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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20241010BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20241010BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20241010BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20241010BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D69/08
B01D71/34
B01D71/30
B01D71/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022563829
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042475
(87)【国際公開番号】W WO2022107856
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2020192591
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】藤村 宏和
(72)【発明者】
【氏名】梅本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松山 亜由
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/104871(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/174279(WO,A1)
【文献】特開2020-142191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であり、
被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と、該被濾過液側表面の開孔率との積が860%・%以上であり、
熱可塑性樹脂からなる中空糸膜の多孔質膜であり、
前記熱可塑性樹脂が、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むフッ素樹脂を主成分として含む
ことを特徴とする、多孔質膜。
【請求項2】
前記被濾過液側表面の開孔率が25%以上である、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が35%以上である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記被濾過液側表面の開孔率が35%以上である、請求項1~4いずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が0.7以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率が20%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項9】
前記被濾過液側表面の開孔率が35%以上であり、該被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が40%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項10】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける断面孔径が300nm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項11】
前記膜厚が100μm以上500μm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項12】
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と、該被濾過液側表面の開孔率との積が1140%・%以上である請求項1~11のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理は、懸濁水である河川水、湖沼水、地下水等の天然水源から飲料水又は工業用水を得るプロセスである。下水処理は、下水等の生活排水を処理して再生雑用水を得たり、放流可能な清澄水を得たりするプロセスである。これらの処理には、固液分離操作(除濁操作)を行うことで懸濁物を除去することが必須である。上水処理では懸濁水である天然水源水由来の濁質物(粘土、コロイド、細菌等)が除去される。下水処理では下水中の懸濁物及び活性汚泥等により生物処理(2次処理)した処理水中の懸濁物(汚泥等)が除去される。
【0003】
従来、これらの除濁操作は、主に、沈殿法、砂濾過法又は凝集沈殿砂濾過法により行われてきたが、近年は膜濾過法が普及しつつある。膜濾過法の利点として例えば以下の事項が挙げられる。
(1)得られる水質の除濁レベルが高く且つ安定している(得られる水の安全性が高い)。
(2)濾過装置の設置スペースが小さくてすむ。
(3)自動運転が容易である。
【0004】
例えば上水処理では、凝集沈殿砂濾過法の代替として、又は例えば凝集沈殿砂濾過の後段に設置して凝集沈殿砂濾過された処理水の水質を更に向上するための手段として膜濾過法が用いられている。下水処理に関しても、下水2次処理水からの汚泥の分離等に膜濾過法使用の検討されている。
【0005】
これら膜濾過による除濁操作には、主として中空糸状の限外濾過膜又は精密濾過膜(孔径数nmから数百nmの範囲)が用いられる。中空糸状濾過膜を用いた濾過方式としては、膜の内表面側から外表面側に向けて濾過する内圧濾過方式と、外表面側から内表面側に向けて濾過する外圧濾過方式の2方式がある。これらのうち、懸濁原水と接触する側の膜表面積が大きく取れるために単位膜表面積当たりの濁質負荷量を小さくできる外圧濾過方式が有利である。特許文献1~3は中空糸及びその製造方法を開示する。
【0006】
膜濾過法による除濁は、上述のように従来の沈殿法及び砂濾過法にはない利点が多くあるために、従来法の代替技術又は補完技術として上水処理や下水処理への普及が進みつつある。しかしながら、長期にわたり安定した膜濾過運転を行う技術が確立されておらず、これが膜濾過法の広範囲な普及を妨げている(非特許文献1参照)。膜濾過運転の安定を妨げる原因は、主に膜の透水性能の劣化である。透水性能の劣化の第一の原因は、濁質物質等による膜の目詰まり(ファウリング)である(非特許文献1参照)。また、膜表面が濁質物によりこすられて擦過を受け、透水性能が低下する場合もある。
【0007】
ところで、多孔質膜の製法として、熱誘起相分離法が知られている。この製法では熱可塑性樹脂と有機液体を用いる。有機液体として、該熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤を用いる。熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂と有機液体を高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法である。この方法は以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすい。
【0008】
上記の利点から、多孔性膜の製造方法として多用されている(例えば非特許文献2~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭60-139815号公報
【文献】特開平3-215535号公報
【文献】特開平4-065505号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Y.Watanabe,R.Bian,Membrane,24(6),1999年、310-318頁
【文献】プラスチック・機能性高分子材料事典編集委員会、「プラスチック・機能性高分子材料事典」、産業調査会、2004年2月、672-679頁
【文献】松山秀人、「熱誘起相分離法(TIPS法)による高分子系多孔膜の作製」、ケミカル・エンジニアリング誌、化学工業社、1998年6月号、45-56頁
【文献】滝澤章、「膜」、アイピーシー社、平成4年1月、404-406頁
【文献】D.R.Lloyd,et.al., 「Jounal of Membrane Science」、64、1991年、1-11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い濾過性能を有し、また膜表面の擦過による透水性能劣化も少ない多孔質膜を提供することを目的とする。本発明の多孔質膜は、例えば、膜濾過法により天然水、生活排水、及びこれらの処理水である懸濁水を除濁する方法において好適に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該表面の開孔率に対する割合を1.05以上にすることで高い濾過性能を有するとともに、高い耐擦過性を有することを見出した。また、該位置におけるポリマー骨格サイズを大きくすることでより優れた効果が得られることを見出した。
【0013】
従来、開孔率の高い膜を濾過に用いることにより、目詰まりによる透水性能劣化を抑制することは知られている(国際公開2001/053213号)。また膜全体の空孔率を高くすれば、同様に透水性能を向上させることができる可能性があるが、膜を構成するポリマーの濃度を薄めることになり強度との両立が困難であった。
膜表面擦過による透水性能低下は、濾過運転時ではなく、外圧式濾過により膜外表面に堆積した濁質を空気洗浄等により膜外表面からはがす時に主として起こるとされている。しかし、この現象そのものがあまり知られていなかったこともあり、膜面擦過による透水性能劣化への対応技術の開発はあまりなされていない。特開平11-138164号公報は、エアバブリング洗浄による膜性能変化を抑制する手段として、破断強度の高い膜を用いることを開示するに過ぎない。
【0014】
また国際公開2015/104871号には、開孔率を調整することにより擦過を抑制する手段が記載されているが、開孔率だけでは擦過を抑制する手段として十分ではない。
【0015】
本発明者らは、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該表面の開孔率に対する割合を1.05以上とすることで、強度を低下させることなく高い濾過性能を有することができ、さらに高い耐擦過性を有する膜を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明は以下の発明を提供する。
