(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】多価不飽和脂肪酸塩を製造するための下流処理
(51)【国際特許分類】
A61K 9/16 20060101AFI20241010BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241010BHJP
A61J 3/06 20060101ALI20241010BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20241010BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20241010BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K31/202
A61K47/02
A61K47/18
A61J3/06 B
A61P3/02
A23L33/115
A23L33/12
(21)【出願番号】P 2022507366
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2020072213
(87)【国際公開番号】W WO2021023849
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】201941032090
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アシシュ グーハ
(72)【発明者】
【氏名】テレジア クンツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス エムリヒ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マールマイスター
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンナ ペータース
(72)【発明者】
【氏名】ミラン ラティノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター クナウプ
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ロッツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ディール
(72)【発明者】
【氏名】ビナイ ジェイン
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルド ハートマン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502085(JP,A)
【文献】特表2018-501790(JP,A)
【文献】特開2003-277259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/327
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む出発組成物を準備する工程と、
ii.
前記多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸の対イオンとなるリジン、カリウム又はオルニチンを含む対イオン組成物を準備する工程と、
iii.前記出発組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、前記対イオン組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、を混合する工程と、
iv.得られた混合物を流動床で噴霧造粒に供し、前記対イオンに由来するカチオンと、前記多価不飽和ω-3脂肪酸または前記多価不飽和ω-6脂肪酸に由来するアニオンと、からなる少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を生成する工程と、
を有し、
前記対イオン組成物は、前記工程(i)で準備される前記出発組成物中のカルボン酸官能基の量と、前記工程(ii)で準備される前記対イオンの量と、の比がモル基準で1:0.5~1:2(カルボン酸官能基:対イオン)の範囲となるように準備され
、
前記噴霧造粒が、35~72℃の平均床温度(T)、かつ0.6~2.5バールの平均噴霧圧力(A)で実施され、下記数式1:
【数1】
(式中、Sはkg単位のバッチサイズであり、Tは℃単位の平均床温度であり、Aはバール単位の平均噴霧圧力である。)
のように定義される工程要因(PF)が、1.6より高い、
多価不飽和脂肪酸塩の造粒方法。
【請求項2】
L-リジン、またはL-リジンとL-アルギニンの混合物が対イオンとして使用され、前記混合物中の前記L-リジンと前記L-アルギニンの比は10:1~1:1である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ω-3脂肪酸またはω-6脂肪酸の供給源が、魚油、イカ油、クリル油、リンシード・オイル、ボラジ種子油、藻油、麻実油、菜種油、フラックスシード・オイル、キャノーラ油、大豆油の少なくとも1つから選択される、請求項1
又は2記載の方法。
【請求項4】
多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む食品を製造するための、
請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法によって得られる粒子の使用。
【請求項5】
多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む栄養製品を製造するための、
請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法によって得られる粒子の使用。
【請求項6】
多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む医薬品を製造するための、
請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法によって得られる粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接圧縮による打錠に適した多価不飽和脂肪酸塩を製造するための改良された下流処理を提供する。
【背景技術】
【0002】
