(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】単結晶窒化アルミニウム基板の表面の構造的損傷を低減させる方法およびその方法によって製造される単結晶窒化アルミニウム基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20241010BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20241010BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B33/02
H01L21/324 K
H01L21/324 C
(21)【出願番号】P 2022520166
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2020077324
(87)【国際公開番号】W WO2021064000
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】102019215122.1
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503306168
【氏名又は名称】フラウンホーファー・ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エペルバウム,ボーリス
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】マイスナー,エルケ
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-535759(JP,A)
【文献】特開2013-075789(JP,A)
【文献】特開2006-335608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 33/02
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶窒化アルミニウム基板の表面処理方法であって、
基板をオートクレーブ内のるつぼに入れて表面の損傷領域の窒化アルミニウムの昇華と除去をもたらす熱処理を行い、
前記熱処理を、温度
が2000℃
から2350℃、かつ、酸素分圧が最大で10
-4mbarの雰囲気下で行
い、
前記熱処理を、1mbarから10
-4
mbarの真空下、または、1mbarから1.5×10
3
mbarの不活性ガス雰囲気下で行い、
前記熱処理中、基板表面に垂直な温度勾配が少なくとも5℃/cmであり、
窒化アルミニウムの窒素極性面が、結晶軸<0001>に対して+/-5°の配向で前記基板から特異的に除去される方法。
【請求項2】
前記熱処理
を2150℃から2250℃で行う、
請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウムまたはそれらの組合せから好ましく選択される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理中、横方向に均質な材料の除去を可能とするために
基板表面に平行な温度勾配が最大で1℃/cmである、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理中、横方向に不均一な材料を除去し、結晶軸<0001>に対して基板法線を傾けさせるために
基板表面に平行な温度勾配が少なくとも1℃/cmである、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記雰囲気下に炭素を含有させ
た、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記基板の前処
理によって生じた損傷を除去する、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記
基板の表面より下の損傷を除去する、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
リム領域および/またはリム領域からエッジの損傷を除去する、
請求項1から
