(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱調理装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/68 20060101AFI20241011BHJP
F24C 7/02 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
H05B6/68 350C
H05B6/68 320P
H05B6/68 370
F24C7/02 310
(21)【出願番号】P 2021535348
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028816
(87)【国際公開番号】W WO2021020374
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019140413
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】前田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】大森 義治
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 史太佳
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03324123(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/125146(WO,A1)
【文献】特開平07-078681(JP,A)
【文献】特表2001-510898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/48-11/00
F24C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
マイクロ波を発生するように構成されたマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記マイクロ波発生部に向かう反射電力を検出するように構成された反射電力検出部と、
前記マイクロ波発生部を制御するように構成された制御部と、
前記反射電力検出部により検出された前記反射電力の量を、前記加熱室に供給された前記マイクロ波の周波数と、加熱開始からの経過時間とともに記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行うように前記マイクロ波発生部を制御し、各周波数における前記反射電力に基づく値の時間的変化に基づいて、前記被加熱物が沸騰状態であると判定するように構成され
、前記制御部が、前記加熱室に液体の前記被加熱物が載置され、加熱を開始してから、所定の時間が経過後に、前記周波数掃引を行わせるように構成された、マイクロ波
加熱調理装置。
【請求項2】
前記マイクロ波発生部により発生される前記マイクロ波の入射電力を検出するように構成された入射電力検出部をさらに備え、
前記反射電力に基づく前記値として、前記入射電力に対する前記反射電力の割合が用いられる、請求項1
に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記反射電力に基づく前記値の所定の時間における分散の変化、または、分散の周波数平均の変化に基づいて、前記被加熱物が沸騰状態であると判定するように構成された、請求項1または2に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記反射電力に基づく前記値の所定の時間における標準偏差の変化、または、標準偏差の周波数平均の変化に基づいて、前記被加熱物が沸騰状態であると判定するように構成された、請求項1または2に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項5】
前記所定の時間が前記周波数掃引の2周期以上である、請求項3または4に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項6】
前記制御部が、少なくとも二つの周波数における前記変化が閾値を超えると、被加熱物が沸騰状態であると判定するように構成された、請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項7】
前記周波数掃引の帯域幅が30MHz以上である、請求項1に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項8】
前記周波数掃引における周波数の間隔が10MHz以下である、請求項1に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【請求項9】
前記制御部が、前記反射電力に基づく前記値の変化が、閾値を少なくとも2回超えると、前記被加熱物が沸騰状態であると判定するように構成された、請求項1に記載のマイクロ波
加熱調理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ波発生部を備えたマイクロ波加熱調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波処理装置において、反射波の量の経時変化に基づいて、被加熱物の沸騰状態を検知し、半導体発振器の発振周波数や発振出力などを変化させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
