IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7569777CO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】CO2固定化材及びCO2固定化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20241010BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20241010BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20241010BHJP
   C01B 33/24 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01D53/14 100
C01B32/50
C01B33/24 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021171812
(22)【出願日】2021-10-20
(65)【公開番号】P2023061713
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 僚介
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/002727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及び3CaO・MgO・2SiO からなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含むCO固定化材であって、前記CO固定化材中にLiを含有し、該Liの含有率が酸化物換算で0.001~1.0質量%であり、前記「CO 固定化材中にLiを含有」しているとは、前記CO 固定化材における非水硬性化合物中に化学組成としてLi Oを含むが、X線回折測定ではLi Oが同定されない状態であるCO固定化材。
【請求項2】
γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及び3CaO・MgO・2SiO からなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物と、二糖類とを含み、前記非水硬性化合物100質量部に対して前記二糖類を0.5~10質量部含有するCO固定化材。
【請求項3】
前記非水硬性化合物におけるCaO/SiOモル比が0.8~2.3である請求項1又は2に記載のCO固定化材。
【請求項4】
さらに、二糖類を含む請求項1に記載のCO固定化材。
【請求項5】
前記CO固定化材100質量部に対して前記二糖類を0.5~10質量部含有する請求項4に記載のCO固定化材。
【請求項6】
前記二糖類がトレハロースを含む請求項2、4、及び、5のいずれか1項に記載のCO固定化材。
【請求項7】
75℃以下及び/又は50%RH以上で、請求項1~6のいずれか1項に記載のCO固定化材の炭酸化処理を行うCO固定化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO固定化材及びCO固定化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス削減に向けた取り組みとして、製造時にCOを強制的に吸収若しくは炭酸化させたコンクリート製品(以下、CO吸収コン)が一部実用化されている。CCUS技術(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留技術)の一種であるCO吸収コンは、2019年に経済産業省が発表した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」でも言及され、普及拡大に向けた技術開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、コンクリートの製造時にCOを強制的に吸収若しくは炭酸化させる方法が開示されている。具体的には、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含む、二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-15659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の固定化方法は、二酸化炭素含有ガス中の水分量を1.5%以上とし、かつ温度を75~175℃とするものであり、COを固定化させるような材料についての開示や示唆はない。
【0006】
以上から、本発明は、炭酸化処理によってCOを固定化させることができるCO固定化材及びCO固定化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含むCO固定化材であって、前記CO固定化材中にLiを含有し、該Liの含有率が酸化物換算で0.001~1.0質量%であるCO固定化材。
[2] γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物と、二糖類とを含むCO固定化材。
[3] 前記非水硬性化合物におけるCaO/SiOモル比が0.8~2.3である[1]又は[2]に記載のCO固定化材。
[4] さらに、二糖類を含む[1]に記載のCO固定化材。
[5] 前記CO固定化材100質量部に対して前記二糖類を0.5~10質量部含有する[1]、[2]、[4]のいずれかに記載のCO固定化材。
[6] 前記二糖類がトレハロースを含む[1]、[2]、[4]、[5]のいずれかに記載のCO固定化材。
[7] 75℃以下及び/又は50%RH以上で、[1]~[6]のいずれかに記載のCO固定化材の炭酸化処理を行うCO固定化物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭酸化処理によってCOを固定化させることができるCO固定化材及びCO固定化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[CO固定化材]
