(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】バリアフィルム及びそれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20241010BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241010BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241010BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/00 H
B32B27/32 D
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2024003526
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2023169142の分割
【原出願日】2023-09-29
【審査請求日】2024-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】森本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 誠
(72)【発明者】
【氏名】小市 千紗代
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】八谷 悠生
(72)【発明者】
【氏名】小西 健太
(72)【発明者】
【氏名】玉田 周平
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-29095(JP,A)
【文献】特開2023-127642(JP,A)
【文献】特開2014-213530(JP,A)
【文献】特開2023-131024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン基材と、下地層と、酸化アルミニウム蒸着膜と、バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
前記被覆層は、アルコキシシランと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記被覆層は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.30以上1.65以下であり、
前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記被覆層表面側からX線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが1.05以上1.60未満である、バリアフィルム。
P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
【請求項2】
前記下地層が、前記ポリプロピレン基材上に形成されるアンカーコート層である、請求項1に記載のバリアフィルム。
【請求項3】
前記下地層が、前記ポリプロピレン基材上に形成されるポリアミド樹脂を含む表面樹脂層である、請求項1に記載のバリアフィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第1層が前記下地層側に形成されており、
前記第1の層がプロピレンと他のモノマーとの共重合体を含有し、
前記下地層が前記アンカーコート層であり、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記アンカーコート層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている請求項
2に記載のバリアフィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第1層が前記下地層側に形成されており、
前記第1の層が変性ポリプロピレンを含有し、
前記下地層が前記ポリアミド樹脂を含む前記表面樹脂層であり、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記ポリアミド樹脂を含む前記表面樹脂層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている請求項
3に記載のバリアフィルム。
【請求項6】
前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第2層が前記下地層側と反対側の表面に形成されており、
前記第2の層がプロピレンと他のモノマーとの共重合体を含有し、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記下地層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている請求項1に記載のバリアフィルム。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載のバリアフィルムと、シーラント層とを備え、レトルト食品またはボイル食品を収容した包装袋に用いられる、加熱殺菌処理された積層体であって、
前記積層体の前記被覆層における、前記被覆層の断面からナノインデンテーション法により測定される複合弾性率及びインデンテーション硬さが、前記複合弾性率が5.0GPa以上8.5GPa以下であり、かつ、前記インデンテーション硬さが0.9GPa以上1.7GPa以下である、積層体。
【請求項8】
請求項
7に記載の積層体を備える包装製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリアフィルム及びそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックなどの長尺状のフィルムやシートの基材上に成膜された膜を備えた積層フィルムが、様々な用途で利用されている。例えば、プラスチックフィルム上に、酸化アルミニウムなどの薄膜からなるバリア層を設けて、酸素及び水蒸気に対するバリア性の機能を持たせたバリア性積層フィルムが開発されている。
【0003】
酸化アルミニウム薄膜を備えるバリアフィルムの製造手法として、例えば、特許文献1には、酸化アルミニウム薄膜を備えるバリアフィルムの製造手法として、アルミニウムの蒸発源と高分子フィルムの間の空間に高密度プラズマを発生させるプラズマ活性化蒸着法(いわゆる蒸着時のプラズマアシスト法)を用いることで得られる、透明性とガスバリア性に優れたガスバリアフィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、酸化アルミニウムの蒸着膜を備えるガスバリアフィルムの製造方法において、水蒸気がアルミニウムと反応して水酸化度を高めるため、水蒸気分圧は0.001Pa以下であることが望ましいと記載されている。
【0005】
一方、近年、環境配慮の観点から、包装材料のリサイクル性の向上を目的として、モノマテリアル包装材料が検討されている。たとえば、従来汎用されてきたポリエステルフィルム(PETフィルム)に代えて、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)などのポリオレフィンフィルムを基材へ適用し、これと積層されるシーラント層としても無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)などのポリオレフィンフィルムを用いた積層体がモノマテリアル包装材料として検討されている。
【0006】
例えば、下記の特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂を含む基材層と、バリア層と、ポリビニルアルコール系樹脂を含むオーバーコート層と、を備え、前記オーバーコート層表面の硬さが、ナノインデンテーション法による測定において1.5GPa以下である、ガスバリア積層体が開示されている。このように、2軸延伸ポリプロピレン基材と、無機酸化物蒸着膜と、バリア性を有する被覆層とがこの順に積層されているバリアフィルムと、シーラント層とを備える積層体は、ポリオレフィン系のモノマテリアル包装材料として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-177343号公報
【文献】特開2022-052319号公報
【文献】WO2022/085586国際公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、蒸着時のプラズマアシストにより酸素とアルミニウムとの反応性が高まり、透明性とバリア性の向上が認められる。しかしながら、バリアフィルムに色ムラが生じやすく、目立ちやすいという問題があった。プラズマアシストの有無によらず、反応性蒸着をする際には、通常、蒸着後の透過率を測定し、アルミニウムの蒸発量または酸素導入量にフィードバックをかけることで、透過率をある範囲に保つことで、均一な外観を維持している。しかし、数百メートル/分の高速での生産の場合、このフィードバックが間に合わないことがあり、これにより透過率が変動して成膜されると、色ムラとなり、バリアフィルム巻取体の端面からみたときに、バームクーヘン状の外観となる。その外観から品質が均一でないと疑われ問題となる。プラズマアシストにより透明性とバリア性の高い状態で成膜されると、色ムラが目立つ上に後天的に色ムラを低減することが困難という課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載されているように、酸化アルミニウムの蒸着工程においては、例えば、コールドトラップやクライオポンプなどを用いて蒸着チャンバ内の水分を低下させることは通常行われることである。
【0010】
一方、ポリオレフィン系のモノマテリアル包装材料からなる積層体を、ボイル処理やレトルト処理のような加熱殺菌処理に適用する場合、OPPフィルムはPETフィルムに比べて耐熱性や強度に劣る。このため、加熱殺菌処理後のOPPフィルムはPETフィルムに比べてバリア性の低下が著しい。
【0011】
この点につき、従来のバリアフィルムにおいては、蒸着基材としてのOPPフィルムに適する蒸着膜と被覆層の検討が不十分であり、特に積層体とした場合の加熱殺菌処理に耐え得る蒸着膜と被覆層につき更なる検討が必要であった。
【0012】
また、特許文献3は、被覆層の複合弾性率と硬さを規定するものであるが、バリアフィルムの「加工適正」を課題としている。このため、特許文献3は「加熱殺菌処理前」の被覆層の複合弾性率と硬さを規定するのみであり、加熱殺菌処理や、その後のバリア性については何ら言及されていないものである。
【0013】
本発明者等の検討によると、被覆層の複合弾性率と硬さは、積層の前後や、加熱殺菌処理の有無によって変動することが判明した。このため、特許文献3のように、「加熱殺菌処理前」での被覆層の複合弾性率と硬さを特定しても、積層体を加熱殺菌処理した際の、バリア性の低下抑制を予測することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、ポリオレフィン系のモノマテリアル包装材料である積層体を構成するバリアフィルムであって、OPPフィルム基材上に形成される蒸着膜と被覆層について、バリアフィルムの色ムラを低減すると共に、積層体とした場合の加熱殺菌処理用途に適する蒸着膜と被覆層を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0015】
(1) ポリプロピレン基材と、下地層と、酸化アルミニウム蒸着膜と、バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
前記被覆層は、アルコキシシランと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記被覆層表面側からX線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが1.05以上1.60未満である、バリアフィルム。
P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
【0016】
(2) 前記被覆層は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.30以上1.65以下である、(1)に記載のバリアフィルム。
【0017】
(3) 前記下地層が、前記ポリプロピレン基材上に形成されるアンカーコート層である、(1)に記載のバリアフィルム。
【0018】
(4) 前記下地層が、前記ポリプロピレン基材上に形成されるポリアミド樹脂を含む表面樹脂層である、(1)に記載のバリアフィルム。
【0019】
(5) 前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第1層が前記下地層側に形成されており、
前記第1の層がプロピレンと他のモノマーとの共重合体を含有し、
前記下地層が前記アンカーコート層であり、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記アンカーコート層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている(1)に記載のバリアフィルム。
【0020】
(6) 前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第1層が前記下地層側に形成されており、
前記第1の層が変性ポリプロピレンを含有し、
前記下地層が前記ポリアミド樹脂を含む前記表面樹脂層であり、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記ポリアミド樹脂を含む前記表面樹脂層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている(4)に記載のバリアフィルム。
【0021】
(7) 前記ポリプロピレン基材が両表面層として第1層と第2層とを少なくとも備え、前記第2層が前記下地層側と反対側の表面に形成されており、
前記第2の層がプロピレンと他のモノマーとの共重合体を含有し、
前記ポリプロピレン基材の前記第1層と、前記下地層と、前記酸化アルミニウム蒸着膜と、前記バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されている(1)に記載のバリアフィルム。
【0022】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載のバリアフィルムと、シーラント層とを備え、レトルト食品またはボイル食品を収容した包装袋に用いられる、加熱殺菌処理された積層体であって、
前記積層体の前記被覆層における、前記被覆層の断面からナノインデンテーション法により測定される複合弾性率及びインデンテーション硬さが、前記複合弾性率が5.0GPa以上8.5GPa以下であり、かつ、前記インデンテーション硬さが0.9GPa以上1.7GPa以下である、積層体。
【0023】
(9) (8)に記載の積層体を備える包装製品。
【発明の効果】
【0024】
本発明のバリアフィルムは、OPPフィルム基材上に形成される蒸着膜と被覆層を備えながらも、色ムラを低減し、かつ、積層体においては加熱殺菌処理後のバリア性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施の形態に係るバリアフィルムの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る成膜装置の一例を示す図である。
【
図3】成膜装置のプラズマ前処理機構の一例を示す断面図である。
【
図4】成膜装置のプラズマ前処理機構の電極部及び磁場形成部の一例を示す平面図である。
【
図5】成膜装置のプラズマ前処理機構の電極部及び磁場形成部の一例を示す断面図である。
【
図6】成膜装置の成膜機構の一例を示す断面図である。
【
図7】本発明のバリアフィルムを用いた積層体の一例を示す断面図である。
【
図8】本発明のバリアフィルムを用いた積層体の他の例を示す断面図である。
【
図9】実施例2のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルを示す図である。
【
