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特許7569983紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、発光装置の製造方法
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  • 特許-紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、発光装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20241011BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20241011BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241011BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20241011BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241011BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G65/18
C08L63/00 A
C08L71/00 Z
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020159021
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052566
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千秋 考弘
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕基
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6715486(JP,B1)
【文献】国際公開第2011/065095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08G 65/00-65/48
C08L 63/00-63/10
C08L 71/00-71/14
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含有し、
前記カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物(A1)とオキセタン化合物(A2)とのみを含有し、
前記エポキシ化合物(A1)と前記オキセタン化合物(A2)との質量比が20:80から60:40までであり、
前記エポキシ化合物(A1)中のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンの総量が、前記エポキシ化合物(A1)全体に対して20質量ppm以下である、
インクジェット法で成形される、
光学部品製造用である、
紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
25℃での粘度と40℃での粘度とのうち少なくとも一方が20mPa・s以下である、請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記光カチオン重合開始剤(B)の百分比が1.5質量%以下である、
請求項1又は2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を100℃で30分間加熱した場合に生じるアウトガスの割合が100ppm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物の、厚み寸法が10μmである場合の波長430nmの光の透過率は、95%以上である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、
光学部品。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることを含む、光学部品の製造方法。
【請求項8】
光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備え、前記光学部品は、請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、
発光装置。
【請求項9】
光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備える発光装置を製造する方法であり、
前記光学部品を、請求項7に記載の方法で製造することを含む、
発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、発光装置の製造方法に関し、詳しくは、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む光学部品、この光学部品の製造方法、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える発光装置、及びこの発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子、マイクロLEDなどの発光素子を備える発光装置は、照明用途、ディスプレイ用途などに適用されており、今後の普及が期待されている。
【0003】
発光装置における発光素子が水分によって劣化しないように、発光素子は封止材で覆われる。この場合、発光素子が発する光は封止材を通過して外部へ出射する。封止材は、例えばカチオン硬化性樹脂と光カチオン重合開始剤とを含有する組成物から作製される(特許文献1参照)。この場合、紫外線照射等で組成物を硬化させて封止材を作製できるので、発光素子に熱による負荷をかけることなく封止材を作製できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5703429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カチオン重合性化合物を含有する紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形する技術について、発明者は研究開発を進めた。その過程で、発明者は、特にカチオン重合性化合物がエポキシ化合物を含有する場合には、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化性と保存安定性とのバランスを得ることが難しいという問題点を見出した。具体的には、紫外線硬化性樹脂組成物がエポキシ化合物を含有すると、硬化性が安定しにくく、硬化不足により成形品が十分な性能を発揮しないことがある。また、硬化性を安定させるために光カチオン重合開始剤の配合量を多くすると、紫外線硬化性樹脂組成物の粘度が経時的に上昇したり、あるいは粘度が上昇しない場合でも紫外線硬化性樹脂組成物がフィルターを通過しにくくなったりして、インクジェット法による成形性が悪化しやすくなる。
【0006】
本発明の課題は、インクジェット法で成形され、エポキシ化合物を含むカチオン重合性化合物を含有し、硬化性を高めることができ、かつインクジェット法による成形性を損ないにくい紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む光学部品、この光学部品の製造方法、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える発光装置、及びこの発光装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、カチオン重合性化合物(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含有する。前記カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物(A1)を含有する。前記エポキシ化合物(A1)中のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンの総量が、前記エポキシ化合物(A1)全体に対して20質量ppm以下である、前記紫外線硬化性樹脂組成物は、インクジェット法で成形される。
【0008】
本発明の一態様に係る光学部品は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0009】
本発明の一態様に係る光学部品の製造方法は、前記紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることを含む。
【0010】
本発明の一態様に係る発光装置は、光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備え、前記光学部品は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0011】
本発明の一態様に係る発光装置の製造方法は、光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備える発光装置を製造する方法であり、前記光学部品を、前記方法で製造することを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、エポキシ化合物を含むカチオン重合性化合物を含有し、硬化性を高めることができ、かつインクジェット法による成形性を損ないにくい紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む光学部品、この光学部品の製造方法、この紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える発光装置、及びこの発光装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における発光装置を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、カチオン重合性化合物(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含有する。カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物(A1)を含有する。エポキシ化合物(A1)中のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンの総量が、エポキシ化合物(A1)全体に対して20質量ppm以下である。組成物(X)は、インクジェット法で成形される。
【0016】
