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特許7569927衝突性能に優れた熱延鋼板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】衝突性能に優れた熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241010BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20241010BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241010BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/06
C22C38/38
C21D9/46 T
C21D9/46 U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023516578
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2021012411
(87)【国際公開番号】W WO2022065772
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0122129
(32)【優先日】2020-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 テ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-シク
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/017933(WO,A1)
【文献】特表2018-532045(JP,A)
【文献】特開2013-112872(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132545(WO,A1)
【文献】特開2015-196891(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170710(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0127857(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109023036(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.05~0.13%、シリコン(Si):0.2~2.0%
、マンガン(Mn):1.3~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、
リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.05%、窒素(N
):0.001~0.02%を含み、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり
鋼微細組織が、面積%で、ベイニティックフェライト:55%以上、マルテンサイト/
オーステナイト複合相(MA):10%以上、ベイニティックフェライトとマルテンサイ
ト/オーステナイト複合相(MA)の合計:95%以上、そして残余合計で5%未満の粒
状フェライト、残留オーステナイト及び炭化物を含み、
前記ベイニティックフェライトは、粒子内方位差が1.5°以上10.5°以下である
ものの面積分率がベイニティックフェライトの全体面積の55%以上であり、
前記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径は2.0μm以下であ
り、平均間隔が0.3μm以上である、降伏強度に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.01~2.0%、モリブデニウム(
Mo):0.01~2.0%、チタン(Ti):0.01~0.2%、及びニオブ(Nb
):0.01~0.1%のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の降伏強度に優れ
た高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が10~45%である
、請求項1に記載の降伏強度に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板は、降伏強度が750MPa以上であり、引張強度が950MPa以上で
あり、延伸率が8%以上であり、穴拡張性が25%以上であり、圧延垂直方向と圧延平行
方向で測定した延伸率の差異が3%以下である、請求項1に記載の降伏強度に優れた高強
度熱延鋼板。
【請求項5】
重量%で、炭素(C):0.05~0.13%、シリコン(Si):0.2~2.0%
、マンガン(Mn):1.3~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、
リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.05%、窒素(N
):0.001~0.02%を含み、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1100~1350℃で再加熱する段階;
前記再加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延直後の熱延鋼板の温度であるFDT(℃)
が750~1150℃の間で下記関係式1及び関係式2を満たし、最終圧延の2Pass
の圧下量の合計を10~40%に制御しながら仕上げ熱間圧延する段階;
前記熱間圧延された鋼板を下記関係式3で定義されたT1温度以下であり、Ms~520℃の範囲を満たす温度まで50℃/s以上の冷却速度で1次冷却し、続いて、T~Ms-50℃間の巻取り温度まで50℃/s以下の冷却速度で2次冷却する段階;及び
前記2次冷却後に巻き取られた熱延鋼板を常温まで最終冷却する段階;を含む、降伏強
度に優れた、請求項1に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
FDT≧Tnr-50℃
ここで、Tnrは再結晶遅延が開始される温度であり、Tnr=795+88×[C]
+45×[Mn]+23×[Cr]+760×[Ti]+480×[Nb]-80×[S
i]であり、各元素は重量%を意味する。
[関係式2]
Du=3.7+0.36×[C]-1.21×[Si]-0.23×[Mn]-0.1
9×[Cr]-41.63×[Ti]-54.44×[Nb]+0.049×[FDT-
773]≦10、Duは仕上げ熱間圧延後の1次冷却直前のオーステナイトの有効結晶粒
