(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】検知システムおよび検知方法
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20241010BHJP
G06F 3/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
G10H1/34
G06F3/02 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021178527
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2020554947の分割
【原出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-11-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-25
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520222597
【氏名又は名称】ソナス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジェームス ヘイスティングス
(72)【発明者】
【氏名】マコーリフ,ジョン マイケル
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】木方 庸輔
【審判官】高橋 宣博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4425511(US,A)
【文献】米国特許第4580478(US,A)
【文献】特開2004-87250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00 - 7/12
G06F 3/02 - 3/04895
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キーボードの複数のキーの位置および/または速度を検知する検知システムであって、
前記複数のキーに対応して設けられる複数のセンサーを備え、
前記複数のセンサーの各々は、
キーの移動部に搭載され、
コイルと、前記
コイルに接続された容量素子とを含む受動共振回路と、
前記
コイルに誘導結合され、基準位置に搭載される能動共振回路と、
前記能動共振回路と前記
コイルとの相互分離により前記能動共振回路における信号の変動を検出して前記キーの位置および/または速度を検出する検出器と
を有し、
隣接するキーのセンサー間の干渉が低減されるように、複数の能動共振回路のうち、少なくとも1つの能動共振回路の2つの一次コイルが、
相互に直列に接続され、かつ、逆向きの磁界を有するように構成されている、
検知システム。
【請求項2】
前記複数の受動共振回路のうち少なくとも1つの受動共振回路の2つの二次コイルは逆向きの磁界を有するように構成されている、
請求項
1に記載の検知システム。
【請求項3】
前記複数のセンサーが配列される方向の線に対して、隣接するキーの複数の能動共振回路が一方側と他方側とにオフセットされている、
請求項1
または請求項2に記載の検知システム。
【請求項4】
前記複数のキーのうち第1のキーの能動共振回路と、前記複数のキーのうち第2のキーの能動共振回路とが、前記複数のセンサーが配列される方向の線の両側に配置される、
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の検知システム。
【請求項5】
検知システムを用いて、キーボードの複数のキーの位置および/または速度を検知する検知方法であって、
前記検知システムは、前記複数のキーに対応して設けられる複数のセンサーを備え、
前記複数のセンサーの各々は、
キーの移動部に搭載され、
コイルと、前記
コイルに接続された容量素子とを含む受動共振回路と、
前記
コイルに誘導結合され、基準位置に搭載される能動共振回路と、
検出部と、
を備え、
前記検出部が、
前記能動共振回路と前記
コイルとの相互分離により前記能動共振回路における信号の変動を検出するステップと、
前記能動共振回路における前記信号の変動に基づいて、前記キーの位置および/または速度を検出するステップと、
を備え、
隣接するキーのセンサー間の干渉が低減されるように、複数の能動共振回路のうち、少なくとも1つの能動共振回路の2つの一次コイルが、
相互に直列に接続され、かつ、逆向きの磁界を有するように構成されている、
検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器キーボード等のキーボードのための検知システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は以前、英国特許出願公開第2494230号明細書において共振回路ベースのセンサーについて記載している。
【0003】
電子楽器向けの音楽用キーボードは概して、機械的スイッチまたは同様の接触デバイスを使って、打鍵位置を検知する。ここでは、スイッチの閉鎖はノートオン・イベントの検出に使われ、スイッチの開放はノートオフ・イベントの検出に使われる。より高性能なタイプの楽器には、こうしたスイッチが複数使われる場合がある。
【0004】
音楽用キーボードにおけるキーの位置の検知にスイッチ等の機械的センサーを使うことには数多くの欠点がある。ほとんどの音楽用キーボードは、通常21~88個の多数のキーを備えている。こうした多数のキーに対応するために、スイッチは一般に、多重化方法を使って時間インターリーブされる。この多重化方法がスイッチ・バウンスとしても知られるスイッチの接続ジッタと組み合わさると、スイッチの接続および切断ポイントの検出可能速度が制限される。また、スイッチの接続および切断を演奏者が知覚する場合があり、非常に望ましくない。また、信頼性の高いスイッチが使われない限り、機械的な摩耗によりスイッチの信頼性が低下する場合があるが、信頼性の高いスイッチは高価である。さらには、スイッチ間の機械的なバラツキにより、複数のキーにおける応答のバラツキは必ず発生する。キーを繰り返し作動すると個々のキーにおいても応答がばらつくので、こうしたバラツキをキャリブレーションによって取り除くことは非常に困難である。また、機械的な変更を伴わずに、キーの移動中におけるスイッチの接続点と切断点を変更することは不可能である。
【0005】
より高度な音楽用キーボードでは、ノートオン・イベントが発行された後にキーに圧力を印加することができ、これにより、楽音の各種制御が可能となる。この圧力は、例えば力センシング抵抗器といった単一の圧力センサー素子によって検出することが可能である。この構成において、キーボードのすべてのキーからの圧力が機械接続によって合成されて、圧力センサーに圧力が加わる。こうしたシステムは一般に、モノフォニック・アフタータッチと呼ばれる。より望ましいシステムでは、各個別のキーに印加される圧力を単独で検出することが可能であり、これは、圧力、またはポリフォニック・アフタータッチと呼ばれる。ポリフォニック・アフタータッチ・システムは、各個別のキーに対して別個の圧力センサーが使われるので、高価である。
【0006】
代替的な検出方法として、機械的スイッチおよび圧力センサーの制約の多くを克服する音楽用キーボード用検出方法が知られているが、いずれの方法も依然として望ましくない性質を有する。
【0007】
ピアノ鍵盤の光学的位置検知が、米国特許出願公開第2009/0282962号明細書に記載されている。しかし、こうしたシステムは、汚れによる性能劣化に弱く、最適な性能を保持するためには、清浄または再キャリブレーションを施す必要がある。その上、段階的透明度または反射率をもつシェードまたはフィルム等の繊細な光学要素を含む場合があるため衝撃および振動に対して敏感となり、長期的信頼性が衝撃および振動に応じて低下する。さらに、米国特許出願公開第2009/0282962号明細書では、キーごとに光学センサーおよびオペアンプを有するが、そのような実装は高価である。
【0008】
音楽用キーボードにおけるキーの位置を検出するための方法としては、他に、ホール・プローブに対して永久磁石を移動させるホール・プローブ等の磁気センサーがある。しかしながら、磁気センサーは、外部の磁界からの干渉と、近傍にある、鉄を含む金属の動きからの干渉と、温度の変化とに敏感であるし、位置検知の精度および再現性を制限するヒステリシスを起こす。さらに、永久磁石および磁気センサーが各キーに必要であるため、この解決策を利用してもほとんどの場合コストが過多となる。
【0009】
容量性位置センサーは、電磁干渉と、演奏者の手の位置と、温度とにあまりにも敏感であり、音楽用キーボードへの適用は非現実的である。
【0010】
米国特許第4,838,139号明細書は、誘導コイル・センサーをもつ音楽用キーボードについて記載している。この構成では、金属スポイラが各キーに収容されており、各キーは、対応するセンサー・インダクタンス・コイルに向かう方向または当該コイルから離れる方向に動く。しかし、このシステムは遅く、88鍵キーボード用としてはあまりにも遅く、金属の宝飾品、製品の外箱および支持構造によっても影響される。
【発明の概要】
【0011】
