(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】安全キャビネット
(51)【国際特許分類】
B01L 1/00 20060101AFI20241010BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20241010BHJP
F24F 7/007 20060101ALI20241010BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B01L1/00 A
F24F7/06 C
F24F7/007 B
C12M1/00 K
(21)【出願番号】P 2021119203
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
(72)【発明者】
【氏名】松村 健史
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-141273(JP,A)
【文献】特開2008-307496(JP,A)
【文献】実開昭57-123637(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00-04
B25J 21/00-02
C12M 1/00
F24F 7/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業空間と、該作業空間の前面の開口部と前面シャッターと、前記作業空間の下部に設けた前記作業空間内の空気の排気循環経路を有し、前記作業空間に上方から清浄空気を供給する安全キャビネットであって、
前記前面シャッター全閉時に前記排気循環経路の一部を開口する機構を備え、
前記前面シャッター全閉時に前記排気循環経路の一部が開き前記安全キャビネット外からの空気を誘引する
ものであり、
前記排気循環経路の一部に設けたダンパ開口部と、
前記ダンパ開口部を塞ぐダンパを有し、
前記排気循環経路の一部を開口する機構は、前記前面シャッター全閉時、開閉ピンが作動し、前記開閉ピンと連動して前記ダンパが開くダンパ機構であることを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
請求項1に記載の安全キャビネットにおいて、
前記ダンパ開口部と前記ダンパを複数備えることを特徴とする安全キャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の開発や病原体等の研究や再生医療における細胞操作などに使用する安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス等の病原体の研究やワクチン開発等の医薬品の開発などで病原体等を取り扱う場合や再生医療における細胞培養における細胞観察や培地交換などの作業には、安全キャビネットが使用される。
【0003】
安全キャビネットの一例として、特許文献1がある。特許文献1には、作業空間の上部に吹き出し用HEPAフィルタを設けるとともに、作業空間の前部に開閉可能な前面シャッターを設け、下方後方に後部グリルを、下方前方に前面グリルを設け、吹き出し用HEPAフィルタから一様に作業空間に空気を供給し、作業空間の底面を形成する作業台の前面グリルと後部グリルから空気を吸い込むことにより、一様に空気が上から下に下降し、作業空間を清浄にする安全キャビネットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された安全キャビネットでは、作業者は安全キャビネットの正面に座り、前面シャッターの下方の作業開口部から作業空間に腕を挿入して作業を行うが、安全キャビネットの前面シャッターを全閉で使用することは考慮されていない。前面シャッターを閉じた状態では、作業空間内が負圧となり、前面シャッターの周囲隙間から、安全キャビネットを設置している部屋の一般室内空気である非清浄空気を誘引し、作業空間内の清浄度を維持できないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、前面シャッターを全閉時に作業空間内の清浄度を維持することができる安全キャビネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その一例を挙げるならば、作業空間と、作業空間の前面の開口部と前面シャッターと、作業空間の下部に設けた作業空間内の空気の排気循環経路を有し、作業空間に上方から清浄空気を供給する安全キャビネットであって、前面シャッター全閉時に排気循環経路の一部を開口する機構を備え、前面シャッター全閉時に排気循環経路の一部が開き安全キャビネット外からの空気を誘引する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前面シャッターを全閉時に作業空間内の清浄度を維持することができる安全キャビネットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1における安全キャビネットの前面シャッター部分の断面図である。
【
図2】実施例3における安全キャビネットの前面シャッター部分の断面図である。
【