度を示す指標であり、各元素は重量%を意味する。
[関係式3]
【数1】
ここで、T=820-290×[C]-90×[Mn]-70×[Cr]-62×[
Mo]-35×[Si]であり、各元素は重量含有量を意味する。
Msは、冷却によってマルテンサイト生成が始まる温度であり、Ms=550-330
×[C]-41×[Mn]-20×[Cr]-10×[Mo]+30×[Al]-20×
[Si]であり、Msは℃単位であり、各元素は重量%を意味する。
【請求項6】
前記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.01~2.0%、モリブデニウム(
Mo):0.01~2.0%、チタン(Ti):0.01~0.2%、及びニオブ(Nb
):0.01~0.1%のうち1種以上をさらに含む、請求項5に記載の降伏強度に優れ
た高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記最終冷却が完了した鋼板を酸洗及び塗油する段階をさらに含む、請求項5に記載の
降伏強度に優れた高強度鋼板の熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記最終冷却が完了した鋼板を酸洗後に400~750℃の温度範囲に加熱して溶融亜
鉛めっきする段階をさらに含む、請求項5に記載の降伏強度に優れた高強度鋼板の熱延鋼
板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシ構造部材などに用いられることができる熱延鋼板に関するものであって、より詳細には、耐衝突特性に優れた高強度熱延鋼板及びこれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を抑制するために、電気自動車を含む環境にやさしい車両の生産及び販売量が急激に増加しており、内燃機関自動車から電気自動車に転換する際に、エンジンや変速機などの部品が除外されるため、電気自動車は車両のフロント構造が短くなる方向に設計が変更される傾向にある。フロント構造は、エンジンルームの役割とともに車両追突時の前方衝突のエネルギーを吸収する機能を果たすため、電気自動車設計時に車体下部のシャーシ部品にも衝突性能を担う構造部材を適用し、車体のフロント構造が短くなって劣る衝突性能を補完するようになる。部品の衝突性能は鋼材の降伏強度に比例するため、シャーシ部品用途に適用される熱延鋼板の降伏強度を向上させるための方案が必要である。
【0003】
一方、シャーシ部品は車両重心の下端に位置するため、部品軽量化による燃費節減の効果が非常に高い部分である。このような軽量化効果を最大化するために、プレス成形に適した成形性を確保するとともに、鋼板の強度を向上させる技術が提案されている。
【0004】
一例として、特許文献1では、仕上げ圧延後750~600℃の温度域で一定時間維持してフェライトを形成した後、マルテンサイト生成温度域に冷却して微細組織を10~55%のフェライトと45~90%のベイナイト及びマルテンサイトで構成し、引張強度950MPa以上であり、延伸率及び穴拡張性に優れた鋼板の製造方法を提示している。しかし、上記特許文献1では、鋼板の引張強度及び成形性についてのみ考慮しているのみであって、車両衝突時の乗車者の安全を確保するための降伏強度の向上については言及していない。
【0005】
一方、特許文献2では、微細組織を、ベイニティックフェライトを90%以上とし、穴拡張性を向上させるためにマルテンサイト及びベイナイトの分率をそれぞれ5%以下に制御する方法を提示している。特許文献2の方法によると、熱延鋼板の引張強度は980MPa以上であり、穴拡張性は70%以上を確保することができるが、降伏比は0.8以下であるため、衝突性能は低下するようになる。
【0006】
特許文献3では、鋼板の降伏強度を向上するために、圧延温度を低く制御して熱間圧延中にフェライト変態を誘導し、圧延中に生成されたフェライトは持続的な熱間圧延によって加工硬化され、フェライトの加工硬化により鋼板の降伏強度を向上する方案を提示している。しかし、特許文献3は、鋼板の降伏強度を向上する方法としては適合することができるが、圧延温度が低く、フェライトに変形が印加する場合、集合組織が発達して強度及び成形性の変形方向による差異が大きくなるため、部品を成形する際に制約を招くことがある。
【0007】
したがって、シャーシ部品の軽量化を極大化するためには、強度に優れながらも成形性の異方性がなく、特に降伏強度に優れ、車両追突時の乗車者の安全を保障することができる鋼材の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第2012-0011475号公報
【文献】韓国公開特許第2008-255484号公報
【文献】韓国公開特許第2020-0047625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、降伏強度が高くて衝突性能に優れた熱延鋼板及びこれを製造する方法を提供することである。
【0010】
一方、本発明の課題は上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、
重量%で、炭素(C):0.05~0.13%、シリコン(Si):0.2~2.0%、マンガン(Mn):1.3~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.05%、窒素(N):0.001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
鋼微細組織が、面積%で、ベイニティックフェライト:55%以上、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA):10%以上、ベイニティックフェライトとマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の合計:95%以上、そして残余合計で5%未満の粒状フェライト、残留オーステナイト及び炭化物を含み、
上記ベイニティックフェライトは、粒子内方位差が1.5°以上10.5°以下であるものの面積分率がベイニティックフェライトの全体面積の55%以上であり、
上記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径は2.0μm以下であり、平均間隔が0.3μm以上の降伏強度に優れた高強度熱延鋼板に関するものである。
【0012】
上記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.01~2.0%、モリブデニウム(Mo):0.01~2.0%、チタン(Ti):0.01~0.2%及びニオブ(Nb):0.01~0.1%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0013】
