(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】管継手および排水システム
(51)【国際特許分類】
E03C 1/12 20060101AFI20241010BHJP
E03C 1/122 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
E03C1/12 E
E03C1/12 Z
E03C1/122 Z
(21)【出願番号】P 2023091072
(22)【出願日】2023-06-01
(62)【分割の表示】P 2019179718の分割
【原出願日】2019-09-30
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】渕上 斉太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 総
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-026955(JP,A)
【文献】特開2002-201689(JP,A)
【文献】特開2019-163684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12- 1/126
E03C 1/30- 1/308
F16L 41/00- 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側の縦管に接続可能な縦管接続部を一端に有し、横枝管に接続可能な横枝管接続部を側面に有する継手管本体を備え、
前記継手管本体が、多層階の建物の最下層用であって、前記縦管と脚部継手との間に設置され、
前記継手管本体において、前記横枝管接続部よりも上流側の前記縦管接続部側の内周面に1つ以上の突起が形成された管継手。
【請求項2】
前記継手管本体において、前記縦管接続部側であって、前記横枝管接続部よりも上流側の前記縦管接続部側の部分に装着自在な環状のアダプタを有し、このアダプタの内周面に1つ以上の突起が形成された請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記突起を正面に配置するように前記継手管本体の径方向内側から見る場合に前記突起が側面視多角形状である請求項1または請求項2に記載の管継手。
【請求項4】
前記継手管本体の他端側に直管が接続される請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の管継手。
【請求項5】
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の管継手が、前記一端側の縦管接続部を上流側の第1の縦管に接続し、他端側を下流側の第2の縦管に接続して配置された排水システム。
【請求項6】
前記継手管本体の他端側に排水路に接続される横主管が接続された請求項
5に記載の排水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手および排水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅などの多層建築物には、各階居室部の衛生機器等からの排水を導入する横枝管が設けられており、この横枝管をパイプシャフト内の排水縦管に接続することで下水路に排水を流すようになっている。
横枝管を接続した排水縦管が床スラブを貫通する部分には、排水集合継手と称される樹脂製の継手部材が配置されている。従来、この排水集合継手は、排水縦管を接続する上部接続管と、上部接続管の側面に形成された横枝管接続部と、上部接続管の下端部に接続されて床スラブの貫通孔を上下に通過する下部接続管を有している。
【0003】
また、以下の特許文献1に記載のように、継手管本体の内周面に管軸方向に伸びる逆流防止リブを設け、特定の横枝管から継手管本体に流入した排水が他の横枝管に逆流しないように構成した排水集合管が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排水縦管と横枝管を接続した排水集合継手において、排水縦管から排水集合継手の内部に勢い良く排水が流れ込む場合、排水流が筒型の水膜を形成したまま排水集合継手の内部を流れ落ちることがあることを、本願発明者が見出した。