本実施形態によれば、組成物(X)の硬化性を高めることができる。これは、エポキシ化合物(A1)中の不純物イオンの総量の百分比が20質量ppm以下であれば、光カチオン重合開始剤(B)から発生した酸が不純物イオンによって消費されにくくなることで、光カチオン重合反応が効率よく進行するためであると推察される。また、このように、不純物イオンの総量の百分比を20質量ppm以下としても、組成物(X)の経時的な粘度上昇や分子量の増大を引き起こしにくく、そのため組成物(X)のインクジェット法による成形性が損なわれにくい。
【0017】
組成物(X)の硬化性が高まると、組成物(X)の硬化物の架橋密度が高まりやすく、そのため硬化物の硬度、バリア性などの特性が高まりやすい。また、組成物(X)の硬化性が高まると、硬化物が変色しにくく、そのため硬化物が黄変しにくくなる。
【0018】
また、本実施形態では、組成物(X)中の光カチオン重合開始剤(B)の量を増やすことなく、硬化性を高めることができる。光カチオン重合開始剤の配合量を増やすと、組成物(X)の粘度が増大しやすい。また、光カチオン重合開始剤の配合量を増やすと組成物(X)の保存安定性が低下しやすい。すなわち、保管中に組成物(X)中のカチオン重合性化合物(F)の反応が徐々に進行してしまうことで組成物(X)の粘度が経時的に上昇してしまい、そのためにインクジェット法で成形する場合に成形不良が生じやすくなる。また、粘度の上昇が認められなくても、組成物(X)をインクジェット装置内で循環させる場合に高分子化した成分がフィルターに目詰りを生じさせやすくなる。このため、インクジェット法による成形性が悪化してしまう。しかし、本実施形態では、光カチオン重合開始剤の配合量を増やさなくても硬化性を高めることができるので、インクジェット法による成形性を悪化させにくい。
【0019】
また、本実施形態では、光カチオン重合開始剤(B)の配合量を低減することで、組成物(X)の粘度を低減し、かつ組成物(X)の経時的な粘度上昇を抑制できるので、組成物(X)の粘度を、粘度上昇等を考慮した値に設定しなくてもよい。そのため、カチオン重合性化合物(A)中のエポキシ化合物(A1)などの成分の選択の幅が広がる。
【0020】
組成物(X)の硬化物を100℃で30分間加熱した場合に生じるアウトガスの割合が100ppm以下であることが好ましい。この場合、硬化物からアウトガスが生じにくい。このため、例えば硬化物を含む光学部品を備える発光装置内にアウトガスに起因する空隙を生じにくくできる。このため空隙を通じて発光素子に水及び酸素が到達するようなことを起こりにくくして、発光素子が水及び酸素により劣化しにくくできる。アウトガスの割合が100ppm以下であればより好ましく、50ppm以下であれば更に好ましい。なお、アウトガスの割合の測定方法及び条件は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。
【0021】
組成物(X)は溶剤を含有せず、又は溶剤の含有量(組成物(X)全体に対する溶剤の百分比)が1質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)及び組成物(X)の硬化物からは、溶剤に由来するアウトガスが発生しにくい。このため、溶剤の揮発に起因する組成物(X)の粘度変化が生じにくくなり、これにより組成物(X)の保存安定性が高まる。また、硬化物内にアウトガスに起因する空隙を生じにくくできる。このため空隙を通じた発光装置内への水の浸入を起こりにくくできる。また、硬化物の作製時に組成物(X)及び硬化物から溶剤を除去するための乾燥工程を不要にできる。組成物(X)及び硬化物の少なくとも一方から溶剤を除去するための乾燥工程があってもよいが、この場合は乾燥工程における加熱温度の低減と加熱時間の短縮化との、少なくとも一方を可能とできる。このため、硬化物の製造効率を低下させることなく、硬化物からアウトガスを生じにくくできる。さらに、組成物(X)は溶剤を含有せず、又は溶剤の含有量が1質量%以下であれば、組成物(X)を特にインクジェット法で成形する場合に、成形後の組成物(X)から溶剤が揮発することによる厚みの減少が生じにくく、そのため硬化物の厚みの減少が生じにくい。そのため、インクジェット法で成形しながら、硬化物の厚みをできるだけ大きく確保して、硬化物による波長変換能をできるだけ大きく確保することができる。溶剤の含有量は、0.5質量%以下であればより好ましく、0.3質量%以下であれば更に好ましく、0.1質量%以下であれば特に好ましい。組成物(X)は、溶剤を含有せず、又は不可避的に混入する溶剤のみを含有することが、特に好ましい。なお、組成物(X)の溶剤の含有量が1質量%を超えていてもよい。
【0022】
組成物(X)の硬化物のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましい。すなわち、組成物(X)は、硬化することでガラス転移温度が100℃以上の硬化物になる性質を有することが好ましい。この場合、硬化物は良好な耐熱性を有することができる。そのため、例えば硬化物に温度上昇を伴う処理が施された場合に、硬化物が劣化しにくい。このため、例えば組成物(X)から作製された光学部品などの成形品を覆うように保護層をプラズマCVD法といった蒸着法で作製する場合、成形品が加熱されても、成形品が劣化しにくい。また、耐熱性を高めることで、成形品を、耐熱性に対する要求が厳しい車載用途に適合させることもできる。硬化物のガラス転移温度は120℃以上であれば更に好ましい。この硬化物のガラス転移温度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。ガラス転移温度の測定方法の例は、後掲の実施例の欄で詳述する。
【0023】
組成物(X)の25℃での粘度と40℃での粘度とのうち少なくとも一方が、20mPa・s以下であることが好ましい。粘度の測定方法の例は、後掲の実施例の欄で詳述する。
【0024】
組成物(X)の25℃での粘度は、20mPa・s以下であると、組成物(X)を常温下でインクジェット法で成形しやすくできる。この粘度が15mPa・s以下であれば更に好ましい。この粘度が1mPa・s以上であることも好ましく、5mPa・s以上であることも好ましい。
【0025】
組成物(X)の40℃における粘度が20mPa・s以下であると、常温における組成物(X)の粘度がいかなる値であっても、組成物(X)を僅かに加熱すれば低粘度化させることが可能である。このため、加熱すれば、組成物(X)をインクジェット法で成形しやすくできる。また、組成物(X)を大きく加熱することなく低粘度化させることができるので、組成物(X)中の成分が揮発することによる組成物(X)の組成の変化を生じにくくできる。この粘度が15mPa・s以下であれば更に好ましい。この粘度が1mPa・s以上であることも好ましく、5mPa・s以上であることも好ましい。
【0026】
このような組成物(X)の25℃又は40℃における低い粘度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0027】
組成物(X)20mgを、熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をした場合の揮発性は、40%以下であることが好ましい。組成物(X)の揮発性は、処理前の組成物(X)の重量に対する、処理後の組成物(X)の重量減少量(組成物(X)の、処理前の重量と処理後の重量との差)の百分比で規定される。この場合、組成物(X)の揮発性が低いことで、組成物(X)の保存安定性を高めることができる。また、硬化物からアウトガスが生じにくくなる。そのため、硬化物内にアウトガスに起因する空隙が更に生じにくくなる。組成物(X)の揮発性は、組成物(X)20mgを熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をし、処理前の重量に対する処理後の重量の重量減少量を算出することで求めることができる。組成物(X)20mgを、熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をした場合の揮発性は、30%以下であることがより好ましく、20%以下であれば更に好ましい。組成物(X)の揮発性の下限は特に限定されないが、例えば、0.1%以上であってよい。
【0028】
組成物(X)の硬化物の、厚み寸法が10μmである場合の、波長430nmの光の透過率は、95%以上であることが好ましい。この場合、硬化物を発光装置1における封止材5等の光学部品に適用すると、光学部品を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を特に向上できる。このような硬化物の光透過性も、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。硬化物の透過率の測定方法の詳細は、後掲の実施例において詳述する。なお、組成物(X)の用途によっては、硬化物は前記の透過率を達成しなくてもよい。
【0029】
組成物(X)の表面張力が20mN/cm以上40mN/cm以下であることも好ましい。この場合、組成物(X)をインクジェット法で吐出するときに吐出安定性が良好であり、サテライトと呼ばれる不良な液滴を生じにくくできる。表面張力が30mN/cm以上40mN/cm以下であればより好ましく、31mN/cm以上38mN/cm以下であれば更に好ましい。
【0030】
以下、本実施形態について、更に詳しく説明する。
【0031】
カチオン重合性化合物(A)は、カチオン重合性官能基を有する化合物である。カチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。本実施形態では、カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ基を有する化合物、すなわちエポキシ化合物(A1)を、少なくとも含有する。
【0032】
上述のとおり、エポキシ化合物(A1)中のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンの総量の百分比は、エポキシ化合物(A1)全体に対して20質量ppm以下である。前記のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンは、エポキシ化合物(A1)中に混入している不純物である。カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンを、以下、不純物イオンともいう。不純物イオンの総量の百分比は、15質量ppm以下であればより好ましく、10質量ppm以下であれば更に好ましい。エポキシ化合物(A1)が不純物イオンをいずれも含有しなければ特に好ましい。
【0033】
