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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】荷重センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/14 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
G01L1/14 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022558855
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021026934
(87)【国際公開番号】W WO2022091495
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020180300
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】森浦 祐太
(72)【発明者】
【氏名】浦上 進
(72)【発明者】
【氏名】松本 玄
(72)【発明者】
【氏名】松村 洋大
(72)【発明者】
【氏名】古屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090319(JP,A)
【文献】特開平06-323929(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103868631(CN,A)
【文献】国際公開第2018/096901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/079995(WO,A1)
【文献】特開2008-170425(JP,A)
【文献】特開2016-020836(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0062245(US,A1)
【文献】国際公開第2019/166635(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/14,5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合うように配置された第1基材および第2基材と、
前記第1基材の対向面に配置された導電弾性体と、
前記第2基材と前記導電弾性体との間に配置された導電性の線材と、
剛性を有し、前記導電弾性体と前記線材との間に配置された誘電体と、を備え、
前記誘電体は、荷重付与時に当該誘電体にかかる応力を逃がすための応力緩和部を有する、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の荷重センサにおいて、
前記応力緩和部は、前記誘電体が不連続な部分を含む、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の荷重センサにおいて、
前記応力緩和部は、前記誘電体に形成されたクラック状の間隙であり、
前記間隙は、荷重付与時に前記導電弾性体と前記線材とが接触しない幅を有する、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の荷重センサにおいて、
前記間隙は、前記誘電体の表面に向かって幅が広くなっている、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の荷重センサにおいて、
前記間隙は、前記誘電体を厚み方向に貫通している、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項6】
請求項2に記載の荷重センサにおいて、
前記応力緩和部は、前記誘電体の表面に沿って前記誘電体が分離することにより形成され、
前記応力緩和部に、前記誘電体よりも弾性が高い他の誘電体が形成されている、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項7】
請求項2に記載の荷重センサにおいて、
前記応力緩和部は、前記誘電体に形成された微細孔である、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項8】
請求項7に記載の荷重センサにおいて、
前記微細孔は、前記誘電体の厚み方向に延びている、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項9】
請求項8に記載の荷重センサにおいて、
前記微細孔は、前記誘電体の厚みに対し表面側から1/3以上の長さを有する、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか一項に記載の荷重センサにおいて、
前記誘電体は、酸化物により構成される、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか一項に記載の荷重センサにおいて、
前記誘電体は、前記線材の表面に形成されている、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項12】
請求項11に記載の荷重センサにおいて、
前記誘電体は、前記線材と同じ組成からなる酸化物により構成される、
ことを特徴とする荷重センサ。
【請求項13】
請求項1ないし12の何れか一項に記載の荷重センサにおいて、
前記誘電体は、比誘電率が3.5より大きい材料により構成される、
ことを特徴とする荷重センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から付与される荷重を静電容量の変化に基づいて検出する荷重センサに関する。
【背景技術】
【0002】
荷重センサは、産業機器、ロボットおよび車両などの分野において、幅広く利用されている。近年、コンピュータによる制御技術の発展および意匠性の向上とともに、人型のロボットおよび自動車の内装品等のような自由曲面を多彩に使用した電子機器の開発が進んでいる。それに合わせて、各自由曲面に高性能な荷重センサを装着することが求められている。
【0003】
