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特許7569786生検サンプル画像の異なるカテゴリを識別するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】生検サンプル画像の異なるカテゴリを識別するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20241010BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20241010BHJP
   G16H 30/40 20180101ALI20241010BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/483 C
G16H30/40
C12Q1/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021525158
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019080706
(87)【国際公開番号】W WO2020094849
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】1851390-3
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521196822
【氏名又は名称】エム・エム・18 メディカル アー・ベー
【氏名又は名称原語表記】MM18 Medical AB
【住所又は居所原語表記】Munkgatan 5A, 753 09 Uppsala, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エリック ウィランダー
(72)【発明者】
【氏名】セレン ニグレン
(72)【発明者】
【氏名】タダス マルツィンケヴィツィウス
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/123043(WO,A1)
【文献】特表2018-502275(JP,A)
【文献】特表2014-529158(JP,A)
【文献】特表2005-535892(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087112(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/087415(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0115139(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,33/483,33/536,
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織または細胞のサンプル中の異なるカテゴリの細胞の存在を識別する際に使用される、色範囲を画定するための方法であって、
a)複数のサンプルを少なくとも1つのバッチに分割し、各バッチについて、各サンプルを染色し、第1のカテゴリおよび第2のカテゴリに分類するステップ(S2a)と、
b)各サンプルのサンプル画像を取得するステップ(S2b)と、
c)各バッチのサンプル画像について、前記第1のカテゴリに属するサンプルを識別する色範囲を画定するステップ(S3)と、
d)各バッチにおける前記サンプル画像を評価し、各バッチについての色範囲を調整して、前記複数のサンプルのうち前記第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正確にカテゴライズされることを保証するステップ(S4)と、
e)少なくとも1つの閾値を選択し、組織または細胞のサンプル中の前記第1のカテゴリに属する細胞を識別する際に使用される、調整された色範囲を記憶するステップ(S12)と
を含む、方法。
【請求項2】
前記サンプルが幾つかのバッチに分割され、ステップe)を行う前に、ステップc)およびステップd)が各バッチについて繰り返される(S10)、請求項1記載の方法。
【請求項3】
各サンプルが、参照フィールドをさらに含み、ステップa)が、前記参照フィールドを染色するステップをさらに含み、前記方法が、ステップe)を行う前に、前記参照フィールドの色に基づいて、各バッチについて前記調整された色範囲を正規化するステップ(S11)をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ステップc)が、デフォルトの色範囲を選択するステップをさらに含み、ステップd)が、前記複数のサンプルのうち前記第1のカテゴリに属する全てのサンプルが識別されることを保証し、前記第1のカテゴリに属すると誤って識別される前記第2のカテゴリに属するサンプルを最小とするために、前記色範囲を調整するステップをさらに含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの閾値が、次の選択肢、すなわち
(a)記憶された前記色範囲および前記色範囲における測定されたピクセル数、
(b)サンプル画像のバッチ内の最大ピクセルグループ、
(c)サンプル画像のバッチ内のサンプル画像当たりの全てのピクセルグループの合計、および/または
(d)最小サイズのピクセルグループ、
のいずれかに基づいて、前記第1のカテゴリに属するサンプルと前記第2のカテゴリに属するサンプルとが分離されるように選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
第1のカテゴリに属する細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法であって、
前記方法が、前記少なくとも1つの閾値を取得しまたは事前決定し、かつ請求項1からまでのいずれか1項に従って調整された色範囲を取得するステップ(S21)を含み、
前記方法が、
A)組織および/または細胞を含む少なくとも1つの患者サンプルを染色するステップ(S22a)と、
B)各患者サンプルのサンプル画像を取得するステップ(S22b)と、
C)各患者サンプル画像についての前記色範囲内の異常ピクセル重みの合計または前記色範囲内に入るピクセル数を前記サンプル画像内のピクセルの総数で除算することによって求めたピクセル比として総ピクセル値を決定するステップ(S24)と、
D)前記サンプル画像内の前記総ピクセル値が、取得されたもしくは事前決定された前記少なくとも1つの閾値を下回る場合に、各患者サンプルを前記第2のカテゴリに属すると分類するステップ、または前記サンプル画像内の前記総ピクセル値が、取得されたもしくは事前決定された前記少なくとも1つの閾値以上である場合に、各患者サンプルを前記第1のカテゴリに属すると分類するステップ(S25,S26a,S26b)と、
E)前記第2のカテゴリに属する患者サンプルをレビューから除外するステップ(S29)と、
をさらに含む、方法。
【請求項7】
幾つかの患者サンプルが、同じ患者からの細胞を含有し、ステップA)~ステップD)を、各患者サンプルについて繰り返し、前記方法が、ステップE)の前に、
前記患者サンプルのいずれかが、ステップC)において前記第1のカテゴリに属すると分類された場合、前記第2のカテゴリに属する患者サンプルを前記第1のカテゴリに属する患者サンプルとして再分類することにより、前記同じ患者からの細胞を含有する患者サンプルについての結果を集約するステップ(S28)
をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
ステップC)が、赤色ピクセルまでの距離に基づいてピクセルを重み付けする更なるステップを含み、最も近い赤色ピクセルからの距離に基づく重み値が、各残りのピクセルに割り当てられ、ピクセルが前記最も近い赤色ピクセルに近い場合には低い値が割り当てられ、ピクセルが前記赤色ピクセルから遠い場合には高い値が割り当てられる、請求項6または記載の方法。
【請求項9】
ステップC)が、
C1)背景領域に対応するサンプル画像内のピクセルを除去するステップ(S30)と、
C2)総サンプルピクセルカウントを得るために、サンプル領域(SA)中の残りのピクセルをカウントするステップ(S31)と、
C3)前記サンプル画像から取得された前記色範囲外のピクセルを除去するステップ(S32)と、
C4)前記第1のカテゴリ(CA)に属するサンプル内の色に対応するピクセルカウントを得るために、前記色範囲(CA)内の前記残りのピクセルをカウントするステップ(S33)、と、
C6)前記第1のカテゴリ(CA)に属するサンプル内の色に対応する前記ピクセルカウントを、前記総サンプルピクセルカウント(SA)で除算することにより、前記サンプル画像についての前記色範囲内のピクセルの比として、総ピクセル値を計算するステップ(S34)と、
を含む、請求項からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、
排除色範囲(EA)内のピクセルを位置特定するステップ(S35)と、
前記第1のカテゴリ(CA)に属するサンプル内の色に対応するピクセルカウントを得るために、ステップC4)において前記サンプル画像内の前記残りのピクセルをカウントする際に、位置特定された前記排除色範囲(EA)内のピクセルの影響を低減するステップ(S36)と、
をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記残りのピクセルが、前記色範囲内のピクセルに対応し、ステップC)が、
C12)前記サンプル画像から取得された前記色範囲外のピクセルを除去するステップと、
C14)グループに属する全ての残りのピクセルが当該グループ内の他の残りのピクセルから最長距離内にあるように、残りのピクセルをグループに割り当てるステップと、
C15)当該グループの残りのピクセルの全てのピクセル重みを合計することにより、各グループについての異常ピクセル重みの合計計算するステップと、
を含む、請求項または10記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの閾値を取得するかまたは事前決定し、第1の閾値をサンプル画像内のピクセルの各グループと比較し、かつ/または第2の閾値をサンプル画像内のピクセルの全グループの合計と比較し、かつ/または第3の閾値をサンプル画像内のピクセルグループのサイズと比較する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ステップBの後、かつ、ステップCの前に、サンプルが前記第1のカテゴリに属すると誤って分類される危険性を低減するために、前記サンプル画像のエッジを切り取る、請求項から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのバッチに分割された複数のサンプルを使用して、組織または細胞のサンプル中の第1のカテゴリに属する細胞の存在を識別する際に使用される、色範囲を画定するためのシステム(140)であって、
各バッチは染色されており、各サンプル(90)は第1のカテゴリおよび第2のカテゴリに分類されており、
前記システムは、各サンプル(90)のサンプル画像を取得するように構成された画像スキャナ(141)と、第1の制御ユニット(142)と、データ記憶ユニット(dB)とを備え、
前記第1の制御ユニット(142)は、
各バッチのサンプル画像について、前記第1のカテゴリに属するサンプルを識別する色範囲を画定し、
各バッチにおける前記サンプル画像を評価し、各バッチについての前記色範囲を調整して、前記複数のサンプルのうち前記第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正確にカテゴライズされることを保証し、