[1]
被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であり、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と、該被濾過液側表面の開孔率との積が860%・%以上であり、熱可塑性樹脂からなる中空糸膜の多孔質膜であり、前記熱可塑性樹脂が、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むフッ素樹脂を主成分として含むことを特徴とする、多孔質膜。
[2]
前記被濾過液側表面の開孔率が25%以上である、[1]に記載の多孔質膜。
[3]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が35%以上である、[1]又は[2]に記載の多孔質膜。
[4]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質膜。
[5]
前記被濾過液側表面の開孔率が35%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質膜。
[6]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が0.7以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜。
[7]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率が20%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質膜。
[8]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の多孔質膜。
[9]
前記被濾過液側表面の開孔率が35%以上であり、該被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が40%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の多孔質膜。
[10]
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける断面孔径が300nm以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の多孔質膜。
[11]
前記膜厚が100μm以上500μm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の多孔質膜
[12
前記被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と、該被濾過液側表面の開孔率との積が1140%・%以上である[1]~[11]のいずれかに記載の多孔質膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い濾過性能と耐擦過性を有する多孔質膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】三次元網目構造の模式図である。
図2】多孔性中空糸膜を製造する装置の構成を示す図である。
図3A】層の境界の測定方法を説明するための図であって、境界の測定のために用いられる孔の長さの測定位置を定めるための線の決定方法を説明するための図である。
図3B】層の境界の測定方法を説明するための図であって、図3Aにおいて決定した線を用いた孔の長さの測定方法を説明するための図である。
図4】膜最表面での空孔のみの二値像を得る手順である。
図5】実施例1で得られた被濾過液側近傍の多孔性中空糸膜断面の電子顕微鏡写真である。
図6】実施例8で得られた被濾過液側近傍の多孔性中空糸膜断面の電子顕微鏡写真である。
図7】透水性能試験に用いた濾過モジュールの図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上である多孔質膜、又は被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と、該被濾過液側表面の開孔率との積が860%・%以上である多孔質膜である。いずれの多孔質膜でも、高い濾過性能と耐擦過性を有する。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であり、上記空孔率と上記開孔率との積が860%・%以上であることが好ましい。
以下、本実施形態の多孔質膜について説明する。
【0020】
本実施形態の多孔質膜は、膜を構成する高分子成分(例えば、熱可塑性樹脂)として、フッ素樹脂、例えば、フッ化ビニリデン系、クロロトリフロオロエチレン系を主成分として含むことが好ましい。ここで、「主成分として含む」とは、高分子成分の固形分換算で50質量%以上含むことを意味する。上記高分子成分は、一種のみであってもよいし、複数種の組み合わせであってもよい。
【0021】
なお、フッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、10万以上100万以下であることが好ましく、15万以上150万以下であることがより好ましい。また、単一の分子量のフッ化ビニリデン系樹脂に限らず、複数の分子量が違うフッ化ビニリデン系樹脂を混合してもよい。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)については、分子量既知の標準樹脂を基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0022】
一方、多孔質膜は、他の高分子成分を含むものであってもよい。他の高分子成分としては、特に限定されるものではないが、フッ化ビニリデン系樹脂と相溶するものが好ましく、例えば、フッ化ビニリデン系樹脂と同様に高い薬品耐性を示すフッ素系の樹脂等を好適に用いることができる。
【0023】
上記の多孔質膜の形態として、例えば、中空糸膜の膜構造を有する形態とすることができる。ここで、中空糸膜とは、中空環状の形態をもつ膜を意味する。多孔質膜が中空糸膜の膜構造を有することにより、平面状の膜に比べて、モジュール単位体積当たりの膜面積を大きくすることが可能である。
但し、本実施形態の多孔質膜は、中空糸膜の膜構造を有する多孔質膜(中空糸状の多孔質膜)に限定されるものではなく、平膜、管状膜などの他の膜構造を有するものであってもよい。
本実施形態の多孔質膜は、中空糸膜であり熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、中空糸膜であり熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい。上記熱可塑性樹脂は主成分としてフッ素樹脂を含むことが好ましく、フッ素樹脂のみからなっていてもよい。上記フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましく、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つのみからなっていてもよい。
【0024】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚み(最表面の位置から最表面から膜厚方向に関して膜厚100%に対して0.12%の位置までの部分)における空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であることが好ましい。
上記割合が1.05以上であると表面の孔と膜内部の表面近傍の空孔の連通性が良く、最も濾過に寄与する表面近傍の孔の閉塞が生じにくい。また、表面近傍の孔の連通性が良いことにより、汚れを逆洗などの洗浄やクロスフロー効果によって容易に除去できることから高い濾過性能を発現させることができる。上記割合は好ましくは1.10以上であり、さらに好ましくは1.10以上2.50以下である。2.50以下であると、表面の孔を形成するポリマーの変形が生じにくく阻止性能を維持できる。
【0025】
上記割合が1.05以上であることが望ましいことは、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおいてであるのは、前述のとおりである。これは、被濾過液に接する面の近傍の空孔率が、高い濾過性能を発現させるうえで重要である。これは被濾過液に接する面が最も膜汚れの濃度が高く、孔の閉塞が発生し膜全体の性能に影響を及ぼすからである。
【0026】
本実施形態の多孔質膜は、同様の趣旨で、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.10%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であることが好ましく、より好ましくは1.10以上であり、さらに好ましくは1.10以上2.50以下である。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.2%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が1.05以上であることが好ましく、より好ましくは1.10以上2.50以下、さらに好ましくは1.10以上1.50以下である。
【0027】
本実施形態の多孔質膜は被濾過液側表面の開孔率が25%以上であることが好ましい。
開孔率が25%以上であると高い濾過性能を有することができる。開孔率が高いと、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため高い濾過性能を発現できると推定している。好ましくは、上記開孔率は好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは37%以上である。また、上記開孔率は60%以下であってよい。
【0028】
本実施形態の多孔質膜は被濾過液側表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が35%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。40%以上であると、より幅広い被濾過液性状に対して高い濾過性能を発現できる。
上記空孔率が35%以上であると、開孔率と同様、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため高い濾過性能を発現できると推定している。好ましくは35%以上85%以下であり、さらに好ましくは38%以上80%以下、さらに好ましくは40%以上78%以下、特に好ましくは44%以上75%以下である。上記空孔率が85%以下であると実用上十分な強度を有することができる。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の開孔率が35%以上であり、且つ該被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が40%以上であることが好ましい。
