IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7569928延伸率に優れた高強度厚物熱延鋼板及びその製造方法
<>
  • 特許-延伸率に優れた高強度厚物熱延鋼板及びその製造方法 図1
  • 特許-延伸率に優れた高強度厚物熱延鋼板及びその製造方法 図2
  • 特許-延伸率に優れた高強度厚物熱延鋼板及びその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】延伸率に優れた高強度厚物熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241010BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241010BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/38
C21D8/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023516788
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 KR2021012646
(87)【国際公開番号】W WO2022065797
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124881
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ナ、 ヒュン-テク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/111702(WO,A1)
【文献】特開2015-048527(JP,A)
【文献】特開平10-176239(JP,A)
【文献】特開平10-298645(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115549(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0073094(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103042039(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2
.0%、Sol.Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.0
01~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:
0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%を含み、残りの鉄及び不可避不純物からなり、下記[関係式1]を満たし、
面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フ
ェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm)内で観察され
る直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びに
MA相(Martensitic-austenitic constituents)
:5%未満を含む微細組織を有する、厚さ10~14mmの引張強度590MPa以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板。
[関係式1]
0.3≦R≦1.0
R=[C]*+0.7×[Mn]+8.5×[P]+7.5×[S]-0.9×[Si
]-1.5×[Nb]
[C]*=[C]-[C]×Q
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
前記関係式(1)のC、Mn、P、S、Si、Nb、Tiは、当該合金元素の重量%
【請求項2】
前記熱延鋼板は、El×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満た
す、請求項1に記載の厚さ10~14mmの引張強度590MPa以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板。
【請求項3】
重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2
.0%、Sol.Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.0
01~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:
0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%を含み、残りの鉄及び不可避不純物からなり、下記[関係式1]を満たす鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階;
前記再加熱された鋼スラブを、下記[関係式2]を満たす温度範囲で仕上げ熱間圧延す
る段階;
前記仕上げ熱間圧延された鋼板を、450~550℃の範囲の温度まで下記[関係式3
]を満たす冷却速度で冷却した後、400~550℃の範囲の温度で巻き取る段階;及び
前記巻き取られた鋼板を常温~200℃の範囲の温度まで空冷又は水冷する段階を含み、