本発明の実施形態に係るCO固定化材としては、第1のCO固定化材及び第2のCO固定化材が挙げられる。
【0011】
<第1のCO固定化材>
第1のCO固定化材は、γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含む。第1のCO固定化材は、さらに、当該CO固定化材中にLiを含有し、その含有量が酸化物換算で0.001~1.0%となっている。この所定量のLiにより、C-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)の炭酸化のうち、炭酸カルシウムの1種であるバテライトの生成が促進されると推定され、炭酸(塩)化養生によってより緻密な硬化状態が得られやすくなると考えられる。
【0012】
ここで、「CO固定化材中にLiを含有」しているとは、CO固定化材における非水硬性化合物中に化学組成としてLiOを含む(ICP発光分光分析で存在を確認できる)が、X線回折測定ではLiOが同定されない(LiOの明確なピークが見られない)状態をいい、単に、非水硬性化合物とLi化合物とが物理的に混合された状態ではないことをいう。このような状態は、それぞれの原料を混合して1,000℃以上の高温での熱処理をすることで得られる。以下、各成分等について説明する。
【0013】
(γ-2CaO・SiO
γ-2CaO・SiOとは、2CaO・SiOで表される化合物のうちで、低温相として知られるものであり、高温相であるα-2CaO・SiOやα’-2CaO・SiO、β-2CaO・SiOとは全く異なるものである。これらはいずれも、2CaO・SiOで表されるが、結晶構造や密度は異なっている。
【0014】
(3CaO・2SiO
3CaO・2SiOとは、偽ケイ灰石にCaOを含有する鉱物でランキナイトと呼ばれる。水和活性は無く化学的に安定な鉱物であるが、CO固定化効果が大きい。
【0015】
(α-CaO・SiO
α-CaO・SiO(α型ワラストナイト)とは、CaO・SiOで表される化合物のうちで、高温相として知られるものであり、低温相であるβ-CaO・SiOとは全く異なるものである。これらはいずれも、CaO・SiOで表されるが、結晶構造や密度は異なっている。
【0016】
天然に産出するワラストナイトは低温相のβ-CaO・SiOである。β-CaO・SiOは針状結晶を有し、ワラストナイト繊維等のような無機繊維質物質として利用されてはいるが、本実施形態に係るα-CaO・SiOのようなCO固定化効果はない。
【0017】
(カルシムマグネシウムシリケート)
カルシムマグネシウムシリケートとは、CaO-MgO-SiO系化合物を総称するものであるが、本実施形態では、3CaO・MgO・2SiO(CMS)で表されるメルヴィナイト(Merwinite)であることが好ましく、メルヴィナイトによれば大きいCO固定化効果が達成される。
【0018】
上記のような非水硬性化合物は1種でも2種以上でもよいが、当該非水硬性化合物(複数種ある場合はその合計)中のLiの含有率は酸化物換算で0.001~1.0%であり、0.005~1.0%であることが好ましく、0.010~0.90%であることがより好ましく、0.015~0.80%であることがさらに好ましい。Liの含有率が酸化物換算で0.001%未満であると炭酸化促進効果が得られない。1.0%を超えるとコストが高くなってしまう。酸化物換算のLiの含有率は、実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0019】
上記の非水硬性化合物の中でも、特にγ-2CaO・SiOは、製造時にダスティングと呼ばれる粉化現象をともなうため他の化合物に比べて粉砕に要するエネルギーが少ないこと、長期にわたってCO固定化効果が大きい点で好ましい。
【0020】
本実施形態に係る非水硬性化合物は、CaO原料、SiO原料、MgO原料及びLi原料を所定のモル比で配合して熱処理することによって得られる。CaO原料としては、例えば、石灰石などの炭酸カルシウム、消石灰などの水酸化カルシウム、アセチレン副生消石灰などの副生消石灰、廃コンクリート塊から発生する微粉末、レディーミクストコンクリート工場及びコンクリート製品工場で発生するコンクリートスラッジ(脱水ケーキ)、焼却灰(石炭灰、木質バイオマス、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰など)、鉄鋼スラグ(転炉スラグ、電気炉スラグなど)などが挙げられる。SiO原料としては、例えば、ケイ石や粘土、さらには、シリカフュームやフライアッシュに代表されるような産業副産物として発生する様々なシリカ質ダストなどが挙げられる。MgO原料としては、例えば、水酸化マグネシウムや塩基性炭酸カルシウム、ドロマイトなどを挙げることができる。また、Li原料としては、炭酸リチウムなどを挙げることができる。なお、CaO原料、SiO原料、MgO原料にLiが含まれる場合は、Li原料を新たに加える必要はない。熱処理時の非エネルギー由来CO排出量の削減からも、副生消石灰、廃コンクリート塊から発生する微粉末、コンクリートスラッジ、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰など、CaOを含む産業副産物から選ばれる1種又は2種以上を利用できる。中でも他の産業副産物に比べて不純物量が少ない副生消石灰の使用がさらに好ましい。
【0021】
副生消石灰としては、カルシウムカーバイド法によるアセチレンガスの製造工程で副生される副生消石灰(アセチレンガス製造方法の違いで、湿式品と乾式品がある)、カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されるダスト中に含まれる副生消石灰といったアセチレン副生消石灰等が挙げられる。副生消石灰は、例えば、水酸化カルシウムが65~95%(好ましくは、70~90%)で、その他に、炭酸カルシウムを1~10%、酸化鉄を0.1~6.0%(好ましくは、0.1~3.0%)含む。これらの割合は蛍光X線測定、及び示差熱重量分析(TG-DTA)で求まる質量減量分(Ca(OH):405℃~515℃付近、CaCO:650℃~765℃付近)にて確認することができる。レーザー回折・散乱法で測定する体積平均粒子径は、50~100μm程度である。さらに、JIS K 0068「化学製品の水分測定方法」中、乾燥減量法で測定される水分率は、10%以下であることが好ましい。また、CaS、A1、及びCaC・CaSなどイオウ化合物を含んでもよいが、2%以下であることが好ましい。
