(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】光導波路及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/138 20060101AFI20241011BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
G02B6/138
G02B6/122
(21)【出願番号】P 2019552394
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2018041590
(87)【国際公開番号】W WO2019093460
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-08-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017216095
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】前田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直幸
(72)【発明者】
【氏名】中芝 徹
(72)【発明者】
【氏名】栗副 潤子
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】松川 直樹
【審判官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-016017(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056474(WO,A1)
【文献】特開2016-102883(JP,A)
【文献】特開2012-163838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127021(US,A1)
【文献】特開2004-294720(JP,A)
【文献】特開2012-088634(JP,A)
【文献】国際公開第2012/060092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率のコア形成層と、前記コア形成層の第一の主面に接合された低屈折率の第一クラッド層と、を備え、
前記コア形成層は、その平面方向において、コア部(A)と、コア部(A)の両側方に隣接する側面クラッド部(B)と、側面クラッド部(B)の他の側方に隣接する、光伝送に使用されない高屈折率部(C)を有し、
コア部(A)は、平面方向において、中央領域と、前記中央領域から側面クラッド部(B)との界面に向かって屈折率が連続的に低下するGI領域を有し、
側面クラッド部(B)は、屈折率が一定となる領域を有していること
を特徴とする、光導波路を製造する方法であって、
前記第一クラッド層に前記コア形成層を形成するための
、移動できる低屈折モノマーを含む、未硬化の透明樹脂フィルムを当接して貼り合わせる積層工程、
前記積層工程で得られた積層体に対して、開口部と前記開口部の側縁部に20~80%の透過率のハーフトーン領域を有するマスクを使用して コア部(A)及び側面クラッド部(B)に相当する部位に活性エネルギー線を照射し、照射した部分を半硬化させる第一の露光工程、及び、
前記透明樹脂フィルム全体に活性エネルギー線を照射して更に硬化させる第二の露光工程を、この順序で行うことを含む、光導波路の製造方法。
【請求項2】
前記第一の露光工程と前記第二の露光工程の間に、前記積層体に熱処理を行う熱処理工程を含む、請求項1に記載の光導波路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路及びその製法、並びに、前記光導波路を用いた基板や部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
情報伝送量の爆発的増大に対応するために、電子機器・装置の筐体内の短距離超高速伝送の媒体には、正確な情報伝送を実現する為のコスト増が顕著になる銅配線ではなく、デジタルの光信号を伝送するいわゆる光導波路(光配線や光伝送路などとも言う)が注目されている。
【0003】
光導波路は、使用する光の波長において透明であって、相対的に低屈折率のクラッド材料が、相対的に高屈折率のコア材料で形成された線状伝送路の周囲を囲む、あるいは平面状伝送路の上下を囲む構造のものを言う。光ファイバーは光導波路の一種であるが、コアの実装密度を高密度化しにくい事から、高密度化と超高速伝送の同時実現には、平面に対する露光によるパターニングで複数の線状コアあるいは平面状コアがクラッド層内部に形成された樹脂製光導波路が最有力となってきている(特許文献1等)。線状コアを有する光導波路をリッジ光導波路あるいはチャネル光導波路と呼び、平面状コアを有する光導波路をスラブ光導波路あるいはプレーナ光導波路と呼ぶ事もある。
【0004】
ここで、光導波路は、屈折率分布によって、ステップインデックス型(SI型)とグレーデッドインデックス型(GI型)に分けられる。SI型光導波路は、一定の屈折率を有するコアと、該コアより低い一定の屈折率を有するクラッドを備える。一方、GI型光導波路においては、コアの屈折率がクラッドの屈折率まで連続的に変化する。GI型光導波路は、SI型と比べ、コアに光を閉じ込める効果が高くなり、伝送損失が低減できるという利点がある。
【0005】
このような屈折率が連続的に変化するGI型光導波路として、所定の屈折率分布を有する光導波路が報告されている(特許文献2)。具体的には、特許文献2には、コア部と、該コア部の両側面に隣接する側面クラッド部と、を備えるコア層と、該コア層の両面にそれぞれ積層されたクラッド層と、を有する光導波路であって、前記コア層の横断面の幅方向の屈折率分布Wは、少なくとも2つの極小値と、少なくとも1つの第1の極大値と、前記第1の極大値より小さい少なくとも2つの第2の極大値と、を有し、これらが、第2の極大値、極小値、第1の極大値、極小値、第2の極大値の順で並ぶ領域を有しており、この領域のうち、前記第1の極大値を含むように前記2つの極小値で挟まれる領域が前記コア部、前記各極小値から前記第2の極大値側の領域が前記側面クラッド部であり、前記各極小値は、前記側面クラッド部における平均屈折率未満であり、かつ、前記屈折率分布全体で屈折率が連続的に変化しており、前記光導波路の横断面の厚さ方向の屈折率分布Tは、第3の極大値と、該第3の極大値の位置から前記クラッド層に向かって連続的に屈折率が低下している第1の部分と、該第1の部分より光導波路の両面側に位置し屈折率がほぼ一定である第2の部分と、を有し、前記第3の極大値および前記第1の部分に対応する領域が前記コア部、前記第2の部分に対応する領域が前記クラッド層であることを特徴とする光導波路が開示されている。
