(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】紙パルプ廃棄物ストリームからのポリヒドロキシアルカン酸の製造
(51)【国際特許分類】
C12P 7/40 20060101AFI20241010BHJP
C12P 7/625 20220101ALI20241010BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20241010BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
C12P7/40
C12P7/625
C12N1/00 G
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2021534211
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 CA2019051797
(87)【国際公開番号】W WO2020118439
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-07
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521257488
【氏名又は名称】アンスティチュー・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】チャギ,ラジェシュワ・ダヤル
(72)【発明者】
【氏名】カウル,ラージウィンダー
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】International Journal of Biological Macromolecules,Vol.80,2015年,p.627-635,https://doi.org/10.1016/j.ijbiomac.2015.07.034.
【文献】Practice Periodical of Hazardous, Toxic, and Radioactive Waste Management,Vol.12, No.4,2008年,p.1399-1405
【文献】J Ind Microbiol Biotechnol.,Vol.39, No.3,2011年,p.459-469,DOI 10.1007/s10295-011-1040-6
【文献】Bioengineering,Vol.4, No.53,2017年,https://doi.org/10.3390/bioengineering4020053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を製造する方法であって、
浮遊物質(SS)を含む二次スラッジからなる廃棄物ストリームを提供する工程、
前記廃棄物ストリームを処理して、処理された廃棄物ストリームを生成する工程であって、該処理は、
i)浮遊物質1gあたり0.05~0.5gの量のカルシウム含有ミネラルを廃棄物ストリームに添加する工程、および
ii)カルシウム含有ミネラルの存在下で廃棄物ストリームを熱処理して、廃棄物ストリームを滅菌する工程を含み、
前記処理された廃棄物ストリームを炭素源として含む培養液を調製する工程、
少なくとも1株のPHA産生微生物を培養液に添加する工程;および
前記培養液に第二の炭素源を添加する工程;
前記培養液を発酵に供して、炭素源および第二の炭素源を用いてPHA産生微生物によるPHA産生を開始させ、PHA産生微生物に蓄積されたPHAを含む発酵混合物を調製する工程;および
前記発酵混合物を細胞破砕に供し、PHA産生微生物からPHAを抽出して、抽出されたPHAと細胞物質からなる抽出混合物を調製する工程、
ここで、カルシウム含有ミネラルが、廃棄物ストリームの熱処理前および/または熱処理中に廃棄物ストリームに添加され、
ここで、PHA産生微生物の少なくとも1つの株が、発酵の前および/または発酵の間に培養液に添加され;および、
第二の炭素源は、発酵の前および/または発酵の間に培養液に添加される、
前記方法。
【請求項2】
前記廃棄物ストリームは、パルプおよび紙活性汚泥ストリームである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルシウム含有ミネラルは、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記廃棄物ストリームに前記カルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、前記廃棄物ストリームをろ過して粗大な繊維を除去し、それによって廃棄物ストリームろ液を得るステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記廃棄物ストリームに前記カルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、前記廃棄物ストリームろ液について、ろ別されない固体を沈降させてデカンテーションし、それによってデカンテーションされた廃棄物ストリームを得るステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記廃棄物ストリームに前記カルシウム含有ミネラルを添加し、前記カルシウム含有ミネラルの存在中で前記廃棄物ストリームを加熱処理して前記廃棄物ストリームを滅菌することにより前記処理廃棄物ストリームを製造することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記廃棄物ストリームに前記カルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、前記デカンテーションされた廃棄物ストリームを洗浄して洗浄固体を得るステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記デカンテーションされた廃棄物ストリームの洗浄は、前記デカンテーションされた廃棄物ストリームを遠心分離して遠心分離固体を得るステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記廃棄物ストリームに前記カルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、
前記廃棄物ストリーム中の浮遊物質(SS)濃度を所定の濃度である5g/Lから50g/Lの間に調整して調質廃棄物ストリームを得るステップと、
前記カルシウム含有ミネラルを前記調質廃棄物ストリームに添加するステップと
をさらに含み、前記廃棄物ストリームの加熱処理が、前記調質廃棄物ストリームを加熱処理するステップを含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の濃度は、10g/Lから20g/Lの間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の炭素源は、カルボン酸、単糖類、油、アルコール、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記発酵ステップは、前記培養液のpHを6.5から7.5の間に維持するステップ、および/または温度を25℃から35℃の間に維持するステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記発酵ステップの前および/または前記発酵ステップ中に、前記培養液にミネラル源を添加するステップをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記PHA産生微生物の少なくとも1つの株は、PHA産生微生物の単一株である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記PHA産生微生物の少なくとも1つの株は、Bacillus megaterium、Comamonas testosteroni、Cupriavidus necator 11599、Cupriavidus necator H16、Pseudomonas guezennei biovar.Tikehau、R.eutropha、E.coli、組み換えE.coli、Alcaligenes latus、Sphingobacterium sp.ATM、Plasticicumulans acidivorans、Bacillus tequilensis、Haloferax mediterranei、H.mediterranei、Pseudomonas fluorescens A2a5、およびRalstonia eutropha H16からなる群から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記発酵混合物を細胞破砕に供する工程は、前記PHA産生微生物の少なくとも一部を溶解させるよう発酵混合物を加熱処理し、それによって前記PHAを放出させるステップを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記PHA産生微生物の炭素消費量に基づき、前記培養液中の炭素濃度を最適炭素濃度に維持するステップを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001]本技術分野は、全体として、バイオプラスチックの分野に関する。より具体的には、本技術分野は、紙パルプ製造から出る廃棄物ストリームといった廃棄物からのポリヒドロキシアルカン酸の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