【0022】
既述の1,000℃以上の高温での熱処理は、特に限定されるものではないが、例えば、ロータリーキルンや電気炉などによって行うことができる。その熱処理温度は、一義的に定められるものではないが、通常、1,000~1,800℃程度の範囲で行われ、1,200~1,600℃程度の範囲で行われることが多い。
【0023】
本実施形態は、既述の非水硬性化合物を含む産業副産物を用いることもできる。この際には不純物が共存する。このような産業副産物として、製鋼スラグ等が挙げられる。
【0024】
CaO原料、SiO原料、MgO原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物の具体例としては、例えば、Al、Fe、TiO、MnO、NaO、KO、S、P、F、B、塩素などが挙げられる。また、共存する化合物としては、遊離酸化カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、カルシウムフェライトやカルシウムアルミノフェライト、カルシウムフォスフェート、カルシウムボレート、マグネシウムシリケート、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiO、スピネルMgO・Al、マグネタイトFe、前述のCaS、A1、及びCaC・CaSなどイオウ化合物などが挙げられる。
【0025】
これらの不純物のうち、非水硬性化合物中のS(硫黄)の含有率は酸化物(SO)換算で1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、さらに0.5%以下であることが好ましい。1.0%以下であることで、十分な炭酸(塩)化促進効果が得られ、また、凝結や硬化性状を適切な範囲にすることができる。酸化物(SO)換算でのSの含有率は、蛍光X線測定により測定することができる。なお、非水硬性化合物中のS(硫黄)は、酸化物換算で2%程度であれば存在していてもよい。
【0026】
本固定化材において、非水硬性化合物の含有率(複数種含む場合は合計量に占める含有率)は65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。なお、γ-2CaO・SiO以外の水硬性の2CaO・SiOが混在していることも可能であり、最大35%まで混在可能である。
【0027】
非水硬性化合物におけるγ-2CaO・SiOの含有率は、35%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。また、γ-2CaO・SiOの含有率の上限値は特に限定されない。製鋼スラグの中では、γ-2CaO・SiO含有率が多い電気炉還元期スラグ又はステンレススラグが好ましい。
【0028】
非水硬性化合物におけるCaO/SiOモル比は0.8~2.3であることが好ましく、1.2~2.3であることがより好ましい。モル比は0.8~2.3であることで炭酸化をより促進できる。
【0029】
また、本固定化材においてはその効果をより発現しやすくする観点から、化学成分として、CO固定化材100部中、LiOを0.001~1.0部、CaOを45~70部、SiOを30~55部、Alを0~10部含むことが好ましい。LiOの含有量は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。また、CaO、SiO、Alは蛍光X線により測定することができる。
化学成分としては、CO固定化材100部中、LiOは0.002~0.5部、CaOは60~70部、SiOは30~45部、Alは0.5~5部含むことがより好ましい。
さらに、化学成分として、CO固定化材100部中、LiO、CaO、SiO、及びAlの合計は、90部以上であることが好ましく、95~100部であることがより好ましい。
【0030】
本固定化材中の非水硬性化合物を定量する方法として、粉末X線回折法によるリートベルト法等が挙げられる。
【0031】
CO固定化材の含水率は、非水硬性化合物表面と二酸化炭素含有ガスとの接触を適度に保つため、10質量%以下であることが好ましく、0.01~10質量%であることがより好ましい。
当該は乾燥前の試料の質量と105℃で加熱乾燥させた後の質量差から求めることができる。また、CO固定化材の含水率は105℃で加熱乾燥させた後に適当量の水を加えて攪拌することにより調整することができる。
【0032】
CO固定化材の平均粒径は1~100μmであることが好ましく、1~70μmであることがより好ましい。平均粒径が1~70μmであることで、粒子表面水へのCaの溶出を促し、炭酸化反応を促進することができる。平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して求めることができる。
【0033】
また、CO固定化材(特に、γ-2CaO・SiOを利用時)のブレーン比表面積は1,000~10,000cm/gであることが好ましく、2,500~10,000cm/gであることがより好ましい。比表面積が2,500~10,000cm/gであることで、粒子と粒子表面水の接触面積が増加し、Caの溶出を促すことで、炭酸化反応を促進することができる。比表面積はJIS R 5201に記載されるブレーン空気透過装置により測定して求めることができる。
【0034】
CO固定化材は、さらに、粒子表面水に溶出したCaとキレートを形成し、さらなる溶出を促すため、トレハロース、マルトース、ショ糖といった二糖類を含むことが好ましい。なかでも、炭酸化反応の促進効果が高い、トレハロースを含むことがより好ましい。
【0035】
炭酸化反応の促進効果の観点から、非水硬性化合物100質量部に対して二糖類を0.5~10質量部含有することが好ましく、5~10質量部含有することがより好ましい。また、二糖類中のトレハロースの含有量は十分な炭酸化促進効果を得るために、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0036】
