(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】熱硬化性接着剤組成物、熱硬化性接着シート及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20241010BHJP
C09J 171/12 20060101ALI20241010BHJP
C09J 109/00 20060101ALI20241010BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20241010BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J171/12
C09J109/00
C09J163/00
H05K1/03 610H
H05K1/03 650
(21)【出願番号】P 2024055214
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彬
(72)【発明者】
【氏名】中村 智里
(72)【発明者】
【氏名】山本 潤
(72)【発明者】
【氏名】三浦 基
(72)【発明者】
【氏名】三村 勇介
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/255078(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/024364(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151014(WO,A1)
【文献】特開2015-131866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板間を接合する熱硬化性接着剤組成物であって、
当該熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、
スチレン比率が42%以下であるスチレン系エラストマーを65~90質量部と、
架橋成分として、
(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を5~20質量部と、
(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを4~10質量部と、
ラジカル重合開始剤と、
エポキシ樹脂とを含有し、
上記ラジカル重合開始剤、上記エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下であり
、
上記(A)成分の含有量と上記(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項2】
硬化後の誘電正接が、23℃及び80℃において、共に0.0030未満であり、
下記式1で表される変化率が50%未満を示す、請求項1に記載の熱硬化性接着剤組成物。
式1:変化率(%)=((硬化後の当該熱硬化性接着剤組成物の80℃における誘電正接)/(硬化後の当該熱硬化性接着剤組成物の23℃における誘電正接)-1)×100
【請求項3】
上記(A)成分の含有と、上記(B)成分の含有量が、下記式2を満足する、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
式2:(当該熱硬化性接着剤組成物中の(A)成分の含有量)>(当該熱硬化性接着剤組成物中の(B)成分の含有量)
【請求項4】
上記エポキシ樹脂の含有量が5質量部未満である、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項5】
上記式1で表される変化率が30%未満を示す、請求項2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂硬化剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項7】
上記ラジカル重合開始剤が、半減期が1分間となるための分解温度が170℃以上の有機過酸化物である、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項8】
上記スチレン系エラストマーが、上記エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有するスチレン系エラストマーを含有する、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項9】
基材上に、請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物からなる接着層が形成されている、熱硬化性接着シート。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の熱硬化性接着剤組成物の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付樹脂基板の上記配線パターン側と、カバーレイとが積層されている、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱硬化性接着剤組成物、熱硬化性接着シート及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の高速、大容量化により、プリント配線板に流れる信号の高周波化のトレンドが加速している。それに対応するため、リジット基板やフレキシブルプリント配線板(FPC)の構成材料(例えば、接着剤組成物)に、低誘電率、低誘電正接という特性が求められている。
【0003】
特に、誘電正接については、高周波向けの樹脂材料である液晶ポリマー(LCP)を目安として、例えば、0.0030未満であることが好ましく、0.0020未満であることがより好ましい。
【0004】
高周波回路内の信号の伝送損失は、その指標となる誘電正接(tanδ)に依存するが、一般的に、誘電正接は、温度に依存して悪化する。そのため、高周波回路の信号処理負荷に伴い回路周辺が高温になる環境でも、信号の伝送損失を悪化させない、すなわち、誘電正接が大きく上昇しない材料が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、フレキシブルプリント配線板用の接着剤組成物が開示されており、特許文献2には、ポリイミドに対し良好な接着強度を有し、かつ、良好な高周波特性を有するエラストマー組成物が開示されている。しかし、特許文献1、2に記載の技術では、誘電正接の温度変化率を低くすることについては考慮されておらず、記載も示唆もされていない。
【0006】
また、フレキシブルプリント配線板の用途に不可欠な耐屈曲性について、ポリフェニレンエーテルは、低誘電特性を持つ基板用材料として優れた点も多いが、融点(軟化点)が非常に高く、常温では硬い性質を持つため、耐屈曲性に劣るという難点がある。
【0007】
このように、接着剤組成物としては、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率も低いことに加えて、耐屈曲性も良好であることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第7351912号公報
【文献】特開2015-131866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率も低く、耐屈曲性が良好な接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術は、基板間を接合する熱硬化性接着剤組成物であって、当該熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として、(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を5~20質量部と、(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを4~10質量部と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂とを含有し、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下であり、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率も低く、耐屈曲性が良好な接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、プリント配線板の構成例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、多層プリント配線板の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、耐屈曲性試験に用いたTEGの構成例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、耐屈曲性試験に用いた測定装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施の形態について説明する。本明細書において、常温とは、日本工業規格(JIS Z 8703)で規定される20℃±15℃(5℃~35℃)の範囲をいう。