エポキシ化合物(A1)中の不純物イオンの総量の百分比が20質量%を超える場合には、エポキシ化合物(A1)に不純物イオン量を低減するための処理を施すことが好ましい。例えばエポキシ化合物(A1)を水洗することで、エポキシ化合物(A1)中の不純物イオンの量を低減できる。なお、不純物イオン量の低減のために水洗以外の処理が施されてもよい。
【0034】
エポキシ化合物(A1)は、単官能エポキシ化合物(A11)と多官能エポキシ化合物(A12)とのうち、少なくとも一方を含有できる。
【0035】
カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物(A1)以外の化合物を含有してもよい。特にカチオン重合性化合物(A)は、オキセタン基を有する化合物、すなわちオキセタン化合物(A2)を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)に紫外線を照射すると、初期の反応性がエポキシ化合物(A1)によって高められ、かつ終期の反応性がオキセタン化合物(A2)によって高められるため、組成物(X)の反応性が全体的に向上しやすい。カチオン重合性化合物(A)がオキセタン化合物(A2)を含有する場合、エポキシ化合物(A1)とオキセタン化合物(A2)との質量比は、20:80から60:40までであることが好ましく、25:75から55:45までであることがより好ましく、30:70から50:50までであることが更に好ましい。
【0036】
オキセタン化合物(A2)は、単官能オキセタン化合物(A21)と多官能オキセタン化合物(A22)とのうち、少なくとも一方を含有できる。
【0037】
カチオン重合性化合物(A)は、ビニルエーテル基を有する化合物、すなわちビニルエーテル化合物(A3)を含有してもよい。ただし、ビニルエーテル化合物(A3)は沸点が低い傾向があり、かつ硬化物のガラス転移温度を低める傾向もあるため、カチオン重合性化合物(A)は、ビニルエーテル化合物(A3)を含有しないことが好ましく、含有する場合はカチオン重合性化合物(A)に対するビニルエーテル化合物(A3)の百分比は5質量%以下であることが好ましい。
【0038】
カチオン重合性化合物(A)について、更に詳しく説明する。
【0039】
カチオン重合性化合物(A)は、例えば多官能カチオン重合性化合物(W1)と単官能カチオン重合性化合物(W2)とのうち少なくとも一方を含有する。
【0040】
多官能カチオン重合性化合物(W1)は、シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(W11)と、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(W12)とのうち、いずれか一方又は両方を含有できる。
【0041】
多官能カチオン重合性化合物(W11)は、シロキサン骨格を有さず、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基を有する。多官能カチオン重合性化合物(W11)の一分子あたりのカチオン重合性官能基の数は2~4個であることが好ましく、2~3個であれば更に好ましい。
【0042】
多官能カチオン重合性化合物(W11)は、例えば多官能脂環式エポキシ化合物(A121)、多官能ヘテロ環式エポキシ化合物(A122)、多官能オキセタン化合物(A221)、アルキレングリコールジグリシジルエーテル(A123)、及びアルキレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルからなる群から選択される化合物のうち、少なくとも一種の化合物を含有する。多官能エポキシ化合物(A12)は、多官能脂環式エポキシ化合物(A121)、多官能ヘテロ環式エポキシ化合物(A122)、及びアルキレングリコールジグリシジルエーテル(A123)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有してよい。多官能オキセタン化合物(A22)は多官能オキセタン化合物(A221)を含有してよい。アルキレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルは、単官能エポキシ化合物(A11)に含まれる化合物であり、かつビニルエーテル化合物(A3)に含まれる化合物でもある。
【0043】
多官能脂環式エポキシ化合物(A121)は、例えば下記式(1)に示す化合物と下記式(20)に示す化合物とのうち、いずれか一方又は両方を含有する。
【0044】
【化5】
【0045】
式(1)において、R1~R18の各々は独立に水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基である。炭化水素基の炭素数は1~20の範囲内であることが好ましい。炭化水素基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基といった炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、アリル基といった炭素数2~20のアルケニル基;又はエチリデン基、プロピリデン基といった炭素数2~20のアルキリデン基である。炭化水素基は、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい。R1~R18の各々は独立に、水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0046】
式(1)において、Xは単結合又は二価の有機基であり、有機基は、例えば-CO-O-CH2-である。
【0047】
式(1)に示す化合物の例は、下記式(1a)に示す化合物及び下記式(1b)に示す化合物を含む。
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
式(20)中、R1~R12の各々は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1~20の炭化水素基である。ハロゲン原子は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。炭素数1~20の炭化水素基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基といった炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、アリル基といった炭素数2~20のアルケニル基;又はエチリデン基、プロピリデン基といった炭素数2~20のアルキリデン基である。炭素数1~20の炭化水素基は、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0052】
1~R12の各々は独立に、水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0053】
式(20)に示す化合物の例は、下記式(20a)に示すテトラヒドロインデンジエポキシドを含む。
【0054】
【化9】
【0055】
多官能ヘテロ環式エポキシ化合物(A122)は、例えば下記式(2)に示すような三官能エポキシ化合物を含有する。
【0056】
【化10】
【0057】
多官能オキセタン化合物(A221)は、例えば下記式(3)に示すような二官能オキセタン化合物を含有する。
【0058】
【化11】
【0059】
アルキレングリコールジグリシジルエーテル(A123)は、例えば下記式(4)~(7)に示す化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
アルキレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルは、例えば下記式(8)に示す化合物を含有する。
【0065】
【化16】
【0066】
より具体的には、多官能カチオン重合性化合物(W11)は、例えばダイセル製のセロキサイド2021P及びセロキサイド8010、日産化学製のTEPIC-VL、東亞合成製のOXT-221、並びに四日市合成製の1,3-PD-DEP、1,4-BG-DEP、1,6-HD-DEP、NPG-DEP及びブチレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0067】
多官能カチオン重合性化合物(W11)は、多官能脂環式エポキシ化合物(A121)を含有することも好ましい。この場合、組成物(X)は特に高いカチオン重合反応性を有することができる。
【0068】
多官能脂環式エポキシ化合物(A121)は、特に式(1)に示す化合物及び式(20)に示す化合物のうち、いずれか一方又は両方を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)はより高いカチオン重合反応性を有することができる。
【0069】
多官能脂環式エポキシ化合物(A121)が式(1)に示す化合物を含有する場合、式(1)に示す化合物は、式(1a)に示す化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)は、より高いカチオン重合反応性を有するとともに、特に低い粘度を有することができる。
【0070】
また、特に式(20)に示す化合物は、低い粘度を有するため、式(20)に示す化合物を含有する場合、組成物(X)は、良好な紫外線硬化性を有することができるとともに、特に低い粘度を有することができる。さらに、式(20)に示す化合物は、低い粘度を有するわりには、揮発しにくい性質を有する。そのため、組成物(X)が式(20)に示す化合物を含有しても、組成物(X)には、式(20)に示す化合物の揮発による組成の変化が生じにくい。このため、組成物(X)は、式(20)に示す化合物を含有することで、保存安定性を損なうことなく低粘度化されうる。
【0071】
式(20)に示す化合物は、例えばテトラヒドロインデン骨格を有する環状オレフィン化合物を、酸化剤を用いて酸化することで合成できる。
【0072】
式(20)に示す化合物は、2つのエポキシ環の立体配置に基づく4つの立体異性体を含みうる。式(20)に示す化合物は、4つの立体異性体のいずれを含んでもよい。すなわち、式(20)に示す化合物は、4つの立体異性体からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。式(20)に示す化合物中における、4つの立体異性体のうちのエキソ-エンド体とエンド-エンド体の合計量の百分比は、エポキシ化合物(A1)全体に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であれば更に好ましい。この場合、硬化物の耐熱性を向上できる。なお、式(20)に示す化合物中の特定の立体異性体の百分比は、ガスクロマトグラフィーで得られるクロマトグラムに現れるピーク面積比に基づいて、求めることができる。
【0073】
