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。
【0051】
ハニカムフィルタ100は、内燃機関の排ガス浄化用の部材として好適に用いることができる。ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材4の隔壁1の表面及び隔壁1の細孔のうちの少なくとも一方に、排ガス浄化用の触媒が担持されたものであってもよい。例えば、排ガス浄化用の触媒としては、酸化触媒、選択的触媒還元触媒、三元触媒等を挙げることができる。特に、ハニカムフィルタ100は、自動車等のエンジンからの排ガスを浄化するための排ガス浄化フィルタとして好適に用いることができる。
【0052】
次に、本実施形態のハニカムフィルタを製造する方法について説明する。ただし、ハニカムフィルタを製造する方法は、以下に説明する製造方法に限定されることはない。
【0053】
まず、ハニカム基材を作製するための可塑性の坏土を作製する。ハニカム基材を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料群の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、及び水を添加することによって作製することができる。
【0054】
次に、作製した坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を得る。押出成形においては、押出成形用の口金として、坏土の押出面に、成形するハニカム成形体の反転形状となるスリットが形成されたものを用いることができる。得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥してもよい。
【0055】
次に、ハニカム成形体の製造に用いた材料と同様の材料で、セルの開口部を目封止することで目封止部を形成する。目封止部を形成する方法については、従来公知のハニカムフィルタの製造方法に準じて行うことができる。
【0056】
次に、得られたハニカム成形体を焼成することにより、ハニカム基材及び目封止部を備えたハニカムフィルタ前駆体を得る。ハニカムフィルタ前駆体は、隔壁の表面に捕集層が形成される前の多孔質基材である。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【0057】
次に、以下の方法で、ハニカムフィルタ前駆体を構成する多孔質の隔壁の表面に捕集層を形成する。まず、捕集層を作製するための原料粒子を用意する。捕集層を作製するための原料粒子としては、例えば、平均粒子径(D50)が0.1~10μmの無機材料からなる捕集層作製用の原料粒子を挙げることができる。次に、以下の示すような方法によって捕集層を形成する。なお、以下に示す方法は、より具体的な作製方法の一例である。まず、ハニカムフィルタ前駆体の流入端面側から、コージェライト原料などの粉末を含むガス状の捕集層作製用原料を流入させて、この捕集層作製用原料を流入セル内に吹き込む。捕集層作製用原料に含まれる粉末としては、例えば、粒子径の分布が0.5~6μmの範囲であり平均粒子径(D50)が2.7μmのコージェライト原料などを挙げることができる。流入セル内にガス状の捕集層作製用原料を吹き込むことによって、浮遊状態の捕集層作製用原料(コージェライト原料などの粉末)を隔壁の表面に堆積させて、隔壁の表面に捕集層作製用原料からなる層(表面層)を形成する。吹き込み直後において、捕集層作製用原料は第一隔壁(IN-OUT隔壁)に優先的に付着し、原料粒子の堆積に伴い、この第一隔壁(IN-OUT隔壁)の透過抵抗が上昇する。そして、第一隔壁(IN-OUT隔壁)の透過抵抗が一定値を超えたあたりで、第二隔壁(IN-IN隔壁)に対する捕集層作製用原料の付着量が増大していく。このため、本実施形態のハニカムフィルタを製造する場合には、第二隔壁(IN-IN隔壁)に対して十分な量の原料粒子が付着する前に、捕集層作製用原料としてのガスの供給を停止して、第二隔壁(IN-IN隔壁)よりも、第一隔壁(IN-OUT隔壁)の原料粒子の付着量を多くする。即ち、第二隔壁(IN-IN隔壁)に対して捕集層が形成される前、又は、第二隔壁(IN-IN隔壁)に捕集層が形成され始めた場合には、その捕集層の厚さが、第一隔壁(IN-OUT隔壁)に形成された捕集層の厚さを超えない段階で、捕集層の形成(即ち、捕集層作製用のガスの供給)を終了する。このようにして、第二隔壁における捕集層の厚さを相対的に薄くすることで、捕集層を作製するための原材料や作製時間を削減することができ、費用対効果などの面においても極めて優れた効果を得ることができる。例えば、第二隔壁に対して捕集層を配設しない場合は、捕集層を作製するための原材料が半分で済むのに対して、捕集層(特に、IN-OUT捕集層)による圧力損失の低減効果については、全隔壁に対して均等厚さの捕集層を設けた場合と同程度の効果を得ることができる。
