(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】温度補償手段があるフレキシブルガイドを備える計時器用調速メンバー
(51)【国際特許分類】
G04B 17/04 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
G04B17/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023105652
(22)【出願日】2023-06-28
【審査請求日】2023-06-28
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニ・ディ ドメニコ
(72)【発明者】
【氏名】バティスト・イノー
(72)【発明者】
【氏名】モハマド フセイン・カーロバイヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・エルフェ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ウィンクレ
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-97417(JP,A)
【文献】特開2022-94312(JP,A)
【文献】特開2015-143673(JP,A)
【文献】スイス国特許出願公開第716434(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04-17/10
G04B 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントの調速メンバー(1、10、20)であって、
バランスのような振動錘と、フレキシブルガイド(2)とを備え、
前記フレキシブルガイド(2)は、可動支持体(3)を前記振動錘に接続して前記振動錘が仮想ピボットを中心の回転運動を行うことを可能にする少なくとも2つの主フレキシブルブレード(9)を備え、
前記調速メンバー(1、10、20)は、前記調速メンバー(1、10、20)を前記計時器用ムーブメントに固定する固定手段(7)に前記可動支持体(3)を接続するように構成している温度補償のための弾性補償デバイス(50)を備え、
前記弾性補償デバイス(50)は、前記調速メンバー(1、10、20)に対する温度の影響を補償するために温度に応じて自身の剛性を適応させるように構成している
ことを特徴とする調速メンバー。
【請求項2】
前記弾性補償デバイス(50)は、前記可動支持体(3)と前記固定手段(7)の間に配置される弾性要素(5)と、温度に応じて前記弾性要素(5)に可変の力又はトルクを与えるための予応力手段(6)とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の調速メンバー。
【請求項3】
前記予応力手段(6)は、前記可動支持体(3)に接続されるばね部を備え、
前記ばね部は、前記可動支持体(3)を利用して前記弾性要素(5)に力又はトルクを伝達し、
前記ばね部、前記可動支持体(3)、及び前記弾性要素(5)は、同じ軸上に配置される
ことを特徴とする請求項2に記載の調速メンバー。
【請求項4】
前記予応力手段(6)は、温度に応じて変形可能な本体(15)を備え、
前記変形可能な本体(15)は、少なくとも一部が前記ばね部と接触している
ことを特徴とする請求項3に記載の調速メンバー。
【請求項5】
前記変形可能な本体(15)は、細長いバイメタル細長材である
ことを特徴とする請求項4に記載の調速メンバー。
【請求項6】
前記ばね部は、前記可動支持体(3)に接続される第1のフレキシブルブレード(11)を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の調速メンバー。
【請求項7】
前記ばね部は、前記第1のフレキシブルブレード(11)に接続される第1の変換機構(33)を備える
ことを特徴とする請求項6に記載の調速メンバー。
【請求項8】
前記予応力手段(6)は、温度に応じて変形可能な本体(15)を備え、
前記変形可能な本体(15)は、前記第1の変換機構(33)と接触している
ことを特徴とする請求項7に記載の調速メンバー。
【請求項9】
前記ばね部は、前記変形可能な本体(15)と前記第1の変換機構(33)の間に配置されるばね(21)を備える
ことを特徴とする請求項8に記載の調速メンバー。
【請求項10】
前記第1の変換機構は、前記第1のフレキシブルブレード(11)に接続される第1の可動要素(12)を備える