【0029】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面から膜厚に対して0.10%までの厚みにおける空孔率が35%以上であることが好ましく、40%以上であるとより好ましい。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.2%までの厚みにおける空孔率が35%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上85%以下、さらに好ましくは38%以上80%以下、さらに好ましくは40%以上78%以下、特に好ましくは44%以上75%以下である。上記空孔率が35%以上であると、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため高い濾過性能を発現でき、40%以上であるとより幅広い被濾過液性状に対して高い濾過性能を発現でき、85%以下であると実用上十分な強度を有することができる。
【0030】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が0.7以上であることが好ましい。
上記割合が0.7以上であると表面の孔と膜内部の表面近傍の空孔の連通性が良く、表面の孔を最大限濾過に活用でき高い濾過性能を発現させることができる。上記割合は好ましくは0.7以上1.1以下である。上記割合が1.1以下であると、表面の孔を形成するポリマーの変形が生じにくく阻止性能を維持できる。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合(本明細書において「0.12%の割合」と称する場合がある)が、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合(本明細書において「0.04%の割合」と称する場合がある)よりも、大きいことが好ましい。0.12%の割合が大きい方が、表面から膜厚方向に対して奥へ行くにつれて連通性が同等もしくは向上しているということであり、より高い濾過性能を発現させることができる。
0.12%の割合と0.04%の割合との差(「0.12%の割合」-「0.04%の割合」)は、0.1以上0.8以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以上0.7以下、さらに好ましくは0.25以上0.6以下である。
【0031】
本実施形態の多孔質膜は、0.04%の割合と同様の趣旨で、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.02%までの厚みにおける空孔率の、該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が0.7以上であることが好ましい。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.067%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合が0.7以上であることが好ましく、より好ましくは0.7以上1.1以下、さらに好ましくは0.8以上1.0以下である。
【0032】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率が20%以上であることが好ましい。
上記空孔率が20%以上であると、開孔率と同様、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため高い濾過性能を発現できると推定している。上記空孔率が好ましくは20%以上80%以下、より好ましくは25%以上75%以下、さらに好ましくは30%以上70%以下である。上記空孔率が80%以下であると圧力がかかった際に膜構造を維持することができ、実用上十分な強度を有することができる。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率が、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおける空孔率よりも大きいことが好ましい。0.12%までの厚みにおける空孔率と、0.04%までの厚みにおける空孔率との差(「0.12%までの厚みにおける空孔率(%)」-「0.04%までの厚みにおける空孔率(%)」)は、5%以上30%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上25%以下である。
【0033】
本実施形態の多孔質膜は、0.04%までの厚みにおける空孔率と同様の趣旨で、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.02%までの厚みにおける空孔率が20%以上であることが好ましい。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.067%までの厚みにおける空孔率が20%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上80%以下、さらに好ましくは25%以上75%以下、さらに好ましくは30%以上70%以下である。上記空孔率が20%以上であると、開孔率と同様、孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため高い濾過性能を発現できる80%以下であると圧力がかかった際に膜構造を維持することができ、実用上十分な強度を有することができる。
【0034】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましい。
上記ポリマー骨格サイズが100nm以上であると、エアースクラビング等で膜円周方向に揺れた場合に擦過することによる透水性能の低下を抑えられ好ましい。これはポリマー骨格サイズが100nm以上であると、多孔質膜を構成するポリマーが十分な強度を有するため、擦過によって孔が変形することなく構造が維持することができるため透水性能の低下を抑制できる。上記ポリマー骨格サイズは好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは105nm以上260nm以下である。
【0035】
本実施形態の多孔質膜は、0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズと同様の趣旨で、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.10%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましい。また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.2%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましく、より好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは105nm以上260nm以下である。
【0036】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましい。
上記ポリマー骨格サイズが100nm以上であると、エアースクラビング等で膜円周方向に揺れた場合に擦過することによる透水性能の低下を抑えられ好ましい。上記ポリマー骨格サイズは好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは110nm以上200nm以下である。
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズと被濾過液側最表面から膜厚に対して0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズとの差(「0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズ」-「0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズ」)が、±15nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは±10nmの範囲内である。また、0.12%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが、0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズ以上であってよい。
【0037】
本実施形態の多孔質膜は、0.04%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズと同様の趣旨で、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.02%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましい。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.067%までの厚みにおけるポリマー骨格サイズが100nm以上であることが好ましく、より好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは110nm以上200nm以下である。
【0038】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける断面孔径が300nm以下であることが好ましい。
上記断面孔径は、好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは120nm以上280nm以下、さらに好ましくは150nm以上250nm以下である。断面孔径が300nm以下であれば、実用上十分な阻止性能を有することができる。
【0039】
本実施形態の多孔質膜は、0.12%までの厚みにおける断面孔径と同様の趣旨で、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.10%までの厚みにおける断面孔径が300nm以下であることが好ましい。