以下の特許文献1には、押圧力が付与されるセンサ部と、押圧力を検出する検出器と、を備えた感圧素子が記載されている。この感圧素子において、センサ部は、第1の導電部材と、第1の導電部材および基材に挟まれた第2の導電部材と、誘電体と、を有する。第1の導電部材は、弾性を有する。第2の導電部材は、線状に構成され、一定の主方向に沿って波状に配置される。誘電体は、第1の導電部材と第2の導電部材との間に配置され、第1の導電部材または第2の導電部材の表面を少なくとも部分的に覆う。検出器は、第1の導電部材と第2の導電部材との間の静電容量の変化に基づいて、押圧力を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/096901号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような構成においては、センサ部が大きな荷重を受けると、その応力により、誘電体が破損することがある。この場合、破損箇所において、第1の導電部材と第2の導電部材とにショートが生じると、適正に荷重を検出できなくなってしまう。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、誘電体の破損を抑制して適正に荷重を検出することが可能な荷重センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主たる態様は、荷重センサに関する。本態様に係る荷重センサは、互いに向かい合うように配置された第1基材および第2基材と、前記第1基材の対向面に配置された導電弾性体と、剛性を有し、前記第2基材と前記導電弾性体との間に配置された導電性の線材と、前記導電弾性体と前記線材との間に配置された誘電体と、を備える。前記誘電体は、荷重付与時に当該誘電体にかかる応力を逃がすための応力緩和部を有する。
【0008】
本態様に係る荷重センサによれば、荷重付与時に誘電体にかかる応力が、応力緩和部により逃がされる。これにより、誘電体に大きな応力が掛かることが抑制されるため、荷重付与時の応力によって誘電体が破損することを防ぐことができる。よって、誘電体の破損を抑制して適正に荷重を検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のとおり、本発明によれば、誘電体の破損を抑制して適正に荷重を検出することが可能な荷重センサを提供できる。
【0010】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、実施形態1に係る、下側の基材および下側の基材の対向面に設置された導電弾性体を模式的に示す斜視図である。図1(b)は、実施形態1に係る、一対の導体線および糸を模式的に示す斜視図である。
図2図2(a)は、実施形態1に係る、上側の基材および上側の基材の対向面に設置された導電弾性体を模式的に示す斜視図である。図2(b)は、実施形態1に係る、組み立てが完了した荷重センサを模式的に示す斜視図である。
図3図3(a)、(b)は、実施形態1に係る、X軸負方向に見た場合の導体線の周辺を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る、Z軸負方向に見た場合の荷重センサの内部を模式的に示す平面図である。
図5図5は、実施形態1に係る、導体線の構成を模式的に示す斜視図である。
図6図6(a)、(b)は、実施形態1に係る、X軸負方向に見た場合の導体線の周辺を模式的に示す断面拡大図である。
図7図7(a)~(c)は、実施形態1に係る、発明者らが実際に作成した誘電体および間隙を走査電子顕微鏡で撮影した画像である。
図8図8(a)は、実施形態1に係る、実験で用いた荷重センサの各部のサイズを説明する図である。図8(b)は、実施形態1に係る、実験で得られた荷重と静電容量との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施形態2に係る、導体線の構成を模式的に示す斜視図である。
図10図10(a)、(b)は、実施形態2に係る、X軸負方向に見た場合の導体線の周辺を模式的に示す断面拡大図である。
図11図11は、実施形態3に係る、導体線の構成を模式的に示す斜視図である。
図12図12(a)、(b)は、実施形態3に係る、発明者らが実際に作成した誘電体および微細孔を走査電子顕微鏡で撮影した画像である。
【0012】
ただし、図面はもっぱら説明のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る荷重センサは、付与された荷重に応じて処理を行う管理システムや電子機器の荷重センサに適用可能である。
【0014】
管理システムとしては、たとえば、在庫管理システム、ドライバーモニタリングシステム、コーチング管理システム、セキュリティー管理システム、介護・育児管理システムなどが挙げられる。
【0015】
在庫管理システムでは、たとえば、在庫棚に設けられた荷重センサにより、積載された在庫の荷重が検出され、在庫棚に存在する商品の種類と商品の数とが検出される。これにより、店舗、工場、倉庫などにおいて、効率よく在庫を管理できるとともに省人化を実現できる。また、冷蔵庫内に設けられた荷重センサにより、冷蔵庫内の食品の荷重が検出され、冷蔵庫内の食品の種類と食品の数や量とが検出される。これにより、冷蔵庫内の食品を用いた献立を自動的に提案できる。
【0016】
ドライバーモニタリングシステムでは、たとえば、操舵装置に設けられた荷重センサにより、ドライバーの操舵装置に対する荷重分布(たとえば、把持力、把持位置、踏力)がモニタリングされる。また、車載シートに設けられた荷重センサにより、着座状態におけるドライバーの車載シートに対する荷重分布(たとえば、重心位置)がモニタリングされる。これにより、ドライバーの運転状態(眠気や心理状態など)をフィードバックすることができる。
【0017】
コーチング管理システムでは、たとえば、シューズの底に設けられた荷重センサにより、足裏の荷重分布がモニタリングされる。これにより、適正な歩行状態や走行状態へ矯正または誘導することができる。
【0018】
セキュリティー管理システムでは、たとえば、床に設けられた荷重センサにより、人が通過する際に、荷重分布が検出され、体重、歩幅、通過速度および靴底パターンなどが検出される。これにより、これらの検出情報をデータと照合することにより、通過した人物を特定することが可能となる。
【0019】
介護・育児管理システムでは、たとえば、寝具や便座に設けられた荷重センサにより、人体の寝具および便座に対する荷重分布がモニタリングされる。これにより、寝具や便座の位置において、人がどのような行動を取ろうとしているかを推定し、転倒や転落を防止することができる。