この場合、筒型の水膜となった排水流が横枝管との接続部を遮るように通過するので、横枝管から排水集合継手に流れ込む排水の障害となるおそれがある。また、場合によっては、排水縦管から排水集合継手に流れた側の排水流が正圧側となり、横枝管から排水集合継手に流れようとする排水流が負圧側となるおそれがあり、横枝管への排水の逆流が生じることも懸念される。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、縦管から継手管本体に流れ込む水の流れに突起により切れ目を生成し、横枝管から継手管本体側に確実に水が流れ込むようにした管継手の提供と排水システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の形態を提案している。
(1)本形態に係る管継手は、上流側の縦管に接続可能な縦管接続部を一端に有し、横枝管に接続可能な横枝管接続部を側面に有する継手管本体を備え、前記継手管本体において、前記横枝管接続部よりも上流側の前記縦管接続部側の内周面に1つ以上の突起が形成されたことを特徴とする。
【0008】
継手管本体の横枝管接続部よりも縦管接続部側の上流側に、内周方向に突出する1つ以上の突起を設けることで、縦管から継手管本体側に筒状の水膜を形成しつつ流れる水の流れに対し、切れ目に相当する分断部分を形成できる。横枝管接続部を介し継手管本体に流れ込もうとする水は、この分断部分を介し継手管本体内に流れ込むことができる。
よって、縦管から継手管本体側に勢い良く水が流入し、継手管本体内に筒状の水膜を生じた場合であっても、横枝管から継手管本体内に支障なく水を流すことができる。このため、横枝管接続部近傍の継手管本体内において内圧が必要以上に高くなることを抑制し、継手管本体から横枝管側への、水の逆流現象を防止できる。
突起を複数設けた場合は、複数の横枝管接続部を設けた構造に対応でき、水膜に複数の切れ目に相当する分断部分を複数生成できるので、複数の横枝管から継手本体内に流れ込む構造の場合の水の導入に対応できる。
【0009】
(2)本形態に係る管継手は、前記継手管本体において、前記横枝管接続部よりも上流側の前記縦管接続部側の部分に装着自在な環状のアダプタを有し、このアダプタの内周面に1つ以上の突起が形成された構成を採用できる。
【0010】
継手管本体の縦管接続部側に装着できるアダプタの内周に1つ以上の突起を設けることにより、継手管本体に特別な改良を加えることなく継手管本体の縦管接続部側に突起を設けることができる。
継手管本体が樹脂一体成型物などの場合、継手管本体に別途突起を設けると、成型に用いる型の形状や型抜きの制約等によって、目的の位置に突起を設けることができない場合がある。しかし、継手管本体と別体のアダプタに突起を設けることで、継手管本体に突起を形成する場合の制約に拘束されることなく目的の位置に突起を形成できる。
アダプタに突起を複数設けた場合は、複数の横枝管接続部を設けた構造に対応でき、水膜に複数の切れ目に相当する分断部分を複数生成できるので、複数の横枝管から継手本体内に流れ込む構造の場合の水の導入に対応できる。
【0011】
(3)本形態に係る管継手において、前記突起を正面に配置するように前記継手管本体の径方向内側から見る場合に前記突起が側面視多角形状であることが好ましい。
【0012】
側面視多角形状の突起であるならば、多角形の角部を構成する突起の斜面を利用し、縦管接続部を介して継手管本体に流れ込む水の流れによる水膜に確実に分断部分を導入することができ、横枝管接続部からの水の流入を可能とする。
【0013】
(4)本形態に係る管継手において、前記継手管本体が多層階の建物の最下層用であることが好ましい。
【0014】
多層階の建物の最下層に設ける継手管本体には上の階の排水がまとまって勢い良く流れ込む場合が多いため、縦管から継手管本体側に筒状をなして勢い良く流下する水の流れによる水膜を生じやすい。よって、横枝管接続部に近接する継手管本体内が正圧となりやすく、横枝管側への逆流発生のリスクが高くなる。しかしながら、縦管接続部から継手管本体に流れ込む水膜に突起による分断部分を導入することで、横枝管接続部から継手管本体側への水の流れを阻害することのない構造を提供できる。
【0015】
(5)本形態に係る管継手において、前記継手管本体の他端側に直管が接続されたことが好ましい。
【0016】
多層階の建物の最下層に設ける継手管本体には直管が接続される。この直管を排水路などに接続するならば、直管を介して排水を流し、排水を排水路に排出できる。
【0017】
(6)本形態に係る排水システムは、(1)~(5)のいずれかに記載の管継手が、前記一端側の縦管接続部を上流側の第1の縦管に接続し、他端側を下流側の第2の縦管に接続して配置されたことを特徴とする。