また、本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側最表面から膜厚に対して0.2%までの厚みにおける断面孔径が300nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは120nm以上280nm以下、さらに好ましくは150nm以上250nm以下である。
【0040】
本実施形態の多孔質膜は、被濾過液側表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と該被濾過液側表面の開孔率の積が860%・%であることが好ましい。好ましくは1000%・%以上であり、さらに好ましくは1140%・%以上である。上記、積が860%・%以上であると、表面と厚み方向において共に孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さいことから、完全に閉塞される孔が極めて少なくなることから高い濾過性能を発現できると推定している。また、5000%・%以下であってよい。
【0041】
本実施形態の多孔質膜が中空糸膜である場合、内径は0.3mm以上5mm以下が好ましい。内径が0.3mm以上であれば中空糸膜内を流れる液体の圧損が大きくなりすぎず、内径が5mm以下であれば比較的薄い膜厚で十分な圧縮強度や破裂強度を発現しやすい。内径は、より好ましくは0.4mm以上3mm以下であり、さらに好ましくは0.5mm以上2mm以下である。
【0042】
また、膜厚は0.1mm以上1mm以下が好ましい。膜厚が0.1mm以上であれば十分な圧縮強度や破裂強度を発現しやすく、膜厚が1mm以下であれば十分な透水性能が発現しやすい。膜厚は、より好ましくは0.15mm以上0.8mm以下、さらに好ましくは0.16mm以上0.6mm以下、0.17mm以上0.5mm以下である。また、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0043】
外径は0.5mm以上5mm以下が好ましい。外径が0.5mm以上であれば十分な引張強度を有することができる。外径が5mm以下であれば多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)を格納する容器への充填本数を多くすることができる。外径は、より好ましくは0.6mm以上4mm以下であり、さらに好ましくは0.7mm以上3mm以下である。
【0044】
本実施形態の多孔質膜の純水透水量は、1000L/m/hr以上20000L/m/hr以下が好ましい。純水透水量がこの範囲にあると、濾過性能と阻止性能を両立させることが可能である。純水透水量は、好ましくは1200L/m/hr以上18000L/m/hr以下であり、さらに好ましくは3000L/m/hr以上12000L/m/hr以下である。
【0045】
本実施形態の多孔質膜は、膜全体の空孔率は、透水性能の観点から、50%以上であることが好ましく、強度の観点から、90%以下であることが好ましい。より好ましくは55%以上85%以下、さらにより好ましくは65%以上80%以下である。
本発明者らは、膜全体の空孔率測定では差が検知できない極表層の空孔率を含む因子が濾過性能に影響を及ぼすことを見出した。具体的には、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率の該被濾過液側表面の開孔率に対する割合や、被濾過液側表面の最表面から膜厚に対して0.12%までの厚みにおける空孔率と該被濾過液側表面の開孔率との積を制御することで濾過性能が向上することを見出した。
【0046】
上記多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)は、三次元網目構造が望ましい。本願でいう三次元網目構造とは、模式的には図1で表したような構造を指す。例えば、熱可塑性樹脂aが接合して網目を形成し、空隙部bが形成されている。三次元網目構造では、いわゆる球晶構造の樹脂の塊状物がほとんど見られない。三次元網目構造の空隙部bは、熱可塑性樹脂aに囲まれており、空隙部bの各部分は互いに連通していることが好ましい。用いられた熱可塑性樹脂のほとんどが、多孔質膜(好ましくは中空糸膜)の強度に寄与しうる三次元網目構造を形成しているので、高い強度の支持層を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与しうる網目を形成する熱可塑性樹脂の量が多いため、網目の一部が薬品に侵されても、層全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。
【0047】
上記多孔質膜(好ましくは、多孔性中空糸膜)は、単層構造でもよいし、二層以上の多層構造であってもよい。被濾過液側表面を有する層を層(A)とし、濾過液側表面を有する層を層(B)とする。
例えば、層(A)を、いわゆる阻止層とし、小さい表面孔径により被処理液(原水)中に含まれる異物の膜透過を阻止する機能を発揮させ、層(B)をいわゆる支持層とし、この支持層は高い機械的強度を担保すると共に、透水性をできるだけ低下させない機能を有するというような機能分担にする。層(A)と層(B)の機能の分担は前記に限定されるものではない。本実施形態の多孔質膜は、一方の表面のみが被濾過液側表面であってよい。
【0048】
以下は、層(A)を阻止層とし、層(B)を支持層とした二層構造の場合について説明する。層(A)の厚みは、膜厚の1/100以上40/100未満とすることが好ましい。このように層(A)の厚みを比較的厚くすることで、原水に砂や凝集物等の不溶物が含まれていても使用可能となる。多少磨耗しても、表面孔径が変化しないからである。この厚みの範囲内であれば、望ましい阻止性能と高い透水性能のバランスがとれる。より好ましくは膜厚の2/100以上30/100以下である。層(A)の厚さは1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上80μm以下がさらに好ましい。
【0049】
中空糸膜である場合の具体的な製造方法について説明する。
本実施形態の多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)の製造方法としては、熱可塑性樹脂、有機液体、無機微粉を含む溶融混練物を、円環状吐出口を有する紡糸口金から吐出して中空糸状溶融混練物を成形する工程と、中空糸状溶融混練物を凝固させた後、有機液体及び無機微粉を抽出除去して多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)を作製する工程を備える方法が好ましい。溶融混練物は、熱可塑性樹脂及び溶媒の二成分からなるものでもよく、熱可塑性樹脂、無機微粉及び溶媒の三成分からなるものであってもよい。
【0050】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)の製造方法において用いられる熱可塑性樹脂は、常温では弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現し、成形が可能になる樹脂である。また、熱可塑性樹脂は、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻り、その間に分子構造など化学変化を生じない樹脂である(たとえば「化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、第860頁及び867頁、1963年」参照)。
【0051】
熱可塑性樹脂の例としては、12695の化学商品(化学工業日報社、1995年)の熱可塑性プラスチックの項(829~882頁)記載の樹脂や、化学便覧応用編改訂3版(日本化学会編、丸善、1980年)の809-810頁記載の樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂の具体例名を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等である。中でも、結晶性を有するポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール等の結晶性熱可塑性樹脂は、強度発現の面から好適に用いることができる。さらに好適には、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体の濾過において耐久性が期待できる、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等を用いることができる。具体的には、上記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物を1種単独で又は2種以上組み合わせて主成分として含むことが好ましく、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせた樹脂のみからなることがより好ましい。特に好適には、上記フッ素樹脂は、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデン比率50モル%以上のフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン及びエチレンからなる群より選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体を挙げることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが特に好ましい。
【0052】
溶融混練物における熱可塑性樹脂の濃度は30質量%から48質量%が望ましい。好ましくは、32質量%から45質量%である。30質量%以上であれば、機械的強度を担保しやすく、48質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0053】
また、多孔質膜が二層構造の膜である場合、層(B)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の濃度は34質量%から48質量%が望ましい。更に好ましくは、35質量%から45質量%である。
層(A)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の濃度は、10質量%以上35質量%以下が好ましく、更に好ましくは、12質量%以上35質量%未満である。10質量%以上であれば、表面の孔径と機械的強度を両立することができ、35質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0054】
