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特許7569806リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含有する粒子状組成物
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  • 特許-リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含有する粒子状組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含有する粒子状組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20241010BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20241010BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20241010BHJP
   A23L 21/10 20160101ALN20241010BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A23G3/00
A23G3/34 101
A23L21/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021568796
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2020067337
(87)【国際公開番号】W WO2020260194
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】19182574.4
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】オルロビッチ, マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ファン クリーケン, ヤン
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0231455(US,A1)
【文献】国際公開第2019/063623(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/115733(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104592008(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ酸塩粒子を少なくとも1重量%含む粒子状組成物であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、粒子状組成物。
【請求項2】
前記リンゴ酸塩粒子が
前記共結晶を75~100重量%、並びに
クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、及びフマル酸からなる群から選択される、1種又は複数の有機酸を0~25重量%含み、
前記共結晶と前記1種又は複数の有機酸との組み合わせが、前記リンゴ酸塩粒子の少なくとも90重量%を構成する、請求項1に記載の粒子状組成物。
【請求項3】
前記リンゴ酸塩粒子が、前記共結晶を少なくとも90%、好ましくは少なくとも95重量%含有する、請求項2に記載の粒子状組成物。
【請求項4】
前記リンゴ酸塩粒子が
前記共結晶を75~95重量%、及び
前記1種又は複数の有機酸を5~25重量%含む、請求項2に記載の粒子状組成物。
【請求項5】
前記リンゴ酸塩粒子がリンゴ酸を5~25重量%含む、請求項4に記載の粒子状組成物。
【請求項6】
前記リンゴ酸塩粒子を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒子状組成物。
【請求項7】
前記リンゴ酸塩粒子1~95重量%及び砂糖粒子5~99重量%を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒子状組成物。
【請求項8】
共結晶が、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶、又はリンゴ酸とリンゴ酸水素カリウムとの共結晶である、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒子状組成物。
【請求項9】
前記共結晶が、式Na(C・Cで表される二リンゴ酸三水素ナトリウムである、請求項8に記載の粒子状組成物。
【請求項10】
リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
結晶性有機酸、有機酸の結晶性塩、及びそれらの組み合わせから選択される結晶性物質を少なくとも80重量%含有する種結晶粒子を用意するステップと、