上記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が10~45%であってもよい。
【0014】
上記熱延鋼板は、降伏強度が750MPa以上であり、引張強度が950MPa以上であり、延伸率が8%以上であり、穴拡張性が25%以上であり、圧延垂直方向と圧延平行方向で測定した延伸率の差異が3%以下であってもよい。
【0015】
本発明の他の一側面は、
上述した合金組成を有する鋼スラブを1100~1350℃で再加熱する段階;
上記再加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延直後の熱延鋼板の温度であるFDT(℃)が750~1150℃の間で下記関係式1及び関係式2を満たし、最終圧延の2Passの圧下量の合計を10~40%に制御しながら仕上げ熱間圧延する段階;
上記熱間圧延された鋼板をMs~520℃間の下記関係式3で定義されたT1温度以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度で1次冷却し、続いて、T~Ms-50℃間の巻取り温度まで50℃/s以下の冷却速度で2次冷却する段階;及び
上記2次冷却後に巻き取られた熱延鋼板を常温まで最終冷却する段階;を含む降伏強度に優れた高強度熱延鋼板の製造方法に関するものである。
[関係式1]
FDT≧Tnr-50℃
ここで、Tnrは再結晶遅延が開始される温度であり、Tnr=795+88×[C]+45×[Mn]+23×[Cr]+760×[Ti]+480×[Nb]-80×[Si]であり、各元素は重量%を意味する。
[関係式2]
Du=3.7+0.36×[C]-1.21×[Si]-0.23×[Mn]-0.19×[Cr]-41.63×[Ti]-54.44×[Nb]+0.049×[FDT-773]≦10、Duは仕上げ熱間圧延後に1次冷却直前のオーステナイトの有効結晶粒度を示す指標であり、各元素は重量%を意味する。
[関係式3]
【数1】
ここで、T=820-290×[C]-90×[Mn]-70×[Cr]-62×[Mo]-35×[Si]であり、各元素は重量含有量を意味する。
【0016】
Msは、冷却によってマルテンサイト生成が始まる温度であり、Ms=550-330×[C]-41×[Mn]-20×[Cr]-10×[Mo]+30×[Al]-20×[Si]であり、Msは℃単位であり、各元素は重量%を意味する。
【0017】
上記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.01~2.0%、モリブデニウム(Mo):0.01~2.0%、チタン(Ti):0.01~0.2%及びニオブ(Nb):0.01~0.1%のうち1種以上を追加することができる。
【0018】
上記最終冷却が完了した鋼板を酸洗及び塗油する段階をさらに含むことができる。
【0019】
上記最終冷却が完了した鋼板を酸洗後に400~750℃の温度範囲で加熱して溶融亜鉛めっきする段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、降伏強度が750MPa以上であり、引張強度が950MPa以上であり、圧延垂直方向と圧延直角方向の延伸率の差異が3%以下である降伏強度に優れた高強度熱延鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例における鋼微細組織を走査電子顕微鏡に付着された後方電子回折散乱法で観察した写真であって、(a)は発明例1、(b)は比較例4の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0023】
本発明者らは、従来の熱延鋼板において、950MPa以上の引張強度を有する鋼材の製造は可能であるが、降伏強度が低くて衝突性能が劣化するという問題がある点を認知し、これを解決するために深く研究した。
【0024】
降伏強度を高くするためには、複合相で構成される微細組織で基地組織の転位密度を増加させて強度を向上することが有効であるが、基地組織の相変態後、あるいは相変態中に変形を加えて加工硬化させる場合、降伏強度は向上するが、集合組織の形成によって成形方向別に材質の差異が増加して異方性に劣ることを確認した。
【0025】
一方、ベイナイトは、拡散を伴わないせん断変態(Displacive Phase Transformation)で生成されたベイニティックフェライトと、この後の炭素などの侵入型合金元素の拡散によって生産された2次生成物で構成された複合組織と定義され、2次生成物は、ベイナイト生成の温度及び合金元素の種類に応じて、炭化物、パーライト、マルテンサイト/オーステナイト複合相として存在することができる。
【0026】
ベイニティックフェライトは、せん断変態で生成されるため、変態中に生成されるせん断変形量を低減するために、組織内にらせん転位が規則的に配列される。そして、ベイニティックフェライトの生成時に伴われる体積膨張をオーステナイトの内部で収容するために生成された刃転位の変態が進行した後、ベイニティックフェライト基地内に蓄積して変態が完了する。したがって、ベイニティックフェライトの転位密度は高い水準となり、異方性に劣るという問題なく鋼の降伏強度を向上させるのに適合する。しかし、ベイニティックフェライトの内部に生成された転位は、ベイナイト変態が進行される常温以上の温度域で維持される間、回復現象によってその密度が徐々に減少するため、ベイニティックフェライトの内部の転位密度を適正水準に維持できるように管理することが重要であることに気づき、これについて研究した。その結果、鋼板の合金組成範囲と熱間圧延及び冷却条件を適切に制御して、微細組織の基地組織と2次相の分率と大きさを最適化することで、優れた衝突性能と高強度を有する鋼板を得ることができることを認知し、本発明を完成するに至った。
【0027】
以下、本発明の一側面に係る降伏強度に優れた熱延鋼板について詳細に説明する。
【0028】
本発明の一側面による降伏強度に優れた熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05~0.13%、シリコン(Si):0.2~2.0%、マンガン(Mn):1.3~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.05%、窒素(N):0.001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、鋼微細組織が、面積%で、ベイニティックフェライト:55%以上、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA):10%以上、ベイニティックフェライトとマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の合計:95%以上、そして残余合計で5%未満の粒状フェライト、残留オーステナイト及び炭化物を含み、上記ベイニティックフェライトは、粒子内方位差が1.5°以上10.5°以下であるものの面積分率がベイニティックフェライトの全体面積の55%以上であり、上記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径は2.0μm以下であり、平均間隔が0.3μm以上である。
