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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】電解装置及び剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 5/00 20060101AFI20241010BHJP
   C25F 7/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C25F5/00
C25F7/00 D
C25F7/00 V
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023129843
(22)【出願日】2023-08-09
(62)【分割の表示】P 2019168269の分割
【原出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2023138726
(43)【公開日】2023-10-02
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】323001683
【氏名又は名称】アサヒプリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176337
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】赤松 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】井伊 喜久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将喜
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F1/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン系アルカリ溶液を収容する電解槽と、
前記電解槽内に配置されたアノードと、
前記電解槽内に配置されたカソードと、
前記アノード及び前記カソード間に電圧を印加するように構成された給電部と、
前記アノード及び前記カソード間に第1電流が生じるように前記給電部を制御する第1制御と、前記アノード及び前記カソード間に前記第1電流よりも小さい第2電流が生じるように前記給電部を制御する第2制御とを少なくとも実行するように構成された制御部と、を備え、
前記アノードは、少なくとも1層の第1金属層と、少なくとも1層の第2金属層とが交互に積層した金属部材を含み、
前記第1金属層は、金、銀、パラジウム又は白金を含み、
前記第2電流の電流密度は、0.01mA/cm 2 ~0.5mA/cm 2 である、電解装置。
【請求項2】
前記第1金属層は無通電状態又は前記第2電流の通電状態で溶解可能であり、
前記第2金属層は前記第1電流又は前記第2電流の通電状態で溶解可能である、請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
少なくとも1層の第1金属層と、少なくとも1層の第2金属層とが交互に積層した金属部材から、前記第1金属層及び前記第2金属層を剥離する剥離方法であって、
前記剥離方法は、アノード及びカソードをシアン系アルカリ溶液に浸漬するステップを含み、
前記アノードは、前記金属部材を含み、
前記剥離方法は、前記アノード及び前記カソード間に第1電流を生じさせるステップと、前記アノード及び前記カソード間に前記第1電流よりも小さい第2電流を生じさせるステップと、をさらに含み、
前記第1金属層は、金、銀、パラジウム又は白金を含み、
前記第2電流の電流密度は、0.01mA/cm 2 ~0.5mA/cm 2 である、剥離方法。
【請求項4】
前記第1金属層は無通電状態又は前記第2電流の通電状態で溶解可能であり、
前記第2金属層は前記第1電流又は前記第2電流の通電状態で溶解可能である、請求項に記載の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置及び剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-102704号公報(特許文献1)は、金又は銀を含む第1金属層と、クロム又はニッケルを含む第2金属層とが交互に積層した金属板から、第1及び第2金属層を剥離する方法を開示する。この金属剥離方法においては、上記金属板がアノード(陽極)とされた状態で、アノード及びカソード間において、通電及び無通電が交互に繰り返される。無通電状態で第1金属層の剥離が行なわれ、通電状態で第2金属層の剥離が行なわれる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-102704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている金属剥離方法によっては、各金属層の剥離を十分に短時間で行なうことができない可能性がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、各金属層の剥離に要する時間をより短くすることが可能な電解装置及び剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従う電解装置は、電解槽と、アノードと、カソードと、給電部と、制御部とを備える。