図3】一般的な安全キャビネットの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
本実施例を説明する前に、一般的な安全キャビネットについて説明する。
図3は、一般的な安全キャビネットの概略構成図である。
図3において、(a)は安全キャビネットの概略正面図であり、(b)は、(a)のA-A’断面を左方より見た安全キャビネットの概略側面図である。
【0011】
図3に示すように、安全キャビネット100は、内部に、前面を前面シャッター103で構成した作業空間102を配置している。作業空間102の下面は作業台101からなり、作業台101の前面シャッター103側に前面スリット104aを配置している。前面シャッター103の下方には、作業開口部104を形成している。安全キャビネットのファン106を運転した場合、圧力チャンバ109を加圧する。圧力チャンバ109には、吹き出し用HEPAフィルタ111が接続され、圧力チャンバ109内の塵埃を吹き出し用HEPAフィルタ111でろ過し、清浄化した空気を吹き出し、吹き出し用整流板107で整流化した後、作業空間102内に吹き出し気流113として供給する。
【0012】
圧力チャンバ109には、排気用HEPAフィルタ110も接続されている。圧力チャンバ109で加圧された空気は、排気用HEPAフィルタ110でろ過され、安全キャビネットの排気口108を通り、排気空気114として安全キャビネット100から排気される。そして、安全キャビネット100から排気される空気と等しい量の空気が、安全キャビネット100内に入る。その空気は、前面シャッター103の下方の作業開口部104に発生する流入気流112である。流入気流112は、作業空間102の吹き出し気流113の一部とともに、前面スリット104aに吸込まれる。この空気は作業台101の下方の排気循環経路120を通り、作業空間102の前面シャッター103の反対面に形成した後部スリット105aから、吹き出し気流113の一部とともに吸込まれ、背面経路105を通り、安全キャビネットのファン106に吸い込まれる。これにより、作業開口部104からの流入気流112は作業空間102に滞留することなく排出されるので、作業開口部104からの流入気流112のエアバリアとして働く。
【0013】
作業空間102内では病原体等を含む塵埃、エアロゾルを取り扱っているため、背面経路105、圧力チャンバ109内にも、病原体等を含む塵埃、エアロゾルが存在する。作業空間102に空気を供給する際と、安全キャビネット100から空気を排気する際には、この塵埃、エアロゾルは、吹き出し用HEPAフィルタ111、排気用HEPAフィルタ110で除去されている。
【0014】
作業者は安全キャビネット100の正面に座り、作業開口部104から作業空間102に腕を挿入し、前面シャッター103を通して作業空間102内を見ながら作業を行う。 このような安全キャビネットにおいて、作業者は、前面シャッターを製造者が指定した開口、例えば200mm開口で使用するが、作業が終わった場合は、前面シャッターを閉じて安全キャビネットの運転は継続する場合がある。また、安全キャビネットを用いた作業を行なう場合、安全キャビネットの運転を停止した状態から運転を開始し、前面シャッターを閉じた状態で、安全キャビネットの試運転を行なう場合がある。また、作業前に安全キャビネットに備え付けられた殺菌灯を点灯して安全キャビネットの作業空間内表面を殺菌する場合があるが、この場合、作業前なので前面シャッターを閉じている場合がある。
【0015】
このような、前面シャッターを閉じた状態では、エアバリアがなしの状態であり、作業空間内が負圧となり、前面シャッターの周囲隙間から、安全キャビネットを設置している部屋の一般室内空気である非清浄空気を誘引し、作業空間内の清浄度を維持できないという課題がある。
【0016】
そこで、本実施例では、前面シャッター全閉時に安全キャビネットの作業空間内の空気の排気循環経路の一部を開口する機構を備え、前面シャッター全閉時でも作業空間内清浄度を維持できる安全キャビネットとする。以下、本実施例の詳細について図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本実施例における安全キャビネットの前面シャッター部分の断面図である。
図1において、
図3と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
図1において、(a)は前面シャッター103を開けた状態であり、(b)は前面シャッター103を閉じた状態を示している。また、前面シャッター103の図右側が安全キャビネット内の作業空間102、前面シャッター103の図左側が安全キャビネット外の空間である。
【0018】
図1に示すように、本実施例における安全キャビネットは、前面シャッター103を全閉した時にそれに連動して動く丸棒状の開閉ピン115と、作業台101とドレンパン119の間の排気循環経路120に設けられたダンパ開口部118と、ダンパ開口部118を塞ぐダンパ116を有している。
【0019】
そして、
図1(b)に示すように、前面シャッター103を全閉した時にそれに連動して開閉ピン115が下へ移動し、それに押し下げられる形でダンパ116が開く。ダンパは、スプリングターン式の蝶番117を支点にして開閉する。ダンパ116が開くことにより、安全キャビネット外の一般室内空気がダンパ開口部118から排気循環経路120に流入し、背面経路105を介して安全キャビネットのファン106へ吸引される。すなわち、前面シャッター103を全閉時に、排気循環経路120の一部を開口する機構としてのダンパ機構を備える。
