(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】minor BCR-ABL1遺伝子を検出する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20241010BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241010BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2022166992
(22)【出願日】2022-10-18
(62)【分割の表示】P 2019514563の分割
【原出願日】2018-04-25
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2017087666
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】葛城 粛典
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆太
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06391592(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0088891(KR,A)
【文献】特開2002-136300(JP,A)
【文献】特表2005-536193(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0192645(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103627802(CN,A)
【文献】Ann Hematol,2003年,Vol.82,pp.284-289
【文献】Leukemia,1999年,vol.13, issue 12,p.1901-1928
【文献】Leukemia,2003年,vol.17, issue 12,p.2318-2357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、対象から得られた核酸試料を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマー、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマー、および、minor BCR-ABL1 mRNA由来のPCR産物のいずれかの鎖に結合するプローブを用いて、PCRを行う工程、ここで、核酸試料は、BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で対象のRNA試料を逆転写することにより得られたcDNAである、および、
(2)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を有すると判定する工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2017-087666号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出する方法およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
BCR-ABL1融合遺伝子は、慢性骨髄性白血病(CML)およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)に見られる染色体異常である。9番染色体と22番染色体の間での転座t(9;22)によって、9番染色体のq34バンドに局在するc-ABL1遺伝子と22番染色体のq11バンドに局在するbcr遺伝子が融合して形成される。BCR-ABL1融合遺伝子でコードされるキメラタンパク質であるBCR-ABL1は、チロシンキナーゼ活性を有し、恒常的に細胞増殖シグナルを刺激し、アポトーシスを抑制することで、造血幹細胞を無制限に増殖させる。近年、イマチニブなどのBCR-ABL1を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤が開発され、CMLおよびPh+ALLの治療成績は向上している。
【0003】
BCR-ABL1は、BCRの切断点の違いにより主にMajor型(M-BCR-ABL1)とminor型(m-BCR-ABL1)に分類される。M-BCRはCML患者の約95%に見られ、m-BCRはPh+ALL患者の約20~30%に見られる。従って、それぞれのBCR-ABL1遺伝子の発現量を測定することにより、CMLとPh+ALLの診断を補助することや、治療効果をモニタリングすることができる。M-BCR-ABL1の発現量を測定するためのキットは、出願人により「Major BCR-ABL1 mRNA測定キット」として販売されている。このキットは、ワンステップ定量リアルタイムRT-PCRによりM-BCR-ABL1の発現量を測定する。m-BCR-ABL1の発現量を測定する方法としては、非特許文献1に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Gabert J et al. Leukemia.2003;17:2318-2357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、従来法よりも精度の高いminor BCR-ABL1遺伝子の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様では、本願は、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、対象から得られた核酸試料を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、および、
