(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉末、軟磁性金属焼成体、およびコイル型電子部品
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241010BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241010BHJP
B22F 1/105 20220101ALI20241010BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241010BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20241010BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20241010BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20241010BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241010BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241010BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F1/105
B22F3/00 B
C22C19/03 E
C22C30/00
C22C30/06
C22C38/00 303S
H01F1/147 133
H01F1/147 150
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2021549051
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036308
(87)【国際公開番号】W WO2021060479
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019176206
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 優
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】榎本 奈美
(72)【発明者】
【氏名】永井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】石間 雄也
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特公昭58-054185(JP,B2)
【文献】特開2017-101311(JP,A)
【文献】特開2019-117921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/05,1/105,3/00
C22C 19/03,30/00,30/06,38/00
H01F 1/147,1/20,1/22,17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Ni-Si-M系合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe-Ni-Si-M系合金は、さらにPを含み、
MはB、Co、Mn、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Alおよび希土類元素から選択される1種以上であり、
前記Fe-Ni-Si-M系合金には、Fe、Ni、SiおよびMの合計含有量を100質量%として、Niが15.0質量%以上55.0質量%以下、Siが2.0質量%以上6.0質量%以下、Mが2.0質量%以上40.0質量%以下、Pが100ppm以上5000ppm以下で含まれる軟磁性金属粉末。
【請求項2】
Fe-Ni系合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe-Ni系合金は、さらにCrを含み、
前記Fe-Ni系合金は、さらにSiおよび/またはMを含み、
MはB、Co、Mn、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Alおよび希土類元素から選択される1種以上であり、
前記Fe-Ni系合金には、Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Crが
0.1質量%以上1.8質量%以下で含まれる軟磁性金属粉末。
【請求項3】
前記Fe-Ni系合金は、さらにPを含み、
前記Fe-Ni系合金には、Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Pが100ppm以上5000ppm以下で含まれる請求項2に記載の軟磁性金属粉末。
【請求項4】
MがCoである請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性金属粉末。
【請求項5】
Coの含有量が2.0質量%以上40.0質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性金属粉末。
【請求項6】
前記軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)が、1.5μm以上15.0μm以下である請求項1~
5のいずれかに記載の軟磁性金属粉末。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の軟磁性金属粉末を含む軟磁性金属焼成体。
【請求項8】
磁性素体と、前記磁性素体に内蔵されたコイル導体と、を有するコイル型電子部品であって、
前記磁性素体が、請求項
7に記載の軟磁性金属焼成体から構成されているコイル型電子部品。
【請求項9】
前記軟磁性金属粒子は被覆膜で被われ、
前記被覆膜のうち前記軟磁性金属粒子と接する層がSiまたはSiを含む酸化物を含む請求項
8に記載のコイル型電子部品。
【請求項10】
前記被覆膜のうち前記軟磁性金属粒子と接する層がさらにPを含む請求項
9に記載のコイル型電子部品。
【請求項11】
前記被覆膜の平均厚みが5nm以上60nm以下である請求項
9または10に記載のコイル型電子部品。
【請求項12】
磁性素体と、前記磁性素体に内蔵されたコイル導体と、を有するコイル型電子部品であって、
前記磁性素体は軟磁性金属粒子を含み、
前記軟磁性金属粒子におけるCrの含有量は
0.1質量%以上1.8質量%以下であり、
前記軟磁性金属粒子は被覆膜で被われ、
前記被覆膜は前記軟磁性金属粒子と接する第1層および前記第1層と接する第2層からなり、
前記第1層がSiまたはSiを含む酸化物を含み、
前記第2層がCrを含むコイル型電子部品。
【請求項13】
前記軟磁性金属粒子がCoを2.0質量%以上40.0質量%以下、含む請求項12に記載のコイル型電子部品。
【請求項14】
前記第1層の平均厚みをD1、前記第2層の平均厚みをD2として、0.5≦D2/D1≦1.5である請求項
12または13に記載のコイル型電子部品。
【請求項15】
D2が2.5nm以上30nm以下である請求項
12~14のいずれかに記載のコイル型電子部品。
【請求項16】
前記磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含み、
前記樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填される請求項
8~15のいずれかに記載のコイル型電子部品。
【請求項17】
前記樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂である請求項