ことを特徴とする請求項7に記載の調速メンバー。
【請求項11】
前記第1のフレキシブルブレード(11)に接続される第1の可動要素(29)と、
第2の可動要素(28)と、温度に応じて変形可能な前記変形可能な本体(15)に接続される第2のフレキシブルブレード(31)とを備える弾性部があり、
前記第1の可動要素(29)と前記第2の可動要素(28)は、平行なフレキシブルブレード対(25)によって接続される
ことを特徴とする請求項6に記載の調整用メンバー。
【請求項12】
前記弾性部は、前記変形可能な本体(15)と前記第2の可動要素(28)に接続される第2のフレキシブルブレード(31)を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の調速メンバー。
【請求項13】
前記予応力手段(6)に、例えば細長い
第1の可動要素(29)に、可変の力(49、57)を与えるように、前記予応力手段(6)を調速する手段を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の調速メンバー。
【請求項14】
前記
予応力手段(6)を調速
する手段は、前記変形可能な本体(15)の一端に配置される第2の変換機構(34)を備え、
前記可変の力(57)は、前記第2の変換機構(34)に与えられる
ことを特徴とする請求項13に記載の調速メンバー。
【請求項15】
前記フレキシブルガイド(2)の2つの前記主フレキシブルブレード(9)は、交差している
ことを特徴とする請求項1に記載の調速メンバー。
【請求項16】
前記調速メンバー(1、10、20)は、前記振動錘を除いて実質的に同じ平面内に延在している
ことを特徴とする請求項1に記載の調速メンバー。
【請求項17】
前記弾性要素(5)は、前記可動支持体(3)を前記固定手段(7)に接続する非交差ブレード対(4)を備える
ことを特徴とする請求項
2に記載の調速メンバー。
【請求項18】
請求項1に記載の調速メンバー(1、10、20)を備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償手段があるフレキシブルガイドを備える計時器用調速メンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
今日の機械式の携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の多くは、バランスばねとスイス式レバーエスケープを搭載している。バランスばねは、携行型時計のタイムベースを構成する。また、バランスばねは、共振器や調速メンバーとも呼ばれる。
【0003】
エスケープは、主に、共振器の往復運動を維持すること、この往復運動をカウントすること、の2つの機能を発揮する。
【0004】
調速メンバーを構成するためには、慣性要素と、ガイド要素と、弾性戻し要素が必要である。伝統的に、バランスによって形成される慣性要素に対して、渦巻きばねが弾性戻し要素として機能する。このバランスは、ピボットによって回転ガイドされ、このピボットは、概して、ルビー製のプレーンベアリング内にて回転する。
【0005】
現状は、フレキシブルガイドを弾性戻しばねとして用いて、仮想ピボットを形成している。仮想ピボットを用いるフレキシブルガイドによって、計時器用共振器を大幅に改良することが可能となる。最も単純なものは、概して垂直に、互いに交差するまっすぐなブレードがある2つのガイドデバイスによって構成する交差型ブレードガイドである。これらの2つのブレードは、2つの異なる平面内にある3次元的なものであったり同じ平面内にあってその交差点にて溶接されるような2次元的なものであったりする。しかし、非交差型のまっすぐなブレードを備えるRCC(リモートセンターコンプライアンス)タイプの非交差ブレードガイドも存在する。このような共振器は、欧州特許文献EP2911012、EP14199039、EP16155039に記載されている。
【0006】
しかし、このような機械式共振器は、動作中に外部パラメーターの変化によって外乱を受け、このことによって共振器の振動数が変動することがある。このようなパラメーターは、例えば、温度、圧力、湿度、重力である。共振器の振動数が変動すると、時間の測定に誤差が発生する。
【0007】
スイス特許文献CH704687は、渦巻きばねと、温度のような特定のパラメーターに起因する渦巻きばねの変形を補正するためのバランスばねスタッドの位置を補正するメンバーとを備える調速メンバーについて記載している。
【0008】
