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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】作業車両システム及び作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01D 34/86 20060101AFI20241011BHJP
   A01D 75/28 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
A01D34/86
A01D75/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021027820
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022129211
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】521081115
【氏名又は名称】株式会社エース
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】弁理士法人プロテクトスタンス
(72)【発明者】
【氏名】淺野 和人
(72)【発明者】
【氏名】西村 修
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101305661(CN,A)
【文献】特開2019-201560(JP,A)
【文献】特開2015-167492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/86
A01D 75/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ体の巻き取りおよび繰り出しを行うリールを有し、斜面又は壁面の上部に配置される、1つのみのリール部と、
作業する作業部を有する車体と、
前記車体に取り付けられ、前記ロープ体に摩擦力を与えて引っ張るスプール部と、
前記車体に取り付けられ、前記スプール部の右側及び左側に配置され、前記ロープ体と接する回転ピン又はガイドピンと、
を備える、作業車両システム。
【請求項2】
前記スプール部は第1スプール及び該第1スプールとは異なる第2スプールを有し、
前記ロープ体が前記第1スプール及び前記第2スプールにそれぞれ摩擦力を与えて引かれる、
請求項1に記載の作業車両システム。
【請求項3】
前記第1スプールは前記車体に固定され、前記第2スプールは前記車体に着脱可能な機構を有し、
前記第2スプールが前記車体から取り外されている際に前記ロープ体が前記第1スプールに配置された後、前記第2スプールが前記車体に装着される、
請求項2に記載の作業車両システム。
【請求項4】
前記斜面の上部で前記リール部に対になる位置に配置され、前記ロープ体を支持する支持体を備える、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の作業車両システム。
【請求項5】
前記リール部は第1リールと該第1リールとは異なる第2リールとを有し、
前記支持体は、滑車を有し、
前記ロープ体は、前記第1リールから前記スプール部を通り前記滑車で折り返され、折り返された前記ロープ体は再び前記スプール部を通って前記第2リールに戻る、
請求項4に記載の作業車両システム。
【請求項6】
前記車体に取り付けられ、前記ロープ体の破断を検知する検知部を有する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の作業車両システム。
【請求項7】
前記車体は、前記車体に対して自由な方向に向く車輪を有する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の作業車両システム。
【請求項8】
前記回転ピン又は前記ガイドピンの位置調整可能である
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の作業車両システム。
【請求項9】
斜面又は壁面で草刈りもしくは清掃の作業する作業車両であって、
底面を有するとともに、草刈りもしくは清掃作業する作業部を底面又は一端側に有する車体と、
前記作業部の反対側の他端側の前記車体に設けられ、前記底面の法線方向に伸びる回転軸を軸に回転してロープ体に摩擦力を与えて引っ張るスプール部と、
前記スプール部の右側及び左側において、前記ロープ体と接し前記底面の法線方向に伸びる回転ピン又はガイドピンと、
前記底面に前記車体に対して自由な方向に向く車輪と、を備える、作業車両。