ナトリウムとリンゴ酸イオンとをモル比4:10~6:10で含有するか、カリウムとリンゴ酸イオンとをモル比5.5:10~7.5:10で含有する、リンゴ酸塩水溶液を用意するステップと、
前記リンゴ酸塩水溶液を前記種結晶粒子に噴霧して、コーティングされた粒子を作製するステップと、
コーティングされた粒子から水分を除去するステップとを含む、プロセス。
【請求項11】
リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
リンゴ酸を少なくとも80重量%含有するリンゴ酸粒子を用意するステップと、
リンゴ酸水素ナトリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素ナトリウム粒子、又はリンゴ酸水素カリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素カリウム粒子を用意するステップと、
100重量部のリンゴ酸粒子を、100~138重量部のリンゴ酸水素ナトリウム粒子又は200~300重量部のリンゴ酸水素カリウムのいずれか、及び1~10重量部の水と組み合わせるステップと、
得られた組み合わせを機械的せん断にさらすステップとを含む、プロセス。
【請求項12】
リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含有するリンゴ酸塩粒子の、食品成分としての使用。
【請求項13】
食用製品を調製する方法であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の粒子状組成物を、1種又は複数の他の食品成分と組み合わせることを含む、方法。
【請求項14】
リンゴ酸塩粒子を少なくとも0.05重量%含有する食用製品であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、食用製品。
【請求項15】
菓子製品である、請求項14に記載の食用製品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含有する粒子状組成物に関する。より詳細には、本発明は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含むリンゴ酸塩粒子を含む粒子状組成物に関する。このような共結晶の例には、リンゴ酸水素ナトリウム・リンゴ酸(Na(C・C)、並びにビス(L-リンゴ酸水素カリウム)・リンゴ酸、及び三リンゴ酸四水素二カリウム(2[K(C]・C)が含まれる。
【0002】
本発明は、前述のリンゴ酸塩粒子を調製する方法、及びこれらのリンゴ酸塩粒子の、食品成分としての使用にさらに関する。
【0003】
[発明の背景]
Van Havereら(Crystal structure of bis(potassium hydrogen L-malate)・malic acid,2[K(C]・C,Journal of Crystallographic and Spectroscopic Research(1985),15(1),45~52)によって、ビス(L-リンゴ酸水素カリウム)・リンゴ酸の結晶構造が記載されている。
【0004】
Fleckら(Dielectric and Pyroelectric Properties of Lithium Hydrogen Dimalate,LiH(C.Z.Naturforsch.41a,1289~1296(1986)、1986年7月5日受理)は、化学量論量のLiOH及びリンゴ酸(1:2)を含有する水溶液からLiH(Cがどのように調製されたかを記載している。290Kで該水溶液からHOを緩やかに蒸発させることで、大きな単結晶(15×8×6mm)を成長させることができた。
【0005】
リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)は、アプリコット、ブラックベリー、ブルーベリー、サクランボ、ブドウ、ミラベル、モモ、セイヨウナシ、プラム、マルメロを含む多くの果物の主な酸であり、柑橘類などの他の果物には、それらの果物よりも低濃度で含まれている。リンゴ酸は、青い(熟していない)リンゴの酸味にも寄与する。リンゴ酸が主要な風味物質である植物のルバーブにおいて、リンゴ酸の味は非常に明確で純粋である。リンゴ酸は、非炭酸飲料、ワイン、菓子、チューインガム、デザート、及び焼き菓子の食品添加物として使用されている。
【0006】
砂糖菓子を砂糖と酸粉末とのブレンドでコーティングすることはよく知られている(「酸まぶし」と呼ばれる)。酸まぶしでの粉末リンゴ酸の使用は、リンゴ酸が吸湿性であるという事実から生じる安定性の問題を伴う。リンゴ酸粉末は周囲からかなりの湿気を引き付け、潮解性を示す。このプロセスは、製品の外観だけでなく、味や食感にも悪影響を及ぼし、それによって貯蔵寿命が短くなる可能性がある。
【0007】
リンゴ酸の安定性を向上させるために、リンゴ酸を脂肪又はリンゴ酸水素ナトリウムなどのコーティング材料でコーティングすることが知られている。ピューラック(Purac)(登録商標)パウダーMAは、リンゴ酸水素ナトリウムでコーティングされた市販のリンゴ酸粉末である。粉末には、リンゴ酸水素ナトリウム42~50%(w/w)、及びリンゴ酸50~58%(w/w)が含有されている。
