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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】選別方法、選別装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241011BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241011BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20241011BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M1/34 B
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021520649
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2020016236
(87)【国際公開番号】W WO2020235253
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019094520
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019094710
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 香織
(72)【発明者】
【氏名】辻 清孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弓子
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/055653(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/038079(WO,A1)
【文献】SHARF T., et al.,Non-contact monitoring of extra-cellular field potentials with a multi-electrode array,Lab Chip,2019年04月09日,Vol.19, No. 8,pp.1448-1457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/BIOSIS/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスフェロイドを、複数の測定用電極と接触せずに保持する保持ステップと、
前記複数の測定用電極を用いて、前記複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得する取得ステップと、前記複数のスフェロイドと前記複数の信号は1対1対応し、
前記複数のスフェロイドそれぞれの良否を、前記複数の信号に含まれる、前記スフェロイドに対応する信号に基づいて判定する判定ステップと、
前記複数のスフェロイドのうち、前記判定ステップにおいて、良と判定された一または複数のスフェロイドを回収する回収ステップと、を含み、
前記取得ステップは、
グルコースを第1濃度で含む第1溶液中でスフェロイドの細胞外電位に関する第1信号を取得する第1取得ステップと、
グルコースを前記第1濃度よりも高い第2濃度で含む第2溶液中で前記スフェロイドの細胞外電位に関する第2信号を取得する第2取得ステップと、
前記第1信号および前記第2信号をフーリエ変換して第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度を算出する算出ステップとを含み、
前記判定ステップでは、算出された前記第1パワースペクトル密度および前記第2パワースペクトル密度に基づいて、前記スフェロイドの良否を判定する、
選別方法。
【請求項2】
前記判定ステップでは、前記複数の信号に含まれる2つの信号の相関係数を算出し、前記相関係数が閾値よりも大きい場合に、前記2つの信号に対応する2つのスフェロイドを不良と判定する、
請求項1に記載の選別方法。
【請求項3】
複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得する複数の測定用電極と、
前記複数のスフェロイドを前記複数の測定用電極と接触せずに保持する複数の保持部と、
算出部と、
判定部と、を備え
前記複数のスフェロイドと前記複数の信号は1対1対応し、
前記複数の信号は、グルコースを第1濃度で含む第1溶液中でスフェロイドの細胞外電位に関する第1信号と、グルコースを前記第1濃度よりも高い第2濃度で含む第2溶液中で前記スフェロイドの細胞外電位に関する第2信号と、を含み、
前記算出部は、前記第1信号および前記第2信号をフーリエ変換して第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度を算出し、
前記判定部は、算出された前記第1パワースペクトル密度および前記第2パワースペクトル密度に基づいて、前記スフェロイドの良否を判定する
選別装置。
【請求項4】
前記複数の保持部は、板体に設けられた複数の穴部であり、
前記複数のスフェロイドはスフェロイドiを含み、
前記複数の測定用電極は測定用電極iを含み、
前記複数の穴部は開口部iを有する穴部iを含み、
前記測定用電極iの部分iは、前記穴部iに配置され、
前記穴部iの内側面iの箇所iは前記スフェロイドiと接触し、これにより前記穴部iは前記スフェロイドiを保持し、
前記部分iは、前記箇所iと前記穴部iの底部iの間に位置し、
1≦i≦n、前記iは自然数、前記nは2以上の自然数である、
請求項3に記載の選別装置。
【請求項5】
前記穴部iは、前記板体の平面視において円形である、
請求項4に記載の選別装置。
【請求項6】
前記穴部iは、前記開口部iから、前記穴部iの底部側に向かって前記板体の厚み方向と交差する方向における長さが短くなるテーパ構造を有する、
請求項4または5に記載の選別装置。
【請求項7】
前記内側面iは、前記箇所iよりも前記開口部i側において、前記穴部iの内側に向けて突出する返し構造を有する、
請求項4~6のいずれか一項に記載の選別装置。
【請求項8】
前記判定ステップでは、算出された前記第1パワースペクトル密度および前記第2パワースペクトル密度の少なくとも一方におけるパワーのピーク値が第1閾値以下の場合に、前記スフェロイドを不良と判定する、
請求項に記載の選別方法。
【請求項9】
さらに、算出された前記第1パワースペクトル密度におけるピーク周波数である第1周波数を特定する第1特定ステップと、
算出された前記第2パワースペクトル密度におけるピーク周波数である第2周波数を特定する第2特定ステップと、を含み、
前記第1周波数よりも前記第2周波数の方が大きい場合に、前記スフェロイドを良と判定する、
請求項に記載の選別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スフェロイドの選別方法、および当該選別方法に用いられる選別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞培養に関する技術の発達に伴い、三次元的な細胞の塊であるスフェロイドの形成が可能となっている。スフェロイドは、個々の細胞どうしが接着した細胞塊であり、より生体内に近い細胞の状態を再現している。このような特性から、スフェロイドは、医療用途に応用されることが期待されている。従来、個々の細胞の医療用途への応用を想定した高速薬品スクリーニング装置が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された高速薬品スクリーニング装置は、個々の細胞が発生する細胞外電位を測定することにより、医薬品の候補化合物の細胞への影響を評価する装置である。
【0003】
スフェロイドを、医薬品の候補化合物のスクリーニングに用いることも可能である。スフェロイドを生体内に移植して、疾患により機能不全等を生じた臓器に代えて、臓器機能を発揮させる試みも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2002/055653号
【発明の概要】
【0005】
スフェロイドの生体内への移植を考えた場合には、移植されるスフェロイドにおいて、臓器機能が担保されることが望ましい。このように、スフェロイドは、その用途に適した良好な状態であることが望まれる。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされ、良好なスフェロイドを選別するための技術を提供するものである。
【0007】
本開示の一態様に係る選別方法は、複数のスフェロイドを、複数の測定用電極と接触せずに保持する保持ステップと、前記複数の測定用電極を用いて、前記複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得する取得ステップと、前記複数のスフェロイドと前記複数の信号は1対1対応し、前記複数のスフェロイドそれぞれの良否を、前記複数の信号に含まれる、前記スフェロイドに対応する信号に基づいて判定する判定ステップと、前記複数のスフェロイドのうち、前記判定ステップにおいて、良と判定された一または複数のスフェロイドを回収する回収ステップと、を含む。
【0008】
この包括的または具体的な態様は、装置、システムで実現されてもよく、装置、システム、方法の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0009】
本開示の技術によれば、良好なスフェロイドの選別が可能となる。本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る選別装置を平面視した図
図2図2は、実施の形態に係る保持層を説明するための図
図3図3は、図1に示された領域Aの拡大図および当該拡大図におけるiii-iii線で切断した断面図
図4図4は、図1に示された領域Bの拡大図および当該拡大図におけるiv-iv線で切断した断面図
図5図5は、実施の形態に係る選別装置と評価装置との関係を説明するブロック図
図6図6は、実施の形態に係る選別装置と評価装置との関係を説明する概略図
図7A図7Aは、実施の形態に係るスフェロイドの選別方法および評価方法について説明するフローチャート
図7B図7Bは、複数のスフェロイドに適用される場合に追加で実施される選別方法および評価方法におけるサブフローチャート
図7C図7Cは、スフェロイドの良否を判定する他の判定ステップを示すサブフローチャート