沸騰状態は、マイクロ波の反射波の量、または、マイクロ波の入射波の量に対する反射波の量の割合の変化の大きさに基づいて検知される。変化の大きさを表す指標として、絶対値に加え、平均値からの差および標準偏差が用いられる。沸騰を検知した時点でマイクロ波加熱を終了または抑制することにより、食品の精緻な温度制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された装置には、被加熱物の沸騰を精度良く検知するという点で未だ改善の余地がある。従って、本開示は、マイクロ波処理装置において、被加熱物の沸騰を精度良く検知することを目的とする。
【0006】
本開示の一態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波を発生するマイクロ波発生部と、マイクロ波を加熱室に供給する給電部と、マイクロ波発生部に向かう反射電力を検出する反射電力検出部と、マイクロ波発生部を制御する制御部と、記憶部とを備える。記憶部は、反射電力検出部により検出された反射電力の量を、加熱室に供給されたマイクロ波の周波数と、加熱開始からの経過時間とともに記憶する。
【0007】
制御部は、所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行うようにマイクロ波発生部を制御する。制御部は、各周波数における反射電力に基づく値の時間的変化に基づいて、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0008】
本態様のマイクロ波処理装置によれば、被加熱物の沸騰状態を精度良く検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施の形態における調理制御の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施の形態における反射電力の検出処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、反射電力の変化に基づく被加熱物の沸騰検知の概念図である。
【
図5A】
図5Aは、被加熱物の重量が1200gの場合における、被加熱物の温度と、入射波に対する反射波の割合に関する標準偏差の周波数平均との時間的変化を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、被加熱物の重量が400gの場合における、被加熱物の温度と、入射波に対する反射波の割合に関する標準偏差の周波数平均との時間的変化を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、被加熱物の重量が200gの場合における、被加熱物の温度と、入射波に対する反射波の割合に関する標準偏差の周波数平均との時間的変化を示す図である。
【
図6】
図6は、各周波数における10秒間隔の標準偏差の時間的変化を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1に記載のマイクロ波処理装置は、加熱室内に供給するマイクロ波の反射電力、および、入射電力に対する反射電力の割合の変化から被加熱物の沸騰状態を検知する。具体的には、沸騰検知には、上記の値の変化の絶対値、任意の時間当たりの平均値との差、または、標準偏差が用いられる。
【0011】
しかしながら、マイクロ波の周波数特性を考慮しないと、沸騰状態を精度よく検知することは困難である。その理由としては、沸騰などの被加熱物の状態変化に対して、反射電力の変化の度合いが周波数によって異なる。すなわち、液体の沸騰に対して反射電力の変化が大きい周波数と、変化が小さい周波数とがある。これらの周波数は、加熱室内のマイクロ波の定在波分布に大きく依存する。このため、被加熱物の種類、粘度、量、形状、置き位置、加熱室の形状などが大きく影響する。
【0012】
従って、一つの周波数または狭い帯域の周波数を用いて沸騰を検知するのは、様々な被加熱物に対する実際の加熱調理では難しい。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究した結果、周波数特性を考慮した反射電力の変化に基づいて、被加熱物の沸騰状態を精度よく検知することができる以下の発明に至った。
【0014】
本開示の第1の態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容する加熱室と、マイクロ波を発生するマイクロ波発生部と、マイクロ波を加熱室に供給する給電部と、マイクロ波発生部に向かう反射電力を検出する反射電力検出部と、マイクロ波発生部を制御する制御部と、記憶部とを備える。記憶部は、反射電力検出部により検出された反射電力の量を、加熱室に供給されたマイクロ波の周波数と、加熱開始からの経過時間とともに記憶する。
【0015】
制御部は、所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行うようにマイクロ波発生部を制御する。制御部は、各周波数における反射電力に基づく値の時間的変化に基づいて、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0016】
本開示の第2の態様のマイクロ波処理装置は、第1の態様に基づきながら、マイクロ波発生部により発生されるマイクロ波の入射電力を検出する入射電力検出部をさらに備える。反射電力に基づく値として、入射電力に対する反射電力の割合が用いられる。
【0017】
本開示の第3の態様のマイクロ波処理装置においては、第1または第2の態様に基づきながら、制御部は、反射電力に基づく値の所定の時間における分散の変化、または、分散の周波数平均の変化に基づいて、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0018】
本開示の第4の態様のマイクロ波処理装置においては、第1または第2の態様に基づきながら、制御部は、反射電力に基づく値の所定の時間における標準偏差の変化、または、標準偏差の周波数平均の変化に基づいて、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0019】