16に記載のコイル型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末、軟磁性金属焼成体、およびコイル型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層コイルに関する発明が記載されており、磁性体において、Fe-Si-Cr合金粒子同士の間の空隙に樹脂を含浸させることを特徴としている。
【0003】
特許文献2には、軟磁性合金粉末に関する発明が記載されており、Fe、Ni、CoおよびSiのそれぞれの含有量を特定の範囲内に制御したFe-Ni系粒子を含有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-238840号公報
【文献】特開2008-135674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インダクタンスLおよびQ値が十分に高くめっき伸びが起きにくくショートしにくいコイル型電子部品に含まれ透磁率μおよび比抵抗ρが高い軟磁性金属焼成体を提供可能な軟磁性金属粉末等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係る軟磁性金属粉末は、
Fe-Ni-Si-M系合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe-Ni-Si-M系合金は、さらにPを含み、
MはB、Co、Mn、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Alおよび希土類元素から選択される1種以上であり、
前記Fe-Ni-Si-M系合金には、Fe、Ni、SiおよびMの合計含有量を100質量%として、Niが15.0質量%以上55.0質量%以下、Siが2.0質量%以上6.0質量%以下、Mが2.0質量%以上40.0質量%以下、Pが100ppm以上5000ppm以下で含まれる。
【0007】
本発明の第2の観点に係る軟磁性金属粉末は、
Fe-Ni系合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe-Ni系合金は、さらにCrを含み、
前記Fe-Ni系合金は、さらにSiおよび/またはMを含み、
MはB、Co、Mn、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Alおよび希土類元素から選択される1種以上であり、
前記Fe-Ni系合金には、Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Crが2.0質量%未満で含まれる。
【0008】
前記Fe-Ni系合金は、さらにPを含んでもよく、
前記Fe-Ni系合金には、Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Pが100ppm以上5000ppm以下で含まれてもよい。
【0009】
以下の記載は第1の観点に係る軟磁性合金粉末と第2の観点に係る軟磁性金属粉末とに共通する記載である。
【0010】
MがCoであってもよい。
【0011】
前記軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)が、1.5μm以上15.0μm以下であってもよい。
【0012】
本発明の第1、第2の観点に係る軟磁性金属焼成体は、第1、第2の観点に係る軟磁性金属粉末を含む。
【0013】
上記の軟磁性金属粉末を含む軟磁性金属焼成体は、透磁率μおよび比抵抗ρが高くなりやすい。
【0014】
本発明の第1、第2の観点に係るコイル型電子部品は、磁性素体と、前記磁性素体に内蔵されたコイル導体と、を有するコイル型電子部品であって、
前記磁性素体が、第1、第2の観点に係る軟磁性金属焼成体から構成されている。
【0015】
磁性素体が上記の軟磁性金属焼成体から構成されているコイル型電子部品は、インダクタンスLおよびQ値が十分に高く、めっき伸びが起きにくくショートしにくいコイル型電子部品となる。
【0016】
前記軟磁性金属粒子は被覆膜で被われてもよく、
前記被覆膜のうち前記軟磁性金属粒子と接する層がSiまたはSiを含む酸化物を含んでもよい。
【0017】
前記被覆膜のうち前記軟磁性金属粒子と接する層がさらにPを含んでもよい。
【0018】
前記被覆膜の平均厚みが5nm以上60nm以下であってもよい。
【0019】
本発明の第3の観点に係るコイル型電子部品は、
磁性素体と、前記磁性素体に内蔵されたコイル導体と、を有するコイル型電子部品であって、
前記磁性素体は軟磁性金属粒子を含み、
前記軟磁性金属粒子におけるCrの含有量は2.0質量未満(0質量%を含まない)であり、
前記軟磁性金属粒子は被覆膜で被われ、
前記被覆膜は前記軟磁性金属粒子と接する第1層および前記第1層と接する第2層からなり、
前記第1層がSiまたはSiを含む酸化物を含み、
前記第2層がCrを含む。
【0020】
前記第1層の平均厚みをD1、前記第2層の平均厚みをD2として、0.5≦D2/D1≦1.5であってもよい。
【0021】
D2が2.5nm以上30nm以下であってもよい。
【0022】
以下の記載は上記全てのコイル型電子部品に共通する記載である。
【0023】
前記磁性素体は軟磁性金属粒子および樹脂を含んでもよく、
前記樹脂は前記軟磁性金属粒子間の隙間スペースに充填されていてもよい。
【0024】
前記樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る積層コイルである。
【
図3】
図3は実施例103における層間部のSEM画像である。
【
図4】
図4は実施例104における層間部のSEM画像である。
【
図7】
図7は実施例103におけるCマッピング画像である。
【
図8】
図8は実施例103におけるCマッピング画像である。
【
図9】
図9は実施例103におけるSiマッピング画像である。
【
図10】
図10は実施例103におけるSiマッピング画像である。
【
図11】
図11は実施例103におけるOマッピング画像である。
【
図12】
図12は実施例103におけるOマッピング画像である。
【
図13】
図13は磁性素体における軟磁性金属粒子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0027】
<軟磁性金属粉末>
(第1実施形態)
第1実施形態に係る軟磁性金属粉末は、複数の軟磁性金属粒子の集合体である。軟磁性金属粒子は、Fe-Ni-Si-M系合金から構成される。Fe-Ni-Si-M系合金は、さらにPを含む。MはB、Co、Mn、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Alおよび希土類元素から選択される1種以上である。MがCoであることが好ましい。本実施形態では、Fe-Ni-Si-M系合金において、Fe、Ni、SiおよびMの合計含有量を100質量%として、その他の元素の含有量は、P、Oを除き、それぞれ0.15質量%以下であってもよい。Oの含有量は0.5質量%以下であってもよい。Crの含有量は0.1質量%未満であってもよく、0.03質量%以下であってもよい。
【0028】
そして、Niの含有量が15.0質量%以上55.0質量%以下、Siの含有量が2.0質量%以上6.0質量%以下、Mの含有量が2.0質量%以上40.0質量%以下である。さらに、Pの含有量が100ppm以上5000ppm以下、すなわち0.0100質量%以上0.5000質量%以下である。
【0029】
Niの含有量は22.0質量%以上42.0質量%以下であってもよい。Siの含有量は2.5質量%以上5.5質量以下であってもよく、2.5質量%以上4.0質量%以下であってもよい。Mの含有量は5.0質量%以上32.0質量%以下であってもよい。Pの含有量は300ppm以上2000ppm以下であってもよい。