前記空冷又は水冷された熱延鋼板は、面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm )内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5%未満を含む微細組織を有し、そしてEl×TS×0.5Hv max /ΔH値が140,000以上を満たす、厚さ10~14mmの引張強度590MPa以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
0.3≦R≦1.0
R=[C]*+0.7×[Mn]+8.5×[P]+7.5×[S]-0.9×[Si
]-1.5×[Nb]
[C]*=[C]-[C]×Q
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
前記関係式1のC、Mn、P、S、Si、Nb、Tiは、当該合金元素の重量%
[関係式2]
Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=750+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+647×[Nb]+
515×[Ti]-50×[Si]-2.4×(t-5)
前記関係式2のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは、当該合金元素の重量%
前記関係式2のFDTは、熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
前記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)
[関係式3]
CRMin≦CR*≦60
CRMin=65-157×[C]-25.2×[Si]-14.1×[Mn]-27
.3×[Cr]+61×[Ti]+448×[Nb]+1.4×(t-5)
前記関係式3のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは、当該合金元素の重量%
前記関係式3のCR*は、熱延後圧延された板材の冷却時の冷却速度(℃/sec)
【請求項4】
前記空冷又は水冷した後、鋼板を酸洗及び塗油する段階をさらに含む、請求項3に記載
の厚さ10~14mmの引張強度590MPa以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ熱間圧延温度の範囲内で圧下量を10~60%に制御する、請求項3に記載
の厚さ10~14mmの引張強度590MPa以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に商用車のホイールディスク、ホイールリム、メンバー類及びフレームなどの構造部材に使用される厚さ10~14mmの高強度熱延鋼板の製造方法に関するものであって、より詳細には、引張強度が590MPa以上で延伸率が30%以上と優れることから、ホイールディスクなどの部品成形時にクラックが発生しないことを特徴とする高強度厚物熱延鋼板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、商用車及び重装備の構造部材には、厚さ13~20mmの引張強度が440MPa以上である板材が主に使用されているが、近年、軽量化のための高強度薄物化の一環として、引張強度590MPa以上で厚さ10~15mmの高強度鋼材を使用する技術が開発されている。しかし、上記のような高強度厚物鋼材を熱延工程で製造する場合、変態組織の活用時に厚さ方向に均一な微細組織を確保することが困難である。そのため、安定した延性と降伏強度を確保し難く、部品の製造時に亀裂が発生しやすく、使用中に局部的な応力集中が発生することから、耐久寿命が劣化するという問題がある。
【0003】
これと関連して、従来の鋼材は、通常のオーステナイト域の熱間圧延を経た後、高温で巻き取ってフェライト相を基地組織とし、微細な析出物を形成させて強度と延性を確保する技術(特許文献1)、粗大なパーライト組織が形成されないように圧延した後、2段の冷却工程を経て巻取温度をベイナイト相が形成される温度まで冷却した上で巻き取る技術(特許文献2)などが提案されている。また、Ti、Nbなどを活用して、熱間圧延時に未再結晶域で40%以上で大圧下し、オーステナイト結晶粒を微細化させる技術(特許文献3)も提案されている。
【0004】
しかし、厚物高強度鋼を製造するために上記技術で主に活用するSi、Mn、Al、Mo、Crなどの合金成分は、強度を向上させるには効果的であるものの、合金成分が過度に添加されると、むしろ偏析と微細組織の不均一をもたらし、成形性が劣化する。また、剪断面に発生した微細な亀裂が疲労環境で伝播しやすく、部品の破損が発生するようになる。特に、厚さが厚くなるほど、厚さ表層部と深層部との微細組織の不均一性が増加して局部的な応力集中が増加し、疲労環境での亀裂の伝播速度も増加して耐久性が劣化する。
【0005】
また、厚物材の結晶粒を微細化して析出強化の効果を得るためには、Ti、Nb、Vなどの析出物形成元素を活用することが効果的である。しかし、析出物が形成されやすい500~700℃の高温で巻き取るか、熱延後の冷却時に鋼板の冷却速度を制御しなければ、厚物材の厚さ中心部に粗大な炭化物が形成され、剪断面の品質が劣化する。
【0006】
そして、粗大なパーライト組織が形成されないように巻取温度をベイナイト相が形成される温度まで冷却するとき、2段にわたる冷却制御方式はROT区間の長さに制約を受けるが、クライアントが要求する単重が小さいほど、コイル全長にわたってその効果を得るには限界点が存在する。また、一次冷却時の冷却速度値を70℃/sec水準に制御するためには、設備の負荷が大きいことから生産性の低下に直結する。そして、熱間圧延時に未再結晶域で40%の大圧下を加えることは、圧延板の形状品質を劣化させ、設備の負荷をもたらすため、実際に適用するのは困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本公開特許公報第2002-322541号