[002]ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、生分解性および生体適合性を有する熱可塑性プラスチック類であり、微生物によって産生されうる。通常、生体高分子の製造、特にPHA製造における費用効率は、必要な原材料の価格によって決まる。例えば、原材料の価格は、費用の50%にまで相当することもある。従って、PHA製造において経済的実現可能性を達成するには、廃材由来の安価な炭素源を使用することにより、効率的な発酵プロセスを開発する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
[003]一態様において、リグノセルロース材料を含む廃棄物ストリームを提供するステップと、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップと、カルシウム含有ミネラルの存在中で廃棄物ストリームを加熱処理して廃棄物ストリームを滅菌し、処理廃棄物ストリームを得るステップと、炭素源として処理廃棄物ストリームを含む培養培地中で、PHA産生微生物の少なくとも1つの株を発酵させてPHAを製造するステップと、PHA産生微生物からPHAを抽出するステップとを含む、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を製造する方法が提供される。
【0004】
[004]別の態様において、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を製造するための炭素源を調製する方法であって、リグノセルロース材料を含む廃棄物ストリームを提供するステップと、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップと、カルシウム含有ミネラルの存在中で廃棄物ストリームを加熱処理して廃棄物ストリームを滅菌し、PHAを製造するための炭素源として処理廃棄物ストリームを得るステップとを含む、方法が提供される。
【0005】
[005]一部の実施形態において、廃棄物ストリームは、紙パルプ活性汚泥ストリームである。
[006]一部の実施形態において、カルシウム含有ミネラルは、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムの少なくとも1つを含む。
【0006】
[007]一部の実施形態において、カルシウム含有ミネラルは、水酸化カルシウムを含む。
[008]一部の実施形態において、カルシウム含有ミネラルは、石灰を含む。
【0007】
[009]一部の実施形態において、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップは、廃棄物ストリームの加熱処理の前に行われる。
[010]一部の実施形態において、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップは、廃棄物ストリームの加熱処理中に行われる。
【0008】
[011]一部の実施形態において、廃棄物ストリームの加熱処理は、少なくとも120℃の温度で行われる。
[012]一部の実施形態において、方法は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、廃棄物ストリームをろ過して粗大な繊維を除去し、それによって廃棄物ストリームろ液を得るステップをさらに含む。
【0009】
[013]一部の実施形態において、方法は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、廃棄物ストリームろ液について、ろ別されない固体を沈降させてデカンテーションし、それによってデカンテーションされた廃棄物ストリームを得るステップをさらに含む。
【0010】
[014]一部の実施形態において、方法は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、デカンテーションされた廃棄物ストリームを洗浄して洗浄固体を得るステップをさらに含む。
【0011】
[015]一部の実施形態において、デカンテーションされた廃棄物ストリームの洗浄は、デカンテーションされた廃棄物ストリームを遠心分離して遠心分離固体を得るステップを含む。
【0012】
[016]一部の実施形態において、方法は、水性媒体中に遠心分離固体を再懸濁させて懸濁液を得るステップと、懸濁液を再遠心分離して遠心分離固体を得るステップとをさらに含む。
【0013】
[017]一部の実施形態において、方法は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラルを添加するステップの前に、廃棄物ストリーム中の浮遊物質(SS:suspended solids)濃度を所定の濃度に調整して調質廃棄物ストリームを得るステップと、カルシウム含有ミネラルを調質廃棄物ストリームに添加するステップとをさらに含み、廃棄物ストリームの加熱処理が、調質廃棄物ストリームを加熱処理するステップを含む。
【0014】
[018]一部の実施形態において、SS濃度の調整は、洗浄固体に対して行われる。
[019]一部の実施形態において、所定の濃度は、5g/Lから50g/Lの間である。
[020]一部の実施形態において、所定の濃度は、10g/Lから20g/Lの間である。
【0015】
[021]一部の実施形態において、方法は、発酵ステップの前および/または発酵ステップ中に、培養培地に第2の炭素源を添加するステップをさらに含む。
[022]一部の実施形態において、第2の炭素源は、カルボン酸、単糖類、油、アルコール、またはそれらの組み合わせを含む。
【0016】
[023]一部の実施形態において、カルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その塩、またはそれらの組み合わせを含む。
[024]一部の実施形態において、単糖類は、グルコース、マンニトール、スクロース、またはそれらの組み合わせを含む。
【0017】
[025]一部の実施形態において、油は、オリーブ油、コーン油、パーム油、またはそれらの組み合わせを含む。
[026]一部の実施形態において、アルコールは、グリセロールを含む。
【0018】
[027]一部の実施形態において、発酵ステップは、廃棄物ストリームのpHを6.5から7.5の間に維持するステップ、および/または温度を25℃から35℃の間に維持するステップを含む。
【0019】
[028]一部の実施形態において、方法は、発酵ステップの前および/または発酵ステップ中に、培養培地にミネラル源を添加するステップをさらに含む。
[029]一部の実施形態において、PHA産生微生物の少なくとも1つの株は、PHA産生微生物の単一株である。
【0020】
[030]一部の実施形態において、PHA産生微生物の少なくとも1つの株は、Bacillus megaterium、Comamonas testosteroni、Cupriavidus necator 11599、Cupriavidus necator H16、Pseudomonas guezennei biovar.Tikehau、R.eutropha、E.coli、組み換えE.coli、Alcaligenes latus、Sphingobacterium sp.ATM、Plasticicumulans acidivorans、Bacillus tequilensis、Haloferax mediterranei、H.mediterranei、Pseudomonas fluorescens A2a5、およびRalstonia eutropha H16からなる群から選択される。
【0021】
[031]一部の実施形態において、PHA産生微生物からのPHAの抽出は、PHA産生微生物の少なくとも一部を溶解させるよう発酵混合物を加熱処理し、それによってPHAを放出させるステップを含む。
【0022】
[032]一部の実施形態において、発酵混合物の加熱処理は、80℃から125℃の間の温度で行われる。
[033]一部の実施形態において、方法は、PHAを含む抽出混合物を乾燥させるステップをさらに含む。
【0023】
[034]一部の実施形態において、方法は、PHA産生微生物の炭素消費量に基づき、培養培地中の炭素濃度を、最適炭素濃度に維持するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】[035]炭素源として廃棄物ストリームを使用してPHAを合成する方法のプロセスフロー図である。
【
図2】[036]カルシウム含有ミネラルを添加する前に廃棄物ストリームが調質される、
図1の方法のプロセスフロー図である。
【
図3】[037]調質プロセスの様々なステップを示すプロセスフロー図である。
【