【0020】
電子機器としては、たとえば、車載機器(カーナビゲーション・システム、音響機器など)、家電機器(電気ポット、IHクッキングヒーターなど)、スマートフォン、電子ペーパー、電子ブックリーダー、PCキーボード、ゲームコントローラー、スマートウォッチ、ワイヤレスイヤホン、タッチパネル、電子ペン、ペンライト、光る衣服、楽器などが挙げられる。電子機器では、ユーザからの入力を受け付ける入力部に荷重センサが設けられる。
【0021】
以下の実施形態における荷重センサは、上記のような管理システムや電子機器の荷重センサにおいて典型的に設けられる静電容量型荷重センサである。このような荷重センサは、「静電容量型感圧センサ素子」、「容量性圧力検出センサ素子」、「感圧スイッチ素子」などと称される場合もある。また、以下の実施形態における荷重センサは、検出回路に接続され、荷重センサおよび検出回路により、荷重検出装置が構成される。以下の実施形態は、本発明の一実施形態あって、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されるものではない。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。便宜上、各図には互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。Z軸方向は、荷重センサ1の高さ方向である。
【0023】
<実施形態1>
図1(a)~図4を参照して、荷重センサ1の構成について説明する。
【0024】
図1(a)は、基材11と、基材11の対向面11a(Z軸正側の面)に設置された3つの導電弾性体12とを模式的に示す斜視図である。
【0025】
基材11は、弾性を有する絶縁性の部材であり、X-Y平面に平行な平板形状を有する。基材11は、非導電性を有する樹脂材料または非導電性を有するゴム材料から構成される。基材11に用いられる樹脂材料は、たとえば、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂(たとえば、ポリジメチルポリシロキサン(PDMS)など)、アクリル系樹脂、ロタキサン系樹脂、およびウレタン系樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂材料である。基材11に用いられるゴム材料は、たとえば、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、および天然ゴム等からなる群から選択される少なくとも1種のゴム材料である。
【0026】
導電弾性体12は、基材11の対向面11a(Z軸正側の面)に形成される。図1(a)では、基材11の対向面11aに、3つの導電弾性体12が形成されている。導電弾性体12は、弾性を有する導電性の部材である。各導電弾性体12は、Y軸方向に長い帯状の形状を有しており、X軸方向に所定の間隔をあけて並んで形成されている。各導電弾性体12のY軸負側の端部に、導電弾性体12と電気的に接続されたケーブル12aが設置される。
【0027】
導電弾性体12は、基材11の対向面11aに対して、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、およびグラビアオフセット印刷などの印刷工法により形成される。これらの印刷工法によれば、基材11の対向面11aに0.001mm~0.5mm程度の厚みで導電弾性体12を形成することが可能となる。
【0028】
導電弾性体12は、樹脂材料とその中に分散した導電性フィラー、またはゴム材料とその中に分散した導電性フィラーから構成される。
【0029】
導電弾性体12に用いられる樹脂材料は、上述した基材11に用いられる樹脂材料と同様、たとえば、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂(ポリジメチルポリシロキサン(たとえば、PDMS)など)、アクリル系樹脂、ロタキサン系樹脂、およびウレタン系樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂材料である。導電弾性体12に用いられるゴム材料は、上述した基材11に用いられるゴム材料と同様、たとえば、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、および天然ゴム等からなる群から選択される少なくとも1種のゴム材料である。
【0030】
導電弾性体12に用いられる導電性フィラーは、たとえば、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、C(カーボン)、ZnO(酸化亜鉛)、In(酸化インジウム(III))、およびSnO(酸化スズ(IV))等の金属材料や、PEDOT:PSS(すなわち、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)からなる複合物)等の導電性高分子材料や、金属コート有機物繊維、金属線(繊維状態)等の導電性繊維からなる群から選択される少なくとも1種の材料である。
【0031】
図1(b)は、図1(a)の構造体に載置された、3組の一対の導体線13および12本の糸14を模式的に示す斜視図である。
【0032】
一対の導体線13は、X軸方向に延びた1本の導体線を折り曲げることにより形成され、折り曲げ位置からX軸負方向に向かって延びた2本の導体線13aを含む。一対の導体線13を構成する2本の導体線13aは、所定の間隔をあけて並んで配置される。一対の導体線13は、図1(a)に示した3つの導電弾性体12の上面に重ねて配置される。ここでは、3組の一対の導体線13が3つの導電弾性体12の上面に重ねて配置されている。3組の一対の導体線13は、導電弾性体12に交差するように配置され、導電弾性体12の長手方向(Y軸方向)に沿って、所定の間隔をあけて並んで配置されている。一対の導体線13は、3つの導電弾性体12に跨がるよう、X軸方向に延びて配置される。導体線13aは、線状の導電部材と、当該導電部材の表面に形成された誘電体とからなる。導体線13aの構成については、追って図3(a)、(b)を参照して説明する。
【0033】