しかし、このような補正メンバーは、フレキシブルガイドに適応させることが容易ではないばかりか、必要な精度を得ることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フレキシブルガイドに適応可能な精密な温度補償手段がある、フレキシブルガイドを備える計時器用調速メンバーを提供することによって、前記課題のすべて又は一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、計時器用ムーブメントの調速メンバーに関し、この調速メンバーは、バランスのような振動錘と、フレキシブルガイドとを備え、前記フレキシブルガイドは、可動支持体を前記振動錘に接続して前記振動錘が仮想ピボットを中心の回転運動を行うことを可能にする少なくとも2つの主フレキシブルブレードを備える。
【0011】
本発明は、前記調速メンバーが、前記調速メンバーを前記計時器用ムーブメントに固定する固定手段に前記可動支持体を接続するように構成している温度補償のための弾性補償デバイスを備え、前記弾性補償デバイスが、前記調速メンバーに対する温度の影響を補償するために温度に応じて自身の剛性を適応させるように構成している点で画期的である。
【0012】
本発明によって、予応力手段は、温度に応じて弾性要素に可変の力又はトルクを与え、温度が著しく変化しても調速メンバーが相当に精密な動作を維持するようにする。なぜなら、温度が変わると、予応力手段が弾性要素に与える力又はトルクを変えて、フレキシブルガイドの剛性が変わるからである。フレキシブルガイドの剛性を変えることで、調速メンバーの動作が調整される。これによって、温度が変わると、この変化に合わせて調速メンバーの動作が調整されるように弾性要素が機械的に衝撃を受ける。
【0013】
この弾性要素は、取り付け部の剛性を変えて、共振器のフレキシブル性を大きくする。したがって、共振器の実効的な剛性は、フレキシブルガイドの剛性と弾性要素の剛性によって構成される。可変の力又はトルクによって、好ましくはフレキシブルガイドに予応力を与えずフレキシブルガイドの端を動かすことなく、弾性要素に予応力を与えることが可能になる。弾性要素に予応力を与えることによって弾性要素の剛性は変わるが、フレキシブルガイドの剛性は変わらないままである。なぜなら、フレキシブルガイドには予応力が与えられず、その端が動かないからである。
【0014】
弾性要素の剛性を変えることによって、共振器の剛性(フレキシブルガイドの剛性と弾性要素の剛性)が変わり、これによって、共振器の動作が変わる。弾性要素は、好ましくは、フレキシブルガイドよりも剛性が高く、全体の剛性に占める弾性要素のフレキシブル性の割合は、フレキシブルガイドよりも小さい。したがって、弾性要素の剛性を変えると、共振器全体の剛性が変わり、これによって、共振器の動作が細かく制御され、タイムベースの振動数を精密に調整することが可能となる。このようにして、高い精度の温度に応じた動作の維持が可能となる。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、前記弾性補償デバイスは、前記可動支持体と前記固定手段の間に配置される弾性要素と、温度に応じて前記弾性要素に可変の力又はトルクを与えるための予応力手段とを備える。
【0016】
本発明の特定の実施形態において、前記予応力手段は、前記可動支持体に接続されるばね部を備え、前記ばね部は、前記可動支持体を利用して前記弾性要素に力又はトルクを伝達し、前記ばね部、前記可動支持体、及び前記弾性要素は、同じ軸上に配置される。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、前記予応力手段は、温度に応じて変形可能な本体を備え、前記変形可能な本体は、少なくとも一部が前記ばね部と接触している。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、前記変形可能な本体は、細長いバイメタル細長材である。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、前記ばね部は、前記可動支持体に接続される第1のフレキシブルブレードを備える。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、前記ばね部は、前記第1のフレキシブルブレードに接続される第1の変換機構を備える。
【0021】
本発明の特定の実施形態において、前記変形可能な本体は、前記第1の変換機構と接触している。
【0022】
本発明の特定の実施形態において、前記ばね部は、前記変形可能な本体と前記第1の変換機構の間に配置されるばねを備える。