【0014】
また、本明細書において、重量平均分子量(Mn)及び数平均分子量(Mn)の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量から算出した値をいう。GPC法の具体的な測定条件は、以下の通りである。
溶媒:テトラヒドロフラン
カラム:KF-806M、KF-806M、KF-803、KF-801、KF-800D(レゾナック社製)
カラム温度:40℃
試料濃度:0.25質量%
検出器:RI検出器
流量(流速):1.0ml/min
注入量:200μL
校正曲線:標準ポリスチレンMw=605~5,680,000までの10サンプルによる校正曲線を使用
【0015】
<熱硬化性接着剤組成物>
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、この熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として、分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(以下、(A)成分ともいう)を5~20質量部と、重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレン(以下、(B)成分ともいう)を4~10質量部と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂とを含有する。また、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下である。本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有する。本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である。
【0016】
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、このような構成を有することにより、熱硬化後も誘電率及び誘電正接を低くすることができ、また、誘電正接の温度変化率も低くすることができる。このように、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電特性が良好である。
【0017】
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接が、23℃及び80℃において、共に0.0030未満であり、下記式1で表される変化率が50%未満を示すことができる。
式1:変化率(%)=((硬化後の熱硬化性接着剤組成物の80℃における誘電正接)/(硬化後の熱硬化性接着剤組成物の23℃における誘電正接)-1)×100
【0018】
硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電率は、2.40未満であることが好ましく、2.30未満であることがより好ましい。硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電率は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
硬化後の熱硬化性接着剤組成物は、23℃における誘電正接が0.0030未満であることが好ましく、0.0020未満であることがより好ましい。また、硬化後の熱硬化性接着剤組成物は、80℃における誘電正接が0.0030未満であることが好ましく、0.0020未満であることがより好ましい。硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
そして、硬化後の熱硬化性接着剤組成物は、式1で表される変化率が、より小さい程好ましい、すなわち、誘電正接の温度依存性が小さい程好ましい。例えば、硬化後の熱硬化性接着剤組成物は、式1で表される変化率が50%未満を示すことが好ましく、40%未満を示すことがより好ましく、30%未満を示すことがさらに好ましい。
【0021】
また、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、硬化後のガラス転移温度を、例えば60~150℃の範囲に調整でき、熱硬化後も耐屈曲性と耐熱性(例えば、はんだ耐熱性)を良好にすることができる。例えば、熱硬化後の熱硬化性接着剤組成物の耐熱性が良好であることにより、高周波用のプリント配線板においても、従来のものと同様に、はんだリフロー工程やホットバーハンダの工程により、部品実装や別のプリント配線板との接続を行うことができる。そのため、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、基板間を接合する用途、例えば、フレキシブルプリント配線板用の接着剤(層間接着剤)として好適に用いることができる。
【0022】
以下、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物の構成例について説明する。本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーと、(A)成分と、(B)成分と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂とを含有し、必要に応じて、エポキシ樹脂硬化剤をさらに含有してもよい。
【0023】
[スチレン系エラストマー]
スチレン系エラストマーは、スチレンとオレフィン(例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン)との共重合体、及び/又は、その水素添加物である。スチレン系エラストマーは、スチレンをハードセグメント、共役ジエンをソフトセグメントとしたブロック共重合体である。スチレン系エラストマーの例としては、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体などが挙げられる。また、水素添加により共役ジエン成分の二重結合をなくした、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(水素添加されたスチレン系エラストマーともいう。)などを用いてもよい。
【0024】
スチレン系エラストマーは、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有していてもよい。スチレン系エラストマーが、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する場合、エポキシ樹脂硬化剤の機能も備えるため、エポキシ樹脂硬化剤を用いる必要性がないが、本技術の効果を損なわない範囲で、別途エポキシ樹脂硬化剤を併用してもよい。
【0025】
エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基としては、例えば、アミンや酸無水物などの官能基が挙げられる。エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有するスチレン系エラストマーを用いる場合、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物をフィルム化することにより、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を含む高分子鎖の動きが制限されるため、ポリマー側(例えば、スチレン系エラストマー)に潜在性を付与することができる。このようなスチレン系エラストマーの例としては、アミン変性されたスチレン系エラストマーや、酸変性されたスチレン系エラストマーが挙げられる。
【0026】
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、スチレン比率が67%(例えば67質量%)未満であるスチレン系エラストマーを含有する。これにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の剥離強度と耐屈曲性を良好にすることができる。また、スチレン系エラストマー中のスチレン比率が低いほど、熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電率及び誘電正接が良好となる傾向にあり、また、剥離強度と耐屈曲性もより良好となる傾向にある。