組織または細胞のサンプル中の前記第1のカテゴリに属するサンプルを識別する際に使用される調整された色範囲を、前記データ記憶ユニット(dB)内に記憶する、
ように構成されている、
システム(140)。
【請求項15】
記システムは、第2の制御ユニット(143)をさらに備え、
前記第2の制御ユニット(143)は、
請求項14記載のシステムにより調整された色範囲を、前記データ記憶ユニット(dB)から取得し、
各患者サンプル画像についての前記色範囲内の異常ピクセル重みの合計または前記色範囲内に入るピクセル数を前記サンプル画像内のピクセルの総数で除算することによって求めたピクセル比を決定し、
前記サンプル画像内の前記異常ピクセル重みの合計または前記ピクセル比が、事前決定されたもしくは取得された少なくとも1つの閾値を下回る場合に、各患者サンプルを第2のカテゴリに属すると分類し、または前記サンプル画像内の前記異常ピクセル重みの合計または前記ピクセル比が、前記少なくとも1つの閾値以上である場合に、各患者サンプルを前記第1のカテゴリに属すると分類し、
前記第2のカテゴリに属する患者サンプルをレビューから除外すると識別する、
ように構成されている、
請求項14記載のシステム。
【請求項16】
1のカテゴリに属するサンプルを識別する際に使用される、色範囲を画定するためのコンピュータプログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサ上で実行される際に、前記少なくとも1つのプロセッサに、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法を実行させるための命令を含む、
コンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項16記載の色範囲を画定することに関連するイベントを再構成するためのコンピュータプログラムを有する、コンピュータ可読記憶媒体(160)。
【請求項18】
第1のカテゴリに属するサンプルを選択するためのコンピュータプログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサ上で実行される際に、前記少なくとも1つのプロセッサに、請求項から13までのいずれか1項記載の方法を実行させるための命令を含む、
コンピュータプログラム。
【請求項19】
請求項18記載の、組織または細胞のサンプルを選択するためのコンピュータプログラムを有する、コンピュータ可読記憶媒体(160)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生検サンプル画像をスクリーニングするための方法および生検サンプルの異なるカテゴリに関する画像を識別するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
生検サンプルの組織学的染色は、各種の医学的診断手法、例えば、細胞レベルでの変化に関連する特定の疾患または状態の識別に使用される。
【0003】
世界的に、前立腺腺がんは乳がんに次いで最も一般的な腫瘍種であり、そのため、前立腺腺がんの正確な組織学的診断は世界的に重要な問題である。
【0004】
前立腺腺がんは、スウェーデンで最も罹患率の高い種類の男性がんであり、毎年10000例以上が新たに診断されている。先進国全体を通して、同様の統計が見られる。前立腺腺がんは男性の全がん症例の約30%を占め、主に高齢の男性に発生する。したがって、この腫瘍の70%は、70歳以上の男性で診断される。毎年2000人以上の男性が前立腺がんにより死亡しており、前立腺腺がんは、スウェーデンの男性における悪性腫瘍による最も一般的な死因である。
【0005】
スウェーデンでは、前立腺腺がんのための組織的スクリーニングは導入されていないが、中高年の男性は、PSA(前立腺特異抗原)の分析のための採血を行うことにより、前立腺腺がんのためのスクリーニングをすることが定期的に推奨されている。PSAレベルの上昇は、前立腺腺がんの危険性上昇を示す。PSAレベルが上昇している男性は、前立腺から生検を取得するために泌尿器科手術を受けることが推奨される。こうした生検は、他の視覚的方法、例えば、超音波およびデータトモグラフィが使用される場合であっても、前立腺腺がんの診断のための最終的な根拠となる。
【0006】
スウェーデンでは、毎年約20000人の男性が前立腺の生検を受けており、各男性において、通常12回程度の生検が収集されるため、毎年約250000回の前立腺の組織学的スライドガラスが検査されている。これは、外科的病理学において教育された医師により行われる光学顕微鏡検査によって達成されるため、時間のかかる手法である。医学的に訓練された専門家による針生検の顕微鏡検査を使用する、こうした従来の手技および結果としての診断は、前立腺腺がんの診断のゴールドスタンダードと称されている。これらの生検の大部分(50%以上)は、正常な顕微鏡的特徴を示し、このため、正常または良性の組織サンプルに関するものと識別される場合がある。同じ患者から採取された1つ以上のサンプルががん細胞または悪性細胞の徴候を示す場合は、更なる評価が必要である。したがって、各個々の患者から採取されたサンプルのバッチは、グループとしても評価される必要がある。
【0007】
大腸(結腸)がんは、男女ともに一般的な種類がんである。スウェーデンのがん登録によれば、年間約5000の新たな症例が記録されている。結腸がんは、大部分が腸壁内の原発性腫瘍および局所リンパ節も含む腸間膜を含む根治的手術により治療される。大部分の手術標本では、各症例の原発性がん周囲の脂肪組織において、15個以上のリンパ節が特定される場合がある。これは、スウェーデンにおいて、結腸がんを有する個人のリンパ節75000~100000個を毎年顕微鏡で検査していることを示す。結腸がんにおけるリンパ節転移の識別は、腫瘍の病期分類および術後治療の選択に重要である。
【0008】
国際公開第2013/064605号は、個々の細胞におけるバイオマーカーの発現、特に、多重バイオメトリック画像の分析に関する。米国特許第6297044号明細書には、口腔内の病変を試験するための装置と、例えば疑わしいがん性状態に起因してどの細胞が更なる試験を必要とするかを検出することができる、プログラムされたコンピュータを含む分析システムとが言及されている。
【0009】
現在、医療分析の分野において、デジタル技術および自動画像分析の使用の急速な進歩が見られる。これらの技術は、近い将来、実験室医学における補助としてますます主要な役割を果たすようになるであろう。本発明の発明者らは、精度を維持しながら、より効果的なスクリーニングを提供する、改善されたスクリーニング法の必要性を認識している。
【0010】
発明の概要
本発明の目的は、生検の免疫組織化学的染色を適用した後のデジタル画像のコンピュータ分析により、組織生検を迅速にスクリーニングするための方法を提供することである。
【0011】
別の目的は、更なる評価を必要としない生検の識別および選別のための迅速かつ効率的な方法を提供し、当該方法において、病理医による視覚的(顕微鏡的)検査を要求する生検の数を顕著に減少させることである。上で言及したように、これにより、医学的に訓練された人員を必要とする作業負荷が50%以上減少するはずである。加えて、これにより、患者に対する応答時間も短くなるはずである。
【0012】
更なる目的は、コスト効率が高く、有効性が極めて高い方法を提供することである。
【0013】
上で言及した目的は、各独立請求項に係る本発明により達成される。好ましい実施形態は、各従属請求項に記載されている。
【0014】
第1の態様では、組織または細胞のサンプル中の異なるカテゴリの細胞の存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法が開示される。この方法は、
a)複数のサンプルを少なくとも1つのバッチに分割し、各バッチについて、各サンプルを染色し、第1のカテゴリおよび第2のカテゴリに分類するステップと、
b)各サンプルのサンプル画像を取得するステップと、
c)各バッチのサンプル画像について、第1のカテゴリに属するサンプルを識別する色範囲を画定するステップと、
d)各試験バッチにおけるサンプル画像を評価し、各試験バッチについての色範囲を調整して、第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正確にカテゴライズされること保証するステップと、
e)少なくとも1つの操作閾値(operational threshold)を選択し、組織または細胞のサンプル中の第1のカテゴリに属する細胞を識別する際に使用される調整された色範囲を記憶するステップと
を含む。
【0015】
典型的には、ステップa)において、サンプルを予め分類しかつ/またはサンプルの分類を、医学的に訓練された人員により行い、この人員は、カテゴリの異なる着色に基づいて、各サンプルを評価し、2つのカテゴリのうちの1つとしてカテゴライズする。第1のカテゴリおよび第2のカテゴリはそれぞれ、非正常細胞サンプルおよび正常細胞サンプル、例えば悪性サンプルおよび良性サンプル、または異なる段階の疾患、例えばがんを表す。
【0016】
典型的には、ステップd)において、色範囲の調整を、第2のカテゴリのサンプルに見られる色値を除外することにより行う。
【0017】
第2の態様では、第1のカテゴリの細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法であって、当該方法が、少なくとも1つの閾値および上記の色範囲を取得しまたは事前決定すること(S21)を含み、
当該方法がさらに、
A)組織および/または細胞を含む少なくとも1つの患者サンプルを染色することと、
B)各患者サンプルのサンプル画像を取得することと、
C)総ピクセル数、例えば各患者サンプル画像についての色範囲内の異常ピクセル重みの合計またはピクセル比を決定することと、
D)サンプル画像内の総ピクセル数が、取得されたもしくは事前決定された少なくとも1つの閾値を下回る場合に、各患者サンプルを第2のカテゴリに属すると分類すること、またはサンプル画像内の総ピクセル数が取得されたもしくは事前決定された少なくとも1つの閾値以上である場合に、各患者サンプルを第1のカテゴリに属すると分類することと、
E)第2のカテゴリに属する患者サンプルをレビューから除外することと
を含む、方法が開示される。
【0018】
本開示でさらに説明されるように、総ピクセル数は、本発明の実施形態に従って、種々の方法で導き出すことができる。
【0019】
一実施形態では、合計された異常色ピクセルを、典型的には、赤色(血液を示す)に対する距離について重み付けし、ついで、結果を、サンプルピクセルの総数で除算することにより、ピクセル比が得られる。
【0020】
別の実施形態では、サンプルピクセルの総数を使用せず、代わりに、近くの異常色ピクセル(これも血液までの距離に対して重み付けするが、サンプルピクセルの総数で除算することはない)を合計する。この実施形態では、(カラーフィルタリング後の)ステップは、典型的には、以下のとおりとなるであろう。すなわち
1.がん色ピクセルを、距離によりグループにグループ化する(このため、同じ画像内に幾つかの別々のグループが存在する場合がある)、
2.各グループについてのがんピクセル重みを別々に合計する、
3.各グループの結果を、所定の閾値と(別々に)比較する。1つのグループの結果が、閾値以上である場合でも、サンプル全体を第1のカテゴリ(非正常)と分類する。全てのグループの結果が、閾値未満である場合にのみ、第2のカテゴリ(正常)と分類する。
【0021】
この実施形態では、ピクセルがどのようにグループ化されるか(距離がどれだけ長いか)および閾値レベルを決定するのが特に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1a】組織または細胞のサンプル中の少なくとも2つのカテゴリの細胞のうちの1つの存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法に使用される、組織学的に染色された組織サンプルの例示的な画像を示す。