(2)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を有すると判定する工程、
を含む方法を提供する。
【0008】
ある態様では、本願は、BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーおよびBCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーを含む、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を従来法よりも高精度に検出できる。これにより、対象のCMLまたはPh+ALLの診断または処置に有用な情報が得られることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】m-BCR遺伝子およびM-BCR遺伝子の構造並びに本明細書に記載の方法の模式図である。
【
図5】試験1における、PNA存在下でのminor BCR-ABL1 mRNAのRT-PCRの増幅曲線を示す。
【
図6】試験1における、PNA存在下でのABL1 mRNAのRT-PCRの増幅曲線を示す。
【
図7】試験2における、PNA存在下での1.0×10
7コピーのMajor BCR-ABL1 mRNAのRT-PCRの増幅曲線を示す。
【
図8】試験2における、PNA存在下での1.0×10
6コピーのMajor BCR-ABL1 mRNAのRT-PCRの増幅曲線を示す。
【
図9】試験2における、PNA存在下でのABL1 mRNAのRT-PCRの増幅曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0012】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0013】
BCR-ABL1遺伝子は、慢性骨髄性白血病およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病にみられるABL1遺伝子とBCR遺伝子の融合遺伝子である。9番染色体と22番染色体の間での転座t(9;22)によって生じる。BCR-ABL1遺伝子は、BCRの切断点の違いにより主にminor型とMajor型に分類される。「minor BCR-ABL1(m-BCR-ABL1)遺伝子」は、BCR遺伝子のエクソン1とABL1遺伝子のエクソン2~11が融合した遺伝子である。「Major BCR-ABL1(M-BCR-ABL1)遺伝子」は、BCR遺伝子のエクソン1~13または1~14とABL1遺伝子のエクソン2~11が融合した遺伝子である。m-BCR-ABL1遺伝子およびM-BCR-ABL1遺伝子の構造を
図1に示す。
【0014】
本願発明者らは、m-BCR-ABL1 mRNAの測定方法の開発を進める中で、既存のm-BCR-ABL1 mRNAの測定キットと同様の方法で試験したところ、m-BCR-ABL1 mRNAのみならず、M-BCR-ABL1 mRNAも検出され、正確なm-BCR-ABL1 mRNAの測定ができない場合があることを見出した(実施例の試験2参照)。当該試験では、m-BCR-ABL1 cDNAを増幅するために、BCR遺伝子エクソン1の塩基配列に基づいて設計されたフォワードプライマーとABL1遺伝子エクソン2の塩基配列に基づいて設計されたリバースプライマーを用いてPCRを行った。
図1に示す通り、M-BCR-ABL1 cDNAには、BCR遺伝子エクソン1とABL1遺伝子エクソン2の間にBCR遺伝子エクソン2~13(約1428塩基長)または2~14(約1503塩基長)の領域が存在するため、従来は、これより大幅に短いm-BCR-ABL1 cDNAを増幅するためのPCR条件下では、M-BCR-ABL1 cDNAは増幅されないと考えられてきた。しかしながら、試験2に示す通り、従来法では実際にはM-BCR-ABL1 cDNAが増幅されることがあり、誤測定の可能性という重大な欠点があることが判明した。本願は、この欠点を解消し、正確なm-BCR-ABL1遺伝子もしくはその発現の検出またはm-BCR-ABL1の発現量の測定を可能にする方法およびそのためのキットを提供するものである。
【0015】
m-BCR-ABL1遺伝子の塩基配列は、代表的には配列番号1で表されるが、多数の変異体が知られている。M-BCR-ABL1遺伝子の塩基配列は、代表的には配列番号2および3で表されるが、多数の変異体が知られている。
【0016】
本願に関して、m-BCR-ABL1遺伝子およびM-BCR-ABL1遺伝子には、各々配列番号1および配列番号2または3で表される配列を有するポリヌクレオチドに相補的な配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドの配列を有する遺伝子も含まれる。「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983) 等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%ホルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)、および、それと同等のストリンジェンシーをもたらす条件を挙げることができる。
【0017】
さらに、m-BCR-ABL1遺伝子およびM-BCR-ABL1遺伝子には、各々の配列番号1および配列番号2または3で表される塩基配列と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%以上の配列同一性を有する塩基配列を有する遺伝子が含まれる。配列同一性とは、2つのオリゴヌクレオチド間の配列の類似の程度を意味し、比較対象の塩基配列の領域にわたって最適な状態(配列の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一の塩基を決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内の塩基の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。塩基配列の配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定される。
