(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】硬化樹脂用組成物、該組成物の硬化物、該組成物および該硬化物の製造方法、ならびに半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08G 59/24 20060101AFI20241010BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241010BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241010BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20241010BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C08G59/24
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2021516225
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017580
(87)【国際公開番号】W WO2020218457
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019086689
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】西谷 佳典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 樹生
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188448(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105743(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0327683(US,A1)
【文献】特開2017-020011(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00- 59/72
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01L23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物を少なくとも一種含
み、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物およびトリスフェノールメタン型エポキシ化合物から選択される少なくとも一種をさらに含んでなる
、エポキシ化合物と、
(C)硬化剤と
を含有し、
(A)、(B)および(C)からなる配合物のポリスチレン換算の重量平均分子量が350以上650以下である硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化2】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
【請求項2】
前記(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物が、脂環式エポキシ化合物である、請求項1に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項3】
前記(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物が、グリシジル基を有さない、請求項1または2に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項4】
前記(B)エポキシ化合物が、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、およびフェノールアラルキル型エポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項5】
(D)硬化促進剤をさらに含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項6】
(E)無機充填剤をさらに含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物の製造方法であって、
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物を少なくとも一種含
み、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物およびトリスフェノールメタン型エポキシ化合物から選択される少なくとも一種をさらに含んでなる
、エポキシ化合物と、
(C)硬化剤とを混合して混合物を得る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有する、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化3】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化4】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
【請求項10】
前記混合物を得る工程において、(D)硬化促進剤および/または(E)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を150~300℃にて20秒間~5時間加熱して硬化させる工程
を有する、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2019年4月26日に出願された日本国特許出願2019-086689号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高耐熱性硬化物を得るための硬化樹脂用組成物、その硬化物、ならびに該硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法に関する。さらに、前記硬化物を封止材として用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0003】
熱硬化樹脂は、半導体封止材、繊維強化プラスチック等の各種用途に使用されており、その一原料としてベンゾオキサジン化合物が使用されている。ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを含むベンゾオキサジン環を有する化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の分野において高性能材料として使用されている。
【0004】
特許文献1は、特定構造のベンゾオキサジン化合物と芳香環を主鎖に含むエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂組成物を開示し、該エポキシ樹脂は約200℃以上のガラス転移点(Tg)をもたらすことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の分野においては、様々の使用環境・市場条件に適合し得るように、高耐熱性の樹脂硬化物であり、さらに、常温安定性に優れる硬化樹脂用組成物が求められている。しかし、高耐熱性硬化物を得るための常温安定性に優れる硬化樹脂用組成物は、いまだ得られていない。
【0007】
したがって、本発明は、高耐熱性硬化物を得るための常温安定性に優れる硬化樹脂用組成物を提供することを課題とする。また、本発明の別の課題は、上記硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物、ならびに上記硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の課題は、当該硬化樹脂用組成物を封止材として用いた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(A)多官能ベンゾオキサジン化合物、(B)特定のエポキシ化合物、および(C)硬化剤を含有し、(A)、(B)および(C)からなる配合物がポリスチレン換算での特定の重量平均分子量を有する硬化樹脂用組成物を開発し、該硬化樹脂用組成物が常温安定性に優れ、その硬化物が耐熱性に優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物を少なくとも一種含んでなるエポキシ化合物と、
(C)硬化剤と
を含有し、
(A)、(B)および(C)からなる配合物のポリスチレン換算の重量平均分子量が350以上650以下である硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化2】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
[2] 上記(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物が、脂環式エポキシ化合物である、[1]に記載の硬化樹脂用組成物。
[3] 上記(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物が、グリシジル基を有さない、[1]または[2]に記載の硬化樹脂用組成物。
[4] 上記(B)エポキシ化合物が、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、およびフェノールアラルキル型エポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含んでなる、[1]~[3]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物。