【請求項10】
前記スプール部は第1スプール及び該第1スプールとは異なる第2スプールを有し、
前記ロープ体が前記第1スプール及び前記第2スプールにそれぞれ摩擦力を与えて引かれる、請求項9に記載の作業車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面又は壁面等で草刈りもしくは清掃等の作業を行う作業車両システム及び作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地の草刈り等又は建築物もしくは太陽光パネル・大型船舶等の屋根・窓もしくは壁の清掃等は危険を伴う重労働であり管理作業の担い手が不足しつつある。そのため、斜面の草刈りをするための草刈用の作業車両又は屋根の清掃用の作業車両が開発されている。傾斜地における草刈り作業を行う草刈装置として例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。傾斜屋根の清掃装置として例えば特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載された作業車両では、斜面から車両が滑落することを防止するため、斜面に2本の固定アンカーを打ってワイヤを張り、そのワイヤに係合するワイヤで車体を支えている。引用文献2に記載された作業車両では、斜面から車両が滑落することを防止するため、屋根の最も高い位置から作業者が一本の長尺片を持って支えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-123807号公報
【文献】特開2017-190631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された作業車両では、車両の位置と走行速度とに合わせて、ワイヤの繰り出し量及び張力等を調整しなければならず、また車体を走行させる走行用のモータの制御とを行うため、装置構成が複雑となるととともに車両重量が重くなる問題があった。また、特許文献2に記載された作業車両では、作業者が作業車両を支えきれなくなったら、作業車両が滑落してしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、簡易な構造により斜面又は壁面等で作業を行うことができる作業車両システムを提供する。
【0007】
本実施形態の作業車両システムは、ロープ体の巻き取りおよび繰り出しを行うリールを有し斜面又は壁面の上部で支持されるリール部と、作業する作業部を有する車体と、車体に取り付けられ、ロープ体に摩擦力を与えて引っ張るスプール部と、を備える。
【0008】
またスプール部は第1スプールとは異なる第2スプールを有し、ロープ体が第1スプール及び第2スプールにそれぞれ摩擦力を与えて引かれる仕組みとしてもよい。第1スプールは車体に固定され、第2スプールは車体に着脱可能な機構を有し、
ロープ体の取り付けの際には、第2スプールが車体から取り外されている際にロープ体が第1スプールに配置された後、第2スプールが車体に装着されることが好ましい。本実施形態の作業車両システムは、さらに斜面の上部でリール部に対になる位置に配置されロープ体を支持する支持体を備えることが好ましい。
【0009】
本実施形態のリール部は、第1リールと該第1リールとは異なる第2リールとを有し、支持体は、滑車を有することが好ましい。またその場合は、ロープ体は、第1リールからスプール部を通り滑車で折り返され、折り返されたロープ体は再びスプール部を通って第2リールに戻るようにすることが好ましい。
また、車体に取り付けられ、ロープ体の破断を検知する検知部を有してもよい。また車体は、車体に対して自由な方向に向く車輪を有してもよい。さらに車体は、車体の進行方向側のロープ体と接する回転ピン又はガイドピンを有し、回転ピン又はガイドピンの位置を調整できることが好ましい。
【0010】
本実施形態の作業車両は、作業する作業部を底面又は一端側に有し、底面を有する車体と、作業部の反対側の他端側の車体に、ロープ体に摩擦力を与えて引っ張るスプール部と、底面に車体に対して自由な方向に向く車輪と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の作業車両システムは、簡易な構造で斜面又は壁面で作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】作業車両システムの使用状態を示した斜視図である。
図2】斜面SLで作業車両10が移動する経路を示した第1例である。
図3】(A)は斜面SLで作業車両10が移動する経路を示した第2例であり、(B)はその第3例である。