【0029】
以下、まず、本発明の熱延鋼板の合金組成を限定する理由について詳細に説明する。このとき、特に断りのない限り、各元素の含有量は重量%を意味する。
【0030】
炭素(C):0.05~0.13%
炭素(C)は、鋼を強化するのに最も経済的でありながらも効果的な元素である。このようなCの含有量が増加するほど冷却中の粒状フェライトの生成を抑制し、ベイナイト組織分率の増加に寄与し、ベイナイト変態中にオーステナイトに拡散してオーステナイトを安定化させることで、最終冷却過程でマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)に残留して引張強度が向上する。
【0031】
上記Cの含有量が0.05%未満であると、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の分率が低く、引張強度を確保することができない。一方、その含有量が0.13%を超過するようになると、引張強度が過度に上昇し、成形性及び溶接性が低下するという問題がある。したがって、本発明における上記Cの含有量は、0.05~0.13%であることが好ましい。より好ましくは0.06~0.11%含むことができる。
【0032】
シリコン(Si):0.2~2.0%
シリコン(Si)は、鋼の硬化能を向上させる元素であり、固溶強化効果で強度を向上させる役割を果たす。また、ベイナイト変態後の炭化物の形成を遅延させて、2次相がマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)となるようにして引張強度を向上する。
【0033】
上記Siの含有量が0.2%未満の場合、炭化物が形成されてマルテンサイト/オーステナイト複合相の分率が低く、引張強度を確保しにくい。一方、その含有量が2.0%を超過するようになると、再加熱時にスラブの表面にFe-Si複合酸化物が形成されて鋼板表面品質が悪くなるだけでなく、溶接性も低下するという問題がある。したがって、本発明における上記Siの含有量は、0.2~2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.3~1.2%含むことができる。
【0034】
マンガン(Mn):1.3~3.0%
マンガン(Mn)は、鋼の硬化能を向上させる元素であり、仕上げ圧延後の冷却中に粒状フェライトの形成を防止してベイナイトの形成が容易である。
【0035】
上記Mnの含有量が1.3%未満であると硬化能が不足して、粒状フェライトの分率が過度に増加する。一方、その含有量が3.0%を超過する場合、硬化能が大きく増加して、冷却帯でベイナイトの変態が円滑に起こらず、巻取り後の複熱による温度上昇によってベイニティックフェライトの内部転位密度が却って減少し、座屈が発生するおそれがある。したがって、本発明における上記Mnの含有量は、1.3~3.0%であることが好ましく、より好ましくは1.8~2.3%含むことができる。
【0036】
アルミニウム(Al):0.01~0.1%
アルミニウム(Al)は、脱酸のために添加する元素であり、脱酸後の鋼中に一部存在するようになる。このようなAlは、その含有量が0.1%を超過する場合、鋼中に酸化物及び窒化物系介在物の増加をもたらし、鋼板の成形性を低下させる。一方、上記Alを0.01%未満に過度に低減するようになると、不要な精錬費用の増加をもたらす。したがって、本発明におけるAlの含有量は、0.01~0.1%であることが好ましい。
【0037】
リン(P):0.001~0.05%
リン(P)は、不可避に含有される不純物であり、偏析により鋼の加工性を低下させるのに主要原因となる元素であるため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。理論上リンの含有量は0%に制限することが有利であるが、上記Pの含有量を0.001%未満に製造するためには製造費用が過度に増加する。したがって、本発明における上記Pの含有量は、0.001~0.05%であることが好ましい。
【0038】
硫黄(S):0.001~0.05%
硫黄(S)は、不可避に含有される不純物であり、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、それにより鋼の加工性を低下させる主要原因となる元素であるため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。理論上Sの含有量は0%に制限することが有利であるが、上記Sの含有量を0.001%未満に製造するためには、製造費用が過度に増加する。したがって、本発明における上記S含有量は、0.001~0.05%であることが好ましい。
【0039】
窒素(N):0.001~0.02%
窒素は、不可避に含有される不純物として、アルミニウムと作用して微細な窒化物を析出させて鋼の加工性を低下させる元素であるため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。理論上Nの含有量は0%に制限することが有利であるが、上記Nの含有量を0.001%未満に製造するためには、製造費用が過度に増加する。したがって、本発明では、上記N含有量は0.001~0.02%であることが好ましい。
【0040】
また、本発明は、必要に応じて上述した組成成分の以外に、クロム(Cr):0.01~2.0%、モリブデニウム(Mo):0.01~2.0%、チタン(Ti):0.01~0.2%及びニオブ(Nb):0.01~0.1%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0041】
クロム(Cr):0.01~2.0%
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させる元素であり、仕上げ圧延後の冷却中にフェライトの形成を抑制してベイナイトの形成が容易である。上記Crの含有量が0.01%未満の場合、添加効果を十分に得ることができない。一方、その含有量が2.0%を超過する場合、硬化能が過度に増加して、冷却帯でベイナイト変態が円滑に起こらないという問題がある。したがって、本発明における上記Crの含有量は、0.01~2.0%であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.5%であることが好ましい。
【0042】
モリブデニウム(Mo):0.01~2.0%