電解槽は、シアン系アルカリ溶液を収容する。アノードは、電解槽内に配置されている。カソードは、電解槽内に配置されている。給電部は、アノード及びカソード間に電圧を印加するように構成されている。アノードは、少なくとも1層の第1金属層と、少なくとも1層の第2金属層とが交互に積層した金属部材を含む。第1金属層は、金、銀、パラジウム又は白金を含む。第2金属層は、クロム又はニッケルを含む。制御部は、アノード及びカソード間に第1電流が生じるように給電部を制御する第1制御と、アノード及びカソード間に第1電流よりも小さい第2電流が生じるように給電部を制御する第2制御とを交互に繰り返すように構成されている。
【0007】
本発明者らは、アノード及びカソード間に第1電流よりも小さい第2電流(微弱電流)が生じている状態であっても、第1金属層が溶解することを見出した。一方、第2金属層は、アノード及びカソード間に電流が生じている場合には溶解するが、アノード及びカソード間が無通電状態である場合には溶解しない。この電解装置においては、アノード及びカソード間に第2電流が生じている状態において第1金属層が溶解するため、第1金属層が溶解しているタイミングにおいても第2金属層が溶解する。したがって、この電解装置によれば、第1金属層が溶解しているタイミングにおいても第2金属層が溶解するため、アノード及びカソード間を無通電状態にして第1金属層を溶解する場合と比較して、短時間で各金属層を金属部材から剥離することができる。
【0008】
上記電解装置において、給電部は、アノード及びカソード間に電圧を印加するように構成された主電源と、アノード及びカソード間に電圧を印加するように構成された補助電源とを含み、上記第1制御においては、主電源及び補助電源の両方がアノード及びカソード間に電圧を印加し、上記第2制御においては、補助電源のみがアノード及びカソード間に電圧を印加してもよい。
【0009】
上記電解装置において、カソードと金属部材とは、平面視において平行に配置されていなくてもよい。
【0010】
カソードと金属部材とが平面視において平行に配置されていない場合には、金属部材上において金属層の剥離状態にムラが生じやすい。たとえば、アノード及びカソード間を無通電状態にして第1金属層を溶解する場合には、第1金属層上に薄い第2金属層が残っている領域において、無通電状態が終了するまで第1金属層の溶解が開始されない。一方、アノード及びカソード間に第2電流を生じさせて第1金属層を溶解する場合には、第2電流が生じた状態で、薄い第2金属層を溶解し、その後、下方の第1金属層の溶解を開始することができる。
【0011】
本発明の他の局面に従う剥離方法は、少なくとも1層の第1金属層と、少なくとも1層の第2金属層とが交互に積層した金属部材から、第1金属層及び第2金属層を剥離する。第1金属層は、金、銀、パラジウム又は白金を含む。第2金属層は、クロム又はニッケルを含む。剥離方法は、アノード及びカソードをシアン系アルカリ溶液に浸漬するステップを含む。アノードは、上記金属部材を含む。剥離方法は、アノード及びカソード間に第1電流を生じさせることと、アノード及びカソード間に第1電流よりも小さい第2電流を生じさせることとを交互に繰り返すステップをさらに含む。
【0012】
この剥離方法においては、アノード及びカソード間に第2電流が生じている状態において第1金属層が溶解するため、第1金属層が溶解しているタイミングにおいても第2金属層が溶解する。したがって、この剥離方法によれば、第1金属層が溶解しているタイミングにおいても第2金属層が溶解するため、アノード及びカソード間を無通電状態にして第1金属層を溶解する場合と比較して、短時間で各金属層を金属部材から剥離することができる。
【0013】
上記剥離方法において、第1電流の大きさは第2金属層を溶解可能な大きさであり、第2電流の大きさは第1金属層及び第2金属層の双方を溶解可能な大きさであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各金属層の剥離に要する時間をより短くすることが可能な電解装置及び剥離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電解装置の概略を示す図である。
図2】電解装置の平面図である。
図3】金属板の断面図である。
図4】金属層の剥離途中における金属板の断面の一例を示す図である。
図5】アノード及びカソード間に印加される電圧の変化を示す図である。
図6】電解装置の動作手順を示すフローチャートである。
図7】変形例における電解装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
[1.電解装置の構成]
たとえば、水晶振動子においては、共振周波数を調整するために、金又は銀等の金属を含む周波数調整膜が形成される。また、周波数調整膜と水晶との密着性を向上させるために、ニッケル又はクロム等を含む中間層が形成される。このような多層構造を有する薄膜の形成においては、薄膜形成箇所のみに孔が設けられたいわゆるメタルマスクが用いられる。メタルマスクは、繰り返し使用されるのが一般的である。メタルマスクの使用が繰り返されると、メタルマスク上には、複数の金属層が形成される。たとえば、メタルマスク上には、金又は銀等を含む層と、ニッケル又はクロム等を含む層とが交互に積層される。