式(20)に示す化合物中のエキソ-エンド体及びエンド-エンド体の量を少なくするためには、式(20)に示す化合物を精密蒸留する方法、シリカゲルなどを充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーを適用する方法といった、適宜の方法を適用できる。
【0074】
組成物(X)が多官能カチオン重合性化合物(W11)を含有する場合、樹脂成分全量に対する多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比は、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。なお、樹脂成分とは、組成物(X)中のカチオン重合性を有する化合物のことをいい、多官能カチオン重合性化合物(W1)及び単官能カチオン重合性化合物(W2)を含む。多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比が5質量%以上であれば組成物(X)は光カチオン重合反応時に特に優れた反応性を有することができ、またそれによって、硬化物が高い強度(硬度)を有することができる。また、多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比が95質量%以下であれば、組成物(X)が吸湿剤(E)を含有する場合に、組成物(X)中で吸湿剤(E)を特に均一に分散させやすくできる。この多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比は、12質量%以上であればより好ましく、15質量%以上であれば更に好ましく、20質量%以上であれば更に好ましく、25質量%以上であれば特に好ましい。またこの多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比は、85質量%以下であればより好ましく、60質量%以下であれば更に好ましい。例えば多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比が20質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0075】
多官能カチオン重合性化合物(W11)が多官能脂環式エポキシ化合物(A121)を含有する場合、多官能脂環式エポキシ化合物(A121)は、多官能カチオン重合性化合物(W11)の一部であってもよく、全部であってもよい。多官能カチオン重合性化合物(W11)に対する、多官能脂環式エポキシ化合物(A121)の百分比は、15質量%100質量%以下であることが好ましい。この百分比が15質量%以上であると、多官能脂環式エポキシ化合物(A121)は組成物(X)の紫外線硬化性の向上に特に寄与できる。
【0076】
多官能カチオン重合性化合物(W12)は、シロキサン骨格と、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基とを有する。多官能カチオン重合性化合物(W12)の一分子あたりのカチオン重合性官能基の数は、2~6個であることが好ましく、2~4個であれば更に好ましい。多官能カチオン重合性化合物(W12)は、組成物(X)のカチオン重合反応性の向上に寄与できるとともに、硬化物及び光学部品の耐熱変色性の向上に寄与できる。多官能カチオン重合性化合物(W12)は硬化物及び光学部品の低弾性率化にも寄与できる。組成物(X)が吸湿剤を含有する場合、多官能カチオン重合性化合物(W12)は組成物(X)中及び硬化物中の吸湿剤の分散性の向上にも寄与できる。
【0077】
多官能カチオン重合性化合物(W12)は、25℃で液体であることが好ましい。特に多官能カチオン重合性化合物(W12)の25℃における粘度は、10~300mPa・sの範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)の粘度上昇を抑制できる。
【0078】
多官能カチオン重合性化合物(W12)が有するカチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。
【0079】
多官能カチオン重合性化合物(W12)が有するシロキサン骨格は、直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよい。シロキサン骨格が有するSi原子の数は、2~14の範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)は特に低い粘度を有することができる。このSi原子の数は、2~10の範囲内であればより好ましく、2~7の範囲内であれば更に好ましく、3~6の範囲内であれば特に好ましい。
【0080】
多官能カチオン重合性化合物(W12)は、一分子中に複数のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物(A221)を含有できる。多官能エポキシ化合物(A221)は、上記の多官能エポキシ化合物(A22)に含まれる。
【0081】
多官能エポキシ化合物(A221)は、例えば式(10)に示す化合物と、式(11)に示す化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0082】
【化17】
【0083】
【化18】
【0084】
式(10)及び式(11)の各々におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、アルキレン基であることが好ましい。Yはシロキサン骨格であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれでもよく、そのSi原子の数は2~14の範囲内の範囲内であることが好ましく、2~10の範囲内であることがより好ましく、2~7の範囲内であれば更に好ましく、3~6の範囲内であれば特に好ましい。nは2以上の整数であり、2~4の範囲内であることが好ましい。
【0085】
より具体的には、例えば多官能エポキシ化合物(A221)は、次の式(10a)に示す化合物を含有する。
【0086】
【化19】
【0087】
式(10a)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(10a)におけるnは0以上の整数である。nは、0~12の範囲内であることが好ましく、0~8の範囲内であることがより好ましく、0~5の範囲内であれば更に好ましく、1~4の範囲内であれば特に好ましい。
【0088】
式(10a)に示す化合物は、下記式(30)に示す化合物を含有することが好ましい。すなわち、多官能エポキシ化合物(A221)は、下記式(30)に示す化合物を含有することが好ましい。
【0089】
より具体的には、多官能エポキシ化合物(A221)は、例えば信越化学株式会社製の品番X-40-2669、X-40-2670、X-40-2715、X-40-2732、X-22-169AS、X-22-169B、X-22-2046、X-22-343、X-22-163、及びX-22-163Bからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。
【0090】
多官能エポキシ化合物(A221)は脂環式エポキシ構造を有することが好ましく、多官能エポキシ化合物(A221)が式(10a)に示す化合物を含有すれば特に好ましい。式(10a)に示す化合物は、組成物(X)のカチオン重合反応性の向上と低粘度化とに特に寄与できるとともに、硬化物及び光学部品の耐熱変色性の向上及び低弾性率化に特に寄与できる。組成物(X)が吸湿剤(E)を含有する場合は組成物(X)中の吸湿剤(E)の分散性向上にも特に寄与できる。
【0091】
組成物(X)が多官能カチオン重合性化合物(W12)を含有する場合、樹脂成分全量に対する多官能カチオン重合性化合物(W12)の百分比は、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。この場合、特に組成物(X)が吸湿剤(E)を含有すると、組成物(X)中及び硬化物中での吸湿剤(E)の分散性が特に向上し、かつ組成物(X)が特に高い光カチオン重合反応性を有することができる。
【0092】
単官能カチオン重合性化合物(W2)は、カチオン重合性官能基を一分子に対して一つのみ有する。カチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。
【0093】
単官能カチオン重合性化合物(W2)の25℃における粘度は8mPa・s以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)が溶媒を含有しなくても、単官能カチオン重合性化合物(W2)は組成物(X)の粘度を低減できる。特に単官能カチオン重合性化合物(W2)の25℃における粘度は、0.1~8mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0094】
単官能カチオン重合性化合物(W2)は、例えば下記式(12)~(17)に示す化合物及びリモネンオキシドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。すなわち、上記の単官能エポキシ化合物(A11)は、下記式(13)に示す化合物、下記式(14)に示す化合物、下記(15)に示す化合物及びリモネンオキシドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。また、上記の単官能オキセタン化合物(A21)は、下記式(12)に示す化合物と下記式(17)に示す化合物とのうち少なくとも一方を含有できる。
【0095】
【化20】
【0096】
【化21】
【0097】
【化22】
【0098】
【化23】
【0099】
【化24】
【0100】
【化25】
【0101】
樹脂成分全量に対する単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比が5質量%以上であれば組成物(X)の粘度を特に低減できる。また、単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比が50質量%以下であれば、組成物(X)は光カチオン重合反応時に特に優れた反応性を有することができ、またそれによって、硬化物が高い強度(硬度)を有することができる。この単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比は、10質量%以上であればより好ましく、15質量%以上であれば更に好ましい。また、この単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比は、40質量%以下であればより好ましく、35質量%以下であれば更に好ましく、30質量%以下であれば特に好ましい。単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比が特に35質量%以下であれば、組成物(X)を保管している間の組成物(X)中の成分の揮発量を効果的に低減でき、そのため組成物(X)を長期間保存しても組成物(X)の特性が損なわれにくい。さらに、硬化物にタックが生じることを特に抑制できる。例えば単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比が10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0102】