図8図8は、実施例に係る第1単離膵島から得られた各種データについて説明する図
図9図9は、実施例に係る第2単離膵島から得られた各種データについて説明する図
図10図10は、実施例に係る第3単離膵島から得られた各種データについて説明する図
図11図11は、実施例および比較例に係る単離膵島のうち、判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を示す第1の図
図12図12は、実施例および比較例に係る単離膵島のうち、判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を示す第2の図
図13図13は、変形例に係る穴部形状を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(開示の基礎となった知見)
スフェロイドは、単独で存在する細胞に比べ、より生体内に近い細胞の状態を再現することが知られている。このようなスフェロイドの特性を考慮し、スフェロイドを医療用途に応用することが期待されている。例えば、スフェロイドを生体内に移植する試みが行われている。生体内に移植されたスフェロイドは、スフェロイドを形成する細胞が有する機能を発現することが期待される。例えば、疾患により機能不全等を生じた臓器に代えて生体内に移植したスフェロイドを用いて不全である臓器機能を代行させることが考えられる。
【0012】
スフェロイドを生体内へ移植する場合に、移植されるスフェロイドにおいて臓器機能が担保されることが望ましい。また、生体内においてスフェロイドに臓器機能を代行させるためには、相応の数のスフェロイドを移植する必要がある。したがって、移植されるスフェロイドのそれぞれについて臓器機能が担保されるか否かを個別に判断することは困難である。
【0013】
ここで、細胞外電位を測定することにより、細胞の状態を推定するためのデバイスが特許文献1に開示されている。このようなデバイスをスフェロイドに適用することも可能ではある。しかしながら、このようなデバイスでは、測定に伴って細胞と測定用電極との接触が生じる。
【0014】
細胞と測定用電極との接触は、細胞に損傷または変性を生じさせる可能性がある。さらに、特許文献1に開示されたデバイスでは、吸引を行うことにより細胞に対する侵襲的な操作も実施する。このため、細胞に損傷または変性を生じさせる可能性がより高くなる。したがって、測定において臓器機能を有することが推定されても、測定後の細胞では、臓器機能が損なわれている場合がある。
【0015】
スフェロイドは、臓器機能を担保するための測定の後、そのまま生体内への移植が行われるため、スフェロイドに損傷または変性を生じさせずに測定可能なデバイスの開発が望まれている。
【0016】
本開示は、上記において臓器機能の有無として例示した、個々のスフェロイドにおける良否を判定するための測定を、多数のスフェロイドについて一挙に実施し、かつ、測定の前後におけるスフェロイドの損傷または変性を抑制することが可能なスフェロイドの選別方法等を提供する。これにより、良好なスフェロイドの選別を行うことができる。
【0017】
(開示の概要)
本開示に係る選別方法の一態様は、複数のスフェロイドを、複数の測定用電極と接触せずに保持する保持ステップと、前記複数の測定用電極を用いて、前記複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得する取得ステップと、前記複数のスフェロイドと前記複数の信号は1対1対応し、前記複数のスフェロイドそれぞれの良否を、前記複数の信号に含まれる、前記スフェロイドに対応する信号に基づいて判定する判定ステップと、前記複数のスフェロイドのうち、前記判定ステップにおいて、良と判定された一または複数のスフェロイドを回収する回収ステップと、を含む。
【0018】
これによれば、複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得し、複数のスフェロイドに含まれる各々のスフェロイドの良否判定を、複数の信号に含まれる、スフェロイドに対応する信号に基づいて行っても、複数のスフェロイドと複数の測定用電極との接触に伴う複数のスフェロイドの損傷および変性が抑制される。
【0019】
良否判定は、一例として、各々のスフェロイドが、対応する細胞外電位に基づいて臓器機能を有するか否かによって行う。したがって、臓器機能を有すると判定されたスフェロイドは、信号の取得における損傷および変性が抑制されている。これにより良好であるとして選別されたスフェロイドは、そのまま移植等の実使用に用いることができる。
【0020】
本開示における「スフェロイド」という文言は、「細胞塊」または「細胞凝集塊」と換言することもできる。
【0021】
前記判定ステップでは、前記複数の信号に含まれる2つの信号の相関係数を算出し、前記相関係数が閾値よりも大きい場合に、前記2つの信号に対応する2つのスフェロイドを不良と判定してもよい。
【0022】
これによれば、複数の信号に含まれる2つの信号の相関係数に基づいて2つの信号に対応する2つのスフェロイドが不良であるか否を判定する。よって、複数の信号に含まれる1つの信号に基づくスフェロイドの不良判断に比べて、より的確なスフェロイドの不良判定ができる。
【0023】
本開示に係る選別装置の一態様は、複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得する複数の測定用電極と、前記複数のスフェロイドを前記複数の測定用電極と接触せずに保持する複数の保持部と、を備える。
【0024】
これによれば、複数のスフェロイドの複数の細胞外電位に関する複数の信号を取得し、複数のスフェロイドに含まれる各々のスフェロイドの良否判定を複数の信号に含まれる、スフェロイドに対応する信号に基づいて行っても、複数のスフェロイドと複数の測定用電極との接触に伴う複数のスフェロイドの損傷および変性が抑制される。
【0025】
良否判定は、一例として、各々のスフェロイドが、対応する細胞外電位に基づいて臓器機能を有するか否かによって行う。したがって、臓器機能を有すると判定されたスフェロイドは、信号の取得における損傷および変性が抑制されている。これにより良好であるとして選別されたスフェロイドは、そのまま移植等の実使用に用いることができる。
【0026】
前記複数の保持部は、板体に設けられた複数の穴部であり、前記複数のスフェロイドはスフェロイドを含み、前記複数の測定用電極は測定電極を含み、前記複数の穴部は開口部を有する穴部を含み、前記測定用電極の部分は、前記穴部に配置され、前記穴部の内側面の箇所は前記スフェロイドと接触し、これにより前記穴部は前記スフェロイドを保持し、前記部分は、前記箇所と前記穴部の底部の間に位置し、1≦i≦n、前記iは自然数、前記nは2以上の自然数であってもよい。
【0027】
これによれば、板体に形成された複数の穴部は複数のスフェロイドを保持できる。また、測定用電極は、スフェロイドと穴部の内側面とが接触する箇所よりも穴部の底部側に配置される。穴部の底部側は、複数のスフェロイドのうち、スフェロイドが最も近位となる位置である。したがって、スフェロイド~スフェロイドi-1、スフェロイドi+1~スフェロイドの影響を低減でき、測定用電極では、より正確にスフェロイドの細胞外電位に関する信号を取得することができる。よって、正確に取得された細胞外電位に関する信号に基づいてスフェロイドの良否が判定されるため、良好なスフェロイドが選別される。
【0028】
前記穴部は、前記板体の平面視において円形であってもよい。
【0029】
スフェロイドは、略球形の形状であることが多い。したがって、穴部が平面視において円形であれば、穴部をスフェロイドの形状に適合させることができる。つまり、穴部およびスフェロイドの平面視における形状を略一致させることができる。スフェロイドと形状が略一致した穴部には、スフェロイドが収容された場合に、スフェロイドよりも穴部の底部側に閉空間が形成される。かかる閉空間の形成により、スフェロイドiが収容された穴部に対応する測定用電極によって測定された細胞外電位に関する信号は、スフェロイド~スフェロイドi-1、スフェロイドi+1~スフェロイドに起因するノイズの影響を低減でき、測定用電極はスフェロイドの細胞外電位に関する信号を計測ことができる。よって、測定用電極では、より正確に、測定用電極に対応するスフェロイドの細胞外電位に関する信号を取得することができ、良好なスフェロイドが選別される。
【0030】
前記穴部は、前記開口部から、前記穴部の底部側に向かって前記板体の厚み方向と交差する方向における長さが短くなるテーパ構造を有してもよい。
【0031】
これによれば、テーパ構造により、穴部の各々は、当該穴部の開口部から、当該穴部の底部側に向かって穴部の深さ方向(つまり板体の厚み方向)と交差する方向における長さが短くなる。したがって、スフェロイドの大きさにばらつきがある場合であっても、穴部の深さ方向と交差する方向における長さがスフェロイドの大きさに対応する箇所において、スフェロイドが保持される。つまり、複数のスフェロイドの大きさにばらつきがある場合であっても、スフェロイドは、各々の穴部に収容され、保持される。よって、複数のスフェロイドの大きさにばらつきがある場合であっても、複数のスフェロイドの中から良好なスフェロイドを選別することができる。
【0032】
前記内側面は、前記箇所よりも前記開口部側において、前記穴部の内側に向けて突出する返し構造を有してもよい。
【0033】
これによれば、穴部におけるスフェロイドが収容された箇所よりも開口部側において、穴部の深さ方向と交差する方向における長さが短くなるように突出する返し構造が形成される。したがって、このような返し構造により、穴部に収容されたスフェロイドが移動した際に、穴部からの当該スフェロイドの漏出が、物理的に抑制される。よって、より多くの測定用電極を用いて、より効率的に良好なスフェロイドを選別することができる。
【0034】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、装置、システム、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0035】
以下では、本開示の実施の形態について図面とともに説明する。
【0036】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0037】
なお、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0038】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、および、矩形などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値、および、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差等の差異も含むことを意味する表現である。