一態様では、キーボード、例えばピアノ型キーボード等の楽器キーボードのための検知システムが提供される。検知システムは、複数のキーセンサーを備えてもよい。各キーセンサーは、例えばキーの移動部に搭載するための受動共振回路、および例えば基準位置に搭載するために能動共振回路を備えてもよい。いくつかの実装では、受動共振回路は共振周波数を有し、能動共振回路は、共振周波数において受動共振回路を励起するように構成される。検知システムは、共振周波数のRF駆動信号を用いて能動共振回路を駆動するための少なくとも1つのセンサー・ドライバをさらに備えてもよい。当該センサー・ドライバは、複数のセンサー間で共有してもよい。いくつかの実装では、検知システムは、同時に駆動されたキーセンサーが少なくとも(k-1)個のキーによって(物理的に)分離されるように駆動信号を多重化する、1または複数のマルチプレクサおよび/またはデマルチプレクサ等の多重化システムをさらに備えてもよい。ここで(k-1)は、1以上の整数である。したがって、いくつかの実装では、あるキーは、隣のキーと同時には(または少なくともk個のキーだけ離れたキーと同時には)駆動されない。検知システムは、駆動されたキーセンサーからRF信号のレベルを検出するための、少なくとも1つの検出器、例えば読出し回路および/またはマイクロプロセッサをさらに備えてもよい。これは、キーセンサーに関連付けられたキーの位置および/または速度を検知するために使われてもよい。少なくとも1つの検出器は、能動共振回路および受動共振回路の相対的な位置から、能動共振回路における共振RF信号の変動を検出してもよく、RF信号のレベルをピーク検出してもよい。
【0012】
少なくとも能動共振回路は、および、任意に選択した場合には受動共振回路も、特に逆向きの巻線を有する1または2以上のコイルを備えてもよい。したがって、例えば、巻線は、特にセンサーからの長い距離において、特に互いを打ち消すように平衡または相互に一致する逆向きの複数の磁界を生成してもよい。
【0013】
いくつかの実装では、逆向きの巻線(および、つまりは逆向きの電流/磁界)を有するコイルと、多重化センサーによるアドレッシングとを組み合わせることにより、極めて近接した位置で複数のセンサーを容易に使用可能となる。したがって、いくつかの実装では、逆向きの巻線は、逆向きの平衡した複数の磁界を生成するように構成される。これにより、センサーから距離が離れた箇所において、例えば、最大のコイル寸法の少なくとも10倍の距離において、磁界をほぼ完全に相殺し得る(センサーからのRF場が、そのような離れた距離において検出不能であるというわけではない)。
【0014】
いくつかの実装では、能動共振回路は、一対または3以上の横方向に隣接するパンケーキ・コイルを備える。(本明細書において、2以上のコイルとの記載は、例えば巻線が逆向きである、2以上の巻線をもつ1つのコイルを含むと解釈され得る)。コイルは、1つのキーにより画定される長手方向に沿って、当該長手方向において相互に隣り合うように配置されてもよい。製造を容易にする目的で、パンケーキ・コイルをプリント回路基板(PCB)上に形成してもよく、PCBはフレキシブルPCBであってもよい。コイルは、必ずしも逆向きの巻線を有する必要はないが、このコイル構成を採用するだけで、相互干渉がある程度低減され得る。
【0015】
いくつかの実装では、システム、特に多重化システムは、非駆動キーセンサーの能動共振回路の動きを抑制するように構成される。例えば、コイル/センサーを短絡、および/または共振外信号(例えば低周波数またはDC信号)で駆動することによって非駆動キーセンサーの能動共振回路の動きは抑制される。この構成によれば、センサー間の干渉を低減することによって、共振回路ベースのセンサーの使用が容易になる。
【0016】
上述した技術のうち1または複数を、近接するセンサー間の干渉を制限するために採用してもよい。どの技術を、および、いくつの技術を採用するかは、キーが上に位置するときの能動共振回路と受動共振回路との間の距離、および/またはキーアップ位置とキーダウン位置との間の移動距離に部分的に依存し得る。例えば、ピアノ型キーボードでは、設計次第で5mm~15mmの近似範囲内での移動があり得る。距離が大きいほど、あるキーを押圧すると他の近接するキーが動いてしまう可能性がある。したがって、上記技術の1または複数を有益に採用することで、かかる結果を改善し得る。このように、概して、本検知システムのいくつかの実装では、近接するセンサー間の干渉を低減するために、本明細書に記載する多重化の構成およびいくつかの追加手段を利用することができる。
【0017】
検知システムは、RF信号の検出されたレベルを温度補償するための温度補償システムをさらに備えてもよい。温度補償システムは、複数の能動共振回路のうちの少なくとも1つに非共振駆動信号を印加するように構成されてもよい。温度補償システムは次に、少なくとも1つの検出器からの非共振駆動信号のレベルを測定し、次に、非共振駆動信号のレベルに応じてRF信号の検出されたレベルを補償(例えばオフセット)してもよい。いくつかの実装では、多重化システムは、複数のキーセンサーのうちの1つが、一組のタイム・スロットの各々において駆動されるように、駆動信号を多重化するように構成される。そして、温度補償システムは、追加のタイム・スロット、特に、キー検査に用いないタイム・スロットにおいて非共振駆動信号を印加するように構成されてもよい。
【0018】
いくつかの実装では、各キーセンサーは、弾性変形可能な要素を備えてもよい。弾性変形可能な要素は、例えば共振回路のうちの1の共振回路の下に、例えば変形可能エンドストップとして設けられるか、または複数の共振回路の間に設けられてもよく、特に弾性変形可能な要素に対する動きを検出することにより、特に圧力検知のために受動共振回路および能動共振回路の一方または両方の動きを制限する。
【0019】
関連する態様では、キーボードの応答を定期的に補償する方法が提供される。キーボードの各キーは、能動共振回路、受動同調共振回路および検出器を備えるセンサーを備えてもよい。当該方法は、第1の時刻t0に検出された、センサーからの初期出力信号Ot0を記憶部から読み出してもよい。t0において、能動共振回路は、能動共振回路の共振周波数を下回る周波数で駆動される。当該方法は、さらに、複数のセンサーの少なくとも1について、t0よりも後の時刻に、センサーの後期出力信号Ot1を定期的に検出してもよい。当該方法は次に、調整値として、例えば、センサーの初期出力信号とセンサーの後期出力信号との差を算出してもよい。当該方法は次に、さらに、調整値を使ってセンサーの動作出力を調整することによって、キーボードの応答を補償してもよい。動作出力は、能動共振回路の共振周波数で能動共振回路が駆動されているときのセンサーからの出力であってよい。当該方法は、さらに、時分割多重化アドレス方式に従ってセンサーを作動してもよい。そして当該方法は、時分割多重化アドレス方式において、センサーが非作動中である「予備」タイム・スロットを検出に使ってもよい。
【0020】
別の態様では、キーボード、特に鍵盤楽器のキーボード、特にピアノ型キーボード用の複数のセンサーのセットが提供される。キーボードは複数のキーを有する。複数のセンサーのセットは、検知システムの一部であってもよい。各センサーは、キーの移動部に搭載するための受動共振回路と、例えばキーボードまたは楽器の一部における固定の基準位置に搭載するための能動共振回路とを備えてもよい。いくつかの実装では、受動共振回路は共振周波数を有し、能動共振回路は、共振周波数において受動共振回路を励起する。各センサーは検出器をさらに備えてもよく、能動共振回路と受動共振回路との相対的位置により能動共振回路における共振信号の変動を検出することで、キーの位置および/または速度を検出するように、検出器を複数のセンサー間で共有してもよい。変動は、いくつかの実装では、共振信号における信号の振幅の変動であってよい。複数のセンサーのセットは、キーボードの複数のキーを検知するために搭載される場合、同じ共振周波数を有するセンサーが非隣接となるように配置された、2以上の異なる共振周波数を有するセンサーを備えてもよい。
【0021】
このアプローチの各実施形態は、構築するのが比較的安価であり得るが、信頼性が高く、機械的スイッチのキー・バウンスも受けにくい。よって、キーの動きに非常に素早く、確実に応答することが可能になる。例えば理想的には、各キーは、少なくとも毎秒250回のレートで測定される。88鍵キーボードでは、これは22,000キー/秒に相当する。上述のシステムのいくつかの実装は、この速さを優に10倍超えて動作し得る。本システムの各実施形態は、優れた温度安定性も提供することができ、非接触であるので、堅牢であり、実質的に汚れの影響を受けない。上記センサーのいくつかの実装においては、さらに、キーがキー押圧位置およびキー解放位置との間で動くときのキー位置を特定することができ、実質的に連続したキー位置の特定が可能である。基準位置は、例えばキーボード・ベースもしくは台の上の、キーの下における固定位置であってもよく、またはキーボード用の複数のセンサーのセットを収容するプリント回路基板(PCB)上の位置であってもよい。ただし、代替的には、いくつかの実装においては、能動共振回路は、キーの上に、またはキーと関連付けて搭載されてもよく、共振回路は、ベースやPCB等の上に搭載されてもよい。
【0022】
上記センサーのいくつかの実装においては、センサーは、キー押圧位置を越えてキーが動いた時点を検出することもでき、したがって、ポリフォニック・アフタータッチを実装する際に有用である。アフタータッチでは、演奏者は、ある音に表現を付加するために、押下の後でキーに力を印加することができる。例えば音量やビブラート等を制御するように音を修正することによって音に表現が付加される。いくつかの実装では、ポリフォニック・アフタータッチにより、演奏者は、この表現をキーごとに個別に制御することができる。
【0023】