【0058】
このようにして、ハニカムフィルタ前駆体の流入セルを取り囲む隔壁の内表面側に、捕集層作製用の原料粒子によって構成された捕集層を形成する。以上のようにして、本発明のハニカムフィルタを製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを用意した。用意したコージェライト化原料100質量部に、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用した。造孔材としては平均粒子径10μmのコークスを使用した。有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用した。分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0061】
次に、所定の金型を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形(円筒形)のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセル形状は、六角形とした。
【0062】
次に、得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた。その後、乾燥させたハニカム成形体を所定の寸法に整えて、ハニカム乾燥体を得た。次に、ハニカム乾燥体のセルの開口部を目封止するための材料として、コージェライト化原料を含有する目封止スラリーを用意した。そして、ハニカム乾燥体の流出端面側に、流出セルの開口部が覆われるようにマスクを施し、マスクを施したハニカム乾燥体の流出端面側の端部を目封止スラリーに浸漬し、目封止部を形成した。同様に、ハニカム乾燥体の流入端面側にも流入セルの開口部が覆われるようにマスクを施し、マスクを施したハニカム乾燥体の流入端面側の端部を目封止スラリーに浸漬し、目封止部を形成した。その後、目封止部を形成したハニカム乾燥体を熱風乾燥機で乾燥させ、更に、1410~1440℃で焼成することによって、捕集層を形成する前のハニカムフィルタ前駆体(ハニカム基材)を得た。
【0063】
次に、得られたハニカムフィルタ前駆体の隔壁の表面に、以下のようにして捕集層を形成した。まず、ハニカムフィルタ前駆体の流入端面側から、平均粒子径が3.5μmの炭化珪素の粉末(原料粒子)を含むガスを流入させ、流入セル内に当該ガスを吹き込んだ。このようにして、流入セルを取り囲む隔壁の表面に原料粒子を堆積させた。その後、そのハニカムフィルタ前駆体を1300℃で1時間熱処理し、隔壁の表面に原料粒子を融着させて捕集層を形成した。
【0064】
以上のようにして、実施例1のハニカムフィルタを作製した。表1に、実施例1のハニカムフィルタの構成を示す。実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、圧力損失、アッシュ容量、捕集層コストの評価を行った。各結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1に対して捕集層を形成するための原料の吹き込み時間を短くし、捕集層の厚さが薄く形成するようにしてハニカムフィルタを製造した。
【0067】
(実施例3、4)
実施例3、4においては、隔壁の気孔率及び平均細孔径が表1に示すようなハニカムフィルタ前駆体(ハニカム基材)を作製した。そして、実施例1、2と同様の方法で、隔壁の表面に捕集層を形成してハニカムフィルタを製造した。隔壁の気孔率及び平均細孔径の調製は、坏土を調製する原料の調合割合を調節することによって行った。
【0068】
(比較例1、2、5、6)
比較例1、2、5、6においては、セル形状がHAC形状の口金を用いて坏土を押出成形し、ハニカム成形体を作製した。HACとは、「High Ash Capacity」の略で、排ガスが流入する側の端部において開口しているセル(流入セル)の断面積と、上記他方の端部(排ガスが流出する側の端部)において開口しているセル(流出セル)の断面積とを異ならせたセル構造である。ここで、断面積とは、セルをその長手方向に直交する平面で切断したときの、その断面の面積をいう。流入セルのセル開口部(セル断面)の大きさ(面積)を、流出セルのセル開口部(セル断面)の大きさ(面積)より大きくすることにより、粒子状物質等が堆積する流入セル表面の表面積が大きくなる。このため、流入側と流出側でセル開口部が同じ四角セルより圧力損失の増大を抑制することが可能となる。セル形状がHAC形状のセル構造を、単に「HAC構造」ということがある。そして、得られたHAC構造のハニカム成形体を用いて、捕集層を形成する前のハニカムフィルタ前駆体(ハニカム基材)を得た。