[5] (D)硬化促進剤をさらに含有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物。
[6] (E)無機充填剤をさらに含有する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
[8] [1]~[6]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
[9] [1]~[6]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物の製造方法であって、
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物を少なくとも一種含んでなるエポキシ化合物と、
(C)硬化剤と
を混合して混合物を得る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有する、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化3】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化4】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
[10] 前記混合物を得る工程において、(D)硬化促進剤および/または(E)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、[9]に記載の製造方法。
[11] [9]または[10]に記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を150~300℃にて20秒間~5時間加熱して硬化させる工程を有する、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化樹脂用組成物は、成分(A)~(C)、さらに所望により成分(D)、(E)を含有する新規な硬化樹脂用組成物であり、該硬化樹脂用組成物が常温安定性に優れ、その硬化物が耐熱性に優れるという特徴を有している。したがって、本発明の硬化樹脂用組成物は、常温安定性を要求されながら、その硬化物に耐熱性を必要とされる用途、例えば、接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途に使用可能である。本発明の硬化樹脂用組成物は、特に、半導体素子封止材として優れた封止性能を発揮すると共に、半導体装置の高信頼性に寄与することができる。また、本発明によれば、成分(A)~(C)からなる配合物を、硬化樹脂用組成物の常温安定性および/または硬化物の耐熱性向上剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[硬化樹脂用組成物]
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の成分(A)、(B)および(C)における「化合物」とは、各式に示す単量体だけでなく、該単量体が少量重合したオリゴマー、すなわち硬化樹脂を形成する前のプレポリマーも含むものとする。したがって、本発明の硬化樹脂用組成物は、硬化性樹脂組成物であってもよい。
【0012】
(成分A)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(A)は、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の、ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物である。なお、上記式(1)のZは、水素、置換基および/または連結基(スペーサー)を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結されている。なお、ここで連結基とは、二つのベンゾオキサジン環が他の基を介さずに直接結合しているものも含むものとする。また、上記置換基とは、例えば、炭素数1~8の炭化水素基が挙げられる。
したがって、上記式(1)は、成分(A)の選択肢の内、ベンゼン環部分で二つ以上のベンゾオキサジン環が連結されている化合物についてその構造単位を表したものである。
【0013】
式(1)の多官能ベンゾオキサジン化合物を、より具体的に表すと、式(1a)に示す構造として表すことができる。
【化5】
[式(1a)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rは各々同一であっても異なっていてもよい。Xは、水素または炭素数1~8の炭化水素基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。Yは、炭素数1~6のアルキレン基、酸素、硫黄、SO
2基、またはカルボニル基である。mは0または1である。nは1~10の整数である。]
【0014】
式(1)および(1a)のRの具体例としては、以下の基を例示できる。
炭素数1~12の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
炭素数3~8の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基は置換されていてもよく、その置換基としては炭素数1~12の鎖状アルキル基またはハロゲンが挙げられる。炭素数1~12の鎖状アルキル基もしくはハロゲンで置換された、炭素数6~14のアリール基としては、例えば、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基が挙げられる。
取り扱い性が良好な点において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、およびp-トリル基から選択されることが好ましい。
さらに、成分(A)は、各々Rが異なる複数種の式(1)または(1a)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0015】
式(1)のZおよび(1a)のXにおける炭素数1~8の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、好ましくは、アリール基である。
【0016】
式(1)または(1a)で示される多官能ベンゾオキサジン化合物としては、下記式(1X)で表される化合物、および該化合物が少量重合したオリゴマーを例示できる。
【化6】
【0017】
成分(A)の他の選択肢である式(2)の多官能ベンゾオキサジン化合物は、二つのベンゾオキサジン環の窒素原子(N原子)同士が連結基Lを介して結合している化合物である。
【化7】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
本発明の組成物は、式(2)で示されLが異なる複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を成分(A)として含有していてもよい。
【0018】
式(2)のLが芳香環を有する基である場合、芳香環の数は1~5個であり、例えば、単環化合物、多環化合物、および縮合環化合物が挙げられる。また、L中に酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。
具体例として、下記式(3)に示す基を挙げることができる。
【化8】
【0019】
式(3)のLがアルキレン基である場合、その炭素数は1~10が挙げられ、好ましくは1~6である。上記アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基等が挙げられ、好ましくは、メチレン基である。
【0020】
式(2)の多官能ベンゾオキサジン化合物としては、下記式(2X)で表される化合物、および該化合物が重合したオリゴマー、例えば、少量重合したオリゴマー、を例示できる。
【化9】
【0021】
成分(A)の多官能ベンゾオキサジン化合物としては市販品を使用することもできる。市販品としては、ビスフェノールF―アニリン(F-a)型ベンゾオキサジン、フェノール-ジアミノジフェニルメタン(P-d)型ベンゾオキサジン(いずれも四国化成株式会社製)等を例示できる。
【0022】
(成分B)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(B)はエポキシ化合物である。かかるエポキシ化合物は、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物を少なくとも一種含む。本発明の組成物は、本発明の効果を妨げない限り、成分(B)として、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物以外のエポキシ化合物をさらに含んでよい。ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物以外のエポキシ化合物としては、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物等が挙げられるが、好ましくは、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物である。上記ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物以外のエポキシ化合物は複数種であってもよい。
【0023】
(ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物)
ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物が好ましく、下記式(4)に示す、5員環、6員環またはノルボルナン環に結合したエポキシ構造を有することがより好ましい。ここで、脂環式エポキシ化合物は脂環骨格上に反応性基であるエポキシ基を有する化合物である。したがって、より好ましい脂環式エポキシ化合物としては、下記式(4)に示すように、5員環、6員環またはノルボルナン環を形成する炭素-炭素結合と、エポキシ基の炭素-炭素結合が共有された構造を有するエポキシ化合物が挙げられ、好ましくはグリシジル基を有さない化合物である。このような化合物を用いることで、高い耐熱性を実現することができる。
これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【化10】
【0024】
具体的な脂環式エポキシ化合物としては、下記式(5)で表される化合物を例示することができる。
【化11】
【0025】
成分(B)の多官能エポキシ化合物の製造例を説明する。
下記式(5-1)の化合物は、例えば、ブタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(a)を合成し、次に、下記式(6)に示すように化合物(a)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化12】
【0026】
下記式(5-2)の化合物は、例えば、シクロペンタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(b)(トリシクロペンタジエン)を合成し、次に、下記式(7)に示すように化合物(b)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化13】
【0027】
下記式(5-3)の化合物は、例えば、ブタジエンとシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(c)を合成し、次に、下記式(8)に示すように化合物(c)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化14】
【0028】
下記式(5-4)の化合物は、例えば、ジシクロペンタジエンとペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン)とを反応させることによって製造できる。式(5-4)の化合物であるジシクロペンタジエンジエポキシドは、市販品であってもよく、市販品としてはSHANDONG QIHUAN BIOCHEMICAL CO., LTD.製のジシクロペンタジエンジエポキシドを例示できる。
【化15】
【0029】
(ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物)
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、下記式(9-1)または式(9-2)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物としては、下記式(9-1)の構造で示されるエポキシ化合物および下記式(9-2)の構造で示されるエポキシ化合物のいずれか1種を用いてよいし、2種を混合して用いてもよい。より好ましいビフェニル骨格を有するエポキシ化合物は、下記式(9-1)の構造で示されるエポキシ化合物とされる。
【化16】
[式(9-1)中、R
1は置換基であって、炭素数1~4のアルキル基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。mは置換基R
1の数であり、0~4の整数である。nは平均値であり、1~5である。]
【化17】
[式(9-2)中、R
1~R
8は、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。]
【0030】
式(9-1)のmは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0である。式(9-1)のnは、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4である。式(9-1)の置換基R1における炭素数1~4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基等が挙げられる。置換基R1としては、メチル基、エチル基が好ましい。さらに、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物は、各々R1、m、nが異なる式(9-1)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0031】
式(9-2)のR1~R8における炭素数1~4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基等が挙げられる。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、またはR8としては、水素原子またはメチル基が好ましい。さらに、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物は、各々R1~R8が異なる式(9-2)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0032】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明で用いられるビフェニル骨格を有するエポキシ化合物は、式(9-2)におけるR1、R2、R3およびR4が炭素数1~4のアルキル基であり、R5、R6、R7、およびR8が水素原子である。本発明の別のさらに好ましい実施態様によれば、本発明で用いられるビフェニル骨格を有するエポキシ化合物は、式(9-2)におけるR1、R2、R3およびR4がメチル基であり、R5、R6、R7、およびR8が水素原子である。
【0033】
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。式(9-1)の構造で示されるエポキシ化合物の市販品としては、NC-3000(商品名、日本化薬株式会社)、NC-3000-L(商品名、日本化薬株式会社)、NC-3000-H(商品名、日本化薬株式会社)、NC-3000-FH-75M(商品名、日本化薬株式会社)、NC-3100(商品名、日本化薬株式会社)等が挙げられる。式(9-2)の構造で示されるエポキシ化合物の市販品としては、YX4000(商品名、三菱化学株式会社)、YX4000H(商品名、三菱化学株式会社)、YL6121H(商品名、三菱化学株式会社)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(トリスフェノールメタン型エポキシ化合物)
トリスフェノールメタン型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、下記式(10)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化18】
[式(10)中、Rは置換基であり、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、アリル基、またはフェニル基を示す。mは置換基Rの数であり、0~3の整数をそれぞれ表す。nは平均値であり、0≦n≦10である。]
【0035】
式(10)のmは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0である。式(10)のnは、好ましくは0以上5以下である。式(10)の置換基Rにおける炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびシクロヘキシル基等が挙げられる。置換基Rとしては、メチル基が好ましい。さらに、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物は、各々R、m、nが異なる式(10)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0036】
トリスフェノールメタン型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。市販品としては、EPPN-501H(商品名、日本化薬株式会社製)、EPPN-501HY(商品名、日本化薬株式会社製)、EPPN-502H(商品名、日本化薬株式会社製、)、EPPN-503(商品名、日本化薬株式会社製)等を例示できる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
(ナフタレン型エポキシ化合物)
ナフタレン型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物、ビナフタレン型エポキシ化合物、ナフトール型エポキシ化合物等が挙げられ、好ましくは、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物、ビナフタレン型エポキシ化合物である。
【0038】
(ナフチレンエーテル型エポキシ化合物)
ナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、下記式(11)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化19】
[式(11)中、nは1以上20以下の整数であり、lは0~2の整数であり、R