図10】実施例2のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。
【
図11】実施例3のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。
【
図12】比較例1のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。
【
図13】比較例2のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」を意味する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るバリアフィルムの一例を示す断面図である。本実施の形態に係る成膜装置を用いて製造されるバリアフィルムは、例えば、
図1に示すバリアフィルム100Aのように、本発明の2軸ポリプロピレン基材に相当する基材100と、下地層115、蒸着膜120と、被覆層130と、を備える。
図1に示す例において、下地層115は、基材100の一方の面上に位置する。また、
図1に示す例において、バリアフィルム100Aは、基材100と、下地層115、蒸着膜120と、被覆層130、の順に積層されており、被覆層130はバリアフィルムの表面に位置している。蒸着膜120と被覆層130とでバリア層を構成している。
【0028】
なお、本明細書において「この順に積層」とは、ポリプロピレン基材と、下地層と、酸化アルミニウム蒸着膜と、バリア性を有する被覆層と、がこの順番に並ぶように積層されていればよく、これらの層の間に、例えば後述するアンカーコート層などの層が更に積層されていてもよい。
【0029】
以下、バリアフィルム100Aを構成する各層について説明する。
【0030】
[ポリプロピレン基材]
ポリプロピレン基材100は、2軸に延伸処理が施されたポリプロピレン基材である。以下、延伸処理に言及する場合を除き、単に「ポリプロピレン基材」というときは、2軸延伸処理が施されたポリプロピレン基材を意味する。
【0031】
ポリプロピレン基材は、少なくともポリプロピレンにより構成される。ポリプロピレンは、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムコポリマー及びプロピレンブロックコポリマーのいずれでもよく、これらから選択される2種以上の混合物でもよい。
【0032】
プロピレンホモポリマーとは、プロピレンのみの重合体である。プロピレンランダムコポリマーとは、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン等とのランダム共重合体である。プロピレンブロックコポリマーとは、プロピレンからなる重合体ブロックと、少なくともプロピレン以外のα-オレフィン等からなる重合体ブロックとを有する共重合体である。後者の重合体ブロックは、プロピレンと、プロピレン以外のα-オレフィンとからなる重合体ブロックでもよい。
【0033】
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数2以上20以下のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン及び6-メチル-1-ヘプテンが挙げられる。
【0034】
ポリプロピレンの中でも、透明性の観点からは、ランダムコポリマーを使用することが好ましい。積層体の剛性及び耐熱性を重視する場合は、ホモポリマーを使用することが好ましい。積層体の耐衝撃性を重視する場合は、ブロックコポリマーを使用することが好ましい。
【0035】
ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、製膜性及び加工適性という観点から、一実施形態において、0.1g/10分以上50g/10分以下でもよく、0.3g/10分以上30g/10分以下でもよい。ポリプロピレンのMFRは、ASTM D1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定する。
【0036】
ポリプロピレンとしては、バイオマス由来のポリプロピレンや、メカニカルリサイクル又はケミカルリサイクルされたポリプロピレンを使用してもよい。
【0037】
ポリプロピレン基材におけるポリプロピレンの含有割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上である。
【0038】
ポリプロピレン基材は、ポリプロピレン以外の樹脂材料を含有してもよい。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン、(メタ)アクリル樹脂、ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド、ポリエステル及びアイオノマー樹脂が挙げられる。
【0039】
ポリプロピレン基材は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑(スリップ)剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、滑剤、帯電防止剤、顔料及び改質用樹脂が挙げられる。
【0040】
ポリプロピレン基材は、2軸延伸処理が施された基材である。これにより、例えば、バリア性基材の耐熱性、耐衝撃性、耐水性及び寸法安定性を向上できる。このようなバリア性基材を備える積層体は、例えば、ボイル処理又はレトルト処理がなされる包装材料として好適である。
【0041】
縦方向(基材の流れ方向、MD方向)へ延伸を行う場合の延伸倍率は、好ましくは2倍以上15倍以下、より好ましくは5倍以上13倍以下である。横方向(MD方向に対して垂直な方向、TD方向)へ延伸を行う場合の延伸倍率は、好ましくは2倍以上15倍以下、より好ましくは5倍以上13倍以下である。延伸倍率を2倍以上とすることにより、ポリプロピレン基材の強度及び耐熱性をより向上でき、また、ポリプロピレン基材を最外層として用いる場合にはポリプロピレン基材への印刷適性を向上できる。ポリプロピレン基材の破断限界という観点からは、延伸倍率は15倍以下であることが好ましい。
【0042】
ポリプロピレン基材の厚さは、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上25μm以下である。厚さが下限値以上であると、例えば、バリア性基材の強度及び耐熱性をより向上できる。厚さが上限値以下であると、例えば、バリア性基材の加工適性をより向上できる。
【0043】
ポリプロピレン基材は、共押出延伸フィルムであってもよい。従来公知のTダイ法又はインフレーション法などを利用して製膜して積層フィルムを得た後、該積層フィルムを延伸することにより作製できる。インフレーション法により製膜する際に、積層フィルムの延伸を同時に行ってもよい。
【0044】
ポリプロピレン基材は、表面処理が施されていてもよい。これにより、例えば、ポリプロピレン基材と他の層との密着性を向上できる。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス、アルゴンガス、窒素ガスなどより選択される1種以上のガスを用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理などの物理的処理;並びに化学薬品を用いた酸化処理などの化学的処理が挙げられる。その他、ポリプロピレン基材の表面に、易接着層を設けてもよい。
【0045】
ポリプロピレン基材を積層体の最外層として用いる場合、第2の層上に印刷層を有してもよい。印刷層に形成される画像は、特に限定されず、文字、柄、記号及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。印刷層形成は、バイオマス由来のインキを用いて行うこともできる。これにより、環境負荷をより低減できる。
【0046】
印刷層の形成方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法及びフレキソ印刷法などの従来公知の印刷法が挙げられる。これらの中でも、環境負荷低減という観点から、フレキソ印刷法が好ましい。
【0047】
ポリプロピレン基材は透明であることが好ましい。具体的には、JIS K 7361-1:1997に基づき測定される全光線透過率が高いことが好ましい。具体的には、全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0048】
巻取体の基材100は、下地層の形成工程もしくは下地層形成後の調湿工程により調湿されていることが好ましい。これにより、バリア性を向上できる。また、後述する蒸着工程での巻き出し時の貼り付きによる基材破断を防止することができる。調湿条件は、一例として、温度22~30℃、相対湿度40~65%RHで、1~7日間保管することが挙げられる。なお、保管前に巻取体をあらかじめ巻き返すことも調湿に有効である。この場合、巻き返し工程も上記の調湿条件下で行うことが好ましい。
【0049】
ポリプロピレン基材は、少なくとも第1の層と、第2の層とを備える多層フィルムであってもよい。第1の層は、ポリプロピレン基材における一方側(蒸着膜等のバリア層が形成される側)の層であり、第2の層は、ポリプロピレン基材における他方側の層である。
【0050】
第1の層と第2の層は、それぞれ、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン等とのランダム共重合体であるプロピレンランダム共重合体であってもよい。第1の層と第2の層がランダムコポリマーであることで、その層と接する他層との密着性を向上させることができる。α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン等が例示できる。
【0051】
第1の層は、変性ポリプロピレンであってもよい。後述する下地層がポリアミド樹脂である場合に、当該ポリアミド樹脂との密着性が向上する。
【0052】
ポリプロピレン基材は、第1の層と第2の層との間に、中間層としての第3の層を備えてもよい。中間層は、ポリプロピレンのホモポリマーを含んでいることが好ましい。中間層は、単層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。
【0053】
具体的な3層構成の一例としては、蒸着膜が形成される面側から、第1層/第3層/第2層の順に、プロピレンランダム共重合体/プロピレンホモポリマー/プロピレンランダム共重合体、が挙げられる。この場合、第1の層がプロピレンランダム共重合体であることで、後述する下地層がアンカーコート層の場合に、当該アンカーコート層との密着性が向上する。また、第2の層がプロピレンランダム共重合体であることで、例えば、後述する
図7の積層体を形成する際に、シーラント層150を積層するための第1の接着剤層161との密着性が向上する。
【0054】
具体的な3層構成の他の例としては、蒸着膜が形成される面側から、第1層/第3層/第2層の順に、変性ポリプロピレン/プロピレンホモポリマー/プロピレンランダム共重合体、が挙げられる。この場合、第1の層が変性ポリプロピレンであることで、後述する下地層がポリアミド樹脂の場合に、当該ポリアミド樹脂との密着性が向上する。また、第3の層がプロピレンランダム共重合体であることで、例えば、後述する
図7の積層体を形成する際に、シーラント層150を積層するための第1の接着剤層161との密着性が向上する。
【0055】
[下地層]
基材100の蒸着膜120が形成される面上には、下地層150が形成される。下地層が後述する高融点樹脂材料からなる表面樹脂層である場合、蒸着耐性が向上することで蒸着材料のマイグレーションを促進し、緻密で隙間の少ない、可撓性に富む連続層からなる蒸着膜が得られる。また、下地層が高融点樹脂材料であるため、加熱殺菌処理への耐性も向上する。下地層が後述するコーティングによるアンカーコート層の場合、基材の表面をより平滑にでき蒸着材料のマイグレーションを促進し、ポリプロピレン基材と蒸着膜との密着強度が高められ、緻密で隙間の少ない、可撓性に富む連続層からなる蒸着膜が得られる。これらにより高いガスバリア性が得られ、且つ、フィルムの変形や屈曲に伴う蒸着膜及び被覆層の破断、並びにそれによるガスバリア性の低下を抑制できる。そして、加熱殺菌処理にも耐え得る耐熱性に優れるバリアフィルムを得ることができる。
【0056】
(表面樹脂層)
下地層は表面樹脂層であることが好ましい。ポリプロピレン基材上に、好ましくは180℃以上の融点を有する樹脂材料(以下、高融点樹脂材料ともいう)を含む表面樹脂層を備えることで、該表面樹脂層上には緻密で隙間の少ない蒸着膜を形成でき、ガスバリア性を向上できる。
【0057】
高融点樹脂材料の融点は、100℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。高融点材料の融点を100℃以上とすることにより、第2の層としてプロピレンと他のモノマーとの共重合体や変性ポリプロピレンを有する場合に、第2の層を蒸着材料から守ることができる。高融点樹脂材料の融点を180℃以上とすることにより、蒸着膜の緻密さを向上でき、ガスバリア性をより向上できる。また、積層体の加熱殺菌処理への耐性をより向上できる。製膜性の観点からは、高融点樹脂材料の融点は、265℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、融点は、JIS K7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定できる。具体的には、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、10℃/分の昇温速度でDSC曲線を測定し、融点を求めることができる。
【0058】
表面樹脂層に含まれる高融点樹脂材料の融点と、2軸延伸ポリプロピレン基材に含まれるポリプロピレンの融点の差は、20~100℃であることが好ましく、20~70℃であることがより好ましい。融点差が20℃以上であることにより、蒸着膜の緻密さをより向上でき、ガスバリア性をより向上できる。また、積層体の加熱殺菌処理への耐性をより向上できる。融点差が100℃以下であることにより、製膜性をより向上できる。
【0059】
高融点樹脂材料は、極性基を有することが好ましい。本発明において、極性基とは、ヘテロ原子を1個以上含む基を指し、例えば、エステル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸無水物基、スルフォン基、チオール基およびハロゲン基などが挙げられる。これらの中でも、包装容器のラミネート強度の観点からは、水酸基、エステル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基およびカルボニル基が好ましく、水酸基がより好ましい。
【0060】
高融点樹脂材料は、融点が180℃以上であれば特に限定されることなく使用できる。高融点樹脂材料としては、例えば、ビニル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0061】
本発明においては、高融点樹脂材料は、融点が180℃以上であり、極性基を有する樹脂材料が特に好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアミドが好ましく、ナイロン6(以下「ナイロン」は登録商標)、ナイロン6,6、芳香族含有ナイロン、アモルファスナイロンなどのポリアミドがより好ましい。このような樹脂材料を使用することにより、表面樹脂層上に形成される蒸着膜のガスバリア性を効果的に向上できる。
【0062】
一実施形態において、高融点樹脂材料は、ポリアミドが好ましい。高融点樹脂材料としてポリアミドを使用することにより、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制できる。高融点樹脂材料は、芳香族を含有するポリアミドが、機械的強度やガスバリア性の観点で好ましい。芳香族を含有するポリアミドは、他の材料と組み合わせて共押出成形することが可能である。芳香族を含有するポリアミドとしては、三菱ガス化学製のナイロンMXD6などが挙げられる。
【0063】