【0030】
上記の組成を有する軟磁性金属粒子から構成される軟磁性金属粉末を用いて軟磁性金属焼成体を作製することにより、上記の組成を有しない軟磁性金属粒子から構成される軟磁性金属粉末を用いて軟磁性金属焼成体を作製する場合と比較して、透磁率μおよび比抵抗ρが高い軟磁性金属焼成体を得ることができる。
【0031】
特に、Siの含有量が少なすぎる場合には、比抵抗が低下する傾向がある。これは、熱処理後の軟磁性金属粒子の酸化状態を適切に維持しにくくなるためである。
【0032】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、1.5μm以上15.0μm以下であってもよく、2.0μm以上15.0μm以下であってもよく、5.0μm以上10.0μm以下であってもよい。軟磁性金属粉末の平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、透磁率μおよび比抵抗ρが高い軟磁性金属焼成体を得やすくなる。平均粒子径(D50)の測定方法には特に制限はない。例えばレーザー回折散乱法を用いてもよい。なお、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子の形状は特に制限されない。
【0033】
<軟磁性金属焼成体>
本実施形態に係る軟磁性金属焼成体は、焼成により複数の軟磁性金属粒子が互いに接続した構成を有している。具体的には、焼成により互いに接触している軟磁性金属粒子に含まれる元素と他の元素(例えばO)とが反応し、当該反応に起因する結合を介して複数の軟磁性金属粒子同士が接続している。本実施形態に係る軟磁性金属焼成体においては、熱処理により軟磁性金属粉末由来の軟磁性金属粒子が互いに接続されるが、各軟磁性金属粒子はほとんど粒成長しない。すなわち、各軟磁性金属粒子の粒子径はほとんど変化しない。
【0034】
なお、軟磁性金属焼成体に含まれる軟磁性金属粒子の粒子径は、軟磁性金属焼成体の断面をSEMやSTEM等で画像解析することにより軟磁性金属粒子の面積を算出し、その面積に相当する円の直径(円相当径)として算出した値としてもよい。
【0035】
軟磁性金属焼成体に含まれる軟磁性金属粒子の組成および粒子径については、Oの含有量を除き、上記の軟磁性金属粉末の組成と同様である。Oの含有量については、0.5質量%以下であってもよい。
【0036】
<コイル型電子部品>
本実施形態に係るコイル型電子部品は、積層コイル型電子部品であってもよい。本実施形態に係るコイル型電子部品は、例えば、
図1に示す積層コイルであってもよい。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る積層コイル1は、素子2と端子電極3とを有する。素子2は、磁性素体4の内部にコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に埋設された構成を有している。素子2の両端には、端子電極3が形成されており、この端子電極3は、引出電極5a、5bを介してコイル導体5と接続されている。また、素子2はコイル導体5が埋設されている中央部2bおよび中央部2bの積層方向(z軸方向)上下に存在しコイル導体5が埋設されていない表面部2aからなる。また、本実施形態では、磁性素体4のうち、積層方向におけるコイル導体5同士の中間部を層間部4aとする。
【0038】
素子2の形状は任意であるが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。例えば、0.2~2.5mm×0.1~2.0mm×0.1~1.2mmとすることができる。
【0039】
端子電極3の材質は、電気伝導体であれば、特に制限はない。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが安価で低抵抗のため好ましい。端子電極3はガラスフリットを含有していてもよい。また、端子電極3は、素子2の上に形成され、上記の金属、または上記の金属およびガラスフリットからなる金属層と、当該金属層の上に形成され、導電性樹脂からなる樹脂層と、の2層構造を有していてもよい。導電性樹脂が含有する金属の種類には特に制限はない。例えば、Agが挙げられる。また、端子電極3は表面にめっきを施してもよい。たとえば、Cuめっき、Niめっき、および/または、Snめっきを適宜施してもよい。
【0040】
コイル導体5および引出電極5a、5bの材質は、電気伝導体であれば、任意の材質とすることができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ag合金、Cu合金等が用いられる。特にAgを用いることが安価で低抵抗のため好ましい。
【0041】
磁性素体4は、
図2に示すように軟磁性金属粒子11および樹脂13からなっていてもよい。樹脂13があることにより、インダクタンスLおよびQ値を高くしやすくなる。さらに、積層コイルがショートしにくくなる。
図2は磁性素体4の断面模式図である。また、磁性素体4のうち軟磁性金属粒子11以外の部分を隙間スペース12とする。そして隙間スペース12に樹脂13が充填され、樹脂13が充填されていない部分が空隙14となる。また、樹脂を充填する前の段階では、隙間スペース12は全て空隙14である。
【0042】
軟磁性金属粒子11は被覆膜で被われていてもよい。具体的には、
図13に示すように、軟磁性金属粒子11が軟磁性金属粒子本体11aおよび軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bからなっていてもよい。さらに、本実施形態に係る軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bはSiを含む酸化物からなる層を含むことが好ましく、軟磁性金属粒子本体11aとSiを含む酸化物からなる層とが接していることが好ましい。軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むことにより、軟磁性金属粒子11同士の間の絶縁性が高くなることでQ値が向上する。また、軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む化合物からなる層を含むことで、Feの酸化物が形成されることを防止することもできる。
【0043】
軟磁性金属粒子本体11aは、上記のFe-Ni-Si-M系合金から構成される。特に、Pの含有量が所定の範囲内である場合には、熱処理後の磁性素体4を構成する軟磁性金属粒子11の酸化状態、すなわち酸化被膜11bの被覆率や厚み等が適切に制御されると考えられる。上記のSiを含む酸化物からなる層がさらにPを含む場合には、酸化被膜11bの被覆率や厚み等がさらに適切に制御されやすくなる。その結果、熱処理後の磁性素体4は、高い比抵抗を示し、しかも所定の磁気特性を発揮できる。したがって、本実施形態に係る磁性素体4は、コイル導体5と直接接触する磁性素体として好適である。
【0044】
樹脂13の種類は任意である。フェノール樹脂またはエポキシ樹脂であってもよい。樹脂13がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂である場合には、特に隙間スペース12に樹脂13が充填されやすい。また、樹脂13はフェノール樹脂であることが安価で取り扱いが容易であるため好ましい。
【0045】
樹脂13が隙間スペース12に充填されることで、積層コイル1の強度(特に抗折強度)が高くなる。また、軟磁性金属粒子11同士の間の絶縁性がさらに高くなることでインダクタンスLおよびQ値が向上しやすくなる。さらに、信頼性および耐熱性が向上する。
【0046】