図1b】組織または細胞のサンプル中の少なくとも2つのカテゴリの細胞のうちの1つの存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法に使用される、組織学的に染色された組織サンプルの例示的な画像を示す。
図2】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法に使用される、組織学的に染色された組織サンプルの例示的な画像を示す。
図3】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図4】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図5】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図6】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図7】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図8】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図9】非正常前立腺細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の種々のステップの適用後の図2のサンプルの画像を示す。
図10】組織学的に染色されたサンプルのバッチのグラフを、所定の色範囲内の悪性指標値の関数として示す。
図11】組織または細胞のサンプル中の特定のカテゴリの細胞の存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法のフローチャートを示す。
図12】特定のカテゴリの細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法のフローチャートを示す。
図13】特定のカテゴリの細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の更なる任意のステップのフローチャートを示す。
図14】特定のカテゴリの細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の較正および/または操作のためのシステムを示す。
図15】本明細書に記載された方法を実施するためのソフトウェアを実行するように構成されている制御ユニットを示す。
図16】本明細書に記載された方法を実施するように構成されているソフトウェアを有するように構成されている例示的な装置を示す。
図17】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図18】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図19】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図20】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図21】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図22】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図23】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図24】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図25】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図26】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図27】実施例4(絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化)を示す。
図28】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図29】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図30】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図31】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図32】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図33】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図34】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図35】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図36】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
図37】実施例5(サンプルエッジ切り取りプログラムフロー)を示す。
【0023】
定義
「総ピクセル数」という用語は、サンプル画像またはサンプル画像の一部が正常サンプルまたは非正常サンプルを指すかどうかを決定するために、事前決定されたまたは取得された閾値と比較される値を指す。「総ピクセル数」は、例えば、「異常ピクセル重みの合計」または「ピクセル比」でありうる。
【0024】
「異常ピクセル重みの合計」は、ピクセルグループにおけるピクセル重みの合計を第1の閾値と比較し、全てのグループにおけるピクセル重みの合計を第2の閾値と比較する場合に使用され、第2の閾値は、典型的には、第1の閾値より高い。このため、「異常ピクセル値の合計」を使用する場合、異常ピクセル(がんピクセル対残り部分)を典型的に識別し、ついで、それらの色値を廃棄し、その代わりに、それらの重み(血液への距離)をそれらの新しい値として割り当てる。ピクセル重みを合計する時点で、元のピクセル値情報は残っておらず、各ピクセルについての重み値のみが、短い「重み」で残っている。このため、「異常ピクセル重みの合計」という用語は。
「ピクセル比」は、選択された基準内に入るピクセル数を含むピクセル値(場合により、血液までの距離について重み付けされる)をサンプル画像内のピクセルの総数で除算する場合に使用される。
【0025】
「選択された基準に入るピクセル」は、背景および色のフィルタリング処理後に残るピクセル、例えば、がんピクセルを意味する。このようなピクセルを「異常ピクセル」と定義することもできる。
【0026】
詳細な説明
本発明の目的の1つは、分析されるサンプルのプールから大部分のサンプルを効果的に排除し、このため、リソースを有効活用し、時間を節約することである。これにより、医学的に訓練された人員を必要とする手作業負荷の量が少なくとも50%減少するであろう。
【0027】
医学的に訓練された人員を必要とする手作業負荷を大幅に減らすことの1つの効果により、患者への対応時間がより迅速になり、次に、患者のがんまたは他の診断の早期識別につながり、より迅速な治療の開始が可能となる。当然、例えば、非がんサンプルまたは正常サンプルのより迅速な識別ももたらし、このため、関係する人々の生活の質を改善する。
【0028】
もう1つのポジティブな効果は、組織病理学および病理学分野の医学的に訓練された人員のための改善された作業環境およびより少ないストレスである。人員が陽性または複雑なサンプルに焦点を当てることにより、更なる評価を必要としないサンプルの大部分を排除することにより、医療におけるリソースの使用が改善されるであろう。
【0029】
以下に、サンプルの特定のカテゴリに相関する色範囲が画定される方法の例示的な適用が開示される。画定された色範囲は、その後、サンプルを少なくとも2つのカテゴリに分類するための更なる方法において、サンプルの別のバッチに使用される。
【0030】
本明細書に開示する方法は、男性患者における前立腺の生検により採取され、組織学的に染色された細胞サンプルの大きなバッチ中の正常細胞サンプルから非正常細胞サンプルを識別し、選択しかつ/または分離することに関して記載される。ただし、本明細書に示されるように、開示する方法は、細胞サンプルの1つのカテゴリが細胞サンプルの別のカテゴリと着色が異なる、本質的に任意の種類の染色された細胞サンプルに適用することができる。その結果、染色により識別され、互いに区別されるカテゴリの異なる着色がもたらされる限り、細胞サンプルまたは組織サンプルの任意の種類の染色を、開示する方法に使用することができる。
【0031】
他の適用の例は、種々の他の種類のがん、他の疾患または画像のバッチが一方のカテゴリにおいて(他のカテゴリではなく)定量化可能な色範囲の存在に基づいて異なるカテゴリにカテゴライズされる必要がある任意の手法である。
【0032】
より具体的には、本明細書に開示する方法を、デジタル病理学の分野において広く適用することができる。このため、サンプルを染色することができ、染色されたサンプルの色差を本発明の特許請求の範囲に従って分析することができる他の組織も、本発明の範囲内である。
【0033】
染色された組織サンプルを評価する公知の方法、例えば、正常細胞もしくは非正常細胞のいずれかまたは異なる発生段階の細胞に特異的な染色技術を、多くの異なる状況において使用することができる。本明細書に例示する1つの例は、サンプルが正常細胞からがん細胞に変形した細胞を含むかどうかを決定するためのものである。公知の技術は、典型的には、細胞サンプルにおける構造的差異と染色の色分布における差異との両方を識別することによる。手動で評価する場合、これは、非常に時間のかかるプロセスである。本開示は、別のカテゴリのサンプルと比較して、一方のカテゴリのサンプルの、染色され、スキャンされた画像における色パラメータの差異のみを使用し、その後、これらの差異を使用して、サンプルの異なるカテゴリを互いに確実に分離する、固有の特徴を識別する方法を提供する。
【0034】
染色結果の固有の変動、がん細胞の構造および外観の変化する性質ならびにサンプル中の組織の組成のために、当然、医学的に訓練された人員であっても、分類するのが困難なサンプルが存在するであろう。しかしながら、サンプルの大部分、例えば、正常細胞のみを含むと迅速に識別されるサンプルまたは更なる評価を必要としない任意の選択されたカテゴリを、更なる評価から排除することができれば、作業負荷が顕著に低減され、サンプルのより迅速な全体的評価がもたらされるであろう。
【0035】
本発明者らは、手動評価を必要とするサンプルの量を実質的に少なくするのに有効な方法がサンプルの選択されたカテゴリに相関する色範囲を画定する方法を使用することであると認識した。当該色範囲は、組織サンプルの予め分類されたバッチのスキャンされた画像における個々のピクセルの色に基づいて画定される。閾値は、特定のカテゴリのサンプルが更なる評価から排除されないことが保証されるように定義することができる。
【0036】
画定された色範囲が特定されると、この色範囲を、サンプルの別のバッチ、例えば、評価されるサンプルの新しいバッチにおけるサンプルを分類するのに使用することができ、サンプルは、第1のカテゴリまたは第2のカテゴリに属するものと分類される。更なる評価を必要とするカテゴリのサンプルは、好ましくは、その後、医学的に訓練された人員により最終段階でレビューされ、各サンプルまたはむしろ一人の患者からのサンプルの集合バッチが疾患または状態を示すかどうかが決定される。
【0037】