モリブデニウム(Mo)は、鋼の硬化能を向上させる元素であり、固溶強化効果で強度を向上させる役割を果たすため、仕上げ圧延後の冷却中にフェライトの形成を防止してベイナイトの形成が容易である。上記Moは、炭素の拡散速度を遅くして、ベイナイト変態速度を遅延させる役割を果たすため、その含有量が2.0%を超過するようになると、冷却帯でベイナイト変態が円滑に起こらないという問題がある。一方、その含有量が0.01%未満の場合、仕上げ圧延後の冷却中のフェライト生成を抑制する添加効果を十分に得ることができない。したがって、本発明における上記Moの含有量は、0.01~2.0%であることが好ましく、より好ましくは0.05~1.0%であることが好ましい。
【0043】
チタン(Ti):0.01~0.2%
チタン(Ti)は、炭窒化物を形成する元素であり、熱間圧延時の再結晶遅延によってオーステナイトの結晶粒を微細にして、冷却帯でベイナイトの変態を促進し、微細組織内のマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の粒度を微細にして、鋼の強度を向上する。上記Tiの含有量が0.01%未満の場合、添加効果を十分に得ることができない。一方、上記Tiの含有量が0.2%を超過するようになると、粗大な炭窒化物が生成されて鋼板の靭性を低下させる。したがって、本発明では上記Tiの含有量は0.01~0.2%であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.10%を含むことができる。
【0044】
ニオブ(Nb):0.01~0.1%
ニオブ(Nb)は、Tiと類似して炭窒化物を形成する元素である。ニオブを添加すると、熱間圧延時の再結晶遅延によってオーステナイトの結晶粒を微細にして、冷却帯でベイナイトの変態を促進し、微細組織内のマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の粒度を微細にして鋼の強度を向上する。上記Nbの含有量が0.01%未満の場合、添加効果が十分に得られないのに対し、その含有量が0.1%を超過するようになると、粗大な炭窒化物が生成されて鋼板の靭性を低下し、圧延時の圧延負荷を増加させて作業性を低下させる。したがって、本発明における上記Nbの含有量は、0.01~0.1%であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.05%を含むことができる。
【0045】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書で言及しない。
【0046】
上述した合金組成を満たす本発明の鋼板は、ベイニティックフェライトとマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA:Martensite-Austenite constituents)の面積分率の合計が95%以上であることが好ましい。仮に、ベイニティックフェライトとマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率の合計が95%未満であると、本発明で意図する優れた降伏強度及び引張強度が確保できない問題がある。このとき、鋼微細組織において、上記ベイニティックフェライトが占める面積分率は、55%以上であることが好ましいが、その面積分率が55%未満であると、750MPa以上の降伏強度が確保できない問題があるためである。
【0047】
さらに、上記ベイニティックフェライトは、粒子内方位差が1.5°以上10.5°以下であるものの面積分率がベイニティックフェライトの全体面積の55%以上であることが好ましい。
【0048】
本発明の重要な特徴は、基地組織をなすベイニティックフェライトの転位密度を適正レベルに制御することである。ベイニティックフェライト内の転位は、せん断変態時に発生した転位の回復が遅延したり、巻取り後のオーステナイトがマルテンサイトに変態し、ベイニティックフェライト組織内に導入したりすることで組織内に残留するようになる。このようなベイニティックフェライト内の転位密度を理論的には透過電子顕微鏡を活用して厚さを測定し、観察された転位数を算出して、その密度を測定することが可能ではあるが、転位密度の粒子位置別の散布を考慮するには、方法が経済的ではないため、後方電子散乱回折相解析(EBSD)を介して間接的に定量化した。粒子内方位差は、隣接する粒子の方位差が15°以上であることを独立した結晶粒と定義した後に算出される値とする。一方、粒子内方位差が10.5°以上の場合、隣接するベイニティックフェライトの兄弟晶(Variant)と混同する可能性があるため、上限を10.5°に設定し、粒子内方位差が1.5°未満の場合、EBSD解析の測定偏差の範囲に該当するようになって正確性が低下する。本発明では、粒子内方位差が1.5°~10.5°のベイニティックフェライトが全体のベイニティックフェライトの面積の55%以上である場合、降伏強度が向上することを確認した。より好ましくは60%以上を含むことができる。上限については、限定する必要がないが、95%を超過するようになる場合、延伸率が悪化する場合があるため、95%以下に管理することも好ましい。
【0049】
一方、上記マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率は、10%以上であることが好ましい。本発明において、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)は、組織内に分散して転位の移動を妨害する障害物として作用することで、鋼の引張強度を向上させる役割を果たし、巻取り後の冷却時にオーステナイトがマルテンサイトに変態することで追加の転位をベイニティックフェライトの内部に導入して鋼の降伏強度を向上させる役割を同時に果たす。マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が10%未満の場合、意図する引張強度と降伏強度の向上が期待できない。一方、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が過度の場合、鋼の強度が過度に上昇して成形性が低下するようになる。したがって、本発明において、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が10~45%であることが好ましく、より好ましくは15~35%である。
【0050】