【0023】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の変換機構は、前記第1のフレキシブルブレードに接続される第1の可動要素を備える。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、前記第1のフレキシブルブレードに接続される第1の可動要素と、前記第2の可動要素と、温度に応じて変形可能な前記変形可能な本体に接続される第2のフレキシブルブレードとを備える弾性部があり、前記第1の可動要素と前記第2の可動要素は、平行なフレキシブルブレード対によって接続される。
【0025】
本発明の特定の実施形態において、前記弾性部は、前記変形可能な本体と前記第2の可動要素に接続される第2のフレキシブルブレードを備える。
【0026】
本発明の特定の実施形態において、前記調速メンバーは、前記予応力手段に、例えば細長い前記第1の可動要素に、可変の力を与えるように、前記予応力手段を調速する手段を備える。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、前記調速手段は、前記変形可能な本体の一端に配置される第2の変換機構を備え、前記可変の力は、前記第2の変換機構に与えられる。
【0028】
本発明の特定の実施形態において、前記フレキシブルガイドの2つの前記主フレキシブルブレードは、交差している。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、前記調速メンバーは、前記振動錘を除いて実質的に同じ平面内に延在している。
【0030】
本発明の1つの特定の実施形態において、前記弾性要素は、前記可動支持体を前記固定手段に接続する非交差ブレード対を備える。
【0031】
本発明は、さらに、このような調速メンバーを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0032】
添付の図面を参照しながら例としてのみ与えられるいくつかの実施形態を読むことによって、本発明の目的、利点及び特徴が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る温度補償手段を備える調速メンバーを概略的に示している平面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る温度補償手段を備える調速メンバーを概略的に示している平面図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る温度補償手段を備える調速メンバーを概略的に示している平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1~3は、本発明に係る調速メンバー1、10、20の3つの実施形態を示しており、この調速メンバー1、10、20は、調速メンバー1、10、20における熱変動を補償するように構成している弾性補償デバイス50を備える。このような調速メンバー1、10、20は、計時器用ムーブメント内において調速するように構成するように意図されている。
【0035】
図1~3の3つの実施形態において、調速メンバー1、10、20は、フレキシブルガイド2と振動錘を備え、この振動錘は、例えば、環状バランスや、主アームと、その中央のアームの両側に延在している2つの端がある骨の形(I字状)をしたメンバーであり、この振動錘は図示していない。
【0036】
好ましくは、調速メンバー1、10、20は、振動錘を除いて、実質的に同じ平面内で延在し、振動錘は、その平面と平行な平面内で、好ましくはフレキシブルガイド2の上方で、振動する。
【0037】
フレキシブルガイド2は、2つの主フレキシブルブレード9と、剛性支持体3とを備える。フレキシブルガイド2は、調速メンバー1、10、20の主軸に実質的に垂直な対称軸に沿って延在している。フレキシブルブレード9は、まず、フレキシブルガイド2の剛性支持体3に結合し、次に、振動錘を関連づけるように意図されたファスナー8に結合する。フレキシブルガイド2の2つの主フレキシブルブレード9は、交差しており、好ましくは、まっすぐで同じ長さである。
【0038】
剛性支持体3はU字状であり、主フレキシブルブレード2は、U字の底部の内側に接続され、ファスナー8までU字の外側に延在する。
【0039】
本発明によると、調速メンバー1、10、20は、温度を補償するための弾性補償デバイス50を備え、この弾性補償デバイス50は、剛性支持体3の両側に配置されて、調速メンバー1、10、20を計時器用ムーブメントに固定する固定手段7に剛性支持体3を接続する。この固定手段7は、例えば、プレートに組み付けられるように意図された細長い本体である。