ω-3脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、心臓血管系、炎症性疾患、脳の発達と機能、中枢神経系の途絶(disruptions)、そして他の領域に対する多くの健康上のプラスの影響に関係している(非特許文献1)。したがって、ω-3脂肪酸の摂取は、規制当局の声明によって裏付けられている。たとえば、EFSA(欧州食品安全機関)は、成人に対して1日あたり250mgのEPA+DHAの摂取を推奨している(非特許文献2)。AHA(アメリカ心臓協会)は、心機能障害と診断されない人に対しては多脂魚を週に少なくとも2食摂取すること、心血管障害と診断される人に対しては魚または栄養補助食品から1日あたり約1gのEPA+DHAを摂取すること、そして、血中脂質値の上昇を改善するために1日あたり2~4gのEPA+DHAを摂取することを推奨している(非特許文献3)。さらに、当局は、臨床研究に基づいて決定されたω-3脂肪酸の健康強調表示を明示的に承認している(非特許文献4または非特許文献5)。したがって、食品サプリメント、食品添加物、および医薬品としての、ω-3脂肪酸(特に、魚油だけでなく、他の植物または微生物源に由来するもの)の使用が増加している。
【0003】
標準名称法によれば、多価不飽和脂肪酸は、二重結合の数と位置に従って分類される。脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置に応じて、2つの系(シリーズ)または族(ファミリー)がある。ω-3系は3番目の炭素原子に二重結合を有するが、ω-6系は6番目の炭素原子まで二重結合がない。よって、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22個の炭素原子からなり、かつメチル末端から3番目の炭素原子から始まる6つの二重結合を持つ鎖長を有しており、「22:6 n-3」(all-cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)と呼ばれる。もう1つの重要なω-3脂肪酸は、「20:5 n-3」(all-cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)と呼ばれるエイコサペンタエン酸(EPA)である。
【0004】
市場に導入されているω-3脂肪酸製品のほとんどは、ω-3脂肪酸含有量が約30%である魚油から、EPAまたはDHAまたはこれら2つのω-3脂肪酸の混合物の含有量が90%を超える濃縮物までの油の形で提供されている。使用される配合物は、主にソフトゼラチンカプセルである。加えて、マイクロカプセル化または粉末調製物など、さらに多くの製品形態が記載されている(非特許文献6、特許文献1)。化学的には、これらは通常、様々な濃度のω-3脂肪酸を含むトリグリセリドまたは脂肪酸エチルエステルであるが、一方、たとえばオキアミ油としてのリン脂質、遊離脂肪酸(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)、脂肪酸のカリウム、ナトリウム、アンモニウム(特許文献6)、カルシウム、およびマグネシウム(非特許文献7、特許文献7)などによる様々な塩(これらの塩は水溶性ではない)、アミノアルコール(特許文献8)、ピペラジンなどのアミン化合物(特許文献9)、およびメトホルミンなどのグアニジン化合物(特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13)も知られている。人体に対する種々のω-3誘導体の生物学的利用能は非常に多様である。モノアシルグリセリドとともに、遊離脂肪酸としてのω-3脂肪酸は小腸で吸収されるので、遊離ω-3脂肪酸の生物学的利用能は、トリグリセリドまたはエチルエステル(これらは消化管で最初に遊離脂肪酸に割裂されなければならない)よりも優れている(非特許文献8)。酸化に対する安定性も、ω-3誘導体によって大きく異なる。遊離ω-3脂肪酸は、酸化に対して非常に敏感であると記載されている(非特許文献8)。固体ω-3型を使用する場合、液体製品と比較して安定性が向上すると推測される(非特許文献7)。
【0005】
さらに、リシンやアルギニンなどの多様なアミノ酸を含むω-3脂肪酸の調製物は、混合物(特許文献14)または塩(特許文献13、特許文献15、特許文献16、特許文献17、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、特許文献18)として知られている。噴霧乾燥によるω-3アミノアルコール塩の調製も言及されている(特許文献8)。
【0006】
特許文献16は、高真空および低温下での蒸発乾固、または凍結乾燥によるDHAアミノ酸塩の調製を記載している。得られる製品は、低温でワックス状の外観と粘度を有する固体に変化する非常に濃厚で透明な油として記載されている。かなりの量の吸着希釈剤を使用する打錠配合も言及されているが、より大きな打錠にそのような油性物質を使用すると、加工上の重大な課題を生じる。さらに、様々な貯蔵温度によってそのような錠剤の粘度は変化する可能性がある。
【0007】
特許文献19および特許文献20は、多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む組成物の酸化に対する安定性を高める方法を開示している。この方法は、以下の工程を含む:(i)少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む出発組成物を準備する工程と、(ii)リジン組成物を準備する工程と、(iii)出発組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、リジン組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、を混合し、その後、得られた混合物を噴霧乾燥に供し、こうして、リジン由来のカチオンと、多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸由来のアニオンと、からなる少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を生成する工程。本発明では、アミノ酸の固体PUFA塩を製造するための有用な方法が噴霧乾燥を用いて記載されているが、最終的に得られる粉末は、錠剤のような剤形の製造に必要な有用な特性を欠いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】;T.-L.トルゲシェン、J.クラーヴェネス、A.H.マイセット、米国特許公開公報第2012/0156296A1号
【文献】T.J.メインズ、B.N.M.マシエルス、B.M.メータ、G.L.ウィスラー、M.H.ダビッドソン、P.R.ウッド、米国特許公開公報第2013/0209556A1号
【文献】M.H.ダビッドソン、G.H.ウィスラー、米国特許公開公報第2013/0095179A1号
【文献】N.J.デュラグカール、米国特許公開公報第2014/0018558A1号
【文献】N.J.デュラグカール、米国特許公開公報第2014/0051877A1号
【文献】H.J.シュー、S.トゥルソワ、T.ポポワ、U米国特許公報第8,203,013B2号
【文献】G.K.シュトロマイヤー、N.D.ルキーニ、M.A.バルヒョ、E.D.フレデリクセン、米国特許公報第7,098,352B2号
【文献】P.ロンヴェド、J.クラーヴェネス、米国特許公開公報第2007/0213298A1号