図4】[038]炭素源として廃棄物ストリームを使用してPHAを合成するための様々なステップおよび条件を示すフローチャートである。
【
図5】[039]合成培地中とグルコースで強化された汚泥培地中でのPHA産生微生物の増殖の比較を示すグラフである。
【
図6】[040]Ca(OH)
2およびグルコースで処理された調質廃棄物ストリームを含む炭素源を使用する流加発酵中の時間関数としてPHA製造中に観察される様々なパラメータを示すグラフである。
【
図7】[041]Ca(OH)
2および粗グリセロールで処理された調質(洗浄)廃棄物ストリームを含む炭素源を使用する流加発酵中の時間関数としてPHA製造中に観察される様々なパラメータを示すグラフである。
【
図8】[042]Ca(OH)
2および粗グリセロールで処理された非調質(非洗浄)廃棄物ストリームを含む炭素源を使用する流加発酵中の時間関数としてPHA製造中に観察される様々なパラメータを示すグラフである。
【
図9】[043]Ca(OH)
2および粗グリセロールで処理された、浮遊物質濃度の高い調質廃棄物ストリームを含む炭素源を使用する流加発酵中の時間関数としてPHA製造中に観察される様々なパラメータを示すグラフである。
【
図10】[044]Ca(OH)
2および酢酸で処理された、浮遊物質濃度の高い調質廃棄物ストリームを含む炭素源を使用する流加発酵中の時間関数としてPHA製造中に観察される様々なパラメータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[045]上述のように、廃棄物ストリーム源(一般または産業、例えば紙パルプ産業の活性汚泥)からのPHA製造において、改良された技術が求められている。i)その高い栄養素および複合炭素源含有量、ならびにii)総廃水処理費用の60%を占めうる紙パルプ産業における汚泥処理問題を解決する可能性に起因し、これらの廃棄物ストリーム源が考慮されうる。
【0026】
[046]二次汚泥処理にかかる費用は、より高度な廃水処理基準、埋立地容量の減少、および燃料費用の増加を受け、特に北アメリカおよびヨーロッパで増大すると予想される。
[047]研究者らは、非滅菌パルプ製紙工場活性汚泥(PPMAS)を直接PHA製造に利用することにより、二次汚泥処理および高いPHA製造費用という課題を解決するよう継続的に努めている。無菌条件の維持にかかる費用、合成培地の調製、および純粋培養の維持管理(Singhら、2014年)に関する課題を解決する可能性のある技術として、混合微生物培養(すなわち活性汚泥)に基づくPHA製造方法を研究した。この方法において、主な問題は、PHA濃度のバッチ間の変動である。従って、PHA産生(蓄積)は、(同一の排水処理工場から異なる時間に回収された汚泥、および異なる廃水処理工場から回収された汚泥について)再現性がない。PHA蓄積量の変動は、汚泥中の微生物群の組成および活性汚泥の化学組成の変化に起因しえ、さらにパルプ製紙工場内で紙パルプの製造に使用される方法の性質に依存する。さらに、汚泥微生物群は、有機物供給負荷、化学物質の添加、SRTの変化、HRT、温度、pHの操作などのような廃水処理プロセスのパラメータ変化に対し敏感である。
【0027】
[048]本明細書に記載される様々な技術は、栄養素および炭素源として廃棄物ストリーム源を使用するPHAの合成を可能とする。廃棄物ストリーム源の非限定的な例は、紙パルプ活性汚泥である。
方法の概要
[049]
図1を参照すると、廃棄物ストリーム源11を使用してPHAを合成する方法100が与えられる。廃棄物ストリーム11は、例えば、紙パルプ活性汚泥ストリーム、または紙パルプ活性汚泥ストリームに由来するストリームを含みうる。「紙パルプ活性汚泥ストリームに由来するストリーム」という表現は、ろ過、沈降、デカンテーション、遠心分離、洗浄、水系媒体(例えば、水)への懸濁、および浮遊物質濃度の調整から選択される1つまたは幾つかのステップを使用して前処理されたかまたは調質された汚泥ストリームを意味すると理解されるべきである。例えば、廃棄物ストリーム11は、紙パルプ製造工場から生じる紙パルプ活性汚泥ストリームでありうる。
【0028】
[050]廃棄物ストリーム11は、炭素源として使用することができる幾つかの炭素含有化合物、およびPHAを製造するための他の栄養素を含む。カルシウム含有ミネラル12は、廃棄物ストリーム11に添加され、廃棄物ストリーム11中に存在しうるか、または廃棄物ストリーム11の処理中に形成されうる加水分解されたリグノセルロース材料といった特定のミネラルによる阻害作用を軽減しうる。廃棄物ストリーム11は、廃棄物ストリームを滅菌するよう、カルシウム含有ミネラル12の存在中、加熱処理ステップ13(本明細書において、滅菌ステップまたは解毒ステップとも称される)で加熱処理され、処理廃棄物ストリーム14を得ることができる。
【0029】
[051]驚くべきことに、加熱処理ステップ13の前または加熱処理ステップ13中に廃棄物ストリーム11にカルシウム含有ミネラル12を添加することで、汚泥浮遊物質の可溶化を助け、かつ栄養素をより容易にPHA産生微生物に利用できるようにすることが可能であることが見出された。さらに驚くべきことに、加熱処理ステップ13の前または加熱処理ステップ13中に廃棄物ストリーム11にカルシウム含有ミネラル12を添加することで、初期に廃棄物ストリーム中に存在するリグノセルロース材料の加水分解の結果として加熱処理中に通常生じる阻害物質の減少を助けることが可能であることが見出された。
【0030】
[052]処理廃棄物ストリーム14は、次いで、発酵混合物16を得るよう発酵ステップ15で発酵され、PHA24を含む抽出混合物20を得るよう抽出ステップ18で抽出されうる。任意選択で、PHA24を乾燥させるよう乾燥ステップ22が行われうる。
【0031】
[053]
図1の方法100に示されるように、廃棄物ストリーム11は、加熱処理ステップ13に直接供されうる。代替的に、
図2の方法200に示されるように、廃棄物ストリーム11は、加熱処理ステップ13の前に、調質プロセス300で調質されうる。このような場合、調質廃棄物ストリーム114が加熱処理ステップ13に供される。調質プロセス300は、本明細書でさらに詳細に検討される。
【0032】
[054]方法のステップ、およびPHA製造技術の他の態様は、以下にさらに詳細に記載される。
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)
[055]「ポリヒドロキシアルカン酸」または「PHA」という用語は、下記式Iの繰り返し単位で表されうる高分子、または異なる式Iの繰り返し単位の単量体を少なくとも2つ含む共重合体を意味すると理解されるべきであり、ここでRは、H、アルキル、またはアルケニルであり、mおよびnは整数である。
【0033】
【0034】
[056]一部のPHAは、工業的に応用されており、非限定的な代表例は、PHB(ポリ-3-ヒドロキシブチラート)、PHBV(ポリ(ヒドロキシブチラート-co-ヒドロキシバレラート))、P4HB(ポリ(4-ヒドロキシブチラート)、P3HB4HB(ポリ(3-ヒドロキシブチラート-co-4-ヒドロキシブチラート)、PHV(ポリヒドロキシバレラート)、およびPHHx(ポリヒドロキシヘキサノアート)である。
【0035】
[057]任意選択で、nは、100から30000の間の整数でありうる。任意選択で、mは、1から4の間の整数でありうる。任意選択で、Rは、H、アルキル、置換アルキル、アルケニル、または置換アルケニルでありうる。例えば、Rは、H、メチル、エチル、プロピル、またはブチルでありうる。
廃棄物ストリーム源
[058]廃棄物ストリーム11は、様々な発生源に由来しうると理解されるべきである。一部の実施形態において、廃棄物ストリーム11は、一般廃水、でん粉製造廃水、チーズ製造廃水、紙パルプ製造からの廃棄物ストリーム、またはその組み合わせから得られる。さらに、本明細書に言及されるあらゆる廃棄物ストリームは、一次汚泥、二次汚泥、またはそれらの組み合わせから得られうる。「一次汚泥」は、一次処理プロセスにおける、例えば一次清澄器内で行われうる、主に重力分離を通した浮遊物質および有機物質の捕捉による産物であると理解される。また、「二次汚泥」は、廃水中に存在する有機物を消費する微生物を使用する二次処理プロセスにおいて廃水を処理することによって得られると理解される。微生物は、通常、例えば曝気槽中で、廃水中に存在する生分解性物質を餌とし、次いでバイオマスが沈降して二次汚泥として除去される二次清澄器に流入する。廃棄物ストリームが生じるプロセスおよび微生物の活性の結果、廃棄物ストリーム11は、通常、PHAを製造するためのPHA産生微生物の炭素源として使用されうる有機物質を含有する。
【0036】
[059]一部の実施形態において、廃棄物ストリームは、紙パルプ製造からの廃棄物ストリームである。任意選択で、紙パルプ製造からの廃棄物ストリームは、二次廃棄物ストリームを含む。任意選択で、紙パルプ製造からの廃棄物ストリームは、本質的に二次廃棄物ストリームからなる。廃水処理工場から排出される二次汚泥または活性汚泥は、PHA製造のための廃材として使用されうる。一部の状況において、活性汚泥は、他の炭素源(例えば、バイオディーゼル産業の廃棄生成物である粗グリセロール、グルコース、酢酸、廃棄調理油、または同様の一般もしくは産業廃棄物など)と組み合わされうる。