センサーは、さらに、キー速度を検知することができ、かつ/または、検知されたキー速度は、キー位置の判定に利用されてよい。キー速度を検知することにより、さらなる表現の付加が可能になり得る。
【0024】
いくつかの実装では、第1の共振周波数を有するセンサーが、例えば交互に並ぶキーに対して交互に周波数を使って、第2の異なる共振周波数を有するセンサーでインターリーブされる。これにより、センサー間干渉がより低減される。
【0025】
複数のセンサーのセットは、異なる時点において隣接するキーボード・センサーが選択されるように、センサーの選択または走査を制御するコントローラを含んでもよい。やはりセンサー間干渉を低減する目的である。いくつかの実装では、コントローラは、例えば、能動共振回路の一部を、例えば抵抗器を介して接地することにより、複数の非選択センサーの能動共振回路の応答を減衰させてもよい。コントローラは、多重化システムおよび/またはマイクロプロセッサで構成され得る。
【0026】
いくつかの実装では、コントローラ/多重化システムは、複数のセンサーの動作を時分割多重するように構成されてもよい。そのようなアプローチでは、各共振周波数によりセンサー群を画定し、時分割多重により複数のn個のタイム・スロットを画定してもよい。例えば各群の連続するキーボード・センサーには、連続するタイム・スロットが割り当てられる。例えば各群の連続するセンサーは、センサー群の複数のセンサーがインターリーブされている場合、キーボード上で非隣接であってもよい。N個の共振周波数、および、よってN個のセンサー群が存在してもよく、いくつかの実装では、N=1である。いくつかの実装では、現在のタイム・スロットにおいて現在のセンサー群の1つのセンサーをアクティブ化した後、コントローラは、次のタイム・スロットにおいて、同じセンサー群にある、キーボードに沿った次のセンサーをアクティブ化してもよい。
【0027】
好ましくは、コントローラ/多重化システムは、隣接センサーが同時にアクティブな状態とならないように構成されるが、隣のセンサーのさらに隣のセンサーは同時にアクティブ状態にあってもよい。同時にアクティブな複数のセンサー間の間隔は、(m×N)+1であってもよい。ここで、mは1~n/2の範囲内であるが、より離れた構成が好ましい(間隔1は隣接センサーを指す)。
【0028】
同じ群において同時にアクティブな複数のセンサー間の物理的間隔としては、最も近い間隔でn×N個のセンサー間隔であってもよい。このn×N個のセンサーは、後段でセンサーのサブセットと呼ばれる。これは通常、キーボードは複数のそのようなサブセットを有するからである。このように、コントローラ/多重化システムは、同じセンサー群内で同じタイム・スロットにおいてアクティブ化される複数のキーボード・センサー間に(n×N)-1個のセンサーが存在するように構成されてもよい。いくつかの実装では、nは8であってよく、Nは2であってよい。
【0029】
コントローラは、センサーをアドレッシングするためのデジタル・デマルチプレクサ等のアドレッシング・デバイスに接続されたプロセッサを用いて実現し、アナログ・マルチプレクサを介してセンサー能動共振器を読出し回路に選択的に接続することによって、アドレッシングされたセンサーから信号を読み出してもよい。検出器、すなわち、読出し回路は、包絡線検出機能を実行してもよい。いくつかの実装では、能動共振器に対する駆動信号から、調整可能な位相シフトを介して得られるイネーブル信号によって読出し回路および/またはアナログ・マルチプレクサをイネーブルにしてもよい。デマルチプレクサ-マルチプレクサ配置のコンテキストにおいてまたはそれとは別個に調整可能な位相シフトを用いて能動共振回路からの信号の同期検出を実現してもよい。
【0030】
コントローラまたは別のプロセッサは、各センサーの能動共振回路における共振信号の変動を処理して、キーが押下および/または解放されたとき、押下されたキーが解放位置と押下位置との間を動くときの一連の時間間隔にわたりキーボードの各キーの動きを判定するように構成され得る。各キーの動きは、キーが解放位置と押下位置との間を動くときのキーの位置および/または近似速度を含んでもよい。
【0031】
いくつかのアプローチでは、キーの位置は、直接的にではなく、例えば積分によって、キーの速度から判定され得る。プロセッサは、各キーについてまたは移動中の各キーについて、時間の経過に伴う近似位置および/または速度のプロファイルを画定するデータを出力し得る。
【0032】
いくつかの実装では、プロセッサは、各センサーの能動共振回路における共振信号の変動を処理して、連続する時間間隔で特定されたキーの位置の変化からキーの近似速度を特定するように構成される。このようにして特定された速度は、キー速度に依存してフィルタリングされてよい。例えば、キーが低速で動いているときは、より大きなフィルタリング/平滑化を適用する。これにより、高速で動くキーの応答時間を大幅に損なうことなく、キーが低速で動いているときに正確なデータを提供することが可能となる。
【0033】
より一般的には、プロセッサは、共振信号の振幅および/または他の変動を処理して、例えばキー位置および/または速度の判定結果から、各キーについてのキー押圧イベントおよびキー解放イベントを判定してもよい。プロセッサはこのように、各キー/各アクティブなキーについての音信号を出力することができる。
【0034】
いくつかのアプローチでは、一連のキー位置またはキーの動きプロファイルを用いて、例えばキー位置の軌道を外挿することによって、押圧された(または解放された)キーがキー押圧/ノートオン(またはキー解放/ノートオフ)位置に達した時点を予測してもよい。予測位置は、後段でKと呼ばれる位置でもよい。そしてプロセッサは、実際のキー押圧/ノートオン(またはキー解放/ノートオフ)位置に達するより前に、キー押圧/ノートオン(またはキー解放/ノートオフ)信号を発行すればよい。これは、楽器における処理遅延、例えば音生成エンジンにおけるレイテンシーを補償するために有利であり得る。
【0035】
いくつかの実装では、一連のキー位置またはキーの動きプロファイルを用いて、楽器を制御するための、例えば、ノートオン・イベントが発行される前および/または後に音に表現を加えるように音生成エンジンを制御するための信号を提供してもよい。
【0036】
いくつかの実装では、プロセッサは、さらに、少なくとも3つの異なるキー位置、すなわち、第1のノートオフ位置と、第2のノートオン位置と、第3のアフタータッチ位置とを相互に区別するように構成してもよい。アフタータッチ位置は、例えば、ノートオン位置を超えた位置であり、押下の後にキーに印加される追加圧力に対応する。プロセッサは、キーがアフタータッチ位置へ/またはアフタータッチ位置から動くときのキーの位置および/または速度を判定して、例えば可変圧力センサーとして作用してもよい。あるいはプロセッサは、アフタータッチ位置に達した時点を特定してもよい。アフタータッチ位置は、例えば、キーへの追加圧力の印加の結果として、通常の押下位置を越えたキーの動きに対応する。各キーには、圧縮/引張ばねまたは圧縮可能な素子/ブロック等の弾性付勢体または変形可能なエンドストップ・デバイスが設けられてよい。この構成により、キーの押し下げ部分が、デバイスと相互作用し、キーに対して追加の圧力が印加されない限り、デバイスによってさらなる動きが抑制され、追加圧力が印加されると、キーはそのアフタータッチ位置に向かって動く。アフタータッチ位置を各キーについて検出可能とし、ポリフォニック・アフタータッチ機能を提供してもよい。
【0037】
上述したシステムのいくつかの実装では、ノートオフが検出される前に新たなノートオン信号が発行されるようにしてもよい。これによりリトリガーが容易となり、ピアノ・キーボードにとって有用である。例えば、最大キー押圧位置とアフタータッチ検出開始との間に圧調節キー移動距離(デッドゾーン)を設け、アフタータッチの開始前に必要な圧力量を設定可能としてもよい。
【0038】
複数のセンサーのセットは、プリント回路基板等の基板上に設けられてよい。これらのセンサーは、特に、キーボードのキー位置に対応する位置に、基板に沿って線状に配置される。より具体的には、受動共振回路がキーに位置する場合には、センサーは隣接して配設されてよい。能動共振回路用のコイルは基板上にトラック状に形成されてもよく、例えばパンケーキ・コイルを構成する。ピアノ・キーボードは黒鍵および白鍵を有するが、受動共振回路が適切に配置された場合には、これら複数のセンサーが1本の線上に配置されてもよい。ただし、いくつかの実装では、能動共振回路および受動共振回路は、2つの位置間で交互に配置され、複数のセンサーの全体配置を画定する長手方向の線のいずれかの側に交互にずらして配置される。複数のセンサーのセットは、キーボード全体用の複数のセンサーで構成されてもよいし、またはキーボードの長さの一部、例えば1または2以上のオクターブ分の複数のセンサーで構成されてもよい。前述したように、上述したセンサーを1または複数組備えた鍵盤楽器用のキーボードも提供される。
【0039】
概して、複数のセンサーのセットのプロセッサ/コントローラは、いかなる種類の処理デバイス/回路であってもよい。例えば、プログラム・コードで制御されるマイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはFPGA(フィールド・プログラム可能ゲート・アレイ)もしくはASIC(特定用途向け集積回路)等のハードウェアのうちの1または複数を備えた処理デバイス/回路であってもよい。いくつかの実装では、複数のセンサーのセット向けの制御/処理機能は、単一の集積回路内に提供されてもよい。
【0040】