図4】(A)は作業車両の傾きについて説明した図である。(B)は図2の斜面SLの両側に軌道外の領域MMに対して作業する状態を示した図である。
図5】(A)はスプール12の実施例1である。(B1)及び(B2)はスプール12の実施例2である。
図6】(A1)及び(A2)はスプール12の実施例3である。
図7】ロープ体を複線化した際のリール部20と支持体30との構造示した図である。
図8】複線化したロープ体用のスプール部12の構造を示した側面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態を、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また各図面では部材を強調するため実際の寸法通りに描かれていない。
【0014】
<<作業車両システムの概要>>
図1は、本実施形態の作業車両システムの使用状態を示した一例である。作業車両システムは、斜面SLで作業をする作業車両10と、作業車両に所定長さのロープ体RPを巻き取り及び繰り出すリール部20と、ロープ体RPを支持する支持体30とを有する。斜面SLとは、例えば、水田に設けられた畦畔部、造成地の法面、堤防の法面、高速道路の法面、傾斜屋根、大型船舶などの船側、太陽光パネルの面、ビルの壁等であってもよい。これら斜面SLは、例えば、平面PLに対して勾配θが急勾配の斜面であっても90度の壁面であってもよく、緩やかな斜面であってもよい。なお、以下の実施形態では壁面ではなく斜面を前提とした例示を示す。作業車両システムは特に勾配θが急勾配の斜面で能力を発揮しやすい。なお図1では、リール部20及び支持体30が平面PLに垂直に埋めて配置されている。しかしリール部20及び支持体30は斜面SLに配置されていてもよいし、一方が斜面SLに、他方が平面PLに配置されていてもよく、レールなどの埋設により位置可変としてもよい。
【0015】
作業車両10は、車体11にロープ体RPが接するスプール部12を有し、このスプール部12を正回転・逆回転させる駆動モータ又はエンジン13を有している。本実施形態では、スプール部12が車体11の内部に配置されているため、車体11にはロープ体RPが通る大きな開口14が開けられ、その開口14にロープ体RPをガイドする円柱状のガイドピン17が配置されている。円柱状のガイドピン17及び大きな開口14の代わりに、ロープ体RPが入る開口部を車体11に2つ設けても良い。2本のガイドピン17から等距離にある上下方向の直線に、スプール部12の回転軸が配置されることが好ましい。
【0016】
駆動モータ13には、例えば、エンコーダ(不図示)が設けられていてもよく、エンコーダは、駆動モータ13のシャフトの回転量を検出する。スプール部12と駆動モータ13との間には、減速機が設けられていてもよい。また車体11内には、スプール部12を制御するための車体制御部15を有している。エンコーダの検出値は、車体制御部15に出力されロープ体のRPの引かれる量を検出する。車体制御部15には、外部端末90(タブレット、スマートフォン等)及びリール制御部25と通信する通信部(不図示)を含んでも良く又は通信部の代わりに有線を使っても良い。通信部は、例えば、無線LAN又はBluetooth(登録商標)等であってよく、車体制御部15および通信部は、例えば、コンピュータ制御により実現される。
【0017】
車体11は金属又は強化プラスチック等で構成され、車体11は箱型の形状に限られず多角柱状もしくは円柱形状などでもよい。この車体の底面には例えば4つの車輪18を有しており、車輪18はそれぞれが独立して車体11に対して自由な方向に向くことができる。車輪18は、一般に直径が大きい方が好ましい。基本的に車体11には車輪18を駆動する駆動モータ等はなく、作業車両10は、ロープ体RPを引っ張るリール部20及びスプール部12で、斜面SLに対して移動することができる。
【0018】
車体11は草刈り又は清掃等する作業部19を有している。本実施形態では、作業部19は草刈り作業として説明する。作業部19は、草刈りを行うためのカッター刃(不図示)を有しており、そのカッター刃は車体11の底面下もしくはスプール部12の配置とは反対側の車体11の外側に配置されることが好ましい。カッター刃は、例えば、丸ノコ歯、金属製のブレード、樹脂製のコード等が用いられる。カッター刃の回転数は、スプール12の回転に合わせて車体制御部15で制御されてもよい。また作業車両10の重心は、車両11の法線方向からみて作業部19からスプール部12までを結ぶ直線状にあることが好ましい。
【0019】