1は置換基であって、それぞれ独立にベンジル基、アルキル基または式(11a)で表される構造であり、R
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である。]
【化20】
[式(11a)中、Arはそれぞれ独立にフェニレン基またはナフチレン基であり、R
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、mは1または2の整数である。]
さらに、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物は、各々R
1、R
2、l、nが異なる式(11)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0039】
上記一般式(11)で表されるナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては、式(11-1)で表されるものが例として挙げられる。
【化21】
(式(11-1)において、nは1以上20以下の整数であり、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上8以下の整数である。Rは置換基であって、それぞれ独立にベンジル基、アルキル基、または下記一般式(11a-1)で表される構造であるか存在せず、好ましくは置換基Rは存在しない。)
【化22】
(上記一般式(11a-1)式において、mは1または2の整数である。)
【0040】
式(11-1)で表されるナフチレンエーテル型エポキシ化合物は、例えば、式(11-2)~(11-6)で表されるものが挙げられる。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【0041】
ナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。ナフチレンエーテル型エポキシ化合物の市販品としては、HP-6000(商品名、DIC株式会社)、EXA-7310(商品名、DIC株式会社)、EXA-7311(商品名、DIC株式会社)、EXA-7311L(商品名、DIC株式会社)、EXA-7311-G3(商品名、DIC株式会社)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
(ビナフタレン型エポキシ化合物)
ビナフタレン型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げず、上記ナフチレンエーテル型エポキシ化合物を含まない限り特に限定されないが、下記式(12)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化28】
[式(12)中、Xは、炭素数が1~8のアルキレン基を表す。R
1~R
4は、下記の式(12a)で示される基、水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
1~R
4は、ナフタレン骨格のいずれの環に付加してもよく両リングに同時に付加してもよい。R
1~R
4のうち、平均して少なくとも2つ以上の下記の一般式(12a)で示される基を含む必要があり、それ以外のRは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【化29】
さらに、ビナフタレン型エポキシ化合物は、各々R
1~R
4、Xが異なる式(12)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0043】
ビナフタレン型エポキシ化合物としては、2官能以上のビナフタレン型エポキシ化合物が挙げられ、好ましくは、2官能、3官能または4官能のビナフタレン型エポキシ化合物、より好ましくは下記式(12-1)に示す2官能のビナフタレン型エポキシ化合物である。
【化30】
【0044】
ビナフタレン型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。2官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、HP-4770(商品名、DIC株式会社)等が挙げられる。3官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、EXA-4750(商品名、DIC株式会社)等が挙げられる。4官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、HP-4710(商品名、DIC株式会社)、HP-4700(商品名、DIC株式会社)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
(ノボラック型エポキシ化合物)
ノボラック型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、市販品を使用することもできる。ノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、N-730A(商品名、DIC株式会社)、N-865(商品名、DIC株式会社)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
(フェノールアラルキル型エポキシ化合物)
フェノールアラルキル型エポキシ化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、市販品を使用することもできる。
【0047】
成分(A)多官能ベンゾオキサジン化合物と成分(B)エポキシ化合物との配合割合は、成分(A)100質量部に対して、成分(B)30質量部以上180質量部以下が好ましく、50質量部以上130質量部以下がより好ましい。成分(A)と(B)との配合割合が上記範囲内にあると、より優れた耐熱性を得ることができる。
なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を含有する場合、これら化合物の合計を100質量部とする。本発明の組成物が成分(B)として複数種のエポキシ化合物を含有する場合、上記成分(B)は複数種の化合物の合計を意味する。
【0048】
成分(B)のエポキシ化合物が、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物(以下、ノルボルナン構造含有エポキシ化合物ともいう)以外のエポキシ化合物をさらに含む場合、ノルボルナン構造含有エポキシ化合物と、ノルボルナン構造含有エポキシ化合物以外のエポキシ化合物の配合比(質量比)(ノルボルナン構造含有エポキシ化合物:ノルボルナン構造含有エポキシ化合物以外のエポキシ化合物)は、例えば、85:15~15:85であり、好ましくは70:30~30:70であり、より好ましくは60:40~40:60である。配合比が上記範囲内にあると、常温安定性により優れた硬化樹脂用組成物、ならびに、より優れた耐熱性を有する硬化物を得ることができる。
なお、本発明の組成物が成分(B)としてノルボルナン構造含有エポキシ化合物以外に複数種のエポキシ化合物を含有する場合、ノルボルナン構造含有エポキシ化合物以外のエポキシ化合物の上記配合量は複数種の化合物の合計の配合量を意味する。
【0049】
(成分C)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(C)は硬化剤である。
成分(C)の具体的例としては、例えば、フェノール系硬化剤、芳香族アミン類(例えば、ジエチルトルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシレンジアミン、これらの誘導体等)、脂肪族アミン類(例えば、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等)、イミダゾール類(例えば、イミダゾール、イミダゾール誘導体等)、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、カルボン酸無水物(例えば、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、カルボン酸ヒドラジド(例えば、アジピン酸ヒドラジド等)、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、カルボン酸塩、ならびにルイス酸錯体(例えば、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等)等が挙げられる。上記フェノール系硬化剤としては、単官能フェノール、多官能フェノール化合物(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノールスルフィド(例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等)、ポリフェノール化合物(例えば、ピロガロール等)、フェノール樹脂(例えば、ノボラック型フェノール樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂(トリフェニルメタン型フェノール樹脂、またはヒドロキシベンズアルデヒドとホルムアルデヒドとフェノールの反応生成物を主とするフェノール樹脂ともいう)、トリフェニルメタン型フェノール化合物とノボラック型フェノール化合物との共重合体、およびジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等)等)が挙げられる。成分(C)は、好ましくはフェノール系硬化剤であり、より好ましくは多官能フェノール化合物、さらに好ましくは、ビスフェノールF、フェノール樹脂であり、さらに好ましくは、ビスフェノールF、ノボラック型フェノール樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂である。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0050】