【文献】B.L マイラリ、F.C.シーアヴォリノ、米国特許公開公報第2014/0011814A1号
【文献】M.マンク、J.ローウェ、米国特許公開公報第2012/0093922A1号
【文献】B.L.マイラリ、F.C.シーアヴォリノ、米国特許公開公報第2012/0178813A1号
【文献】B.L.マイラリ、F.C.シーアヴォリノ、米国特許公開公報第2013/0281535A1号
【文献】B.L.マイラリ、F.C.シーアヴォリノ、国際公開公報第2014/011895A2号
【文献】P.リテラチ・ナージ、M.ボロス、J.ジルベレキー、I. ラクツ、G.ソオス、M.コーラー、A.ピンター、G.ネメス、ドイツ特許公開公報第3907649A1号
【文献】T.ブリュジーズ、欧州特許公開公報第0699437A1号
【文献】T.ブリュジーズ、欧州特許公報第0734373B1号
【文献】T.ブリュジーズ、米国特許公報第5,750,572号
【文献】H.シブヤ、米国特許公開公報第2003/0100610 A1号
【文献】国際公開公報第2016/102323A1号
【文献】国際公開公報第2016/102316A1号
【非特許文献】
【0009】
【文献】C.H.S.ラックストン、S.C.リード、M.J.A.シンプソン、K.J.ミリントン、J.ハム、Nutr. Dietet 2004年、17、449
【文献】EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies、EFSAジャーナル 2010年、8(3)、1461
【文献】P.M.クリス-エザートン、W.S.ハリス、L.J.アペル、Circulation 2002年、106、2747
【文献】欧州栄養・健康強調表示一覧
【文献】EFSAジャーナル 2011年、9(4)、2078
【文献】C.J.バロー、B.ワング、B.アディカリ、H.リュー、Spray drying and encapsulation of omega-3 oils, in: Food enrichment with omega-3 fatty acids(編者:C.ヤコブセン、N.S.ニールセン、A.フリーセンフェルト ホーン、A.-D.モルトケ ソーレンセン)、194~225頁、Woodhead Publishing Ltd.、ケンブリッジ 2013年、ISBN 978-0-85709-428-5
【文献】J.A.クラロベク、H.S.エワート、J.H.D.ライト、L.V.ワトソン、D.デニス、C.J.バロー、J.Functional Foods 2009年、1、217
【文献】J.P.シューハルト、A.ハーン、Prostaglandins Leukotrienes Essent. Fatty Acids 2013年、89、1
【文献】J.トラスら、Nephron 1994年、67、66
【文献】J.トラスら、Nephron 1995年、69、318
【文献】J.トラスら、Transplantation Proc. 1992年、24(6)、2583
【文献】S.エル・ブスタニら、Lipids 1987年、22(10)、711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
課題:PUFAアミノ酸塩は先行技術で知られており、その調製方法も開示されている。しかし、これらの粉末を、特に商業規模の機械での打錠に適したものにするためには、粉末の特性を最適に管理することが重要である。
【0011】
打錠用途に適した(ω-アミノ酸塩の)粉末を調製するために、造粒、乾燥および分粒のような1つまたは複数の追加の下流処理が必要であり、これはコストおよび産業上の利用可能性の観点から望ましくないことが確認された。打錠に適したω-アミノ酸塩粉末を製造するとともに、乾燥と造粒のための単一工程下流処理を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
解決策:PUFAアミノ酸塩固体粉末の製造における下流処理として噴霧造粒処理を用いることにより、純粋な噴霧乾燥に対して、打錠に適した非常に優れた粉末特性を提供できることがわかった。さらに、PSD曲線に一定の特性を有する特有の実質的に単峰性の粒径分布または二峰性の分布が特に有利であることがわかった。大きさに依存しないプロセスパラメータのいくつかは、最適な粉末特性を得るために必要であることがわかった。連続噴霧造粒などの噴霧造粒処理と、トップ噴霧バッチ式造粒処理と、のさらなる適応/変形/改善も同様にうまく機能する。
【0013】
特許文献19および特許文献20は、PUFAの酸化に対する安定化のための噴霧乾燥を開示している。本発明に係る噴霧乾燥は、純粋な噴霧乾燥を含んでおり、噴霧乾燥工程後に、高温ガスと、自由流動性の顆粒を液体から生成する噴霧造粒と、によって急速に乾燥することで液体またはスラリーから乾燥粉末を生成する。噴霧造粒処理では、処理の技術的パラメータと構成を設定することにより、製品の特性を色々な方法で変えることができる。
【0014】
流動床での噴霧造粒により、液体を直接、特定の製品特性を備えた自由流動性の顆粒にすることができる。溶液、懸濁液、または融液などの固体を含む液体は、流動床系に噴霧される。高い熱交換により、水溶液または有機溶液はすぐに蒸発し、固体はスターター・コアとして小さな粒子を形成する。蒸発後にスターター・コアの周りに硬い被膜を形成する他の液体を、これらに噴霧する。顆粒がタマネギのように層ごとに成長するように、この工程を流動床で継続的に繰り返す。あるいは、所定量の適切なスターター・コアを準備してもよい。この方法では、液体は、適用されるべき固体の媒体としてのみ機能する。
【0015】
このプロセス変形は空気分級排出を伴う連続流動床系でよく使用される。乾燥室から完成した顆粒を継続的に除去することにより、流動床内の粒子の量が一定に保たれる。
【0016】
顆粒は層状に成長し、摩耗に強いので、非常に緻密になる可能性がある。粒径、残留水分、および固形分などのパラメータを特別に変化させ、最も多様な製品特性を実現することができる。噴霧造粒を用いると、50μm~5mmの中型粒子を生成することができる。流動性、耐摩耗性、耐フレーク性、溶解性、または最適投与量などの特性は、噴霧造粒を用いて固体に付与することができる。無塵顆粒は、緻密な表面構造と高いかさ密度を有し、表面が小さいので吸湿性が低い。液体物質を固体製品の形に変換するための最適な解決策である。
【0017】
本明細書の文脈では、用語「PUFA」は、用語「多価不飽和脂肪酸」と交換可能に使用され、以下のように定義される:脂肪酸は、炭素鎖の長さと飽和特性に基づいて分類される。短鎖脂肪酸は2個~約6個の炭素を有し、通常は飽和している。中鎖脂肪酸は約6個~約14個の炭素を有し、通常は飽和している。長鎖脂肪酸は16個~24個以上の炭素を有し、飽和している場合もあればしていない場合もある。長鎖脂肪酸では、1つまたは複数の不飽和点が存在してよく、それぞれ「一不飽和」および「多価不飽和」という用語で表される。本明細書の文脈では、20個以上の炭素原子を有する長鎖多価不飽和脂肪酸が多価不飽和脂肪酸またはPUFAと呼ばれる。
