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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】除菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20241011BHJP
   A01N 65/36 20090101ALI20241011BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241011BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
A01N59/00 C
A01N65/36
A01P1/00
A01P3/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020104041
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021195346
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2020年2月14日に取引先である株式会社TQに安全データシートを提出
(73)【特許権者】
【識別番号】323004787
【氏名又は名称】合同会社アドミライ
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】螻 弘二
(72)【発明者】
【氏名】大友 一樹
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-145931(JP,A)
【文献】特開2011-042579(JP,A)
【文献】特許第6704099(JP,B2)
【文献】特表2002-507236(JP,A)
【文献】特開2001-316213(JP,A)
【文献】特開2009-292736(JP,A)
【文献】特開2009-221177(JP,A)
【文献】特開2007-031608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/00
A01N 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性無機塩類と、
酸性無機塩類と、
グレープフルーツ種子抽出物と、
水と、を含み、
pHが10.5以上11.5以下であり、
前記塩基性無機塩類リン酸三ナトリウムおよび/またはリン酸三カリウムであり、前記塩基性無機塩類の含有量が0.01質量%以上10.0質量%以下の範囲であり、
前記酸性無機塩類リン酸二水素カリウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムであり、前記性無機塩類の含有量が0.01質量%以上10.0質量%以下の範囲であることを特徴とする除菌用組成物。
【請求項2】
前記グレープフルーツ種子抽出物が、抽出物換算で0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲で含まれる請求項に記載の除菌用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除菌用組成物に関し、家庭内やオフィスなどの身の回りの物品に対し、安心安全に除菌を行うための除菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、良好な衛生を保つために、家庭内やオフィスにおける物品の表面を除菌するための除菌用組成物が提案されている。一般的には、次亜塩素酸ナトリウムを有効成分として含む除菌用組成物(殺菌剤)が知られる。しかし、次亜塩素酸ナトリウムを含む除菌用組成物は刺激が強く、誤って人体に取り込まれた場合の有害性が危惧される。また次亜塩素酸ナトリウムと酸性洗剤等とが混合された場合、塩素ガスの発生が問題となる虞がある。
またアルコールを有効成分として含む除菌用組成物も知られている。しかし、アルコールを主成分として含む除菌用組成物は、引火性があり取り扱いに注意を要する必要があり、また独特な臭いがする上、特定のノンエンベロープウイルスに対し効果が低いことが示唆されている。
【0003】