【0018】
継手管本体の横枝管接続部よりも縦管接続部側の上流側に、内周方向に突出する1つ以上の突起を設けることで、縦管から継手管本体側に筒状の水膜を形成しつつ流れる水の流れに対し、分断部分を形成できる。横枝管接続部を介し継手管本体に流れ込もうとする水は、この分断部分を介し継手管本体内に流れ込むことができる。
よって、第1の縦管から継手管本体側に勢い良く水が流入し、継手管本体内に筒状をなして流下する水膜を生じた場合であっても、横枝管から継手管本体内に支障なく水を導入することができる。このため、縦管接続部と横枝管接続部の両方から、継手管本体内へ支障なく水を導入することができ、継手管本体に導入した水を継手管本体に接続した第2の縦管側に排出できる。
また、横枝管接続部近傍の継手管本体内において内圧が必要以上に高くなることを抑制できるので、継手管本体側から横枝管側への水の逆流現象を防止することができる。
【0019】
(7)本形態に係る排水システムにおいて、前記継手管本体の他端側に下水本管または浄化槽に接続される横主管が接続された構成を採用できる。
【0020】
本形態に係る排水システムでは、横枝管側への逆流を防止しつつ、縦管からの排水と横枝管からの排水を確実に継手管本体に導入して横主管側に排水することができ、横主管を介し排水を下水本管あるいは浄化槽に確実に排出できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、縦管接続部から継手管本体側に筒状をなして流下する水膜を生じたとしても、突起により水膜に分断部分を形成することができる。横枝管接続部から継手管本体に流れ込もうとする水は、この分断部分を介し継手管本体内に流れ込むことが可能となる。
このため、横枝管接続部近傍の継手管本体内において内圧が必要以上に高くなることを抑制し、横枝管側への水の逆流を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の管継手を備えた排水システムの側面図であって、縦管と集合継手及び横枝管と横主管を側面視した図である。
【
図3】同管継手に組み込まれている突起突きアダプタの平面図である。
【
図5】同アダプタに形成される突起の幅と高さの関係を示す図である。
【
図6】同アダプタに形成される突起を羽根形状とした場合の各例を示すもので、(a)は第1の例を示す斜視図、(b)は第2の例を示す斜視図である。
【
図7】同アダプタに形成される突起を屋根形状とした場合の各例を示すもので、(a)は第1の例を示す斜視図、(b)は第2の例を示す斜視図、(c)は第3の例を示す斜視図、(d)は第4の例を示す斜視図である。
【
図8】同アダプタに形成される突起を三角錐とした場合の一例を示す斜視図である。
【
図9】実施例において用いた三角錐型の突起を内周方向に4つ備えたアダプタを示す平面図である。
【
図10】実施例において用いた屋根型の突起を内周方向に4つ備えたアダプタを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1~
図4を参照し、本発明の一実施形態に係る管継手を建物の排水システムに適用した場合の一例について説明する。
図1に示すように、本実施形態の排水システム10は、高層マンションや商業ビル等の多層階建物(建物)に適用された一例である。この種の建物においては、各階の便器、化粧台、流し台等の衛生機器(排水設備)から排出される排水が、排水路を構成する立主管20に図示略の横枝管を介し流入される。
図1に示すように排水システム10は、立主管(第1の縦管)20と、該立主管20の下端部に接続された集合継手21と、集合継手21の下端部9に接続された下部接続管(第2の縦管:直管)22と、下部接続管22に順次接続された脚部継手23と、横主管25を備えている。
【0024】
立主管20は、各階層(床スラブ)を通過するように設けられている。各排水設備からの排水は、立主管20に沿って多層階建物の最下層まで流下し、立主管20の下端部に接続された集合継手(管継手)21と下部接続管22と脚部継手23を介し横主管25に流れ込み、最終的に下水本管や浄化槽等に送られる。排水システム10は、各階の排水設備からの排水を建物の外部に排出する。
立主管20は、各階に設けられた排水設備からの排水を集合させて下方に導く。立主管20は、各階に対応して複数設けられた集合継手と、上下方向の隣り合う階に配置された集合継手を接続する図示略の第1配管を備えている。
【0025】
複数の集合継手のうち、
図1に示すように、建物の最下層に設けられた最下層用の集合継手21に、後述する本実施形態の特徴的な構成が適用されている。