表面樹脂層の厚さは、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.2μm以上4μm以下であることがより好ましい。表面樹脂層の厚さを0.1μm以上とすることにより、蒸着膜の緻密さをより向上でき、ガスバリア性をより向上できる。5μm以下とすることにより、製膜性及び加工適性をより向上できる。
【0064】
表面樹脂層は、溶融押出し法により成膜できる。2軸延伸ポリプロピレンフィルム上に押出成形して本発明のポリプロピレン基材としてもよく、ポリプロピレンと共に多層共押出し後に延伸して形成して本発明のポリプロピレン基材としてもよい。
【0065】
下地層はアンカーコート層であってもよい。アンカーコート層は極性基を有する樹脂材料を用いてコーティングにより形成できる。極性基を有する樹脂材料としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、芳香族含有ナイロン、アモルファスナイロン、ポリウレタンなどが好ましく、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールがより好ましい。極性基を有する樹脂材料は、平滑性及び凝集エネルギーの高さに由来する加熱殺菌処理後のガスバリア性の観点から、ウレタン基と水酸基を含有する(メタ)アクリル樹脂が特に好ましい。
【0066】
アンカーコート層には、蒸着膜との密着性の観点で、シランカップリング剤を添加することが好ましい。シランカップリング剤としては、後述するシランカップリング剤を適用できる。
【0067】
本発明において、アンカーコート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成できる。水系エマルジョンの具体例としては、ポリアミド系のエマルジョン、ポリエチレン系のエマルジョン、ポリウレタン系エマルジョンなどが挙げられ、溶剤系エマルジョンの具体例としては、ポリエステル系のエマルジョンなどが挙げられる。
【0068】
アンカーコート層の厚さは、0.02μm以上10μm以下であることが好ましく、0.05μm以上8μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがさらに好ましく、0.2μm以上3μm以下であることがさらにより好ましい。アンカーコート層の厚さを0.02μm以上とすることにより、平滑性をより向上でき、蒸着後のガスバリア性をより向上させることができる。アンカーコート層の厚さを10μm以下とすることにより加工適性及び生産性をより向上できる。
【0069】
アンカーコート層は、2軸延伸ポリプロピレン基材上にコーティング(塗布、塗工)で形成してもよく、ポリプロピレンフィルム上にコーティングで形成した後に2軸延伸してもよい。
【0070】
[蒸着膜]
次に、蒸着膜120について説明する。蒸着膜は、無機酸化物の酸化アルミニウムを含む。アルミニウムは、蒸着膜において、少なくとも一部が、Al2O3を形成した状態で存在する。蒸着膜は、更に、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素炭化物、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、又はこれらの金属窒化物、炭化物を含んでいてもよい。
【0071】
蒸着膜の厚さ下限値は3nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。上限値は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、15nm以下が特に好ましい。
【0072】
なお、本発明における「酸化アルミニウム蒸着膜」とは、上記のように「酸化アルミニウムを含む蒸着膜」の意味であり、酸化アルミニウムAl2O3以外に、水酸化酸化アルミニウムAlO(OH)及び水酸化アルミニウムAl(OH)3などを含んでいてもよい。以下詳細に説明する。
【0073】
(XAFSスペクトル分析)
XAFS分析は、X線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)スペクトルであり、バリアフィルムの蒸着面の表面側(被覆層がある場合には被覆層側)から、X線を照射し、その吸収量を計測するものである。詳細な測定条件及び解析条件は実施例にて記載する。
【0074】
特に放射光を利用した軟X線のXAFSスペクトル分析によれば、蒸着膜表面側の一部でなく、蒸着膜全体のバルクの情報が得られ、酸化アルミニウム蒸着膜における、水酸基の大小に関する情報が得られる。また、蒸着膜の表面に被覆層などが存在する場合であっても、被覆層表面側から、被覆層を介して蒸着膜に照射することで、被覆層が存在した状態で蒸着膜の情報を得ることができる。
【0075】
図9は、後述する実施例2のバリアフィルムを、XAFS測定した結果の一例である。また、
図10は、実施例2において、XAFSスペクトルをピーク分離して得られる、それぞれのピークを表示したものである。
図9、
図10において、縦軸は吸収強度(a.u)、横軸はエネルギ(eV)である。本発明におけるピークトップ比Pは、例えば
図10のように、XAFSスペクトルをピーク分離した後のそれぞれのピークトップから求めた比である。
【0076】
図10のピーク分離解析において、Experimentは実測のXAFSスペクトルであり、Fit.Peak1は、分離された1566eVの強度ピークであり、Fit.Peak2は、分離された1568eVの強度ピークであり、Fit.Peak3は、分離された1572eVの強度ピークである。Fit.Base1は1566eVのベースラインであり、Fit.Base2は1568eVのベースラインである。
【0077】
図9、
図10より、XAFSスペクトルには複数のピーク、具体的には、1566eV付近をトップとするピークP1、1568eV付近をトップとするピークP2、1572eV付近をトップとするピークP3が存在する。なお、1566eV付近とは1565eV以上1567eV以下であり、1568eV付近とは1567eV超1569eV以下であり、1572eV付近とは1571eV以上1573eV以下である。
【0078】
ここで、P1は4配位の酸化アルミニウム、P2は6配位の酸化アルミニウム、P3は6配位の水酸化アルミニウム及び水酸化酸化アルミニウムに由来するピークであると考えられる。
【0079】
酸化アルミニウム膜は、結晶より非晶質(アモルファス)の膜である方がフレキシビリティに優れると考えられため、バリアフィルムに用いる場合は非晶質であることが好ましい。しかし、結晶であるか非晶質であるかを確認するのは、従来のX線分析であるXRDでは明確な結晶ピークが確認できる場合を除き困難であった。
【0080】
XAFSスペクトルを確認した場合、結晶の酸化アルミニウム膜でP1が検出されるものには、γ-Al
2O
3やθ-Al
2O
3があるが、P1ピークがP2ピークよりも相対的に高くなることはない。後述する本願の実施例によれば、たとえば実施例2(
図10参照)のように、P1>P2であることが明らかであり、非晶質の膜ができていることを確認できる。
【0081】
更に、フレキシビリティのある酸化アルミニウム膜の条件として、非晶質であるだけでは不十分であり、水酸基の導入が必要と考えられる。しかし、たとえば、従来のTOF-SIMSを用いたdepth分析では、酸化アルミニウム膜の評価をしているのか酸化アルミニウム膜と基材の界面に残留する水分を検出しているのか不明瞭である点や、被覆層がある場合に酸化アルミニウム膜の部分で十分な深さ分解能が得られない点などが影響し、成膜条件と膜質の相関を十分に調べることができなかった。
【0082】
本発明により、XAFSスペクトルを確認することで、ピークトップ比P=P3ピークトップ/P1ピークトップ=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)と定義することで、酸化アルミニウム蒸着膜における、水酸基量の大小に関する情報も得られることになる。
【0083】
色ムラを低減するためには、蒸着直後から水蒸気バリア性が高い状態で成膜するより、酸化アルミニウム膜中にダングリグボンドが多く水蒸気バリア性が低い状態で成膜し、エージングにより酸化と水酸化(主に水酸化)をすすめることでダングリグボンドを低減し水蒸気バリア性を発現させる手法が効果的であることを本発明者らは見出している。このため、XAFSスペクトルを確認することで、蒸着時の水分や、エージングなどを含む成膜条件と膜質の相関について検討し、本発明を完成したものである。
【0084】
本発明は、このピークトップ比Pの値によって、バリアフィルムの色抜けが変化することを見出したものであり、具体的には、ピークトップ比Pを1.05以上1.60以下とすることで、加熱殺菌処理後のバリア性の向上と、バリアフィルムの色ムラ改善と、を両立できる。ピークトップ比Pの下限値は好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上である。ピークトップ比Pの上限値は好ましくは1.50以下である。
【0085】
ピークトップ比Pが1.05未満であると、蒸着直後から高酸化膜であるために色ムラが生じたときに目立ち、バリア性が高いために色抜けし難い。なお、「色抜け」とは蒸着後の経時変化によって透明性(透過率)が向上すること、もしくは色が薄くなることをいう。この透明性もしくは色は、巻き取り状態の端面部(側面部)の外観に影響する。詳細は実施例の「色ムラ」の評価にて説明する。高温高湿の湿熱処理などを行ってピークトップ比Pが1.60超であると、水酸基の導入が多すぎて初期のバリア性、特に水蒸気バリア性が低下する。
【0086】
なお、バリアフィルムにおけるピークトップ比Pの調整は、下地層を含むポリプロピレン基材の調湿、プラズマ前処理、蒸着時のプラズマアシスト処理、成膜工程後のエージング処理と、被覆層形成工程後のエージング処理との組み合わせを制御することで調整することができる。なかでも、成膜工程におけるコールドトラップを使用しないことでバリア性の向上とバリアフィルムの色ムラ改善とを両立できる。これらの結果は、後述の製法説明および実施例において詳述する。
【0087】
[被覆層]
蒸着膜120上に形成される被覆層130は、蒸着膜を機械的・化学的に保護するとともに、バリア性能を向上させる被覆層(バリアコート層)である。
【0088】
被覆層は、バリアコート剤を蒸着膜上に塗布し固化して形成されるものである。バリアコート剤は金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて加えられるシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸などから構成される。
【0089】
金属アルコキシドとしては、一般式R1nM(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1~8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上の金属アルコキシド、金属アルコキシドのMで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができ、例えば、MがSiであるアルコキシシランを使用することが好ましいものである。
【0090】
上記のアルコキシシランとしては、例えば、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、低級アルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、その他等が用いられる。上記のアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシランSi(OCH3)4、テトラエトキシシランSi(OC2H5)4、テトラプロポキシシランSi(OC3H7)4、テトラブトキシシランSi(OC4H9)4、その他等を使用することができる。上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。
【0091】
シランカップリング剤として、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基などの反応基を有するものを用いることができる。特にエポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、あるいは、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
なかでも、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどの2官能を用いた被覆層の硬化膜の架橋密度は、トリアルコキシシランを用いた系での架橋密度より低くなる。そのため、ガスバリア性及び耐熱水処理性のある膜として優れながら、柔軟性のある硬化膜となり、耐屈曲性にも優れるため、ガスバリア性が劣化し難い。
【0093】
水溶性高分子は、ポリビニルアルコール系樹脂、又はエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体を組み合わせて使用することができる。本実施の形態に係る被覆層では、ポリビニルアルコール系樹脂が好適である。
【0094】
ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数10%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよい。ポリビニルアルコール系樹脂として、ケン化度については、ガスバリア性塗膜の膜硬度が向上する結晶化が行われるものを少なくとも用いることが必要で、好ましくは、ケン化度が70%以上である。また、その重合度としても、従来のゾルゲル法で用いられている範囲(100~5000程度)のものであれば用いることができる。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRS樹脂である「RS-110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM-14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を挙げることができる。
【0095】
エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン-酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数10モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないか又は酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、バリア性の観点から好ましいケン化度の下限値は、80%以上、より好ましくは、90%以上、更に好ましくは、95%以上である。上限値は100%以下である。
【0096】
ゾルゲル法触媒としては、酸又はアミン系化合物が好適である。
【0097】
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、並びに、酢酸、酒石酸な等の有機酸等を用いることができる。
【0098】
酸の含有量は、金属アルコキシドのアルコキシ基の総モル量に対して、好ましくは0.001~0.05モル%であり、より好ましくは0.01~0.03モル%である。0.001%モルよりも少ないと触媒効果が小さすぎ、0.05モル%よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
【0099】
アミン系化合物としては、水に実質的に不溶であり、且つ有機溶媒に可溶な第3級アミンが好適である。具体的には、例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。特に、N,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。
【0100】
アミン系化合物の含有量は、金属アルコキシド100質量部当り、例えば0.01~1.0質量部、特に0.03~0.3質量部を含有することが好ましい。0.01質量部よりも少ないと触媒効果が小さすぎ、1.0質量部よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