成分(C)のフェノール系硬化剤としては市販品を使用することもできる。例えば、ビスフェノールF(本州化学工業株式会社製)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド(TDP、東京化成工業株式会社製)、2,7-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社製)、ピロガロール(東京化成工業株式会社製)、ノボラック型フェノール樹脂(例えば、フェライトTD-2106、DIC株式会社;フェライトTD-2090、DIC株式会社)、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(例えば、MEH-7800-4S、明和化成株式会社製)、ビフェニル骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(例えば、MEHC-7851SS、明和化成株式会社製)、トリフェニルメタン型フェノール樹脂(HE910-20、エア・ウォーター社製;TPM-100、群栄化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
成分(A)多官能ベンゾオキサジン化合物と、成分(B)エポキシ化合物および成分(C)硬化剤の合計との配合割合は、成分(A)100質量部に対して、成分(B)および(C)の合計として成分(B)40質量部以上200質量部以下が好ましく、60質量部以上150質量部以下がより好ましい。
成分(A)と(B)および(C)の合計との配合割合が当該範囲内にあると、より優れた常温安定性の硬化樹脂用組成物、および、より優れた耐熱性の硬化物を得ることができる。
なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を含有する場合、これら化合物の合計を100質量部とみなす。本発明の組成物が成分(B)として複数種のエポキシ化合物を含有する場合、上記「成分(B)の配合割合」は複数種の化合物の合計の割合を意味する。さらに、本発明の組成物が成分(C)として複数種の硬化剤を含有する場合、上記「成分(C)の配合割合」は複数種の硬化剤の合計の割合を意味する。
【0052】
(A)、(B)および(C)からなる配合物のポリスチレン換算の重量平均分子量は、350以上650以下が挙げられ、好ましくは350以上600以下または400以上650以下であり、より好ましくは350以上550以下または450以上600以下である。重量平均分子量を350以上650以下とすることで、硬化樹脂用組成物は室温でのべたつきが少なくなり、取扱いが容易になるものと考えられる。したがって、重量平均分子量が350以上650以下であると、より優れた常温安定性の硬化樹脂用組成物を得ることができる。
本発明において、(A)、(B)および(C)からなる配合物のポリスチレン換算の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し標準ポリスチレン換算することにより得ることができる。このような測定および換算は、市販のGPC装置(例えば株式会社東ソー製)およびカラム(例えば、TSKgel superHZ2000(株式会社東ソー製)およびTSKgel superHZ1000(株式会社東ソー製))を用いることにより、簡便に行うことができる。上記測定および換算としては、例えば、以下の条件により行うことができる。装置:GPCシステム HLC-8420GPC(RI検出器内蔵)(株式会社東ソー製)、カラム:TSKgel superHZ2000(株式会社東ソー製)(内径4.5mm×150mm)×1本およびTSKgel superHZ1000(株式会社東ソー製)(内径 4.5mm×150mm)×2本、溶離液:テトラヒドロフラン、流量:0.35mL/分、検出器:RI検出器、カラム温度:40℃、注入量:5μL、分子量標準:標準ポリスチレン(PStQuick F、株式会社東ソー製)。
なお、上記(A)、(B)および(C)からなる配合物としては、(A)、(B)および(C)を、表面温度が100℃に設定された熱板上で大気圧下で5分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得、その後乳鉢で粉末状に粉砕して得られた配合物を用いることができる。
【0053】
(成分D)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(D)硬化促進剤をさらに含有してもよい。
硬化促進剤としては、公知の硬化促進剤を使用することができ、トリブチルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のアミン系化合物、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリフェニルホスフィン等の共有結合のみでリンが結合している有機リン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビス(テトラブチルホスホニウム)(BTBP)-ピロメリット酸、テトラブチルホスホニウム2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノラート(TBP-3PC)等の共有結合およびイオン結合でリンが結合している塩タイプの有機リン化合物等の有機リン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記した硬化促進剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。これらのうち、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、BTBP-ピロメリット酸、TBP-3PC等の有機リン化合物が、硬化速度向上の効果がより大きく、好ましい。
上記有機リン化合物は、特開昭55-157594号公報に記載されているように、エポキシ基とフェノール性水酸基との架橋反応を促進する機能を発揮するものが好ましい。さらに、上記有機リン化合物は、(A)多官能ベンゾオキサジン化合物が高温で開裂反応した際に発生する水酸基とエポキシ基との反応を促進する機能も発揮することが好ましい。
【0054】
成分(D)の配合割合としては、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、成分(D)を0.01質量部以上10質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下の範囲とすることがより好ましい。成分(D)をこの範囲で含有することにより、より優れた速硬化性を有する硬化樹脂用組成物とすることができる。
【0055】
(成分E)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(E)無機充填剤をさらに含有してもよい。例えば、半導体素子等の封止材用途に本発明の硬化樹脂用組成物を使用する場合は、成分(E)を含有することが好ましい。本発明で用いる無機充填剤は特に限定されず、硬化樹脂用組成物あるいはその硬化物の用途あるいは付与したい性状を考慮して選択することができる。以下、この無機充填剤を成分(E)と称する。
成分(E)の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化カルシウム、三酸化アンチモン、酸化亜鉛等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化マンガン等の窒化物;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ素化合物;ホウ酸アルミニウム等のホウ素化合物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等のジルコニウム化合物;リン酸ジルコニウム、リン酸マグネシウム等のリン化合物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタン化合物;マイカ、タルク、カオリン、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、コーディエライト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ウォラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、水和石膏、ミョウバン、ケイ藻土、ベーマイト等の鉱物類;フライアッシュ、脱水汚泥、ガラスビーズ、ガラスファイバー、ケイ砂、マグネシウムオキシサルフェイト、シリコン酸化物、シリコンカーバイド等;銅、鉄、ニッケル等の金属あるいはそのいずれかを含む合金;センダスト、アルニコ磁石、軟磁性フェライト等のフェライト、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、非酸化金属磁性体(オキサイド)等の磁性材料;黒鉛、コークス等が挙げられる。成分(E)は、好ましくはシリカ、アルミナおよび磁性材料である。シリカの例としては、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、無定形シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられ、好ましくは球状シリカ、結晶シリカである。アルミナの例としては、球状アルミナ、破砕アルミナ、微球アルミナ、好ましくは球状アルミナ、微球アルミナである。好ましい磁性材料としては、軟磁性フェライト、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、非酸化金属磁性体(オキサイド)等が挙げられる。成分(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