ここで、積層コイル1の素子2のうち、樹脂13が隙間スペース12に最も充填されにくい部分は層間部4aである。したがって、層間部4aの隙間スペース12に樹脂13が充填されていれば、積層コイル1の素子2全体に十分に樹脂13が充填されているといえる。
【0047】
軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むか否か、および、樹脂13が隙間スペース12に充填されているか否かを確認する方法には特に制限はない。例えば、SEM-EDS測定およびSTEM-EDS測定を行い、目視にて軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bがSiを含む酸化物からなる層を含むか否か、および、樹脂13が隙間スペース12に充填されているか否かを確認することができる。
【0048】
ここで、
図3は後述する実施例103、
図4は後述する実施例104の層間部におけるSEM画像(倍率10000倍)である。
図3および
図4より、軟磁性金属粒子以外に樹脂が存在し、隙間スペースを充填していることが分かる。
【0049】
さらに、
図5~
図12は後述する実施例103の層間部のSTEM-EDS測定結果を示す図面である。
図5はSTEMによる明視野像(BF像)(倍率20000倍)である。
図6はSTEMによる明視野像(BF像)(倍率500000倍)である。
図7はSTEM-EDSによるCマッピング画像(倍率20000倍)である。
図8はSTEM-EDSによるCマッピング画像(倍率500000倍)である。
図9はSTEM-EDSによるSiマッピング画像(倍率20000倍)である。
図10はSTEM-EDSによるSiマッピング画像(倍率500000倍)である。
図11はSTEM-EDSによるOマッピング画像(倍率20000倍)である。
図12はSTEM-EDSによるOマッピング画像(倍率500000倍)である。
【0050】
図5~
図12より、樹脂13が層間部の隙間スペース12に充填され、硬化されていることがわかる。さらに、Siが実質的に軟磁性金属粒子11のみに存在し、Cが実質的に隙間スペース12のみに存在していることがわかる。
【0051】
また、後述する実施例103では、
図13に示されているように、軟磁性金属粒子本体11aを被覆する酸化被膜11bが存在する。酸化被膜11bはSi酸化物層を含む。Siは実質的に軟磁性金属粒子本体11aおよび酸化被膜11bのみに存在する。また、Siの酸化物は実質的に酸化被膜11bのみに存在する。なお、Si酸化物層11bは主にSiの酸化物からなる層である。
【0052】
なお、酸化被膜11bの厚みには特に制限はない。Si酸化物層が軟磁性金属粒子本体11aと接していてもよい。例えば、酸化被膜11bがSi酸化物層のみからなっていてもよいし、Si酸化物層と別の酸化物層の多層構造としてもよい。軟磁性金属粒子本体11aと接しているSi酸化物層は実質的にSiの酸化物のみからなっていてもよい。酸化被膜11bの厚みおよび各層の厚みはSTEM-EDS測定画像を用いて測定することができる。本実施形態では、被覆層の平均厚み、すなわち酸化被膜11b全体の平均厚みが5nm以上60nm以下となっていてもよい。なお、上記の平均厚みは、少なくとも50個の軟磁性金属粒子11について酸化被膜11bの厚みを測定した場合の厚みの平均とする。
【0053】
酸化被膜11bの形成方法には特に制限はない。例えば本実施形態に係る軟磁性金属粉末を焼成することにより形成できる。また、酸化被膜11bの厚みおよび各酸化物層の厚みは焼成温度や時間等の焼成条件やアニール条件等により制御できる。なお、酸化被膜11bが厚くなるほど隙間スペース12が小さくなり樹脂13の充填量が低下する。なお、Siの酸化物は実質的に酸化被膜11bのみに含まれ、酸化被膜11bよりも外側の二つの軟磁性金属粒子11の間に挟まれた部分(隙間スペース12)にはほとんど存在しないことが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る積層コイル1では、磁性素体4を構成する軟磁性材料(軟磁性金属粒子11)の比抵抗が高い。これは、軟磁性金属粒子本体11aが酸化被膜11bにより被覆されているためである。さらに、隙間スペース12に樹脂13が充填されている場合には、めっき液が隙間スペース12に侵入しにくい。そのため、樹脂13が充填されている場合には、めっき後においてもショートしにくく高いインダクタンスLを有しやすい。さらに、積層コイル1の強度(特に抗折強度)も向上する。
【0055】
また、層間部4a(中央部2b)の断面における隙間スペース12の面積比率がSEM観察画像全体に対して5.0%以上35.0%以下であることが好ましい。隙間スペース12の面積比率は軟磁性金属粒子の粒径分布により制御できるほか、グリーンチップでのバインダ樹脂の樹脂量、グリーンチップを形成するときの成形圧力、焼成条件、アニール条件などを制御することでも制御することができる。また、軟磁性金属粒子の平均粒子径(D50)が同程度であれば、隙間スペースが大きく、充填される樹脂の量が多くなるほどインダクタンスLが小さくなるが、Q値および抗折強度が大きくなる傾向にある。
【0056】
<軟磁性金属粉末の製造方法>
軟磁性金属粉末の製造方法の一例について説明する。本実施形態では、軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の作製方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて軟磁性金属粉末を作製することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粉末が得られやすいという観点から、水アトマイズ法を用いることが好ましい。
【0057】
水アトマイズ法では、溶融した原料(溶湯)をルツボ底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体として供給し、供給された溶湯に高圧の水を吹き付けて、溶湯を液滴化するとともに、急冷して微細な粉末を得る。
【0058】
本実施形態では、例えば、Fe、Ni、SiおよびCoの各原料を溶融し、この溶融物にPを添加したものを水アトマイズ法により微粉化することにより、本実施形態に係る軟磁性金属粉末を製造することができる。また、原料中、たとえば、Feの原料中にPが不純物として含まれている場合、不純物としてのPの含有量と、添加するPの量との合計を調整して目的とする量のPを含む軟磁性金属粉末を製造してもよい。あるいは、Pの含有量が異なる複数のFeの原料を用いて、Pの含有量が調整された溶融物を水アトマイズ法により微粉化してもよい。
【0059】
<軟磁性金属焼成体およびコイル型電子部品の製造方法>
まず、本実施形態に係る軟磁性金属焼成体の製造方法の一例について説明する。上記の方法により得られた軟磁性金属粉末にバインダを添加し、造粒粉を作製する。バインダの種類には特に制限はない。例えば、アクリル樹脂が挙げられる。得られた造粒粉を成形し、成形体を得る。成形圧には特に制限はない。例えば、3ton/cm2以上10ton/cm2以下であってもよい。次に、脱バインダを行う。脱バインダ時の保持温度および保持時間には特に制限はない。例えば300℃以上450℃以下で0.5時間以上2.0時間以下としてもよい。次に、脱バインダ後の成形体を焼成して軟磁性金属焼成体が得られる。還元性雰囲気の種類には特に制限はない。例えば、水素濃度0.1%以上3.0%以下のN2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気などが挙げられる。焼成温度および焼成時間には特に制限はない。例えば、550℃以上850℃以下で0.5時間以上3.0時間以下としてもよい。軟磁性金属粉末を被う被覆膜(酸化被膜11b)の厚みは、焼成時間が長く、還元性雰囲気中の水素濃度が低いほど厚くなる。