【文献】韓国公開特許公報第10-2020-0062422号
【文献】日本公開特許公報第1997-143570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鋼の組成成分、熱延及び冷却条件を制御して鋼材の厚さ方向に均一な微細組織の分布を確保することにより、厚さ方向に硬度分布が一定である強度及び延性に優れた厚物熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の全体的な内容から理解されるものであり、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の更なる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%、残りの鉄及び不可避不純物を含み、下記[関係式1]を満たし、面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5%未満を含む微細組織を有する、厚さ10~14mmの引張強度590MPa級以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板に関するものである。
【0011】
[関係式1]
0.3≦R≦1.0
R=[C]*+0.7×[Mn]+8.5×[P]+7.5×[S]-0.9×[Si]-1.5×[Nb]
[C]*=[C]-[C]×Q
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
上記関係式(1)のC、Mn、P、S、Si、Nb、Tiは、当該合金元素の重量%
【0012】
上記熱延鋼板は、El×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満たすことができる。
【0013】
また、本発明の他の側面は、上記組成成分と下記[関係式1]を満たす鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階;上記再加熱された鋼スラブを、下記[関係式2]を満たす温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階;上記仕上げ熱間圧延された鋼板を、450~550℃の範囲の温度まで下記[関係式3]を満たす冷却速度で冷却した後、400~550℃の範囲の温度で巻き取る段階;及び上記巻き取られた鋼板を常温~200℃の範囲の温度まで空冷又は水冷する段階を含む、厚さ10~14mmの引張強度590MPa級以上で延伸率30%以上の高強度厚物熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【0014】
[関係式1]
0.3≦R≦1.0
R=[C]*+0.7×[Mn]+8.5×[P]+7.5×[S]-0.9×[Si]-1.5×[Nb]
[C]*=[C]-[C]×Q
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
上記関係式1のC、Mn、P、S、Si、Nb、Tiは、当該合金元素の重量%
【0015】
[関係式2]
Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=750+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+647×[Nb]+515×[Ti]-50×[Si]-2.4×(t-5)
上記関係式2のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは、当該合金元素の重量%
上記関係式2のFDTは、熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
上記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)
【0016】
[関係式3]
CRMin≦CR*≦60
CRMin=65-157×[C]-25.2×[Si]-14.1×[Mn]-27.3×[Cr]+61×[Ti]+448×[Nb]+1.4×(t-5)
上記関係式3のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは、当該合金元素の重量%
上記関係式3のCR*は、熱延後圧延された板材の冷却時の冷却速度(℃/sec)
【0017】
上記空冷又は水冷した後、鋼板を酸洗及び塗油する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0018】
上述のような構成の本発明は、ポリゴナルフェライト:25~50面積%、ベイニティックフェライトと針状フェライト:30~50面積%、ベイナイト:20面積%以下、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5面積%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5面積%未満を含む微細組織を有し、厚さ10~14mmの引張強度590MPa級以上で延伸率30%以上のEl×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満たす高強度厚物熱延鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例において、発明例3と比較例9の鋼板の厚さ(表層と1/4t)による断面微細組織を示す写真である。
図2】本発明の実施例において、発明例3と比較例3の厚さ断面での硬度値分布を示す図である。
