(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】マスキング液組成物、コーティング膜の製造方法、めっき方法、およびめっき品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20241011BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20241011BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241011BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241011BHJP
B05D 1/32 20060101ALI20241011BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C23C18/18
C25D5/02 D
B05D3/00 D
B05D7/24 302C
B05D7/24 302M
B05D7/24 301C
B05D1/32 A
B05D5/00 A
(21)【出願番号】P 2022120033
(22)【出願日】2022-07-27
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391001619
【氏名又は名称】長野県
(72)【発明者】
【氏名】永谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】飯島 和貴子
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-332889(JP,A)
【文献】特開2000-212758(JP,A)
【文献】特開2015-182072(JP,A)
【文献】特開2010-234234(JP,A)
【文献】特開2017-162962(JP,A)
【文献】特開2021-046614(JP,A)
【文献】特開2000-080480(JP,A)
【文献】特開2011-245658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/18
C25D 5/02
B05D 3/00
B05D 7/24
B05D 1/32
B05D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主成分とする水系溶媒に
寒天およびポリビニルアルコールの少なくとも一方の親水性ポリマーが0.01~10wt%の濃度で溶解しており、40~100℃の液温で塗布に使用されることを特徴とするマスキング液組成物。
【請求項2】
前記水系溶媒は、水であることを特徴とする請求項1に記載のマスキング液組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマスキング液組成物を用いたコーティング膜の形成方法であって、
前記マスキング液組成物を塗布してコーティング膜を形成した後、40~180℃の温度範囲で乾燥処理を行うことを特徴とするコーティング膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマスキング液組成物を用いて素材に部分的にめっき処理するめっき方法であって、
前記マスキング液組成物を用いてコーティング膜を形成する際、あるいは前記マスキング液組成物を用いてコーティング膜を形成した後、前記コーティング膜が存在しない非コーティング部を設け、その後、電気めっきもしくは無電解めっき処理を行うことにより前記非コーティング部にめっきすることを特徴とするめっき方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のマスキング液組成物を用いて部分的にめっき処理するめっき品の製造方法であって、
前記マスキング液組成物を導電性素材にコーティングした後、コーティング膜の一部を除去して前記コーティング膜の除去部を設け、その後、電気めっきもしくは無電解めっき処理を行うことによりで前記除去部にめっきすることを特徴とするめっき品の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のマスキング液組成物を用いて部分的にめっき処理するめっき品の製造方法であって、
前記マスキング液組成物を非導電性素材にコーティングした後、コーティング膜の一部を除去し、触媒化処理後、水を主成分とする水系溶媒によって前記コーティング膜を除去し、その後、触媒化処理された部分に無電解めっきを行うことを特徴とするめっき品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を使用しないマスキング液組成物、コーティング膜の製造方法、めっき方法、およびめっき品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
素材の一部分のみめっきするとき、めっきの不要部分はマスキングする方式がよく利用されている。
【0003】
テープを用いたマスキング方式を使用する時は、非めっき部分にテープを貼り、その後めっき処理を行うことで、テープ部以外に部分的なめっき処理をする手法である(特許文献1参照)。
【0004】