【0008】
米国特許出願公開第2008/014312号において、コアコーティング形状を含む食品グレードの粒子であって、コーティングが少なくとも1層を含み、コーティングの各層が、部分的に中和されたポリカルボン酸を少なくとも50重量%含む組成物からなり、前記部分的に中和されたポリカルボン酸が、酸の形態である少なくとも1つのカルボン酸基、及び塩の形態である少なくとも1つのカルボン酸基を含み、コアが、少なくとも1種の食品グレードの酸又はその塩を含む、粒子が記載されている。実施例1において、リンゴ酸水素一ナトリウムでコーティングされたリンゴ酸粒子と、リンゴ酸水素一ナトリウムでコーティングされたリンゴ酸水素一ナトリウム粒子と、リンゴ酸水素一ナトリウムでコーティングされたリンゴ酸及びリンゴ酸水素一ナトリウムのアグロメレートと、の混合物の調製が記載されている。
【0009】
リンゴ酸水素ナトリウムでリンゴ酸粒子をコーティングすると、耐湿安定性が大幅に向上するが、これらのコーティングされたリンゴ酸粒子でさえ、吸湿を受け、したがって本質的に不安定である。さらに、そのようなコーティングされた粒子を含有する粉末は、コーティングされた粒子の組成が粒子サイズに伴って変化するという点で不均一である傾向がある。これは、例えば輸送中に粉末の分離が発生した場合に問題になる可能性がある。また、この不均一性の結果として、粒子サイズを容易に制御することができない。
【0010】
国際公開第2019/063623号において、リンゴ酸を20~70重量%、乳酸を3~40重量%、並びにクエン酸、フマル酸、アジピン酸、酒石酸、酢酸及びそれらの組み合わせから選択される食用酸を0~40重量%含む、粒子状酸味料組成物であって、
リンゴ酸と、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、アジピン酸、酒石酸、及びそれらの組み合わせから選択される、部分的に中和されたポリカルボン酸との共結晶を含むM粒子であり、リンゴ酸を少なくとも30重量%、及び部分的に中和されたポリカルボン酸を少なくとも30重量%含有するM粒子40~90重量%、並びに
乳酸と、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、アジピン酸、酒石酸、及びそれらの組み合わせから選択される、少なくとも部分的に中和されたカルボン酸との共結晶を含むL粒子であり、乳酸を少なくとも30重量%、及び少なくとも部分的に中和されたカルボン酸を少なくとも30重量%含有するL粒子5~60重量%
を含み、M粒子とL粒子との組み合わせが、酸味料組成物の少なくとも50重量%を構成する、酸味料組成物が記載されている。
【0011】
前述の国際特許出願の例において、流動層乾燥機で乳酸カルシウム粒子の層へ乳酸水溶液を噴霧することによって作製された、ピューラック(登録商標)パウダーMA(リンゴ酸水素ナトリウム42~50重量%及びリンゴ酸50~58重量%)を80重量%含む粉末ブレンドが記載されている。ピューラック(登録商標)パウダーMAは通常、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶を40~50重量%含有する。
【0012】
[発明の概要]
本発明者らは、非常に低い吸湿性を示し、リンゴ酸と非常に類似した酸味を付与することができる粉末の形態で、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を製造できることを予期せず発見した。したがって、本発明は、リンゴ酸塩粒子を少なくとも1重量%含む粒子状組成物であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し、且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、粒子状組成物を提供する。
【0013】
本発明のリンゴ酸塩粒子は、高温及び高湿においてさえ流動性のままである。さらに、リンゴ酸塩粒子の組成は、粒子サイズに伴って変化しない。
【0014】
本発明に包含されるリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶の例には、二リンゴ酸三水素ナトリウム及び三リンゴ酸四水素二カリウムが含まれる。二リンゴ酸三水素ナトリウム共結晶は式Na(C・Cで表すことができ、三リンゴ酸四水素カリウム共結晶は式2[K(C]・Cで表すことができる。
【0015】
本発明者らは理論に拘束されることを望むものではないが、これらの共結晶が唾液と接触すると、これらの共結晶は即座にリンゴ酸2-又はリンゴ酸水素、Na/K及びHに解離すると考えられる。したがって、本発明のリンゴ酸塩粒子でコーティングされた食用製品を摂取すると、リンゴ酸の風味は直ちに放出される。
【0016】