また、特に組成物(X)が多官能カチオン重合性化合物(W11)と多官能カチオン重合性化合物(W12)とを含有する場合、樹脂成分全量に対して、多官能カチオン重合性化合物(W11)の百分比は、30質量%以上60質量%以下、多官能カチオン重合性化合物(W12)の百分比は15質量%以上30質量%以下、単官能カチオン重合性化合物(W2)の百分比は15質量%以上40質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の良好な保存安定性と低い粘度と良好なカチオン重合反応性とをバランス良く達成でき、更に硬化物の優れた透明性、優れた吸湿性及び高い屈折率をバランス良く達成できる。
【0103】
カチオン重合性化合物(A)が、式(3)に示す化合物と式(16)に示す化合物とを含有すれば、両者の比率を調整することで、組成物(X)から光硬化物を作製する場合の硬化反応の進行のしやすさを適度に調整しつつ、組成物(X)の低粘度化と保存安定性の向上とを実現できる。
【0104】
式(16)に示す化合物の量は、組成物(X)が前記の特性を有するように適宜調整される。例えば式(16)に示す化合物の量は、樹脂成分全量に対して10質量%以上40質量以下であることが好ましい。
【0105】
カチオン重合性化合物(A)は、下記式(30)で示される化合物(f1)(以下、芳香族エポキシ化合物(f1)ともいう)を含有してもよい。すなわち、単官能エポキシ化合物(A11)は、下記式(30)で示され、式中のnが1である化合物を含有してもよい。また多官能エポキシ化合物は(A12)、下記式で示され、式中のnが2~5である化合物を含有してもよい。
【0106】
【化26】
【0107】
式(30)中、Xはハロゲン、H、炭化水素基及びアルキレングルコール基からなる群から選択される少なくとも一種であり、一分子中にXが複数ある場合は互いに同一であっても異なっていてもよい。炭化水素基は、例えばアルキル基又はアリール基である。Xが炭化水素基である場合のXの炭素数は例えば1から10までの範囲内である。Rは単結合又は二価の有機基である。Rが二価の有機基である場合、二価の有機基は例えばアルキレン基、オキシアルキレン基、カルボニルオキシアルキレン基(例えば-CO-O-CH2-)、又は-C(Ph)2-O-CH2-基である。YはH又は一価の有機基である。Yが一価の有機基である場合、一価の有機基は例えばアルキル基又はアリール基である。nは1から5までの数である。
【0108】
カチオン重合性化合物(A)が芳香族エポキシ化合物(f1)を含有すると、芳香族エポキシ化合物(f1)は低い粘度を有するため、芳香族エポキシ化合物(f1)は組成物(X)を低粘度化させやすい。また、芳香族エポキシ化合物(f1)は揮発しにくく、そのため組成物(X)を保存していても、組成物(X)には芳香族エポキシ化合物(f1)の揮発による組成の変化が生じにくい。そのため芳香族エポキシ化合物(f1)は組成物(X)の保存安定性を高めやすい。また、芳香族エポキシ化合物(f1)は高い反応性を有するため、硬化物中に未反応の成分が残留しにくく、そのため硬化物からアウトガスを発生させにくい。さらに、芳香族エポキシ化合物(f1)は硬化物のガラス転移温度を高めやすく、そのため硬化物の耐熱性を高めやすい。
【0109】
また、芳香族エポキシ化合物(f1)は、組成物(X)をインクジェット法で吐出する場合に、サテライトと呼ばれる不良な液滴を生じさせにくい。
【0110】
式(30)中のRが単結合又はアルキレン基であることが好ましい。式(30)中のnが2又は3である場合には、式(30)中の複数のRのうち少なくとも一つが単結合又はアルキレン基であることが好ましい。これらの場合、芳香族エポキシ化合物(f1)の反応性が高くなりやすく、そのため組成物(X)に紫外線を照射した場合の組成物(X)の硬化性が高くなりやすい。
【0111】
芳香族エポキシ化合物(f1)は、例えば下記式(301)~(318)にそれぞれ示される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0112】
【化27】
【0113】
特に芳香族エポキシ化合物(f1)が式(301)~(305)、(312)、(314)及び(318)にそれぞれ示される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。これらの化合物は、化合物中の少なくとも一つのエポキシ基(オキシラン)とベンゼン環とが単結合又はアルキレン基で結合されていることで、高い反応性を有しやすく、そのため組成物(X)の硬化性を高めやすい。
【0114】
カチオン重合性化合物(A)全体に対する芳香族エポキシ化合物(f1)の百分比は、5質量%以上であることが好ましい。この場合、芳香族エポキシ化合物(f1)による上記の作用が特に得られやすい。この百分比は、95質量%以下であることも好ましい。この場合、組成物(X)の保管性が良好となりやすい。この百分比は10質量%以上90質量%以下であればより好ましく、20質量%以上85質量%以下であれば更に好ましい。
【0115】
カチオン重合性化合物(A)が、オキシアルキレン骨格を有する化合物(f2)を含有することも好ましい。オキシアルキレン骨格とは、一又は複数の直鎖状のオキシアルキレン単位からなる直鎖状の骨格である。
【0116】
カチオン重合性化合物(A)が化合物(f2)を含有すると、化合物(f2)は低い粘度を有するため、化合物(f2)は組成物(X)を低粘度化させやすい。また、化合物(f2)は揮発しにくく、そのため組成物(X)を保存していても、組成物(X)には芳香族エポキシ化合物(f1)の揮発による組成の変化が生じにくい。そのため化合物(f2)は組成物(X)の保存安定性を高めやすい。
【0117】
また、化合物(f2)は、組成物(X)をインクジェット法で吐出する場合に、サテライトと呼ばれる不良な液滴を生じさせにくい。さらに、化合物(f2)は、インクジェット法で吐出される液滴の速度を速くしてもサテライトを生じにくくできる。そのため、インクジェットの条件にもよるが、例えばサテライトを生じさせることなくインクジェット法による液滴の吐出速度を4m/s又はそれ以上にすることも可能である。液滴の速度を速くできると、液滴の軌跡が外乱の影響を受けにくくなるので、組成物(X)から作製される硬化物の寸法精度を高めることができる。さらに、化合物(f2)は上述のとおり組成物(X)の保存安定性を高めることができるので、組成物(X)を長期間保管しても、サテライトを生じにくいという組成物(X)の特性が維持されやすい。
【0118】
オキシアルキレン骨格は、特に「-C-C-O-」という構造、すなわちオキシメチレン単位を含むことが好ましい。この場合、サテライトが特に生じにくくなり、例えばインクジェット法で組成物(X)を吐出するに当たっての駆動周波数を変動させてもサテライトが生じにくくなる。また、化合物(f2)がより揮発しにくく、かつより低粘度になりやすく、更に組成物(X)の無機材料に対する親和性(濡れ性)が高まりやすい。
【0119】
化合物(f2)におけるオキシアルキレン骨格中のオキシアルキレン単位の数は1以上8以下であることが好ましい。この場合、化合物(f2)がより低粘度になりやすいため、サテライトが特に生じにくくなり、かつ硬化物の架橋密度が高くなりやすいことで硬化物のガラス転移温度が特に高くなりやすい。このオキシアルキレン単位の数は1以上6以下であればより好ましく、1以上4以下であれば更に好ましい。
【0120】
なお、化合物(f2)におけるオキシアルキレン骨格中のオキシアルキレン単位には、水素以外の置換基が結合していてもよい。例えばオキシアルキレン骨格に含まれているオキシメチレン単位が「-CH(CH3)-CH2-O-」という構造を有してもよい。
【0121】
化合物(f2)の百分比はカチオン重合性化合物(A)に対して10質量%以上であることが好ましい。この場合、インクジェット性が良好となり、基材への濡れ性がよくなる。この百分比が70重量%以下であることも好ましい。この場合、十分にガラス転移温度を高めることができる。この百分比は15質量%以上60質量%以下であればより好ましく、20質量%以上50質量%以下であれば更に好ましい。
【0122】
化合物(f2)は、例えばオキシアルキレン骨格とエポキシ基とを有する化合物(f21)と、オキシアルキレン基とオキセタン基とを有する化合物(f22)とのうち、少なくとも一種の化合物を含有する。すなわち、エポキシ化合物(A11)は化合物(f21)を含有することができる。またオキセタン化合物(A12)は化合物(f22)を含有することができる。
【0123】
化合物(f21)は、例えば上記の式(1b)に示す化合物、式(4)に示す化合物、式(5)に示す化合物、式(6)に示す化合物、式(7)に示す化合物、式(8)に示す化合物、式(13)に示す化合物、式(14)に示す化合物等からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。なお、化合物(f21)が含有しうる成分は前記のみには制限されない。
【0124】
化合物(f22)は、例えば上記の式(3)に示す化合物、式(12)に示す化合物、式(16)に示す化合物、及び式(17)に示す化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。なお、化合物(f22)が含有しうる成分は前記のみには制限されない。
【0125】
カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物(A1)と上記の化合物(f22)とを含有することも好ましい。カチオン重合性化合物(A)がエポキシ化合物(A1)と化合物(f22)とを含有すると、組成物(X)に紫外線が照射された場合の組成物(X)の硬化性が高まりやすく、かつこのときの組成物(X)の急激過ぎる硬化が起こりにくくなり、そのため硬化物に白濁などによる透明性の悪化が起こりにくくなる。この場合のカチオン重合性化合物(A)に対する化合物(f22)の百分比は、20質量%以上であることが好ましい。この場合、化合物(f22)によって、組成物(X)を特に低粘度化させやすく、かつ組成物(X)の保存安定性を特に高めやすい。さらに、化合物(f22)によって組成物(X)の硬化性を特に高めやすい。化合物(f22)の百分比は、90質量以下であることも好ましい。この場合、硬化物の硬化性を十分に高めることができる。化合物(f22)の百分比は10質量%以上90質量%以下であればより好ましく、20質量%以上80質量%以下であれば更に好ましい。また、この場合のエポキシ化合物の百分比は、カチオン重合性化合物(A)の総量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であればより好ましく、25質量%以上75質量%以下であれば更に好ましい。これらの場合、硬化物中の未反応基を十分に減少させて、硬化物の硬化性を十分に高めることができる。