【0006】
しかし、前記特許文献2記載の光導波路における屈折率分布は、文献の
図2に示されているように、第1の極大値の方が第2の極大値より大きく、屈折率分布全体で連続的に変化しており一定となる箇所は存在していない。このような構成の場合、コア部はGI型光導波路と同様に、入射された光はコア部の中心側に多く分布するが、2つの極小値の方にも分布する。側面クラッド部は、極小値から第2の極大値に向かって連続的に屈折率が上がっているため、側面クラッド部もGI型の光導波路になっており、極小値の領域に漏れた光は、容易に第2の極大値の方に入ることとなる。同様に第2の極大値の方に漏れた光は、隣のコア部にも漏れやすくなるため、十分なクロストーク抑制効果を発揮できないと考えられる。また、入射される光の径がコア部の径に近いほど、光が直接極小値の領域に入射され、容易に極小値より屈折率の高い第2の極大値の方に入りやすく、更には、隣のコアに光が漏れやすくなるため、クロストークが顕著となると考えられる。
【0007】
さらに、特許文献2記載の光導波路は、コア形成用組成物とクラッド形成用組成物を積層し(特許文献2の
図8等参照)、その積層体の一部へ活性放射腺を照射することで屈折率差を生じさせコアパターンを形成している。しかし、この作成方法では未照射の部分を硬化させることが難しい。樹脂層の一部に硬化が進んでいない部分ができてしまうため、信頼性に問題が生じる可能性が高い。そのため、特許文献2では未照射部を硬化させるため、重合開始剤の代わりに、触媒前駆体と助触媒を加え、活性放射線の照射後、異なる加熱条件を3回繰り返すことにより、未照射部の硬化を進め、コア層の内部応力を低減する方法が記載されている。しかしこのような方法ではコストが上昇する可能性もある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、良好な光信号の伝送信頼性を有し、かつ、低コストで製造することが可能な光導波路とその製造方法を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012/060092号
【文献】国際公開第2012/039393号
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、下記構成を有する光導波路によって、上記課題を解決し得ることを見いだした。そして、本発明者等は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の一つの局面に係る光導波路は、高屈折率のコア形成層と、上記コア形成層の第一の主面に接合された低屈折率の第一クラッド層と、を備えている。上記コア形成層は、その平面方向において、コア部(A)と、コア部(A)の両側方に隣接する側面クラッド部(B)と、を有している。コア部(A)は、平面方向において、中央領域と、上記中央領域から側面クラッド部(B)との界面に向かって屈折率が連続的に低下するGI領域を有している。側面クラッド部(B)は、屈折率が一定となる領域を有している。ここで、GIとはgraded indexの略号である。
【0012】
また、本発明の他の局面では、上記光導波路の製造方法が提案される。この製造方法では、前記第一クラッド層に前記コア形成層を形成するための未硬化の透明樹脂フィルムを当接して貼り合わせる積層工程、前記積層工程で得られた積層体に対して、開口部と前記開口部の側縁部に20~80%の透過率のハーフトーン領域を有するマスクを使用して コア部(A)及び側面クラッド部(B)に相当する部位に活性エネルギー線を照射し、照射した部分を半硬化させる第一の露光工程、及び、前記透明樹脂フィルム全体に活性エネルギー線を照射して更に硬化させる第二の露光工程を、この順序で行うことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る光導波路の構成を示す断面概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態に係る光導波路の構成を示す断面概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の一つに係る光導波路の製造方法における、第一クラッド層の形成工程を示す。
【
図4】
図4は、本実施形態の一つに係る光導波路の製造方法における、コア形成層の作成工程を示す。
【
図5】
図5は、本実施形態の製造方法において使用できる、ハーフトーンマスクの一例を示す概略図(上面)である。
【
図6】
図6は、本実施形態の一つに係る光導波路に第二クラッド層を形成する場合の製造方法の工程を示す。
【
図7】
図7は、本実施形態の一つに係る光導波路に第二クラッド層を形成する場合において、第二クラッド層をパターニングする際の工程を示す。
【
図8】
図8は、本実施形態の一つに係る光導波路を他の光導波路と接続する場合の接続例を示す断面概略図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の一つに係る光導波路を他の光導波路と接続する場合の接続例を示す上面概略図である。
【
図10】
図10は、本発明の別の実施形態に係る光導波路用の構成を示す断面概略図である。
【
図13】
図13は、
図4におけるコア形成層の高屈折率部(C)のパターニングの変形例を示す。
【
図14】
図14は、
図8に示すような接続例における、セルフアライメント構造の一例を示す断面概略図である。
【
図15】
図15は、実施例で使用したハーフトーンマスクの上面概略図である。
【
図16】
図16は、実施例の光導波路の断面写真と屈折率分布を示すグラフである。
【
図17】
図17は、比較例の光導波路の断面写真と屈折率分布を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例で使用した光強度分布の測定方法を示す概略図である。
【
図19】