車体11は、その他、駆動モータ13及び作業部19に電源を供給するための電源部を載置している。電源部40は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などの二次電池である。車体11に載置される二次電池の代わりに、作業車両10の外部から有線により各装置に電源を供給するものであってもよい。駆動モータ13がガソリンエンジンの場合や作業部19がガソリンエンジンで動作する場合には、電源部の代わりに燃料タンクを有していてもよい。
【0020】
リール部20は、リール部20を固定する金属製等の可搬式の杭部21と、この杭部21にロープ体RPを巻き取り及び繰り出すリール22と、リール22を回転駆動する回転モータ23と、回転モータ23を制御するリール制御部25とを備える。リール22と回転モータ23のシャフト(不図示)とは同心に連結されていることが好ましい。回転モータ23には、エンコーダ(不図示)が設けられていてもよく、エンコーダは、回転モータ23のシャフトの回転量を検出する。リール22と回転モータ23との間には、減速機が設けられていてもよい。作業開始前には、リール22は例えば10-50mのロープ体RPが巻き取られている。リール制御部25は、リール22を負荷ゼロ(フリー)状態にして作業者がロープ体RPを自由に引き出せるようにしたり、ロープ体RPにテンションがかかった状態で0.5m繰り出したりするよう制御することができる。リール制御部25は、外部装置及び車体制御部15と通信する通信部(不図示)を含んでも良い。
【0021】
支持体30は、リール部20から所定の間隔、例えば30m離れて設置されている。支持体30は金属製の可搬式の杭部31とロープ体RPを留めるアイボルト36とを有している。アイボルト36の代わりにスナップフック等の締結具でもよい。なお、支持体30にアイボルト36が無い場合には、ロープ体RPを杭部31に縛り付けてもよい。また支持体30の代わりに、斜面SLの頂上付近にある建築物の一部、ガードレール、樹木、その他の構造物を利用してもよい。可搬式の杭部21及び可搬式の杭部31は、おもりを載せる領域が設けられたものであるが、別例として杭部21及び杭部31は地面に打ち込む杭であってもよい。
【0022】
ロープ体RPは、例えば、金属線が編まれたワイヤ、天然素材、合成繊維、複合素材、樹脂製の素材等で編まれた紐や綱、金属チェーン、ゴムあるいは樹脂で成形されたロープ体であってもよい。またワイヤ等の外周にポリウレタン等の高摩擦の被膜を付けたロープであってもよい。ロープ体RPはスプール部12と摩擦力が生じる方が好ましいので、ロープ体RPの表面には凹凸があり直径は大きい方が好ましく、ロープ体RPの直径は例えばΦ2mmからΦ20mmである。
【0023】
<<作業車両システムのセッティング>>
まず、リール部20と支持体30とが所定の間隔、例えば30m、離されて斜面SLの頂上付近もしくは平面PLに固定される。そしてロープ体RPの一端がリール22から引き出され、作業車両10のガイドピン17を介してスプール部12を回るように引き回される。その後ロープ体RPの一端がガイドピン17を介して支持体30のアイボルト36にロープ体RPの一端が留められる。リール22から引き出されたロープ体RPの長さは、ほぼ30m強である。これで作業車両システムのセッティングが終了する。なお、ロープ体RPとスプール部12との接する面積を増やして摩擦力を上げるため、スプール部12にロープ体RPが1回以上巻かれるようにしてもよい。
【0024】
<<作業車両システムによる作業>>
次に作業車両10の動作原理について説明する。図2及び図3は、斜面SLで作業車両10が移動する軌道を示した図である。図2及び図3において、リール部20と支持体30との間隔L=30m、斜面の幅W=4m、作業部19が草刈り作業でカッター刃の直径ΦD=0.5mである前提で説明する。作業車両10は右端(リール部20側)もしくは左端(支持体30側)のいずれからも作業開始して良いが、図2及び図3では右側から作業開始する例を示す。また作業によっては任意の場所からスタートして良い。また点線はロープ体RPを示し、実線LCは作業車両10の軌道、より正確には2本のガイドピン17の中間位置の軌道、を示している。また図3では斜面SLの両側に簡易制御時の軌道外の領域MMが描かれている。
【0025】
<第1例>
図2では、斜面SLにおいて、リール部20と支持体30とが30m離されており、ロープ体RPがリールから30m強繰り出されている。まず一番上に作業車両10がある状態(作業車両10Aで示す。)を説明する。なお、通常は、草の刈り残しがでないようにカッター刃の直径ΦD=0.5mを考慮してリール部20からロープ体RPを繰り出すが、理解を助けるため、作業車両10Fの軌跡LCの次に2m下の作業車両10Gの軌跡LCに移動する前提で説明する。
【0026】