本発明の別の態様は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含有するリンゴ酸塩粒子の、食品成分としての使用に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、食用製品を調製する方法であって、本発明の粒子状組成物を、1種又は複数の他の食品成分と組み合わせることを含む、方法に関する。
【0018】
本発明の別の態様は、リンゴ酸塩粒子を少なくとも0.05重量%含有する食用製品であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、食用製品に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
結晶性有機酸、有機酸の結晶性塩、及びそれらの組み合わせから選択される結晶性物質を少なくとも80重量%含有する種結晶粒子を用意するステップと、
ナトリウムとリンゴ酸イオンとをモル比4:10~6:10で含有するか、カリウムとリンゴ酸イオンとをモル比5.5:10~7.5:10で含有する、リンゴ酸塩水溶液を用意するステップと、
リンゴ酸塩水溶液を種結晶粒子に噴霧するステップと、
コーティングされた粒子から水分を除去するステップとを含む、プロセスに関する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
リンゴ酸を少なくとも80重量%含有するリンゴ酸粒子を用意するステップと、
リンゴ酸水素ナトリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素ナトリウム粒子、又はリンゴ酸水素カリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素カリウム粒子を用意するステップと、
100重量部のリンゴ酸粒子を、100~138重量部のリンゴ酸水素ナトリウム粒子又は220~300重量部のリンゴ酸水素カリウムのいずれか、及び1~10重量部の水と組み合わせるステップと、
得られた組み合わせを機械的せん断にさらすステップとを含む、プロセスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】二リンゴ酸三水素ナトリウム(Na(C・C)として同定される、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶のX線回折パターンを示す図である。
【0022】
[発明の詳細な説明]
第1の態様において、本発明は、リンゴ酸塩粒子を少なくとも1重量%含む粒子状組成物であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、粒子状組成物に関する。
【0023】
本明細書で使用される「共結晶」という用語は、化学量論比で、2種以上の異なる分子又はイオン性化合物が構成する、溶媒和物でも単塩でもない結晶性単相物質を指す。
【0024】
二リンゴ酸三水素ナトリウム(Na(C・C)として同定される、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶のX線回折パターンが図1に示される。
【0025】
リンゴ酸塩粒子に加えて、本発明の粒子状組成物は、砂糖、塩又は酸粉末などの他の粒子成分を含んでもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、リンゴ酸塩粒子は、粒子状組成物の大部分に相当する。したがって、粒子状組成物は、リンゴ酸塩粒子を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%含む。
【0027】
本発明の別の実施形態において、粒子状組成物は、砂糖とリンゴ酸塩粒子とのブレンドを含む。このようなブレンドは、菓子の酸まぶしに適切に使用することができる。本実施形態によれば、粒子状組成物は、リンゴ酸塩粒子1~95重量%及び砂糖粒子5~99重量%、より好ましくはリンゴ酸塩粒子2~50重量%及び砂糖粒子50~98重量%を含む。さらにより好ましくは、粒子状組成物は、リンゴ酸塩粒子3~30重量%及び砂糖粒子60~97重量%を含む。好ましくは、リンゴ酸塩粒子と砂糖との組み合わせは、粒子状組成物の少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%を構成する。
【0028】
特に好ましい実施形態によれば、本発明のリンゴ酸塩粒子は
リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を75~100重量%、並びに
クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、及びフマル酸からなる群から選択される、1種又は複数の有機酸を0~25重量%含み、共結晶と1種又は複数の有機酸との組み合わせが、リンゴ酸塩粒子の少なくとも90重量%を構成する。より好ましくは、共結晶とリンゴ酸との組み合わせは、リンゴ酸塩粒子の少なくとも95重量%を構成する。
【0029】
リンゴ酸塩粒子の含水率は、通常5重量%を超えず、より好ましくは、リンゴ酸塩粒子の含水率は3重量%を超えない。
【0030】