【0039】
(実施の形態)
はじめに、実施の形態におけるスフェロイドの選別方法を実施するための選別装置について説明する。図1は、実施の形態に係る選別装置を平面視した図である。
【0040】
図1に示すように、本実施の形態における選別装置100は、基板11と、基準用配線23、基準用接点21、測定用配線33および測定用接点31を含む導体パターンと、絶縁膜13と、保持層41とを備える。
【0041】
基板11は、ガラス等の材料を用いて形成された板状の部材である。なお、基板11の材料は、ガラスに限られず、樹脂、セラミックス等の任意の材料を用いてもよい。基板11は、実施の形態においては、矩形の主面を有する板状であり、当該主面上に後述する導体パターンが形成される。したがって、基板11は、導体パターンの短絡が生じないよう絶縁性材料によって形成される。
【0042】
導体パターンは、スフェロイドによって発生する細胞外電位に関する信号を、選別装置100に接続された測定装置(不図示)へと伝達するための導電線である。導体パターンは一例として、基板11の表面に形成された酸化インジウム錫(ITO)膜をフォトリソグラフィによりパターン加工して形成される。なお、導体パターンの成形は、他の公知の技術を用いて行ってもよい。
【0043】
導体パターンには、基準電位に関する基準信号を伝達するための基準用配線23、および伝達された基準信号を取得するための測定装置の接続接点である基準用接点21が含まれる。また、導体パターンには、スフェロイドによって発生する細胞外電位に関する信号を伝達するための測定用配線33、および伝達された信号を取得するための測定装置の接続接点である測定用接点31が含まれる。
【0044】
基準用配線23は、基板11の中央部におけるスフェロイドが配置されるエリアから、基板11の外周部へと延設される。基準用配線23の一端は、基準信号を取得するため、スフェロイドが浸漬される培地と電気的に接続された基準電極端25(後述する図4参照)を有する。また、基準用配線23の他端は、基板11の外周部に形成された基準用接点21に接続される。
【0045】
測定用配線33は、基板11の中央部におけるスフェロイドが配置されるエリアから、基板11の外周部へと延設される。測定用配線33の一端は、細胞外電位に関する信号を取得するため、スフェロイドが浸漬される培地と電気的に接続された測定電極端35(後述する図3参照)を有する。また、測定用配線33の他端は、基板11の外周部に形成された測定用接点31に接続される。
【0046】
このような構成により、基板11の中央部においてスフェロイドが発生する細胞外電位に関する信号、および基準信号を、基板11の中央部よりも平面視における面積が大きい外周部に配置された基準用接点21および測定用接点31において取得できる。したがって、選別装置100では、測定装置を接続するための接点の面積を大きくとることができるため、測定装置との接続が容易になり、また接点の接触抵抗を低減することができる。
【0047】
なお、基準電極端25および測定電極端35は、基準電極メッキ27および測定電極メッキ37によりメッキ処理されている。基準電極メッキ27および測定電極メッキ37は、白金黒により実現される。これによれば、基準電極メッキ27および測定電極メッキ37は、基準電極端25および測定電極端35の上に凹凸構造を形成する。以下では、基準電極メッキ27が形成された基準電極端25を基準用電極20(後述する図4参照)とよび、測定電極メッキ37が形成された測定電極端35を測定用電極30(後述する図3参照)とよぶ。
【0048】
測定用電極30は、基板11の平面視において、8行8列の略正方形のマトリクス状に計64個配置されている。これにより、64個の測定用電極30に対応する64個のスフェロイドについて、一挙に細胞外電位に関する信号を取得することができる。なお、測定用電極30の個数は、64個よりも多くてもよく、少なくてもよい。基準用電極20は、測定用電極30が配置された正方形の四隅のそれぞれの外側に各1個の計4個が配置されている。基準用電極20の個数は、4個よりも多くてもよく、少なくてもよい。
【0049】
絶縁膜13は、基板11および導体パターンを覆うことにより、スフェロイドが浸漬された培地と、導体パターンとの接触を抑制するための絶縁性の被膜である。絶縁膜13は、例えば、感光性アクリル樹脂を用いて形成される。絶縁膜13は、図1に示すように、基準用接点21および測定用接点31よりも基板11の内側に形成される。したがって、基準用接点21および測定用接点31は、基板11上において電気的に露出した状態である。絶縁膜13上には、さらに保持層41が配置される。
【0050】
保持層41は、複数のスフェロイドのそれぞれを離間して保持するための板状の構造層である。保持層41は、例えば、樹脂等の材料によって形成されるが、その他の任意の材料を用いてもよい。保持層41は、スフェロイドと直接的に接触するため、細胞接着性の低い材料によって形成される、または、細胞接着性の低い材料によって表面が被覆されてもよい。保持層41を絶縁膜13上に設けることによって、有底の穴部43aが形成される。本実施の形態において、保持層41は、略正方形状に配置された測定用電極30の配置形状に対応する正方形である。なお、保持層41の形状は、正方形でなくてもよく、円形または多角形等の任意の形状を用いることができる。
【0051】
ここで、図2を用いて、保持層41をさらに詳細に説明する。図2は、実施の形態に係る保持層を説明するための図である。図2の(a)は、保持層41を平面視した図である。また、図2の(b)は、図2の(a)に示されたii-ii線において保持層41を切断した断面図である。
【0052】
図2に示すように、保持層41には、保持層41を厚み方向に貫通する、スフェロイドが収容されるための貫通孔43が形成されている。当該貫通孔43は、絶縁膜13上に保持層41を設けることによって、絶縁膜13による底部が形成され、当該底部とともに有底の穴部43aを形成する。
【0053】
つまり、保持層41と絶縁膜13と導体パターンと基板11とを有する板体に有底の穴部43aが複数形成され、複数の穴部43aのそれぞれは、複数のスフェロイドの各々を収容することにより保持する。より詳しくは、複数の穴部43aのそれぞれに複数のスフェロイドの各々が収容されることにより、一のスフェロイドは、他のスフェロイドと離間した状態で保持される。なお、複数の穴部43aが形成された板体は、保持部の一例である。穴部43aはスフェロイドを収容して保持し、~、穴部43aはスフェロイドを収容して保持し、~、穴部43aはスフェロイドを収容して保持してもよい(1≦i≦n、iは自然数、nは2以上の自然数)。
【0054】
また、貫通孔43は、保持層41を絶縁膜13上に設ける際に、測定用電極30に対応する箇所に形成されている。これにより、測定用電極30は、対応する貫通孔43に収容された(言い換えると穴部43aに収容された)スフェロイドから細胞外電位に関する信号を取得する。測定用電極30は貫通孔43に収容された(言い換えると穴部43aに収容された)スフェロイドから細胞外電位に関する信号を取得し、~、測定用電極30は貫通孔43に収容された(言い換えると穴部43aに収容された)スフェロイドから細胞外電位に関する信号を取得し、~、測定用電極30は貫通孔43に収容された(言い換えると穴部43aに収容された)スフェロイドから細胞外電位に関する信号を取得してもよい。
【0055】
図1に戻り、絶縁膜13上には、さらに、囲い部材15が形成される。囲い部材15は、絶縁膜13上の保持層41を囲み、絶縁膜13の上面に対して立設される壁状に形成される。囲い部材15は、絶縁膜13と、シリコーン接着剤等の任意の接着剤を用いて接着されることにより、保持層41を内部に含むチャンバ構造を形成する。ここで、囲い部材15の立設される高さは、保持層41の厚みよりも大きい。これにより、絶縁膜13上に接着された囲い部材15のチャンバ構造内に液体が注入された場合に、当該液体は、水面が保持層41の上面よりも上に位置するまで注入されることが可能となる。
【0056】
次に、図3および図4を用いて、測定用電極30および基準用電極20の周辺構造についてより詳細に説明する。図3は、図1に示された領域Aの拡大図および当該拡大図におけるiii-iii線で切断した断面図である。また、図4は、図1に示された領域Bの拡大図および当該拡大図におけるiv-iv線で切断した断面図である。
【0057】
図3の(a)は、図1に示された領域Aの拡大図である。また、図3の(b)は、図3の(a)に示されたiii-iii線で切断した断面図である。
【0058】
図3の(a)に示すように、穴部43aは、保持層41の平面視において略円形である。また、図3の(b)に示すように、穴部43aは、当該穴部43aの開口部45から、穴部43aの底部47側に向かって保持層41の厚み方向と交差する方向(紙面左右方向)における長さが短くなるテーパ構造を有する。したがって、本実施の形態における穴部43aは、逆円錐台形状の空間を有する。
【0059】
スフェロイド50は、図3の(b)に破線円形で示すように略球形の形状であることが多い。スフェロイド50は、開口部45から穴部43aの空間内に入り込み、穴部43aの深さ方向に沿って底部47側へと進入する。このとき、穴部43aの空間が逆円錐台の形状であるため、穴部43aの深さ方向に沿って進入するスフェロイド50は、穴部43aの内側面と接触して進入が停止される。よって、スフェロイド50は、穴部43aの内側面と接触する箇所において保持される。
【0060】
複数のスフェロイド50は、互いに異なるサイズを有する。スフェロイド50を構成する細胞の大きさは異なり、一のスフェロイド50を構成する細胞の個数は他のスフェロイド50を構成する細胞の個数と異なるからである。穴部43aの空間がテーパ構造を有することにより、スフェロイド50の大きさが小さいほど、スフェロイド50は、穴部43aの内側面上の箇所であって、穴部43aの底に近い箇所で保持される。スフェロイド50は、穴部43aの内側面上の箇所であって、スフェロイド50の大きさに対応する穴部43aにおける深さを有する箇所で接触して保持される。つまり、スフェロイド50は、大きさが異なるスフェロイド50を収容できる。
【0061】