そこで、水の電気分解により生成された強アルカリ電解水を用いる除菌用組成物が提案されている。たとえば下記特許文献1には、pH11以上の強アルカリ電解水と、柑橘類の種子から抽出した成分とを有し、当該成分が濃縮エキス換算で0.005%以上0.5%未満である除菌用組成物(以下、従来技術1ともいう)が開示されている。特許文献1には、従来技術1によれば、強アルカリ電解水の洗浄効果が発揮されるとともに、上記成分の含有により良好な除菌効果が発揮される旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-218663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上述する従来技術1は、除菌効果が不十分であることがわかった。
即ち、除菌が求められる汚れた除菌対象面のpHは、一般的に中性から酸性の場合が多く、少なくともpH11以上ということは通常ではありえない。従来技術1は、pH11以上の強アルカリに調整されてはいるものの、上述する除菌対象面に対し散布等により接触した場合、当該除菌対象面のpHに影響されて短時間でpHが11未満に下がってしまう。そのため、pH11以上とすることで期待された除菌性や洗浄性が十分に発揮されないか、あるいは、十分な除菌効果を得るために除菌時間を長く確保する必要があった。すなわち、強アルカリに調整された電解水は、実質的な除菌効果が十分ではなかった。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、人体に対し安全であり、かつ実質的に除菌効果の高い除菌用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の除菌用組成物は、塩基性無機塩類と、酸性無機塩類と、グレープフルーツ種子抽出物と、水と、を含み、pHが10.5以上11.5以下であり、前記塩基性無機塩類リン酸三ナトリウムおよび/またはリン酸三カリウムであり、前記塩基性無機塩類の含有量が0.01質量%以上10.0質量%以下の範囲であり、前記酸性無機塩類リン酸二水素カリウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムであり、前記性無機塩類の含有量が0.01質量%以上10.0質量%以下の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の除菌用組成物は、塩基性無機塩類と、酸性無機塩類および/または有機酸とを含み、これらによりpHが調整されるとともに、緩衝作用が生じ得る。そのため、本発明の除菌用組成物は、除菌対象面と接触した場合、当該除菌対象面が中性あるいは酸性であったとしても、pHが所定範囲(つまりpH10.5~pH11.5)内に維持されやすい。したがって、本発明の除菌用組成物は、除菌対象面において良好な除菌効果を発揮するとともに、除菌時間を短縮することが可能であり、実質的に除菌効果が高い。
しかも本発明の除菌用組成物に含有される塩基性無機塩類ならびに酸性無機塩類および/または有機酸は、いずれも食品添加物として認可を受けた化合物であるため、誤って人体にかかり、あるいは人体に取り込まれた場合であっても極めて安全である。そのため、日常の様々な物品を除菌することができ、また誰でも危険を伴わずに使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の除菌用組成物(以下、単に組成物という場合がある)は、食品添加物として認可を受けた塩基性無機塩類と、食品添加物として認可を受けた酸性無機塩類および/または有機酸と、水と、を含む。本発明の組成物のpHは、10.5以上11.5以下に調整される。
なお、本発明に関し除菌とは、ウイルスおよび/または菌に対し、不活化作用、死滅化作用などを発揮することをいう。すなわち、本発明の組成物は、ウイルスおよび/または菌の除去および/または死滅させるために用いられる。
また本発明において「食品添加物として認可を受けた」とは、具体的には日本国食品衛生法第12条に基づき厚生労働大臣が使用を認めた、指定添加物及び既存添加物を示す。
【0010】
上述する構成を備える本発明の組成物は、pH10.5以上pH11.5以下と除菌剤としては低めの範囲に調整される上、食品添加物として認定を受けた化合物によってpHが調整されているため、人体に対し安心安全である。
本発明における塩基性無機塩類と、酸性無機塩類および/または有機酸とは、pH調整作用だけでなく、組成物のpHの緩衝剤としても作用する。そのため、本発明の組成物のpHは、除菌対象面に接触した際に当該除菌対象面のpHに影響を受けて所定範囲を外れにくく、良好な除菌性を維持することができ、また比較的短時間で除菌を実施することが可能である。
またこのように、本発明の組成物は、pHの緩衝作用が働くことから、除菌対象面に接触した際のpHの低下を想定してあらかじめ高いアルカリ性に調整する必要がない。そのためpH10.5以上pH11.5以下という、アルカリ性としては低めのpH範囲でも実質的に高い除菌性を発揮することができる。かかるpHの範囲であれば、人体に組成物が付着した場合であっても肌荒れを防止し、また刺激性が小さいか、実質的に刺激を感じさせない程度であって、人体に対し極めて安心である。