図19は、実施例および比較例の光強度分布のグラフである(実線:実施例、点線:比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
[光導波路]
本実施形態の光導波路は、
図1および
図2に示すように、第一クラッド層1とコア形成層2とを有する。ここで、
図1及び
図2の上段はそれぞれ光導波路の断面図であり、下段は、それぞれ上段の光導波路断面図における破線部分の屈折率分布を示すグラフである。
【0016】
なお、図面における代表的な符号は以下を示す。
【0017】
1 第一クラッド層、
1’ 第一クラッド層形成用の未硬化の透明樹脂フィルム、
2 コア形成層、
2’ コア形成層の形成用の未硬化の透明樹脂フィルム、
3 基板、
4 第二クラッド層、
4’ 第二クラッドの形成用の未硬化の透明樹脂フィルム、
5 マスク、
11 ハーフトーン部、
12 開口部、
13 非開口部
【0018】
(コア形成層)
本実施形態のコア形成層2は、
図1及び
図2に示すように、その平面方向において、高屈折率のコア部(A)と、コア部(A)の両側方に隣接する低屈折率の側面クラッド部(B)と、側面クラッド部(B)の他の側方に隣接する高屈折率部(C)と、を有する。コア部(A)は光の伝送に使用されるものであるのに対して、高屈折率部(C)は光伝送の使用が通常想定されない領域である。
【0019】
図1および
図2において、それぞれ下段はコア形成層2の破線箇所における断面の屈折率分布を示しており、矢印は下から上に向かって屈折率が高くなることを示している。これらに示されるように、コア部(A)は、側面クラッド部(B)との界面に向かって屈折率が連続的に低下するGI領域(
図1および
図2において丸で囲っている箇所:GI)を有し、かつ、側面クラッド部(B)は屈折率が一定となる領域を有している。
【0020】
なお、側面クラッド部(B)は
図1下段に示すように屈折率が一定の領域のみであってもよいし、屈折率が一定となる領域を有してさえいれば、
図2下段に示すように、コア部(A)と側面クラッド部(B)の間で屈折率が下がっている箇所が部分的に存在してもよい。
【0021】
上記のように、本実施形態の光導波路は、コア部(A)がGI領域を有する、いわゆるグレーデッドインデックス型(GI型)の光導波路であるため、コアに光を閉じ込める効果に優れている。さらに、側面クラッド部(B)が、屈折率がコア部(A)よりも低い水準で一定となる領域を有していることによって、より確実にコアに光を閉じ込めることができる。
【0022】
側面クラッド部(B)が、屈折率がコア部(A)よりも低い水準で一定となる領域を有するメリットを説明する。まず、コア部(A)の内部を導波する光は、コア部(A)と側面クラッド部(B))との界面を全反射しながら伝播するため、側面クラッド部(B)の領域にも一部光エネルギーが分布する状態となる。もし、側面クラッド部(B)に屈折率が一定となる平坦部が無く、極小値をもって屈折率が増加に転じる場合、側面クラッド部(B)の領域に分布する光エネルギーは、屈折率が増加した領域へと容易に移動してしまい、結果として、コア部(A)の領域から逃げてしまうことになる。これに対し、平坦部を有すれば、これを避けることができ、その分布を維持しやすくなるため、結果としてより確実にコア部(A)領域へ閉じ込めることが可能となる。
【0023】
また、本実施形態の光導波路は、後述するように、コア形成層2の露光処理により屈折率分布(コアパターン)を形成することが可能である。そのため、従来では必要とされていた現像工程を必ずしも必要としない。したがって、製造コストを低減できるという利点もある。
【0024】
コア部(A)は、側面クラッド部(B)との界面に向かって屈折率が連続的に低下するGI領域(GI)を有していて、且つ、左右のGI領域の間の中央領域は全体として側面クラッド部(B)よりも高屈折率となっていれば、屈折率の分布状態は特に制限されない。しかしながら、好ましい実施態様では、
図1および
図2下段に示すように、コア部(A)は屈折率が一定となる領域を中央領域に有していることが望ましい。それにより、よりコア中央に光が通る領域が広くなり、光がコアに閉じ込められやすくなると考えられる。さらに、屈折率が一定の領域があることで、コアの屈折率を安定させやすいという利点がある。また、他の光配線や光素子との接続時の位置合わせに余裕を持たせることができるという利点もある。
【0025】
また、高屈折率部(C)についても、側面クラッド部(B)よりも高屈折率となっていれば特に限定はされないが、
図1および
図2下段に示すように屈折率が一定となる領域を有していることが好ましい。それにより、上記と同様に光が閉じ込められやすくなると考えられる。
【0026】
そして、さらに好ましい実施態様では、高屈折率部(C)での屈折率が一定となる領域は、コア部(A)における中央領域内で屈折率が一定となる領域と同等の屈折率であることが望ましい。ここで屈折率が同等とは、屈折率の平均値の差が、0.100以下、好ましくは0.050以下、さらに好ましくは0.020以下、最も好ましくは0.010以下である。また、上記屈折率の平均値の差は、理想的には0であることが好ましいが、0.0001以上であり、好ましくは0.0005以上である。それにより、いわゆるクロストークを抑制することができると考えられる。その理由としては、側面クラッド部(B)と高屈折率部(C)の屈折率差が大きくなり、開口数(NA)も大きくなるため、光の伝送に使用されない領域(C)に漏れてきた光もこの領域に閉じ込められる。よって、隣のコア部に光が漏れにくいため、クロストークを抑制できる効果が大きくなることが考えられる。ここで、開口数とは、導波路に対して広がりをもつ光線が入射した場合に、どれくらいの広がり角の光まで、導波路として受け入れることができるかの尺度であり、空気(屈折率:1)中の導波路では次式で表される。
【0027】
【数1】
ここで、θmは許容できる最大広がり角(もしくは集光角)であり、N1はコアの屈折率、N2はクラッドの屈折率である。
【0028】
なお、本実施形態において、「屈折率が一定となる」とは、
図1や
図2の屈折率分布に示されるように、屈折率が実質的に変動していない平坦な状態をさす。また、屈折率が実質的に変動していないとは、例えば、1.549~1.553(差が0.004) のように、屈折率自身の変動が0.005未満であることを意味する。
【0029】
また、「屈折率が連続的に低下する」とは、屈折率の分布を見たときに、その曲線が滑らかになるように変化しているということを意味する。