図1aおよび図1bに、組織または細胞のサンプル中の細胞のカテゴリのうちの1つの存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法に使用される、2つの異なるカテゴリを表す例示的な画像を示す。また、画像は、このように画定された色範囲を使用してサンプルをカテゴライズし、その後、1つのカテゴリを選択するための方法に使用される画像の代表例でありうる。
【0038】
図1aおよび図1bにおける前立腺生検サンプルは、以下の実施例1に記載されるように固定され、切片化され、染色されている。これらの特定の抗体(P504S、p63およびCK5に対する抗体)を使用する染色パターンにより、正常な前立腺(図1a)および前立腺腺がん(図1b)において基本的に異なる2つの色である褐色および赤色が生じる。
【0039】
図1aに、上記の染色後の正常な前立腺のサンプルを示す(ここではグレースケールで示す)。腺上皮1は染色されておらず、周辺筋上皮細胞2は赤色に染色されている(ここでは暗色として見られる)。組織は、腺の周囲の結合組織を表す青色の背景染色3を有する。
【0040】
図1bに、前立腺腺がんの染色サンプルを示す(ここではグレースケールで示す)。腺上皮は、腺がん細胞11に変形し、褐色染色を示す(ここでは半暗色として見られる)。周辺筋上皮細胞は消失しかつ正常な前立腺で赤く染まっている。組織は、腺の周囲の結合組織を表す青色の背景染色13を有する。
【0041】
このため、前立腺細胞のこの特定の種類の染色は、明確な色差を示し、この場合、顕微鏡で肉眼でも見ることができる。正常な前立腺は、かなりの量の特有の赤色染色を示す。一方、腺がんサンプルは、赤色を欠くが、かなりの量の特有の褐色染色を示す。特に、図1aおよび図1bに示された2つの例は、完全に正常な組織および完全に変形した組織の典型例である。他のサンプルでは、サンプルの一部が変換され、一部が正常である場合がある。さらに、他の種類の細胞および物質、例えば、血液もしくは他の体液の液滴、生検実行時に採取された他の種類の細胞が少量存在することも多い。ただし、がん細胞が存在すると、サンプルにおいて褐色染色がもたらされ、この褐色染色は、がん細胞を含まないサンプルにおいては見られないことは明らかである。
【0042】
以下に、方法の例示的な適用を説明するものとする。大きなサンプルバッチについての本方法の更なる適用ならびに他の種類の細胞および染色技術を使用する本方法の適用については、以下の実施例1および実施例2を参照のこと。
【0043】
第1の研究では、がん(悪性)サンプルまたは正常(良性)サンプルに予め分類された約130サンプルのバッチのサンプル画像を、HSV画像フォーマットで取得した。当技術分野において公知なように、このような画像内の各ピクセルの色は、3つの値:「色相」(0~179の範囲が可能)、「彩度」(0~255の範囲が可能)、および「値」(0~255の範囲が可能)により定義される。このようにして、各サンプル画像内の個々のピクセルの色を評価する。
【0044】
前立腺がん細胞の存在に特異的な色範囲を画定する第1の方法は、がんまたは悪性細胞の存在に特異的な褐色の、上述したように選択された染色種からの知識に基づいて、「褐色」範囲における全てのHSV値として定義することである。例えば、非正常細胞に特異的な色範囲を画定する際の出発点として、色相[8~28]、彩度[30~255]および値[31~200]のHSV値により定義される褐色の色範囲を選択することができる。別の実施形態では、がんの色範囲は、色相[175~179]、彩度[60~130]および値[40~120]および/または色相[0~22]、彩度[60~190]および値[40~130]でありうる。例えば、これらの範囲のいずれか1つに入る任意の色ががん色とみなされるように、これらの範囲の両方を使用することができる。
【0045】
非正常細胞の存在に特異的な色範囲を、例えば、画像中の他の色の重なりのために、正常画像中にも存在する上記の初期範囲内の個々の値、本事例では、褐色を除去することにより、さらに画定することができる。これは、まず、上記の初期褐色範囲に入る正常画像内の全てのピクセルを識別することにより行うことができる。これらのピクセルは、スキャンされた全ての正常画像でカウントされ、これらのピクセルにあらかじめ定義された回数(Nx)以上現れる各色値を、上記の非正常色範囲から除去し、このようにして、正常画像を定義する色として定義されるものとみなされる。Nxは、処理される画像の数および各画像におけるピクセル数に基づいて変化させることができる。
【0046】
非正常細胞の存在に特異的な得られた色範囲は、決定された色範囲を使用して、非正常細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法にさらに使用するために保存される。
【0047】
更なる適用として、本明細書に開示する方法は、腸間膜の局所リンパ節から採取されたサンプル中の結腸がんのステージを識別するのに適用することができる。これは、以下の実施例2に詳細に記載されている。結腸がんにおけるリンパ節転移の識別は、腫瘍の病期分類および術後治療の選択の両方に重要である。
【0048】
このため、上記の方法は、多くの異なる種類の染色された細胞または組織サンプルに適用可能である場合がある。
【0049】
このため、第1の態様では、図11から分かるように、組織または細胞のサンプル中の特定のカテゴリの細胞の存在を識別する際に使用される色範囲を画定するための方法が開示される。この方法は、
a)複数のサンプルを少なくとも1つのバッチに分割し、各バッチについて、各サンプルを染色し、第1のカテゴリおよび第2のカテゴリに分類すること(ステップS2a)と、
b)各サンプルのサンプル画像を取得すること(ステップS2b)と、
c)各バッチのサンプル画像について、第1のカテゴリに属するサンプルを識別する色範囲を画定すること(ステップS3)と、
d)各試験バッチにおけるサンプル画像を評価し、各試験バッチについての色範囲を調整して、第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正確にカテゴライズされることを保証すること(ステップS4)と、
e)少なくとも1つの操作閾値を選択し、組織または細胞のサンプル中の非正常細胞(または第1のカテゴリに属する細胞)を識別する際に使用される調整された色範囲を記憶すること(S12)と
を含む。
【0050】
上述したように、この方法を、第2のカテゴリのサンプルに見られる色値を除外しながら、第1のカテゴリのサンプルを含むサンプルの画像においてピクセルレベルで色範囲を画定するのに使用される。これを、医学的に訓練された人員によって事前に評価され、カテゴライズされたサンプルの少なくとも1つのバッチに対して行う。サンプルの染色を、公知の方法または新しい染色技術により行うことができる。その後、ステップS2aにおける最終分類ステップを、典型的には、医学的に訓練された人員により行う。同人員は、各サンプルを評価し、それを2つのカテゴリのうちの一方としてカテゴライズするであろう。ただし、2つの異なるカテゴリの組織または細胞の既知の供給源からサンプルを採取する、すなわち、予め分類し、その後染色することも考えられる。
【0051】
上記の例におけるように、カテゴリは、例えば、悪性サンプルである第1のカテゴリおよび良性サンプルである第2のカテゴリでありうる。悪性サンプルは、少なくとも1つの悪性またはがん細胞が識別されるサンプルである。良性サンプルは、がん細胞を有さない。
【0052】
本明細書において、絶対カテゴリ、例えば悪性サンプルまたは良性サンプルを定義する用語は、サンプルが正しく評価されることが絶対に確実である場合、すなわちゴールドスタンダードに従って、サンプルの試験、評価および診断手法の最終ステップにおいてのみ使用されることに留意されたい。
【0053】
カテゴリは、がん等の疾患の異なる段階または調製された細胞または組織サンプルにおいて異なる色分布を引き起こすサンプル種の他の差異でありうる。
【0054】
色範囲および操作閾値を画定する上で開示した方法は、他のサンプルバッチの評価の別の方法に後に使用することを意図している。評価または選択の方法は、以下にさらに詳細に説明されるであろう。
【0055】
ただし、分類されていない前立腺サンプルまたは他のサンプルの評価手順の初期段階では、幾つかのサンプルが誤ってカテゴライズされる危険性がある場合、正常および非正常のカテゴリを命名するのが好ましい。本明細書に提示された方法では、最初に、非正常カテゴリは、悪性サンプルならびに全体的に色が多すぎるかまたは色が少なすぎるかのいずれかのために誤った染色結果を有するサンプルを含む場合があり、他の種類の異常な細胞構造を含むサンプルも含む場合があると想定される。
【0056】
図11におけるステップS2a後、各画像をスキャンして、例えば、HSVフォーマットでの対応するサンプル画像を取得する(ステップS2b)。これらの画像を、色範囲を画定し、好ましくは、画定された色範囲を調整する更なるステップに使用する。
【0057】
好ましいが任意のステップとして、背景色に対応するピクセル、すなわち、非組織領域を、組織領域のみが評価されたサンプル領域の一部であるように、更なる計算から除外することができる(ステップS2c)。これを、特定の輝度レベルを上回る、例えば、輝度値200もしくは210もしくは220または任意の他の適切な輝度値を上回る、画像内の全てのピクセルを除外することにより行うことができる。図2図3とを比較すると、輝度値210を上回る全てのピクセルを除外する例を見ることができる。更なる任意のステップとして、極端に強い色彩による不確実な色のピクセルを、後続の計算に不確実性を含ませないために、サンプル画像から除外することができる。これを、特定の輝度および彩度値を下回る、例えば、30、31、32、33または任意の他の適切な輝度値を下回る画像中の全てのピクセルを除外することにより行うことができる。
【0058】
色範囲を、特定の細胞種における染色の経験的に見出された色分布に基づいて色範囲を選択することにより画定することができ(ステップS3)、その後、特定のカテゴリに属する全てのサンプルが見出されることを保証するために、ステップS4においてさらに洗練することができる。上記の前立腺生検の場合の例として、褐色範囲を、出発点として選択し、第1のカテゴリのサンプルが見逃されないことを保証するためにさらに洗練した。
【0059】
代替として、色範囲の画定は、第2のカテゴリと比較した場合のサンプルの第1のカテゴリを区別もしくは表示する色を示す適切な色範囲を識別し選択するために、画像の一部または完全な色スペクトルをスキャンすることにより行うことができる。さらに、このような差異は、デジタルスキャナシステムによってのみ識別可能であり、視覚的に知覚可能ではないと考えられる。いずれの場合も、第1のカテゴリに属する全てのサンプルが識別されるように、色範囲を選択する。
【0060】
幾つかの実施形態によれば、ステップS3は、第2のカテゴリのサンプルが第1のカテゴリに属するとカテゴライズされるのを防止するために、異常を識別するのに使用される、例えば、赤色範囲内の第2の色範囲を画定することをさらに含むことができる。このプロセスは、図13に関連してより詳細に説明される。
【0061】
色範囲を画定した後、第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正しくカテゴライズされることを保証するために、色範囲を評価し、調整する(ステップS4)。このステップを、まず、各サンプル画像において、選択された色範囲内のピクセル数を測定することにより行うことができる(ステップS5)。これは、好ましくは、画像の組織領域のみが含まれるように、上述したように、背景ピクセルが除外された状態で行われる。第1のカテゴリに属する全ての予め分類された画像を、それらが色範囲内に入ると評価することができる(ステップS6)。そうでない場合、第1のカテゴリの全てのサンプルが調整された色範囲内に入るまで色範囲を広げる、すなわち、更なる値を加える(ステップS7)。