【0027】
スチレン系エラストマー中のスチレン比率は、例えば、60%以下であってもよく、50%以下であってもよく、42%以下であってもよく、42%未満であってもよく、30%以下であってもよく、20%以下であってもよく、15%以下であってもよく、12%以上67%未満であってもよく、12~42%であってもよく、12~30%であってもよい。
【0028】
スチレン系エラストマーの具体例としては、タフテックH1221(スチレン比率12%、旭化成社製)、タフテックMP1911(スチレン比率30%、酸変性されたスチレン系エラストマー、旭化成社製)、タフテックH1051(スチレン比率42%、旭化成社製)などが挙げられる。
【0029】
スチレン系エラストマーの含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、65~90質量部である。スチレン系エラストマーの含有量が65質量部以上であることにより、相対的に他の成分(例えば、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤)の含有量が多くなりすぎず、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電率及び誘電正接や、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接の温度変化率を低くすることができる。また、スチレン系エラストマーの含有量が90質量部以下であることにより、相対的に他の成分(例えば(A)成分及び(B)成分)の含有量が少なくなりすぎず、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接の温度変化率を低くすることができ、また、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の耐熱性を良好にすることができる。
【0030】
スチレン系エラストマーの含有量の下限値は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、68質量部以上であってもよいし、70質量部以上であってもよいし、71質量部以上であってもよいし、75質量部以上であってもよいし、76質量部以上であってもよい。
【0031】
スチレン系エラストマーの含有量の上限値は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、85質量部以下であってもよいし、81質量部以下であってもよいし、80質量部以下であってもよい。
【0032】
スチレン系エラストマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上のスチレン系エラストマーを併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0033】
スチレン系エラストマーの使用態様の一例として、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーと、スチレン比率が67%以上であるスチレン系エラストマーを併用してもよい。この場合、熱硬化性接着剤組成物中、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーの含有量は、スチレン系エラストマーの合計量に対して50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、65質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、75質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。例えば、スチレン比率が42%以下であるスチレン系エラストマーと、スチレン比率が67%以上であるスチレン系エラストマーを併用することができ、この場合、スチレン比率が42%以下であるスチレン系エラストマーの含有量は、スチレン系エラストマーの合計量に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0034】
[(A)成分]
(A)成分、すなわち、分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、架橋成分であり、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有し、分子末端にラジカル重合性基を有する。上述のように、(A)成分の分子末端のラジカル重合性基が、熱硬化性接着剤組成物中のラジカル重合開始剤により架橋されることで、硬化後の熱硬化性接着剤組成物のガラス転移温度を、例えば60~150℃の範囲に調整でき、熱硬化後も耐屈曲性と耐熱性を良好にすることができる。(A)成分は、例えば、1分子中に、ラジカル重合性基として、エチレン性不飽和結合を2つ以上有することが好ましい。特に、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性や、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電特性の観点では、(A)成分は、分子両末端に、エチレン性不飽和結合(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニルベンジル基)の少なくとも1種を有することが好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基の両者を含むものである。
【0035】
なお、(A)成分以外の変性ポリフェニレンエーテル樹脂、例えば、分子末端に水酸基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、極性が強すぎるため、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性が悪く、熱硬化性接着剤組成物をフィルム化できないおそれがあり、好ましくない。
【0036】
(A)成分の一例である、分子両末端に、ビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物を酸化カップリングさせて得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化することで得られる。
【0037】
(A)成分の重量平均分子量(又は数平均分子量)は、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性や、熱硬化性接着剤組成物の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付樹脂基板の配線パターン側とカバーレイとを熱硬化(プレス)する際の段差追従性等の観点では、1,000~3,000であることが好ましい。
【0038】
(A)成分の具体例としては、OPE-2St(分子両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂、三菱ガス化学社製)、OPE-2EA(分子両末端にアクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂、三菱ガス化学社製)、Noryl SA9000(両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂、SABIC社製)などを用いることができる。
【0039】
(A)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、5~20質量部である。(A)成分の含有量が20質量部以下であることにより、耐屈曲性を良好にすることができる。また、(A)成分の含有量が5質量部以上であることにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接を低くすることができる。
【0040】
(A)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、18質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよく、13質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよく、9質量部以下であってもよい。
【0041】
(A)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、6質量部以上であってもよく、8質量部以上であってもよく、9質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよい。
【0042】