【0060】
主にFe、Si、Crを含み、Ni、Mなどのその他の元素の含有量が小さいFe-Si-Cr系の軟磁性金属粉末を用いる場合には、酸素を含有する雰囲気中で400~900℃で焼成することにより比抵抗が向上する。Siおよび/またはCrからなる絶縁性の高い酸化膜が形成されるためである。しかし、本実施形態に係る軟磁性金属粉末を用いる場合には、酸素を含有する雰囲気中で焼成させた場合には酸化鉄が優先的に生成されやすい。その結果、軟磁性金属粉末の比抵抗がむしろ低下し、最終的に得られるコイル型電子部品のインダクタンスLが低下してしまう。
【0061】
さらに、得られた軟磁性金属焼成体をアニール処理(熱処理)してもよい。アニール処理の条件には特に制限はない。例えば500℃以上800℃以下で0.5時間以上2.0時間以下としてもよい。熱処理時の雰囲気にも特に制限はない。例えば酸素濃度0.05%以上21.0%以下の雰囲気としてもよい。
【0062】
また、脱バインダおよび焼成は、大気中のような酸化雰囲気で行ってもよい。しかし、大気雰囲気よりも酸化力の弱い雰囲気下、例えば窒素雰囲気下や窒素及び水素の混合雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることで、軟磁性金属粒子の比抵抗を高く維持しながら、磁性素体の密度を向上させ、さらに透磁率等を向上させることができる。また、軟磁性金属粒子の表面にSi酸化被膜を形成させやすくなり、Feの酸化物を形成させにくくなる。この結果、Feの酸化によるインダクタンスLの低下を防止することができる。
【0063】
なお、熱処理後の軟磁性金属粒子に含有されるP量は、熱処理前の軟磁性金属粒子に含有されるP量と一致する。
【0064】
さらに、得られた軟磁性金属焼成体にコイルを巻線等することによりコイル型電子部品が得られる。コイル型電子部品を作製する方法には特に制限はなく、本技術分野で用いられている方法を用いることができる。
【0065】
<積層コイル型電子部品の製造方法>
積層コイル型電子部品の製造方法の一例として、
図1に示す積層コイル型電子部品の製造方法について説明する。まず、得られた軟磁性金属粉末を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いて、焼成後に磁性素体(軟磁性金属焼成体)となるグリーンシートを形成する。次いで、形成されたグリーンシートの上に、コイル導体となる銀(Ag)等を所定のパターンで形成する。続いて、コイル導体パターンが形成されたグリーンシートを複数積層した後に、スルーホールを介して各コイル導体パターンを接合することで、コイル導体が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーンの積層体が得られる。
【0066】
得られた積層体に対し、熱処理(脱バインダ工程および焼成工程)を行うことにより、バインダを除去し、軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子が互いに接続されて固定された(一体化した)焼成体(素子)を得る。脱バインダ工程における保持温度(脱バインダ温度)は、バインダが分解してガスとして除去できる温度であれば、特に制限されない。例えば、300℃以上450℃以下であってもよい。また、脱バインダ工程における保持時間(脱バインダ時間)も特に制限されない。例えば、0.5時間以上2.0時間以下であってもよい。
【0067】
焼成工程における保持温度(焼成温度)は、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子が互いに接続される温度であれば、特に制限されない。550℃以上850℃以下であってもよい。また、焼成工程における保持時間(焼成時間)も特に制限されない。0.5時間以上3.0時間以下であってもよい。
【0068】
なお、熱処理後の軟磁性金属粒子に含有されるリン(P)量は、熱処理前の軟磁性金属粒子に含有されるリン(P)量と一致する。
【0069】
なお、本実施形態では、脱バインダおよび焼成における雰囲気を調整することが好ましい。
【0070】
焼成後にアニール処理(熱処理)を行ってもよい。アニール処理を行う場合の条件には特に制限はない。例えば500~800℃で0.5~2.0時間行ってもよい。また、アニール後の雰囲気にも特に制限はない。
【0071】
なお、上記の熱処理後の軟磁性金属粒子の組成は、上記の熱処理前の軟磁性金属粉末の組成と実質的に一致する。
【0072】
続いて、素子に端子電極を形成する。端子電極を形成する方法には特に制限はなく、通常は端子電極となる金属(Ag等)を溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化して作製する。
【0073】
次に、磁性素体が樹脂を含む場合には、素子に対して樹脂を含浸させることで、隙間スペースに樹脂を充填する。樹脂を含浸させる方法には特に制限はない。例えば、真空含浸による方法が挙げられる。
【0074】
真空含浸は、上記の積層コイルの素子を樹脂中に浸漬させ、気圧制御を行うことにより行われる。樹脂は気圧を低下させることにより素子に含まれる磁性素体内部に侵入する。そして、磁性素体の表面から内部には隙間スペースが存在するため、隙間スペースを介して毛細管現象の原理により樹脂が磁性素体内部、特に樹脂が最も侵入しづらい層間部にまで侵入することで、隙間スペースに樹脂が充填される。さらに、加熱により樹脂を硬化させる。加熱条件は樹脂の種類により異なる。
【0075】
樹脂の種類には特に制限はない。最終的に隙間スペースに樹脂が充填されることが好ましい。例えば、特にフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を用いる場合には、磁性素体内部(特に層間部)の隙間スペースまで樹脂が十分に侵入し、硬化後にも十分に隙間スペースに充填されやすい。さらに加熱しても容易に分解されないため耐熱性も高い。これに対し、シリコーン樹脂を用いる場合には、樹脂が特に表面部における軟磁性金属粒子の表面に膜状に存在する状態となり、磁性素体内部(特に層間部)の隙間スペースまで樹脂が十分に侵入しにくい。さらに、300℃以上で加熱すると樹脂が分解してしまうため、耐熱性も低い。
【0076】
最終的に得られる積層コイル型電子部品の磁性素体における樹脂の含有量は0.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。なお、樹脂の含有量は例えば含侵時の樹脂溶液濃度、浸漬時間、浸漬回数等を変化させることにより制御することができる。
【0077】
本実施形態では、樹脂の充填後に端子電極に電解めっきを施すことができる。樹脂が隙間スペースに充填されているため、磁性素体をめっき液に投入してもめっき液が磁性素体内部に侵入しにくい。そのためにめっき後においても積層コイル型電子部品内部でショートが発生せず、インダクタンスLが高く保たれる。
【0078】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明するが、特に記載のない点については第1実施形態と同様である。
【0079】
第2実施形態に係る軟磁性金属粉末は、複数の軟磁性金属粒子の集合体である。軟磁性金属粒子は、Fe-Ni系合金から構成される。Fe-Ni系合金は、さらにCrを含む。そして、Fe-Ni系合金は、さらにSiおよび/またはMを含む。Mを含む場合には、MがCoであることが好ましい。そして、本実施形態では、Fe-Ni系合金において、Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Crの含有量が2.0質量%未満である。Crの含有量は0.1質量%以上1.8質量%以下であってもよく、0.5質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0080】