以下に、本発明の除菌用組成物についてさらに詳細に説明する。
【0011】
(塩基性無機塩類)
本発明の組成物は、食品添加物として認可を受けた塩基性無機塩類を含む。上記塩基性無機塩類の例としては、塩基性リン酸塩、炭酸塩、水酸化物などが挙げられる。ここで無機塩類とは、無機酸の水素を置換してできる塩のことをいい、塩基性無機塩類とは、無機塩類を有し水溶液中でアルカリ性を呈する化合物を意味する。本発明の組成物は、塩基性無機塩類を1種または2種以上を含有することができる。
本発明に用いられる塩基性無機塩類は、本発明の組成物のpHを塩基性側に調整するpH調整剤であるとともに、後述する酸性無機塩類とともに緩衝作用を発揮することが期待される化合物である。
【0012】
上記塩基性リン酸塩としては、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、などが挙げられる。
上記炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
上記水酸化物としては、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0013】
中でも、緩衝効果に優れるとともに、高い電荷を有し化学反応の活性が高いため高い除菌効果(不活化効果)が期待されるという観点から本発明の塩基性無機塩類としては、塩基性リン酸塩が好ましく、特にリン酸三ナトリウムは高い不活化効果を発揮し得るため好ましい。
【0014】
(酸性無機塩類、有機酸)
本発明の組成物は、食品添加物として認可を受けた酸性無機塩類および/または有機酸を含む。つまり本発明は、除菌作用発揮可能な食品添加物である塩基性無機塩類とともに、酸性無機塩類および/または有機酸を用いることで、緩衝液を構成し、これによって、所定範囲のpHを維持することを可能とするものである。これによって本発明の組成物は、人体に有害な影響を与えることなく、たとえばノロウイルスなどのウイルスや種々の菌に対し、望ましい除菌効果を発揮させ得る。
【0015】
したがって、緩衝作用をより有効に発揮するという観点からは、上述する塩基性無機塩類は、強塩基であることが好ましく、酸性無機塩類および/または有機酸は、弱酸であることが好ましい。ここでいう強塩基とは、2%溶液でpH12以上を示す化合物を指し、弱酸とは、2%溶液でpH5以下を示す化合物を指す。
【0016】
上記酸性無機塩類の例としては、酸性リン酸塩などが挙げられる。ここで無機塩類とは、無機酸の水素を置換してできる塩のことをいい、酸性無機塩類とは、無機塩類を有し水溶液中で酸性を呈する化合物を意味する。
本発明に用いられる酸性無機塩類は、本発明の組成物のpHの調整に関与するとともに、当該組成物において緩衝剤としての役割を担う。
【0017】
上記酸性リン酸塩としては、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。尚、本発明では、酸性リン酸塩の代わりにリン酸を用いることもできる。
【0018】
中でも、本発明の酸性無機塩類としては、酸性リン酸塩が好ましく、特にリン酸二水素カリウムは、緩衝効果および不活化効果に優れるため好ましい。
【0019】
上記有機酸の例としては、クエン酸、クエン酸一カリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウムなどが挙げられる。
本発明に用いられる有機酸は、本発明の組成物のpHの調整に関与するとともに、当該組成物において緩衝剤としての役割を担う。
【0020】
本発明の組成物は、酸性無機塩類または有機酸を含んでいてもよく、または酸性無機塩類および有機酸の両方を含んでいてもよく、当該組成物に含まれる酸性無機塩類は1種または2種以上であってよく、当該組成物に含まれる有機酸も1種または2種以上であってよい。
【0021】
上述する塩基性無機塩類と、酸性無機塩類および/または有機酸とに関し、特に好ましい組み合わせとしては、塩基性無機塩類として塩基性リン酸塩を含み、かつ、酸性無機塩類として酸性リン酸塩を含むことが好ましい。これらリン酸塩は、3価の電荷をもち、リン酸塩を用いた緩衝液は3段階の緩衝領域を示すとともに広いpH領域で価数変化を生ずるため優れた緩衝作用を発揮する。またリン酸塩は、一般的に化学活性が高いため、本発明の組成物にリン酸塩を用いることによって、良好な、抗菌性や抗ウイルス性が期待される上、肌に触れた際の脱水作用が生じにくいので低刺激性である点でも好ましい。またリン酸は、DNAやRNAを構成する成分として知られる。本発明者らは、菌が増殖し、あるいはウイルスが複製される際に組成物中に含まれるリン酸(リン酸塩)が、これらの増殖や複製に何らかの生化学的作用を与え、これによって効果的な抗菌、抗ウイルス作用が発揮されるのではないかと推察する。