【0018】
本願に関して、典型的には、対象はヒトである。対象は、白血病、例えば、慢性骨髄性白血病(CML)またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)に罹患しているか、または、罹患している疑いのある対象であってもよい。
【0019】
本願に関して、「核酸試料」は、対象から得られたDNA、または、対象から得られたRNAを逆転写することにより得られたcDNAを意味する。RNAは、totalRNAであってもよく、精製されたmRNAであってもよい。核酸試料は、対象に由来する造血幹細胞、白血球または白血病細胞を含む試料、例えば、血液、骨髄液、リンパ液から得られる。単離された造血幹細胞、血液細胞、白血球または白血病細胞から核酸試料を得てもよい。ある実施態様では、核酸試料は末梢血白血球または骨髄液有核細胞から得られる。ある実施態様では、核酸試料は末梢血白血球から得られる。
【0020】
試料からのDNAまたはRNAの抽出には、公知のいかなる方法を用いてもよい。例えば、PCI(フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール抽出)法において溶液を酸性にして水層から抽出する方法、市販のDNA抽出キットまたはRNA抽出キットを用いる方法、その他の公知の方法によることができる。
【0021】
上記方法の工程(1)において、BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸を用いる。これは、Major BCR-ABL1 mRNAに由来するPCR増幅産物において、BCR遺伝子のエクソン2~14に相当する領域に結合し得る。本明細書において、当該修飾核酸を、「M-BCRクランプ」と称する。
【0022】
「修飾核酸」は、1個以上の人工ヌクレオチドを含む核酸であって、ある配列を有するmRNAまたはDNAに対して、修飾核酸と同じ塩基配列を有するDNAよりも強く相補鎖を形成し、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されない核酸である。逆転写酵素およびDNAポリメラーゼは、鋳型であるmRNAまたはDNAに修飾核酸が結合していると、結合部位で伸長反応を停止する。M-BCRクランプは、BCR遺伝子のエクソン2~14に相当する塩基配列を含むM-BCR-ABL1遺伝子由来のポリヌクレオチドと結合し、これを鋳型とする伸長反応を抑制するが、BCR遺伝子のエクソン2~14に相当する塩基配列を含まないm-BCR-ABL1遺伝子由来のポリヌクレオチドとは結合せず、これを鋳型とする伸長反応を抑制しない。
【0023】
M-BCRクランプは、BCR遺伝子のエクソン2~14、好ましくは2~13に含まれる約10~30個、約15~25個、約19~23個または約20~22個、例えば約21個の連続するヌクレオチドの塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸として設計し得る。BCR遺伝子のエクソン2~14は、例えば、配列番号4の塩基配列を有する。BCR遺伝子のエクソン2~13は、例えば、配列番号5の塩基配列を有する。ある実施態様では、M-BCRクランプは、工程(1)のPCR増幅産物において、フォワードプライマーまたはリバースプライマーの結合領域に近い領域に結合するように設計する。具体的には、フォワードプライマーまたはリバースプライマーの結合領域から約300、約200、約150または約100ヌクレオチド以内の領域に結合するように設計する。ある実施態様では、BCR遺伝子のエクソン12および13に相当する領域(例えば、配列番号6)、例えばエクソン13に相当する領域(例えば、配列番号7)に結合するように設計する。ある実施態様では、M-BCRクランプは、AGGGAGAAGCTTCTGAAACAC(配列番号8)の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を含む。ある実施態様では、M-BCRクランプは、配列番号8の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列からなる。
【0024】
M-BCRクランプは、1個またはそれ以上の人工ヌクレオチドを含む。人工ヌクレオチドは、天然のヌクレオチドと異なる構造を有し、ヌクレアーゼ耐性や標的配列との結合親和性を高めるものを選択し得る。例えば、出典明示により本明細書の一部とする Deleavey, G. F., & Damha, M. J. (2012). Designing chemically modified oligonucleotides for targeted gene silencing. Chemistry & biology, 19(8), 937-954 に記載の人工ヌクレオチドを使用し得る。人工ヌクレオチドの例には、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、架橋型人工核酸(LNA)、2'-O,4'-C-エチレン架橋核酸(ENA)、拘束エチル(cEt)、モルホリノ核酸等が挙げられる。糖修飾を有する人工ヌクレオチドには、2'-O-メチルリボース、2'-O-メトキシエチルリボース、2'-デオキシ-2'-フルオロリボース、3'-O-メチルリボース等の置換五単糖;1',2'-デオキシリボース;アラビノース;置換アラビノース糖;六単糖およびアルファ-アノマーの糖修飾を有するものが含まれる。修飾された塩基を有する人工ヌクレオチドとしては、例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-メチルシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル等のピリミジン;6-メチルアデニン、6-チオグアノシン等のプリン;および他の複素環塩基等を有するものが挙げられる。M-BCRクランプ中の人工ヌクレオチドは、すべて同じ種類のものであってもよく、2種類以上の異なる人工ヌクレオチドが存在してもよい。