プログラム可能デバイスが利用される場合、プロセッサは、関連付けられた作業メモリと、上述した機能の一部または全部を実装するようにプロセッサを制御するためのプロセッサ制御コードを記憶する不揮発性プログラム・メモリとを有してもよい。したがって、上述した機能を実装するためのコードおよび/またはデータを伝送する、不揮発性メモリ等の非一過性のデータ・キャリアも設けられる。コード/データは、翻訳もしくはコンパイルされた従来のプログラミング言語でのソース、オブジェクトもしくは実行可能コードで構成され得る。またはVerilog(商標)等のハードウェア記述言語用のコード等、ASICもしくはFPGAをセットアップもしくは制御するためのアセンブリ・コード、コード/データで構成され得る。当業者に理解されるように、そのようなコードおよび/またはデータは、互いに通信する複数の接続された構成要素の間で配信されてよい。
【0041】
例えば鍵盤楽器の複数のキーの位置を検知する方法も提供される。この方法は、例えば、キーの移動部に搭載するための受動共振回路と、例えば、固定の基準位置、例えばキーボードまたは楽器の一部に搭載するための能動共振回路とを備えるセンサーを各キーに設けてもよい。いくつかの実装では、受動共振回路は共振周波数を有し、能動共振回路は、共振周波数において受動共振回路を励起する。各センサーはさらに検出器を備えてもよく、検出器は、能動共振回路および受動共振回路の相対的位置により、能動共振回路における共振信号の変動を検出し、キーの位置および/または速度を検出する。検出器は共有されてもよい。当該方法は、さらに、同一の共振周波数を有するキーボード・センサーが非隣接となるように配置された2以上の異なる共振周波数で動作するように、センサーを配置してもよい。追加的にまたは代替的に、当該方法は、さらに、少なくとも能動共振回路の1または複数のコイルを、また、任意に選択した場合には受動共振回路についての1または複数のコイルも、逆向きの巻線を有するように構成することによって、センサー間の干渉を低減してもよい。
【0042】
当該方法は、さらに、少なくとも3つの相異なるキー位置、すなわち第1にノートオフ位置、第2にノートオン位置、および第3にアフタータッチ位置を区別することによって、ポリフォニック・アフタータッチを提供してもよい。この場合、アフタータッチ位置は、ノートオン位置を越えた位置であり、エンドストップ位置を越えたキーの押下および移動の後にキーに印加される追加の圧力に対応する。
【0043】
キーボード、特に、音楽用キーボードがさらに提供される。音楽用キーボードは、位置、速度、および、キーボード上の複数の可動キーに印加される圧力の測定値から導出された出力信号を提供する。測定値は、可動キー上の位置センサーから導出され得る。各位置センサーは、能動同調共振回路と、共振周波数で当該能動同調共振回路を駆動するための、能動同調共振回路に接続された駆動電子回路と、可動キーに関連付けられた電気的リアクティブ素子とを備え得る。駆動電子回路はセンサー間で任意に共有される。電気的リアクティブ素子は、能動同調共振回路に対する電気的リアクティブ素子の相対的な位置に応じて、能動同調共振回路の応答を可変に修正してもよい。キーボードは、能動同調共振回路に対する電気的リアクティブ素子の相対的な位置に応じて可変の出力信号を与えるための、能動同調共振回路に接続された読出し電子回路をさらに備えてもよい。読出し電子回路の可変出力信号は、位置センサー出力を提供してもよい。
【0044】
好ましくは、ただし必須ではなく、電気的リアクティブ素子は、能動同調共振回路が駆動される周波数に調整された受動同調共振回路を備える。したがって、位置センサーは単一の共振周波数で作動される。このアプローチの利点には、次のようなものがある。第1に、あるサイズの位置センサーに対して、より大きな有効検知距離が達成され得る。第2に、位置センサーの出力信号では、検知された位置の変動に対してより大きな変動が取得可能である。よって、位置センサー用の出力増幅器が不要となる場合が多く、複雑さおよびコストを削減することができる。第3に、近接配置された複数の位置センサーの動作が容易となる。なぜならば、第2の位置センサーが第1の位置センサーの共振周波数とは大幅に異なる共振周波数に同調されている場合、第1の位置センサーの共振周波数に同調した当該第1の位置センサーの受動同調共振回路は、第2の位置センサーの出力に実質的に影響しないことを本件発明者は見出したからである。
【0045】
広義には、共振周波数の例示的範囲は、寄生容量の有害な影響に対して速さを平衡させる1~10MHzである。例えば、第1の共振周波数は3~4MHzの範囲内であってよく、第2の共振周波数は4~5MHzの範囲内であってよい。
【0046】
能動同調共振回路および受動同調共振回路によって使われるコイルは、プリント回路基板上のトラックによって画定される平らなまたは平面コイルで形成するのが特に有利であることがわかっている。これにより、明確に定義された再現性の高い形状が実現され、他の電気的に能動的な構成要素をプリント回路基板上で近接して配置することが容易になる。
【0047】
位置センサーから放射される電磁放出を最小限にし、かつ、前記位置センサーの電磁干渉信号に対する感受性を最小限にするために、能動同調共振回路のコイルは、電気的に接続された複数の「より小さな」一次コイルから形成されてもよい。ここで、前記一次小コイルの巻線方向は、前記一次小コイルから放射される遠方電磁界の合計が実質的にゼロとなるように選択される。この場合、受動同調共振回路によって使われるインダクタンス・コイルは、前記一次小コイルのサブセットのみに誘導結合されるか、または複数の電気的に接続された二次小コイルで構成されてもよい。この場合、前記二次小コイルの巻方向および巻数は、前記位置センサーの出力信号の変動を最大限にするように選択されてもよい。
【0048】
上述したシステムおよび方法は、キーボードとの使用に特に有利であるが、それらの適用はキーボードに限定されない。
【0049】
本発明のこれらおよび他の態様について、添付の図面を参照して、ここでさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】システムの実装例に使用される能動同調共振回路を示す図である。
【
図2】システムの実装例に使用される受動同調共振回路を示す図である。
【
図3A】システムの実装例に使用される能動同調共振回路向けのプリント回路設計の一例を拡大して示す図である。
【
図3B】システムの実装例に使用される受動同調共振回路向けのプリント回路設計の一例を拡大して示す図である。
【
図4】システムの実装例を使ってキーの位置が判定される音楽用キーボードのキーの断面図である。
【
図5】システムの実装例によって使用可能な同期復調器を備える単純読出し電子回路の一例を示す図である。
【
図6】システムの実装例にかかる、隣接する同調共振回路間の干渉を最小限にするために配置された、一連の能動同調共振回路および対応する一連の受動同調共振回路の相対的な配置を示す図である。
【
図7】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおける複数のキーの位置を判定するために複数の能動同調共振回路の多重化に使われる時分割多重化回路のタイミング図である。
【
図8】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおける複数のキーの位置を判定するように、複数の能動同調共振回路を多重化するのに使われる好ましい実施形態の時分割多重化回路図である。
【
図9】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおけるキーの変位とセンサー出力との関係を示す図である。
【
図10】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおけるキー押下時の測定位置および測定速度の例を示す図である。
【
図11】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおけるキーの検出位置キャリブレーションに使われるキャリブレーション手順の一例を示す図である。
【
図12】システムの実装例にかかる音楽用キーボードにおけるキーのノートオン・イベント、ノートオフ・イベント、表現イベント、および圧力イベントの検出に使われるアルゴリズムの一例を示す図である。
【
図13】システムの実装例にかかる、逆向きの巻線を有するコイルを備えたセンサー共振回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
好ましい実施形態は、複数の可動キーをもつ音楽用キーボードである。
図4の各可動キーは、ピボット・ポイント17を中心に回転し、ばね16または他の機械的連結機構により移動が抑制される可動上部部材15と、固定底部部材14と、前記上部部材の移動を制限する変形可能エンドストップ18と、位置センサーとを備える。位置センサーは、電気的リアクティブ素子11(以下ターゲットと呼ばれる)に誘導結合された能動同調共振回路10と、前記能動同調共振回路に接続される駆動電子回路と前記能動同調共振回路に接続される読出し電子回路とを備える。位置センサーは、前記能動同調共振回路と前記ターゲットとの相互分離の変化に応じて変動する信号を出力する。
【0052】