したがって、かかる組み合わせであれば、組成物のpH調整効果および緩衝効果に優れるとともに、非刺激性であって優れた除菌性を発揮可能な除菌用組成物を提供可能である。
より具体的には、本発明の組成物は、たとえば塩基性リン酸塩としてリン酸三ナトリウムを含み、酸性リン酸塩としてリン酸二水素カリウムを含むことが好ましい。
【0022】
本発明の組成物に含有される塩基性無機塩類および酸性無機塩類の量は特に限定されないが、それぞれの含有量は、たとえば0.01質量%以上10.0質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.05質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。い。上記含有量が0.01質量%未満であると、好ましい除菌効果が発揮されない場合があるとともに良好なpH緩衝作用が生じない場合がある。一方、上記含有量が10.0質量%を超えた場合、安定して水に溶解し難くなり、温度や状態の変化(たとえば一度、凍結した後融解する際など)によって成分が析出する場合があり、安定性の点で十分でない場合がある。なお、上記含有量は、本発明の組成物を実際に使用する際の濃度を示すものである。本発明の組成物は安定性も良好であるため、5倍以上20倍以下の濃縮物組成物として取り扱うこともできる。
【0023】
本発明の組成物のpHは、10.5以上11.5以下に調整される。pH10.5未満であると、除菌性が十分でない場合があり、一方、pH11.5を上回ると皮膚に対する刺激性が強くなり安心安全とは言えない場合があるからである。本発明の組成物は、上述の範囲にpHが調整されているとともに、組成物自体が緩衝液を構成するため除菌対象面などに接した際や希釈した際に、上記範囲のpHが維持されやすいという有利な点を有する。
【0024】
本発明の組成物は、さらにグレープフルーツ種子抽出物を含むことが好ましい。グレープフルーツ種子抽出物は抗菌性を示すため、より優れた除菌性を示す組成物を提供することができる。すなわち、グレープフルーツ種子抽出物を含む本発明の組成物は、人体に安心であって、かつ優れた抗ウイルス性および抗菌性を示し得る。
【0025】
グレープフルーツ種子抽出物の主成分は、脂肪酸とフラボノイドであり、製造方法は特に限定されないが、たとえばアルコールや水などで抽出し製造することができる。フラボノイドは脂溶性であるため水よりもアルコールによって良好に抽出されるため、特にアルコール抽出物が好ましい。アルコールで抽出した場合、後工程においてアルコール成分を蒸発させることで実質的にアルコール濃度を0%に調整することが好ましい。また市販品であるグレープフルーツ抽出物を本発明の組成物に用いてもよく、この場合、食品添加物として認定されたグレードの組成物を用いることが好ましい。
【0026】
グレープフルーツ種子抽出物の含有量は特に限定されないが、一般的に単価の高い原料であるため、抗菌性を担保しつつ含有量を抑えることが好ましい。具体的には、本発明の組成物100質量%において、グレープフルーツ種子抽出物は、抽出物換算で0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲であることが好ましく、0.002質量%以上0.5質量%以下の範囲であることがより好ましく、0.003質量%以上0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以上0.01質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲は、抗菌性を発揮させるために用いる従来のグレープフルーツ種子抽出物としては少ない含有量であるが、本発明の組成物は、上述するとおり、除菌対象面に接触し、あるいは希釈などされた場合にも所定のpHの範囲が維持されやすく、実質的に除菌効果が高い。そのため本発明の組成物は、グレープフルーツ種子抽出物の含有量が上記範囲のように少量であっても、高い抗菌性を発揮し得る。
上記グレープフルーツ種子抽出物の含有量が抽出物換算で0.001質量%未満であると、抗菌効果が十分ではない場合があり、一方、1.0量%を超えると、コストの増大に見合う抗菌性効果の向上が確認し難い。
なお、上記抽出物換算とは、グレープフルーツ種子から抽出した原液であって希釈等していない抽出物に換算した濃度を示す。