【0025】
ある実施態様では、M-BCRクランプは、人工ヌクレオチドとして、1個またはそれ以上のPNAを含む。PNAは、一般に、N-(2-アミノエチル)グリシンがペプチド結合することにより、DNAのリン酸結合がペプチド結合で置き換えられた構造を生じる(Nielsen et al. 1991 Science 254, 1457-1500)。PNAは、各種核酸分解酵素に対して耐性であり、DNAまたはRNAと同様の分子認識によりDNAまたはRNAと相補鎖を形成する。PNAとDNAの親和性は、DNAとDNAまたはDNAとRNAの親和性よりも高い。ある実施態様では、M-BCRクランプ中のヌクレオチドは、すべてPNAである。
【0026】
ある実施態様では、核酸試料は、対象のRNA試料を逆転写することにより得られたcDNAであり、この場合、上記方法により対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現が検出される。BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸(M-BCRクランプ)の存在下で逆転写を行ってもよい。これは、Major BCR-ABL1 mRNAにおけるBCR遺伝子のエクソン2~14に相当する領域に結合し得る。逆転写で用いるM-BCRクランプは、BCR遺伝子のエクソン2~14、好ましくは2~13に含まれる約10~30個、約15~25個、約19~23個または約20~22個、例えば約21個の連続するヌクレオチドに相補的な塩基配列を有する修飾核酸として設計し得る。ある実施態様では、逆転写で用いるM-BCRクランプは、M-BCR-ABL1 mRNAにおいて、逆転写用のリバースプライマーの結合領域に近い領域に結合するように、即ち、BCRのエクソン2~14に相当する領域中の3’末端に近い領域に結合するように設計する。具体的には、BCR由来領域とABL1由来領域との結合点から約300、約200、約150または約100ヌクレオチド以内の領域に結合するように設計する。例えば、BCR遺伝子のエクソン12および13に相当する領域(例えば、配列番号6)、例えばエクソン13に相当する領域(例えば、配列番号7)に結合するように設計する。ある実施態様では、逆転写で用いるM-BCRクランプは、AGGGAGAAGCTTCTGAAACAC(配列番号8)の塩基配列を含む。ある実施態様では、逆転写で用いるM-BCRクランプは、配列番号8の塩基配列からなる。逆転写で用いるM-BCRクランプは、上記のPCRで用いるM-BCRクランプと同様に製造および使用し得る。
【0027】
逆転写で用いるM-BCRクランプは、PCRで用いるM-BCRクランプと同一であっても異なっていてもよい。ある実施態様では、逆転写で用いるM-BCRクランプは、PCRで用いるM-BCRクランプと同一である。
【0028】
逆転写またはPCRにおけるM-BCRクランプの添加量は、逆転写またはPCRをそれぞれ抑制し得る量であればよく、例えば、反応液の最終体積モル濃度で、約0.01μM~10μM、約0.01μM~5μM、約0.01μM~1μMまたは約0.01μM~0.1μM、例えば、約0.025、約0.050または約0.075μMとすることができる。
【0029】
逆転写のために、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーを使用する。これは、逆転写反応において、m-BCR-ABL1 mRNAおよびM-BCR-ABL1 mRNAに結合し、伸長反応を引き起こし得る。ABL1遺伝子のエクソン2~11は、例えば、配列番号9の塩基配列を有し、逆転写用のリバースプライマーは、当該塩基配列に基づいて設計し得る。例えば、逆転写用のリバースプライマーは、ABL1遺伝子のエクソン2の塩基配列(例えば、配列番号10)に基づいて設計し得る。ある実施態様では、逆転写用のリバースプライマーは、CCTGAGGCTCAAAGTCAGATGCTAC(配列番号11)の塩基配列を含む。ある実施態様では、逆転写用のリバースプライマーは、配列番号11の塩基配列からなる。逆転写に適するプライマーの設計方法は当業者に周知である。
【0030】
逆転写反応において、逆転写酵素、dNTP、バッファーなどの試薬は、当分野で通常用いられるものを用いることができ、各種試薬の量、反応時間、温度などの条件は、逆転写酵素に添付されている説明書の記載や通常用いられるプロトコール等の公知の手法により、適宜決定することができる。例えば、逆転写酵素は分子生物学実験等に使用可能な公知の任意の逆転写酵素、例えば、TthDNAポリメラーゼ、rTthDNAポリメラーゼ、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素等、またはそれらの誘導体を使用し得る。
【0031】
PCR用のフォワードプライマーおよびリバースプライマーは、m-BCR-ABL1 mRNA由来のPCR産物が増幅と定量に適する長さ、例えば、約10~1000、約20~500、約50~300、約100~200ヌクレオチド、約130~180ヌクレオチド、約150~160ヌクレオチド、例えば、約155ヌクレオチド長を有するように設計し得る。PCRに適するプライマーの設計方法は当業者に周知である。
【0032】