まず作業者は外部端末90でリール部20から支持体30までの距離及び斜面の幅を入力する。その距離は車体制御部15及びリール制御部25に通信される。
【0027】
スプール部12が回転することにより、図2の左端から作業車両10Aが移動する。作業車両10Aの軌跡LCはロープRPの繰り出した方向と一致する。作業車両10Aが移動している際には、作業部19のカッター刃が回転し、50cm幅で斜面SLの草を草刈りする。そして図2の右端に作業車両10Aが到達する。作業車両10Aが右端に到達したことは、駆動モータ13のエンコーダによる検出量、接触スイッチもしくは車体制御部15のタイマー(時間*スプール部の回転数)等で検出する。
【0028】
その後、回転モータ23が回転しリール22からロープ体RPを2.07m繰り出すとともに、スプール部12が回転してロ-プ体RPを0.07m左側に引っ張る。すると、自由に動く車輪18に乗った作業車両10は、作業車両10の自重により斜面SLを2.0m降りる。この作業車両10を作業車両10Bで示す。なお、10Gの縦位置は説明のため、下方向にずらしている。このときロープ体RP1の長さは2.0mで、ロープ体RP2の長さは30.07mである。そしてリール22からロープ体RPが巻き取られるとともにスプール部12が回転することにより、図3の右端から中央側へ作業車両10Bが移動する。作業車両10Bが左右の中央に移動したときは、ロープ体RP3及びRP4の長さはそれぞれ16.03mである。作業車両10Bが中央から左側に移動するきは、リール22にロープ体RPが繰り出されるとともにスプール部12が回転することにより、作業車両10Bが中央から左端に移動する。
【0029】
リール制御部25は、リール部20から支持体30までの距離と、作業車体10のスプール部12の右側のロープ体(RP1又はRP3)の長さと、左側のロープ体(RP2又はRP4)の長さとを三角関数の計算式に当てはめて、ロープ体RPの巻き取り量及び繰り出し量を計算する。その計算結果に基づいてリール22からロープ体RPを巻き取ったり繰り出したりする。また基本的に車体制御部15は、スプール部12を一定速度で回転させてロープ体RPを引っ張る。車体制御部15及びリール制御部25は、ともに駆動モータ15のエンコーダ及び回転モータ25のエンコーダの検出結果に基づいて、ロープ体RPの繰り出し量及び引かれる量をフィードバック制御することが好ましい。
【0030】
<第2例>
図3(A)に示される第2例は、作業車両10の軌跡LCが、リール部20と支持体30とを結ぶ直線に平行ではない点、第1例と異なる。
斜面SLにおいて、リール部20と支持体30とが30m離されており、ロープ体RPがリールから当該距離分30m繰り出されている。まず一番上に作業車両10がある状態(作業車両10Cで示す。)を説明する。一番上の作業車両10Cがスプール部12の回転により、図3の右端から草刈りしながら移動する。作業車両10Cの軌跡LCはロープRPの繰り出した方向と一致する。そして図3(A)の左端に作業車両10Aが到達する。作業車両10Cが左端に到達したことは、駆動モータ13のエンコーダによる検出量、接触スイッチもしくは車体制御部15のタイマー(時間*スプール部の回転数)等で、検出する。
【0031】
左端に作業車両10Aが到達したことは、作業車両10の通信部からリール部20の通信部に送信される。すると、回転モータ23が回転しリール22からロープ体RPを例えば2cm繰り出す。すると、自由に動く車輪18に乗った作業車両10は、作業車両10の自重により斜面SLを降りる。その後、作業車両10は、スプール部12が回転することにより、図2(A)の左端から右側へ作業車両10が移動し、カッター刃が回転することで、50cm幅で斜面SLの草を草刈りする。作業車両10の最下点においても1回目(右から左)の草刈り幅と2回目(左から右)の草刈り幅は一部が重なるようにすることで、刈り残しをなくすことができる。
【0032】
再び右端に作業車両10が到達すると、回転モータ23が回転しリール22からロープ体RPをさらに4cmほど繰り出し、作業車両10は斜面SLを降りる。その後、作業車両10は、スプール部12が回転することにより、右端から左側へ作業車両10が移動し、カッター刃が回転することで、50cm幅で斜面SLの草を草刈りする。作業車両10の最下点においても2回目(左から右)の草刈り幅と3回目(右から左)の草刈り幅は一部が重なるようにすることで刈り残しはなくなる。このような動きをしばらく続ける。
【0033】