【0018】
PUFAは、確立された命名法に従って、脂肪酸の二重結合の数と位置により分類される。脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置に応じて、LC-PUFAには2つの主要な系または属がある。ω-3系は、3番目の炭素に二重結合を有し、一方、ω-6系は、6番目の炭素に至るまで二重結合はない。よって、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22個の炭素からなり、かつメチル末端から3番目の炭素原子から始まる6つの二重結合を持つ鎖長を有しており、「22:6 n-3」(all-cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)と呼ばれる。もう1つの重要なω-3PUFAは、「20:5 n-3」(all-cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)と呼ばれるエイコサペンタエン酸(EPA)である。重要なω-6PUFAは、「20:4 n-6」(all-cis-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)と呼ばれるアラキドン酸(ARA)である。
【0019】
その他のω-3PUFAには、エイコサテトラエン酸(ETE)20:3(n-3)(all-cis-11,14,17-エイコサトリエン酸)、エイコサテトラエン酸(ETA)20:4(n-3)(all-cis-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸)、ヘンエイコサペンタエン酸(HPA)21:5(n-3)(all-cis-6,9,12,15,18-ヘンエイコサペンタエン酸)、ドコサペンタエン酸(クルパノドン酸)(DPA)22:5(n-3)(all-cis-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n-3)(all-cis-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸)、テトラコサヘキサエン酸(ニシン酸)24:6(n-3)(all-cis-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸)が含まれる。
【0020】
その他のω-6PUFAには、エイコサジエン酸20:2(n-6)(all-cis-11,14-エイコサジエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)20:3(n-6)(all-cis-8,11,14-エイコサトリエン酸)、ドコサジエン酸22:2(n-6)(all-cis-13,16-ドコサジエン酸)、アドレン酸22:4(n-6)(all-cis-7,10,13,16-ドコサテトラエン酸)、ドコサペンタエン酸(オズボンド酸)22:5(n-6)(all-cis-4,7,10,13,16-ドコサテトラエン酸)、テトラコサテトラエン酸24:4(n-6)(all-cis-9,12,15,18-テトラコサテトラエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n-6)(all-cis-6,9,12,15,18-テトラコサペンタエン酸)が含まれる。
【0021】
本発明の実施形態で使用される好ましいω-3PUFAは、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)である。
【0022】
本発明の方法に使用することができる多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む組成物は、かなりの量の遊離多価不飽和ω-3脂肪酸または遊離多価不飽和ω-6脂肪酸を含む任意の組成物であってよい。そのような組成物は、遊離形態の他の天然に存在する脂肪酸をさらに含んでいてよい。さらに、そのような組成物は、室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体、液体、または気体である成分をさらに含んでいてよい。対応する液体成分には、蒸発によって容易に除去することができ、したがって揮発性成分と見なすことができる成分、ならびに蒸発によって除去することが困難であり、したがって不揮発性成分と見なすことができる成分が含まれる。本文脈では、気体成分は揮発性成分と見なす。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、および超臨界二酸化炭素である。
【0023】
本発明の方法に使用することができる多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む組成物は、任意の適切な原料から得られてよく、当該原料は、そのような原料を処理する任意の適切な方法によって処理されたものであってよい。典型的な原料には、魚の死骸、野菜、およびその他の植物のあらゆる部分、ならびに微生物および/または藻類の発酵に由来する材料が含まれる。典型的には、そのような材料は、かなりの量の天然に存在する他の脂肪酸をさらに含んでいる。そのような原料を処理する典型的な方法は、原料の抽出および分離などの原油取得工程と、沈殿および脱ガム、脱酸、漂白、および脱臭などの原油精製工程と、脱酸、エステル交換、濃縮、脱臭などの精製油からのω-3またはω-6PUFA濃縮物生成工程と、を含んでいてよい(食用魚油に関するEFSAの科学的見解などを参照)。原料の任意の処理は、ω-3またはω-6PUFA-エステルを、対応する遊離ω-3もしくはω-6PUFA、またはそれらの無機塩に、少なくとも部分的に変換する工程をさらに含んでいてよい。
【0024】
本発明の方法に使用される多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸を含む好ましい組成物は、主にω-3またはω-6PUFAのエステルとその他の天然に存在する脂肪酸とからなる組成物から、エステル結合の開裂と、それに続く、以前にエステルとして結合したアルコールの除去と、によって得ることができる。好ましくは、エステル開裂は、塩基性条件下で行われる。エステル開裂の方法は当技術分野でよく知られている。
【0025】
本発明は、
i.少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む出発組成物を準備する工程と、
ii.対イオン組成物を準備する工程と、
iii.出発組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、対イオン組成物の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液と、を混合する工程と、