成分(E)は粒状であってもよく、その場合の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上150μm以下が挙げられ、好ましくは、0.1μm以上120μm以下、より好ましくは、0.5μm以上75μm以下である。この範囲であれば、例えば、本発明の組成物を半導体素子の封止材用途に使用する場合、金型キャビティへの充填性がより良好となる。成分(E)の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、無機充填剤の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填剤を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、(株)堀場製作所製「LA-500」、「LA-750」、「LA-950」、「LA-960」等を使用することができる。
【0057】
成分(E)の配合割合としては、高耐熱性の硬化物が得られる限り、特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。例えば、組成物を半導体封止用途に使用する場合は以下に示す配合割合が好ましい。
成分(E)の配合割合の下限値は、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、例えば150質量部以上が挙げられ、400質量部以上が好ましく、500質量部以上がより好ましい。また、成分(E)の配合割合の上限値は、1300質量部以下が挙げられ、1150質量部以下が好ましく、950質量部以下がより好ましい。成分(E)の配合割合の下限値が400質量部以上であれば、硬化樹脂用組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や強度の低下をより抑制でき、したがってより良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。また、成分(E)の配合割合の上限値が1300質量部以下であれば、硬化樹脂用組成物の流動性がより良くなり、金型への充填がしやすく、硬化物がより良好な封止性能を発揮する。
【0058】
(その他の成分)
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよい。例えば、組成物の粘度を低下させたい場合、ベンゾオキサジン環が1つである単官能ベンゾオキサジン化合物を組成物に添加してもよい。
【0059】
また、本発明の硬化樹脂用組成物には、その性能を損なわない範囲で、例えば、ナノカーボンや難燃剤、離型剤、着色剤、低応力添加剤、金属水酸化物等を配合することができる。
ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレンまたはそれぞれの誘導体が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステル、フォスファゼン等が挙げられる。
離型剤としては、例えば、ステアリン酸エステル、カルナバワックス等の天然ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸等の高級脂肪酸またはそのエステル、ステアリン酸亜鉛等の金属塩類、パラフィン、およびシリコーンオイル等が挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラ、および酸化チタン等が挙げられる。
低応力添加剤としては、シリコーンオイル、およびシリコーンゴム等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウム等の水酸化物が挙げられる。
成分(E)無機充填剤が含まれる場合、シランカップリング剤を配合しても良い。
【0060】
その他の成分の配合割合としては、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、その他の成分を0.01質量部以上10質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.1質量部以上9質量部以下の範囲とすることがより好ましい。
【0061】
(硬化樹脂用組成物の特性)
本発明の硬化樹脂用組成物の常温安定性は、硬化前の硬化樹脂用組成物のガラス転移温度(パウダーTgともいう)、べたつき性、および/または固結性により評価できる。
【0062】
硬化樹脂用組成物のガラス転移温度は、3℃以上が挙げられ、好ましくは5℃以上、より好ましくは6℃以上とされる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。このような測定は、市販の示差走査熱量計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いることにより、簡便に行うことができる。
【0063】
本発明の硬化樹脂用組成物は、べたつきがないことが好ましい。硬化樹脂用組成物のべたつき性は、以下に示される確認試験により、硬化樹脂用組成物がべたつきを有するか否かを確認することができる。
確認試験:硬化前の硬化樹脂用組成物を瓶に採取し、蓋をして密閉した後に温度23±1度、湿度50±5℃に調整された恒温室で24時間保管する。その後、瓶を逆さにし、静置してから5分後に、組成物が瓶底に付着しているか否かにより判定できる。
上記確認試験のさらなる詳細は、後述する実施例1の記載に準じて実施することができる。
【0064】
本発明の硬化樹脂用組成物が成分(E)を含有する場合には、かかる硬化樹脂用組成物は固結しないか、または固結しても瓶を逆さにすればほぐれることが好ましい。硬化樹脂用組成物の固結性は、以下に示される確認試験により、硬化樹脂用組成物が固結するか否かを確認することができる。
確認試験:硬化前の硬化樹脂用組成物を瓶に採取し、蓋をして密閉した後に温度23±1度、湿度50±5℃に調整された恒温室で24時間保管する。その後、瓶を逆さにし、静置してから5分後に組成物を目視し、固結の有無を判定する。
上記確認試験のさらなる詳細は、後述する実施例15の記載に準じて実施することができる。
【0065】
[硬化樹脂用組成物の製造方法]
次に、本発明の硬化樹脂用組成物の製造方法について説明する。
成分(A)~(C)、さらに、所望により成分(D)、成分(E)、その他の添加剤等のその他の成分、および溶剤を適宜追加して混練または混合して混合物を得る工程、ならびに該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程を行うことにより、本発明の硬化樹脂用組成物を製造することができる。
混練または混合方法は、特に限定されず、例えば、プラネタリーミキサー、2軸押出機、熱ロールまたはニーダー等の混合装置または混練機等を用いて混合することができる。また、成分(A)、(B)、(C)が室温で高粘度の液状または固体状である場合、または成分(E)を含有する場合等には、必要に応じて加熱して混練したり、さらに、加圧または減圧条件下で混練しても良い。加熱温度としては80~120℃が好ましい。
成分(E)を含む硬化樹脂用組成物は室温下では固体状であるので、加熱混練後、冷却、粉砕して粉体状としてもよく、該粉体を打錠成形してペレット状にしてもよい。また、粉体を造粒して顆粒状にしてもよい。
【0066】
本発明の硬化樹脂用組成物が成分(E)を含有せず、FRP用プリプレグ用途等に使用する場合、硬化樹脂用組成物は50℃において、10~3000Pa・sの粘度を有することが好ましい。より好ましくは10~2500Pa・s、さらに好ましくは100~2000Pa・sである。封止材、塗布用途に使用する場合は、封止、塗布等の作業に支障がない限り粘度は特に限定されない。
【0067】
[硬化物]
本発明の硬化樹脂用組成物の硬化物は、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れるという特徴を有している。本発明の硬化樹脂用組成物がこのような優れた硬化物を形成する理由としては、次のようなことが考えられる。
まず、ベンゾオキサジンの単独重合では、重合によりフェノール性の水酸基が生成する。このフェノール性の水酸基は、高温、例えば200℃以上にて、ケトエノ-ル互変異性体を経由し、それによって高分子鎖が切断されるため、耐熱性が低く、ガラス転移温度も低くなると考えられている。
それに対し、本発明のノルボルナン構造を有し、エポキシ基を二つ以上有する多官能エポキシ化合物は、単独重合し難く、上記ベンゾオキサジン由来のフェノール性水酸基と反応することにより、上記高分子鎖の切断を防止すると考えられる。よって、高耐熱性の硬化物が得られると考えられる。
【0068】
(硬化物の特性)
本発明の硬化物の耐熱性は、硬化物のガラス転移温度を測定することにより評価できる。硬化物のガラス転移温度は、220℃以上が挙げられ、好ましくは225℃以上、より好ましくは230℃以上とされる。また、硬化樹脂用組成物が成分(E)を含有する場合には、硬化物のガラス転移温度は、230℃以上が挙げられ、好ましくは235℃以上、より好ましくは240℃以上とされる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。このような測定は、市販の示差走査熱量計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いることにより、簡便に行うことができる。