有機液体は、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本実施形態では、潜在的溶剤とは、該熱可塑性樹脂を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では該熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤を言う。熱可塑性樹脂との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。
【0055】
熱可塑性樹脂がポリエチレンの場合、有機液体の例としてフタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類;リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類;プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリセリンエステル類;流動パラフィン等のパラフィン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0056】
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合、有機液体の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0057】
無機微粉としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア、炭酸カルシウム等が挙げられるが、特に平均一次粒子径が3nm以上500nm以下の微粉シリカが好ましい。より好ましくは5nm以上100nm以下である。凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカである。ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるメタノールの容量%の値である。具体的には、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加していった時に、シリカの50質量%が沈降した時の水溶液中におけるメタノールの容量%を求めて決定される。上述の「無機微粉の平均一次粒子径」は電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機微粉の平均一次粒子径を算出する。
【0058】
無機微粉の添加量は、溶融混練物中に占める無機微粉の質量比率が、5質量%以上50質量%以下が好ましい。さらに好ましくは10質量%以上40質量%以下である。無機微粉の割合が5質量%以上であれば、無機微粉混練による効果が十分に発現でき、40質量%以下であれば、安定に紡糸できる。
【0059】
溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば押出機を用いて行うことができる。以下に押出機を用いた場合について述べるが、溶融混練の手段は押出機に限るものではない。本実施形態の製造方法を実施するために用いられる製造装置の一例を図2に示す。
【0060】
図2に示す多孔性中空糸膜の製造装置は、押出機10と、中空糸成型用ノズル20と、製膜原液を凝固させる溶液が貯留される凝固浴槽30と、多孔性中空糸膜40を搬送して巻き取るための複数のローラ50を備えている。60は吸引機であり、70は高温容器である。図2に示すSの空間は、中空糸成型用ノズル20から吐出された成膜原液が凝固浴槽30中の溶液に到達するまでに通過する空走部である。
【0061】
溶融混練物は、同心円状に配置された1つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成型用ノズル20が押出機10の先端に装着され、溶融混錬物が押出機10によって押し出されて中空糸成型用ノズル20から吐出される。多層構造の膜を製造する場合、2つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成型用ノズル20を押出機10の先端に装着し、それぞれの円環状吐出口にはそれぞれ異なる押出機10より溶融混練物を供給して押出しする方法や、多層中の一層を製造した後、残りの層を塗布する方法がある。例えば、前者の異なる押出機を使用して製造する方法は、各々供給される溶融混練物を吐出口で合流させ重ね合わせることで、多層構造を有する中空糸状押出物を得ることができる。このとき、互いに隣り合う円環状吐出口から組成の異なる溶融混練物を押出すことで、互いに隣り合う層の孔径が異なる多層膜を得ることができる。互いに異なる組成とは、溶融混練物の構成物質が異なる場合、または、構成物質が同じでも構成比率が異なる場合を指す。同種の熱可塑性樹脂であっても、分子量や分子量分布が明確に異なる場合は、構成物質が異なるとみなす。互いに異なる組成の溶融混練物の合流位置は、中空糸成型用ノズル20下端面であっても、中空糸成型用ノズル20の下端面とは異なっていてもよい。
【0062】
円環状吐出口から溶融混練物を押出す際には、紡口吐出パラメータR(1/秒)が10以上1000以下の値になるように吐出すると、高い生産性と紡糸安定性さらに高強度の膜が得られるため、好ましい。ここで紡口吐出パラメータRとは、吐出線速V(m/秒)を、吐出口のスリット幅d(m)で除した値である。吐出線速V(m/秒)は、溶融混練物の時間当たりの吐出容量(m/秒)を吐出口の断面積(m)で除した値である。Rが10以上であれば、中空状押出し物の糸径が脈動する等の問題が無く、生産性良く安定に紡糸できる。またRが1000以下であれば、得られる多孔性中空糸膜の重要な強度の一つである破断伸度が十分に高く維持できる。破断伸度とは、膜長手方向に引っ張った時の元の長さに対する伸び率のことである。
【0063】
多層構造の多孔性中空糸膜である場合は、樹脂が合流後の積層された溶融混練物の吐出線速Vを吐出口のスリット幅dで除した値を紡口吐出パラメータRとする。Rの範囲は、より好ましくは50以上1000以下である。
【0064】
吐出口から吐出された中空糸状溶融混練物は、空気や水等の冷媒を通過して凝固させるが、目的とする多孔性中空糸膜によって、空気層からなる上述した空走部Sを通過させたのちに、水等が入った凝固浴槽30を通過させる。すなわち空走部Sとは、中空糸成型用ノズル20の吐出口から凝固浴槽30の水面までの部分である。吐出口から必要に応じて空走部Sには筒等の容器を用いても良い。凝固浴槽30を通過後、必要に応じてかせ等に巻き取られる。
【0065】
特に溶融混練物の吐出口直後に、筒状等の高温容器中を0.015秒以上通過させるとよい。0.015秒以上であると、高温容器中に溜まった溶媒蒸気が表面すなわち孔が閉じることを抑制し、さらに溶媒蒸気を吸収することで溶融混練物の表層の樹脂濃度が低下することにより、開孔率と表面近傍の空孔率を高くすることができる。表面の孔径制御のため、0.18秒以下が好ましい。さらに好ましくは0.018秒以上0.14秒以下であり、さらに好ましくは0.021秒以上0.12秒以下である。
【0066】
一般的に非溶媒誘起相分離法において空走部全体に筒を用いることはあるが、これは空走部の水分により相分離を進行させるためであり、本発明では溶媒蒸気によって表面の開孔率に対する空孔率を制御するという新たな知見を見出したものである。
【0067】
前記高温容器の設定温度は溶融混練物の吐出温度Tに対して(T-60)℃から(T+60)℃が好ましい。さらに好ましくは(T-50)℃から(T+50)℃である。(T-60)℃以上であれば、前記溶媒蒸気の効果を十分に発現させることができる。特に理由は無いが、過度に設定温度を上げ樹脂混練物の劣化を防ぐ等の理由により(T+60)℃以下が好ましい。
【0068】
空走部Sを溶融混練物が通過する時間を空走時間と呼び、空走時間は、0.20秒以上が望ましい。空走時間を0.20秒以上にすると、空走部で、ポリマー分子が配向するため、より耐圧縮強度を高めることができる。空走時間は、さらにのぞましくは0.20秒以上2.0秒以下である。2.0秒以下であれば、安定的な製造が可能である。望ましくは、0.30秒以上1.5秒以下であり、さらに好ましくは0.40秒以上1.1秒以下である。
【0069】
空走部では、吸引機などを用いて吐出方向に垂直な向きに冷却風を0.80m/sec以下で当てることが望ましい。理由は定かではないが、0.80m/sec以下であると溶媒蒸気が適度に溶融混練物表面に滞留するため、溶媒蒸気が表面すなわち孔が閉じることを抑制し、さらに溶媒蒸気を吸収することで溶融混練物の表層の樹脂濃度が低下することにより、開孔率と表面近傍の空孔率を高くすることができると推定している。
【0070】
凝固後の中空糸状物中には、ポリマー濃厚部分相と有機液体濃厚部分相とが微細に分かれて存在する。なお、例えば、無機微粉を添加した場合に、その無機微粉が微粉シリカである場合、微粉シリカは有機液体濃厚部分相に偏在する。この中空糸状物から有機液体と無機微粉を抽出除去することで、有機液体濃厚相部分が空孔となる。よって多孔性中空糸膜を得ることができる。
【0071】
有機液体の抽出除去および無機微粉の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0072】
有機液体の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに有機液体とは混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には浸漬等の手法により接触させることで行うことができる。該液体は、抽出後に中空糸膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。有機液体が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0073】
無機微粉の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば無機微粉がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0074】
有機液体の抽出除去と無機微粉の抽出除去とは、どちらが先でも差し支えはない。有機液体が水と非混和性の場合は、先に有機液体の抽出除去を行い、その後に無機微粉の抽出除去を行う方が好ましい。通常有機液体および無機微粉は有機液体濃厚部分相に混和共存しているため、無機微粉の抽出除去をスムーズに進めることができ、有利である。
【0075】
このように、凝固した多孔性中空糸膜から有機液体や無機微粉を抽出除去することにより、多孔性中空糸膜を得ることができる。