PCRには、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーを用いる。これは、PCR反応において、m-BCR-ABL1 mRNAおよびM-BCR-ABL1 mRNAの相補鎖である一本鎖DNAのBCR遺伝子エクソン1に相当する領域に結合し、伸長反応を引き起こし得る。BCR遺伝子のエクソン1は、例えば、配列番号12の塩基配列を有し、フォワードプライマーは、当該塩基配列に基づいて設計し得る。ある実施態様では、フォワードプライマーは、TCGCAACAGTCCTTCGACAG(配列番号13)の塩基配列を含む。ある実施態様では、フォワードプライマーは、配列番号13の塩基配列からなる。
【0033】
PCRで用いるリバースプライマーは、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有し、逆転写で用いるリバースプライマーに準じて設計し得る。PCRで用いるリバースプライマーは、逆転写で用いるリバースプライマーと同一であっても異なっていてもよい。ある実施態様では、逆転写で用いるリバースプライマーとPCRで用いるリバースプライマーは同一である。
【0034】
PCRは、定量的PCR、例えば定量リアルタイムPCRであってもよい。定量リアルタイムPCRには、各種の蛍光PCR技術を用い得る。蛍光PCR技術としては、例えば、SYBR GREEN Iなどの蛍光性核酸標識剤を用いるインターカレーター法(例えば、ライトサイクラー(登録商標)(ロシュ社)、ABI Prizm 7700 Sequence Detection System(登録商標)(パーキン・エルマー、アプライド・バイオシステムズ社)を用いる)、DNAポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性を利用して増幅をリアルタイムでモニターするTaqManプローブ法、RNaseH酵素のRNase活性および専用のキメラRNAプローブを利用するサイクリングプローブ法などが挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
ある実施態様では、TaqManプローブ法により定量リアルタイムPCRを行う。一般的に、TaqManプローブ法では、5’末端を蛍光物質で、3’末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)をPCR反応系に加える。TaqManプローブは、アニーリング段階で鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。伸長反応段階でTaqポリメラーゼの5’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がクエンチャーから離れ、蛍光が発せられる。TaqManプローブは、m-BCR-ABL1 mRNA由来のPCR産物のどちらの鎖に結合してもよく、どこに結合してもよく、当分野で周知の方法により設計し得る。また、任意の蛍光物質とクエンチャー物質の組み合わせを使用し得る。ある実施態様では、TaqManプローブは、ATCGTGGGCGTCCGCAAGAC(配列番号14)の塩基配列を含む。ある実施態様では、TaqManプローブは、配列番号14の塩基配列からなる。
【0036】
定量リアルタイムPCRにおいて、既知濃度のcDNAを含む標準液と未知濃度のcDNA(検体)を同時に増幅し、横軸に増幅サイクル数、縦軸にレポーター色素の蛍光強度(対数変換値)をプロットした蛍光増幅曲線を作成してもよい。増幅曲線が直線状となる蛍光強度の中央値付近で横軸と平行な線を引き、その線と各増幅曲線が交わるときの増幅サイクル数を求め得る。さらに、横軸に各標準液の濃度(対数変換値)、縦軸に標準液の増幅サイクル数をプロットした標準曲線を作成し、この標準曲線上に検体の増幅サイクル数を当てはめることにより、検体の濃度を算出し得る。
【0037】
逆転写とPCRにおいて、同じM-BCRクランプおよびリバースプライマーを使用し得る。従って、逆転写産物の全部または一部に、PCRに必要な試薬を添加して反応を行うことができる。例えば、逆転写とPCRを、ワンステップで、即ち、同一容器内で、同時または連続して行うことができる。例えば、工程(1)を、定量リアルタイムRT-PCRとして実施し得る。
【0038】
PCRのために、DNAポリメラーゼ、dNTP、バッファーなどの試薬は、当分野で通常用いられるものを用いることができ、各種試薬の量、反応時間、温度などの条件は、酵素に添付されている説明書の記載や通常用いられるプロトコール等の公知の手法により、適宜決定することができる。例えば、DNAポリメラーゼは分子生物学実験等に使用可能な公知の任意のDNAポリメラーゼ、例えば、rTthDNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼおよびその誘導体を使用し得る。
【0039】
上記方法の工程(2)では、工程(1)においてPCRにより核酸が増幅された場合に、対象がm-BCR-ABL1遺伝子を有すると判定する。核酸が増幅されたことは、核酸を検出するための方法として公知のものならば、何れの方法を用いて判定してもよい。例えば、増幅後の核酸の電気泳動、検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いるハイブリダイゼーション法、インターカレーター性蛍光色素による二本鎖DNAの染色、蛍光プローブ法などにより、判定し得る。上記の通り、核酸の増幅を定量的PCRにおいて検出してもよい。
【0040】
上記の工程(1)と並行して、ABL1遺伝子のエクソン2~11に相当する塩基配列(例えば、配列番号9)を含む核酸を定量し、m-BCR-ABL1の測定値と比較してもよい。ABL1遺伝子のエクソン2~11に相当する塩基配列を含む核酸は、ABL1遺伝子、m-BCR-ABL1遺伝子およびM-BCR-ABL1遺伝子に由来し得る。例えば、工程(1)でm-BCR-ABLの核酸を定量し、その測定値をABL1遺伝子のエクソン2~11に相当する塩基配列を含む核酸の測定値で除した値を、標準化されたm-BCR-ABL1の測定値とし得る。同様に、一般的なハウスキーピング遺伝子の測定値を用いて、m-BCR-ABL1の測定値を標準化してもよい。