図3】本発明の実施例において、発明例と比較例に係る延伸率水準に対するEl×TS×0.5Hvmax/ΔH値の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。
本発明者らは、微細組織が互いに異なる様々な成分を有する厚物圧延鋼材について、成分、熱延及び冷却条件による厚さ方向別の微細組織の分布と詳細な材質の変化を調査し、その結果から厚物熱延鋼板に優れた強度及び延性を持たせる方法を模索した。特に、後述する関係式1~3を導出し、それに基づいて厚さが10~14mmの厚物高強度鋼を製造すると、厚さ方向に微細組織の均一性が確保され、厚さ方向に硬度分布が一定となり、El×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満たすことを確認して、本発明を提示するものである。
【0021】
このような本発明の高強度厚物熱延鋼板は、重量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.01~1.0%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.1%、Cr:0.005~1.0%、P:0.001~0.02%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.11%、残りの鉄及び不可避不純物を含み、下記[関係式1]を満たし、鋼の微細組織が、面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5%未満を含む。
【0022】
以下、本発明の鋼の組成成分及びその成分含有量を制限する理由を説明するが、ここで用いられる「%」は「重量%」を意味する。
【0023】
・C:0.05~0.15%
上記Cは、鋼を強化させるのに最も経済的且つ効果的な元素であり、添加量が増加すると、析出強化の効果又はベイナイト相分率が増加し、引張強度が増加するようになる。また、熱延鋼板の厚さが増加すると、熱間圧延後の冷却中に厚さ中心部の冷却速度が遅くなり、Cの含有量が大きい場合に粗大な炭化物やパーライトが形成されやすい。そのため、もし、含有量が0.05%未満であると、十分な強化効果が得られ難く、0.15%を超えると、厚さ中心部に粗大な炭化物やパーライト相及びバンド組織が形成されて成形性が劣化し、耐久性が低下するという問題点があり、さらに溶接性も劣化する。従って、本発明では、上記Cの含有量を0.05~0.15%に制限することが好ましく、0.06~0.12%の範囲に制限することがより好ましい。
【0024】
・Si:0.01~1.0%
上記Siは、溶鋼を脱酸させて固溶強化する効果があり、粗大な炭化物の形成を遅延させて成形性を向上させるのに有利である。しかし、その含有量が0.01%未満であると、固溶強化の効果が小さく、炭化物の形成を遅延させる効果も少ないことから成形性を向上させ難い。一方、1.0%を超えると、相変態温度が上昇し、極厚物材の低温域熱間圧延時に表層部に局部的なフェライト域圧延による粗大粒が形成されやすく、鋼板表面に赤色スケールが形成されて、鋼板表面の品質が非常に悪くなるだけでなく、延性と溶接性も低下するという問題点がある。従って、本発明では、Siの含有量を0.01~1.0%の範囲に制限することが好ましく、0.1~0.9%の範囲に制限することがより好ましい。
【0025】
・Mn:1.0~2.0%
上記Mnは、Siと同様に鋼を固溶強化させるのに効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させて熱延後の冷却時にベイナイト相の形成を容易にする。しかし、その含有量が1.0%未満であると、添加による上記効果が得られず、2.0%を超えると、硬化能が大きく増加してマルテンサイト相変態が起こりやすく、高温巻取ではパーライトの形成を促進するようになる。また、連鋳工程でスラブを鋳造するときに厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、熱延後の冷却時には厚さ方向に微細組織を不均一に形成して、成形性及び耐久性が劣化する。従って、本発明では、上記Mnの含有量を1.0~2.0%の範囲に制限することが好ましく、1.1~2.0%の範囲に制限することがより好ましい。
【0026】
・Cr:0.005~1.0%
上記Crは、鋼を固溶強化させ、且つ冷却時にフェライト相変態を遅延させてベイナイトの形成を助ける役割をする。しかし、その含有量が0.005%未満であると、添加による効果が得られず、1.0%を超えると、フェライト変態を過度に遅延させ、マルテンサイト相の形成により延伸率が低下する。また、Mnと類似して、厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、厚さ方向に微細組織を不均一にして成形性及び耐久性が劣化する。従って、本発明では、上記Crの含有量を0.005~1.0%の範囲に制限することが好ましく、0.1~0.9%の範囲に制限することがより好ましい。
【0027】
・P:0.001~0.02%
上記Pは、Siと同様に固溶強化及びフェライト変態の促進効果を同時に有している。しかし、その含有量を0.001%未満に制御するためには製造コストが多くかかることから、経済的に不利であり、強度を得るにも不十分である。一方、その含有量が0.02%を超えると、粒界偏析による脆性が発生し、成形時に微細な亀裂が生じやすく、成形性と耐久性を大きく悪化させる。従って、本発明では、上記Pの含有量を0.001~0.02%の範囲に制限することが好ましい。
【0028】
・S:0.001~0.01%