集合継手21は筒状の継手管本体26を有し、その外周面には、周回りに3つの枝管接続部27が形成され、それぞれに横枝管(横管)28が接続されている。
横枝管28は、排水設備から排出された排水を枝管接続部27を介し継手管本体26の内部に導く。継手管本体26の上端部には第1の縦管接続部26Aが形成され、継手管本体部26の下端部には第2の縦管接続部26Bが形成されている。
【0026】
継手管本体26の第1の縦管接続部26Aに、アダプタ38を介し立主管20の下端部が接合され、継手管本体26の第2の縦管接続部26Bに内径均一の下部接続管(直管)22が接続されている。下部接続管22の下端部には脚部継手23が接続されている。脚部継手23は側面視L字型の曲り管部30の両端部に受口部31を有している。
【0027】
下部接続管22は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂と熱膨張性耐火材料である熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる。すなわち、下部接続管22は、熱膨張性耐火材料を含む樹脂組成物を押出成形することによって作製される。
これらの熱膨張性耐火材料を設けておくと、床スラブに設けた貫通孔に下部接続管22を挿通するように配置した場合、耐火性を発揮できる。
一例として、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、熱膨張性黒鉛を1~20重量部の割合で含む樹脂組成物からなる単層構造を採用できる。あるいは、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、熱膨張性黒鉛を1~20重量部の割合で含む樹脂組成物からなる熱膨張性耐火層と、この熱膨張性耐火層の内外面を覆う熱膨張性黒鉛非含有のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の被覆層とからなる3層構造であるものでも良い。3層構造の場合、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、熱膨張性黒鉛を6~18重量部の割合がより好ましく、10~16重量部の割合がさらに好ましい。熱膨張性黒鉛が1重量部未満であると、燃焼時に、十分な熱膨張性が得られず、所望の耐火性が得られないおそれがある。熱膨張性黒鉛が20重量部を超えると、加熱により熱膨張し過ぎたり、樹脂成分が不足するために、残渣が脆くなり、その形状を保持できずに残渣が貫通孔から脱落し、耐火性が低下してしまうおそれがある。
なお、下部接続管22を塩化ビニル樹脂等の通常の樹脂で形成し、下部接続管22の外周面に熱膨張シートを巻き付けてもよい。
【0028】
横主管25は、立主管20を流れた排水を水平方向に導いて浄化槽や敷地外の下水本管などに排出する。
図1に示す構成において、横主管25は、第2配管32と、掃除用継手33を備えている。第2配管31は、脚部継手23の一方の受け部31に接続されている。
曲り管部30の底部側には支持脚35が形成され、この支持脚35が図示略の支持金具等により支持される。
【0029】
集合継手21の継手管本体26において、その上端側であって、枝管接続部27より上部側に周方向に90゜ピッチで径方向の外側に突出する突起部36が4組形成されている。各突起部36は、周方向に沿って伸びるリブが管軸方向(上下方向)に等間隔で2つ配列された状態で設けられている。
突起部36の各リブは、円周方向に同じ長さで延在し、その延長寸法は任意に設定することができる。これらの突起部36は、図示略の支持金具等で集合継手21を支持する場合に支持金具を係止するためになどの目的で利用される。本実施形態において、突起部36は必須ではなく、省略しても差し支えない。
【0030】
横枝管接続部27は、
図2に示すように、継手管本体26の周壁から径方向の外側に向けて延在されている。本実施形態の例では横枝管接続部27は3つ形成されている。
3つの横枝管接続部27のうち、2つが継手管本体26の中心軸Oを挟む位置に各別に配置されている。残り1つの横枝管接続部27は、径方向のうち、前記2つの横枝管接続部27それぞれが伸びる方向と、上面視で90゜をなす方向に延在されている。
なお、横枝管接続部27の数量および延在する方向は、この例のような形態に限らず、任意に変更することができる。図の例では横枝管接続部27に横枝管28が各別に接続されているが、一部の横枝管接続部27はブッシュ等の閉塞部材で必要に応じ、閉じられた構成でも良い。