iv.得られた混合物を流動床で噴霧造粒に供し、対イオンに由来するカチオンと、多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸に由来するアニオンと、からなる少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を生成する工程と、
を有し、
対イオン組成物は、工程(i)で準備される出発組成物中のカルボン酸官能基の量と、工程(ii)で準備される対イオンの量と、の比がモル基準で1:0.5~1:2(カルボン酸官能基:対イオン)の範囲となるように準備される、
多価不飽和脂肪酸塩の造粒方法に関する。
【0026】
本発明によれば、対イオン組成物は、工程(i)で準備される出発組成物中のカルボン酸官能基の量と、工程(ii)で準備される対イオンの量と、の比がモル基準で1:0.5~1:2(カルボン酸官能基:対イオン)の範囲内となるように準備される。言い換えると、これは、出発ω-3脂肪酸成分または出発ω-6脂肪酸成分と、対イオン組成物とが、定量的な塩の形成を容易にするために等モル量で準備されなければならないことを意味する。
【0027】
好ましい実施形態では、工程(ii)の対イオン組成物は、工程(i)で準備される出発組成物中のカルボン酸官能基の量n(ca)と、工程(ii)で準備される対イオン組成物中の遊離対イオンの総量n(ci)と、の比R=n(ca)/n(ci)が、0.9<R<1.1、0.95<R<1.05、0.98<R<1.02から選択される範囲となるように準備される。特に好ましい実施形態では、Rは、0.98<R<1.02の範囲である。工程(i)で準備される出発組成物中のカルボン酸官能基の量n(ca)は、当技術分野で周知の標準的な分析手順(例:中和滴定)によって測定することができる。
【0028】
本明細書の文脈では、少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む出発組成物は、かなりの量の少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む任意の組成物であってよく、遊離ω-3PUFAまたは遊離ω-6PUFA(「遊離」は遊離カルボン酸官能基の存在を示す)の各タイプ(すなわち、分子種)は、異なる多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を構成する。そのような組成物は、遊離形態のその他の天然に存在する脂肪酸をさらに含んでいてよい。さらに、そのような組成物は、室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体、液体または気体である成分をさらに含んでいてよい。対応する液体成分には、蒸発によって容易に除去することができ、したがって揮発性成分と見なすことができる成分、ならびに蒸発によって除去することが困難であり、したがって不揮発性成分と見なすことができる成分が含まれる。本文脈では、気体成分は揮発性成分と見なす。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、超臨界二酸化炭素である。
【0029】
したがって、典型的な出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも25重量%のPUFA含有量(すなわち、1つまたは複数の遊離多価不飽和ω-3脂肪酸または遊離多価不飽和ω-6脂肪酸の総含有量)と、最大75重量%の遊離形態の他の天然脂肪酸と、最大5重量%の室温および標準大気圧でそれ自体が固体または液体である他の成分と、を含む。しかし、各出発物質を精製することにより、より高いグレードの多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸を得ることができる。本発明の好ましい実施形態では、出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも50重量%のPUFA含有量(すなわち、1つまたは複数の遊離多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸の総含有量)と、最大50重量%の遊離形態の他の天然脂肪酸と、最大5重量%の室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体または液体である他の成分と、を含む。本発明の別の好ましい実施形態では、出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも75重量%のPUFA含有量(すなわち、1つまたは複数の遊離多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸の総含有量)と、最大25重量%の遊離形態の他の天然脂肪酸と、最大5重量%の室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体または液体である他の成分と、を含む。本発明の別の好ましい実施形態では、出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも90重量%のPUFA含有量(すなわち、1つまたは複数の遊離多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸の総含有量)と、最大10重量%の遊離形態の他の天然脂肪酸と、最大5重量%の室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体または液体である他の成分と、を含む。本発明の別の好ましい実施形態では、出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも90重量%のPUFA含有量(すなわち、1つまたは複数の遊離多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸の総含有量)と、最大10重量%の遊離形態の他の天然脂肪酸と、最大1重量%の室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体または液体である他の成分と、を含む。
【0030】
本発明の方法の工程(ii)で準備される対イオン組成物は、かなりの量の対イオンを含む組成物である。この組成物は、室温かつ標準大気圧でそれ自体が固体、液体、または気体である成分をさらに含んでいてよい。対応する液体成分には、蒸発によって容易に除去することができ、したがって揮発性成分と見なすことができる成分、ならびに蒸発によって除去することが困難であり、したがって不揮発性成分と見なすことができる成分が含まれる。本文脈では、気体成分は揮発性成分と見なす。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、超臨界二酸化炭素である。典型的なリジン組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも95重量%、97重量%、98重量%、または99重量%の遊離リジンを含む。好ましいリジン組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、少なくとも98重量%の遊離リジンを含む。