上記Sは、鋼中に存在する不純物であって、その含有量が0.01%を超えると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、これにより鋼の切断加工時に微細な亀裂が発生しやすく、成形性と耐久性を大きく低下させるという問題点がある。一方、その含有量を0.001%未満に制御するためには、製鋼操業時に時間が多くかかり、生産性が低下する可能性がある。従って、本発明では、Sの含有量を0.001~0.01%に制限することが好ましい。
【0029】
・Sol.Al:0.01~0.1%
上記Sol.Alは、主に脱酸のために添加する成分であり、その含有量が0.01%未満であると、その添加による効果が不十分であり、0.1%を超えると、窒素と結合してAlNが形成され、連続鋳造時にスラブにコーナークラックが発生しやすく、介在物の形成による欠陥が発生しやすい。従って、本発明では、Sol.Alの含有量を0.01~0.1%に制限することが好ましい。
【0030】
・N:0.001~0.01%
上記Nは、Cと共に代表的な固溶強化元素であって、Ti、Alなどと共に粗大な析出物を形成する。一般的に、Nの固溶強化の効果は炭素よりも優れるものの、鋼中のNの量が増加するほど靭性が大きく低下するという問題点がある。また、その含有量を0.001%未満に制御するためには、製鋼操業時に時間が多くかかり、生産性が低下するようになる。従って、この点を考慮して、本発明では、Nの含有量を0.001~0.01%に制限することが好ましい。
【0031】
・Ti:0.005~0.11%
上記Tiは、代表的な析出強化元素であり、Nとの強い親和力で鋼中に粗大なTiNを形成する。TiNは熱間圧延を行うための加熱過程で結晶粒が成長することを抑制する効果がある。また、窒素と反応し残ったTiが鋼中に固溶され、炭素と結合することでTiC析出物が形成され、鋼の強度を向上させるのに有用な成分である。もし、Tiの含有量が0.005%未満であると、上記効果が得られず、Tiの含有量が0.11%を超えると、粗大なTiNの発生及び析出物の粗大化により成形時に局部的な応力集中を引き起こし、亀裂が発生しやすいという問題点がある。従って、本発明では、Tiの含有量を0.005~0.11%に制限することが好ましく、0.01~0.1%に制限することがより有利である。
【0032】
・Nb:0.005~0.07%
上記Nbは、Tiと共に代表的な析出強化元素であり、熱間圧延中に析出し、再結晶遅延により結晶粒を微細化する効果があるため、鋼の強度と衝撃靭性の向上に効果的である。もし、Nbの含有量が0.005%未満であると、上記効果が得られず、Nbの含有量が0.07%を超えると、熱間圧延時の過度な再結晶遅延により、延伸された結晶粒及び粗大な複合析出物が形成されるため、成形性と耐久性が劣化するという問題点がある。従って、本発明では、Nbの含有量を0.005~0.07%に制限することが好ましく、0.01~0.07%に制限することがより好ましい。
【0033】
・関係式1
本発明では、下記[関係式1]により定義されるR値が0.3~1.0の範囲を満たすように、C、Mn、P、S、Si、Nb、Tiの含有量を制御することを特徴とする。
【0034】
本発明でこのような[関係式1]を設定した理由は、連鋳工程において鋼の凝固及びスラブの冷却時に発生するC、Mn、P、Sなどの偏析及びMnS形成の最小化により、圧延板の厚さ方向への偏析、粗大炭化物及び不均一なパーライト組織の形成を抑制し、微細組織の均一性を向上させるためである。もし、上記[関係式1]により定義されるR値が0.3未満であると、圧延板の厚さ方向への偏析、粗大炭化物及び不均一なパーライト組織の分率が急激に減少するものの、本発明で提示する強度水準が確保できないという問題があり、1.0を超えると、圧延板の微細組織の中央部に過度なパーライト組織が形成されるか、不要な偏析及び粗大炭化物が形成されることで、厚さ方向に微細組織の不均一性が増加するという問題がある。
【0035】
[関係式1]
0.3≦R≦1.0
R=[C]*+0.7×[Mn]+8.5×[P]+7.5×[S]-0.9×[Si]-1.5×[Nb]
[C]*=[C]-[C]×Q
Q=([Nb]/93+[Ti]/48)/([C]/12)
上記関係式(1)のC、Mn、P、S、Si、Nb、Tiは、当該合金元素の重量%
【0036】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を本明細書では特に言及しない。
【0037】
また、本発明の高強度厚物熱延鋼板は、面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5%未満を含む鋼の微細組織を有する。
【0038】
本発明において上記高温フェライト組織であるポリゴナルフェライト分率が25%未満であると、十分な延性が確保できないという問題があり、50%を超えると、ベイニティックフェライトを始めとする低温相を適正分率で確保できず、相対的に遅い冷却速度に起因する微細組織の粗大化及び粒界炭化物分率の増加により、強度及び耐久性が劣化するという問題がある。
【0039】
また、本発明では、上記ベイニティックフェライトと針状フェライト分率の合計を30~50%の範囲に制限するが、もし、その含有量が50%を超えると、十分なポリゴナルフェライト組織が確保できないことから延性が劣化する。また、何よりも、10~14mm厚さの厚物材に対し、50%を超えるベイニティックフェライトなどを確保するための冷却速度及び巻取温度を制御するには、冷却設備及びROT区間の長さを考慮すると、設備の面の制約が大きく、生産性の低下に直結する可能性がある。一方、その分率の合計が30%未満である場合は、ポリゴナルフェライト、パーライト組織が不要に形成されたり、或いはベイナイト、マルテンサイトといった低温相の分率が急激に増加した場合であるが、これも強度、延性、耐久性が劣化するという問題点がある。
【0040】