(A)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の(A)成分を併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0043】
[(B)成分]
(B)成分は、架橋成分であり、重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンである。(B)成分は、重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン樹脂(ポリブタジエン構造のみを有する樹脂)、重量平均分子量が10,000~50,000であるポリイソプレン樹脂(ポリイソプレン構造のみを有する樹脂)、重量平均分子量が10,000~50,000であってポリブタジエン構造及びポリイソプレン構造を有する樹脂の少なくとも1種であるか、これらの併用である。また、(B)成分は、ブタジエン構造やポリイソプレン構造を主成分として含むものであれば、本技術の効果を損なわない範囲で、ブタジエン構造及びポリイソプレン構造以外の他の構造を含んでもよいが、本技術の効果、他の成分との相溶性、分散性などをより良好にする観点では、他の構造(例えばスチレン構造)を実質的に含まないことが好ましい。(B)成分は、取扱性の観点では、常温で液状であることが好ましい。
【0044】
ポリブタジエンは、ポリブタジエン構造を有する樹脂であればよく、ポリブタジエン構造が主鎖に含まれていても、側鎖に含まれていてもよい。ブタジエン構造は、一部が水素添加されていてもよく、水素添加されていなくてもよい。
【0045】
ポリイソプレンは、ポリイソプレン構造を有する樹脂であればよく、ポリイソプレン構造が主鎖に含まれていても、側鎖に含まれていてもよい。ポリイソプレン構造は、一部が水素添加されていてもよく、水素添加されていなくてもよい。
【0046】
(B)成分は、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有していてもよい。(B)成分が、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する場合、エポキシ樹脂硬化剤の機能も備えるため、エポキシ樹脂硬化剤を用いる必要性がないが、本技術の効果を損なわない範囲で、別途エポキシ樹脂硬化剤を併用してもよい。エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基としては、例えば、酸無水物などの官能基が挙げられる。このような(B)成分の例としては、酸変性されたポリブタジエンや酸変性されたポリイソプレンが挙げられる。
【0047】
(B)成分の重量平均分子量について、(B)成分の重量平均分子量が10,000以上であることにより、架橋密度が大きくなりすぎるのを抑制でき、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の剥離強度と耐屈曲性を良好にすることができる。(B)成分の重量平均分子量は、15,000以上であってもよいし、20,000以上であってもよいし、25,000以上であってもよいし、30,000以上であってもよいし、35,000以上であってもよい。
【0048】
また、(B)成分の重量平均分子量が50,000以下であることにより、架橋密度が小さくなりすぎるのを抑制でき、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接の温度変化率を低くすることができ、(A)成分との相溶性を良好にすることができる。(B)成分の重量平均分子量は、45,000以下であってもよいし、40,000以下であってもよいし、35,000以下であってもよいし、30,000以下であってもよい。
【0049】
(B)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、4~10質量部である。(B)成分の含有量が10質量部以下であることにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の剥離強度と耐屈曲性を良好にすることができる。また、(B)成分の含有量が4質量部以上であることにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電正接の温度変化率を低くすることができる。
【0050】
(B)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、9質量部以下であってもよく、8質量部以下であってもよく、7質量部以下であってもよく、6質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよい。
【0051】
(B)成分の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、5質量部以上であってもよく、6質量部以上であってもよく、7質量部以上であってもよく、8質量部以上であってもよい。
【0052】
また、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計は、25質量部以下であり、24質量部以下であってもよく、23質量部以下であってもよく、22質量部以下であってもよく、21質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、19質量部以下であってもよく、18質量部以下であってもよく、17質量部以下であってもよく、16質量部以下であってもよい。
【0053】
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計の下限値は、上述した(A)成分の含有量と(B)成分の含有量を満たす範囲で特に限定されず、例えば、15質量部以上とすることができ、16質量部以上であってもよく、17質量部以上であってもよく、18質量部以上であってもよく、19質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよい。
【0054】
さらに、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量は、下記式2を満足することが好ましい。
式2:(熱硬化性接着剤組成物中の(A)成分の含有量)>(熱硬化性接着剤組成物中の(B)成分の含有量)
【0055】
熱硬化性接着剤組成物中の(A)成分の含有量と(B)成分の含有量が式2を満たすことにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電率及び誘電正接をより効果的に低くすることができ、誘電正接の温度変化率もより効果的に低くすることができ、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の耐屈曲性や耐熱性をより効果的に良好にできる。
【0056】
(B)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の(B)成分を併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0057】
[ラジカル重合開始剤]
ラジカル重合開始剤は、不飽和結合のラジカル硬化反応を促進する触媒である。ラジカル重合開始剤は、例えば、熱硬化により、(A)成分の分子末端のラジカル重合性基や、(B)成分中のラジカル重合性基を架橋させる。熱硬化性接着剤組成物がラジカル重合開始剤を含有することにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の耐熱性をより良好にすることができる。ラジカル重合開始剤は、熱硬化性接着剤組成物の常温での保管性(ライフ)の観点では、反応開始温度の高い過酸化物が好ましく、例えば、半減期が1分間となるための分解温度が170℃以上の有機過酸化物が好ましい。このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(半減期が1分間となるための分解温度が175℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(半減期が1分間となるための分解温度が173℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(半減期が1分間となるための分解温度が194℃)が挙げられる。
【0058】
ラジカル重合開始剤の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下を満たす範囲であれば特に限定されず、例えば、0.5質量部以上とすることができ、1質量部以上であってもよく、1~5質量部であってもよく、1~4質量部であってもよく、1~3質量部であってもよい。
【0059】
ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ラジカル重合開始剤を2種以上併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0060】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂は、例えば、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、シロキサン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂は、フィルムの成形性の観点から、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、常温で液状であるものが好ましい。
【0061】
エポキシ樹脂の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下を満たす範囲であれば特に限定されず、例えば、5質量部未満であってもよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、1~7質量部であってもよく、1~6質量部であってもよく、1~5質量部であってもよく、1~4質量部であってもよく、1~3質量部であってもよい。
【0062】
エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上のエポキシ樹脂を併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
[エポキシ樹脂硬化剤]
エポキシ樹脂硬化剤は、上述したエポキシ樹脂の硬化反応を促進する触媒である。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、イミダゾール系、フェノール系、アミン系、酸無水物系、有機過酸化物系等を用いることができる。特に、エポキシ樹脂硬化剤は、熱硬化性接着剤組成物の常温での保管性(ライフ)の観点では、潜在性をもった硬化剤であることが好ましく、カプセル化されて潜在性をもったイミダゾール系の硬化剤であることがより好ましい。常温での保管性が良好となることにより、熱硬化性接着剤組成物の供給や使用における管理をより簡便にすることができる。具体的に、エポキシ樹脂硬化剤としては、潜在性イミダゾール変性体を核としその表面をポリウレタンで被覆してなるマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いることができる。市販品としては、例えば、ノバキュア3941(旭化成イーマテリアルズ社製)を用いることができる。
【0064】
熱硬化性接着剤組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含有する場合、エポキシ樹脂硬化剤の含有量は、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下を満たす範囲であれば特に限定されず、例えば、0.1質量部以上とすることができ、0.5質量部以上であってもよく、0.8質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、0.1~3質量部であってもよく、0.5~3質量部であってもよい。
【0065】
なお、熱硬化性接着剤組成物が、スチレン系エラストマーとして、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有するスチレン系エラストマーを含有する場合、このエポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有するスチレン系エラストマーは、上述したスチレン系エラストマーの含有量に含めるものとし、エポキシ樹脂硬化剤の含有量には含めないものとする。同様に、熱硬化性接着剤組成物が、(B)成分として、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する(B)成分を含有する場合、このエポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する(B)成分は、上述した(B)成分の含有量に含めるものとし、エポキシ樹脂硬化剤の含有量には含めないものとする。なお、熱硬化性接着剤組成物が、スチレン系エラストマーとして、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有するスチレン系エラストマーを含有する場合や、熱硬化性接着剤組成物が、(B)成分として、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する(B)成分を含有する場合、熱硬化性接着剤組成物は、別途エポキシ樹脂硬化剤を含有しなくてもよいし、含有してもよい。
【0066】
エポキシ樹脂硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上のエポキシ樹脂硬化剤を併用する場合、その合計量が上記含有量の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0067】
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物中、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤との含有量の合計は、熱硬化性接着剤組成物(スチレン系エラストマーと、(A)成分と、(B)成分と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤)の総計100質量部に対して、10質量部以下であり、9質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよい。ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤との含有量の合計が10質量部以下であることにより、硬化後の熱硬化性接着剤組成物の誘電特性を良好にすることができる。
【0068】
また、熱硬化性接着剤組成物中のラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤との含有量の合計の下限値は、特に限定されず、例えば、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよい。
【0069】
以上のように、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、第1の態様として、スチレン系エラストマーが、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有しない場合、エポキシ樹脂硬化剤を含む。すなわち、第1の態様である熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として、(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を5~20質量部と、(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを4~10質量部と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含有し、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下であり、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である。
【0070】
また、本技術に係る熱硬化性接着剤組成物は、第2の態様として、スチレン系エラストマーが、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する官能基を有する場合、エポキシ樹脂硬化剤を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。すなわち、第2の態様である熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として、(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を5~20質量部と、(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを4~10質量部と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂とを少なくとも含有し、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂の含有量の合計が10質量部以下であり、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である。