いくつかの用途では、ほとんど共結晶のみからなるリンゴ酸塩粒子を提供することが有利である。本実施形態によれば、リンゴ酸塩粒子は、共結晶を少なくとも90%、好ましくは少なくとも95重量%含有する。
【0031】
前述の1種又は複数の有機酸を少量含めることによって、リンゴ酸塩粒子の風味特性を調整することも有利である可能性がある。したがって、好ましい実施形態において、リンゴ酸塩粒子は
リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を75~95重量%、及び
1種又は複数の有機酸を5~25重量%含む。最も好ましくは、本実施形態のリンゴ酸塩粒子は、リンゴ酸を5~25重量%含む。
【0032】
特に好ましい実施形態によれば、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶は、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶、又はリンゴ酸とリンゴ酸水素カリウムとの共結晶である。さらにより好ましくは、共結晶は、二リンゴ酸三水素ナトリウム(Na(C・C)又は三リンゴ酸四水素二カリウム(2[K(C]・C)である。最も好ましくは、本発明に従って使用される共結晶は、二リンゴ酸三水素ナトリウム(Na(C・C)である。
【0033】
本発明の粒子状組成物中のリンゴ酸塩粒子は、好ましくは50~1,000μm、より好ましくは150~750μmの範囲の質量加重平均直径を有する。
【0034】
粒子状組成物は、通常50~1,000μm、より好ましくは150~750μmの範囲の質量加重平均直径を有する。
【0035】
質量加重平均直径は、異なるメッシュサイズのふるい一式を使用して適切に求めることができる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含有するリンゴ酸塩粒子の、食品成分としての使用に関する。好ましくは、使用されるリンゴ酸塩粒子は、以上に定義されたリンゴ酸塩粒子である。特に好ましい実施形態によれば、本使用は、菓子製品などの食用製品の表面におけるコーティングとしてのリンゴ酸塩粒子の利用を含む。
【0037】
本発明の別の態様は、食用製品を調製する方法であって、本発明の粒子状組成物を、1種又は複数の他の食品成分と組み合わせることを含む、方法に関する。
【0038】
一実施形態において、本方法は、粒子状組成物を砂糖と組み合わせることを含む。本実施形態において、粒子状組成物は、好ましくはリンゴ酸塩粒子を少なくとも20重量%、より好ましくはリンゴ酸塩粒子を少なくとも30重量%含有し、最も好ましくはリンゴ酸塩粒子を少なくとも50重量%含有する。粒子状組成物を砂糖と混合することにより、菓子製品の酸まぶしに適切に使用できるコーティング組成物を調製することができる。
【0039】
別の実施形態において、本方法は、菓子製品などの食用製品の表面における粒子状組成物の利用を含む。本実施形態において、粒子状組成物は、好ましくはリンゴ酸塩粒子1~95重量%及び砂糖粒子5~99重量%、より好ましくはリンゴ酸塩粒子2~50重量%及び砂糖粒子50~98重量%を含む。
【0040】
本発明の別の態様は、リンゴ酸塩粒子を少なくとも0.05重量%、より好ましくは0.15~30重量%含有する食用製品であって、前記リンゴ酸塩粒子が、50~1,000μmの直径を有し且つリンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を少なくとも70重量%含む、食用製品に関する。
【0041】
特に好ましい実施形態によれば、食用製品はリンゴ酸塩粒子でコーティングされている。より好ましくは、食用製品は、リンゴ酸塩粒子と砂糖粒子との混合物でコーティングされている。さらにより好ましくは、食用製品は、上記のようなリンゴ酸塩粒子と砂糖粒子とを含有する粒子状組成物でコーティングされている。
【0042】
本発明の食用製品は、好ましくは菓子製品、より詳細にはソフトキャンディである。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
結晶性有機酸、有機酸の結晶性塩、及びそれらの組み合わせから選択される結晶性物質を少なくとも80重量%含有する種結晶粒子を用意するステップと、
ナトリウムとリンゴ酸イオンとをモル比4:10~6:10で含有するか、カリウムとリンゴ酸イオンとをモル比5.5:10~7.5:10で含有する、リンゴ酸塩水溶液を用意するステップと、
リンゴ酸塩水溶液を種結晶粒子に噴霧するステップと、
コーティングされた粒子から水分を除去するステップとを含む、プロセスに関する。
【0044】
種結晶粒子中の結晶性物質は、好ましくは結晶性有機酸、有機酸の結晶性塩、及びそれらの組み合わせから選択され、有機酸は、リンゴ酸、乳酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、アジピン酸、酒石酸、及びそれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、結晶性物質は、結晶性リンゴ酸、リンゴ酸の結晶性塩、及びそれらの組み合わせから選択される。最も好ましくは、結晶性物質は、リンゴ酸とリンゴ酸水素ナトリウムとの共結晶(Na(C・C)、又はリンゴ酸とリンゴ酸水素カリウムとの共結晶(2[K(C]・C)である。