【0062】
その後、場合により、第2のカテゴリに属する全ての予め分類された画像について、調整された色範囲外にあるかどうかを評価する(ステップS8)。当該ステップにおいて、第2のカテゴリの幾つかのサンプルが色範囲内に入る場合があることが予想されるため、完全なコンプライアンスを達成する必要はなく、そうである場合、これらを後続の段階で除去することができる。したがって、ステップS8において、第2のカテゴリのサンプル画像の特定の割合以上が選択された色範囲外にあるかどうかが評価されるように、閾値を選択することができる。当該閾値は、任意の割合、好ましくは90%超、より好ましくは95%以上であってよい。
【0063】
ステップS8の結果が、依然として色範囲外にある第2のカテゴリのサンプルの選択された閾値割合未満である場合、色範囲、例えば特定の色値を除去し、ステップS5からS8を繰り返すことにより調整することができる。
【0064】
その後、選択されたサンプルのカテゴリに特異的な最終的に得られた色範囲を、カテゴライズされていないサンプルの他のバッチを評価しまたは予め分類されたバッチ中のサンプルを検証するのに使用するために記憶する(ステップS12)。さらに、保存された色範囲および各サンプルについての色範囲内の測定されたピクセル数に基づいて、操作閾値を選択する。
【0065】
操作閾値を決定するのに使用される曲線の例を、図10に示す。図10に、選択された色範囲内の第1のカテゴリ(例えば、悪性)指標値の関数として、組織学的に染色されたサンプルのバッチのグラフを示す。
【0066】
全ての染色されたサンプルを、悪性指標値を決定するために処理し、悪性指標値の関数として位置を割り当てる。悪性指標値を決定するためのプロセスは、最も単純な形式では、各サンプルについて選択された色範囲内のピクセル数の測定である。より高度なプロセスでは、例えば、図13に関連して記載されたプロセスを使用することにより、各サンプルについての悪性指標値を決定する際に、異常が考慮される。
【0067】
悪性指標値を決定する例は、以下のとおりである。
【0068】
選択された彩度および輝度範囲内に100ピクセル(悪性+良性+血液)を有する画像を仮定する。この画像は、4つの悪性ピクセル(がん色範囲内)および95個の良性ピクセル(がん色範囲外)および1つの赤色ピクセル(血液を示し、良性であると考えられる)を有する。全てのサンプルが、選択された彩度および輝度範囲内に100ピクセルを有する場合、悪性ピクセル数は、悪性指標値として使用することができる。ただし、このようなことは稀であり、以下に、重み付けピクセル計算または重み付け異常ピクセル計算の3つの異なる例A、BおよびCが記載される。
【0069】
例A
重み付けピクセル計算により、4/100=0.04であるサンプルについての悪性指標値が生じるであろう。全てのピクセルが悪性である場合、最大悪性指標値は、1.0である。
【0070】
例B
重み付け異常計算を、各ピクセルに0~255の重みを割り当てることにより取得する。当該重みは、その所属ピクセルと赤色ピクセルとの間の距離に反比例する(多くの偽がん色ピクセルが、血液に最も近接して生じる)。各ピクセルの重みを決定するために、次の数式、すなわち
=(d)-a
が使用される。式中、aおよびaは定数であり、dは悪性ピクセルと赤色ピクセルとの間の距離である。この例では、a=3.8およびa=10である。ただし、ユースケースに応じて、他の定数を使用することができる。
【0071】
第1の悪性ピクセルは、赤色ピクセルに対して10ピクセルの距離を有し、第1のピクセルについての重みは、w=(103.8)-10=28である。第2のピクセルは、赤色ピクセルに対して20ピクセルの距離を有し、第2のピクセルについての重みは、w=(203.8)-10=66である。第3のピクセルは、赤色ピクセルに対して50ピクセルの距離を有し、第3のピクセルについての重みは、w=(503.8)-10=180である。第4のピクセルは、赤色ピクセルに対して100ピクセルの距離を有し、第2のピクセルについての重みは、w=(1003.8)-10=370である。当該重みは、最高値255に制限される。注記:画像5は、赤色ピクセルが(はるかに大きい実画像中の)どこにあるかを示し、画像8は、全てのピクセルの重みを輝度値として示す(黒色=重み0、白色=重み255)。
【0072】
悪性指標値は、図10に示されているように、重みの合計を総ピクセル数で割ったもの=(w+w+w+w)/100=(28+66+180+255)/100=5.29である。また、当該値は、最大重み255で除算することもでき、これにより、5.29/255=0.020745の悪性指標値を生じるであろう。当該値を、例Aの結果と比較することができる。
【0073】
Y軸上の値を、最大悪性指標値が100%に対応するように正規化することができる(図10においては図示せず)。
【0074】
悪性指標値が全てのサンプルについて計算されると、これらは、グラフ(図10)に表され、全ての悪性サンプルが正しくカテゴライズされることを保証するために、操作閾値100を選択する。第2のカテゴリ(例えば、良性)のサンプルのみが、操作閾値100を下回るであろう。この例では、操作閾値は、「ゴールドスタンダード」を保証するために、0.180392に設定される。
【0075】
例C
例Bの方法を、更新された数/他の数で行うことができる。
【0076】
重み付け異常計算を、各ピクセルに0~255の重みを割り当てることにより取得する。当該重みは、その所属ピクセルと赤色ピクセルとの間の距離に反比例する(多くの偽がん色ピクセルが、血液に最も近接して生じる)。各ピクセルの重みを決定するために、次の数式、すなわち
=(d)-a
を使用する。式中、aおよびaは、定数であり、dは、悪性ピクセルと赤色ピクセルとの間の距離である。この例では、a=7.0およびa=10である。ただし、ユースケースに応じて、他の定数を使用することができる。
【0077】
第1の悪性ピクセルは、赤色ピクセルに対して10ピクセルの距離を有し、第1のピクセルについての重みは、w=(107.0)-10=60である。第2のピクセルは、赤色ピクセルに対して20ピクセルの距離を有し、第2のピクセルについての重みは、w=(207.0)-10=130である。第3のピクセルは、赤色ピクセルに対して50ピクセルの距離を有し、第3のピクセルについての重みは、w=(307.0)-10=200である。第4のピクセルは、赤色ピクセルに対して100ピクセルの距離を有し、第2のピクセルについての重みは、w=(1007.0)-10=690である。当該重みは、最高値255に制限される。
【0078】
悪性指標値は、重みの合計を総ピクセル数で割ったもの=(w+w+w+w)/100=(60+130+200+255)/100=6.45である。また、この値は、最大重み255で除算することもでき、これにより、6.45/255=0.025294の悪性指標値を生じるであろう。この値を、例Aの結果と比較することができる。
【0079】
Y軸上の値を、最大悪性指標値が100%に対応するように正規化することができる。
【0080】
悪性指標値が全てのサンプルについて計算されると、これらは、グラフに表され、全ての悪性サンプルが正しくカテゴライズされるのを保証するために、操作閾値100を選択する。第2のカテゴリ(例えば、良性)のサンプルのみが、操作閾値100を下回るであろう。操作閾値は、「ゴールドスタンダード」を保証するために設定される。
【0081】
色範囲の評価および調整(ステップS4)後、任意のステップとして、同様に染色され、予め分類されたサンプルのサンプル画像の更なるバッチを評価すること(ステップS10)ができ、その後、各バッチについてステップS3およびS4を繰り返し、その後、最終的に得られた色範囲を記憶する。すなわち、色範囲の画定、評価および調整を、各更なるバッチに基づいて行うことができ、全てのバッチの結果を組み合わせ、その後、最終的に得られた色範囲および閾値を記憶することができる(ステップS12)。
【0082】
組織学の分野において公知であるように、染色されたサンプルは、彩度および色の分布が変化する場合がある。したがって、参照フィールドを、染色されたバッチ(染色事象)ごとに少なくとも1つまたは2つ以上のサンプルが固定されている各スライドガラス上のいずれかに含ませることができる。この参照フィールドにより、互いに比較して異なるバッチの調和が可能となる。このため、色範囲を画定するための方法の任意のステップは、各サンプルに隣接するまたは少なくとも同じサンプルスライド上に、同様に染色された参照フィールドを含ませることであり、これを使用して、参照フィールドの色に基づいて、各バッチについて調整された色範囲を正規化し(ステップS11)、その後、最終的に得られた色範囲を記憶する。参照フィールドについてのサンプルの染色の一例を、実施例3に示す。
【0083】
上述したように、サンプルの選択されたカテゴリに特異的な色範囲を画定し、保存した後、この色範囲を、選択されたカテゴリに属するサンプルを識別し、選択するために、サンプルの別のバッチを評価するのに使用することができる。例として、このプロセスは、前立腺の生検サンプルのバッチにおいて非正常細胞サンプルを選択し、このため、バッチから正常な色特性のみを示す全てのサンプルを除去することができることを説明するであろう。このプロセスは、選択された閾値と比較される選択された基準内に入るピクセルについての隣接ピクセル重みの合計または選択された閾値と比較されるサンプルピクセルの総数に対する、選択された基準内に入るピクセルの相対ピクセル数、すなわち、場合により重み付けされたピクセル比のいずれかに基づくことができる。本開示の文脈では、両選択肢は、総ピクセル数と呼ばれる。
【0084】
図2に、上で言及したように、染色された前立腺生検サンプルの例示的な画像を示す。上述したように、組織サンプルに関連するピクセルを分離するために、背景ピクセルを、特定の輝度値、例えば、205を超えるピクセルを除去することにより除去する。さらに、色の色値を測定するのが困難なピクセルを、31未満の輝度値を有するピクセルを除去することにより除去する。低い輝度値では、画像内のノイズが、ピクセル値のはるかに大きな部分を構成し、色相がノイズによる著しい変動を受けるためである。また、色相計算には著しい丸め誤差が存在するであろう。境界ピクセルの除去を、図13におけるステップS30に示す。図3に、明るいピクセルおよび暗いピクセルが除去された後の図2と同じサンプルを示す。
【0085】
ステップS31において、患者サンプル中のピクセルの総数であるサンプル領域(SA)、すなわち、明るいピクセルおよび暗いピクセルが除去された後の残り部分をカウントする。この段階で、予め定義され、取得された色範囲を使用し、色範囲外のピクセルを除去し(ステップS32)、患者サンプル中の色範囲内のピクセル数であるがん領域(CA)をカウントする(ステップS33)ことが可能である。
【0086】
画定された色範囲内に入るサンプルのピクセル比は、各サンプル画像について画定された色範囲内に入るピクセル数であるCA(図4に示され、色範囲内のピクセルは、白色ピクセルとして示される)を、患者サンプルのピクセルの総数であるSA(図3)で除算することにより、計算される(ステップS34)。悪性指標値とも呼ばれるこの比は、サンプルの分類の指標である。画像内の予め画定された色範囲内のピクセル比CA/SAが、ステップS12で選択された操作閾値を上回る場合に、サンプルを非正常サンプルと分類する。一方、この比が操作閾値を下回る場合に、サンプルを正常と分類する。
【0087】
上記の比の計算および分類を、バッチ内の各サンプル画像について繰り返すことができる。その後、非正常サンプルを、医学的に訓練された人員による更なるレビューのために選択する。
【0088】