【0031】
継手管本体26は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、非膨張性黒鉛や水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの難燃剤を0.1~10.0重量部の割合で含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなる。継手管本体26は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を成形機のキャビティ内に射出充填されて得られる。
【0032】
集合継手21には、
図2に示すように、立主管20の下端部が接続される継手管本体26の上端の縦管接続部26Aに、縦パッキン37を備えた筒型のアダプタ38が装着され、更に、アダプタ38の上端部に端部処理部材39が嵌着されている。
端部処理部材39はアダプタ38の上端部に嵌着されるリング形状を有し、立主管20の下端部を挿通できる挿通孔39Aが形成されている。アダプタ38の外周面上端部に、その周方向に沿って所定厚さで延在する係合突部38aが形成されている。この係合突部38aの外周を囲むようにリング状の端部処理部材39を嵌め込むことで、端部処理部材39がアダプタ38の上端部に嵌着されている。
【0033】
縦パッキン37は、アダプタ38の内部に嵌め込まれた筒体37aを有し、筒体37aの内周面に突出するリップ部37bを有している。
縦パッキン37は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等の通常排水設備に使用されているゴム材料からなり、上端部内周に設けたリップ部37bが立主管20の下端部の外周面に水密に密着できるパッキンである。
また、筒体37aの下端部には筒体37aの下端部内径を絞る内周段部37cが形成されている。この内周段部37cは縦パッキン37の内部に立主管20の下端部を挿入した場合に、立主管20のストッパーとして機能する。
【0034】
アダプタ38は、外周壁下部に嵌合部38bを有する。この嵌合部38bはアダプタ38の外周壁上部38cより小径であり、継手管本体26の上部側の縦管接続部26Aに嵌合部38bを挿入することでアダプタ38を継手管本体26の縦管接続部26Aに嵌合できる。
アダプタ38の内周部であって、嵌合部38bの下端側に内向きリング状の内周フランジ40が形成されている。この内周フランジ40の内周縁に管軸方向に所定の長さで延在するリング状の延出片40Aが形成され、この延出辺40Aの内周周りに所定の間隔で複数の突起41が形成されている。
【0035】
本実施形態において、内周フランジ40の張出長さ(筒型の嵌合部38bの内周面から嵌合部38bの軸心に向かう径方向に沿う内周フランジ40の突出長さ)は、縦パッキン37に設けた内周段部37cを支持できる張出長さに設定されている。従って、内周フランジ40の内径は、縦パッキン37における内周段部37cの内径と略同一であり、縦パッキン37に挿入される立主管20の下端部の内径と略同一である。
内周フランジ40は、立主管20からアダプタ38と縦管接続部26Aを介して継手管本体26に流れ込む排水流を内周フランジ40の内周縁に沿って絞りつつ継手管本体26に導入する。内周フランジ40の内周縁を通過する排水流の流れによって継手管本体26に流れ込む排水流は筒状の水膜を生成しつつ下方に流れる。
【0036】
本実施形態の突起41は、内周フランジ40の内周方向に一定間隔で6つ形成されている。即ち、この例の場合、突起41が内周フランジ40の内周方向に60゜間隔で6つ形成されている。突起41は、内周フランジ40の周方向に等間隔で均等に形成されていることが好ましい。
突起41は、
図3、
図4に一例を示すようにアダプタ38の開口部をその中心軸線方向から見た場合の平面視矩形状、かつ、アダプタ38の軸心側から突起41を正面に配置するようにアダプタ38の内周面を見た場合の側面視二等辺三角形状に形成されている。 本形態の突起41は、底面41aと2つの斜面41b、41bを有する側面視二等辺三角形状に形成されている。また、2つの斜面41b、41bが交わる頂部にはアール部41cが形成されている。このアール部41cは、2つの斜面41b、41bが交わる頂部において、突起41の基端側より、突起41の先端側が徐々に大きな曲率となるような傾斜面により画成されている。
【0037】