【0027】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、たとえば、水にリン酸三ナトリウムなどの塩基性無機塩類を添加し溶解させた後、リン酸二水素カリウムなどの酸性無機塩類を添加して溶解させ、その後、適宜、グレープフルーツ種子抽出物を添加するとよい。最終的に、本発明の特定するpHの範囲となるよう、予め、添加する化合物の配合比率を決定しておくとよい。
【0028】
本発明の組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらに異なる化合物を添加してもよい。本発明の組成物の安全性を担保するという観点からは、本発明の組成物に含まれる全ての組成は、食品添加物、食品、または食品から抽出されたものなど、肌に触れ、あるいは誤って体内に取り込まれた場合でも実質的に極めて安全なもののみから構成されることが好ましい。
【実施例
【0029】
表1に示す組成比率で構成された組成物(実施例1、2)を調整した。具体的には、まず精製水にリン酸三ナトリウムを添加して溶解させ、次いで、リン酸二水素カリウムを添加して溶解させ、最後にグレープフルーツ種子抽出物を添加し、全体で100質量%とした。組成物のpHは、11.4に調整した。
なお、グレープフルーツ種子抽出物は、株式会社アデプト製の抽出物3.3%液(Desfan-10)を用い、組成物においてグレープフルーツ種子抽出物が抽出物換算で実施例1では0.0066質量%、実施例2では0.0033質量%となるよう添加した。
【0030】
(ウイルスの不活化評価1)
国立医薬品食品衛生研究所のホームページに開示される「平成27年度ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書」(以下、単に調査報告書ともいう)に記載の方法に倣い、本実施例のウイルスの不活化評価を行った。評価結果は表1に示す。
また比較対象として、上記調査報告書に示される塩素系消毒剤(No.D)を参考例1とし、エタノール系消毒剤(No.N)を参考例2として、それぞれの評価を参照し表1に併記した。
【0031】
より具体的には、上記調査報告書に記載の方法に倣い、実施例1を用いて、50%感染終末点法(median tissue culture infectious dose;TCID50/ml法)によりウイルスの除菌性を評価した。
ウイルス液は、以下の2種類を準備した。
・10%肉エキス含有組織培養維持液(MEM培地)およびネコカリシウイルス(F-9;接種ウイルス量:7.7log10)を1:1の割合で混合したネコカリシウイルス液
・5%肉エキス含有組織培養維持液(MEM培地)およびマウスノロウイルス(マウスノロウイルス1(MNV-1)ATCC株;接種ウイルス量:7.1log10)を1:1の割合で混合したマウスノロウイルス液
【0032】
そして、実施例1の除菌用組成物と各ウイルス液とを、除菌用組成物:ウイルス液=9:1の割合で、接触させた。接触時間は60秒とした。除菌用組成物とウイルス液を60秒間接触させた後、直ちに10%牛胎児血清加Dulbecco’MEM(DMEM)培地で10倍段階希釈し反応を停止した。
ウイルス液の反応停止後、以下のとおり、50%感染終末点法(TCID50/ml法)で生存ウイルス量を定量した。すなわち、上述のとおり反応停止したウイルス混合液(10倍段階希釈したもの)を、あらかじめ96ウェルプレートに単層培養したRAW264.7細胞に1ウエルあたり100μL接種し、37度、COインキュベーター内で1時間培養した。
その後、試験液を除き、新たに3%DMEMを100μL各ウエルに加えて37℃、COインキュベーター内で培養した。
そして培養7日後に倒立顕微鏡下でウイルスによる細胞変性効果(CPE)を観察してBehrenns-Karber法を用いてウイルス感染価を算出した。ウイルス液の作用停止後の溶液の細胞毒性を顕微鏡下で、ウイルスによる細胞変性効果(CPE)と判別した。
なお、ネコカリシウイルス試験では、実施例1の代わりに精製水を用いたものをコントロールとした。またマウスノロウイルス試験では、実施例1の代わりにPBS(リン酸緩整理食塩水)を用いたものをコントロールとした。
【0033】
上記生存ウイルス量の定量の結果、実施例1は、ネコカリシウイルスを用いた評価では、生存ウイルス量は2.7log10であり、ウイルスの減少量は5.0log10であった。またマウスノロウイルスを用いた評価では、生存ウイルス量は1.4log10であり、ウイルスの減少量は5.7log10であった。
【0034】