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載の方法によって製造された単結晶窒化アルミニウム基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶窒化アルミニウム基板の表面の構造的損傷を低減させる方法に関し、基板をオートクレーブ中のるつぼ内で熱処理することによって、基板表面の損傷領域の窒化アルミニウムを昇華させて除去するものである。この方法は、単結晶窒化アルミニウム(AlN)の表面処理に用いられ、特に、この方法は機械的処理によって引き起こされた単結晶材料の表面近傍の構造的損傷を除去する、または、少なくとも大幅に除去することを目的としている。本発明は、このように処理された窒化アルミニウム基板に関する。
【背景技術】
【0002】
成長した単結晶から基板ウエハ、例えば、ウエハまたは種プレートの製造には、いくつかの処理工程、通常は機械的な処理工程を含む。これらの処理には、円形または平面研削、ソーイング、エッジラウンド加工、ラッピングおよび研磨が含まれる。これらの機械的工程が研磨工程によって終了する場合、単結晶材料の表面近辺の損傷がしばしば見られる。
【0003】
表面に近い部分でダメージを受ける可能性のある領域が区別される。これらには、表面に直接の0.1~1μmの厚さの研磨層、ついで表面から1~100μmにある下層、表面から1~200μmにある変形層、そして、なんの影響も見られない基板がある。
【0004】
このような表面の損傷は、可視表面の下の領域(表面下損傷)にも影響を及ぼすことがあり、現在、これらを除去するための表面処理が知られている。これらには、非特許文献1、非特許文献2および/またはいわゆる「化学的機械研磨ステップ」(CMP)(特許文献1)の化学エッチングがある。しかし、例えば、エッジラウンド加工後のウエハのエッジの損傷には、通常のCMP工程では対処できない。
【0005】
半導体の窒化アルミニウム(AlN)や炭化ケイ素(SiC)のようにPVT法によって製造される単結晶では、種面の表面処理の品質が、成長中にその上に堆積する材料の転位密度に直接影響を与えることがわかっている。表面近傍の損傷を除去または低減することにより、種結晶と新しく成長した結晶材料との相境界における転位密度を直接改善させることができ、そして、新しい単結晶の体積における転位密度も低減させることができる。
【0006】
これらのウエハを成長工程(例えば、結晶成長だけでなく、層堆積用のMOVPEなどのエピタキシー工程でも)の種プレートとして使用する場合、特に、ウエハのリムやウエハのエッジに存在する表面近くの損傷は、意図的に受け入れられ、成長工程中、このエッジ領域に結晶品質の低い新しい材料が成膜されることがしばしばある。そのため、エッジ領域を他の材料を用いて成長流から幾何学的にシールドし、必要に応じてこの領域の熱境界条件を適切に調整し、材料の堆積を防止または少なく減らすことが試みられている。
【0007】
どちらの方法も、成長工程において重大な欠点がある。結晶品質の低い材料の堆積を許す場合、結晶品質の良好な材料で達成される結晶直径がこのエッジ領域で制限される。結晶品質の低い材料が寄生的に結晶品質の良好な領域にまで成長することによって、さらに結晶品質の良好な領域の直径がさらに減少するおそれがある。表面の損傷があるリム領域に幾何学的なカバーを行う場合、結晶品質の良好な領域の直径が減少するという同様な欠陥がある。特に、カバー材料の選択と、成長中の適切な熱境界条件との適切な組み合わせによって、カバー自体に多結晶が析出しないように対策をとる必要がある。成長材料と必要な成長条件によっては、達成できない場合も多く、また達成できたとしても非常に大きな労力を必要とする場合も少なくない。
【0008】
さらに、例えば、水酸化カリウム水溶液や溶融液などを用いた化学的エッチングによって表面近辺の損傷を取り除こうとすると、他の特定の課題が関連してくる可能性がある。例えば、使用された化学物質による表面汚染は除去が困難である可能性があり、成長工程での使用に好ましくない表面形状が形成される可能性がある。これは、転位またはその他の格子欠陥に対する選択的なエッチング攻撃による。
【0009】
特に、SiC半導体のPVT成長における核生成の最適化のために、損傷を除去する工程として温度勾配を反転(T(核)>T(ソース))させることにより、成長工程の初期の研磨された核の表面損傷や表面汚染を除去し、同時に低温での加熱プロセスでの材料析出を避けることが提案されている(非特許文献3)。しかし、この方法を炭化ケイ素(SiC)の成長に用いることは難しく、SiCのソーイング工程後の機械的研磨の代替とはならない。なぜなら、炭化ケイ素(SiC)の非化学量論的な昇華と、重要な材料が著しく除去されることによって表面が簡単に黒鉛化され、その結果、炭化ケイ素(SiC)の表面が核生成面として使用できなくなるためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】「Defects in SiC substrates and epitaxial layers affecting semiconductor device performance」 Muller S., Sumakeris J., Brady M., Glass R., Hobgood H., Jenny J., Carter C. (2004)