本実施形態の構造において、継手管本体26を接続する立主管20の呼び径が60~180程度の建物用汎用サイズである場合、突起41の高さ(h)は5~15mmの範囲を選択することができ、突起41の幅(W)は8~21mmの範囲を選択することができる。また、突起41の高さ(h)は10~15mm程度であることがより好ましい。
突起41の高さ(h)とは、突起41を内周フランジ40の中心側から側面視した場合の突起41の高さ(mm)であり、換言すると、継手管本体26の軸線に平行方向に沿う突起41の長さを意味する。突起41の幅(W)とは、内周フランジ40の周方向に沿う突起41の幅(長さ:mm)を意味する。
【0038】
突起の高さについては、水膜に切れ目を入れるためにある程度の高さが必要であるが、切れ目を入れることができる範囲内においてはできるだけ小さく設定することが望ましい。突起の幅については、水膜に切れ目を入れるために、ある程度の幅が必要である。上述の範囲であれば、問題は無い。
なお、突起41のサイズを必要以上に大きくすると排水とともに異物等が流れてきた場合に、突起41に異物が引っ掛かるおそれがある。このため、突起41の高さと幅を上述の範囲とすることが好ましく、突起41の上流側の部位にアール部41cを設けることで異物の引っ掛かかりを抑制できる。
【0039】
図5に突起41の概形モデル形状と、幅(W)と高さ(h)を表記しておく。なお、本実施形態の突起41において、幅(W)と高さ(h)に直交する方向の突起41の長さ(N)は特に制限が無い。本実施形態においてこの長さ(N)は管軸方向に平行な突起41の長さに相当する。
突起41は、内周フランジ40の内周縁を通過して落下する筒状の排水流の水膜に切れ目を入れて水膜に分断部分を生成するために設けられている。
突起41の高さと幅は排水流の水膜に切れ目を入れて分断部分を生成するために、側面視三角形状に形成する場合は、上述の範囲であることが好ましい。
また、内周フランジ40の内周に形成する突起41の個数は、複数であれば任意の個数で良いが、継手管本体26に形成する横枝管接続部27の個数に対応し、横枝管接続部27の設置個数より多く設けることが好ましい。横枝管接続部27の設置個数が1~4程度の通常の構成であれば、4~8個程度形成することができる。
【0040】
アダプタ38、縦パッキン37、端部処理部材39は、予め組み立てて一体化した後、アダプタ38の嵌合部38aを継手管本体26の縦管接続部26Aに嵌合接着して一体化することができる。
アダプタ38と端部処理部材39は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、非膨張性黒鉛や水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの難燃剤を0.1~10.0重量部の割合で含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなる。アダプタ38と端部処理部材39は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を個々に成形機のキャビティ内に射出充填されて得られる。
【0041】
継手管本体26の内部には、特定の横枝管接続部27の開口から流入した排水を他の横枝管接続部27に流入させないための、縦リブ45が複数形成されている。また、継手管本体26の底部側には排水流を旋回流とするための旋回羽根46が形成されている。
なお、本実施形態では継手管本体26の上部に突起41を備えており、正圧が十分に抑制されるため、旋回羽根46は設けない構成としてもよい。さらに、脚部継手23の内部にも正圧の発生を抑制するための旋回羽根が設けられることがあるが、本実施形態では上記の理由から、脚部継手23の内部に旋回羽根を設けない構成とすることができる。
【0042】
図1に示す構成の配水管システム10においては、建物の各階の衛生機器(排水設備)から排出される排水が、排水路の立主管20に各階の横枝管を介し流入する。
立主管20の下端部に到達した排水は、内周フランジ40の内周縁に沿って継手管本体26に流入する。立主管20に沿って落下し、内周フランジ40の内周縁を通過する排水の流量によって、継手管本体26に流れ込む排水流は筒状の水膜を生成しつつ下方に流れる。
内周フランジ40の存在によって継手管本体26に流れ込む排水流は筒状の水膜を構成しつつ下方に流れるが、排水流の水膜は内周フランジ40の内径に応じた外径を有する筒状の水膜となり、横枝管接続部27の開口部側ではこの水膜により横枝管接続部27の開口部が遮られるおそれがある。
【0043】