これに対し、比較対象として示した公知のネコカリシウイルス評価によれば、次亜塩素酸ナトリウムが用いられた参考例1は、同様の試験によってウイルスの減少量は2.0log10未満であり、また指定医薬部外品である市販のエタノール系消毒剤を用いた参考例2は、同様の試験によってウイルスの減少量は2.0log10以上4.0log10未満であった。すなわち、実施例1、2は、上述する参考例1、2のいずれに対しても非常に優れた除菌効果(ウイルスの不活化効果)を示すことがわかった。
また、上記報告書によれば、ウイルスの減少は、4log10以上の減少は十分な効果あり、2log10以上4log10未満の減少は効果あり、2log10未満の減少は効果なしという評価基準で評価されており、かかる評価基準に基づいて判断した場合、実施例1は、十分な効果があると判定される。
【0035】
(ウイルスの不活化評価2)
以下の方法で、実施例1、2の不活化を評価した。本評価に用いたウイルスと、宿主細胞は以下のとおりである。
・ネコカリシウイルス(F9)、ATCC VR-782
宿主細胞:ネコ腎臓細胞(CRFK細胞)、ATCC CCL-94
・インフルエンザウイルス(H1N1A/PR8/3/4)、ATCC VR-1469
宿主細胞:イヌ腎細胞(MDCK細胞)、ATCC CCL-34
【0036】
上述するウイルスを、約1×10pfu/mL前後になるよう、滅菌水にて希釈してウイルス液を調製した。そして実施例1、2それぞれの除菌用組成物を用い、除菌用組成物:ウイルス液=9:1の割合で、接触させた(反応時ウイルス濃度1~8×10pfu/mL)。除菌用組成物とウイルス液とを60秒間接触させた後、直ちにダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)にて10倍ずつ希釈し、10倍段階希釈系を作成した。
事前に6ウェルプレートに播種培養し上層の培地を吸引除去し、ダルベッコリン酸緩衝液(D-PBS(-))2mLで洗浄した宿主細胞に上述のとおり調製した10倍段階希釈系溶液を1mLずつ添加し、1時間37℃の感染処理後、細胞上の試験希釈液を吸引し、各2mLのPBSで洗浄吸引後、0.8%オキソイド寒天培地に置換し、37℃で二日間静置培養した。プラーク形成を確認後、グルタルアルデヒド溶液にて固定し、メチレンブルー染色を行った。形成されたプラーク数を目測によりカウントし、フィルム処理による残存ウイルス力価の変化をプラーク形成率測定によって評価し、不活化率(%)を算出し、表1に示した。尚、除菌用組成物の代わりに滅菌水用い、滅菌水:ウイルス液=9:1の割合で接触させたものをコントロールとし、接触直後のコントロールを上述と同様に試験し、これを初プラーク数とした。
実施例1、実施例2は、いずれも、ネコカリシウイルスおよびインフルエンザウイルスに対し非常に高い不活化率を示した。
【0037】
(抗菌試験)
大腸菌(Escherichia coli;NBRC3972)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;NBRC12732)を用いて以下のとおり試験を行った。
大腸菌および黄色ブドウ球菌はそれぞれ所定の培地で24~48時間培養後、トーマ血球盤により顕微鏡下で濃度を測定し、およそ10cfu/mlオーダーとなるように滅菌生理食塩水で段階希釈し、被検菌液を調製した。被検菌液の調整は試験当日速やかに行い、直ちに試験に供した。尚、被検菌液は、別途段階希釈法により菌数測定を実施した。
【0038】
実施例1、2それぞれをガラス製試験管に10mlずつ分注し、これに上述のとおり調製した被検菌液を0.1ml添加して反応液を得た。15秒経過後、直ちに反応液1mlと固化前のSCD寒天培地とを混合し、混釈培養を行った。コントロールとして、生理食塩水に同様に被検菌液を添加し、接種直後(0秒)に回収した。またネガティブコントロールとして菌を添加しない反応液を用意し、同様に培養(原倍のみ)を行った。そして、35℃48時間培養し、出現コロニーを計数した。コロニー数が多い場合には、区画に分けて計数後に全体のコロニー数を算出した。
上述のとおり算出し、コントロールでの菌数を初発菌数とし、初発菌数に対する残存菌数の比率(百分率)を求め、これを除菌率とした。結果は表1に示す。
【0039】
腸管出血性大腸菌O157(Escherichia coli O157:H7 RIMD 0509939)、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis NBRC 3313)、腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus NBRC 12711)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275)に対する抗菌性について以下のとおり試験を行った。
腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、緑膿菌はそれぞれ所定の培地で24~48時間培養後、トーマ血球盤により顕微鏡下で濃度を測定し、およそ10cfu/mlオーダーとなるように滅菌生理食塩水で段階希釈し、被検菌液を調製した。被検菌液の調整は試験当日速やかに行い、直ちに試験に供した。尚、被検菌液は、別途段階希釈法により菌数測定を実施した。
【0040】
実施例1、2それぞれをガラス製試験管に10mlずつ分注し、これに上述のとおり調製した被検菌液を0.1ml添加して反応液を得た。30秒経過後、直ちに反応液に2倍濃度NB培地0.1mlを添加し、十分に攪拌した後回収して滅菌生理食塩水による10倍から10倍までの希釈を速やかに行った。得られた原倍、10倍、10倍および10倍希釈液1mlと固化前のSCD寒天培地とを混合し、混釈培養を行った。コントロールとして、生理食塩水に同様に被検菌液を添加し、接種直後(0秒)および30秒後に回収した。またネガティブコントロールとして菌を添加しない反応液を用意し、同様に培養(原倍のみ)を行った。そして、35℃48時間培養し、出現コロニーを計数した。コロニー数が多い場合には、区画に分けて計数後に全体のコロニー数を算出した。
上述のとおり算出し、コントロールでの菌数を初発菌数とし、初発菌数に対する残存菌数の比率(百分率)を求め、これを除菌率とした。結果は表1に示す。
【0041】
上記抗菌試験の結果、実施例1、2により、大腸菌、黄色ブドウ球菌は、15秒後には99.999%超除菌されたことが確認された。
また、同様に実施例1、2により、腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ菌、緑膿菌は、30秒後には99.99%超除菌されたことが確認された。
【0042】
(In Vitro皮膚一次刺激性試験)
実施例1の組成物を用い、皮膚に対する刺激性試験を行った。
外来性物質(刺激物)と表皮細胞が接触して細胞傷害が誘導される。これが一次刺激性接触皮膚炎(Irritant Contact Dermatitis,ICD)の原因と考えられている。そこで本試験では、被験物質(実施例1)と表皮細胞との接触による細胞傷害を指標としたIn Vitro再生ヒト表皮試験法によって皮膚一次刺激性を評価するものである。すなわち、15時間培養したReconstructed Human Epidermis(RhE)モデルに被験物質の組成物を15分間曝露した後、3-(4,5-dimethylthiazol-2-ul)-2,5-diphenyltetrazolium bromide(MTT,CAS No.298-93-1,Sigma-Aldrich)の取り込み量を基にしたMTT還元法によって細胞生存率を測定し、被験物質の皮膚一次刺激性を評価した。
【0043】
具体的には、ヒト三次元培養表皮を用いたIn Vitro再生ヒト表皮試験法による皮膚一次刺激性試験代替法により実施例1の刺激性を評価した。上記In Vitro再生ヒト表皮試験法は、OECDテストガイドライン439[OECD Guidelines for the Testing of Chemicals, In Vitro Skin Irritation:Reconstructed Human Epidermis Test Method(Adopted 26 July 2013)]に則って実施した。
【0044】
上述する所定の方法で上記細胞生存率を測定した結果、実施例1の細胞生存率は50%を超えた。OECDテストガイドライン439の判定基準は、細胞生存率≦50%で刺激性と判定され、細胞生存率>50%で非刺激性と判定される。かかる判定基準から、実施例1は非刺激性と判定された。
【0045】
(In Vitro眼刺激性試験)
実施例1の組成物を用い、眼に対する刺激性試験を行った。
目に異物が入った場合、眼への刺激性は最表面の角膜上皮細胞に対する細胞傷害から始まる。そこで本試験では、角膜上皮細胞に対する細胞毒性を指標として眼刺激性を評価するSTE法を用いた。すなわち、コンフルエントに単層培養したウサギ角膜由来細胞株(Statens Seruminstitut Rabbit Cornea, SIRC細胞)に、0.05%(v/v)、5.0%(v/v)に希釈した被験物質希釈液(実施例1希釈液)を5分間曝露した。次に3-(4,5-dimethylthiazol-2-ul)-2,5-diphenyltetrazolium bromide (MTT,CAS No.298-93-1,Sigma-Aldrich,USA)の取り込み量をもとにしたMTT還元法によって細胞生存率を測定し、被験物質の眼刺激性を評価した。