【0018】
各層の積層数が多くなると、メタルマスクの性能が低下する。したがって、メタルマスクの使用が繰り返されると、メタルマスクに積層された各金属層の剥離が必要となる。また、メタルマスクに積層された金属のリサイクルの観点からも、メタルマスクに積層された各金属層の剥離が必要である。
【0019】
図1は、本実施の形態に従う電解装置10の概略を示す図である。詳細については後述するが、電解装置10は、金属板上に形成された複数の金属層を剥離するための装置である。なお、矢印UDLRFBの各々が示す方向は各図面で共通である。
【0020】
図1に示されるように、電解装置10は、電解槽300と、電解液500と、アノード(陽極)100と、カソード(陰極)200と、給電部400と、制御部600とを含んでいる。電解槽300としては、任意の構造の電解槽を使用することができる。電解槽300には、電解液500が充填されている。
【0021】
電解液500としては、シアン系アルカリ溶液を用いることができる。シアン系アルカリ溶液は、水に溶解するシアン化合物を用いたものであれば特に限定されない。たとえば、PbCN、AuCN、AgCN等の水溶液が使用可能であるが、KCN、NaCN等を含むものが特に好ましい。シアン化合物の濃度は、シアン濃度が0.1-30%であることが好ましい。なお、シアン系アルカリ溶液は、PH≧9であることが好ましい。
【0022】
また、シアン系アルカリ溶液は、上記組成とする他、金属層の溶解を促進するための促進剤や部材の保護剤が添加されていることが好ましい。促進剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロ安息香酸等のニトロ化合物及びそれらのアルカリ金属塩並びにこれらの誘導体が使用可能であり、その添加量は1~60g/Lであることが好ましい。さらに、促進剤として酢酸鉛、硼酸鉛、塩化鉛、硝酸鉛、硫酸鉛、エチレンジアミン四酢酸鉛等の鉛化合物及びそれらの水和物が使用可能であり、その添加量は0.1mg/L~3g/Lであることが好ましい。部材の保護剤としては、シュウ酸、マロン酸、グリコール酸、プロピオン酸、ステアリン酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸及びそれらのアルカリ金属塩が使用可能であり、その添加量は1mg/L~10g/Lであることが好ましい。
【0023】
アノード100は、電解精製時に一部が電解液500に浸けられる。アノード100は、たとえば、上述のメタルマスクであり、金、銀、パラジウム又は白金等を含む層と、ニッケル又はクロム等を含む層とが交互に積層した金属板である。アノード100については後程詳しく説明する。
【0024】
カソード200は、電解精製時に一部が電解液500に浸けられる。カソード200は、たとえば、ステンレス又はチタンによって構成される。すなわち、カソード200は、電解液500によって腐食しにくい電極材料によって構成されていればよい。
【0025】
給電部400は、電圧が可変な直流電源であり、アノード100及びカソード200間に直流電圧を印加するように構成されている。給電部400によってアノード100及びカソード200間に電圧が印加されると、アノード100及びカソード200間に電流が生じる。
【0026】
制御部600は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等を含み、給電部400がアノード100及びカソード200間に印加する電圧を制御するように構成されている。たとえば、制御部600は、アノード100及びカソード200間に第1電流が生じるように給電部400を制御する第1制御と、アノード100及びカソード200間に第1電流よりも小さい第2電流(微弱電流)が生じるように給電部400を制御する第2制御とを行なうように構成されている。
【0027】
図2は、電解装置10の平面図である。図2に示されるように、アノード100は、電解ラック110と、複数の金属板(メタルマスク)120とを含んでいる。金属板120は、本発明における「金属部材」の一例である。電解ラック110は、金属製のカゴであり、複数の金属板120を収容するように構成されている。電解ラック110と、複数の金属板120の各々とは、電気的に接続されている。各金属板120とカソード200とは、平面視において平行に配置されていない。たとえば、この例では、各金属板120とカソード200とは、平面視において垂直な方向に配置されている。
【0028】
図3は、金属板120の断面図である。図3に示されるように、金属板120は、ステンレス板122と、複数のクロム層124と、複数の金層126とを含んでいる。金属板120においては、ステンレス板122上に、クロム層124と金層126とが交互に積層されている。なお、クロム層124の厚みは、たとえば、1~10nm/層であり、金層126の厚みは、たとえば、100~300nm/層である。
【0029】
[2.電圧印加タイミング]