【0045】
子に噴霧されるリンゴ酸塩水溶液は、好ましくは、少なくとも1mol/L、より好ましくは少なくとも1.5mol/L、最も好ましくは2~5mol/Lの濃度でリンゴ酸イオンを含有する。
【0046】
リンゴ酸塩水溶液は、好ましくは20~70重量%、より好ましくは25~65重量%、最も好ましくは30~60重量%の乾物含量を有する。
【0047】
リンゴ酸塩水溶液は、好ましくは、リンゴ酸を水に溶解し、中和剤を添加することによって、リンゴ酸から調製される。より好ましくは、完全に中和されたリンゴ酸ナトリウム溶液は、リンゴ酸を水に溶解し、中和剤を添加することによって調製されるが、該中和剤は、ナトリウムとリンゴ酸イオン、又はカリウムとリンゴ酸イオンの所望の比率が得られるように、リンゴ酸水溶液と混合される。
【0048】
種結晶粒子は、好ましくは、水分を除去した後に得られるコーティングされた粒子の3~70重量%、より好ましくは5~60重量%、さらにより好ましくは9~50重量%に相当する量で、本プロセスにおいて使用される。
【0049】
リンゴ酸塩水溶液は、好ましくは、種結晶粒子の流動層に噴霧される。この流動層の層温度は、好ましくは40~100℃の範囲、より好ましくは42~90℃の範囲、さらにより好ましくは44~80℃の範囲、最も好ましくは45~70℃の範囲である。
【0050】
水、リンゴ酸イオン及びナトリウム又はカリウムカチオン以外に、リンゴ酸塩水溶液は、好ましくは、0.1重量%を超える濃度で他の成分を含有しない。
【0051】
リンゴ酸塩水溶液は、リンゴ酸と、リンゴ酸水素ナトリウム又はリンゴ酸水素カリウムのいずれかとを水に溶解することによって調製することができる。或いは、リンゴ酸塩水溶液は、リンゴ酸と、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのいずれかとを水に溶解することによって調製することができる。別の代替案は、リンゴ酸と、リンゴ酸二ナトリウム又はリンゴ酸二カリウムのいずれかとを溶解することによってリンゴ酸塩水溶液を調製することである。
【0052】
プロセスの特に好ましい実施形態によれば、リンゴ酸塩水溶液の噴霧、及びコーティングされた粒子からの水分の除去は同時に実施される。
【0053】
本プロセスの好ましい実施形態において、噴霧及び水分の除去は、流動層乾燥機で実施される。別の好ましい実施形態において、噴霧及び水分の除去は、(種結晶として機能するために)噴霧ノズルに微粉を再循環させる並流型噴霧乾燥機で実施される。
【0054】
本発明のさらなる態様は、リンゴ酸とアルカリ金属リンゴ酸水素塩との共結晶を含むリンゴ酸塩粒子を調製するプロセスであって、
リンゴ酸を少なくとも80重量%含有するリンゴ酸粒子を用意するステップと、
リンゴ酸水素ナトリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素ナトリウム粒子、又はリンゴ酸水素カリウムを少なくとも80重量%含有するリンゴ酸水素カリウム粒子を用意するステップと、
100重量部のリンゴ酸粒子を、100~138重量部のリンゴ酸水素ナトリウム粒子又は200~300重量部のリンゴ酸水素カリウムのいずれか、及び1~10重量部の水と組み合わせるステップと、
得られた組み合わせを機械的せん断にさらすステップとを含む、プロセスに関する。
【0055】
好ましくは、上記のプロセスにより、以上に定義されたリンゴ酸塩粒子が得られる。
【0056】
本発明は、以下の非限定的実施例によってさらに説明される。
【0057】
[実施例]
実施例1
リンゴ酸水素ナトリウムとリンゴ酸との共結晶(Na(C・C、以下、結晶性MASHMと呼ぶ)を含有する粉末は、ラボスケールのバッチ式流動層造粒機を使用して作製された。
【0058】
まず、等モル量のリンゴ酸水素ナトリウム及びリンゴ酸を含有する水溶液から結晶化し、その後、質量加重平均直径が約200μmになるように粉砕することによって、MASHMの種結晶を作製した。3種の異なる種結晶組成物が調製された。1種の種結晶組成物はMASHM結晶で構成された(組成物1)。MASHM結晶をリンゴ酸粒子と表1に示す比率で混合することにより、2種の種結晶組成物(組成物2及び3)が調製された。
【0059】
さらに、1,304mMのCNaOと、1,304mMのCとを含有する噴霧水溶液を調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
次いで、造粒機に種結晶を充填して、種結晶の流動層を作製し、55℃まで加熱した。所望の層温度に達したとき、噴霧水溶液の噴霧を開始した。噴霧中、層温度は55℃に維持された。種結晶層に噴霧された噴霧水溶液の総量は、種結晶組成物1の場合は3.18mL/g、種結晶組成物2及び3の場合は4.46mL/gであった。
【0062】
噴霧が終了した後、粉末は造粒機から放出された。粉末の質量加重平均直径は約300μmであった。