図1(b)のように3組の一対の導体線13が配置された後、各一対の導体線13は、一対の導体線13の延びる方向(X軸方向)に移動可能に、糸14で基材11に設置される。図1(b)に示す例では、12個の糸14が、導電弾性体12と一対の導体線13とが重なる位置以外の位置において、一対の導体線13を基材11に接続している。糸14は、化学繊維、天然繊維、またはそれらの混合繊維などにより構成される。
【0034】
図2(a)は、基材11の上側に重ねて配置される基材21と、基材21の対向面21a(Z軸負側の面)に設置された3つの導電弾性体22とを模式的に示す斜視図である。
【0035】
基材21は、基材11と同じ大きさおよび形状を有し、基材11と同じ材料により構成される。導電弾性体22は、基材21の対向面21a(Z軸負側の面)において、導電弾性体12に対向する位置に形成され、X軸方向に所定の間隔をあけて並んで形成されている。導電弾性体22は、導電弾性体12と同じ大きさおよび形状を有し、導電弾性体12と同じ材料により構成される。導電弾性体22は、導電弾性体12と同様、所定の印刷工法により基材21のZ軸負側の面に形成される。各導電弾性体22のY軸負側の端部に、導電弾性体22と電気的に接続されたケーブル22aが設置される。
【0036】
図2(b)は、図1(b)の構造体に図2(a)の構造体が設置された状態を模式的に示す斜視図である。
【0037】
図1(b)に示した構造体の上方(Z軸正側)から、図2(a)に示した構造体が配置される。このとき、基材11と基材21は、対向面11aと対向面21aとが互いに向かい合うように配置され、導電弾性体12と導電弾性体22とが重なるように配置される。そして、基材21の外周四辺が基材11の外周四辺に対して、シリコーンゴム系接着剤や糸などで接続されることにより、基材11と基材21とが固定される。これにより、3組の一対の導体線13は、3つの導電弾性体12と3つの導電弾性体22とによって挟まれる。こうして、図2(b)に示すように、荷重センサ1が完成する。
【0038】
図3(a)、(b)は、X軸負方向に見た場合の導体線13aの周辺を模式的に示す断面図である。図3(a)は、荷重が加えられていない状態を示し、図3(b)は、荷重が加えられている状態を示している。
【0039】
図3(a)、(b)に示すように、導体線13aは、線材31と、線材31に形成された誘電体32と、により構成される。
【0040】
線材31は、たとえば、導電性の金属材料により構成される。この他、線材31は、ガラスからなる芯線およびその表面に形成された導電層により構成されてもよく、樹脂からなる芯線およびその表面に形成された導電層などにより構成されてもよい。実施形態1では、線材31は、アルミニウムにより構成される。誘電体32は、電気絶縁性を有し、たとえば、樹脂材料、セラミック材料、金属酸化物材料などにより構成される。実施形態1では、誘電体32は、酸化アルミニウム(アルミナ)により構成される。
【0041】
なお、誘電体32は、応力緩和部40(図5図6(b)参照)を備えるが、図3(a)、(b)では、便宜上、図示が省略されている。応力緩和部40については、追って図5図6(b)を参照して説明する。
【0042】
図3(a)に示すように、荷重が加えられていない場合、導電弾性体12と導体線13aとの間にかかる力、および、導電弾性体22と導体線13aとの間にかかる力は、ほぼゼロである。この状態から、図3(b)に示すように、基材11の下面に対して上方向に荷重が加えられ、基材21の上面に対して下方向に荷重が加えられると、導体線13aによって導電弾性体12、22が変形する。
【0043】
図3(b)に示すように、荷重が加えられると、導体線13aは、導電弾性体12、22に包まれるように導電弾性体12、22に近付けられ、導体線13aと導電弾性体12、22との間の接触面積が増加する。これにより、線材31と導電弾性体12との間の静電容量および線材31と導電弾性体22との間の静電容量が変化する。そして、導体線13aの領域の静電容量が検出されることにより、この領域にかかる荷重が算出される。
【0044】
図4は、Z軸負方向に見た場合の荷重センサ1の内部を模式的に示す平面図である。図4では、便宜上、糸14の図示が省略されている。
【0045】
荷重センサ1の計測領域Rには、X軸方向およびY軸方向に並ぶ9個のセンサ部が設定されている。具体的には、計測領域RをX軸方向に3分割しY軸方向に3分割した9個の領域が、9個のセンサ部に割り当てられる。各センサ部の境界は、当該センサ部と隣り合うセンサ部の境界と接している。9個のセンサ部は、導電弾性体12、22と一対の導体線13とが交わる9個の位置に対応しており、9個の位置に、荷重に応じて静電容量が変化する9個のセンサ部A11、A12、A13、A21、A22、A23、A31、A32、A33が形成されている。
【0046】
各センサ部は、導電弾性体12、22と一対の導体線13を含み、一対の導体線13は、静電容量の一方の極(たとえば陽極)を構成し、導電弾性体12、22は、静電容量の他方の極(たとえば陰極)を構成する。すなわち、一対の導体線13内の線材31(図3(a)、(b)参照)は、荷重センサ1(静電容量型荷重センサ)の一方の電極を構成し、導電弾性体12、22は、荷重センサ1(静電容量型荷重センサ)の他方の電極を構成し、一対の導体線13内の誘電体32(図3(a)、(b)参照)は、荷重センサ1(静電容量型荷重センサ)において静電容量を規定する誘電体に対応する。
【0047】
各センサ部に対してZ軸方向に荷重が加わると、荷重により一対の導体線13(2つの導体線13a)が導電弾性体12、22に包み込まれる。これにより、一対の導体線13と導電弾性体12、22との間の接触面積が変化し、当該一対の導体線13と当該導電弾性体12、22との間の静電容量が変化する。
【0048】
一対の導体線13のX軸負側の端部、ケーブル12aのY軸負側の端部、およびケーブル22aのY軸負側の端部は、荷重センサ1に対して設置される検出回路に接続される。
【0049】
図4に示すように、3組の導電弾性体12、22から引き出されたケーブル12a、22aをラインL11、L12、L13と称し、3組の一対の導体線13内の線材31をラインL21、L22、L23と称する。ラインL11に接続された導電弾性体12、22が、ラインL21、L22、L23と交わる位置が、それぞれ、センサ部A11、A12、A13であり、ラインL12に接続された導電弾性体12、22が、ラインL21、L22、L23と交わる位置が、それぞれ、センサ部A21、A22、A23であり、ラインL13に接続された導電弾性体12、22が、ラインL21、L22、L23と交わる位置が、それぞれ、センサ部A31、A32、A33である。