一般的に、電解液500中において、金層126は、無通電状態で溶解することが知られている。また、電解液500中において、クロム層124は、通電状態で溶解する一方、無通電状態では溶解しないことが知られている。したがって、クロム層124と金層126とが交互に積層した金属板から、クロム層124と金層126とを剥離するためには、アノード及びカソード間を通電状態にすることと、アノード及びカソード間を無通電状態にすることとが交互に行なわれていた。
【0030】
しかしながら、無通電状態においてはクロム層124が溶解しないため、たとえば、金層126上に薄くクロム層124が残存している場合には、金層126の溶解がほとんど進行しない。その結果、各金属層の剥離に長時間を要するという問題があった。
【0031】
図4は、金属層の剥離途中における金属板120の断面の一例を示す図である。図4を参照して、電解槽300内で各金属板120とカソード200とは平面視において平行に配置されていないため、各金属層の溶解状態にはムラが生じ得る。たとえば、この例では、最も上の層のCrの溶解状態にムラがある。この例において、無通電状態においては、領域T1の溶解は進行しやすいが、領域T2の上方に領域T3が残存しているため領域T2の溶解は進行しにくい。この場合には、次に通電状態に移行し、領域T3が溶解しないと、領域T2の溶解がほとんど進行しない。その結果、各金属層の剥離には長時間を要する。
【0032】
本発明者らは、以下の実験を通じて、アノード100及びカソード200間に微弱電流が生じている状態であっても、金層126が溶解することを見出した。以下、実験内容について説明する。
【0033】
本発明者らは、アノードとして極板面積が1cm2となるようにマスキングされたAuを準備し、カソードとしてステンレス板を用意した。また、本発明者らは、電解液として、NaCNが10g/L、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが4g/L、酢酸鉛が6.77mg/L、シュウ酸二水和物が0.25g/L含まれた溶液(液量:100mL、液温:40℃)を用意した。本発明者らは、アノード及びカソード間に生じる電流の電流密度が0,0.01,0.1mA/cm2の各々の場合における溶解速度を、剥離液のAu濃度に基づいて算出した。
【0034】
また、本発明者らは、アノードとして極板面積が1cm2となるようにマスキングされたCrを準備し、カソードとしてステンレス板を用意した。また、本発明者らは、電解液として、上述のAuの場合と同様の溶液を用意した。本発明者らは、アノード及びカソード間に生じる電流の電流密度が0,0.01,0.1mA/cm2の各々の場合における溶解速度を、剥離液のCr濃度に基づいて算出した。
【0035】
結果は、以下の表1に示す通りである。
【0036】
【表1】
表1に示されるように、アノード及びカソード間に微弱電流が生じても、Auの溶解速度はほとんど変化しない一方、Crの溶解速度は大幅に上昇する。したがって、本実施の形態に従う電解装置10において、制御部600は、アノード100及びカソード200間に第1電流が生じるように給電部400を制御する第1制御と、アノード100及びカソード200間に第1電流よりも小さい第2電流(微弱電流)が生じるように給電部400を制御する第2制御とを交互に繰り返すように構成されている。なお、上記表1においてCrの溶解速度の単位はnm/hであるが、Crはそもそも溶解しにくく、微弱電流条件で少しでも溶解できることが重要となる。微弱電流条件でCrが少しでも溶解することによる効果は、後程説明する。
【0037】
図5は、アノード100及びカソード200間に印加される電圧の変化を示す図である。図5を参照して、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。アノード100及びカソード200間に印加される電圧は、所定時間(t)毎にV1(低電圧)とV2(高電圧)との間で切り替えられる。すなわち、第1制御において電圧V2がアノード100及びカソード200間に印加され、第2制御において電圧V1がアノード100及びカソード200間に印加される。
【0038】
第1制御によってクロム層124が溶解され、第2制御によって金層126及びクロム層124が溶解される。すなわち、第1制御においてアノード100及びカソード200間に流れる電流の大きさはクロム層124を溶解可能な大きさであり、第2制御においてアノード100及びカソード200間に流れる電流の大きさは金層126及びクロム層124の双方を溶解可能な大きさである。ここで、第2制御において、アノード100及びカソード200間に生じる微弱電流の電流密度は、たとえば、0.01-0.5mA/cm2、好ましくは0.01-0.2mA/cm2、より好ましくは0.01-0.1mA/cm2である。また、第1制御において、アノード100及びカソード200間に生じる電流の電流密度は、たとえば、5-15mA/cm2である。
【0039】
電解装置10によれば、金層126が溶解しているタイミングにおいてもクロム層124が溶解するため、アノード100及びカソード200間を無通電状態にして金層126を溶解する場合と比較して、短時間で各金属層をステンレス板122から剥離することができる。
【0040】
再び図4を参照して、第2制御中であっても領域T3の溶解が進行する。したがって、電解装置10によれば、第2制御中であっても領域T3を溶解し、その後、下方の領域T2の溶解を開始することができる。
【0041】
[3.動作]