【0126】
エポキシ化合物(A1)は、グリシジルエーテル基を構成しないオキシラン環を少なくとも一つ有する化合物を含有することが好ましい。この場合、エポキシ化合物(A1)は、組成物(X)の硬化性を特に高めやすい。エポキシ化合物(A1)が、グリシジルエーテル基を構成しないオキシラン環を二以上有する化合物を含有すれば、より好ましい。エポキシ化合物(A1)が、グリシジルエーテル基を有さない化合物を含有することも好ましい。エポキシ化合物(A1)が、グリシジルエーテル基を構成しないオキシラン環を二以上有し、かつグリシジルエーテル基を有さない化合物を含有すれば、特に好ましい。
【0127】
カチオン重合性化合物(A)が化合物(f2)とエポキシ化合物(A1)とを含有し、更にエポキシ化合物(A1)が上述の芳香族エポキシ化合物(f1)を含有すれば、特に好ましい。この場合、組成物(X)は特に優れた保存安定性を有しやすく、また組成物(X)をインクジェット法で吐出する場合に、サテライトと呼ばれる不良な液滴を特に生じさせにくい。さらに、インクジェット法で吐出される液滴の速度を速くしてもサテライトを特に生じにくくできる。さらに、組成物(X)を長期間保管しても、サテライトを生じにくいという組成物(X)の特性が特に維持されやすい。この場合に化合物(f2)が化合物(f22)を含有すれば特に好ましい。
【0128】
カチオン重合性化合物(A)に対する芳香族エポキシ化合物(f1)と化合物(f22)との合計の百分比は、55質量%以上であることが好ましい。この場合、芳香族エポキシ化合物(f1)と化合物(f22)との組み合わせによる作用が特に顕著に得られる。この百分比は60質量%以上であればより好ましく、70質量%以上であれば更に好ましい。カチオン重合性化合物(A)が芳香族エポキシ化合物(f1)と化合物(f22)とのみを含有すれば特に好ましい。
【0129】
光カチオン重合開始剤(B)は、光照射を受けてプロトン酸又はルイス酸を発生する触媒であれば、特に制限されない。光カチオン重合開始剤(B)は、イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒と、非イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒とのうち、少なくとも一方を含有できる。
【0130】
イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒は、オニウム塩類と有機金属錯体とのうち少なくとも一方を含有できる。オニウム塩類の例は、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、及び芳香族スルホニウム塩を含む。有機金属錯体の例は、鉄-アレン錯体、チタノセン錯体、及びアリールシラノール-アルミニウム錯体を含む。イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒は、これらの成分のうち少なくとも一種の成分を含有できる。
【0131】
非イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒は、例えばニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、及びN-ヒドロキシイミドホスホナートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。なお、非イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒が含有しうる成分は前記には限られない。
【0132】
光カチオン重合開始剤(B)が含有できる化合物のより具体的な例は、みどり化学製のDPIシリーズ(105,106、109、201など)、BI-105、MPIシリーズ(103、105、106、109など)、BBIシリーズ(101、102、103、105、106、109、110、200、210、300、301など)、TSPシリーズ(102、103、105、106、109、200、300、1000など)、HDS-109、MDSシリーズ(103、105、109、203、205、209など)、BDS-109、MNPS-109、DTSシリーズ(102、103、105、200など)、NDSシリーズ(103、105、155、165など)、DAMシリーズ(101、102、103、105、201など)、SIシリーズ(105、106など)、PI-106、NDIシリーズ(105、106、109、1001、1004など)、PAIシリーズ(01、101、106、1001、1002、1003、1004など)、MBZ-101、PYR-100、NBシリーズ(101、201など)、NAIシリーズ(100、1002,1003、1004、101、105、106、109など)、TAZシリーズ(100、101、102、103、104、107、108、109、110、113、114、118、122、123、203、204など)、NBC-101、ANC-101、TPS-Acetate、DTS-Acetate、Di-Boc Bisphinol A、tert-Butyl lithocholate、tert-Butyl deoxycholate、tert-Butyl cholate、BX、BC-2、MPI-103、BDS-105、TPS-103、NAT-103、BMS-105、及びTMS-105;
米国ユニオンカーバイド社製のサイラキュアUVI-6970、サイラキュアUVI-6974、サイラキュアUVI-6990、及びサイラキュアUVI-950;
BASF社製のイルガキュア250、イルガキュア261及びイルガキュア264;
チバガイギー社製のCG-24-61;
株式会社ADEKA製のアデカオプトマーSP-150、アデカオプトマーSP-151、アデカオプトマーSP-170及びアデカオプトマーSP-171;
株式会社ダイセル製のDAICAT II;
ダイセル・サイテック株式会社製のUVAC1590及びUVAC1591;
日本曹達株式会社製のCI-2064、CI-2639、CI-2624、CI-2481、CI-2734、CI-2855、CI-2823、CI-2758、及びCIT-1682;
ローディア社製のテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート トルイルクミルヨードニウム塩であるPI-2074;
3M社製のFFC509;
米国Sartomer社製のCD-1010、CD-1011及びCD-1012;
サンアプロ株式会社製のCPI-100P、CPI-101A、CPI-110P、CPI-110A及びCPI-210S;並びに
ダウ・ケミカル社製のUVI-6992及びUVI-6976を、含む。光カチオン重合開始剤(B)は、これらの化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
【0133】
カチオン重合性化合物(A)に対する光カチオン重合開始剤(B)の百分比は、1.5質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)は良好な保存安定性を有することができ、また過剰な光カチオン重合開始剤(B)を含有しないことで製造コスト削減が可能である。また、本実施形態では、上記のとおり、エポキシ化合物(A1)中の不純物イオンの総量の百分比が20質量%以下であることで、組成物(X)の反応性が高まるため、光カチオン重合開始剤(B)の百分比が1.5質量%以下であっても、高い反応性が得られやすい。このため、組成物(X)の高い反応性と良好な保存安定性とが両立しやすい。光カチオン重合開始剤(B)の百分比は、1.2質量%以下であればより好ましく、1.0質量%以下であれば更に好ましい。また、光カチオン重合開始剤(B)の百分比は、0.3質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)は特に良好なカチオン重合反応性を有することができる。光カチオン重合開始剤(B)の百分比は、0.5質量%以上であればより好ましく、0.7質量%以上であれば更に好ましい。
【0134】
組成物(X)は増感剤(C)を含有してもよい。増感剤(C)は、例えば9,10-ジブトキシアントラセン及び9,10-ジエトキシアントラセンのうちいずれか一方又は両方を含有する。樹脂成分全量に対する増感剤(C)の百分比は、0質量%より多く、1質量%以下の範囲内であることが好ましい。この場合、増感剤(C)が硬化物の透明性を阻害しにくく、そのため硬化物は良好な透明性を有することができる。増感剤(C)の量が、樹脂成分全量に対して0質量%より多く0.8質量%以下であることが更に好ましい。
【0135】
組成物(X)は、吸湿剤(D)を更に含有してもよい。組成物(X)が吸湿剤(D)を含有すると、硬化物は優れた吸湿性を有することができる。吸湿剤(D)の平均粒径が200nm以下であることが好ましい。この場合、吸湿剤(D)を含有するにもかかわらず、硬化物は高い透明性を有することができる。また、特に組成物(X)をインクジェット法で吐出する場合、吸湿剤(D)の平均粒径が200nm以下であると、組成物(X)がノズルに詰まりにくいという利点がある。さらに、吸湿剤(D)の平均粒径が200nm以下であると、吸湿剤(D)は、組成物(X)から作製される光学部品の表面の平滑性を損ないにくい。そのため、光学部品の表面は良好な平滑性を有することができる。
【0136】
吸湿剤(D)は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。吸湿剤(D)がゼオライト粒子を含有することが特に好ましい。
【0137】
吸湿剤(D)の平均粒径は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。この平均粒径が200nm以下であれば、硬化物は特に高い透明性を有することができる。また、この平均粒径が10nm以上であれば、吸湿剤(D)の良好な吸湿性を維持できる。なお、この平均粒径は、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径、すなわち累積50%径(D50)である。なお、測定装置としては、マイクロトラック・ベル株式会社のナノトラックNanotrac Waveシリーズを用いることができる。吸湿剤(D)の累積90%径(D90)が100nm以下であることも好ましい。この場合、硬化物は特に高い透明性を有することができる。