本開示の第5の態様のマイクロ波処理装置においては、第3または第4の態様に基づきながら、所定の時間は周波数掃引の2周期以上である。
【0020】
本開示の第6の態様のマイクロ波処理装置においては、第1から第4の態様のいずれかに基づきながら、制御部は、少なくとも二つの周波数における変化が閾値を超えると、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0021】
本開示の第7の態様のマイクロ波処理装置においては、第1から第6の態様のいずれかに基づきながら、周波数掃引の帯域幅は30MHz以上である。
【0022】
本開示の第8の態様のマイクロ波処理装置においては、第1から第7の態様のいずれかに基づきながら、周波数掃引における周波数の間隔は10MHz以下である。
【0023】
本開示の第9の態様のマイクロ波処理装置においては、第1から第8の態様のいずれかに基づきながら、制御部は、反射電力に基づく値の変化が、閾値を少なくとも2回超えると、被加熱物が沸騰状態であると判定する。
【0024】
本開示の第10の態様のマイクロ波処理装置においては、第1から第9の態様のいずれかに基づきながら、制御部は、加熱室に液体の被加熱物が載置され、加熱を開始してから、被加熱物の表面の揺れが収まる程度の時間が経過してから、マイクロ波発生部に周波数掃引を行わせる。
【0025】
以下、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係るマイクロ波処理装置の概略構成図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るマイクロ波処理装置は、加熱室1と、マイクロ波発生部3と、増幅部4と、給電部5と、検出部6と、制御部7と、記憶部8とを備える。
【0027】
加熱室1は、負荷である被加熱物2を収容する。マイクロ波発生部3は半導体発振器などで構成される。マイクロ波発生部3は、所定の周波数帯域における任意の周波数のマイクロ波を発生することができ、制御部7により選択された周波数のマイクロ波を発生する。
【0028】
増幅部4は半導体素子などで構成される。増幅部4は、マイクロ波発生部3により発生されたマイクロ波を制御部7の指示に応じて増幅し、所望の出力電力のマイクロ波を出力する。
【0029】
給電部5はアンテナで構成され、増幅部4により増幅されたマイクロ波を入射電力として加熱室1に供給する。入射電力のうち、被加熱物2などにより消費されない電力は、加熱室1から給電部5を介して増幅部4に戻ってくる反射電力となる。
【0030】
検出部6は例えば方向性結合器によって構成され、入射電力および反射電力を検出し、検出された入射電力、反射電力の量を制御部7に通知する。すなわち、検出部6は、入射電力検出部および反射電力検出部の両方として機能する。記憶部8はメモリなどで構成され、制御部7からのデータを記憶し、記憶したデータを読み出して制御部7に送信する。
【0031】
制御部7は、CPUが搭載されたマイクロコンピュータで構成される。制御部7は、検出部6および記憶部8からの情報に基づいて、マイクロ波発生部3および増幅部4を制御して、マイクロ波処理装置における調理制御を実行する。
【0032】
図2は、本実施の形態のマイクロ波処理装置における調理制御の流れを示すフローチャートである。使用者がマイクロ波処理装置に加熱調理の開始を指示すると(ステップS1)、まず制御部7は検出処理(ステップS2)を行う。
【0033】
図3は、検出処理(ステップS2)の詳細を示すフローチャートである。検出処理が開始される(ステップS11)と、マイクロ波発生部3は、所定の周波数帯域(例えば2.40GHz~2.50GHz)において所定の間隔で周波数を順に変化させながらマイクロ波を発生する(ステップS12)。以下、所定の周波数帯域にわたって所定の間隔で周波数を順に変化させる動作を周波数掃引という。
【0034】
マイクロ波発生部3は周波数掃引を行いながらマイクロ波を発生し、検出部6は周波数毎の反射電力を検出する。これにより、反射電力の周波数特性が得られる(ステップS13)。
【0035】
制御部7は、加熱室1に液体の被加熱物2が載置され、加熱を開始してから、被加熱物2の表面の揺れが収まる程度の時間(5~10秒)が経過してから、ステップS12における周波数掃引、および、ステップS13における反射電力の検出を行う。
【0036】
記憶部8は、ステップS13で得られた、各周波数における反射電力の量を、加熱室1に供給されたマイクロ波の周波数と、加熱開始からの経過時間とともに記憶する(ステップS14)。制御部7は、得られた反射電力の周波数特性に基づいて沸騰検知に使用する値を算出し、検出処理を終了する(ステップS15)。
【0037】
処理は
図2に戻り、マイクロ波加熱により被加熱物2を加熱する(ステップS3)。ステップS3における加熱処理では、マイクロ波加熱と、ヒータを用いたオーブン加熱もしくは輻射加熱、または、スチーム発生装置を用いたスチーム加熱とが併用されても良い。
【0038】
ステップS2で得られた、各周波数における反射電力に基づく値の時間的変化に基づいて、制御部7は、被加熱物2の沸騰状態を把握する(ステップS4)。終了判定(ステップS5)において、制御部7は、被加熱物2が沸騰状態か否かを判定する。制御部7は、被加熱物2が沸騰状態であると判定すると、加熱調理を終了する(ステップS6)。
【0039】
そうでなければ、制御部7は加熱調理を継続させ、必要に応じて新たな加熱条件を決定する(ステップS7)。制御部7は、調理開始から長時間経過したり、加熱条件が変ったりするなどにより、各周波数の反射電力の値を更新する必要があるかを判断する(ステップS8)。更新が必要であれば、処理は検出処理(ステップS2)に移行する。そうでなければ、処理は加熱処理(ステップS3)に移行する。