【0050】
センサ部A11に対して荷重が加えられると、センサ部A11において一対の導体線13と導電弾性体12、22との接触面積が増加する。したがって、ラインL11とラインL21との間の静電容量を検出することにより、センサ部A11において加えられた荷重を算出することができる。同様に、他のセンサ部においても、当該他のセンサ部において交わる2つのライン間の静電容量を検出することにより、当該他のセンサ部において加えられた荷重を算出することができる。
【0051】
図5は、導体線13aの構成を模式的に示す斜視図である。
【0052】
線材31としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などの弁作用金属や、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)などが用いられる。また、線材31の直径は、たとえば、10μm以上1500μm以下でもよく、50μm以上800μm以下でもよい。このような線材31の構成は、線材強度と抵抗の観点から好ましい。誘電体32の厚みは、5nm以上100μm以下が好ましく、センサ感度等の設計により適宜選択することができる。
【0053】
実施形態1では、上述したように、導体線13aは、アルミニウムからなる線材31と、酸化アルミニウムからなる誘電体32とにより構成される。ここで、酸化アルミニウムからなる誘電体32は、陽極酸化処理(アルマイト処理)により、アルミニウムの線材31の表面に形成される。これにより、線材31の表面に、アルミニウムの酸化物(アルマイト)の皮膜が形成される。陽極酸化処理(アルマイト処理)は、硫酸、しゅう酸、リン酸、ほう酸等の無機酸溶液、あるいは有機酸溶液を用い、0℃~80℃の条件下で、適切な電圧(1~500V)を印加することで実施される。このとき、線材31の表面に形成される誘電体32には、荷重付与時に誘電体32にかかる応力を逃がすための応力緩和部40が形成される。ここでは、応力緩和部40は、誘電体32が形成されていない領域のことである。実施形態1の応力緩和部40は、誘電体32に形成されたクラック状の間隙41である。
【0054】
また、誘電体32の表面における算術平均粗さRaは、たとえば、0.01μm以上100μm以下でもよく、0.05μm以上50μm以下でもよい。このような場合、導電弾性体12、22と適度な界面密着性を有することができる。算術平均粗さRaは、線材31の長手方向に垂直な3箇所の断面において、境界面の軌跡の平均線を求め、JIS B0601-1994に準拠して、当該平均線を基準とするRaを測定し、3つの測定値の平均値として求めればよい。
【0055】
誘電体32がアルミニウムの酸化物の場合、主成分のアルミニウム以外に、S、P、Nを0.1~10atm%含有することがあり、このような場合、誘電体32自体の応力緩和性が向上し、外的圧力・衝撃などによる割れなどを抑制できる。また、誘電体32は、アモルファスであれば同様の効果が得られるため好ましい。
【0056】
間隙41は、陽極酸化処理(アルマイト処理)において、膜成長の調整により形成される。たとえば、高速で誘電体32(酸化アルミニウム)の皮膜を成長させることにより、誘電体32にクラック状の間隙41を生じさせることができる。また、陽極酸化処理(アルマイト処理)の条件によって、線材31の周方向における間隙41の幅や、線材31の径方向における間隙41の長さを制御できる。間隙41の周方向の幅は、0.5μm~5μmである。また、間隙41は、誘電体32の表面に向かって(線材31の中心から外に向かって)、幅が広くなるよう形成される。間隙41は、誘電体32を厚み方向に貫通している。また、間隙41は、線材31の延びる方向(X軸方向)に沿って誘電体32に形成される。
【0057】
間隙41は、誘電体32の厚みに対し表面側から1/3以上の長さを有すること、また、幅に対して長手方向に3倍以上の長さを有する線状形状とすることが望ましい。これにより、適正な応力緩和効果を実現できる。また、線材31の長手方向に垂直な断面において、間隙41が2箇所以上、好ましくは4箇所以上形成されることにより、応力緩和効果が高まる。
【0058】
図6(a)、(b)は、X軸負方向に見た場合の導体線13aの周辺を模式的に示す断面拡大図である。図6(a)、(b)では、便宜上、基材11、21の図示が省略されている。図6(a)は、基材11、21に荷重が加えられていない状態を示し、図6(b)は、基材11、21に荷重が加えられている状態を示している。
【0059】
図6(a)に示すように、基材11、21に荷重が加えられていない場合、間隙41の幅は、初期状態の幅となっている。この状態から基材11、21に荷重が加えられると、図6(b)に示すように、荷重によって誘電体32に生じる応力により、間隙41に向かって誘電体32が移動し、間隙41の幅が狭くなる。すなわち、誘電体32にかかる応力は、間隙41へと逃がされる。これにより、誘電体32が破損することを防ぐことができる。
【0060】
また、間隙41は、導電弾性体12、22と線材31とが接触しない程度の幅に形成される。図6(b)に示すように基材11、21に荷重が加えられた状態において、導電弾性体12、22が間隙41に入り込み線材31と接触すると、この領域を含むセンサ部において適正に荷重を検出できなくなる。したがって、間隙41は、基材11、21に荷重が加えられた場合に導電弾性体12、22と線材31とが接触しない程度の幅に形成される。
【0061】
なお、誘電体32に応力緩和部40(実施形態1では間隙41)が設けられない場合、基材11、21に荷重が加えられると、この荷重により誘電体32に生じる応力によって誘電体32が破れ、誘電体32に約10μm以上の孔が生じることがある。この場合、この孔を介して導電弾性体12、22と線材31とが接触して電気的に導通するため、荷重を適正に検出できなくなってしまう。これに対し、実施形態1によれば、荷重付与時に誘電体32にかかる応力が、応力緩和部40に逃がされるため、応力による誘電体32の破損を抑制できる。よって、荷重センサ1にかかる荷重を適正に検出できる。
【0062】
図7(a)~(c)は、発明者らが実際に作成した誘電体32および間隙41を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像である。