作業車両10Dは、斜面SLの幅W=4mの最下端に到達した状態を示し、その軌道LDを示している。作業車両10Aの状態からロープ体RPを1.05m繰り出した状態である。なお、作業車両10Cが斜面SLを草刈りしても、最下端の両側には未だ草が刈り取られていない領域がある(軌道外の領域MMを除く)。ここで作業が中断すると軌道外の領域MMを含めて一部草が刈り取られない領域ができる。しかしながら、図2で示した作業車両10の軌跡の制御で、草を刈り取ることができる。また外部端末90で作業者がスプール部12とリール22とを操作してもよい。
【0034】
<第3例>
図3(B)に示される第3例は、支持体30が木であり、リール部20と支持体30とが異なる高さに配置されている点が、第2例と異なる。それ以外は第2例と同じであるので説明を割愛する。
【0035】
以上のように、第1例から第3例まで示したが、リール部20と支持体30とが異なる高さに配置されている第3例を、第1例でも適用できる。
【0036】
<<軌道外の領域MMでの作業について>>
図2及び図3において、すべての作業車両10の作業部19は、紙面の下に向いて描かれているが、実際には、ロープ体RPの長さ等によって作業車両10の重心位置により作業車両10は傾く。
【0037】
図4(A)は、作業車両10が傾いた状態(θ1=約35度)を示した図である。作業車両10は、所定の長さのロープ体RPをスプール部12で引っ張るので、作業車両10の右側のロープ体RP5と左側のロープ体RP6との長さが異なる(中央位置以外)。ロープ体RP5及びRP6の長さは、作業車両10の左右のガイドピン17が起点となる。
【0038】
図4(A)において作業車両10の中心線CAが描かれている。左右のガイドピン17の中央にあるスプール部12から作業部19に至る直線上(車両の法線方向からみて)に、作業車両10の重心CGがある。右への移動時(進行方向)には、右のガイドピン17に作業車両10がぶら下がる格好となるため、重心CGは、常に右のガイドピン17の直下に位置するように移動しようとする。これにより、作業車両の角度の傾きを任意に定めることができる。なお、作業車両10はガイドピン17の位置を矢印に示すように左右調整できるようにすることが好ましく、重心位置CGが調整後ガイドピンの直下に来る性質を利用することで、作業車両10の傾きを調整することができる。なお、作業部19の位置や作業車両10の構成部品の位置を変えることにより、重心位置や作業部19の届く範囲を変えても良い。
【0039】
図4(B)は、図3(A)で示した第2例において、軌道外の領域MMを作業車両10で作業する状態を示している。図4(B)の右側は、作業車両10がθ1傾いており、作業部19が軌道外の領域MMのすべての草に対して草刈りできる状態を示している。図4(B)の左側は、重心CGがかなり下側にある場合で、作業車両10の傾きθ1が小さく作業部19が軌道外の領域MMのすべての草に対して草刈りできない状態を示している。このため、第2例のように作業車両10を移動させる際には、ガイドピン17の位置を変更できるようにすることが好ましい。
【0040】
なお、図4(B)の左側のように、作業車両10の傾きθ1が小さい場合であっても、図2に示された軌跡の制御又は作業者が外部端末90を使って、図2に示したように、ロープ体RPの長さとスプール部12の引っぱり量を調整すれば、軌道外の領域MMのすべての草を草刈りできる。これらの情報は車体制御部15及びリール制御部25に通信される。また作業車両10の重心CGが、左右のガイドピン17の中央から作業部19に至る直線上にない場合には、左右の傾きθ1が異なることになる。このような場合でも、作業者が外部端末90を使って、ロープ体RPの長さとスプール部12の引っぱり量を調整すれば良い。
【0041】
<<スプール部の詳細>>
次に図5及び図6を使って、作業車両10のスプール部12の複数の実施例を説明する。斜面SLで作業車両10が移動する軌道を示した図である。
【0042】
<実施例1>
実施例1は、図5(A)に示されるように1つの第1スプール12Aと2つのガイドピン17とからなるスプール部である。第1スプール12Aは、金属又は樹脂製の回転軸121と金属又は樹脂製の円柱板122と摩擦帯123とからなる。回転軸121と円柱板122との間にはベアリング等が入っていても良い。摩擦帯123はロープ体RPとの摩擦力を増すために形成されることが好ましく、例えば摩擦帯123はウレタンゴム等の樹脂で構成されることが好ましい。第1スプール12Aの直径は摩擦力を増すため車体11に入る範囲でできるだけ大きい方が好ましい。図5(A)に示されるように、ロープ体RPは第1スプール12Aの半周以上巻かれることが好ましい。さらにロープ体RPが第1スプール12Aに一重巻き以上されてもよい。なお、目的によっては、ガイドピンは無くても良い。
【0043】