【0069】
[硬化物の製造方法]
本発明の硬化物は、公知のベンゾオキサジン化合物および/またはエポキシ化合物と同様の硬化条件にて、開環重合を行い硬化することにより製造することができる。例えば、以下の方法を挙げることができる。
まず、本発明の硬化樹脂用組成物を上記方法によって製造する。続いて、得られた硬化樹脂用組成物を、例えば150~300℃にて、硬化時間として例えば20秒間~5時間、好ましくは20秒間~1時間加熱することで、硬化物を得ることができる。硬化物を連続生産する場合には、硬化時間は1~3分間で十分であるが、より高い強度を得るために後硬化としてさらに5分間~5時間程度加熱することが好ましい。
【0070】
硬化物としてフィルム状成形物を得る場合には、さらに溶剤を配合して、薄膜形成に好適な溶液粘度を有する組成物とすることもできる。成分(A)~(D)を溶解できる溶剤であれば特に限定されず、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン類等が挙げられる。
このように、溶媒に溶解した溶液状の硬化樹脂用組成物の場合は、該溶液状の硬化樹脂用組成物を基材等に塗布後、溶媒を揮発させたのち、熱硬化を行うことで硬化物を得ることができる。
【0071】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、成分(A)~(C)、所望により、成分(D)、成分(E)、その他の成分を含有する本発明の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている半導体装置である。ここで、通常、半導体素子は金属素材の薄板であるリードフレームにより支持固定されている。「硬化物中に半導体素子が設置されている」とは、半導体素子が上記硬化樹脂用組成物の硬化物で封止されていることを意味し、半導体素子が該硬化物で被覆されている状態を表す。この場合、半導体素子全体が被覆されていてもよく、基板上に設置された半導体素子の表面が被覆されていてもよい。
【0072】
本発明の硬化物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造する場合は、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、あるいはインジェクションモールド等の従来からの成形方法により封止工程を実施することによって、半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
<成分(A):多官能ベンゾオキサジン化合物>
成分(A)として下記化合物を使用した。
(A):下記式(2-1)に示すフェノール-ジアミノジフェニルメタン(P-d)型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)
【化31】
【0075】
<成分(B):エポキシ化合物>
成分(B)として下記(B1)~(B5)を使用した。
(B1)エポキシ化合物1(脂環式エポキシ化合物);式(5-1)の化合物
上記式(6)に示す化合物(a)を、『土田詔一ら、「ブタジエンとシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応-三量体の決定-」、石油学会誌、1972年、第15巻、3号、p189-192』に記載の方法に準拠して合成した。
次に、上記式(6)の反応を次のようにして行った。反応容器に、クロロホルム23.5kgおよび化合物(a)1.6kgを投入し、0℃で攪拌しながらメタクロロ過安息香酸4.5kgを滴下した。室温まで昇温し、12時間反応を行った。
次に、ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去した後、ろ液を1N水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去してろ液を濃縮し、粗体を得た。
粗体にトルエン2kgを加え、室温で溶解した。これにヘプタン6kgを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘキサンにより洗浄した。35℃下、24時間減圧乾燥することによって、下記式(5-1)に示す化合物を白色固体として1.4kg得た。
【化32】
【0076】
(B2)エポキシ化合物2(ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物):下記式(9-1-1)に示すビフェニル骨格を有するエポキシ化合物(NC-3000-H、日本化薬株式会社製)
【化33】
(式(9-1-1)中、nは平均値であり、3.9である。)
【0077】
(B3)エポキシ化合物3(トリスフェノールメタン型エポキシ化合物):下記式(10-1)に示すエポキシ化合物(EPPN-502H、日本化薬株式会社製)
【化34】
(式(10-1)中、nは平均値であり、1.9である。)
【0078】
(B4)エポキシ化合物4(脂環式エポキシ化合物);式(5-2)の化合物(トリシクロペンタジエンジエポキシド)
化合物(b)を上記(B1)に記載の化合物(a)と同様に、上記文献に記載の方法に準拠して合成した。
次に、上記式(7)の反応を次のようにして行った。反応容器に、クロロホルム59.2kgおよび化合物(b)4.0kgを投入し、-10℃で攪拌しながらメタクロロ過安息香酸10.6kgを滴下した。室温まで昇温し、12時間反応を行った。
次に、ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去した後、ろ液を5%亜硫酸ナトリウム水溶液42.0kgで洗浄した。有機層を更に1N水酸化ナトリウム水溶液41.6kgで4回洗浄後、飽和食塩水48.0kgで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去してろ液を濃縮し、粗体5.1kgを得た。
粗体にトルエン3.5kgを加え、室温で溶解した。これにヘプタン13.7kgを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘプタンにより洗浄した。35℃下、12時間減圧乾燥することによって、下記式(5-2)に示す化合物を白色固体として2.8kg得た。
【化35】
【0079】
(B5)脂環式エポキシ化合物5;式(5-4)の化合物(ジシクロペンタジエンジエポキシド)
反応容器にジシクロペンタジエン10kg、重曹68kg、アセトン100Lおよびイオン交換水130Lを仕込み、10℃以下に冷却した後、反応液の温度を30℃以下に維持するように冷却を制御して、オキソン84kgを徐々に添加し、撹拌しながら10時間反応を行った。
次に、酢酸エチル100Lによる反応生成物の抽出を2回行い、得られた有機層を分取して合わせた。続いて、上記有機層を食塩およびチオ硫酸ナトリウムの混合水溶液(食塩20wt%+チオ硫酸ナトリウム20wt%)100Lにて洗浄した後、さらに、イオン交換水100Lで2回洗浄した。
洗浄後の有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液から有機溶媒を留去して、下記式(5-4)に示す化合物を白色固体として11kg得た。
【化36】
【0080】
<成分(C):硬化剤>
成分(C)として下記(C1)~(C4)を使用した。
(C1)硬化剤1:下記式(13-1)に示すビスフェノールF(本州化学工業株式会社製)
【化37】
【0081】
(C2)硬化剤2:下記式(13-2)に示す硬化剤(MEHC-7851SS、明和化成株式会社製)
【化38】
(式(13-2)中、nは平均値であり、2.0である。)
【0082】
(C3)硬化剤3:下記式(13-3)に示す硬化剤(MEH-7800-4S、明和化成株式会社製)
【化39】
(式(13-3)中、nは平均値であり、4.8である。)
【0083】
(C4)硬化剤4:下記式(13-4)に示す硬化剤(TD-2106、DIC株式会社製)
【化40】
(式(13-4)中、nは平均値であり、8.7である。)
【0084】
<成分(D):硬化促進剤>
成分(D)として下記(D1)~(D4)を使用した。
(D1)硬化促進剤1:下記式に示すトリフェニルホスフィン(TPP)(北興化学工業株式会社製)
【化41】
【0085】
(D2)硬化促進剤2:下記式に示すテトラフェニルホスホニウム テトラフェニルボレート(TPP-K(商標))(北興化学工業株式会社製)
【化42】
【0086】
(D3)硬化促進剤3:下記式に示すビス(テトラブチルホスホニウム)(BTBP)-ピロメリット酸(北興化学工業株式会社製)
【化43】
【0087】
(D4)硬化促進剤4:下記式に示すテトラブチルホスホニウム2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノラート(TBP-3PC)(北興化学工業株式会社製)
【化44】
【0088】
<成分(E):無機充填剤>
成分(E)として下記(E1)~(E3)を使用した。
成分(E1)無機充填剤1:平均粒径D50が22μmの溶融球状シリカ(FB-820、デンカ株式会社製)
成分(E2)無機充填剤2:球状アルミナ(TCH75H-SI、アドマテックス株式会社製)
成分(E3)無機充填剤3:磁性粉体(酸化鉄)(DAMPMS-B(-200)、大同特殊鋼株式会社製)
【0089】
<その他の成分>
離型剤としてカルナバワックス(クラリアントジャパン株式会社製)、着色剤としてカーボンブラック(MA600、三菱化学株式会社製)を使用した。
【0090】
(実施例1)
硬化樹脂用組成物(以後、「組成物」または「硬化前の硬化樹脂用組成物」とも称する)および硬化物を以下のようにして調製し、硬化樹脂用組成物の重量平均分子量、耐熱性評価としての硬化物のガラス転移温度、常温安定性の評価としての硬化樹脂用組成物のパウダーTgおよびべたつき性を測定した。