図6は、本実施の形態に従う電解装置10の動作手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、制御部600によって繰り返し実行される。
【0042】
図6を参照して、制御部600は、第1制御を実行する(ステップS100)。すなわち、制御部600は、アノード100及びカソード200間に第1電流が生じるように給電部400を制御する。制御部600は、所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS110)。所定時間が経過していないと判定されると(ステップS110においてNO)、制御部600は、第1制御を継続する。
【0043】
一方、所定時間が経過したと判定されると(ステップS110においてYES)、制御部600は、第2制御を実行する(ステップS120)。すなわち、制御部600は、アノード100及びカソード200間に第1電流よりも小さい第2電流が生じるように給電部400を制御する。制御部600は、所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS130)。所定時間が経過していないと判定されると(ステップS130においてNO)、制御部600は、第2制御を継続する。
【0044】
一方、所定時間が経過したと判定されると(ステップS130においてYES)、制御部600は、第1制御を実行する(ステップS100)。すなわち、制御部600は、第1制御と第2制御とを交互に繰り返す。
【0045】
[4.特徴]
以上のように、電解装置10においては、アノード100及びカソード200間に第2電流(微弱電流)が生じている状態においてクロム層124が溶解するため、金層126が溶解しているタイミングにおいてもクロム層124が溶解する。したがって、電解装置10によれば、金層126が溶解しているタイミングにおいてもクロム層124が溶解するため、アノード100及びカソード200間を無通電状態にして金層126を溶解する場合と比較して、短時間で各金属層をステンレス板122から剥離することができる。
【0046】
[5.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0047】
(5-1)
上記実施の形態においては、給電部400が電圧を変更可能であるとした。しかしながら、給電部は、必ずしも電圧を変更可能である必要はない。
【0048】
図7は、変形例における電解装置10Aの概略を示す図である。図7に示されるように、電解装置10Aは、上記実施の形態とは異なり、主電源402、補助電源404及び制御部602を含んでいる。補助電源404は、主電源402よりも小さい電圧をアノード100及びカソード200間に印加する。制御部602は、たとえば、上記第1制御においては、主電源402及び補助電源404の両方にアノード100及びカソード200間に電圧を印加させ、上記第2制御においては、補助電源404のみにアノード100及びカソード200間に電圧を印加させる。
【0049】
(5-2)
上記実施の形態においては、各金属板120とカソード200とが平面視において平行に配置されていない。しかしながら、各金属板120とカソード200とは、平面視において平行に配置されていてもよい。
【0050】
(5-3)
上記実施の形態において、各金属板120は、必ずしも板状である必要はない。たとえば、各金属板120は、お椀状であってもよい。
【0051】
(5-4)
上記実施の形態においては、ステンレス板122上に、クロム層124及び金層126が交互に積層されていた。しかしながら、ステンレス板122上に積層される金属はこれに限定されない。要するに、金、銀、パラジウム及び白金のうち少なくとも1つ以上を含む第1金属層と、クロム及びニッケルのうち少なくとも1つ以上を含む第2金属層とが交互に積層されていていればよい。
【0052】
(5-5)
上記実施の形態において、各金属板120は、メタルマスクであるとされたが、各金属板120は、必ずしもメタルマスクである必要はない。たとえば、各金属板120は、メタルマスクに取り付けられるフレームやスペーサであってもよい。
【0053】
(5-6)
上記実施の形態においては、第1制御と第2制御とが同一の時間tで切り替えられているが、切替えタイミングはこれに限定されない。たとえば、金属板120における各層の厚みに応じて、第1制御及び第2制御の各々の時間を変更してもよい。
【0054】
(5-7)
上記実施の形態における金属板120においては、クロム層124及び金層126が1層ごとに交互に積層されていた。しかしながら、クロム層124及び金層126は、必ずしも1層ごとに交互に積層されていなくてもよい。たとえば、クロム層124及び金層126が複数層ごとに交互に積層されていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 電解装置、100 アノード、110 電解ラック、120 金属板、122 ステンレス板、124 クロム層、126 金層、200 カソード、300 電解槽、400 給電部、402 主電源、404 補助電源、500 電解液、600,602 制御部、T1,T2,T3 領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7