【0031】
ω-塩の溶液を使用した噴霧造粒は、複数の溶媒と、製品の特性を制御する複雑な一連のパラメータと、を含む特殊な処理である。実験中に、加工性とプロセスパラメータの間に意味のある相関関係が存在することがわかった。これは、幅広い製品に一般化することはできないが、ω-塩噴霧造粒処理に特に適用できる。数式は、次の要因を用いて導き出された:a)ω-塩噴霧造粒処理中の平均床温度と、b)使用された平均噴霧圧力の立方根と、c)操作規模/バッチサイズの立方根。プロセスファクター(PF)を測定することにより、ω-塩噴霧造粒処理中の加工性を推定するために導き出された数式は、以下のとおりである。
【0032】
【0033】
(式中、Sはkg単位のバッチサイズであり、Tは℃単位の平均床温度であり、Aはバール単位の平均噴霧圧力である。)
【0034】
したがって、本発明の有利な構成では、噴霧造粒は、50℃~90℃、好ましくは50℃~80℃の平均床温度(T)、0.5~10バールの平均噴霧圧力(A)で実施され、プロセスファクターは1.6より高く、好ましくは1.6~10.0であり、プロセスファクター(PF)は以下のように定義される。
【0035】
【0036】
(式中、Sはkg単位のバッチサイズであり、Tは℃単位の平均床温度であり、Aはバール単位の平均噴霧圧力である。)
連続噴霧造粒処理の場合、バッチサイズSは、処理中に処理室に存在する固形物の量である。
【0037】
好ましい構成では、造粒処理は、噴霧造粒、乾式造粒、スラッギング、遊星式混合造粒、高剪断造粒、溶融造粒、およびトップ噴霧造粒から選択され、かつバッチ式噴霧造粒および連続噴霧造粒、ならびにその変形態様から選択される。
【0038】
好ましい構成では、造粒処理は、噴霧造粒、トップ噴霧造粒から選択され、かつバッチ式噴霧造粒および連続噴霧造粒、ならびにその変形態様から選択される。
【0039】
造粒が、希釈剤、結合剤、流動化剤、潤滑剤、可塑剤から選択される1つまたは複数の賦形剤の存在下で実施される場合が好ましい。
【0040】
好ましい構成では、対イオンは、塩基性アミン、好ましくはリジン、アルギニン、オルニチン、コリンから選択される塩基性アミン、またはマグネシウム(Mg2+)およびカリウム(K+)から選択される対イオン、またはそれらの混合物である。
【0041】
リジン、アルギニン、およびオルニチンから選択される対イオンとしての塩基性アミン、またはマグネシウム(Mg2+)およびカリウム(K+)から選択される対イオンを使用する場合がさらに好ましい。
【0042】
L-リジン、またはL-リジンとL-アルギニンの混合物を対イオンとして使用し、当該混合物中のL-リジンとL-アルギニンの比が10:1~1:1である場合が特に好ましい。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、出発組成物は、揮発性成分を考慮しない場合、ほとんどが遊離のPUFAと、遊離形態の他の天然脂肪酸と、を含み、対イオン組成物は、ほとんどが遊離の塩基性アミン、好ましくはリジンまたはアルギニンを含んでおり、したがって、主にリジンまたはアルギニンと、PUFAと、その他の天然脂肪酸との塩からなる生成物組成物を生成する。
【0044】
本発明の方法の工程(iii)では、出発組成物と対イオン組成物とを組み合わせる。組み合わせは、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸に由来するアニオンと、カチオンと、の少なくとも1つの塩を含む生成物組成物の生成を可能にする任意の手段によって達成することができる。したがって、出発組成物と対イオン組成物を組み合わせる典型的な方法は、それぞれの水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、その後溶媒を除去する方法である。あるいは、組成物の残りの成分によっては、溶媒を加える必要はないかもしれないが、両方の組成物を直接組み合わせるだけで十分な場合がある。本明細書の文脈では、両方の組成物を組み合わせる好ましい方法は、それぞれの水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、続いて溶媒を除去する方法である。
【0045】
本明細書の文脈では、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、またはそれらの混合物から選択される塩基性アミンに由来するカチオンは、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、またはそれらの混合物のプロトン化によって得られるカチオンである。
【0046】
本明細書の文脈では、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸に由来するアニオンは、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸の脱プロトン化によって得られるアニオンである。
【0047】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、工程(i)の出発組成物と工程(ii)のリジン組成物とは、以下のように準備される。すなわち生成物組成物が、リジン由来のカチオンと、1つまたは複数の多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸および他の天然脂肪酸に由来するアニオンと、からなる1つまたは複数の塩を含み、生成物組成物の少なくともsp重量%のspが50、60、70、80、90、95、97、98、99、100から選択される。
【0048】
さらに好ましい構成では、ω-3またはω-6脂肪酸の供給源は、以下の少なくとも1つから選択される:魚油、イカ油、クリル油、リンシード・オイル、ボラジ種子油、藻油、麻実油、菜種油、フラックスシード・オイル、キャノーラ油、大豆油。
【0049】
本発明は、上記のような方法で得られる粒子をさらに含んでいる。
【0050】
本発明は、対イオンに由来するカチオンと、1つまたは複数の多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸に由来するアニオンと、からなる1つまたは複数の塩を含み、かつ造粒処理によって得られる粒子であり、粒径分布曲線が以下の特性の少なくとも2つを示す粒子をさらに含んでいる。
A.D90が350μm~1,500μmである。
B.多峰性曲線において、最高ピークのピーク強度が200μm~1,500μmの範囲であり、2番目に高いピークの(Y軸で測定した場合の)強度が最も高いピークの50%以下である。
C.多峰性曲線において、最も高いピークと2番目に高いピークとの(Y軸値を使用して測定した場合の)強度差が30%以下であり、2番目に高いピークの強度が400μm~1,500μmの範囲で最も高くなり、前記2つのピーク間のYスケールでのトラフ(trough)強度が、最も高いピークの25%を超えている。