なお、凝固後の中空糸膜に対し、(i)有機液体および無機微粉の抽出除去前、(ii)有機液体の抽出除去後で無機微粉の抽出除去前、(iii)無機微粉の抽出除去後で有機液体の抽出除去前、(iv)有機液体および無機微粉の抽出除去後、のいずれかの段階で、多孔性中空糸膜の長手方向への延伸を、延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に中空糸膜を長手方向に延伸すると透水性能は向上するが、耐圧性能(破裂強度および耐圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかしながら、本実施形態の製造方法で得られる多孔性中空糸膜は機械的強度が高い。よって延伸倍率1.1倍以上3.0倍以内の延伸は実施可能である。延伸により、多孔性中空糸膜の透水性能が向上する。ここで言う延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの多孔性中空糸膜を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
【0076】
延伸は、空間温度0℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃より高い場合には延伸斑が大きいうえに破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくなく、0℃以下では延伸破断の可能性が高く実用的でない。延伸工程中の空間温度を10℃以上140℃以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以上100℃以下である。
【0077】
本発明においては、有機液状体を含んだ中空糸膜を延伸することが好ましい。有機液状体を含んだ中空糸膜の方が、有機液状体を含んでいない中空糸膜よりも、延伸時の破断が少ない。更に、有機液状体を含んだ中空糸膜の方が、延伸後の中空糸膜の収縮を大きくさせることができるため、延伸後の収縮率設定の自由度が増す。
【0078】
また、無機微粉体を含んだ中空糸膜を延伸することが好ましい。無機微粉体を含んだ中空糸膜の方が、中空糸膜に含まれる無機微粉体の存在による中空糸膜の硬さのために、延伸する際において中空糸膜が扁平につぶれにくくなる。また、最終的に得られる中空糸膜の孔径が小さくなりすぎたり、糸径が細くなりすぎたりすることを防止することもできる。
本発明においては、有機液状体及び無機微粉体の両方を含む中空糸膜を延伸することがより望ましい。
【0079】
上述の理由により、抽出終了後に中空糸膜を延伸するよりも、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸膜を延伸する方が好ましく、更に、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸膜を延伸するよりも、有機液状体及び無機微粉体の両方を含んだ中空糸膜を延伸することがより好ましい。
【0080】
また、延伸した中空糸膜を抽出する方法は、延伸により中空糸膜の表面及び内部に空隙が増加しているため、抽出溶剤が中空糸膜内部に浸透し易いという利点がある。また、延伸し、次いで収縮させる工程の後に抽出を行う方法は、後述のように、引っ張り弾性率の低い、曲がり易い中空糸膜となるために、抽出を液流中で行う場合には、中空糸膜が液流により揺れ易くなり、攪拌効果が増すために短時間で効率の高い抽出が可能となるという利点を有する。
【0081】
本発明では、中空糸膜を延伸し、次いで収縮させる工程を有しているため、最終的に引っ張り弾性率の低い中空糸膜を得ることができる。ここで、「引っ張り弾性率が低い」とは、糸が小さな力で伸びやすく、力がなくなればまた元に戻ることを意味する。引っ張り弾性率が低いと、中空糸膜が扁平につぶれることなく、曲がりやすく、濾過の際に水流で揺れやすい。水流に従って糸の曲がりが一定せずに揺れることで、膜表面に付着堆積する汚染物質の層が成長せずに剥がれやすく、濾過水量を高く維持できる。更にはフラッシングやエアースクラビングで強制的に糸を揺らす場合に、揺れが大きく洗浄回復効果が高くなる。
【0082】
延伸した後に収縮を行う際の糸長収縮の程度については、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率を0.3以上0.9以下の範囲とすることが望ましい。例えば、10cmの糸を延伸して20cmにし、その後14cmにさせた時は、以下の式より、
糸長収縮率={(延伸時最大糸長)-(収縮後糸長)}/[(延伸時最大糸長)-(元糸長)]=(20-14)/(20-10)=0.6
糸長収縮率は0.6となる。糸長収縮率が0.9以上の場合は透水性能が低くなり易く、0.3未満の場合は引っ張り弾性率が高くなり易いため好ましくない。本発明においては、糸長収縮率が0.50以上0.85以下の範囲内であることがより好ましい。
【0083】
また、中空糸膜を延伸時最大糸長まで延伸し、次いで収縮させる工程を採ることにより、最終的に得られる中空糸膜は使用中に延伸時最大糸長まで伸ばした際にも切れることがなくなる。
ここで、延伸倍率をX、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率をYとしたとき、破断伸度の保障の程度を表す率Zは、以下の式で定義できる。
Z=(延伸時最大糸長-収縮後糸長)/収縮後糸長=(XY-Y)/(X+Y-XY)
Zは0.2以上1.5以下が好ましく、より好ましくは、Zは0.3以上1.0以下である。Zが小さすぎると破断伸度の保障が少なくなり、Zが大きすぎると延伸時の破断の可能性が高くなるわりに透水性能が低くなる。
【0084】
また本発明の製造方法では、延伸し、次いで収縮させる工程を含むため、引っ張り破断伸度は低伸度での破断が極めて少なくなり、引っ張り破断伸度の分布を狭くすることができる。
【0085】
延伸し、次いで収縮させる工程における空間温度は、収縮の時間や物性の点から、0℃以上160℃以下の範囲が望ましい。0℃より低いと収縮に時間がかかり実用的でなく、160℃を越えると破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくない。
【0086】
本発明においては、また、収縮工程中において、中空糸膜を捲縮することが好ましい。これにより捲縮度の高い中空糸膜を、つぶれ或いは傷つけることなく得ることができる。
【0087】
一般に、中空糸膜は、曲がりの無い直管状の形態をなしているため、束ねて濾過用モジュールとした場合に、中空糸間の隙間が取れずに空隙度の低い糸束になる可能性が高い。これに対して、捲縮度が高い中空糸膜を用いると、個々の糸の曲がりにより平均的に中空糸膜間隔が広がり空隙度の高い糸束とすることができる。また、捲縮度の低い中空糸膜からなる濾過モジュールは、特に外圧で用いる際に糸束の空隙が少なくなり流動抵抗が増大し、糸束の中央部まで濾過圧力が有効に伝わらなくなる。更には、逆洗やフラッシングで濾過堆積物を中空糸膜から剥ぎ落とす際にも糸束内部の洗浄効果が小さくなる。捲縮度の
高い中空糸膜からなる糸束は、空隙度が大きく外圧濾過でも中空糸膜間隙が保たれ、偏流が起こりにくい。
【0088】
本発明においては、捲縮度が1.5以上2.5以下の範囲であることが好ましい。1.5以上の場合、上記の理由から好ましく、また、2.5より小さいと容積当たりの濾過面積の低下を抑制できる。
【0089】
中空糸膜の捲縮方法としては、延伸し、次いで収縮させる工程中において、中空糸膜を収縮させながら、例えば、周期的に凹凸のついた一対のギアロール又は凹凸のついた一対のスポンジベルトで挟み込みながら引き取る方法等が挙げられる。
【0090】
また、本発明においては、延伸を、相対する一対の無限軌道式ベルトからなる引き取り機を用いて行うことが好ましい。この場合、引取り機を延伸の上流側と下流側とで使用し、それぞれの引取り機においては、相対するベルト間に中空糸膜を挟み、双方のベルトを同速度で同方向へ移動させることにより糸送りを行う。また、この場合、下流側の糸送り速度を上流側の糸送り速度より速くして延伸を行うことが好ましい。このようにして延伸を行うと、延伸時に延伸張力に負けずにスリップすること無しに延伸し、且つ糸が扁平につぶれるのを防ぐことが可能となる。
【0091】
ここで、無限軌道式ベルトとは、駆動ロールと接する内側は繊維強化ベルト等の高弾性のベルトで出来ており、中空糸膜と接する外側の表面が弾性体で出来ていることが好ましい。また、弾性体の厚み方向の圧縮弾性率が0.1MPa以上2MPa以下であり、該弾性体の厚みが2mm以上20mmであることが更に好ましい。特に、外側表面の弾性体をシリコーンゴムにすることが、耐薬品性、耐熱性の点から好ましい。
【0092】
また、必要に応じて延伸後の膜に熱処理をおこない、耐圧縮強度を高めても良い。熱処理は80℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃以下であると破断伸度の低下及び透水性能を抑制でき、100℃以上であると耐圧強度高くすることができる。また、熱処理は抽出終了後の中空糸膜に対して行うことが、糸径、空孔率、孔径、透水性能の変化が小さくなるという点から望ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂にPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を用いる場合、高い開孔率と高い耐圧縮強度を両立させるためには、PVDFの溶媒を適当に選定する必要がある。まず開孔率を上げる方法として、PVDFの濃度を下げる方法や、前述のとおり、中空部形成用流体の温度を高くする方法がある。PVDF濃度を下げて製膜する方法を用いる場合、孔径もあわせて大きくなってしまうため、高開孔率且つ小孔径を達成できる溶媒を選定することが必要である。下記のパラメータPは、PVDFの三次元溶解度パラメータと、溶媒の三次元溶解度パラメータの関係式であり、PVDFと溶媒の溶解性を評価するものである。右辺は、三次元的にHansen溶解度パラメータの溶解範囲を表すもので、PVDFの三次元溶解度パラメータ(σdp、σpp、σhp)から溶媒の三次元溶解度パラメータ(σdm、σpm、σhm)までの距離を定量的に表す。
P=((σdm-σdp)+(σpm-σpp)+(σhm-σhp)0.5
[式中、σdm及びσdpは溶媒及びポリフッ化ビニリデンの分散力項をそれぞれ示し、σpm及びσppは溶媒及びポリフッ化ビニリデンの双極子結合力項をそれぞれ示し、σhm及びσhpは溶媒及びポリフッ化ビニリデンの水素結合項をそれぞれ示す。]
なお、上記の考え方はPVDFに限るものではない。
【0094】
二層構造の多孔質膜である場合、層(B)を形成する溶融混練物Bの調製に使用する溶媒とPVDFの間のパラメータPは好ましくは7.88より大きく、より好ましくは7.88から10.0である。この値が7.88以上であると透水性の低下を抑制できる。
【0095】
層(A)を形成する溶融混練物Aの調製には、使用する溶媒とPVDFの間のパラメータPは好ましくは7.88であり、より好ましくは0から7.88であり、更に好ましくは1.00から7.88である。この値が7.88以下であると、高開孔率かつ小孔径を達成することができる。