(A)、(B1)、および(C2)を、表1に示す配合割合で、表面温度が100℃に設定された熱板上で、大気圧下で5分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。該混合物を乳鉢で粉末状に粉砕して組成物を得た。
【0091】
<ガラス転移温度;Tg>
DSCで用いられるアルミ製パンに組成物を約10mg秤量し、オーブンで220℃、5時間加熱し硬化物を得た。得られた硬化物のTgをDSCによって下記条件により測定した。結果を表1に示した。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N2流量;20mL/分、昇温速度;20℃/分
【0092】
<重量平均分子量>
(A)、(B1)、および(C2)を、表1に示す配合割合で、表面温度が100℃に設定された熱板上で、大気圧下で5分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。該混合物を乳鉢で粉末状に粉砕して配合物を得た。得られた配合物について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により以下の条件で標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示した。
装置:GPCシステム HLC-8420GPC(RI検出器内蔵)(株式会社東ソー製)
カラム:TSKgel superHZ2000(株式会社東ソー製)(内径4.5mm×150mm)×1本、およびTSKgel superHZ1000(株式会社東ソー製)(内径 4.5mm×150mm)×2本を直列に接続
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.35mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:5μL
分子量標準:標準ポリスチレン(PStQuick F、株式会社東ソー製)
【0093】
<パウダーTg>
硬化前の硬化樹脂用組成物をアルミ製パンに約10mg採取し、下記条件によりガラス転移温度Tg(パウダーTg)を測定した。結果を表1に示した。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N2流量;20mL/分、昇温速度;5℃/分、測定範囲;-40~50℃
【0094】
<べたつき性評価>
硬化前の硬化樹脂用組成物1gをスクリュー瓶(軽量規格瓶(ソーダガラス)No.7、株式会社マルエム)に採取し、蓋をして密閉した後に温度23±1度、湿度50±5℃に調整された恒温室で24時間保管した。その後、スクリュー瓶を逆さにし、静置してから5分後に、組成物が瓶底に付着していなければ「〇」(べたつき無し)、組成物が瓶底に付着して蓋の方へ落ちなければ「×」(べたつき有り)と判定した。組成物の一部が瓶底に付着していた場合も「×」(べたつき有り)と判定した。結果を表1に示した。
【0095】
(実施例2~14、26、27)
各成分の配合割合を表1に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各実施例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にして重量平均分子量、耐熱性(ガラス転移温度)、常温安定性(パウダーTg、べたつき性)を測定した。なお、実施例4~6における配合物は、成分(A)、(B)、および(C)からなり、成分(D)は含まれない。結果を表1に示した。
【0096】
(比較例1~8)
各成分の配合割合を表2に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各比較例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にして重量平均分子量、耐熱性(ガラス転移温度)、常温安定性(パウダーTg、べたつき性)を測定した。なお、比較例2における配合物は、成分(A)、(B)、および(C)からなり、成分(D)は含まれない。結果を表2に示した。
【0097】
【0098】
【0099】
各実施例の硬化樹脂用組成物の硬化物のTgは220℃以上であり、高耐熱性であることが分かる。また、各実施例における硬化前の硬化樹脂用組成物のパウダーTgが3℃以上であり、べたつきがないことから、常温安定性に優れていることが分かる。なお、実施例7~14の硬化樹脂用組成物は、恒温室で24時間保管してもべたつきがなく、逆さにすると瓶底の形を維持したまま全量が蓋の方に落ちた。したがって、実施例7~14の硬化樹脂用組成物は、実施例1~6、26および27の硬化樹脂用組成物と比べて、よりべたつきがないものと考えられる。一方、比較例4~8の硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物はTgが低くなっており耐熱性に劣っている。また、比較例1~3の硬化前の硬化樹脂用組成物のパウダーTgが3℃未満であり、べたつきを有することから、常温安定性に劣っていることが分かる。
以上の結果から、本発明の実施形態である硬化樹脂用組成物は、常温安定性に優れながら、その硬化物は高耐熱性を達成していることが分かる。
【0100】
(実施例15)
硬化樹脂用組成物(以後、「組成物」または「硬化前の硬化樹脂用組成物」とも称する)および硬化物を以下のようにして調製し、硬化樹脂用組成物の重量平均分子量、耐熱性評価としての硬化物のガラス転移温度、常温安定性の評価としての硬化樹脂用組成物の固結性を測定した。
(A)、(B1)、(C2)、(D1)、(E1)、カルナバワックス、およびカーボンブラックを、表3に示す配合割合で、表面温度が90℃と100℃の2本ロールを有する熱ロール混練機(BR-150HCV、アイメックス株式会社)を用いて大気圧下で10分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。得られた混合物をミニスピードミルMS-09(ラボネクト株式会社製)により、金型への充填が良好に行えるように粉末状に粉砕して組成物を得た。
【0101】
<ガラス転移温度;Tg>
トランスファー成形機を用い、金型温度200℃、注入圧力4MPa、硬化時間3分の条件で、調製した組成物を硬化させ、さらに、後硬化処理としてオーブンで220℃、4時間加熱することで縦3mm×横3mm×長さ15mmの硬化物を作成した。該硬化物を縦3mm×横3mm×長さ2mmの大きさに切断した試験片を用いて、DSCによって下記条件によりTgを測定した。結果を表3に示した。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N2流量;20mL/分、昇温速度;20℃/分
【0102】
<重量平均分子量>
実施例15の組成物のうちの成分(A)、(B)および(C)からなる配合物を製造し、かかる配合物について実施例1と同様にしてGPCにより標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。具体的には、(A)、(B1)、および(C2)を、表3に示す配合割合で、表面温度が100℃に設定された熱板上で、大気圧下で5分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。該混合物を乳鉢で粉末状に粉砕して配合物を得た。得られた配合物の重量平均分子量をGPCにより測定した。結果を表3に示した。
【0103】
<固結性評価>
硬化前の硬化樹脂用組成物1gをスクリュー瓶(軽量規格瓶(ソーダガラス)No.7、株式会社マルエム)に採取し、蓋をして密閉した後に温度23±1度、湿度50±5℃に調整された恒温室で24時間保管した。その後、瓶を逆さにし、静置してから5分後に組成物を目視し、固結の有無を確認した。その結果、組成物の固結が認められないか、固結しても瓶を逆さにすればほぐれる場合には「〇」、瓶を逆さにしても組成物の固結が認められる場合には「×」と判定した。結果を表3に示した。
【0104】
(実施例16~25)
各成分の配合割合を表3に示した通りとした以外は実施例15と同様にして、各実施例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例15と同様にして重量平均分子量、耐熱性評価(ガラス転移温度)、常温安定性(固結性)を測定した。結果を表3に示した。
【0105】
(比較例9~12)
各成分の配合割合を表4に示した通りとした以外は実施例15と同様にして、各比較例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例15と同様にして重量平均分子量、耐熱性評価(ガラス転移温度)、常温安定性(固結性)を測定した。結果を表4に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
各実施例の硬化樹脂用組成物の硬化物のTgは230℃以上であり、高耐熱性であることが分かる。また、実施例の硬化前の硬化樹脂用組成物の固結性は「○」であることから、常温安定性に優れていることが分かる。中でも、実施例24、25は特に組成物の固結が認められなかった。一方、比較例10~12の硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物はTgが低くなっており耐熱性に劣っている。また、比較例9の硬化前の硬化樹脂用組成物の固結性は「×」であることから、常温安定性に劣っていることが分かる。
以上の結果から、本発明の実施形態である硬化樹脂用組成物は、常温安定性に優れながら、その硬化物は高耐熱性を達成していることが分かる。