テープ以外のマスキング方式としては、レジストやインク塗料なども利用されている(特許文献2参照)。レジストを使用する方法の一例は、以下の通りである。未硬化のUV硬化型レジストを素材に塗布し、UV照射により非めっき部を硬化させる。その後現像液で未硬化部を除去し、その部分をめっきした後、最後に硬化部を剥離液で除去する。このとき使用する剥離液は、アミン系有機剥離剤や水酸化ナトリウムのような無機アルカリ水溶液等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-211070号公報
【文献】特開2016-204741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テープを用いたマスキング方式の場合、テープの貼付作業は作業員が行うことが多く、複雑な形状の素材には作業が困難である。作業性の点から素材自体にもある程度の大きさが必要である。小型部品など小さな素材へのマスキングでは、レジストやインク塗料などが用いられるが、これらはアミン系有機溶剤や無機アルカリ水溶液が使われていることが多く、耐溶剤性、アルカリ性が悪い材料には利用できない。さらに、環境負荷が大きいとともに作業環境が悪いという課題がある。アミン系剥離剤については、廃液処理が難しいことから中国などの法規制が厳格化してきており、使用が避けられる傾向にある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水系溶媒を用いた安全性の高いマスキング液組成物、コーティング膜の製造方法、めっき方法、およびめっき品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水を主成分とする水系溶媒に寒天およびポリビニルアルコールの少なくとも一方の親水性ポリマーが0.01~10wt%の濃度で溶解しており、40~100℃の液温で塗布に使用されることを特徴とする。本発明において、前記水系溶媒は、例えば、水である。
【0009】
本発明において、寒天もしくはポリビニルアルコールを水に溶解させたマスキング液組成物を素材に塗布することで、表面にコーティング膜を形成させる。寒天もしくはポリビニルアルコールはその分子構造に多くの水酸基を持つポリマーであり、温度が下がると分子鎖が網目状になり水を含んだ状態で固まる。このコーティング膜は乾燥すると水素結合でつながった耐水性の膜となるため、常温やぬるま湯には溶解しないが、それ以上の温度の水には溶解する。すなわち、お湯もしくは熱湯により分子鎖がほぐれることで容易に溶解する。本発明では、この性質をマスキングに利用する。
【0010】
上記のマスキング液組成物を用いて、導電性素材表面に部分的にめっきする方法は、例えば、
図1の工程図の通りである。(1)導電性素材にマスキング液組成物を塗布する。(2)乾燥させて表面にコーティング膜を作製する。(3)レーザー照射等によりめっきする部分のコーティング膜を除去する。(4-1)電気めっきもしくは無電解めっき処理を行うことで、コーティング膜除去部がめっきされる。(5)表面に残っているコーティング膜は、お湯もしくは熱湯に浸漬し除去することで部分めっきが可能になる。
【0011】
上記のマスキング液組成物を用いて、非導電性素材表面に部分的にめっきする方法は、
図1の工程図の通りである。(1)非導電性素材にマスキング液組成物を塗布する。(2)乾燥させて表面にコーティング膜を作製する。(3)レーザー照射等によりめっきする部分のコーティング膜を除去する。(4-2)触媒化処理により触媒を全面に付与する。(5)お湯もしくは熱湯に浸漬するとコーティング膜とコーティング膜に付着している触媒が除去され、めっきする部分のみ触媒が残る。(6)無電解めっき処理を行うことで、部分めっき処理が可能になる。めっき膜厚を大きくするため無電解めっき処理後に電気めっきを行ってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマスキング液組成物は溶媒に水を使用し、塗布することで素材表面にコーティング膜を形成する。さらにコーティング膜は高温水でのみ除去可能なため、環境負荷が小さく、作業性が良好で安全性が高く、コストを大幅に削減できる。耐有機溶剤性や耐アルカリ性の悪い材料への適用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のめっき品の製造方法の工程図である。
【
図2】実施例1により作製した部分めっき品の写真である。
【
図3】実施例2により作製した部分めっき品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を適用したマスキング液組成物は、水を主成分とする水系溶媒に1以上の親水性ポリマーが溶解している。水を主成分とする水系溶媒とは、水系溶媒における水の配合比が90%以上のことを意味する。また、親水性ポリマーは、寒天もしくはポリビニルアルコールが単体、もしくは混合して水に溶解しているものである。
【0015】
マスキング液組成物を使用する際の液温は40~100℃が好ましく、50~100℃がさらに好ましい。温度が高いほど均一な膜が作製可能である。
【0016】
なお、本特許における温度について、以下の通り定義する。室温とは10~30℃、ぬるま湯とは30~50℃、お湯とは50~80℃、熱湯とは80℃以上とする。
【0017】
マスキング液組成物中の寒天濃度は0.01~10.0wt%が好ましく、0.1~5.0wt%がなお好ましく、0.1~3.0wt%がさらに好ましい。それ以外の範囲だと、低濃度域では良好なコーティング膜が得られないことがあり、高濃度域ではマスキング液組成物の粘性が高く、コーティングしにくい。
【0018】
マスキング液組成物中の寒天の種類は特に限定されないが、お湯で溶解する低温寒天から熱湯で溶解する高温寒天まで使用可能である。なお、それらの寒天を混合してもよい。