また、本発明では、上記ベイナイト分率を20%以下に制限するが、もし、20%を超えると、組織内のポリゴナルフェライト分率が急激に減少し、延性が不要に劣化するという問題が生じる可能性がある。
【0041】
一方、本発明において、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計を5%未満に、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents)を5%未満に制限する理由は、過度な炭素の集中により局部的に変形率を増加させるMA相の分率を抑制し、代わりに適正割合のベイナイト及びベイニティックフェライトを形成させて厚さ方向に均一な変形挙動を誘導することで、延性及び耐久性を向上させるためである。
【0042】
上述のような鋼の組成成分と鋼の微細組織を有する、厚さ10~14mmの引張強度590MPa級以上、延伸率30%以上の熱延鋼板は、厚さ方向に均一な組織を形成し、延伸率、強度、材質均一性に関するEl×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満たすことができる。
【0043】
次に、本発明の高強度熱延鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0044】
本発明では、上記鋼の組成成分が下記[関係式1]を満たし、鋼の製造工程が下記[関係式2]及び[関係式3]を同時に満たさなければ、鋼の適合した強度、延性及び材質均一性を確保することができない。これは、連鋳工程で鋼の凝固とスラブの冷却時に発生するC、Mn、P、Sなどの偏析及びMnSの形成を最小化することで効果的に達成することができる。
【0045】
熱間圧延中の再結晶の遅延は、相変態時に組織を微細化し、フェライト相変態を促進するため、厚さ方向に均一な降伏強度と成形性を確保することに寄与する。また、未変態相が減少して粗大なMA相とMartensite相の分率が減少し、相対的に冷却速度の遅い厚さ中心部では粗大な炭化物やパーライト組織が減少して、熱延鋼板の不均一組織が解消されるようになる。
【0046】
しかし、通常水準の熱間圧延では、厚さ10~14mmの厚物材の厚さ中心部の微細組織を均一にし難く、厚さ中心部での再結晶の遅延効果を得るために過度に低い温度で熱間圧延を行うと、変形された組織が圧延板の厚さ表層直下からt/4位置で強く発達し、むしろ厚さ中心部との微細組織相の不均一性が増加し、成形時に不均一部位で微細な亀裂が発生しやすくなり、延性も減少するという問題がある。従って、下記[関係式2]に示すように、厚物材に合わせて、仕上げ熱間圧延終了温度は再結晶の遅延が開始される温度であるTn温度とTn-70で制御され、Tnにおいては、仕上げ熱間圧延終了温度区間で総圧下量10~60%を付与して完了しなければ上記効果が得られない。このとき、総圧下量が10%未満であると、再結晶遅延の効果が得られ難いことから不均一な粗大粒が形成されやすく、総圧下量が60%を超えると、過度に延伸された微細組織が形成されるが、微細組織中の炭化物の粒界に沿って形成されると、成形時に粒界に沿って亀裂が発生しやすい。また、微細な析出物も減少して析出強化の効果も減少する。
【0047】
さらに、熱間圧延後の冷却時の厚さ中心部の冷却速度が圧延板の厚さ表層部に比べて遅いため、粗大なフェライト相及び粗大な炭化物が形成され、不均一な微細組織を有する可能性がある。従って、熱間圧延直後、圧延された板を冷却するとき、下記[関係式3]の冷却速度が厚さ中心部のフェライト相変態領域で過度に維持されないように、特定の冷却速度(CRmin)よりも速く冷却しなければならない。また、冷却終了温度であるCTを400~550℃に制限し、粗大なフェライト相と粗大な炭化物の形成を抑制できるだけでなく、MA相とマルテンサイト相の形成も最小化することができる。
【0048】
このような本発明の高強度厚物熱延鋼板の製造方法は、上記組成成分と下記[関係式1]を満たす鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する段階;上記再加熱された鋼スラブを、下記[関係式2]を満たす温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階;上記仕上げ熱間圧延された鋼板を、450~550℃の範囲の温度まで下記[関係式3]を満たす冷却速度で冷却した後、400~550℃の範囲の温度で巻き取る段階;及び上記巻き取られた鋼板を常温~200℃の範囲の温度まで空冷又は水冷する段階を含む。
【0049】
まず、本発明では、上記組成成分と上記[関係式1]を満たす鋼スラブを1200~1350℃に再加熱する。
【0050】
このとき、上記再加熱温度が1200℃未満であると、析出物が十分再固溶されないことから熱間圧延後の工程で析出物の形成が減少し、粗大なTiNが残存するようになる。一方、1350℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長により強度が低下する可能性がある。これを考慮して、本発明では、上記再加熱温度を1200~1350℃の範囲に制限することが好ましい。
【0051】
続いて、本発明では、上記再加熱された鋼スラブを、下記[関係式2]を満たす温度範囲で仕上げ熱間圧延する。
【0052】
本発明で熱間圧延を開始する温度は1150℃以下とすることが好ましく、鋼の微細組織を考慮して、仕上げ熱間圧延温度が下記[関係式2]を満たすようにする。もし、1150℃よりも高い温度で熱間圧延を開始すると、熱延鋼板の温度が高くなって結晶粒の大きさが粗大となり、熱延鋼板の表面品質が劣化するおそれがある。
【0053】