【0030】
コア部(A)の厚みおよび幅についても特に限定はされず、適宜、所望の特性に応じて設定できる。通常は、厚みは3~100μm程度(好ましくは、6~80μm)、幅は3~100μm程度(好ましくは、6~80μm)である。
【0031】
また、コア形成層2の硬化度は50%以上であることが好ましい。それにより、コア層形成内にあるコア部(A)側面クラッド部(B)、高屈折率部(C)の硬化度が近くなり、各部の形成プロセスの過程で生じうる内部応力の低減や、樹脂硬化物の物性の均一化が図られるという利点がある。より好ましい硬化度は70%以上である。
【0032】
なお、本明細書でいう硬化度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定したエポキシ基のピークを元に算出している。より具体的には、FT-IRのデータ(IRスペクトル、横軸:波長、縦軸:吸光度(Abs))において、エポキシ基のピーク(912cm-1)面積を、未硬化の樹脂のそれと比較することで、エポキシ基の残留割合を算出し、その1に対する補数100%から引いた値 を硬化度とする。定量化時の基準として、組成が安定しているベンゼン環のピーク(830cm-1)を基準にとする。
【0033】
すなわち、本実施形態でいう「硬化度」は、下記式:
硬化度(%)=(1-(硬化物の「エポキシ基ピーク面積/ベンゼン環ピーク面積」/未硬化物の「エポキシ基ピーク面積/ベンゼン環ピーク面積」)×100
で示される。なお、面積を定めるベースラインは、IRスペクトルのグラフにおけるピーク左右の極小値2点に対して接線を引くことで定める。
【0034】
本実施形態の光導波路は、通常、細長い帯状(もしくは板状)であり、上述したような屈折率分布(コアパターン)が長手方向において繰り返し維持されている。
【0035】
本実施形態において、コア形成層2を構成する材料については、上述したような屈折率分布が得られる硬化性樹脂であれば特に限定はされない。例えば、エポキシ硬化系の樹脂、あるいは、アクリル硬化系の樹脂、または、シアネートエステル硬化系の樹脂、あるいはこれらを併用した樹脂、あるいは、シリコーン硬化系の樹脂等を例示できる。いずれも光導波路を構成する部材として使用されるので、硬化物の透明性が高いことが必要である。
【0036】
より具体的には、光硬化すると共に熱硬化もする樹脂が好ましく、例えば、エポキシ硬化系樹脂などを使用することができる。耐熱性や耐薬品性、電気絶縁性に優れるという利点があるためである。
【0037】
これらの中でも、特に、屈折率と粘度が多少異なる樹脂を2種類以上配合した樹脂を使用することが好ましい。露光後の熱処理時に屈折率分布を生成しやすく、また、屈折率分布を制御しやすいという利点があるためである。
【0038】
一般に、硬化性樹脂を硬化させるには、硬化剤及び又は硬化開始剤(硬化触媒)が必要であるが、いずれも、光導波路に必須である硬化物における高い透明性を実現できるものであれば限定なく使用できる。
【0039】
本実施形態の光導波路を形成する際には、製造をより簡易にするという観点から、上述したような樹脂をフィルム状にして、コア層形成用樹脂フィルムとして使用することが好ましい。
【0040】
(クラッド層)
図1および
図2に示すように、第一クラッド層1は、コア形成層2の一方の主面(図では下面)に位置するクラッドを構成する。また、必要に応じて設けられる第二クラッド層は、コア形成層2の第二の主面(図では上面)に位置するクラッドを構成する。
【0041】
第一クラッド層1および第二クラッド層の厚みは特に限定されず、通常は、3~100μm程度(好ましくは、3~50μm)である。
【0042】
本実施形態において、第一クラッド層1を構成する材料については、特に限定はされず、コア部(A)を構成する材料よりも導波光の伝送波長における屈折率が低い材料を適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0043】
より具体的には、光硬化すると共に熱硬化もする樹脂が好ましく、例えば、エポキシ硬化系樹脂などを使用することができる。耐熱性や耐薬品性、電気絶縁性に優れるという利点があるためである。
【0044】
また、意図して屈折率分布を作製するコア形成層2とは異なり、第一クラッド層1は屈折率分布が必要ない場合があるが、本実施形態の光導波路を製造するプロセスでは各層を順に作製するため、複数のエポキシ系樹脂を使用しても屈折率分布なく作製することができる。そのため、屈折率調整や、その他の物性の調整が容易になるという利点がある。
【0045】
一般に、硬化性樹脂を硬化させるには、硬化剤及び又は硬化開始剤(硬化触媒)が必要であるが、コア形成層2の材料と同様に、光導波路に必須である硬化物における高い透明性を実現できるものであれば限定なく使用できる。
【0046】
本実施形態の光導波路を形成する際には、製造をより簡易にするという観点から、上述したような樹脂をフィルム状にして、クラッド層を形成するための未硬化の透明樹脂フィルムとして使用することが好ましい。
【0047】
本実施形態の光導波路が第二クラッド層を有する場合、第二クラッド層を形成するための硬化性樹脂材料としては、コア部材料よりも導波光の伝送波長における屈折率が低くなるような硬化性樹脂材料であれば、特に限定なく用いられ、通常は、第一クラッド層1の材料と同様の種類の硬化性樹脂材料が用いられる。また、上クラッド層の厚みとしては、特に限定されない。
【0048】
図1や
図2等では、基板3上に光導波路を設けているが、これは単なる一例であり、光導波路の下には、PET(ポリエチレンテレフタレート)などからなる支持フィルムや銅箔等の金属箔などを積層してもよい。
【0049】
さらに、コア層2や第一クラッド層1の露出面には保護フィルムを設けることも可能である。
【0050】
また、本実施形態の光導波路の開口数(NA)は、0.03~0.30であることが好ましく、0.08~0.20であることがより好ましい。
【0051】
本実施形態の光導波路では、コア部(A)の一方の端部に入射された光を、第一クラッド層1との界面、及び、側面クラッド部(B)との界面で反射させ、もう一方の端部へ伝送することができる。
【0052】
本実施形態の光導波路は、コアに光を閉じ込める効果において非常に優れているため、光伝送効率及び信頼性に優れている。よって、様々な電子機器に好適に使用することができる。
【0053】