ここで、COの固定化とは、材料が炭酸化されてCOが材料と炭酸化合物を形成することをいう。ここで、炭酸化率は、CO固定化材中のCaO成分が、理論的に固定化するCOに対する割合として下記のようにして求めることができる。
【0037】
式(1):炭酸化率=(ΔM×56.08)/(M×wCaO×44.01)
ここに、ΔM:炭酸化による増加質量[g]、M:炭酸化前のCO固定化材の質量[g]、wCaO:炭酸化前のCO固定化材中のCaO[wt%]
上記式中、炭酸化による増加質量とは、炭酸化後のサンプル重量から炭酸化前のサンプル重量を引いた質量をいう。炭酸化前のCO固定化材中のCaOは、蛍光X線分析によって測定することができる。
【0038】
<第2のCO固定化材>
第2のCO固定化材は、γ-2CaO・SiO、3CaO・2SiO、α-CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物と、二糖類とを含む。
【0039】
トレハロース、マルトース、ショ糖といった二糖類は、CO固定化材粒子表面の水に溶出したCaとキレートを形成し、さらなる溶出を促すため、炭酸化反応の促進効果を高めることができる。炭酸化反応の促進効果をより高める観点から、トレハロースを含むことが好ましい。
【0040】
上記のとおり、第2のCO固定化材は二糖類を含むため、第1のCO固定化材のように、CO固定化材中に所定量のLiを含有しなくても、炭酸化処理によってCOを固定化させることができる。
【0041】
なお、第2のCO固定化材は、非水硬性化合物と二糖類を含むことを必須とする限り、第1のCO固定化材の構成や好ましい態様を適宜採用することができる。
【0042】
[CO固定化物の製造方法]
本発明に係るCO固定化物の製造方法は、75℃以下及び/又は50%RH以上でCO固定化材の炭酸化処理を行う方法である。
炭酸化処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、二酸化炭素含有ガス雰囲気中で75℃以下及び/又は50%RH以上となるように適宜加熱及び/又は加湿(加水)等して処理する方法等が挙げられる。
【0043】
炭酸化処理の温度は、5~75℃が好ましく、5~50℃がより好ましい。また、相対湿度は、50~100%RHが好ましく、90~100%RHがより好ましい。
【0044】
上記二酸化炭素含有ガスとしては、セメント工場及び石炭火力発電所から発生する排ガス、塗装工場における排気処理で発生する排ガス等を用いることができる。二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の割合は、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることが好ましく、15%体積以上であることがさらに好ましい。
二酸化炭素含有ガス中には水分(水蒸気)が含まれていてもよい。
【0045】
以上のようにして製造されたCO固定化物は、例えば、セメント添加材として使用することもでき、そのままモルタルやコンクリート用の骨材、路盤材、盛土材や埋め戻し材等の材料として使用することもできる。すなわち、大気中の二酸化炭素を効果的にCO固定化材に固定化できるだけでなく、コンクリート材料としてさらに有効利用することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。なお、CO固定化材は単に「固定化材」ということがある。
【0047】
[実験例1]
下記のようにしてCO固定化材A~Fを作製した。
CO2固定化材A:γ-2CaO・SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをモル比2:1で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO2固定化材Aを作製した。
【0048】
CO固定化材B:3CaO・2SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをモル比3:2で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO2固定化材Bを作製した。
【0049】
CO固定化材C:α-CaO・SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とを1:1のモル比で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,500℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO固定化材Cを作製した。
【0050】
CO固定化材D:3CaO・MgO・2SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化マグネシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とを3:1:2のモル比で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO固定化材Dを作製した。
【0051】
CO固定化材E:γ-2CaO・SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをモル比2:1で混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのγ-2CaO・SiOを作製した。
【0052】
CO固定化材F:LiO+γ-2CaO・SiO。試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをモル比2:1で混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのγ-2CaO・SiOを作製した。
また、試薬1級の炭酸リチウムを1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置してLiO粉末を作製した。