ここで、内周フランジ40の内周側に6つの突起41が形成されているので、内周フランジ40を通過して流下する水膜に突起41による水膜の切れ目が生じて水膜に分断部分を生じる。
横枝管28を排水が流れ、横枝管接続部27の開口部に排水が到達した場合、この排水は上述の水膜の分断部分を介し継手管本体26内に流れ込むことができる。
このため、
図1に示す排水システム10の構成によれば、立主管20から継手管本体26側に流れてきた排水が水膜を構成したとしても、横枝管28から継手管本体26側に排水が流れ込む場合の障害とならない構成を提供することができる。
よって、
図1に示す構成の配水システム10では、立主管20からの排水と横枝管28からの排水の両方を支障なく継手管本体26内に導いて下流側に排水できる排水システムを提供することができる。
【0044】
本実施形態では、内周フランジ40の内周縁に周回りに6つの突起41を形成しているので、複数の横枝管接続部27を接続した構成であっても、水膜の分断部分のいずれかを横枝管接続部27の開口に隣接させることができる。このため、複数の横枝管28からの排水を確実に継手管本体26に導入することができ、横枝管28からの排水に支障を来さない構成を提供することができる。
【0045】
なお、内周フランジ40を通過する排水の量が少ない範囲では、継手管本体26に流入する排水が生成する水膜の厚さは小さい。この場合、前記水膜は横枝管接続部27の開口から流入しようとする排水の妨げにはなりにくい。
しかし、内周フランジ40を通過する排水量が増加するにつれ、水膜が厚くなるので、横枝管接続部27の開口から流入しようとする排水の妨げとなりやすくなる。このような場合であっても、前述の複数の突起41を設け、水膜に分断部分を生成できるので、横枝管接続部27の開口から流入しようとする排水を継手管本体26の内部に確実に導入できる。
突起41において、その上流側にアール部41cを形成しておくと、排水とともに異物等が流れてきても突起41に異物が引っ掛かることがない。このため、突起41を設けた部分において配管詰まりを生じない。
【0046】
ところで、
図1~
図4に示した実施形態の構成では、側面視二等辺三角形状の突起41を内周フランジ40に設けた構成について説明したが、突起41の形状は
図1~
図4に示す形状に限らない。
内周フランジ40に設ける突起41の形状は、
図6(a)に示す羽根型の突起50、
図6(b)に示す羽根型の突起51であっても良い。
内周フランジ40に設ける突起の形状は、
図7(a)に示す屋根型の突起52、
図7(b)に示す屋根型の突起53、
図7(c)に示す屋根型の突起54、
図7(d)に示す屋根型の突起55であっても良い。
【0047】
図6(a)に示す突起50は、長方形状の底面50aの4辺からそれぞれ同じ傾斜角度で延出する4つの斜面50bを有し、各斜面50bの先端側にこれら斜面に対し傾斜する4辺形状の先端面50cを形成した羽根型の突起である。
図(b)に示す突起51は、長方形状の底面51aの4辺からそれぞれ同じ傾斜角度で延出する4つの斜面51bを有し、4つの斜面51bの内、1つの斜面51bを先細り型に形成し、各斜面の先端側にこれら斜面に対し傾斜する三角形状の先端面51cを形成した羽根型の突起である。
【0048】
図7(a)に示す突起52は、長方形状の底面52aに対し両短辺側から同じ傾斜角で延在する2つの斜面52bを形成した側面視2等辺三角形状の突起である。
図7(b)に示す突起53は、長方形状の底面53aに対し、一方の短辺側から90°の角度で立ち上がる垂直面53bと他方の短辺側から90°未満の底角で傾斜する斜面53cを有する側面視直角三角形状の突起である。
【0049】
図7(c)に示す突起54は、長方形状の底面54aに対し両短辺側から同じ傾斜角で延在する2つの斜面54bを有する側面視2等辺三角形状の突起において、2つの斜面54bで挟まれる正面54cの上部に所定の曲率半径のアール部54dを形成した突起である。
図7(d)に示す突起55は、長方形状の底面55aに対し、一方の短辺側から90°の角度で立ち上がる垂直面55bと他方の短辺側から90°未満の底角で傾斜する斜面55cを有する側面視直角三角形状の突起に対し、垂直面55bと斜面55cで挟まれる正面55dの上部に所定の曲率半径のアール部55eを形成した突起である。
【0050】
また、内周フランジ40に設ける突起の形状は、
図8に示す三角錐型の突起56であっても良い。
これら羽根型の突起50、51と屋根型の突起52~55と三角錐型の突起56を対比すると、三角錐型の突起56は排水性能の面で良好であるのに対し、羽根型の突起50、51と屋根型の突起52~55は更に良好な排水性を有する。