特に、特定の形態のがん、例えば、前立腺がんでは、個々の患者からの全てのサンプルが、がん細胞を示すわけではないことが一般的であるため、各患者からのサンプルを、好ましくは集約する。同じ患者からのサンプルのグループにおいて、少なくとも1つのサンプルを、非正常と分類した場合、その患者からのサンプルのグループ全体を、非正常と分類し、医学的に訓練された人員により、がんの存在を評価するためにレビューされるであろう。
【0089】
前立腺生検に一般的に発生することとしては、上で言及したように、サンプル中の少量の血液の存在である。染色されたサンプル中のこのような血液の色は、褐色の周辺を有する赤色であるため、赤色に近い褐色が見出された場合、がんを示す可能性が低い。このため、画定された色範囲内に入るサンプルピクセルの計算された比を、赤色ピクセルの近くの任意の褐色ピクセルの影響を減少させることにより調整することができる。例として、図3のサンプル画像中の任意の赤色ピクセルを、色相[173~179]、彩度[168~255]および値[35~180]の赤色スペクトル内のピクセルを見つけることにより識別する。これらのピクセルを、サンプル画像から抽出し、図5において白色に変換する。当該プロセスを、図13において任意のステップS35として示す。他の実施形態では、赤色についての範囲は、色相[171~176]、彩度[175~255]および値[90~101]および/または色相[171~179]、彩度[168~255]および値[102~180]でありうる。例えば、これらの範囲のいずれか一方に入る任意の色が赤色と見なされるように、これらの範囲の両方を使用することができる。
【0090】
上で図10に関連して説明したように、全ての褐色ピクセルの影響は、赤色ピクセルまでの距離の関数として小さくなる。図4に示されたピクセルに対する各赤色のピクセル(図5に図示されている)の影響は、上述したように計算することができるが、これには非常に時間がかかる。図6図9に関連して記載されたプロセスは、図5に示された赤色ピクセルまでの距離として、図4における各ピクセルの重みを計算するための任意のプロセスを示す。
【0091】
図6に、赤色の範囲内のピクセルを増加させる「拡張」と呼ばれるプロセスの結果を示す。拡張された画像(図6に図示される)を、ピクセル値が白色のドットからの距離を表す距離変換画像を生成するための入力として使用する。例えば、白色に隣接するピクセルは、値「1」(距離=1ピクセル)を有するであろう。他のピクセルと白色のピクセルの間に1つのピクセルを有するピクセルは、値「2」(距離2ピクセル)を有する、等である。計算には最短(斜辺)距離が使用され、例えば、下に10ピクセル、右に23ピクセルで、値「25」(「33」ではない)が得られる。距離変換画像を、図7に示す。距離変換画像は、図6における拡張画像から作成される。これを達成する当該方法は、「ユークリッド距離変換」と呼ばれる。
【0092】
距離変換画像を、距離変換画像に図4の画像(色範囲内のピクセルを示す)を乗算することにより、赤色ピクセルの近くの任意の褐色ピクセルの影響を小さくするのに直接使用することができる。ただし、距離変換画像が、各ピクセル値に数「k」(ここで、「k」は、3.6~4.0の範囲にあり、好ましくは、3.8である)を乗算することにより拡張されると、より信頼性が高く、一貫性のある結果を達成することができることが見出されており、ここで、各ピクセル値は別々に乗算にかけられる。全てのピクセル値が、「k」倍に増大し、すなわち、k=3.8の場合、ピクセル値は2からk2=7.6へと増大し、最大値255により迅速に到達する。図8に、k=3.8で乗算した後の距離変換画像を示す。
【0093】
上述したように、距離変換画像(拡張されているかまたは拡張されていない)に、バイナリの0/1画像(図4、ピクセル値1が非正常であり、ピクセル値0が正常である)が乗算され、ピクセルが潜在的な悪性細胞の位置を表しているだけでなく、赤色からの距離で重み付けされた画像が得られる。乗算後、ピクセル値は、図9に示されたように、「0」~「255」(非正常であり、赤色から遠い)までの範囲であろう。これは、図13における任意のステップS36に対応する。
【0094】
CAは、図9の画像内の全てのピクセル値の合計である。CAを計算する時、各ピクセルは、255まで寄与することができる。これは、比CA/SAをより大きくし、これに応じて、操作閾値を大きくする必要があることを意味する。これらの任意のステップにより、正常サンプルを正しく分類するプロセスが3倍以上改善される。
【0095】
したがって、更なる態様では、図12に示されたように、非正常細胞を含む、すなわち、第1のカテゴリに属する組織または細胞のサンプルを選択するための方法が開示される。この方法は、上述したように決定された少なくとも1つの閾値および色範囲を取得するステップS21または事前決定するステップを含み、この方法は、さらに、
A)組織および/または細胞を含む少なくとも1つの患者サンプルを染色するステップ(ステップS22a)と、
B)各患者サンプルのサンプル画像を取得するステップ(ステップS22b)と、
C)総ピクセル数、例えば、各患者サンプル画像についての色範囲内の異常ピクセル重みの合計またはピクセル比を決定するステップ(ステップS24)と、
D)サンプル画像内の総ピクセル数が、取得されたもしくは事前決定された少なくとも1つの操作閾値を下回る場合に、各患者サンプルを第2のカテゴリに属すると分類するステップ、またはサンプル画像内の異常ピクセル重みの合計またはピクセル比が、取得されたもしくは事前決定された少なくとも1つの閾値以上である場合に、各患者サンプルを第1のカテゴリに属すると分類するステップ(ステップS25,S26a,S26b)と、
E)第2のカテゴリに属する患者サンプルをレビューから除外するステップ(ステップS29)と
を含む。
【0096】
上で言及したように、参照フィールドを、染色されたバッチ(染色事象)ごとに少なくとも1つまたは2つ以上のサンプルが固定された各スライドガラス上のいずれかに含ませることができる。当該参照フィールドにより、患者サンプルと操作のための閾値および色範囲を選択するのに使用されるサンプルとの間の異なる染色の調和が可能となるであろう。このため、第1のカテゴリに属する細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の任意のステップは、各サンプルに隣接するかまたは少なくとも同じサンプルスライド上に、同様に染色された参照フィールドを含み、これを使用して、参照フィールドを使用して色範囲を調整すること(ステップS23)である。幾つかの実施形態によれば、色範囲の調整を、参照フィールドの強度を比較することにより行う(ステップS23a)。
【0097】
また、幾つかの実施形態では、ステップC)は、赤色ピクセルまでの距離に基づいて、ピクセルを重み付けする更なるステップを含み、重み値を、各残りのピクセルに割り当て、その重み値は、最も近い残りの赤色ピクセルからの距離に基づいており、ピクセルが最も近い赤色ピクセルに近い場合には、低い値を割り当て、ピクセルが赤色ピクセルから遠い場合には、高い値を割り当てる。
【0098】
先に言及されたように、例えば、前立腺がんを評価する際には、同じ患者から複数のサンプルを採取することが多く、全てのサンプルが非正常サンプルを示すわけではない。このため、任意のステップでは、同じ患者のサンプルからの全ての結果を集約し、ステップC)において患者サンプルのいずれかが非正常と分類された場合、正常サンプルが非正常サンプルとして再分類される(ステップS27およびステップS28)。さらに、図13に示され、上で詳細に説明したように、ステップC)を、好ましくは、
C1)背景領域に対応するサンプル画像内のピクセルを除去すること(ステップS30)と、
C2)サンプル領域(SA)中の残りのピクセルをカウントし、総サンプルピクセルカウントを得ること(ステップS31)と、
C3)サンプル画像から取得された色範囲外のピクセルを除去すること(ステップS32)と、
C4)色範囲(CA)内の残りのピクセルをカウントし、第1のカテゴリに属する細胞内の色に対応するピクセルカウントを得ること(ステップS33)と、
C5)場合により、サンプル画像から赤色範囲外のピクセルを除去することと、
C6)第1のカテゴリ(CA)に属する細胞内の色に対応するピクセルカウントを、総サンプルピクセルカウント(SA)で除算することにより、サンプル画像についての色範囲内のピクセルの比の形式で、総ピクセル数を計算すること(ステップS34)と
により行う。
【0099】
第1のカテゴリの細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための方法の代替的な実施形態では、総ピクセル数は、1つ以上のピクセルグループ内等の隣接(位置)によるピクセルのグループ化に基づいて、各患者サンプル画像についてまたはサンプル画像内の個々のグループについての色範囲内の異常ピクセル重みの合計である。このようにして、関連するかつ/または十分なサイズのブロブ、例えば、がんブロブに集められた非正常細胞を識別することができる。例えば、このようにして、関連する/十分なサイズを有するがん細胞の1つの大きなブロブおよび/または幾つかの小さなグループを捕捉することができる。例として(以下も参照のこと)、任意の1つのグループが1000以上のピクセル数を有する場合、または合計(全てのグループ)が3000以上のピクセル数を有する場合、サンプルは、カテゴリ1に属するサンプルであると言われるであろう。ここで、1000および3000はそれぞれ、第1の閾値および第2の閾値のための例示的な閾値である。
【0100】
当該実施形態によれば、残りのピクセルは、色範囲内のピクセルに対応し、ステップC)は、
C11)場合により、背景領域に対応するサンプル画像内のピクセルを除去するステップと、
C12)サンプル画像から取得された色範囲外のピクセルを除去するステップと、
C13)場合により、サンプル画像から赤色範囲外のピクセルを除去するステップと、
C14)グループに属する全ての残りのピクセルが当該グループ内の他の残りのピクセルから最長距離内にあり、各グループが当該グループに属さない全ての残りのピクセルから最短距離内にあるように、残りのピクセルをグループに割り当てるステップと、
C15)当該グループの残りのピクセルの全てのピクセル重みを合計することにより、各グループについての総ピクセル数を異常ピクセル重みの合計として計算するステップと
を含むことができる。
【0101】
このため、近くのがんピクセルは必然的に同じグループ内に入り、また、このピクセルが任意の既存のグループから最長距離を超えて離れている場合、ピクセルを任意の既存のグループに割り当てることができないことにより、新しいグループがどのように作成されるかも説明される。
【0102】
この実施形態で言及された最短および最長距離は、重み付けされたがんピクセルの密度および値に基づいて可変である。このため、具体的な最短および最長距離値を与えるほど単純ではない。これらの距離は、実施例4に示されるように、重み付けされたがん画像をぼかし、ついで、閾値化することにより生じる。
【0103】
重み付けされた値を残りの全てのピクセルに割り当てることにより、1つ以上のグループのピクセルを識別することができる。このようにして、相対値(ピクセル比)の代わりに、絶対値(ピクセル値の合計)を、取得された閾値と比較する。絶対値を使用することにより、十分に大きい非正常細胞の1つ以上のブロブ(グループ)を見出すことができ、一方、相対値を使用することにより、サンプル画像当たりの非正常細胞の量が識別される。
【0104】