LiOが0.1%(内割置換)となるようにLiO粉末(試薬1級の炭酸リチウムを1,400℃で2時間熱処理したもの)をγ-2CaO・SiOに対して内割混合して、CO固定化材Fを作製した。
なお、各CO固定化材における酸化物換算のLi含有量は、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、VISTA-PRO)によって測定した。そして、SPEX社XSTC-22 ICP用混合液を希釈して用いた絶対検量線法から、仕込み量と同量のLi含有量であることを確認している。なお、測定条件は下記のとおりである。
・Li測定波長:670.783nm
・BG補正:フィッティングカーブ法
・検量線用標準溶液:SPEX社XSTC-22 ICP用混合液を希釈して使用
検量線範囲:0-5mg/L(0mg/L,0.1mg/L,0.5mg/L,1mg/
L,5mg/Lの5点検量線)
・絶対検量線法で定量
【0053】
各ポリカップにCO固定化材A~Fをそれぞれ25g入れ、恒温恒湿室内で20℃80%RH、二酸化炭素濃度20体積%の条件で炭酸化を行った。
表1に示す各所定期間で炭酸化させた後、105℃で24時間乾燥させた試料の質量を測定し、炭酸化前後の質量変化から既述の式(1)により炭酸化率を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[実験例2]
実験1のCO固定化材Aと固定化材Cの各作製において、混合物に対してLiの含有率が酸化物(LiO)換算で0.0005%、0.002%、0.006%、0.1%、0.15%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%(それぞれ内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合した以外は実験1のCO固定化材Aと固定化材Cの作製と同様にして、CO固定化材A-1~A-7、CO固定化材C-1~C-7を作製した。各CO固定化材について実験1と同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
[実験例3]
下記のようにしてCO固定化材G~Iを作製した。
CO固定化材G:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをCaO/SiOモル比1.2で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO固定化材Gを作製した。
【0058】
CO固定化材H:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをCaO/SiOモル比1.8で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO固定化材Hを作製した。
【0059】
CO固定化材I:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の二酸化ケイ素とをCaO/SiOモル比2.3で混合し、さらに混合物に対してLiの含有量が酸化物(LiO)換算で0.1%(内割置換)となるように試薬1級の炭酸リチウムを混合し、1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置して、ブレーン比表面積が4,000cm/gのCO固定化材Iを作製した。
【0060】
作製したCO固定化材を、粉末X線回折測定を実施した。測定結果を定量ソフトで解析し、鉱物組成を求めた。粉末X線回折装置としては、Rigaku社製全自動多目的X線回折装置「SmartLab」、定量ソフトには、リガク社製の「SmartlabStudio II」を用いた。
【0061】
実験例1と同様に作製した各CO固定化材の炭酸化率を算出した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
[実験例4]
CO固定化材A100質量部に対して、表3に示す所定の割合となるように各種の助剤を添加して混合した以外は実験例1と同様にして、炭酸化を行い、炭酸化率を算出した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
[実験例5]
CO固定化材Aを使用し、恒温恒湿室内での炭酸化を20℃80%RHから、表5に示す条件に変更した以外は実験例1と同様にして、炭酸化を行い、炭酸化率を算出した。結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表1の結果より、本発明のCO固定化材は高い炭酸化率を得ることが分かる。
表2に結果より、Liの含有量が酸化物(LiO)換算で0.001~1.0質量%であるとき、高い炭酸化率が得られた。
表3の結果より、CaO/SiOモル比が1.0~2.3で良好な炭酸化率が得られた。
表4の結果より、二糖類を添加した場合に炭酸化の効果が大きかった。特にトレハロースを添加した場合に炭酸化の効果がより大きくなった。
表5の結果より、炭酸化を75℃以下及び/又は50%RH以上とすることで良好な炭酸化率が得られた。
【0068】
[実験例6]
CO固定化材E100質量部に対して、表6に示す所定の割合となるように各種の助剤を添加して混合した以外は実験例1と同様にして、炭酸化を行い、炭酸化率を算出した。結果を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表6の結果より、二糖類を添加した場合に炭酸化の効果が大きかった。特にトレハロースを添加した場合に炭酸化の効果がより大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のCO固定化材を温度75℃以下及び/または湿度50%RH以上で炭酸化することによって、COを固定化することができる。また、CO固定化材を炭酸化したCO固定化物は、土木・建築分野等で、例えばセメント添加材として使用することもでき、そのままモルタルやコンクリート用の骨材、路盤材、盛土材や埋め戻し材等の材料として有効に使用することができる。