本実施形態の光導波路によれば、コアに光を十分に閉じ込め、クロストークを抑制することができると考えられる。また、コア形成層2の製造プロセスにおいて、露光処理と必要に応じて行う熱処理とで屈折率分布を変えてコアパターンを形成できるため、必ずしも現像工程を必要とせず、更にコア形成層2の全域に亘って硬化度を上げることができる。よって、光導波路の製造コスト低減を図りつつ、信頼性の高い光導波路を得られる。
【0054】
[光導波路の製造方法]
本実施形態の光導波路を製造する方法は、以下の工程を含む。
(1)第一クラッド層に前記コア形成層を形成するための未硬化の透明樹脂フィルムを当接して貼り合わせる積層工程。
(2)上記積層工程で得られた積層体に対して、開口部と前記開口部の側縁部に20~80%の透過率のハーフトーン領域を有するマスクを使用して コア部(A)及び側面クラッド部(B)に相当する部位に活性エネルギー線を照射し、照射した部分を半硬化させる第一の露光工程。
(3)前記透明樹脂フィルム全体に活性エネルギー線を照射して更に硬化させる第二の露光工程。
これらの工程は、この順序で行われる。
【0055】
なお、(2)第一の照射工程と(3)第二の照射工程の間に、前記積層体に熱処理を行う熱処理工程を行っても良い。
【0056】
以下、製造方法の各工程について図面を用いて具体的に説明する。
【0057】
(第一クラッド層形成)
本実施形態において、第一クラッド層1の形成方法については特に限定はないが、例えば、
図3に示すような工程が例示される。具体的には、(a)基板3の上に第一クラッド層を形成するための前駆体となる未硬化の透明樹脂フィルム1’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合わせる。(b)透明樹脂フィルム1’に紫外線等の活性エネルギー線(
図3(b)において矢印で示される)を照射する。(c)熱処理によって透明樹脂フィルム1’を硬化させ、透明樹脂フィルム1’が硬化したものを第一クラッド層1とする。
【0058】
なお、
図3(b)に示す照射工程において、露光条件としては、感光性材料の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、超高圧水銀灯を用い、波長365nmの光線を、500~2500mJ/cm
2となるように露光する条件等が選ばれる。
【0059】
また、
図3(c)に示すように、光硬化させた後に、熱による後キュアを行うことも硬化を確実にする点から有効である。後キュアのための熱処理条件としては、温度80~160℃程度、時間20~120分間程度が好ましい。しかしながら、特にこの範囲に限られるものではなく、感光性材料によって最適化することが重要であることは言うまでもない。
【0060】
更に、マスク露光と現像を行うことにより、第一クラッド層のパターニングを行うこともできる。その場合、
図12に示す工程において、(a)基板3に未硬化の透明樹脂フィルム1’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合せる。(b)マスクを使用して、透明樹脂フィルム1’に紫外線等の活性エネルギー線を照射する。(c)熱処理によって照射した部分の樹脂を硬化させる。(d)その後、現像により、不要な未硬化部分をなくして、所望の第一クラッド層1のパターンを得る。
【0061】
(コア形成層の作製)
次に、
図4に基づき、コア形成層2の作製方法の一例を説明する。
図4(a)に示すように、第一クラッド層1にコア形成層の前駆体となる未硬化の透明樹脂フィルム2’を当接し、減圧下で加熱加圧して貼り合わせる。ここで、第一クラッド層1に透明樹脂フィルム2’を貼り付ける前に、第一クラッド層1の表面をプラズマ処理などによって表面処理してもよい。
【0062】
その後、
図4(b)に示すように、マスク5を使用して活性エネルギー線(矢印)を照射し、照射した部分の樹脂成分を硬化させる照射工程を行う。活性エネルギー線としては、取扱の容易さ等から紫外線等が挙げられる。
【0063】
その際、マスク5としては、
図5に示すようなハーフトーンマスクを使用することが好ましい。ハーフトーンマスクは、前記活性エネルギー線の透過率が20~80%であるハーフトーン部11と、開口部12(透過率:例えばガラスマスクであれば、そのガラスの透過率)と、透過率0%の非開口部13を備えている。ハーフトーン部11の透過率は、より好ましくは、20~50%である。ハーフトーン部11は、開口部12の側縁部に位置している。
【0064】
このようなハーフトーン部11を有するマスク5を使用することで、
図4(b)に示すように、透明樹脂フィルム2’に照射部、半照射部および未照射部が形成される。すなわち、照射後、マスク5の開口部12にあたる箇所では照射部に、ハーフトーン部11にあたる箇所では半照射部に、非開口部13にあたる箇所では未照射部になる。
【0065】
その後、
図4(c)に示すように熱処理を行うことによって、照射部における低屈折率(n)のモノマー濃度が下がり、未照射部から照射部へ向かって低屈折率モノマーが移動するため、屈折率変化が生じると考えられる。そして、
図4(c)に示すように、照射部は硬化部に、半照射部は半硬化部に、および、未照射部は未硬化部となる。それにより、照射部(硬化部)は高屈折率となるコア部(A)に対応し、半照射部(半硬化部)は側面クラッド部(B)に対応し、未照射部(未硬化部)は高屈折率部(C)に対応する部位となる。また同時に、コア部(A)におけるGI領域に相当する部分が形成される。
【0066】
この屈折率変化および屈折率分布が生じるメカニズムは次のように考えられる。半照射部から照射部に移動する低屈折率モノマーの移動量(移動速度)は、
図4(b)に示す工程で既に照射部の硬化度が大きく進んでいるために、未照射部から半照射部に移動する低屈折率モノマーの移動量(移動速度)よりも小さくなる。その結果、半照射部から照射部に移動する低屈折率モノマーは、照射部の中央領域まで届かず硬化反応で消費され、屈折率が半照射部に向かって連続的に低下するGI領域が形成される。一方、半照射部には未照射部から多量の低屈折率モノマーが流入してくるため屈折率が大きく低下し、低屈折率の側面クラッド部(B)が形成される、と考えられる。更に、未照射部から半照射部へと移動する低屈折率モノマーの殆どは、未照射部おいて半照射部に隣接する近傍領域から供給され、未照射部の奥方からの移動は少ないものとなる。そのため、未照射部の上記近傍領域は、未照射部の奥方に向かって連続的に屈折率が大きくなる部分(第二のGI領域)となる。また未照射部の奥方領域は、低屈折率モノマーの移動が少ないことから、屈折率は高いまま変化が殆ど生じず、一定の屈折率となる。