【文献】The European Physical Journal Applied Physics, 27(1-3), 29-35. doi:10.1051/epjap:2004085
【文献】M.M. Anikin et al., Proc. ICSCRM-95, Kyoto, Japan, 1996, page 33 and Temperature gradient controlled Sic crystal growth, M. Anikin, R. Madar, Materials Science and Engineering B46 (1997) 278-286
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【0012】
本発明によって解決される課題は、窒化アルミニウム基板の表面に近い領域にできるだけ損傷がない、または、できるだけ損傷が少ない表面を実現することを目的とし、それによって全ての表面領域においてできるだけ完全な処理を達成するための単結晶窒化アルミニウム基板の表面処理方法を提供することにある。
【0013】
この課題は、請求項1の特徴を有する単結晶窒化アルミニウム基板の表面処理方法およびそれによって製造された請求項12の特徴を有する単結晶窒化アルミニウム基板によって解決される。さらに従属請求項は、有利な形態を示す。
【0014】
この発明によれば、単結晶窒化アルミニウム基板の表面処理方法であって、基板をオートクレーブ中のるつぼ内で熱処理し、表面の損傷領域の窒化アルミニウムを昇華させて除去する方法が提案されている。熱処理は、温度が少なくとも2000℃、かつ、酸素分圧が最大で10-4mbarの雰囲気下で行われる。
【0015】
炭化ケイ素とは異なり窒化アルミニウムの昇華は本質的に化学量論的に起こるため、炭化ケイ素のような問題が生じることなく本発明の窒化アルミニウム半導体の熱処理を行うことができる。これはつまり、より長い処理時間またはより多くの材料を除去するとしても、非化学量論的な転位反応(不定比転位反応)によって望ましくない表面層の形成が起こらない。
【0016】
熱処理の温度は、損傷した材料が基板表面からの昇華によって除去できるように、基板界面で十分に高いアルミニウム分圧が生じるように選択される。
【0017】
オートクレーブ内の絶対温度、基材表面の温度勾配およびオートクレーブ内の雰囲気圧力により、十分に高く、かつ、同時に制御された除去率を調整することができる。
【0018】
窒化アルミニウムの表面の望ましくない酸化を防止するべく、オートクレーブ内の酸素濃度はできる限り小さくする。この点から最大酸素分圧として10-4mbarが選択される。
【0019】
熱処理は、2000℃から2350℃、好ましくは2150℃から2250℃で行うのが望ましい。
【0020】
さらなる好ましい形態として、熱処理を1mbarから10-4mbarの真空下で行う、または、1mbarから1.5×103mbarの不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムまたはそれらの組合せが好ましく選択される。
【0021】
さらに、熱処理において、基材表面に垂直な温度勾配が、少なくとも5℃/cmであるのが好ましい。
【0022】
さらなる好ましい形態として、熱処理中、基材表面に平行な温度勾配が最大で1℃/cmである。このような温度勾配を維持する場合、横方向に均質な材料が除去できる。
【0023】
さらなる好ましい形態として、熱処理中、基材表面に平行な温度勾配が少なくとも1℃/cmの範囲である。このようにして横方向に不均一な材料を除去することにより、結晶軸<0001>に対して基板法線を傾けさせることができる。
【0024】
アルミニウムの窒素極性面は、結晶軸<0001>に対して+/-5°の向きで基板から特異的に除去するのが好ましい。
【0025】
さらに、熱処理中のオートクレーブ内の雰囲気下には、炭素含有種の形として炭素が存在することが好ましい。これにより、冷却時の窒化アルミニウムの表面にアルミニウムの滴が形成するのを防止することができる。これは、好ましくは窒化アルミニウム基板が設置されるるつぼの内面の部分に炭化タンタルを含むかあるいは炭化タンタルから構成されることにより実現され、熱処理中に炭素分圧を生じさせることができる。
【0026】