ここで、穴部43aの底部47には、測定用電極30が配置される。より詳しくは、図3の(b)に示すように、測定用配線33の一端には、絶縁膜13で覆われていない領域が形成されており、この領域における測定用配線33が測定電極端35である。測定電極端35は、測定電極メッキ37によって被覆されている。これにより、測定用配線33と穴部43aの空間とが、測定電極メッキ37および測定電極端35(つまり測定用電極30)を介して電気的に接続された状態となる。つまり、穴部43aの空間において発生した電気信号は、測定用電極30および測定用配線33を介して、測定用接点31へと伝導される。なお、測定用配線33と穴部43aの空間とを電気的に接続することができれば、測定電極端35は測定電極メッキ37により被覆されていなくてもよい。
【0062】
本実施の形態においては、スフェロイド50と、測定用電極30(つまり測定用電極30表面の測定電極メッキ37)とは、接触しない。穴部43aの空間は、前述のように逆円錐台形状であるため、スフェロイド50が接触した箇所から十分離れた位置に穴部43aの底部47の位置を設定することで測定用電極30と接触しない状態で、スフェロイド50を収容することができる。なお、測定用電極30の位置は、穴部43aの底部47に限らず、穴部43aの内側面であってもよい。測定用電極30は、スフェロイド50と接触していなければ、その位置に特に限定はない。
【0063】
なお、スフェロイド50と測定用電極30との距離は、100マイクロメートル以下に設定されるとよい。これは、後述する実施例においてスフェロイド50のモデルとして用いる膵島スフェロイドに関して最適化された値である。したがって、その他の種のスフェロイド50を用いる場合、スフェロイド50と測定用電極30との距離は、100マイクロメートルより大きくてもよく、小さくてもよい。スフェロイド50の種類ごとにスフェロイド50と測定用電極30との最適距離が異なる場合があるため、スフェロイド50と測定用電極30との距離は、予備試験等に基づいて適宜設定されてもよい。
【0064】
また、測定用電極30の位置は、穴部43aの内側面においてスフェロイド50と内側面とが接触する箇所よりも穴部43aの底部47側の位置であってもよい。穴部43aの底部47は、複数のスフェロイド50のうち、測定用電極30に対応するスフェロイド50が最も近位となる位置である。つまり、測定用電極30は、最も近位にある対応するスフェロイド50から細胞外電位に関する信号を取得することができる。
【0065】
さらに、以上の測定用電極30の位置、および、穴部43aの平面視形状が略円形であることにより、選別装置100は、より正確に対応するスフェロイド50から細胞外電位に関する信号を取得することができる。具体的には、穴部43aの平面視形状が略円形であることにより、穴部43aのいずれかの深さにおいて、スフェロイド50の外面と穴部43aの内側面とが適合して収容される。
【0066】
これにより、穴部43aの内側面における収容されたスフェロイド50に接する箇所を境に、穴部43aの空間は、開口部45側と底部47側とに分断される。穴部43aの空間は、開口部45を除いて外部に連通していないため、スフェロイド50の収容で分断されることにより底部47側に外部とつながらない略密閉の空間が形成される。このような略密閉の空間は、他の物質の進入が抑制されている。
【0067】
また、測定用電極30は、配置される位置が略密閉の空間内の位置であるため、複数のスフェロイド50のうち、測定用電極30に対応するスフェロイド50が発生する細胞外電位に関する信号を効率的に取得することができる。例えば、複数のスフェロイド50のうち、測定用電極30に対応するスフェロイド50ではない他のスフェロイド50が発生する細胞外電位に関する信号は、分断により当該測定用電極30への伝導が低減される。したがって、略密閉の空間では、対応するスフェロイド50からの細胞外電位に関する信号に混入する、他のスフェロイド50からの細胞外電位に関する信号を低減することができる。よって、測定用電極30では、より正確に対応するスフェロイド50から細胞外電位に関する信号を取得することができる。
【0068】
図4の(a)は、図1に示された領域Bの拡大図である。また、図4の(b)は、図4の(a)に示されたiv-iv線で切断した断面図である。
【0069】
図4の(b)に示すように、基準用配線23の一端には、絶縁膜13で覆われていない領域が形成されており、この領域における基準用配線23が基準電極端25である。基準電極端25は、基準電極メッキ27によって被覆されている。これにより、基準用配線23と絶縁膜13の上面よりも上側とが、基準電極メッキ27および基準電極端25(つまり基準用電極20)を介して電気的に接続された状態となる。つまり、絶縁膜13の上面よりも上側において発生した電気信号は、基準用電極20および基準用配線23を介して、基準用接点21へと伝導される。なお、基準用配線23と絶縁膜13の上面よりも上側とを電気的に接続することができれば、基準電極端25は基準電極メッキ27により被覆されていなくてもよい。
【0070】
次に、図5および図6を用いて、本実施の形態における選別装置100と評価装置について説明する。図5は、実施の形態に係る選別装置と評価装置との関係を説明するブロック図である。
【0071】
図5に示すように、本実施の形態における選別装置100は、評価装置200と電気的に接続され、評価装置200に対して、測定用電極30において取得したスフェロイド50の細胞外電位に関する信号、および基準電位に関する基準信号を送信する。
【0072】
評価装置200は、一例として、プロセッサとメモリとを備える処理装置により実現される。評価装置200は、スフェロイド50の細胞外電位に関する信号を取得する取得部と、信号をフーリエ変換してパワースペクトル密度を算出する算出部と、算出されたパワースペクトル密度に基づいて、スフェロイドの良否を判定する判定部とを有する。
【0073】
取得部は、選別装置100における測定用接点31に接続された、評価装置200の接続インタフェースから、測定用電極30において取得されたスフェロイド50の細胞外電位に関する信号を取得する。また、取得部は、選別装置100における基準用接点21に接続された、評価装置200の接続インタフェースから、基準用電極20において取得された基準電位に関する基準信号を取得する。
【0074】
取得部は、複数の測定用電極のそれぞれについて上記した処理を行う。これにより、取得部は、複数のスフェロイド50各々の細胞外電位に関する信号を取得する。
【0075】
算出部は、取得された細胞外電位(V)に関する信号および基準電位(Vref)に関する信号を用いて、測定用電極30におけるスフェロイド50の細胞外電位の基準電位に対する電位差(ΔV=V-Vref)の時間領域における変化をフーリエ変換により信号を周波数展開して、パワースペクトル密度を算出する。なお、基準用電極20が接地されている場合、基準用電極20の電位の計測は不要で、ΔV=Vと考えてもよい。
【0076】
算出部は、複数の測定用電極の複数の細胞外電位(V)のそれぞれについて上記した処理を行う。これにより、算出部は、複数のスフェロイド50各々に対応するパワースペクトル密度を算出する。
【0077】
判定部は、算出されたパワースペクトル密度の解析によりスフェロイド50の良否の判定を行う。判定部による判定は、例えば、算出されたパワースペクトル密度のピーク周波数を周波数閾値と比較してもよく、パワースペクトル密度のパワーがパワー閾値以上かまたはパワー閾値よりも低いかの判定に基づいてもよい。
【0078】
判定部は、複数のスフェロイド50各々に対応するパワースペクトル密度を解析し、複数のスフェロイド50各々の良否判定を行う。
【0079】
また、判定部は、複数回にわたって取得された信号および基準信号を用いて、算出部により算出された複数のパワースペクトル密度を比較することによりスフェロイド50の良否の判定を行ってもよい。判定部による判定は、スフェロイド50の種類および用途に合わせたスフェロイド50の良否に対して、良否のそれぞれが反映されたパワースペクトル密度上の特徴を演算により判別できればよい。判定部による判定については、後述の実施例において一例を説明する。
【0080】
図6は、実施の形態に係る選別装置と評価装置との関係を説明する概略図である。つまり、図6は、選別装置100の断面図と、当該選別装置100に接続された評価装置200の一部(図中の電圧計63よりも後段)とを示す概略図である。
【0081】
図6に示すように、本実施の形態においては、選別装置100の複数の穴部43aのそれぞれにスフェロイド50が配置される。各々のスフェロイド50は、穴部43aの空間の逆円錐台形状により、測定用電極30と接触しない状態で保持されている。また、スフェロイド50のそれぞれは、囲い部材15によるチャンバ構造を満たす培地61により、浸漬された状態である。培地61に浸漬されることにより、スフェロイド50を形成する細胞は、細胞活動を維持可能な環境内に存在している。なお、スフェロイド50は、測定用電極30と空間的に接触しない状態、かつ、培地61により測定用電極30と電気的に接続された状態で保持されている。
【0082】
評価装置200では、スフェロイド50が発生する細胞外電位を時間領域において連続的に取得している。細胞外電位は、それぞれの測定用電極30に接続された電圧計63を用いて、測定用電極30において取得される電位と、基準用電極20において取得される電位との電位差に基づいて取得される。
【0083】
(実施例)
以下、実施の形態における実施例を以下に説明する。なお、以下では、随時図7A図7B、および図7Cを参照しながら、スフェロイド50の選別方法および評価方法について説明する。図7Aは、実施の形態に係るスフェロイドの選別方法および評価方法について説明するフローチャートである。また、図7Bは、複数のスフェロイドに適用される場合に追加で実施される選別方法および評価方法におけるサブフローチャートである。また、図7Cは、スフェロイドの良否を判定する他の判定ステップを示すサブフローチャートである。
【0084】
以下の実施例においては、複数のスフェロイドに適用される選別方法および評価方法について説明する。したがって、以下の実施例においては、図7Aに示すフローチャート、および図7Bに示すサブフローチャートにおけるステップは、すべて実施される。ただし、前述したように、単一のスフェロイドに適用される評価方法を実施する場合、図7Bに示すサブフローチャートは実施されなくてもよい。
【0085】
また、図7Cに示すサブフローチャートにおけるステップは、他に適用され得る判定ステップを例示するものである。したがって、図7Cに示すサブフローチャートにおけるステップは、実施されなくてもよい。以下の実施例においては、図7Cに示すサブフローチャートにおけるステップが実施されないものとして説明する。
【0086】