廃棄物ストリームの調質
[060]
図3を参照すると、続くPHA製造のために廃棄物ストリーム11を調質するプロセス300が示される。廃棄物ストリーム11は、カルシウム含有ミネラルを添加する前、かつ加熱処理ステップ13および発酵ステップ15の前に調質されうる。
【0037】
[061]一部の実施形態において、廃棄物ストリーム11は、カルシウム含有ミネラル12を添加する前にろ過ステップ103に供され、廃棄物ストリームろ液104を得る。ろ過ステップ103は、初期に廃棄物ストリーム11中に存在しうる木材残渣および/または粗繊維といった粗大な物質の除去を可能にすることができる。例えば、ろ過ステップ103は、100mmから1500mmのフィルタ、または500mmから1000mmのフィルタ、または700mmから900mmのフィルタ、または800mmのフィルタを使用して行われうる。
【0038】
[062]一部の実施形態において、廃棄物ストリームろ液104は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラル12を添加する前に、沈降ステップまたはデカンテーションステップ105に供され、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106を得ることができる。沈降ステップまたはデカンテーションステップ105は、数時間、例えば2時間から12時間の間、または5時間から7時間の間、または約6時間、廃棄物ストリームろ液104をデカンテーションするステップを含みうる。廃棄物ストリームろ液104のデカンテーションは、ろ別されない固体に対するデカンテーションを可能にする。一部の実施形態において、汚泥の液体分は捨てられてよく、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106は、大部分が濃縮沈降汚泥固体を主に含みうる。一部の状況において、濃縮沈降汚泥固体は、残った固体をさらに乾燥させることなく、または処理することなく汚泥の液体分を捨てることによって得られる。
【0039】
[063]一部の実施形態において、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106は、洗浄されうる。デカンテーションされた廃棄物ストリーム106の洗浄は、廃棄物ストリームにカルシウム含有ミネラル12を添加する前に、遠心分離ステップ107を含み、遠心分離固体108を得ることができる。一部の実施形態において、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106の洗浄は、懸濁ステップ109において、水性媒体(例えば、水)中に遠心分離固体を再懸濁して再懸濁固体110を得るステップをさらに含む。一部の実施形態において、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106の洗浄は、第2の遠心分離ステップ111において、再懸濁固体110を再遠心分離するステップをさらに含み、遠心分離固体112を得る。
【0040】
[064]一部の実施形態において、デカンテーションステップ105、第1の遠心分離ステップ107、および/または第2の遠心分離ステップ111の後に得られた液体分(または上清)は、捨てられうる。デカンテーションステップ105、第1の遠心分離ステップ107、および/または第2の遠心分離ステップ111の後に得られた固体分は、続くステップの前に、任意選択で水性媒体(例えば、水)中に再懸濁されうる。
【0041】
[065]本明細書に記載される調質ステップの各々は、任意選択であり、解毒ステップ13の後に処理廃棄物ストリーム14を得るために必ずしも行われる必要がないことも理解されるべきである。例えば、一部の状況において、沈降またはデカンテーションステップ105は、省略されてよく、第1の遠心分離ステップ107は、廃棄物ストリームろ液104に直接行われうる。一部の状況において、廃棄物ストリーム11は、ろ過ステップ103(例えば、ろ別されるべき粗大な物質がないかまたは少量である場合)を必要としない場合がある。別の例において、懸濁ステップ109は、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106に直接行われてよく、遠心分離ステップ107は、省略されうる。一部の状況において、第2の遠心分離ステップ111も省略されうることも理解されるべきである。一部の状況において、単一の遠心分離ステップのみが行われうる。他の状況において、2つ以上の遠心分離ステップが行われうる。
【0042】
[066]一部の実施形態において、第1および/または第2の遠心分離ステップは、8000xgから10000xgの間で行われる。一部の実施形態において、第1および/または第2の遠心分離ステップは、室温(20~25℃)で行われる。一部の実施形態において、第1および/または第2の遠心分離ステップは、5分から20分の間で行われる。
【0043】
[067]一部の実施形態において、廃棄物ストリーム11の調質は、浮遊物質(SS)濃度を所定の濃度に調整するステップをさらに含む。一部の実施形態において、所定の濃度は、5g/Lから50g/Lの間、または10g/Lから20g/Lの間、またはやはり約15g/Lである。一部の実施形態において、浮遊物質濃度は、水性媒体(例えば、水)の添加によって調整される。SS濃度の調整は、廃棄物ストリーム11に直接行われうるか、または調質プロセスの最後に行われるステップの後に行われうる。すなわち、SS濃度の調整は、どのストリームが調質プロセス300で得られた最後のストリームであるかに応じ、廃棄物ストリーム11、廃棄物ストリームろ液104、デカンテーションされた廃棄物ストリーム106、遠心分離固体108、再懸濁固体110、または遠心分離固体112のうちの1つに対して行われうる。
カルシウム含有ミネラルおよび加熱処理ステップ
[068]廃棄物ストリーム11が紙パルプ活性汚泥ストリーム、または様々な木材源または植物(例えば、木材、小麦、米など)に由来する様々な天然物質の処理から生じるストリームである場合、有機物質は、リグノセルロース材料を含む。リグノセルロース材料が加水分解される場合、幾つかの加水分解物が放出され、PHA製造を抑制しうる。驚くべきことに、加熱処理ステップ13の前または加熱処理ステップ13中に、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114にカルシウム含有ミネラル12を添加することで、汚泥浮遊物質の可溶化を助けることができ、かつPHA産生微生物に対する栄養素の有効性を増大させることができることが見出された。さらに驚くべきことに、加熱処理ステップ13の前または加熱処理ステップ13中に、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114にカルシウム含有ミネラル12を添加することで、初期に廃棄物ストリーム11中に存在するリグノセルロース材料の加水分解の結果として、加熱処理中に通常生じる阻害物質の減少を助けることが可能であることが見出された。
【0044】
[069]カルシウム含有ミネラル12の非限定的な例として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、石灰、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、カルシウム含有ミネラルは、水酸化カルシウムを含む。
【0045】
[070]加熱処理ステップ13は、通常、滅菌ステップ(すなわち、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114中に存在する微生物(例えば、細菌)を死滅させるかまたは不活化するのに十分に高い温度で、かつ十分に長い時間加熱するステップ)であると理解されるべきである。一部の実施形態において、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114の加熱処理は、少なくとも120℃の温度で行われる。
【0046】
[071]一部の実施形態において、添加されるCa含有ミネラルの量は、SS濃度に基づく。例えば、いつCa含有ミネラルが添加されるかに応じ、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114中に存在するSS固体1g当たり、0.05gから0.5gの間、または0.05gから0.2gの間、または0.1gから0.2gの間、または約0.1gのCa含有ミネラルが添加されうる。より具体的には、0.05gから0.5gの間、または0.05gから0.2gの間、または0.1gから0.2gの間、または約0.1gの水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、または石灰が、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114に添加されうる。SS固体濃度は、ASTM-D5907、EPA180.1、および/またはISO7027といった標準化された手順を使用して測定されうると理解されるべきである。