特に、本発明では、下記[関係式2]で提案された温度であるTnよりも高い温度で圧延を終了すると、鋼の微細組織が粗大且つ不均一になる。また、Tn-70よりも低い温度で圧延を終了すると、鋼板の厚さが10~14mmに該当する厚物高強度鋼において、温度が相対的に低い表層部でフェライト相変態が促進されることにより、微細なフェライト相分率は増加するものの、延伸された結晶粒の形状を有するようになり、亀裂が速やかに伝播する原因になる可能性がある。また、厚さ中心部には不均一な微細組織が残存する可能性があり、耐久性に不利になるおそれがある。
【0054】
本発明では、さらに、上記仕上げ熱間圧延温度の範囲内で圧下量10~60%を加えなければ上記効果が得られない。上記圧下量が10%未満であると、再結晶遅延の効果が得られ難く、不均一な粗大粒が形成されやすい。一方、上記圧下量が60%を超えると、過度に延伸された微細組織が形成されるが、微細組織中の炭化物の粒界に沿って形成されると、成形時に粒界に沿って亀裂が発生しやすい。また、微細な析出物も減少して析出強化の効果も減少する。
【0055】
[関係式2]
Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=750+92×[C]+70×[Mn]+45×[Cr]+647×[Nb]+515×[Ti]-50×[Si]-2.4×(t-5)
上記関係式2のC、Mn、Cr、Nb、Ti、Siは、当該合金元素の重量%
上記関係式2のFDTは、熱間圧延終了時点の熱延板の温度(℃)
上記関係式2のtは、最終圧延板材の厚さ(mm)
【0056】
続いて、本発明では、上記仕上げ熱間圧延された鋼板を、450~550℃の範囲の温度まで下記[関係式3]を満たす冷却速度で冷却した後、上記冷却された鋼板を400~550℃の範囲の温度で巻き取る。
【0057】
上記熱間圧延直後の温度であるFDTから冷却終了温度であるCTまでの温度領域は、冷却中にフェライト相変態が発生する温度区間に該当し、厚さ中心部の冷却速度が圧延板の厚さ表層部に比べて遅いため、厚さ中心部で粗大なフェライト相と粗大な炭化物が形成され、不均一な微細組織を有するようになる。従って、これを抑制するために、特定の冷却速度(CRmin)よりも速く冷却しなければならない。また、この温度領域で熱延鋼板の表層部(鋼板表面から厚さ方向に1~2mmの範囲までの領域)の平均冷却速度が60℃/secよりも高いと、表層部と深層部との冷却速度の差が大き過ぎることから、表層部と深層部との硬度差が大きく増加するため、成形性と耐久性が劣化する可能性があり、また、設備の面において、全段階での極強冷による設備負荷及び小単重のSlabでの具現が難しいという短所がある。従って、下記[関係式3]に示すように、鋼成分を考慮して設定された冷却速度を満たすように冷却しなければならない。
【0058】
また、本発明で上記巻取温度が550℃を超えると、パーライト相がバンド組織に形成されるか、粗大な炭化物が多量に形成されることから、鋼の成形性及び耐久性が不十分になり、400℃未満であると、Martensite相及びMA相が過度に形成されるため、成形性及び耐久性が劣化する。従って、本発明において上記巻取温度は450~550℃に制限することが好ましい。
【0059】
[関係式3]
CRMin≦CR*≦60
CRMin=65-157×[C]-25.2×[Si]-14.1×[Mn]-27.3×[Cr]+61×[Ti]+448×[Nb]+1.4×(t-5)
上記関係式3のC、Si、Mn、Cr、Ti、Nbは、当該合金元素の重量%
上記関係式3のCR*は、熱延後圧延された板材の冷却時の冷却速度(℃/sec)
【0060】
そして、本発明では、上記巻き取られた熱延鋼板を常温~200℃の範囲の温度まで空冷又は水冷する。
【0061】
鋼板の空冷とは、冷却速度0.001~10℃/hourで常温の大気中で冷却することを意味する。このとき、冷却速度が10℃/hourを超えても、上記巻取温度及び冷却条件を満たせば、鋼中の一部の未変態相がMA相に変態することを抑制できるため、水冷を行っても構わない。ここで水冷とは、常温の水槽にコイルを装入して冷却することを意味する。また、冷却速度を0.001℃/hour未満に制御するためには、別途の加熱及び保熱設備などが必要であることから経済的に不利である。
【0062】
続いて、本発明では、上記空冷又は水冷した後、鋼板を酸洗及び塗油することでPO(pickled and oiled)鋼板を製造することもできる。
【0063】
上述のような製造工程を用いて製造された本発明の厚さ10~14mmの高強度厚物熱延鋼板は、面積%で、ポリゴナルフェライト:25~50%、ベイニティックフェライト+針状フェライト:30~50%、ベイナイト:20%以下、単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物及びパーライト組織の面積分率の合計:5%未満、並びにMA相(Martensitic-austenitic constituents):5%未満を含む鋼の微細組織を有し、引張強度590MPa級以上で延伸率30%以上を示すことができる。
【0064】
併せて、本発明の熱延鋼板は、El×TS×0.5Hvmax/ΔH値が140,000以上を満たすことができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。
【0066】
(実施例)
下記表1に示すような本発明の成分組成を有する鋼スラブの組成をそれぞれ設けた。そして、上記設けられたそれぞれの鋼スラブに対し、下記表2に示すような圧延厚さ、仕上げ熱間圧延温度(FDT)、巻取温度(CT)、未再結晶温度領域であるTn以下Tn-70以上の温度域で加えられた圧下量(%)、仕上げ熱間圧延後の冷却終了温度である巻取温度までの冷却速度(CR)などといった製造工程の条件を用いて熱延鋼板を製造した。一方、表2に示していない巻取後の鋼板の冷却速度は1℃/hourと一定にした。