【0067】
次いで、
図4(d)に示すように透明樹脂フィルム2’(コア形成層2)の全体に対して活性エネルギー線(矢印)を照射し、透明樹脂フィルム2’(コア形成層2を全体的に硬化させる。この工程によって、コア形成層2の屈折率が固定され、コア形成層全体は硬化される。
【0068】
最後に、
図4(e)に示すように、再度熱処理を行い、前記未照射部をも硬化させることで、本実施形態の光導波路を得ることができる。
【0069】
なお、
図4(b)及び
図4(d)に示す照射工程において、露光条件としては、感光性材料の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、超高圧水銀灯を用い、波長365nmの光線を、500~2500mJ/cm
2となるように露光する条件等が選ばれる。
【0070】
また、
図4(c)および
図4(e)に示すように、光硬化させた後に、熱による後キュアを行うことも硬化を確実にする点から有効である。後キュアのための熱処理条件としては、温度80~160℃程度、時間20~120分間程度が好ましい。しかしながら、特にこの範囲に限られるものではなく、感光性材料によって最適化することが重要であることは言うまでもない。
【0071】
本実施形態の光導波路において、コア形成層2の硬化度は上述したように、50%以上であることが好ましい。
【0072】
また、必要に応じて2回目の露光時にマスク露光を行い、さらに現像することにより、コア形成層2の高屈折率部(C)の部分のパターニングを行っても良い。その場合には、
図13に示すように、(a)マスク5を使用して、コア形成層2の未硬化部分の不要な領域以外に紫外線等の活性エネルギー線を照射し、(c)熱処理によってコア層の必要な部分を硬化し、(d)現像により不要な部分を排除することで所望のパターンを得ることができる。
【0073】
以上のように、本実施形態では、未照射部の硬化は、硬化開始剤として光酸発生剤のみを配合するだけでよく、更に熱処理は樹脂が十分に硬化する温度であれば良く、特許文献2に示されるような従来法のように、複雑な温度コントロールをする必要もない。そのため、安定した性能が得られるとともに、温度の異なる乾燥機を準備する必要がないため、その観点からも効率的に低コストで高い信頼性を持った光導波路が得られる。
【0074】
(第二クラッド層の形成)
さらに、コア形成層2の上部に第二クラッド層4を形成する場合は、特に限定はないが、例えば、
図6に示すような工程を用いることができる。
【0075】
具体的には、(a)コア形成層2の上に第二クラッドを形成するための前駆体である未硬化の透明樹脂フィルム4’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合わせる。ここで、コア形成層2に透明樹脂フィルム4’を貼り付ける前に、コア形成層2の表面をプラズマ処理などによって表面処理しておいてもよい。(b)次に透明樹脂フィルム4’に紫外線等の活性エネルギー線(矢印)を照射し、(c)熱処理によって透明樹脂フィルム4’を硬化させ、第二クラッド層4を形成する。
【0076】
なお、
図6(b)に示す照射工程において、露光条件としては、感光性材料の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、超高圧水銀灯を用い、波長365nmの光線を、500~2500mJ/cm
2となるように露光する条件等が選ばれる。
【0077】
また、
図6(c)に示すように、光硬化させた後に、熱による後キュアを行うことも硬化を確実にする点から有効である。後キュアのための熱処理条件としては、温度80~160℃程度、時間20~120分間程度が好ましい。しかしながら、特にこの範囲に限られるものではなく、感光性材料によって最適化することが重要であることは言うまでもない。
【0078】
さらに、第二クラッド層4をパターニングすることもできる。その場合は、
図7に示すように、(a)コア形成層2の上に透明樹脂フィルム4’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合わせる。(b)マスク5を使用して、透明樹脂フィルム4’に紫外線等の活性エネルギー線(矢印)を照射する。(c)さらに、熱処理によって透明樹脂フィルム4’を硬化させる。(d)必要に応じて、現像によって、不要な未硬化部分をなくし、第二クラッド層4を形成してもよい。前記マスク5の形状を変えることによって、所望のパターニングを得ることが可能である。
【0079】
上述したような構成によれば、従来必要とされていた現像工程を実施せずに、コア形成層2の露光および熱処理のみでコア層の屈折を所望の分布にすることができるため、製造コストを低減できる。また、現像工程が必要となるが、第一クラッド層、コア形成層2の高屈折部(C)、第二クラッド層4を、それぞれ適宜パターニングすることもできるため、様々な構造の光導波路を得ることができる。
【0080】
[接合体]
本実施形態の光導波路は、単体で使用することももちろん可能であるが、複数の光導波路を用いて接合体として使用することもできる。
【0081】
その際、同じ光導波路を2つ以上接合してもよいが、本実施形態の光導波路Aとは異なる光導波路(例えば、シリコン光導波路など)と組み合わせることもできる。
【0082】
具体的には、例えば、
図8に示すように、本実施形態の光導波路Aにおいて、現像により第二クラッド層4の一部を取り除き、コア形成層2の一部を露出させて、そこへシリコン(Si)光導波路Bを接合することができる。または、第二クラッド層4を付けない状態でシリコン(Si)光導波路を接合することができる。
図9には、本実施形態の光導波路の上面図を示す。このように第二クラッド層4を取り除いた部分は、コア形成層2の上面がむき出しになっている。
【0083】
このような接合体においては、前術したように、第二クラッド層4の一部を取り除くか、第二クラッド層4を設けずに、光導波路のコアを剥き出しの状態にしておく必要がある。しかし、上記特許文献2のような作製方法では、予め、未硬化の下クラッド層、コア層、上クラッド層を積層しているため、上記上クラッド層の一部だけを取り除くような構造を作製することができない。本実施形態では、上記のような構造の光導波路を容易に得られるという利点がある。