【0071】
[他の成分]
熱硬化性接着剤組成物は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、有機溶剤、シランカップリング剤などの接着性付与剤、流動性調整や難燃性付与のためのフィラーなどが挙げられる。有機溶剤は、特に制限されないが、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族系溶剤、エステル系溶剤などが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、芳香族系溶剤、エステル系溶剤が好ましい。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
<熱硬化性接着シート>
本技術に係る熱硬化性接着シートは、基材上に、上述した熱硬化性接着剤組成物からなる熱硬化性接着層が形成されており、フィルム形状である。熱硬化性接着シートは、例えば、上述した熱硬化性接着剤組成物を溶剤で希釈し、乾燥後の厚さが10~60μmとなるように、バーコーター、ロールコーター等により、基材の少なくとも一方の面に塗布し、50~130℃程度の温度で乾燥させることで得られる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどの基材に、必要に応じてシリコーンなどで剥離処理がされた剥離基材を用いることができる。
【0073】
熱硬化性接着シートを構成する熱硬化性接着層の厚みは、目的に応じて適宜設定することができ、一例として、1~100μmとすることができ、1~30μmとすることもできる。
【0074】
熱硬化性接着シートを構成する熱硬化性接着層は、上述のように熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率も低く、熱硬化後も耐屈曲性及び耐熱性が良好な熱硬化性接着剤組成物からなるため、例えば、フレキシブルプリント配線板の層間接着剤や、フレキシブルプリント配線板の端子部と、その裏打ちするための接続用基材とを接着固定する用途に適用できる。また、熱硬化性接着シートは、硬化後の剥離強度や耐熱性、常温での保管性も良好である。
【0075】
<プリント配線板>
本技術に係るプリント配線板は、例えば、上述した熱硬化性接着剤組成物の硬化物(熱硬化性接着層)を介して、基材と配線パターンとを備える配線付基材の配線パターン側と、カバーレイとが積層されている。プリント配線板は、例えば、配線付基材の配線パターン側とカバーレイとの間に熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を配置し、熱圧着することで、配線付基材とカバーレイとを一体化することにより得られる。カバーレイは、配線付基材の配線パターンを保護するための絶縁体層である。
【0076】
配線付基材は、上述した接着剤組成物と同様に、高周波領域の電気特性が優れている、例えば、周波数1~10GHzの領域おいて、誘電率及び誘電正接が低いことが好ましい。基材の具体例としては、液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリエチレンナフタレ-トのいずれかを主成分とする基材が挙げられる。これらの基材の中でも、液晶ポリマーを主成分とする基材(液晶ポリマーフィルム)が好ましい。液晶ポリマーは、ポリイミドと比較して吸湿率が非常に低く、使用環境に左右されにくい。
【0077】
本技術に係る熱硬化性接着剤組成物を用いたプリント配線板の構成例について説明する。
図1に示すプリント配線板1は、液晶ポリマーフィルム2と銅箔(圧延銅箔)3とを備える配線付基材(銅張積層板:CCL)の銅箔3側と、液晶ポリマーフィルム4とが、上述した熱硬化性接着剤組成物(熱硬化性接着層)からなる硬化物層5を介して積層されている。
【0078】
また、プリント配線板は、例えば
図2に示すような多層構造であってもよい。
図2に示すプリント配線板6は、例えば、ポリイミド層7(厚み25μm)と銅箔8(厚み18μm)と銅めっき層9(厚み10μm)を備える配線付基材の銅メッキ層9側と、カバーレイ10(厚み25μm)とが、上述した熱硬化性接着剤組成物(熱硬化性接着層)からなる硬化物層5(厚み35μm)を介して積層されている(合計厚み201μm)。
【実施例】
【0079】
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
<スチレン系エラストマー>
タフテックH1221:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン比率12%)、旭化成社製
・タフテックM1911:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン比率30%)、旭化成社製
タフテックH1051:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン比率42%)、旭化成社製
タフテックH1043:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン比率67%)、旭化成社製
【0081】
<(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂>
OPE-2St2200:分子両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(Mn=2,200)、三菱ガス化学社製
SA9000:分子両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(Mw=1,700)、SABIC社製
【0082】
<(A’)分子末端にラジカル重合性基を有しない変性ポリフェニレンエーテル樹脂>
S201A:分子両末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂、旭化成社製
【0083】
<(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレン>
Ricon154:液状ポリブタジエン(Mw=15,000、Mn=5,200)、クレイバレー社製
LIR-30:液状ポリイソプレン(Mw=28,000)、クラレ社製
【0084】
<(B’)重量平均分子量が10,000未満又は50,000超であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレン>
LIR-50:液状ポリイソプレン(Mw=54,000)、クラレ社製
B-3000:液状ポリブタジエン(Mw=8,000、Mn=3,000)、日本曹達社製
【0085】
<ラジカル重合開始剤>
ジクミルパーオキサイド:(半減期が1分間となるための分解温度が175℃)
ジラウロイルパーオキサイド:(半減期が1分間となるための分解温度が116℃)
【0086】
<エポキシ樹脂>
JER828:エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製
4032D:ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC社製
【0087】
<エポキシ樹脂硬化剤>
ノバキュア3941:イミダゾール変性体を核としその表面をポリウレタンで被覆してなるマイクロカプセル型潜在性硬化剤、旭化成イーマテリアルズ社製
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(潜在性のないイミダゾール)
【0088】
<熱硬化性接着剤組成物の調製>
表1、2に示す各成分を、表1、2に示す質量となるように秤量し、トルエン及び酢酸エチルを含む有機溶剤中に均一に混合することにより、熱硬化性接着剤組成物(熱硬化性接着層形成用塗料)を調製した。なお、表1、2中、「(A)と(B)の関係」について、例えば、表1中の実施例1では、「(A)+(B)≦25」の欄に「満たす 24」と記載されているが、これは、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が24質量部であり、上述した式1を満たすことを意味する。また、表2中の比較例9では、「(A)+(B)≦25」の欄に「満たさず 30」と記載されているが、これは、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が30質量部であり、上述した式1を満たさないことを意味する。
【0089】
<熱硬化性シートの作製>