また、以下の実施例においては、グルコースを第1濃度で含む第1溶液中、およびグルコースを第2濃度で含む第2溶液中のそれぞれにおいて、スフェロイド50の細胞外電位に関する信号を取得する。また、以下では、スフェロイド50として、特に膵島スフェロイドに準ずるモデル細胞塊の膵島(実施例中では単離膵島として説明する)を用いた実施例を説明する。
【0087】
したがって、本実施例における取得部は、第1溶液中で膵島スフェロイドの細胞外電位に関する第1信号を取得する第1取得部と、第2溶液中で膵島スフェロイドの細胞外電位に関する第2信号を取得する第2取得部とを有する。また、本実施例における算出部は、第1信号および第2信号をそれぞれフーリエ変換して、第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度を算出する。また、本実施例における判定部は、算出された第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度の少なくとも一方に基づいて、膵島スフェロイドの良否を判定する。
【0088】
[選別装置の作製]
まず、基板11として正方形のガラス板が用意された。ガラス板は、0.7ミリメートルの厚みおよび、50ミリメートル×50ミリメートルの2500平方ミリメートルの面積を有していた。
【0089】
次に、スパッタリング法によりガラス板の表面に150ナノメートルの厚みを有するITO膜が形成された。また、フォトリソグラフィ技術を用いて、ITO膜をパターン加工することで、導体パターンが形成された。導体パターンの形成は、測定用接点31を64個、基準用接点を4個の計68個の接点、ならびに64本の測定用配線33、および4本の基準用配線23として行われた。
【0090】
次いで、感光性アクリル樹脂を用いて、ガラス板およびガラス板上に形成された導体パターンの表面が厚さ1.5マイクロメートルの絶縁膜13により被覆された。この際、68個の接点ならびに、測定電極端35および基準電極端25を有する各配線の先端には絶縁膜13による被覆が行われなかった。
【0091】
測定電極端35は、8行8列に1.6ミリメートル間隔の等間隔で、64個形成された。また、基準電極端25は、ガラス板の中心から9.8ミリメートルの位置に、ガラス板の中心を対象に4個形成された。
【0092】
測定電極端35は、ガラス板の平面視において縦横、各50マイクロメートルの正方形とした。また、基準電極端25は、ガラス板の平面視において縦横、各200マイクロメートルの正方形とした。
【0093】
次に、保持層41としてウェルが用意された。ウェルの材料には、アクリル樹脂が用いられた。また、ウェルは、縦横、各13ミリメートルおよび、厚さ1ミリメートルの板状のものとした。また、ウェルには、上面から下面に向かって縮径するテーパ構造の貫通孔43を形成させた。当該貫通孔43は、測定電極端35と同じ1.6ミリメートル間隔で、8行8列に64個形成された。ウェルに形成された貫通孔43は、ウェルの上面側が直径1ミリメートルの円形、ウェルの下面側が直径100マイクロメートルの円形の逆円錐台形状とした。
【0094】
次に、絶縁膜13上において、複数の測定電極端35のそれぞれが、ウェルの平面視における複数の貫通孔43の中央に配置される位置に、ウェルが接着された。ウェルの接着には、シリコーン接着剤が用いられた。次に、ウェルおよび基準電極端25を内部に含むように、絶縁膜13の表面に囲い部材15が、シリコーン接着剤を用いて接着された。なお、囲い部材15の材料としては、ガラスを用いた。また、囲い部材15には、22ミリメートルの内径、25ミリメートルの外径、および10ミリメートルの高さを有する円筒形のものを用いた。
【0095】
次に、露出している測定電極端35および基準電極端25が、白金黒を用いてメッキ処理された。具体的には、メッキ溶液を用いて、20mA/cmの電流密度で2分間処理することにより、測定電極端35および基準電極端25は、メッキにより被覆された。なお、メッキ処理時には、測定用接点31および基準用接点21は、カソードとして用いられた。また、メッキ溶液は、以下の表1に示す組成の溶液が用いられた。このようなメッキ処理により、測定電極端35および基準電極端25は、白金黒の測定電極メッキ37および基準電極メッキ27により被覆された。
【0096】
選別装置100は、以上のようにして作製された。
【0097】
【表1】
【0098】
[単離膵島の培養]
次に、スフェロイド50のモデルとして、選別装置100を用いて、ラットから単離された膵島(以下、単に「単離膵島」という)が培養された。その後、選別装置100を用いて、単離膵島の細胞外電位の時間領域における変化が測定された。
【0099】
本実施例においては、培地中の単離膵島の中から直径が200±50マイクロメートルであるものを選択して用いた。
【0100】
選別装置100には、あらかじめ滅菌処理(30分間紫外線を照射)が行われた後、培地が供された。次に、単離膵島が、ウェルの貫通孔43(つまり、穴部43a)のそれぞれに1個ずつ播種(言い換えると配置)された。播種された単離膵島は、自重によりウェルに形成された穴部43aの空間内を底部47に向かって沈んでいき、穴部43aの内側面によりそれ以上の沈降が制限される位置で保持された。測定用電極30(つまり、測定電極メッキ37の表面)と、保持された単離膵島とは、物理的に接触しなかった。
【0101】
次に、単離膵島は、37℃、CO濃度5%雰囲気に管理されたインキュベータ内で24時間静置された。
【0102】
以上により、単離膵島を測定用電極30とは接触しない状態で保持する保持ステップ(図7AにおけるS100)、および保持された単離膵島の培養が実施された。単離膵島は、測定用電極30と接触せずに保持されるため、培養の過程において測定用電極30に接着する等に伴って生じる回収された単離膵島の損傷および変性が抑制される。測定用電極30への接着は、単離膵島に限らず、一般的なスフェロイド50であれば生じ得るため、本実施例において説明した保持ステップ(S100)による効果は、広く適用可能である。
【0103】
[細胞外電位の測定]
次に、以上のように培養された膵島単離の細胞外電位の時間領域における変化が以下の手順に沿って測定された。測定用培地(以下、KBR Bufferという)は、以下の表2に示す組成の溶液が用いられた。
【0104】
単離膵島がウェルから脱離しないように選別装置100上の培地が、グルコースを2.5mM(第1濃度)で含むKBR Buffer(つまり、第1溶液)に置換された。
【0105】
次に、37℃、CO濃度5%雰囲気に管理されたインキュベータ内で、測定用電極30および基準用電極20を用いて、各々の単離膵島の細胞外電位に関する信号(第1信号)を連続的に取得することにより、時間領域における細胞外電位の変化が60分間にわたって測定された。なお、細胞外電位の測定には、細胞電位測定装置を用いた。細胞電位測定装置は、上記の実施の形態における評価装置200の一部機能を実施する装置である。つまり、評価装置200は、全ての機能が一体化された単一の装置として実現されてもよく、機能ごとにモジュール化された複数の装置により実現されてもよい。
【0106】
細胞電位測定装置により、64個の単離膵島それぞれの細胞外電位の時間領域における変化が、それぞれの単離膵島が保持された穴部43aの底部47に位置するそれぞれの測定用電極30によって、略同時に測定された。それぞれの細胞外電位の時間領域における変化は、A/D(アナログ/デジタル)変換器により、サンプリングレート20キロヘルツ、12ビット階調でデジタル変換されハードディスク等の記憶装置に保存された。
【0107】
以上により、第1溶液中で単離膵島の細胞外電位に関する第1信号を取得する第1取得ステップ(図7AにおけるS101)が実施された。すなわち、第1溶液中で単離膵島の細胞外電位に関する第1信号~単離膵島64の細胞外電位64に関する第1信号64を取得する第1取得ステップ(図7AにおけるS101)が実施された。単離膵島~単離膵島64と第1信号~第1信号64は1対1対応する。
【0108】
次に、単離膵島がウェルから脱離しないように選別装置100上の第1溶液が、グルコースを第1濃度よりも高い22.5mM(第2濃度)で含むKBR Buffer(つまり、第2溶液)に置換(言い換えると、交換)された。
【0109】
つまり、第1溶液を第2溶液に交換するステップ(図7AにおけるS102)が実施された。
【0110】
次に、37℃、CO濃度5%雰囲気に管理されたインキュベータ内で、測定用電極30および基準用電極20を用いて、各々の単離膵島の細胞外電位に関する信号(第2信号)を連続的に取得することにより、時間領域における細胞外電位の変化が60分間にわたって測定された。なお、測定方法は、第1信号の取得と同様の方法により行った。
【0111】
以上により、第2溶液中で単離膵島の細胞外電位に関する第2信号を取得する第2取得ステップ(図7AにおけるS103)が実施された。すなわち、第2溶液中で単離膵島の細胞外電位に関する第2信号~単離膵島64の細胞外電位64に関する第2信号64を取得する第1取得ステップ(図7AにおけるS101)が実施された。単離膵島~単離膵島64と第2信号~第2信号64は1対1対応する。
【0112】
次に、単離膵島がウェルから脱離しないように選別装置100上の第2溶液が培地に置換された。さらに、選別装置100は、37℃、CO濃度5%雰囲気に管理されたインキュベータ内に静置された。この培地の置換は、後述する、回収ステップにおいて単離膵島の回収までの間、単離膵島を構成する各細胞が細胞活動を維持可能な環境内におくために実施している。
【0113】
【表2】
【0114】
[単離膵島の良否判定]
単離膵島の良否の判定は、以下の手順で実施された。
【0115】
まず、第1信号の解析が行われた。つまり、第1信号~第1信号64の解析が行われた。ハードディスクに保存された64個の単離膵島の第1信号、つまり、単離膵島の第1信号~単離膵島64の第1信号64においては、それぞれ1/1000にダウンサンプリングされた後、60分間の測定データのうち培地置換後の細胞外電位が十分に安定化するまでの期間である始めの10分間の測定データが除外された。第1信号のうち除外されなかった後半の50分間の測定データである解析用データが作成された。
【0116】
次に、上記の処理が適用された64個の第1信号に含まれる解析用データについて、2つの単離膵島からなるペアの各々の第1信号どうしの相関を示す相関係数が算出された。相関係数は、2つのデータを用いた計算により得られる0以上かつ1以下の数値であり、数値が大きいほど計算に用いた2つのデータの類似性が高いことを示すものである。言い換えると、相関係数は、数値が小さいほど計算に用いた2つのデータの類似性が低い、つまり、独立したデータであることを示すものである。したがって、2つの単離膵島からなるペアの各々について第1信号の相関係数の算出により、ペアをなす2つの単離膵島のそれぞれから取得された第1信号どうしの独立性の程度が示された。