図1の能動同調共振回路は、入力抵抗素子4と、コイル1と、2つの容量素子2および3と、出力抵抗素子5と、駆動電子回路を前記入力抵抗素子に接続する手段6と、読出し電子回路を前記出力抵抗素子に接続する手段7とを備える。前記入力抵抗素子は省略されてもよい。しかし、入力抵抗素子は好ましい。なぜなら、入力抵抗素子は前記駆動電子回路から前記能動同調共振回路に供給される電流を制限する結果、動作電流を削減するし、このため電力消費と前記能動同調共振回路からの電磁放出の両方を削減する。また、入力抵抗素子は、前記読出し電子回路が前記能動同調共振回路に接続されたときの近接検出の感度を増大する。前記出力抵抗素子は省略されてもよい。しかし、出力抵抗素子もやはり好ましい。なぜなら、前記入力および出力抵抗素子は、前記能動同調共振回路のインピーダンスに対する接続配線の影響を低減し、その結果、すべての位置センサーを、駆動電子回路および読出し電子回路までの接続長にかかわらず本質的に同一にすることができるからである。
【0053】
図2を参照すると、リアクティブ素子は、好ましくは、コイル8および容量素子9を備える受動同調共振回路である。ここで、前記コイルおよび前記容量素子は、閉共振LC回路を形成するように接続される。コイル1および8のサイズも、それらのインダクタンスの値も、実質的に同様である必要はない。前記容量素子9の静電容量の値としては、好ましくは、前記受動同調共振回路の共振周波数が
図1の能動同調共振回路の共振周波数と一致するように受動同調共振回路の共振周波数が調整される値が選択される。前記受動回路と能動回路とがこのように調整されると、複数の位置センサーを作動させることが可能である。近接して位置する前記位置センサーは実質的に異なる共振周波数に調整され、これにより、前記近接して位置する位置センサー間の相互作用を最小限にする。さらに、前記受動回路および能動回路がこのように同調すると、
図1の7における信号振幅は、前記受動回路と能動回路との間の距離が減少するほど低下する。というのは、より多くのエネルギーが、前記受動同調共振回路に結合されて前記受動同調共振回路によって放散されるからである。前記信号振幅のこうした変動は好ましい。なぜなら、信号振幅の変動を測定する方が、前記能動同調共振回路が前記リアクティブ素子に近接することにより離調されてしまった場合の共振周波数の変動の測定よりも速いからである。
【0054】
キーの可動上部部材15が、電気伝導性物質である場合には、空隙、または非導電性物質からなるスペーサ13が、前記電気的リアクティブ素子11と前記上部部材との間に挿入される。同様に、固定底部部材14が電気伝導性物質である場合、空隙、または非導電性物質からなるスペーサ12が、能動同調共振回路10と前記固定底部部材との間に挿入される。
【0055】
駆動電子回路は、能動同調共振回路の共振周波数に等しいまたは近い周波数の振動電圧駆動波形を生成する手段を備える。典型的には、ただし非限定的例として、この波形はマイクロコントローラ・タイマーまたはデジタルもしくはアナログのタイミング回路の出力によって生成される方形波形である。
【0056】
読出し電子回路は、読出しポイント7における信号の振幅に比例する電圧を生成する手段を備える。典型的には、ただし非限定的例として、電圧生成手段は、
図5の同期復調器回路である。同回路において、前記読出しポイントからの信号は20に接続され、アナログ・スイッチ22によって復調される。アナログ・スイッチ22は、位相シフト素子21によってその位相が任意に調整される19に接続される振動電圧駆動波形によって制御される。25では、抵抗素子23および容量素子24を備えたローパスフィルタによって低周波数(またはdc)電圧となる。代替の読出し電子回路は、当業者によって理解されるように、位相感応整流器、位相非感応整流器、非同期復調器およびピーク検出器であってもよい。
【0057】
能動同調共振回路および受動同調共振回路中でそれぞれ用いられるコイル1および8は、どのタイプであってもよい。ただし、プリント回路基板上にトラック状に形成された平面らせんコイルを使用した場合には主な利点が3点ある。コイルは安価であり、高度に再現可能なインダクタンス値で作ることが可能である。また、プリント回路基板は、容量素子2、3、9、および抵抗素子4および5といった他の構成要素を搭載するために使うこともできる。したがって、インダクタンス値がほぼ一致した複数のコイルを設計することが可能である。
【0058】
図3Aを参照すると、典型的な能動同調共振回路は、単一の導電性レイヤまたは複数の導電性レイヤを備えるプリント回路基板上に形成されてもよい。プリント回路基板上では、コイル1は、連続するらせん状トラックから成り、前記トラックの電気的の連続性は、接続配線、別の導電レイヤ上の別のらせん状トラック、または前記プリント回路基板の複数の導電レイヤ上の複数のらせん状トラックに対する、接続ビア53を介した電気的接続によって維持される。また、プリント回路基板には、容量素子2および3、ならびに抵抗素子4および5が近接して配置され、接続ポイント6および7が駆動電子回路および読出し電子回路用に対してそれぞれ設けられる。
【0059】
同様に、
図3Bを参照すると、典型的な受動同調共振回路は単一の導電性レイヤまたは複数の導電性レイヤを備えるプリント回路基板上に形成されてもよい。プリント回路基板上には、コイル8は、連続するらせん状トラックから成り、前記トラックの電気的な連続性は、接続配線、別の導電レイヤ上の別のらせん状トラック、または前記プリント回路基板の複数の導電レイヤ上の複数のらせん状トラックに対する、接続ビア54を介した電気的接続によって維持される。また、容量素子9が近接して位置する。
【0060】
本件発明者は、能動同調共振回路からの電磁放出、および前記能動同調共振回路の電磁干渉信号に対する感受性は、電気的に接続された複数の一次小コイルから前記能動同調共振回路の誘導コイルが形成されるときに実質的に低減され得ることを見出した。ここで、前記一次小コイルの巻方向は、前記複数の一次小コイルから放射される遠方電磁界の合計が実質的にゼロとなるように選択される。前記誘導コイル1の好適な例が、ただし非限定的な例として、
図13Aに示される。ここでは、2つの一次小コイルが8の字コイルを形成するように、逆巻方向58で直列に配線接続される。このような配置では、前記8の字コイルの第1の半分56から放射される遠方電磁界と前記8の字コイルの第2の半分57から放射される遠方電磁界とは大きさが等しいが、反極性を有する。したがって、前記8の字コイルから放射される前記遠方電磁界は実質的にゼロである。
【0061】
このような配置では、
図3Bに示す受動同調共振回路は、前記受動同調共振回路の誘導コイルが能動同調共振回路の8の字コイルの半分56または57の1つのみに主として誘導結合されない限り、非効率的となる可能性がある。位置センサーの出力信号を最大限にするために、前記受動同調共振回路の前記誘導コイルは、
図13Bに示すように、同様に、8の字誘導コイルで形成されることが好ましい。8の字誘導コイルは、逆巻方向58で直列に配線接続された2つの二次小コイルを備える。前記の各二次小コイルは、前記能動同調共振回路の前記8の字コイルの、異なる一次小コイルに主として誘導結合される。
【0062】
本件発明者は、第1の能動同調共振回路の第1の共振周波数に調整された第1の受動同調共振回路は、実質的に異なる第2の共振周波数に同調した隣接する第2の能動同調共振回路の出力に実質的に影響しないが、前記第2の共振周波数に同調した対応する第2の受動同調共振回路が近接して位置するとき、前記第1の受動同調共振回路が動くと、前記第1の受動同調共振回路と第2の受動同調共振回路とが相互に結合することにより、前記第2の能動同調共振回路の出力に影響し得ることを見出した。このような望ましくない相互作用は、
図6に示すように、物理的に隣接する受動同調共振回路の位置をオフセットすることによって最小限にすることができる。この場合において、能動同調共振回路26および受動同調共振回路28は第1の共振周波数に同調され、能動同調共振回路27および受動同調共振回路29は第2の共振周波数に同調される。
【0063】
さらに好ましい実施形態では、音楽用キーボードの可動キー上の位置センサーは時分割多重化方式によって制御される。これにより、位置センサーのサブセットをどの時点でもイネーブルすることが可能である。このスキームは、16個以上等の多数のキーをもつ典型的な音楽用キーボードに対して、コスト、複雑さ、電力消費および電磁放出を削減するという利点を有する。
【0064】
第1の共振周波数で動作する第1の位置センサーおよび実質的に異なる第2の共振周波数で動作する第2の位置センサーが近接して位置する場合、前記第1の共振周波数と前記第2の共振周波数との周波数差に等しい変動周波数で変動する干渉成分を前記第1の位置センサーの出力および前記第2の位置センサーの出力が含むように、前記位置センサーは相互作用し得る。再構成ローパスフィルタのカットオフ周波数が前記周波数差よりも実質的に低いとき、前記位置センサーの出力を同期復調することにより、前記干渉成分は実質的に取り除かれる。ただし、前記ローパスフィルタの時間応答は前記位置センサーの応答の速さを制限し得るため望ましくない。したがって、この干渉を最小限にするための機構が望まれる。物理的に隣接するセンサーが同時に駆動されない時分割多重化方式を使うことにより、この問題が回避される。
【0065】
実際には、良好な性能を確保するために同期復調は必要ないことがわかっている。
【0066】
図7を参照すると、かかる機構の説明例が、位置センサーのサブセットについてのタイミング図として示されている。ここでは、第1の共振周波数F1で動作する複数の位置センサー30は、第2の共振周波数F2で動作する複数の位置センサー31に隣接する。各タイム・スロットにおいて、第1の共振周波数で動作する位置センサーが1つのみイネーブルにされ、第2の共振周波数で動作する位置センサーが1つのみイネーブルされる。さらに、物理的に隣接する位置センサーは、決して同時にはイネーブルにされることはなく、これにより、前記干渉成分が最小限となる。位置センサーの複数の前記サブセットは、同時に作動され得る。