特にCrの含有量が上記の範囲内であることにより、透磁率μおよび比抵抗ρが高くなる。
【0081】
また、第2実施形態に係る軟磁性金属粉末は、さらにPを含んでもよい。Fe、Ni、Si、MおよびCrの合計含有量を100質量%として、Pが100ppm以上5000ppm以下で含まれてもよく、200ppm以上2000ppm以下で含まれてもよい。
【0082】
そして、Niの含有量が15.0質量%以上80.0質量%以下であってもよく、15.0質量%以上55.0質量%以下であってもよい。Siを含む場合において、Siの含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であってもよく、2.0質量%以上6.0質量%以下であってもよく、2.0質量%以上4.0質量%以下であってもよい。Mを含む場合において、Mの含有量が1.0質量%以上50.0質量%以下であってもよく、2.0質量%以上40.0質量%以下であってもよい。
【0083】
さらに、Niの含有量は22.0質量%以上42.0質量%以下であってもよい。Siの含有量は2.5質量%以上5.5質量以下であってもよく、2.5質量%以上4.0質量%以下であってもよい。Mの含有量は5.0質量%以上32.0質量%以下であってもよい。Pの含有量は300ppm以上2000ppm以下であってもよい。
【0084】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明するが、特に記載のない点については第1実施形態および第2実施形態と同様である。
【0085】
第3実施形態では、軟磁性金属粒子の組成については、Crの含有量が2.0質量%未満(0質量%を含まない)である点以外、特に制限はない。第2実施形態の軟磁性金属粒子であってもよい。
【0086】
当該軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末を用いて作製されるコイル型電子部品が、磁性素体と、磁性素体に内蔵されたコイル導体と、を有するコイル型電子部品であって、
磁性素体は軟磁性金属粒子を含み、
軟磁性金属粒子は被覆膜で被われ、
被覆膜は前記軟磁性金属粒子と接する第1層および第1層と接する第2層からなり、
第1層がSiまたはSiを含む酸化物を含み、
第2層がCrを含むコイル型電子部品が第3実施形態に係るコイル型電子部品である。
【0087】
軟磁性金属粒子が被われる被覆膜(酸化被膜11b)が第1層および第2層からなり、それぞれの組成が上記の組成であることにより、軟磁性金属粒子からなる軟磁性金属焼成体の透磁率μおよび比抵抗ρが向上する。そして、軟磁性金属粒子を含む磁性素体を有するコイル型電子部品のQ値およびインダクタンスLが向上する。
【0088】
ただし、軟磁性金属粒子におけるCrの含有量が2.0質量%以上である場合には、透磁率μが大きく低下する。そして、コイル型電子部品のQ値およびインダクタンスLも低下する。
【0089】
第1層は軟磁性金属粒子と比較してSiの含有量が多くてもよく、Feの含有量が少なくてもよい。第2層は軟磁性金属粒子と比較してSi、Cr、Niの含有量が多くてもよく、Feの含有量が少なくてもよい。
【0090】
第1層の平均厚みをD1、第2層の平均厚みをD2として、0.5≦D2/D1≦1.5を満たしてもよい。D2/D1が上記の範囲内であることにより適切な厚みの酸化被膜が形成されやすく、軟磁性金属焼成体の透磁率μおよび比抵抗ρが良好になりやすい。
【0091】
D2が2.5nm以上30nm以下であってもよく、5nm以上20nm以下であってもよい。D2が30nm以下であることにより、軟磁性金属粒子の透磁率μが向上しやすくなり、コイル型電子部品のQ値およびインダクタンスLも向上しやすくなる。また、D2が2.5nm以上であることにより、軟磁性金属粒子の比抵抗ρが向上しやすくなり、コイル型電子部品のめっき伸びも抑制しやすくなる。
【0092】
磁性素体に含まれる軟磁性金属粒子が上記の被覆膜に被われるようにする方法には特に制限はない。例えば、軟磁性金属粉末の段階で第1層および第2層を形成する方法の他、焼成により軟磁性金属粒子の表面に第1層および第2層を形成する方法が挙げられる。SiおよびCrを含有する軟磁性金属粒子を還元性雰囲気で焼成することにより、軟磁性金属粒子の表面に第1層および第2層が形成される。なお、焼成温度が同一であれば焼成時間が長く焼成雰囲気中の水素濃度が低いほど第1層、第2層ともに厚くなる。焼成時間が同一であれば焼成温度が高く焼成雰囲気の水素濃度が低いほど第2層が厚くなる。さらに、軟磁性金属粒子に含まれるCrの含有量が多いほど第2層が厚くなる。
【0093】
第2実施形態のコイル型電子部品に含まれる軟磁性金属粒子が第3実施形態のコイル型電子部品に含まれる軟磁性金属粒子と同様の被覆膜で被われていてもよい。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【0095】
なお、コイル型電子部品としては、トランス、チョークコイル、コイル等が知られている。また、本実施形態に係るコイル型電子部品は、インダクタやインピーダンスなどの用途で携帯機器等の各種電子機器の電源回路などに好適に用いられる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実験例1)
まず、原料として、Fe-Ni合金、Fe単体、Ni単体、Si単体、M単体をそれぞれ準備した。各合金および/または単体の形状はインゴット、チャンクまたはショットとした。次に、これらの原料を、表1~表3に示す組成となるように混合して、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。なお、表3の実施例2b~2pは実施例2からMの種類を変更した点以外は同条件で実施した実施例である。
【0098】
続いて、不活性雰囲気下において、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して溶湯を得た。なお、リンの含有量の調整は、軟磁性金属粉末の原料を溶融、混合する際に、Fe単体の原料に含まれるリンの量を調整することで行った。
【0099】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、線状の連続的な流体を形成するように供給された溶湯に、高圧(50MPa)の水流を衝突させ、液滴化すると同時に急冷し、脱水、乾燥、分級することにより、Fe-Ni-Si-M系合金粒子からなる軟磁性金属粉末を作製した。当該軟磁性金属粉末は平均粒子径(D50)が表1~表3に記載の値となるようにした。
【0100】
得られた軟磁性金属粉末を、ICP分析法により組成分析した結果、各実施例および比較例で用いられる軟磁性金属粉末が表1~表3に記載の組成となっていることを確認した。さらに、Fe、Ni、Si、MおよびP以外の元素、例えばCr等は実質的に含有していないことを確認した。
【0101】
得られた軟磁性金属粉末に、バインダとしてのアクリル樹脂を添加し、造粒粉を作製した。この造粒粉を用いて、外径13mm×内径6mm×高さ2.7~3.3mmであるトロイダル形状となるように、成形圧6ton/cm2で成形した。 次に、不活性雰囲気下で、成形体を400℃に保持して脱バインダした後、還元性雰囲気(水素濃度1.0%のN2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気)下で、脱バインダ後の成形体を750℃-1hの条件で焼成して焼成体を得た。なお、上記の不活性雰囲気はN2ガス雰囲気であり、上記の還元性雰囲気はN2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気である。なお、上記の混合ガス雰囲気における水素濃度は1.0%である。さらに、得られた焼成体を酸素分圧1%の雰囲気下、700℃-1hの条件で熱処理して評価用の焼成体を得た。