作業車両10のセッティングの際には、図5(A)に示されるように、作業者はロープ体RPを右側からガイドピン17を介して第1スプール12Aに巻き、左側のガイドピン17を経由するように引っ張る。これでロープ体RPをスプール部12にセッティングできる。
【0044】
<実施例2>
実施例2は、図5(B)に示されるように1つの第1スプール12Aと2つの第2スプール12Bと2つのガイドピン17とからなるスプール部である。第1スプール12Aも第2スプール12Bも、実施例1と同様に、金属製等の回転軸121と金属製等の円柱板122と摩擦帯123とからなる。2つの第2スプール12Bは、作業車両10から着脱可能なケース125に装着されている。実施例1とは異なり、リール部20からロープ体RPを繰り出して支持体30に締結されている。このようにロープ体RPが張られた状態で、図5(B1)に示されるように、ケース125が車体11に対して矢印方向に挿入され始める。ケース125が車体11に挿入されるとボルト等で固定される。図5(B2)に示されるように、ロープ体RPは、第1スプール12Aと2つの第2スプール12Bとにそれぞれ巻き付くように半周以上接している。
【0045】
図5(B)では、第2スプール12Bは第1スプール12Aよりも小さく描かれているが、第1スプール12Aよりも大きくても良いし同一直径でもよい。第1スプール12Aは駆動モータ13で駆動されるが、ギヤを介して第2スプール12B駆動されることが好ましい。第1スプール12Aと第2スプール12Bとの直径が異なる場合はギヤ比を変えればよい。
【0046】
<実施例3>
実施例3は、ガイドピン17の代わりに回転ピン16が配置される例である。回転ピン16は、金属製等の回転軸161と金属製等の円柱板162と摩擦帯163とからなる。回転軸161と円柱板162との間にはベアリング等が入っていても良い。摩擦帯163はウレタンゴム等の樹脂で構成されることが好ましい。ロープ体RPが張られた状態で、図6(A1)に示されるように、ケース125が車体11に対して矢印方向に挿入され始める。そして図6(A2)に示されるように、ロープ体RPは、第1スプール12Aと2つの第2スプール12Bとにそれぞれ巻き付くように接している。回転ピン16はガイドピン17より直径が大きく、ロープ体RPに負担をかけないメリットがある。特に図示しないが、図4で示した作業車両10の傾き状態は、ガイドピン17に代えて回転ピン16の場合にも適用できる。また、図5においてもガイドピン17に代えて回転ピン16でも良く、図6は回転ピン16に代えてガイドピン17を適用して良い。
【0047】
なお図示しないが、第1スプール12Aが2つ用意され、第2スプール12Bが3つ用意されたりして、スプールを多数設けてもよいし、図の上下の配置を逆転した配置としてもよい。
【0048】
<実施例4>
実施例1から実施例3は、ロープ体RPの断面がほぼ円形のワイヤ、紐もしくは綱を想定して説明された。実施例4は、ロープ体RPが金属製のローラーチェーンを使った例である。なおローラーチェーンは、筒形のローラーとブシュ、長円形等の板でピンが挿入される穴が2つ開いた内プレートと外プレート、及び円柱形のピンで構成される。
【0049】
実施例4は図示されないが、実施例4は、実施例1(図5(A))に示される1つの第1スプール12A及び2つのガイドピン17に代えて、直径が大きな第1スプロケット及び2つの直径が小さな第2スプロケットが配置される構成が好ましい。第1スプロケット及び第2スプロケットは、ローラーチェーンのピッチに合わせた間隔で円弧形の歯底を持つ歯車である。金属又は樹脂製の回転軸121と第1スプロケット及び第2スプロケットとの間にはベアリング等が入っていても良い。ローラーチェーンの複数のローラーが第1スプロケットの歯底にそれぞれはまり、ローラーチェーンがスプロケットに部分的に巻き付きくことで張力が作用し、ローラーが歯底から外れることなく動力を伝達することができる。実施例4は、特に作業車両10の重量が増した際に好ましい。
【0050】
<<ロープ体の複線化>>
ロープ体RPが破断することもあり、ロープ体を2本以上使用したり折り返して複線化したりすることが好ましい。図7及び図8は、ロープ体RPを複線化した例を示す。
【0051】
図7は、複線化するためのリール部20と支持体30とを示した図である。リール部20は、地面にリール部20を固定する金属製等の杭部21と、この杭部21 にロープ体RPを巻き取り及び繰り出す2つのリール22A及び22Bと、リール22A及びリール22Bを、差動装置27を介して回転駆動する回転モータ23と、回転モータ23を制御するリール制御部25とを備える。さらに、リール22Aとリール22Bとの間に配置された差動装置27は、リール22Aにかかるロープ体RPのテンションとリール22Bにかかるロープ体RPのテンションとを等しくする役目を有する。これにより、複線化されたロープ体RPの長さ及びテンションを等しくしている。図7では、リール22A及びリール22Bは、地面から垂直方向に並べて配置されているが水平方向等に配置してもよいし、杭部21及び支持体31は可搬式や移動式としてもよい。