【0067】
広義には、
図7の多重化において、黒いシェーディングで示されるキーおよび白いシェーディングで示されるキーは各々、キーのグループを形成する。あるキーグループの複数のセンサーは、別のキーグループの複数のセンサーとは異なる共振周波数を有し得る。例えば、黒いキーのグループがある場合、8個のタイム・スロットがあり、8つおきのキーが同時にアクティブ化される(駆動される)。このアプローチは、k個のタイム・スロットに適応されてよく、k個おきのキーを同時に駆動する(すなわち、同時に駆動されるキーは、間にk-1個の非アクティブキーを有する)ことが、当業者には理解されよう。同時にアクティブなグループのキー、例えば黒いキーおよび白いキーは、可能な限り(物理的に)分離されてもよい。
【0068】
システムのいくつかの実装では、異なる共振周波数をもつ異なるキーグループを採用しない。代わりに、すべてのセンサーが実質的に同じ共振周波数を有し得る。このようなアプローチの使用は、
図13を参照して後で記載されるコイル設計により容易となる。したがって、k個のタイム・スロットがあってもよく、k個おきのキーが同時にアクティブになって(駆動されて)もよい。すなわち、同時に駆動されるキーは、それらの間にk-1個の非アクティブキーを有していてもよい。
【0069】
図8に、単一の共振周波数で動作する位置センサーのサブセットのための時分割多重化方式の一例を示す。
図8のシステムでは、プロセッサ35は、前記位置センサーの能動同調共振回路の共振周波数と周波数が一致する駆動波形36を生成する。前記プロセッサは、どの位置センサーをイネーブルすべきかを選択するセレクタ信号37を生成する。前記位置センサーの出力7はアナログ・マルチプレクサ34に結合される。前記アナログ・マルチプレクサの出力は、容量素子24と前記アナログ・マルチプレクサ内の抵抗素子とを備えるローパスフィルタを介して、前記プロセッサ内のアナログデジタル・コンバータに結合される。前記プロセッサからの出力55は、前記位置センサーの位置および速度に関する情報の送信に用いられる。前記位置センサーの出力を前記アナログデジタル・コンバータに結合する際に前記アナログ・マルチプレクサを採用することのさらなる利点として、前記アナログ・マルチプレクサが、同期復調に使われるアナログ・スイッチ22の機能を実行可能な点がある。これにより、前記アナログ・マルチプレクサの出力を、前記駆動波形36に結合されたイネーブル入力39を介して、(駆動波形36に)同期してイネーブルまたはディスエーブルにすることが可能である。複数の位置センサーが実質的に異なる共振周波数で作動される場合、前記時分割多重化方式は、必要に応じて複製され得る。好適なプロセッサはARM Cortex-M0である。
【0070】
図8は、デマルチプレクサ/マルチプレクサを1つのみ示すが、複数の共振周波数を用いる場合、用いる共振周波数の各々について1つのデマルチプレクサ/マルチプレクサを採用してもよい。例えば、交互の共振周波数がキーボードのキーに交互にマップされる場合、第2のデマルチプレクサ/マルチプレクサが使われてもよい。
【0071】
例えば、部品公差のバラツキが原因で、位置センサーの能動同調共振回路または受動同調共振回路の離調が生じるが、ダイオード40、容量素子24および任意選択で抵抗素子41または(容量素子24上の電荷をリセットするための)スイッチング素子42を備えるピーク検出回路に、(任意選択の)同期復調器回路の出力を結合することによって、離調に対する感度の抑制が容易となるかもしれない。スイッチング素子が使われる場合には、前記スイッチング素子は、マルチプレクサの制御に用いられるセレクタ信号に同期して、検出されたピーク・レベルをリセットしてもよい。
【0072】
検出器(読出し回路)からの信号は、例えばプロセッサ35のアナログ入力に統合された、アナログデジタル・コンバータ38に入力されてもよい。
【0073】
ディスエーブルにされた位置センサーの能動同調共振回路が駆動中でない場合、前記能動同調共振回路は同調アンテナとして作用する。これは悪影響を有する。この悪影響により、前記ディスエーブルされた位置センサーに対応するターゲットを動かすと、同様に同調された位置センサーが、
図4および
図6に示すように、前記ディスエーブルにされた位置センサーに物理的に隣接せず、かつ、前記ターゲットの動きが、前記ディスエーブルされた位置センサーの上部のその通常限度内に制約される場合であっても、前記同様に同調された位置センサーの出力に測定可能な変化を与え得る。前記悪影響は、ディスエーブルの時間、前記ディスエーブルにされた位置センサーの能動同調共振回路の共振周波数を変更することによって、例えば、前記能動同調共振回路の静電容量、抵抗またはインダクタンスを電子スイッチによって変更することによって、削減され得る。前記ディスエーブルされたセンサーを直流電流または低周波数信号で駆動し、共振を防止するのが最も簡単である。
図8を参照すると、時分割多重化方式でこれを達成するには、能動同調共振回路の入力6を駆動する際にデジタル・デマルチプレクサ33を用いるのが特に有利な方法である。これにより、イネーブルされた位置センサーの能動同調共振回路は、前記能動同調共振回路の共振周波数での波形36によって駆動され、ディスエーブルされた位置センサーの能動同調共振回路は、前記デジタル・デマルチプレクサの論理ハイレベルまたは論理ローレベルに対応する直流電流信号によって駆動される。
【0074】
音楽用キーボードの性能は、動作温度の範囲にわたって安定することが重要である。本明細書に記載する位置センサーによって使われる同調共振回路は、特に、同調共振回路がプリント回路基板上に形成され、かつ、同調共振回路の容量素子が温度安定誘電体(クラス1誘電体)である場合、優れた温度安定性を有するが、回路内の他の電子素子は、温度で変化するプロパティを有する場合がある。これにより、動作温度の変動に伴う位置センサーの出力信号が変動する可能性がある。そのような電子素子は、ダイオード40、デジタル・デマルチプレクサ33、アナログ・マルチプレクサ34、抵抗素子4、5、41、プリント回路基板上のトラック、ならびに電圧調整器を含むが、それらに限定されない。したがって、動作温度の変動が原因で生じる音楽用キーボード上の複数の位置センサーの出力信号の変動を最小限にするために、温度補償方式が有用であり得る。
【0075】
特に好適な、しかし非限定的な例として、温度補償方式は、位置センサーの受動同調共振回路が前記位置センサーの出力信号に対して影響を与えないように前記位置センサーの能動同調共振回路を直流電流または低周波数信号で駆動する間、位置センサーの出力信号の複数の測定を行い、前記複数の測定のうちの第1の測定はキャリブレーション手順中に実行され、後続の前記測定は定期的に、通常は時分割多重化方式の追加タイム・スロット内に実施され、前記第1の測定から後続の前記測定を減算することによって前記出力信号内の温度依存オフセットを算出し、位置を測定するために、前記能動同調共振回路が前記能動同調共振回路の共振周波数に等しいかまたは近い周波数で駆動されているとき、前記オフセットを前記出力信号の測定に加算する。このような温度補償方式は、音楽用キーボードにおける各位置センサー、音楽用キーボードにおける位置センサーの各グループに対して、または音楽用キーボードにおけるすべての位置センサーに対して、1つの温度依存オフセットを使用し得る。
【0076】
可動キーを備えた音楽用キーボードでは、上述したような多重化方式を利用することにより、前記キーの位置の高速で正確な測定が可能となる。例えば、
図8に示す例を多重化することが可能である。ここで、セレクタ信号37を更新する周波数は少なくとも32,000Hzであり、したがって、8つの可動キーからなるサブセット内の各可動キーの位置を、4,000Hzの周波数において判定可能となる。この例は複製されて、可動キーの他のサブセットに対して並行して実行されてもよく、したがって、88鍵のフルサイズのピアノ・キーボードにおいて、これらのキーの位置が、少なくとも352,000キー/秒のレートで判定可能となる。本件発明者は、ノートオン・イベントおよびノートオフ・イベントのタイミングを適切に精度良く行うことを可能とし、かつ、前記イベントに関連付けられたキー速度を判定するためには、理想的には、88鍵用に少なくとも22,000キー/秒のレートに対応する少なくとも毎秒250回、前記キーの位置を判定すべきであることを見出した。明らかに、上述したシステムの実装は、これらの目標を容易に超える。
【0077】
図9を参照すると、上記システムの実装例にかかる音楽用キーボード上の可動キーが押下されたとき、前記キーの3つの1次位置がある。前記キーが静止しているときの静止位置Kmax43と、可動上部部材13が変形可能エンドストップ18と最初に接触したポイントKzero44と、典型的な演奏者によって前記キーに印加される最大圧力のポイントに対応する最大押下ポイントKmin45である。最大押下ポイントKmin45において、変形可能エンドストップ18は、最大限に変形されると考えてもよい。複数のかかる可動キーは、機械的なバラツキにより、および電子部品公差により、第1のキーの前記複数の1次位置のうちのいずれか1つに位置する前記第1のキーの位置センサーの出力信号が、同じ1次位置にある第2のキーの位置センサーの出力信号と同一になる可能性は低い。したがって、いずれの可動キーの位置も前記可動キーの各1次位置に対して確実に既知となるように、キャリブレーション処理が必要である。このようなキャリブレーション処理を