【0117】
本実施例において、単離膵島のそれぞれから取得された第1信号どうしの独立性の程度を用いて、単離膵島が不良であるか否かを判定する。より詳しくは、算出された相関係数が高い場合に、相関係数の算出に用いられた2つの第1信号が同じ単離膵島から取得されたものとみなす。つまり、このような場合に、2つの単離膵島のうち、一方の細胞外電位に関する第1信号が2つの測定用電極30によって取得されたとみなす。したがって、2つの単離膵島のうち、一方の細胞外電位に関する第1信号が正確に取得されていなかったこととなる。2つの単離膵島のうち、どちらの単離膵島の細胞外電位が正確に取得されていなかったかは判別困難であるため、これら2つの単離膵島をいずれも不良と判定する。これにより、第1信号が正確に取得されていなかった単離膵島は、確実に不良と判定され、良好なスフェロイドが選別され、回収される。
【0118】
以上に基づき、第1信号と、他の63個の第1信号との相関係数がいずれにおいても閾値(第2閾値)として設定した0.4以下の数値を示す第1信号を独立な単離膵島から取得された独立な第1信号として、該当する第1信号が抽出された(図7BにおけるS201でYes)。一方、第1信号と、他の63個の第1信号との相関係数がいずれにおいても閾値(第2閾値)として設定した0.4よりも大きい数値を示す2つの第1信号がそれぞれ取得された2つの単離膵島は(図7BにおけるS201でNo)、不良と判定された(図7Aおよび図7BにおけるS110)。なお、上記の閾値(第2閾値)は、0.4でなくてもよく、実験的に決定されてもよい。
【0119】
次に、第2信号の解析が行われた。つまり、第2信号~第2信号64の解析が行われた。ハードディスクに保存された64個の単離膵島の第2信号、つまり、単離膵島の第2信号~単離膵島64の第2信号64においては、それぞれ1/1000にダウンサンプリングされた後、60分間の測定データのうち培地置換後の細胞外電位が十分に安定化するまでの期間である始めの10分間の測定データが除外された。第2信号のうち除外されなかった後半の50分間の測定データである解析用データが作成された。
【0120】
次に、上記の処理が適用された64個の第2信号に含まれる解析用データについて、2つの単離膵島からなるペアの各々の第2信号どうしの相関を示す相関係数が算出された。2つの単離膵島からなるペアの各々について第2信号の相関係数の算出により、ペアをなす2つの単離膵島のそれぞれから取得された第2信号どうしの独立性の程度が示された。
【0121】
本実施例において、単離膵島のそれぞれから取得された第2信号どうしの独立性の程度を用いて、第1信号と同様に単離膵島が不良であるか否かを判定する。
【0122】
第2信号と、他の63個の第2信号との相関係数がいずれにおいても閾値(第3閾値)として設定した0.4以下の数値を示す第2信号を独立な単離膵島から取得された独立な第2信号として、該当する第2信号が抽出された(図7BにおけるS202でYes)。一方、第2信号と、他の63個の第2信号との相関係数がいずれにおいても閾値(第3閾値)として設定した0.4よりも大きい数値を示す2つの第2信号がそれぞれ取得された2つの単離膵島は(図7BにおけるS202でNo)、不良と判定された(図7Aおよび図7BにおけるS110)。なお、上記の閾値(第3閾値)は、0.4でなくてもよく、実験的に決定されてもよい。
【0123】
なお、以上の第1信号に対する相関係数に基づく単離膵島の良否判定のステップ(S201)および第2信号に対する相関係数に基づく単離膵島の良否判定のステップ(S202)は、いずれか一方のみが行われてもよく、いずれも行われなくてもよい。選別装置100の設計が十分であり、測定用電極30が対応する単離膵島の細胞外電位に関する信号を正確に取得できる構成であれば、相関係数に基づく良否判定のステップ(S201およびS202)は、必須ではない。
【0124】
次に、抽出された独立な第1信号、および、独立な第2信号は、フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)解析を行い、周波数成分の検出が行われた。FFT解析では、第1信号および第2信号がフーリエ変換され、第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度の算出が行われた。
【0125】
算出された第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度におけるパワーのピーク値が閾値(第1閾値)として設定した10より大きいものを抽出した(図7AにおけるS105でYes)。一方で、算出された第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度におけるパワーのピーク値が閾値(第1閾値)として設定した10以下であったパワースペクトル密度が算出された第1信号または第2信号が取得された単離膵島は(図7AにおけるS105でNo)、不良と判定された(図7Aおよび図7BにおけるS110)。ここで、パワースペクトル密度におけるパワーのピーク値とは、ノイズ成分に基づくピークを除く、例えば最大のパワーを示すピーク値である。したがって、例えば、高周波成分によるノイズをフィルタにより除外する、または、平均化によりノイズ成分を低減する等のノイズ処理を実施した後、ピーク値を決定してもよい。また、上記の閾値(第1閾値)は、10でなくてもよく、実験的に決定されてもよい。このような閾値(第1閾値)は、第1パワースペクトルおよび第2パワースペクトルのそれぞれに個別に設定された異なる閾値であってもよい。
【0126】
複数の第1パワースペクトル密度のうち、ピーク値と閾値(第1閾値)との比較により抽出された第1パワースペクトル密度について、パワーが最大となる第1ピーク周波数(つまり、第1周波数)が特定された。つまり、第1特定ステップ(図7AにおけるS106)が実施された。また、特定された第1ピーク周波数を、対応する第1パワースペクトルに対応する単離膵島の第1溶液中における活動周波数とした。なお、第1ピーク周波数の特定においても、ノイズ成分に基づくピークを除く目的からノイズ処理を実施した後、第1ピーク周波数が特定されてもよい。
【0127】
次いで、複数の第2パワースペクトル密度のうち、ピーク値と閾値(第1閾値)との比較により抽出された第2パワースペクトル密度について、パワーが最大となる第2ピーク周波数(つまり、第2周波数)が特定された。つまり、第2特定ステップ(図7AにおけるS107)が実施された。また、特定された第2ピーク周波数を、対応する第2パワースペクトルに対応する単離膵島の第2溶液中における活動周波数とした。なお、第2ピーク周波数の特定においても、ノイズ成分に基づくピークを除く目的からノイズ処理を実施した後、第2ピーク周波数が特定されてもよい。
【0128】
次に、個々の単離膵島において特定された第1ピーク周波数および第2ピーク周波数(つまり第1溶液中および第2溶液中における活動周波数)の比較が実施された。
【0129】
一例として、第2ピーク周波数が第1ピーク周波数よりも大きいか否かの判定が行われた(図7AにおけるS108)。上記の例では、第2ピーク周波数が第1ピーク周波数よりも大きい場合(図7AにおけるS108でYes)、単離膵島が良と判定された(図7AにおけるS109)。一方で、第2ピーク周波数が第1ピーク周波数以下である場合(図7AにおけるS108でYes)、単離膵島が不良と判定された(図7Aおよび図7BにおけるS110)。なお、実施例における単離膵島の良判定とは、単離膵島を構成する細胞が良好に活動していることを示している。
【0130】
また、個々の単離膵島における第1溶液中および第2溶液中における活動周波数それぞれについて個別に判定を行った結果を単離膵島の良否判定に用いてもよい。一例として、第1溶液中における活動周波数が第1規定周波数範囲(例えば、0.02ヘルツ以上かつ0.06ヘルツ以下)内であり、かつ第2溶液中における活動周波数が第2規定周波数範囲(例えば、0.04ヘルツ以上かつ0.14ヘルツ以下)内である場合に当該単離膵島が良と判定されてもよい。さらに、図7Cに示すように、単離膵島における活動周波数の個別の判定と上記の第1ピーク周波数および第2ピーク周波数の大小の比較が組み合わされてもよい。すなわち、第1溶液中における活動周波数が第1規定周波数範囲内であり(図7CにおけるS301でYes)かつ第2溶液中における活動周波数が第2規定周波数範囲内であり(図7CにおけるS302でYes)、かつ、第2ピーク周波数が第1ピーク周波数よりも大きい(図7AにおけるS108でYes)単離膵島が良と判定されてもよい。なお、上記の例では、ステップ(S301、S302およびS108)のいずれかにおいて基準を満たさなかった場合(図7CにおけるS301もしくはS302または図7AにおけるS108のいずれかでNo)、単離膵島を不良と判定してもよい。以上により、複数の単離膵島それぞれの良否を判定するための、ステップ(S105、S108、S201、およびS202)を含む判定ステップが実施された。
【0131】
さらに、第2取得ステップの後に37℃、CO濃度5%雰囲気に管理されたインキュベータ内に静置された単離膵島を含む選別装置100において、判定ステップで良と判定された単離膵島が選択的に回収される回収ステップ(図7AにおけるS111)が実施された。回収ステップでは、選別装置100上に保持された単離膵島のうち、不良と判定された単離膵島へのレーザ照射または、細胞死を誘導する薬剤等の添加等の方法により、当該単離膵島を破壊することで、良と判定された単離膵島が選択的に回収されてもよい。また、良と判定された単離膵島が直接的かつ選択的に回収されてもよい。
【0132】
以下では、図8図10を用いて、実施例において得られたデータについて説明する。
【0133】
図8は、実施例に係る第1単離膵島から得られた各種データについて説明する図である。図8の(a)は、第1単離膵島から得られた第1溶液中における第1信号を示す図である。また、図8の(b)は、図8の(a)に示した第1信号をフーリエ変換して算出された第1パワースペクトル密度を示す図である。また、図8の(c)は、第1単離膵島から得られた第2溶液中における第2信号を示す図である。また、図8の(d)は、図8の(c)に示した第2信号をフーリエ変換して算出された第2パワースペクトル密度を示す図である。
【0134】