【0101】
溶媒としては、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール等を用いることが好ましい。
【0102】
上記にように形成されるバリア性の被覆層は、層厚が100~500nm、好ましくは200~400nmである。この範囲であれば、コート膜が割れず蒸着膜表面を十分に被覆するため好ましい。
【0103】
バリアコート剤の組成は、シランカップリング剤を含有する場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を5~10質量部、シランカップリング剤を1~10質量部位の範囲内で使用することができる。これにより、膜の柔軟性を維持できる。上記において、シランカップリング剤を20質量部超えて使用すると、形成されるバリア性塗膜の剛性と脆性とが大きくなり、好ましくない。
【0104】
また、シランカップリング剤を含有しない場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を10~20質量部とすることで、金属アルコキシドの量比を下げて、バリア性を高めることができる。
【0105】
被覆層における、ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂の質量に対する、テトラエトキシシランなどの金属アルコキシドのSiO2換算での質量の比率の下限値は好ましくは1.6以上であり、より好ましくは1.9以上である。上限値は好ましくは3.9以下であり、より好ましくは3.5以下である。比率が3.9超であると後工程などでバリア性が低下することがあるために好ましくなく、比率が1.6未満であるとレトルト処理後のバリア性が低下するために好ましくない。
【0106】
被覆層の珪素原子と炭素原子比(Si/C)は1.30以上1.65以下が好ましい。1.65超であると、後工程などでバリア性が低下することがあるために好ましくなく、1.30未満であると加熱殺菌処理後のバリア性が低下するので好ましくない。なお、被覆層の珪素原子/炭素原子比は、X線光電子分光法(XPS)により測定でき、具体的には実施例に記載の条件で測定できる。
【0107】
(成膜装置)
次に、バリアフィルムの製造方法に用いられる成膜装置10の一例について説明する。成膜装置10は、
図2に示すように、基材1を搬送するための基材搬送機構11Aと、基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理機構11Bと、蒸着膜2を成膜する成膜機構11Cと、を備える。
図5に示す例においては、成膜装置10は、更に減圧チャンバ12を備える。減圧チャンバ12は、後述する真空ポンプなど、減圧チャンバ12の内部の空間の少なくとも一部の雰囲気を大気圧以下に調整する減圧機構を有する。
【0108】
図2に示す例において、減圧チャンバ12は、基材搬送機構11Aが位置する基材搬送室12Aと、プラズマ前処理機構11Bが位置するプラズマ前処理室12Bと、成膜機構11Cが位置する成膜室12Cと、を含む。減圧チャンバ12は、好ましくは、各室の内部の雰囲気が互いに混ざり合うことを抑制するよう構成されている。例えば
図2に示すように、減圧チャンバ12は、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、プラズマ前処理室12Bと成膜室12Cとの間、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間に位置し、各室を隔てる隔壁35a~35cを有していてもよい。
【0109】
基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cについて説明する。プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cは、それぞれ基材搬送室12Aと接して設けられており、それぞれ基材搬送室12Aと接続する部分を有する。これにより、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、及び基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を大気に触れさせずに搬送することができる。例えば、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間においては、隔壁35aに設けられた開口部を介して基材1を搬送することができる。基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間も同様の構造となっており、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を搬送することができる。
【0110】
減圧チャンバ12の減圧機構の機能について説明する。減圧チャンバ12の減圧機構は、成膜装置10の少なくともプラズマ前処理機構11B又は成膜機構11Cが配置されている空間の雰囲気を大気圧以下に減圧できるように構成されている。減圧機構は、隔壁35a~35cにより区画された、基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B、成膜室12Cのそれぞれを大気圧以下に減圧することができるよう構成されていてもよい。
【0111】
減圧チャンバ12の減圧機構の構成について説明する。減圧チャンバ12は、例えば、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプを調整することにより、後述するプラズマ前処理を実施する際のプラズマ前処理室12B内の圧力を適切に制御することができる。また、後述の方法によりプラズマ前処理室12B内に供給したプラズマが他室に拡散することを抑制できる。減圧チャンバ12の減圧機構は、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプと同様に、成膜室12Cに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプとしては、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ロータリーポンプ、ディフュージョンポンプなどを用いることができる。
【0112】
本実施の形態に係る成膜装置10の基材1の基材搬送機構11Aについて、基材1の搬送経路とともに説明する。基材搬送機構11Aは、基材搬送室12Aに配置された、基材1を搬送するための機構である。
図2に示す例においては、基材搬送機構11Aは、基材1のロール状の原反が取り付けられた巻き出しローラー13、基材1を巻き取る巻き取りローラー15及びガイドロール14a~14dを有する。基材搬送機構11Aから送り出された基材1は、その後、プラズマ前処理室12Bに配置された、後述する前処理ローラー20と、成膜室12Cに配置された、後述する成膜ローラー25と、によって搬送される。
【0113】
なお、図示はしないが、基材搬送機構11Aは、張力ピックアップローラーを更に有していてもよい。基材搬送機構11Aが張力ピックアップローラーを有することにより、基材1に加わる張力を調整しながら、基材1を搬送することができる。
【0114】
(プラズマ前処理機構)
プラズマ前処理機構11Bについて説明する。プラズマ前処理機構11Bは、基材1の表面にプラズマ前処理を施すための機構である。
図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマPを発生させ、発生させたプラズマPを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施す。プラズマ前処理によって基材1の表面を活性化すると、例えば、基材樹脂成分から水素が離脱して、炭素ラジカルが生成される。その後、雰囲気中の酸素や水素と結合することで、水酸基、カルボキシル基、ケトン基などの官能基が生成される。このような官能基が生成されることで、基材1と蒸着膜2の密着性が向上すると考えられる。
図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマ前処理室12Bに配置されている前処理ローラー20と、前処理ローラー20に対向する電極部21と、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する磁場形成部23と、を有する。
【0115】
前処理ローラー20について説明する。
図3は、
図2において符号VIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大した図である。なお、
図3においては、
図2に示されている電源32と後述する電極部21とを接続する電力供給配線31、及びプラズマ前処理機構11Bが発生させるプラズマPの記載を省略している。前処理ローラー20は、回転軸Xを有する。前処理ローラー20は、少なくとも回転軸Xが、隔壁35a、35bによって区画されるプラズマ前処理室12B内に位置するよう、設けられている。前処理ローラー20には、回転軸Xの方向における寸法を有する基材1が巻き掛けられる。以下の説明において、回転軸Xの方向における基材1の寸法のことを、基材1の幅とも称する。また、回転軸Xの方向のことを、基材1の幅方向とも称する。
【0116】
図2に示すように、前処理ローラー20は、その一部が基材搬送室12A側に露出するように設けられていてもよい。
図2に示す例においては、プラズマ前処理室12Bと基材搬送室12Aとは、隔壁35aに設けられた開口部を介して接続されており、その開口部を通じて、前処理ローラー20の一部が基材搬送室12A側に露出している。基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間の隔壁35aと、前処理ローラー20との間には隙間があいており、その隙間を通じて、基材搬送室12Aからプラズマ前処理室12Bへと、基材1を搬送することができる。図示はしないが、前処理ローラー20は、その全体がプラズマ前処理室12B内に位置するよう設けられていてもよい。
【0117】
図示はしないが、前処理ローラー20は、前処理ローラー20の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。例えば、前処理ローラー20は、冷媒や熱媒などの温度調整媒体を循環させる配管を含む温度調整機構を前処理ローラー20の内部に有していてもよい。温度調整機構は、前処理ローラー20の表面の温度を例えば-20℃以上100℃以下の範囲内の目標温度に調整する。
【0118】
前処理ローラー20が温度調整機構を有することにより、プラズマ前処理時、熱による基材1の収縮や破損が生じることを抑制することができる。
【0119】
前処理ローラー20は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのいずれか1以上を含む材料により形成される。前処理ローラー20の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、前処理ローラー20の材料として上記の材料を用いることにより、前処理ローラー20自体の熱伝導性が高くなるので、前処理ローラー20の温度の制御が容易になる。
【0120】
電極部21について説明する。
図2及び
図3に示す例において、電極部21は、前処理ローラー20に対向する第1面21cと、第1面21cの反対側に位置する第2面21dとを有する。
図2及び
図3に示す例において、電極部21は板状の部材であり、第1面21c及び第2面21dはいずれも平面である。電極部21は、前処理ローラー20との間で交流電圧を印加されることにより、前処理ローラー20との間においてプラズマを発生させる。電極部21は、好ましくは、前処理ローラー20との間において、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場を形成する。これにより、効率的に基材1を前処理することができる。
【0121】
電極部21の数は、好ましくは2以上である。2以上の電極部21は、好ましくは、基材1の搬送方向に沿って並んでいる。
図2及び
図3に示す例においては、成膜装置10が2つの電極部21を有する例が示されている。また、電極部21の数は、例えば12以下である。
【0122】
2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいることの効果について説明する。上述の通り、プラズマは、電極部21と前処理ローラー20との間に発生する。プラズマが発生する領域は、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど拡大する。一方、電極部21が平坦な板状の部材である場合、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど、搬送方向における電極部21の、前処理ローラー20に対向する面である第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離が大きくなり、プラズマによる処理能力が低下してしまう。
【0123】
成膜装置10においては、2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいる。このため、基材1の搬送方向における電極部21の寸法が小さい場合であっても、搬送方向における広い範囲にわたってプラズマを発生させることができる。また、電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離を小さくすることができ、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
【0124】
図2及び
図3に示すように、電極部21は、電極部21の第1面21c上に位置する第1端部21e及び第2端部21fを有する。第1端部21eは、基材1の搬送方向における上流側の端部であり、第2端部21fは、基材1の搬送方向における下流側の端部である。上述のように、基材1の搬送方向における電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1端部21e及び第2端部21fから前処理ローラー20までの距離を小さくすることができる。基材1の搬送方向における電極部21の寸法は、
図3に示す角度θに対応する。角度θは、第1端部21e及び回転軸Xを通る直線と、第2端部21f及び回転軸Xを通る直線とがなす角度である。角度θは、20°以上90°以下となることが好ましく、60°以下となることがより好ましく、45°以下となることが更に好ましい。角度θが上記の範囲となることにより、電極部21の第1面21cが平面である場合に、電極部21と前処理ローラー20との間において、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
【0125】
電極部21の材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。具体的には、電極部21の材料として、アルミニウム、銅、ステンレスが好適に用いられる。
【0126】
電極部21の第1面21cに垂直な方向に見た場合における電極部21の厚みL3は、特に限定されないが、例えば15mm以下である。電極部21の厚みが上記の値であることにより、磁場形成部23によって、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を効果的に形成することができる。また、電極部21の厚みL3は、例えば3mm以上である。
【0127】
磁場形成部23について説明する。
図2及び
図3に示すように、磁場形成部23は、電極部21の、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられている。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する部材である。前処理ローラー20と電極部21との間の磁場は、例えば、プラズマ前処理機構11Bを用いてプラズマを発生させる場合において、より高密度のプラズマの発生に寄与する。
図2及び
図3に示す磁場形成部23は、電極部21の第2面21d上に設けられている第1磁石231及び第2磁石232を有する。