【0084】
[セルフアライメント構造]
上述のように光導波路Aとシリコン(Si)光導波路Bを接合する際に、位置決めを容易にする構造として、
図14に示すようなセルフアライメント構造が提案されている。
図14は、
図8における点線部の断面図を示している。本実施形態の光導波路の製造方法では、コア形成層2を現像することなく屈折率分布を作成し、さらに、各層において適宜現像によるパターニングを行うことができるため、このようなセルフアライメント構造の光導波路を容易に作製することができる。
図14(b)のような構造は
図7と同様の工程により、第二クラッド層4を現像してパターニングすることにより得られ、(c)のような構造は上記
図13と同様の工程により、コア形成層2の一回目の露光の未照射部分である高屈折率部(C)の一部を現像して除去することにより得られる。これらの構造は、特許文献1のような製造方法でも特許文献2のような製造方法でも作製することができない難しい構造だが、本実施形態の光導波路の製造方法では容易に得られる。
【0085】
[光導波路の他の実施形態]
光導波路のさらなる実施形態として、第一クラッド層1とコア形成層2とを有する光導波路であって、コア形成層2が、コその平面方向において、コア部(A)と、コア部(A)の両側方に隣接する側面クラッド部(B)と、側面クラッド部(B)の他の側方に隣接する高屈折率部(C)を有し、コア部(A)、側面クラッド部(B)及び高屈折率部(C)において屈折率が連続的に変化しており、少なくともコア部(A)と領域(C)の屈折率が実質的に同一であり、高屈折率部(C)の一部に屈折率が非連続である箇所がある光導波路が挙げられる。
【0086】
例えば、
図10にそのような光導波路の一例の断面図を示す。この例では、高屈折率部(C)の一部に空気層があることによって屈折率を非連続にすることができる。
【0087】
このような構成により、光導波路の主面の鉛直方向から観察した際の視認性が向上するという利点がある。例えば、位置決め用のマークとして形成する際に、連続的な屈折率分布で形成するよりも、より高精度な位置決めが可能となる。また、コア形成層2の屈折率の非連続部分を空気層にて実現して(ここでは、第一クラッド層1までは貫通していない)、更に、第一クラッド層1におけるコア形成層2の空気層部分に当たる部分も空気層にしている(第一クラッド層1まで貫通している)場合には、ベースの基板3に対して表面からのアクセスが容易になるという利点がある。例えば、基板3上に電極パッドが形成されている場合に、光導波路層が存在したまま、部品の実装が可能となる。
【0088】
コア形成層2における各部の屈折率は、上述したように、コア部(A)と高屈折率部(C)の屈折率が実質的に同一であり、かつ、当該屈折率が(B)側面クラッド部(B)の屈折率よりも大きいことが好ましい。それにより、上述の通りクロストークが抑制されることとなるため有利である。コア部(A)から光が漏れた場合、隣のコア部に移動するまでに、低屈折率である側面クラッド部(B)に挟まれた高屈折率部(C)を通過することとなり、高屈折率部(C)にて閉じ込められる効果が発生するためである。
【0089】
このような光導波路を得る方法について、
図11を用いて簡単に説明する。まず、(a)基板3の上に第一クラッド層1の線躯体である未硬化の透明樹脂フィルム1’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合せる。次に、(b)マスク5を使用して透明樹脂フィルム1’に紫外線等の活性エネルギー線(
図11において矢印で示される)を照射する。(c)熱処理によって照射部を硬化させる。(d)必要に応じて、未照射であった未硬化の樹脂の部分を現像により除去する。次に、(e)下クラッド層1と基板3の上に透明樹脂フィルム2’を当接し、必要に応じて減圧下で加熱加圧して貼り合せる。その後、(f)ハーフトーン部11を有するマスク5を使用して透明樹脂フィルム2’に紫外線等の活性エネルギー線を照射し、(g)熱処理によって、コアパターンを得る。その後、(h)マスク5を使用して、屈折率分布が出来たコア形成層2に照射させる。この時、コア形成層2だけでなく、第一クラッド層1とコア形成層2を貫通する空気層を作製する場合は、第一クラッド層1の抜きパターンと同じ領域を未照射部とする。次に、(i)熱処理をして、照射部を硬化させ、(j)現像によって、不要な樹脂を除去することで、コア形成層2の屈折率の非連続部分(コア形成層2のみを貫通した孔)やコア形成層2と第一クラッド層1を貫通した孔を有する構造が得られる。
【0090】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
はじめに、本実施例で用いた樹脂フィルムの製造方法について説明する。
【0092】
(第一クラッド層及び第二クラッド層を形成するための樹脂フィルムの製造)
液状脂肪族エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド2021P)14質量部、3官能の芳香族エポキシ樹脂(株式会社プリンテック製のVG3101)23質量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製の1006FS)25質量部、固形水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製YX8040製)38質量部、及び光カチオン硬化開始剤(株式会社アデカ製のSP-170)1質量部の各配合成分を、ガラス容器内に秤量した。このガラス容器内に、溶剤として、2-ブタノンとトルエンとの混合溶剤を加えた。このガラス容器内の配合物を、80℃の還流下で攪拌した。そうすることによって、固形分が全て溶解されたワニスが得られた。得られたワニスを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の孔径1μmのメンブランフィルタで濾過して、固形状の異物を除去した後、減圧脱泡した。このように調製したワニスを、株式会社ヒラノテクシード製のコンマコータヘッドのマルチコータを用いて、PETフィルム(東洋紡績株式会社製のA4100)に塗布した。この塗布されたPETフィルムを、125℃で乾燥させ、所定厚みの樹脂層とした。その樹脂層の上に、カバーフィルム(離型フィルム)として、配向性ポリプロピレンフィルム(OPP)を熱ラミネートした。そうすることによって、クラッド層用樹脂フィルムを得た。このとき、上記塗布時の厚み(塗布厚)を調整することで、得られたクラッド用樹脂フィルムの厚みを35μmとした。