発酵ステップ
[072]Ca含有ミネラルの存在中で廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114が滅菌された後、処理廃棄物ストリーム14は、発酵ステップ15において発酵される。
【0047】
[073]一部の実施形態において、発酵ステップ15は、バッチ式発酵、流加発酵、オープン式発酵、および/または連続発酵を含みうる。好ましくは、発酵ステップ15は、流加発酵を含む。一部の状況において、発酵ステップ15は、流加発酵からなる。本明細書で使用される「流加発酵」という用語は、成分の一部が発酵中に添加される、バッチ式発酵の一変形例を意味すると理解されるべきである。これにより、通常、発酵プロセスの各段階に対するより良好な制御が可能となる。特に、二次代謝産物の産生量は、非指数増殖期中に、限定された量の特定の栄養素を添加することによって増大されうる。一部の実施形態において、発酵ステップ15は、バッチ操作に挟まれる流加操作を含む。
【0048】
[074]一部の実施形態において、発酵ステップ15は、20℃から40℃の間の温度で行われる。温度は、PHA産生微生物として使用される菌株または複数の菌株に基づいて選択されうることも理解されるべきである。一部の実施形態において、廃棄物ストリーム11または調質廃棄物ストリーム114の加熱処理は、Ca含有ミネラルの存在中、発酵槽中で行われうる。このような場合、発酵槽は、加熱処理のために所望の温度で加熱されてよく、次いで発酵温度まで冷却される。
【0049】
[075]一部の実施形態において、発酵ステップは、廃棄物ストリームのpHを6.5から7.5の間に維持するステップ、および/または温度を25℃から35℃の間に維持するステップを含む。
【0050】
[076]一部の実施形態において、第2の炭素源は、発酵ステップ15の前、および/または発酵ステップ15中に、培養培地に添加されうる。同様に、ミネラル源は、発酵ステップ15の前、および/または発酵ステップ15中に、培養培地に添加されうる。通常、PHA産生微生物も、発酵ステップ15の前、および/または発酵ステップ15中に、培養培地に添加される。
PHA産生微生物
[077]PHA産生微生物は、PHAを産生することが知られる任意の菌株でありうる。PHA産生微生物の非限定的な例を以下の表1に列挙する。
【0051】
【0052】
[078]一部の実施形態において、菌株の接種前材料中の細胞数は、24時間の増殖で108から109の間でありうる。しかし、より少ないかまたはより多い接種前材料中の細胞数が可能であり、全体的に、PHA産生のプロセスに大きな影響を与えないことが理解されるべきである。
【0053】
[079]一部の実施形態において、PHA産生微生物は、培養培地に導入される前に培養される。例えば、PHA産生微生物は、培養培地に導入される前に、12時間から48時間まで、または12時間から24時間の間、または約24時間培養されうる。そのようにして得られた接種前材料は、次いで、発酵ステップ15の前および/または発酵ステップ15中に培養培地に添加されうる。
【0054】
[080]一部の実施形態において、PHA産生微生物は、PHA産生微生物の単一株である。他の実施形態において、PHA産生微生物は、1つより多いPHA産生微生物の株を含みうる。
ミネラル源
[081]一部の実施形態において、ミネラル源は、培地に添加され、発酵プロセス中にPHA産生を助けることができる。添加されうるミネラルの非限定的な例は、NH4Cl(例えば、0.2~1.0g/L)、Na2HPO4(例えば、0.5~6.0g/L)、KH2PO4(例えば、0.2~2.4g/L)、MgSO47H2O(例えば、0.04~0.5g/L)、およびそれらの組み合わせである。以下の成分は、発酵プロセス中にPHA産生を助長するよう培地に添加されうる。他のミネラルが使用されうること、および上記で示された濃度は例として与えられ、限定するものであると解釈されるべきでないことが理解されるべきである。
追加の炭素源
[082]一部の実施形態において、方法は、発酵ステップ15の前および/または発酵ステップ15中に、培養培地に第2の炭素源を添加するステップをさらに含む。例えば、第2の炭素源は、カルボン酸、単糖類、油、アルコール、またはそれらの組み合わせを含みうる。カルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その塩、またはそれらの組み合わせを含みうる。単糖類は、グルコース、マンニトール、スクロース、またはそれらの組み合わせを含みうる。油は、オリーブ油、コーン油、ヤシ油、またはそれらの組み合わせといった植物油を含みうる。アルコールは、純または粗グリセロールといったグリセロールを含みうる。
抽出ステップ
[083]発酵ステップ15の後に得られる発酵混合物16は、抽出ステップ18で抽出されるべきPHA24を含む微生物細胞を含有する。従って、PHA24を回収するために、発酵ステップ15は停止され、発酵混合物16はさらに処理される。一部の実施形態において、抽出ステップ18は、加熱処理ステップ、超音波破砕ステップ、および酸化処理ステップの少なくとも1つを含みうる。
【0055】
[084]抽出ステップ18は、PHAを含む微生物細胞の少なくとも一部を溶解させるために発酵混合物16を加熱処理するステップを含みうる。一部の状況において、発酵混合物16に含有されるPHAは、微生物細胞によって分解される。そのような場合、加熱処理を施すことにより、分解を最小限にすることを助けることができる。
【0056】
[085]一部の実施形態において、PHA濃度が(例えば、酢酸/酢酸塩といった炭素源の消費速度が一定となり、最小値に達する際に決定される)最大値に達すると、発酵混合物16は、(例えば、80℃から125℃の間まで、例えば約10分間から45分間の間または約15分間から30分間の間)加熱されうる。任意選択で、加熱ステップの間、発酵槽中の酢酸の濃度は正に維持されうる。この加熱ステップは、通常、微生物細胞の少なくとも一部を溶解させ、従って微生物細胞中に含有されるPHAを放出させる。PHAは、通常、これらの温度で分解しないと理解される。「細胞からPHAが放出される」という表現は、初期に細胞内PHAであったPHAが、加熱処理によって引き起こされる細胞の溶解/細胞破壊によって細胞外に出される(すなわち、細胞外PHAが得られる)ことを意味すると理解される。さらに、PHA濃度は、細胞壁の成分の可溶化といった細胞内容の可溶化によって増大されうる。
【0057】
[086]一部の実施形態において、発酵混合物16の加熱処理は、加熱処理促進化合物を含む。加熱処理促進化合物は、より低い温度での加熱処理の実施を可能にすることができると理解される。一部の実施形態において、加熱処理促進化合物は、洗浄剤を含む。一部の実施形態において、洗浄剤は、界面活性剤、キレート剤、またはそれらの組み合わせを含む。一部の実施形態において、洗浄剤は、Tween(商標)20、Tween(商標)40、Tween(商標)60、2-ドデシル硫酸ナトリウム、TritonX-100、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、またはそれらの組み合わせを含む。発酵混合物16の熱処理中に洗浄剤が添加される場合、加熱処理は、80℃から95℃の間の温度で行われうる。
【0058】
[087]バイオマスからPHAを分離する抽出ステップ18は、クロロホルム、塩化メチレン、および/または1,2-ジクロロエタンといった塩素化溶媒を使用して行われうる。これらの塩素化溶媒と他の溶媒との組み合わせも抽出に使用されうる。抽出されたPHAは、次いで溶媒の蒸発によって、またはアセトンもしくはアルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)といった極性溶媒を添加して高分子を沈殿させることよって、溶媒から分離されうる。代替的に、非PHA細胞物質は、アルカリ性化合物および上記で列挙された洗浄剤といった異なる化学物質を使用して分解されうる。洗浄剤によるPHA回収方法は、溶媒による抽出と、洗浄剤はPHAを実質的に完全な状態のまま残して細胞成分を破壊しうる点で異なる。
【0059】
[088]細胞破壊を引き起こさせる別の方法は、例えば市販されている20から40kHzの間の周波数で作動する装置を使用する、超音波破砕の使用である。一部の実施形態において、発酵混合物16は、加熱処理の前、加熱処理中、または加熱処理後に超音波破砕されうる。一部の実施形態において、加熱処理された発酵混合物は超音波破砕され、細胞をさらに破壊し、PHAを培地中に放出させる。超音波破砕は、数分間、例えば1分から30分の間行われうる。一部の実施形態において、超音波破砕は、2から5分間、または3分間行われる。
【0060】