尚、眼に入った異物の大部分がヒトでは1~2分で眼内から排出され、ウサギでは3~4分で80%が排出されると報告されている。これら実際の曝露条件を考慮して、STE法では通常の細胞毒性と比べて短時間曝露の試験として設計されている。
【0046】
上記STE法として、OECDテストガイドライン491[OECD Guidelines for the Testing of Chemicals,Short Time Exposure In Vitro Test Method for Identifying Chemicals Inducing Serious Eye Damage and Chemicals Not Requiring Classification for Eye Irritation or Serious Eye Damage(Adopted 28 July 2015) ]を参考に実施した。
【0047】
上述する所定の方法で上記細胞生存率を測定した結果、被験物質である実施例1への曝露後の細胞生存率の平均値±標準偏差は、0.05%曝露条件において80.6±9.1%、5.0%曝露条件において85.3±8.3%を示し、いずれの条件下でも細胞生存率が70%を超えた。OECDテストガイドライン491では、目に対する重篤な損傷性を有する物質および目刺激性物質と分類されるか否かは、以下のとおり判定される。以下の判定基準に基づき、実施例1は「区分外(非刺激性)」と判定された。
<非験物質希釈濃度0.05%>
平均細胞生存率>70%・・・区分外(非刺激性)
平均細胞生存率≦70%・・・区分1(目に対する重篤な損傷性物質)
<非験物質希釈濃度5.0%>
平均細胞生存率>70%・・・区分外(非刺激性)
平均細胞生存率≦70%・・・区分1(目に対する重篤な損傷性物質)
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の除菌用組成物は、実質的に、有効成分として食品添加物、および食品類などの人体に無害な組成から構成される。そのため、誤って体内に入り、あるいは肌に触れても低刺激性であるため実質的に害がなく、日常において誰でも安心安全に使用することができる。かかる本発明の除菌用組成物は、台所用品、家庭内の家具、子供の玩具などのより安全性が求められる被除菌物の除菌にも好適である。特にグレープフルーツ種子抽出物を含む態様の本発明の除菌用組成物は、上述する本実施例の結果からも明らかなとおり、抗菌作用に優れる上、ネコカリシウイルスやマウスノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスだけでなく、インフルエンザウイルスのようなエンベロープウイルスに対しても短時間で非常に優れた不活化を示す。グレープフルーツ種子抽出物、特には食品添加物として使用し得るグレープフルーツ種子抽出物は高価であるところ、本発明の除菌用組成物は非常に少量のグレープフルーツ種子抽出物を含むことで優れた除菌性を示すことから、経済的優位性にも優れる。
また、本発明の除菌用組成物は、安心安全を重視するばかりではなく、除菌効果も高い。これは、塩基性無機塩類と、酸性無機塩類および/または有機酸と、によりpHを10.5以上11.5以下に調整することによって、適度なアルカリ性を呈するとともに、このpHを緩衝作用により維持することを可能としたことによる。
上述する本発明は、たとえば、任意の除菌対象面に噴霧可能なスプレーボトルタイプ、あるいは、布や不織布などに浸漬させて拭き取るタイプなど広範な使用態様に適用できる上、希釈してもpHが変わり難いので、濃縮液としても取引可能である。
【0050】
上述する本発明は、下記の技術的思想を包含する。
(1)食品添加物として認可を受けた塩基性無機塩類と、
食品添加物として認可を受けた酸性無機塩類および/または有機酸と、
水と、を含み、
pHが10.5以上11.5以下であることを特徴とする除菌用組成物。
(2)グレープフルーツ種子抽出物を含む上記(1)に記載の除菌用組成物。
(3)前記グレープフルーツ種子抽出物が、抽出物換算で0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲で含まれる上記(2)に記載の除菌用組成物。
(4)前記塩基性無機塩類として塩基性リン酸塩を含む、かつ、
前記酸性無機塩類がとして酸性リン酸塩を含む上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の除菌用組成物。