【0040】
弾性補償デバイス50は、温度に応じて自身の剛性を適応させて、調速メンバー1、10、20に対する温度の影響を補償するように構成している。弾性補償デバイス50は、好ましくは、交差した主フレキシブルブレード9よりも剛性が大きい。
【0041】
弾性補償デバイス50は、剛性支持体3と固定手段7の間に配置される弾性要素5と、温度に応じて弾性要素5と剛性支持体3に可変の力又はトルクを与えるための予応力手段6とを備える。
【0042】
弾性要素5は、剛性支持体3を固定手段7に接続する非交差ブレード対4を備える。弾性要素5は、U字の外側の第1の側に接続し、フレキシブルガイド2に対して垂直に延在している。非交差ブレード4どうしは、剛性支持体3から固定手段7まで移るに従って離れるように延在している。
【0043】
予応力手段6は、U字における外側の第2の側に接続されるフレキシブルブレード11があるばね部を備える。この第1のフレキシブルブレード11は、フレキシブルガイド2に対して垂直に延在している。
【0044】
図1の第1の実施形態において、予応力手段6のばね部は、第1の変換機構33を備え、この第1の変換機構33には、L字形の第1の可動要素12と、ムーブメントのプレートに対して不動な第2の支持体13がある。第1の可動要素12は、L字の第1のアームの端によってフレキシブルブレード11に接続される。L字の第2のアームには、外側の側面にて丸まった突起53がある。また、第1の変換機構33には、L字の第1のアームの内側を第2の不動支持体13に接続する平行なブレード対14がある。したがって、第1の可動要素12は、動くときに平行なブレード14によってガイドされる。
【0045】
予応力手段6には、さらに、温度に応じて熱変形体15があり、この変形可能な本体15は、可動要素12に可変の力又はトルクを与える。
【0046】
この例において、熱変形体15は、温度によって変形が発生するバイメタル細長材である。このバイメタル細長材には、長手方向に延在している本体があり、長手方向にて互いに関連づけられた2つの細長い部分51、52がある。2つの細長い部分51、52はそれぞれ、互いに異なる熱変形特性を有する異なる材料によって形成されている。したがって、熱の影響下で、このバイメタル細長材が横方向に変形し、このバイメタル細長材の一端55が保持され、他端は動くことができ、バイメタル細長材を変形させて、一方の側に曲げることができる。
【0047】
バイメタル細長材は、第1の自由部分54がL字の第2のアームにある突起53に接触するように、可動要素12に対して垂直に配置される。保持された端55は、第2の変換機構34によって保持され、この第2の変換機構34は、第2の可動要素18と、ムーブメントのプレートに対して不動である第3の支持体19に第2の可動要素18を接続する平行な第2のフレキシブルブレード対17とを備える。第2の可動要素18は、L字形であり、L字の一方のアームがバイメタル細長材の保持された端55を支持し、かつ、第2のブレード対17のブレードが第2のアームの内面56を第3の不動支持体19に接続する。第2のブレード対17のブレードは、予応力手段6がアイドル位置にあるときに、バイメタル細長材に対して垂直に配置される。
【0048】
温度が変わった場合、ここではバイメタル細長材である変形可能な本体15が曲がったりまっすぐになったりして、第1の自由部分54が突起に力を与え、したがって、第1の変換機構33によってガイドされながら動く第1の可動要素12に力を与える。したがって、第1のフレキシブルブレード11を利用して、弾性要素5は、その剛性、したがって、調速メンバー1の動作、を変える力又はトルクを受ける。
【0049】
バイメタル細長材の長手方向軸と平行に、第2の可動要素18、特に第2のアーム58の端、に力57を与えるために、ねじのような調速手段を追加することができる。このように、バイメタル細長材の有効長を調整して、バイメタル細長材の有効長を調整して、弾性要素5に対する予応力手段6の影響を、特にここでは温度である外部パラメーターに応じて、調整することが可能となる。第2の変換機構34によってガイドされる第2の可動要素18を動かすことによって、突起53と接触する自由部分54が変わり、したがって、バイメタル細長材の有効長が増加したり減少したりする。
【0050】
図2の調速メンバー10の第2の実施形態は、第1の実施形態と類似している。違いは、可動体15に直接接触せず突起がない第1の変換機構33にある。