【0128】
磁場形成部23の数は、好ましくは2以上である。プラズマ前処理機構11Bが、2以上の電極部21と、2以上の磁場形成部23と、を有する場合においては、2以上の磁場形成部23のそれぞれは、2以上の電極部21のそれぞれの、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられていることが好ましい。
図2及び
図3に示す例においては、2つの磁場形成部23のそれぞれが、2つの電極部21のそれぞれの第2面21d上に設けられている。
【0129】
電極部21の第2面21dの法線方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。
図2及び
図3に示すように、第1磁石231及び第2磁石232はそれぞれ、N極及びS極を有する。
図2及び
図3に示す符号Nは、第1磁石231又は第2磁石232のN極を示す。また、
図2及び
図3に示す符号Sは、第1磁石231又は第2磁石232のS極を示す。第1磁石231のN極又はS極の一方は、他方よりも基材1側に位置する。また、第2磁石232のN極又はS極の他方は、一方よりも基材1側に位置する。
図2及び
図3に示す例においては、第1磁石231のN極が、第1磁石231のS極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のS極が、第2磁石のN極よりも基材1側に位置する。図示はしないが、第1磁石231のS極が、第1磁石231のN極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のN極が、第2磁石232のS極よりも基材1側に位置していてもよい。
【0130】
続いて、電極部21の第2面21dの面方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。
図4は、
図2に示す電極部21及び磁場形成部23を、磁場形成部23側からみた平面図である。
図5は
図4のVIII-VIII線に沿った断面を示す断面図である。また、
図4において、方向D1は、前処理ローラー20の回転軸Xが延びる方向である。
【0131】
図4及び
図5に示すように、第1磁石231は、第1軸方向部分231cを有する。
図4に示すように、第1軸方向部分231cは、方向D1に沿って、すなわち前処理ローラー20の回転軸Xに沿って延びている。1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有していてもよく、2つ以上の第1軸方向部分231cを有していてもよい。
図4に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有している。
【0132】
また、
図4及び
図5に示すように、第2磁石232は、第2軸方向部分232cを有する。
図4に示すように、第2軸方向部分232cも、第1軸方向部分231cと同様に、方向D1に沿って、すなわち回転軸Xに沿って延びている。
【0133】
第1磁石231及び第2磁石232がいずれも回転軸Xに沿って延びる部分を含むことにより、基材1の周囲に形成される磁場の強度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。これにより、基材1の周囲に形成されるプラズマの分布密度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。
【0134】
1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、1つの第2軸方向部分232cを有していてもよく、2つ以上の第2軸方向部分232cを有していてもよい。
図4及び
図5に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cを有している。2つの第2軸方向部分232cは、電極部21の第2面21dの面方向のうち回転軸Xに直交する方向D2において第1軸方向部分231cを挟むように位置していてもよい。
【0135】
図5に示す、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4、及び第2軸方向部分232cの寸法L5は、特に限定されない。また、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5との比率は、特に限定されない。第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5とが等しくてもよく、第1軸方向部分231cの寸法L4が第2軸方向部分232cの寸法L5より大きくてもよい。
【0136】
方向D2における第1軸方向部分231cと第2軸方向部分232cとの間隔L6は、第1軸方向部分231c及び第2軸方向部分232cによって生じる磁場が前処理ローラー20と電極部21との間に形成されるよう設定される。
【0137】
第2磁石232は、電極部21の第2面21dの法線方向に沿って磁場形成部23を見た場合に、第1磁石231を囲んでいてもよい。例えば
図4に示すように、第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cとともに、2つの第2軸方向部分232cを接続するように設けられた2つの接続部分232dを有していてもよい。
【0138】
第1磁石231及び第2磁石232など、磁場形成部23として用いられる磁石の種類の例としては、フェライト磁石や、ネオジウム、サマリウムコバルト(サマコバ)などの希土類磁石などの永久磁石を挙げることができる。また、磁場形成部23として、電磁石を用いることもできる。
【0139】
第1磁石231及び第2磁石232などの磁場形成部23の磁石の磁束密度は、例えば100ガウス以上10000ガウス以下である。磁束密度が100ガウス以上であれば、前処理ローラー20と電極部21との間に十分に強い磁場を形成することによって、十分に高密度のプラズマを発生させることができ、良好な前処理面を高速で形成することができる。一方、基材1の表面での磁束密度を10000ガウスよりも高くするには、高価な磁石又は磁場発生機構が必要となる。
【0140】
図示はしないが、プラズマ前処理機構11Bは、プラズマ原料ガス供給部を有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部は、プラズマの原料となるガスをプラズマ前処理室12B内に供給する。プラズマ原料ガス供給部の構成は特に限定されない。例えば、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面に設けられ、プラズマの原料となるガスを噴出する穴を含む。また、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面よりも基材1に近い位置においてプラズマ原料ガスを放出するノズルを有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部によって供給されるプラズマ原料ガスとしては、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレンなどの活性ガス、又は、それらのガスの混合ガスを供給する。プラズマ原料ガスとしては、不活性ガスのうち1種を単体で用いても、活性ガスのうち1種を単体で用いても、不活性ガス又は活性ガスに含まれるガスのうち2種類以上のガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマ原料ガスとしては、アルゴンのような不活性ガスと、活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。一例として、プラズマ原料ガス供給部は、アルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスを供給する。
【0141】
プラズマ前処理機構11Bは、例えば、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前処理ローラー20と電極部21との間に供給する。
【0142】
図2に示す例において、プラズマ前処理機構11Bは、基材搬送室12A及び成膜室12Cから隔壁によって隔てられたプラズマ前処理室12B内に配置されている。プラズマ前処理室12Bを基材搬送室12A及び成膜室12Cなどの他の領域と区分することにより、プラズマ前処理室12Bの雰囲気を独立して調整しやすくなる。これにより、例えば、前処理ローラー20と電極部21とが対向する空間におけるプラズマ原料ガス濃度の制御が容易となり、積層フィルムの生産性が向上する。
【0143】
(成膜機構)
次に、成膜機構11Cについて説明する。
図2に示す例において、成膜機構11Cは、成膜室12Cに配置された成膜ローラー25と、蒸発機構24とを有する。
【0144】
成膜ローラー25について説明する。成膜ローラー25は、プラズマ前処理機構11Bにおいて前処理された基材1の処理面を外側にして基材1を巻きかけて搬送するローラーである。
【0145】
成膜ローラー25の材料について説明する。成膜ローラー25は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのうちいずれかを1以上含む材料から形成されることが好ましい。成膜ローラー25の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、成膜ローラー25の材料として上記の材料を用いることにより、成膜ローラー25自体の熱伝導性が高くなるので、温度制御を行う際に、温度制御性が優れたものとなる。成膜ローラー25の表面の表面平均粗さRaは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
【0146】
また、図示はしないが、成膜ローラー25は、成膜ローラー25の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。温度調整機構は、例えば、冷却媒体又は熱源媒体を循環させる循環路を成膜ローラー25の内部に有する。冷却媒体(冷媒)は、例えばエチレングリコール水溶液であり、熱源媒体(熱媒)は、例えばシリコンオイルである。温度調整機構は、成膜ローラー25と対向する位置に設置されたヒータを有していてもよい。成膜機構11Cが蒸着法により膜を成膜する場合、関連する機械部品の耐熱性の制約や汎用性の面から、好ましくは、温度調整機構は、成膜ローラー25の表面の温度を-20℃以上200℃以下の範囲内の目標温度に調整する。成膜ローラー25が温度調整機構を有することによって、成膜時に発生する熱に起因する基材1の温度の変動を抑えることができる。
【0147】
蒸発機構24について説明する。
図6は、
図2において符号IXが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大し、
図5においては省略されていた蒸発機構24の具体的形態を示し、
図2においては省略されていた、蒸着材料を供給する、蒸着材料供給部61を示した図である。なお、
図6においては、減圧チャンバ12及び隔壁35b、35cの記載は省略している。蒸発機構24は、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる機構である。蒸発した蒸着材料が基材1に付着することにより、基材1の表面にアルミニウムを含む蒸着膜が形成される。本実施の形態における蒸発機構24は、抵抗加熱式を採用している。
図6に示す例において、蒸発機構24は、ボート24bを有する。本実施の形態において、ボート24bは、図示しない電源と、電源に電気的に接続された図示しない抵抗体と、を有する。ボート24bは、基材1の幅方向に複数並んでいてもよい。
【0148】
図6に示すように、成膜機構11Cは、蒸発機構24に蒸着材料を供給する蒸着材料供給部61を有していてもよい。
図6においては、蒸着材料供給部61がアルミニウムの金属線材を連続的に送り出す例を示している。
【0149】
図示はしないが、成膜機構11Cは、ガス供給機構を有する。ガス供給機構は、蒸発機構24と成膜ローラー25との間にガスを供給する機構である。ガス供給機構は、少なくとも酸素ガスを供給する。酸素ガスは、蒸発機構24から蒸発して成膜ローラー25上の基材1に向かっているアルミニウムなどの蒸発材料と反応又は結合する。これにより、基材1の表面に酸化アルミニウムを含む蒸着膜を形成することができる。
【0150】
また、成膜機構11Cは、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構50を備える。
図2及び
図6に示す例において、プラズマ供給機構50は、ホローカソード51を有する。本実施の形態において、ホローカソード51は、一部において開口した空洞部を有する陰極である。ホローカソード51は、空洞部内にプラズマを発生させることができる。
図6に示す例において、ホローカソード51は、ホローカソード51の空洞部の開口がボート24bの斜め上に位置するように設けられている。また、図示はしないが、本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出す、開口と対向するアノードを有する。本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部内にプラズマを発生させ、そのプラズマを対向するアノードによって基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出すことによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に強力なプラズマを発生させることができる。対向するアノードの位置は、対向するアノードによってホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出し、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給することができる限り、特に限られない。本実施の形態においては、対向するアノードが、ボート24bの、基材1の幅方向における両側に配置されている場合について説明する。この場合、成膜機構11Cは複数のボート24bと複数の対向するアノードとを有し、複数のボート24bと複数の対向するアノードとは、基材1の幅方向に交互に並べられていてもよい。図示はしないが、プラズマ供給機構50は、少なくともホローカソード51の空洞部内にプラズマ原料ガスを供給する、原料供給装置を有していてもよい。原料供給装置が供給するプラズマ原料ガスとしては、例えばプラズマ前処理機構11Bのプラズマ原料ガス供給部が供給するプラズマ原料ガスとして用いることのできるガスと同様のガスを用いることができる。
【0151】
プラズマ供給機構50によって、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する、蒸着時のプラズマアシストを行うことにより、蒸発機構24において蒸発したアルミニウム、及び酸素ガスを活性化させ、アルミニウムと酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、基材1の表面に形成される蒸着膜2中のアルミニウムが酸化アルミニウムとして存在する比率を高めることができ、蒸着膜2の特性を安定化することができる。
【0152】
図示はしないが、成膜装置10は、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に、成膜機構11Cによる成膜に起因して基材1に発生した帯電を除去する後処理を行う基材帯電除去部を備えてもよい。基材帯電除去部は、基材1の片面の帯電を除去するように設けられていてもよく、基材1の両面の帯電を除去するように設けられていてもよい。
【0153】
基材1に後処理を行う基材帯電除去部として用いられる装置は、特に限定されないが、例えばプラズマ放電装置、電子線照射装置、紫外線照射装置、除電バー、グロー放電装置、コロナ処理装置などを用いることができる。
【0154】