図8に示すように本実施例における第1単離膵島では、取得された第1信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第1パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)以下であった。したがって、第1単離膵島では、第1溶液中における活動周波数は、特定されなかった。また、第1単離膵島では、取得された第2信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第2パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きかった。したがって、第1単離膵島では、第2溶液中における活動周波数が特定され、その値は、0.07ヘルツであった。
【0135】
図9は、実施例に係る第2単離膵島から得られた各種データについて説明する図である。図9の(a)は、第2単離膵島から得られた第1溶液中における第1信号を示す図である。また、図9の(b)は、図9の(a)に示した第1信号をフーリエ変換して算出された第1パワースペクトル密度を示す図である。また、図9の(c)は、第2単離膵島から得られた第2溶液中における第2信号を示す図である。また、図9の(d)は、図9の(c)に示した第2信号をフーリエ変換して算出された第2パワースペクトル密度を示す図である。
【0136】
図9に示すように本実施例における第2単離膵島では、取得された第1信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第1パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きかった。したがって、第2単離膵島では、第1溶液中における活動周波数が特定され、その値は、0.03ヘルツであった。また、第2単離膵島では、取得された第2信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第2パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)以下であった。したがって、第2単離膵島では、第2溶液中における活動周波数は、特定されなかった。
【0137】
図10は、実施例に係る第3単離膵島から得られた各種データについて説明する図である。図10の(a)は、第3単離膵島から得られた第1溶液中における第1信号を示す図である。また、図10の(b)は、図10の(a)に示した第1信号をフーリエ変換して算出された第1パワースペクトル密度を示す図である。また、図10の(c)は、第3単離膵島から得られた第2溶液中における第2信号を示す図である。また、図10の(d)は、図10の(c)に示した第2信号をフーリエ変換して算出された第2パワースペクトル密度を示す図である。
【0138】
図10に示すように本実施例における第3単離膵島では、取得された第1信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第1パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きかった。したがって、第3単離膵島では、第1溶液中における活動周波数が特定され、その値は、0.04ヘルツであった。また、第3単離膵島では、取得された第2信号に対してフーリエ変換を実施することで算出された第2パワースペクトル密度において、ピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きかった。したがって、第3単離膵島では、第2溶液中における活動周波数が特定され、その値は、0.12ヘルツであった。
【0139】
一般的に膵島(つまり単離膵島)は、培地中におけるグルコース濃度が低い場合には、膵島に含まれるα細胞が活動し、グルカゴンを放出することが知られている。α細胞からのグルカゴンの放出は周期的に行われ、その周期の中でα細胞内の電位も同様の周期で変化する。よって、第1溶液中における活動周波数の逆数は、その膵島のグルカゴン放出に伴うα細胞の活動周期を反映している。
【0140】
特定された複数の単離膵島におけるグルコース濃度が低い第1溶液中の活動周波数の多くは、0.02ヘルツ以上かつ0.06ヘルツ以下の範囲内であった。このことから、当該範囲を第1溶液中において良好と考えられる膵島の活動周波数に対応する第1規定周波数範囲として規定した。
【0141】
また、膵島は、培地中におけるグルコース濃度が高い場合には、膵島に含まれるβ細胞が活動し、インスリンを放出することが知られている。β細胞からのインスリンの放出は周期的に行われ、その周期の中でβ細胞内の電位も同様の周期で変化する。よって、第2溶液中における活動周波数の逆数は、その膵島のインスリン放出に伴うβ細胞の活動周期を反映している。
【0142】
特定された複数の単離膵島におけるグルコース濃度が高い第2溶液中の活動周波数の多くは、0.04ヘルツ以上かつ0.14ヘルツ以下の範囲内であった。このことから、当該範囲を第2溶液中において良好と考えられる膵島の活動周波数に対応する第2規定周波数範囲として規定した。
【0143】
また、β細胞の活動周期は、α細胞の活動周期に比べて短いことが生理学的に知られている。これに基づき、第2ピーク周波数が第1ピーク周波数よりも大きい、つまり、第1溶液中の活動周波数<第2溶液中の活動周波数であることを単離膵島が良判定であることの判定基準として規定した。
【0144】
上記の3つの単離膵島の中では、第3単離膵島が第1ピーク周波数および第2ピーク周波数の両方が抽出されており、α細胞とβ細胞の両方が活動していることが示された。さらに、第3単離膵島のβ細胞の活動周期はおおよそ8.3秒間であり、α細胞の活動周期はおおよそ25秒間であったことから、以下のすべての条件を満たしていたため、第3単離膵島は、良判定とされた。
【0145】
0.02ヘルツ≦第1溶液中の活動周波数(0.04ヘルツ)≦0.06ヘルツ
0.04ヘルツ≦第2溶液中の活動周波数(0.12ヘルツ)≦0.14ヘルツ
第1溶液中の活動周波数(0.04ヘルツ)<第2溶液中の活動周波数(0.12ヘルツ)
このように、培地中のグルコース濃度をα細胞が活動する低濃度にしたときの細胞外電位の周波数に基づく活動周期と、培地中のグルコース濃度をβ細胞が活動する高濃度にしたときの細胞外電位の周波数に基づく活動周期とを特定する。これにより、特定された活動周期が第1規定周波数範囲および第2規定周波数範囲に基づく活動周期の範囲を満たしているか否かを判定することで、複数の単離膵島を同時に、かつ、それぞれの良否を判定することができる。
【0146】
つまり、複数の単離膵島について個別に、単離膵島を構成する細胞の良好な活動によりグルコース濃度に応じて適切にグルカゴンおよびインスリン分泌を行う機能を有するか否かを判定することができる。さらに、本実施例において説明した選別方法では、単離膵島が測定用電極30と物理的に接触することがないので、測定用電極30との接触による物理的な損傷を抑制することができ、単離膵島の回収ステップ(S111)において、測定用電極30との吸着(言い換えると接着)を物理的に剥がすことによる単離膵島の破損を抑制することができる。
【0147】
[比較例の作製]
上記の実施例と比較するための比較例として、ウェルの貫通孔43における下面側の開口を直径200マイクロメートルの円形に設定して、その他を実施例と同様に設定した。したがって、ウェルの貫通孔43における下面側の開口の拡大に伴い、穴部43aに播種された一部の単離膵島は、測定用電極30(つまり、測定電極メッキ37の表面)と、保持された単離膵島とは、物理的に接触していた。
【0148】
[比較例との比較結果]
以下、図11および図12を用いて、上記実施例と比較例との比較結果について説明する。図11は、実施例および比較例に係る単離膵島のうち、判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を示す第1の図である。また、図12は、実施例および比較例に係る単離膵島のうち、判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を示す第2の図である。図11は、第1溶液中における単離膵島から取得された第1信号に基づく判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を百分率で表現した抽出率として示している。より詳しくは、図11は、本実施例および比較例において、第1溶液中で取得されたそれぞれの第1信号の中から、相関係数に基づく良否判定のステップ(S201)において独立な第1信号として抽出された単離膵島の、全ての単離膵島に対する割合を示している。また、図11は、第1パワースペクトル密度におけるパワーのピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きく、第1溶液中における活動周波数が特定された単離膵島の、全ての単離膵島に対する割合を示している。
【0149】
また、図12は、第2溶液中における単離膵島から取得された第2信号に基づく判定ステップにおいて抽出された単離膵島の割合を百分率で表現した抽出率として示している。より詳しくは、図12は、本実施例および比較例において、第2溶液中で取得されたそれぞれの第2信号の中から、相関係数に基づく良否判定のステップ(S202)において独立な第2信号として抽出された単離膵島の、全ての単離膵島に対する割合を示している。また、図12は、第2パワースペクトル密度におけるパワーのピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きく、第2溶液中における活動周波数が特定された単離膵島の、全ての単離膵島に対する割合を示している。
【0150】
図11および図12から明らかなように、本実施例では50%以上の単離膵島において、取得された第1信号が、独立な第1信号として抽出された単離膵島であったのに対し、比較例では約10%の単離膵島から取得された第1信号しか抽出されなかった。同様に、本実施例では約40%の単離膵島においてパワースペクトル密度におけるパワーのピーク値が閾値(第1閾値)よりも大きく、第1溶液中または第2溶液中における活動周波数が特定されたのに対し、比較例では約10%の単離膵島から取得された第1信号または第2信号しか第1溶液中または第2溶液中における活動周波数が特定されなかった。
【0151】
これより、本実施例および比較例で使用された200±50マイクロメートルの直径を有する単離膵島の良否の判定には、ウェルの貫通孔43における下面側の開口は、直径100マイクロメートルの円形の方が適していることが分かった。
【0152】
(変形例)
以下では、実施の形態の変形例として穴部のその他の形状について、図13を用いて説明する。