D.(Y軸ピークの最も低い2点間の差をミクロン単位で測定した場合の)PSD曲線の最も高いピークの底が絶対値で少なくとも400μm幅である。
【0051】
本発明によれば、粒径分布(PSD)曲線は、粒子の混合物の粒径分布を示しており、粒径がX軸に示され、それぞれの累積パーセンテージがY軸に示されている。このような粒径分布曲線と合格基準A~Dは、以下の定義で
図1と
図2に示されている。
‐1番高いピーク:Y軸で測定したPSDグラフの最も高い曲線。
‐2番目に高いピーク:Y軸で測定したPSDグラフの1番高いピークと比較して2番目に高い曲線。
‐強度差:Y軸で測定したPSDグラフの1番高い曲線と2番目に高い曲線の間の曲線強度差
‐ベース幅:ピークの最も低い2点、またはピークの両サイドのトラフから垂線を引くことによって計算したX軸の値(ミクロン単位)。
‐トラフ強度:2つのピークの間に存在するY軸上の最低点
【0052】
分布幅を定義するために、X軸上の3つの値であるD10値、D50値、およびD90値を使用する。粒径分布の場合、中央値はD50と呼ばれ、この直径の上下半分で分布を分割するミクロン単位のサイズである。同様に、分布の90%はD90の下にあり、母集団の10%はD10の下にある。
【0053】
好ましい構成では、対イオンは、塩基性アミン、好ましくはリジン、アルギニン、オルニチン、コリンから選択される塩基性アミン、またはマグネシウム(Mg2+)およびカリウム(K+)から選択される対イオン、またはそれらの混合物である。
【0054】
好ましい実施形態では、粒子に係る対イオン組成物は、出発組成物中のカルボン酸官能基の量と、対イオンの量と、の比がモル基準で1:0.5~1:2(カルボン酸官能基:対イオン)の範囲となるように準備される。言い換えると、これは、出発ω-3またはω-6脂肪酸成分と、対イオン組成物と、が、定量的な塩の形成を容易にするために等モル量で準備されなければならないことを意味する。
【0055】
好ましい実施形態では、対イオン組成物は、出発組成物中のカルボン酸官能基の量n(ca)と、対イオン組成物中の遊離対イオンの総量n(ci)と、の比R=n(ca)/n(ci)が、0.9<R<1.1、0.95<R<1.05、0.98<R<1.02から選択される範囲となるように準備される。特に好ましい実施形態では、Rは、0.98<R<1.02の範囲である。出発組成物中のカルボン酸官能基の量n(ca)は、当技術分野で周知の標準的な分析手順(例:中和滴定)によって測定することができる。
【0056】
造粒処理が、噴霧造粒、乾式造粒、スラッギング、遊星式混合造粒、高剪断造粒、溶融造粒、およびトップ噴霧造粒から選択され、かつバッチ式噴霧造粒および連続噴霧造粒、ならびにその変形態様から選択され、好ましくは、噴霧造粒、トップ噴霧造粒から選択され、かつバッチ式噴霧造粒および連続噴霧造粒、ならびにその変形態様から選択される場合が好ましい。
【0057】
造粒が、希釈剤、結合剤、流動化剤、潤滑剤から選択される1つまたは複数の賦形剤の存在下で実施される場合が好ましい。
【0058】
本発明のさらなる主題は、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸を含む食品を製造するための本発明に係る粒子の使用である。
【0059】
本明細書の文脈では、食品には、焼き菓子、ビタミンサプリメント、ダイエットサプリメント、粉末飲料、生地、衣用生地、焼成食品(例:ケーキ、チーズケーキ、パイ、カップケーキ、クッキー、バー、パン、ロール、ビスケット、マフィン、ペストリー、スコーン、クルトン);液体食品(例:飲料、エナジードリンク、乳児用調製粉乳、液体ミール、フルーツジュース、マルチビタミンシロップ、食事の代替品、薬用食品、およびシロップ);半固形食品(例:離乳食、ヨーグルト、チーズ、シリアル、パンケーキミックス);フードバー(例:エネルギーバー);加工肉;アイスクリーム;冷菓;フローズンヨーグルト;ワッフルミックス;サラダドレッシング;代用卵ミックス;別のクッキー、クラッカー、スイーツ、スナック、パイ、グラノーラ/スナックバー、およびトースターペストリー;塩味スナック(例:ポテトチップス、コーンチップス、トルティーヤチップス、押し出しスナック、ポップコーン、プレッツェル、ポテトクリスプ、およびナッツ);特製スナック(例:ディップ、ドライフルーツスナック、ミートスナック、ポークの皮、健康食品バー、およびライス/コーンケーキ);菓子スナック(例:キャンディー);インスタント食品(例:インスタントラーメン、インスタントスープキューブ、または顆粒)が含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明のさらなる主題は、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸を含む栄養製品を製造するための本発明に係る粒子の使用である。
【0061】
本明細書の文脈では、栄養製品には、(例えばビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、またはアミノ酸を補うための)任意のタイプの栄養補助食品、栄養素補助食品、または健康補助食品)が含まれる。
【0062】
本発明のさらなる主題は、多価不飽和ω-3またはω-6脂肪酸を含む医薬品を製造するための本発明に係る粒子の使用である。
【0063】
本明細書の文脈では、医薬品には、薬学的に許容される賦形剤、ならびにさらなる薬学的に活性な薬剤(例:スタチンなどのコレステロール低下薬、抗高血圧薬、抗糖尿病薬、抗認知症薬、抗うつ薬、抗肥満剤、食欲抑制剤、および記憶および/または認知機能を強化する薬剤)がさらに含まれてよい。
【0064】
本発明に係る粒子から調製される固体経口剤形も本発明の主題であり、当該固体経口剤形は、錠剤、顆粒、またはカプセルから選択される。
【0065】
好ましい構成では、ω-3脂肪酸成分は、EPAまたはDHAから選択される。さらに好ましい構成では、ω-3またはω-6脂肪酸塩は、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、またはマグネシウム(Mg2+)、カリウム(K+)、およびそれらの混合物から選択される有機対イオンを有する。
【0066】
好ましい実施形態では、多価不飽和脂肪酸の量は、多価不飽和脂肪酸塩の総重量に対して65重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40~55重量%である。
【0067】
別の構成では、多価不飽和脂肪酸の量は80%を超え、好ましくは90%を超える。具体的には、マグネシウム塩の場合、多価不飽和脂肪酸の含有量は、90%を超え、より具体的には約93%であってよい。別の特定の実施形態では、カリウム塩の場合、多価不飽和脂肪酸の量は、85%を超え、より具体的には約89%であってよい。
【0068】