[089]一部の実施形態において、抽出ステップ18は、発酵混合物に酸化剤を添加するステップを含みうる。例えば、酸化剤は、過酸化物、次亜塩素酸塩、またはそれらの組み合わせを含みうる。一部の実施形態において、次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウムを含み、1から5%w/vの間の濃度で使用されうる。一部の実施形態において、過酸化物は、過酸化水素を含み、1から5%v/vの間の濃度で使用されうる。一部の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウムは、過酸化水素の前に使用される。酸化剤の使用は、発酵混合物の脱色を容易にすることができ、次いでPHAの脱色をもたらすことができると理解される。一部の実施形態において、酸化処理は、加熱処理ステップの後に行われる。一部の実施形態において、酸化ステップは、超音波破砕ステップの後に行われる。
【0061】
[090]一部の実施形態において、抽出ステップ18は、遠心分離を含みうる。例えば、遠心分離は、加熱処理の後、超音波破砕ステップの後、および/または酸化処理のうちの1つの後に行われうる。一部の実施形態において、抽出プロセスは、幾つかの遠心分離ステップを含む。例えば、遠心分離ステップは、加熱処理ステップと超音波破砕ステップの間、超音波破砕ステップと次亜塩素酸ナトリウム処理ステップの間、および/または次亜塩素酸ナトリウム処理ステップおよび/または過酸化水素処理ステップの間に行われうる。
乾燥ステップ
[091]PHAを含む抽出混合物は、例えば噴霧乾燥によって乾燥されうる。
【実施例】
【0062】
実施例1
[092]一方で合成培地(グルコース)を、他方でグルコースで強化された滅菌パルプ製紙工場活性汚泥(PPMAS)を使用し、PHA産生微生物の増殖を比較する実験を行った。
【0063】
[093]実験は、第1および第2の接種前材料の調製から開始された。第1の接種前材料は、ミネラル寒天平板培地からのPHA産生微生物を、(蒸留水1リットル当たり)20gのグルコース、6.0gのリン酸水素ナトリウム十二水和物(Na2HPO4・12H2O)、2.4gのリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、1.0gの塩化アンモニウム(NH4Cl)、0.50gの硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O)を含有する、ミネラル培地(MM)または合成培地(SM)培養液に接種することによって調製された。リン酸塩(Na2HPO4・12H2O、KH2PO4)および塩化アンモニウムをグルコースと共に滅菌し、一方で、MgSO4・7H2Oを、別途121℃で15分間オートクレーブ処理し、冷却後にこれらの溶液を無菌状態で混合した。培地のpHを6.8に維持し、接種前材料を150rpmの攪拌状態で、30℃で24時間維持した。与えられる全ての実施例において、接種前材料1は、同じ組成および培養条件に従う。
【0064】
[094]その後、2~10%(v/v)の接種前材料を、a)合成培地(グルコース、10g/L)およびb)10g/Lのグルコースで強化された汚泥(10g/LのSS(浮遊物質)培地の各々に移した(第2の接種前材料)。他のミネラル組成は、第1の接種前材料培地と同じであった。第2の接種前材料も30℃、150rpmで24時間維持し、その後2~10%(v/v)の第2の接種前材料を、1Lの振とう三角フラスコ中の200mLの産生培地に移した。産生培地の組成は、汚泥産生培地中に15g/LのSSを使用した以外は第2の接種前材料培地と同じとし、汚泥および合成産生培地の両方の場合において使用されるグルコース濃度は、20g/Lであった。PHA産生のための産生培地のインキュベーションは、150rpm、30℃で96時間行った。微生物発酵から得られた試料を24時間後毎に採取し、CFU(コロニー形成単位)を測定した。
【0065】
[095]汚泥を添加しない合成培地と比較し、基質として滅菌PPMAS(パルプ製紙工場活性汚泥)を使用すると、微生物の増殖は、1ログサイクル(one log cycle)高かった(結果を
図5にまとめる)。
【0066】
実施例2
[096]異なる実験を、異なるパラメータを変動させ、振とうフラスコ中で行い、洗浄および非洗浄汚泥について、微生物の増殖およびPHA産生の比較を行った。さらに、汚泥固体を最大限可溶化するため、水酸化ナトリウム(NaOH)の投与量を変化させた。選択されたNaOH投与量をさらに適用し、SS濃度が増殖およびPHA産生に与える影響を検討した。
【0067】
[097]洗浄(調質)および非洗浄汚泥を(追加の炭素源およびミネラルで強化せずに)使用するPHA産生:汚泥基質の未同定成分は、バイオマスの増殖およびPHAの蓄積を適度に阻害しうる。PHA蓄積中に必要となる栄養素の量は非常に限られ、栄養素が活性汚泥固体中に組み込まれていると仮定し、汚泥を遠心分離し、そうして得られた上清を捨て、汚泥バイオマス(または遠心分離ペレット)を水道水中に再懸濁し、PHA蓄積用の基質(部分的な炭素および栄養素源)として使用した(調質汚泥)。従って、非洗浄(10、15、20、25、30g/L)および洗浄汚泥(15、20、25、30、および35g/L)について異なる浮遊物質濃度を使用して汚泥産生培地を調製し、微生物の増殖およびPHA蓄積に対するそれらの影響を検討した。汚泥浮遊物質を121℃で30分間滅菌した。滅菌後、浮遊物質を室温まで冷却させ、その後、4NのNaOH(水酸化ナトリウム)またはH2SO4(硫酸)を使用して、無菌条件下でpHを6.8に調整した。全ての振とうフラスコに、産生培地(追加の炭素源およびミネラルで強化されない、様々なSS濃度の洗浄および非洗浄汚泥)と同様に調製された前培養2の接種材料を2~10%(v/v)接種し、30℃のインキュベーションを150rpmで96時間維持した。
【0068】
[098]SSが15g/L(表2)の洗浄汚泥を使用すると、最大の細胞増殖およびPHA含有量が得られた。他のSS値でも同等のPHA含有量を得ることができる。
【0069】
【0070】
[099]汚泥の前処理のためのアルカリ(水酸化ナトリウム)投与量:前処理プロセスの目的は、リグノセルロース材料の主成分を分画し、最大汚泥固形分を溶解させ、溶菌させることで、増殖する微生物によって利用されうる栄養素の放出をもたらすことである。従って、この実験において、10および30g/Lの浮遊物質濃度を使用し、異なる水酸化ナトリウム投与量(NaOH0.05、0.07、0.09、0.11、0.13g/浮遊物質のg)で処理した。その後、汚泥を121℃で30分間滅菌した。各フラスコについて、10mLの試料を採取して浮遊物質濃度を測定した。汚泥固体が最も多く溶解した水酸化ナトリウムの投与量を、さらなる実験用に選択した。
【0071】
[100]10g/L(処理後の最終SS濃度-4.1g/L)および30g/L(処理後の最終SS濃度-11.3g/L)のSSについて、NaOH0.13g/SSのgで汚泥の加水分解は最大であった。
【0072】
[101]PHA産生のための浮遊物質濃度:微生物の増殖およびPHAの蓄積を阻害しうる脂肪酸、フェノール類、およびフラン誘導体といった様々な阻害物質が、水酸化ナトリウム処理中に放出されえた。より高いSSでより多量の阻害物質が水酸化ナトリウムによる前処理中に放出されるため、阻害物質は、浮遊物質の濃度の増加に伴い増加し、増殖およびPHAの蓄積に直接影響しうる。従って、SS(10、15、20、25、30g/L)濃度を変化させる前処理は、NaOH0.133g/SSのgのNaOH濃度で行った。121℃で30分間汚泥を滅菌した後、前処理浮遊物質を室温にし、4NのH2SO4を使用して無菌条件下でpHを6.8に調整した。全ての振とうフラスコに、産生培地(追加の炭素およびミネラルを補わない、様々なSS濃度)と同様に調製された前培養2を2~10%(v/v)接種した。インキュベーションのため、フラスコを150rpm、30℃で96時間維持し、試料の浮遊物質濃度、CFU(コロニー形成単位)、およびPHA濃度を分析した。
【0073】
[102]SS濃度を変化させて洗浄汚泥をアルカリ処理(NaOH0.133g/SSのg)した後、浮遊物質濃度を15、20、25、および30g/Lから4.7、5.0、8.0、および13g/Lにそれぞれ減少させた。バイオマスのPHA含有量(9.67%w/w)は、24時間でSS濃度15g/Lを使用したとき最大であった。しかし、得られたPHA含有量(9.67%w/w)は、同じSS濃度で加熱処理洗浄汚泥のみを使用して得られたPHA含有量(11.46%w/w)と比較して低かった。アルカリ処理を使用したときのより低いPHA蓄積量は、加水分解中に形成された有害成分に起因するものであった可能性がある。
【0074】
実施例3
[103]水酸化ナトリウムを使用する汚泥の加水分解中に放出された有害物質は、PHA蓄積を阻害することが見出された。汚泥の加水分解中に生成される阻害成分を減少させるために石灰または水酸化カルシウム処理を使用した。
【0075】
[104]異なるフラスコ内で、SS濃度15g/Lの洗浄汚泥に異なる投与量の水酸化カルシウム(Ca(OH)20.05、0.07、0.09、0.11、0.13g/浮遊物質のg)を添加した。汚泥の滅菌後、グルコース(20g/L)、塩化アンモニウム(1g/L)、およびミネラルを各フラスコ内に補った(実施例1と同じ組成)。4Nの硫酸を使用してpHを6.8に調整し、2~10%(v/v)の前培養2を使用して接種を行った(産生培地と同じ組成であり、前培養は24時間増殖させる)。その後、30℃、150rpmで96時間インキュベーションを行った。バイオマス濃度(g/L)、還元糖消費量(g/L)、CFU、およびPHA濃度(g/L)を目的として試料を24時間後毎に回収した。