また、配管のつまり発生の有無に関し、羽根型の突起50、51と屋根型の突起52~55では、アール部を設けることが望ましい。三角錐型の突起56はそのままの形状で配管つまり発生の有無の面では優れていると考えられる。
【0051】
ところで、本形態に適用できる突起は、これまで説明した突起41、50~56の形状には限らない。例えば、側面視四角形状、5角形状、6角形状などの多角形状であっても良い。それらの多角形状の場合、水膜に良好に切れ目を形成するために、いずれかの角部を排水流の流れの上流側に向けて配置し、角部を構成する2つの斜面に沿って排水を流して水膜に切れ目を入れる形状とすることが望ましい。
【0052】
なお、突起41、50~56を設ける位置は、平面視、横管接続部27の開口に位置を合わせることが望ましいが、突起をアダプタ38の周方向に複数設けた場合は周方向に位置が多少ずれていても、差し支えない。横管接続部27を1つのみ設ける場合に、突起を1つのみ設ける場合もあるが、その場合は、平面視した場合に横管接続部27の開口に突起を位置合わせして設置することが望ましい。
【実施例】
【0053】
「実施例1」
縦管と継手管本体との間に介挿されるアダプタとして、樹脂一体成型物であり、
図9に示す筒状であり、外径153mm、内径130mm、内周フランジの内径101mmのアダプタを作成した。このアダプタには、内周フランジの内周側に、三角錐型の突起を内周周りに4つ等間隔(内周回りに90°間隔)で形成した。突起のサイズは、高さ15mm、幅18mmとした。
「実施例2」
縦管と継手管本体との間に介挿されるアダプタとして、樹脂一体成型物であり、
図10に示す筒状であり、外径153mm、内径130mm、内周フランジの内径101mmのアダプタを作成した。このアダプタには、内周フランジの内周側に、側面視2等辺三角形状の屋根型の突起を内周周りに4つ等間隔(内周回りに90°間隔)で形成した。突起のサイズは、高さ15mm、幅18mmとした。
【0054】
実施例1と実施例2のアダプタをそれぞれ個々に立主管に差し込み嵌合し、アダプタを下に向けて立主管を鉛直に配置し、立主管に5L/sの割合で水を流し、アダプタの真下でアダプタの下端から円筒状に落下する水膜に生成する切れ目の幅を測定した。
実施例1の構成と実施例2の構成の場合、いずれもアダプタの直下において、筒状に水が落下して生成する水膜に幅約50mmの切れ目が4箇所生成されていることを確認できた。
【0055】
従って、実施例1、2の構成であるならば、水膜に確実に切れ目を入れることができ、水膜の分断部分を生成できるので、
図1に示す排水システムに適用した場合、継手管本体内に水が流れて水膜を形成したとしても、横枝管から継手管本体側に確実に排水を流すことができることが分かった。
これに対し、比較例1として、実施例1と同等サイズのアダプタであり、内周フランジのみを設け、突起を略した構造のアダプタを用いて実施例1と同等の試験を行ったところ、アダプタの真下に生成する水膜に切れ目は発生しなかった。
【0056】
次に、実施例1、2と比較例1のアダプタを用い、
図1に示す構成の排水システムに組み込み、5L/sの水を流した場合に横管接続部近傍の正圧値の測定を行った。その結果を以下に記載する。
実施例1…260Pa、実施例2…260Pa、比較例1…460Pa。
【0057】
以上の対比結果から明らかなように、アダプタの内周方向に定間隔で突起を設けることにより、突起を設けていないアダプタを用いた場合に比較し、配管内部の正圧値を低くできることが判明した。
【0058】
また、以上説明した本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、更に、前記した実施形態を適宜組み合わせてもよいのは勿論である。
更に、これまで説明した実施形態においては、本発明を排水集合継手10に適用した例について説明したが、本発明は排水集合継手ではない一般的な継手など、各種の管継手に広く適用できるのは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10…排水システム、20…立主管(第1の縦管)、21…集合継手(管継手)、
22…下部接続管(第2の縦管:直管)、23…脚部継手、25…横主管、
26…継手管本体、26A…第1の縦管接続部、26B…第2の縦管接続部、
27…横枝管接続部、28…横枝管、38…アダプタ、40…内周フランジ、
41、50、51、52、53、54、55、56…突起。