【0138】
組成物(X)の全量に対する吸湿剤(D)の百分比は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。吸湿剤(D)の百分比が1質量%以上であれば硬化物は特に高い吸湿性を有することができる。また、吸湿剤(D)の百分比が20質量%以下であれば組成物(X)の粘度を特に低減でき、組成物(X)がインクジェット法で吐出可能な程度の十分な低粘度を有することもできる。吸湿剤(D)の百分比は、3質量%以上であれば更に好ましく、5質量%以上であれば特に好ましい。また、吸湿剤(D)の百分比は、15質量%以下であればより好ましく、13質量%以下であれば特に好ましい。
【0139】
組成物(X)は、吸湿剤(D)以外の無機充填材を更に含有してもよい。
【0140】
組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合、組成物(X)は、分散剤(E)を更に含有してもよい。分散剤(E)は、吸湿剤(D)に吸着しうる界面活性剤である。分散剤(E)は、例えば吸湿剤(D)の粒子に吸着しうる吸着基(アンカーともいう)と、吸着基が吸湿剤(D)の粒子に吸着することでこの粒子に付着する鎖状又は櫛形状の分子骨格であるテールとを、有する。分散剤(E)は、例えばテールがアクリル系の分子鎖であるアクリル系分散剤と、テールがウレタン系の分子鎖であるウレタン系分散剤と、テールがポリエステル系の分子鎖であるポリエステル系分散剤とからなら群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0141】
組成物(X)が分散剤(E)を含有すると、吸湿剤(D)を組成物(X)中及び硬化物中で良好に分散させることができる。このため、硬化物及び光学部品が吸湿剤(D)を含有するにもかかわらず、硬化物及び光学部品の透明性が吸湿剤(D)によって低下されにくい。また、分散剤(E)は、組成物(X)の保管中における吸湿剤(D)の凝集を効果的に抑制できる。そのため組成物(X)の保存安定性が吸湿剤(D)によって低下されにくい。さらに、硬化物と窒化ケイ素及び酸化ケイ素との間の密着性が分散剤(E)によって低下されにくい。これは、分散剤(E)が前記のように吸湿剤(D)に吸着しやすいため、分散剤(E)が硬化物と窒化ケイ素及び酸化ケイ素との間の界面に影響を与えにくいからであると、考えられる。このため、光学部品はガラス製の基材との高い密着性を有することができる。また、窒化ケイ素及び酸化ケイ素は発光装置1におけるパッシベーション層6の材料として使用されることがある。このため、パッシベーション層6が窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されている場合、封止材5等の光学部品はパッシベーション層6と高い密着性を有することができる。
【0142】
発光装置1の構造について説明する。発光装置1は、光源と、光源が発する光を透過させる光学部品とを備える。例えば、発光装置1は、発光素子4と、発光素子4を覆う封止材5及びパッシベーション層6とを備える。この場合、発光素子4が光源であり、封止材5が光学部品であり、パッシベーション層6が無機質層である。封止材5とパッシベーション層6とは重なっている。
【0143】
発光素子4は、例えば発光ダイオードを含む。発光ダイオードは、例えば有機EL素子(有機発光ダイオード)とマイクロ発光ダイオードとのうち少なくとも一方を含む。発光素子4が有機発光ダイオードを含む場合は、発光素子4を備える発光装置1は例えば有機ELディスプレイである。発光素子4がマイクロ発光ダイオードを含む場合は、発光素子4を備える発光装置1は例えばマイクロLEDディスプレイである。なお、ELとはエレクトロルミネッセンスの略である。
【0144】
発光装置1の構造の例を、図1を参照して説明する。この発光装置1は、トップエミッションタイプである。発光装置1は、支持基板2、支持基板2と間隔をあけて対向する透明基板3、支持基板2の透明基板3と対向する面の上にある発光素子4、並びに発光素子4を覆うパッシベーション層6及び封止材5を備える。
【0145】
支持基板2は、例えば樹脂材料から作製されるが、これに限定されない。透明基板3は透光性を有する材料から作製される。透明基板3は、例えば、ガラス製基板又は透明樹脂製基板である。発光素子4は、例えば一対の電極41、43と、電極41、43間にある有機発光層42とを備える。有機発光層42は、例えば正孔注入層421、正孔輸送層422、有機発光層423及び電子輸送層424を備え、これらの層は前記の順番に積層している。
【0146】
発光装置1は複数の発光素子4を備え、かつ複数の発光素子4が、支持基板2上でアレイ9(以下素子アレイ9という)を構成している。素子アレイ9は、隔壁7も備える。隔壁7は、支持基板2上にあり、隣合う二つの発光素子4の間を仕切っている。隔壁7は、例えば感光性の樹脂材料をフォトリソグラフィ法で成形することで作製される。素子アレイ9は、隣合う発光素子4の電極43及び電子輸送層424同士を電気的に接続する接続配線8も備える。接続配線8は、隔壁7上に設けられている。
【0147】
パッシベーション層6は窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されることが好ましく、窒化ケイ素から作製されることが特に好ましい。図1に示す例では、パッシベーション層6は、第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62とを含む。第一パッシベーション層61は素子アレイ9に直接接触した状態で、素子アレイ9を覆うことで、発光素子4を覆っている。第二パッシベーション層62は、第一パッシベーション層61に対して、素子アレイ9とは反対側の位置に配置され、かつ第二パッシベーション層62と第一パッシベーション層61との間には間隔があけられている。第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62との間に、封止材5が充填されている。すなわち、発光素子4と、発光素子4を覆う封止材5との間に、第一パッシベーション層61が介在している。
【0148】
さらに、第二パッシベーション層62と透明基板3との間に、第二封止材52が充填されている。第二封止材52は、例えば透明な樹脂材料から作製される。第二封止材52の材質は特に制限されない。第二封止材52の材質は、封止材5と同じであっても、異なっていてもよい。
【0149】
組成物(X)を用いる封止材5の作製方法及び発光装置1の製造方法について説明する。
【0150】
本実施形態では、組成物(X)をインクジェット法で成形してから、組成物(X)に紫外線を照射して硬化することで、封止材5を作製することが好ましい。本実施形態では、インクジェット法で組成物(X)を塗布して成形することが可能である。
【0151】
組成物(X)をインクジェット法で塗布するに当たっては、組成物(X)が常温で十分に低い粘度を有する場合、例えば25℃における粘度が20mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合には、組成物(X)を加熱せずにインクジェット法で塗布することで成形できる。
【0152】
組成物(X)が加熱されることで低粘度化する性質を有する場合、組成物(X)を加熱してから組成物(X)をインクジェット法で塗布して成形してもよい。組成物(X)の40℃における粘度が20mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合、組成物(X)を僅かに加熱しただけで低粘度化させることができ、この低粘度化した組成物(X)をインクジェット法で吐出することができる。組成物(X)の加熱温度は、例えば20℃以上50℃以下である。
【0153】
より具体的には、例えばまず、支持基板2を準備する。この支持基板2の一面上に隔壁7を、例えば感光性の樹脂材料を用いてフォトリソグラフィ法で作製する。続いて、支持基板2の一面上に複数の発光素子4を設ける。発光素子4は、蒸着法、塗布法といった適宜の方法で作製できる。特に発光素子4を、インクジェット法といった塗布法で作製することが好ましい。これにより、支持基板2に素子アレイ9を作製する。
【0154】
次に、素子アレイ9の上に第一パッシベーション層61を設ける。第一パッシベーション層61は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0155】
次に、第一パッシベーション層61の上に組成物(X)を、例えばインクジェット法で成形して、塗膜を作製する。発光素子4の形成と組成物(X)の塗布のいずれにもインクジェット法を適用すれば、発光装置1の製造効率を特に向上できる。続いて、組成物(X)の塗膜に紫外線を照射することで硬化させて、封止材5を作製する。
【0156】
組成物(X)に紫外線を照射するに当たり、大気雰囲気等の酸素を含む雰囲気下で組成物(X)に紫外線を照射してもよく、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で組成物(X)に紫外線を照射してもよい。
【0157】
次に、封止材5の上に第二パッシベーション層62を設ける。第二パッシベーション層62は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0158】
次に、支持基板2の一面上に、第二パッシベーション層62を覆うように、紫外線硬化性の樹脂材料を設けてから、この樹脂材料に透明基板3を重ねる。透明基板3は、例えばガラス製基板又は透明樹脂製基板である。
【0159】
次に外部から透明基板3へ向けて紫外線を照射する。紫外線は透明基板3を透過して紫外線硬化性の樹脂材料へ到達する。これにより、紫外線硬化性の樹脂材料が硬化し、第二封止材52が作製される。
【0160】
本実施形態では、上述のとおり、発光装置1におけるパッシベーション層6と封止材5とに起因する発光効率の低下を生じにくくできる。
【0161】
封止材5の厚みは、例えば1μm以上20μm以下である。封止材5の厚みは、15μm以下であってもよい。この場合、封止材5を薄型化することで、発光装置1を薄型化することができ、折り曲げ可能な発光装置1を得ることも可能となる。また、封止材5の厚みが10μm以下であっても、組成物(X)が高い硬化性を有し得るため、封止材5は高いバリア性を有することができる。封止材5の厚みが8μm以下であればより好ましい。また、封止材5によって発光素子4への水分を効果的に抑制するためには、封止材5の厚みは3μm以上であることが好ましく、5μm以上であればより好ましい。
【0162】