得られた熱硬化性接着剤組成物を、剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、40~130℃の乾燥炉中で乾燥することにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、厚さ25μmの熱硬化性接着層とを有する熱硬化性接着シートを作製した。
【0090】
<評価>
<熱硬化性接着層形成用塗料の塗布性(フィルム状態)の評価>
上述の熱硬化性接着シートの作製の際、熱硬化性接着剤組成物の塗布性について、以下の基準に従って評価した。結果を表1、2に示す。実用上、Aの評価であることが好ましい。
【0091】
A:熱硬化性接着剤組成物の相溶性が良好であり、フィルム状態で後述する評価を行うことが可能
B:熱硬化性接着剤組成物の相溶性が悪く、フィルム状態で後述する評価を行うことが不可能
【0092】
<誘電率(Dk)>
実施例及び比較例で作製した熱硬化性接着シート同士をラミネートし、厚さ1mmの試験片を作製した後、この試験片を、180℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この評価用試験片について、誘電率測定装置(AET社製)を用い、空洞共振摂動法により、測定温度23℃及び80℃、測定周波数10GHzにおける誘電率を求めた。誘電率は、以下の基準に従って評価した。結果を表1、2に示す。
【0093】
A:誘電率が2.30未満
B:誘電率が2.30以上、2.40未満
C:誘電率が2.40以上、2.60未満
D:誘電率が2.60以上
【0094】
実用上、誘電率の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
【0095】
<誘電正接(Df)>
上述した誘電率の測定と同様の方法で、評価用試験片について誘電正接を求めた。誘電正接は、以下の基準に従って評価した。結果を表1、2に示す。
【0096】
A:誘電正接が0.0020未満
B:誘電正接が0.0020以上、0.0030未満
C:誘電正接が0.0030以上、0.0050未満
D:誘電正接が0.0050以上
【0097】
実用上、誘電正接の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。すなわち、熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接が、23℃及び80℃において、共に0.0030未満であることが好ましく、共に0.0020未満であることがより好ましい。
【0098】
<誘電正接の変化率>
温度23℃の測定値に対する温度80℃の測定値の変化率(%)を求め、以下の基準に従って評価した。結果を表1、2に示す。
A:23℃~80℃間の変化率が30%未満
B:23℃~80℃間の変化率が30%以上、50%未満
C:23℃~80℃間の変化率が50%以上
【0099】
実用上、誘電正接の変化率の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。すなわち、熱硬化性接着剤組成物は、上述した式1で表される硬化後の誘電正接の変化率が50%未満を示すことが好ましく、30%未満を示すことがより好ましい。
【0100】
<剥離強度(ピール)>
得られた熱硬化性接着シートを所定の大きさの短冊(2cm×5cm)にカットし、そのカットした熱硬化性接着層を2cm×7cm×50μm厚の液晶ポリマーフィルムに100℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの銅張積層板(厚み12μmの圧延銅箔と厚み50μmの液晶ポリマーフィルムとからなるCCL)の圧延銅箔面(粗面化処理を行っていない面)を上から重ね合わせ、180℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させた。これにより、サンプルを作製した。
【0101】
得られたサンプルに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がす際に要した力(初期の剥離強度及び信頼性試験後の剥離強度)を測定した。結果を表1、2に示す。
【0102】
[初期(上述した180℃、1.0MPaの条件での熱硬化後にそのまま測定)]
A:剥離強度が8N/cm以上
B:剥離強度が6N/cm以上、8N/cm未満
C:剥離強度が4N/cm以上、6N/cm未満
D:剥離強度が4N/cm未満
【0103】
[信頼性試験後(85℃、相対湿度85%、240時間(すなわち、上述した180℃、1.0MPaの条件での熱硬化後に、85℃、相対湿度85%の環境に240時間投入し、取り出して3時間後に測定))]
A:剥離強度が7N/cm以上
B:剥離強度が5N/cm以上、7N/cm未満
C:剥離強度が3N/cm以上、5N/cm未満
D:剥離強度が3N/cm未満
【0104】
実用上、初期の剥離強度及び信頼性試験後の剥離強度の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
【0105】
<耐熱性(はんだ耐熱性)>
上述のサンプルを、温度288℃、10秒となるはんだフロート試験を3回通過させ、通過後のサンプルの外観を目視で確認し、剥離や膨れが発生していないかどうかを下記基準に従って評価した。結果を表1、2に示す。
【0106】
A:3回通過した後も異常なし
B:2回通過で異常なし、3回目で剥離や直径0.2mm以上の膨れ等の異常が発生
C:1回通過で異常なし、2回目で剥離や直径0.2mm以上の膨れ等の異常が発生
D:1回目で剥離や直径0.2mm以上の膨れ等の異常が発生
【0107】
実用上、耐熱性の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
【0108】
<耐屈曲性>
得られた熱硬化性接着シートを所定の大きさの短冊(1.5cm×12cm)にカットし、そのカットした熱硬化性接着層を1.5cm×12cm×50μm厚の液晶ポリマーフィルムに100℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、MIT耐屈試験用のFPC-TEG(Test Elementary Group)を重ね合わせ、180℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させて試験片を得た。MIT耐屈試験用のTEGの構成を
図3に示す。TEG11は、基材としての液晶ポリマーフィルム(厚み50μm)と、圧延銅箔(厚み12μm)とからなるCCLから銅配線を形成したものである。TEG11の銅配線上には、カバーレイ(図示せず)が貼り合わされている。
図3中、「130mm」はTEG11全体の長さであり、「120mm」はカバーレイ(熱硬化性接着層と液晶ポリマーフィルムとを貼り合わせたもの)の長さであり、「15mm」はTEG11全体の幅及びカバーレイの幅であり、「11mm」は銅配線間距離(外側)であり、「10mm」は銅配線間距離(内側)であり、銅配線幅が1mmである。MIT耐屈試験は、作製した試験片12を、
図4に示すように、プランジャー14と上部チャック15と回転チャック16と折曲コマ17とを備えるMIT耐折疲労試験機13にセットして行った。折り曲げ角度135°、折り曲げクランプ角度R=0.38、試験速度175cpmの条件で行った。銅配線が破断するまでの折り曲げ回数を確認した。結果を表1、2に示す。
【0109】
A:破断までの折り曲げ回数が1200回以上
B:破断までの折り曲げ回数が600回以上、1200回未満
C:破断までの折り曲げ回数が300回以上、600回未満
D:破断までの折り曲げ回数が300回未満
【0110】
実用上、耐屈曲性の評価は、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
【0111】
<ガラス転移温度の測定>
作製した熱硬化性接着シート同士をラミネートし、厚さ600μmの試験片を作製した後、この試験片を、180℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片について、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製)を用いて、10℃/分の速度で、-60℃から250℃まで昇温したときに現れるガラス転移温度を求めた。なお、共重合の高分子や、多数の成分の混合物の場合、複数のtanδピークが検出される場合があるが、その際は、より高い値を示すtanδピーク(弾性率の変化がより大きい方)の温度をガラス転移温度とした。結果を表1、2に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