プラズマ処理装置、グロー放電装置を用いて放電を形成することにより後処理を行う場合、基材1の近傍に、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウムなどの放電用ガス単体、又はこれらの混合ガスを供給し、交流(AC)プラズマ、直流(DC)プラズマ、アーク放電、マイクロウェーブ、表面波プラズマなど、任意の放電方式を用いて後処理を行うことが可能である。減圧環境下では、プラズマ放電装置を用いて後処理を行うことが最も好ましい。
【0155】
基材帯電除去部を、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に設置し、基材1の帯電を除去することにより、基材1を成膜ローラー25から所定位置で速やかに離して搬送することができる。このため、安定した基材搬送が可能となり、帯電に起因する基材1の破損や品質低下を防ぎ、基材表裏面の濡れ性改善により後加工適正の向上を図ることができる。
【0156】
(電源)
図2に示す例において、成膜装置10は、前処理ローラー20と、電極部21と、に電気的に接続された、電源32を更に備える。
図5に示す例において、電源32は、電力供給配線31を介して、前処理ローラー20、及び電極部21に電気的に接続されている。電源32は、例えば交流電源である。電源32が交流電源である場合には、電源32は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する交流電圧を前処理ローラー20と電極部21との間に印加することが可能である。電源32によって印加可能な投入電力(基材1の幅方向において、電極部21の1m幅あたりに印加可能な電力)は、特に限定されないが、例えば、0.5kW/m以上20kW/m以下である。前処理ローラー20は、電気的にアースレベルに設置されてもよく、電気的にフローティングレベルに設置されてもよい。
【0157】
(バリアフィルムの製造方法)
次に、上述の成膜装置10を使用して、
図1に示すバリアフィルムを製造する方法について説明する。まず、基材1の表面に蒸着膜2を成膜する成膜方法について説明する。成膜装置10を使用した成膜においては、上述の基材1の搬送経路に沿って基材1を搬送しつつ、プラズマ前処理機構11Bを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理工程、及び成膜機構11Cを用いて基材1の表面に蒸着膜を成膜する成膜工程を行う。基材1の搬送速度は、好ましくは200m/min以上であり、より好ましくは400m/min以上1000m/min以下である。
【0158】
(プラズマ前処理工程)
プラズマ前処理工程は、例えば以下の方法により行われる。まず、プラズマ前処理室12B内にプラズマ原料ガスを供給する。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に、上述の交流電圧を印加する。交流電圧の印加の際には、投入電力制御、又はインピーダンス制御などを行ってもよい。
【0159】
前処理において供給されるプラズマ原料ガスは、酸素単独又は酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスが、ガス貯留部から流量制御器を介することでガスの流量を計測しつつ供給される。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素なる群から選ばれる、1種又は2種以上の混合ガスが挙げられる。
【0160】
プラズマ処理としては、酸素ガスと前記不活性ガスとの混合比率、酸素ガス/不活性ガスは、6/1~1/1が好ましく、5/2~3/2.5がより好ましい。
【0161】
混合比率を6/1~1/1とすることで、樹脂基材上での蒸着アルミニウムの膜形成エネルギーが増加し、更に5/2~3/2とすることで、酸化アルミニウム蒸着膜の酸化度を上げて酸化アルミニウム蒸着膜と基材との密着性を確保することができる。
【0162】
交流電圧の印加によりグロー放電と同時にプラズマが生成し、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPが高密度化する。このようにして、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPを供給することができる。このプラズマPによって、基材1の表面にプラズマ(イオン)前処理を施すことができる。
【0163】
プラズマ処理における単位面積あたりのプラズマ強度として50W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下であり、50W・sec/m2以下では、プラズマ前処理の効果がみられず、また、8000W・sec/m2以上では、樹脂基材の消耗、破損着色、焼成などプラズマによる樹脂基材の劣化が起きる傾向にある。特に、酸化アルミウム層とするためプラズマ前処理のプラズマ強度としては、100W・sec/m2以上1000W・sec/m2以下が好ましい。
【0164】
前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の気圧は、減圧チャンバ12によって、大気圧以下に減圧される。この場合、プラズマ前処理室12B内の気圧は、例えば、交流電圧の印加により前処理ローラー20と電極部21との間にグロー放電を生じさせることができるように調整される。前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の圧力は、0.1Pa以上100Pa以下程度に設定、維持することができ、特に、1Pa以上20Pa以下が好ましい。
【0165】
プラズマ前処理工程における磁場形成部23の作用について説明する。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する。磁場は、前処理ローラー20と電極部21との間に存在する電子を捕捉し加速させるよう作用し得る。このため、磁場が形成されている領域において、電子とプラズマ原料ガスの衝突の頻度を高め、プラズマの密度を高め、且つ局在化させることがきるので、プラズマ前処理の効率を向上させることができる。
【0166】
(成膜工程)
成膜工程においては、成膜機構11Cを用いて、基材1の表面に成膜する。成膜工程の一例として、
図6に示す蒸発機構24を有する成膜機構11Cを用いて、酸化アルミニウム蒸着膜を成膜する場合について説明する。
【0167】
まず、蒸発機構24のボート24b内に、成膜ローラー25に対向するように、アルミニウムを含む蒸着材料を供給する。蒸着材料としては、アルミニウムの金属線材を用いることができる。
図6に示す例においては、蒸着材料供給部61によってアルミニウムの金属線材を連続的にボート24b内に送り出すことにより、ボート24bに蒸着材料を供給している。
【0168】
加熱により、アルミニウムをボート24b内で蒸発させる。
図6には、便宜的に、蒸発したアルミニウム蒸気63を図示している。アルミニウムを酸化する酸素ガスは、酸素単体でも、アルゴンのような不活性ガスとの混合ガスでの供給でもよいが、酸素量を制御することにより、バリア性、透明性を両立できる。このときの圧力は0.05Pa以上8.00Pa以下が好ましい。
【0169】
更に、プラズマ供給機構50によって基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する方法、すなわち蒸着時のプラズマアシストについて説明する。本実施の形態においては、プラズマ供給機構50のホローカソード51の空洞部内でプラズマを発生させる。次に、ホローカソード51と対向するアノードとの間に放電を発生させ、ホローカソード51の空洞部内のプラズマを基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出す。
【0170】
本実施の形態において、ホローカソード51と対向するアノードとの間において発生させる放電は、アーク放電である。アーク放電は、例えば電流の値が10A以上であるような放電を意味する。
【0171】
基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給しつつ、アルミニウムを蒸発させることにより、アルミニウム蒸気63にプラズマが供給される。プラズマの供給により、アルミニウム蒸気63と酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、アルミニウム蒸気63が基材1の表面に到達する前に、アルミニウム蒸気63を酸化させることができる。蒸発し、酸化したアルミニウムが基材1に付着することによって、基材1の表面に酸化アルミニウム蒸着膜を成膜し、
図1に示すバリアフィルムを製造ことができる。
【0172】
プラズマ供給機構50で供給されるプラズマ原料ガスは、アルゴンガスが好ましい。
【0173】
本実施の形態においては、成膜工程の前に、基材1の表面にプラズマを供給するプラズマ前処理工程を実施している。プラズマ前処理工程においては、電極部21と前処理ローラー20との間に交流電圧を印加する。また、電極部21の面のうち前処理ローラー20と対向する面とは反対側の面の側に位置する磁場形成部23を利用して、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に磁場を生じさせる。このため、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に効率良くプラズマを発生させたり、プラズマを前処理ローラー20に巻き掛けられている基材1の表面に対して垂直に入射させたりすることができる。したがって、成膜工程によって成膜される膜と基材1との間の密着性を高めることができる。
【0174】
(成膜工程後のエージング処理)
上記の成膜工程を経たバリアフィルムの巻取体は、所定の期間エージング処理(加温処理)が行われる。これにより、酸化アルミニウムの蒸着膜に水酸基の導入が進み、酸素透過度、水蒸気透過度に優れる蒸着膜が形成される。
【0175】
エージング温度は、好ましくは50℃以上60℃以下である。エージング時間の下限値は24時間(1日間)以上であり、より好ましくは48時間(2日間)以上である。上限値は144時間(6日間)以下であり、より好ましくは96時間(4日間)以下である。なお、エージング湿度は特に限定されないが、高湿度である必要はなく、通常の相対湿度40%以上70%以下であればよい。
【0176】
(被覆層形成工程)
被覆層3は、以下の方法で製造することができる。まず、上記金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて添加するシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸、及び溶媒としての水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール等のアルコール等の有機溶媒を混合し、バリアコート剤を調製する。次いで、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、常法により、上記のバリアコート剤を塗布し、乾燥する。この乾燥工程によって、上記金属アルコキシド及びシランカップリング剤から生成されたシラノールの重縮合が更に進行し、塗膜が形成される。上記乾燥条件としては、20~200℃、かつプラスチック基材の融点以下の温度、好ましくは、50~180℃の範囲の温度で、3秒~10分間加熱処理する。これによって、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、上記バリアコート剤による被覆層3を形成することができる。なお、第一の塗膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗膜を形成してもよい。
【0177】
上記の被覆層形成工程を経たバリアフィルムの巻取体は、所定の期間エージング処理(加温処理)が行われる。これにより、被覆層の縮合が適度に進み、レトルト試験後のバリア性が低下しにくいバリアフィルムが得られる。
【0178】
被覆層形成工程後のエージング温度の下限値は好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。上限値は好ましくは100℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。エージング時間の下限値は24時間(1日間)以上であり、より好ましくは48時間(2日間)以上である。上限値は144時間(6日間)以下であり、より好ましくは96時間(4日間)以下である。なお、エージング湿度は特に限定されないが、高湿度である必要はなく、通常の相対湿度40%以上70%以下であればよい。
【0179】
(成膜工程2)
被覆層の上にさらに酸化アルミニウム蒸着膜を成膜しても良い。前記の成膜工程とエージング処理と同様の条件で成膜可能である。
【0180】
(被覆層形成工程2)
成膜工程2を経て蒸着された酸化アルミニウム蒸着膜の上に、さらに被覆層を成膜しても良い。前記の被覆層形成工程と同様の条件で成膜可能である。
【0181】
(積層体)
図7は、本実施の形態に係るバリアフィルムを用いた積層体の一例を示す断面図である。この積層体100は
図1のバリアフィルム100Aを用いた積層体である。すなわち、第1のポリプロピレン基材110と、下地層115と、蒸着膜120と、バリア性を有する被覆層130とでバリアフィルム100Aを構成している。バリアフィルムの第1のポリプロピレン基材110側の一方の表面は、第1の接着剤層161を介してシーラント層150と積層されており、バリアフィルムの他方の表面である被覆層130側の表面は、接着層162を介して第2のポリプロピレン基材140と積層されている。すなわち、第2のポリプロピレン基材140/第2の接着剤層162/バリアフィルム/第1の接着剤層161/シーラント層150の、バリアフィルムを中間層とする3層フィルム構成である。以下、バリアフィルムA以外の構成について説明する。
【0182】
[接着剤層]
バリアフィルムの第1のポリプロピレン基材110側の表面は、第1の接着剤層161を介してシーラント層150と積層されており、バリアフィルムの被覆層130側の表面は、接着層162を介して第2のポリプロピレン基材140と積層されている。これにより、バリアフィルムとシーラント層との密着性、及び、第1のポリプロピレン基材と第2の基材との密着性を向上でき、レトルト、ボイルなどの加熱殺菌処理におけるバリア性の低下を抑制できる。
【0183】
第1の接着剤層161、第2の接着剤層162としては、1液硬化型の接着剤、2液硬化型の接着剤、及び非硬化型の接着剤のいずれでもよい。接着剤は、無溶剤型の接着剤でもよく、ドライラミネートに適する溶剤型の接着剤でもよい。
【0184】
無溶剤型の接着剤、すなわちノンソルベント積層接着剤としては、例えば、ポリエーテル系接着剤、ポリエステル系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤及びウレタン系接着剤が挙げられる。これらの中でも、ウレタン系接着剤が好ましく、2液硬化型のウレタン系接着剤がより好ましい。
【0185】
溶剤型の接着剤としては、例えば、ゴム系接着剤、ビニル系接着剤、オレフィン系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤及びウレタン系接着剤が挙げられる。これらの中でも、ウレタン系接着剤が好ましく、2液硬化型のウレタン系接着剤がより好ましい。
【0186】
接着剤層の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下、好ましくは0.2μm以上8μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上6μm以下である。
【0187】
[第2のポリプロピレン基材]
第2のポリプロピレン基材140は、第2の接着剤層162を介して、バリアフィルムの被覆層30側の面と積層されている。ここで、第2のポリプロピレン基材としては、第1のポリプロピレン基材110と同様のものを用いることができるため、その説明を省略する。
【0188】
なお、
図7のような3層構成の場合、印刷層(図示せず)は第2のポリプロピレン基材140の最外層の表面に形成してもよく、第2のポリプロピレン基材140の第2の接着剤層162側の表面に形成してもよい。
【0189】
[シーラント層]