このとき、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径は2.0μm以下であり、平均間隔が0.3μm以上であることが好ましい。マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)は、分散強化などの機構により鋼の引張強度を向上させるため、微細な大きさで均等に分散している場合、強化効率が高い。マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径が2.0μm以下であり、平均間隔が0.3μm以上となる場合、穴拡張性に優れることを本発明者らは確認した。穴拡張性は、シャーシ部品がバーリング成形により製造される場合が多いことを考慮すると、なるべく穴拡張性に優れることが好ましい。通常的にマルテンサイト/オーステナイトは複合相(MA)を活用した鋼の穴拡張性は、基地組織との硬度差が大きくなって穴拡張性に優れないが、本発明のように基地組織に転位を導入して硬度差を低減し、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の大きさを微細に制御して、局部的な変形集中を防止する場合、良好な穴拡張性を確保することができることを確認した。局部的な変形集中を防止するためにマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径は2.0μm以下であることが好ましく、それぞれ異なる位置で発生した変形集中が重なり合わないために、複合相の平均間隔は0.3μm以上であることが好ましい。
【0051】
その他の本発明では、鋼微細組織でその合計で5%未満の粒状フェライト、残留オーステナイト及び炭化物を含むことができる。
【0052】
仕上げ圧延後の冷却中に生成されるフェライトは、通常的に拡散変態によって生成されるため、強度が低いことが特徴である。しかし、本発明のように5%未満添加される場合、フェライト生成後の残余オーステナイトがベイナイトとマルテンサイトに変態し、その変態時に粒子変形を収容するために、予め生成されていたフェライトもせん断変形を受けるようになるため、粒状フェライトの内部の転位密度が高いレベルを維持して、鋼の強度を大きく低下しないことを確認した。一方、5%以上存在するようになると、鋼の強度を低下させるため、その上限を5%未満に管理することが必要である。
【0053】
冷却帯で冷却中または巻取り後のベイナイトの変態が進行する際に、炭素はベイニティックフェライトで未変態されたオーステナイトに拡散して移動するようになる。オーステナイト内で炭素の拡散係数は顕著に低下するようになり、オーステナイトの内部の炭素濃度は、不均一な分布を有するようになり、炭素が局部的に過度に濃化した部位では、常温に冷却中にマルテンサイトに変態できず、オーステナイトで残留することがある。このような残留オーステナイトの相安定度は、高いレベルではないため、鋼板の製造後にオーステナイトとして観察されても、部品を製造し、変形が印加する段階でほぼ誘起塑性変態によってマルテンサイトに変態し、鋼の引張強度を増加させる役割を果たす。したがって、本発明では、マルテンサイトとオーステナイトの分率は別途に管理しない。しかし、このようなオーステナイトの含有量が多すぎる場合、水素集積に関連する脆化現象を誘発する可能性があるため、その上限を5%未満に管理することが必要である。
【0054】
ベイナイト変態時の炭素のオーステナイトへの拡散と共に鉄炭化物が生成されることができる。本発明ではマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)を活用して強度を向上するため、鉄炭化物の生成はマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の分率の低下を引き起こすおそれがある。したがって、鉄炭化物の過度の生成は、本発明で意図する強化効果を阻害する。一方、Ti及びNbが添加される場合、合金炭窒化物が存在することがある。この場合、結晶粒微細化によるさらなる強化効果が期待できるが、粗大炭化物は鋼の靭性を低下させるため、鋼中に存在する炭化物は、面積分率で5%未満に管理することが必要である。
【0055】
上述した合金組成及び微細組織を有する本発明の鋼板は、降伏強度が750MPa以上、引張強度が950MPa以上であり、延伸率が8%以上、穴拡張性が25%以上であることから優れた衝突性能を確保することができる。
【0056】
次に、本発明の他の一側面である降伏強度に優れた高強度熱延鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0057】
本発明による降伏強度に優れた高強度熱延鋼板は、上述したような合金組成を有する鋼スラブを再加熱-熱間圧延-冷却-巻取する一連の工程を介して製造することができる。具体的には、本発明の熱延鋼板の製造方法は、上述した合金組成を有する鋼スラブを1100~1350℃で再加熱する段階;上記再加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延直後の熱延鋼板の温度であるFDT(℃)が750~1150℃の間で下記関係式1及び関係式2を満たし、最終圧延の2Passの圧下量の合計を10~40%に制御しながら仕上げ熱間圧延する段階;上記熱間圧延された鋼板をMs~520℃間の下記関係式3で定義されるT1温度以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度で1次冷却し、続いて、T~Ms-50℃間の巻取り温度まで50℃/s以下の冷却速度で2次冷却する段階;及び、上記2次冷却後に巻き取られた熱延鋼板を常温まで最終冷却する段階;を含む。
【0058】
以下、各製造工程条件について詳細に説明する。
【0059】
鋼スラブ再加熱
本発明では、熱間圧延を行う前に鋼スラブを再加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましく、このとき、1100~1350℃で再加熱工程を行うことが好ましい。仮に、再加熱温度が1100℃未満であると、合金元素の均質化が十分でない問題がある。一方、その温度が1350℃を超過するようになると、スラブ表面に酸化物が過度に形成されて鋼板の表面品質が低下するため、好ましくない。
【0060】
熱間圧延
上記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板として製造する。このとき、最終の圧延2Passの圧下量の合計が10~40%となるように制御しながら圧延し、仕上げ熱間圧延直後の熱延鋼板の温度であるFDT(℃)が750~1150℃の間で下記関係式1及び関係式2を満たすことが好ましい。
[関係式1]
FDT≧Tnr-50℃
ここで、Tnrは再結晶遅延が開始される温度であり、Tnr=795+88×[C]+45×[Mn]+23×[Cr]+760×[Ti]+480×[Nb]-80×[Si]であり、各元素は重量%を意味する。
[関係式2]
Du=3.7+0.36×[C]-1.21×[Si]-0.23×[Mn]-0.19×[Cr]-41.63×[Ti]-54.44×[Nb]+0.049×[FDT-773]≦10、Duは仕上げ熱間圧延後の1次冷却の直前のオーステナイトの有効結晶粒度を示す指標であり、各元素は重量%を意味する。