【0041】
ある実施態様では、下表1のプライマー、クランプおよびプローブを使用する。これらのすべてを組み合わせて使用してもよく、少なくとも1つを使用してもよい。
【表1】
【0042】
ある態様では、本願は、上記の方法を実施するためのキットを提供する。キットは、少なくとも、
(a)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸;
(b)ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマー;および、
(c)BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマー;
を含む。
【0043】
キットは、さらに、第2の修飾核酸、第2のリバースプライマーおよび定量的PCR用のプローブの少なくとも1つを含み得る。キットは、さらに、標準品、例えば、既知量のminor BCR-ABL1 mRNAを含み得る。キットは、さらに、対照遺伝子のmRNA(例えばABL1遺伝子のエクソン2~11に相当する塩基配列の少なくとも一部を含むmRNA)を定量するためのプライマーを含み得る。キットは、さらに、上記の方法の実施に必要な試薬、例えば、逆転写、PCRまたは定量的PCR用の、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、dNTP、バッファーなどを含んでもよい。キットは、さらに、使用のための説明を含む添付文書(例えば、書面または記憶媒体等)等の、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の構成要素を含んでもよい。
【0044】
キットに含まれる各構成要素は、各々別個に、あるいは可能であれば混合した状態で、水または適当な緩衝液中に溶解されるか、または凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容されて提供され得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、試験管、チューブ、プレート、マルチウェルプレート等が含まれる。容器は、ガラス、プラスチック、金属などの少なくとも1つの材料から形成されていてよい。容器は、ラベルを有していてもよい。
【0045】
ある態様では、本願は、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第1のリバースプライマーを用いて、対象のRNA試料を逆転写する工程、
(2)BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第2のリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、
(3)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を発現していると判定する工程、
を含む方法を提供する。この方法の詳細は、先に記載した方法に準じる。
【0046】
本願は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1]対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、対象から得られた核酸試料を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、および、
(2)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を有すると判定する工程、
を含む方法。
[2]核酸試料が、対象のRNA試料を逆転写することにより得られたcDNAである、第1項に記載の方法。
[3]核酸試料が、BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で対象のRNA試料を逆転写することにより得られたcDNAである、第1項または第2項に記載の方法。
【0047】
[4]対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現を検出する方法であって、
(1)ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第1のリバースプライマーを用いて、対象のRNA試料を逆転写する工程、
(2)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、工程(1)で得られた逆転写産物を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、および、
(3)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を発現していると判定する工程、
を含む方法。
【0048】
[5]対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第1のリバースプライマーを用いて、対象のRNA試料を逆転写する工程、
(2)工程(1)で得られた逆転写産物を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第2のリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、
(3)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を発現していると判定する工程、
を含む方法。
【0049】
[6]対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現を検出する方法であって、