実施例1~10のように、基板間を接合する熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として(A)成分を5~20質量部と、(B)成分を4~10質量部と、ラジカル重合開始剤及びエポキシ樹脂を含有し、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下であり、スチレン系エラストマーとしてスチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である熱硬化性接着剤組成物は、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率(23~80℃の誘電正接の温度変化率)も低く、耐屈曲性と耐熱性が良好であることが分かった。
【0115】
硬化後の誘電率及び誘電正接について、実施例1~10の熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接が、23℃及び80℃において、共に0.003未満であることが分かった。また、誘電正接の温度変化率について、実施例1~10の熱硬化性接着剤組成物は、式1で表される変化率が50%未満を示すことが分かった。
【0116】
また、実施例2と、その他の実施例の結果から、(A)成分と(B)成分との含有量が式2を満足する、すなわち(A)成分の含有量が(B)成分の含有量よりも多い熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接、並びに、誘電正接の温度変化率がより低い傾向にあることが分かった。具体的には、実施例1、3、5、6、7、9、10の熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接が、23℃及び80℃において、共に0.0020未満であり、式1で表される変化率が30%未満であることが分かった。
【0117】
また、例えば、実施例4と、その他の実施例の結果から、重量平均分子量が50,000超であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを(B)成分と併用しない熱硬化性接着剤組成物、換言すると、重量平均分子量が50,000超であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを含まない熱硬化性接着剤組成物は、硬化後の誘電正接と誘電正接の温度変化率がより低い傾向にあることが分かった。
【0118】
また、例えば、実施例5と、その他の実施例の結果から、重量平均分子量が10,000未満であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを(B)成分と併用しない熱硬化性接着剤組成物、換言すると、重量平均分子量が10,000超であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを含まない熱硬化性接着剤組成物は、剥離強度と耐屈曲性がより良好な傾向にあることが分かった。
【0119】
また、例えば、実施例7と、その他の実施例の結果から、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が42%未満(例えば12~30%)であるスチレン系エラストマーを含有する熱硬化性接着剤組成物は、誘電特性が良好であることに加えて、剥離強度と耐屈曲性がより良好な傾向にあることが分かった。
【0120】
また、例えば、実施例8と、その他の実施例の結果から、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、エポキシ樹脂の含有量が5質量部未満であることにより、硬化後の誘電正接と、誘電正接の温度変化率がより低い傾向にあることが分かった。
【0121】
比較例1の熱硬化性接着剤組成物は、(B)成分を含有しないため、誘電正接の温度変化率を抑制するのが困難であることが分かった。
【0122】
比較例2の熱硬化性接着剤組成物は、(B)成分を含有しないことに加えて、(A)成分の含有量が20質量部超であるため、誘電正接の温度変化率を抑制するのが困難であることが分かった。
【0123】
比較例3の熱硬化性接着剤組成物は、(B)成分を含有しない、換言すると、(B)成分を含有せず、(B’)重量平均分子量が50,000超であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンのみを含有するため、誘電正接の温度変化率を抑制するのが困難であることが分かった。
【0124】
比較例4の熱硬化性接着剤組成物は、(B)成分を含有しない、換言すると、(B)成分を含有せず、(B’)重量平均分子量が10,000未満であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンのみを含有するため、剥離強度と耐屈曲性が良好ではないことが分かった。
【0125】
比較例5の熱硬化性接着剤組成物は、(A)成分を含有しないため、誘電正接を低くするのが困難であることが分かった。
【0126】
比較例6の熱硬化性接着剤組成物は、(B)成分の含有量が10質量部超と多いため、剥離強度と耐屈曲性が良好ではないことが分かった。
【0127】
比較例7の熱硬化性接着剤組成物は、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有しないため、剥離強度と耐屈曲性が良好ではないことが分かった。
【0128】
比較例8の熱硬化性接着剤組成物は、ラジカル重合開始剤を含有しないため、80℃における誘電正接を低くするのが困難であり、誘電正接の温度変化率を抑制するのも困難であり、耐熱性も良好ではないことが分かった。
【0129】
比較例9の熱硬化性接着剤組成物は、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部超であるため、剥離強度と耐屈曲性が良好ではないことが分かった。
【0130】
比較例10の熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーの含有量が90質量部超と多いことにより、相対的に(A)成分及び(B)成分の含有量が少ないため、80℃における誘電正接を低くするのが困難であり、誘電正接の温度変化率を抑制するのも困難であり、耐熱性も良好ではないことが分かった。
【0131】
比較例11の熱硬化性接着剤組成物は、スチレン系エラストマーの含有量が65質量部未満と少ないことに加えて、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部超と多いため、誘電率及び誘電正接を低くするのが困難であり、誘電正接の温度変化率を抑制するのも困難であることが分かった。
【0132】
比較例12の熱硬化性接着剤組成物は、ラジカル重合開始剤とエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部超と多いため、誘電率及び誘電正接を低くするのが困難であり、誘電正接の温度変化率を抑制するのも困難であることが分かった。
【0133】
比較例13の熱硬化性接着剤組成物は、(A)成分を含有しない、換言すると、分子末端にラジカル重合性基ではなく、水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂を用いたため、フィルムの状態が悪く、評価(誘電率、誘電正接、剥離強度、誘電正接の温度変化率、耐熱性、耐屈曲性)を行うことができないことが分かった。
【符号の説明】
【0134】
1 プリント配線板、
2 液晶ポリマーフィルム、
3 銅箔、
4 液晶ポリマーフィルム、
5 接着剤組成物からなる硬化物層、
6 プリント配線板、
7 ポリイミド層、
8 銅箔、
9 銅メッキ層、
10 カバーレイ、
11 TEG、
12 試験片、
13 MIT耐折疲労試験機、
14 プランジャー、
15 上部チャック、
16 回転チャック、
17 折曲コマ
【要約】
【課題】熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、誘電正接の温度変化率も低く、耐屈曲性が良好な熱硬化性接着剤組成物の提供。
【解決手段】本技術は、基板間を接合する熱硬化性接着剤組成物であって、熱硬化性接着剤組成物の総計100質量部に対して、スチレン系エラストマーを65~90質量部と、架橋成分として、(A)分子末端にラジカル重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を5~20質量部と、(B)重量平均分子量が10,000~50,000であるポリブタジエン及び/又はポリイソプレンを4~10質量部と、ラジカル重合開始剤と、エポキシ樹脂とを含有し、ラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部以下であり、スチレン系エラストマーとして、スチレン比率が67%未満であるスチレン系エラストマーを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の合計が25質量部以下である。
【選択図】
図1