【0061】
上記熱間圧延時にFDTが1150℃より高い温度で開始すると、圧延後の酸化物が鋼板表面に過度に生成されて、酸洗後にも効果的に除去されず、表面品質が低下する。一方、FDT750℃が低い温度で熱間圧延を進行する場合、圧延負荷が過度に増加して作業性が悪くなり、圧延中にフェライトが生成して異方性が悪化するという問題もあり得る。
【0062】
仕上げ熱間圧延時の最後の2Passの圧下量の合計は10~40%の間で行うことが好ましい。通常、熱間圧延を多段圧延で行う主な理由は、圧延負荷を低減し、厚さを精密に制御することで、最後の2Passの圧下率の合計が40%を超過する場合、最後の2Passの圧延負荷が過度に増加して作業性が低下するという問題がある。一方、最後の2Passの圧下率の合計が10%未満の場合、鋼板の温度が急激に低下して作業性が不良になる。
【0063】
熱間圧延中または熱間圧延後の鋼板では、加工硬化、回復、再結晶が発生し、オーステナイトの結晶粒度と内部エネルギーが変化する。通常的に、材質異方性を向上するために、仕上げ熱間圧延温度であるFDTを再結晶温度であるTnr以上に制御して、集合組織の形成を最小化することが一般的である。一方、ベイナイト変態では、相変態に伴われるせん断変形を内部的に収容するために、複数の兄弟晶(Variant)に微細組織が分化する。このような特性により、せん断変態で生成されたベイナイトは、拡散変態で生成されたフェライトに比べて、圧延温度の影響をあまり受けることなく、集合組織が形成される。しかし、圧延温度が低くてオーステナイトの累積変形量が大きい場合には、兄弟晶の生成がオーステナイトの内部変形量を相殺する方向に選択的に発生することがあり、この場合、集合組織が形成されて異方性に劣る。したがって、圧延終了温度は、上記関係式1に定義された温度以上で行うことが好ましい。
【0064】
一方、熱間圧延後のオーステナイトの結晶粒度は、合金成分、圧延終了温度及び圧下量の影響を受け、後続する冷却工程におけるフェライトとベイナイト生成挙動及び最終微細組織に影響を及ぼすようになる。本発明において、重要な構成相の一つであるマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の大きさは、熱間圧延後のオーステナイト結晶粒度の大きさが大きいほど増加する。本発明において、最終の圧下率の合計が10~40%の条件でオーステナイトの結晶粒度は、圧延終了温度と添加された合金元素の種類によって上記関係式2のDuのように算出できることを確認し、その値が10を超過する場合、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の結晶粒度が2μmを超過して穴拡張性が低下することを確認した。
【0065】
冷却段階
上記熱間圧延後、熱延鋼板をMs~520℃間の下記関係式3を満たす温度T1まで50℃/s以上の冷却速度で1次冷却し、続いて、T~Ms-50℃間の巻取り温度まで50℃/s以下の冷却速度で2次冷却することが好ましい。
【0066】
ベイナイト変態時に生成された転位は、回復現象によってその密度が徐々に減少し、転位密度消失の程度は、ベイナイト変態温度が高いほど大きい。本発明で意図する転位密度を維持するためには、ベイナイト変態温度が520℃未満である必要があるため、1次冷却終了温度であるT1の上限は520℃が好ましい。一方、1次冷却終了温度がMs以下になるとマルテンサイト変態が急激に進行し、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の分率が過度に増加するようになる。したがって、1次冷却終了温度であるT1は、Ms~520℃が好ましい。
【0067】
一方、本発明では、ベイニティックフェライトとマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率の合計が95%以上である必要があるため、1次冷却過程で生成される粒状フェライトの生成を効果的に抑制する必要がある。本発明で提案する合金組成が上記関係式2を満たす場合、1次冷却速度が50℃/s以上である場合、粒状フェライトの生成を5%未満に管理することが可能であることを確認した。1次冷却速度の上限は特に限定しないが、鋼板が急激に冷却される場合、板状が反る可能性があるため、200℃/s以下に制御することが好ましい。
【0068】
さらに、本発明者らは、本発明で提案する合金組成を有する鋼で強度に優れた鋼板を製造することが可能であることを確認したが、巻取り後の座屈によって後続工程の作業性が低下する現象を解決するために研究及び実験を重ねた。その結果、座屈の発生原因は、巻取り前に形成されたベイナイト量が僅かであり、巻取り後に相変態が進行されることで変態焼成によって座屈が発生することを確認した。そして、巻取り後に座屈が発生することを防止するためには、巻取り前の冷却段階でベイナイトの生成が60%以上になる必要があることを確認した。しかし、巻取り前のベイナイトの生成分率を増加させるためには、巻取り前の維持時間を増加することが最も効果的である。
【0069】
鉄鋼製品の製造工程において、圧延-冷却-巻取りは連続的に配列された設備によって進行されるため、巻取り前の維持時間を増加させるためには、冷却帯の長さを増加するか、圧延速度を低くする方法がある。しかし、冷却帯の長さを増加させることは費用が発生し、圧延速度を遅くすることは生産性の低下を誘発するため、通常的な熱延製造工程では冷却帯を通過する時間が制限的になり得る。したがって、本発明は、与えられた時間に座屈が発生しないレベルで巻取り前のベイナイト変態量の分率が確保できるように提示することを特徴とする。
【0070】
本発明者らは、座屈が発生しないために巻取り前の冷却帯で相変態が完了した分率は60%以上である必要があることを確認し、通常の熱延工程で確保可能な冷却時間が15秒以内であることを勘案するとき、1次冷却終了温度は、Ms~520℃の範囲を満たしながら、下記関係式3によって定義されるT1温度範囲内にすべきであることが分かった。
[関係式3]
【数2】
ここで、Msは冷却によってマルテンサイト生成が始まる温度であり、Ms=550-330×[C]-41×[Mn]-20×[Cr]-10×[Mo]+30×[Al]-20×[Si]であり、Msは℃単位であり、各元素は重量%を意味する。
【0071】
そして、本発明では、上記1次冷却後、T~Ms-50℃の間の巻取り温度まで50℃/s以下の冷却速度で2次冷却する。2次冷却が進行する間にベイナイト変態が進行されたオーステナイトは安定化して実質的なMs温度は下落するようになる。したがって、2次冷却終了温度の下限は、未変態されたオーステナイトへの炭素濃化が考慮されていないMs温度より低く適用することが可能であり、ベイナイト変態が60%以上進行された場合、Ms-50℃以上の温度を適用することができる。2次冷却時にベイナイト変態が進行されるため、急激な温度変化は板状の反りを誘発する可能性があるため、2次冷却速度の上限は50℃/sに設定する。