本発明の方法は、基材の前処理、特に、ソーイング工程、グラインデイング工程、研磨工程またはそれらの組合せの工程によって生じる損傷を除去し、したがって実質的に損傷のない表面を提供するのに適している。
【0027】
さらに有利な点として、本発明の方法を用いることにより、基材の表面下の損傷も除去することができる。またリム領域および/または基材のエッジの損傷も除去することができる。
【0028】
本発明によれば、表面または表面近傍の領域に実質的に損傷が無い単結晶窒化アルミニウム基材を提供することができる。
【0029】
以下の図および実施例は、本発明の特徴をより詳細に説明するためのものであり、本発明はここに示した具体的な実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1はラウンドエッジ加工後のウエハの状態を示す概略図。
【
図2】
図2は成長工程にあるエッジがシールドされたウエハを示す。
【
図3】
図3は本発明に用いられるるつぼの構造を示す。
【
図4】機械的研磨およびCMP研磨が施されたAlNウエハのX線トポグラフィー画像であって、
図4aは熱処理を行わなかったものを示し、
図4bは熱処理を行ったものを示す。
【
図5】本発明によって処理されたAlNウエハのAFM画像を示す。
【0031】
図1は、機械的なラウンドエッジ加工を行ったウエハ1を示す。この機械的処理において、ウエハのラウンドエッジには構造的な損傷2が生じている。従来技術によれば、このようなウエハは、通常、エッジ領域をカバー3でシールドして成長工程に供される。これを
図2に示す。
【0032】
図3は、本発明の方法に用いられるるつぼ11を示す。このるつぼの中には、ホルダー12の上に亜硝酸アルミニウムウエハが設置されている。この場合、適切な温度プロファイルによって、亜硝酸アルミニウムウエハ13の表面において部分的な昇華が生じる。
【0033】
図4aは、従来技術に基づいて機械的に処理されたウエハのX線トポグラフィー画像であり、
図4bは本発明の方法に基づいて処理されたウエハのX線トポグラフィー画像である。この図から、
図4aのウエハはウエハのリムに暗いコントラストがある。この暗い部分は、機械的な処理によってリム領域に生じた損傷である。一方、
図4bは、本発明の方法によって熱処理されたウエハを示す。ウエハのリムには構造的な損傷がなく、暗いコントラストが見られない。
【0034】
図5は、本発明の窒化アルミニウムウエハのAFM画像を示す。ここでは、表面がステップ構造になっている。このウエハ表面であれば、亜硝酸アルミニウム塩結晶を形成する新しいPVT成長工程の種プレートとして直接使用することができる。
【実施例】
【0035】
ウエハは、タングスタン製のるつぼの底にある炭化タンタルセラミック板の上に、処理する面を上向きに配置される(一般的な高さ:3cm)。ここでるつぼの直径は、ウエハの直径サイズによって決定され、通常、ウエハの直径より1cmより大きい。昇華によるウエハ表面からのAlN材料の除去の制御を向上させるため、ウエハ表面の熱処理中に気相中のAlN種の分圧を追加で発生させるために、酸素の不純物が可能な限り少ない(200ppm未満)AlNポリマテリアル(処理されるウエハの質量オーダーの質量)を上述の炭化タンタルセラミックの端部に追加で添加する。この工程の制御のために、通常、るつぼの蓋の温度(制御温度)はパイロメトリックに決定され、様々なプロセスステップのために特別に設定される。上述のるつぼの構成では、制御温度は、熱処理されるウエハ表面の温度より50~70℃低い温度であることに留意するべきである。
【0036】
この構成において、るつぼはオートクレーブ内に入れられ、次の工程の条件に従わせる(指定温度は、制御温度に相当)。
1.熱処理工程の前、および約500~700℃までの初期熱処理工程において、>5N窒素(720mbar)を数回送り、1E―2mbarの真空まで繰り返し排気してオートクレーブ内の残存酸素をできる限り減らす。最後に、オートクレーブ内を>5N窒素(720mbar)で充填する。
2.加熱(RF加熱または抵抗加熱)により、制御温度を12~15℃/分の速度で2100℃まで上昇させる。
3.加熱により、制御温度を2.5~3.0℃/分の速度で2100℃から2200℃まで上昇させる。
4.2200℃の温度で5-25分間維持し、典型的に20~50μmの表面層を除去する。このとき、るつぼの蓋の方向であるウエハ表面の軸方向の温度勾配が約20℃/cmとなるようにする。この勾配は、るつぼの形状およびオートクレーブ内のるつぼを囲む断熱材の形状と材料の適切な選択によって設定される。
5.加熱を室温まで弱めて、制御温度を下げる。冷却速度は典型的に4~5℃/分である。