非正常細胞の2つ以上のグループを識別する場合、少なくとも1つの所定のまたは取得された閾値を使用することができる。例えば、第1の所定の閾値を使用して、非正常サンプルを示すピクセルのより小さいグループを識別することができ、ピクセルのどれかのグループが、非正常サンプルとみなされないピクセル値の合計を独立して有するであろう。ついで、第2の閾値を、ピクセルの残りの全てのグループについてのピクセル値の合計に適用することができる。典型的には、第2の閾値は、第1の閾値と比較してより高いレベルにあるであろう。このようにして、更なる分析から非正常サンプルを排除してしまう危険性が抑えられる。このため、最大ピクセル値(画像内の最大グループ)との比較のための1つの所定の(取得されたものではない)閾値が使用されるか、または代替的に、2つの所定の閾値を使用することができ、ここで、小さい方は、画像内の最大ピクセル値(最大グループ)に関するものであり、大きい方は、画像内の全てのピクセル値(グループ)の合計に関するものである。さらに、非正常サンプル(第1の閾値を超える)を示すピクセルの少なくとも1つのより大きなグループが見出された場合には、第2の閾値による更なる検査を行う必要はない。
【0105】
ただし、このようなより大きなグループが見出されなかった場合には、第2の閾値を、画像内の全てのグループ(グループを一切除外しない)についてのピクセル値の合計に追加的に適用することができる。第2の閾値は、第1の閾値より高くなる。なぜなら、全てのグループからの組み合わせられたピクセル値が、ただ1つのグループに集中しているピクセル値より、非正常サンプルを構成するために大きくなければならないからである。
【0106】
第1の閾値および第2の閾値の値は、例えば、正常サンプルおよび異常サンプルが既知である画像のバッチについて実行されて、2つのチャートが生成される場合、実験的に導き出すことができる。第1の閾値についてのチャートは、各画像(X軸は単に画像番号である)ごとに最大のグループ値(より小さいグループを無視する)(Y軸)をプロットし、正常画像および異常画像についての値点を異なるように着色し、ついで、チャートにおいて見ることができる。このチャートでは、閾値線が正常点と異常点とを正しく分離すべきである。第2の閾値についての第2のチャートは、画像ごとに1つの最大のグループだけではなく、画像内の全てのグループからの合計値がプロットされるという差異はあるものの、類似している。
【0107】
場合により、非正常(がん)グループをサイズによりフィルタリングするように含ませることもできる。これを、選択された限界、例えば、175ピクセル(320マイクロメートルに対応する)より小さいサイズ(=幅+高さ)を有するグループを破棄することにより行うことができる。このステップは、グループ化の後、値と閾値とを比較する直前に行う。
【0108】
当該サイズ閾値は、グループ重みの合計(合計重み)に使用することができる、上で検討した第1の閾値および第2の閾値とは異なる意味(寸法)を有する。
【0109】
したがって、本発明の方法により、どのピクセルまたはピクセルグループが非正常サンプルまたは正常サンプルを示す、すなわち、サンプルの第1のカテゴリまたは第2のカテゴリに属するピクセルであるかまたはこれを含有するかを決定するために、1つ以上の閾値の使用が可能となる。各閾値は、取得される(例えば、以前の計算から得られる)かまたは事前決定される(この方法のユーザにより提供される)かのいずれかである。このため、幾つかの実施形態では、第1の閾値がサンプル画像内のピクセルの各グループと比較され、かつ/または第2の閾値がサンプル画像内のピクセルの全てのグループの合計と比較され、かつ/または第3の閾値がサンプル画像内のピクセルグループのサイズと比較される。
【0110】
上述したように、いずれかの色範囲が前立腺サンプル内の血液の褐色の周辺など、サンプルの分類を妨害することが知られている場合、この色範囲を位置特定して、これらのピクセルおよび近くのピクセルの影響を比の計算において低減することができる。このため、上記のステップC5またはC15に加えて、上記の図5図9に関連して例示されたように、次のステップ、すなわち
-事前決定された排除色範囲EA内のピクセルを位置特定するステップ(ステップS35)、
-サンプル画像内の残りのピクセルをカウントする際に、ステップC4)(またはステップC14)において位置特定されたピクセルの影響を低減し、第1のカテゴリ(CA)に属する細胞内の色に対応するピクセルカウントを得るステップ(ステップS36)、
を適用することができる。
【0111】
除外領域EAの例は、サンプル中の血液の存在、正常(健康)細胞を識別する色範囲に近い赤色である。
【0112】
その理由は、赤色が血液を示し、このため健康な細胞を示すからである。赤色の欠如により、健康でない細胞の可能性が大きくなる。典型的には、健康な細胞は、幾らか赤色を有するものである。
【0113】
この方法の最適化において、がん(褐色)色および場合により血液(赤色)色も検索される。ついで、これらのがん色ピクセルの影響を小さくするために、赤色ピクセルに最も近いがんピクセルの重みを小さくする(任意のステップ)。これらのがん色ピクセルは、血液に近いためにがんである可能性が低いためである。
【0114】
1つの更なる理由は、赤色が基本的に暗褐色であるが、それらは、反対の意味を有するためである。典型的には、血液は、細胞が健康であることを意味し、褐色は、がんの存在を意味する。しかし、これらの色は分離が困難である場合があり、幾つかの赤色(血液)ピクセルががんピクセルとして誤って検出される場合がある。ただし、これらは隣接する赤(血液)色ピクセルに囲まれてもいるため、これらの誤検出は重みがゼロになり、結果に影響を及ぼさないであろう。
【0115】
また、この方法の幾つかの実施形態によれば、ステップC)は、赤色ピクセルまでの距離に基づいて、ピクセルを重み付けする更なるステップを含み、重み値は、各残りのピクセルに割り当てられ、この重み値は、最も近い赤色ピクセルからの距離に基づいており、ピクセルが最も近い赤色ピクセルに近い場合、低い値が割り当てられ、ピクセルが、赤色ピクセルから遠い場合、高い値が割り当てられる。
【0116】
色範囲を画定するための上記の方法において、サンプルを2つの異なるカテゴリに分類しまたは分割した後、各サンプルのサンプル画像が得られる。これを、適切な種類の画像スキャナを使用して行うことができる。
【0117】
実施例5にさらに詳細に記載されるさらに別の実施形態では、本発明は、上で開示した組織または細胞のサンプルを選択するための方法を指し、ここで、ステップBの後で、ステップCの前に、サンプルが第1のカテゴリに属すると誤って分類される危険性を低減するために、サンプル画像のエッジを切り取る。
【0118】
図14に、少なくとも1つのバッチに分割され、各バッチが染色され、各サンプルが第1のカテゴリおよび第2のカテゴリに分類される複数のサンプル90を使用して、組織または細胞のサンプル中の第1のカテゴリに属する細胞の存在を識別する際に使用される色範囲を画定するためのシステム140を示す。システム140は、各サンプル90のサンプル画像を取得するように構成されているイメージスキャナ141と、第1の制御ユニット142と、データ記憶ユニットdBとを備える。第1の制御ユニット142は、
-第1のカテゴリに属するサンプルを識別するサンプル画像の各バッチについての色範囲を画定し、
-各試験バッチにおけるサンプル画像を評価し、各試験バッチについての色範囲を調整して、第1のカテゴリに属する全てのサンプルが正しくカテゴライズされることを保証し、
-調整された色範囲を、組織または細胞のサンプル中の第1のカテゴリに属する細胞を識別する際に使用するために、データ記憶装置dBに記憶する
ように構成されている。
【0119】
また、図14に、染色される組織および/または細胞を含む少なくとも1つの患者サンプル90を使用して、第1のカテゴリに属する細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するためのシステム140も示す。当該システムは、各患者サンプル90のサンプル画像を取得するように構成されているイメージスキャナ141と、第2の制御ユニット143と、データ記憶ユニットdBとを備える。第2の制御ユニット143は、
-上記のシステムにより決定された色範囲を、データ記憶ユニットdBから取得し、
-各患者サンプル画像についての色範囲内の総ピクセル数、例えば、異常ピクセル重みの合計またはピクセル比CA/SAを決定し、
-サンプル画像内もしくは画像内のグループごとの総ピクセル数が、比較される閾値および使用される実施形態に応じて、事前決定された1つ以上の閾値を下回る場合に、各患者サンプルを第2のカテゴリに属すると分類し、またはサンプル画像内もしくは画像内のグループごとの総ピクセル数が、比較される閾値および使用される実施形態に応じて、閾値以上である場合に、各患者サンプルを第1のカテゴリに属すると分類し、
-第2のカテゴリに属する患者サンプルをレビューから除外すると識別する
ように構成されている。
【0120】
色範囲を画定するための第1の制御ユニット142を、イメージスキャナの変動を検出し、調整するために、システムを定期的に較正するのに使用することもできる。さらに、第1の制御ユニット142および第2の制御ユニット143を、図14における破線144により示されたように、データを記憶するための統合データベースを有するシステムに実装することができる。
【0121】
1つ以上のサンプル90が提供されるサンプルキャリア92は、上記の色範囲を調整するのに使用される参照フィールド91も備えることができる。
【0122】
図15に、図14に関連して記載されたシステムに実装するのに適した汎用制御ユニット150を示す。制御ユニット150は、プロセッサ151と、メモリ152と、入出力インタフェース153とを備える。プロセッサは、メモリ152に記憶させることができる命令を実行し、入出力インタフェース153を介して外部ユニット(例えば、光学イメージスキャナ141およびデータ記憶装置dB)と通信するように構成されている。
【0123】
図11に関連して記載された方法を、少なくとも1つのプロセッサ151上で実行される際に、少なくとも1つのプロセッサ151に、図11に関連して記載された方法に係る方法を実行させるための命令を含む、組織または細胞のサンプル中の第1のカテゴリに属する細胞の存在を識別する際に使用される色範囲を画定するためのコンピュータプログラムに実装することができる。
【0124】
図16に、図11に関連して記載した方法に係る、色範囲の画定に関連する事象を再構成するための、かつ/または図12および図13に関連して記載した方法に係る、第1のカテゴリに属する細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するための、コンピュータプログラムを有するコンピュータ可読記憶媒体160を示す。
【0125】
図12および図13に関連して記載した方法は、少なくとも1つのプロセッサ151上で実行される際に、少なくとも1つのプロセッサ151に、図12および図13に関連して記載した方法に係る方法を実行させるための命令を含む、第1のカテゴリに属する細胞を含む組織または細胞のサンプルを選択するためのコンピュータプログラムに実装することができる。
【0126】
実施例
実施例1
前立腺組織の針生検(直径1.0mm、コア生検)を10%の中性緩衝ホルマリン中に固定し、パラフィン包埋し、約4μmの薄切片に切片化する。染色した切片を、3種類の抗体:P504S(AMACR)、p63およびCK5(サイトケラチン5)で免疫染色する。
【0127】
前立腺は、結合組織に囲まれた腺上皮で構成されている。腺の周辺部には、筋上皮細胞が存在する。筋上皮細胞は、p63およびCK5抗体で免疫組織化学的に染色されるが、腺上皮細胞は染色されない。P504S抗体により、腺がんに変形した上皮細胞が染色されるが、筋上皮細胞および正常腺細胞は染色されない。結果:前立腺腺がんでは、腺細胞は、P504Sで免疫染色され(褐色染色)、周辺筋上皮細胞は消失した。正常な前立腺では、腺細胞は染色されず、周辺筋上皮細胞は、p63およびCK5に対する抗体で免疫染色される(赤色染色)。このため、免疫組織化学(P504S、p63およびCK5に対する抗体)を使用する染色パターンは、利用される2つの色(褐色および赤色)が、正常な前立腺および前立腺腺がんにおいて基本的に異なる。ヘマトキシリン-エオシンを、組織切片の背景染色(淡青色)として使用する。