シーラント層150は、熱によって相互に融着し得る樹脂材料を含有する。熱によって相互に融着し得る樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィンが挙げられ、具体的には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び中密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、メチルペンテンポリマー、並びに環状オレフィンコポリマーが挙げられる。
【0190】
シーラント層は、ポリプロピレンにより構成されることが好ましい。これにより、3層構成のフィルムがすべてポリプロピレンにより構成されるので、包装材料のモノマテリアル化を図ることができる。使用済みの包装材料を回収した後、基材とシーラント層とを分離する必要がなく、包装材料のリサイクル適性を向上できる。シーラント層をポリプロピレンにより構成することにより、耐油性も向上でき、加熱殺菌処理に耐え得るシーラント層とすることができる。
【0191】
シーラント層におけるポリプロピレンの含有割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上である。これにより、例えば、包装材料のリサイクル適性を向上できる。
【0192】
シーラント層をポリプロピレンにより構成した場合において、積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは88質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。これにより、例えば、積層体を用いてモノマテリアル化した包装材料を作製でき、包装材料のリサイクル適性を向上できる。
【0193】
ポリプロピレンとしては、例えば、プロピレンホモポリマー、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体等のプロピレンランダムコポリマー、及びプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体等のプロピレンブロックコポリマーが挙げられる。α-オレフィンの詳細は、上述したとおりである。ヒートシール性という観点から、ポリプロピレンの密度は、例えば0.88g/cm3以上0.92g/cm3以下である。密度は、JIS K7112、特にD法(密度勾配管法、23℃)、に準拠して測定される。環境負荷低減という観点から、バイオマス由来のポリプロピレン及び/又はリサイクルされたポリプロピレンを用いてもよい。
【0194】
シーラント層は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑(スリップ)剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、滑剤、帯電防止剤、顔料及び改質用樹脂が挙げられる。例えば、シーラント層は、帯電防止剤を含有してもよい。これにより、積層体表面における静電気の発生を抑制でき、例えば積層体同士の密着を抑制できる。
【0195】
シーラント層は、単層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。シーラント層の厚さは、好ましくは10μm以上200μm以下、より好ましくは20μm以上150μm以下である。厚さが下限値以上であると、例えば、積層体を備える包装材料の積層強度をより向上できる。厚さが上限値以下であると、例えば、積層体の加工適性をより向上できる。積層体からパウチ(特にレトルトパウチ)を作製する場合は、シーラント層の厚さは、さらに好ましくは30μm以上100μm以下である。
【0196】
シーラント層は、ヒートシール性の観点から、好ましくは未延伸の樹脂フィルムであり、より好ましくは未延伸のポリプロピレンフィルムである。上記樹脂フィルムは、例えば、キャスト法、Tダイ法又はインフレーション法などを利用することにより作製できる。シーラント層は、本実施形態のように接着剤層を介して積層してもよく、熱によって相互に融着し得る樹脂材料をバリアフィルム上に溶融押出しすることによりシーラント層を形成してもよい。
【0197】
[他の積層例]
図8は、バリアフィルムAの被覆層130が、第1の接着剤層161を介してシーラント層150と積層されている例である。このように、本発明においては、積層体は3層フィルム構成に限らず、2層構成であってもよい。
【0198】
[包装製品]
上記の積層体は、シーラント層を内側にして袋状とすることで、食品などの内容物を収容する包装袋などの包装製品として利用することができる。そして、本発明の積層体は、レトルト食品やボイル食品を収容した包装袋に用いられる、加熱殺菌処理された積層体である。
【0199】
加熱殺菌処理とは、レトルト処理のみならず、ボイル処理も含む意味である。ボイル処理とは、たとえば60~100℃で、10~60分の加熱殺菌を意味する。
【0200】
レトルト処理とは、100~140℃の加熱加圧殺菌処理を意味する。負荷加熱量の積分値を表す概念であるF値が4以上、より具体的には、121℃×3分以上、または、食品衛生法に定められる120℃×4分以上の加熱加圧殺菌処理が好ましい。更に具体的には、120℃、30~60分が最も一般的であるが、105~115℃、30~60分のセミレトルト、130~140℃、30~60分のハイレトルト(HTST)であってもよい。
【0201】
[被覆層の複合弾性率及びインデンテーション硬さ]
本発明においては、積層後、かつ、上記の加熱殺菌処理後の複合弾性率及びインデンテーション硬さが、積層体の被覆層の断面からナノインデンテーション法により測定される複合弾性率及びインデンテーション硬さで、複合弾性率が5.0GPa以上8.5GPa以下であり、かつ、インデンテーション硬さが0.9GPa以上1.7GPa以下である。この範囲であると、積層体のボイル処理のみならず、レトルト処理後であってもバリア性の低下を抑制できる。
【0202】
なお、複合弾性率が6.0GPa以上8.5GPa以下であり、かつ、インデンテーション硬さが1.0GPa以上1.5GPa以下であると更に好ましく、積層体のハイレトルト処理後であっても、バリア性の低下を抑制できる。
【0203】
被覆層のインデンテーション硬さは、下記の式(1)により算出される。更に、被覆層の複合弾性率は、下記の式(2)により算出される。
インデンテーション硬さ=Pmax/A・・・(1)
【数1】
【0204】
ここで、
Pmax:最大荷重(単位:μN)
A:最大深さ時の接触投影面積(単位:μm2)
S:接触剛性
である。
【0205】
加熱殺菌処理後の積層体における、被覆層の複合弾性率及びインデンテーション硬さの測定は、加熱殺菌処理後の積層体をエポキシ樹脂等で包埋し、これをミクロトームで処理して被覆層の断面を露出させる前処理を施す。これにより、積層体の被覆層の「断面」からナノインデンテーション法により測定できる。この方法は、積層体を剥離して被覆層を露出することなく、被覆層の複合弾性率及びインデンテーション硬さを測定できる方法である。上記断面は、フィルムの主面に対して垂直となる厚さ方向に切断して得られる。断面作製は、フィルムを包埋樹脂によって包埋したブロックを作製し、市販の回転式ミクロトームを用いて室温(23℃)環境下にて、該ブロックを切断することにより実施した。仕上げはダイヤモンドナイフにて実施した。
【0206】
ナノインデンテーション法による被覆層の断面のインデンテーション硬さ及び複合弾性率の測定は、まず、圧子を、被覆層の断面に当て、10秒間かけて、該断面から荷重15μNまで圧子を押し込み、その状態で5秒間保持する。圧子を押し込む箇所は、被覆層の断面が露出した部分のうち、被覆層の厚さ方向における中央部付近とする。次いで、10秒間かけて除荷する。これにより、最大荷重Pmax、最大深さ時の接触投影面積A、及び荷重-変位曲線が得られる。なお、測定は、特段の定めがない限り、相対湿度50%、23℃の環境下にて行う。測定は同一断面において5箇所以上で実施し、インデンテーション硬さ及び複合弾性率は、それぞれ、再現良く測定された5箇所の値の算術平均値として記載する。測定の更なる詳細条件は実施例に記載される条件である。
【0207】
積層体が加熱殺菌処理される場合、被覆層は、加熱殺菌処理時のOPP基材の熱収縮による、蒸着膜の破壊を抑制するために、ある程度以上の硬さが必要である。一方、包装材料の積層加工時には張力によってOPP基材が延伸され、これによっても蒸着膜の破壊によるバリア性の低下が生じるが、こちらは被覆層に適度な柔軟性を付与することでバリア性の低下を抑制できる。
【0208】
本発明者らは、ポリプロピレンフィルムの積層体であるモノマテリアル包装材料を構成する被覆層について、レトルト処理のような加熱殺菌処理用途に適する弾性率とインデンテーション硬さの範囲を見出し、「積層後」の「加熱殺菌処理後」であってもバリア性の低下を抑制できる積層体を見出したものである。
【0209】
これにより、加熱殺菌処理後の積層体のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、10.0cc/(m2・day・atm)以下、好ましくは5.0cc/(m2・day・atm)以下、特に好ましくは2.0cc/(m2・day・atm)以下、最も好ましくは1.0cc/(m2・day・atm)以下を達成することに成功している。また、加熱殺菌処理後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、好ましくは3.0g/(m2・day)未満、より好ましくは2.0g/(m2・day)以下である。このように、レトルト処理後であっても高いガスバリア性を備える積層体が得られる。
【0210】
被覆層の複合弾性率及びインデンテーション硬さの調整は、たとえば、被覆層の組成や被覆層形成時の乾燥温度などによって調整することができる。
【実施例】
【0211】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。まず、本実施の形態に記載の成膜装置である成膜装置10、及び成膜方法及び被覆層形成工程を用いて、実施例1~15、比較例1~6に係るバリアフィルムを製造した。前処理条件、蒸着条件などにつき、まとめて表1、表2に示す。
【0212】
(実施例1)
基材1のポリプロピレン基材として、厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(蒸着面側表面である第1の層が厚さ1.0μmのプロピレン、エチレン、ブテンの共重合体からなる層、蒸着面側と反対側の表面である第2の層が厚さ1.0μmのプロピレン、エチレン、ブテンの共重合体からなる層、第1の層の表面にコロナ処理、第3の層(中間層)が厚さ18μmのホモポリプロピレン)を用いた。
【0213】
次に、基材1の第1の層上に、下地層として、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂とトリレンジイソシアネートを混合した液からなるアンカーコート層形成用塗工液をダイレクトグラビア法で塗工後、乾燥して、厚さ0.2μmのアンカーコート層を形成した。
【0214】
アンカーコート層形成後、調湿工程として、25℃、50%RH雰囲気下にてロール原反を巻き返して、その後に25℃、50%RHにて3日間保管して調湿したものを用いた。
【0215】
成膜工程においては、
図6に示すような抵抗加熱方式(表1中RHと記す)の蒸発機構24を用いて、真空蒸着法により、酸化アルミニウムを含む蒸着膜を成膜した。具体的には、蒸着材料としてアルミニウムの金属線材をボート24b内に供給しつつ、抵抗加熱式の蒸発機構24を用い、ボート24b内の蒸着材料を加熱し、基材1の表面に到達するようにアルミニウムを蒸発させるとともに、酸素を供給しながら、基材1の表面に蒸着膜を成膜した。
【0216】
また、プラズマ供給機構50として、
図6に示すホローカソード51と、ボート24bからみて、基材1の幅方向における両側に配置された、ホローカソード51の空洞部の開口と対向する図示しないアノードと、を有する形態を用い、ホローカソード51の空洞部にプラズマ原料ガス(アルゴンガス)を供給し、放電させてプラズマを励起し、このプラズマを、対向するアノードによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出して、蒸着時のプラズマアシストを行った。プラズマアシストの条件は、ホローカソードへのアルゴンガス供給量を80sccm、アノード電流を48A、アノード電圧を19Vとした。なお、コールドトラップは稼働せず、蒸着時のプラズマアシスト工程後のプラズマ後処理工程は行っていない。
【0217】
以上の方法により基材1上に蒸着膜を積層した。このときの搬送速度600m/分であり、蒸着膜の厚さは8.9nmであった。このとき、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率は、基材1に対し前処理を施し、蒸着していない状態の透過率を100%の基準に設定した。そのうえで蒸着を開始し、光線透過率が99.7%になるように、酸素供給量をフィードバック制御した。蒸着中の圧力は1.1Paであった。
【0218】
上記の成膜工程を経たバリアフィルムの巻取体を、55℃50RH%で3日間エージング処理を行った。
【0219】
更に、被覆層形成工程で蒸着膜上に被覆層を積層した。水溶性高分子としてケン価度99%以上、重合度2400のポリビニルアルコールを水とイソプロピルアルコールが95/5の比率の液と混合し固形分4%になるように調整した溶液Aを得た。水、イソプロピルアルコールおよび1N塩酸を65/34/1の比率になるように混合し、調整した溶液Bを得た。金属アルコキシドとしてテトラエトキシシランを溶液Cとして準備した。溶液Bと溶液Cの比率を調整して混合した液を溶液Dとし、溶液Aと溶液Dの比率を調整して混合した液をバリアコート剤とした。バリアコート剤は混合後の固形分が7%で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が2.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した。このバリアコート剤を溶液Xとした。
【0220】
上記の蒸着膜上に、上記で調整したバリアコート剤をダイレクトグラビア法により塗工した。その後、100℃で乾燥して、乾燥膜厚300nmの被覆層を形成した。その後、55℃50%RHで7日間エージング処理をして被覆層を形成し、実施例1のバリアフィルムを製造した。
【0221】
(実施例2)
成膜工程で、プラズマアシスト行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例2のバリアフィルムを製造した。
【0222】
(実施例3)
成膜工程で、搬送速度670m/分、蒸着膜の厚さ8.0nm、光線透過率94.0%、圧力0.3Paとした以外は実施例2と同様にして、実施例3のバリアフィルムを製造した。
【0223】
(実施例4)
成膜工程で、光線透過率88.0%、圧力0.2Paとした以外は実施例3と同様にして、実施例4のバリアフィルムを製造した。
【0224】
(実施例5)
調湿工程で30℃、60%RH雰囲気下にてロール原反を巻き返して、その後に30℃、60%RHにて3日間保管し、成膜工程後のエージング処理を60℃50RH%で4日間とした以外は実施例1と同様にして、実施例5のバリアフィルムを製造した。
【0225】
(実施例6)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が2.25になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、実施例6のバリアフィルムを製造した。
【0226】
(実施例7)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が2.75になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、実施例7のバリアフィルムを製造した。
【0227】
(実施例8)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が3.0になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、実施例8のバリアフィルムを製造した。