(1)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部に相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有する第1のリバースプライマーを用いて、対象のRNA試料を逆転写する工程、
(2)BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸の存在下で、工程(1)で得られた逆転写産物を鋳型とし、BCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーおよびABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーを用いて、PCRを行う工程、および、
(3)PCRにより核酸が増幅された場合に、対象がminor BCR-ABL1遺伝子を発現していると判定する工程、
を含む方法。
【0050】
[7]修飾核酸が、BCR遺伝子のエクソン2~13の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する、第1項~第6項のいずれかに記載の方法。
[8]修飾核酸が、BCR遺伝子のエクソン12および13の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する、第1項~第7項のいずれかに記載の方法。
[9]修飾核酸が約10個~約30個のヌクレオチドを含む、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
[10]修飾核酸が約21個のヌクレオチドを含む、第1項~第9項のいずれかに記載の方法。
[11]修飾核酸が配列番号8の塩基配列を含む、第1項~第10項のいずれかに記載の方法。
[12]修飾核酸が配列番号8の塩基配列からなる、第1項~第11項のいずれかに記載の方法。
[13]修飾核酸がPNAを含む、第1項~第12項のいずれかに記載の方法。
[14]逆転写で用いる修飾核酸とPCRで用いる修飾核酸が同一である、第3項または第6項~第13項のいずれかに記載の方法。
【0051】
[15]逆転写で用いるリバースプライマーまたはPCRで用いるリバースプライマーが配列番号11の塩基配列を含む、第1項~第14項のいずれかに記載の方法。
[16]逆転写で用いるリバースプライマーまたはPCRで用いるリバースプライマーが配列番号11の塩基配列からなる、第1項~第15項のいずれかに記載の方法。
[17]逆転写で用いるリバースプライマーとPCRで用いるリバースプライマーが同一である、第2項~第16項のいずれかに記載の方法。
[18]フォワードプライマーが配列番号13の塩基配列を含む、第1項~第17項のいずれかに記載の方法。
[19]フォワードプライマーが配列番号13の塩基配列からなる、第1項~第18項のいずれかに記載の方法。
[20]逆転写とPCRを同じ容器中で行う、第2項~第19項のいずれかに記載の方法。
[21]PCRが定量的PCRである、第1項~第20項のいずれかに記載の方法。
[22]PCRが定量リアルタイムRT-PCRである、第1項~第21項のいずれかに記載の方法。
[23]対象がヒトである、第1項~第22項のいずれかに記載の方法。
[24]核酸試料が末梢血白血球または骨髄液有核細胞から抽出されたものである、第1項~第23項のいずれかに記載の方法。
[25]核酸試料が末梢血白血球から抽出されたものである、第1項~第24項のいずれかに記載の方法。
[26]表1に記載のプライマー、クランプおよびプローブの少なくとも1つを使用する、第1項~第25項のいずれかに記載の方法。
[27]表1に記載のプライマー、クランプおよびプローブを使用する、第1項~第26項のいずれかに記載の方法。
【0052】
[28]BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーおよびBCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーを含む、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子を検出するためのキット。
[29]BCR遺伝子のエクソン2~14の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する修飾核酸、ABL1遺伝子のエクソン2~11の一部に相補的な塩基配列を有するリバースプライマーおよびBCR遺伝子のエクソン1の一部の塩基配列を有するフォワードプライマーを含む、対象におけるminor BCR-ABL1遺伝子の発現を検出するためのキット。
[30]修飾核酸が、BCR遺伝子のエクソン2~13の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する、第28項または第29項に記載のキット。
[31]修飾核酸が、BCR遺伝子のエクソン12の一部の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する、第28項~第30項のいずれかに記載のキット。
[32]修飾核酸が約10個~約30個のヌクレオチドを含む、第28項~第31項のいずれかに記載のキット。
[33]修飾核酸が21個のヌクレオチドを含む、第28項~第32項のいずれかに記載のキット。
[34]修飾核酸が配列番号8の塩基配列を含む、第28項~第33項のいずれかに記載のキット。
[35]修飾核酸が配列番号8の塩基配列からなる、第28項~第34項のいずれかに記載のキット。
[36]修飾核酸がPNAを含む、第28項~第35項のいずれかに記載のキット。
【0053】
[37]リバースプライマーが配列番号11の塩基配列を含む、第28項~第36項のいずれかに記載のキット。
[38]リバースプライマーが配列番号11の塩基配列からなる、第28項~第37項のいずれかに記載のキット。