【0076】
[105]水酸化カルシウム0.11g/SSのgで、細胞増殖およびPHA蓄積量が最大となることが見出された。振とうフラスコ内での水酸化カルシウム解毒を使用すると、PHA濃度は1.10g/L(NaOH処理汚泥を使用)から4.45g/Lまで上昇した。下記表3に示されるように、他の水酸化カルシウム濃度でも、NaOHによる制御と比較し、高い細胞増殖およびPHA蓄積をもたらす。
【0077】
【0078】
実施例4
[106]追加の炭素源としてグルコースで強化され、かつ滅菌前に水酸化カルシウムで処理された汚泥を使用して実験を行い、PHAを産生させた(流加発酵)。
【0079】
[107]紙パルプ活性汚泥(PPAS)を使用する純粋細菌培養において、5Lまたは7Lの発酵槽中で流加発酵を行い、PHA蓄積の安定性および整合性を検証した。PHA蓄積を増大させるため追加の炭素基質としてグルコース(純炭素基質)を使用した。
【0080】
[108]本検証においては、振とうフラスコでの実験から得た濃度15g/Lの浮遊物質を使用し、滅菌前の洗浄汚泥に濃度Ca(OH)20.11g/SSのgの水酸化カルシウムを添加した。汚泥の滅菌後、無菌条件において、滅菌グルコースおよびミネラルで培地を補った。ジャケットに水を循環させることによって温度を30℃に維持した。コンピュータ制御蠕動式ポンプを通し、4Nの硫酸および4NのNaOHを使用して発酵pHを6.8±0.1に自動制御した。ポーラログラフ溶存酸素プローブおよびpHセンサ(Mettler-Toledo、USA)によってDOおよびpHの両方をそれぞれ連続的に観察した。
【0081】
[109]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)およびグルコース(10g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した)を、汚泥産生培地に移した。0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を
図4に示す。グルコースの供給は、発酵の間中、消費量に基づいて行われた。
【0082】
【0083】
[110]調質され、かつCa(OH)
2処理された滅菌汚泥(SS濃度-15g/L)は、(
図6にみられるように)最大PHA含有量86.5%(w/w)、バイオマス濃度51.97g/L、およびPHA濃度44.97g/Lをもたらした。異なる時間で回収されたPPMASを使用して同じ実験を繰り返したところ、結果は再現可能であり、従来技術におけるPHA蓄積の不整合やばらつきに関する典型的な課題を解決する。
【0084】
[111]さらに、グルコースで強化された汚泥を使用し、PHA0.60g/消費グルコースのg(PHA1.5g/消費炭素のg)の高いPHA収量が達成された。しかし、汚泥を添加せずに基質としてグルコースのみを使用して、0.36g/消費グルコースのg(PHA0.9g/消費炭素のg)の低いPHA収量が達成された(表5)。
【0085】
【0086】
実施例5
[112]追加の炭素源として高濃度で石鹸を含有する粗グリセロール(表6の組成)で強化され、かつ滅菌前に水酸化カルシウムで処理された汚泥を使用して実験を行い、PHAを産生させた。
【0087】
【0088】
[113]2つの異なる発酵槽中でSS濃度15g/Lの非調質(非洗浄)および調質(洗浄)汚泥を使用した。滅菌前に濃度Ca(OH)20.11g/SSのgを汚泥(カナダ、ケベック・シティの白樺紙パルプ事業から回収)に添加した。汚泥の滅菌後、無菌条件下で滅菌粗グリセロール溶液(炭素8g/L)およびミネラルで培地を補った。
【0089】
[114]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した)を汚泥産生培地に移した。0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を
図4に示す。粗グリセロール溶液の供給は、発酵の間中、グリセロールおよび石鹸の消費量に基づいて行われた。
【0090】
[115](
図7にみられるように)初期SSが15g/Lの調質汚泥を使用し、PHA含有量72.1%(w/w)およびPHA濃度29.7g/Lで最大バイオマス濃度41.2g/Lが達成された。しかし、(
図8にみられるように)初期SSが15g/Lの非調質汚泥を使用し、PHA含有量55.7%(w/w)およびPHA濃度21.9g/Lでバイオマス濃度38.9g/Lが達成された。汚泥洗浄における有毒化合物の除去後にPHA含有量およびPHA濃度がそれぞれ17%および8g/L増大するため、これらの結果は、汚泥の洗浄がPHAの蓄積に影響を及ぼすことを示す。
【0091】
[116]粗グリセロールで強化された調質汚泥を使用した実験においてPHA0.98g/消費炭素(石鹸及びグリセロールの両方)のgの高いPHA収量が達成された。しかし、汚泥を添加せずに基質として粗グリセロールのみを使用した実験においてPHA0.73g/消費炭素(石鹸及びグリセロールの両方)のg低いPHA収量が達成された(表7)。
【0092】
【0093】
実施例6
[117]滅菌前に水酸化カルシウムで処理された、より高いSS濃度を有する汚泥を使用して実験を行い、PHAを産生させた。
【0094】
[118]25g/Lの高いSS濃度の調質汚泥を使用し、濃度Ca(OH)20.11g/SSのgの水酸化カルシウムを滅菌前の汚泥に添加した。汚泥の滅菌後、無菌条件下で滅菌粗グリセロール溶液(炭素8g/L、表6の組成)およびミネラルで培地を補った。
【0095】
[119]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した)を汚泥産生培地に移した。0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を
図4に示す。粗グリセロール溶液の供給は、発酵の間中、消費量に基づいて行われた。
【0096】
[120]高い固体濃度の調質汚泥は、(
図9に示されるように)48.7g/Lのバイオマス濃度、68%(w/w)のPHA含有量、および33.2g/LのPHA濃度をもたらし、PHA0.86g/消費炭素(石鹸及びグリセロールの両方)のgのPHA収量が得られた。
【0097】
[121]25g/Lの初期SS濃度を使用したときのバイオマスおよびPHA濃度は、より低いSS濃度(15g/L)を使用することで達成されたバイオマスおよびPHA濃度と比較し、高かった。発酵プロセスにおいて高い固体濃度を使用することで、特定の工場で生じた規定量の汚泥を処理するのに必要とされる発酵槽の容積を最終的に低減することができる。これは、次いでPHAの創成費用を低減する。
【0098】
実施例7
[122]追加の炭素源として酢酸で強化され、かつ滅菌前に水酸化カルシウムで処理された調質汚泥を使用して実験を行い、PHAを産生させた。
【0099】
[123]pH-stat流加法を使用し、汚泥と共に追加の炭素基質として酢酸も検討した。発酵槽内の培養液のpHが6.8から6.85まで増大すると(pHの偏差0.05)、アシッドポンプによって発酵槽中に酢酸を自動的に供給した。酢酸を使用する全ての実験のための前培養2は、粗グリセロール溶液を使用して調製した。SS濃度25g/Lの調質紙パルプ汚泥を使用し、濃度Ca(OH)20.11g/SSのgの水酸化カルシウムを滅菌前の汚泥に添加した。汚泥の滅菌後、無菌条件下で、ミネラルで培地を補った。30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成(表6に示される組成)を使用した)を汚泥産生培地に移した。0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。pHに基づく流加法に基づき発酵槽中に酢酸を自動的に添加した。
【0100】
[124](
図10にみられるように)初期SS25g/Lの調質汚泥を使用し、PHA含有量68%(w/w)およびPHA濃度30.5g/Lで最大バイオマス濃度44.7g/Lが達成された。調質汚泥および追加の炭素基質として酢酸を使用し、PHA0.60g/消費酢酸のg(PHA1.5g/消費炭素のg)の高いPHA収量が達成された。
【0101】
[125]PHA0.2g/消費された炭素基質の混合物(酢酸、酪酸、コハク酸、および、プロピオン酸)のgの比較的低いPHA収量がChakrabortyら(2012年)によって報告された。Yuら(2002年)による別の研究において、PHA0.39g/消費された炭素基質の混合物(酢酸、酪酸、および、プロピオン酸)のgの平均PHA収量が報告された。
【0102】
実施例8
[126]異なる紙パルプ事業から回収された非調質汚泥を使用し、実験を行った。
[127]汚泥の組成は、工場毎に変化する。この一連の実験において、紙パルプ汚泥は、アルマおよびドルボーといった異なる紙パルプ事業から回収される。汚泥は、時間および事業内で使用されるプロセスの性質と共に変動すると考えられる。さらに、廃水中、汚泥微生物群は、プロセスストリーム中の有機物供給負荷、化学物質の添加、SRTの変化、HRT、温度、pHの操作などのような変化に対し敏感であり、それによってPHA含有量を変化させる。汚泥組成は、事業毎に異なることも仮定できる。従って、この節では、方法の持続可能性を確認するため、異なる事業から回収された紙パルプ汚泥を使用するPHA産生に、確立された方法を使用した。