【0020】
ダンパ116が開くことにより、前面シャッター103を全閉にしても作業空間102は負圧になることはなく、前面シャッター103周囲の隙間から作業空間102へ塵埃が流入することがなくなる。それにより、作業空間102全体の清浄度を確保することができる。
なお、ダンパ開口部およびダンパの場所は
図1に限定されるものではなく、どこでもよい、また、1つでは吸気量が足りない場合は、ダンパ開口部およびダンパを複数設けてもよい。
【0021】
以上のように、本実施例によれば、前面シャッター全閉時に作業空間内の空気の排気循環経路の一部が開くダンパ機構を有することにより、一般室内空気を誘引する経路を確保し、作業空間内が負圧になることを防止することができる。そのため、安全キャビネットの作業空間内に塵埃を有する一般室内空気が流入することを防止でき、作業空間内清浄度を維持することができる安全キャビネットを提供できる。
【実施例2】
【0022】
実施例1では、前面シャッター全閉時に排気循環経路の一部を開口する機構として、前面シャッターに連動して動く開閉ピンとダンパを用いたが、本実施例では他の構成について説明する。
【0023】
本実施例では、開閉ピンに代えて、前面シャッター103の全閉の位置を検知するリミットスイッチを設ける。これにより、前面シャッター103の全閉をリミットスイッチにより検知し、前面シャッター103全閉時、リミットスイッチの検知信号によりモータが駆動しダンパ116を開く構成とする。
【0024】
このように、本実施例によれば、実施例1と同様に、前面シャッター全閉時に作業空間内の空気の排気循環経路の一部が開くダンパ機構を有することにより、一般室内空気を誘引する経路を確保し、作業空間内が負圧になることを防止することができる。そのため、安全キャビネットの作業空間内に塵埃を有する一般室内空気が流入することを防止でき、作業空間内清浄度を維持することができる安全キャビネットを提供できる。
【実施例3】
【0025】
実施例1、2では、前面シャッター全閉時に排気循環経路の一部が開くダンパ機構について説明した。
【0026】
本実施例では、前面シャッター全閉時であって安全キャビネットのファンが運転時には排気循環経路が負圧になることを利用して、ダンパ機構を駆動する例について説明する。
【0027】
図2は、本実施例における安全キャビネットの前面シャッター部分の断面図である。
図2において、
図1と同じ構成は同じ符号を付しその説明は省略する。
図2において、(a)は、前面シャッター103全閉時であって、かつファン106が停止時の状態であり、(b)は、前面シャッター103全閉時であって、かつファン106が運転時の状態を示している。
【0028】
図2に示すように、本実施例における安全キャビネットは、作業台101とドレンパン119の間の排気循環経路120に設けられたダンパ開口部118と、ダンパ開口部118を排気循環経路120内部から塞ぐダンパ116を有している。
【0029】
そして、
図2(a)に示すように、前面シャッター103全閉時であって、かつファン106が停止時の状態では、ダンパ116の自重、及びスプリングターン式の蝶番117の付勢によりダンパ開口部118は塞がれた状態である。
【0030】
一方、
図2(b)に示すように、前面シャッター103全閉時であって、かつファン106が運転時の状態では、排気循環経路120から排気空気として排気されるので、排気循環経路120は負圧になる。そのため、安全キャビネット外の一般室内空気がダンパ開口部118から排気循環経路120に流入するように、ダンパ116が排気循環経路120の内側に開くように駆動される。その結果として、ダンパ116が開くことにより、前面シャッター103を全閉にしても作業空間102は負圧になることはなく、前面シャッター103周囲の隙間から作業空間102へ塵埃が流入することがなくなる。それにより、作業空間102全体の清浄度を確保することができる。
【0031】
以上のように、本実施例によれば、実施例1、2と同様に、前面シャッター全閉時に作業空間内の空気の排気循環経路の一部が開くダンパ機構を有することにより、一般室内空気を誘引する経路を確保し、作業空間内が負圧になることを防止することができる。そのため、安全キャビネットの作業空間内に塵埃を有する一般室内空気が流入することを防止でき、作業空間内清浄度を維持することができる安全キャビネットを提供できる。
【0032】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
100:安全キャビネット、101:作業台、102:作業空間、103:前面シャッター、104:作業開口部、104a:前面スリット、105:背面経路、106:ファン、107:吹き出し用整流板、108:排気口、109:圧力チャンバ、110:排気用HEPAフィルタ、111:吹き出し用HEPAフィルタ、112:流入気流、113:吹き出し気流、114:排気空気、115:開閉ピン、116:ダンパ、117:蝶番、118:ダンパ開口部、119:ドレンパン、120:排気循環経路