【0069】
比較例1、5では、捕集層の形成工程を省き、捕集層のないハニカムフィルタを製造した。比較例2、6では、HAC構造のハニカムフィルタ前駆体の流入セルを取り囲む隔壁表面に、表1に示すような厚さの捕集層を形成した。
【0070】
(比較例3、7)
比較例3、7においては、実施例1、3に対して捕集層の形成工程を省き、捕集層のないハニカムフィルタを製造した。
【0071】
(比較例4、8)
比較例4、8においては、捕集層の形成工程において、捕集層を形成するための原料粒子の吹き込み時間を長くし、第二隔壁(IN-IN隔壁)の表面にも捕集層を形成したこと以外は、実施例1、3と同様の方法でハニカムフィルタを製造した。
【0072】
(圧力損失)
まず、端面の直径が22.86cmで、セルの延びる方向の長さが18.4cmのハニカムフィルタを、6.7Lのディーゼルエンジンの排気管に装着した。次に、エンジンを運転し、排ガス温度を270℃、排ガスの流量を320kg/hで排出される排ガスに含まれるPMを、ハニカムフィルタへ堆積させた。PM堆積量が0.5g/Lとなった状態で、ハニカムフィルタの前後に取付けた圧力計の圧力を測定し、前後の差圧を求めた。この差圧を、ハニカムフィルタの圧力損失とした。圧力損失の評価においては、セル形状がHAC形状で捕集層を設けていない比較例1及び5のハニカムフィルタを、圧力損失の評価基準となる基準ハニカムフィルタとした。圧力損失の評価においては、基準ハニカムフィルタと隔壁の厚さが同じ値となるハニカムフィルタを評価対象とし、以下の評価基準にて評価を行った。基準ハニカムフィルタに対して圧力損失が10%以上低下したものを「良」とし、圧力損失の低下が10%未満のものを「可」、圧力損失が同等以上のものを「不可」とした。
【0073】
(アッシュ容量)
六角形のセル形状の場合、流出セルの周りを流入セルとすることで、エンジンから排出されるPMやアッシュが堆積する流入セルを四角セルやHACセルに比べ、多く設けることで流入セルの総容積が大きくなる。流入セルの容積が大きいとフィルタに堆積したアッシュによるフィルタ容量の減少を押さえることができる。アッシュ容量の評価においては、HACセルのハニカムフィルタを基準として、流入セルの総容積が多い場合を「良」、総容積が同じ場合は「不可」とした。
【0074】
(捕集層コスト)
捕集層コストの評価については、捕集層に使用する材料費や捕集層形成にかかる工程時間を以下のように評価した。捕集層がないものを「良」とした。捕集層の厚さを70μmとした場合に対して、各実施例及び比較例での捕集層の形成にかかる原料使用量が50%以下の場合は「可」、捕集層の形成にかかる原料使用量が50%を超えるの場合を「不可」とした。
【0075】
(結果)
実施例1~4のハニカムフィルタは、圧力損失、アッシュ容量、捕集層コストの各評価において、「良」又は「可」の評価結果となり、HACセルのハニカムフィルタに比して良好な特性を示すものであった。一方で、比較例1、3、5、7のハニカムフィルタは、捕集層を設けていないため、圧力損失の評価が「不可」となった。また、第一隔壁と第二隔壁の捕集層の厚さを同一にした比較例2、6のハニカムフィルタは、アッシュ容量の評価が「不可」であった。更に、第二隔壁の捕集層の厚さを厚くした比較例4、8のハニカムフィルタは、捕集層コストの評価が「不可」であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のハニカムフィルタは、排ガスを浄化するためのフィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:隔壁、1a:第一隔壁、1b:第二隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム基材、5:目封止部、6:捕集層、6a:捕集層(IN-OUT捕集層)、6b:捕集層(IN-IN捕集層)、11:流入端面、12:流出端面、17:固体部分、19:空隙部分、21:内接円、100:ハニカムフィルタ、K:3次曲線(最小二乗近似3次曲線)、L:捕集層深さ、T1:捕集層の厚さ、T2:捕集層の厚さ。