【0052】
支持体30には滑車37が取り付けられている。滑車37にはロープ体RPが脱落しないように脱落防止ストッパ等が設けられることが好ましい。1本のロープ体RPは、リール22Aから繰り出され滑車37で折り返されて、リール22Bに締結され、リール22Aとリール22Bとのロープ体RPの巻き取り量がほぼ同じにしておくことが好ましい。
【0053】
特に図示しないが、支持体30に滑車37を設けることなくロープ体RPを留める1つ又は2つのアイボルト36を設けて、リール22Aからの第1のロープ体RPとリール22Bの第2のロープ体RPとを繰り出してアイボルト36に留める複線化でもよい。
【0054】
図8は、複線化したロープ体RPのためのスプール部12である。図8(A)は、(B)のA-A断面図であり、(B)はスプール部12の平面図である。第1スプール12Aは図5で説明したものと同じである。2つの第3スプール12Cは、金属製等の回転軸121と金属製等の円柱板122とウレタンゴム等からなる摩擦帯123とからなり、図8(A)に示されるように、摩擦帯123の直径より大きなリム127が設けられていることが好ましい。リム127は金属製又は樹脂製であり、リム127は第3スプール12Cの両側と中央とに3つ配置されている。これにより、複線化したロープ体RPがスプール部12で互いに絡まったりしないようにしている。図示しないが、図5(B)で説明したように、2つの第3スプール12Cは、ケース125で車体11に着脱可能にすることが好ましい。また、図5(A)のように1つの第1スプール12Aの場合には、第1スプール12Aにリム127を設けることが好ましく、図6のように回転ピン16を有する場合には回転ピン16にもリム127を設けることが好ましい。
【0055】
また、図8(B)に示されるように、破断検出センサSSを設けても良い。例えば右側の破断検出センサSSは、往路のロープ体RP用であり、左側の破断検出センサSSは、復路のロープ体RP用である。破断検出センサSSは、伸縮バネなどの弾性部材S1、弾性部材S1で付勢力されたブロックS2と、ブロックS2に取り付けられた回転体S3と、ブロックS2に取り付けられたプッシュスイッチS4等とからなる。右側の破断検出センサSSは、付勢力により回転体S3がロープ体RPに接しており、プッシュスイッチS4は端子が接触していない。左側の破断検出センサSSは、ロープ体RPが破断しており、付勢力によりプッシュスイッチS4が端子に接触している。
【0056】
破断検出センサSSは、上記センサだけでなく、レーザ光等を使用した反射センサもしくは透過型センサであっても良い。反射センサは、ロープ体RPの反射光と摩擦帯123からの反射光との差異から、ロープ体RPの破断を検出することができる。また本実施形態では破断検出センサSSを作業車両10に取り付けたが、リール部20のリール22のロープ体RPの繰り出し箇所に破断検出センサSSを配置してもよい。また、複線化したロープ体RPで破断検出センサSSを説明したが、図1から図6で説明した単一のロープ体RPにも、破断検出センサSSを取り付けてもよい。
【0057】
破断検出センサSSのプッシュスイッチS4からの信号は、車体制御部15及びリール制御部25に送信される。そして車体制御部15はスプール部12の回転を停止させ、リール制御部25はリール部22の回転を停止させる。特に複線化されたロープ体RPのうちの1本が破断した場合には、残り1本のロープ体RPがスプール体12および作業部19の摩擦力でつながっているため、作業車体10が斜面SLで停止する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上、本発明を実施するための作業車両を説明したが、本発明はこれら実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0059】
10…作業車両、11…車体、12…スプール部、13…駆動モータ13、15…車体制御部、17…ガイドピン、18…車輪、19…作業部
20…リール部、21…杭部21、22(22A,22B)…リール、23…回転モータ、25…リール制御部27…差動装置
30…支持体、36…アイボルト、37…滑車
SL…斜面、RP…ロープ体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8