【0102】
得られた評価用の焼成体について、以下の方法により、透磁率(μ)および比抵抗(ρ)を測定した。
【0103】
透磁率は、RFインピーダンスマテリアルアナライザー(アジレントテクノロジー社製:4991A)を用いて、同軸法によりf=2MHzで測定した。
【0104】
表1ではPの含有量が50ppmである各比較例(比較例8、比較例1、比較例10、比較例12)のμに対して、Pの含有量以外の条件が同等な試料におけるμの増加割合(Δμ/μ)を算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0105】
表2の比較例3、4、実施例2、5~6、5a、6aでは、Siの含有量が1.5質量%である比較例3のμに対して、Siの含有量等を変化させた試料におけるΔμ/μを算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0106】
表2の比較例5、6a、6、実施例7~10、7a、9aでは、Coの含有量が1.0質量%である比較例5のμに対して、Coの含有量等を変化させた試料におけるΔμ/μを算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0107】
表2の比較例7、7a、実施例11、12では、Niの含有量が56.0質量%である比較例7のμに対して、Niの含有量等を変化させた試料におけるΔμ/μを算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0108】
表3ではPの含有量が50ppmである比較例1のμに対して、Pの含有量およびMの種類以外の条件が同等な試料におけるμの増加割合(Δμ/μ)を算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0109】
ρは、得られた焼成体の両面にIn-Ga電極を塗布し、ウルトラハイレジスタンスメーター(ADVANTEST社製:R8340)で直流抵抗を測定し、焼成体の体積および直流抵抗からρを算出した。ρが1.0E06Ω・m以上である場合を良好とした。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
表1、表3より、Pの含有量が100ppm以上5000ppm以下である各実施例は、Pの含有量が50ppmである点以外は同一条件である比較例と比較してμおよびρが良好であった。これに対し、Pの含有量が50ppmである比較例はρが低くなった。また、Pの含有量が6000ppmである比較例はPが100~5000ppmである点以外は同一条件である実施例と比較してμが低くなり、ρも低くなる傾向にあった。
【0114】
表2より、各成分の含有量が所定の範囲内である各実施例は、Ni、Siおよび/またはCoの含有量が所定の範囲外である各比較例と比較してμおよびρが良好になる傾向にあった。
【0115】
(実験例2)
実験例2は、原料としてさらにCr単体を準備した点、および、軟磁性金属粉末がFe、Ni、Si、M、CrおよびP以外の元素を実質的に含有していないことを確認した点以外、実験例1と同様に実施した。
【0116】
表4~表6では、Crの含有量が2.0質量%である比較例537のμに対して、Crの含有量が2.0質量%未満である試料におけるμの増加割合(Δμ/μ)を算出した。Δμ/μが20.0%以上である試料を良好とした。
【0117】
表4の実施例538~542は比較例537からCrの含有量を主に変化させた実施例である。表4の実施例543~546、544aは実施例540からSiの含有量を主に変化させた実施例である。表5の実施例547~550は実施例540からPの含有量を変化させた実施例である。表6の実施例540b~540pは実施例540からMの種類を変更した点以外は同条件で実施した実施例である。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
表4~表6より、Crの含有量が2.0質量%未満である各実施例は、Crの含有量が2.0質量%である比較例537と比較してμおよびρが良好であった。
【0122】
(実験例3)
実験例1において作製した軟磁性金属粉末を、溶媒、バインダ等の添加物と共にスラリー化し、ペーストを作製した。軟磁性金属粉末の種類を表7~表10に示す。そして、このペーストを用いて焼成後に磁性素体となるグリーンシートを形成した。このグリーンシート上に所定パターンのAg導体(コイル導体)を形成し、積層することにより、厚さ0.8mmのグリーン積層体を作製した。
【0123】
次に、得られたグリーン積層体を2.0mm×1.2mm形状に切断して、グリーン積層コイルを得た。得られたグリーン積層コイルに対して、不活性雰囲気(N2ガス雰囲気)下、400℃で脱バインダ処理を行った。その後、表7~表9に記載の試料では、還元性雰囲気(N2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気(水素濃度1.0%))下750℃-1hの条件で焼成して焼成体を得た。表10に記載の試料では、表10に記載の焼成温度、焼成時間および焼成雰囲気で焼成して焼成体を得た。得られた焼成体の両側端面に、端子電極用ペーストを塗布、乾燥し、酸素分圧1%の雰囲気下、700℃で1時間、焼付処理を行い、端子電極を形成して積層コイル(焼付品)を得た。
【0124】
次に、下表7~表10に記載した実施例および比較例では、得られた各焼付品に対して樹脂含浸を行った。具体的には、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂の原料混合物を真空含浸し、その後加熱して樹脂を150℃-2hで硬化させることで樹脂を充填した。なお、樹脂を硬化させる際に原料混合物に含まれる溶剤等が蒸発した。その後、電解めっきを施し、端子電極上にNiめっき層およびSnめっき層を形成した。
【0125】
なお、フェノール樹脂の原料混合物は約50重量%のフェノール類(C7H8O.CH2O.C4H10O)x、約38重量%のエチレングリコールモノブチルエーテル、約11重量%の1-ブタノール、約0.20重量%のホルムアルデヒドおよび約0.1%のm-クレゾールを混合した混合物である。エポキシ樹脂の原料混合物はナフタレン型エポキシ樹脂、硬化剤、溶剤(トルエン)等を混合した混合物である。
【0126】
そして、各実施例および比較例の積層コイルについて、LCRメータ(HEWLETT PACKARD社製:4285A)を用いて、f=2MHz、I=0.1AでインダクタンスLおよびQ値を測定した。なお、表7~表10に記載したLおよびQ値は、それぞれ30個の積層コイルのLおよびQ値の平均値である。
【0127】
表7については、Pの含有量が50ppmである比較例(比較例102、103)のLに対して、Pの含有量以外の条件が同等な積層コイルにおけるLの増加割合(ΔL/L)を算出した。ΔL/Lが20.0%以上である場合を良好とした。
【0128】
表8については、比較例111、112、実施例111~113、111a、112aでは、Siの含有量が1.5質量%である比較例111のLに対して、Siの含有量等を変化させた試料におけるΔL/Lを算出した。ΔL/Lが20.0%以上である試料を良好とした。
【0129】
比較例113~115、実施例114~117、114a、116aでは、Coの含有量が1.0質量%である比較例113のLに対して、Coの含有量等を変化させた試料におけるΔL/Lを算出した。ΔL/Lが20.0%以上である試料を良好とした。
【0130】