【0063】
図7(a)は、導体線13aが伸びる方向に垂直な方向から撮影した場合の導体線13a表面の画像である。図7(a)の中央付近において、間隙41が上下方向(図5ではX軸方向)に延びている。この間隙41の幅d1は、約1μmである。
【0064】
図7(b)は、導体線13aの断面画像である。図7(b)には、導体線13aの半分の領域の断面画像が示されており、誘電体32には、領域A1、A2、A3、A4の位置にクラック状の間隙41が形成されている。
【0065】
図7(c)は、図7(b)の領域A3の拡大画像である。領域A3の間隙41は、誘電体32の表面に向かって幅が広くなっており、誘電体32を厚み方向に貫通している。具体的には、誘電体32の表面における間隙41の幅d2は、約1μmであり、線材31の表面における間隙41の幅d3は、1μmより小さい。
【0066】
次に、発明者らは、実施形態1に基づく荷重センサ1を実際に作成し、作成した荷重センサ1に対して繰り返し荷重を加えて、適正に荷重を検出できるか否かを検証する実験を行った。
【0067】
図8(a)を参照して、実験で用いた荷重センサ1の各部のサイズについて説明する。図8(a)は、X軸負方向に見た場合の導体線13aの周辺を模式的に示す断面図である。この実験では、1つのセンサ部のみが形成されており、当該センサ部において、X軸方向に延びた2本の導体線13aを挟んで、図3(a)、(b)と同様、基材11、21および導電弾性体12、22が配置されている。
【0068】
実験では、基材11、21の厚みd10を1mmとし、導電弾性体12、22の厚みd20を30μm程度とし、導体線13aの直径d30を0.5mmとし、線材31の直径d31を0.494mm程度とし、誘電体32の厚みd32を6.3μm~6.7μmとした。誘電体32には、図5図7(b)に示したように、応力緩和部40として間隙41を形成した。なお、この実験では、基材11、21を、便宜上、導電弾性体12、22と同じ材料により構成した。
【0069】
導電弾性体12、22をグランド(GND)に接続し、2つの線材31を互いに接続した。図8(a)のように設定した荷重センサ1を固定台に設置し、基材21の上から繰り返し荷重を付与した。そして、荷重を1000回、2000回、3000回、4000回、5000回、10000回付与した後、荷重の付与時に線材31と導電弾性体12、22との間の静電容量を測定した。
【0070】
図8(b)は、実験で得られた荷重と静電容量との関係を示すグラフである。
【0071】
図8(b)に示すように、荷重を所定回数だけ付与した後に得られる曲線は、いずれも荷重に応じて一意に容量が決定される適正な形状となっている。誘電体32に破損が生じると、所定の大きさ以上の荷重が付与されることにより、導電弾性体12、22と線材31との間に短絡が生じ、静電容量値が急激に低下する。図8(b)では、何れの曲線においても、このような静電容量値の急激な低下は生じていない。
【0072】
したがって、本実施形態のように、誘電体32に応力緩和部40として間隙41が形成されると、10000回程度の十分な回数の荷重が加えられたとしても、誘電体32の破損を抑制できることが分かった。また、10000回程度の荷重が加えられた後でも、荷重と静電容量との関係を示す曲線は適正な形状であるため、静電容量に基づいて適正に荷重を検出できることが分かった。
【0073】
<実施形態1の効果>
実施形態1によれば、以下の効果が奏される。
【0074】
図5図7(c)に示したように、誘電体32は、荷重付与時に当該誘電体32にかかる応力を逃すための応力緩和部40を有する。これにより、誘電体32に大きな応力が掛かることが抑制されるため、荷重付与時の応力によって誘電体32が破損することを防ぐことができる。よって、誘電体32の破損を抑制して適正に荷重を検出することができる。
【0075】
応力緩和部40は、誘電体32が不連続な部分(間隙41)を含む。これにより、荷重付与時に誘電体32に掛かる応力が不連続な部分に逃される。よって、応力による誘電体32の破損が生じにくくなる。
【0076】
応力緩和部40は、誘電体32に形成されたクラック状の間隙41であり、間隙41は、荷重付与時に導電弾性体12、22と線材31とが接触しない幅を有する。実施形態1では、陽極酸化法を用いることにより、荷重付与時に導電弾性体12、22と線材31とが接触しない幅の間隙41(クラック)を、製造工程において容易に形成できる。よって、荷重検出の精度を維持しながら、破損防止のためのクラックを容易に形成できる。
【0077】
間隙41は、誘電体32の表面に向かって幅が広くなっている。通常、荷重付与時には、誘電体32の表面側において、誘電体32の伸縮がより大きくなると想定される。したがって、誘電体32の表面側において間隙41の幅を広くして、誘電体32の伸縮の自由度を高めることにより、誘電体32の破損を円滑に抑制できる。
【0078】
間隙41は、誘電体32を厚み方向に貫通している。これにより、誘電体32の伸縮の自由度をさらに高めることができるため、さらに誘電体32の破損を抑制できる。
【0079】
誘電体32は、酸化物(酸化アルミニウム)により構成される。誘電体32が酸化物により構成されると、誘電体32の厚みを小さくできるとともに、誘電体32の誘電率を高めることができる。これにより、荷重センサ1の感度を高めることができる。なお、一般に誘電体32の厚みを小さくすると、荷重付与時の応力によって誘電体32が破損しやすくなる。これに対し、実施形態1によれば、上記のように応力緩和部40が設けられることにより、誘電体32の破損を抑制できる。
【0080】
誘電体32は、線材31の表面に形成されている。これにより、線材31の表面に誘電体32を形成するだけで、導電弾性体12、22と線材31との間に誘電体を設置できる。
【0081】
誘電体32は、線材31(アルミニウム)と同じ組成からなる酸化物(酸化アルミニウム)により構成される。これにより、線材31と誘電体32との界面強度が強固となるため、荷重付与時の応力によって、誘電体32が線材31から剥がれにくくなる。よって、荷重センサ1の信頼性を高めることができる。また、線材31がアルミニウムにより構成され、誘電体32が酸化アルミニウムにより構成されると、簡易なプロセス(アルマイト処理)で、安価かつ迅速に導体線13aを形成できる。
【0082】