【0093】
(コア形成層を形成するための樹脂フィルムの製造)
用いる材料として、液状脂肪族エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド2021P)23質量部、3官能の芳香族エポキシ樹脂(株式会社プリンテック製のVG3101)21質量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製の1006FS)56質量部、光カチオン硬化開始剤(株式会社アデカ製のSP-170)1質量部、及び酸化防止剤(株式会社アデカ製のAO-60)0.3質量部を用いる以外、上記クラッド層用樹脂フィルムと同様にして、コア形成層用樹脂フィルムを製造した。このとき、布時の厚み(塗布厚)を調整することで、得られたコア形成層用樹脂フィルムの厚みを25μmとした。
【0094】
(屈折率)
上記クラッド層用樹脂フィルム及び上記コア形成層用樹脂フィルムをそれぞれ硬化させたものの屈折率を、株式会社アタゴ製の屈折率測定装置を用いて測定した。その結果、クラッド層用樹脂フィルムを硬化させたもの(クラッド層)の屈折率は、1.554であり、コア形成層用樹脂フィルムを硬化させたもの(コア部)の屈折率は、1.581であった。そして、これらから算出される開口数(NA)は、約0.29であった。
【0095】
(光導波路作製)
(実施例)
まず、ガラスエポキシ基板(パナソニック株式会社製のR1515W)の、両面の銅箔をエッチングにより除去した。このエッチオフしたものを基板として用いた。この基板の表面に、上述の方法により製造した、厚み35μmのクラッド層用樹脂フィルムを、真空ラミネーター(V-130)を用いてラミネートした。そして、超高圧水銀灯を用いて、2J/cm2の条件で紫外光を、ラミネートしたクラッド層用樹脂フィルムに照射した。その後、クラッド層用樹脂フィルムの離型フィルムを剥離した。その後、140℃で熱処理することで、基板上に、クラッド層用樹脂フィルムが硬化した第一クラッド層が形成された。次に、この第一クラッド層に、酸素プラズマ処理を施した後、その表面上に、上述の方法により製造した、厚み25μmのコア層用樹脂フィルムを、真空ラミネーター(V-130)を用いてラミネートした。
【0096】
そして、
図15に示すような、幅25μm、長さ100mmの開口部12と、開口の両側に10μmの透過率40%のハーフトーン部11を有するパターンを形成したガラスマスク5を、コア形成層用樹脂フィルムの表面に載置した。その後、照射光が略平行光になるように調整された超高圧水銀灯で2J/cm2の光量で紫外光を、コア形成層用樹脂フィルムに照射した。その後、140℃10分で熱処理して、コア形成層用樹脂フィルムの、開口とハーフトーン部に対応する部分を光硬化させた。次に、超高圧水銀灯を用いて、2J/cm2の光量で紫外光を、コア形成層用樹脂フィルム全体に照射し、その後、140℃10分で熱処理して、コア形成層用樹脂フィルム全体を硬化させた。こうすることにより、第一クラッド層の上に、コア部と側面クラッド部を有するコア形成層を得た。
【0097】
次に、コア層に、酸素プラズマ処理を施した後、第二クラッド層を形成するためのクラッド層用樹脂フィルムを、真空ラミネーター(V-130)を用いてラミネートした。そして、超高圧水銀灯を用いて2J/cm2の光量で紫外光を上クラッド層用樹脂フィルムに照射し、熱処理をして硬化し、第一クラッド層と、コア部及び側面クラッド部を有するコア形成層と、第二クラッド層と、からなる光導波路を得た。
【0098】
得られた光導波路のコア形成層の屈折率分布はパイフォトニクス社製の定量位相顕微鏡を用いて測定した。実施例の光導波路の写真および屈折率分布を
図16に示す。
図16において、下段はコア形成層2の破線箇所における断面の屈折率分布を示しており、矢印の下から上に向かって屈折率が高くなることを示している。この屈折率分布から明らかなように、比較例においては、側面クラッド部(B)において、屈折率が一定となる領域が含まれていない。
【0099】
(比較例)
ガラスマスク5として、ハーフトーン部11の透過率が10%であるガラスマスクを使用した以外は、実施例と同様にして、光導波路を製造し、得られた光導波路のコア形成層の屈折率分布を測定した。比較例の光導波路の写真および屈折率分布を
図17に示す。
図17においても、下段はコア形成層2の破線箇所における断面の屈折率分布を示しており、矢印の下から上に向かって屈折率が高くなることを示している。
【0100】
(光強度分布測定)
光強度測定には、
図18に示すように、光の入射側ケーブルとしてシングルモードファイバ(SMF)を用い、受光側ケーブルとしてGI50の光ファイバ(コア径50μm)を用いて行った。光源として850nmVCSELレーザーを用い、光強度はパワーメータで測定した。
【0101】
光導波路がない状態で、入射側ケーブルと受光側ケーブルを繋げて測定した強度をP0(
図18(A))、入射側ケーブルと受光側ケーブルの間に光導波路を入れた状態で測定した強度をP1(
図18(B))として、10log (P0/P1)の値で光強度を評価した。 光導波路の出射側の光強度分布を測定する際、入射側ケーブルは光導波路の位置で固定し、受光側ケーブルを走査することで、光強度分布を得た。
【0102】
【0103】
(考察)
図19から、本発明の構成を満たす実施例の光導波路に比べて、比較例の光導波路では、領域(C)での光の強度が大きく、更に隣のコア部付近での光の強度も大きくなっており、クロストークが十分抑制されていないことがわかる。これは、領域(B)で屈折率一定の部分がなく、領域(B)から領域(C)に向かって屈折率が連続的に変化しているためと考えられる。
【0104】
この出願は、2017年11月9日に出願された日本国特許出願特願2017-216095を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0105】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、光導波路や光電気複合配線板に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。