【0063】
MASHM粉末とリンゴ酸粉末とを85:15の重量比で乾式ブレンドすることによって、別の粉末を作製した(粉末4)。
【0064】
そのように調製された4種の粉末、及び市販のリンゴ酸粉末(ピューラック(登録商標)パウダーMA-リンゴ酸水素ナトリウムでコーティングされたリンゴ酸粒子)からなる対照の組成を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
サンプルのMASHM含量は、DSC分析により調べた。DSC分析は、サンプルが加熱されている間の吸熱及び発熱を伴う相転移を示す。MASHM及びリンゴ酸の融解ピークが知られている。ピーク下の面積は、物質の量と相関関係があり、純粋なMASHMサンプルの融解ピーク下の面積と比較される(X線分析で確認)。次いで、物質収支又はNa、K含量分析によって組成を確認する。このようにして、粉末1、2、3、及び4が完全に結晶化してMASHMになっていることが確認された。
【0067】
これら5種の粉末の吸湿性は、30℃において75%の相対湿度で測定された。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
粉末1の結果は、該物質の動的蒸気吸着試験の結果と一致しており、湿度0~90%で吸着を行った後、生成物の質量にほとんど変化が表れず、該物質が非吸湿性であることを示している。
【0070】
実施例2
実施例1に記載の酸粉末を使用して、以下に記載するように酸まぶしを施したグミベアを調製した。
【0071】
グミベア(オランダ、ハリボー社)は、表面を粘着性にするために蒸気処理され、次いで酸粉末12重量%と精糖88重量%との混合物で酸まぶしを施した。2つの酸まぶし砂糖菓子を、1グラムの追加の酸まぶし用組成物と共に真空バッグに入れ、パッケージを密封した。30℃で相対湿度75%の恒温恒湿器(climate cabinet)に、バッグを4週間保管した。貯蔵期間の後、粉末は専門家パネルによって視覚的に評価された。
【0072】
結果は表4にまとめられている。
【0073】
【表4】
【0074】
酸まぶし用粉末1~4はすべて、対照よりも外観が優れていた。遊離リンゴ酸を全く又はほとんど含まない粉末で、吸湿が最も少なかった。
【0075】
調製の4週間後、グミベアの酸味特性が専門家パネルによって評価された。パネルにより、酸味が放出される速度、知覚される酸味の強さ、及び酸味の持続性が決定された。結果は表5にまとめられている。
【0076】
【表5】
【0077】
官能評価の結果により、酸まぶし用粉末1~4の酸味特性が、対照の酸味特性と同等又はそれに近いことが示される。MASHMを90%、及びリンゴ酸を10%含む酸まぶし用粉末2で最良の結果が得られた。
【0078】
実施例3
100mlのジャケット付きガラス容器に、51.36g(0.383mol)のDL-リンゴ酸、及び30.17gの脱塩水を充填した。容器を循環恒温槽に接続し、マグネチックスターラーで攪拌しながら55℃まで加熱し、リンゴ酸結晶を完全に溶解させた。次いで、水酸化カリウム50%(9.37g、0.083mol)を添加した。67℃まで昇温し、透明な黄色の溶液を得た。攪拌しながら、溶液を室温まで冷却した。
【0079】
種結晶を得るために、少量の液体を開口アルミニウムカップに移し、水の緩やかな蒸発によって周囲温度で濃縮させた。2週間後、存在したすべての水分が蒸発し、結晶性生成物が形成された。
【0080】
この結晶性物質の小片は、残りの液体(現時点でガラス瓶に入っている)における種晶として使用された。一週末後、小さな結晶を含有する、わずかに濁った溶液が形成された。
【0081】
結晶の分析により、これらの結晶がビス(DL-リンゴ酸水素カリウム)・リンゴ酸からなることが示された。
【0082】
実施例4
100mlのジャケット付きガラス容器に、51.26g(0.382mol)のDL-リンゴ酸、15.50gの脱塩水、及び9.39gの50%水酸化カリウム(0.084mol)を充填した。容器を循環恒温槽に接続し、マグネチックスターラーで攪拌しながら40℃まで加熱し、リンゴ酸を完全に溶解させた。次いで、溶液を緩やかに冷却した。30℃で、実施例1から得られたいくらかの結晶スラリーを種結晶として添加した。さらに21.5℃まで冷却しても、結晶はあまり形成されなかった。一晩後、針状/棒状の結晶を含有する、粘性のあるスラリーが形成された。
【0083】
さらに3日間緩やかに攪拌した後、スラリーを55mmのペーパーフィルターで濾過した(200mbar)。濾過時間は約5分であった。洗浄は行わなかった。
【0084】
結晶ケーキ(8.38g)を、室温において10mbar未満の圧力で2.5時間乾燥させた。乾燥させた生成物(7.49g)を、乳鉢及び乳棒で粉砕した。
【0085】
結晶の分析により、これらの結晶がビス(DL-リンゴ酸水素カリウム)・リンゴ酸からなることが示された。
【0086】
この結晶性物質の動的蒸気吸着試験により、該物質は湿度70%まで安定しているが、より高レベルの湿度で湿気を吸収し始めたことが明らかとなった。
図1