【実施例
【0096】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0097】
なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0098】
以下の測定は特に記載がない限り全て25℃で行っている。以下では、評価方法について説明した後、実施例及び比較例の製造方法及び評価結果について説明する。
【0099】
また膜の配合組成及び製造条件、並びに各種性能を表1、表2に示す。
【0100】
(1)外径及び内径、膜厚(mm)の測定
中空糸膜を膜長手方向に15cm間隔で垂直な向きにカミソリなどで薄く切り、顕微鏡を用いて断面の内径の長径と短径、外径の長径と短径を測定し、以下の式(2)、(3)により、それぞれ内径と外径を計算し、その計算した外径から内径を減算し、2で除した値を膜厚として計算した。20点測定し、その平均値を、その条件における内径、外径、膜厚とした。
【数1】
【数2】
【0101】
(2)純水透水量(L/m/hr)
中空糸膜を50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を湿潤化した。約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式により純水透過流束を決定した。ここに膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。また、測定数は10点とし、その平均値を各条件における純水透水率とした。
【数3】
【0102】
(3)破断強度(MPa)、破断伸度(%)
引張り、破断時の荷重と変位を以下の条件で測定した。
サンプル:(2)の方法で作製した湿潤中空糸膜
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製AGS-X)チャック間距離:5cm
引張り速度:20cm/分
以下の式により破断強度および破断伸度を決定した。
【数4】
膜断面積は以下の式により求められる。
【数5】
【0103】
(4)膜全体の空孔率
膜全体の空孔率は、以下の式より決定できる。
空孔率(膜全体)%=100×(湿潤膜重量[g]-乾燥膜重量[g])/水比重[g/cm]/(膜体
積[cm])
ここで、湿潤膜とは、孔内は純水が満たされているが、中空部内には純水が入っていない状態の膜を指す。具体的には、10~20cm長のサンプル膜をエタノール中に浸漬して孔内をエタノールで満たした後に純水浸漬を4~5回繰り返して孔内を充分に純水で置換し、かかる後に中空糸の一端を手で持って5回ほど良く振り、さらに他端に手を持ちかえてまた5回程よく振って中空部内の水を除去することで得ることができる。また、乾燥膜は、前記湿潤膜の重量測定後にオーブン中で例えば60℃で恒量になるまで乾燥させて得ることができる。
膜体積は、以下の式膜体積[cm]=π×{(外径[cm]/2)^2-(内径[cm]/2)^2}×膜長[cm]
により求めることができる。膜1本では重量が小さすぎて重量測定の誤差が大きくなる場合は、複数本の膜を用いることができる。
【0104】
(4)多層構造の場合の層と層の境界の決定方法
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVで膜の断面を観察する。本実施例および比較例では1000倍にて、層と層の境界近傍を撮影した。撮影した画像により、層と層の間に境界線が判別できる場合は、その境界線を層と層の境界とする。本実施例および比較例における多孔性中空糸膜においても、境界が判別できるため、その境界線を層と層の境界とした。
【0105】
上記の方法にて層と層の境界を判別できない場合は、以下の方法でも境界を決定することができる。例えば、二層構造の多孔性中空糸膜の場合の、層(A)と層(B)の境界の決定方法について述べる。以下は層(A)を阻止層、層(B)を支持層とした場合の方法である。
上記の電子顕微鏡により、中空糸膜の断面を撮影し、20個以上の孔の形状が確認できる写真を用いた。断面を全て観察するために、画像は複数枚となる。本実施例および比較例では5000倍で測定を行った。断面の電子顕微鏡サンプルは、エタノール中で凍結した膜サンプルを輪切りに割断して得た。
画像を、市販の画像解析ソフトWinroof6.1.3を用いて、図3Aに示すように、表面FAからの距離が等しい線L(すなわち同じ膜厚になる点を結んだ線)を、全膜厚を101等分する間隔で100本引き、図3Bに示すように、その線Lが画像中の空孔部hに相当する部分を横切る長さLhを測定した。その横切る長さLhの平均値を算術平均により算出して、各膜厚部における断面孔径を求めた。走査型電子顕微鏡写真の倍率が十分に高い場合は、表面FAからの距離が等しい線を直線で近似しても良い。求めた断面孔径の最大値を用いて、各膜厚部における断面孔径を規格化し、表面FAから、その規格化した値が0.7に最も近くなる点に初めて到達した点を、層の境界層とした。
【0106】
(5)三次元溶解度パラメータ
三次元溶解度パラメータは以下の成書から引用した。Hansen, Charles (2007). Hansen Solubility Parameters: A user’s handbook, Second Edition. Boca Raton, Fla: CRC Press.(ISBN 978-0-8493-7248-3)
【0107】
(6)内外表面孔径と開孔率
(4)と同様の電子顕微鏡にて、被濾過液側表面を撮影した。20個以上の孔の形状が確認できる倍率で撮影し、本実施例および比較例では10000倍で撮影を行った。
撮影した画像を用いて、例えば、国際公開第2001/53213号公報に記載されているように、画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別した。その後に市販の画像解析ソフトWinroof6.1.3を使い、判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の占有面積を求めることにより、表面FA、表面FBの開孔率を求めた。
孔径は、表面に存在した各孔に対し、円相当径を算出し、孔径の大きい方から順に各孔の孔面積を足していき、その和が、各孔の孔面積の総和の50%に達するところの孔の孔径で決定した。
【0108】
(7)耐膜面擦過率
膜面擦過による透水性能劣化の程度を判断するための1指標である。エタノール浸漬した後数回純水浸漬を繰り返した湿潤中空糸膜(サンプル長さ:100mm)を金属板の上に並べ、微小な砂(粒径130μm:Fuji BrownFRR#120)を20質量%で水に懸濁させた懸濁水を、膜の上方70cmにセットしたノズルから0.1MPaの圧力で噴射し、膜外表面に懸濁水を吹き付けた。15分間吹き付けを行った後、膜を裏返してまた15分間の吹き付けを行った。吹き付けの前後で純水フラックスを測定し、下記式から耐膜面擦過率を求めた。
耐膜面擦過率[%]=100×(吹き付け後純水フラックス)/(吹き付け前純水フラックス)
【0109】
(8)空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径
多孔性中空糸膜を、糸長方向に直交する断面で円環状に裁断したのち、エポキシ樹脂に包埋した。トリミング後、試料断面にBIB加工を施して平滑断面を作製、導電処理し、検鏡試料を作製した。検鏡試料は、各試料とも裁断箇所1箇所について作製した。
HITACHI製電子顕微鏡SU7000を使用し、作製した検鏡試料の膜断面について電子顕微鏡(SEM)画像を取得した。画像の取得条件は以下の通りで、各検鏡試料について外表面部を含む視野を5視野撮像した。
画像取得条件
加速電圧:1kV
検出器:反射電子検出器
撮像倍率:5,0000倍(装置の表示倍率)
像解像度:2560×1920ピクセル
画像解析には、ImageJを用いた。初めに、Plugins-Bilateral Filter Fiji(spatial radius=3、range radius=50の条件で10回)を実施し、フィルター処理を施した。フィルター処理を行ったSEM画像に対して、Threshold処理(Image-Adjust-Treshold:最大エントロピー法(MaxEntropyを選択))を施すことにより、空孔部(包埋樹脂により空孔が包埋された部分)とポリマー骨格部に二値化した。
二値化した画像の上部を基準に、画像上部から最も近い膜部分のピクセルを膜厚0nmの地点とした。膜厚方向へ所定の厚み(例えば、厚み100nm、場合によっては厚み50nm)の領域を連続的に切りとり、各画像から、以下に示す手法により、空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径を算出した。ここで、例えば、0~300nmの領域の空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径については、それぞれ、連続的に切りとり上記算出を行った0~100nm、100~200nm、200~300nmの領域の空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径の相加平均値とした。また、例えば、0~1250nmの領域の空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径については、それぞれ、連続的に切りとり上記算出を行った0~50nm、50nm~100nm・・・1150nm~1200nm、1200nm~1250nmの領域の空孔率、ポリマー骨格サイズ、断面孔径の相加平均値とした。
なお、0~100nmの領域は、膜最表面の開孔部を含む画像のため、空孔率および断面孔径を算出する際、膜最表面を定義し、空孔のみの二値像から数値を算出する必要がある。空孔のみの二値像を得るために、今回は、Adobe社Photoshop Elements9の鉛筆ツールを用いて、手作業により、膜最表面の開孔部/包埋樹脂部の境界を決定後、包埋樹脂部を塗りつぶすことで、空孔のみの二値像を得た。具体的な作業例を図4に示した。ポリマー骨格が輝度255(白)、空孔と包埋樹脂が輝度0(黒)の画像に対し、膜最表面開孔部の両端をつなぐように、鉛筆ツールでラインを描画した。次いで、塗りつぶしツールを用いて、包埋樹脂部分を輝度0(黒)に塗りつぶすことで、0-100nmの領域における空孔のみの二値化像を得た。膜最表面開孔部両端の位置は、作業者が任意判断で決定した。
空孔率(%):空孔の二値像(空孔部が輝度0=黒)の画像に対し、Analyze-Analyze Particlesを適用し、Summary中の%areaの5視野の相加平均値を空孔率とした。Analyze Particlesの設定は以下の通りとした。
Size(Pixel^2):0-infinity
Circularity:0-1.00