【0040】
図4は、反射電力の変化に基づいた、液体である被加熱物2の沸騰状態の把握処理(ステップS4)の概念図である。
図4に示すように、マイクロ波発生部3は、加熱室1に入射波としてのマイクロ波を供給する。このマイクロ波の一部は、被加熱物2(液体)に吸収され、残りのマイクロ波は被加熱物2に吸収されず、反射波となって給電部5に戻る。
【0041】
供給されるマイクロ波の周波数により、加熱室1内の定在波分布は変わる。このため、特定の周波数において、沸騰状態の液面の揺れ方により、被加熱物2に多くのマイクロ波が吸収される場合と、あまりマイクロ波が吸収されない場合とが生じる。従って、各周波数における反射電力に基づく値として、所定の時間における分散、標準偏差などの反射電力量のバラツキを算出する。液体が沸騰すると、分散、標準偏差などの反射電力の量のバラツキの値が大きくなるので、沸騰を検知することが可能となる。
【0042】
この所定の時間は、周波数掃引の2周期以上とするのが望ましい。制御部7は、少なくとも二つの周波数における変化が閾値を超えた場合に、被加熱物2が沸騰状態であると判定するのが望ましい。
【0043】
図5A~
図5Cは、被加熱物2であるポトフの加熱調理における、被加熱物2の温度と、入射電力に対する反射電力の割合に関する10秒間の標準偏差の周波数平均との時間的変化を示すグラフである。所定の時間における標準偏差の変化の代わりに、分散の変化または分散の周波数平均の変化を参照してもよい。
【0044】
実験では、光ファイバ温度計を被加熱物2の中に入れて被加熱物2の温度を測定する。マイクロ波発生部3は、2400MHzから2500MHzまで20m秒ごとに1MHzずつ周波数を変えながらマイクロ波を発生する。制御部7は、入射電力が200Wのマイクロ波加熱と、約2000Wのオーブン加熱とを250℃の温度設定で動作させる。
【0045】
図5A~
図5Cは、被加熱物2の重量が1200g、400g、200gの場合の実験結果をそれぞれ示す。各実験において、被加熱物2に含まれる水の重量と具材の重量は同じである。具材には人参、ジャガイモ、ウィンナソーセージが含まれ、それぞれの重量は同じである。
【0046】
図5A~
図5Cに示すように、被加熱物2の温度が100℃付近になると、標準偏差が大きく増加する。この際、被加熱物2が沸騰していることを目視確認することができる。
【0047】
上記実験では、顆粒のコンソメを加えて、水分の誘電率を高めている。しかし、コンソメを加えなくても、ほぼ同様の結果が得られることが確認されている。
【0048】
図5A~
図5Cの実験では、蓋をしたガラス製の容器を用いている。しかし、蓋をしていない容器を用いても、同様の結果を得ることができる。マイクロ波を透過しない、蓋のある金属製の容器を使用した場合でも、沸騰時に容器と蓋との間から加熱室1に放出される水蒸気、および、加熱室1の内壁に付着する水滴により、検出される反射電力の値が大きく変化する。これにより、被加熱物2が沸騰状態であることを検知することができる。なお、
図5A~
図5Cの実験において、同じ重量の容器が使われている。
【0049】
図5A~
図5Cにおいて、被加熱物2の重量が互いに異なっていても、沸騰状態を判定するための閾値として標準偏差(1.5×10
-3)を用いれば、同じ閾値を用いて被加熱物2の沸騰状態を検知することができる。
【0050】
本実施の形態では、実験中に計測される値(例えば標準偏差)が閾値を少なくとも2回超えると、被加熱物2が沸騰状態であると判定する。これにより、被加熱物2の沸騰状態を精度よく検知することができ、沸騰していないうちに加熱が停止するのを防止することができる。
【0051】
図6は、被加熱物2の重量が1200gの場合において、2400MHz~2500MHzの入射電力に対する反射電力の割合に関する10秒間の標準偏差の周波数平均の時間的変化を示す。
図6では、色が淡いほど標準偏差が大きいことを示している。
【0052】
図6に示すように、沸騰時の標準偏差が大きい(
図6において色が淡い)周波数領域が少なくとも約30MHz間隔で生じている。このため、周波数掃引の帯域幅を30MHz以上に設定することで、被加熱物2の沸騰検知における精度が向上する。
【0053】
本実験では、一般的な電子レンジで用いられる2400MHz~2500MHzのマイクロ波を用いる。加熱室1の縦、横、奥行きの寸法は、マイクロ波の波長に対して十分大きい300mm程度に設定される。
【0054】
さらに、
図6に示すように、入射電力に対する反射電力の割合に関する10秒間の標準偏差の周波数平均が大きい周波数帯域は10MHz以上であるので、周波数掃引における周波数の間隔を10MHz以下とすることで、被加熱物2の沸騰検知における精度が向上する。
【0055】
被加熱物2が沸騰状態であることを検知した時点で加熱を終了する場合もある。一方、被加熱物2がポトフである場合のように、一定時間沸騰させながら被加熱物2を煮込まなければならない場合もある。後者の場合、沸騰を検知した後、マイクロ波出力のオン/オフ制御により、沸騰状態を維持することができる。
【0056】
以上の通り、加熱室1からの反射電力の周波数特性の時間的変化に基づいて、沸騰状態を検知してマイクロ波発生部を含む種々の加熱手段を制御することができる。これにより、種々の被加熱物2に、適切な調理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示に係るマイクロ波処理装置は、食品を誘電加熱する加熱調理器の他、乾燥装置、陶芸用加熱装置、生ゴミ処理機、半導体製造装置、化学反応装置などの工業用途のマイクロ波加熱装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 加熱室
2 被加熱物
3 マイクロ波発生部
4 増幅部
5 給電部
6 検出部
7 制御部
8 記憶部