誘電体32は、比誘電率が8.5程度の酸化アルミニウムにより構成されている。このように、比誘電率が3.5より大きい材料により誘電体32が構成されると、導電弾性体12、22と線材31との間の静電容量が高くなるため、荷重センサ1の感度特性を高めることができる。
【0083】
<実施形態2>
実施形態1では、応力緩和部40は、誘電体32に形成された間隙41であった。しかしながら、荷重付与時に誘電体32にかかる応力を逃すことができれば、応力緩和部40には、間隙41に代えて他の誘電体が配置されてもよい。実施形態2では、応力緩和部40に他の誘電体42が配置される。実施形態2のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0084】
図9は、実施形態2に係る、導体線13aの構成を模式的に示す斜視図である。
【0085】
実施形態2では、実施形態1と同様にして、誘電体32が線材31の表面に形成され、誘電体32には、実施形態1と同様の間隙41が形成される。そして、この間隙41に、誘電体32よりも弾性が高い(誘電体32よりも弾性率が低い)他の誘電体42が、たとえば電着処理により形成される。他の誘電体42は、たとえば、樹脂材料により構成される。他の誘電体42は、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂(たとえば、ポリエチレンテレフレート樹脂)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂材料である。
【0086】
なお、他の誘電体42の誘電率は、誘電体32の誘電率と同程度に設定される。ただし、これに限らず、他の誘電体42の誘電率は、誘電体32の誘電率より大きくてもよく、誘電体32の誘電率より小さくてもよい。
【0087】
図10(a)、(b)は、実施形態2に係る、X軸負方向に見た場合の導体線13aを模式的に示す断面拡大図である。
【0088】
図10(a)、(b)に示すように、実施形態2においても、基材11、21に荷重が加えられると、荷重により誘電体32に生じた応力により他の誘電体42に向かって誘電体32が移動し、他の誘電体42の幅が狭くなる。すなわち、誘電体32にかかる応力は、他の誘電体42へと逃がされる。これにより、誘電体32が破損することを防ぐことができる。
【0089】
<実施形態2の効果>
実施形態2によれば、以下の効果が奏される。
【0090】
応力緩和部40は、誘電体32の表面に沿って誘電体32が分離することにより形成され、応力緩和部40に、誘電体32よりも弾性が高い他の誘電体42が形成されている。これにより、基材11、21に荷重が加えられることにより誘電体32にかかる応力が、応力緩和部40に形成された他の誘電体42へと逃がされるため、誘電体32の破損を抑制できる。また、応力緩和部40に他の誘電体42が形成されているため、応力緩和部40に間隙41が形成されている場合に比べて、荷重付与時の誘電率の変化を安定させることができる。
【0091】
<実施形態3>
実施形態1では、応力緩和部40は、数μm程度の幅を有し、導体線13aの延びる方向(Y軸方向)に延びた間隙41であった。実施形態3では、応力緩和部40として、間隙41に代えて、微細孔が形成される。実施形態3のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0092】
図11は、実施形態3に係る、導体線13aの構成を模式的に示す斜視図である。
【0093】
実施形態3では、陽極酸化処理(アルマイト処理)の設定が調整されることにより、線材31の全周に形成される誘電体32に、微細孔43が形成される。微細孔43は、誘電体32の厚み方向(線材31の中心に対して径方向)に延びている。微細孔43は、誘電体32の厚みに対し表面側から1/3以上の長さを有する。微細孔43は、円柱形状の孔である。誘電体32の厚み方向に垂直な方向における微細孔43の径は、2nm程度である。誘電体32形成時の陽極酸化処理(アルマイト処理)の条件を調整することによって、微細孔43の径や長さを制御できる。微細孔43の径は、1nm以上100nm以下が好ましい。また、表面から観察したとき、100箇所以上/mmとすることで、応力緩和効果が高まる。微細孔43に加えて、上記実施形態の間隙41や他の誘電体42が併せて形成されてもよい。
【0094】
図12(a)、(b)は、発明者らが実際に作成した誘電体32および微細孔43を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像である。
【0095】
図12(a)は、導体線13aがびる方向に垂直な方向から撮像した場合の導体線13a表面の画像である。図12(a)において、非常に小さい微細孔43の開口が、誘電体32の表面に並んで形成されていることが分かる。
【0096】
図12(b)は、線材31と誘電体32の境界付近における導体線13aの断面画像ある。図12(b)において、右下から左上に向かう方向が、線材31の中心から外側に向かう方向である。線材31の中心から外側に向かう方向に沿って、複数の微細孔43が延びていることが分かる。
【0097】
<実施形態3の効果>
実施形態3によれば、以下の効果が奏される。
【0098】
応力緩和部40は、誘電体32に形成された微細孔43である。これにより、荷重が加えられたときに、誘電体32にかかる応力が微細孔43に逃がされるため、誘電体32の破損を抑制できる。
【0099】
微細孔43は、誘電体32の厚み方向に延びている。これにより、荷重付与時の応力によって誘電体32が厚み方向に垂直な方向に伸縮しても、この伸縮が微細孔43によって吸収される。これにより、荷重付与時の応力によって誘電体32が破損することを、より効果的に抑制できる。
【0100】
微細孔43は、誘電体32の厚みに対し表面側から1/3以上の長さを有する。これにより、厚み方向に垂直な方向における誘電体32の伸縮の自由度を高めることができるため、適正な応力緩和効果を実現でき、誘電体32の破損を抑制できる。また、微細孔43は極めて小さな径の孔であるため、荷重付与時に導電弾性体12、22と線材31とが意図せず接触してしまうこと回避できる。
【0101】
<変更例>
荷重センサ1の構成は、上記実施形態に示した構成以外に、種々の変更が可能である。
【0102】
たとえば、上記実施形態1、2では、図6(a)、(b)および図10(a)、(b)に示したように、線材31の周方向において4つの応力緩和部40が設けられたが、線材31の表面に設けられる応力緩和部40の数は、これに限らない。