封止材5に重なっているパッシベーション層6の厚みは、例えば0.1μm以上2μm以下である。上記のようにパッシベーション層6が第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62とを含む場合、第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62との各々の厚みが0.1μm以上2μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であればより好ましい。上記のとおり、本実施形態では組成物(X)の硬化性が高いことから封止材5は高いバリア性を有することができるため、パッシベーション層6の厚みが1μm以下であっても、発光素子4への水分の浸入を抑制できる。このようにパッシベーション層6の厚みを小さくすることで、折り曲げ可能な発光装置1が更に実現されやすくなる。
【0163】
なお、本実施形態に係る組成物(X)の用途は、発光素子4のための封止材5の作製に限られない。組成物(X)は、光源が発する光を透過させる種々の光学部品を作製するために用いることができる。例えば、光学部品がカラーレジストであってもよい。すなわち、例えば組成物(X)に蛍光体を含有させ、この組成物(X)からカラーフィルタにおけるカラーレジストを作製してもよい。このカラーフィルタを、例えば発光装置である有機ELディスプレイ、マイクロLEDディスプレイといった表示装置に設けることができる。
【実施例
【0164】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、本発明は下記実施例のみに制限されない。
【0165】
1.組成物の調製
下記表に示す成分を混合することで、実施例及び比較例の組成物を調製した。なお、表中に示される成分の詳細は次のとおりである。下記の成分の粘度はレオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用し、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定された値である。下記の成分の不純物イオン含有率は、不純物イオンの総量の割合であり、以下のように測定した値である。対象の成分10gとイオン交換水100gとをよく混ぜて試料溶液を得る。試料溶液を95℃の恒温槽に15分間入れ、続けて常温に戻した後、イオンクロマト装置にて試料溶液中の不純イオンを測定する。これにより得られた試料溶液中の不純物イオン中のカリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンの総量の、対象の成分の質量(10g)に対する割合を、不純物含有率として算出する。なお、エポキシ化合物中の不純物イオン含有率は、品番が同じであっても製造ロットの違いなどにより変動しうる。
-THI-DE/不純物イオン35ppm:ENEOS株式会社製、品番THI-DE、式(20a)に示す化合物、沸点260℃、粘度20mPa・s、不純物イオン含有率35質量ppm。
-THI-DE/精製品、不純物イオン15ppm:上記THI-DEと同量のイオン交換水とをディスパ―にて回転数500rpmで1時間混ぜて得られた溶液を蒸留することを2回繰り返し精製されたもの。不純物イオン含有率15質量ppm。
-THI-DE/精製品、不純物イオン25ppm:上記THI-DEと同量のイオン交換水とをディスパ―にて回転数500rpmで1時間混ぜて得られた溶液を蒸留することで精製されたもの。不純物イオン含有率25質量ppm。
-D1586/不純物イオン38ppm:1,7-オクタジエンジエポキシド、東京化成工業株式会社製、品番D1586、沸点240℃、粘度3mPa・s、不純物イオン含有率38質量ppm。
-D1586/精製品、不純物イオン19ppm:上記D1586と同量のイオン交換水とをディスパ―にて回転数500rpmで1時間混ぜて得られた溶液を蒸留することを2回繰り返し精製されたもの。不純物イオン含有率19質量ppm。
-OXT-221:東亞合成製、品番OXT-221、式(3)に示す化合物、沸点275℃、粘度11mPa・s。
-OXT-212:東亞合成製、品番OXT-212、式(3)に示す化合物、沸点255℃、粘度5mPa・s。
-CPI-210S:サンアプロ社製のトリアリールスルホニウム塩タイプ光酸発生剤、アニオン種(Rf)nPF6-n -、品番CPI-210S。
-UVS1101:9,10-ジエトキシアントラセン、川崎化成工業株式会社製、品番UVS1101。
【0166】
2.評価試験
実施例、参考例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表に示す。なお、比較例2については、試験条件において組成物を十分硬化できなかったためにいくつかの評価を行うことができなかった。
【0167】
(1)粘度
組成物の粘度を、レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用して、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定した。
【0168】
(2)揮発性
熱重量測定機を用い、組成物を100℃30分加熱した場合の重量変化率を測定した。その結果、重量変化率が10質量%以下である場合を「A」、10質量%超20質量%以下である場合を「B」、20質量%超の場合を「C」と、評価した。
【0169】
(3)インクジェット性
組成物をインクジェットプリンター(リコー社製、型番MH2420)のカートリッジに入れ、インクジェットプリンターにおけるノズルからカートリッジ内の組成物を吐出しうることを確認してから、ノズルから組成物を吐出させてテストパターンを連続で印刷した。組成物の液滴がノズルから吐出される様子を、ハイスピードカメラで撮影し、液滴が分離してサテライトが発生するか否かを確認した。その結果、液滴が分離しない場合を「A」、本来の液滴からサテライトが分離した後、サテライトが本来の液滴と一体化して再び一つの液滴になる場合を「B」、本来の液滴からサテライトが分離したまま一体化しない場合を「C」と、評価した。
【0170】
(4)硬化性
組成物を塗布して厚み10μmの塗膜と厚み5μmの塗膜とを作製し、この塗膜に、ウシオ株式会社製のLED-UV照射器(型番 E075IIHD、ピーク波長395nm)を用いて、大気下で、紫外線を照射強度3W/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で照射した。紫外線を照射した後の塗膜に指触試験を行い、タックが認められない場合は塗膜が硬化したものと判定し、タックが認められた場合は塗膜が硬化しなかったと判定した。その結果、厚み10μmの塗膜と厚み5μmの塗膜とのいずれも硬化した場合は「A」、厚み10μmの塗膜は硬化したが厚み5μmの塗膜は硬化しなかった場合は「B」と、厚み10μmの塗膜と厚み5μmの塗膜がいずれも硬化しなかった場合は「C」と、評価した。
【0171】
なお、厚み5μmの塗膜が硬化するということは、組成物に空気中の水に起因する重合阻害が生じにくいため、塗膜の体積に対する塗膜の表面の面積の比率が大きくても塗膜の硬化が阻害されにくかったためであると、推察される。
【0172】
(5)ガラス転移温度
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量5000mJ/cm2の条件で照射することで塗膜を光硬化させ、厚み200μmのフィルムを作製した。このフィルムから切り出したサンプルのガラス転移温度を、粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番DMA7100)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
【0173】
(6)アウトガス評価
組成物の硬化物を加熱した場合のアウトガスをヘッドスペース法でサンプリングしてガスクロマトグラフにより測定した。詳しくは、まず容積22mLのヘッドスペース用バイアルに組成物を100mg入れた。続いて、組成物に、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで組成物を硬化させた後、バイアルを封止した。続いて組成物を100℃で30分間加熱してから、バイアル中の気相部分をガスクロマトグラフに導入して分析した。その結果、得られたガスクロマトグラムのピーク面積に基づいて、組成物から発生したアウトガスの濃度を特定した。アウトガスの濃度とは、バイアルの容積(22mL)に対する、バイアルの気相中のアウトガスの体積分率である。
【0174】
なお、アウトガスの濃度は、トルエンを基準物質として特定した。具体的には、バイアル中でトルエンを揮発させることで、トルエン濃度が1000ppmと100ppmの二つの基準サンプルを用意した。各基準サンプルをガスクロマトグラフに導入して分析した。これにより得られた二つのクロマトグラムのピーク面積から、ピーク面積と濃度との関係を規定し、この結果に基づいて、上記のアウトガスの濃度を特定した。アウトガスの濃度(体積分率)が100ppm以下であれば、アウトガスの発生量が少ないと判定できる。
【0175】
(7)透過率
窒化ケイ素板の上に組成物を塗布してから、組成物に大気中でウシオ株式会社製のLED-UV照射器(型番E075IIHD、ピーク波長395nm)を用いて紫外線を照射強度3W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで硬化させた。これにより、厚み10μmのフィルムを作製した。このフィルムの、波長430nmの光の透過率を測定した。測定に当たっては、分光光度計(株式会社日立製作所製 U-4100)を用いた。
【0176】
(8)耐久性
上記の「(7)透過率」の場合と同じ方法及び条件で、フィルムを作製した。このフィルムを85℃85%RHの条件下に1000時間曝露してから、フィルムの透過率を測定した。その結果、透過率が97%以上の場合を「A」、透過率が95%以上の場合を「B」、透過率が95%以下の場合を「C」と、評価した。
【0177】
(9)保存安定性
組成物に、UV照射器(シーシーエス社製、型番CKL-200)を用いてピーク波長395nmの紫外線を、照射強度100mW/cm2かつ積算光量1.5J/cm2の条件で照射した。紫外線を照射したことにより生じた組成物の発熱量を、DSC(SII社製型番7020)で測定した。
【0178】
また、組成物を40℃の温度で4週間放置してから、上記と同じ条件で組成物の発熱量を測定した。
【0179】
組成物を放置したことによる発熱量の変化率が10%未満の場合を「A」、10%以上20%未満の場合を「B」、20%以上の場合を「C」と評価した。変化率が小さいほど、組成物を放置した際に組成物中の成分の反応が進行しにくいと判断できる。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
図1