【0072】
巻取り及び最終冷却段階
次いで、上記1次冷却及び2次冷却された熱延鋼板は、2次冷却終了温度で巻き取った後、常温まで最終冷却する。
【0073】
本発明では、上記最終冷却が完了した鋼板にさらに酸洗及び塗油することができる。
【0074】
また、酸洗後の400~750℃の温度範囲で加熱して溶融亜鉛めっき工程を適用することができる。上記溶融亜鉛めっき工程は、亜鉛系めっき用を用いることができ、上記亜鉛系めっき浴内の合金組成については特に限定しない。
【実施例
【0075】
以下の実施例を介して本発明をより詳細に説明する。
【0076】
(実施例)
下記表1に合金組成を有する鋼スラブを用意し、このとき、上記合金組成の残余成分はFe及び不可避不純物である。このように設けられた鋼スラブを下記表2の製造条件によって熱延鋼板を製造した。具体的には、鋼スラブの再加熱温度は1200℃、熱間圧延後の熱延鋼板の厚さは2.6mmとし、仕上げ圧延の最終の2Passの合計は25%と同様に適用した。熱間圧延直後の冷却は60~70℃/sの冷却速度で行い、1次冷却後に2次冷却までの維持時間は15秒を適用した。なお、下記表2には、上述した関係式1~関係式3の満足有無を○及び×と表記し、○は関係式が満たされた場合、×は関係式が満たされなかった場合を示す。
【0077】
上記製造された各熱延鋼板について、機械的特性である降伏強度(YS)、引張強度(TS)、延伸率(El)、圧延直角方向と圧延垂直方向の延伸率の差異(Del_El)、及び穴拡張性(HER)を測定して下記表3に示した。そして、上記製造された各熱延鋼板の微細組織を観察して、その結果もまた下記表3に示した。
【0078】
一方、本発明において降伏強度及び延伸率は、それぞれ0.2%off-set降伏強度及び破壊延伸率を示す。そして、降伏強度、引張強度、及び延伸率の測定は、JIS-5号の規格試験片を圧延方向に垂直な方向に試験片を採取して試験した結果値である。一方、Del_Elは、上記規格の試験片を圧延方向に平行な方向で測定された破壊延伸率と、圧延方向に垂直な方向で測定した破壊延伸率との差異を示す結果値である。
【0079】
また、鋼中の微細組織で形成されたベイニティックフェライト相とマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の分率は、試験片をレペラエッチング法でエッチングした後、光学顕微鏡及びイメージ分析器を用いて1000倍率で分析した結果で示した。そして、ベイニティックフェライトの粒子内の方位差は、後方電子散乱回折法(Electron Back Scattered Diffraction)を用いて測定した。
【0080】
そして、後方電子散乱回折法は、走査電子顕微鏡に装着された測定器を用い、加速電圧は20kVを用い、70nmの間隔を適用して50μm×50μmの面積を測定し、OIM AnalysisTM分析プログラムを用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
上記表1~表3に示したように、本発明で提案する合金組成及び製造条件を共に満たす発明例1~14は、微細組織がベイニティックフェライトの面積分率が55%以上、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の面積分率が10%以上、そして、これら組織の合計面積分率が95%以上であることが分かる。また、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の平均粒径が2.0μm以下であり、複合相の平均間隔は0.3μm以上を満たすことによって、意図する強度及び成形性を確保することができた。
【0085】
これにより、本発明の鋼板は、降伏強度は750MPa以上、引張強度は950MPa以上、延伸率は8%以上、Del_Elは3%未満、HERは25%以上を確保することができることが分かる。
【0086】
これに対し、比較例1はC含有量が0.05%未満であり、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)が面積分率で10%を確保することができなくなり、950MPa以上の引張強度を確保することができなかった。
【0087】
比較例2は、Mnの含有量が過度に高く、巻取り前に十分な量のベイナイト変態が行われないため、巻取り後の座屈発生の危険があった。
【0088】
比較例3は、Crの含有量が過度に高く、巻取り前に十分な量のベイナイト変態が行われないため、巻取り後の座屈発生の危険があった。
【0089】
比較例4は、1次冷却終了温度と2次冷却終了温度が高すぎて、ベイニティックフェライトの内部転位の消失が過度に発生し、ベイニティックフェライト粒子内方位差が1.5°~10.5°以内の面積分率を55%以上確保することができず、降伏強度及び引張強度が劣化した。
【0090】
比較例5は、圧延終了温度が低すぎて関係式1を満たすことができず、兄弟晶の選択的な生成が行われて、材質異方性が過度に発生するようになり、測定方向別の延伸率の差異が3%を超過した。
【0091】
比較例6は、1次冷却終了温度と2次冷却終了温度が過度に高く、ベイニティックフェライトの内部転位の消失が過度に発生して降伏強度が劣化し、同時に関係式3を満たすことができなかった。したがって、ベイナイト変態速度が遅くて、巻取り前に変態するベイナイト量が60%以上を確保することができないため、材質が不良な問題とともに巻取り後に座屈が発生するおそれがある。
【0092】
比較例7は、圧延温度終了温度が高すぎて関係式2を満たすことができず、マルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)の粒径が過度に粗大であった。その結果、25%以上の穴拡張性を確保することができなかった。
【0093】
図1は、本発明の実施例における鋼微細組織を走査電子顕微鏡に付着した後方電子回折散乱法で観察した写真であって、(a)は発明例1、(b)は比較例4の場合を示す。各写真において、黒色はマルテンサイト/オーステナイト複合相(MA)を示し、白色はベイニティックフェライトの粒子内方位差が1.5°未満の領域を示し、灰色はベイニティックフェライトの粒子内方位差が1.5°~10.5°である領域を表す。
【0094】
以上で説明したとおり、本発明の詳細な説明では、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変形が可能であることはもちろんである。したがって、本発明の権利範囲は、説明された実施例に限定されてはいけず、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによって定められなければならない。
図1(a)】
図1(b)】