比較例116、117、実施例118、119では、Niの含有量が56.0質量%である比較例116のLに対して、Niの含有量等を変化させた試料におけるΔL/Lを算出した。ΔL/Lが20.0%以上である試料を良好とした。
【0131】
表9については、Pの含有量が50ppmである比較例102のLに対して、Pの含有量およびMの種類以外の条件が同等な試料におけるΔL/Lを算出した。ΔL/Lが20.0%以上である試料を良好とした。
【0132】
表10については、表8にも記載した実施例116の焼成条件を変化させた実施例121~126では、表8にも記載した比較例113に対するΔL/Lを算出した。ΔL/Lが20.0%以上である試料を良好とした。
【0133】
積層コイルのQ値は40.0以上である場合を良好とした。
【0134】
各実施例および比較例の積層コイルについて、めっき伸びを評価した。めっき伸びの評価は、積層コイルの外観を観察することにより行った。めっき伸びが全く見られない場合をA、めっき伸びが見られるが50μm以下の場合をB、めっき伸びが50μmを上回り400μm未満の場合をC、めっき伸びが400μm以上の場合をDとして表7~表10に記載した。実験例3および後述する実験例4では、めっき伸びの評価がAまたはBである場合を良好とし、Aである場合を特に良好とした。
【0135】
各実施例および比較例の積層コイルについて、ショート率を測定した。各試料につき30個の積層コイルを作製し、LCRメータを用いてショートしている積層コイルの数を測定し、ショート率を算出した。ショート率が3%以下である場合、すなわち0/30である場合を良好とした。
【0136】
表10に記載した積層コイルについては、被覆膜の平均厚みを測定した。被覆膜の平均厚みの測定は、層間部の断面におけるSTEM-EDSを用いた倍率20000倍で7μm×7μmのサイズでの観察、および、倍率500000倍で0.3μm×0.3μmのサイズでの観察を適宜組み合わせて行った。具体的には、層間部の断面において少なくとも50個の軟磁性金属粒子11の被覆膜の厚みをSTEM-EDSを用いて測定し、平均した。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
表7、表9より、比較例1、比較例2の軟磁性金属粉末から作成した積層コイルは、LおよびQ値が好適な値とならなかった。さらに、めっき伸びも表7、表9の各実施例より劣る結果となった。
【0142】
表8、実施例111~119、実施例111a、112a、114a、116aおよび比較例111~117より、比較例3~7、6a、7aの軟磁性金属粉末を用いて積層コイルを作製する場合には、実施例2~12、5a、6a、7a、9aの軟磁性金属粉末を用いて積層コイルを作製する場合と比較してLおよび/またはQ値が低い結果となった。さらに、Siの含有量が小さすぎる比較例3の軟磁性金属粉末を用いる場合には、めっき伸びおよびショート率も悪い結果となった。
【0143】
表10、実施例116、121~126より、焼成時間が短く焼成雰囲気の水素濃度が高いほど、焼成体のμが高くなりρが低くなる傾向にあった。さらに、積層コイルのLが高くなり被覆膜が薄くなる傾向にあった。
【0144】
なお、表7~表9に記載された実施例における被覆膜の平均厚みは、40nm程度であることを確認した。
【0145】
(実験例4)
実施例103、実施例104の積層コイルについて、層間部の隙間スペースへの樹脂充填の有無を確認した。具体的には、SEMを用いて倍率10000倍で13μm×10μmのサイズで層間部の断面写真を撮影し、観察した。
図3が実施例103の積層コイルにおける層間部のSEM画像、
図4が実施例104の積層コイルにおける層間部のSEM画像である。実施例103、実施例104ともに層間部の隙間スペースにおいて樹脂が充填されていることが分かった。
【0146】
さらに、実施例103の積層コイルについて、STEM-EDSを用いて上記の測定よりも高倍率な倍率20000倍で7μm×7μmのサイズで観察した。さらに、倍率500000倍で0.3μm×0.3μmのサイズで観察した。結果を
図5~
図12に示す。
図5が倍率20000倍でのBF像、
図6が倍率500000倍でのBF像、
図7が倍率20000倍でのCマッピング画像、
図8が倍率500000倍でのCマッピング画像、
図9が倍率20000倍でのSiマッピング画像、
図10が倍率500000倍でのSiマッピング画像、
図11が倍率20000倍でのOマッピング画像、
図12が倍率500000倍でのOマッピング画像である。
【0147】
これらの画像より、軟磁性金属粒子本体が被覆膜の一種である酸化被膜で被われ、酸化被膜のうち軟磁性金属粒子本体と接する層がSiまたはSiを含む酸化物からなることが分かった。さらに、Siは実質的に軟磁性金属粒子本体および被覆膜のみに含まれ、Cは実質的に隙間スペースに充填された樹脂のみに含まれることが分かった。また、表7~表9に記載した全ての実施例において、被覆膜の平均厚みが5nm以上60nm以下であることを確認した。
【0148】
(実験例5)
実験例2において作製した軟磁性金属粉末を、溶媒、バインダ等の添加物と共にスラリー化し、ペーストを作製した。以下、実験例3と同様にして積層コイルを作製した。焼成条件については、表11~表13に記載の試料では、還元性雰囲気(N2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気(水素濃度1.0%))下750℃-1hの条件で焼成して焼成体を得た。表14に記載の試料では、表14に記載の焼成温度、焼成時間および焼成雰囲気で焼成して焼成体を得た。積層コイルのQ値は40.0以上である場合を良好とした。
【0149】
また、表11~表14に記載の積層コイルでは、表10に記載した積層コイルと同様に被覆膜を観察した。そして、D1、D2を測定してD2/D1を算出した。なお、第1層は軟磁性金属粒子と比較してSiの含有量が多くFeの含有量が少ないこと、および、第2層は軟磁性金属粒子と比較してSi、Cr、Niの含有量が多くFeの含有量が少ないことを表11~表14に記載された全ての実施例で確認した(実施例116、116cを除く)。
【0150】
実験例5では、Crの含有量が2.0質量%である比較例(比較例601、602)のLに対して、Crの含有量が2.0質量%未満であり樹脂の種類が比較例と同一である積層コイルにおけるLの増加割合(ΔL/L)を算出した。ΔL/Lが20.0%以上である場合を良好とした。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
表11~表13より、比較例537の軟磁性金属粉末から作製した積層コイルは、LおよびQ値が好適な値とならなかった。また、Crを含まない実施例9の軟磁性金属粉末から作製した実施例116、116cの積層コイルは、被覆膜が第1層のみからなる構造となった。そして、Feの含有量およびCrの含有量以外が同条件である他の実施例と比較してQ値が低い結果となった。
【0156】
表12より、Crの含有量が同一であれば、Siの含有量が多いほどD1が大きくなり、D2が小さくなる傾向にあった。
【0157】
表14、実施例608、631~636より、焼成時間が短く焼成雰囲気の水素濃度が高いほど、焼成体のμが高くなりρが低くなる傾向にあった。さらに、積層コイルのLが高くなり被覆膜が薄くなる傾向にあった。また、実施例608、637~640より、焼成温度が高く焼成雰囲気の水素濃度が低いほど、焼成体のμが低くなりρが高くなる傾向にあった。さらに、積層コイルのLが低くなり被覆膜が厚くなりD2/D1が高くなる傾向にあった。
【符号の説明】
【0158】
1… 積層コイル
2… 素子
2a…表面部
2b…中央部
3… 端子電極
4… 磁性素体
4a… 層間部
5… コイル導体
5a,5b…引出電極
11…軟磁性金属粒子
11a…軟磁性金属粒子本体
11b…酸化被膜
12…隙間スペース
13…樹脂
14…空隙