Summarize:チェックボックスにチェックが入った状態
Exclude on edges:チェックボックスにチェックがない状態
Include Holes:チェックボックスにチェックがない状態
ポリマー骨格サイズ:膜の二値像(ポリマーに相当する部分が輝度0=黒の画像)に対し、ImageJのPlugins-BoneJ-Thicknessを適用し、LocalThickness画像を取得した。LocalThickness画像について、Analyze-Histogramを適用し、Localthicknessの数値詳細を取得した。取得した5視野のLocalthicknessの数値から、相加平均値を計算し、ポリマー骨格サイズと定義した。
断面孔径:孔の二値像(孔に相当する部分が輝度0=黒の画像)に対し、ImageJのPlugins-BoneJ-Thicknessを適用し、LocalThickness画像を取得した。LocalThickness画像について、Analyze-Histogramを適用し、Localthicknessの数値詳細を取得した。取得した5視野のLocalthicknessの数値から、相加平均値を計算し、断面孔径と定義した。
【0110】
(9)透水性能試験
中空糸膜12を用いて図7に示すような濾過モジュール11を作成した。濾過モジュール11は、有効膜長さ1m、中空糸本数300本からなり、両末端の中空糸間をエポキシ系封止材13で封止されている。モジュールの上部端部は中空糸膜の中空部が開口しており、また下部端部は中空糸膜の中空部が封止されている。原水及びエアーの導入口14を経て、中空糸の外表面側より濁度2~4度の河川水を濾過し、上部端部の内表面側より濾過水を得た。設定Flux(設定Flux(m/日)は濾過流量(m/日)を膜外表面積(m)で割った値)を段階的に上げていき膜間差圧が急激に上昇し始める直前のFluxを限界Flux(m/日)とした。膜間差圧の急激な上昇は、50kPa/5日程度の上昇速度を目安に判断した。
【0111】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(クレハ社製KF-W#1000)、有機液体としてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)(シージーエスター株式会社製)とフタル酸ジブチル(DBP)(シージーエスター株式会社製)との混合物、無機微粉として微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL-R972、1次粒子径が約16nm)を用い、中空糸成型用ノズルを用いて押出機による中空糸膜の溶融押出を行った。溶融混練物として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:30.8:6.20:23.0(質量比)の溶融混練物を、中空部形成用流体として空気を用い、共に240℃の吐出温度にて、外径2.0mm、内径0.9mmの中空糸成形用ノズルから押し出した。
吐出温度240℃で押出した中空糸状溶融混練物は、設定温度240℃の高温容器を0.053秒通過し、高温容器区間も合わせて0.60秒の空中走行を経た後30℃の水を入れた凝固浴槽へ導いた。30m/分の速度で引き取り、ベルトに挟んで60m/分の速度で延伸させた後、140℃の熱風を当てながら45m/分の速度で収縮させ、かせに巻き取った。空走部の風速は、0.80m/秒とした。
得られた中空糸状物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、次いで、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去し、多孔性中空糸膜を得た。
得られた多孔性中空糸膜は、外表面(外径側表面)を被濾過液側表面とする多孔質膜である。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
図5は、得られた多孔性中空糸膜の被濾過液側近傍断面の電子顕微鏡写真である。
【0112】
(実施例2)
溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=34.0:32.5:8.10:25.4(質量比)とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0113】
(実施例3)
空走部の高温容器通過時間を0.018秒とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0114】
(実施例4)
空走部の風速を1.8m/秒とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0115】
(実施例5)
有機液体としてアジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)(東京化成工業株式会社製)とセバシン酸ジブチル(DBS)(富士フイルム和光純薬株式会社製)との混合物を用い、溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル):セバシン酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:25.0:12.0:23.0(質量比)とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0116】
(実施例6)
外径を0.9mm、内径を0.6mmとした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0117】
(実施例7)
延伸、収縮工程を未実施であること以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0118】
(実施例8)
層(A)を中空糸膜の外表面側とし、層(B)を中空糸膜の内表面側とする、二層構造の多孔性中空糸膜を製造した。熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー、有機液体としてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)とフタル酸ジブチルとの混合物、無機微粉として微粉シリカを用いた。層(A)の溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=34.0:32.5:8.1:25.4(質量比)とし、層(B)の溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:31.7:5.3:23.0(質量比)として、押出機2台による中空糸膜の溶融押出を行った。溶融混練物は、中空部形成用流体として空気を用い、250℃の吐出温度で3重環中空糸成形用ノズルから押出した。3重環中空糸成型用ノズルは最外径を2.0mm、最内径を0.9mmとし、層(A)と層(B)の溶融混練物吐出口の境界にあたる部分の径は1.8mmとした。溶融混練物の吐出後の工程は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
得られた多孔性中空糸膜は、外表面(外径側表面)を被濾過液側表面とする多孔質膜である。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
図6は、得られた多孔性中空糸膜の被濾過液側近傍断面の電子顕微鏡写真である。
【0119】
(実施例9)
層(A)の溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=25.0:35.9:10.3:28.8(質量比)とした以外は、実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0120】
(実施例10)
層(A)の溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=20.0:38.3:10.9:30.8(質量比)とし、空走時間を0.42秒とした以外は、実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0121】
(実施例11)
空走部の高温容器通過時間を0.018秒とした以外は実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0122】
(実施例12)
空走部の風速を1.8m/秒とした以外は実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0123】
(実施例13)
外径を0.9mm、内径を0.6mmとした以外は、実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0124】
(比較例1)
空走部の高温容器通過時間を0.012秒とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0125】
(比較例2)
空走部の風速を2.1m/秒とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0126】
(比較例3)
空走部の高温容器通過時間を0.012秒とした以外は実施例7と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0127】
(比較例4)
溶融混練物の組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=34.0:32.5:8.10:25.4(質量比)とし、空走部の高温容器通過時間を0.012秒、空走部の風速を2.1m/秒とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0128】
(比較例5)
空走部の高温容器通過時間を0.012秒とした以外は実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0129】
(比較例6)
空走部の風速を2.1m/秒とした以外は実施例8と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0130】
(比較例7)
空走部の高温容器通過時間を0.012秒とした以外は実施例10と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表2に、詳細な組成および条件を示す。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、高い濾過性能と耐擦過性を有する多孔質膜が提供される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7