図11に示す。
【0078】
可動キーの位置が1次位置KmaxとKzeroとの間にある場合、前記キーのキャリブレーション後の位置Kは、KmaxとKzero間の押下割合として、次式K=100%×(Ko-Kzero)/(Kmax-Kzero)により、前記キーの測定位置Koから算出可能である。
【0079】
可動キーの位置が1次位置KzeroとKminとの間にある場合、前記キーのキャリブレーション後の位置Kpressは、KzeroとKmin間の押下割合、すなわち
図9の50の割合として、次式Kpress=100%×(Ko-Kmin)/(Kzero-Kmin)により、前記キーKoの測定位置から算出可能である。そのようなケースでは、Kpressは、前記キーの押下50の範囲に対応する、前記キーに印加される圧力の量であると考えてもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、Kpressの算出には、オフセットKpoffを含んでもよい。これにより、Kpressは、キーの位置Koが(Kzero-Kpoff)とKminとの間になるまでゼロである。すなわち、Kpress=100%×(Ko-Kmin)/(Kzero-Kpoff-Kmin)である。前記オフセットにより、前記キーの位置が変動しても、前記キーのキャリブレーション後の位置KもKpressも変動しないデッドゾーンが形成される。これにより、アフタータッチ閾値の実装が容易とする。
【0081】
典型的な音楽用キーボード上では、前記キーボードの各可動キーが、前記キーの押下が2次位置Konを越えたときにノートオン・イベントを発行し、かつ、前記キーの押下が別の2次位置Koffに戻ったときにノートオフ・イベントを発行することが望ましい。KonがKoffに等しくなる場合があってもよいが、KonとKoffとは等しくないことが好ましい。
図9を参照すると、好ましくは、2次位置Kon48は、1次位置Kzero44に近くなるように選択される。同様に、2次位置Koff47は、前記2次位置Konに近くなるように選択される。
【0082】
いくつかの実施形態では、第1のノートオン・イベントを発行した後、第2のノートオン・イベントを発行可能である。また、任意選択で、前記可動キーの押下が2次位置Konの前の位置に戻ったけれども2次位置Koffには戻っておらず、次いで可動キーの押下が2次位置Konを越える位置に変わったとき、前記第2のノートオン・イベントに先行するノートオフ・イベントを発行可能である。これにより、リトリガーが容易となる。
【0083】
いくつかの実施形態では、各可動キーの2次位置Koff46は、1次位置Kmax43に近くなるように選択される。そのような配置により、前記キーの位置を利用して、ノートオフ・イベントの発行に先立って表現イベントを発行することが可能である。KoffとKzero間の前記キーの測定位置Koは、前記キーの押下範囲49に対応する、キャリブレーション後の表現値Kexp=100%×(Ko-Kzero)/(Koff-Kzero)の算出に利用し得る。
【0084】
非限定的例として、
図12に示す1つの特定のアルゴリズムを、システムの実装例にかかる音楽用キーボードの各可動キーに利用してもよい。このシステムにおいて、前記可動キーの測定位置Koが1次位置Kmax、KzeroおよびKminにより、それゆえに2次位置KonおよびKoffによりキャリブレーションされている場合、測定位置Koを利用して前記音楽用キーボードの各可動キーについてのノートオン・イベント、ノートオフ・イベント、表現イベントおよび圧力イベントを発行してもよい。
【0085】
音楽用キーボードの可動キーの2次位置KonおよびKoffを、前記可動キーの1次位置KmaxおよびKzeroから導出することで、単純な数値算出によって前記2次位置を容易に修正することができ、その結果前記音楽用キーボードの応答を変更可能であるという点で特に有利である。その上、そのような修正は、複数の可動キーを備えた音楽用キーボードの個々のキーごとに異ならせることができるため、音楽用キーボードに対するいかなる機械的変更も必要とすることなく、前記音楽用キーボードにおける広範囲の応答が可能となる。
【0086】
楽音生成システムのさらなる表現制御を提供するためには、音楽用キーボードが、ノートオン・イベントに関するとともに、もしかするとノートオフ・イベントにも関連し得る速度情報を送信するのが一般的である。この速度情報は、キー押下の2つの既知のポイント間の時間差を測定することにより、または逆に2つの既知の時点における前記キー押下の変化を測定することによって特定可能である。
【0087】
いくつかの実施形態では、可動キーの速度(速さおよび方向)は、平均化、フィルタリング、または類似の方法を用いて、複数の時点における前記キーの複数の位置から特定される。一例を以下に詳しく記載する。前記速度を算出する方法は、他の方法と比較していくつかの利点を有する。すなわち、2点測定方法に使われるような線形速度プロファイルを想定せず、前記キーの押下範囲全体にわたる速度の変化を検出させるため、速度の測定値は前記キーの真の速度をよりよく表し、前記キーの応答との整合性が向上する。また、より多くの統計的に有効なデータ点が使われるので、高分解能および高精度の速度を判定することができる。前記キーの将来の位置の予測の算出が可能となり、例えば、前記キーの位置が2次位置KonおよびKoffと等しくなる将来の時間を推定することが可能となるため、対応する物理イベントより前に予めノートオンまたはノートオフ・イベントを発行することが可能となる。したがって、楽音生成システムにおけるレイテンシーを補償する。
【0088】
フィルタリング手順の一例は、以下の通りである。deltaV=deltaPos(すなわち、固定の時間ステップ間の位置の変化)
alpha=k*abs(deltaV)
【0089】
フィルタリング係数alphaは、deltaVの大きさに依存し、alphaは、オーバーフロー/アンダーフローを回避するために検知可能値に限定される。
速度=alpha*last_velocity+deltaV*(1-alpha)
【0090】
この方法は、デジタル領域において実行してもよく、高速で動くキーに対する時間応答を大幅に損なうことなく、フィルタリングにより分解能を改善可能である。このフィルタリングは非常に低速で動くキーにとって特に重要である。フィルタリングおよび/または最大許容速度値を修正することで、楽器の感触を、例えば硬めまたは柔らかめの応答を与えるように修正可能である。
【0091】
こうした方法の上記のような利点を説明するべく、
図10は、可動キーのキャリブレーション後の位置51および前記キーに対応するキャリブレーション後の速度52を示す。ここで、前記キーの押下は、前記キーの押下開始から7ms以内に1次ポイントKzero44に達する。
図10のプロットは、微分された位置から直接算出された速度に近似する。しかし、位置がゆっくりと動くと、速度フィルタリングはより重くなるので、速度が少し遅れる。上記のような方法によれば、他の方法よりも、音楽用キーボードの可動キーの速度に関して実質的に多くの情報を得ることができる。
【0092】
音楽用キーボードのための移動検出システムならびに鍵盤楽器のための検知システムおよび方法について記載した。しかしながら、上述の技術は、音楽用キーボードに限定されず、例えばコンピュータ・キーボードに使われてもよい。
【0093】
例えば、いくつかの実装では、上述した技術は、ラップトップ・キーボードにおいて利用されてよい。この場合、受動共振回路および能動共振回路の一方または両方が、フレキシブルなPCBに搭載されてもよい。例えば、受動共振回路はキーの下側のフレキシブルPCB上に搭載されてもよく、能動共振回路は下層にあるリジッドPCB上に搭載されてもよい。位置を検知する能力は、例えば、能動共振回路および受動共振回路の間に何らかの弾性物質が設けられている場合、キーに印加される圧力を検知するのに使われ得る。いくつかの実装では、例えば、ラップトップ、コンピュータ、またはキーが平面もしくは曲面上に2Dパターンで配置されている他のキーボードでは、どのキーも2次元で隣接するキーと同時に駆動されないように、例えば上述した構成と大体において対応する方法において多重化を適用してもよい。例えば、矩形2Dグリッドでは、キーボードによって画定される表面における2つの次元の各々における交替キーは、交互のタイム・スロットにおいてアクティブであってよく(すなわち、非隣接のキーが2組特定されてよい)、これは、同様に非隣接のキーが複数組特定され得る六角形および他のグリッドによって画定されるキーレイアウトに拡張されてよい。キーボードによって画定される表面において相互に隣接するキーは、ターゲットキーが読み取られる期間内において非アクティブであるかおよび/または減衰され得る。ただし、前述したように、多重化は、キーボードの複数のキーを同時に読み取るように構成され得る。上述の技術は、安価に製造可能であるうえ、応答時間が非常に速く、例えば1ms未満であり得るので、コンピュータおよび他のキーボードにとって有利であり得る。
【0094】
別の実装では、上述した技術は、圧力の検知に採用されてよい。センサーは、受動共振回路および能動共振回路の一方または両方の下および/またはその間に、変形可能素子、例えば、ゴムのブロックまたは層をさらに備える。そのような構成は、例えば、電子ドラム・パッド用のセンサーとして採用され得る。
【0095】
疑いなく、多くの他の効果的な代替手段に当業者は思い至るであろう。本発明は、記載した実施形態には限定されず、本明細書に添付の請求項の趣旨および範囲内において、当業者に明らかな修正を包含することが理解されよう。