【0103】
[128]異なる実験で、非洗浄のアルマおよびドルボー汚泥にCa(OH)20.11g/SSのgの濃度の水酸化カルシウムを滅菌前に添加した。汚泥の滅菌後、無菌条件下で滅菌粗グリセロール溶液(炭素8g/L)(表6に示される組成)およびミネラルを培地に補った。
【0104】
[129]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成(表6に示される組成)を使用した)を汚泥産生培地に移した。0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間で5回の粗グリセロールの供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を
図4に示す。粗グリセロール溶液の供給は、発酵の間中、石鹸およびグリセロールの消費量に基づいて行われた。
【0105】
追加の炭素基質として粗グリセロール溶液を有する、初期SS濃度が15g/Lの非洗浄アルマ汚泥は、40.12g/Lの最大バイオマス濃度および53.45%(w/w)のバイオマスPHA含有量および21.44g/LのPHA濃度をもたらした。ドルボー非洗浄汚泥の発酵プロセスと同様の条件下での同様の実験研究において、55.2%(w/w)のPHA含有量および22.8g/LのPHA濃度で41.32g/Lの最大バイオマス濃度が達成された。これらの結果は、同様の発酵条件下で白樺紙パルプ事業の非洗浄汚泥を使用して得られた結果と同様であった。3つの異なる紙パルプ事業の廃水処理工場から回収された汚泥を使用して得られた結果から、混合培養を用いるPHA産生の主たる障害である汚泥の組成は、純粋培養プロセスを使用するPHA産生に影響を与えないことが明白である。
【0106】
実施例9
[130]150Lの大規模発酵槽を使用して実験を行い、PHAを産生させた。
[131]ドルボーから得られた非調質汚泥(デカンテーションなし)および追加の炭素基質として粗グリセロールを含む150L(総容積)の発酵槽でもPHAを産生させ、開発された方法の整合性を確認した。
【0107】
[132]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した)を前培養3(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した、表6に示される組成)に移し、培養条件は、前培養2と同じであった。24時間後、ワーキングボリュームが100Lの150Lの発酵槽に前培養3を移した。0、12、および24時間で窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を
図4に示す。粗グリセロール溶液の供給は、発酵の間中、石鹸およびグリセロールの消費量に基づいて行われた。
【0108】
[133]初期SS15g/Lの非調質汚泥を使用し、54%(w/w)のPHA含有量および21.5g/LのPHA濃度で40g/Lの最大バイオマス濃度が達成された。これらの結果は、15g/Lの非調質汚泥を含む5Lの発酵槽を使用して行われた実験と同様であり、異なる規模での新規のPHA産生方法の整合性を示す。
【0109】
[134]汚泥が、単独で、または(粗グリセロールなどのような)他の廃棄物質と組み合わせて、純粋培養に使用することができる基質であることが示された。方法は、微生物混合培養を使用するPHA産生中に得られるPHA濃度に一貫性がなく、PHA含有量が低く、PHA収量が低いという課題を少なくとも部分的に解決することができる。さらに、発酵中に産生されたバイオマス中のPHA濃度が高いため、PHAのさらなる抽出および精製に必要とされる化学的処理が少ない。
【0110】
実施例10
[135]バイオマス濃度、PHA濃度、およびPHA収量をさらに高めるために、追加の炭素源として高濃度で石鹸を含有する粗グリセロール(表6の組成)で強化され、滅菌前に水酸化カルシウムで処理された調質汚泥を使用し、5Lの発酵槽において実験を行った。連続炭素流加法を使用し、発酵の間中、微生物に最適な炭素濃度(粗グリセロール溶液の炭素8±1g/培地のL)を維持した。
【0111】
[136]5Lの発酵槽に関し、30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(SS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)濃度が低い以外産生培地と同じ組成を使用した)を汚泥産生培地に移した。
【0112】
[136]0、12、および24時間で同じ濃度の窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を表8に示す。
【0113】
【0114】
[137]流加発酵中、グリセロールおよび石鹸の消費量に基づき、粗グリセロール溶液を間欠的に添加した。しかし、発酵の間中、培地中で維持される微生物に最適な炭素濃度(炭素8g/L)をもたらすために、連続流加法が代替的に使用されうる。連続流加法は、発酵の間中、C/N比を維持することも助けうる。
【0115】
[138]従って、0時間において、粗グリセロール溶液(炭素20g/グリセロールのL、または炭素8g/Lに等しい炭素当量)が培地に添加された。その後、粗グリセロール溶液は、(蠕動式ポンプの流量を調整し、間欠流加法において最適化された必要量の粗グリセロール溶液を添加することによって)自動的に添加された。間欠流加法の間、消費量に基づいて炭素が添加され、微生物は、12時間毎に粗グリセロール溶液4gC/培地のLを要した。従って、連続流加法において、12時間の期間中に蠕動式ポンプの流量を調整することにより、発酵槽に同量の炭素をゆっくり添加した。従って、発酵の間中、同一の炭素濃度が維持されることが観察された。
【0116】
[139]従って、基質としてCa(OH)2処理PPMASを、追加の炭素基質として粗グリセロールを用いて連続炭素流加法を使用することにより、間欠炭素流加法で得られた41.2g/Lのバイオマス濃度および29.7g/LのPHA濃度と比較し、42g/LのPHA濃度で58g/Lのバイオマス濃度がもたらされた。また、連続炭素流加発酵法を使用することにより、間欠炭素流加法で得られたPHA0.98g/消費炭素のgのPHA収量と比較し、PHA1.17g/消費炭素のgのPHA収量がもたらされた(表9)。
【0117】
【0118】
実施例11
[140]150Lの大規模発酵槽を使用して実験を行い、PHAを産生させた。ドルボーから得られた調質汚泥および追加の炭素基質として粗グリセロール(第2の炭素源)を含む150L(総容積)の連続流加法用発酵槽でもPHAを産生させ、開発された方法の整合性を確認した。
【0119】
[141]30℃、150rpmで24時間培養した前培養2(濃度が低いSS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)を使用した以外産生培地と同じ組成である)を前培養3(濃度が低いSS(10g/L)および粗グリセロール(炭素4g/L)を使用した以外産生培地と同じ組成である、表6に示される組成)に移し、培養条件は、前培養2と同じであった。24時間後、ワーキングボリュームが100Lの150Lの発酵槽に前培養3を移した。0、12、および24時間で窒素およびミネラルを補い、24時間以降、発酵の間中、低濃度のミネラルおよび窒素を補った(36、42、60、72、および84時間の5回の供給)。汚泥産生培地の組成および供給溶液を表8に示す。
【0120】
[142]実施例10で検討される連続炭素流加発酵法において、発酵槽に同じ濃度の炭素をゆっくり添加した。オートクレーブ中で粗グリセロール溶液を121℃で15分間滅菌し、室温まで冷却した。無菌条件下、層流空気中で、粗グリセロール溶液を滅菌供給プラスチックタンクに移した。その後、滅菌供給プラスチックタンク(炭素供給タンク)を発酵槽に接続した。粗グリセロール溶液は互いに混ざらない石鹸およびグリセロールからなるという事実により、粗グリセロール溶液を連続して混合するために、炭素供給タンクをマグネチックスターラー上に置いた。発酵槽への粗グリセロール溶液の供給流量は、蠕動式ポンプの回転周波数を5rpmに設定することによって手動で設定した(17秒毎にオン、60秒間オンおよびオフ)。従って、発酵槽内で時間とともに増大した発酵培養液の体積を考慮し、消費量に基づき、発酵培地(培養培地)中で最適炭素濃度(炭素8±1g/L)を維持した(6時間毎に、グリセロールおよび石鹸濃度について試料を分析した)。従って、発酵槽内に添加された粗グリセロール溶液の容積は増大した(時間間隔(オン)を20秒まで増大させた)。
【0121】
[143]150Lの発酵槽における連続流加法で、初期SS15g/Lの調質汚泥を使用し、70%(w/w)のバイオマスPHA含有量および40g/LのPHA濃度で58.4g/Lの最大バイオマス濃度を達成した。これらの結果は、15g/Lの調質汚泥を含む5Lの発酵槽を使用して行われた実験と同様であり、異なる規模でのPHA産生方法の整合性を示す。