好ましい実施形態では、打錠組成物中の多価不飽和脂肪酸塩の量は、50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは0.5~30重量%である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】
図1は、粒径分布曲線と合格基準A~Dを示す。
【
図2】
図2は、粒径分布曲線と合格基準A~Dを示す。
【
図3】
図3は、走査型電子顕微鏡による噴霧造粒PUFAの粒子表面特性の結果を示す。
【
図4】
図4は、走査型電子顕微鏡によるRMG造粒PUFA塩の粒子表面特性の結果を示す。
【実施例】
【0070】
比較例1~3:噴霧乾燥処理
噴霧乾燥(C1~C3)の処理詳細:PUFAリジン塩のハイドロエタノール溶液を調製し、以下のプロセスパラメータを使用して噴霧乾燥した(表1)。
表1:噴霧乾燥プロセスパラメータ
【0071】
【0072】
【0073】
流動性の悪さが原因で、製品を打錠機で処理できなかった。顆粒の特性を表2にまとめる。上記で定義した基準A~Dは満たされていなかった。
【0074】
比較例4~6:微粉の再循環を伴う噴霧造粒
噴霧造粒(C4~C5)の処理詳細:PUFAリジン塩のハイドロエタノール溶液を調製し、以下のプロセスパラメータを使用して噴霧造粒した(表3)。 比較例C-6の場合、PUFAリジン塩を急速ミキサ造粒機(CPM RMG-10、Chamunda Pharma Machinary Pvt.Ltd.社)で造粒した。
表3:比較例C-4~C-6のプロセスパラメータ
【0075】
【0076】
【0077】
流動性の悪さ、または錠剤が工具に付着する問題、またはその両方に関連する問題のために、製品を打錠機で処理できなかった。顆粒の特性を表4にまとめる。上記で定義した基準A~Dは、C4とC5では満たされていなかった。
【0078】
実施例1~5:微粉の再循環を伴う噴霧造粒
噴霧造粒の処理詳細:PUFAリジン塩のハイドロエタノール溶液を調製し、以下のプロセスパラメータを使用して噴霧造粒した(表5を参照)。
表5:噴霧造粒プロセスパラメータ
【0079】
【0080】
【0081】
顆粒の特性評価を表6に示す。上記で定義した合格基準A~Dを分析した。本発明によれば、粒径分布曲線は、以下の特性のうちの少なくとも2つを示さなければならない。
A.D90が400μm~1,500μmであること、
B.多峰性曲線において、最高ピークのピーク強度が200μm~1,500μmの範囲であり、2番目に高いピークの(Y軸で測定した場合の)強度が最も高いピークの50%以下であること、
C.多峰性曲線において、最も高いピークと2番目に高いピークとの(Y軸値を使用して測定した場合の)強度差が30%以下であり、2番目に高いピークの強度が400μm~1,500μmの範囲で最も高くなり、前記2つのピーク間のYスケールでのトラフ強度が、最も高いピークの25%を超えていること、
D.(Y軸ピークの最も低い2点間の差をミクロン単位で測定した場合の)PSD曲線の最も高いピークの底が絶対値で少なくとも400μm幅であること。
すべての実施例で、列挙した合格基準A~Dの少なくとも2つを満たし、打錠機での作業が可能な粒子が生成された。
【0082】
実施例6:トップ噴霧造粒を使用した造粒
下記のプロセスパラメータを使用して、トップ噴霧造粒機を用いて水でPUFAリジン塩を造粒した(表7)。
遊星式ミキサを使用した実験では、500gのω-3脂肪酸のリジン塩を、22~25gの精製水で2分間造粒した。湿った顆粒をLODが2.5%未満になるまで乾燥し、分粒して所望の粒径を得た。
表7:噴霧造粒プロセスパラメータ
【0083】
【0084】
【0085】
顆粒の特性評価を表8に示す。上記で定義した合格基準A~Dを分析した。
すべての実施例で、列挙した合格基準A~Dの少なくとも2つを満たし、打錠機での作業が可能な粒子が生成された。
【0086】
実施例7~9:トップ造粒技術による噴霧造粒
下記のプロセスパラメータを使用して、トップ噴霧造粒機を用いて水でPUFAリジン塩を造粒した(表9)。
表9:トップ噴霧造粒プロセスパラメータ
【0087】
【0088】
【0089】
顆粒の特性評価を表10に示す。上記で定義した合格基準A~Dを分析した。
すべての実施例で、列挙した合格基準A~Dの少なくとも2つを満たし、打錠機での作業が可能な粒子が生成された。
【0090】
実験例10:打錠試験
(比較例C-4に関して上記で説明したような)微粉の再循環を伴う噴霧造粒と、実施例2に従う噴霧造粒と、を使用してPUFA塩を調製し、打錠試験用の打錠賦形剤とともに、表11に示すように配合した。
表11:打錠試験用組成物
【0091】
【0092】
【0093】
打錠試験の結果を表12にまとめる。打錠機での作業性は、本発明に従って製造された顆粒だけが有していた。
【0094】
実施例11~13:様々なPUFA塩を使用した噴霧造粒
実施例11および12について、50%ハイドロエタノール中のPUFAカリウム塩/PUFAオルニチン塩溶液(50%w/w)を、下記のプロセスパラメータを使用して噴霧造粒した。実施例13について、PUFAリジン塩溶液(50%w/w)をハイドロエタノール溶液中で調製し、篩粉砕サイクルを備えた連続流動床造粒機で下記のプロセスパラメータを使用して噴霧造粒した(表13を参照)。
表13:噴霧造粒プロセスパラメータ
【0095】
【0096】
【0097】
打錠試験:
実施例11~13について上述したようにしたPUFA塩を調製し、以下に示されるように配合した。打錠組成物を表15にまとめ、打錠試験の結果を表16にまとめる。
表15:打錠試験用組成物
【0098】
【0099】
【0100】
走査型電子顕微鏡(SEM)研究:
実施例13記載のようにして調製したPUFA塩(連続造粒により調製したPUFAリジン塩)と、比較例C6(急速ミキサ造粒により調製したPUFAリジン塩)を、粒子表面特性(内部構造)を理解するためにSEMを使用して評価した。結果を
図3と
図4に示す。
【0101】
図3に示されるように、実施例I-13に従って調製した噴霧造粒PUFA塩の内部構造は、非常に多孔性の性質を有している。これとは対照的に、比較例C-6に従って調製したRMG造粒PUFA塩の場合は、そのような多孔質構造は見られなかった(
図4)。代わりにより剛性で、打錠操作にはあまり適していなかった。
【0102】
様々な方法を使用して調製したPUFA塩顆粒の高湿度への曝露:
実施例13からのPUFA塩(連続造粒によって調製したPUFAリジン塩)と、比較例C6(急速ミキサ造粒によって調製したPUFAリジン塩)を、40℃/75%相対湿度(RH)条件に1時間曝露し、打錠作業で取り扱われる際のこれらの材料の感度を理解するために、顕微鏡下で観察した。
【0103】
サンプルを40℃/75%相対湿度(RH)条件に1時間曝露した後、連続噴霧造粒PUFAリジン塩の表面は、高温多湿にさらされても感知できるほどの変化を示さなかった。これとは対照的に、急速ミキサ造粒PUFAリジン塩の表面は、曝露すると粘着質かつ油質になり、打錠のためにさらに処理するのは困難であった。