【0051】
予応力手段6は、さらに、第1の実施形態と同様の突起53を備える可動体22に第1の可動要素12を接続するばね21を備える。このばね21は、フレキシブル性を向上させる。可動体22は、好ましくは、可動体22の運動をガイドする2つの壁23の間に保持される。
【0052】
したがって、突起53は、第1の可動要素12にではなく可動体22にあり、この第1の可動体は、変形可能な本体15と直接接触していない。
【0053】
したがって、バイメタル細長材は、曲がったりまっすぐになったりするときに、ガイド壁23の間を動く可動体22に大きかったり小さかったりする力を与え、ばね21を介して第1の可動要素12に大きかったり小さかったりする力を伝達する。それ以外については、第1の実施形態と同様の動作となる。このように、弾性要素5は、可変の力又はトルクを受け、この力又はトルクは、弾性要素5の剛性、したがって、フレキシブルガイド2の剛性、を変える。
【0054】
図3の第3の実施形態において、弾性要素5に力又はトルクを与えるために、予応力手段6のばね部は、一端がフレキシブルブレード11に接続されフレキシブルブレード11の線上に配置される第1の細長い可動要素29を備える。
【0055】
平行な第1のフレキシブルブレード対25は、第1の可動要素29を第2の可動要素28に接続する。
【0056】
第2の可動要素28は、第1の可動要素29と実質的に平行な第2のフレキシブルブレード31によって熱変形体15に接続される。
【0057】
この実施形態において、熱変形体15は、好ましくは、第2のフレキシブルブレード31と第1の細長い可動要素29に対して垂直に配置されるバイメタル細長材でもある。第2のフレキシブルブレード31は、バイメタル細長材の自由部分の上部に接続され、このバイメタル細長材はその基部で固定支持体32によって保持される。
【0058】
したがって、バイメタル細長材が曲がったりまっすぐになったりするときに、第2のフレキシブルブレード31は、第2の可動要素28に運動を伝達し、この第2の可動要素28は、平行な第2のフレキシブルブレード対25を通して第1の細長い可動要素29に力を伝達する。
【0059】
第1の実施形態と同様に、温度変化によって、弾性要素5の剛性、したがって調速メンバーの動作、を変える。
【0060】
平行な第3のフレキシブルブレード対26は、第2の可動要素28を、ムーブメントのプレートに対して不動な第3の要素27に接続する。平行な第3のフレキシブルブレード対26と第3の可動要素27は、平行な第2のフレキシブルブレード対25と第2の可動要素28に重なり合っている。第2の可動要素28と平行な2つのフレキシブルブレード26は、変換機構を形成し、第2の可動要素28は、第3の不動要素27に対して並進ガイドされて、平行な第2のフレキシブルブレード対25を介して第1の細長い可動要素29に運動を伝達する。したがって、第1の細長い可動要素29は、第1のフレキシブルブレード11を通して、弾性要素5に力又はトルクを伝達する。
【0061】
第1の細長い可動要素29に力49を与えるために、ねじのような調速手段を追加することができる。力49を大きくすることによって、バイメタル細長材の運動は、より弱く第1の可動要素29に伝達され、かつ、力を小さくすることによって、バイメタル細長材の運動は、より強く第1の可動要素29に伝達される。この調速手段によって、温度に応じて予応力手段6の感度を調整することが可能となる。
【0062】
本発明は、さらに、前述のように調速メンバー1、10、20を備える、図示していない計時器用ムーブメントに関する。
【0063】
当然、本発明は、図面を参照しながら説明した実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変異形態を考えることができる。
【0064】
説明した実施形態において、フレキシブルブレードは、好ましくは、まっすぐである。また、同じタイプのフレキシブルブレードは、好ましくは、同じ長さである。フレキシブルブレードは、連続的にフレキシブルであることができ、また、ネック部のような部分のみフレキシブルであることができる。
【符号の説明】
【0065】
1、10、20 調速メンバー
2 フレキシブルガイド
3 可動支持体
4 非交差ブレード対
5 弾性要素
6 予応力手段
7 固定手段
9、11、25、31 フレキシブルブレード
12 第1の可動要素
15 変形可能な本体
21 ばね
28 第2の可動要素
29 第1の可動要素
33 第1の変換機構
34 第2の変換機構
49、57 力
50 弾性補償デバイス