【0228】
(実施例9)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が3.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、実施例9のバリアフィルムを製造した。
【0229】
(実施例10)
被覆層形成工程で溶液Yを用いた以外は実施例3と同様にして、実施例10のバリアフィルムを製造した。溶液Bと溶液Cの混合時に、テトラエトキシシランの重量に対してグリシドキシプロピルトリメトキシシランを5%添加した後、被覆層として、固形分が7%で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が2.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整して混合したバリアコート剤を溶液Yとした。
【0230】
(実施例11)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が3.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例10と同様にして、実施例11のバリアフィルムを製造した。
【0231】
(実施例12)
被覆層形成工程で溶液Zを用いた以外は実施例3と同様にして、実施例12のバリアフィルムを製造した。溶液Bと溶液Cの混合時に、テトラエトキシシランの重量に対して1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを8%添加し、被覆層として、固形分が7%で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が3.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整して混合したバリアコート剤を溶液Zとした。
(実施例13)
被覆層形成工程後のエージング処理を行わなかった以外は実施例3と同様にして、実施例13のバリアフィルムを製造した。
【0232】
(実施例14)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が3.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例13と同様にして、実施例14のバリアフィルムを製造した。
【0233】
(実施例15)
基材1として、下地層としてポリアミド樹脂、第1の層として変性ポリプロピレン、第3の層としてホモポリプロピレン、第2の層としてプロピレン、エチレンの共重合体からなる層を、多層共押出し後に延伸した基材(総厚さ20μm)を使用した。下地層は厚さ0.6μm、第1の層は厚さ1.5μm、第2の層は厚さ0.6μm程度とした。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6を使用した。
【0234】
その後、調湿工程として、25℃、50%RH雰囲気下にてロール原反を巻き返して、その後に25℃、50%RHにて3日間保管して調湿したものを用いた。
【0235】
実施例3の成膜工程において、以下の前処理工程を行った以外は実施例3と同様にして成膜工程と被覆層形成工程を行い、実施例15のガスバリアフィルムを製造した。
<前処理工程>
図2及び
図3に示す、プラズマ前処理機構11Bを用いて、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。具体的には、まず、プラズマ前処理室12Bに、プラズマ原料ガス供給部を用いラズマ形成ガスを供給しつつ、減圧チャンバ12を用いて、プラズマ前処理室12B内の気圧を調整した。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に電圧を印加してプラズマを発生させ、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。プラズマ前処理は以下の条件とした。
<前処理条件>
基材の搬送速度:600m/min
高周波電源出力:4kW
高周波電源周波数:40kHz
プラズマ強度:550W・sec/m
2
プラズマ形成ガス:酸素100(sccm)、アルゴン1000(sccm)
磁気形成手段:1000ガウスの永久磁石
前処理ドラム-プラズマ供給ノズル間印加電圧:420V
前処理区画の圧力:2.0×10
-1Pa
【0236】
(比較例1)
成膜工程において、コールドトラップを稼働し、プラズマアシストの条件を、アノード電流を154A、アノード電圧を18Vとした以外は実施例1と同様にして、比較例1のバリアフィルムを製造した。
【0237】
(比較例2)
成膜工程において、プラズマアシストの条件を、アノード電流を140A、アノード電圧を16Vとした以外は比較例1と同様にして、比較例2のバリアフィルムを製造した。
【0238】
(比較例3)
成膜工程後のエージング処理を60℃80RH%で5日間実施し、ロールから切り出した210mm×300mm程度のシートにバリアコート剤をアプリケータで塗工した以外は実施例5と同様にして、比較例3のバリアフィルムを製造した。
(比較例4)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が1.5になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、比較例4のバリアフィルムを製造した。
(比較例5)
被覆層形成工程で、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が4.0になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、比較例5のバリアフィルムを製造した。
(比較例6)
被覆層形成工程で溶液Zを用い、PVAの固形分に対して、テトラエトキシシランのSiO2換算の質量が4.0になるように、溶液Bと溶液Cの比率、溶液Aと溶液Dの比率を調整した以外は実施例3と同様にして、比較例6のバリアフィルムを製造した。
【0239】
【0240】
【0241】
[XAFSスペクトルの取得と解析]
実施例1~15、比較例1~6のバリアフィルムについて、下記測定条件で、XAFSスペクトルを得た。このうち、実施例2の結果を
図9に示す。図中の縦軸は発生した蛍光X線の強度(図中は吸収強度(a.u)として記載)、横軸は光(またはX線)エネルギー(eV)である。
【0242】
<XAFSスペクトル取得>
・利用ライン:あいちシンクロトロン光センターBL1N2
・加速エネルギー:1.2GeV
・ビームサイズ:水平方向1.0mm×垂直1.0mm
・試料への入射角:22.5°(サンプルに対して垂直方向を0°とする)
・入口スリット : 30μm
・出口スリット : 30μm
・測定方法:部分蛍光収量法
・エネルギー範囲(Al K-edge):1500~1700eV
・エネルギーステップ:
1500~1550eV:2.0eV/step
1550~1555eV:1.0eV/step
1555~1575eV:0.2eV/step
1575~1600eV:0.5eV/step
1600~1680eV:1.0eV/step
1680~1700eV:2.0eV/step
(溜め込み時間:すべて10s/point)
・エネルギー校正:Au板のAu 4f 7/2によるエネルギー校正(実測値から理論値1500eVを引いた値で校正)
【0243】
<XAFSスペクトル解析>
ピーク分離方法
吸収X線のエネルギー値1557eVにおける吸収スペクトル強度値が0、吸収X線のエネルギー値1590eVにおける吸収スペクトル強度値が1、となるように強度値を規格化した。
【0244】
【0245】
規格化後のデータ点の1555eVから1575eVと、1598eVから1602eVまでを抽出し、上記のf(x)の関数をフィッティングして、各係数を求めた。ただし、k1=k2、K1=X1、K2=X2の制約条件を入れている。フィッティングは最小二乗法により行った。この際、Pythonのscipyライブラリのleast squares関数を用い、係数の初期値について、下表のように値を与えて求めた。上記関数の記号の定義は以下である。
Mi:i番目の吸収ピークにおけるガウス関数とローレンツ関数の重み因子
Xi:i番目の吸収ピークにおけるピーク中心
hi:i番目の吸収ピークにおけるピーク強度因子
βi:i番目の吸収ピークにおけるピーク幅因子
kj:j番目のベースラインにおけるベースライン強度因子
Kj:j番目のベースラインにおけるベースライン強度の半割位置
【0246】
【0247】
実施例2のXAFSスペクトルをそれぞれピーク分離した結果を
図10に示す。同様に、
図11は実施例3のXAFSピークを分離した解析結果であり、
図12は比較例1のXAFSピークを分離した解析結果であり、
図13は比較例2のXAFSピークを分離した解析結果である。
【0248】
Experimentは実測のXAFSスペクトルであり、Fit.Peak1は、分離された1566eV付近の強度ピークであり、Fit.Peak2は、分離された1568eV付近の強度ピークであり、Fit.Peak3は、分離された1572eV付近の強度ピークである。ここから、XAFSピークトップ比P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)を計算した結果を、実施例1~15、比較例1~6のバリアフィルムについて表4に示す。
【0249】
[被覆層の元素分析]
実施例1~15、比較例1~6のバリアフィルムの被覆層表面について、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて各元素のナロースペクトルを測定した。その後、後述する条件によって測定後の面のエッチングを行い、新たな測定面を露出させた。露出した測定面に対して、同条件にて各元素のナロースペクトルを測定した。
C1s、Si2pの各ナロースペクトルについて、解析ソフトを用い、Shirley法でバックグラウンドを差し引き、各元素のピークの積分強度(面積)を得た。得られた積分強度(面積)を用いて、各元素の割合(元素%)を算出した。60秒×2回のエッチング後の各元素の割合から、Si/C比を算出し表4に示す。
<X線光電子スペクトル測定条件>
装置:(株)島津製作所製 ESCA3400
X線源:MgKα
エミッション電流:20mA
加速電圧:10kV
分解能:Low
測定領域:約6mmφ
<エッチング条件>
イオン種:Ar+
Arガス導入の圧力:2.0×10-2Pa
エミッション電流:30mA
加速電圧:0.3kV
エッチング時間:60秒×2回
【0250】
【0251】
<バリアフィルムの外観端面の色ムラ評価>
実施例1~15、比較例1~6のバリアフィルムについて、巻取体の端面から目視外観検査を実施した。結果を表5に示す。
ここで、「端面目視外観」は巻取体の端面側(側面側)からみた際の目視による色ムラ評価である。なお、バリアフィルム巻取体を端面側からみて、色の濃い部位(A)と色の薄い部位(B)のバリアフィルムを採取し、コニカミノルタ製分光測色計CM-600dを用いて、標準白色板上に色の濃い部位(A)のバリアフィルム1枚を膜面を上にして設置し、SCI(正反射光含む)、10°視野、D65光源の条件で測定し、色の薄い部位(B)についても、同様に測定し、測定したL*、a*、b*の値から、色の濃い部位(A)と色の薄い部位(B)の色差を求めた際に、バリアフィルム1枚で色差が0.3以上あるときに、巻取体の端面からみて色ムラが強いと目視外観検査で判定していたことが確認された。
【0252】
<積層体の作成>
実施例1から15、比較例1から6のバリアフィルムについて、被覆層130側の面と、第2の2軸延伸ポリプロピレンフィルム140(厚さ20μm)とを、ポリウレタン系の2液硬化型の溶剤系接着剤を用いて、第2の接着剤層162を介してドライラミネート法で貼り合わせた。更に、バリアフィルムの被覆層130と反対側の面と、シーラント層(無延伸ポリプロピレンフィルム60μm)とを、2液硬化型の溶剤系接着剤を用いて、第1の接着剤層161を介してドライラミネート法で貼り合わせ、実施例1の積層体を作製した。
【0253】
<レトルト処理>
実施例1から15、比較例1から6の積層体について、121℃×30分のレトルト処理及び135℃×30分のハイレトルト処理を行った。
【0254】
<バリアフィルム及び積層体のバリア性の測定>
実施例1から15、比較例1から6のバリアフィルム及びそれを用いた積層体について、水蒸気透過率及び酸素透過率の値を測定した。結果を表5、表6に示す。
【0255】
酸素透過度(cc/(m2・day・atm)、表中「OTR」と表示)は、酸素透過率測定装置(モコン社製、製品名「OX-TRAN 2/20」)を用いて、23℃、90%RHの測定条件で、JIS K 7126-2に準拠して測定した。
【0256】
水蒸気透過率(g/(m2・day)、表中「WVTR」と表示)は、水蒸気透過率測定装置(モコン社製、製品名「PERMATORAN-W 3/31」)を用いて、40℃、100%RHの測定条件で、JIS K 7129 B法に準拠して測定した。
【0257】
<被覆層の複合弾性率及びインデンテーション硬さの測定>
実施例1から15、比較例1から6の積層体について、加熱殺菌処理後の積層体における、被覆層の複合弾性率(GPa)及びインデンテーション硬さ(GPa)を以下の条件にて測定した。その結果を表5、表6に示す。
測定装置:HYSITRON社製TI-950 トライボインデンター
測定箇所:被覆層の断面側から
測定モード:インデンテーション
圧子:cubecorner圧子、TI-0037
データポイント数:200ポイント/second
測定プロファイル
0→10sec:0→15μN
10→15sec:15μN
15→25sec:15→0μN
【0258】
【0259】
【0260】
表5、表6より、XAFSスペクトルから得られるピークトップ比Pが1.05以上1.60未満である本実施形態に係るポリプロピレン基材を用いたバリアフィルムを用いた積層体は、レトルト処理後のバリア性が高く色ムラが低減していることが理解できる。
【0261】
また、複合弾性率が5.0GPa以上8.5GPa以下であり、かつ、インデンテーション硬さが0.9GPa以上1.7GPa以下である、ポリプロピレン基材を用いた積層体は、レトルト処理後の酸素バリア性に優れていることが理解できる。
【符号の説明】
【0262】
110 (第1の)ポリプロピレン基材
115 下地層
120 蒸着膜
130 被覆層
140 第2のポリプロピレン基材
150 シーラント層
161 第1の接着剤層
162 第2の接着剤層
100、200 積層体
100A バリアフィルム
10 成膜装置
P プラズマ
X 回転軸
11A 基材搬送機構
11B プラズマ前処理機構
11C 成膜機構
12 減圧チャンバ
12A 基材搬送室
12B プラズマ前処理室
12C 成膜室
13 巻き出しローラー
14a~d ガイドロール
15 巻き取りローラー
20 前処理ローラー
21 電極部
23 磁場形成部
23a 第1面
23b 第2面
231 第1磁石
231c 第1軸方向部分
232 第2磁石
232c 第2軸方向部分
232d 接続部分
24 蒸発機構
24b ボート
25 成膜ローラー
31 電力供給配線
32 電源
35a~35c 隔壁
50 プラズマ供給機構
51 ホローカソード
61 蒸着材料供給部
63 アルミニウム蒸気
【要約】
【課題】加熱殺菌処理後のバリア性の低下と色ムラを抑制できる、OPPフィルム基材上に形成される蒸着膜と被覆層を備えるバリアフィルム及びそれを用いた積層体を提供する。
【解決手段】2軸延伸ポリプロピレン基材と、下地層と、酸化アルミニウム蒸着膜と、バリア性を有する被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、被覆層はアルコキシシランと水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、酸化アルミニウム蒸着膜のX線吸収微細構造分析によるピークトップ比Pが1.05以上1.60未満である、バリアフィルムである。
P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
【選択図】なし