【0019】
マスキング液組成物中のポリビニルアルコール濃度は0.01~10.0wt%が好ましく、0.1~5.0wt%がなお好ましく、0.1~3.0wt%がさらに好ましい。それ以外の範囲であると、低濃度域では良好なコーティング膜が得られず、高濃度域ではマスキング液組成物の粘性が高くコーティングできない。
【0020】
マスキング液組成物中のポリビニルアルコールのけん化度は、コーティング膜の耐水性を向上させるため、けん化度86%以上のものが好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。けん化度の異なるポリビニルアルコールを混合してもよい。分子量は特に限定されない。
【0021】
マスキング液組成物の粘度調整、素材との付着性、濡れ性を目的として、増粘多糖類、界面活性剤、粘度調整剤を添加することもできる。増粘多糖類としては、特に限定されないが、アラビアガム、キサンタンガム、カラギナン、ペクチン等が挙げられる。界面活性剤としては、特に限定されないが、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。粘度調整剤としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシセルロース誘導体、などが挙げられる。
【0022】
マスキング液組成物を素材に塗布する方法は、特に限定するものではなく、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、はけ塗りなど公知の手法が適用できる。
【0023】
マスキング液組成物を素材に塗布する前に、素材表面を改質し液の濡れ性を上げてもよい。改質方法としては、特に限定するものではなく、酸、アルカリ、有機溶剤への浸漬、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、UV改質処理など公知の手法が適用できる。
【0024】
塗布後に形成されたコーティング膜の乾燥温度は、特に限定されないが、コーティング膜の耐水性を向上させるため室温~180℃が好ましく、室温~160℃がなお好ましい。
【0025】
コーティング膜の除去方法は、50~100℃の水が好ましく、80℃~100℃がさらに好ましい。それ以外の温度だと完全に除去できない。なお、その後の工程によってはコーティング膜を除去せずに使用してもよい。
【0026】
コーティング膜の一部を除去する方法は、特に限定されないが、微少領域や微細配線形成するためにはレーザー照射による除去が好ましい。レーザーの種類については特に限定されない。
【0027】
導電性素材への電気めっきでは、使用するめっき浴は、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル、銅、スズ、亜鉛、クロム、銀、金などの電気めっきが挙げられる。
【0028】
非導電性素材への無電解めっきでは、使用するめっき浴は、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル、銅、スズ、銀、金などの無電解めっきが挙げられる。
【0029】
コーティング膜はめっきに限定されるものではなく、防錆処理や変色防止のためのコーティングや塗装用マスキングコート、部分陽極酸化処理などにも利用可能である。
【実施例】
【0030】
次に、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
図2は、本発明の実施例1により作製した部分めっき品の写真である。本実施例では、加温した蒸留水にポリビニルアルコール(けん化度100%)を2wt%溶解し、マスキング液組成物を調製する。次に、導電性素材の一例としての銅板をマスキング液組成物に浸漬、引上げ、コーティング膜を作製し、温度が160℃で乾燥させた。ファイバーレーザーをパルス照射し、コーティング膜の一部を除去した後、電気ニッケルめっきを行った。電気めっき後、80℃のお湯に浸漬し、コーティング膜を除去したところ、
図2の通り、ファイバーレーザーでコーティング膜を除去した除去部のみニッケルめっきされていた。アミン系有機溶剤や無機アルカリ水溶液不使用でコーティング膜が除去できることを確認した。また、直径約70μmで微小領域にめっきされていることを確認した。
【0032】
(実施例2)
図3は、本発明の実施例2により作製した部分めっき品の写真である。本実施例では、沸騰した蒸留水に寒天を2wt%溶解し、マスキング液組成物を調製する。次に、非導電性素材の一例としてのABS樹脂をマスキング液組成物に浸漬、引上げ、コーティング膜を作成し、室温で乾燥させた。ファイバーレーザーでコーティング膜の一部を除去し、表面にパラジウム付与し、表面触媒化処理を行った。次に、温度が80℃のお湯に浸漬し、コーティング膜を除去したのち、触媒化処理を行った部分に無電解銅めっきを行った。めっき品を
図3に示す。ファイバーレーザーでコーティング膜を除去した箇所のみ無電解めっきされていることを確認した。アミン系有機溶剤や無機アルカリ水溶液不使用でコーティング膜が除去できることを確認した。また、線幅は約130μmで微小領域にめっきされていることを確認した。
【0033】
実施例1、2では、マスキング液組成物を用いてコーティング膜を形成した後、コーティング膜の一部を除去して、コーティング膜が存在しない非コーティング部(除去部)を設けたが、マスキング液組成物を用いてコーティング膜を形成する際、非コーティング部を設けてもよい。