【0128】
実施例2
リンパ節からの組織を、10%の中性緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋した。4μmの薄切片を切り出し、スライドガラス上に置いた。段階的アルコールで脱水した後、切片を、上皮細胞マーカーBEREP4に対する抗体で免疫染色した。BEREP4は、正常上皮細胞および上皮由来がん、例えば、結腸がんに結合する。BEREP4抗体を、色素原としてDAB(ジアミノベンジジン)による褐色染色により可視化した。ヘマトキシリンを、正常リンパ節の淡青色染色を与えることにより、リンパ節組織の背景染色として使用した。その後、切片をカバーガラスで覆った。
【0129】
正常なリンパ節には、上皮細胞が無く、BEREP4抗体で染色されないが、結腸がんからの転移を有するリンパ節は、BEREP4抗体が付着する細胞を含有する。このため、顕微鏡画像中の切片を可視化するのに使用される淡青色の背景染色に加えて、褐色染色が存在する。結腸がん患者の全ての局所リンパ節を分析して、どのリンパ節が正常で、どのリンパ節に転移がんが含まれているかを識別する。
【0130】
BEREP4抗体は、正常結腸の腺細胞を染色し、染色のポジティブコントロールとして使用される。
【0131】
実施例3
参照フィールドサンプルの調製の2つの例は、以下のとおりである。ヒト腎臓細胞を固定し、上述したようにまたは当技術分野において一般的に公知であるように切片化する。これらのサンプルを、P504S(AMACR)で免疫染色し、前立腺サンプルの評価における参照フィールドとして使用する。同様に、ヒト上皮細胞を固定し、一般的に公知であるように切片化し、p63およびCK5(サイトケラチン5)で免疫染色し、前立腺サンプルについての参照フィールドとして使用する。
【0132】
実施例4-絶対評価プログラムフローのためのブロブへのがんのグループ化
1. 入力データ
まず、がん色を、上記と同じ方法でフィルタリングする、すなわち、がん色および血液色を定義し、ついで、がん色のみを残すように画像をフィルタリングし(バイナリ画像として、1はがん色、0は残り部分)、ついで、血液色を残すように画像をフィルタリングし、それを使用して、距離変換画像(血液からの距離に反比例して、ピクセル値0~255)を作成し、ついで、がん画像に距離変換画像を乗算して、血液までの距離について重み付けされたがん画像を得る。
【0133】
図17はソース画像であり、図18は重み付けされたがん色画像である。重み付けされたがん画像(図18)は、グループ化のための入力となる。
【0134】
任意の更なるステップ、例えば、サンプルエッジを見つけることおよびこれらのうち幾らかを切り取ることを、結合組織由来の偽陽性の低減に使用できることに留意されたい。これらのステップは、実施例5に記載されている。
【0135】
2. がんピクセルのグループ化
まず、重み付けされたがん画像における白色ピクセル間の距離を評価する方法を見つける必要がある。2つの方法を使用することができる。一方は、距離変換を使用し、ついでこれを閾値化することであり、閾値は、所望のグループ化距離(ピクセル単位)を2で除算したものである。もう一方の方法は、最大所望グループ化距離+1に等しいぼかし要素サイズを使用して、重み付けされたがん画像をぼかし、ついで閾値0で閾値化することである。ここでは、第2の方法を使用する。
【0136】
2.1.第1の方法
まず、第1の方法を示す。第1の方法は、理解するのがより容易であり、第2の方法をより容易に理解するのにも役立つであろうからである。60ピクセルの最長距離にわたってがんピクセルをグループ化したい場合、次の、「距離変換後のがん画像」(図19)および「値30(=距離/2)で閾値化され、反転(反転=白が黒になり、黒が白になる)された距離変換」(図20)の各画像を参照のこと。
【0137】
見て取れるように、全ての白色ピクセルは、半径30の白色の円になった。ついで、60ピクセルの距離よりも近い白色ピクセルからの円が重なり合い、合成されたより大きなブロブになるであろう。
【0138】
次のステップでは、1つのブロブで覆われている全てのがんピクセルの値が合計される(全てのブロブについてこれが行われる)。
【0139】
次の画像(図21)では、がんピクセルの異なるブロブカバーが各ブロブについて固有の色で示され、各ブロブに属する重み付けされたがんピクセル(白色)も見ることができる。これは、単に理解しやすくするために作成された例示である。このプログラムでは、着色されたブロブ画像を使用しない。
【0140】
また、ブロブを、ピクセルをグループ化するためにのみ使用することに留意されたい。各グループについてのがん活性化計算を、ブロブ画像ピクセルの合計ではなく、当該ブロブによりカバーされる領域に位置する重み付けされたがん画像(図18)内のピクセルの値を合計することにより行う。「グループがん活性化」という用語をこの後で使用する。
【0141】
この方法は、グループ化距離がピクセル輝度(ピクセル輝度は、血液までの距離により決まる)によりまたは隣接するピクセルにより影響されないため、より単純な方法であるが、各ピクセルは、常に半径=30の円を生じる。しかしながら、グループ化後に、ピクセル輝度は、当該ブロブについてのグループがん活性化に依然として影響を及ぼすことに留意されたい。なぜなら、当該値は、重み付けされたがんピクセル値を合計することにより計算されるためである。
【0142】
2.2 第2の方法
第1の方法は、2つのブロブの間に位置する単一のランダムな褐色ピクセル(典型的にはノイズ)がかなり大きな距離にわたってそれらを架橋することになる場合があるという欠点を有していた。
【0143】
別の欠点は、少数のピクセルの疎なグループと非常に密なグループとの間のブリッジング距離に差がないであろうことであった(図22を参照のこと)。
【0144】
ぼかしを使用する次の方法は、次の固有の特徴を有する。すなわち、
1)より暗いピクセル(血液により近い)により、より小さい円を生じるであろう(ぼかし自体の固有の特性)
2)多数の非常に近い白色ピクセルにより、全く同じ輝度の単一ピクセルよりはるかに大きなブロブを生じ、より密なグループにより、疎なグループより大きなブロブを生じるであろう(再度、ぼかし自体の固有の特性)。
【0145】
これらの特性は両方とも、望ましいと考えられ、ピクセルをどのようにグループ化すべきかについての本発明者らの見解により近いものと考えられる。
【0146】
どのようなぼかしを行うかの説明については、代わりに、図23を参照のこと。
【0147】
ぼかしにより、ピクセル値はより大きな領域に幾らか拡散(拡張)される。ピクセルが、より白い場合、その値を、より広く拡散させ、その後、完全に減少させることができる。多くの隣接する白色ピクセルが存在する場合、それらの拡散領域は重なり合い、それらの白色を隣接する白色ピクセルの上に拡散させることにより互いにサポートする。代替的な説明のために、「ガウスぼかし」という用語を検索されたい。
【0148】
したがって、ぼかされた画像を閾値化すると、距離変換の逆閾値とは異なるブロブが生じるであろう。
【0149】
最後の注記:ピクセルは、非常に大きな距離にわたって結合されるため、ぼかしは、強く行う(ピクセル値を非常に大きな領域に拡散させる)必要があり、単独のピクセル(特に、より暗いピクセル)について、中心の最大値がゼロとなっても、このように拡散される場合がある。すなわち、強くぼかした場合、特により暗いピクセルであって近くの隣接ピクセルによりサポートされていない場合、ピクセルを完全に消失させることが可能である。この効果は、ぼかしの直前に、重み付けされたがん画像を拡張することにより、好みに応じて減少させまたはバランスを取ることができる(任意のサポートする隣接ピクセルから遠く暗いピクセルは、ノイズである可能性が高いため、消失させてもかまわない)。拡張により、値の低減なしに、全ての方向に全てのピクセルが拡張される(拡大のように考えることができる)。図24図27を参照のこと:まず、元の重み付けされたがん画像(図24)、ついで、拡張された同じ画像(図25)、ついで、ぼかした元の(拡張されていない)重み付けされたがん画像(図26)、ついで、ぼかした拡張画像(より明るく、さらに広がる)(図27)である。
【0150】
3. 閾値およびフィルタリング
既にピクセルグループが形成されており、これをどのように扱うか、つまり実際のがんが存在するのであればどのグループであるのかが決定されなければならない。
【0151】
「グループがん活性化」についての閾値を実験的に決定し、この閾値を超える活性化を有する全てのグループを実際のがんと分類することができる。
【0152】
全てのグループからの合計活性化、すなわち「総画像活性化」のための第2のより高い閾値を有することができる。
【0153】
加えて、小さすぎる面積を有するグループを除去することができる。
【0154】
実施例5-サンプルエッジ切り取りプログラムフロー
1. 前提
境界を除去する必要性が、がん色を有するほとんどの誤った検出およびごみ(結合組織等)が境界付近で生じるという観察から生じた。
【0155】
したがって、単純に、エッジの一部が切り取られる。これにより、偽陽性が大幅に減少する。
【0156】
注記:切り取り量および有用性自体は、前立腺がん分析への本方法の適用および画像に使用されるズームレベル(約546ピクセル/mm)に特有である。
【0157】
切り取りに使用するステップについては、次を参照のこと。
【0158】
結果として生じる除去は、(各サイドから)平均で幅14ピクセルであり、これは、使用されるズームレベル(約546ピクセル/mm)で約25.5μmに相当する。
【0159】
図28に、例示的なソース画像を表す。
【0160】
ステップ1:「マスク」と呼ばれるバイナリ画像(0および255)を生じるエッジ(値205を有する単なる閾値)を見つける(図29)。
【0161】
ステップ2:全てのギャップを埋める(次のステップでは、外側エッジのみを切り取りたい。ギャップを埋めることにより、内側エッジが生じない)(図30)。
【0162】
ステップ3:要素サイズ17で、ガウスぼかしを適用する(図31)。
【0163】
ステップ4:閾値を適用する(値254を使用する)。これにより、外側エッジの全てのサイドから平均7ピクセル(約13μm)が除去される(図32)。
【0164】
ステップ5:ステップ4からの結果をステップ1からの結果と組み合わせて(ビット単位の「and」演算)、外部エッジ切り取りを維持しながら、内部ギャップを復元する(図33)。
【0165】
ステップ6:再度、要素サイズ5でぼかしを行い、値255で閾値化する。これにより、最小の内部ギャップは埋められるが、より大きなギャップは完全には埋められないであろう。全てのサイドを、2ピクセルずつ拡大させる(図34)。
【0166】
ステップ7:要素サイズ25でぼかしを行い、値254で閾値化する。これにより、残りの全てのエッジ(内部および外部)が、さらに9.5ピクセル(17μm)切り取られる(図35)。
【0167】
ステップ8:ステップ7からの結果をステップ1からの結果と組み合わせて(ビット単位の「and」演算)、小さな内部ギャップを復元する。このステップの結果が、最終マスクである(図36)。
【0168】
最終マスクを、入力画像に適用することができる。結合された外部エッジ除去は、平均14.5ピクセル(27μm)、内部エッジ除去(より大きなギャップのみ)は、7.5ピクセル(14μm)である(図37)。
【0169】
結論
本発明は、上記の好ましい実施形態に限定されるものではない。種々の代替形態、修正形態および等価形態を使用することができる。したがって、上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
図1a
図1b
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