[39]フォワードプライマーが配列番号13の塩基配列を含む、第28項~第38項のいずれかに記載のキット。
[40]フォワードプライマーが配列番号13の塩基配列からなる、第28項~第39項のいずれかに記載のキット。
[41]定量的PCR用のプローブをさらに含む、第28項~第40項のいずれかに記載のキット。
[42]第2の修飾核酸をさらに含む、第28項~第41項のいずれかに記載のキット。
[43]第2のリバースプライマーをさらに含む、第28項~第42項のいずれかに記載のキット。
[44]minor BCR-ABL1 mRNAをさらに含む、第28項~第43項のいずれかに記載のキット。
[45]表1に記載のプライマー、クランプおよびプローブの少なくとも1つを含む、第28項~第44項のいずれかに記載のキット。
[46]表1に記載のプライマー、クランプおよびプローブを含む、第28項~第45項のいずれかに記載のキット。
【0054】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例1】
【0055】
RT-PCR反応液の調製
下表の分量で試薬を調製した。
【表2】
minor BCR-ABL mRNA蛍光標識プローブはレポーター色素として6-FAM(6-カルボキシフルオレセイン)、クエンチャー色素としてATTO540Qを用いて標識し、ABL 蛍光標識プローブはレポーター色素としてHEX(ヘキサクロロフルオレセイン)、クエンチャー色素としてATTO540Qを用いて標識した。
このRT-PCR反応液に、BCR遺伝子のエクソン12の一部をコードするmRNAに特異的に結合するPNAクランプ(パナジーン社)を終濃度0、0.025、0.05または0.075μMとなるように添加した。
【0056】
使用したプライマー等の塩基配列は、下表の通りであった。
【表3】
【0057】
測定試料の調製
(1)Major BCR-ABL1 mRNA配列を持つRNA標準品
Major BCR-ABL1 mRNAの配列を含む、試験管内合成されたRNAを調製した(配列番号18)。濃度を1.0×107、1.0×106コピー/試験となるように調製した。
(2)minor BCR-ABL1 mRNA配列を持つRNA標準品
minor BCR-ABL1 mRNAの配列を含む、試験管内合成されたRNAを調製した(配列番号19)。濃度を1.0×107、1.0×105、1.0×103、1.0×102、1.0×101コピー/試験となるように調製した。
(3)ABL1 mRNA配列を持つRNA標準品
ABL1 mRNAの配列を含む、試験管内合成されたRNAを調製した(配列番号20)。濃度を1.0×107、1.0×105、1.0×103、1.0×102コピー/試験となるように調製した。
【0058】
RT-PCR反応条件
RT-PCRは下記の条件で行った。
・機器:Applied biosystems 7500 Fast realtime PCR system
・温度条件:37℃5分間、65℃15分間、94℃1分間反応後、94℃5秒間、67℃40秒間の反応を45回繰り返した。
【0059】
試験1:minor BCR-ABL1 mRNAおよびABL1 mRNAの増幅に対するPNAクランプの影響
(2)minor BCR-ABL1 mRNA配列を持つRNA標準品およびABL1 mRNA配列を持つRNA標準品を、上記の試薬と反応条件でRT-PCRに付した。
minor BCR-ABL1 mRNA(minor)およびABL1 mRNA(ABL1)について、増幅曲線を各々
図5および6に示す。また、RT-PCRの閾値のサイクル数(Cycle of threshold;Ct値)を下表に示す。これらの増幅においては、PNAクランプの添加による影響は見られなかった。
【表4】
-:試験せず
【0060】
試験2:Major BCR-ABL1 mRNAおよびABL1 mRNAの増幅に対するPNAクランプの影響
(1)Major BCR-ABL1 mRNA配列を持つRNA標準品およびABL1 mRNA配列を持つRNA標準品を、上記の試薬と反応条件でRT-PCRに付した。
Major BCR-ABL1 mRNA(Major)およびABL1 mRNA(ABL1)について、RT-PCRの閾値のサイクル数(Cycle of threshold;Ct値)を下表に示す。また、増幅曲線を
図7~9に示す。PNAクランプの非存在下では、増幅産物が1630bpまたは1705bpと非常に長いにも拘わらず、Major BCR-ABL1 mRNAの増幅が見られた。PNAクランプを添加するとCt値が大きくなり、増幅が阻害された。一方ABL1の増幅には、PNAクランプの添加による影響は見られなかった。
【表5】
【0061】
表5に示したRT-PCRの閾値のサイクル数について、表4に示したminor BCR-ABL1 mRNA及びABL1 mRNAのRNA濃度及び閾値のサイクル数から求めた標準曲線を基に、濃度を算出した結果を表6に示す。
minor BCR-ABL1 mRNAを増幅する系において検出されるMajor BCR-ABL1 mRNAの濃度は、PNAクランプを添加することでPNAクランプ未添加の場合に比べて減少しており、PNAクランプによりMajor BCR-ABL1 mRNAの増幅反応が阻害されたことを示している。一方、ABL1 mRNAを増幅する系においては、PNAクランプの添加による影響は見られなかった。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願は、従来法よりも精度の高いminor BCR-ABL1遺伝子の検出またはその発現量の測定方法を提供し得る。即ち、上記の方法またはキットを用いることで、minor BCR-ABL1遺伝子を高精度に検出すること、または、その発現量を測定することが可能になる。よって、本願の方法は、白血病の発症および再発の診断、予後判断、並びに骨髄移植の時期決定などに有用である。
【配列表】