【0096】
付記:
[付記1]
キーボードのための検知システムであって、
複数のキーセンサーを備え、
各キーセンサーは、
共振周波数を有する受動共振回路と、
前記共振周波数で前記受動共振回路を励起するように構成された能動共振回路と
を備え、
前記検知システムは、さらに、
前記共振周波数のRF駆動信号により複数の前記能動共振回路を駆動する少なくとも1つのセンサー・ドライバと、
同時に駆動されたキーセンサーが少なくとも(k-1)個分のキーだけ分離されるように、前記駆動信号を多重化する多重化システムであって、(k-1)は、1以上の整数である、多重化システムと、
前記キーセンサーに関連付けられたキーの位置および/または速度を検知するために、駆動されたキーセンサーからRF信号のレベルを検出する少なくとも1つの検出器とをさらに備える、
検知システム。
[付記2]
駆動されていない複数のキーセンサーに対応する前記複数の能動共振回路を減衰させるように構成される、付記1に記載の検知システム。
[付記3]
少なくとも前記能動共振回路は、逆向きの巻線をもつ1または複数のコイルを備え、
特に、逆向きの前記巻線は、互いを打ち消す逆向きの磁界を生成するよう構成される、
付記1または2に記載の検知システム。
[付記4]
前記能動共振回路は、横方向に隣り合う2つのパンケーキ・コイルを備える、
付記1、2または3に記載の検知システム。
[付記5]
RF信号の前記検出されたレベルを温度補償するための温度補償システムをさらに備え、
前記温度補償システムは、
前記複数の能動共振回路のうちの少なくとも1つに非共振駆動信号を印加し、前記少なくとも1つの検出器からの前記非共振駆動信号のレベルを測定し、前記非共振駆動信号の前記レベルに応じてRF信号の前記検出されたレベルを補償するように構成される、
付記1から4のいずれか一項に記載の検知システム。
[付記6]
前記多重化システムは、前記複数のキーセンサーのうちの1つが、複数のタイム・スロットのセットの各々において駆動されるように、前記駆動信号を多重化するように構成され、
前記温度補償システムは、前記複数のタイム・スロットのセットへの追加タイム・スロットの期間中に前記非共振駆動信号を印加するように構成される、
付記5に記載の検知システム。
[付記7]
各キーセンサーは、圧力検知のために、前記受動共振回路および前記能動共振回路の一方または両方の動きを制限するための変形可能素子をさらに備える、
付記1から6のいずれか一項に記載の検知システム。
[付記8]
鍵盤楽器のキーボード用の複数のセンサーのセットを備える検知システムであって、
前記キーボードは複数のキーを有し、
各センサーは、キーの移動部に搭載するための受動共振回路と、基準位置に搭載するための能動共振回路とを備え、前記受動共振回路は共振周波数を有し、前記能動共振回路は、前記受動共振回路を前記共振周波数で励起し、
各センサーは、さらに、前記能動共振回路と受動共振回路との相対的位置により前記能動共振回路における共振信号の変動を検出し、前記キーの位置および/または速度を検出する検出器を有し、
前記複数のセンサーのセットは、同じ共振周波数を有する複数のセンサーが非隣接であるように配置された2以上の異なる共振周波数を有するセンサーを備える、
検知システム。
[付記9]
第1の共振周波数を有する複数のセンサーは、第2の、異なる共振周波数を有する複数のセンサーとインターリーブされる、
付記8に記載の検知システム。
[付記10]
さらに、
隣接するキーボード・センサーが異なる時点において選択されるように、前記複数のセンサーのセットのうちの複数のセンサーの選択を制御する多重化システムおよび/またはコントローラを備える、
付記8または9に記載の検知システム。
[付記11]
前記多重化システム/コントローラは、
さらに、
複数の非選択センサーの前記複数の能動共振回路を減衰させるように構成される、
付記1から7および付記10のいずれか一項に記載の検知システム。
[付記12]
前記多重化システム/コントローラは、
前記センサーの動作を時分割多重するように構成され、
複数のセンサーのグループが共振周波数ごとに設定され、
前記時分割多重は、複数のn個のタイム・スロットを画定し、
各グループの連続するキーボード・センサーには連続するタイム・スロットが割り当てられる、
付記10または11に記載の検知システム。
[付記13]
N個の共振周波数および複数のセンサーのN個のグループがあり、前記複数のセンサーの複数のグループのうちの複数のセンサーは前記キーボード上でインターリーブされる、
付記12に記載の検知システム。
[付記14]
前記多重化システム/コントローラは、
同じグループ内で同じタイム・スロットにおいてアクティブ化される複数のキーボード・センサーが、当該複数のセンサーの間に(n×N)-1個のセンサーを有するように構成される、
付記13に記載の検知システム。
[付記15]
さらに、
各センサーの前記能動共振回路における前記共振信号の前記変動を処理して、押下されたキーが解放位置と押下位置との間を動くときの一連の時間間隔にわたる前記キーボードの各キーの動きを判定するように構成されたプロセッサを備え、
特に、各キーの動きは、前記キーが解放位置と押下位置との間を動くときの前記キーの位置および速度を含む、
先行する付記のいずれかに記載の検知システム。
[付記16]
前記プロセッサは、
各センサーの前記能動共振回路中の前記共振信号の前記変動を処理して、キーが押下位置と解放位置との間を動くときの、前記キーの速度を、キー速度に応じてフィルタリングされた、連続する時間間隔で特定される前記キーの位置の変化から判定するように構成される、
付記15に記載の検知システム。
[付記17]
前記RF/共振信号の前記レベル/変動を処理して、各キーについてキー押圧およびキー解放イベントを判定するように接続されたプロセッサをさらに備える、先行する付記のいずれかに記載の検知システム。
[付記18]
前記プロセッサは、
さらに
少なくとも3つの異なるキー位置、第1に、ノートオフ位置、第2に、ノートオン位置、および第3に、アフタータッチ位置を区別するように構成され、
前記アフタータッチ位置は、前記ノートオン位置を越える位置であり、押下の後で前記キーに印加される追加圧力に対応する、
付記15から17のいずれか一項に記載の検知システム。
[付記19]
前記キーボードの複数のキーの並びに対応する並びで前記複数のセンサーの前記複数の能動共振回路を支持する基板をさらに備える、
先行する付記のいずれかに記載の検知システム。
[付記20]
先行する付記のいずれかに記載の検知システムを備える、特に鍵盤楽器用のキーボード。
[付記21]
付記19または20に記載の検知システムまたはキーボードを備えるポリフォニック・アフタータッチ・キーボードであって、
各キーは、
前記アフタータッチ位置が、変形可能エンドストップによって画定されるエンドストップ位置を越えるキーの移動に対応するように前記変形可能エンドストップを有し、
前記キーについての前記アフタータッチ位置を特定することにより、ポリフォニック・アフタータッチが可能となる
ポリフォニック・アフタータッチ・キーボード。
[付記22]
特に鍵盤楽器の複数のキーの位置を検知する方法であって、
キーの移動部に搭載するための受動共振回路、および基準位置に搭載するための能動共振回路を備えるセンサーを各キーに設け、前記受動共振回路は共振周波数を有し、前記能動共振回路は前記共振周波数で前記受動共振回路を励起し、各センサーは、前記能動共振回路と受動共振回路との相対的位置により前記能動共振回路における共振信号の変動を検出して前記キーの位置および/または速度を検出する検出器をさらに有しており、および、
同じ共振周波数を有するキーボード・センサーが非隣接となるように配置された2以上の異なる共振周波数で動作するように複数のセンサーを配置し、および/または、
少なくとも前記複数の能動共振回路の1以上のコイルを、逆向きの巻線を有するように構成することによって、センサー間の干渉を低減する、
方法。
[付記23]
さらに、
少なくとも3つの異なるキー位置、第1に、ノートオフ位置、第2に、ノートオン位置、および第3に、アフタータッチ位置を区別することによって、ポリフォニック・アフタータッチを提供し、
前記アフタータッチ位置は前記ノートオン位置を越える位置であり、エンドストップ位置を越えるキーの押下および移動の後で前記キーに印加される追加圧力に対応する、
付記22に記載の方法。
[付記24]
キーボードの応答を定期的に補償する方法であって、
前記キーボードは、各々が能動共振回路、受動同調共振回路および検出器を備えるセンサーを有する複数のキーを備え、
当該方法は、
第1の時刻t0に検出された前記センサーの初期出力信号Ot0を記憶部から読み出し、t0において、前記能動共振回路は、前記能動共振回路の共振周波数を下回る周波数で駆動されており、
定期的に、前記センサーのうちの少なくとも1つについて
t0の後の時刻に、前記センサーの後期出力信号Ot1を検出し、
前記センサーの前記初期出力信号と前記センサーの前記後期出力信号との間の差である調整値を算出し、
前記調整値を用いて前記センサーの動作出力を調整することにより前記キーボードの前記応答を補償し、前記動作出力は、前記能動共振回路の前記共振周波数で前記能動共振回路が駆動されているときの前記センサーからの出力である、
方法。
[付記25]
さらに、
時分割多重化アドレス方式に従って前記センサーを作動し、
前記時分割多重化アドレス方式のタイム・スロットのうち、前記検出のために、前記センサーが非動作中のタイム・スロットを使う、
付記24に記載の方法。