【0103】
また、上記実施形態1~3では、線材31がアルミニウムにより構成され、誘電体32が酸化アルミニウムにより構成された。しかしながら、線材31および誘電体32を構成する材料は、これに限らない。たとえば、線材31がタンタルにより構成され、誘電体32が酸化タンタルにより構成されてもよい。また、線材31がニオブにより構成され、誘電体32が酸化ニオブにより構成されてもよい。この他、線材31として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などの弁作用金属、およびこれを含む合金を用いることができる。この場合も、誘電体32が、線材31の酸化物により構成される。このように、誘電体32が線材31と同じ組成からなる酸化物の場合、上述したように、誘電体32が線材31から剥がれにくくなり、荷重センサ1の信頼性を高めることができる。
【0104】
また、上記実施形態1~3において、誘電体32は、必ずしも線材31と同じ組成からなる酸化物でなくてもよい。たとえば、線材31が銅により構成され、誘電体32が酸化アルミニウムにより構成されてもよい。ただし、この場合は、線材31と誘電体32との界面強度が強固になりにくいため、上記実施形態1~3のように、誘電体32が線材31と同じ組成からなる酸化物であるのが好ましい。
【0105】
また、上記実施形態1~3では、応力緩和部40を有する誘電体32が、陽極酸化処理(アルマイト処理)により、線材31の表面に形成されたが、誘電体32の形成手法は、これに限られるものではない。間隙41、他の誘電体42および微細孔43等からなる応力緩和部40を、荷重付与時に線材31と導電弾性体12、22とが接触することを回避しつつ、適正に形成可能な限りにおいて、陽極酸化法に基づく処理以外の処理によって誘電体32が形成されてもよい。
【0106】
また、上記実施形態1では、図5図7(c)に示したように、間隙41は、誘電体32を厚み方向に貫通していたが、これに限らず、誘電体32の厚み方向の一部に設けられてもよい。また、上記実施形態2では、図9図10(b)に示したように、他の誘電体42は、誘電体32を厚み方向に貫通する間隙に設置されたが、これに限らず、誘電体32の厚み方向の一部に設けられた切欠きに設置されてもよい。また、上記実施形態3において、微細孔43は、誘電体32を厚み方向に貫通するよう構成されてもよい。
【0107】
なお、間隙41および他の誘電体42が、誘電体32の厚み方向の一部に設けられる場合、これらの構成は、誘電体32の表面側に設けられるのが好ましく、誘電体32の厚みの1/3以上の長さで設けられるのが好ましい。これにより、荷重付与時の応力の影響をより受けやすい表面側の誘電体32を、間隙41および他の誘電体42に円滑に移動させることができ、応力による誘電体32の破損を適切に抑制できる。
【0108】
また、上記実施形態1では、陽極酸化処理(アルマイト処理)において、膜成長を調整することにより、間隙41を有する誘電体32を線材31の表面に形成したが、誘電体32において間隙41を設ける手法はこれに限らない。たとえば、線材31の表面にマスキング処理を施し、この状態で誘電体32を線材31の表面に形成してもよい。これにより、マスキング処理が施された位置に、クラック状の間隙41が形成される。また、線材31の表面に隙間無く誘電体32を形成した後、エッチングにより間隙41を形成してもよい。
【0109】
また、上記実施形態2においても、上述した実施形態1の場合に間隙41を形成可能な他の手法により、他の誘電体42に対応する間隙が誘電体32に形成されてもよい。なお、実施形態2では、誘電体32に形成される間隙に他の誘電体42が配置されるため、誘電体32の間隙の幅は、実施形態1の間隙41の幅よりも数段大きくてもよい。したがって、たとえば、線材31の全周に亘って誘電体32を形成し、誘電体32の一部を削り取ることにより、他の誘電体42を配置するための間隙を形成してもよい。また、線材31にテープや糸などのマスキング部材を設置し、この状態で誘電体32を線材31の表面に形成してもよい。これにより、マスキング部材の位置に、他の誘電体42を配置するための間隙が形成される。
【0110】
また、上記実施形態3においても、誘電体32において微細孔43を設ける手法は、陽極酸化処理(アルマイト処理)に限らない。
【0111】
また、上記実施形態1~3では、図2(b)に示したように、荷重センサ1は、3組の一対の導体線13を備えたが、少なくとも1組の一対の導体線13を備えればよい。たとえば、荷重センサ1が備える一対の導体線13は、1組でもよい。
【0112】
また、上記実施形態1~3では、図2(b)に示したように、荷重センサ1は、上下に対向する3組の導電弾性体12、22を備えたが、少なくとも1組の導電弾性体12、22の組を備えればよい。たとえば、荷重センサ1に備える導電弾性体12、22の組は、1組でもよい。
【0113】
また、上記実施形態1~3において、基材21側の導電弾性体22は省略されてもよい。この場合、一対の導体線13は、基材11側の導電弾性体12と基材21の対向面21aとによって挟まれ、荷重に応じて一対の導体線13が導電弾性体12にめり込むことにより、各センサ部における静電容量が変化する。また、基材21側の導電弾性体22が省略される場合、基材21に代えて、シート状の基材が設置されてもよい。
【0114】
また、上記実施形態1~3では、一対の導体線13は、Y軸方向に並ぶ2つの導体線13aがX軸方向の端部で繋がった形状とされたが、一対の導体線13に代えて、1本の導体線が配置されてもよく、3本以上の導体線が配置されてもよい。また、一対の導体線13の形状は、平面視において、直線形状でなくてもよく、波形状であってもよい。
【0115】
また、上記実施形態1~3では、誘電体32は、線材31の表面に形成されたが、これに限らず、導電弾性体12、22の表面に形成されてもよい。
【0116】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 荷重センサ
11、21 基材(第1基材、第2基材)
11a、21a 対向面
12、22 導電弾性体(他の導電弾性体)
31 線材
32 誘電体
40 応力緩和部
41 間隙
42 他の誘電体
43 微細孔
図1
図2
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図12