【0067】
そして、上記製造された熱延鋼板の表層部(表面直下1mm地点)と厚さ中心部(2/t)での微細組織の相分率を測定して、下記表3に示した。一方、MA相の面積分率は、レペラ(Lepera)エッチング法でエッチングした後、光学顕微鏡とイメージ分析器(Image analyser)を用いて1000倍率で分析した結果を示した。また、マルテンサイト(M)、ポリゴナルフェライト(PF)、ベイニティックフェライト(BF)、針状フェライト(AF)、ベイナイト(B)及びパーライト(P)の相分率は、Nitalエッチング液を用いてエッチングした後、電子走査顕微鏡(SEM)を用いて3000倍率、5000倍率で分析した結果から測定した。
【0068】
また、上記製造された熱延鋼板の機械的性質及び硬度などを測定して、その結果を下記表4に示した。ここで、YS、TS、YR、Elは、0.2%off-set降伏強度、引張強度、降伏比及び破壊延伸率を意味し、JIS5号の規格試験片を圧延方向に平行にし、試験片を採取して試験した結果である。
【0069】
一方、硬度の測定は、Micro-vickers試験機で表層部(表面直下1mm)から1/2t厚さまで0.5mm間隔で厚さ方向にビッカース硬度値を測定し、このとき、荷重は500gを適用した。ここでは、測定された最大のビッカース硬度値をHmax、最小の硬度値をHminと定義しており、ΔHvはHmax-Hminを意味する。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】

*表3において、Pは、パーライトと単位面積(1cm)内で観察される直径0.5μm以上の炭化物分率との合計を意味する
【0073】
【表4】

*表4において、A*は、El×TS×0.5Hvmax/ΔH
【0074】
上記表1-4に示すように、本発明で提案する成分範囲と製造条件及び関係式1~3をいずれも満たす発明例1-7は、目標とする微細組織及び材質特性を有することが分かる。
【0075】
これに対し、比較例1は、Cの含有量が本発明で提案する範囲から外れると共に、偏析を考慮した[関係式1]が本発明の範囲を超える場合である。このときは、微細組織中の中央部と表層部にわたって過度なパーライト組織が形成され、これにより延性が不十分であり、厚さの間の硬度ばらつきが大きいことが分かる。
【0076】
比較例2は、Siの含有量が本発明の範囲と共に、[関係式1]を満たさない場合であって、MA相分率が表層部と深層部においていずれも高く形成されていることが確認できる。これは過度なSiの添加により相変態温度が上昇し、熱間圧延中に表層部にフェライト相が形成されて二相域圧延され、一部の未変態オーステナイト相がMA相に形成され、結果として延伸率が低下したものである。
【0077】
比較例3-4は、本発明で提案するMnの成分範囲から外れると共に、[関係式1]を満たさない場合である。具体的に、比較例3は、Mnの含有量が高くなり過ぎた場合であって、パーライト組織が過剰に形成されており、延伸されたMnS介在物も観察された。特に、厚さ方向への硬度測定時に局部的に高い硬度差を示しており、延性も不十分であった。そして、比較例4は、Mnの含有量が少なく、圧延板の厚さ方向への偏析や粗大炭化物及び不均一なパーライト組織は形成されていないものの、降伏強度及び引張強度が不十分であり、本発明から外れた結果を示した。
【0078】
比較例5-6は、鋼の組成成分は本発明の範囲を満たすものの、FDTの範囲が本発明の範囲を満たさない場合であって、比較例5は、粗大なフェライト(Polygonal Ferrite)の形成をもたらし、目標強度を満たしていないのに対し、比較例6は、二相域で圧延されて延伸された粗大なフェライト(Polygonal Ferrite)が多数形成され、組織の不均一性が増加し、強度も劣化した。
【0079】
比較例7-8は、本発明で提案する巻取温度の基準を満たさない場合である。具体的に、比較例7は、巻取温度が本発明で提案する範囲よりも高い場合であって、組織内にパーライト組織が局部的に形成されており、特に、厚さ中心部ではパーライトバンド組織が観察された。これにより、厚さ方向への硬度測定時に局部的に高い硬度差を示した。そして、比較例8は、巻取温度が本発明で提案する範囲よりも低い場合であって、組織内の過度なマルテンサイトの形成により延伸率が低下することが確認できる。
【0080】
比較例9は、熱間圧延後の冷却時の冷却速度が本発明で提案する範囲よりも遅い場合であって、組織内の粗大なフェライト(Polygonal Ferrite)分率が高く、強度が劣化するだけでなく、厚さ中心部でパーライト及び粗大な炭化物が形成され、硬度のばらつきを生じさせることが確認できる。
【0081】
一方、図1は、本発明の実施例において、発明例3と比較例9の鋼板の厚さ(表層と1/4t)による断面微細組織を示す写真である。発明例3の場合に、比較例9に比べて均質な組織が得られることがわかる。
【0082】
そして、図2は、本発明の実施例において、発明例3と比較例3の厚さ断面での硬度値の分布を示す図である。発明例3の場合に、比較例3に比べて各厚さ別の硬度ばらつきが小さいことがわかる。
【0083】
図3は、本発明の実施例において、発明例と比較例に係る延伸率水準に対するEl×TS×0.5Hvmax/ΔH値の分布を示す図である。
【0084】
以上で述べたように、本発明の詳細な説明では本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇から外れない範囲内で様々な変形が可能であることはいうまでもない。従って、本発明の権利範囲は、説明された実施例に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、それと均等なものによって定められるべきである。
図1
図2
図3