【0153】
図13は、変形例に係る穴部形状を説明する図である。
【0154】
図13の(a)には、実施の形態における穴部43aを比較のために示している。図13の(b)は、変形例の第1例に係る穴部の形状を説明する図である。図13の(b)に示すように、図13の(a)に対して、変形例の第1例における穴部43bは、テーパ構造を有さない点で異なっている。したがって、保持層41bは、実施の形態とは異なる形状の貫通孔を有する。より具体的には、貫通孔は、スフェロイド50の直径よりも大きい内径を有する第1筒部と、スフェロイド50の直径よりも小さい内径を有する第2筒部とを有する。第1筒部は、第2筒部よりも穴部43bの開口部側に形成される。これによれば、穴部43bに収容されるスフェロイド50は、第2筒部に入り、かつ第2筒部と第1筒部とが形成する段差部によって穴部43aに接触することで測定用電極30と接触しない状態で保持される。
【0155】
図13の(c)は、変形例の第2例に係る穴部の形状を説明する図である。図13の(c)に示すように、図13の(a)に対して、変形例の第2例における穴部43cは、穴部43cのテーパ構造の形状が異なる。より詳しくは、変形例の第2例における穴部43cは、穴部43cを、深さ方向に沿って切断する断面視において開口部側に凸となる湾曲したテーパ構造を有する。また、当該テーパ構造は、スフェロイド50が穴部43cに収容された際にスフェロイド50が開口部よりも外側に突出する構造である。したがって、保持層41cは、実施の形態における保持層41よりも比較的厚みが薄く、浅い穴部43cを形成している。これによれば、穴部43cに収容されたスフェロイド50は、穴部43cに対する出入りが容易となる。したがって、スフェロイド50を播種する際に、スフェロイド50が容易に穴部43cに入る。また、穴部43cは構造上1つのスフェロイド50のみを配置できる。つまり、1つの穴部43cには、2個以上のスフェロイドが収容されることはない。したがって、測定用電極30において2個以上のスフェロイド50から細胞外電位に関する信号が取得されることが抑制される。
【0156】
図13の(d)は、変形例の第3例に係る穴部の形状を説明する図である。図13の(d)に示すように、図13の(a)に対して、変形例の第3例における穴部43dは、穴部43dのテーパ構造の形状が異なる。より詳しくは、変形例の第3例における穴部43dは、穴部43dを、深さ方向に沿って切断する断面視において底部側に凹となる湾曲したテーパ構造を有する。保持層41dは、このような穴部を実現するための貫通孔を有する。これによれば、開口部の直径を広げることなく(つまり、テーパ構造の傾斜角を広げることなく)、収容されるスフェロイド50をより測定用電極に接近させることができる。測定用電極30においては、スフェロイド50と測定用電極30とがある程度接近している方が、より正確に細胞外電位に関する信号が取得できるため、本例における穴部43dの形状は、より微弱な細胞外電位を発生するスフェロイド50に適用する場合に有効である。
【0157】
図13の(e)は、変形例の第4例に係る穴部の形状を説明する図である。図13の(e)に示すように、図13の(a)に対して、変形例の第4例における穴部43eは、テーパ構造等の形状が同等である。一方で、配置される測定用電極30eの個数が複数である点で実施の形態における測定用電極30と異なっている。なお、保持層41eは、穴部43eの底部側において、複数の測定用電極30eが配置されるための第2空間を有する貫通孔を形成してもよい。これによれば、複数の測定用電極のそれぞれにおいて、スフェロイド50の細胞外電位に関する信号を取得することができる。例えば、スフェロイド50の部位によって発生する細胞外電位に差がある場合等にそれぞれの部位における細胞外電位に関する信号を取得することができる。したがって、本例によれば、より多様な判定を実施することができる。
【0158】
図13の(f)は、変形例の第5例に係る穴部の形状を説明する図である。図13の(f)に示すように、図13の(a)に対して、変形例の第5例における穴部43fは、テーパ構造等の形状が異なる。より詳しくは、保持層41fにおいて穴部43fの内側面は、スフェロイド50と接触する箇所よりも穴部43fの開口部側において、穴部43fの内側に向けて突出する返し構造49を有する。これによれば、実施例において説明した培地の最にスフェロイド50が穴部43fから脱離することが抑制される。よって、選別装置を用いる操作がより簡易となる。
【0159】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態等について説明したが、本開示は、上記実施の形態等に限定されるものではない。
【0160】
また、上記実施の形態等において計数装置を構成する構成要素について例示したが、計数装置が備える構成要素の各機能は、計数装置を構成する複数の部分にどのように振り分けられてもよい。
【0161】
その他、実施の形態等に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態等における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0162】
例えば、フーリエ変換により算出されたパワースペクトル密度において、ピーク周波数を有する場合、当該スフェロイドを構成する細胞には周期的な活動があると考えられる。したがって、判定ステップでは、ピーク周波数の有無によりスフェロイドの良否を判定してもよい。
【0163】
また、例えば、実施例において単離膵島を用いて説明した膵島スフェロイドのように、スフェロイドは、α細胞およびβ細胞等の複数種類の細胞から構成される場合がある。このとき、スフェロイドに求める機能が複数種類のうちいずれかの細胞の機能である場合に、判定部は、当該機能を発現する細胞の活動に由来するパワースペクトル密度上の特徴を判別してスフェロイドの良否を判定してもよい。
【0164】
また、例えば、上記実施の形態等において説明したスフェロイドは、より高次な細胞塊であるオルガノイドであってもよい。
【0165】
また、上記実施例において選別装置を用いた膵島スフェロイド(実施例中では単離膵島として説明した)を用いる例を説明した。膵島を構成する細胞はグルコース応答性を有するため、溶液中のグルコース濃度に着目したが、例えば、その他のスフェロイドについて選別装置を用いる場合には、他の代謝産物に着目し、溶液または培地を調製してもよい。
【0166】
また、例えば、実施の形態の選別装置において、別体であるとして説明した各部材は、一体的に形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本開示は、スフェロイドの良否を判定する装置等に応用可能である。
【0168】
上記の開示内容から導出される発明には、下記の発明も含まれる。
【0169】
(項目1)
グルコースを第1濃度で含む第1溶液中で膵島スフェロイドの細胞外電位に関する第1信号を取得する第1取得ステップと、
グルコースを前記第1濃度よりも高い第2濃度で含む第2溶液中で前記膵島スフェロイドの細胞外電位に関する第2信号を取得する第2取得ステップと、
前記第1信号および前記第2信号をフーリエ変換して第1パワースペクトル密度および第2パワースペクトル密度を算出する算出ステップと、
算出された前記第1パワースペクトル密度および前記第2パワースペクトル密度に基づいて、前記膵島スフェロイドの良否を判定する判定ステップと、を含む、
膵島スフェロイドの評価方法。
【0170】
(項目2)
前記判定ステップでは、算出された前記第1パワースペクトル密度および前記第2パワースペクトル密度の少なくとも一方におけるパワーのピーク値が第1閾値以下の場合に、前記膵島スフェロイドを不良と判定する、
項目1に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【0171】
(項目3)
さらに、算出された前記第1パワースペクトル密度におけるピーク周波数である第1周波数を特定する第1特定ステップと、
算出された前記第2パワースペクトル密度におけるピーク周波数である第2周波数を特定する第2特定ステップと、を含み、
前記第1周波数よりも前記第2周波数の方が大きい場合に、前記膵島スフェロイドを良と判定する、
項目1または2に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【0172】
(項目4)
前記第1周波数は、0.02ヘルツ以上かつ0.06ヘルツ以下である、
項目3に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【0173】
(項目5)
前記第2周波数は、0.04ヘルツ以上かつ0.14ヘルツ以下である、
項目3または4に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【0174】
(項目6)
前記第1取得ステップでは、複数の前記膵島スフェロイドのそれぞれから複数の前記第1信号を取得し、
前記判定ステップでは、さらに、複数の前記膵島スフェロイドのうち2つの前記膵島スフェロイドからなるペアの各々について、第1信号の相関係数を算出し、当該相関係数が第2閾値よりも大きい場合に、前記ペアをなす2つの膵島スフェロイドを不良と判定する、
項目1~5のいずれか一項に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【0175】
(項目7)
前記第2取得ステップでは、複数の前記膵島スフェロイドのそれぞれから複数の前記第2信号を取得し、
前記判定ステップでは、さらに、複数の前記膵島スフェロイドのうち2つの前記膵島スフェロイドからなるペアの各々について、第2信号の相関係数を算出し、当該相関係数が第3閾値よりも大きい場合に前記ペアを成す2つの膵島スフェロイドを不良と判定する、
項目1~6のいずれか一項に記載の膵島スフェロイドの評価方法。
【符号の説明】
【0176】
11 基板
13 絶縁膜
15 囲い部材
20 基準用電極
21 基準用接点
23 基準用配線
25 基準電極端
27 基準電極メッキ
30 基準用電極
30、30e 測定用電極
31 測定用接点
33 測定用配線
35 測定電極端
37 測定電極メッキ
41、41b、41c、41d、41e、41f 保持層
43 貫通孔
43a、43b、43c、43d、43e、43f 穴部
45 開口部
47 底部
49 返し構造
50 スフェロイド
61 培地
63 電圧計
100 選別装置
200 評価装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13